説明

印刷インキ用添加剤及び当該添加剤を含む印刷インキ

【課題】 印刷インキに添加して、顔料分散性を確保しながら、光沢性、保存安定性、乳化性を向上できる添加剤を開発する。
【解決手段】(A)トリメチロールプロパン(TMP)、ペンタエリスリトール(PE)よりなる群から選ばれた多価アルコールの少なくとも1種と、(B)ダイマー酸と、(C)C8〜C18の分岐脂肪酸とを反応させて得られるヒンダードエステルを有効成分とする印刷インキ用添加剤である。TMP又はPEと、ダイマー酸(特にC36のダイマー酸)と、所定炭素数の分岐脂肪酸とを反応させたエステルを印刷インキに添加すると、顔料分散性を良好に確保しながら、光沢性、保存安定性、乳化性が向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷インキ用添加剤に関して、印刷インキに添加することで光沢性、保存安定性及び乳化性を向上できるものを提供する。
【背景技術】
【0002】
一般に、オフセット印刷インキにおいて、鮮明な色調、高い着色力、優れた光沢性を付与可能な顔料(例えば、後述の特許文献2に記載のカーボンブラックなど)は微細な粒子から構成されている。
従って、オフセット印刷インキの非水系ビヒクルにこの微細粒子からなる顔料を分散させると、流動性、貯蔵安定性の良い分散体を得ることが難しく、製造工程並びに製品の品質に問題を引き起こす恐れがある。例えば、微細粒子からなる顔料を含む分散体はしばしば高粘性を示すため、分散機から製品を取り出したり、輸送することが困難になったり、貯蔵中にゲル化して使用できなくなるなどの恐れがある。さらに展色物においては、光沢の著しい低下やレベリング不良などを引き起こすこともある。
【0003】
印刷インキが有する上記諸問題を解消し、インキの光沢性、経時安定性、或は流動性などを改善する有効策として、印刷インキに各種添加剤を含有させることが行われている。
その従来技術を挙げると、次の通りである。
(1)特許文献1
光沢性、延展性、経時安定性などを改善する目的で(段落1、段落8)、ペンタエリスリトール(PE)と安息香酸類とC3〜C28の分岐脂肪酸とから構成されるエステル化物からなる添加剤(油剤)をインキや塗料に含有させることが開示されている(請求項1)。
塗料やインキに対する上記添加剤の含有量は1〜40重量%である(段落30)。
また、PEと安息香酸(安)と分岐脂肪酸(脂)の反応モル比率は、実施例1ではPE:安:脂=1:2:2、実施例2ではPE:安:脂=1:3:1、実施例3ではPE:安:脂=1:2:2である。
【0004】
(2)特許文献2(特開平9−25444号公報)
カーボンブラックを含有するオフセット印刷用墨インキにおいて、優れた印刷適性と高い流動性を具備させる目的で(段落1と5)、C16〜C20のヒドロキシカルボン酸(12−ヒドロキシステアリン酸など:請求項2、段落11)を縮合して得られる重量平均分子量1千〜1万のポリエステル又はその変性物とギルソナイトからなる顔料分散剤をカーボンブラックに対して2.0〜50重量%の割合で含有させることが開示されている(請求項1)。
上記縮合ポリエステルの変性物は、ポリエステルのカルボキシル基にモノ又はポリオールを反応させたものであり、モノ或はポリオールとして、ヘキサノール、ドデシルアルコール、ステアリルアルコールなどのモノオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどのポリオールが記載されている(段落13〜14)。
【0005】
(3)特許文献3
分散安定性と流動性の向上などを目的として(段落1、5)、分散剤としてロジン変性アルキッド樹脂0.05〜10重量%をインキ全量に対して添加したオフセット印刷インキ組成物が開示されている(請求項1、段落12)。
【特許文献1】特開2005−146095号公報
【特許文献2】特開平9−25444号公報
【特許文献3】特開2007−63497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の添加剤を印刷インキに適用する場合、光沢性や安定性を向上するには使用量を多くする必要があるため、インキのタックが上昇し、乾燥性が損なわれるなどの不具合が発生してしまう問題がある。
また、上記特許文献2〜3では、ある程度の流動性、着色力、貯蔵安定性などを具備した印刷用インキは得られる反面、いまだ満足できる水準ではない。
【0007】
