説明

印刷用ブランケットからのニッケル回収方法

【課題】ニッケルを含有する金属製スリーブを有する印刷用ブランケットから、ニッケルを効率的に、かつ環境への影響が小さくなる手段で回収する。
【解決手段】ニッケルを含有する円筒状の金属製スリーブの周囲に、接着層を少なくとも介して、継ぎ目がないゴム層が備えられてなる印刷用ブランケットからのニッケル回収方法であって、印刷用ブランケットの側面を、一方の底面側の端から他方の底面側の端に到るまで切断し、その切断面同士を離間させた状態で、硫酸を入れた反応槽に浸漬し、金属性スリーブの溶解を進行させ、溶解が進行した後に、溶液を分離してニッケルを回収する回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルを含む金属製の円筒状のスリーブ板の周囲に、継ぎ目を有しないゴム層を備える印刷用ブランケットから、ニッケルを分離回収するニッケル回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷を行う際の印刷方式には、いろいろな方式が知られているが、オフセット印刷法は、大量の印刷を行う場合に、低コストで高品質の印刷が可能である。また、比較的簡易な工程で製版することができる、大きなサイズの版でも容易に製版できる等の理由により、広く用いられている。
オフセット印刷法を用いた印刷は、平版といわれる印刷版を用い、印刷版からインキをブランケットにいったん転移し、ブランケットから紙等の被印刷体に転写させるというものである。
【0003】
ところで、オフセット印刷において用いられるブランケットは、ブランケット胴と呼ばれる円筒状の胴の周囲に、シート状のゴム層を巻きつけて使用されていた。しかし、そのような方式の場合、必然的にシート状のゴム層の両端の間の部分に継ぎ目が生じ、そのゴム層の継ぎ目部分においては、線状に、印刷ができない部分が生じてしまうという欠点があった。特に長尺状の連続印刷を行うような場合には、大きな問題であった。また、継ぎ目がブランケットと、版や被印刷体との間の滑らかな接触を妨げる要因となる可能性があった。
そのため、近年では、継ぎ目のないギャップレスブランケットと呼ばれるブランケットが用いられるようになっている。このブランケットは、円筒状の金属製、樹脂製、プラスチック製、あるいはガラス繊維と樹脂やプラスチックを組み合わせた材料からなるスリーブに、接着剤を用いてゴム層を接着したものである。金属製のスリーブを用いたギャプレスブランケットとして、特許文献1記載の技術が知られている。
【0004】
そして、このブランケットの円筒状のスリーブを、印刷機のブランケット胴に通すことによって取り付け、印刷が行われる。所定の印刷が終了すると、ブランケットは、ブランケット胴から取り外され、廃棄される。
このスリーブの材料は、上述したとおりであるが、強度や弾性の面から、また、印刷インキへの耐性を有し、印刷インキによる腐食等の問題を生じないことから、ニッケルが注目されている。
【0005】
上記特許文献1にもニッケルが用いられることについて記載がある。また、特許文献2の0022段落にも厚さが0.1mmから0.2mm程度のニッケル製のスリーブが好適に使用される旨の記載がある。
また、印刷用ブランケットには、その用途から次のような特性が求められている。
第一に、高速でブランケットを回転させて印刷をしても、ブランケットに破断等の破壊が生じない耐久性を有することである。すなわち、ブランケットは、高速で回転し、印刷版から転移したインキを、紙やフィルム等の被印刷体に転写する役割を有している。この際の回転数は、非常に高速な回転であるため、ゴム層等の金属製スリーブ上に形成された層には、非常に強い遠心力が働く。
【0006】
さらに、ブランケットは高速回転して、印刷版や被印刷体及び被印刷体の背後に備えられたローラー状の圧胴との間に圧力を生ずることになるため、熱が発生することになる。したがって、高温下で上記のような非常に強い遠心力にさらされることになる。
そのため、ゴム層に力が加わって破断したり、後述する多層構造のブランケットにおいては、各層間や金属製スリーブとの間で剥離が生ずる、といった破壊が生じないことが求められる。
【0007】
また、ブランケットが破壊に至らないまでも、金属製スリーブ上のゴム層等の位置がずれたり、伸縮が生じたりすれば、印刷品質に影響を与えるため、このようなことも生じないようにしなければならない。そして、ゴム層は、版や被印刷体と高速回転しながら接触するため、ゴム層には当然、耐刷性、すなわち、印刷に耐える耐久性が求められる。
