説明

印刷版の製造方法及び印刷版

【課題】微細な画線部からなる印刷パターンを再現性良く印刷でき、印刷効率に優れた印刷版を得ることができる印刷版の製造方法及び印刷版を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂濃度0.05〜0.4質量%の撥インク剤を、印刷版の印刷版面に塗布し、該撥インク剤を乾燥硬化して、厚さ5〜30nmのフッ素樹脂膜3を形成する。撥インク剤の粘度は0.3〜0.9mPa・sが好ましい。また、撥インク剤の塗布量は50〜200g/mが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な画線を再現性良く印刷でき、印刷効率に優れた印刷版及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
凸版印刷版は、インクを印刷版の凸部頂面に付着させ、これを紙などの被印刷体に転移させて印刷物を得る凸版印刷や、印刷版に付着したインクを、ブランケットロールなどの中間転写体に転写した後、紙などの被印刷体に転移させて印刷物を得る凸版オフセット印刷等に用いられている。
【0003】
また、凹版印刷版は、グラビア印刷、パッド印刷、タンポ印刷等に使用されており、印刷版の凹部にインクを受容し、印刷版面をドクターブレードで擦って余分なインクを取り除き、その後、凹部にインクを受容したインクを紙などの被印刷体に転移させて印刷物を得ている。
【0004】
しかしながら、インクの版離れが悪く、印刷版に付着させたインクの一部は、印刷版面から被印刷体へ転移せずそのまま残留してしまう。このため、これらのインク残留物によって印刷物の品質が損なわれる問題がある。
【0005】
例えば、凸版印刷版を用いた印刷では、印刷版の凸部頂面に付着したインクが、凸部の端面に残留したり、非画線部である低位部や凹部にまで流れ込んでそのまま残留することがある。このため、印刷量が多くなると、印刷物の画線が太くなる傾向にある。また、凹版印刷版を用いた印刷では、印刷版の凹部に受容したインクの一部が、そのまま凹部に残留し、印刷量が多くなるに伴いインクの目詰まりが多くなって、印刷物の画線が細くなったり、被印刷体へのインク付着量が少なくなって、インク隠蔽性がある印刷物が得られなくなる傾向にある。
【0006】
このように、印刷精度を高めるためには、印刷版を定期的に洗浄し、印刷版面に付着しているインク残留物を除去する必要がある。そこで、印刷版の印刷版面をフッ素系樹脂などの撥インク剤で処理してインクの版離れ性を高め、印刷版の洗浄頻度を低減する試みがなされている。
【0007】
例えば、下記特許文献1には、凸版の非画線部に、有機フッ素化合物の被膜を形成した凸版を用いて印刷を行うことが開示されている。
【0008】
また、下記特許文献2には、インキを受容すべき凹部に、フッ素系樹脂を含む撥インキ性層を設けたグラビア印刷版を用いて印刷を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭51−40206号公報
【特許文献2】特開2003−89281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1,2に示されるように、印刷版の印刷版面を撥インク剤で処理することで、インクの版離れが良好となり、印刷版面にインクが残留し難くなる。
【0011】
しかしながら、印刷版面を撥インク剤で処理することに伴い、撥インク剤によって形成される被膜(以下、撥インク層という)の膜厚の分だけ、画線が太くなったり、細くなったりする。すなわち、凸版印刷の場合においては、非画線部分となる凹部が撥インク層の厚み分だけ細くなるので、画線が太くなってしまう。また、凹版印刷の場合においては、インクを受容すべき凹部のサイズが撥インク層の分だけ小さくなるので、画線が小さくなったり、被印刷体へのインク付着量が低減してしまう。
【0012】
したがって、本発明の目的は、微細な画線部からなる印刷パターンを再現性良く印刷でき、印刷効率に優れた印刷版を得ることができる印刷版の製造方法及び印刷版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の印刷版の製造方法は、印刷版の印刷版面が、フッ素樹脂を含む撥インク剤で処理された印刷版の製造方法であって、フッ素樹脂濃度0.05〜0.4質量%の撥インク剤を前記印刷版面に塗布し、該撥インク剤を乾燥硬化することを特徴とする。
