説明

卵凍結保存用具

【課題】卵の凍結保存を確実かつ容易に行うことができる卵凍結保存用具を提供する。
【解決手段】卵凍結保存用具1は、液体窒素耐性材料により形成された本体部2と、液体窒素耐性材料により形成された卵付着保持用ストリップ3と、卵付着保持用ストリップ3を被包可能に本体部2に着脱自在に取り付けられる一端が封鎖され、かつ液体窒素耐性材料により形成された筒状部材4とからなる。卵付着保持用ストリップ3は、可撓性かつ無色透明な平坦フィルム状となっており、本体部2は、卵付着保持用ストリップ3の一端を保持するとともに、筒状部材4の他端内に侵入し係合する円柱状部5を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物の卵子、胚などの卵を凍結保存する際に使用する卵凍結保存用具に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物胚の凍結保存は、特定の系統や品種の遺伝資源の保存を可能とする。また、絶滅の危機に瀕している動物種の維持にも有効である。さらに、ヒトの不妊治療においても有用である。
哺乳動物胚の凍結保存方法としては、特開2000−189155公報(特許文献1)において、哺乳動物胚または卵子を滅菌処理した凍結ストロー、凍結バイアルまたは凍結チューブ等の凍結保存用容器の内面に、これらの胚または卵子を包被するに充分な最少量のガラス化液で貼り付け、この凍結保存用容器を密封し、そしてこの容器を液体窒素に接触させて急速に冷却することが提案されている。そして、融解方法では、前記の方法で保存した凍結保存用容器を前記液体窒素から取り出し、容器の一端部を開口し、この容器内に33〜39℃の希釈液を直接注入し、胚または卵子の凍結を融解希釈するものである。この方法によれば、哺乳動物胚または卵子をウイルスや細菌による感染のおそれがなく高い生存率で保存および融解希釈することのできるという優れた効果を備えている。
【0003】
【特許文献1】特開2000−189155公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、凍結ストロー、凍結バイアルまたは凍結チューブ等の凍結保存用容器の内面に、胚または卵子などの卵を包被するに充分な最少量のガラス化液で貼り付ける作業が必ずしも容易ではなかった。
そこで、本発明の目的は、卵の凍結保存作業を確実かつ容易に行うことができる卵凍結保存用具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するものは、以下のものである。
(1)液体窒素耐性材料により形成された本体部と、液体窒素耐性材料により形成され可撓性かつ無色透明な平坦フィルム状となっている卵付着保持用ストリップと、該卵付着保持用ストリップを被包可能に前記本体部に着脱自在に取り付けられる一端が封鎖され、かつ液体窒素耐性材料により形成された筒状部材とからなる卵凍結保存用具であって、前記本体部は、前記卵付着保持用ストリップの一端を保持するとともに、前記筒状部材の他端内に侵入し係合する円柱状部を備えている卵凍結保存用具。
(2)液体窒素耐性材料により形成された本体部と、液体窒素耐性材料により形成された卵付着保持用ストリップと、該卵付着保持用ストリップを被包可能に前記本体部に着脱自在に取り付けられる一端が封鎖され、かつ液体窒素耐性材料により形成された筒状部材とからなる卵凍結保存用具であって、該卵凍結保存用具は、顕微鏡下において、該卵凍結保存用具の前記卵付着保持用ストリップの先端部に卵子を少量のガラス化液とともに付着させ、卵子が付着したストリップ部分を液体窒素に浸漬し凍結させるためのものであり、前記卵付着保持用ストリップは、可撓性かつ無色透明な平坦フィルム状となっており、さらに、前記卵凍結保存用具の前記本体部は、前記卵付着保持用ストリップの一端を保持するとともに、前記筒状部材の他端内に侵入し係合する円柱状部を備えている卵凍結保存用具。
(3) 前記卵付着保持用ストリップは、幅が0.5〜2.0mm、厚さが0.01〜0.4mmである(1)または(2)に記載の卵凍結保存用具。
(4) 前記卵付着保持用ストリップの形成材料、3−フッ化ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、超高分子量ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体のいずれかである(1)ないし(3)のいずれかに記載の卵凍結保存用具。