このように、印刷用ブランケットには、高速印刷時に生ずる様々な負荷によって破壊が生じない耐久性が必要である。
【0008】
第二に、適切な転移や転写が行えるように、柔軟性を有する等による、版や被印刷体との適切な接触性である。版からインキが転移する際に、適切な接触性を有し、インキを受け取れることが必要である。また、被印刷体とも適切な接触性を有し、インキを転写できることが必要である。このような適切な接触性が求められるため、ブランケットはゴム製材料が用いられており、版との接触や、被印刷体との接触の際に適度に変形することでそのような適切な接触性を実現している。
なお、被印刷体への転写の際には、被印刷体の背後に備えられたローラー状の圧胴で、被印刷体を挟み、被印刷体の位置を安定させて転写を行うことが一般的である。そのため、実質的にはこの圧胴との間接的(その間に被印刷体を有するため)な接触性が問題となる。
したがって、ブランケットには、適切な接触が可能な、そして、版や被印刷体との接触時に適度に変形をして、適切なニップ幅が得られるような弾力性が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−59671号公報
【特許文献2】特許第3357587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような印刷用ブランケットの金属製スリーブにニッケルが用いられることは上述したが、ニッケルは貴重な金属である。ニッケルの一般的な大きな用途としては、機械的強度や耐食性の向上等のために、ステンレスに添加されることである。その他にもめっきや電池等に用いられている。我が国は、ニッケルは全て輸入に依存している状況であり、価格も高価な材料となっている。また、資源保護が強く求められる状況からも、使用済み等の印刷用ブランケットからニッケルを回収することは重要であり、強く求められることとなってきている。
【0011】
ところで、印刷用ブランケットに求められる特性として、上記に第一及び第二として記載したとおり、高速で印刷を行っても、ブランケットに破断等の破壊が生じない耐久性や、適切な転移や転写が行えるように、柔軟性を有する等による、版や被印刷体との適切な接触性が求められる。
したがって、印刷用ブランケットの金属製スリーブと、その上に設けられたゴム層等の間は、接着剤等の接着層により強力な接合が図られている。また、ゴム層等は、版や被印刷体との適切な接触性が求められるために、柔軟性を有すること等、材料面からの制約を受ける。
【0012】
印刷用ブランケットからニッケルを回収するためには、ゴム層等を剥離することが考えられるが、上記のように柔軟性を有する材料が、金属製スリーブに強力に接合されているため、ゴム層等を剥離することは、非常に困難であった。そのため、ゴム層等を焼却して、ニッケル製のスリーブを取り出すということが考えられた。しかし、焼却という方法は、使用されている材料にもよるが、焼却時にガス等が発生する可能性も否定できず、環境面への影響が懸念される。また、焼却しても、ゴム層や接着層が炭化する等して、焼却残渣がニッケル製のスリーブにこびりつくようなことが生じ、ニッケルを回収する手段としては、適さないものであった。このようなこびりつきが生ずるのは、ゴムという材料が用いられていることに加え、強力に接合されている状態で焼却されることも影響していることが推察される。
【0013】
このように、印刷用ブランケットから、ニッケルを効率的に回収するには、従来の技術的な課題を多く抱えていた。したがって、印刷用ブランケットから、効率的に、かつ環境への影響が小さくなる手段で、ニッケルを回収する方法が望まれていた。
本発明は、印刷用ブランケットから、ニッケルを効率的に回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、ニッケルを含有する円筒状の金属製スリーブを有し、その周囲に、金属製スリーブ上に形成された接着層を少なくとも介して、継ぎ目がないゴム層が備えられてなる円筒状の印刷用ブランケットからのニッケル回収方法であって、前記円筒状の印刷用ブランケットの側面を、一方の底面側の端から他方の底面側の端に到るまで切断する工程と、切断された印刷用ブランケットを、その切断面同士を離間させた状態で硫酸を入れた反応槽に浸漬する工程と、反応槽内の硫酸を撹拌して前記印刷用ブランケットの金属性スリーブの溶解を進行させる工程と、前記溶解が進行した後に、前記ゴム層と溶液を分離することで、ニッケルを回収する、印刷用ブランケットからのニッケル回収方法である。
【0015】