本発明は印刷インキに添加して光沢性、保存安定性、乳化性を向上できる添加剤を開発することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、このような現状に鑑みて、特に、特許文献1が包含される各種のヒンダードエステルが印刷インキに対していかなる作用を付与するかを鋭意研究した結果、トリメチロールプロパン又はペンタエリスリトールと、ダイマー酸(特にC36のダイマー酸)と、所定炭素数の分岐脂肪酸とを反応させたエステルを印刷インキに添加すると、顔料分散性を良好に確保しながら、光沢性、保存安定性、乳化性が向上できることを見い出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明1は、(A)トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールよりなる群から選ばれた多価アルコールの少なくとも1種と、
(B)ダイマー酸と、
(C)C8〜C18の分岐脂肪酸と
を反応させて得られるヒンダードエステルを有効成分とする印刷インキ用添加剤である。
【0010】
本発明2は、上記本発明1において、ダイマー酸(B)がC36のダイマー酸であることを特徴とする印刷インキ用添加剤である。
【0011】
本発明3は、上記本発明1又は2において、分岐脂肪酸(C)が、2−エチルヘキサン酸、イソトリデカン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸の少なくとも一種であることを特徴とする印刷インキ用添加剤である。
【0012】
本発明4は、上記本発明1〜3のいずれかにおいて、多価アルコール(A)がトリメチロールプロパンであり、
成分(A)と(B)と(C)のモル比が、A:B:C=2:1:2〜4であることを特徴とする印刷インキ用添加剤である。
【0013】
本発明5は、上記本発明1〜3のいずれかにおいて、多価アルコール(A)がトリメチロールプロパンであり、
多価アルコール(A)がペンタエリスリトールであり、
成分(A)と(B)と(C)のモル比が、A:B:C=2:1:4〜6であることを特徴とする印刷インキ用添加剤である。
【0014】
本発明6は、上記本発明1〜5のいずれかの印刷インキ用添加剤を含有する印刷インキであって、印刷インキ全量に対する上記添加剤の含有量が0.5〜10.0重量%であることを特徴とする印刷インキである。
【発明の効果】
【0015】
印刷インキに本発明の添加剤を含有させると、顔料分散性の確保によりタックやフローを良好に保持しながら、光沢性、保存安定性及び乳化性を良好に向上できる。
特に、冒述の特許文献1の添加剤に比べても、比較的少ない添加量で上記インキ性能を円滑に向上できる。
本発明の添加剤は従来では分散が容易でなかった中性カーボンなどの顔料分散性にも優れ、様々な印刷インキ用の添加剤として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、第一に、(A)トリメチロールプロパン(TMP)及び/又はペンタエリスリトール(PE)と、(B)ダイマー酸と、(C)所定炭素数の分岐脂肪酸とを反応させたヒンダードエステルを有効成分とする印刷インキ用添加剤であり、第二に、当該印刷インキ用添加剤を含有する印刷インキである。
【0017】
本発明のヒンダードエステルの反応物である上記成分(A)はTMP、PEであり、これらを単用又は併用できる。
【0018】
上記ダイマー酸(B)は、動植物油を常法に従い、分解後濃縮して得られる大豆油、綿実油、米糠油、パーム油、牛脂などの動植物油不飽和脂肪酸や、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレイン酸などの単一不飽和脂肪酸、あるいはトール油脂肪酸を粘土触媒存在下で加圧二量化して得られる。
ダイマー酸の形態としては、未反応脂肪酸や分岐脂肪酸などを蒸留除去して得られたもの、さらにトリマー酸を除去した高純度ダイマー酸、あるいはその水添物などが挙げられ、この中では高純度ダイマー酸が好ましいが、上記未反応脂肪酸やトリマー酸などが共存する粗ダイマー酸も差し支えなく使用できる。
本発明のダイマー酸(B)には、本発明2に示す通り、C36のダイマー酸が好ましい。
【0019】
上記C8〜C18の分岐脂肪酸(C)としては、2−エチルヘキサン酸、イソトリデカン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸などを単用又は併用でき(本発明3参照)、光沢性、保存安定性、乳化性を促進する見地から、2−エチルヘキサン酸、イソステアリン酸が好ましく、2−エチルヘキサン酸がより好ましい。
上記イソステアリン酸には、ダイマー酸製造時に得られる分岐脂肪酸および高級飽和アルコールの酸化によって得られる分岐脂肪酸などが使用可能である。例えば、トール油脂肪酸を重合した粗ダイマー酸を薄膜蒸留することでC36のダイマー酸が得られるが、その際の副生物であるモノマー酸を水添するとイソステアリン酸が得られるため、本発明の成分(B)〜(C)として、このダイマー酸とイソステアリン酸の両方を利用することができる。