(5) 前記筒状部材は、前記卵付着保持用ストリップに接触することなく被包できる内径および長さを備えている請求項(1)ないし(4)のいずれかに記載の卵凍結保存用具。
【発明の効果】
【0006】
本発明の卵凍結保存用具は、卵付着保持用ストリップを備えることにより、卵子もしくは胚などの卵をガラス化液と共に付着保持することが容易であり、さらに、卵の液体窒素への浸漬作業も容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の卵凍結保存用具を図面に示す実施例を用いて説明する。
図1は、本発明の実施例の卵凍結保存用具の正面図である。
図2は、図1に示した卵凍結用保存用具の筒状部材を本体部材より離脱させた状態の正面図である。図3は、図2に示した卵凍結用保存用具の本体部材の側面図である。図4は、図1に示した卵凍結保存用具の本体部材の先端部分および筒状部材の拡大正面図である。図5は、図1に示した卵凍結保存用具の本体部材の先端部分および筒状部材の拡大断面図である。
【0008】
本発明の卵凍結保存用具1は、液体窒素耐性材料により形成された本体部2と、液体窒素耐性材料により形成された卵付着保持用ストリップ3と、卵付着保持用ストリップ3を被包可能に本体部2に着脱自在に取り付けられる一端が封鎖され、かつ液体窒素耐性材料により形成された筒状部材4とからなる。卵付着保持用ストリップ3は、可撓性かつ無色透明な平坦フィルム状となっており、本体部2は、卵付着保持用ストリップ3の一端を保持するとともに、筒状部材4の他端内に侵入し係合する円柱状部5を備えている。
またこの卵凍結保存用具1は、耐寒性材料により形成された本体部2と、本体部2の一端に取り付けられ、可撓性かつ透明性かつ液体窒素耐性材料により形成された卵付着保持用ストリップ3と、卵付着保持用ストリップ3を被包可能に本体部2に着脱自在に取り付けられる一端が封鎖され、かつ耐寒性材料により形成された筒状部材4とからなるものである。
本発明の卵凍結保存用具は、卵ガラス化保存用具、卵子または胚凍結保存用具、卵子または胚ガラス化保存用具と言い換えることができる。
本発明の卵凍結保存用具は、卵凍結保存用具本体部材10と、これに着脱自在に取り付けられる筒状部材4とからなる。なお、筒状部材4を設けず、卵凍結保存用具本体部材10を単独としても卵凍結保存用具として使用することもできる。
卵凍結保存用具本体部材10は、耐寒性材料により形成された本体部2と、本体部2の一端に取り付けられ、可撓性かつ透明性かつ液体窒素耐性材料により形成された卵付着保持用ストリップ3とからなる。
【0009】
この実施例の卵凍結保存用具本体部材10では、本体部2は、細長い平板状本体部となっている。本体部の長さとしては、50〜200mm程度が好適である。また、平板状本体部の場合の幅としては、3〜10mm程度が好適であり、厚さは、1〜3mm程度が好適である。そして、本体部材10は、卵付着保持用ストリップ3の一端を保持するとともに筒状部材4の他端内に侵入し係合する円柱状部5を備えている。この円柱状部は、先端に向かってテーパー状に若干縮径している。円柱状部の外径としては、0.5〜3mm程度が好適である。そして、円柱状部5の先端には、図5に示すように、卵付着保持用ストリップ3の一端を収納するための軸方向に延びる凹部が形成されている。
本体部2は、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体)、スチレン系樹脂(例えば、ポリスチレン、メタクリレート−スチレン共重合体、メタクリレート−ブチレン−スチレン共重合体)、ポリアミド(例えば、6ナイロン,66ナイロン)、ポリサルホン、フッ素樹脂、ポリイミド等の耐寒性樹脂が使用され、特に、液体窒素の温度に耐え得るものが好ましい。
【0010】
卵付着保持用ストリップ3は、可撓性かつ透明性かつ液体窒素耐性材料により形成されており、この実施例では、細長い平坦フィルム状のものとなっている。ストリップ3は、卵付着作業を容易にするために、可撓性かつ無色透明な平坦フィルム状のものが用いられている。卵付着保持用ストリップ3の露出する部分の長さは、10〜30mm程度、幅0.5〜2.0mm程度、厚さが0.01〜0.4mm程度のものが用いられる。
そして、卵付着保持用ストリップ3は、他端部(基端部)が、上述した本体部2の凹部に収納され、接着剤により本体部2に固着されている。
卵付着保持用ストリップ3の形成材料としては、例えば、3−フッ化ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、超高分子量ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの合成樹脂からなるフィルムあるいはそれらの積層体が挙げられる。特に、液体窒素耐性材料、言い換えれば、液体窒素に接触しても脆化しないものが使用される。