なお、本願の特許請求の範囲、明細書及び図面における、各用語の意味を説明する。
まず、「ゴム層」とは、印刷用ブランケットのうち、最表面に設けられるゴム製の層のことをいう。「接着層」とは、金属製スリーブ上に直接設けられる接着性の層のことをいう。「接着剤層」とは、この接着層以外の接着性の層を指す用語として用いているが、材料や形成方法は、接着層と同じである場合もあり得る。
印刷用ブランケットの側面を切断する工程を説明する。一般に、円柱の場合、曲面からなる面を側面、その両端の円からなる二つの面を底面と称する。しかし、上記印刷用ブランケットの場合、円筒状、すなわち中空であるため、両底面は、側面の端が露出している状態である。したがって、切断工程は、その一方の底面側の側面の端部から、他方の側面側の側面の端部までを切断する工程のことを意味する。この切断を2か所以上行ってもよいが、印刷用ブランケットが複数片に分離されることになるため、1か所の切断とすることが好ましい。
【0016】
この切断により、切断面が生ずることになるが、この切断面同士を離間させ、すなわち、円筒状であった形状を、例えば、側面が半円となるような状態にして、反応槽に浸漬する。反応槽への浸漬は、反応槽内に印刷用ブランケットを配置した後に、硫酸を反応槽内に導入する、という工程を採用してもよい。
金属製スリーブは、印刷用ブランケットにおいては、例えばスルファミン酸ニッケル浴を用いた電解めっきにより製造され、不純物が少ないニッケルからなるものが想定されるが、他の金属を含有するが、ニッケルを含有するものであれば、本願発明により、ニッケルを回収することが可能である。しかし、ニッケルの含有率が低下すると、回収効率が低下するため、ニッケルが主成分となるような程度、含有していることが好ましい。
【0017】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明を前提とし、前記溶液から、炭酸ニッケルを精製することで、ニッケルを回収する、印刷用ブランケットからのニッケル回収方法である。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の発明によれば、ニッケルを含有する円筒状の金属製スリーブを有し、その周囲に、金属製スリーブ上に形成された接着層を少なくとも介して、継ぎ目がないゴム層が備えられてなる円筒状の印刷用ブランケットからのニッケル回収方法であって、前記円筒状の印刷用ブランケットの側面を、一方の底面側の端から他方の底面側の端に到るまで切断する工程と、切断された印刷用ブランケットを、その切断面同士を離間させた状態で、硫酸を入れた反応槽に浸漬する工程と、反応槽内の硫酸を撹拌して前記印刷用ブランケットの金属性スリーブの溶解を進行させる工程と、前記溶解が進行した後に、前記ゴム層と溶液を分離することで、ニッケルを回収するため、上記接着層によって、強力にゴム層等の層が金属製スリーブに強固に接合されている印刷用ブランケットであっても、ニッケルを確実に回収し、再利用することができるという優れたニッケル回収方法を提供することが可能となる。
【0019】
また、請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明において、前記溶液から、炭酸ニッケルを精製することで、ニッケルを回収するため、前記溶液からニッケルを確実に回収し、再利用することができるという優れたニッケル回収方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のニッケル回収方法の説明図である。
【図2】本発明のニッケル回収方法の説明図である。
【図3】印刷用ブランケットの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
印刷用ブランケットに求められる特性を満足することを目的として、様々な印刷用ブランケットが検討されている。本発明で、ニッケルを回収することができる印刷用ブランケットとしては、ニッケルを主成分とする円筒状の金属製スリーブを有する印刷用ブランケットであれば、特に制限されない。
例として、上記特許文献1に示されている印刷用ブランケットが挙げられる。上記特許文献1の図を、図3として引用して、印刷用ブランケットの説明をする。まず、金属製スリーブを得るための、めっきの電極として金属円筒を、めっき浴としてスルファミン酸ニッケル浴を用い、電気めっきを施す。これにより、肉厚が0.15mmの円筒状のニッケルからなる金属製のスリーブSを形成する。この金属製のスリーブに、次の工程により、ゴム層等を形成することで、印刷用ブランケットが得られる。
