卵白アレルゲンの検出方法
【課題】卵白のアレルゲンを含む食品において、これらアレルゲンが、変性/未変性のいかなる状態にあっても検出できる高感度な免疫学的な検出方法及びそれに用いられる検出キットを提供するものである。
【解決手段】未変性及び変性の卵白アレルゲンを認識する各2種類又はそれ以上のモノクローナル抗体を用いるアレルゲンの検出方法であって、卵白主要タンパク質であるオボアルブミンを指標とする。
【解決手段】未変性及び変性の卵白アレルゲンを認識する各2種類又はそれ以上のモノクローナル抗体を用いるアレルゲンの検出方法であって、卵白主要タンパク質であるオボアルブミンを指標とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等の試料中に含まれる未変性及び変性の乳アレルゲン、未変性及び変性の卵白アレルゲン、未変性及び変性の小麦アレルゲン、未変性及び変性のそばアレルゲン、又は未変性及び変性の落花生アレルゲンを指標とした乳アレルゲンの検出方法や、それに用いられる乳アレルゲンの検出用キットに関する。
【0002】
また、本発明は、食品等の試料中に含まれる未変性又は変性の乳アレルゲンを定性的かつ定量的に高感度で分析することができる、カゼインの主要タンパク質であるαs1カゼイン、あるいは、ホエーの主要たんぱく質であるβラクトグロブリンを指標としたアレルゲンの検出方法や、それに用いられるアレルゲンの検出用キットに関する。
【0003】
また、本発明は、食品等の試料中に含まれる未変性又は変性のオボアルブミンやオボムコイドの卵白アレルゲンを定性的かつ定量的に高感度で分析することができる、オボアルブミン及び/又はオボムコイドを指標とした卵白アレルゲンの検出方法や、それに用いられる卵白アレルゲンの検出用キットに関する。
【0004】
また、本発明は、食品等の試料中に含まれる未変性又は変性の小麦アレルゲンを定性的かつ定量的に高感度で分析することができる、小麦の主要タンパク質であるグリアジンを指標とした小麦アレルゲンの検出方法や、それに用いられる小麦アレルゲンの検出用キットに関する。
【0005】
また、本発明は、食品等の試料中に含まれる未変性又は変性のそばアレルゲンを定性的かつ定量的に高感度で分析することができる、そばの主要タンパク質である分子量24kDaと76kDaのタンパク質を指標としたそばアレルゲンの検出方法や、それに用いられるそばアレルゲンの検出用キットに関する。
【0006】
また、本発明は、食品等の試料中に含まれる未変性又は変性の落花生アレルゲンを定性的かつ定量的に高感度で分析することができる、落花生の主要タンパク質であるAra h1を指標とした落花生アレルゲンの検出方法や、それに用いられる落花生アレルゲンの検出用キットに関する。
【背景技術】
【0007】
自然環境の減少、車や工場などからの排気ガス、住宅事情等、或いは食べ物の変化など様々な因子により、現在では、3人に1人が何らかのアレルギー疾患をもつといわれている。特に、食物アレルギーは、食品中に含まれるアレルギー誘発物質(以下、食物アレルゲンという)の摂取が引き起こす有害な免疫反応であり、皮膚炎、喘息、消化管障害、アナフィラキシーショック等を引き起こし、このような食物アレルギーの患者が増加していることから、医学上及び食品産業上、深刻な問題を生じている。これらの危害は死に至らせることがあり、未然に処置を施す必要がある。そのためには、表示を通じて消費者へ情報提供の必要性も高まっており、FAO/WHO合同食品規格委員会は、アレルギー物質として知られている8種の原材料を含む食品にあっては、それを含む旨の表示について合
意し、加盟国で各国の制度に適した表示方法を検討することとした(1999年6月)。日本では過去の健康危害などの程度、頻度を考慮して重篤なアレルギー症状を起した実績のある24品目の食品について、その表示方法が定められた(2002年4月より施行)。アレルギーを引き起こす食品としては、卵類、牛乳類、肉類、魚類、甲殻類及び軟体動物類、穀類、豆類及びナッツ類、果実類、野菜類、ビール酵母若しくはゼラチンなどが知られており、特に乳アレルゲンの主要成分としてのαs1カゼインや、ホエーアレルゲンの主要成分であるβラクトグロブリンや、卵白アレルゲン成分としてはオボアルブミンとオボムコイドや、小麦アレルゲンの主要成分としてグリアジンや、そばの主要タンパク質である分子量24kDaと76kDaのタンパク質や、落花生の主要タンパク質であるAra h1が知られている。
【0008】
従来、アレルゲンの検出する方法としては、例えば、アレルゲンに特異的に反応するイムノグロブリンを定量する方法(特開平05−249111号公報参照)や、抗原抗体複合体を含有する検体中の該抗原抗体複合体を酸処理等により解離させ、必要に応じてアルカリを用いて中和処理を行った後、該検体中のアレルゲン特異的IgE抗体を測定する方法(特開平07−140144号公報参照)等が知られている。
【0009】
また、現在、乳、卵、小麦、そば、落花生の特定原材料を検出するための公定法として、加熱・非加熱複合抗原より得られるポリクローナル抗体を用いた免疫学的な検出方法(特開2003−155297号公報参照;以下「市販公定法A」という)、あるいは精製抗原より得られたポリクローナル抗体を用いた免疫学的な検出方法(以下「市販公定法B」という)が用いられている。これらは、特異的にアレルゲンを検出するために有効な方法であるが問題も多い。例えば、市販公定法Aでは複合抗原を用いているため、何に対する抗体なのかが不明で、交差性が高く、例えば、イムノブロット法などによる抗原の同定ができず、また非特異反応が増える可能性がある。また、市販公定法Bでは、抗原が精製されているため抗体の特異性は明確であるものの、未変性の抗原を用いて作製された抗体を使用しているため、変性/未変性により抗体が結合する程度に違いがあるため、同じ添加量であっても、加熱前、加熱後での定量値が異なるという問題があった。特に、小麦は他の特定原材料(卵、乳、そば、落花生)の中でも過酷な加熱処理が施される場合が多い(例えばパン、唐揚げ等)ため、小麦アレルゲンは未変性から加熱変性まで、広範囲な状態で存在する。そこで、小麦アレルゲンを検出するためには、どの様な状態のアレルゲンに対して結合するかを明らかにしたモノクローナル抗体を作製し、その特性に応じて利用する必要がある。
【0010】
さらに、卵の同定、定量に関しては、オボムコイドを指標として、すでにポリクローナル抗体を用いた方法(例えば、Int. Archs. Allergy appl. Immun., 75, 8-15, 1984参照)あるいはモノクローナル抗体を用いた方法(例えば、Nutr. Sci. Vitaminol. 45, 491-500, 1999参照)が知られている。また、オボムコイドを認識するモノクローナル抗体で、未変性オボムコイドと反応するが熱変性オボムコイドとは反応しないモノクローナル抗体、熱変性オボムコイドと反応するが未変性オボムコイドとは反応しないモノクローナル抗体、及び未変性オボムコイドと熱変性オボムコイドに反応するモノクローナル抗体を用いて、加熱変性状態をも識別してオボムコイドを定量し、卵アレルゲンの同定と正確な定量を可能とする免疫学的定量方法が報告されている(例えば、特開2002−253230号公報参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、乳アレルゲン、卵白アレルゲン、小麦アレルゲン、そばアレルゲン、又は落花生アレルゲンを含む食品において、乳アレルゲン、卵白アレルゲン、小麦アレルゲン、そばアレルゲン、又は落花生アレルゲンが、変性/未変性のいかなる状態にあっても検出できる高感度な免疫学的な検出方法及びそれに用いられる検出キット等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、特定原材料である乳、卵白、小麦、そば又は落花生の各アレルゲンを検出する方法について鋭意検討し、未変性及び変性の乳アレルゲン、未変性及び変性の卵白アレルゲン、未変性及び変性の小麦アレルゲン、未変性及び変性のそばアレルゲン、又は未変性及び変性の落花生アレルゲンを認識する各2種類又はそれ以上のモノクローナル抗体を用いると、これら特定原材料の各アレルゲンを検出することができることを見い出した。
【0013】
特定原材料の一つである乳の検出方法の検討を行うに当たっては、カゼインの主要たんぱく質であるαs1カゼインを指標として、これに対するモノクローナル抗体(以下MAbと記す場合がある)を作出し、その中から未変性αs1カゼイン、尿素処理αs1カゼイン、未変性カゼインナトリウム、及び変性カゼインナトリウムを認識することができるMAbを複数選択し、サンドイッチELISAにより、未変性αs1カゼイン、尿素処理αs1カゼイン、未変性カゼインナトリウム、及び変性カゼインナトリウムを、100〜1000ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析しうるMAbの組合わせを見い出した。また、これらのMAbを用いると、食品中の乳アレルゲンがいかなる加工工程を経た場合にでも、本発明による検出方法や検出キットを利用する者がより簡便に検査対象製品からの乳アレルゲンを検出しうることを確認した。
【0014】
また、特定原材料の一つである乳の検出方法の検討を行うに当たって、ホエーの主要たんぱく質であるβラクトグロブリンを指標として、これに対するモノクローナル抗体を作出し、その中から未変性βラクトグロブリン、尿素処理βラクトグロブリン、還元カルボキシメチル化βラクトグロブリンを認識することができるMAbを複数選択し、サンドイッチELISAにより、未変性βラクトグロブリン、尿素処理βラクトグロブリン、還元カルボキシメチル化βラクトグロブリンを、30〜1000ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析しうるMAbの組合わせを見い出した。また、これらのMAbを用いると、食品中の乳アレルゲンがいかなる加工工程を経た場合にでも、本発明による検出方法や検出キットを利用する者がより簡便に検査対象製品からの乳アレルゲンを検出しうることを確認した。
【0015】
特定原材料の一つである卵白の検出方法の検討を行うに当たっては、精製オボアルブミンやオボムコイドに対するモノクローナル抗体を作出し、その中から未変性抗原に結合できるMAbと、変性抗原に結合できるMAbとをそれぞれ複数選択し、未変性抗原結合MAb群と変性抗原結合MAb群を組み合わせることで、抗原となるオボアルブミンやオボムコイドが変性/未変性のいかなる状態にあっても高感度で検出できることを見い出し、特に未変性抗原結合MAb群と変性抗原結合MAb群を組み合わせて用いた場合、未変性オボアルブミンやオボムコイドあるいは変性オボアルブミンやオボムコイドのみが存在する場合であっても、未変性抗原結合MAb(群)単独使用や変性抗原結合MAb(群)単独使用におけるよりも優れた検出感度で検出しうることを確認した。また、卵白アレルゲンであるオボアルブミンとオボムコイドに対するMAbを組み合わせることにより、食品中の卵白がいかなる加工工程を経た場合にでも、本発明による検出方法や検出キットを利用する者がより簡便に検査対象製品からの卵白アレルゲンを検出しうることを確認した。
【0016】
特定原材料の一つである小麦の検出方法の検討を行うに当たっては、精製グリアジンに対するモノクローナル抗体を作出し、その中から未変性小麦グリアジン、還元カルボキシメチル化小麦グリアジン、0.1M酢酸可溶化小麦グリアジン、70%エタノール可溶化小麦グリアジン、及び変性剤で可溶化した小麦グリアジンを認識することができるMAbを複数選択し、サンドイッチELISAにより、未変性小麦グリアジン、還元カルボキシメチル化小麦グリアジン、0.1M酢酸可溶化小麦グリアジン、70%エタノール可溶化小麦グリアジン、及び変性剤で可溶化した小麦グリアジンを、10〜100ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析しうるMAbの組合わせを見い出した。また、これらのMAbを用いると、食品中の小麦アレルゲンがいかなる加工工程を経た場合にでも、本発明による検出方法や検出キットを利用する者がより簡便に検査対象製品からの小麦アレルゲンを検出しうることを確認した。
【0017】
特定原材料の一つであるそばの検出方法の検討を行うに当たっては、精製した24kDaタンパク質、又は精製した76kDaタンパク質に対するモノクローナル抗体を作出し、その中から24kDaタンパク質又は76kDaタンパク質を認識することができるMAbを複数選択し、サンドイッチELISAにより、未加熱(未変性)、加熱(変性)のいかなる状態のそばタンパク質でも、高感度で分析できる未変性そばタンパク質に結合可能なMAbと変性そばタンパク質に結合可能なMAbの組合わせを見い出した。また、これらのMAbを用いると、食品中のそばアレルゲンがいかなる加工工程を経た場合にでも、本発明による検出方法や検出キットを利用する者がより簡便に検査対象製品からのそばアレルゲンを検出しうることを確認した。
【0018】
特定原材料の一つである落花生の検出方法の検討を行うに当たっては、精製した未変性のAra h1(以下「NAh1」という場合がある)、又は精製したAra h1を尿素とml2−メルカプトエタノールを用いて変性したAra h1(以下「DAh1」という場合がある)に対するモノクローナル抗体を作出し、その中からNAh1、DAh1、未変性の落花生粗タンパク質(以下「NP−e」という場合がある)、及び/又は尿素処理した落花生粗タンパク質(以下「DP−e」という場合がある)を認識することができるMAbを複数選択し、サンドイッチELISAにより、未加熱(未変性)、加熱(変性)のいかなる状態の落花生タンパク質でも、高感度で分析できるMAbの組合わせを見い出した。また、これらのMAbを用いると、食品中の落花生アレルゲンがいかなる加工工程を経た場合にでも、本発明による検出方法や検出キットを利用する者がより簡便に検査対象製品からの落花生アレルゲンを検出しうることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明(乳アレルゲン)の2種類の抗αs1カゼインMAbを用いた、各種状態のαs1カゼインに対するサンドイッチELISAの結果を示す図である。
【図2】本発明(乳アレルゲン)のPas1CN1およびPas1CN2の認識する小麦αs1カゼインの構成たんぱく質の相違を示す図である。
【図3】本発明(乳アレルゲン)のPLG2とPLG1のサンドイッチELISAによる各種βラクトグロブリンに対する反応性を示す図である。
【図4】本発明(乳アレルゲン)のPLG2とPLG3のサンドイッチELISAによる各種βラクトグロブリンに対する反応性を示す図である。
【図5】本発明(乳アレルゲン)のMAb混合系でのサンドイッチELISAによる未変性ラクトグロブリンに対する反応性を示す図である。
【図6】本発明(乳アレルゲン)のMAb混合系でのサンドイッチELISAによる尿素変性ラクトグロブリンに対する反応性を示す図である。
【図7】本発明(卵白アレルゲン)の試験1における各希釈段に対する抗オボアルブミンMAbの反応性を示す図である。
【図8】本発明(卵白アレルゲン)の試験2における各希釈段に対する抗オボアルブミンMAbの反応性を示す図である。
【図9】本発明(卵白アレルゲン)の試験3における各希釈段に対する抗オボアルブミンMAbの反応性を示す図である。
【図10】本発明(卵白アレルゲン)のPNOM1およびPNOM2のサンドイッチELISAによる変性/未変性オボムコイドに対する反応性を示す図である。
【図11】本発明(卵白アレルゲン)のPDOM1およびPDOM2のサンドイッチELISAによる変性/未変性オボムコイドに対する反応性を示す図である。
【図12】本発明(卵白アレルゲン)のPNOM2とPDOM2及びPNOM1とPDOM1による変性/未変性オボムコイドに対する反応性を示す図である。
【図13】本発明(小麦アレルゲン)の2種類の抗グリアジンMAbを用いた、各種状態のグリアジンに対するサンドイッチELISAの結果を示す図である。
【図14】本発明(小麦アレルゲン)のPGL1およびPGL2の認識する小麦グリアジンの構成たんぱく質の相違を示す図である。
【図15】本発明(そばアレルゲン)のPBW2およびPBW3のサンドイッチELISAによる各種そば粗タンパク質に対する反応性を示す図である。
【図16】本発明(そばアレルゲン)のPBW1およびPBW2のサンドイッチELISAによる各種そば粗タンパク質に対する反応性を示す図である。
【図17】本発明(そばアレルゲン)のPBW1、PBW2及びPBW3のMAb混合系サンドイッチELISAによる未変性そば粗タンパク質に対する反応性を示す図である。
【図18】本発明(そばアレルゲン)のPBW1、PBW2及びPBW3のMAb混合系サンドイッチELISAによる変性そば粗タンパク質に対する反応性を示す図である。
【図19】本発明(落花生アレルゲン)のPAh1−1およびPAh1−2のサンドイッチELISAによる各種落花生粗タンパク質に対する反応性を示す図である。
【図20】本発明(落花生アレルゲン)のPAh1−2およびPAh1−3のサンドイッチELISAによる各種落花生粗タンパク質に対する反応性を示す図である。
【図21】本発明(落花生アレルゲン)のPAh1−1、PAh1−2及びPAh1−3のMAb混合系サンドイッチELISAによる未変性落花生粗タンパク質に対する反応性を示す図である。
【図22】本発明(落花生アレルゲン)のPAh1−1、PAh1−2及びPAh1−3のMAb混合系サンドイッチELISAによる変性落花生粗タンパク質に対する反応性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の食品中のアレルゲンの検出方法としては、未変性及び変性の乳アレルゲン、未変性及び変性の卵白アレルゲン、未変性及び変性の小麦アレルゲン、未変性及び変性のそばアレルゲン、又は未変性及び変性の落花生アレルゲンを認識する各2種類又はそれ以上のモノクローナル抗体を用いるアレルゲンの検出方法であって、αs1カゼインの主要タンパク質であるαs1カゼイン、ホエーの主要たんぱく質であるβラクトグロブリン、卵白主要タンパク質であるオボアルブミンとオボムコイド、小麦の主要タンパク質であるグリアジン、そばの主要タンパク質である分子量24kDaと76kDaのタンパク質、又は落花生の主要タンパク質であるAra h1を指標とする食品等に含まれるアレルゲンの検出方法であれば特に制限されるものではない。
【0021】
本発明の乳アレルゲンの検出方法としては、未変性乳アレルゲンを認識するモノクローナル抗体と、変性乳アレルゲンを認識するモノクローナル抗体とを併用する乳アレルゲンの免疫学的な検出方法であれば特に制限されず、また、本発明の乳アレルゲン検出用キットとしては、未変性乳アレルゲンを認識するモノクローナル抗体と、変性乳アレルゲンを認識するモノクローナル抗体とを備え、未変性乳アレルゲンを認識するモノクローナル抗体と変性乳アレルゲンとを認識するモノクローナル抗体とを併用する条件下で用いられる免疫学的なアレルゲン検出用キットであれば特に制限されないが、未変性乳アレルゲン及び/又は変性乳アレルゲンを認識するモノクローナル抗体として、それぞれ異なるエピトープを認識する2以上のモノクローナル抗体を備えたものが好ましい。かかる未変性乳アレルゲン及び/又は変性乳アレルゲンを認識するモノクローナル抗体として、抗αs1カゼインモノクローナル抗体や抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体を具体的に例示することができる。ここで「乳アレルゲン」とは、乳カゼインの主要タンパク質であるαs1カゼイン及び/又はホエーの主要たんぱく質であるβラクトグロブリンを含むものをいう。
【0022】
上記抗αs1カゼインモノクローナル抗体としては、未変性αs1カゼイン、尿素処理αs1カゼイン、未変性カゼインナトリウム、及び変性カゼインナトリウムを認識する抗αs1カゼインモノクローナル抗体、好ましくは、配列番号1で示されるαs1カゼインのアミノ酸配列の132番目から193番目までの領域を認識するモノクローナル抗体を挙げることができ、具体的には、ハイブリドーマ(FERM ABP−10263)が産生する抗αs1カゼインモノクローナル抗体Pas1CN1、ハイブリドーマ(FERM ABP−10264)が産生する抗αs1カゼインモノクローナル抗体Pas1CN2等を好適に例示することができる。また、Pas1CN1とPas1CN2を組み合わせることで、特に有利にサンドイッチELISAやイムノクロマトを行うことができる。例えば、これらの抗体を用いることで、サンドイッチELISAにより、食品中の未変性αs1カゼイン及び尿素処理αs1カゼインを、10〜1000ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析することができる。
【0023】
上記抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体として、未変性βラクトグロブリン、尿素処理βラクトグロブリン、還元カルボキシメチル化βラクトグロブリンを認識する抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体を挙げることができ、具体的には、ハイブリドーマ(FERM ABP−10281)が産生する抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体PLG1、ハイブリドーマ(FERM ABP−10282)が産生する抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体PLG2、ハイブリドーマ(FERM ABP−10283)が産生する抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体PLG3等を好適に例示することができる。また、PLG2とPLG1や、PLG2とPLG3や、PLG2とPLG1およびPLG3を組み合わせることで、特に有利にサンドイッチELISAやイムノクロマトを行うことができる。例えば、これらの抗体を用いることで、サンドイッチELISAにより、食品中の未変性βラクトグロブリン及び尿素処理βラクトグロブリンを、30〜1000ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析することができる。
【0024】
本発明の乳アレルゲンの検出方法においては、検体から、尿素と2−メルカプトエタノールを用いてカゼイン及び/又はホエータンパク質を抽出することが好ましく、また、未変性カゼインを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体及び変性カゼインを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体、並びに、未変性βラクトグロブリンを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体及び変性βラクトグロブリンを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体を用いることが好ましい。また、本発明の乳アレルゲン検出用キットにおいては、カゼイン及び/又はホエータンパク質を抽出するための尿素と2−メルカプトエタノールを含むものが好ましく、また、未変性カゼインを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体及び変性カゼインを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体、並びに、未変性βラクトグロブリンを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体及び変性βラクトグロブリンを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体を備えるものが好ましい。
【0025】
本発明の卵白アレルゲンの検出方法としては、未変性卵白アレルゲンを認識するモノクローナル抗体と、変性卵白アレルゲンを認識するモノクローナル抗体とを併用する卵白アレルゲンの免疫学的な検出方法であれば特に制限されず、また、本発明の卵白アレルゲン検出用キットとしては、未変性卵白アレルゲンを認識するモノクローナル抗体と、変性卵白アレルゲンを認識するモノクローナル抗体とを備え、未変性卵白アレルゲンを認識するモノクローナル抗体と変性卵白アレルゲンとを認識するモノクローナル抗体とを併用する条件下で用いられる免疫学的なアレルゲン検出用キットであれば特に制限されず、未変性卵白アレルゲン及び/又は変性卵白アレルゲンを認識するモノクローナル抗体として、それぞれ異なるエピトープを認識する2以上のモノクローナル抗体を備えたものが好ましい。かかる未変性卵白アレルゲン及び/又は変性卵白アレルゲンを認識するモノクローナル抗体として、抗オボアルブミンモノクローナル抗体や抗オボムコイドモノクローナル抗体を具体的に例示することができる。ここで「卵白アレルゲン」とは、卵白の主要タンパク質であるオボアルブミン及び/又はオボムコイドを含むものをいう。
【0026】
上記抗オボアルブミンモノクローナル抗体としては、未変性オボアルブミン及び/又は還元カルボキシメチル化オボアルブミンを認識する抗オボアルブミンモノクローナル抗体が好ましく、具体的には、ハイブリドーマ(FERM ABP−10265)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA1、ハイブリドーマ(FERM ABP−10266)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA2、ハイブリドーマ(FERM ABP−10275)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA1、ハイブリドーマ(FERM ABP−10276)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA2等を好適に例示することができる。また、PNOA1とPNOA2等の抗未変性オボアルブミンモノクローナル抗体や、PDOA1とPDOA2等の抗変性オボアルブミンモノクローナル抗体の組み合せ、特にPNOA1とPNOA2等の抗未変性オボアルブミンモノクローナル抗体とPDOA1とPDOA2等の抗変性オボアルブミンモノクローナル抗体を組み合わせることで、特に有利にサンドイッチELISAやイムノクロマトを行うことができる。例えば、これらの抗体を用いることで、サンドイッチELISAにより、食品中の未変性オボアルブミン及び/又は変性オボアルブミンを、1.0〜10.0ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析することができる。
【0027】
上記抗オボムコイドモノクローナル抗体として、未変性オボムコイド及び/又は尿素変性オボムコイドを認識する抗オボムコイドモノクローナル抗体を挙げることができ、具体的には、ハイブリドーマ(FERM ABP−10279)が産生する抗オボムコイドモノクローナル抗体PNOM1、ハイブリドーマ(FERM ABP−10280)が産生する抗オボムコイドモノクローナル抗体PNOM2、ハイブリドーマ(FERM ABP−10277)が産生する抗オボムコイドモノクローナル抗体PDOM1、ハイブリドーマ(FERM ABP−10278)が産生する抗オボムコイドモノクローナル抗体PDOM2等を好適に例示することができる。また、PNOM1とPNOM2等の抗未変性オボムコイドモノクローナル抗体や、PDOM1とPDOM2等の抗変性オボムコイドモノクローナル抗体の組み合せ、特にPNOM1とPNOM2等の抗未変性オボムコイドモノクローナル抗体とPDOM1とPDOM2等の抗変性オボムコイドモノクローナル抗体を組み合わせることで、特に有利にサンドイッチELISAやイムノクロマトを行うことができる。例えば、これらの抗体を用いることで、サンドイッチELISAにより、食品中の未変性オボムコイド及び/又は変性オボムコイドを、10〜100ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析することができる。
【0028】
本発明の卵白アレルゲンの検出方法においては、尿素と2−メルカプトエタノールを用いてオボアルブミン及び/又はオボムコイドを抽出することが好ましく、また、未変性オボアルブミンを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体及び変性オボアルブミンを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体、並びに、未変性オボムコイドを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体及び変性オボムコイドを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体を用いることが好ましい。また、本発明の卵白アレルゲン検出用キットにおいては、オボアルブミン及び/又はオボムコイドを抽出するための尿素と2−メルカプトエタノールを含むものが好ましく、また、未変性オボアルブミンを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体及び変性オボアルブミンを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体、並びに、未変性オボムコイドを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体及び変性オボムコイドを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体を備えるものが好ましい。
【0029】
本発明の小麦アレルゲンの検出方法としては、未変性小麦グリアジン及び変性剤で可溶化した小麦グリアジンを認識する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体を用いる小麦アレルゲンの免疫学的な検出方法や、未変性小麦グリアジン及び変性剤で可溶化した小麦グリアジンを認識し、かつ異なるエピトープを認識する2種類の抗小麦グリアジンモノクローナル抗体を併用する小麦アレルