説明

印刷インキの製造法

【課題】粗製銅フタロシアニンの顔料化工程と印刷インキ製造工程に係わる多大な時間と労力を低減し、鮮明なβ型銅フタロシアニン顔料の印刷インキを提供する。
【解決手段】粗製銅フタロシアニンと銅フタロシアニン誘導体を含有するα型銅フタロシアニンを印刷インキ用樹脂と共に乾式粉砕した後、得られた粉砕物を印刷インキ用溶剤又はワニス中で加熱することを特徴とする、印刷インキ中の顔料一次粒子のアスペクト比が1〜2であるβ型銅フタロシアニンを含有する印刷インキの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はβ型銅フタロシアニン顔料を着色剤とする印刷インキを製造する際に、β型銅フタロシアニンの顔料の形態を経由することなく、粗製銅フタロシアニンから直接印刷インキを製造する方法に関する。更には、印刷インキ中の顔料一次粒子のアスペクト比が1〜2であり、短縮された工程により鮮明な印刷インキを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にフタル酸、塩化銅、尿素等を原料に溶剤系で合成した銅フタロシアニンは粗製銅フタロシアニンと呼ばれ、10〜200μm程度の巨大β型結晶粒子であるため、そのまま印刷インキ用顔料として使用することはできない。この粗製銅フタロシアニンを印刷インキとして使用可能な大きさ0.02〜0.1μmまで微細にすることを顔料化と呼ぶ。顔料化にはさまざまな方法がある。
【0003】
最も一般的なのがソルベントソルトミリング法と呼ばれる方法である。この方法は粗製銅フタロシアニンに食塩などの磨砕剤と粘結剤としてジエチレングリコールのようなポリオールタイプの有機溶剤を加えニーダー等で摩砕して顔料化する方法である。この方法によるβ型銅フタロシアニン顔料はアスペクト比が1〜2の球形に近い形状で、鮮明で高着色力で印刷インキ用顔料として最も適しており、広く使用されている。しかし顔料の数倍量の磨砕剤が必要であり、この磨砕剤や有機溶剤を回収する工程にも多くの時間と労力、エネルギーを必要とする点や環境負荷増加の欠点があり、そのため、コストが高くなってしまい問題となっている。
【0004】
これに対して粗製銅フタロシアニンをアトライターやボールミル等で乾式粉砕した後に印刷インキ用溶剤又はワニス中で加熱することで直接印刷インキを製造する方法が知られている。この方法は、安価なβ型銅フタロシアニン顔料インキを供給する上で非常に有効な手段であるが、粗製銅フタロシアニンを乾式粉砕して得られる粉砕物は非常に強い凝集体であるためこの凝集を抑える工夫をしないとインキ時に多大なエネルギーを要してしまい、安価な印刷インキの製造法にならない。また乾式粉砕では10〜60%のα型銅フタロシアニンを含有しておりこれをインキ化時にβ型銅フタロシアニンに転移する工夫も必要である。
【0005】
英国特許第1224627号には、粗製銅フタロシアニンを乾式で粉砕する際に1〜8倍量の樹脂を添加する方法が記載されている。この方法では粉砕物中の銅フタロシアニン粒子の凝集が緩和されるが、しかしながらこのように大量の樹脂を添加した場合、乾式粉砕する際に内部での樹脂固着の危険性が高くなる。これを防止するためには粉砕時の温度を低温で維持する必要があるが、その結果粉砕物中のα型結晶の割合が増大し、β型に転移しづらくなる。また、得られたインキ中の顔料粒子のアスペクト比が大きいすなわち針状になるためにソルベントソルトミリング法から得られるインキより、色相が赤味過大、流動性が低下してしまい、好ましい品質とは言えない。逆に特開平2−294365号公報には粗製銅フタロシアニンを乾式で粉砕する際にロジン変性フェノールなどの樹脂を0.5〜10重量%添加する方法が記載されており、また特開2003−335997号公報には粗製銅フタロシアニンを乾式で粉砕する際に軟化点が高いロジン変性フェノールなどの樹脂を10を超えて20重量%未満添加する方法が記載されているが、これらの方法は添加した樹脂が後に使用する印刷インキ用樹脂と同じものを使用できる点で非常に有効であるがこの方法では得られた粉砕物を印刷インキワニス中に分散する工程では逆に多くのエネルギーを必要とするので、この方法では従来の乾燥顔料からの印刷インキ製造工程より優れているとは言えない。
