説明

印刷制御装置及び印刷制御プログラム

【課題】双方向印刷の頻度を高める。
【解決手段】印刷ヘッドの1回の主走査で印刷される単位印刷領域に対応する部分画像データ内の複数のブロックのそれぞれについて、印刷に使用されるべき予定インク量に基づいて、一定の方向の主走査で印刷すべき制限ブロックであるか否かを判定する。具体的には、部分画像データの境界付近に位置する境界ブロックについては、予定インク量が第1の量よりも多い場合に、制限ブロックであると判定する。一方、部分画像データの境界から離れて位置する内部ブロックについては、予定インク量が第2の量(>第1の量)よりも多いことを示す場合に、制限ブロックであると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷ヘッドの主走査で実行される印刷を制御するための印刷制御の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数色のインクに対応する複数のノズル列が形成された印刷ヘッドを、ノズル列と直交する主走査方向に走査しつつ、各ノズル列から各色のインク滴を印刷媒体上へ吐出することにより、カラー画像を印刷するインクジェット方式の印刷装置が知られている。
【0003】
この種の印刷装置は、印刷ヘッドの1回の主走査で、ノズル幅(ノズル列の長さ)と同じ幅の帯状の単位印刷領域(バンド)の画像を印刷することが可能である。そして、1つのバンドよりも広い印刷領域への画像の印刷は、印刷媒体の位置を副走査方向へずらしながらバンド単位の画像の印刷を繰り返すことにより行われる。
【0004】
また、この種の印刷装置は、印刷ヘッドの第1の方向の主走査及び第2の方向の主走査の両方で印刷を実行する双方向印刷を行うことで、一方向の主走査でのみ印刷を実行する片方向印刷と比較して、印刷速度を向上させることができる。ただし、印刷ヘッドの第1の方向の主走査で印刷を実行する場合と、第2の方向の主走査で印刷を実行する場合とでは、印刷媒体上での複数色のインクの重なり順序が異なるため、印刷画像の発色の相違による色むら(カラーバンディング)が生じ得る。つまり、画像データにおいては同じ色の画像を表しているにもかかわらず、印刷画像においては異なる色の画像として見えてしまうことがある。
【0005】
そこで、バンドに対応する部分画像データごとに、発色の相違が目立ちやすい画像が存在するか否かを判定して、印刷を実行する主走査の方向を決定する印刷方法が提案されている(例えば特許文献1)。この印刷方法では、部分画像データ内で所定サイズのウインドウをシフトしつつ、ウインドウ内のドット数(記録デューティ)をカウントする。そして、カウント値がしきい値以上のウインドウが検出された場合には、前回の主走査の方向と同一の方向の主走査での印刷(片方向印刷)を実行し、カウント値がしきい値以上のウインドウが検出されなかった場合には、前回の主走査の方向とは逆の方向の主走査での印刷(双方向印刷)を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−180017号公報
【特許文献2】特開2000−190470号公報
【特許文献3】特開2003−34021号公報
【特許文献4】特開2003−305838号公報
【特許文献5】特開2004−50705号公報
【特許文献6】特開2008−132666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、互いに離間して位置する2つの画像の色差(離間色差)は、互いに隣接して位置する2つの画像の色差(隣接色差)と比較して、目立ちにくい。このため、発色の相違が目立ちやすい2つの画像が異なるバンドに存在していても、それらが互いに離間して位置している場合には、互いに隣接して位置している場合と比較して、双方向印刷を許容することによる発色の相違が目立ちにくい。しかしながら、従来の印刷方法では、離間色差が隣接色差に比べて目立ちにくい性質を利用して双方向印刷の頻度を高めることについては検討されていない。
【0008】
本発明は、こうした問題にかんがみてなされたものであり、双方向印刷の頻度を高めることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0010】
[適用例1]印刷ヘッドの第1の方向の主走査と第2の方向の主走査とで印刷媒体上での複数色のインクの重なり順序が異なる印刷を実行する印刷実行部に、設定された方向の主走査で印刷を実行させるための印刷制御装置であって、印刷対象となる画像データのうち、前記印刷ヘッドの1回の主走査で印刷される単位印刷領域に対応する部分画像データごとに、それぞれが複数の画素を含む複数のブロックを設定し、前記ブロックごとに、印刷に使用されるべき予定インク量に関する指標値に基づいて、特定の方向の主走査で印刷すべき特定の条件が満足されるか否かを判定する判定部と、前記部分画像データごとに、前記特定の条件が満足される前記ブロックを含む場合には、主走査の方向を、前記特定の方向に設定し、前記特定の条件が満足される前記ブロックを含まない場合には、主走査の方向を、前回の主走査の方向とは逆の方向に設定する設定部と、を備え、前記複数のブロックは、前記部分画像データの境界付近に位置する境界ブロックと、前記部分画像データの境界から離れて位置する内部ブロックと、を含んでおり、前記判定部は、前記境界ブロックの前記指標値が、前記予定インク量が第1の量よりも多いことを示す場合に、前記特定の条件が満足されると判定し、前記内部ブロックの前記指標値が、前記予定インク量が第2の量であって、前記第1の量よりも大きな前記第2の量よりも多いことを示す場合に、前記特定の条件が満足されると判定することを特徴とする印刷制御装置。
【0011】
この構成によれば、双方向印刷の頻度を高めることができる。すなわち、境界ブロックの画像は、異なる主走査で印刷される他の画像と隣接し得るため、離間色差だけでなく隣接色差についても考慮する必要がある。これに対し、内部ブロックの画像は、異なる主走査で印刷される他の画像と隣接し得ないため、離間色差を考慮すればよく、隣接色差についてはあまり考慮する必要がない。したがって、境界ブロックについては、印刷に使用されるべき予定インク量が第1の量よりも多い場合に、特定の条件が満足されると判定し、内部ブロックについては、予定インク量が第2の量(>第1の量)よりも多い場合に、特定の条件が満足されると判定する。その結果、境界ブロック及び内部ブロックの両方について、予定インク量が第1の量よりも多い場合に、特定の条件が満足されると判定する構成と比較して、主走査の方向が特定の方向に制限されにくくすることができ、印刷画像の発色の相違が目立ちにくい形で、双方向印刷の頻度を高めることができる。
【0012】
[適用例2]適用例1に記載の印刷制御装置であって、前記判定部は、前記境界ブロックの前記指標値が、第1のしきい値よりも大きい場合に、前記特定の条件が満足されると判定し、前記内部ブロックの前記指標値が、第2のしきい値であって、前記第1のしきい値よりも大きな前記第2のしきい値よりも大きい場合に、前記特定の条件が満足されると判定する、印刷制御装置。
この構成によれば、境界ブロックと内部ブロックとで、異なるしきい値を利用することによって、判定を行うことができる。
【0013】
[適用例3]適用例1又は適用例2に記載の印刷制御装置であって、前記特定の方向は、前記第1の方向及び前記第2の方向のうちのいずれか一方であって、一定の方向である、印刷制御装置。
この構成によれば、特定の条件が満足されるブロックを含む部分画像データが、一定の方向の主走査で印刷されるため、インクの重なり順序に起因する色差を生じにくくすることができる。
【0014】
[適用例4]適用例3に記載の印刷制御装置であって、前記判定部は、前回の主走査の方向が前記特定の方向でない場合には、前記部分画像データについて、前記ブロックごとの前記特定の条件が満足されるか否かの判定を実行せず、前記設定部は、前回の主走査の方向が前記特定の方向でない場合には、前記部分画像データについて、主走査の方向を前記特定の方向に設定する、印刷制御装置。
前回の主走査の方向が特定の方向でない場合には、特定の条件が満足されるブロックが部分画像データに含まれているか否かに関係なく、結果的に、主走査の方向が特定の方向に設定される。したがって、前回の主走査の方向が特定の方向でない場合には、特定の条件が満足されるか否かの判定を省略することができる。
【0015】
[適用例5]適用例1から適用例4までのいずれか1つに記載の印刷制御装置であって、前記複数のブロックは、複数の前記内部ブロックを含んでおり、前記複数の内部ブロックは、前記部分画像データの境界に比較的近い第1種の前記内部ブロックと、前記部分画像データの境界から比較的遠い第2種の前記内部ブロックと、を含んでおり、前記判定部は、前記第1種の内部ブロックの前記指標値が、前記予定インク量が第1種の前記第2の量よりも多いことを示す場合に、前記特定の条件が満足されると判定し、前記第2種の内部ブロックの前記指標値が、前記予定インク量が第2種の前記第2の量であって、前記第1種の第2の量よりも大きな前記第2種の第2の量よりも多いことを示す場合に、前記特定の条件が満足されると判断する、印刷制御装置。
