説明

卵巣癌の検出方法、卵巣癌と子宮内膜症との鑑別方法、並びに、キット

【課題】被験者における卵巣癌と子宮内膜症とを高精度で鑑別できる技術を提供する。
【解決手段】被験者の体液中におけるCA125に結合しているシアリルTn抗原を指標として、前記被験者における卵巣癌を検出することを特徴とする卵巣癌の検出方法が提供される。CA125に対する抗体とシアリルTn抗原に対する抗体とを組み合わせたサンドイッチイムノアッセイを採用することができる。当該方法を用いた卵巣癌と子宮内膜症との鑑別方法、並びに、これらの方法に用いるためのキットも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵巣癌の検出方法、卵巣癌と子宮内膜症との鑑別方法、並びに、キットに関し、さらに詳細には、体液中におけるCA125に結合しているシアリルTn抗原を指標とする卵巣癌の検出方法、当該方法を用いた卵巣癌と子宮内膜症との鑑別方法、並びに、これらの方法に用いるためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
体液中の腫瘍マーカーを指標とした癌の臨床診断が広く行われている。そして、卵巣癌を検出できる腫瘍マーカーとして、癌関連糖鎖抗原の一種であるCA125(carbohydrate antigen 125)がよく用いられている。すなわち、卵巣癌患者の血液においてCA125濃度が上昇する。
CA125は分子量約11万の糖タンパク質であり、ムチンの一種(MUC16)としても知られている。
【0003】
一方、CA125は子宮内膜症患者と卵巣癌患者で共通に産生される抗原であり、血中CA125は子宮内膜症でも上昇することが知られている(非特許文献1)。そのため、CA125を指標とした卵巣癌診断においては、子宮内膜症患者が卵巣癌と誤判定されてしまう可能性を含んでいる。つまり、CA125の量的な差異のみをもって卵巣癌と子宮内膜症とを正確に区別することは難しいのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−014626号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】杉村隆 監修、「図説臨床癌シリーズ(19)」、第2版、メジカルビュー社、1993年8月、p31−32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
卵巣癌と子宮内膜症とを鑑別するための手法として、例えば、両者を鑑別できる臨床マーカーがあれば、卵巣癌の検出を正確かつ迅速に行うことが可能となる。そこで本発明は、卵巣癌と子宮内膜症とを鑑別できる臨床マーカーを特定し、卵巣癌を正確に検出できる一連の技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、CA125の量的な変化だけではなく「質的な変化」を捉えることによって、卵巣癌と子宮内膜症とを鑑別できないかを鋭意検討した。そして、卵巣癌患者の体液中のCA125上に発現する糖鎖抗原の変化を詳細に調べた。その結果、CA125上のシアリルTn抗原が、卵巣癌患者においては検出されるが、子宮内膜症患者ではほとんど検出されないことを見出した。そして、CA125上のシアリルTn抗原を指標とすることで、卵巣癌と子宮内膜症とを高精度で鑑別できることを見出し、本発明を完成するに至った。上記した課題を解決するために提供される本発明は、以下のとおりである。
【0008】
請求項1に記載の発明は、被験者の体液中におけるCA125に結合しているシアリルTn抗原を指標として、前記被験者における卵巣癌を検出することを特徴とする卵巣癌の検出方法である。
【0009】
本発明は卵巣癌の検出方法に係るものであり、被験者の体液中におけるCA125に結合しているシアリルTn抗原(CA125上で発現しているシアリルTn抗原)を指標として、前記被験者における卵巣癌を検出する。すなわち、従来技術におけるCA125を指標とした卵巣癌の検出方法では、CA125上の糖鎖抗原の有無や構造の違いを考慮することなく、コアタンパク質を有する全てのCA125を測定対象としていたが、本発明ではシアリルTn抗原を有する特定のCA125を指標とする。本発明によれば、卵巣癌と子宮内膜症とを高精度で鑑別することができ、卵巣癌を正確に検出することができる。
【0010】