【0022】
金属製スリーブ上に、まず、接着層g1を形成する。この接着層上に、継ぎ目がないゴム層を形成してもよいが、印刷時のインキの転移や転写を適切に行うため、接着層とゴム層との間に、ベース層や圧縮性層等を介することができ、以下のような構成を好ましく採用することができる。
すなわち、接着層g1上に、ベース層として、アクリルニトリル−ブタジエン共重合体ゴム等に、ファーネスブラック、シリカ系充填剤等を加えた材料からなる層を形成し、シートを貼り付ける。その表面を、ナイロンバンドでラッピングし、加硫させた後、研削機によって研磨してベース層1を形成する。
【0023】
ベース層上に、圧縮性層が形成される。まず、ゴム糊を塗布、乾燥させて、接着剤層g2を形成する。なお、本発明においては、金属
次にこの接着剤層上に、ゴム糊等を塗布、乾燥させ、木綿で編んだシートでラッピングして、加硫させる。オーブンにて乾燥させ、研削機によって研磨して、連続気孔構造を有する多孔性の圧縮性層2を形成する。
【0024】
そして、圧縮性層上に非伸縮性層が形成される。まず、ベース層上に形成した接着剤層と同様の接着剤層g3を形成する。この接着剤層上に木綿糸を、張力をかけながららせん状に巻回し、その表面を、木綿で編んだシートにて、円周方向に巻き締めてラッピングした状態で、加硫させ、非伸縮性層3を形成する。
さらに、被伸縮性層上に表面印刷層、すなわちゴム層が形成される。まず、上記非伸縮性層の表面に、前記ベース層上に形成した接着剤層と同様の接着剤層g4を形成する。この接着剤層g4上に、未加硫のアクリルニトリル−ブタジエン共重合体ゴム等からなる表面印刷層用ゴム糊を、塗布、乾燥し、その表面を、木綿で編んだシートでラッピングした状態で、加硫させる。そしてその表面を、研削機によって研磨して、表面印刷層4(ゴム層)を形成する。
【0025】
このようにして、印刷用ブランケットBは製造される。この例では、金属製スリーブ/接着層/ベース層/圧縮性層/非伸縮性層/ゴム層という構成となっている。
また、特許文献1の他の実施例では、金属製スリーブ/接着層/布層/布層/布層/圧縮性層/布層/ゴム層という構成の印刷用ブランケットも記載されている。
その他、特許文献2には、金属製スリーブ/接着層/第一の圧縮性層/非伸縮性層/第二の圧縮性層/ゴム層という構成の印刷用ブランケットが、また、特許第2809554号公報には、金属製スリーブ/接着層/第一の圧縮性層/第二の圧縮性層/非伸縮性層/ゴム層という構成の印刷用ブランケットがそれぞれ開示されている。
印刷用ブランケットは、金属製スリーブ上/接着層/ゴム層(表面印刷層)を備えていれば、機能を果たすが、上述したように、版と接触してインキがブランケットに転移され、さらに被印刷体と接触してインキが被印刷体に転写されるという機能をより適切に果たすため、接着層とゴム層との間に、上述した圧縮性層等の中間層を備えることが一般的となっている。
【0026】
このように、印刷用ブランケットに求められる特性を満足させるために、様々な層構成で、様々な材料が用いられている。さらに、上述したように、高い耐久性が求められることから、金属製スリーブに強固に接着するための接着力の高い接着剤が用いられる等、各層が強固に一体化した印刷用ブランケットが検討され、印刷品質の向上が行われてきた。
【0027】
しかし、ニッケルを主成分とする円筒状の金属製スリーブを有する、印刷用ブランケットから、貴重な金属であるニッケルを回収するという観点からは、上記のように金属製スリーブとその上に形成されたゴム層が、あるいは金属製スリーブと、ゴム層及びその間に設けられた中間層とが強固に接着されている構造は、ニッケルの分離回収を困難にしていた。上述したように、ゴム層等を焼却しようとしても、金属製スリーブと強固に接着されているため、また、ゴム層等が焼却に向かない材質である等の理由により、焼却によってゴム層を金属製スリーブから除去することが非常に困難であった。
このような特性を有する印刷用ブランケットから、ニッケルを効率的に回収しようとするのが本発明であり、以下、本発明のニッケル回収工程について説明する。
【0028】
〔金属製スリーブの溶解工程〕
まず、上述した、金属製スリーブ/接着層/ベース層/圧縮性層/非伸縮性層/ゴム層という構成を備え、所定の印刷を終えて不要となった印刷用ブランケットを、印刷機から取り外す。なお、印刷を終えた印刷用ブランケットに限らず、例えば、印刷用ブランケットの生産時に発生した不良品の印刷用ブランケットからニッケルを回収する場合等にも本発明が適用できることはもちろんである。