【0014】
本発明の印刷版の製造方法は、前記撥インク剤の粘度が0.3〜0.9mPa・sであることが好ましい。
【0015】
本発明の印刷版の製造方法は、前記撥インク剤の塗布量が50〜200g/mであることが好ましい。
【0016】
本発明の印刷版の製造方法は、前記印刷版面をプライマ処理した後、前記撥インク剤を塗布することが好ましい。
【0017】
本発明の印刷版の製造方法は、前記印刷版が凸版印刷版又は凹版印刷版であって、少なくとも該印刷版の凹状部に、前記撥インク剤を塗布することが好ましい。
【0018】
また、本発明の印刷版は、上記方法によって得られた印刷版であって、該印刷版の印刷版面に、厚さ5〜30nmのフッ素樹脂膜が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、撥インク剤として、フッ素樹脂濃度が0.05〜0.4質量%である極めて低濃度の撥インク剤を用いて印刷版面を処理することにより、極めて薄いフッ素樹脂膜を、印刷版面に形成できる。また、この撥インク剤は、極めて粘度が低く、更にはレベリング性が良好なので、塗工作業性に優れ、均一な膜厚のフッ素樹脂膜を容易に形成できる。そして、フッ素樹脂膜の膜厚を薄くできることから、微細な画線部からなる印刷パターンを再現性良く印刷できる。更には、フッ素樹脂膜によって、インクの版離れ性が向上するので、印刷版の洗浄頻度を抑えることができ、印刷効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の印刷版の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の印刷版について、図1を用いて説明する。図1に示す印刷版は、凸版印刷版であって、ベース基板1上に、印刷物の画線部となる所定パターンの凸部が形成された樹脂層2が積層されている。そして、ベース基板1及び樹脂層2の表層がフッ素樹脂膜3で被覆されている。
【0022】
ベース基板1の構成材料としては、特に限定はない。例えば、(1)鉄、銅、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム及びこれらの合金からなる金属材料、(2)ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、アセタール、エポキシ、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂材料、(3)ソーダライムガラス、石英ガラス等のガラスが挙げられる。これらを用途に応じて適宜選択できる。
【0023】
樹脂層2の構成材料としては、特に限定はない。例えば、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリアミドとメタアクリル酸エステルとの共重合体等が挙げられる。
【0024】
フッ素樹脂膜3を構成するフッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、パーフルオロエチレン−プロペンコポリマー、ポリビニリデンフルオライド、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー等が挙げられる。
【0025】
フッ素樹脂膜3の膜厚は、5〜30nmが好ましく、10〜20nmがより好ましい。フッ素樹脂膜3の膜厚が上記範囲内であれば、インクの版離れ性を高めつつ、微細な画線部からなる印刷パターンを再現性良く印刷できる。
【0026】
次に、本発明の印刷版の製造方法について説明する。
【0027】
まず、ベース基板上に樹脂層が形成された版材をエッチングして、所定パターンの凸部を形成する。エッチング方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、以下の(a)、(b)の方法が一例として挙げられる。
(a)樹脂層上に、所定パターンのフォトレジスト層あるいはブラックレイヤー層を設け、これらをマスクとしてエッチングを行い、所定パターンの凸部を形成する方法。
(b)樹脂層を、レーザ彫刻等の方法で所定パターンに掘削加工して所定パターンの凸部を形成する方法。
【0028】