【0020】
本発明のエステル反応においては、印刷インキの光沢性、保存安定性及び乳化性を向上する見地から、上記成分(A)、(B)、(C)のモル比率を適正化して反応させることが重要である。
本発明4に示すように、多価アルコール(A)がTMPの場合、成分(A)と(B)と(C)のモル比はA:B:C=2:1:2〜4であることが適当であり、好ましくはA:B:C=2:1:3〜4であり、より好ましくはA:B:C=2:1:4である(即ち、TMPのすべての水酸基がエステル化されたフルエステルがより好ましい)。
一方、本発明5に示すように、多価アルコール(A)がPEの場合、成分(A)と(B)と(C)のモル比はA:B:C=2:1:4〜6であることが適当であり、好ましくはA:B:C=2:1:5〜6であり、より好ましくはA:B:C=2:1:6である(即ち、PEのフルエステルがより好ましい)。
【0021】
次いで、本発明のヒンダードエステルの製造方法について説明する。
反応物であるTMP又はPEと、ダイマー酸と、所定炭素数の分岐脂肪酸とを適当な反応容器に仕込み、酸、アルカリ、金属等の適当な触媒存在下または非存在下で、好ましくは当該反応に不活性なトルエン、キシレン等の有機溶剤および窒素等の気体中で、200〜250℃にて反応させて、所定の酸価に到達するまでエステル化を行う。
触媒を用いる場合は触媒の種類にもよるが、反応物の重量に対し0.001〜1.0%の範囲で添加するのが良い。
所定の酸価に到達した後、水洗、アルカリ脱酸、吸着、蒸留などの公知の方法で未反応原料や触媒などを除去し、さらに脱色、脱臭処理を行ってエステルを精製する。
【0022】
本発明の印刷インキに使用するインキワニスは、印刷インキ用樹脂と石油系溶剤を配合し、必要に応じて、植物油、ゲル化剤を配合して調製される。
その調製方法としては、例えば、上記樹脂、石油系溶剤、植物油を不活性ガス存在下、或は非存在下に、180〜220℃で溶解し、ゲル化剤を加えてさらに180〜220℃で加熱して調製する。
【0023】
前記印刷インキ用樹脂としては、ロジン変性フェノール樹脂、ロジンエステル樹脂、マレイン酸変性ロジンエステル樹脂、石油樹脂、ギルソナイト樹脂、アルキド樹脂、ロジン変性アルキド樹脂などの公知の樹脂を単用又は併用できる。
その使用量はインキワニスの全量に対して30〜60重量%が適当であり、好ましくは35〜55重量%、より好ましくは40〜50重量%である。
【0024】
前記石油系溶剤としては、芳香族成分が1重量%以下の石油留分から得られるパラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系などの溶剤を単用又は併用できる。
上記溶剤の市販品としては、0号ソルベント(H)、AFソルベント4号、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号(ともに新日本石油(株)製)などが挙げられる。
使用量としては従来公知の印刷インキと同様で良く、インキワニス中に30〜60重量%が適当であり、好ましくは35〜55重量%、より好ましくは40〜50重量%である。
また、石油溶剤の全部又は一部を、植物油と一価アルコールとをエステル交換、或は脂肪酸と一価アルコールとを直接エステル化した脂肪酸エステルに置き換えて、使用することも可能である。
【0025】
前記植物油としては、アマニ油、桐油、大豆油などの乾性油、或は半乾性油が好適である。使用量としては、インキワニス中に1〜30重量%が適当であり、好ましくは3〜25重量%、より好ましくは5〜20重量%である。
【0026】
前記ゲル化剤としては公知のものが使用でき、例えば、アルミニウムエチルアセテートジイソプロピレート、アルミニウムイソプロピレート、ステアリン酸アルミニウム、エチルアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムジイソプロポキサイト、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシドなどが挙げられる。使用量としては、0.1〜5.0重量%が適当であり、好ましくは0.5〜3.0重量%である。
【0027】
本発明の印刷インキは上記インキワニスに、公知の顔料と本発明のヒンダードエステルよりなる添加剤とを添加して調製される。