【0006】
また特開平9−272833号公報や特開平11−35841号公報には粗製銅フタロシアニンを乾式で粉砕する際にロジン変性フェノールなどの樹脂を上述の特許よりやや多い20〜80重量%添加する方法が記載されている。この添加した樹脂は粉砕された銅フタロシアニン粒子同士の凝集を防止する意味においては有効な方法であるが、しかしまだソルベントソルトミリング法から得られるインキより不鮮明である。乾式粉砕で鮮明性を上げるには乾式粉砕の時間を延長して粒子を微細化すれば良いがα化度も高くなりインキ化の転移段階で針状になり易くなり、赤味過多、流動性は著しく低下してしまう。
【0007】
特開昭60−195161公報には銅フタロシアニン誘導体であるフタルイミドメチル銅フタロシアニンと粗製銅フタロシアニンと共に用いての乾式粉砕の記載があり、この誘導体の効果はトルエンを用いたグラビアインキ中でα型からβ型へ転移する際に針状にならないように結晶成長を抑制するためであるが、トルエンのような強力な転移溶剤では有用ではあるが印刷インキのようなα型からβ型へ転移性が弱いいわゆる弱溶剤ではフタルイミドメチル銅フタロシアニンが特許明細に記載されているように粉砕物中に3%〜20%あると転移阻害を起こしてしまいα型からβ型への転移は容易でない。
【0008】
特開2006−96921号には樹脂、溶剤、銅フタロシアニン誘導体と粗製銅フタロシアニンとを共に用いての乾式粉砕の記載がある。溶剤によりα型の割合を小さくすることでインキ化時の転移段階で針状になるのを抑えていると記述されているが、実施例では印刷インキで使用されるAF5号ソルベントのような弱溶剤の記述しかなく、粉砕の際に生じたα型をβ型に転移させる能力はこの溶剤では低く充分な効果は得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】英国特許第1224627号
【特許文献2】特開平2−294365号公報
【特許文献3】特開2003−335997号公報
【特許文献4】特開平9−272833号公報
【特許文献5】特開平11−35841号公報
【特許文献6】特開昭60−195161公報
【特許文献7】特開2006−96921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は粗製銅フタロシアニンの顔料化工程と印刷インキ製造工程に係わる多大な時間と労力を低減し、鮮明なβ型銅フタロシアニン顔料の印刷インキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、粗製銅フタロシアニンと銅フタロシアニン誘導体を含有するα型銅フタロシアニンとを印刷インキ用樹脂と共に乾式粉砕した後、得られた粉砕物を印刷インキ用溶剤又はワニス中で加熱することを特徴とする、印刷インキ中の顔料一次粒子のアスペクト比が1〜2であるβ型銅フタロシアニン粒子を含有する印刷インキの製造方法である。
【0012】
更に本発明は、α型銅フタロシアニンの割合が粗製銅フタロシアニンに対しては5〜50%、銅フタロシアニン誘導体の割合が粉砕物中の顔料に対して0.5〜10%である上記印刷インキの製造方法である。
【0013】
更に本発明は、印刷インキ用樹脂がロジン変性フェノール樹脂である上記印刷インキの製造方法である。
【0014】
更に本発明は、粉砕物と印刷インキ用溶剤またはワニスの混合物を加熱する温度が80〜170℃である上記印刷インキの製造方法である。
【0015】
更に本発明は、印刷インキ用溶剤またはワニスに含有される溶剤が芳香族成分が1重量%以下である炭化水素溶剤である上記印刷インキの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