そして、この印刷用ブランケットを、切断処理する。これは、円筒状の印刷用ブランケットの内周側に存在する金属製スリーブを、後の溶解処理で十分に溶解液に接触させ、ニッケルの十分な回収を図るためである。
【0029】
切断方法としては、印刷用ブランケットの、中空の円筒状の一方の底面側から、他方の底面側に至るまで、その側面を切断すればよく、直線状に切断することが好ましいが、直線状に限られず、曲線の切断線で切断することも可能である。切断後は、印刷用ブランケットの断面が半円状になるように、押し広げることが好ましい。金属製スリーブは、上述したように、厚さは、例えば、0.15mm程度であり、力を加えることで押し広げることが可能である。しかし、押し広げる際に、その外側に形成された圧縮性層等の各層が歪み、また金属製スリーブ自体も歪むことになるため、円筒状に戻る方向に力が働くことになる。
【0030】
次に、繊維強化プラスチック(FRP;Fiber Reinforced Plastics)製の反応槽に、処理を行う印刷用ブランケットを配置する。上述したように、印刷用ブランケットの長さ方向の切断線で切断を行い、断面がほぼ半円状の形状になるように押し広げた状態とした。そして、反応槽の底に2本の印刷用ブランケット11を配置した状態を図1に示す。さらに多くの印刷用ブランケットを一度に処理することもできる。また、金属製スリーブの溶解処理が進行するように、図2に示すように、2本のブランケット上に、90度方向を変えた2本の印刷用ブランケットを配置する、というように、井桁状に配置することが好ましい。さらに、多くの印刷用ブランケットを処理する場合には、その上に、さらに90度方向を変えた2本の印刷用ブランケットを配置する、というように、順次積み重ねることができる。もちろん、一段が2本ずつではなく、一段に複数本ずつ配置して、井桁状に組むことも可能である。また、図2のように、金属製スリーブが下側になるように配置することが好ましいが、金属製スリーブが上側になるように配置してもよい。
【0031】
今回は、長さが1080mm、直径が295mmの円筒状の印刷用ブランケットを、その側面を切断した。反応槽内に、図2に示すように、印刷用ブランケット21、22を、2本を一段として井桁状に配置した。さらに、井桁状に合計8段積み重ね、合計で16本の印刷用ブランケットを配置した。そして、硫酸を希釈し、濃度30%の硫酸を用意した。ここで、硫酸濃度は、25%から35%が好ましい。濃度が低すぎると、溶解処理速度が遅くなってしまうし、濃度が高すぎても、溶解処理速度は高くならず、処理液のコストが高くなってしまう。なお、本明細書における濃度は、重量パーセント濃度である。この濃度30%の硫酸を溶解液として反応槽に入れ、印刷用ブランケットのニッケル部分の溶解処理を開始した。
【0032】
溶解処理にあたっては、液温を80℃にスチーム加温して一定に保ち、エアー攪拌を継続的に行った。液温は、70℃から90℃が、反応を促進する観点から好ましい。エアー攪拌は、図1及び図2に示す液流方向12、23、24に、溶解液が流れるように、エアーを放出して攪拌を行うことが好ましい。このように、印刷用ブランケットの長さ方向に、エアーを送り、溶解液の流れを作ることで、金属製スリーブの溶解処理が早く進行するようになる。このように溶解処理を行ったところ、2〜3日で、印刷用ブランケットの金属製スリーブ部分が完全に溶解した。
【0033】
金属製スリーブが溶解すると、印刷用ブランケットの金属製スリーブ以外の部分が、溶解液との比重の差から、反応槽表面に浮上した。それを反応槽から取り出すことで、印刷用ブランケットの金属製スリーブ以外の部分を取り出すことができた。このように、ゴム層と溶液を分離することができた。
反応槽から取り出したゴム層等を観察すると、金属製スリーブが存在していた面では、金属製スリーブが完全に溶解され、残存していない状態であり、接着層が露出していた。このように、ニッケルが理想的に回収された状態であった。
この工程において、金属製スリーブが溶解するにしたがって、溶解液のニッケル濃度が上昇する。ニッケル濃度が75g/l程度になるまでは、引き続き溶解処理を行うことが可能であり、溶解液中のニッケル濃度を測定しながら、印刷用ブランケットを溶解液中に追加投入して、処理を進めることが可能である。
【0034】
ニッケル濃度が75g/lを超えると、金属製スリーブの溶解速度が遅くなるため、また、その程度のニッケル濃度であれば、溶解液中に溶解したニッケルを効率的に取り出すために十分な濃度であることから、溶解処理を中止し、溶解液からニッケルを取り出す工程に進むことが適切である。
