説明

印刷用除塵ブランケット

【課題】 除塵効果に優れた印刷用除塵ブランケットを提供する。
【解決手段】 被印刷媒体に対して1〜500mN/cmの粘着強度を有する表面ゴム層3と、前記表面ゴム層3を支持するための支持体層2とを備えることを特徴とする印刷用除塵ブランケット1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用除塵ブランケットに関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷では印刷用ブランケット上の、特に画線部の周縁にインキや紙粉が堆積して盛り上がり、それが印刷品質に影響する、いわゆるブランケットパイリングと呼ばれる現象が発生する。この現象が発生すると、その近傍で印刷用ブランケットから印刷用紙へのインキの転移が阻害されるため、カスレや濃度低下などを生じ、印刷品質が劣化する。このため、印刷機を一旦停止してブランケット洗浄を実施して堆積物を除去するなどの対応が必要となる。
【0003】
多色輪転印刷機では、この運転停止と洗浄時間で印刷機の運転率が低下したり、材料ロス(損紙)が生じるため、問題となっている。これらを解決すべく印刷材料や部材の改良によりブランケットパイリングを防止する技術が、例えば特許文献1〜3に提案されているが、充分な効果は得られていない。
【0004】
特許文献4には、ダスト捕集装置が開示されている。特許文献4のダスト捕集装置では、エア吹き付けノズルと吸引ダクトとが、スリッタナイフ等を挟んで配置されており、シート材の走行方向と同じ方向に流れるエアをエア吹き付けノズルから吹き出させるため、次のような問題が生じるおそれがある。紙がスリッタナイフで切断されたときに発生する紙粉は、紙の走行方向の後方へまきあげられることになる。そして、まきあげられた紙粉は、エア吹き付けノズルで前方に飛ばされる。この紙粉は吸引ダクトで吸引されることになるが、紙粉にはエアの流れに誘引捕捉されないものも生じる。特に、エアの流れに誘引捕捉されずに、シート材の走行に随伴した紙粉は吸引ダクトで吸引されにくい。このため、吸引ダクトを通過してしまう紙粉が発生するおそれがある。吸引ダクトを通過した紙粉は以後は除去されることがないから、シート材の表面に落下して付着し、印刷などの工程に供されてしまうことになる。また、シート材の走行に随伴する紙粉を確実に吸引できるように、吸引ダクトをシート材に接近させると、スリッタナイフの後方ではシート材が切断されているから、シート材が吸引ダクトに接触して当て傷や吸い傷が生じるおそれがある。
【0005】
また、特許文献5に開示されている紙粉除去装置では、高速エアによって紙面から離脱した紙粉が吸引装置によって吸引されない場合には、雰囲気中に飛散することになって、作業雰囲気を悪化させるおそれが生じる。しかも、紙粉除去装置は紙の走行方向を変更するローラの部位に配されるから、当該部位が紙粉の発生箇所よりも離れている場合には、紙粉除去装置に供される前に既に紙粉が雰囲気中に飛散してしまっているおそれがある。
【0006】
特許文献6には、印刷用紙に接触して同印刷用紙に付着した紙粉を除去する粘着ローラと、粘着ローラに接触して同粘着ローラに付着した紙粉を除去する粘着ローラ再生用粘着テープとを備えた印刷機の紙粉除去装置が記載されている。特許文献6の装置によると、粘着ローラ並びに粘着ローラ再生用粘着テープを取り付ける専用設備が必要となる。そのため、何ら改造をしないままの印刷機に当該粘着ローラを採用することができないという問題がある。
【0007】
他方、特許文献7には、粘着シートを印刷ユニットにカバリング材として着脱可能に装着し、印刷直前に粘着シートが用紙と接面して紙粉を粘着することにより、用紙紙粉の粘着除去を行う紙粉除去装置が開示されている。特許文献7に記載の粘着シートは、ゴム系等の流動性のある粘着剤からなるため、粘着シートが用紙と接することで粘着シートに圧力が加わると、塑性変形を生じやすい。よって、粘着シートは紙粉の粘着に伴い表面形状が変形し、紙粉が粘着剤の内部に巻き込まれるため、一旦、粘着シートに紙粉が付着すると、その後に洗浄処理を施しても、粘着剤内部の紙粉を除去できず、よって再使用ができないという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平09−295469号公報