上述したところからわかるように本発明によれば、粗製銅フタロシアニンから従来と比較して短縮した工程で印刷インキを安価に製造することができる。更にソルベントソルトミリング法に匹敵する鮮明な印刷インキを製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。乾式粉砕を行うことによって粗製銅フタロシアニンのβ型結晶中にα型結晶が生成し、粉砕物はα/β混合結晶型となる。この際、粉砕時間が長いとα/β混合結晶型は微細化し、粉砕機内が同じ温度ではα型結晶の割合が多くなる。温度が高いとβ型の割合は増加するが、印刷インキ用の樹脂であるロジン変性フェノール樹脂は一般的に軟化点が120℃から180℃であり、粉砕機内の温度が高いと粉砕物が壁面や粉砕メディアに固着してしまうのであまり高くはできないので70℃から170℃が望ましい。粉砕時間を長くするとα型結晶の割合が多くなりインキ化時でのαからβへの転移により針状になり、転移したβ型結晶粒子のアスペクト比が大きくなり、赤味過大で流動性が低下するがβ型結晶粒子自体は微細になるために鮮明性は逆に上がる。ここでアスペクト比は結晶粒子の長軸と短軸との比で、ソルベントソルトミリング法では摩砕と成長をニーダー中に繰り返しながら微細化していくために1に近い比になり、黄味で鮮明で流動性に優れたインキが製造できる。
【0018】
α/β混合結晶型の粉砕物のインキ時でのα型からβ型への結晶転移は印刷インキの溶剤が弱溶剤であるために転移しにくい。従って高温にしないと進行しないが、温度を高くすると粒子の結晶成長が発生し、最終的にβ型結晶粒子が針状になりアスペクト比が大きくなってしまう。しかし逆に乾式粉砕の時間をかなり短くしてα型結晶の割合を小さくすると微細化が充分に進まず、鮮明性、着色力等はソルベントソルトミリング法より著しく劣る結果になってしまう。
【0019】
本発明では乾式粉砕時に銅フタロシアニン誘導体を含有するα型銅フタロシアニンを併用する。これにより同じ粉砕時間でもα型銅フタロシアニン追加分だけα型結晶の割合が多くなるが、元々粒子径が整った微細なα型結晶であるために粗製銅フタロシアニンのように粗大粒子を細かく粉砕した時に生ずるα/β混合結晶型の強い凝集は起こらない。またインキ時でのα型からβ型への転移時に銅フタロシアニン誘導体の効果により粒子の結晶成長は抑えられ、アスペクト比は小さく且つ微細な粒子を得ることができる。
α型銅フタロシアニンの割合は粗製銅フタロシアニンに対しては5〜50重量%が望ましく、より望ましくは10〜30重量%である。少ないと鮮明性は得られず、多いと流動性低下やコスト高になる。
【0020】
α型銅フタロシアニンに含有する銅フタロシアニン誘導体の一例はフタルイミドメチル銅フタロシアニンやジアルキルアミノプロピルカルボアミト゛銅フタロシアニン、ジアルキルアミノプロピルスルホアミト゛銅フタロシアニンである。ここでアルキルはメチル基、エチル基、フ゜ロピル基、ブチル基等である。銅フタロシアニン誘導体の割合は粉砕物中の顔料に対して0.5〜10重量%が望ましく、より望ましくは1〜5重量%である。少ないと鮮明性は得られず多いと転移に影響する。銅フタロシアニン誘導体のα型銅フタロシアニン中の含有の形態はドライブレンドでも良いが、粗製銅フタロシアニンと銅フタロシアニン誘導体を共に濃硫酸に溶解後水に析出させてα型にした、いわゆるアシッドペースティング法で製造したものがα型銅フタロシアニンは微細で誘導体は均一に混ざっているのでより望ましい。
【0021】
印刷インキ用樹脂としては、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、石油樹脂、アルキド樹脂など印刷インキに適用される樹脂であれば、任意に単独または2種類以上を組み合わせて使用できるが、好ましくはロジン変性フェノール樹脂であり、軟化点は120℃から180℃が望ましく低いと粉砕時の機内やメディアへの固着の原因になり高いと溶解性が低下してインキ化時の分散に影響する。ロジン変性フェノール樹脂は、アルキルフェノールとホルムアルデヒドとを縮合反応して得られたフェノール樹脂とロジンとを反応させて得られたものを主成分とし、更に多価アルコールを樹脂の構成成分としたものであってもよい。