第2種の内部ブロックの画像は、第1種の内部ブロックの画像と比較して、異なる主走査で印刷される他の画像との位置が離れやすい。したがって、第1種の内部ブロックについては、予定インク量が第1種の第2の量よりも多い場合に、特定の条件が満足されると判定し、第2種の内部ブロックについては、予定インク量が第2種の第2の量(>第1種の第2の量)よりも多い場合に、特定の条件が満足されると判定する。その結果、すべての内部ブロックについて、予定インク量が第1種の第2の量よりも多い場合に、特定の条件が満足されると判定する構成と比較して、主走査の方向が特定の方向に制限されにくくすることができる。
【0016】
[適用例6]適用例1から適用例5までのいずれか1つに記載の印刷制御装置であって、前記判定部は、前記印刷媒体上に最初又は最後の主走査で印刷される前記部分画像データ内の複数の前記境界ブロックのうち、前記印刷媒体に印刷される画像の端部となる側の第1種の前記境界ブロックについては、前記第1種の境界ブロックの前記指標値が、前記予定インク量が前記第2の量よりも多いことを示す場合に、前記特定の条件が満足されると判定する、印刷制御装置。
第1種の境界ブロックの画像は、異なる主走査で印刷される他の画像と隣接し得ないため、離間色差を考慮すればよく、隣接色差についてはあまり考慮する必要がない。したがって、第1種の境界ブロックについては、予定インク量が第2の量よりも多い場合に、特定の条件が満足されると判定する。その結果、すべての境界ブロックについて、予定インク量が第1の量よりも多い場合に、特定の条件が満足されると判定する構成と比較して、主走査の方向が特定の方向に制限されにくくすることができる。
【0017】
[適用例7]適用例1から適用例6までのいずれか1つに記載の印刷制御装置であって、前記印刷実行部は、前記印刷対象となる画像データ内に、白色画素で構成される空白ラインデータが、前記部分画像データに隣接して存在する場合には、前記空白ラインデータのライン分を飛ばして印刷を実行可能であり、前記判定部は、前記空白ラインデータに隣接する前記部分画像データ内の複数の前記境界ブロックのうち、前記空白ラインデータに隣接する側の第2種の前記境界ブロックについては、前記第2種の境界ブロックの前記指標値が、前記予定インク量が前記第2の量よりも多いことを示す場合に、前記特定の条件が満足されると判定する、印刷制御装置。
前述した第1種の境界ブロックと同様、第2種の境界ブロックの画像も、離間色差さえ考慮すればよいため、第2種の境界ブロックについては、予定インク量が第2の量よりも多い場合に、特定の条件が満足されると判定する。その結果、主走査の方向が特定の方向に制限されにくくすることができる。
【0018】
[適用例8]適用例1から適用例7までのいずれか1つに記載の印刷制御装置であって、前記判定部は、今回の主走査で印刷される前記部分画像データ内の複数の前記境界ブロックのうち、前回の主走査で印刷される前記部分画像データ内の特定の境界ブロックに隣接する第3種の前記境界ブロックであって、前記特定の境界ブロックとは異なる色の前記第3種の境界ブロックについては、前記第3種の境界ブロックの前記指標値が、前記予定インク量が前記第2の量よりも多いことを示す場合に、前記特定の条件が満足されると判定する、印刷制御装置。
第3種の境界ブロックの画像は、異なる主走査で印刷される他の境界ブロックの画像と隣接するが、元々の色が異なるため、隣接色差について考慮する必要性が低い。したがって、第3種の境界ブロックについては、予定インク量が第2の量よりも多い場合に、特定の条件が満足されると判定する。その結果、主走査の方向が特定の方向に制限されにくくすることができる。
【0019】
[適用例9]適用例1から適用例8までのいずれか1つに記載の印刷制御装置であって、前記判定部は、今回の主走査で印刷される前記部分画像データ内の複数の前記境界ブロックのうち、前回の主走査で印刷される前記部分画像データにおいて前記特定の条件が満足されないと判定された境界ブロックに隣接する前記第4種の前記境界ブロックについては、前記第4種の境界ブロックの前記指標値が、前記予定インク量が前記第2の量よりも多いことを示す場合に、前記特定の条件が満足されると判定する、印刷制御装置。
第4種の境界ブロックの画像は、異なる主走査で印刷される他の境界ブロックの画像と隣接するが、該境界ブロックは特定の条件が満足されない(発色の相違が目立ちにくい)と判定されたものであるため、隣接色差について考慮する必要性が低い。したがって、第4種の境界ブロックについては、予定インク量が第2の量よりも多い場合に、特定の条件が満足されると判定する。その結果、主走査の方向が特定の方向に制限されにくくすることができる。
【0020】
[適用例10]適用例1から適用例9までのいずれか1つに記載の印刷制御装置であって、前記印刷ヘッドで表現可能な階調数よりも高い階調数の画像データに対してハーフトーン処理を実行し、前記印刷ヘッドで表現可能な階調数の画像データを生成する処理部を更に備え、前記判定部は、前記印刷対象となる画像データであって、前記ハーフトーン処理を実行する前の画像データ内の前記ブロックごとに、前記ブロックに含まれる前記複数の画素の階調値を用いて、前記指標値を算出する、印刷制御装置。
【0021】
[適用例11]適用例1から適用例9までのいずれか1つに記載の印刷制御装置であって、前記印刷ヘッドで表現可能な階調数よりも高い階調数の画像データに対してハーフトーン処理を実行し、前記印刷ヘッドで表現可能な階調数の画像データを生成する処理部を更に備え、前記判定部は、前記印刷対象となる画像データであって、前記ハーフトーン処理を実行した後の画像データ内の前記ブロックごとに、前記ブロックに含まれる前記複数の画素の階調値を用いて、前記指標値を算出する、印刷制御装置。
【0022】
[適用例12]適用例10又は適用例11に記載の印刷制御装置であって、前記判定部は、前記ブロックに含まれる前記複数の画素の有彩色のインクに対応する色成分の前記階調値を用いて、前記指標値を算出する、印刷制御装置。
【0023】
[適用例13]適用例12に記載の印刷制御装置であって、前記判定部は、前記ブロックに含まれる前記複数の画素のうち、前記複数の有彩色のインクに対応する複数の色成分の階調値の中で2番目に大きい階調値が所定値以上である一部の画素を対象として、前記指標値を算出する、印刷制御装置。
【0024】
[適用例14]適用例12又は適用例13に記載の印刷制御装置であって、前記判定部は、前記ブロックに含まれる前記複数の画素を対象とした第1種の前記指標値と、前記ブロックに含まれる前記複数の画素のうち、無彩色のインクに対応する色成分の階調値が所定値以上である一部の画素を対象とした第2種の前記指標値と、を算出し、前記特定の条件として、前記第1種の指標値に基づく判定には第1種の前記特定の条件を使用し、前記第2種の指標値に基づく判定には第2種の前記特定の条件を使用し、前記設定部は、前記部分画像データごとに、前記第1種の特定の条件及び前記第2種の特定の条件のうち少なくとも一方が満足される前記ブロックを含む場合には、主走査の方向を、前記特定の方向に設定し、前記第1種の特定の条件及び前記第2種の特定の条件のうち少なくとも一方が満足される前記ブロックを含まない場合には、主走査の方向を、前回の主走査の方向とは逆の方向に設定する、印刷制御装置。
無彩色のインクに対応する色成分の階調値が高い画素は、その階調値が低い画素と比較して、インクの重なり順序に起因する色差が目立ちやすい。したがって、第1種の特定の条件及び第2種の特定の条件のうち少なくとも一方が満足されるブロックを含む部分画像データについて、印刷を実行する主走査の方向を特定の方向に制限する。その結果、単に第1種の特定の条件が満足されるブロックを含む部分画像データについて、主走査の方向を特定の方向に制限する構成と比較して、インクの重なり順序に起因する色差を目立ちにくくすることができる。
【0025】
[適用例15]適用例10から適用例14までのいずれか1つに記載の印刷制御装置であって、前記判定部は、第1の色のインクに対応する色成分の前記階調値である第1種の階調値と、前記第1の色とは異なる第2の色のインクに対応する色成分の前記階調値である第2種の階調値とが、同一の値である場合に、前記第1種の階調値を用いて算出される前記指標値が、前記第2種の階調値を用いて算出される前記指標値に比べて大きくなるように、前記指標値を算出する、印刷制御装置。
この構成によれば、インクの色に応じた重みで指標値を算出することができる。
【0026】
なお、本発明は、前述した印刷制御装置、印刷制御方法、印刷制御装置としてコンピュータを機能させるための印刷制御プログラム、その印刷制御プログラムを記録した記録媒体、等の種々の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】印刷システムの概略構成を表すブロック図である。