【特許文献2】特開平08−113748号公報
【特許文献3】特開平11−140791号公報
【特許文献4】特開平10−156796号公報
【特許文献5】特開2002−200591号公報
【特許文献6】特開平1−136748号公報
【特許文献7】特開平1−154758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、除塵効果に優れた印刷用除塵ブランケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態によれば、被印刷媒体に対して1〜500mN/cmの粘着強度を有する表面ゴム層と、
前記表面ゴム層を支持するための支持体層と
を備えることを特徴とする印刷用除塵ブランケットが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、除塵効果に優れた印刷用除塵ブランケットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例の印刷用除塵ブランケットを模式的に示す断面図。
【図2】実施例で使用した多色機印刷機の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0014】
実施形態に係る印刷用除塵ブランケット(以下、単に除塵ブランケットともいう)は、被印刷媒体に対して1〜500mN/cmの粘着強度を有する表面ゴム層と、表面ゴム層を支持するための支持体層とを備える。なお、印刷用ブランケットが粘着性を有すると、紙粉や異物(以下、紙粉等と称す)が堆積し、ブランケットパイリングが生じるため、印刷不良を招く。また、被印刷媒体が貼り付いてしまい、印刷ズレやジャミング(紙づまり)の原因になる。
【0015】
印刷用除塵ブランケットは、表面ゴム層に印刷前の被印刷媒体を接触させることにより、被印刷媒体に付着した紙粉等をブランケット上に捕獲し、被印刷媒体から紙粉等を除去し、繰り返し使用するためのものである。当該ブランケットは、印刷機中に組み込んで使用されることが望ましいが、印刷機とは別の装置に組み込んで使用することも可能である。適用可能な印刷機に、例えば、オフセット印刷機が挙げられる。除塵ブランケットの形状を印刷用ブランケットと同一もしくは略同一にすることができるため、除塵ブランケットを印刷機に取り付けるための専用設備が不要で、印刷機にそのまま取り付けることが可能である。また、多色機印刷機で印刷される媒体の除塵を行う場合において、この印刷機中においてインキ転写前に非使用の余分なブランケット胴が有る際には、このブランケット胴に除塵ブランケットを取り付けることにより、印刷工程(インライン)中に除塵ブランケットを組み込むことが可能となる。
【0016】
まず、表面ゴム層について説明する。
【0017】
表面ゴム層は、被印刷媒体に対して1〜500mN/cmの粘着強度を有する。被印刷媒体には、紙、コート紙、フィルム、金属など様々な種類のものがあり、材料が変われば同じ組成の表面ゴム層でも粘着強度が変化し得るが、本発明者らは、被印刷媒体に対して1〜500mN/cmの粘着強度を有する表面ゴム層によると、被印刷媒体の種類に拘らず、優れた除塵効果を得られることを見出したのである。
【0018】
すなわち、粘着強度が1mN/cm未満では、表面ゴム層の粘着力が低すぎて紙粉等を捕獲できない。他方、粘着強度が500mN/cmを超えると、表面ゴム層の粘着力が強すぎて、表面ゴム層から被印刷媒体が剥がれにくくなり、ジャミング、破れなどの不良を生じやすくなる。粘着強度の好ましい範囲は、被印刷媒体の種類によって変わり得るものではあるが、種々の被印刷媒体に対するジャミング、破れなどの不良防止と、除塵効果とを得るため、1mN/cm以上、200mN/cm未満の範囲、さらに除塵前後における粘着強度の変化を抑止するために、より好ましくは50mN/cm以上、200mN/cm未満の範囲にすることができる。
【0019】
被印刷媒体は、印刷可能な媒体であれば良い。被印刷媒体は、印刷機で現実に印刷が行われる種類に限定されるものではなく、当該印刷機で印刷可能な被印刷媒体であれば、除塵効果を期待できる。被印刷媒体の例には、更紙、新聞紙、ダンボール、コート紙、合成紙、ラベル、カード、紙幣、壁紙などの内外装材、フイルム、布、金属、ガラス、ゴムなどを挙げることができるが、被印刷媒体はこれらに限定されるものではない。金属には、金属板などの平板状のもの、または缶などの曲面を有する立体形状のもの、いずれでも良い。
【0020】
粘着強度は、JISK6854に一部準じている以下の条件で測定される。まず、除塵ブランケットを20×200mmの寸法に裁断し、測定用サンプルA(除塵ブランケットのサンプル)を得る。除塵ブランケットによる除塵前の被印刷媒体を25×220mmの寸法に裁断し、測定用サンプルB(被印刷媒体のサンプル)を得る。温度20±5℃、湿度65±20%RH環境下で測定用サンプルAの表面ゴム層を測定用サンプルBでこれらの界面に気泡が入らないように被覆し、15N/cm2で30秒間加圧する。加圧解除後、10±5分で測定用サンプルAと測定用サンプルBを180度方向に1000mm/minの速度で150mm剥離し、その時の粘着強度の平均を測定する。得られた値を被印刷媒体に対する粘着強度とする。
【0021】
表面ゴム層に含まれるゴムは、特に限定されるものではないが、例えば、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレン、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロスルフォン化ポリエチレン(CSM)、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどを挙げることができる。使用するゴムの種類は1種類または2種以上にすることができる。また、ブランケットの洗浄剤に応じてゴム種類を選択することが望ましい。
【0022】
表面ゴム層には、加硫剤(例えばイオウ)や、加硫促進剤、またはその両方を加える。加硫促進剤の例には、D.M(ジベンゾチアゾル、ジスフィド)、M(2−メルカプトベンゾチアゾール)が挙げられる。また、表面ゴム層には、老化防止剤、補強剤、充填剤、可塑剤、酸化チタン、含水珪酸アルミニウム主成分のクレー等の添加剤を含有させても良い。酸化チタン、含水珪酸アルミニウム主成分のクレーは、表面ゴム層の強度及び耐久性を向上させることができる。また、酸化チタン、含水珪酸アルミニウム主成分のクレーを添加すると、表面ゴム層の粘着力が低くなるため、粘着力の調整を行うことができる。
【0023】
表面ゴム層は、例えば、ゴムを含む組成物のシートを加硫することにより作製される。表面ゴム層の粘着力は、例えば、ゴムと可塑剤の種類を選択することにより発現させることができる。粘着力を発現させるゴムと可塑剤の選択として、ブチルゴムと、可塑剤のナフテン系オイル(例えば出光興産社製の商品名;ダイアナプロセスオイルNP24)との組み合わせを挙げることができる。ブチルゴムとナフテン系オイルを含む組成物のシートを加硫することにより、表面ゴム層に粘着力を付与することができる。また、加硫により表面ゴム層に弾性が付与されるため、除塵ブランケットの使用に伴う厚み減少などの塑性変形を抑えることができる。また、粘着剤の内部に紙粉等を巻き込む粘着シートと異なり、表面ゴム層は紙粉等をその内部に巻き込まないため、洗浄後に粘着力を回復させることが可能となる。
【0024】
表面ゴム層の粘着強度は、例えば、表面ゴム層の表面粗さを変えることにより、被印刷媒体との接触面積を変化させ、所望の値に制御することができる。例えば、表面ゴム層の表面を、鏡面を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムで覆った状態で加硫すると、PETフィルム剥離後の表面ゴム層が鏡面化され、被印刷媒体との接触面積が増加するため、表面ゴム層の粘着強度を高くすることができる。一方、PETフィルムの表面に粗面化処理を施して作製した粗面フィルム(マットフィルム)で表面ゴム層を被覆し、加硫を施すと、表面ゴム層の表面が粗くなり、表面ゴム層の粘着強度を低くすることができる。また、除塵ブランケットに加硫を施した後、表面ゴム層に研磨処理を施すことによって、表面ゴム層の表面粗さを粗くすることができるため、表面ゴム層の粘着強度を低くすることができる。被覆のために使用するシートは、PETフィルムのような樹脂フィルムに限らず、例えば布を使用しても良い。なお、表面粗さを変えずにゴム組成物の配合で表面ゴム層の粘着力を変えることも可能である。
【0025】
支持体層は、表面ゴム層の裏面側に配置される。表面ゴム層は粘着性を有するため、表面ゴム層の裏面側に支持体層を配置することにより、除塵ブランケットの装着性を高めることができる。また、除塵ブランケットをブランケット胴に装着した際の表面ゴム層の変形(伸び)を抑えることができる。支持体層は、基布またはフィルムを少なくとも1層含む。支持体層を構成する基布またはフィルムの数は特に限定されるものではなく、複数にすることもできる。基布とフィルムの双方を支持体層に含ませることもできる。基布は、例えば、綿、毛、麻、絹、レーヨン、キュプラ、アセテート、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリル、アクリレート、炭素繊維、アラミド、ポリイミド、金属繊維またはガラス繊維から形成することができる。基布を形成する材料の種類は、1種類または2種類以上にすることができる。フィルムには、PETフィルムのような樹脂フィルム、金属フィルム等を挙げることができる。
【0026】
印刷用除塵ブランケットの一例を図1に示す。図1は、実施例の印刷用除塵ブランケットを模式的に示す断面図である。図1に示すように、印刷用除塵ブランケット1は、支持体層2と、支持体層2に積層された表面ゴム層3とを含む。支持体層2は、例えば綿布からなる基布層4と、基布層4にNBR接着層5を介して積層された圧縮層6と、圧縮層6にNBR接着層7を介して積層された基布層8(例えば綿布からなる)と、基布層8にNBR接着層9を介して積層されたソリッド層10と、ソリッド層10にNBR接着層11を介して積層された基布層12(例えば綿布からなる)とを有する。このように、表面ゴム層3の裏面側に配置される少なくとも1層からなる層(例えば、基布層、圧縮層等)を総称して支持体層2という。
【0027】
支持体層2の構成は、図1に例示されるものに限定されるものではない。例えば、基布層4と表面ゴム層3の間に圧縮層6を配置し、これらを一体化したものを支持体層に用いても良い。また、圧縮層は、表面ゴム層の裏面に配された基布層と、この基布層の裏面側に配される少なくとも1層の基布層との間に備えても良い。ブランケットを構成する層同士の接着は、例えば、接着層により行うことができる。
【0028】
接着層及び圧縮層は、例えば、ゴム配合物のシートを加硫させることにより得られる。なお、ゴム配合物シートを加硫させたものの代わりに不織布を圧縮層として用いることが可能である。ゴム配合物に含まれるゴムには、例えば、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、フッ素ゴム(FKM)、ポリウレタンゴム(UR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)等の非極性ポリマーを用いることができる。ゴム配合物には、ゴム材料の他に、ゴム弾性体を得るための添加剤を含有させることが望ましい。添加剤としては、例えば、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、補強剤、充填剤、可塑剤等を挙げることができる。
