説明

印刷データ作成装置、および印刷データ作成プログラム

【課題】各々の間引き回数の割合を自由に変化させて多様な印刷結果を得ることができる印刷データ作成装置、および印刷データ作成プログラムを提供する。
【解決手段】PCは、インクヘッドをN(N≧2)回走査させて印刷を完成するマルチパス方式を印刷装置に実行させるための印刷データを作成する。PCは、間引き回数M(0≦M≦N、Mは整数)の各々の出現率を示す出現率情報を設定する(S1)。間引き回数Mとは、N回のパスのうちインクの吐出を間引く回数である。PCは、設定した出現率情報に従って、印刷領域内の複数の部分領域の各々の間引き回数Mを決定する(S2)。部分領域毎に、決定した間引き回数Mのインクの吐出を間引いて印刷データを作成する(S9)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチパス方式でインクヘッドを駆動するための印刷データを作成する印刷データ作成装置、および印刷データ作成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷装置のインクヘッドを駆動する方式としてマルチパス方式が知られている(例えば、特許文献1参照)。マルチパス方式は、複数のノズルを備えたインクヘッドを、記録媒体上の同一領域に複数回走査させて印刷を完成する方式である。マルチパス方式で用いられる印刷データを作成する方法として、マスクパターンを使用する方法がある。この方法では、あらかじめ決められた画像データ配列(マスクパターン)に従って、画像データのインク吐出画素が間引かれることで、各パスにおけるインクの吐出パターンのデータが作成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−169736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクの液滴階調が2値(インクを吐出するor吐出しない)であり、且つ2回のパスで印刷を実行する場合を例示する。この場合、1回目のパスのデータ作成時に使用したマスクパターンとは逆のマスクパターンを、2回目のパスのデータ作成時に使用すれば、画像データ中の全てのインク吐出画素の間引き回数が「1」となる。その結果、全てのインク吐出画素にインクが1回ずつ吐出される。一方、互いに独立した配列である2つのマスクパターンを用いると、インクは画像データ中の全てのインク吐出画素には吐出されない。詳細には、画像データにおけるインク吐出画素は、印刷データでは、不吐出画素、通常吐出画素、および多吐出画素のいずれかに設定される。不吐出画素では、間引き回数が「2」となり、2回のパスの両方で画像データが間引かれる。その結果、インクは吐出されない。通常吐出画素では、間引き回数が「1」となり、2回のパスのうちの一方で画像データが間引かれる。その結果、インクは1回吐出される。多吐出画素では、間引き回数は画像データで示された吐出回数(1回)よりも小さい値(この場合は「0」)となる。その結果、インクは2回吐出される。
【0005】
各々の間引き回数が実行される割合を変化させて、不吐出画素、通常吐出画素、および多吐出画素の各々の割合を変化させることで、異なる印刷結果が得られる。しかし、従来の方法では、各々の間引き回数の割合を自由に変化させることができなかった。従って、多様な印刷結果を得ることは困難であった。
【0006】
本発明は、各々の間引き回数の割合を自由に変化させて多様な印刷結果を得ることができる印刷データ作成装置、および印刷データ作成プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様に係る印刷データ作成装置は、インクを吐出するインクヘッドを相対的に走査させることで記録媒体上に印刷を行う印刷装置で用いられ、前記記録媒体上の同一領域に前記インクヘッドを相対的にN(N≧2)回走査させて印刷を完成するマルチパス方式で前記インクヘッドを駆動するための印刷データを、インクの液滴量を画素毎に示すデータである液滴階調データから作成する印刷データ作成装置であって、印刷領域内の複数の部分領域の各々に対して決定される回数であり、N回のパスのうちインクの吐出を間引く回数である間引き回数M(0≦M≦N、Mは整数)の各々の出現率を示す情報である出現率情報を設定する設定手段と、前記設定手段によって設定された前記出現率情報に従って、印刷領域内の複数の部分領域の各々の間引き回数Mを決定する決定手段と、前記部分領域毎に、前記決定手段によって決定された間引き回数Mのインクの吐出を間引いて印刷データを作成する印刷データ作成手段とを備える。
【0008】
第一の態様に係る印刷データ作成装置は、間引き回数Mの各々の出現率情報を設定し、設定した出現率情報に従って、間引き回数Mを部分領域毎に決定することができる。従って、印刷データ作成装置は、間引き回数Mの各々の割合を自由に設定して、多様な印刷を印刷装置に実行させることができる。
【0009】
前記印刷データ作成装置は、(N−1)回の間引き回数の出現率を取得する出現率取得手段をさらに備えてもよい。前記設定手段は、前記出現率取得手段によって取得された出現率を(N−1)回の間引き回数の出現率として前記出現率情報を設定してもよい。(N−1)回の間引き回数の出現率が高ければ、画像データで定められたインクの濃度と実際に吐出されるインクの濃度とを近づけることができ、且つノイズも減少する。一方で、(N−1)回の間引き回数の出現率が低ければ、横すじの発生を防止できる。印刷データ作成装置は、(N−1)回の間引き回数の出現率を取得して出現率情報を設定することで、(N−1)回の間引き回数の出現率に応じた印刷結果を得るための適切な印刷データを容易に作成することができる。
【0010】
前記印刷データ作成装置は、間引き回数M(0≦M≦N、Mは整数)の各々のうち少なくともいずれかの出現率に関する情報の入力を受け付ける入力手段をさらに備えてもよい。前記設定手段は、前記入力手段によって受け付けられた情報を前記出現率情報として設定してもよい。ユーザは、所望の出現率に関する情報を入力して印刷データを作成させることができる。よって、印刷データ作成装置は、ユーザが所望する印刷を容易に印刷装置に実行させることができる。
【0011】
前記印刷データ作成装置は、前記複数の部分領域の各々における色の情報を取得する色情報取得手段をさらに備えてもよい。前記設定手段は、前記色情報取得手段によって取得された色の情報に基づいて、前記出現率情報を前記部分領域毎に設定してもよい。各間引き回数の割合が印刷結果に与える影響は、印刷領域の色に応じて異なる場合がある。印刷データ作成手段は、色の情報に応じて各部分領域の出現率情報を設定することで、部分領域の各々の色に応じた適切な出現率情報を設定することができる。
【0012】
前記色情報取得手段が取得する色の情報はインクの濃度であってもよい。前記設定手段によって設定される(N−1)回の間引き回数の出現率は、前記色情報取得手段によって取得される濃度が増加する程低い値若しくは同一の値に推移してもよい。(N−1)回の間引き回数の出現率を低くすると、特に濃度が高い領域で効果的に横すじの発生を抑制できる。濃度が低い領域で(N−1)回の間引き回数の出現率を低くすると、ノイズが増加して画像の粗さが増す。(N−1)回の間引き回数の出現率を高くするとノイズは低下する。印刷データ作成装置は、濃度が高い領域における(N−1)回の間引き回数の出現率を低くすることで、効果的に横すじの発生を抑制することができる。濃度が低い領域における(N−1)回の間引き回数の出現率を高くすることで、ノイズの増加に伴って画像が粗くなることを抑制することができる。なお、濃度が低い領域では、濃度が高い領域に比べて横すじは目立ち難い。従って、印刷データ作成装置は、ノイズが増加することを防止しつつ、横すじの発生を効果的に抑制することができる。
【0013】
前記色情報取得手段が取得する色の情報はインクの濃度であってもよい。前記設定手段によって設定される(N−1)回の間引き回数の出現率は、前記色情報取得手段によって取得される濃度が増加する程高い値若しくは同一の値に推移してもよい。この場合、濃度が高い領域では(N−1)回の間引き回数の出現率が高くなるため、均一にインクが吐出されて高い濃度が保たれる。さらに、濃度が低い領域では(N−1)回の間引き回数の出現率が低くなるため、粗さが際立った画像が印刷される。
【0014】
前記設定手段は、色材の濃度と前記出現率情報とが対応付けられた各色材に共通のテーブルである第一テーブルにより、前記出現率情報を色材毎に設定してもよい。この場合、印刷データ作成装置は、濃度に応じた適切な出現率情報を、1つのテーブルを用いて容易に色材毎に設定することができる。
【0015】
前記設定手段は、色材の濃度と前記出現率情報とが色材毎に対応付けられたテーブルである第二テーブルにより、前記出現率情報を色材毎に設定してもよい。この場合、印刷データ作成装置は、濃度に応じた適切な出現率情報を、色材毎に設けられたテーブルを用いて正確に設定することができる。
【0016】
前記設定手段は、複数の色材の濃度の合計値と、前記複数の色材に共通して使用する前記出現率情報とが対応付けられた第三テーブルにより、前記出現率情報を設定してもよい。この場合、印刷データ作成装置は、複数の色材の濃度の合計値を入力するだけで、複数の色材に共通して使用する出現率情報を容易に設定することができる。
【0017】
前記設定手段は、複数の色材の濃度の合計値と、前記複数の色材の各々について使用する前記出現率情報とが対応付けられた第四テーブルにより、前記出現率情報を設定してもよい。この場合、印刷データ作成装置は、複数の色材の濃度の合計値を入力するだけで、複数の色材の各々について使用する出現率情報を容易に設定することができる。