次に、所定パターンの凸部が形成された印刷版の印刷版面に、フッ素樹脂濃度0.05〜0.4質量%の撥インク剤を塗工する。撥インク剤のフッ素樹脂濃度は、0.1〜0.2質量%がより好ましい。フッ素樹脂濃度が上記範囲であれば、塗工方法によらず、膜厚が5〜30nm、好ましくは10〜20nmのフッ素樹脂膜を、印刷版面に容易に形成できる。また、この撥インク剤は、フッ素樹脂濃度が極めて低いので、低粘度であり、塗工作業性に優れる。更にはレベリング性が良好なので、均一な膜厚が得られやすい。撥インク剤のフッ素樹脂濃度が高すぎる場合は、上記範囲となるように、ハイドロフルオロエーテルなどのフッ素系溶剤等で希釈して調整する。
【0029】
撥インク剤に用いるフッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、パーフルオロエチレン−プロペンコポリマー、ポリビニリデンフルオライド、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー等が好ましい。
【0030】
撥インク剤の粘度は、0.3〜0.9mPa・sが好ましく、0.4〜0.8mPa・sがより好ましい。撥インク剤の粘度が上記範囲であれば、均一な膜厚でより薄膜のフッ素樹脂膜を印刷版面に形成し易い。なお、本発明において、粘度の値は、JIS Z8803に準ずる液体の粘度測定方法で測定した値を意味する。
【0031】
撥インク剤の塗布量は、50〜200g/mが好ましく、70〜150g/mがより好ましい。撥インク剤の塗工量が上記範囲であれば、膜厚が5〜30nm、好ましくは10〜20nmのフッ素樹脂膜を形成し易い。
【0032】
撥インク剤の塗工方法は、特に限定はなく、刷毛塗工、スプレー塗工、ディップ塗工、スピンコート等が挙げられる。なかでも、作業性の観点から、スプレー塗工、ディップ塗工が好ましい。
【0033】
なお、ベース基板1や、樹脂層2の材質によっては、印刷版面に撥インク剤を塗工する前に、印刷版面をプライマ液等でプライマ処理することが好ましい場合がある。印刷版面をプライマ処理することで、印刷版面のベース基板1や樹脂層2と、フッ素樹脂膜3との密着性が向上し、印刷版面からフッ素樹脂膜が剥離し難くなる。ただし、プライマ処理によって形成されるプライマ層が厚膜であると、フッ素樹脂膜を薄膜化しても、微細な画線部からなる印刷パターンを印刷できなくなるので、プライマ層は、薄膜であることが必要であり、1.0μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。このため、プライマ処理を行わなくても、印刷版面とフッ素樹脂膜との密着性が良好な場合は、プライマ処理を行わないことが好ましい。また、1.0μm以下のプライマ層を形成するには、固形分濃度0.1〜1.0質量%、より好ましくは0.3〜0.7質量%のプライマを用い、塗工量10〜100g/m、より好ましくは30〜70g/mで印刷版面を処理すればよい。
【0034】
次に、印刷版面に塗工した撥インク剤を乾燥硬化させて、フッ素樹脂膜3を形成する。撥インク剤の乾燥硬化方法は、特に限定はなく、常温乾燥、加熱乾燥、温風乾燥、赤外線乾燥等が挙げられる。本発明において使用する撥インク剤は、フッ素樹脂濃度が極めて低く、また、この撥インク剤によって形成されるフッ素樹脂膜は極めて薄膜なので、常温であっても、短時間で乾燥硬化できる。このため、印刷版への熱的損傷を抑えるため、常温乾燥によって乾燥硬化することが好ましい。
【0035】
このようにして得られる本発明の印刷版は、印刷版の凸部頂面2aに付着したインクが、非画線部をなす凹部4に流れ込んでも、凹部4の表層は、撥インク性に優れるフッ素樹脂膜3で被覆されているので、インクの版離れ性が高く、インク詰まりの発生を抑制できる。このため、印刷版の洗浄頻度を低減でき、印刷効率を向上できる。また、このフッ素樹脂膜3は、極めて薄膜なので、微細な画線部からなる印刷パターンであっても、再現性良く印刷でき、印刷物の品質を向上できる。
【0036】
なお、この実施形態では、印刷版面、すなわち、ベース基板1及び樹脂層2の全面にわたってフッ素樹脂膜3を形成したが、必ずしも印刷版面の全面に形成する必要はなく、少なくとも印刷版面の凹部4、すなわち、ベース基板1の外部への露出面と、凸部側壁2bとがフッ素樹脂膜3で被覆されていればよい。また、印刷版の凸部頂面2aにフッ素樹脂膜3が形成されていても、フッ素樹脂膜3の膜厚は極めて薄いため、被印刷体やブランケットロール等との摩擦により印刷品質を安定化させるために行う初期運転時にほぼ剥離するので、凸部のインク付着性は良好であり、印刷性に及ぼす影響はない。