顔料としては、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、亜鉛華、磁性酸化鉄などの無機顔料、レーキ顔料、アゾ系顔料、イソインドリン顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、アントラキノン系顔料などの有機顔料、酸性及び中性カーボンブラック及び染料などが挙げられ、これらを単用又は併用できる。
顔料の使用量としては従来公知の印刷インキと同様で良く、通常、印刷インキ100重量%中に5〜40重量%が適当であり、好ましくは10〜30重量%、より好ましくは15〜25重量%である。
【0028】
本発明の成分(A)〜(C)の反応で得られたヒンダードエステルは単用又は併用できる。 上記ヒンダードエステルの含有量は印刷インキ100重量%に対して0.1〜30重量%が適当であり、好ましくは0.3〜20重量%、より好ましくは0.5〜10重量%である(本発明6参照)。含有量が0.1重量%に満たないと、本発明の印刷インキ用添加剤の効果が充分でなく、30重量%を超えて添加しても、それに見合う効果が期待できない。
尚、本発明の印刷インキ中のインキワニスの含有量は50〜90重量%が適当であり、好ましくは55〜85重量%、より好ましくは60〜80重量%である。
【0029】
そこで、本発明のヒンダードエステルよりなる添加剤を使用した印刷インキの製造方法を述べると、例えば、上記インキワニス、本発明の印刷インキ用添加剤、上記顔料をミキサーでプレミキシングし、次に、三本ロールミルで均一に混練して、前記インキワニスに用いた溶剤及び/又は当該ワニスを追加するなどして、インキのタックを調整する。
また、必要に応じてパラフィンワックス、ポリエチレンワックスなどの耐摩擦剤、BHTなどの酸化防止剤、ナフテン酸マンガンなどの乾燥補助剤等を配合できることはいうまでもない。
【0030】
本発明のヒンダードエステルよりなる添加物は、各種印刷インキに添加することで光沢性、保存安定性及び乳化性を良好に向上することができ、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷などの任意の印刷インキに適用可能である。
また、本発明の添加剤は印刷インキへの適用にとどまらず、あらゆる分野での利用が可能であり、例えば、印刷インキ用以外では、インクジェット用顔料分散剤、塗料用顔料分散剤、各種プラスチック用可塑剤、帯電防止剤、防曇剤、潤滑油などの分野での利用が期待できる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明のヒンダードエステルを有効成分とする印刷インキ用添加剤の合成例、合成例で得られた添加剤を含有する印刷インキの実施例、実施例で得られた印刷インキの光沢性、保存安定性、乳化性などの評価試験例を順次説明する。合成例、実施例、試験例中の「部」、「%」は基本的に重量基準である。
尚、本発明は下記の合成例、実施例、試験例などに拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0032】
《印刷インキ用添加剤の合成例》
下記の合成例1〜5のうち、合成例1と3は多価アルコールにトリメチロールプロパン(TMP)を使用して、TMPとC36のダイマー酸と一価の分岐脂肪酸の種類を変化させた例、合成例2と4〜5は多価アルコールにペンタエリスリトール(PE)を使用し、PEとC36のダイマー酸と同分岐脂肪酸の種類、或は反応モル数を変化させた例である。また、合成例1〜2と5は一価の分岐脂肪酸に2−エチルヘキサン酸を使用した例、合成例3〜4は同分岐脂肪酸にイソステアリン酸を使用した例である。
一方、下記の比較合成例1〜6のうち、比較合成例1はダイマー酸をC6の2価カルボン酸(アジピン酸)に代替し、TMPとアジピン酸と一価の分岐脂肪酸を反応させた例である。比較合成例2はダイマー酸をC6の2価カルボン酸(アジピン酸)、一価の分岐脂肪酸を一価の直鎖脂肪酸(オレイン酸)に夫々代替して、TMPとアジピン酸とオレイン酸を反応させた例である。比較合成例3はTMPと一価の直鎖脂肪酸(オレイン酸)を反応させた例である。比較合成例4はダイマー酸を使用せずに、TMPと一価の分岐脂肪酸のみでエステル反応させたブランク例である。比較合成例5は分岐脂肪酸を一価の直鎖脂肪酸に代替し、TMPとダイマー酸と直鎖脂肪酸(オレイン酸)を反応させた例である。比較合成例6は冒述の引用文献1に準拠して、PEと安息香酸と一価の分岐脂肪酸(2−エチルヘキサン酸)をエステル反応させた例である。
尚、分岐脂肪酸を使用せずに、TMPとダイマー酸のみでエステル反応させると、多官能性モノマー同士の反応による分子量の著しい増大でゲル化を起こしたため、反応を途中で停止した。
【0033】
(1)合成例1