【0018】
前記印刷データ作成手段は、N回のパスのうち最も早く実行されるパスおよび最も遅く実行されるパスで優先してインクを吐出させる印刷データを作成してもよい。この場合、同一の画素に複数回インクを吐出する際に、最初にインクが吐出されてから最後にインクが吐出されるまでの時間が長くなる。従って、印刷データ作成装置は、連続してインクを吐出する場合に比べてインクを滲みにくくすることができる。
【0019】
前記印刷データ作成手段は、インクを吐出させるパスをN回のパスに均等に振り分けて印刷データを作成してもよい。印刷データ作成装置は、インクを吐出させるパスを均等に振り分けることで、ノズルが乾く可能性を低下させることができる。
【0020】
前記印刷データ作成手段は、N回のパスのうち早く実行されるパスまたは遅く実行されるパスから順に、前記決定手段によって決定された間引き回数Mのインクの吐出を間引いて印刷データを作成してもよい。この場合、印刷データ作成装置は、決定された吐出回数を容易にN回のパスに振り分けることができる。
【0021】
前記部分領域は、印刷データを作成する際の最小単位である画素であってもよい。この場合、印刷データ作成装置は、印刷データを作成する際の最小単位である画素毎に処理を行うことで、画像の細部の間引き回数Mも適切に決定することができる。また、部分領域を大きくして処理を行うと、隣接する複数の部分領域の境界に意図しない輪郭(以下、「擬似輪郭」という。)が生じる可能性がある。印刷データ作成装置は、部分領域を画素として処理を行うことで、擬似輪郭が生じる可能性を低下させることもできる。
【0022】
前記決定手段は、間引き回数M(0≦M≦N、Mは整数)の各々の出現率を、前記設定手段によって設定された前記出現率情報が示す出現率とするマスクパターンを作成することで、間引き回数Mを前記部分領域毎に決定してもよい。この場合、印刷データ作成装置は、間引き回数Mの各々の割合が設定された印刷データを、マスクパターンを用いることで効率よく作成することができる。
【0023】
前記印刷データ作成装置は、前記複数の部分領域の各々について、前記液滴階調データが示す液滴量が0の領域であるか否かを判断する判断手段をさらに備えてもよい。前記決定手段は、前記判断手段によって液滴量が0でないと判断された部分領域についてのみ間引き回数Mを決定してもよい。印刷データ作成装置は、インクを吐出しない領域の印刷データについては、間引き回数Mを決定する処理を行うことなく容易に作成することができる。従って、印刷データ作成装置は、処理負担を低下させて素早く印刷データを作成することができる。
【0024】
本発明の第二の態様に係る印刷データ作成プログラムは、インクを吐出するインクヘッドを相対的に走査させることで記録媒体上に印刷を行う印刷装置で用いられ、前記記録媒体上の同一領域に前記インクヘッドを相対的にN(N≧2)回走査させて印刷を完成するマルチパス方式で前記インクヘッドを駆動するための印刷データを、インクの液滴量を画素毎に示すデータである液滴階調データから作成する印刷データ作成装置で用いられる印刷データ作成プログラムであって、印刷領域内の複数の部分領域の各々に対して決定される回数であり、N回のパスのうちインクの吐出を間引く回数である間引き回数M(0≦M≦N、Mは整数)の各々の出現率を示す情報である出現率情報を設定する設定ステップと、前記設定ステップにおいて設定された前記出現率情報に従って、印刷領域内の複数の部分領域の各々の間引き回数Mを決定する決定ステップと、前記部分領域毎に、前記決定ステップにおいて決定された間引き回数Mのインクの吐出を間引いて印刷データを作成する印刷データ作成ステップとを前記印刷データ作成装置のコントローラに実行させるための指示を含む。
【0025】
第二の態様に係る印刷データ作成プログラムによると、印刷データ作成装置は、間引き回数Mの各々の出現率情報を設定し、設定した出現率情報に従って、間引き回数Mを部分領域毎に決定することができる。従って、印刷データ作成装置は、間引き回数Mの各々の割合を設定する自由度が高く、多様な印刷を印刷装置に実行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】印刷システム100の概要を示す斜視図である。
【図2】補完確率が100%となる場合を説明するための説明図である。
【図3】補完確率が100%とならない場合を説明するための説明図である。
【図4】印刷装置30の電気的構成を示すブロック図である。
【図5】PC1の電気的構成を示すブロック図である。
【図6】カラー変換テーブル21のデータ構成図である。
【図7】第一実施形態に係るPC1が実行する印刷データ作成処理のフローチャートである。
【図8】印刷データ作成処理中に実行される出現率設定処理のフローチャートである。
【図9】ディスプレイ49に表示される出現率個別入力画面61を示す図である。
【図10】ディスプレイ49に表示される補完確率入力画面62を示す図である。
【図11】ディスプレイ49に表示される吐出順入力画面63を示す図である。
【図12】補完確率決定テーブル(C−1)71のデータ構成図である。
【図13】補完確率決定テーブル(C−1)71におけるシアン濃度と補完確率との関係を示すグラフである。
【図14】補完確率決定テーブル(C−2)72のデータ構成図である。
【図15】補完確率決定テーブル(C−2)72におけるシアン濃度と補完確率との関係を示すグラフである。
【図16】第二実施形態に係るPC1が実行する印刷データ作成処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の第一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、参照する図面は、本発明が採用し得る技術的特徴を説明するために用いられるものである。図面に記載されている装置の構成、各種処理のフローチャート等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0028】
図1を参照して、本発明に係る印刷データ作成装置であるパーソナルコンピュータ(以下、「PC」という)1、およびPC1を備えた印刷システム100について説明する。印刷システム100は、PC1と印刷装置30とを備える。印刷装置30は公知の布帛用インクジェットプリンタであり、インクヘッド35を走査させることで、記録媒体である布帛に印刷を行うことができる。PC1は、印刷装置30に印刷を実行させるための印刷データを作成することができる。
【0029】
印刷装置30の概要について説明する。図1の左下側および右上側は、夫々、印刷装置30の正面側および背面側である。図1の左右方向および上下方向は、夫々、印刷装置30の左右方向および上下方向である。印刷装置30は、矩形箱状の筐体31を有する。筐体31の前後方向略中央には、一対のガイドレール33が左右方向に延びている。キャリッジ34は、ガイドレール33により、ガイドレール33に沿って左右方向(主走査方向)に移動可能に支持されている。詳細は図示しないが、キャリッジ34は、主走査モータ46(図5参照)およびベルトを含む主走査機構によって主走査方向に走査される。キャリッジ34は、インクヘッド35を下部に備えている。インクヘッド35の底面には、複数個(例えば、128個)の微細なノズルが設けられている。インクカートリッジ(図示せず)からインクヘッド35に供給されたインクは、圧電素子の駆動によって、ノズルから下向きに吐出される。
【0030】
筐体31の内部の左右方向略中央下部には、一対のガイドレール37が前後方向に延びている。プラテン支持台38は、ガイドレール37により、ガイドレール37に沿って前後方向(副走査方向)に移動可能に支持されている。詳細は図示しないが、プラテン支持台38は、副走査モータ47(図5参照)およびベルトを含む副走査機構によって副走査方向に走査される。プラテン支持台38の上面の左右方向略中央には、取り替え可能なプラテン39が固定されている。プラテン39は、平面視略五角形の板体であり、その上面に、例えばTシャツ等の布帛を載置するためのものである。
【0031】
印刷装置30は、インクヘッド35を主走査方向に走査させながらインクを吐出させることで、主走査方向にドット列を形成することができる。印刷装置30は、主走査方向の1回の動作が完了すると、インクヘッド35を副走査方向に走査させた後に、再び主走査方向にドット列を形成する。印刷装置30は、以上の動作を印刷データに従って繰り返し実行することで、記録媒体上に複数のドット列を形成して印刷を行う。
【0032】
特に、本実施形態に係る印刷装置30は、マルチパス方式に従って印刷を行うことができる。マルチパス方式によると、主走査方向に延びる同一の印刷領域上に、異なるノズルがN(Nは2以上の整数)回走査されることで、1つのドット列が完成する。インクの吐出方向および吐出量は、ノズル毎にばらつく。さらに、インクヘッド35の副走査方向の移動量がばらつく場合もある。従って、1つのドット列を1回の主走査方向の動作(パス)によって完成させていくと、ドット列の間にすじ(所謂「横すじ」「バンディング」)が発生して印刷品質が低下する。また、ドット列毎のインク量の差も、印刷品質の低下の原因となる。印刷装置30は、マルチパス方式に従って印刷を行うことで、印刷装置30自身が有する種々のばらつきの影響を低減させて、印刷品質を向上することができる。なお、インクヘッド35を移動させずに記録媒体を移動させて印刷を実行する場合にも、本発明は適用できる。つまり、印刷装置30は、インクヘッド35と記録媒体とを相対的に移動させるものであればよい。