【0037】
また、この実施形態の印刷版は凸版印刷版であるが、凹版印刷版の場合も同様にすることができる。すなわち、ベース基板上に積層された、印刷物の画線部となる所定パターンの凹部5が形成された樹脂層の表層を、上記撥インク剤で処理してフッ素樹脂膜3を形成する。凹部の表層が撥インク性に優れるフッ素樹脂膜3で被覆されることにより、インクの版離れ性が良好となり、繰り返し印刷を行ってもインク詰まりの発生を抑制できる。このため、印刷版の洗浄頻度を低減でき、印刷効率を向上できる。そして、フッ素樹脂膜3の膜厚が極めて薄いので、被着体へのインクの付着量を高めることができ、より微細な印刷パターンや濃淡のある印刷パターンを印刷できる。
【実施例】
【0038】
(実施例)
ベース基板(鋼板)1上に、印刷物の画線部となる所定パターンの凸部が形成された樹脂層(ポリアミドとメタアクリル酸エステルとの共重合体)2が積層された凸版印刷版の表面に、撥インク剤(フッ素樹脂濃度0.2%、粘度0.5mPa・s)を、100g/mの塗工量でスプレー塗布した後、25℃、24時間の条件で乾燥して、撥インク剤で処理された印刷版を得た。この印刷版の印刷版面には、厚さ10nmのフッ素樹脂膜3が形成されていた。なお、フッ素樹脂膜3の膜厚は、ISO 14577−1に準ずる押し込み試験方法で測定した。
次に、この撥インク剤で処理された印刷版を用いて、被印刷物(ポリエチレン)への印刷を行った。まず、印刷物の品質が安定する初期運転を行った。初期運転には約0.5分間(印刷回数30回)要した。初期運転を行った後、被印刷物(ポリエチレン)への印刷を開始したところ、印刷物の品質を損なうことなく、2000回以上の連続印刷が可能であった。
【0039】
(比較例)
撥インク剤で処理されていない印刷版を用いて、実施例と同様に被印刷物(ポリエチレン)への印刷を行った。まず、印刷物の品質が安定する初期運転を行った。初期運転には約2分間(印刷回数120回)要した。初期運転を行った後、被印刷物(ポリエチレン)への印刷を開始したところ、500回目で画線太り等が確認でき、印刷品質が許容レベル以下になったので、印刷版の洗浄を行った。
【符号の説明】
【0040】
1:ベース基板
2:樹脂層
2a:凸部頂面
2b:凸部側壁
3:フッ素樹脂膜
4:凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷版の印刷版面が、フッ素樹脂を含む撥インク剤で処理された印刷版の製造方法であって、
フッ素樹脂濃度0.05〜0.4質量%の撥インク剤を前記印刷版面に塗布し、該撥インク剤を乾燥硬化することを特徴とする印刷版の製造方法。
【請求項2】
前記撥インク剤の粘度が0.3〜0.9mPa・sである、請求項1に記載の印刷版の製造方法。
【請求項3】
前記撥インク剤の塗布量が50〜200g/mである、請求項1又は2に記載の印刷版の製造方法。
【請求項4】
前記印刷版面をプライマ処理した後、前記撥インク剤を塗布する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の印刷版の製造方法。
【請求項5】
前記印刷版が凸版印刷版又は凹版印刷版であって、少なくとも該印刷版の凹状部に、前記撥インク剤を塗布する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の印刷版の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法によって得られた印刷版であって、該印刷版の印刷版面に、厚さ5〜30nmのフッ素樹脂膜が形成されていることを特徴とする印刷板。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−62904(P2011−62904A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215104(P2009−215104)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(507300227)株式会社特殊阿部製版所 (5)
【Fターム(参考)】