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管および水分離器を備えた四つ口フラスコにTMP268g(2.0モル)、ダイマー酸580g(1.0モル;ハリマ化成(株)製のハリダイマー270S)、2−エチルヘキサン酸576g(4.0モル)を加え、触媒としてジブチルスズオキシド0.3gを添加し、240℃で酸価が1未満になるまでエステル化を行った。
反応終了後、活性白土による脱色、減圧下での水蒸気吹き込みによる脱臭を行い、けん化価172のヒンダードエステル1100gを得た。
【0034】
(2)合成例2
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管および水分離器を備えた四つ口フラスコにPE272g(2.0モル)、ダイマー酸580g(1.0モル;ハリマ化成(株)製のハリダイマー270S)、2−エチルヘキサン酸864g(6.0モル)を加え、触媒としてジブチルスズオキシド0.3gを添加し、240℃で酸価が1未満になるまでエステル化を行った。
反応終了後、活性白土による脱色、減圧下での水蒸気吹き込みによる脱臭を行い、けん化価170のヒンダードエステル1270gを得た。
【0035】
(3)合成例3
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管および水分離器を備えた四つ口フラスコにTMP268g(2.0モル)、ダイマー酸580g(1.0モル;ハリマ化成(株)製のハリダイマー270S)、イソステアリン酸1208g(4.0モル;ユニケマ社製:PRISORINE3505)を加え、触媒としてジブチルスズオキシド0.4gを添加し、240℃で酸価が1未満になるまでエステル化を行った。
反応終了後、活性白土による脱色、減圧下での水蒸気吹き込みによる脱臭を行い、けん化価164のヒンダードエステル1600gを得た。
【0036】
(4)合成例4
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管および水分離器を備えた四つ口フラスコにPE272g(2.0モル)、ダイマー酸580g(1.0モル;ハリマ化成(株)製のハリダイマー270S)、イソステアリン酸1812g(6.0モル;ユニケマ社製:PRISORINE3505)を加え、触媒としてジブチルスズオキシド0.5gを添加し、240℃で酸価が1未満になるまでエステル化を行った。
反応終了後、活性白土による脱色、減圧下での水蒸気吹き込みによる脱臭を行い、けん化価160のヒンダードエステル2040gを得た。
【0037】
(5)合成例5
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管および水分離器を備えた四つ口フラスコにPE272g(2.0モル)、ダイマー酸580g(1.0モル;ハリマ化成(株)製のハリダイマー270S)、2−エチルヘキサン酸720g(5.0モル)を加え、触媒としてジブチルスズオキシド0.3gを添加し、240℃で酸価が1未満になるまでエステル化を行った。
反応終了後、活性白土による脱色、減圧下での水蒸気吹き込みによる脱臭を行い、けん化価174のヒンダードエステル1200gを得た。
【0038】
(6)比較合成例1
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管および水分離器を備えた四つ口フラスコにTMP268g(2.0モル)、アジピン酸146g(1.0モル)、2−エチルヘキサン酸576g(4.0モル)を加え、触媒としてジブチルスズオキシド0.5gを添加し、240℃で酸価が1未満になるまでエステル化を行った。
反応終了後、活性白土による脱色、減圧下での水蒸気吹き込みによる脱臭を行い、けん化価170のヒンダードエステル710gを得た。
【0039】
(7)比較合成例2
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管および水分離器を備えた四つ口フラスコにTMP268g(2.0モル)、アジピン酸146(1.0モル)、オレイン酸1112g(4.0モル;花王(株)製のルナックO−LL)を加え、触媒としてジブチルスズオキシド0.7gを添加し、240℃で酸価が1未満になるまでエステル化を行った。
反応終了後、活性白土による脱色、減圧下での水蒸気吹き込みによる脱臭を行い、けん化価166のヒンダードエステル1150gを得た。
【0040】
(8)比較合成例3
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管および水分離器を備えた四つ口フラスコにTMP136.7g(1.02モル)、オレイン酸846g(3.0モル)を加え、触媒としてジブチルスズオキシド0.2gを添加し、240℃で酸価が1未満になるまでエステル化を行った。