ここで「CA125に結合しているシアリルTn抗原を指標とする」とは、CA125に結合しているシアリルTn抗原、換言すれば、シアリルTn抗原を有するCA125を定量的または定性的に解析し、その解析結果を基に判断をすることを指す。例えば、シアリルTn抗原を有するCA125の体液中濃度を測定し、当該測定値を、予め設定した基準値と比較して卵巣癌の有無等を判断することが挙げられる。
また「卵巣癌の検出」には、被験者における卵巣癌の有無を検出することのほか、卵巣癌の進行度の把握や再発のモニタリングを行うことも含まれる。
本発明において、体液中のCA125に結合しているシアリルTn抗原の量は、卵巣癌患者の体液でより高値を示す。
【0011】
請求項1に記載の卵巣癌の検出方法において、前記体液は、血液又は腹水であることが好ましい(請求項2)。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記体液をCA125に対する抗体又はシアリルTn抗原に対する抗体に接触させる工程を包含することを特徴とする請求項1又は2に記載の卵巣癌の検出方法である。
【0013】
本発明の卵巣癌の検出方法は、被験者の体液を「CA125に対する抗体」又は「シアリルTn抗原に対する抗体」に接触させる工程を包含する。かかる構成により、CA125に結合しているシアリルTn抗原(シアリルTn抗原を有するCA125)を簡便かつ正確に測定することができる。例えば、サンドイッチ法によるイムノアッセイが可能である。
なお、ここでいう「CA125に対する抗体」には、CA125上のシアリルTn抗原のみを認識する抗体は含まれない。
【0014】
請求項3に記載の卵巣癌の検出方法において、前記CA125に対する抗体又は前記シアリルTn抗原に対する抗体は、支持体に固定化されていることが好ましい(請求項4)。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の卵巣癌の検出方法を用いて、前記被験者における卵巣癌と子宮内膜症とを鑑別することを特徴とする卵巣癌と子宮内膜症との鑑別方法である。
【0016】
本発明は卵巣癌と子宮内膜症との鑑別方法に係るものであり、上記した本発明の卵巣癌の検出方法を用いる。換言すれば、被験者の体液中におけるCA125に結合しているシアリルTn抗原を指標として、前記被験者における卵巣癌と子宮内膜症とを鑑別する。本発明によれば、卵巣癌と子宮内膜症とを高精度で鑑別することができる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の卵巣癌の検出方法又は請求項5に記載の卵巣癌と子宮内膜症との鑑別方法に用いるためのキットであって、CA125に対する抗体と、シアリルTn抗原に対する抗体とを含むことを特徴とするキットである。
【0018】
本発明は、上記した本発明の卵巣癌の検出方法又は卵巣癌と子宮内膜症との鑑別方法に用いるためのキットに係るものであり、CA125に対する抗体と、シアリルTn抗原に対する抗体とを含む。本発明のキットによれば、イムノアッセイを用いたシアリルTn抗原を有するCA125の測定を簡便かつ迅速に行うことができ、その結果、卵巣癌の検出や卵巣癌と子宮内膜症との鑑別を簡便かつ迅速に行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の卵巣癌の検出方法によれば、卵巣癌と子宮内膜症とを高精度で鑑別することができ、卵巣癌を正確に検出することができる。
【0020】
本発明の卵巣癌と子宮内膜症との鑑別方法によれば、卵巣癌と子宮内膜症とを高精度で鑑別することができる。
【0021】
本発明のキットによれば、卵巣癌の検出や卵巣癌と子宮内膜症との鑑別を簡便かつ迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】子宮内膜症患者および卵巣癌患者の腹腔洗浄液について、CA125上のシアリルTn抗原量を測定した結果を示すドットプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の卵巣癌の検出方法は、被験者の体液中におけるCA125に結合しているシアリルTn抗原を指標として、前記被験者における卵巣癌を検出するものである。また本発明の卵巣癌と子宮内膜症との鑑別方法は、被験者の体液中におけるCA125に結合しているシアリルTn抗原を指標として、前記被験者における卵巣癌と子宮内膜症とを鑑別するものである。
【0024】
本発明で用いる体液としては特に限定はないが、血液又は腹水が好ましく採用される。特に、血液から調製した血清が、測定試料として好ましく採用される。
【0025】
