説明

印刷適性に優れたフィルム

【課題】
本発明は、柔軟なポリプロピレン樹脂製フィルムにおいてもコロナ処理効果の経時低下が少なく、水性インキ印刷適性に優れるフィルムを提供するものである。
【解決手段】
分子量分布が重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で4.5以下であるエチレン−プロピレン共重合体或いはエチレン−プロピレン−ブテン系3元共重合体が表面層として積層されており、製膜した後にコロナ処理を施し該コロナ処理3日後の表面張力がコロナ処理直後の80%以上である、厚み100μm以下のフィルムとし、且つジエチルエーテルにて2日間浸漬されて得られる抽出物が3000ppm以下とする。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インキの印刷適性に優れた柔軟性、透明性、光沢に優れたフィルム或いはシートに関するものである。
【0002】
最近は地球環境、労働環境或いは食品用包装における安全性を考慮する必要性から溶剤系インキに使用されているトルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトンを対象にしたVOC(揮発性有機化合物)の排出規制について検討が進められて、水とアルコールを媒体とする水性インキが印刷加工コンバーターで積極的に採用され始めた。
【0003】
一般的に、印刷されるフィルム或いはシート(以後フィルムとする)は、疎水性の性質を示すため、印刷面にコロナ処理を施す必要がある。特に、ポリプロピレン樹脂を表面層に用いたフィルムはコロナ処理を行なっても経時変化により表面張力が低減しやすいために水性インキが綺麗に乗り難いものであった。その原因は、ポリプロピレン製フィルム中に含まれる酸化防止剤、滑剤、触媒中和剤、低分子量成分が表面移行しやすいことに由来して表面張力が低減すると考えられている。ホモポリプロピレン樹脂を表面層とすると、樹脂中の結晶による抽出物の表面移行を阻害するので表面張力の低下を抑制する効果があると考えられているが、柔軟性に劣る。一方、柔軟性を有するエチレン−プロピレン共重合樹脂のようなコポリマーを採用するとホモポリプロピレン樹脂に比較して結晶化度が低いためにコロナ処理を施しても、経時的に表面張力が低下しやすい傾向にある。したがって、水性インキの印刷適性に欠けるために、エチレン−プロピレン共重合樹脂製の柔軟なフィルムについては水性インキ印刷に使用することが困難とされてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前述の如き従来の問題点を解消し、コロナ処理効果の経時低下が少なく、水性インキ印刷適性に優れる柔軟なフィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題を解決達成するためには、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で定義される分子量分布が4.5以下であるエチレン−プロピレン共重合体或いはエチレン−プロピレン−ブテン系3元共重合体を表面層とする積層フィルムであって、表面層のコロナ処理後3日後の表面張力はコロナ処理直後80%以上であり、ジエチルエーテルにて2日間浸漬されて得られる抽出物が3000ppm以下であることを特徴とする印刷適性に優れた積層フィルムとする。
【0006】
上記、エチレン−プロピレン共重合体或いはエチレン−プロピレン−ブテン系3元共重合体の分子量分布が4.5以下であることによって、コロナ処理効果の経時変化が小さく高い表面張力を長期間維持できるフィルムとなる。
【0007】
また、表面層として、エチレン−プロピレン系共重合体、エチレン−ブテン系共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン系3元共重合体等を用いることによって表面層とすることでフィルムは光沢の優れたものとなる。
【0008】
さらに、表面層に、コロナ処理を施し該コロナ処理3日後の表面張力がコロナ処理直後の80%以上であることにより、水性インキがフィルム表面で撥じかれず、美麗に印刷を仕上げることが可能となる。
【0009】
さらに、ジエチルエーテルにて2日間浸漬されて得られる抽出物から換算されるフィルム中の抽出物を3000ppm以下とすることにより、フィルム中に含まれる抽出物がコロナ処理された表面へ移行量が少なくなり、水性インキがフィルム表面で撥じかれず、美麗に印刷を仕上げることが可能となる。
【0010】
上記フィルム中に含まれる抽出物の例としては、例えば、酸化防止剤、滑剤、触媒中和剤などが挙げられるが、特に限定されるものではなく、ジエチルエーテルにより抽出される量が少ないことが重要である。
【0011】
ジエチルエーテルにより抽出されやすいことは抽出物の表面移行性が大きいことを意味しているため、逆に抽出され難ければ、抽出物の表面移行性が低いことになる。従って、水性インキの表面密着力を上昇するためにはフィルム表面の表面張力を高く維持するために、表面移行しやすい抽出物を減少させる必要がある。
【0012】
ジエチルエーテルにて2日間浸漬されて得られる抽出物から換算されるフィルム中の抽出物が3000ppmを超えると、コロナ処理直後の表面張力は高くても経時的に低下してしまう。本発明のコロナ処理3日後の表面張力は、コロナ処理直後の80%以上である。コロナ処理3日後の表面張力が、コロナ処理直後の80%以上にすることにより、水性インキの印刷適性が良好となる。
【0013】
次に、本発明の印刷適性に優れたフィルムの層構成について説明する。本発明は、分子量分布が4.5以下であるエチレン−プロピレン共重合体或いはエチレン−プロピレン−ブテン系3元共重合体が表面層として中心層に積層されている。中心層は柔軟な材料であれば特に限定されず、例えば、表面層と同等か或いは表面層よりも更に柔軟な樹脂を採用することが好ましい。
【0014】
上記柔軟な樹脂としては、例えば、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン系3元共重合体、密度が0.920g/cm3以下のエチレン−α−オレフィン共重合体、スチレン系共重合エラストマー等が挙げられる。
【0015】