反応終了後、活性白土による脱色、減圧下での水蒸気吹き込みによる脱臭を行い、けん化価180のヒンダードエステル880gを得た。
【0041】
(9)比較合成例4
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管および水分離器を備えた四つ口フラスコにTMP136.7g(1.02モル)、2−エチルヘキサン酸432g(3.0モル)を加え、触媒としてジブチルスズオキシド0.1gを添加し、240℃で酸価が1未満になるまでエステル化を行った。
反応終了後、活性白土による脱色、減圧下での水蒸気吹き込みによる脱臭を行い、けん化価320のヒンダードエステル485gを得た。
【0042】
(10)比較合成例5
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管および水分離器を備えた四つ口フラスコにTMP268g(2.0モル)、ダイマー酸580g(1.0モル;ハリマ化成(株)製のハリダイマー270S)、オレイン酸1128g(4.0モル)を加え、触媒としてジブチルスズオキシド0.5gを添加し、240℃で酸価が1未満になるまでエステル化を行った。
反応終了後、活性白土による脱色、減圧下での水蒸気吹き込みによる脱臭を行い、けん化価160のヒンダードエステル1700gを得た。
【0043】
(11)比較合成例6(特許文献1に準拠;PEと安息香酸と分岐脂肪酸)
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管および水分離器を備えた四つ口フラスコにPE136g(1.0モル)、安息香酸244g(2.0モル)、2−エチルヘキサン酸288g(2.0モル)を加え、触媒として塩化スズ0.2gを添加し、240℃で酸価が1未満になるまでエステル化を行った。
反応終了後、活性白土による脱色、減圧下での水蒸気吹き込みによる脱臭を行い、けん化価365のヒンダードエステル560gを得た。
【0044】
そこで、下記の要領で、印刷インキ用樹脂に植物油、溶剤などを配合してインキワニスを調製した後、上記合成例1〜5及び比較合成例1〜6で得られた各印刷インキ用添加剤と顔料を配合して、印刷インキを製造した。
【0045】
《インキワニスの調製例》
ロジン変性フェノール樹脂(ハリマ化成(株)製、ハリフェノールP−600)45部、大豆油10部、AFソルベント7号(新日本石油(株)製)45部を反応容器に加え、窒素ガスを吹き込みながら200℃、30分間で溶解させた。
次に100℃に冷却し、アルミキレート(ALCH、川研ファインケミカル(株)製)2部を、AFソルベント7号の2部に溶かしたものをさらに添加した。
そして、これらの混合物を200℃、45分間加熱して、インキワニスを得た。
【0046】
《印刷インキの製造実施例》
下記の実施例1〜2は合成例1の添加例、実施例3〜4は合成例2の添加剤、実施例5〜6は合成例3の添加例、実施例7〜8は合成例4の添加例、実施例9〜10は合成例5の添加例である。この場合、同じ合成例の添加剤を含む2組の実施例のうち、奇数の実施例は印刷インキ全体への添加剤の含有量が1重量%の例であり、偶数の実施例は同様に3重量%の例である(例えば、実施例1〜2の組み合わせにおいて、実施例1は1重量%の例、実施例2は3重量%の例である)。
【0047】
一方、下記の比較例1〜2は比較合成例1の添加例、比較例3〜4は比較合成例2の添加例、比較例5〜6は比較合成例3の添加例、比較例7〜8は比較合成例4の添加例、比較例9〜10は比較合成例5の添加例、比較例11〜12は比較合成例6の添加例である。この場合、同じ比較合成例の添加剤を含む2組の比較例のうち、奇数の比較例は印刷インキ全体への添加剤の含有量が1重量%の例であり、偶数の比較例は同様に3重量%の例である(例えば、比較例1〜2の組み合わせにおいて、比較例1は1重量%の例、比較例2は3重量%の例である)。比較例14は添加剤を含有しないブランク例である。また、比較例13は実施例2と同程度の光沢値を具備するように添加剤(比較合成例6)を増量した例である。
尚、図1Aには、実施例1〜10及び比較例1〜14の印刷インキについて、インキ組成、タック及びフローの試験結果をまとめた。
【0048】
(1)実施例1
上記インキワニス60部、カーミン6B(紅色顔料;東洋インキ製造(株)製)18部、合成例1の印刷インキ用添加剤を1部添加し、三本ロールを用いて均一に混練した。次に、さらに上記インキワニス及び石油系溶剤を追加配合して図1Aの組成となし、均一に混合・撹拌して印刷インキを製造した。