【0029】
圧縮層は、スポンジのような多孔質構造か、ソリッド構造にすることができる。多孔質構造の形成方法としては、例えば、マイクロカプセルの添加、含浸紙を使う方法、塩の溶出法、発泡剤法等を採用することができる。
【0030】
印刷用除塵ブランケットにより捕獲した紙粉等は、表面ゴム層上に付着しているが、表面ゴム層の洗浄により印刷用除塵ブランケットを繰返し使用することができる。洗浄は、溶媒による拭き取り、エアの吹き付け、または、粘着テープまたは粘着ロールにより除去するなどの方法がある。洗浄して繰り返し使用できるのは、表面を覆っていた紙粉等を取り除くことで粘着性のゴム表面が現れるためである。表面ゴム層が弾性体であるため、洗浄後、元の形状に復元させることが可能である。溶媒洗浄の場合、ゴムが溶けない溶媒を選択する必要がある。表面ゴム層を溶媒に浸漬すると、ゴムと紙粉等との間に溶媒の膜が形成され、濡れている間は粘着力が失われ、紙粉等を容易に取り除くことが出来る。乾燥すると粘着力が初期状態の水準まで復元する。表面ゴム層の洗浄は、除塵ブランケットによる除塵中に行っても、あるいは除塵運転の休止中に行っても良い。除塵中に行う場合、例えば、表面ゴム層上に付着した紙粉等を粘着テープにより除去する方法が挙げられる。
【0031】
以上説明した実施形態に係る印刷用除塵ブランケットによれば、被印刷媒体に対して1〜500mN/cmの粘着強度を有する表面ゴム層を備えているため、被印刷媒体をブランケットに通過させることにより、被印刷媒体に付着した紙粉等を除去することができる。その際、ブランケットが被印刷媒体に直接接し、粘着力により紙粉等を回収するため、除塵時における雰囲気中への紙粉等の飛散を大幅に少なくすることができる。従って、被印刷媒体に付着した紙粉等の除去率を高めることができると共に、被印刷媒体への紙粉等の再付着を防止することができるため、印刷用ブランケットへの紙粉等の堆積(ブランケットパイリング)を少なくすることができ、ヒッキー不良を低減することができる。
【0032】
また、被印刷媒体がブランケット上をスムーズに通過するため、被印刷媒体がブランケットに貼り付くことによるジャミング、破れなどの不良を少なくすることができ、給紙適性を有する。
【0033】
さらに、除塵ブランケットを印刷用ブランケットと同一形状にすることにより、オフセット印刷機、輪転印刷機、枚葉印刷機などの各種印刷機のブランケット胴に装着するだけで直ちに使用可能となり、新たな設備投資を不要にすることができる。また、各種印刷機の印刷ユニットにおける1対の除塵用(印刷用)ブランケット胴の一方あるいは両方に印刷用除塵ブランケットを装着でき、被印刷媒体の片面あるいは両面から紙粉等を除去することができる。さらに、表面ゴム層は弾性を有するため、除塵処理の際に加わる圧力で塑性変形が起き難く、表面形状の変形を少なくすることができる。これにより、表面ゴム層内部に紙粉等が巻き込まれなくなるため、紙粉等を表面ゴム層から洗浄により容易に取り除くことができ、除塵ブランケットを洗浄により繰返し使用することができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の実施例を図面を参照して説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
ブチルゴム(ポリサー社製の商品名;ブチル402)100重量部、酸化チタン20重量部、含水珪酸アルミニウム主成分のクレー40重量部、可塑剤としてナフテン系オイル(出光興産社製の商品名;ダイアナプロセスオイルNP24)30重量部、加硫剤としてイオウ2重量部を混練りし、ゴムコンパウンドを得た。
【0036】