【図2】(a)は、1つのオブジェクトが2つのバンドにまたがって配置された印刷画像を示す図であり、(b)は、2つのオブジェクトが2つのバンド内にそれぞれ収まって互いに離間して配置された印刷画像を示す図である。
【図3】用紙上でのインクの重なり順序を示す図である。
【図4】プリンタで行われる画像処理の概要を表す説明図である。
【図5】印刷画像の一例を示す図である。
【図6】部分画像データを縦横に複数に区分して設定されるブロックを示す図である。
【図7】プリンタが実行する処理のフローチャートである。
【図8】第1実施形態の印刷制御処理のフローチャートである。
【図9】第2実施形態の印刷制御処理のフローチャートである。
【図10】他のバンドにおいて制限ブロックであると判定された境界ブロックに隣接する境界ブロックを示す図である。
【図11】RGB値の組合せと重み付け係数との対応関係を規定したルックアップテーブルを示す図である。
【図12】内部ブロックを複数種類に分類した部分画像データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1−1.全体構成]
図1は、第1実施形態の印刷システムの概略構成を表すブロック図である。この印刷システムは、パーソナルコンピュータ1とプリンタ2とがデータ通信可能に構成されたものである。
【0029】
パーソナルコンピュータ1は、汎用の情報処理装置であり、制御部11、記憶部12、通信部13、操作部14及び表示部15を備えている。
【0030】
制御部11は、パーソナルコンピュータ1の各部を統括制御するものであり、CPU111、ROM112及びRAM113を備えている。記憶部12は、記憶データの書換えが可能な不揮発性の記憶装置であり、本実施形態ではハードディスク装置が用いられている。そして、記憶部12には、オペレーティングシステム(OS)121、グラフィックツール等のアプリケーションプログラム122、パーソナルコンピュータ1からプリンタ2を利用可能とするためのソフトウェア(プログラム)であるプリンタドライバ123などがインストールされている。通信部13は、プリンタ2との間でデータ通信を行うためのインタフェースである。操作部14は、ユーザからの外部操作による指令を入力するための入力装置であり、本実施形態ではキーボードやポインティングデバイス(マウスやタッチパッド等)が用いられている。表示部15は、各種情報をユーザが視認可能な画像として表示するための出力装置であり、本実施形態では液晶ディスプレイが用いられている。
【0031】
一方、プリンタ2は、インクジェット方式の印刷装置であり、制御部21、記憶部22、通信部23、操作部24、表示部25及び印刷実行部26を備えている。
【0032】
制御部21は、プリンタ2の各部を統括制御するものであり、CPU211、ROM212及びRAM213を備えている。記憶部22は、記憶データの書換えが可能な不揮発性の記憶装置であり、本実施形態ではフラッシュメモリが用いられている。そして、記憶部22は、後述する印刷制御処理を制御部21に実行させるためのプログラムが記憶されている。通信部23は、パーソナルコンピュータ1との間でデータ通信を行うためのインタフェースである。操作部24は、ユーザからの外部操作による指令を入力するための入力装置であり、各種操作ボタンを備えている。表示部25は、各種情報をユーザが視認可能な画像として表示するための出力装置であり、小型の液晶ディスプレイが用いられている。
【0033】
印刷実行部26は、図2及び図3に示すように、印刷媒体としての用紙Pの搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)へ往復移動可能な印刷ヘッド27と、用紙Pを副走査方向へ搬送する搬送部28とを備える。そして、印刷ヘッド27の往復動作中に印刷データに基づきインク滴を吐出し、印刷ヘッド27の主走査と用紙Pの副走査方向への搬送とを交互に繰り返すことで用紙Pに画像を印刷する。印刷ヘッド27の下面(用紙Pとの対向面)には、マゼンタ(M)、シアン(C)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各色のインク滴を吐出するためのノズルが、副走査方向に沿った列状に配置されており、全体として4本のノズル列が形成されている。また、印刷ヘッド27は、インク滴の吐出量を複数段階に調整可能であり、大ドット、中ドット、小ドット及びドット無しの4階調を表現する。
【0034】
本実施形態のプリンタ2では、有彩色のインクであるCMYインクとして染料インクが使用され、無彩色のインクであるKインクとして顔料インクが使用されている。染料インクは、用紙Pの内部へ浸透しやすい性質のものである。一方、顔料インクは、用紙Pの内部へ浸透しにくく、用紙Pの表面に定着する性質のものであることから、光沢紙に対する定着性が良くない反面、普通紙に文字等をくっきり印刷することができる。
【0035】
[1−2.処理の概要]
次に、第1実施形態の印刷システムで実行される処理の概要について説明する。パーソナルコンピュータ1では、実行中のアプリケーションプログラム122において印刷開始操作が行われることによりプリンタドライバ123が起動する。プリンタドライバ123が起動すると、パーソナルコンピュータ1の制御部11は、印刷対象の画像を表す256階調(0〜255のいわゆる8ビットレンジ)のRGB値で表現された画像データを、プリンタ2へ送信する。
【0036】
プリンタ2の制御部21は、パーソナルコンピュータ1から画像データを受信すると、図4に示すように、受信した256階調のRGB値で表現された画像データを、256階調のCMYK値で表現された画像データに変換する色変換処理を行う。さらに、制御部21は、色変換処理後の画像データに対してハーフトーン処理(例えば誤差拡散処理)を行い、印刷ヘッド27で表現可能な4階調のCMYK値で表現された画像データ(ドットデータ)を印刷データとして生成する。そして、制御部21は、生成した印刷データを印刷実行部26へ出力する。その結果、印刷実行部26では、印刷データに基づき用紙Pに画像が印刷される。
【0037】
プリンタ2は、図3に示すように、印刷ヘッド27の第1の方向の主走査及び第2の方向の主走査の両方で印刷を実行する双方向印刷を実行可能である。双方向印刷を行うことで、一方向の主走査でのみ印刷を実行する片方向印刷と比較して、印刷速度を向上させることができる。ただし、双方向印刷を行った場合には、印刷画像の発色の相違による色むら(カラーバンディング)が目立ちやすくなる。なお、こうしたカラーバンディングは、印刷ヘッド27の1回の主走査(1パス)につき用紙Pをノズル幅分搬送し、所定領域の画像の印刷を1回の主走査(1パス)で完了する1パス印刷で双方向印刷を行った場合に、特に目立ちやすい。
【0038】
すなわち、図3に示すように、印刷ヘッド27において、CMYK各色のインクに対応する4本のノズル列は、主走査方向においてマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロー(Y)、ブラック(K)の順に配置されている。そして、印刷ヘッド27の第1の方向(図3において左から右へ向かう方向)の主走査で印刷を実行した場合、用紙P上でのCMYK各色のインクの重なり順序は、下から(用紙P側から)順に、ブラック(K)、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)の順序となる。一方、印刷ヘッド27の第2の方向(図3において右から左へ向かう方向)の主走査で印刷を実行した場合、用紙P上でのCMYK各色のインクの重なり順序は、下から順に、マゼンタ(M)、シアン(C)、イエロー(Y)、ブラック(K)の順序となる。なお、本実施形態のプリンタ2では、いわゆるフォワード方向(印刷ヘッド27が初期位置から離れる方向)を第1の方向と称し、いわゆるリバース方向(フォワード方向とは逆の方向)を第2の方向と称している。
【0039】
このように、印刷ヘッド27の第1の方向の主走査で印刷を実行する場合と、第2の方向の主走査で印刷を実行する場合とでは、用紙P上でのCMYK各色のインクの重なり順序が異なり、これに起因して、印刷画像の発色の相違が生じ得る。つまり、画像データにおいては同じ色の画像を表しているにもかかわらず、印刷画像においては異なる色の画像として見えてしまうことがある。したがって、双方向印刷を行った場合には、印刷ヘッド27の1回の主走査で印刷される単位印刷領域であるバンドごと(パスごと)にインクの重なり順序が異なるため、図2(a),(b)に示すように、印刷画像の発色の相違による帯状の色むら(カラーバンディング)が目立ちやすくなる。
【0040】
こうした発色の相違は、印刷に使用されるインク量が多い画像ほど目立ちやすくなる傾向がある。具体的には、図5に示すように、ブラック(K)のインクのみが使用されるバンドにおける画像(例えば黒い文字からなる画像)や、有彩色(CMY)のインクが使用されるものの、その使用量が少ないバンドにおける画像は、発色の相違が生じない(又は生じにくい)。これに対し、有彩色のインクの使用量が多いバンドにおける画像(例えばカラーの図形を表す画像)は、発色の相違が生じやすい。
