説明

印刷機のガイドロールとその製造方法

【課題】印刷機のガイドロールにおいて、ウエブがガイドロールを通過するとき、ウエブに皺が生じたり、ガイドロールの表面形状が転写されたりするのを防止すること。
【解決手段】ガイドロール15の表面には、螺旋状の梨地部17を形成してある。梨地部17は、ガイドロール15の中央において旋回方向が逆になり、その中央において連続(連結)している。ウエブ14は、ガイドロール15に接触してX4方向へ移動するとき、梨地部17によりX5方向へ広がろうとするため皺が生じない。また梨地部17は、従来の螺旋状の溝のように凹部を有しないため、ガイドロールの表面形状(梨地部の形状)がウエブ14に転写されることはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、グラビア印刷機等の印刷機のガイドロールとその製造方法に関する。
本願発明のガイドロールは、印刷用ウエブ(被印刷体)が、紙、アルミニウム箔、ラップフィルム(ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン又はブタジエン樹脂等を主体とするフィルム)、ストレッチフィルム(塩化ビニル樹脂を主体とするフィルム)等何れの場合にも使用できる。
【背景技術】
【0002】
図3は、従来の印刷機の構成の概要を示す(特許文献1参照)。
図3(a)は、印刷機の構成を示し、図3(b)は、ウエブがガイドロールに接触して移動する状態を示す(ガイドロールは拡大してある)。
図3(a)において、ウエブ14は、供給軸11aに巻かれたウエブロール12aから印刷部131へ供給され、印刷されたウエブ14は、乾燥部132等を介して巻取軸11bに巻き取られてウエブロール12bを形成する。ウエブ14は、供給軸11aから巻取軸11bへ移動する間に、多数のガイドロール151,152,・・・,15nに案内され、それらのガイドロールに接触して移動する。なお15sは、ガイドロールの軸である。
ウエブ14は、図3(b)のように、ガイドロール15に接触してX1方向へ移動するとき、ガイドロール15によりその中央方向X2へ向かう力(ウエブ14の幅を縮小しようとする力)を受けるため、皺(縦皺)141が生じて印刷が困難になる、或いは印刷の品質が低下する場合がある。
【0003】
その皺の発生を防止するため、表面に螺旋状の溝を形成したガイドロールが提案されている(特許文献2参照)。
図4により螺旋状の溝を形成したガイドロールについて説明する。
図4(a)は、ガイドロールの平面図を、図4(b)は、図4(a)のX3部分の矢印方向の断面図を示す。
ガイドロール15の表面には、螺旋状の溝16を形成してある。螺旋状の溝16は、ガイドロール15の軸方向の略中央において左右の旋回方向が逆になり、その中央において連続(連結)している。左右の溝16は、角度θで交差している。溝16の断面形状は、弧状、V字状等である。
【0004】
【特許文献1】特開2003−128313号公報
【特許文献2】実用新案登録第3126258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図4(c)において、ウエブ14は、ガイドロール15に接触してX4方向へ移動する。その際ウエブ14には、螺旋状の溝16により外側方向X5へ向かう力(ウエブ14の幅を広げようとする力)が加わるため、図3の皺141は発生しない。しかしガイドロール15は、表面に螺旋状の溝16を形成してあるから、ウエブ14がガイドロール15を通過するとき、図4(d)のように、ウエブ14に溝16の跡(形状)142が転写されることがある。ウエブ14は、ラップフィルム等樹脂製フィルムの場合には、ガイドロール15を通過した後元の状態へ戻る性質があるから跡142は小さくなる(薄くなる)が、アルミニウム箔や紙の場合には、跡142は消え難く、特にアルミニウム箔の場合には、跡142は消えることがない。
またガイドロール15は、その表面に螺旋状の溝16を形成しなければならないが、溝16の形成には高度で高価な加工装置が必要になるため、ガイドロール15の製造コストが高くなる。
本願発明は、図4の従来のガイドロールの前記問題点に鑑み、ガイドロールを通過したウエブにガイドロールの表面形状の跡が残らず(転写されず)、しかも表面の加工が容易なガイドロールを提供すること、及びそのガイドロールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、その目的を達成するため、請求項1に記載の印刷機のガイドロールは、表面に螺旋状の梨地部を形成してあり、その螺旋状の梨地部は、ガイドロールの軸方向の略中央において旋回方向が逆になり、その中央において連結していることを特徴とする。