本発明の印刷適性に優れたフィルムを製袋用途に用いる場合であれば、ヒ−トシール強度を向上する目的で表面層のメルトマクロフローレイト(MFR、単位g/10分、樹脂温度230℃)を2.0〜9.0とすることが好ましい。9.0を超えるとヒ−トシールの際に溶融樹脂の糸引き発生する恐れがあり、2.0未満では安定的にフィルム成形することが難しくなる。
【0016】
本発明の印刷適性に優れたフィルムの厚さは100μmを超えると剛性が高過ぎて柔軟なフィルムを提供するという本来の目的から外れるため100μm以下が好ましく、包装フィルムの強度を必要とすれば最低でも15μm以上であることが好ましい。
【0017】
また、中心層に用いられるエチレン−α−オレフィン共重合体のメルトマクロフローレイトは、より好ましくは0.5〜3.5である。それによってヒ−トシール強度がより向上するだけでなく、ヒ−トシール時の溶融樹脂糸引き現象を防止できるため、ピンホールが無く外観も優れたフィルムが得られる。
【0018】
本発明の印刷適性に優れたフィルムを製造する方法は、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂の性質を利用した溶融押出しによるインフレーション成形法、Tダイ成形法が簡便な方法として挙げられる。特にフィルムに透明性及び光沢を得る目的の用途ではTダイ成形法によりロール内部を水冷した冷却ロールで溶融状態にある樹脂を冷却することが好ましい。表面層と中心層の積層構成を得る方法として共押出し法、及び一旦、上述方法によってフィルム製膜したものを押出しラミネートする方法、中心層の両面に表面層を設ける3枚以上のフィルムをドライラミネートする方法が挙げられるが限定されるものではなく適宜コストや必要とする品質に応じた選択をすれば良い。
【発明の効果】
【0019】
分子量分布が4.5以下であるエチレン−プロピレン共重合体或いはエチレン−プロピレン−ブテン系3元共重合体を表面層とする積層フィルムであって、表面層のコロナ処理3日後表面張力がコロナ処理直後の80%以上であり、厚み100μm以下で、ジエチルエーテルにて2日間浸漬されて得られる抽出物を3000ppm以下とすることにより、水性インキ印刷適性に優れる柔軟なフィルムを提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に実施例を示す。
(実施例1)
中心層としてメルトマクロフローレート(MFR)6.0g/10分(190℃)、密度0.900g/cm3、分子量分布が重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で3.6のエチレン−プロピレン−ブテン3元系共重合体を用い、その両側の表面層としてMFR7.5g/10分(230℃)、密度0.900g/cm3、分子量分布が4.4のエチレン−プロピレン共重合体にエルカ酸アミド系滑剤600ppm、シリコーン系アンチブロッキング剤500ppmを配合し、フィードブロック共押出し方式により多層化した後250℃にてTダイ製膜を行ない30℃でロール冷却することにより層厚の比1:3:1である表面層/中心層/表面層の構成の厚さ80μmの多層フィルムを得た。
【0021】
(実施例2)
中心層を、MFR2.0g/10分(190℃)、密度0.915g/cm3の線状低密度ポリエチレンとした以外は実施例1と同様にして多層フィルムを作成した。
【0022】
(実施例3)
表面層として、分子量分布が4.4、密度0.900g/cm3、MFR7.5g/10分(230℃)のエチレン−プロピレン共重合体にエルカ酸アミド系滑剤600ppm、シリコーン系アンチブロッキング剤500ppmを配合したこと以外は実施例1と同様にして多層フィルムを作成した。
【0023】
(比較例1)
エルカ酸アミド系滑剤を両側表面層に4000ppmづつ配合したこと以外は実施例1と同様にして多層フィルム製作した。
【0024】
(比較例2)
コロナ処理を施す条件として電力1kWへ低減し、1時間後の表面張力を38mmN/mとした以外は実施例1と同様にして多層フィルムを作成した。
【0025】
(比較例3)
表面層に、分子量分布が6.0、密度0.900g/cm3、MFR7.5g/10分(230℃)のエチレン−プロピレン共重合体を使用したこと以外は実施例1と同様にして多層フィルムを作成した。
【0026】
得られた多層フィルムを下記の測定方法で性能を評価した。
(評価方法)
(1)抽出量:得られた積層フィルムに、インラインにてコロナ処理を施し、表面張力が54mmN/mである多層フィルムを作成した。得られた多層フィルムを細かく裁断し、ジエチルエーテル300ml中に2日間室温にて浸漬し、ろ過した後にエバポレーターで濃縮後乾燥した残さの重量を測定し、元のフィルム重量から抽出物濃度を算出した。
(2)処理直後と3日後の表面張力の測定:JIS−K6768の濡れ性試験法に準じて測定を行った。
(3)水性インキ撥性:水性インキ1mlをフィルム表面に滴下した後、5秒後の液体状態を目視により評価を実施した。
○:水性インキが薄く広がっている状態。
×:水性インキが撥じかれている状態。
【0027】
実施例および比較例について、測定結果を表1、表2にまとめた。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0030】
製袋用途に利用できる水性インキ印刷ができる柔軟なポリプロピレン樹脂製フィルムを提供するものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)で定義される分子量分布が4.5以下であるエチレン−プロピレン共重合体或いはエチレン−プロピレン−ブテン系3元共重合体を表面層とする積層フィルムであって、表面層のコロナ処理3日後の表面張力がコロナ処理直後の80%以上であり、ジエチルエーテルにて2日間浸漬されて得られる抽出物が3000ppm以下であることを特徴とする印刷適性に優れた積層フィルム。


【公開番号】特開2006−7490(P2006−7490A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185432(P2004−185432)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(596111276)積水フイルム株式会社 (133)
【Fターム(参考)】