【0011】
筒状部材4は、卵付着保持用ストリップ3を被包可能に本体部2に着脱自在に取り付けられる一端が封鎖され、かつ耐寒性材料により形成されたものである。特に、この実施例の筒状部材4は、一端側内部に挿入された綿状体12により通気可能に封止されており、他端部がテーパー状に拡径するテーパー部となっている。そして、筒状部材4内に収納された綿状体12は接着剤13により固定されている。
筒状部材4は、卵付着保持用ストリップ3に接触することなく被包できる内径および長さを備えている。そして、筒状部材4がテーパー部を備えることにより、ストリップ3の筒状部材内への挿入を容易にしているとともに、本体部2の円柱状部分の筒状部材内への侵入も容易なものとしている。
筒状部材4の形成材料としては、例えば、3−フッ化ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、超高分子量ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体などの合成樹脂からなるフィルムあるいはそれらの積層体が挙げられる。特に、液体窒素耐性材料、言い換えれば、液体窒素に接触しても脆化しないものが好ましい。
【0012】
次に、筒状部材保持器具について図面に示した実施例を用いて説明する。
図6は、筒状部材保持器具の正面図である。図7は、図6に示した筒状部材保持器具の解放状態の先端部分拡大図である。
筒状部材保持器具20は、先端側に挟持部25,26を備え、後端側に把持部23,24を備える2つの保持部材21,22からなり、2つの保持部材21,22の挟持部25,26と把持部23,24間において回動自在に軸支された鋏鉗子状の筒状部材保持器具である。そして、2つの保持部材21,22の向かい合う挟持部25,26には、細径の筒状部材を実質的に潰すことなく保持するための向かい合う一組の凹部31,32が形成されている。
この筒状部材保持器具は、上述した卵凍結保存用具の筒状部材4を保持するために有効に使用される。
【0013】
筒状部材保持器具20は、2つの保持部材21,22からなり、それらは、ほぼ左右対称なものとなっている。保持部材21は、先端側に挟持部25を後端側に把持部23を備えている。同様に、保持部材22は、先端側に挟持部26を後端側に把持部24を備えている。挟持部25,26には、向かい合う刃部27,28と、挟持部25,26の先端部に設けられた向かい合う一対の凹部31,32を備えている。また、2つの保持部材21,22は、挟持部25,26と把持部23,24間において、軸29により回動自在に軸支されている。そして、凹部31,32は、筒状部材保持器具20の上記凹部31,32部分において、筒状部材4を挟持したとき、細径の筒状部材を実質的に潰すことなく保持できる大きさに形成されている。具体的には、凹部31,32により構成される円状開口部の内径が保持する筒状部材の外径より若干小さくなるように形成されている。
【0014】
さらに、筒状部材保持器具は、図6および図8に示すように、筒状部材を保持した状態を維持するための2つの保持部材21,22に設けられた保持状態維持機構35,36を備えている。具体的には、2つの保持部材21,22の把持部23,24付近より他方の保持部材方向に延びる平板状突起部35,36を備えており、この平板状突起部の接触する内面には、図8に示すように、断面鋸刃状の段階的係合可能部が形成されている。このため、筒状部材保持器具20の凹部部分において筒状部材を挟持した状態において、保持部材21,22の把持部23,24を近接する方向に押すと、保持状態維持機構35,36の断面鋸刃状部分が係合し、その状態を維持するようになっている。このため、この筒状部材保持器具20では、筒状部材を保持状態の維持に特別な力を加えている必要がなく、筒状部材4をストリップ3を被包し、かつ、本体部2に取り付ける操作が容易である。また、保持状態維持機構35,36の係合は、横方向、言い換えれば、図8の上下方向に、2つの保持部材21,22を広げることにより解除することができる。
筒状部材保持器具は、ステンレス鋼、チタン合金などの金属により作製される。
【0015】
次に、本発明の卵凍結保存用具1および筒状部材保持器具20の使用方法について説明する。
この説明では、卵子を凍結保存する場合を例に取り説明する。