また、本発明では、溶解が進行すれば、金属製スリーブが完全に溶解しない状態でも、溶液を分離し、その溶液からニッケルを取り出すことは可能である。
【0035】
〔炭酸ニッケルの精製工程〕
上記のように、ニッケルを主成分とする金属製スリーブを硫酸にて溶解し、その溶解液、すなわち、硫酸ニッケル液という形で、ニッケルを回収することができた。このように、印刷用ブランケットを硫酸によって溶解し、金属製スリーブを除いたゴム層等の部分と、ニッケルが溶解した硫酸ニッケル液を取り出すことで、ゴム層等の部分とニッケル部分を分離して、ニッケルを回収した。この際の反応は、下記のとおりである。
【0036】
【化1】

【0037】
そして、得られた硫酸ニッケル液から、ニッケル成分を取り出す工程に移る。まず、反応槽から、硫酸ニッケル液を取り出す。そして、活性炭の中を通過させ、活性炭吸着をさせることによって、硫酸ニッケル液中の不純物を除去する。そして、下記反応により、硫酸ニッケル液から、炭酸ニッケルを取り出す。
【0038】
【化2】

【0039】
すなわち、第一の方法は、硫酸ニッケル液に、炭酸水素ナトリウムを加えることで、炭酸ニッケルを取り出す方法である。また、第二の方法は、炭酸ナトリウムを加えることで、炭酸ニッケルを取り出す方法である。
なお、純炭酸ニッケルは、下記反応式のとおり、一部が分子間加水分解を起こして、水酸化ニッケルを生成し、最終的に塩基性炭酸ニッケルとなる。
【0040】
【化3】

【0041】
炭酸ニッケルは、電気めっき、金属表面処理剤、顔料及び触媒として用いられる材料であり、本発明により、ニッケルを回収して、炭酸ニッケルの形で再利用することができるというものである。なお、ゴム層等の部分は、廃棄物として処理される。
このように硫酸を用いて、ニッケルを回収する方法は、コスト面、また環境面等で非常に有利である。例えば、溶解液として塩酸を用いた場合には、塩化ニッケルを得ることができるが、塩化ニッケルは塩素を含むため、その後の利用の際に、塩素が悪影響を与えることがあり、特定用途以外には、好まれない。また、硝酸を用いた場合には、硝酸ニッケルを得ることができるが、硫酸に比べてコスト高となるとともに、印刷用ブランケットのニッケルの溶解時に、窒素系のガスが発生する場合があり、環境に優しくない処理となる場合がある。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、オフセット印刷において用いられる、ニッケル製スリーブを有する印刷用ブランケットから、ニッケルを回収するニッケル回収方法に関する。
【符号の説明】
【0043】
1・・・ベース層
2・・・圧縮性層
3・・・非伸縮性層
4・・・表面印刷層(ゴム層)
g1・・・接着層
g2、g3、g4・・・接着剤層
B・・・印刷用ブランケット
S・・・スリーブ
11・・・印刷用ブランケット
12・・・液流方向
21、22・・・印刷用ブランケット
23、24・・・液流方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを含有する円筒状の金属製スリーブを有し、その周囲に、金属製スリーブ上に形成された接着層を少なくとも介して、継ぎ目がないゴム層が備えられてなる円筒状の印刷用ブランケットからのニッケル回収方法であって、前記円筒状の印刷用ブランケットの側面を、一方の底面側の端から他方の底面側の端に到るまで切断する工程と、切断された印刷用ブランケットを、その切断面同士を離間させた状態で、硫酸を入れた反応槽に浸漬する工程と、反応槽内の硫酸を撹拌して前記印刷用ブランケットの金属性スリーブの溶解を進行させる工程と、前記溶解が進行した後に、前記ゴム層と溶液を分離することで、ニッケルを回収する、印刷用ブランケットからのニッケル回収方法。
【請求項2】
前記溶液から、炭酸ニッケルを精製することで、ニッケルを回収する、請求項1記載の印刷用ブランケットからのニッケル回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−261071(P2010−261071A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112530(P2009−112530)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(509127480)リユース・ビズテック株式会社 (1)
【出願人】(509127491)大門化学株式会社 (1)
【Fターム(参考)】