請求項2に記載の印刷機のガイドロールは、請求項1に記載のガイドロールにおいて、表面に耐磨耗膜を形成してあることを特徴とする。
請求項3に記載のガイドロールの製造方法は、ガイドロールの表面の内、螺旋状の梨地部を形成しない部分に保護膜を形成し、保護膜を形成してない部分を粗面化して梨地部を形成し、保護膜を除去して請求項1に記載のガイドロールを製造することを特徴とする。
請求項4記載のガイドロールの製造方法は、ガイドロールの表面の内、螺旋状の梨地部を形成しない部分に保護膜を形成し、保護膜を形成してない部分を粗面化して梨地部を形成し、保護膜を除去し、表面に耐磨耗膜を形成して請求項2に記載のガイドロールを製造することを特徴とする。
請求項5記載のガイドロールの製造方法は、請求項3又は請求項4に記載のガイドロールの製造方法において、前記梨地部は、ガイドロールの表面にブラストを噴射して形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本願発明のガイドロールは、ガイドロールの中央において旋回方向が逆になる螺旋状の梨地部を形成してあるから、ウエブがガイドロールを通過するとき、ウエブには、外側(端部)へ向かう力が働いてウエブの幅を広げようとするから、皺が生じない。
本願発明のガイドロールの螺旋状の梨地部は、非梨地部と実質的に同じ高さ(平面状)であって従来の溝のように凹部を有しないから、ウエブに梨地部の形状が転写されることはない。したがってウエブがアルミニウム箔のように、転写されたガイドロールの表面の形状が消え難い(その形状が残り易い)素材であっても、印刷が困難になったり、印刷の品質が低下したりすることはない。
【0008】
本願発明のガイドロールは、表面に螺旋状の梨地部を形成するだけであるから、構造が簡単で製造も簡単になる。したがって本願発明のガイドロールは、簡単に安価に製造することができる。またガイドロールの表面には、耐磨耗膜を形成してあるから、梨地部の磨耗を防止することができる。
本願発明のガイドロールの螺旋状の梨地部は、ガイドロールの表面の非梨地部分に保護テープを貼り付ける等して保護膜を形成し、その保護膜を形成してない部分を粗面化するだけで形成できるから製造方法が簡単になる。またその粗面化にブラスト加工を用いるから、製造方法がより簡単になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1、図2により本願発明の実施例を説明する。なお各図に共通の部分は、同じ符号を使用している。
【実施例】
【0010】
図1は、本願発明の実施例に係るガイドロールの構造(形状)を示す。
図1(a)は、ガイドロールの平面図、図1(b)は、図1(a)のX3部分の矢印方向の断面図である。図1(c)は、ウエブがガイドロールに接触して移動するときの状態を示す。
まず図1(a)、図1(b)において、軸15sを備えたガイドロール15の表面(周面)には、螺旋状の梨地部17を形成してある。梨地部17は、ガイドロール15の軸方向(長手方向)の略中央において、旋回方向が逆になり、その中央において連続(連結)している。即ち梨地部17の旋回方向は、ガイドロール15の軸方向の略中央の左右において逆になる。そしてその左右の梨地部17は、角度θで交差している。
【0011】
ここで図1のガイドロール15の具体的寸法例等について説明する。
ガイドロール15は、アルミニウムからなり、長さ(軸方向の長さ)は1150mm、直径は100〜120mm、梨地部17の幅は50〜80mm、梨地部17の間隔(非梨地部の幅)は80mm、梨地部17の交差角度θは100〜120度程度に設定した。また梨地部17は、幅50mmの場合、80番のブラストを用いて形成した。
なお梨地部17の幅は、螺旋の間隔、螺旋の個数(本数)、交差角度θ、梨地部の粗面の程度等を勘案して所定の大きさに設定する。
【0012】
次に図1(c)によりガイドロール15の作用について説明する。
本願発明者は、ウエブの皺(縦皺)を防止するため種々の皺防止装置を試作し試験したところ、螺旋状の梨地部は、螺旋状の溝と同様の効果を奏することを突き止めた。即ちウエブ14がガイドロール15に接触してX4方向へ移動するとき、ウエブ14には、螺旋状の梨地部17によりX5方向の力(X4方向と直交するガイドロール15の長手方向の力)が加わり、ウエブ14をX5方向へ(ウエブ14の端部側へ)広げようとするため皺が生じない。またガイドロール15の表面の梨地部17は、非梨地部と高さが実質的に同じ(同一面)になるから、ウエブ14が梨地部17に接触しても、その形状がウエブ14に転写されることはない。即ち従来の螺旋状の溝(凹部)を有するガイドロールのようにガイドロールの表面形状がウエブ14に転写されることはない。
【0013】
図1のガイドロール15は、表面に梨地部17を有するだけであるから構造が簡単になり、また梨地部17は、後述するようにブラスト加工等により表面を粗面化するだけで形成できるから、従来の螺旋状の溝のように、旋盤、マシニングセンタ等の高度で高価な加工装置を用いる必要がない。したがってガイドロール15は、簡単に安価に製造することができる。
【0014】
次に図2により、ガイドロール15の製造(加工)方法について説明する。
図2は、ブラスト加工によりガイドロール15の表面に螺旋状の梨地部17を形成する手順を示す。
まず図2(a)のように、ガイドロール15の表面の内、梨地部17を形成しない部分(梨地部17の間の非梨地部分)に、樹脂等からなる保護テープ18を貼り付けて保護膜を形成し、図2(b)のように、ガイドロール15の表面にノズル20からアルミナ等のブラスト21を噴射する。ガイドロール15の保護テープ18に覆われていない部分(保護テープ18の間の露出部分)は、ブラスト21により荒れて梨地化し、螺旋状の梨地部17が形成される。図2(b)の梨地化の後保護テープ18を剥すと、図2(c)のように、表面に螺旋状の梨地部17の形成されたガイドロール15が完成する。
図2の場合、非梨地部分に保護テープを貼り付けて保護膜を形成したが、保護テープを貼り付ける代わりに、非梨地部に対応する開口部を有するマスク(スクリーン)を用いて、樹脂等からなる膜形成材を塗布して保護膜を形成してもよいし、感光性樹脂を用いて化学的に保護膜を形成してもよい。また梨地化は、ブラスト加工の外、化学的方法によって保護膜を形成してない部分を腐食させて粗面化してもよい。
【0015】
なお図2(c)のガイドロール15の表面は、ウエブによって磨耗するため、その磨耗を低減するためにガイドロール15の表面全面を耐磨耗膜で覆ってもよい。耐磨耗膜は、例えばカニゼンメッキ(カニゼン:登録商標)によって形成する。ガイドロール15の表面は、ウエブがアルミニウム箔の場合特に磨耗し易いため、ウエブがアルミニウム箔の場合には、ガイドロール15の表面に耐磨耗膜を形成するのが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本願発明の実施例に係るガイドロールの構成を示す。
【図2】図1のガイドロールの製造方法を示す。
【図3】従来印刷機のガイドロールを主にした構成を示す。
【図4】従来のガイドロールの構成を示す。
【符号の説明】
【0017】
14 ウエブ
15 ガイドロール
15s 軸
17 螺旋状の梨地部
18 保護テープ
20 ノズル
21 ブラスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に螺旋状の梨地部を形成してあり、その螺旋状の梨地部は、ガイドロールの軸方向の略中央において旋回方向が逆になり、その中央において連結していることを特徴とする印刷機のガイドロール。
【請求項2】
請求項1に記載のガイドロールにおいて、表面に耐磨耗膜を形成してあることを特徴とする印刷機のガイドロール。
【請求項3】
ガイドロールの表面の内、螺旋状の梨地部を形成しない部分に保護膜を形成し、保護膜を形成してない部分を粗面化して梨地部を形成し、保護膜を除去して請求項1に記載のガイドロールを製造することを特徴とする印刷機のガイドロールの製造方法。
【請求項4】
ガイドロールの表面の内、螺旋状の梨地部を形成しない部分に保護膜を形成し、保護膜を形成してない部分を粗面化して梨地部を形成し、保護膜を除去し、表面に耐磨耗膜を形成して請求項2に記載のガイドロールを製造することを特徴とする印刷機のガイドロールの製造方法。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載のガイドロールの製造方法において、前記梨地部は、ガイドロールの表面にブラストを噴射して形成することを特徴とする印刷機のガイドロールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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