まず、ピペットの先端に卵子を採取し、卵子の細胞内液を平衡液に置換する作業を行い、さらに、細胞外液をガラス化液に置換する作業を行う。そして、顕微鏡下において、本発明の卵凍結保存用具1の卵付着保持用ストリップ3の先端部に卵子を少量のガラス化液とともに付着させ、卵子が付着したストリップ部分をあらかじめ準備しておいた液体窒素に浸漬し凍結(ガラス化)させる。そして、あらかじめ準備してある筒状部材4を保持しその状態が維持されている筒状部材保持器具を用いて、筒状部材4を本体部材10に取り付け、筒状部材保持器具を取り外した後、収納容器(ケーン)内に、ガラス化した卵子を付着保持する卵凍結保存用具を収納した後、収納容器を液体窒素タンク内に入れ保存する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施例の卵凍結保存用具の正面図である。
【図2】図2は、図1に示した卵凍結用保存用具の筒状部材を本体部材より離脱させた状態の正面図である。
【図3】図3は、図2に示した卵凍結用保存用具の本体部材の側面図である。
【図4】図4は、図1に示した卵凍結保存用具の本体部材の先端部分および筒状部材の拡大正面図である。
【図5】図5は、図1に示した卵凍結保存用具の本体部材の先端部分および筒状部材の拡大断面図である。
【図6】図6は、筒状部材保持器具の正面図である。
【図7】図7は、図6に示した筒状部材保持器具の解放状態の先端部分拡大図である。
【図8】図8は、筒状部材保持器具の保持状態維持機構を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0017】
1 卵凍結保存用具
2 本体部
3 卵付着保持用ストリップ
4 筒状部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体窒素耐性材料により形成された本体部と、液体窒素耐性材料により形成された卵付着保持用ストリップと、該卵付着保持用ストリップを被包可能に前記本体部に着脱自在に取り付けられる一端が封鎖され、かつ液体窒素耐性材料により形成された筒状部材とからなる卵凍結保存用具であって、前記卵付着保持用ストリップは、可撓性かつ無色透明な平坦フィルム状となっており、前記本体部は、前記卵付着保持用ストリップの一端を保持するとともに、前記筒状部材の他端内に侵入し係合する円柱状部を備えていることを特徴とする卵凍結保存用具。
【請求項2】
液体窒素耐性材料により形成された本体部と、液体窒素耐性材料により形成された卵付着保持用ストリップと、該卵付着保持用ストリップを被包可能に前記本体部に着脱自在に取り付けられる一端が封鎖され、かつ液体窒素耐性材料により形成された筒状部材とからなる卵凍結保存用具であって、該卵凍結保存用具は、顕微鏡下において、該卵凍結保存用具の前記卵付着保持用ストリップの先端部に卵子を少量のガラス化液とともに付着させ、卵子が付着したストリップ部分を液体窒素に浸漬し凍結させるためのものであり、前記卵付着保持用ストリップは、可撓性かつ無色透明な平坦フィルム状となっており、前記本体部は、前記卵付着保持用ストリップの一端を保持するとともに、前記筒状部材の他端内に侵入し係合する円柱状部を備えていることを特徴とする卵凍結保存用具。
【請求項3】
前記卵付着保持用ストリップは、幅が0.5〜2.0mm、厚さが0.01〜0.4mmである請求項1または2に記載の卵凍結保存用具。
【請求項4】
前記卵付着保持用ストリップの形成材料は、3−フッ化ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、超高分子量ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体のいずれかである請求項1ないし3のいずれかに記載の卵凍結保存用具。
【請求項5】
前記筒状部材は、前記卵付着保持用ストリップに接触することなく被包できる内径および長さを備えている請求項1ないし4のいずれかに記載の卵凍結保存用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−271395(P2006−271395A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163921(P2006−163921)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【分割の表示】特願2001−120225(P2001−120225)の分割
【原出願日】平成13年4月18日(2001.4.18)
【出願人】(593037553)株式会社北里サプライ (5)
【Fターム(参考)】