【0049】
(2)実施例2
上記実施例1を基本として、合成例1の含有量を1%から3%に増量し、それ以外は実施例1と同様の条件で処理して、印刷インキを製造した。
【0050】
(3)実施例3〜10及び比較例1〜14
上記実施例1を基本として、添加剤の種類並びに含有量を図1Aに示す通りに変更し(或は、比較例14では添加剤を含有せず)、それ以外は実施例1と同様の条件で処理して、印刷インキを製造した。
【0051】
《印刷インキの評価試験例》
次いで、上記実施例1〜10及び比較例1〜14で得られた各印刷インキについて、下記に示す各種インキ特性試験を行った。
(1)タック
インコメーター(東洋精機(株)製)を使用して、インキ量1.3cc、ローラー温度30℃、回転数400rpmの条件で、1分後の値を測定した。
(2)フロー60s
離合社(株)のスプレッドメーターによるインキの拡がり(直径:mm)を測定した。
(3)光沢性
インキ0.3mLを使用して、(株)明製作所製のRIテスター2分割ロールにてコート紙に展色したのち、160℃で6秒間乾燥し、展色試料を作製した。
光沢性は、展色試料を24時間放置したのち、村上色彩技術研究所製の光沢計(入射角/反射角=60°/60°)で測定した。
(4)保存安定性
オフセット印刷インキを50℃の乾燥機内に1週間保存し、コーンプレート型粘度計で25℃における粘度を測定し、下式(a)により試験開始前・後での粘度変化率を算出して、保存安定性の優劣を評価した。
粘度変化率(%)=(1週間後の粘度−初期粘度)/初期粘度 …(a)
(5)乳化性
リソトロニック乳化試験機(Novocontrol社製)を用いて、40℃において、25gのオフセット印刷インキに2ml/分の速度で水を添加し、インキが飽和した時点での水分量を測定した。
尚、インキが過乳化するとインキの凝集力が小さくなるため、汚れ、ブランケットパイリングなどの不具合が発生し易くなる。従って、このような不具合を防止する見地から、最大乳化率は概ね10〜50%の範囲が好ましい。
【0052】
図1Bは光沢性、保存安定性及び乳化性の試験結果である。
添加剤を含有しない標準的な従来型のオフセット印刷インキである比較例14に比べて、実施例1〜10では共に光沢値が良好に増し、粘度変化率並びに最大乳化率は有効に減少していることから、光沢性、保存安定性及び乳化性が大きく向上していることが確認できた。
ダイマー酸を使用しない比較例7〜8を実施例1〜10と対比すると、実施例1〜10に比べて比較例7〜8の光沢性、保存安定性及び乳化性は悪いことから、これらのインキ特性を向上するためには、TMP又はPEにエステル反応させる相手方の酸はダイマー酸と一価の分岐脂肪酸のいずれか一方だけでは不充分であり、両方の酸を使用することの必要性が明らかになった。尚、前述したように、一価の分岐脂肪酸を使用せず、TMP又はPEをダイマー酸のみとエステル反応させると、ゲル化して反応途中で停止せざるを得なかったことに照らすと、ヒンダードエステルの適正な製造を担保するためにも、分岐脂肪酸とダイマー酸の両成分を使用することの重要性が判断できる。
【0053】
ダイマー酸に替えて2価のカルボン酸(アジピン酸)を反応させた比較例1〜2では、比較例14(添加剤なし)に比べると光沢性、保存安定性及び乳化性は改善されるが、実施例1〜10に比べると劣ることから、これらのインキ特性の向上のためには、2価のカルボン酸ではなく、これより分子量が大きくビヒクルやインキ溶剤との相溶性に優れたダイマー酸(特に、C36のダイマー酸が好ましい)を使用することの重要性が確認できた。
一価の分岐脂肪酸に替えて一価の直鎖脂肪酸(オレイン酸)をダイマー酸と共に反応させた比較例9〜10では、実施例1〜10に比べてやはり光沢性、保存安定性及び乳化性は劣ることから、これらのインキ特性の向上には、直鎖脂肪酸ではなく、ビヒクルやインキ溶剤との相溶性に優れた分岐脂肪酸を使用することの重要性が確認できた。
尚、TMPと2価のカルボン酸(アジピン酸)と一価の直鎖脂肪酸(オレイン酸)をエステル反応させた比較例3〜4では、上記各種のインキ特性は前記比較例1〜2や比較例9〜10と余り変わらないか、部分的に後退していた。
また、ダイマー酸や2価のカルボン酸を使用せず、一価の直鎖脂肪酸(オレイン酸)のみをTMPと反応させた比較例5〜6では、前記比較例9〜10、或は上記比較例3〜4よりインキ特性が後退していた。
さらに、冒述の特許文献1に準拠して、PEと安息香酸と分岐脂肪酸をエステル反応させた比較例11〜12を実施例1〜10に対比すると、実施例1〜10に比べて比較例11〜12のインキ特性は劣っていたことから、インキ特性を改善する面で、本発明の印刷インキ用添加剤は上記特許文献1のそれに対する顕著な優位性が裏付けられた。