【0033】
図2および図3を参照して、間引き回数Mと印刷結果の関係について説明する。PC1は、印刷装置30をマルチパス方式で駆動するための印刷データを作成する。詳細には、PC1は、インクの液滴量が画素毎に示されたデータである液滴階調データを、所定のアルゴリズムに従って間引くことで、N回のパスの各々の印刷データを作成する。「間引き回数M」とは、印刷領域内の部分領域(例えば、画素)に対するN回のパスの印刷データが作成される際に間引き処理が行われる回数である。間引き処理は、マスクパターンを用いて行われる場合と、マスクパターンを用いずに行われる場合とがある。図2および図3では、2回のパスで各ドット列を完成させるための印刷データが、2値の液滴階調データからマスクパターンを用いて作成される場合について、2つ例示する。ただし、液滴階調データが多値の場合、および、3回以上のパスでマルチパス印刷を実行させる場合でも、本発明は適用できる。
【0034】
なお、「液滴階調データ」とは、インクの液滴量を画素毎に示すデータである。本実施形態のPC1は、2値(「1」:インクを吐出する、「0」:インクを吐出しない)の液滴階調データを使用する。「補完」とは、液滴階調データが示す液滴量と同量のインクが吐出されることを言う。本実施形態では、各ノズルが1回で吐出するインクの液滴量は、毎回同じである。液滴階調データでインクを吐出すると定められた領域内の画素が補完されると、マルチパス方式におけるN回のパスのうち1回だけインクが吐出される。つまり、間引き回数は(N−1)回となる。従って、本実施形態では、液滴階調データで「1」とされている画素が補完されると、2回のパスのうちのいずれか一方でインク吐出画素が間引かれる。「補完確率」とは、インク吐出画素に対する間引き回数が(N−1)回となる確率(補完される確率)である。「マスクパターン」は、各パスの印刷データを作成する際に参照される画像データ配列である。PC1は、液滴階調データのインク吐出画素をマスクパターンに従って間引くことで、各パスの印刷データを作成する。つまり、液滴階調データで「1」とされている画素は、A番目のパスで用いられるマスクパターンで「1」とされている位置(インク吐出画素が間引かれない位置)の画素であれば、A番目のパスでインクが吐出される画素となる。逆に、液滴階調データで「1」とされている画素であっても、A番目のパスで用いられるマスクパターンで「0」とされている位置(間引かれる位置)の画素であれば、A番目のパスではインクが吐出されない画素となる。
【0035】
図2を参照して、補完確率が100%となる場合について説明する。図2に示す1パス目のマスクパターンは、インク吐出画素を間引く「0」と、インク吐出画素を間引かない「1」とが交互に市松模様状に配置された(「0」および「1」の各々が千鳥状に配置された)千鳥マスクパターンである。2パス目のマスクパターンは、「0」および「1」の全てが千鳥マスクパターンとは逆に配置された逆千鳥マスクパターンである。千鳥・逆千鳥マスクパターンによると、一方で間引き処理が行われる画素は、他方では間引き処理が行われないため、両者は互いに補完される関係となっている。図2に示す千鳥・逆千鳥マスクパターンを用いて2つのパスの各々の印刷データを作成すると、液滴階調データにおけるインク吐出画素のうち、実際のインク吐出回数が0回(間引き回数が2回)となる不吐出画素の割合は0%となる。実際のインク吐出回数が1回(間引き回数が1回)となる通常吐出画素(補完される画素)の割合は、100%となる。実際のインク吐出回数が2回(間引き回数が0回)となる多吐出画素の割合は、0%となる。以上のように、PC1は、千鳥・逆千鳥マスクパターンを用いることで、補完確率が100%となる印刷データ(高補完データ)を作成することができる。
【0036】
補完確率が高いマルチパス方式を印刷装置30が実行することで、液滴階調データにおけるインク吐出画素に1度もインクが吐出されない確率(不吐出画素が生じる確率)は低下する。従って、PC1は、実際に印刷されるインクの濃度が、予定されていたインクの濃度よりも低くなることを防止することができる。特に、インク濃度が低い領域の補完確率を高くすれば、ノイズを低下させて細部まで明瞭な印刷結果を得ることができる。
【0037】
なお、PC1は、千鳥・逆千鳥マスクパターン以外のマスクパターンを用いて高補完データを作成することも可能である。2つのマスクパターンを用いる場合には、一方のマスクパターンの配置が他方のマスクパターンの配置と逆になっていれば、補完確率は100%となる。従って、一方のマスクパターンの配置が、ランダム、縞模様状等であっても、他方のマスクパターンの配置を逆にすれば、高補完データを作成できる。高補完データの補完確率は、後述する低補完データの補完確率よりも高ければよく、100%である必要は無い。なお、詳細は後述するが、マスクパターンを用いずに、2回のパスの一方で間引き処理を行った場合でも、補完確率を100%とすることができる。
【0038】
図3を参照して、補完確率が100%とならない場合について説明する。図3に示す1パス目のマスクパターンは、「0」と「1」とがランダムに配置されたランダムマスクパターンである。2パス目のマスクパターンは、1パス目の配置とは独立してランダムに配置されたランダムマスクパターンである。2つのランダムマスクにおける「0」の割合(間引き率)は、共に50%である。図3に示す2つのランダムマスクパターンを用いて、2つのパスの各々の印刷データを作成すると、液滴階調データにおけるインク吐出画素のうち、実際のインク吐出回数が0回(間引き回数が2回)となる不吐出画素の割合は25%となる。実際のインク吐出回数が1回(間引き回数が1回)となる通常吐出画素(補完される画素)の割合は、50%となる。実際のインク吐出回数が2回(間引き回数が0回)となる多吐出画素の割合は、25%となる。以上のように、PC1は、互いに補完される関係に無い2つのランダムマスクパターンを用いることで、千鳥・逆千鳥マスクパターンを用いる場合よりも補完確率が低い印刷データ(低補完データ)を作成することができる。
【0039】
補完確率が低く、且つ不吐出画素および多吐出画素の割合が多い場合、インクの吐出が分散される。その結果、特に濃度が高い領域では、より効果的に横すじの発生が抑制される。なお、低補完データの補完確率は高補完データの補完確率よりも低ければよく、50%である必要は無い。PC1は、2つのマスクパターンの少なくとも一方を、ランダムマスクパターン以外のマスクパターンとしても、低補完データを作成できる。また、実際の間引き回数「2」、「1」、「0」の各々の割合(25%、50%、25%)を変更してもよい。例えば、1パス目のマスクパターンにおける間引き回数「0」の割合(間引き率)をA%、1パス目のマスクパターンにおける間引き率をB%とすると、各々の割合は以下の式に基づいて算出できる。よって、PC1は、各々の割合を適宜設定することもできる。
間引き回数「2」の割合(%)=A/100*B/100*100
間引き回数「1」の割合(%)=1−(A/100*B/100+(1−A/100)*(1−B/100))*100
間引き回数「2」の割合(%)=(1−A/100)*(1−B/100)*100
【0040】
図2および図3において例示したように、PC1は、印刷データにおける間引き回数Mの各々の割合を変えることで、異なる印刷結果を得ることができる。特に、補完確率に着目すると、濃度が高い領域の補完確率を下げ、且つ濃度が低い領域の補完確率を上げることで、効果的に横すじの発生が抑制され、濃度が低い領域で画像が粗くなることも防止される。逆に、濃度高い領域の補完確率を上げ、且つ濃度が低い領域の補完確率を下げることで、印刷されるインクの濃度が予定されていた濃度よりも低くなることが防止され、ノイズも低下する。しかし、間引き回数Mの各々の割合を自由に変化させることは、従来はできなかった。本実施形態のPC1は、間引き回数Mの各々の割合を自由に変化させて多様な印刷結果を得ることができる。
【0041】
図4を参照して、印刷装置30の電気的構成について説明する。印刷装置30は、印刷装置30の制御を司るCPU40を備える。CPU40には、ROM41、RAM42、ヘッド駆動部43、モータ駆動部45、表示制御部48、操作処理部50、およびUSBインタフェース52が、バス55を介して接続されている。
【0042】
ROM41には、印刷装置30の動作を制御するための制御プログラム、初期値等が記憶されている。RAM42には、PC1から受信した印刷データ等の各種データが一時的に記憶される。ヘッド駆動部43は、インクを吐出するインクヘッド35に接続しており、インクヘッド35の各吐出チャンネルに設けられた圧電素子を駆動する。モータ駆動部45は、インクヘッド35を主走査方向に移動させる主走査モータ46と、インクヘッド35を副走査方向に移動させる副走査モータ47とを駆動する。表示制御部48は、CPU40による指示に応じてディスプレイ49の表示を制御する。操作処理部50は、操作パネル51に対する操作入力を検知する。USBインタフェース52は、印刷装置30をPC1等の外部機器に接続する。
【0043】
図5を参照して、PC1の電気的構成について説明する。PC1は、PC1の制御を司るCPU10を備える。CPU10には、ROM11、RAM12、CD−ROMドライブ13、HDD14、表示制御部16、操作処理部17、およびUSBインタフェース18が、バス19を介して接続されている。
【0044】