本発明では、「CA125に結合しているシアリルTn抗原」を指標とする。「指標」の代表例は、基準値との比較である。すなわち、被験者の体液における「CA125に結合しているシアリルTn抗原」量を測定し、その測定値を、予め設定した基準値(例えば、カットオフ値)と比較し、卵巣癌の検出あるいは卵巣癌と子宮内膜症との鑑別を行う。当該基準値は、例えば、卵巣癌に罹患していない人の体液における「CA125に結合しているシアリルTn抗原」量のデータを収集し、統計処理を行って設定することができる。
例えば、予め設定したカットオフ値と測定値とを比較し、当該カットオフ値よりも測定値が大きい場合に、当該被験者を卵巣癌患者と判定することができる。
【0026】
なお、従来のCA125による卵巣癌の検出技術と本発明の方法とを組み合わせることにより、より効率的かつ正確に卵巣癌の検出や卵巣癌と子宮内膜症との鑑別を行うことができる。例えば、まず従来技術の方法により、卵巣癌(及び子宮内膜症)を広くスクリーニングする(一次判定、一次スクリーニング)。次に、従来技術で陽性と判定された被験者について、本発明の方法を適用する(二次判定、二次スクリーニング)。これにより、卵巣癌の検出並びに卵巣癌と子宮内膜症との鑑別を、高効率かつ正確に行うことが可能となる。
【0027】
CA125に結合しているシアリルTn抗原(シアリルTn抗原を有するCA125)を測定する方法としては特に限定はないが、好ましい実施形態では、被験者の体液を「CA125に対する抗体」又は「シアリルTn抗原に対する抗体」に接触させる工程を包含する。これらの抗体は、モノクローナル抗体でもよいし、ポリクローナル抗体でもよい。
【0028】
この好ましい実施形態の代表例として、「CA125に対する抗体」と「シアリルTn抗原に対する抗体」を用いたサンドイッチ法によるイムノアッセイが挙げられる。例えば、「CA125に対する抗体」と「シアリルTn抗原に対する抗体」のいずれか一方を支持体に固定化し(固相抗体)、他方を標識抗体として用いるサンドイッチ法により、CA125に結合しているシアリルTn抗原を測定することができる。
サンドイッチ法に用いる固相(支持体)の例としては、マイクロタイタープレート、ビーズ、ラテックス粒子、基板などが挙げられる。
標識の例としては、酵素(ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等)、ラジオアイソトープ(I125等)、蛍光物質(フルオレセイン、ローダミン、フィコエリトリン等)、生物又は化学発光物質(ルシフェリン/ルシフェラーゼ等)などが挙げられる。これらの標識は、抗体に直接的に結合されたものでもよいし、アビジン−ビオチン複合体、プロテインA、金コロイドなどを介して間接的に結合されたものでもよい。
【0029】
ここで、サンドイッチ法によるイムノアッセイの具体例を挙げる。この例は、酵素標識を利用したサンドイッチ法(サンドイッチEIA、サンドイッチELISA)である。
まず、固相抗体として抗CA125モノクローナル抗体を、標識抗体として酵素標識した抗シアリルTn抗原モノクローナル抗体をそれぞれ採用する。これらのモノクローナル抗体は、例えば、市販のものを用いることができる。なお、ここで用いる抗CA125モノクローナル抗体には、CA125上のシアリルTn抗原のみを認識するものは含まれない。抗CA125モノクローナル抗体としては、例えば、CA125のコアタンパク質を認識するものを使用することができる。また、固相(支持体)として、市販の96穴マイクロタイタープレートを採用する。
まず、マイクロタイタープレートの各穴に、抗CA125モノクローナル抗体(固相抗体)を固定化する。各穴をPBSで洗浄後、BSA等でブロッキングする。続いて、各穴をPBSで洗浄後、血清等の体液試料を適宜希釈して各穴に添加する。これにより、体液試料中の「シアリルTn抗原を有するCA125」が、抗CA125モノクローナル抗体を介して固相上に捕捉される。各穴をPBSで洗浄後、酵素標識した抗シアリルTn抗原モノクローナル抗体を添加する。これにより、固相上に捕捉されたシアリルTn抗原を有するCA125に、酵素標識した抗シアリルTn抗原モノクローナル抗体が結合する。各穴をPBSで洗浄後、発色基質を添加し、発色反応を行う。最後に、吸光度を測定し、当該吸光度から「シアリルTn抗原を有するCA125」の濃度を算出する。
なお、検出感度を高めるために、抗シアリルTn抗原モノクローナル抗体に対する標識2次抗体や、アビジン−ビオチン複合体による増幅検出系を用いてもよい。