支持体層として、表面ゴム層の裏面に配置される層から順に、綿布(第一基布層)4、NBR接着層5、圧縮層(マイクロバルーンを配合したNBR多孔質層)6、NBR接着層7、綿布(第二基布層)8、NBR接着層9、NBRソリッド層10、NBR接着層11、綿布(第三基布層)12からなる積層物を用意した。この積層物を150℃で120分間加硫し、全体厚さが1.5mmの支持体層を形成した。
【0037】
ゴムコンパウンドを0.5mm厚で支持体層上にトッピングすることにより、支持体層上に表面ゴム層を形成した。表面ゴム層の表面を粗面フィルム(帝人デュポンフィルム社製の商品名;テイジンマットフィルムF2700−PS 厚さ250μm)で被覆し、160℃で60分間加硫後、被覆していたフィルムを剥離し、除塵ブランケットを得た。得られた除塵ブランケットを炭化珪素#80研磨布で、除塵ブランケット送り速度2m/min、研磨布速度1000m/minで研磨加工し、更紙と表面ゴム層との粘着強度が5mN/cmの図1に示す構造の除塵ブランケットを得た。なお、粘着強度の測定は、前述した方法で行った。
【0038】
(実施例2)
粗面フィルムの代わりに織布(岩尾社製の商品名;ポリエステル織布#5075生機)を用い、さらに研磨加工を行わないこと以外は、実施例1と同様な条件にして除塵ブランケットを得た。織布は粗面フィルムよりも平滑性が低いので、研磨加工を行わず、更紙と表面ゴム層との粘着強度は51mN/cmになった。
【0039】
(実施例3)
研磨加工の条件を、炭化珪素#2000研磨布で、除塵ブランケット送り速度2m/min、研磨布速度1000m/minにすること以外は実施例1と同様にして除塵ブランケットを得た。研磨布の粗さを小さくしたことにより表面ゴム層の平滑性が増加したため、更紙と表面ゴム層との粘着強度は185mN/cmであった。
【0040】
(実施例4)
研磨加工を行わないこと以外は、実施例1と同様にして除塵ブランケットを得た。研磨加工を行わなかったため、表面ゴム層の平滑性が高く、更紙と表面ゴム層との粘着強度は475mN/cmであった。
【0041】
(比較例1)
粗面フィルムの代わりに、鏡面を有する厚さが125μmのPETフィルム(ユニチカ社製の商品名;ポリエステルフィルムEMBLET SA)を用いること以外は、実施例1と同様な条件で除塵ブランケットを得た。得られた除塵ブランケットを炭化珪素#40研磨布で、除塵ブランケット送り速度2m/min、研磨布速度1000m/minで研磨加工し、更紙との粘着強度が0.2mN/cmの除塵ブランケットを得た。
【0042】
(比較例2)
研磨加工を行わないこと以外は、比較例1と同様にして除塵ブランケットを得た。更紙と表面ゴム層との粘着強度は800mN/cmであった。
【0043】
(比較例3)
アクリル系粘着剤を、厚さ0.1mmの不織布上に0.05mmの厚さでコーティングし、更紙と表面粘着剤層との粘着強度が3000mN/cmの粘着シートを得た。
【0044】
(比較例4)
ゴム系粘着剤を、厚さ0.1mmの不織布上に0.1mmの厚さでコーティングし、更紙と表面粘着剤層との粘着強度が6000mN/cmの粘着シートを得た。
【0045】
(実施例5)
実施例1で得た除塵ブランケットを用いて、被印刷媒体をPETフィルムに変更し、PETフィルムと表面ゴム層との粘着強度を測定したところ、7mN/cmであった。
【0046】
(実施例6)
実施例2で得た除塵ブランケットを用いて、被印刷媒体をPETフィルムに変更し、PETフィルムと表面ゴム層との粘着強度を測定したところ、60mN/cmであった。
【0047】
(実施例7)
実施例3で得た除塵ブランケットを用いて、被印刷媒体をPETフィルムに変更し、PETフィルムと表面ゴム層との粘着強度を測定したところ、195mN/cmであった。
【0048】
(実施例8)
実施例4で得た除塵ブランケットを用いて、被印刷媒体をPETフィルムに変更し、PETフィルムと表面ゴム層との粘着強度を測定したところ、490mN/cmであった。
【0049】
(比較例5)
比較例1で得た除塵ブランケットを用いて、被印刷媒体をPETフィルムに変更し、PETフィルムと表面ゴム層との粘着強度を測定したところ、0.5mN/cmであった。
【0050】
(比較例6)
比較例2で得た除塵ブランケットを用いて、被印刷媒体をPETフィルムに変更し、PETフィルムと表面ゴム層との粘着強度を測定したところ、900mN/cmであった。
【0051】
(比較例7)
比較例3で得た粘着シートを用いて、被印刷媒体をPETフィルムに変更し、PETフィルムと表面粘着剤層との粘着強度を測定したところ、3300mN/cmであった。
【0052】
(比較例8)
比較例4で得た粘着シートを用いて、被印刷媒体をPETフィルムに変更し、PETフィルムと表面粘着剤層との粘着強度を測定したところ、6500mN/cmであった。
【0053】
上記で作製した除塵ブランケットを図2に示す多色機印刷機に装着した。図2は、実施例で使用した多色機印刷機の概略構成を示している。多色機印刷機20は、給紙部21と、除塵部22と、印刷部23と、排紙部24とを備える。給紙部21は、被印刷媒体Xとしての更紙及びPETフィルムを枚葉搬送し、除塵部22に供給する。除塵部22は、1対の除塵ブランケット胴25a,25bを有する。除塵ブランケット胴25a,25bは、それぞれ、除塵ブランケットを多色機印刷機に常備されているブランケット胴に装着したものである。印刷部23は、4色刷りを行うため、4つの印刷ユニット261〜264を備える。印刷ユニット261〜264は、それぞれ、一対の印刷用ブランケット胴27a,27bと、印刷用ブランケット胴27a,27bそれぞれに版を転写するための版胴28a,28bとを有する。印刷用ブランケット胴27a,27bは、それぞれ、ブランケット胴に印刷用ブランケットを装着したものである。排紙部24は、印刷部23の後段に配置されている。
【0054】
給紙部21から除塵部22に枚葉搬送された被印刷媒体Xは、除塵ブランケット胴25a,25b間を通過することにより、表裏同時に紙粉等が除去される。除塵処理後、被印刷媒体Xは、印刷部23の印刷ユニット261〜264の印刷用ブランケット胴27a,27b間を通過することにより、表裏同時に順次4色の印刷が行われる。印刷済みの媒体Xは、排紙部24に供給される。
【0055】
上記構成の多色機印刷機において、除塵ブランケット胴25a,25b間に押圧0.4N/cm2で被印刷媒体Xを10000枚給紙した際の粘着強度、給紙適性、紙粉/異物除去効果を確認した。更紙を使用した場合(実施例1〜4及び比較例1〜4)の結果を表1に、PETフィルムを使用した場合(実施例5〜8及び比較例5〜8)の結果を表2に示す。
【0056】
10000枚給紙後の粘着強度を測定した後、実施例1〜8及び比較例1,2,5,6については、表面ゴム層の表面をメチルエチルケトン(MEK)溶媒を用いて拭き取り洗浄を行い、比較例3,4,7,8については、粘着シートの表面を粘着ローラを用いて洗浄した。比較例3,4,7,8の洗浄を粘着ローラを用いて行うのは、MEK溶媒で洗浄を行うと、粘着剤が離脱してしまうからである。洗浄後、再び、粘着強度を測定した。
【0057】
給紙適性として、10000枚を給紙したときに生じた紙詰まりの回数(ジャム回数)を測定した。
【0058】
紙粉等の除去効果は、10000枚給紙後の除塵ブランケットの表面ゴム層1m2中の紙粉等が付着した面積の割合を測定することで確認した。表面ゴム層1m2中の紙粉等付着面積が8割以上のものを多数(記号:二重丸)とし、5割以上8割未満のものを丸とし、1割以上5割未満のものを三角とし、1割未満のものを極小(記号:バツ印)で表示した。なお、比較例3,4,7,8では、ジャム回数が多すぎて、紙粉/異物除去効果を確認することができなかった。
【0059】
粘着層剥離については、除塵ブランケットによる除塵後、排紙部24に送られた被印刷媒体Xの表面を目視で観察し、表面ゴム層や粘着剤が剥離したものが被印刷媒体Xに付着しているか否かを確認した。
【表1】

【0060】
表1から明らかなように、実施例1〜4の除塵ブランケットは、紙粉等の除去効果が高く、ジャム回数が皆無で給紙適性を有しており、洗浄後に粘着強度が初期の水準まで回復し、洗浄による繰り返し使用が可能なものである。また、更紙への表面ゴム層の剥離転移が見られなかった。これに対し、被印刷媒体に対する粘着強度が1mN/cm未満の比較例1によると、給紙適性を有しているものの、紙粉等の除去効果が劣っていた。また、被印刷媒体に対する粘着強度が500mN/cmを超える比較例2によると、ジャム回数が多く、給紙適性に問題があった。一方、比較例3,4の粘着シートによると、被印刷媒体(更紙)に対する粘着強度が高すぎるため、更紙が粘着剤に強く接着してしまい、その結果、破れてしまった。さらに、比較例3,4の粘着シートによると、強粘着のため、被印刷媒体(更紙)に粘着剤が剥離して転移し、被印刷媒体が印刷に適さなくなった。その上、比較例3,4の粘着シートの表面には紙片等が絡み付いてしまい、粘着ローラによる洗浄後も残存し、洗浄後に再使用できなかった。また、粘着ローラによる洗浄の際に粘着剤の剥離が発生した。
【表2】

【0061】
表2から明らかなように、実施例5〜8の除塵ブランケットは、紙粉等の除去効果に優れ、ジャム回数が少なく給紙適性を有しており、洗浄後に粘着強度が初期の水準まで回復し、洗浄による繰り返し使用が可能なものである。また、PETフィルムへの表面ゴム層の剥離転移が見られなかった。実施例5〜8の紙粉等の除去効果が丸印なのは、その除去効果が実施例1〜4に比べて劣るのではなく、PETフィルム自体からの異物の発生が更紙に比べて少ないためであることに注意されたい。これに対し、被印刷媒体に対する粘着強度が1mN/cm未満の比較例5によると、給紙適性を有しているものの、紙粉等の除去効果が劣っていた。また、被印刷媒体に対する粘着強度が500mN/cmを超える比較例6によると、ジャム回数が多く、給紙適性に問題があった。一方、比較例7,8の粘着シートによると、被印刷媒体(PETフィルム)に対する粘着強度が高すぎるため、PETフィルムが粘着剤に強く接着してしまい、その結果、破れてしまった。さらに、比較例7,8の粘着シートによると、強粘着のため、被印刷媒体(PETフィルム)に粘着剤が剥離して転移し、被印刷媒体が印刷に適さなくなった。その上、比較例7,8の粘着シートの表面には紙片等が絡み付いてしまい、粘着ローラによる洗浄後も残存し、洗浄後に再使用できなかった。また、粘着ローラによる洗浄の際に粘着剤の剥離が発生した。
【符号の説明】
【0062】
1…印刷用除塵ブランケット、2…支持体層、3…表面ゴム層、4…綿布(第一基布層)、5…NBR接着層、6…圧縮層(マイクロバルーンを配合したNBR多孔質層)、7…NBR接着層、8…綿布(第二基布層)、9…NBR接着層、10…NBRソリッド層、11…NBR接着層、12…綿布(第三基布層)、20…多色機印刷機、21…給紙部、22…除塵部、23…印刷部、24…排紙部、25a,25b…除塵ブランケット胴、261〜264…印刷ユニット、27a,27b…印刷用ブランケット胴、28a,28b…版胴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷媒体に対して1〜500mN/cmの粘着強度を有する表面ゴム層と、
前記表面ゴム層を支持するための支持体層と
を備えることを特徴とする印刷用除塵ブランケット。
【請求項2】
前記粘着強度は、1mN/cm以上、200mN/cm未満の範囲であることを特徴とする請求項1記載の印刷用除塵ブランケット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−111110(P2012−111110A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261414(P2010−261414)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000142436)株式会社金陽社 (25)
【Fターム(参考)】