【0054】
一方、共に添加剤の含有量が3%である実施例2と比較例12(上記特許文献1の準拠例)では、実施例2の光沢値が55であるのに対して比較例12では50である(この実施例2での光沢値の増加量5〔=55−50〕は、インキ特性において明白な改善といえる)。従って、比較例12と同種の添加剤(比較合成例6)を用いた場合であっても、実施例2と同様の水準に光沢値を改善するために、図1Aに示すように、比較合成例6を増量したものを新たに比較例13とした(比較例12(光沢値:50、添加量:3%)→比較例13(光沢値:56、添加量:8%))。
そこで、この比較例13を実施例2に対比すると、保存安定性や乳化性は実施例2の方が比較例13より優れているうえ、比較例13ではインキのタックやフローが、添加剤を含まない比較例14に比べても劣っていることが分かる。
即ち、冒述した通り、特許文献1の添加剤にあっては、光沢性などを向上するために使用量を増す必要があり、その結果、インキのタックやフローが過度に上昇してしまうという不具合が起きるが、本発明の添加剤ではこのような不具合を招くことなく光沢性などを向上できることが裏付けられた。
【0055】
そこで、実施例1〜10の試験結果を相対的に検討する。
同じ合成例の添加剤を含む一群の実施例を見ると、例えば、添加量が3%の実施例2では従来の比較例14(添加剤なし)から光沢性、保存安定性及び乳化性は大幅に向上しているが、同1%の実施例1についても比較例14に対して顕著な向上が認められるため、本発明の印刷インキ用添加剤は1%程度の少量の含有にあっても、光沢性、保存安定性及び乳化性を有効に向上できることが確認できた。
尚、添加量が1%の実施例1を同3%に増量した比較例12(冒述の特許文献1の準拠例)に対比すると、光沢性は遜色がないとともに、保存安定性や乳化性では実施例1の方が向上していた。
また、エステル反応に用いる多価アルコールの種類がTMPとPEの間で変化しても(例えば、実施例1〜2と実施例3〜4)、或は、エステル結合数が変化しても(例えば、実施例3〜4と実施例9〜10)、光沢性、保存安定性及び乳化性を向上できる有効性に変わりのないことは、比較例1〜14との対比によって明確に裏付けられた。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は印刷インキについての組成や試験評価結果の図表であり、図1Aは実施例1〜10及び比較例1〜14の印刷インキについての組成、タック及びフローの試験結果をまとめた図表、図1Bは上記印刷インキの光沢性、保存安定性及び乳化性の試験結果をまとめた図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールよりなる群から選ばれた多価アルコールの少なくとも1種と、
(B)ダイマー酸と、
(C)C8〜C18の分岐脂肪酸と
を反応させて得られるヒンダードエステルを有効成分とする印刷インキ用添加剤。
【請求項2】
ダイマー酸(B)がC36のダイマー酸であることを特徴とする請求項1に記載の印刷インキ用添加剤。
【請求項3】
分岐脂肪酸(C)が、2−エチルヘキサン酸、イソトリデカン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷インキ用添加剤。
【請求項4】
多価アルコール(A)がトリメチロールプロパンであり、
成分(A)と(B)と(C)のモル比が、A:B:C=2:1:2〜4であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の印刷インキ用添加剤。
【請求項5】
多価アルコール(A)がペンタエリスリトールであり、
成分(A)と(B)と(C)のモル比が、A:B:C=2:1:4〜6であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の印刷インキ用添加剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の印刷インキ用添加剤を含有する印刷インキであって、印刷インキ全量に対する上記添加剤の含有量が0.5〜10.0重量%であることを特徴とする印刷インキ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−144044(P2009−144044A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322528(P2007−322528)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)
【Fターム(参考)】