【0041】
このため、本実施形態では、図6に示すように、印刷対象となる画像データのうち、各バンドに対応する部分画像データごとに、部分画像データを縦横に複数に区分して、それぞれが複数の画素を含む複数のブロックを設定する。そして、ブロックごとに、印刷に使用されるべきインク量(予定インク量)に関する指標値を算出し、算出した指標値がしきい値よりも大きいものを、印刷を実行する主走査の方向を制限すべき印刷方向制限条件を満足するブロック(以下「制限ブロック」という。)であると判定する。そして、制限ブロックを含む部分画像データについては、印刷を実行する主走査の方向を、前回の主走査の方向に関係なく一定の方向(本実施形態では第2の方向)に設定する。一方、制限ブロックを含まない部分画像データについては、前回の主走査の方向とは逆の方向(双方向印刷が実現される方向)に設定する。つまり、予定インク量が多いブロックを含む部分画像データについては、印刷を実行する主走査の方向を第2の方向に制限することで、発色の相違を目立ちにくくする。本実施形態では、各ブロックのサイズが、隣接色差や離間色差が知覚されやすくなるサイズの実験値に基づき、印刷画像において縦横それぞれ1〜2mm程度の領域となるように設定されている。なお、印刷解像度が600dpiの場合、47画素で約2mmとなり、300dpiの場合、23画素で約2mmとなる。
【0042】
ただし、印刷画像の発色の相違の目立ちやすさは、発色の相違する2つの画像の位置関係によっても異なる。すなわち、例えば図2(a)に示すように、画像データにおける色が均一のオブジェクト30が、異なる方向の主走査で印刷される2つのバンドにまたがって配置される場合には、それら2つのバンドの境界(つなぎ目)によって上下に区分されるオブジェクト30内の2つの画像の発色の相違が、その境界付近で比較的目立ちやすい。これに対し、例えば図2(b)に示すように、画像データにおける色が均一かつ同一の2つのオブジェクト31,32が、異なる方向の主走査で印刷される2つのバンド内にそれぞれ収まっており、互いに離間して配置される場合には、それら2つの画像(オブジェクト31,32)の発色の相違が比較的目立ちにくい。つまり、2つの画像の色差が同じであっても、互いに離間して位置する2つの画像の色差である離間色差は、互いに隣接して(連続的に)位置する2つの画像の色差である隣接色差と比較して、目立ちにくい。
【0043】
上記のことから、図6に示す複数のブロックのうち、部分画像データの境界付近に位置する境界ブロック(副走査方向における端部のラスタ内の画素を含むブロック)の画像は、異なる主走査で印刷される他の画像と隣接し得るため、離間色差だけでなく隣接色差についても考慮する必要がある。これに対し、部分画像データの境界から離れて位置する内部ブロック(副走査方向端部のラスタ内の画素を含まないブロック)の画像は、異なる主走査で印刷される他の画像と隣接し得ないため、離間色差を考慮すればよく、隣接色差についてはあまり考慮する必要がない。したがって、本実施形態では、後述するように、制限ブロックであるか否かを判定するためのしきい値として、内部ブロック用のしきい値と、境界ブロック用のしきい値とを用意し、内部ブロック用のしきい値を、境界ブロック用のしきい値と比較して大きな値に設定する。
【0044】
[1−3.具体的処理手順]
次に、前述した処理を実現するためにプリンタ2で実行される具体的な処理手順について、図7のフローチャートを用いて説明する。
【0045】
制御部21は、まずS11で、パーソナルコンピュータ1から受信した256階調のRGB値で表現された画像データを、256階調のCMYK値で表現された画像データに変換する色変換処理を行う。なお、この色変換処理は、予め記憶されているルックアップテーブル(RGB→CMYK)に従い行われる。
【0046】
続いて、制御部21は、S12で、色変換処理後の画像データに対し、印刷制御処理を行う。なお、印刷制御処理の詳細については後述する。
【0047】
続いて、制御部21は、S13で、印刷制御処理後の画像データ(256階調のCMYK値で表現された画像データ)から、印刷ヘッド27で表現可能な4階調のCMYK値で表現された画像データ(印刷データ)を生成するハーフトーン処理を行う。
【0048】
続いて、制御部21は、S14で、ハーフトーン処理後の印刷データを印刷実行部26へ出力する印刷データ供給処理を行う。これにより、印刷実行部26において、印刷データに基づく画像が用紙に印刷される。
【0049】
次に、前述したS12で実行される印刷制御処理について説明する。図8は、ハーフトーン処理を実行する直前の画像データを対象としてプリンタ2の制御部21が実行する印刷制御処理のフローチャートである。
【0050】
制御部21は、まずS101で、初期化処理として、空白処理フラグをオンにする。この空白処理フラグは、空白飛ばし処理を実行可能な状況であるか否かを示すフラグである。空白飛ばし処理とは、印刷対象の画像データ内において、部分画像データに隣接して空白ラスタが存在する場合に、その空白ラスタのライン分を飛ばした印刷を実行する処理である。空白ラスタとは、CMYKの各階調値がいずれも0の画素(白色画素)で構成されたラスタのことである。つまり、空白ラスタのライン分については、印刷ヘッド27の主走査を省略してそのまま用紙Pを搬送することで、空白飛ばし処理を実行する。空白ラスタであっても、部分画像データ内に存在する場合には、空白飛ばし処理を実行することができないため、後述するように、部分画像データ内のラスタの処理中は、空白処理フラグがオフにされる。
【0051】
続いて、S102で、1ページ分の画像データに含まれるすべてのラスタについて、後述するS103〜S109の処理を実行したか否かを判定する。このS102で、未処理のラスタが存在すると判定した場合には、未処理のラスタのうちの1つを処理対象のラスタとして選択した後、S103へ移行する。
【0052】
そして、制御部21は、S103で、空白処理フラグがオンであり、かつ、処理対象のラスタが空白ラスタであるか否かを判定する。このS103で、空白処理フラグがオフであると判定した場合や、処理対象のラスタが空白ラスタでないと判定した場合には、S104へ移行する。
【0053】
そして、制御部21は、S104で、空白処理フラグをオフにする。続いて、S105で、処理対象のラスタに含まれるすべての画素について、後述するS106の処理を実行したか否かを判定する。このS105で、処理対象のラスタ内に未処理の画素が存在すると判定した場合には、未処理の画素のうちの1つを処理対象の画素として選択した後、S106へ移行する。
【0054】
そして、制御部21は、S106で、部分画像データを縦横に複数に区分して複数のブロックを設定し、各ブロック(図6)ごとに、ブロック内の画素のCMYの各階調値の合計値を積算するための階調値積算処理を行う。その後、S105へ戻る。S106の処理は、次の(1)〜(3)の手順で行われる。
【0055】
(1)まず、処理対象の画素が属するブロックを判定する。
【0056】
(2)次に、処理対象の画素のブラック(K)の階調値が、所定のブラック判定値以上であるか否かを判定する。この判定は、ブラック(K)の階調値が0又は0に近い値の画素と、それ以外の画素と、を分類するために行われる。このように分類する理由は、ブラック(K)のインク、特に顔料インクは、インクの重なり順序に起因する色差が目立ちやすいからである。このため、ブラック判定値は0に近い値に設定される。具体的には、CMYKのインク量を変動させたパターン(ブラックの階調値が異なる複数種類のパターン)を実際に印刷し、目視でカラーバンディングの発生状況(カラーバンディングが目立ちやすくなるブラックの階調値)を確認することで、実験的にブラック判定値を定めることができる。本実施形態のように、CMYインクとして染料インクが使用され、Kインクとして顔料インクが使用されるケースでは、ブラック判定値を最大階調値(255)の3〜6%程度の値に設定するのが望ましい。
【0057】
(3)ブロック内の画素のCMYの各階調値の合計値を積算するためのカウンタとして、ブラック(K)の階調値がブラック判定値未満の画素を対象とする第1種のカウンタと、ブラック(K)の階調値がブラック判定値以上の画素を対象とする第2種のカウンタとを、ブロックごとに用意する。つまり、2×ブロック数のカウンタを用意する。カウンタ値のデータは、RAM213に蓄積される。そして、ブロックごとに、ブロック内の各画素の有彩色のインクに対応する色成分(CMY)の各階調値の合計値を、ブラック(K)の階調値に応じていずれか一方のカウンタに加算することで、積算値を求める。具体的には、上記(2)で、ブラック(K)の階調値がブラック判定値未満であると判定された場合には、処理対象の画素のCMYの各階調値の合計値を、第1種のカウンタのカウント値に加算する。一方、ブラック(K)の階調値がブラック判定値以上であると判定された場合には、処理対象の画素のCMYの各階調値の合計値を、第2種のカウンタのカウント値に加算する。