【0030】
得られた数値データについては、「シアリルTn抗原を有するCA125量」(絶対量)をもって評価してもよいし、「単位CA125あたりのシアリルTn抗原量」をもって評価することもできる。後者の場合には、別途、従来の方法で体液中の全CA125量を測定し、「(シアリルTn抗原を有するCA125の量)/(全CA125量)」の値を算出することになる。
【0031】
また上記サンドイッチ法において、「シアリルTn抗原を有するCA125量」は、CA125に結合した抗シアリルTn抗原モノクローナル抗体量をもって表現することもできる。
【0032】
上記した例では、「CA125に対する抗体」を固相抗体、「シアリルTn抗原に対する抗体」を標識抗体としたが、「シアリルTn抗原に対する抗体」を固相抗体、「CA125に対する抗体」を標識抗体としてもよい。
【0033】
サンドイッチ法以外の例としては、競合法によるイムノアッセイが挙げられる。さらに、免疫沈降法、ラテックス凝集法、ウエスタンブロット法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、質量分析(MS)などの手法を用いてもよい。
【0034】
本発明のキットは、本発明の卵巣癌の検出方法又は卵巣癌と子宮内膜症との鑑別方法に用いるためのものであり、CA125に対する抗体と、シアリルTn抗原に対する抗体とを含む。これらの抗体の形状は、凍結乾燥物でもよいし、溶液状でもよい。また本発明のキットには、さらに他の試薬類、例えば、標準物質、各種の緩衝液、標識2次抗体、発色基質、プレート等の支持体、などを含めてもよい。
【0035】
以下に本発明のキットの構成例を挙げる。以下の構成例は、いずれもサンドイッチELISA用のものであり、固相抗体として抗CA125モノクローナル抗体を含んでいる。
【0036】
〔キットの構成例1〕
・抗CA125モノクローナル抗体(固相抗体):適量
・酵素標識抗シアリルTn抗原モノクローナル抗体(標識抗体):適量
・シアリルTn抗原結合CA125標準物質:適量
・希釈用緩衝液:適量
【0037】
〔キットの構成例2〕
・抗CA125モノクローナル抗体(固相抗体):適量
・抗シアリルTn抗原モノクローナル抗体(1次抗体):適量
・酵素標識2次抗体(1次抗体に対する抗体):適量
・シアリルTn抗原結合CA125標準物質:適量
・希釈用緩衝液:適量
【0038】
〔キットの構成例3〕
・抗CA125モノクローナル抗体(固相抗体):適量
・ビオチン標識抗シアリルTn抗原モノクローナル抗体:適量
・酵素標識ストレプトアビジン:適量
・シアリルTn抗原結合CA125標準物質:適量
・希釈用緩衝液:適量
【0039】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
(1)検体
卵巣癌又は子宮内膜症と確定診断された患者(卵巣癌:36症例、子宮内膜症:21症例)から採取した腹腔洗浄液を検体とした。
【0041】
(2)サンドイッチELISA
抗CA125抗体を固相抗体、抗シアリルTn抗原(sTn)抗体を標識抗体としたサンドイッチELISAの系を構築し、以下の手順にて各検体試料におけるCA125上のsTn量を測定した。
【0042】
抗CA125モノクローナル抗体(Hytest社)を50mM 炭酸水素ナトリウム溶液で0.5μg/mLに希釈し、固相抗体液を調製した。また、ビオチン標識抗sTnモノクローナル抗体MLS132(自家調製品。Tanaka N, Nakada H, Inoue M, Yamashina I. Binding characteristics of an anti-Siaalpha2-6GalNAcalpha-Ser/Thr (sialyl Tn) monoclonal antibody (MLS 132). Eur J Biochem 1999; 263:27-32.に記載)を1% BSAを含有するPBS(以下、1% BSA/PBSと略記する)で1μg/mLに希釈し、標識抗体液を作製した。また、5%BSAを含むPBSを調製し、ブロッキング液とした。
【0043】
96穴マイクロタイタープレートの各穴に固相抗体液を50μL添加し、4℃で18時間静置した。PBSにて各穴を2回洗浄した後、ブロッキング液を各穴に400μLずつ添加し、室温で2時間静置した。
【0044】