【0022】
粗製銅フタロシアニンに添加する印刷インキ用樹脂は、銅フタロシアニンに対して20〜80重量%である。樹脂の添加量が粗製銅フタロシアニンに対して20重量%より小さいと、印刷インキ用溶剤、ワニス他と混合した場合の粉砕物の分散性、インキとしての練肉性が悪く、生産効率は従来の乾燥顔料のインキ製造工程と同等かそれ以下である。一方、樹脂の添加量が多いと乾式粉砕装置内部での樹脂の付着、固着が生じる危険性が高くなり、これを防ぐために装置内部を低温で維持する必要が生じる。本発明では乾式粉砕の温度は80〜170℃である。乾式粉砕温度を使用する樹脂の軟化点以上の温度まで上昇させてしまうと装置内部で樹脂の付着、固着がおきる危険性があるので好ましくない。
【0023】
本発明の乾式粉砕とは、ビーズ、スチールボール等の粉砕メディアを内蔵した粉砕機を使用して、実質的に液状物質を介在させないで粗製フタロシアニンを粉砕するものである。粉砕は、粉砕メディア同士の衝突による粉砕力や破壊力を利用して行なわれる。乾式粉砕装置としては、乾式のアトライター、ボールミル、振動ミルなどの公知の方法を用いることができ、粉砕時間はその装置によってまたは希望とする粉砕粒径に応じて任意に設定できる。
【0024】
印刷インキ用溶剤またはワニス中の溶剤としては、高沸点石油系溶剤、脂肪族炭化水素溶剤、高級アルコール系溶剤など印刷インキに適した溶剤であれば芳香族を含まない溶剤であっても単独あるいは2種類以上の組み合わせで任意に使用できる。好ましくは、ナフテン系成分やパラフィン系成分等の炭化水素から実質的になり、芳香族成分が1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下であるものが印刷インキ用溶剤として使用できる。溶剤のアニリン点は65〜100℃のものが好ましい。これらの溶剤は、例えば、日本石油社製のAFソルベント4号(芳香族成分含有量0.1重量%)、AFソルベント5号(同0.2重量%)、AFソルベント6号(同0.2重量%)、AFソルベント7号(同0.3重量%)等として入手できるものである。
【0025】
印刷インキワニス用樹脂としては、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、石油樹脂、アルキド樹脂など印刷インキに適した樹脂;大豆油、桐油、アマニ油など印刷インキに適した乾性油や重合乾性油などを、その他印刷インキ用の添加剤などと共に任意に単独または2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0026】
粗製銅フタロシアニンの粉砕物はα/β混合結晶型であるため、印刷インキ溶剤又はワニスと混合し加熱処理することで全てをβ型結晶型へ転移させる。この際、粉砕物に印刷インキ用樹脂が添加されていると、印刷インキ溶剤又はワニスによる湿潤、β型結晶への転移がスムーズになり、また芳香族を含まない溶剤又はワニスを使用した場合でもその湿潤、β型結晶への転移が可能となった。本発明においてβ型銅フタロシアニンはその大部分がβ型であって微量のα型が存在する場合も含む。粉砕物と印刷インキ用溶剤またはワニスの混合物を加熱する温度は80〜170℃が好ましい。この加熱処理の工程については、緩やかな攪拌で十分であり特に分散機などは必要としない。粉砕物の十分な分散とα型結晶のβ転移は使用する印刷インキ用溶剤によって異なるが数10分〜3時間程度で完了し、次に3本ロールで練肉することで、ベースインキが完成する。しかし、特にこの工程の時間短縮を希望する場合は、従来から使用されているビーズミル分散機などを用いて前述の温度条件で処理することで、その時間は大幅に短縮することも可能である。この工程において印刷インキ用溶剤、ワニス、その他添加剤を追加することで最終インキとすることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例、比較例により本発明を具体的に説明するが本発明は実施例により規制されるものでない。例中、部は重量部を、%は重量%をそれぞれ表わす。なお、標準インキは、粗製銅フタロシアニンをソルベントソルトミリング(食塩6倍量、ニーディング時間:4時間)により顔料化したウエットケーキ顔料を用いて、フラッシング法により製造したβ型銅フタロシアニン顔料インキであり、その顔料粒子のアスペクト比は約1.5である。また、一次粒子のアスペクト比の測定には透過型電子顕微鏡(日立製作所製H7650)、結晶型の測定にはX線回折装置(Rigaku製X−ray diffractometer)を使用した。
【0028】
実施例1
1L乾式アトライターに粗製銅フタロシアニン63部と銅フタロシアニン誘導体であるフタルイミドメチル銅フタロシアニン(A)0.7部を含有するα型銅フタロシアニン7部、軟化点170℃のロジン変性フェノール樹脂25部を加え、直径1cmスチールボール2.4kgをメデイアとして加え、回転数400rpmで90℃、40分間粉砕を行った。得られた粉砕物21部を、印刷インキ用ワニス38部、7号ソルベント(日本石油(株)製)8部に加え、100℃にて2時間緩やかに攪拌した後、60℃の3本ロールで一回練肉したところ、顔料粒子は5μ以下に分散された。次に、得られたベースインキにワニス22部、7号ソルベント11部を加え最終インキに調整した。α型銅フタロシアニンは1%以下、アスペクト比は1.7であった。結果は表1にまとめた。
【0029】
実施例2
銅フタロシアニン誘導体であるフタルイミドメチル銅フタロシアニン(A)1.4部を含有するα型銅フタロシアニン7部に変えた以外は実施例1と同じように乾式粉砕を行なった。得られた粉砕物21部を、印刷インキ用ワニス38部、7号ソルベント(日本石油(株)製)8部に加え、100℃にて2時間緩やかに攪拌した後、60℃の3本ロールで一回練肉したところ、顔料粒子は5μ以下に分散された。次に、得られたベースインキにワニス22部、7号ソルベント11部を加え最終インキに調整した。α型銅フタロシアニンは1%以下、アスペクト比は1.6であった結果は表1にまとめた。
【0030】
実施例3
銅フタロシアニン誘導体であるフタルイミドメチル銅フタロシアニン(A)2.1部を含有するα型銅フタロシアニン7部に変えた以外は実施例1と同じように乾式粉砕を行なった。得られた粉砕物21部を、印刷インキ用ワニス38部、7号ソルベント(日本石油(株)製)8部に加え、100℃にて2時間緩やかに攪拌した後、60℃の3本ロールで一回練肉したところ、顔料粒子は5μ以下に分散された。次に、得られたベースインキにワニス22部、7号ソルベント11部を加え最終インキに調整した。α型銅フタロシアニンは1%以下、アスペクト比は1.6であった。結果は表1にまとめた。
【0031】
実施例4
銅フタロシアニン誘導体であるフタルイミドメチル銅フタロシアニン(A)3.5部を含有するα型銅フタロシアニン7部に変えた以外は実施例1と同じように乾式粉砕を行なった。得られた粉砕物21部を、印刷インキ用ワニス38部、7号ソルベント(日本石油(株)製)8部に加え、100℃にて2時間緩やかに攪拌した後、60℃の3本ロールで一回練肉したところ、顔料粒子は5μ以下に分散された。次に、得られたベースインキにワニス22部、7号ソルベント11部を加え最終インキに調整した。α型銅フタロシアニンは1%以下、アスペクト比は1.5であった。結果は表1にまとめた。
【0032】
実施例5
粗製銅フタロシアニン56部、銅フタロシアニン誘導体であるフタルイミドメチル銅フタロシアニン(A)0.70部を含有するα型銅フタロシアニン14部に変えた以外は実施例1と同じように乾式粉砕を行なった。得られた粉砕物21部を、印刷インキ用ワニス38部、7号ソルベント(日本石油(株)製)8部に加え、100℃にて2時間緩やかに攪拌した後、60℃の3本ロールで一回練肉したところ、顔料粒子は5μ以下に分散された。次に、得られたベースインキにワニス22部、7号ソルベント11部を加え最終インキに調整した。α型銅フタロシアニンは1%以下、アスペクト比は1.6であった。結果は表1にまとめた。
【0033】
実施例6
粗製銅フタロシアニン49部、銅フタロシアニン誘導体であるフタルイミドメチル銅フタロシアニン(A)0.70部を含有するα型銅フタロシアニン21部に変えた以外は実施例1と同じように乾式粉砕を行なった。得られた粉砕物21部を、印刷インキ用ワニス38部、7号ソルベント(日本石油(株)製)8部に加え、100℃にて2時間緩やかに攪拌した後、60℃の3本ロールで一回練肉したところ、顔料粒子は5μ以下に分散された。次に、得られたベースインキにワニス22部、7号ソルベント11部を加え最終インキに調整した。α型銅フタロシアニンは1%以下、アスペクト比は1.6であった。結果は表1にまとめた。
【0034】
実施例7
銅フタロシアニン誘導体であるN、N‘ジエチルアミノプロピルスルホアミド銅フタロシアニン7(B)部0.7部を含有するα型銅フタロシアニン7部に変えた以外は実施例1と同じように乾式粉砕を行なった。得られた粉砕物21部を、印刷インキ用ワニス38部、7号ソルベント(日本石油(株)製)8重量部に加え、100℃にて2時間緩やかに攪拌した後、60℃の3本ロールで一回練肉したところ、顔料粒子は5μ以下に分散された。次に、得られたベースインキにワニス22部、7号ソルベント11部を加え最終インキに調整した。α型銅フタロシアニンは1%以下、アスペクト比は1.7であった。結果は表1にまとめた。
【0035】
実施例8
銅フタロシアニン誘導体であるN、N‘ジエチルアミノプロピルカルボアミド銅フタロシアニン(C)0.7部を含有するα型銅フタロシアニン7部に変えた以外は実施例1と同じように乾式粉砕を行なった。得られた粉砕物21部を、印刷インキ用ワニス38部、7号ソルベント(日本石油(株)製)8部に加え、100℃にて2時間緩やかに攪拌した後、60℃の3本ロールで一回練肉したところ、顔料粒子は5μ以下に分散された。次に、得られたベースインキにワニス22部、7号ソルベント11部を加え最終インキに調整した。α型銅フタロシアニンは1%以下、アスペクト比は1.6であった。結果は表1にまとめた。
【0036】
実施例9
銅フタロシアニン誘導体であるN、N‘ジメチルアミノプロピルカルボアミド銅フタロシアニン(D)0.7部を含有するα型銅フタロシアニン7部に、軟化点160℃のロジン変性フェノール樹脂30部を加え変えた以外は実施例1と同じように乾式粉砕を行なった。得られた粉砕物22部を、印刷インキ用ワニス37部、7号ソルベント(日本石油(株)製)8重量部に加え、100℃にて2時間緩やかに攪拌した後、60℃の3本ロールで一回練肉したところ、顔料粒子は5μ以下に分散された。次に、得られたベースインキにワニス22部、7号ソルベント11部を加え最終インキに調整した。α型銅フタロシアニンは1%以下、アスペクト比は1.6であった。結果は表1にまとめた。
【0037】
比較例1
1L乾式アトライターに粗製銅フタロシアニン70部と軟化点170℃のロジン変性フェノール樹脂25部を加え、直径1cmスチールボール2.4kgをメデイアとして加え、回転数400rpmで90℃、40分間粉砕を行った。得られた粉砕物21部を、印刷インキ用ワニス38部、7号ソルベント(日本石油(株)製)8部に加え、100℃にて2時間緩やかに攪拌した後、60℃の3本ロールで一回練肉したところ、顔料粒子は5μ以下に分散された。次に、得られたベースインキにワニス22部、7号ソルベント11部を加え最終インキに調整した。α型銅フタロシアニンは1%以下、アスペクト比は1.9であった。結果は表1にまとめた。
【0038】
比較例2