【0058】
例えば、ブラック判定値が13に設定されている場合、処理対象の画素の階調値が(C,M,Y,K)=(253,200,34,2)であれば、ブラック(K)の階調値がブラック判定値(例えば13)未満であるため、第1種のカウンタのカウント値に、CMYの各階調値の合計値(253+200+34)を加算する。また例えば、処理対象の画素の階調値が(C,M,Y,K)=(253,10,42,34)であれば、ブラック(K)の階調値がブラック判定値(例えば13)以上であるため、第2種のカウンタのカウント値に、CMYの各階調値の合計値(253+10+42)を加算する。なお、第1種のカウンタに代えて、ブロック内のすべての画素のCMYの各階調値の合計値を積算するカウンタを用いてもよい。
【0059】
一方、制御部21は、S105で、処理対象のラスタに含まれるすべての画素についてS106の処理を実行した(未処理の画素が存在しない)と判定した場合には、S107へ移行し、1回の主走査の印刷で使用される全ノズル分のデータ(本実施形態では、210本のラスタ分のデータ)がRAM213に蓄積されたか否かを判定する。つまり、部分画像データ単位の処理が完了したか否かを判定する。このS107で、全ノズル分のデータが蓄積されていないと判定した場合には、S102へ戻る。
【0060】
一方、制御部21は、S107で、全ノズル分のデータが蓄積されたと判定した場合には、S108へ移行し、印刷を実行する主走査の方向(今回の印刷方向)を設定する印刷方向設定処理を行う。S108の処理は、次の(1)〜(3)の手順で行われる。
【0061】
(1)まず、各ブロックの第1種のカウンタ及び第2種のカウンタの各カウント値に基づき、ブロックごとに、印刷に使用されるべき予定インク量に関する指標値として、第1種の指標値及び第2種の指標値を次式から算出する。
第1種の指標値=(第1種のカウンタのカウント値+第2種のカウンタのカウント値)/ブロック内の画素数
第2種の指標値=第2種のカウンタのカウント値/ブロック内の画素数
【0062】
(2)次に、各ブロックについて算出した第1種の指標値及び第2種の指標値のうち、制限ブロックであるか否かを判定するためのしきい値よりも大きい指標値が1つでも存在するか否かを判定する。つまり、部分画像データ内に、制限ブロックが存在するか否かを判定する。本実施形態では、しきい値として、第1種の指標値用のしきい値と第2種の指標値用のしきい値とが用意されており、それぞれ、内部ブロック用と境界ブロック用とで異なるしきい値が用意されている。つまり、次の4種類のしきい値が使用される。そして、内部ブロック用のしきい値は、境界ブロック用のしきい値と比較して大きな値に設定されている。
・境界ブロックの第1種の指標値用のしきい値(例えば0.177)
・境界ブロックの第2種の指標値用のしきい値(例えば0.0235)
・内部ブロックの第1種の指標値用のしきい値(例えば0.255)
・内部ブロックの第2種の指標値用のしきい値(例えば0.0403)
【0063】
(3)そして、上記(2)で、しきい値よりも大きい指標値が1つも存在しない(制限ブロックが1つも存在しない)と判定された場合、換言すれば、インクの重なり順序に起因する色差が目立ちにくい画像を表す部分画像データであると判定された場合には、印刷を実行する主走査の方向(今回の印刷方向)を、前回の主走査の方向(前回の印刷方向)とは逆の方向に設定する。つまり、前回の主走査の方向が第1の方向であれば、今回の主走査の方向を第2の方向に設定し、前回の主走査の方向が第2の方向であれば、今回の主走査の方向を第1の方向に設定する。一方、しきい値よりも大きい指標値が1つでも存在する(制限ブロックが1つ以上存在する)と判定された場合、換言すれば、インクの重なり順序に起因する色差が目立ちやすい画像を表す部分画像データであると判定された場合には、印刷を実行する主走査の方向を、前回の主走査の方向に関係なく、第2の方向に設定する。なお、印刷実行部26では、ここで設定された方向の主走査で印刷が実行される。
【0064】
続いて、制御部21は、S109で、空白処理フラグをオンにする。その後、S102へ戻る。
【0065】
一方、制御部21は、S103で、空白処理フラグがオンで、かつ、処理対象のラスタが空白ラスタであると判定した場合には、S104〜S109の処理を行わずにS102へ戻る。空白処理フラグは、印刷制御処理の開始時にオンにされ(S101)、処理対象のラスタが空白ラスタでないと判定されることによりオフにされると(S104)、その後は全ノズル分のデータが蓄積されるまでオンにされない(S109)。したがって、印刷対象の画像データ内に、空白ラスタを表す空白ラインデータが部分画像データに隣接して存在する場合には、空白ラインデータのライン分を飛ばして処理が行われる。なお、この場合、印刷実行部26は、空白ラインデータのライン分については、印刷ヘッド27の主走査を省略してそのまま用紙Pを搬送することで、空白ラインデータを飛ばした印刷(空白飛ばし処理)を実行する。
【0066】
一方、制御部21は、S102で、1ページ分の画像データに含まれるすべてのラスタについてS103〜S109の処理を実行した(未処理のラスタが存在しない)と判定した場合には、S110へ移行する。そして、S110で、1回の主走査の印刷で使用される全ノズル分には満たない一部のノズル分のデータが蓄積されているか否かを判定する。つまり、1ページ分の画像データを部分画像データ単位(210本のラスタ単位)で処理することにより、余ったデータ(210本に満たなかったラスタ分のデータ)が存在するか否かを判定する。このS110で、一部のノズル分のデータが蓄積されていないと判定した場合には、そのまま印刷制御処理を終了する。
【0067】
一方、制御部21は、S110で、一部のノズル分のデータが蓄積されていると判定した場合には、S111へ移行し、印刷を実行する主走査の方向を設定する印刷方向設定処理(S108と同じ処理)を行う。その後、印刷制御処理を終了する。なお、2部以上の印刷(複数の用紙Pへの同一画像の印刷)を行う場合には、2部目以降は1部目の結果を用いる(1部目と同じ印刷方向で印刷する)ことで、処理時間を短縮することが可能である。
【0068】
[1−4.効果]
以上説明したように、第1実施形態によれば、制限ブロックを含む部分画像データ(例えばカラーの図形を表す部分画像データ)については、印刷を実行する主走査の方向が第2の方向に設定され、制限ブロックを含まない部分画像データ(例えば黒い文字からなる画像を表す部分画像データ)については、前回の主走査の方向とは逆の方向に設定される。そして、内部ブロック用のしきい値が、境界ブロック用のしきい値と比較して大きな値に設定されているため、内部ブロックは、境界ブロックと比較して、制限ブロックであると判定されにくくなる。したがって、内部ブロックが制限ブロックであるか否かを、境界ブロックと同じ基準で判定する場合と比較して、印刷を実行する主走査の方向が第2の方向に制限されにくくすることができ、印刷画像の発色の相違が目立ちにくい形で、双方向印刷の頻度を高めることができる。
【0069】
また、本実施形態では、制限ブロックを含む部分画像データについて、印刷を実行する主走査の方向が、前回の主走査の方向に関係なく常に一定の方向(第2の方向)に制限される。このため、印刷画像の発色の相違が目立ちやすい画像(インク量が多い画像)については、インクの重なり順序が常に一定となるため、1つ以上のバンドを挟んで位置する2つの画像についても、インクの重なり順序に起因する発色の相違が生じないようにすることができる。
【0070】
また、本実施形態では、第1種の指標値が第1種の指標値用のしきい値以下であっても、第2種の指標値が第2種の指標値用のしきい値よりも大きいブロックについては、制限ブロックであると判定する。これは、ブラック(K)のインク、特に顔料インクは、インクの重なり順序に起因する色差が目立ちやすいからである。したがって、制限ブロックであるか否かをブラック(K)の階調値の大きさに関係なく判定する場合と比較して、インクの重なり順序に起因する色差を目立ちにくくすることができる。
【0071】
また、複数の画素を含むブロック(例えば47×47画素のブロック)ごとに、印刷に使用されるべき予定インク量に関する指標値を算出し、算出した指標値がしきい値よりも大きいものを、制限ブロックであると判定する。このため、双方向印刷を禁止すべきか否かを、人間が知覚できるサイズのブロックを単位として判定することが可能となる。
【0072】
なお、第1実施形態のプリンタ2が印刷制御装置に相当し、印刷制御処理が判定部及び設定部の処理に相当し、ハーフトーン処理が処理部の処理に相当する。また、第1種の指標値及び第2種の指標値が、印刷に使用されるべき予定インク量に関する指標値に相当する。また、印刷方向制限条件が、第2の方向の主走査で印刷すべき特定の条件に相当し、境界ブロック用のしきい値が第1のしきい値に相当し、内部ブロック用のしきい値が第2のしきい値に相当する。また、第1種の指標値用のしきい値に基づく印刷方向制限条件が、第1種の特定の条件に相当し、第2種の指標値用のしきい値に基づく印刷方向制限条件が、第2種の特定の条件に相当する。
【0073】
[2.第2実施形態]
[2−1.第1実施形態との相違点]
第2実施形態は、第1実施形態と同様であるが、印刷制御処理の内容が相違する。すなわち、第1実施形態では、印刷を実行する主走査の方向を設定するための処理として、前回の主走査の方向に関係なく共通の処理が実行されるが、第2実施形態では、前回の主走査の方向に応じて異なる処理が実行される。なお、以下では、第1実施形態との共通点については説明を省略する。
【0074】
[2−2.印刷制御処理]
図9は、プリンタ2の制御部21が、前述した図8の印刷制御処理に代えて実行する印刷制御処理のフローチャートである。なお、第2実施形態の印刷制御処理(図9)は、第1実施形態の印刷制御処理(図8)に対してS202,S207,S210,S213,S215の処理を追加したものであり、残りの処理(S201,S203〜S206,S208,S209,S211,S212,S214,S216)は、図8のS101〜S111の処理と同様である。このため、相違点を中心に説明する。
【0075】
制御部21は、S202で、暫定印刷方向を第2の方向に設定する。なお、ここで設定される暫定印刷方向は、今回の印刷方向として暫定的に設定する印刷方向であり、後述する処理(S211又はS216)において変更され得る。
その後、制御部21は、S207で、暫定印刷方向が第1の方向であるか否かを判定する。このS207で、暫定印刷方向が第1の方向であると判定した場合には、第1実施形態と同様、S208の処理(S106の階調値積算処理と同様の処理)を行う。一方、S207で、暫定印刷方向が第1の方向でない(第2の方向である)と判定した場合には、S208の処理を行わない。
【0076】
その後、制御部21は、S210で、暫定印刷方向が第1の方向であるか否かを判定する。このS210で、暫定印刷方向が第1の方向であると判定した場合には、第1実施形態と同様、S211の処理(S108の印刷方向設定処理と同様の処理)を行う。この場合、暫定印刷方向に関係なく、S211の印刷方向設定処理で今回の印刷方向が設定される。つまり、印刷実行部26では、S211で設定された方向の主走査で印刷が実行される。一方、S210で、暫定印刷方向が第1の方向でない(第2の方向である)と判定した場合には、S211の処理を行わず、今回の印刷方向を第2の方向に設定(暫定印刷方向として設定されている方向に確定)する。つまり、印刷実行部26では、第2の方向の主走査で印刷が実行される。
【0077】
その後、制御部21は、S213で、暫定印刷方向を、前回の印刷方向とは逆の方向に設定する。前回の印刷方向とは、S211の処理が行われた場合には、S211の処理で設定された印刷方向であり、S211の処理が行われなかった場合には、第2の方向である。つまり、双方向印刷が実現される方向に設定する。なお、S215においても、暫定印刷方向が第1の方向であるか否かを判定するが、前述したS210の処理と同様であるため説明を省略する。
【0078】
[2−3.効果]
以上説明したように、第2実施形態によれば、S202又はS213で設定される暫定印刷方向が第2の方向である場合には、階調値積算処理(S208)及び印刷方向設定処理(S211,S216)を省略する。つまり、前回の主走査の方向が第2の方向でない(すなわち、第1の方向である)場合には、今回の主走査の方向を無条件で第2の方向に設定する。前回の主走査の方向が第2の方向でなければ(すなわち、第1の方向であれば)、印刷方向設定処理(S211,S216)を仮に行ったとしても、部分画像データに制限ブロックが含まれているか否かに関係なく、結果的に、今回の印刷方向が第2の方向に設定されるからである。したがって、第2実施形態によれば、第1実施形態と比較して、印刷制御処理の処理量を低減することができ、処理時間を短縮することができる。
【0079】
[3.他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0080】
(1)上記実施形態では、境界ブロックには必ず境界ブロック用のしきい値(内部ブロック用のしきい値よりも小さな値のしきい値)を用いる例を示した。しかしながら、境界ブロックであっても、隣接色差について考慮する必要がない又はその必要性が低い境界ブロックについては、内部ブロック用のしきい値を用いてもよい。具体的には、例えば次の(1A)〜(1D)のような場合が挙げられる。
【0081】
(1A)用紙P上に最初の主走査で印刷される部分画像データは、上側の境界では他の部分画像データと隣接し得ない。同様に、用紙P上に最後の主走査で印刷される部分画像データは、下側の境界では他の部分画像データと隣接し得ない。つまり、用紙P上に最初又は最後の主走査で印刷される部分画像データ内の複数の境界ブロックのうち、用紙Pに印刷される画像の副走査方向における端部(上端又は下端)となる側の境界ブロックの画像は、他のバンド内の画像と隣接し得ない。このため、このような境界ブロックについては、離間色差さえ考慮すればよく、隣接色差については考慮する必要がない。したがって、このような境界ブロックについては、内部ブロック用のしきい値を用いることで、すべての境界ブロックについて境界ブロック用のしきい値を用いる場合と比較して、印刷を実行する主走査の方向が第2の方向に制限されにくくすることができる。
【0082】
(1B)空白飛ばし処理後に印刷される部分画像データは、上側の境界では他の部分画像データと隣接し得ない。同様に、印刷後に空白飛ばし処理が行われる部分画像データは、下側の境界では他の部分画像データと隣接し得ない。つまり、空白ラインデータに隣接する部分画像データ内の複数の境界ブロックのうち、空白ラインデータに隣接する側の境界ブロックの画像も、離間色差さえ考慮すればよく、隣接色差については考慮する必要がない。したがって、このような境界ブロックについても、内部ブロック用のしきい値を用いることで、印刷を実行する主走査の方向が第2の方向に制限されにくくすることができる。
【0083】
(1C)隣接する他のバンドの境界ブロックとは画像データにおける色が異なる境界ブロックの画像は、隣接色差について考慮する必要性が低い。したがって、このような境界ブロックについても、内部ブロック用のしきい値を用いることで、印刷を実行する主走査の方向が第2の方向に制限されにくくすることができる。なお、隣接する境界ブロック同士の色が異なることは、例えば、印刷に使用されるべき予定インク量に関する指標値(第1種の指標値及び第2種の指標値の一方又は両方)に基づき(指標値が異なる場合には色が異なると)判定してもよい。
【0084】
(1D)他のバンドにおいて制限ブロックでない(発色の相違が目立ちにくい)と判定された境界ブロックに隣接する境界ブロックの画像は、隣接色差について考慮する必要性が低い。したがって、このような境界ブロックについても、内部ブロック用のしきい値を用いる。例えば図10に示すように、前回の主走査で印刷される部分画像データAにおいて、下側の境界に沿った複数の境界ブロックのうち、「×」で示す境界ブロックが、制限ブロックでないと判定された境界ブロックであるとする。この場合、今回の主走査で印刷される部分画像データBにおいて、上側の境界(部分画像データAに隣接する境界)に沿った複数の境界ブロックのうち、「×」で示す境界ブロックに隣接する境界ブロック(「○」で示す境界ブロック)については、内部ブロック用のしきい値を用いる。このようにすることで、印刷を実行する主走査の方向が第2の方向に制限されにくくすることができる。
【0085】
(2)上記実施形態では、ブロックに含まれるすべての画素のCMYの階調値を積算する例を示したが、これに代えて、CMYの各階調値の中で2番目に大きい階調値が判定基準値以上である一部の画素を対象として、CMYの階調値を積算してもよい。例えば、上記実施形態のS106で、ブラック(K)の階調値がブラック判定値未満であると判定された場合には、処理対象の画素のCMYの各階調値の中で2番目に大きい階調値が判定基準値以上であることを条件として、CMYの各階調値の合計値を、第1種のカウンタのカウント値に加算する。例えば、判定基準値が40である場合、画素の階調値が(C,M,Y,K)=(100,50,0,0)であれば、マゼンタ(M)の階調値が判定基準値以上であるため、CMYの階調値を積算する。一方、画素の階調値が(C,M,Y,K)=(100,30,0,0)であれば、マゼンタ(M)の階調値が判定基準値未満であるため、CMYの階調値を積算しない。このようにすれば、1色のインクのみからなる画素又はそれに近い画素(インクの重なりが生じない又は重なりが小さい画素)については、積算の対象外とすることができ、印刷画像の発色の相違が目立ちやすいか否かの判定をより適切に行うことができる。
【0086】
(3)上記実施形態では、印刷に使用されるべき予定インク量に関する指標値を、ハーフトーン処理を実行する前の256階調の画像データ内のブロックごとに、ブロックに含まれる複数の画素の階調値の積算値に基づき算出する例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、ハーフトーン処理(S12)を実行した直後の4階調の印刷データ内のブロックごとに、ブロックに含まれる複数の画素の階調値の積算値に基づいて指標値を算出してもよい。ここで、4階調の階調値(ドットサイズ)を、ドットの形成に使用されるインクの液滴量(例えば、大ドット16pl、中ドット5pl、小ドット3pl)に換算して積算すれば、予定インク量がより正確に反映された指標値を算出することができる。
【0087】
(4)また、インクの種類や組合せなどに応じて、積算する値の重みを数式やルックアップテーブル等に従い変更してもよい。例えば、イエロー(Y)のインクや、上記実施形態では使用していないがライトシアンやライトマゼンタ等のライトインクは、インクの重なり順序に起因する色差が目立ちにくいため、他の色のインクよりも重みを小さくして(例えば66%の値で)積算してもよい。また、例えば図11に示すように、重み付け係数をルックアップテーブルで定めておき、インクの組合せに応じた重みで積算してもよい。図11に示すルックアップテーブルは、RGB値(色変換処理前の画素値)と重み付け係数(この例では255を100%とする値)との対応関係を規定したものである。具体的には、RGB色空間のRGB各方向の最大値及び最小値に対応する8つの頂点に当たる格子点のそれぞれに重み付け係数が登録されており、格子点以外のRGB値に対応する重み付け係数は、8つの格子点の重み付け係数を用いた補間計算により算出する。例えばR点は、レッドが最大値となる点であって、マゼンタ及びイエローのインクが多く用いられる箇所であり、その近傍はインクの重なり順序に起因する色差が目立ちやすいため、重み付け係数が最大値である310に設定されている。一方、例えばW点は、インクが用いられない箇所であり、その近傍はインクの重なり順序に起因する色差が目立ちにくいため、重み付け係数が0に設定されている。その他の点についても、インクの重なり順序に起因する色差の目立ちやすさに応じて、重み付け係数が設定されている。
【0088】
(5)上記実施形態では、部分画像データ内の複数のブロックを、内部ブロック及び境界ブロックの2種類に分類し、内部ブロック用及び境界ブロック用の2種類のしきい値を用いる例を示した。しかしながら、部分画像データの境界から比較的遠い内部ブロックの画像は、部分画像データの境界に比較的近い内部ブロックの画像と比較して、他のバンド内の画像との位置がより離れやすいため、離間色差が一層目立ちにくくなる。そこで、内部ブロックを複数種類に分類し、それぞれに応じたしきい値を用いてもよい。例えば図12に示すように、部分画像データが副走査方向において8個のブロックに区分される場合、内部ブロックは、副走査方向において6個存在する。これら6個の内部ブロックを、部分画像データの境界に最も近い内部ブロックAと、内部ブロックAよりも境界から遠い内部ブロックBと、内部ブロックBよりも境界から遠い内部ブロックCとに分類する。つまり、境界からに近い順に、3種類の内部ブロックA,B,Cに分類する。そして、これら3種類の内部ブロックA,B,Cのそれぞれに別のしきい値を用いる。具体的には、内部ブロックA用のしきい値<内部ブロックB用のしきい値<内部ブロックC用のしきい値の関係となるように、しきい値を設定する。このようにすることで、境界から遠い内部ブロックほど、制限ブロックであると判定されにくくなる。したがって、すべての内部ブロックについて、制限ブロックであるか否かを同じ基準で判定する場合と比較して、印刷を実行する主走査の方向が第2の方向に制限されにくくすることができる。
【0089】
(6)上記実施形態では、印刷に使用されるべき予定インク量に関する指標値(第1種の指標値及び第2種の指標値)を、境界ブロックと内部ブロックとで共通の算出基準に従い算出し、内部ブロック用のしきい値を、境界ブロック用のしきい値と比較して大きな値に設定した例を示したが、これに限定されるものではない。すなわち、境界ブロックの指標値が、予定インク量が第1の量よりも多いことを示す場合に、制限ブロックであると判定し、内部ブロックの指標値が、予定インク量が第2の量(>第1の量)よりも多いことを示す場合に、制限ブロックであると判定することが可能であればよい。例えば、境界ブロックの指標値が、内部ブロックの指標値と比較して、大きな値として算出されるように、境界ブロックと内部ブロックとで異なる算出基準に従い指標値を算出してもよい。
【0090】
(7)上記実施形態では、部分画像データを縦横に複数に区分して複数のブロックを設定する例を示したが、これに代えて、部分画像データ内でブロック(指標値を算出する対象領域)の位置を、ブロックの幅よりも小さいシフト量で(例えば1画素分ずつ)順にシフトさせるようにしてもよい。つまり、上記実施形態では、部分画像データ内の画素は、複数のブロックのうちのいずれか1つにのみ属するが、ブロックをシフトさせる場合には、位置の異なる複数のブロックに属し得る点で異なる。このようにすれば、例えば、印刷画像の発色の相違の目立ちやすい(使用されるインク量の多い)オブジェクトが部分画像データ内に含まれているにもかかわらず、そのオブジェクトが複数のブロックに分割されることで、各ブロックが制限ブロックと判定されないといったことを生じにくくすることができる。
【0091】
(8)上記実施形態では、制限ブロックを含む部分画像データについては、印刷を実行する主走査の方向を、前回の主走査の方向に関係なく一定の方向(上記実施形態では第2の方向)に設定する例を示したが、これに代えて、前回の主走査の方向と同じ方向に設定してもよい。
【0092】
(9)上記実施形態では、印刷制御処理がプリンタ2側で実行される例を示したが、これに限定されるものではなく、パーソナルコンピュータ1(プリンタドライバ123)側で印刷制御処理を実行してもよい。
【符号の説明】
【0093】
1…パーソナルコンピュータ、2…プリンタ、11,21…制御部、12,22…記憶部、13,23…通信部、14,24…操作部、15,25…表示部、26…印刷実行部、27…印刷ヘッド、111,211…CPU、112,212…ROM、113,213…RAM、121…OS、122…アプリケーションプログラム、123…プリンタドライバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷ヘッドの第1の方向の主走査と第2の方向の主走査とで印刷媒体上での複数色のインクの重なり順序が異なる印刷を実行する印刷実行部に、設定された方向の主走査で印刷を実行させるための印刷制御装置であって、
印刷対象となる画像データのうち、前記印刷ヘッドの1回の主走査で印刷される単位印刷領域に対応する部分画像データごとに、それぞれが複数の画素を含む複数のブロックを設定し、前記ブロックごとに、印刷に使用されるべき予定インク量に関する指標値に基づいて、特定の方向の主走査で印刷すべき特定の条件が満足されるか否かを判定する判定部と、
前記部分画像データごとに、前記特定の条件が満足される前記ブロックを含む場合には、主走査の方向を、前記特定の方向に設定し、前記特定の条件が満足される前記ブロックを含まない場合には、主走査の方向を、前回の主走査の方向とは逆の方向に設定する設定部と、
を備え、
前記複数のブロックは、前記部分画像データの境界付近に位置する境界ブロックと、前記部分画像データの境界から離れて位置する内部ブロックと、を含んでおり、
前記判定部は、
前記境界ブロックの前記指標値が、前記予定インク量が第1の量よりも多いことを示す場合に、前記特定の条件が満足されると判定し、
前記内部ブロックの前記指標値が、前記予定インク量が第2の量であって、前記第1の量よりも大きな前記第2の量よりも多いことを示す場合に、前記特定の条件が満足されると判定する
ことを特徴とする印刷制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷制御装置であって、
前記判定部は、
前記境界ブロックの前記指標値が、第1のしきい値よりも大きい場合に、前記特定の条件が満足されると判定し、
前記内部ブロックの前記指標値が、第2のしきい値であって、前記第1のしきい値よりも大きな前記第2のしきい値よりも大きい場合に、前記特定の条件が満足されると判定する、印刷制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の印刷制御装置であって、
前記特定の方向は、前記第1の方向及び前記第2の方向のうちのいずれか一方であって、一定の方向である、印刷制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の印刷制御装置であって、
前記判定部は、前回の主走査の方向が前記特定の方向でない場合には、前記部分画像データについて、前記ブロックごとの前記特定の条件が満足されるか否かの判定を実行せず、
前記設定部は、前回の主走査の方向が前記特定の方向でない場合には、前記部分画像データについて、主走査の方向を前記特定の方向に設定する、印刷制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の印刷制御装置であって、
前記複数のブロックは、複数の前記内部ブロックを含んでおり、
前記複数の内部ブロックは、前記部分画像データの境界に比較的近い第1種の前記内部ブロックと、前記部分画像データの境界から比較的遠い第2種の前記内部ブロックと、を含んでおり、
前記判定部は、
前記第1種の内部ブロックの前記指標値が、前記予定インク量が第1種の前記第2の量よりも多いことを示す場合に、前記特定の条件が満足されると判定し、
前記第2種の内部ブロックの前記指標値が、前記予定インク量が第2種の前記第2の量であって、前記第1種の第2の量よりも大きな前記第2種の第2の量よりも多いことを示す場合に、前記特定の条件が満足されると判断する、印刷制御装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の印刷制御装置であって、
前記判定部は、前記印刷媒体上に最初又は最後の主走査で印刷される前記部分画像データ内の複数の前記境界ブロックのうち、前記印刷媒体に印刷される画像の端部となる側の第1種の前記境界ブロックについては、前記第1種の境界ブロックの前記指標値が、前記予定インク量が前記第2の量よりも多いことを示す場合に、前記特定の条件が満足されると判定する、印刷制御装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の印刷制御装置であって、
前記印刷実行部は、前記印刷対象となる画像データ内に、白色画素で構成される空白ラインデータが、前記部分画像データに隣接して存在する場合には、前記空白ラインデータのライン分を飛ばして印刷を実行可能であり、
前記判定部は、前記空白ラインデータに隣接する前記部分画像データ内の複数の前記境界ブロックのうち、前記空白ラインデータに隣接する側の第2種の前記境界ブロックについては、前記第2種の境界ブロックの前記指標値が、前記予定インク量が前記第2の量よりも多いことを示す場合に、前記特定の条件が満足されると判定する、印刷制御装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の印刷制御装置であって、
前記判定部は、今回の主走査で印刷される前記部分画像データ内の複数の前記境界ブロックのうち、前回の主走査で印刷される前記部分画像データ内の特定の境界ブロックに隣接する第3種の前記境界ブロックであって、前記特定の境界ブロックとは異なる色の前記第3種の境界ブロックについては、前記第3種の境界ブロックの前記指標値が、前記予定インク量が前記第2の量よりも多いことを示す場合に、前記特定の条件が満足されると判定する、印刷制御装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の印刷制御装置であって、
前記判定部は、今回の主走査で印刷される前記部分画像データ内の複数の前記境界ブロックのうち、前回の主走査で印刷される前記部分画像データにおいて前記特定の条件が満足されないと判定された境界ブロックに隣接する前記第4種の前記境界ブロックについては、前記第4種の境界ブロックの前記指標値が、前記予定インク量が前記第2の量よりも多いことを示す場合に、前記特定の条件が満足されると判定する、印刷制御装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の印刷制御装置であって、
前記印刷ヘッドで表現可能な階調数よりも高い階調数の画像データに対してハーフトーン処理を実行し、前記印刷ヘッドで表現可能な階調数の画像データを生成する処理部を更に備え、
前記判定部は、前記印刷対象となる画像データであって、前記ハーフトーン処理を実行する前の画像データ内の前記ブロックごとに、前記ブロックに含まれる前記複数の画素の階調値を用いて、前記指標値を算出する、印刷制御装置。
【請求項11】
請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の印刷制御装置であって、
前記印刷ヘッドで表現可能な階調数よりも高い階調数の画像データに対してハーフトーン処理を実行し、前記印刷ヘッドで表現可能な階調数の画像データを生成する処理部を更に備え、
前記判定部は、前記印刷対象となる画像データであって、前記ハーフトーン処理を実行した後の画像データ内の前記ブロックごとに、前記ブロックに含まれる前記複数の画素の階調値を用いて、前記指標値を算出する、印刷制御装置。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の印刷制御装置であって、
前記判定部は、前記ブロックに含まれる前記複数の画素の有彩色のインクに対応する色成分の前記階調値を用いて、前記指標値を算出する、印刷制御装置。
【請求項13】
請求項12に記載の印刷制御装置であって、
前記判定部は、前記ブロックに含まれる前記複数の画素のうち、前記複数の有彩色のインクに対応する複数の色成分の階調値の中で2番目に大きい階調値が所定値以上である一部の画素を対象として、前記指標値を算出する、印刷制御装置。
【請求項14】
請求項12又は請求項13に記載の印刷制御装置であって、
前記判定部は、
前記ブロックに含まれる前記複数の画素を対象とした第1種の前記指標値と、前記ブロックに含まれる前記複数の画素のうち、無彩色のインクに対応する色成分の階調値が所定値以上である一部の画素を対象とした第2種の前記指標値と、を算出し、
前記特定の条件として、前記第1種の指標値に基づく判定には第1種の前記特定の条件を使用し、前記第2種の指標値に基づく判定には第2種の前記特定の条件を使用し、
前記設定部は、前記部分画像データごとに、前記第1種の特定の条件及び前記第2種の特定の条件のうち少なくとも一方が満足される前記ブロックを含む場合には、主走査の方向を、前記特定の方向に設定し、前記第1種の特定の条件及び前記第2種の特定の条件のうち少なくとも一方が満足される前記ブロックを含まない場合には、主走査の方向を、前回の主走査の方向とは逆の方向に設定する、印刷制御装置。
【請求項15】
請求項10から請求項14までのいずれか1項に記載の印刷制御装置であって、
前記判定部は、第1の色のインクに対応する色成分の前記階調値である第1種の階調値と、前記第1の色とは異なる第2の色のインクに対応する色成分の前記階調値である第2種の階調値とが、同一の値である場合に、前記第1種の階調値を用いて算出される前記指標値が、前記第2種の階調値を用いて算出される前記指標値に比べて大きくなるように、前記指標値を算出する、印刷制御装置。
【請求項16】
印刷ヘッドの第1の方向の主走査と第2の方向の主走査とで印刷媒体上での複数色のインクの重なり順序が異なる印刷を実行する印刷実行部に、設定された方向の主走査で印刷を実行させるための印刷制御装置としてコンピュータを機能させるための印刷制御プログラムであって、
印刷対象となる画像データのうち、前記印刷ヘッドの1回の主走査で印刷される単位印刷領域に対応する部分画像データごとに、それぞれが複数の画素を含む複数のブロックを設定し、前記ブロックごとに、印刷に使用されるべき予定インク量に関する指標値に基づいて、特定の方向の主走査で印刷すべき特定の条件が満足されるか否かを判定する判定部、及び、
前記部分画像データごとに、前記特定の条件が満足される前記ブロックを含む場合には、主走査の方向を、前記特定の方向に設定し、前記特定の条件が満足される前記ブロックを含まない場合には、主走査の方向を、前回の主走査の方向とは逆の方向に設定する設定部
としてコンピュータを機能させ、
前記複数のブロックは、前記部分画像データの境界付近に位置する境界ブロックと、前記部分画像データの境界から離れて位置する内部ブロックと、を含んでおり、
前記判定部は、
前記境界ブロックの前記指標値が、前記予定インク量が第1の量よりも多いことを示す場合に、前記特定の条件が満足されると判定し、
前記内部ブロックの前記指標値が、前記予定インク量が第2の量であって、前記第1の量よりも大きな前記第2の量よりも多いことを示す場合に、前記特定の条件が満足されると判定する
ことを特徴とする印刷制御プログラム。

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図12】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−171143(P2012−171143A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33547(P2011−33547)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】