ROM11には、CPU10が実行するBIOS等のプログラムが記憶されているRAM12は各種情報を一時的に記憶する。CD−ROMドライブ13には、記録媒体であるCD−ROM6が挿入される。CD−ROM6に記録されているデータは、CD−ROMドライブ13によって読み出される。PC1は、CD−ROM6およびインターネット等を介して、本発明に係る印刷データ作成プログラム等を取得し、HDD(ハードディスクドライブ)14に記憶させる。HDD14は不揮発性の記憶装置であり、印刷データ作成プログラムおよび各種テーブル(例えば、図6参照)を記憶している。表示制御部16は、モニタ2の表示を制御する。操作処理部17は、ユーザが操作入力を行うためのキーボード3およびマウス4に接続し、操作入力を検知する。USBインタフェース18は、PC1を印刷装置30等の外部機器に接続する。
【0045】
図6を参照して、カラー変換テーブル21について説明する。カラー変換テーブル21は、sRGB形式の256階調で表現された画像データを、CMYK形式の256階調で表現される中間データに変換するためのテーブルである。カラー変換テーブル21では、各sRGB値に対応するCMYK値が各々対応付けられている。カラー変換テーブル21は、公知の手法によって作成されてあらかじめPC1のHDD14に記憶されている。
【0046】
図7から図11を参照して、第一実施形態に係るPC1が実行する印刷データ作成処理について説明する。前述したように、PC1のHDD14には印刷データ作成プログラムが記憶されている。PC1のCPU10は、印刷データの作成指示を入力すると、印刷データ作成プログラムに従って、図7に示す印刷データ作成処理を実行する。まず、出現率設定処理が行われる(S1)。出現率設定処理では、間引き回数M(M=0,1,2)の各々の出現率が設定される。
【0047】
図8に示すように、出現率設定処理が開始されると、個別入力の設定が行われているか否かが判断される(S20)。第一実施形態のPC1は、個別入力および補完確率入力の2つの方法で、ユーザによる出現率の入力を受け付けることができる。個別入力とは、間引き回数M(M=0,1,2)の各々の出現率を、ユーザが個別に入力する方法である。個別入力によると、ユーザは、間引き回数Mの各々の出現率を自由に設定することができる。補完確率入力とは、ユーザが補完確率のみを入力する方法である。この場合、PC1は、入力された補完確率に基づいて、全ての間引き回数Mの出現率を設定する。よって、ユーザは容易に出現率を設定することができる。
【0048】
ユーザがマウス4(図5参照)等を操作し、個別入力の設定を行った場合(S20:YES)、出現率個別入力画面61がディスプレイ49に表示され、入力が受け付けられる(S21)。図9に示すように、出現率個別入力画面61では、「0:両方で間引く率(間引き回数2回)」、「1:片方で間引く率(間引き回数1回)」、「2:両方で間引かない率(間引き回数0回)」の各々が個別に入力される。ただし、3つの出現率の和は100%になる必要がある。従って、CPU10は、2つの出現率が入力された時点で、残りの1つの出現率を算出して自動的に表示させてもよい。この場合、1つの入力欄をグレーアウトし、数値を入力できない状態としてもよい。また、CPU10は、入力された全ての出現率の和が100%になるまで、「OK」ボタンを操作できない状態にしてもよい。
【0049】
「OK」ボタンが操作されるまで(S22:NO)、出現率の個別入力が受け付けられる(S21)。「OK」ボタンが操作されると(S22:YES)、間引き回数「0」の出現率Z0、間引き回数「1」の出現率Z1、および間引き回数「2」の出現率Z2の各々に、入力されたそれぞれの値が設定される(S23)。処理はS32へ移行する。
【0050】
一方、ユーザが補完確率入力の設定を行った場合(S20:NO)、補完確率入力画面62がディスプレイ49に表示され、補完確率の入力が受け付けられる(S26)。図10に示すように、補完確率入力画面62は、ユーザによる補完確率の入力を受け付ける画面である。第一実施形態では、ユーザがマウス4を操作してバーを所望の位置に移動させる。CPU10は、バーの位置に対応する値を補完確率として処理を行う。しかし、入力方法は適宜変更できる。例えば、CPU10は、補完確率の候補を補完確率入力画面62で列挙し、列挙した候補の1つをユーザに選択させてもよい。補完確率の値をユーザに直接入力させてもよいことは言うまでもない。
【0051】
「OK」ボタンが操作されるまで(S27:NO)、補完確率の入力が受け付けられる(S26)。「OK」ボタンが操作されると(S27:YES)、間引き回数「1」の出現率Z1に、入力された補完確率の値が設定される(S28)。「(100−入力値)/2」が、間引き回数「0」の出現率Z0、および間引き回数「2」の出現率Z2の各々に設定される(S29、S30)。処理はS32へ移行する。
【0052】
次いで、吐出順入力画面63がディスプレイ49に表示され、吐出順の入力が受け付けられる(S32)。吐出順とは、マルチパスにおけるN回のパスのうち、インクを吐出するパスとして設定する順番である。図11に示すように、吐出順入力画面63では、複数の吐出順の候補が表示される。ユーザは、表示された複数の候補の中の1つを選択する。
【0053】
第一実施形態では、「各パスで均等に吐出」、「最初のパスから順に吐出」、および「最後のパスから順に吐出」の3つの吐出順の候補が表示される。「各パスで均等に吐出」とは、N回のパスの各々で均等にインクを吐出させることを示す。この場合、複数のノズルの各々が均等に用いられるので、ノズルが乾く可能性を低下させることができる。「最初のパスから順に吐出」とは、N回のパスのうち最初のパスから順に、インクを吐出するパスとすることを示す。第一実施形態では、間引き回数が「1」であれば、インクを吐出するパスが1回目のパスとされ、2回目のパスではインクは吐出されない。間引き回数が「0」であれば、最初のパスから順に2つのパスがインクを吐出するパスとされるため、両方のパスでインクが吐出される。「最後のパスから順に吐出」とは、最後のパスから順にインクを吐出するパスとすることを示す。「最初のパスから順に吐出」および「最後のパスから順に吐出」が選択された場合、CPU10は、インクを吐出するパスを容易にN回のパスに振り分けることができる。
【0054】
なお、「各パスで均等に吐出」、「最初のパスから順に吐出」、および「最後のパスから順に吐出」の3つの吐出順は、実行されるパスの回数が3回以上である場合にも同様に適用できる。さらに、パスの回数が3回以上である場合には、「最初のパスおよび最後のパスで優先して吐出」の吐出順を設けても良い。この場合、CPU10は、N回のパスのうち、最初のパスおよび最後のパスで優先してインクを吐出させる。具体的には、間引き回数が(N−1)回であれば、最初のパスおよび最後のパスのいずれかでインクが吐出される。間引き回数が(N−2)回であれば、最初のパスと最後のパスでインクが吐出される。間引き回数が(N−3)回以下であれば、最初のパスと最後のパスに加え、2回目から(N−1)回目までのパスも適宜用いられてインクが吐出される。この場合、同一の領域にインクを複数回吐出する際に、最初にインクが吐出されてから最後にインクが吐出されるまでの時間が長くなる。従って、PC1は、連続してインクを吐出させる場合に比べてインクを滲みにくくすることができる。
【0055】
図8の説明に戻る。吐出順入力画面63が表示されると、複数の吐出順のいずれかが選択されて「OK」が操作されたか否かが判断される(S33)。「OK」が操作されるまで(S33:NO)、吐出順の入力が受け付けられる(S32)。「OK」が操作されると(S33:YES)、「各パスで均等に吐出」が選択されたか否かが判断される(S34)。選択されていれば(S34:YES)、1パス目のみ間引く場合の出現率Z1aが、「Z1/2」に設定される(S36)。2パス目のみ間引く場合の出現率Z1bも、「Z1/2」に設定される(S37)。その結果、作成される印刷データは、2回のパスで均等にインクを吐出させる印刷データとなる。処理は、印刷データ作成処理(図7参照)へ戻る。なお、Z1の値は、前述したS23またはS28の処理で既に設定されている値である。
【0056】
「各パスで均等に吐出」が選択されていなければ(S34:NO)、「最初のパスから順に吐出」が選択されたか否かが判断される(S39)。選択されていれば(S39:YES)、1パス目のみ間引く場合の出現率Z1aが「0」に設定される(S40)。2パス目のみ間引く場合の出現率Z1bが「Z1」に設定される(S41)。その結果、作成される印刷データは、最初のパスから順にインクを吐出させる印刷データとなる。処理は印刷データ作成処理へ戻る。
【0057】
「最初のパスから順に吐出」が選択されていなければ(S39:NO)、選択されている吐出順は「最後のパスから順に吐出」である。この場合、1パス目のみ間引く場合の出現率Z1aが「Z1」に設定される(S43)。2パス目のみ間引く場合の出現率Z1bが「0」に設定される(S44)。その結果、作成される印刷データは、最後のパスから順にインクを吐出させる印刷データとなる。処理は印刷データ作成処理へ戻る。
【0058】