0.05% Tween-20を含むPBS(以下、PBSTと略記する)にて各穴を4回洗浄した後、検体試料を各穴に50μLずつ添加し、4℃で18時間静置した。PBSTにて各穴を4回洗浄した後、標識抗体液を各穴に50μLずつ添加し、室温で2時間静置した。PBSTにて各穴を4回洗浄した後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジン溶液(Sigma社)を各穴に50μLずつ添加し、室温で1時間静置した。
【0045】
PBSTにて各穴を4回洗浄した後、TMB基質液(Thermo Scientific社)を各穴に50μLずつ添加し、室温で5分間静置した。1M硫酸50μLを加えて発色を停止させ、プレートリーダーにて450nmの吸光度を測定した。さらに、得られた測定値を、CA125に結合したビオチン標識抗sTnモノクローナル抗体量(pg)に換算し、この値を「A」とした。すなわち、予め、ビオチン標識抗sTnモノクローナル抗体のタンパク質量と発色値の標準曲線を作成し、これを用いて、各検体における測定値を標識抗sTnモノクローナル抗体量に換算した。
A値はCA125に結合したsTn量を反映している。
【0046】
別途、市販のCA125測定キット(DRG社)を用いて、各試料の全CA125濃度を測定した。この値を「B」とした。
各検体試料について、AをBで除して(A/B)、単位CA125あたりのsTn量(pg/U)を算出した。子宮内膜症検体と卵巣癌検体について、それぞれ平均値と標準偏差(SD)を算出した。さらに、疾患ごとのドットプロット図を作成した(図1)。
【0047】
(3)結果
図1に示すように、卵巣癌患者と子宮内膜症患者とを比較すると、卵巣癌患者において、単位CA125あたりのsTn量が明確に高い値を示す例が多く確認された。
単位CA125あたりのsTn量について、子宮内膜症検体(21症例)では、平均値23.1pg/U、標準偏差20.5pg/Uであった。卵巣癌の検体(36症例)では、平均値856.3pg/U、標準偏差1490.3pg/Uであった。
子宮内膜症患者における平均値+3SD値、すなわち84.6pg/Uをカットオフ値とした場合(図1において点線にて表示)、卵巣癌検体36症例のうち16症例(44%)において、子宮内膜症検体よりも明確に高いsTn値が検出された。
以上より、体液中におけるCA125上のシアリルTn抗原量を基準値と比較することにより、卵巣癌と子宮内膜症とを高精度で鑑別できることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の体液中におけるCA125に結合しているシアリルTn抗原を指標として、前記被験者における卵巣癌を検出することを特徴とする卵巣癌の検出方法。
【請求項2】
前記体液は、血液又は腹水であることを特徴とする請求項1に記載の卵巣癌の検出方法。
【請求項3】
前記体液をCA125に対する抗体又はシアリルTn抗原に対する抗体に接触させる工程を包含することを特徴とする請求項1又は2に記載の卵巣癌の検出方法。
【請求項4】
前記CA125に対する抗体又は前記シアリルTn抗原に対する抗体は、支持体に固定化されていることを特徴とする請求項3に記載の卵巣癌の検出方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の卵巣癌の検出方法を用いて、前記被験者における卵巣癌と子宮内膜症とを鑑別することを特徴とする卵巣癌と子宮内膜症との鑑別方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の卵巣癌の検出方法又は請求項5に記載の卵巣癌と子宮内膜症との鑑別方法に用いるためのキットであって、CA125に対する抗体と、シアリルTn抗原に対する抗体とを含むことを特徴とするキット。

【図1】
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【公開番号】特開2012−154881(P2012−154881A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16236(P2011−16236)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「糖鎖機能活用技術開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504322611)学校法人 京都産業大学 (27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(304031427)愛知県 (36)
【出願人】(509349141)京都府公立大学法人 (19)