1L乾式アトライターに粗製銅フタロシアニン70部と軟化点170℃のロジン変性フェノール樹脂25部を加え、直径1cmスチールボール2.4kgをメデイアとして加え、回転数400rpmで90℃、80分間粉砕を行った。得られた粉砕物21部を、印刷インキ用ワニス38部、7号ソルベント(日本石油(株)製)8部に加え、100℃にて2時間緩やかに攪拌した後、60℃の3本ロールで一回練肉したところ、顔料粒子は5μ以下に分散された。次に、得られたベースインキにワニス22部、7号ソルベント11部を加え最終インキに調整した。α型銅フタロシアニンは1%以下、アスペクト比は2.1であった。結果は表1にまとめた。
【0039】
比較例3
1L乾式アトライターに粗製銅フタロシアニン70部と軟化点170℃のロジン変性フェノール樹脂25部を加え、直径1cmスチールボール2.4kgをメデイアとして加え、回転数400rpmで90℃、120分間粉砕を行った。得られた粉砕物21部を、印刷インキ用ワニス38部、7号ソルベント(日本石油(株)製)8部に加え、100℃にて2時間緩やかに攪拌した後、60℃の3本ロールで一回練肉したところ、顔料粒子は5μ以下に分散された。次に、得られたベースインキにワニス22部、7号ソルベント11部を加え最終インキに調整した。α型銅フタロシアニンは1%以下、アスペクト比は2.5であった。結果は表1にまとめた。
【0040】
【表1】




【0041】
表1から標準インキと比較して実施例1〜9のインキは色相、粘度、鮮明性がほぼ同等であった。しかし比較例1のインキでは標準インキと比較して色相がやや黄味で鮮明性が劣り、比較例2〜3のインキは、鮮明性は標準インキより優れるが色相は赤味で粘度は劣った。
【0042】
本発明によりソルベントソルトミリング法によるインキと同等品質のインキ(アスペクト比はほぼ同じ1〜2の範囲であり色相、鮮明性、粘度も同等)を短時間で環境負荷も小さく、エネルギーも格段に少なく製造できる。したがって本発明はβ型銅フタロシアニン顔料インキを製造する上で優れた方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗製銅フタロシアニンと下記一般式(I)で示される銅フタロシアニン誘導体を含有するα型銅フタロシアニンを印刷インキ用樹脂と共に乾式粉砕した後、得られた粉砕物を印刷インキ用溶剤又はワニス中で加熱することを特徴とする、印刷インキ中の顔料一次粒子のアスペクト比が1〜2であるβ型銅フタロシアニンを含有する印刷インキの製造方法。

CuPc−(X−Y)m (I)

(式中 CuPcはフタロシアニン残基を表す。
Xは、−SO2−、−SO2NH−、−SO2CH2−、−CH2−、−CO−、−CONH−、−COO−、または、−COONH−を表す。
Yは、−(CH2n−N(R12)、フタルイミド基、または、スルホン化フタルイミド基を表す。
1およびR2は、それぞれ独立に、置換または未置換の炭素1〜4のアルキル基を表す。ここで、R1とR2が環を形成し、窒素原子を含む複素環となってもよい。
nは0〜3の整数を表わす。
mは1〜4の整数を表わす。)
【請求項2】
α型銅フタロシアニンの割合が粗製銅フタロシアニンに対しては5〜50重量%、銅フタロシアニン誘導体の割合が粉砕物中の顔料に対して0.5〜10重量%である請求項1記載の印刷インキの製造方法。
【請求項3】
印刷インキ用樹脂がロジン変性フェノール樹脂である請求項1または2記載の印刷インキの製造方法。
【請求項4】
粉砕物と印刷インキ用溶剤またはワニスの混合物を加熱する温度が80〜170℃である請求項1〜3いずれか記載の印刷インキの製造方法。
【請求項5】
印刷インキ用溶剤またはワニスに含有される溶剤が、芳香族成分が1重量%以下である炭化水素溶剤である請求項1〜3いずれか記載の印刷インキの製造方法。

【公開番号】特開2012−36285(P2012−36285A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176859(P2010−176859)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】