図7の説明に戻る。出現率設定処理(S1)が終了すると、設定されたZ0、Z1a、Z1b、Z2の値から、1パス目のマスクパターンと2パス目のマスクパターンが作成される(S2)。詳細には、まず、間引き回数が0回の画素の割合がZ0%、間引き回数が1回の画素の割合がZ1%、間引き回数が2回の画素の割合がZ2%となる画像データ配列(以下、「仮配列」という。)が作成される。各画素は規則的に配置されてもよいし、乱数等を用いることで不規則に配置されてもよい。例えば、画像データ配列における複数の画素の各々に対して、0〜99の乱数を取得する。Z0が「20」、Z1が「70」、Z2が「10」である場合、取得された乱数が0〜19である画素は、間引き回数0回の画素とする。取得された乱数が20〜89である画素は、間引き回数1回の画素とする。取得された乱数が90〜99である画素は、間引き回数2回の画素とする。次いで、仮配列において間引き回数が0回とされている画素は、1パス目および2パス目のマスクパターンで共に間引き処理が行われない画素とされる。仮配列において間引き回数が1回とされている画素のうち、「Z1a/(Z1a+Z1b)」の割合の画素は、1パス目のマスクパターンでは間引き処理が行われる画素とされ、2パス目のマスクパターンでは間引き処理が行われない画素とされる。仮配列において間引き回数が2回とされている画素は、2つのマスクパターンで共に間引き処理が行われる画素となる。以上の処理によって、1パス目および2パス目の各々のマスクパターンが作成される。
【0059】
次いで、sRGB形式の256階調で表現された画像データが、カラー変換テーブル21(図7参照)によって、CMYK形式の256階調で表現される中間データに変換される。変換された中間データがHDD14に記憶される(S3)。印刷データの全てが、インクを吐出させないことを示す「0」で初期化される(S4)。S3で変換された中間データに対して誤差拡散処理が行われ、CMYK形式の2値で表現される液滴階調データに変換される(S5)。誤差拡散処理は、256階調のデータを印刷階調に落として2値化するための公知の処理である。
【0060】
次いで、印刷領域を構成する複数の画素(部分領域)の1つが、順に注目画素とされる(S6)。注目画素のC,M,Y,Kの1つが、順に注目色とされる(S7)。液滴階調データが参照されて、注目画素における注目色の液滴量が「0」であるか否かが判断される(S8)。液滴量が「0」の画素であれば(S8:YES)、注目画素における注目色の印刷データは、1パスおよび2パスの両方で「0(インクを吐出しない)」とされたまま、処理はS10の判断へ移行する。
【0061】
注目画素における注目色の液滴量が「0」でなければ(S8:NO)、S2で作成されたマスクパターンが参照されて、1パス目および2パス目の印刷データが作成される(S9)。つまり、1パス目に用いられるマスクパターンにおいて、注目画素に対応する位置にインク吐出画素を間引く「0」が配置されていれば、その注目画素に対して間引き処理が行われ、1パス目の印刷データはインクを吐出しない「0」とされる。一方、インク吐出画素を間引かない「1」が配置されていれば、1パス目の印刷データはインクを吐出する「1」とされる。なお、前述したS2の処理では、図8のS32で入力された吐出順に基づいて2つのマスクパターンが作成されている。従って、S2で作成されたマスクパターンを参照して印刷データを作成することで、S32で入力された吐出順でインクを吐出させる印刷データが作成される。
【0062】
C,M,Y,Kの全てが注目色とされたか否かが判断される(S10)。全ての色が注目色とされていなければ(S10:NO)、処理はS7へ戻り、次の色に関する印刷データが作成される(S7〜S9)。全ての色が注目色とされていれば(S10:YES)、全ての画素を注目画素としたか否かが判断される(S11)。未だ全ての画素を注目画素としていなければ(S11:NO)、処理はS6へ戻り、次の画素に関する印刷データが作成される(S6〜S10)。全ての画素、且つ全ての色に関する印刷データの作成が完了すると(S11:YES)、処理は終了する。
【0063】
以上説明したように、第一実施形態に係るPC1は、1つの印刷領域内の部分領域(画素)毎に、間引き回数Mを出現率情報に従って決定することができる。従って、PC1は、間引き回数Mの各々の割合を自由に設定して多様な印刷結果を得ることができる。
【0064】
詳細には、PC1は、入力した補完確率に基づいて、間引き回数Mの各々の出現率を設定することができる。補完確率が高ければ、画像データで定められたインクの濃度と実際に吐出されるインクの濃度とを近づけることができ、且つノイズも減少する。一方、補完確率が低ければ、横すじの発生を防止できる。PC1は、補完確率に応じた印刷結果を得るための適切な印刷データを容易に作成することができる。また、PC1は、間引き回数Mの各々の出現率を個別に設定することもできる。よって、PC1は、間引き回数Mの各々の割合が異なる多様な印刷を、容易に印刷装置30に実行させることができる。
【0065】
PC1は、インクを吐出させるパスを、N回のパスに均等に振り分けることができる。この場合、ノズルが乾く可能性を低下させることができる。また、PC1は、N回のパスのうち早く実行されるパスまたは遅く実行されるパスから順にインクを吐出させることができる。この場合、PC1は、インクを吐出させるパスを容易にN回のパスに振り分けることができる。また、PC1は、3回以上のパスでマルチパスを実行する場合、最初のパスおよび最後のパスで優先してインクを吐出させることもできる。この場合、PC1は、連続してインクを吐出させる場合に比べてインクを滲みにくくすることができる。
【0066】
PC1は、間引き回数Mを決定して印刷データを作成する処理を、画素毎に実行する。よって、PC1は、間引き回数Mの各々の出現率を画像の細部まで反映させることができる。また、処理を行う単位となる領域(部分領域)が大きいと、隣接する複数の部分領域の境界に擬似的な輪郭が生じる可能性がある。PC1は、部分領域を画素として処理を行うことで、擬似的な輪郭が生じる可能性を低下させることができる。
【0067】
PC1は、間引き回数Mの各々の出現率が、出現率設定処理(図8参照)で設定した出現率となるように、それぞれのパスに対して用いる複数のマスクパターンを作成する。作成したマスクパターンを参照して、1パス目および2パス目の印刷データを作成する。つまり、PC1は、設定した出現率に基づいてマスクパターンを作成することで、印刷領域内の複数の部分領域の各々の間引き回数Mを効率よく決定することができる。
【0068】
PC1は、インクを吐出しない領域の印刷データについては、マスクパターンを参照することなく作成することができる。従って、PC1は、処理負担を低下させて素早く印刷データを作成することができる。
【0069】
第一実施形態において、PC1が本発明の「印刷データ作成装置」に相当する。図8に示す出現率設定処理で間引き回数Mの各々の出現率を設定するCPU10が、本発明の「設定手段」として機能する。図7のS2で間引き回数Mを部分領域毎に決定するCPU10が「決定手段」として機能する。図7のS9で印刷データを作成するCPU10が「印刷データ作成手段」として機能する。図8のS26で補完確率を取得するCPU10が「出現率取得手段」として機能する。図8のS21で出現率に関する情報の入力を受け付けるCPU10が「入力手段」として機能する。図7のS8で液滴量が0であるか否かを判断するCPU10が「判断手段」として機能する。図8に示す出現率設定処理が、本発明の「設定ステップ」に相当する。図7のS2で間引き回数Mを部分領域毎に決定する処理が「決定ステップ」に相当する。図7のS9で印刷データを作成する処理が「印刷データ作成ステップ」に相当する。
【0070】
本発明の第二実施形態について、図12から図16を参照して説明する。第二実施形態のPC1は、印刷領域中の複数の部分領域の各々のインク濃度に応じて、間引き回数Mの出現率を設定する。設定した出現率に従って、部分領域毎に間引き回数Mを設定し、印刷データを作成する。以上の処理以外の処理は、前述した第一実施形態における処理と同一である。従って、第一実施形態の処理および構成と同一の処理および構成については、第一実施形態と同一の番号を付し、説明を省略または簡略化する。
【0071】
図12から図15を参照して、補完確率決定テーブルについて説明する。第二実施形態におけるPC1のHDD14には、複数の補完確率決定テーブルが記憶されている。図12および図14に示すように、補完確率決定テーブルでは、インクの濃度(第二実施形態では256階調)と補完確率とが対応付けられている。詳細は後述するが、第二実施形態のPC1は、印刷領域中の複数の部分領域の各々のインク濃度を取得する。取得した濃度(以下、「取得濃度」という。)を補完確率決定テーブルに当てはめることで、部分領域毎に補完確率を決定する。PC1は、決定した補完確率から間引き回数Mを設定する。
【0072】
PC1は、「横すじおよびノイズの影響を抑制するモード」と、「インク濃度と印刷結果の荒々しさを優先させるモード」とを、印刷データの作成前に予めユーザに選択させる。図12に示す補完確率決定テーブル(C−1)71は、「横すじおよびノイズの影響を抑制するモード」がユーザによって選択された場合に参照される。図12および図13に示すように、補完確率決定テーブル(C−1)71では、シアン濃度が高い方が、(N−1)回の間引き回数の出現率である補完確率は低くなる。詳細には、シアン濃度が高くなると、補完確率は低い値若しくは同一の値に推移する。図2および図3において例示したように、濃度が高い領域の補完確率を下げ、且つ濃度が低い領域の補完確率を上げることで、効果的に横すじの発生が抑制され、濃度が低い領域で画像が粗くなることも防止される。
【0073】
図14に示す補完確率決定テーブル(C−2)72は、「インク濃度と印刷結果の荒々しさを優先させるモード」がユーザによって選択された場合に参照される。図14および図15に示すように、補完確率決定テーブル(C−2)72では、シアン濃度が高い方が補完確率は高くなる。詳細には、シアン濃度が高くなると、補完確率は高い値若しくは同一の値に推移する。前述したように、濃度高い領域の補完確率を上げ、且つ濃度が低い領域の補完確率を下げることで、印刷されるインクの濃度が予定されていた濃度よりも低くなることが防止され、ノイズも低下する。以上のように、PC1は、補完確率決定テーブル71,72を参照することで、濃度に応じた適切な補完確率を容易に決定することができる。
【0074】
なお、図12および図14に示す2つの補完確率決定テーブル71,72は、シアンの印刷データを作成する際に参照されるテーブルである。第二実施形態のPC1は、シアン(C)のテーブルに加え、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各々のテーブルを2つずつHDD14に記憶している。PC1は、色材毎に異なる補完確率決定テーブルを用いて補完確率を決定することで、色材に適した補完確率を正確に決定することができる。
【0075】
図16を参照して、第二実施形態のPC1が実行する印刷データ作成処理について説明する。PC1のCPU10は、印刷データの作成指示を入力すると、HDD14に記憶されている印刷データ作成プログラムに従って、図16に示す印刷データ作成処理を実行する。なお、図示しないが、CPU10は、印刷データ作成処理を実行する前に、モード選択を受け付ける処理、および吐出順の入力を受け付ける処理を実行している。モード選択を受け付ける処理では、「横すじおよびノイズの影響を抑制するモード」と、「インク濃度と印刷結果の荒々しさを優先させるモード」のいずれかの選択が受け付けられる。吐出順の入力を受け付ける処理では、前述した第一実施形態のS32(図8参照)と同様に、「各パスで均等に吐出」、「最初のパスから順に吐出」、および「最後のパスから順に吐出」の3つの吐出順のいずれかの選択が受け付けられる。
【0076】
まず、補完確率決定テーブル(例えば、図12および図14参照)がHDD14から読み込まれる(S51)。前述したように、PC1は、「横すじおよびノイズの影響を抑制するモード」と、「インク濃度と印刷結果の荒々しさを優先させるモード」のいずれか一方をユーザに選択させて、選択結果をHDD14に記憶している。「横すじおよびノイズの影響を抑制するモード」が選択されている場合、CPU10は、濃度が高くなる程補完確率が低くなるC,M,Y,Kのテーブル(例えば、図12参照)を読み込む。一方、「インク濃度と印刷結果の荒々しさを優先させるモード」が選択されている場合、CPU10は、濃度が高くなる程補完確率が高くなるC,M,Y,Kのテーブル(例えば、図14参照)を読み込む。
【0077】
sRGB形式の256階調で表現された画像データが、CMYK形式の256階調で表現される中間データに変換され、HDD14に記憶される(S3)。記憶された中間データは、後述するS52の処理において、各画素のインク濃度を取得するために用いられる。印刷データの全てが、インクを吐出させないことを示す「0」で全て初期化される(S4)。S3で変換された中間データに対して誤差拡散処理が行われ、CMYK形式の2値で表現される液滴階調データに変換される(S5)。
【0078】
印刷領域を構成する複数の画素(部分領域)の1つが、順に注目画素とされる(S6)。注目画素のC,M,Y,Kの1つが、順に注目色とされる(S7)。液滴階調データが参照されて、注目画素における注目色の液滴量が「0」であるか否かが判断される(S8)。液滴量が「0」の画素であれば(S8:YES)、注目画素における注目色の印刷データは、1パスおよび2パスの両方で「0(インクを吐出しない)」とされたまま、処理はS10の判断へ移行する。
【0079】
注目画素における注目色の液滴量が「0」でなければ(S8:NO)、その注目画素・注目色のインクの濃度(256値)が中間データから取得される(S52)。S51で読み込まれた注目色の補完確率決定テーブルが参照され、取得濃度に対応付けられている値が補完確率として決定される(S53)。決定された補完確率に基づいて、間引き回数M(M=0,1,2)の各々の出現率が設定される(S54)。詳細には、間引き回数「1」の出現率Z1に、決定された補完確率の値が設定される。「(100−補完確率)/2」が、間引き回数「0」の出現率Z0、および間引き回数「2」の出現率Z2の各々に設定される。
【0080】
設定された出現率に従って、注目画素・注目色の間引き回数Mが決定される(S55)。間引き回数Mは、乱数を用いる方法等の種々の方法で決定すればよい。例えば、Z0が20%、Z1が60%、Z2が20%に設定されていれば、乱数値が0〜19である場合に間引き回数Mを「0」、乱数値が20〜79である場合に間引き回数Mを「1」、乱数値が80〜99である場合に間引き回数Mを「2」とすればよい。
【0081】
2つのパスのうちM個のパスで間引き処理が行われることで、注目画素・注目色の印刷データが作成される(S56)。具体的には、決定された間引き回数Mが「0」であれば、1パス目および2パス目で共に間引き処理は行われず、インクを吐出させる印刷データが作成される。間引き回数Mが「2」であれば、2つのパスで間引き処理が行われて、インクは吐出されない。間引き回数Mが「1」であれば、「各パスで均等に吐出」、「最初のパスから順に吐出」、および「最後のパスから順に吐出」の3つの吐出順のいずれが選択されているかが参照される。「各パスで均等に吐出」が選択されていれば、1パス目および2パス目のいずれか一方がランダムに選択され、選択されたパスで間引き処理が行われる。「最初のパスから順に吐出」が選択されていれば、2パス目で間引き処理が行われる。「最後のパスから順に吐出」が選択されていれば、1パス目で間引き処理が行われる。
【0082】
C,M,Y,Kの全てが注目色とされたか否かが判断される(S10)。全ての色が注目色とされていなければ(S10:NO)、処理はS7へ戻り、次の色に関する印刷データが作成される(S7、S8、S52〜S56)。全ての色が注目色とされていれば(S10:YES)、全ての画素を注目画素としたか否かが判断される(S11)。未だ全ての画素を注目画素としていなければ(S11:NO)、処理はS6へ戻り、次の画素に関する印刷データが作成される(S6〜S8、S52〜S56)。全ての画素、且つ全ての色に関する印刷データの作成が完了すると(S11:YES)、処理は終了する。
【0083】
以上説明したように、第二実施形態に係るPC1は、1つの印刷領域内の部分領域(画素)毎に、間引き回数Mを出現率情報に従って決定することができる。従って、PC1は、間引き回数Mの各々の割合を自由に設定して多様な印刷結果を得ることができる。特に、PC1は、画像の細部の領域についても、出現率に応じて間引き回数Mを決定することができる。
【0084】
詳細には、PC1は、部分領域の各々の色の情報に基づいて、出現率を部分領域毎に設定する。各間引き回数Mの割合が印刷結果に与える影響は、印刷領域の色に応じて異なる場合がある。PC1は、色の情報に応じて部分領域の各々の出現率を設定することで、部分領域の各々の色に応じた適切な出現率を設定することができる。
【0085】
PC1では、「横すじおよびノイズの影響を抑制するモード」が選択されると、インクの濃度が高い方が補完確率が低くなる。この場合、濃度が高い領域では効果的に横すじの発生が抑制される。濃度が低い領域では、ノイズの増加によって画像が粗くなることが抑制される。なお、濃度が低い領域では、濃度が高い領域に比べて横すじは目立ち難い。従って、PC1は、ノイズの影響が増大することを防止しつつ、横すじの発生を効果的に抑制することができる。
【0086】
PC1では、「インク濃度と印刷結果の荒々しさを優先させるモード」が選択されると、インクの濃度が高い方が補完確率が高くなる。この場合、濃度が高い領域では、インクが吐出されない画素が生じる割合が減少し、高い濃度が保たれる。さらに、濃度が低い領域では、粗さが際立った画像が印刷される。
【0087】
PC1は、色材毎に設けられた補完確率決定テーブル(例えば、図12および図14参照)を用いることで、濃度に応じた適切な補完確率を、色材毎に正確に算出することができる。PC1は、インクを吐出させるパスを、N回のパスに均等に振り分けることができる。この場合、ノズルが乾く可能性を低下させることができる。また、PC1は、N回のパスのうち早く実行されるパスまたは遅く実行されるパスから順にインクを吐出させることができる。この場合、PC1は、インクを吐出させるパスを容易にN回のパスに振り分けることができる。
【0088】
PC1は、間引き回数Mを決定して印刷データを作成する処理を、画素毎に実行する。よって、PC1は、間引き回数Mの各々の出現率を画像の細部まで反映させることができ、疑似輪郭が生じる可能性も低下する。PC1は、液滴階調データが示す液滴量が「0」の領域については、間引き回数Mを決定する処理は行わない。従って、インクを吐出しない領域の印刷データについては、少ない処理負担で容易に作成することができる。
【0089】
第二実施形態において、図16のS53、S54で間引き回数Mの各々の出現率を設定するCPU10が、本発明の「設定手段」として機能する。図16のS55で間引き回数Mを決定するCPU10が「決定手段」として機能する。図16のS56で印刷データを作成するCPU10が「印刷データ作成手段」として機能する。図16のS52で濃度を取得するCPU10が「色情報取得手段」として機能する。図16のS53、S54で間引き回数Mの各々の出現率を設定する処理が、本発明の「設定ステップ」に相当する。図16のS55で間引き回数Mを決定する処理が「決定ステップ」に相当する。図16のS56で印刷データを作成する処理が「印刷データ作成ステップ」に相当する。図16のS52で濃度を取得する処理が「色情報取得ステップ」に相当する。
【0090】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、様々な変形が可能であることは言うまでもない。上記第二実施形態の補完確率決定テーブルでは、色材の濃度と補完確率とが色材毎に対応付けられている。従って、PC1は、色材に応じたテーブルを参照することで、色材に適した補完確率を正確に決定することができる(S53、図16参照)。しかし、補完確率決定テーブルのデータ構成は変更してもよい。
【0091】
補完確率決定テーブルの第一変形例について説明する。本発明では、補完確率決定テーブルを色材毎に設けなくてもよい。第一変形例では、色材の濃度と補完確率とが対応付けられた、各色材に共通の補完確率決定テーブルが、HDD14に記憶されている。この場合、PC1は、1つのテーブルを用いて容易に各色材の補完確率を決定することができる。従って、PC1は、記憶装置の容量およびCPU10の処理負担を低下させることができる。
【0092】
補完確率決定テーブルの第二変形例について説明する。第二変形例でHDD14に記憶されている補完確率決定テーブルでは、複数の色材の濃度の合計値と、複数の色材に共通して使用する補完確率とが対応付けられている。第二変形例では、CPU10は、S52(図16参照)の処理において、注目画素のC,M,Y,Kの全ての濃度を取得し、濃度の合計値を算出する。S53の処理において、濃度の合計値にテーブルで対応付けられている補完確率を、C,M,Y,Kに共通の補完確率として決定する。この場合、CPU10は、S52,53の処理を、S6の処理の後、且つS7の処理の前に行うことが望ましい。S6の処理の後で補完確率を決定することで、色材毎に補完確率を決定する必要が無くなり、容易に補完確率を決定することができる。
【0093】
補完確率決定テーブルの第三変形例について説明する。第三変形例でHDD14に記憶されている補完確率決定テーブルでは、濃度の合計値1つに対して、C,M,Y,Kの各々について使用する補完確率が対応付けられている。第三変形例では、CPU10は、S52(図16参照)の処理において、注目画素のC,M,Y,Kの全ての濃度の合計値を算出する。S53の処理において、濃度の合計値にテーブルで対応付けられている4つの補完確率を、C,M,Y,Kの各々の補完確率として決定する。この場合、CPU10は、上記第二変形例と同様に、S52,53の処理をS6の処理の直後に行うことが望ましい。第三変形例では、PC1は、複数の色材の濃度の合計値をテーブルに入力するだけで、複数の色材の各々について使用する複数の補完確率を、1度に容易に決定することができる。
【0094】
第二実施形態における補完確率決定テーブルでは、濃度の情報と補完確率とが対応付けられている。しかし、PC1は、濃度の情報と、間引き回数Mの各々の出現率とを対応付けてもよい。例えば、インクの濃度の値1つに対し、間引き回数「0」の出現率Z0と、間引き回数「1」の出現率Z1と、間引き回数「2」の出現率Z2とを対応付けてもよい。この場合、補完確率からZ0,Z1,Z2の値を算出する処理を行う必要がないため、CPU10の処理負担が低下する。また、PC1は、テーブルを用いずに所定のアルゴリズムに従って補完確率(または出現率)を算出してもよい。例えば、PC1は、予め定められた数式に取得濃度を当てはめることで補完確率を算出してもよい。
【0095】
第一・第二実施形態では、印刷装置30がマルチパス方式で印刷を行うための印刷データを、印刷装置30の外部機器であるPC1が作成している。つまり、上記実施形態のPC1が、本発明の「印刷データ作成装置」に相当する。しかし、印刷データ作成装置として動作できるのはPC1に限られない。例えば、印刷装置30自身が、図7および図16に示す印刷データ作成処理を実行し、印刷データを作成してもよい。
【0096】
第一・第二実施形態では、マルチパス方式を2回のパスで実行する場合を例示した。しかし、3回以上のパスで印刷を行う場合にも本発明は適用できる。この場合でも、PC1は、第一・第二実施形態と同様に間引き回数Mの各々の出現率を設定し、部分領域毎に間引き回数を決定すればよい。
【0097】
画像データ等の各種データの形式、階調等を変更できることは言うまでもない。例えば、PC1が入力する画像データの形式はsRGB形式に限られず、階調も256階調に限られない。同様に、インクの濃度もCMYK形式の256階調に限定されることはない。オレンジ、ホワイト等の色材を用いる場合でも本発明は適用できる。多値(3階調以上)の液滴階調データを用いることも可能である。液滴階調データが多値の場合、PC1は、データによって示される液滴量に応じて、間引き回数Mの各々の出現率を別々に設定するのが望ましい。より詳細には、データによって示される液滴量が多い程、決定される間引き回数Mが小さい値となるように、出現率を設定するのが望ましい。この場合、PC1は、液滴階調データが示す液滴量に対応する出現率を用いて間引き回数Mを決定するとよい。
【0098】
第一実施形態のPC1は、出現率または補完確率の入力を受け付けて、入力結果に応じて出現率Z0,Z1,Z2を設定する(図8参照)。しかし、情報の入力方法、出現率の設定方法等の具体的な方法は、適宜変更できる。例えば、図8のS21では出現率の値そのものが入力される。しかし、S21で入力される情報は出現率を示す情報であればよく、出現率の値そのものに限られない。例えば、PC1は、間引き回数Mの各々が印刷領域内で出現する回数をS21で入力し、入力した回数から出現率を算出して設定してもよい。
【0099】
図8のS21では、間引き回数「0」の出現率Z0,間引き回数「1」の出現率Z1,間引き回数「2」の出現率Z2が入力される。その後、選択された吐出順に応じて、1パス目のみ間引く場合の出現率Z1aと、2パス目のみ間引く場合の出現率Z1bとが設定される。しかし、PC1は、Z1aとZ1bの値の入力をS21で受け付けてもよい。この場合、PC1は、S32〜S44の処理を実行する必要はない。
【0100】
図8のS21で入力される出現率、および、図8のS26で入力される補完確率は、印刷領域の全体に対して適用される。しかし、PC1は、印刷領域内のそれぞれの領域毎に出現率または補完確率の入力を受け付けてもよい。例えば、PC1は、S21およびS26の処理を実行する前に、印刷領域内の任意の領域を、マウス4等によってユーザに指定させる。ユーザは、領域を指定した後に、出現率(S21)または補完確率(S26)を入力する。PC1は、入力された値に応じて、指定された領域の出現率を設定する(S23、S28〜30)。この場合、ユーザは領域毎に自由に間引き回数Mを変化させることができる。よって、より容易に多様な印刷結果を得ることができる。
【0101】
PC1は、出現率または補完確率をユーザから入力しなくてもよい。例えば、過去の印刷データの作成時に用いた出現率または補完確率をHDD14等に記憶しておき、記憶していた情報を用いて出現率を設定してもよい。また、PC1は、複数のモードを用意しておき、それぞれのモードに出現率または補完確率を対応付けていてもよい。この場合、ユーザによって選択されたモードに対応付けられている情報を用いて出現率を設定するとよい。
【0102】
第一実施形態では、補完確率の入力が受け付けられた場合(S26)、間引き回数「0」の出現率Z0、および間引き回数「2」の出現率Z2は共に(100−入力値)/2とされる(S29,S30)。しかし、Z0とZ2の割合は同一である必要はない。例えば、PC1は、Z0とZ2の割合を予めユーザに入力させておき、入力された割合に応じてZ0とZ2を設定してもよい。
【0103】
第二実施形態では、中間データ(CMYKの256階調)が示すインクの濃度に応じて、間引き回数Mの各々の出現率を設定する。つまり、第二実施形態におけるCMYKの256階調の値は、本発明の「濃度の情報」に相当する。しかし、「濃度の情報」として用いることができるのは、濃度を判断することができる情報であればよく、CMYKの256階調の値に限られない。例えば、PC1は、中間データの基となる画像データからsRGBの値を取得し、取得したsRGBの値を「濃度の情報」として用いてもよい。
【0104】
第一・第二実施形態のPC1は、sRGB形式の画像データを、CMYK形式の256階調で表現される中間データに変換する。さらに、中間データを2値の液滴階調データに変換する。PC1は、変換した液滴階調データを用いて印刷データを作成する。しかし、データ形式を変換するのはPC1に限られない。例えば、PC1は、他のデバイスによって既に変換された中間データまたは液滴階調データを入力し、印刷データを作成してもよい。
【0105】
第一・第二実施形態のPC1は、出現率に従って間引き回数Mを決定する処理を、最小単位である画素毎に行う。その結果、画像の細部における間引き回数Mも正確に決定することができる。さらに、疑似輪郭が生じる可能性も低下する。しかし、PC1は、複数の画素を含む領域を1つの単位として間引き回数Mを決定してもよい。この場合、画素毎に処理を行う場合に比べてCPU10の処理量は低下する。よって、CPU10は素早く処理を行うことができる。
【0106】
第二実施形態では、「横すじおよびノイズの影響を抑制するモード」が選択された場合、図12に示すように、インクの濃度が高い方が補完確率は低くなる。詳細には、濃度を横軸とし、補完確率を縦軸とした図13のグラフの傾きTは「T≦0」の範囲にあり、傾きTが正の値となることはない。また、「インク濃度と印刷結果の荒々しさを優先させるモード」が選択された場合、図15のグラフの傾きTは「T≧0」の範囲にある。しかし、インクの濃度と補完確率との関係は適宜設定すればよく、第二実施形態で例示したものに限られることはない。例えば、図13のグラフの傾きTを「T<0」としてもよいし、図13のグラフの一部に「T>0」となる領域が含まれていてもよい。インクの濃度と補完確率との関係を変更することで、多様な印刷結果を得ることができる。
【0107】
第一実施形態では、設定された出現率に基づいて各パスのマスクパターンが作成されることで、部分領域の各々の間引き回数Mが効率よく決定される(S2、図7参照)。しかし、第一実施形態のPC1は、第二実施形態と同様に、マスクパターンを用いずに部分領域の各々の間引き回数Mを決定してもよい。この場合、S9(図7参照)の代わりに、出現率に応じて間引き回数Mを抽選等で決定する処理を行い、決定した間引き回数Mに従って印刷データを作成すればよい。第二実施形態においてマスクパターンを利用することも可能である。また、第一実施形態のS2(図7参照)では、印刷領域全体を覆うマスクパターンが作成される。しかし、印刷領域の一部を覆うマスクパターンを作成して処理を行うことも可能である。
【0108】
第一・第二実施形態のPC1は、液滴階調データが示す液滴量が「0」の部分領域については、間引き回数Mを決定する処理を実行しない。その結果、処理負担を低下させて素早く印刷データを作成することができる。しかし、PC1は、部分領域の液滴量に関わらず間引き回数Mを決定しても、上記実施形態と同様の印刷データを作成することができる。
【0109】
第一・第二実施形態のPC1は、ユーザによる吐出順の選択を受け付けて、選択された吐出順に従って印刷データを作成する。しかし、吐出順の選択を受け付けなくても本発明は実現できる。例えば、「各パスで均等に吐出」等の特定の設定をデフォルトの設定としておけばよい。
【符号の説明】
【0110】
1 PC
6 CD−ROM
10 CPU
14 HDD
30 印刷装置
35 インクヘッド
71 補完確率決定テーブル(C−1)
72 補完確率決定テーブル(C−2)
100 印刷システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するインクヘッドを相対的に走査させることで記録媒体上に印刷を行う印刷装置で用いられ、前記記録媒体上の同一領域に前記インクヘッドを相対的にN(N≧2)回走査させて印刷を完成するマルチパス方式で前記インクヘッドを駆動するための印刷データを、インクの液滴量を画素毎に示すデータである液滴階調データから作成する印刷データ作成装置であって、
印刷領域内の複数の部分領域の各々に対して決定される回数であり、N回のパスのうちインクの吐出を間引く回数である間引き回数M(0≦M≦N、Mは整数)の各々の出現率を示す情報である出現率情報を設定する設定手段と、
前記設定手段によって設定された前記出現率情報に従って、印刷領域内の複数の部分領域の各々の間引き回数Mを決定する決定手段と、
前記部分領域毎に、前記決定手段によって決定された間引き回数Mのインクの吐出を間引いて印刷データを作成する印刷データ作成手段と
を備えたことを特徴とする印刷データ作成装置。
【請求項2】
(N−1)回の間引き回数の出現率を取得する出現率取得手段をさらに備え、
前記設定手段は、前記出現率取得手段によって取得された出現率を(N−1)回の間引き回数の出現率として前記出現率情報を設定することを特徴とする請求項1に記載の印刷データ作成装置。
【請求項3】
間引き回数M(0≦M≦N、Mは整数)の各々のうち少なくともいずれかの出現率に関する情報の入力を受け付ける入力手段をさらに備え、
前記設定手段は、前記入力手段によって受け付けられた情報を前記出現率情報として設定することを特徴とする請求項1に記載の印刷データ作成装置。
【請求項4】
前記複数の部分領域の各々における色の情報を取得する色情報取得手段をさらに備え、
前記設定手段は、前記色情報取得手段によって取得された色の情報に基づいて、前記出現率情報を前記部分領域毎に設定することを特徴とする請求項1または2に記載の印刷データ作成装置。
【請求項5】
前記色情報取得手段が取得する色の情報はインクの濃度であり、
前記設定手段によって設定される(N−1)回の間引き回数の出現率は、前記色情報取得手段によって取得される濃度が増加する程低い値若しくは同一の値に推移することを特徴とする請求項4に記載の印刷データ作成装置。
【請求項6】
前記色情報取得手段が取得する色の情報はインクの濃度であり、
前記設定手段によって設定される(N−1)回の間引き回数の出現率は、前記色情報取得手段によって取得される濃度が増加する程高い値若しくは同一の値に推移することを特徴とする請求項4に記載の印刷データ作成装置。
【請求項7】
前記設定手段は、色材の濃度と前記出現率情報とが対応付けられた各色材に共通のテーブルである第一テーブルにより、前記出現率情報を色材毎に設定することを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の印刷データ作成装置。
【請求項8】
前記設定手段は、色材の濃度と前記出現率情報とが色材毎に対応付けられたテーブルである第二テーブルにより、前記出現率情報を色材毎に設定することを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の印刷データ作成装置。
【請求項9】
前記設定手段は、複数の色材の濃度の合計値と、前記複数の色材に共通して使用する前記出現率情報とが対応付けられた第三テーブルにより、前記出現率情報を設定することを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の印刷データ作成装置。
【請求項10】
前記設定手段は、複数の色材の濃度の合計値と、前記複数の色材の各々について使用する前記出現率情報とが対応付けられた第四テーブルにより、前記出現率情報を設定することを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載の印刷データ作成装置。
【請求項11】
前記印刷データ作成手段は、N回のパスのうち最も早く実行されるパスおよび最も遅く実行されるパスで優先してインクを吐出させる印刷データを作成することを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の印刷データ作成装置。
【請求項12】
前記印刷データ作成手段は、インクを吐出させるパスをN回のパスに均等に振り分けて印刷データを作成することを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の印刷データ作成装置。
【請求項13】
前記印刷データ作成手段は、N回のパスのうち早く実行されるパスまたは遅く実行されるパスから順に、前記決定手段によって決定された間引き回数Mのインクの吐出を間引いて印刷データを作成することを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の印刷データ作成装置。
【請求項14】
前記部分領域は、印刷データを作成する際の最小単位である画素であることを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載の印刷データ作成装置。
【請求項15】
前記決定手段は、間引き回数M(0≦M≦N、Mは整数)の各々の出現率を、前記設定手段によって設定された前記出現率情報が示す出現率とするマスクパターンを作成することで、間引き回数Mを前記部分領域毎に決定する請求項1から14のいずれかに記載の印刷データ作成装置。
【請求項16】
前記複数の部分領域の各々について、前記液滴階調データが示す液滴量が0の領域であるか否かを判断する判断手段をさらに備え、
前記決定手段は、前記判断手段によって液滴量が0でないと判断された部分領域についてのみ間引き回数Mを決定することを特徴とする請求項1から15のいずれかに記載の印刷データ作成装置。
【請求項17】
インクを吐出するインクヘッドを相対的に走査させることで記録媒体上に印刷を行う印刷装置で用いられ、前記記録媒体上の同一領域に前記インクヘッドをN(N≧2)回走査させて印刷を完成するマルチパス方式で前記インクヘッドを駆動するための印刷データを、インクの液滴量を画素毎に示すデータである液滴階調データから作成する印刷データ作成装置で用いられる印刷データ作成プログラムであって、
印刷領域内の複数の部分領域の各々に対して決定される回数であり、N回のパスのうちインクの吐出を間引く回数である間引き回数M(0≦M≦N、Mは整数)の各々の出現率を示す情報である出現率情報を設定する設定ステップと、
前記設定ステップにおいて設定された前記出現率情報に従って、印刷領域内の複数の部分領域の各々の間引き回数Mを決定する決定ステップと、
前記部分領域毎に、前記決定ステップにおいて決定された間引き回数Mのインクの吐出を間引いて印刷データを作成する印刷データ作成ステップと
を前記印刷データ作成装置のコントローラに実行させるための指示を含む印刷データ作成プログラム。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−256179(P2012−256179A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128474(P2011−128474)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】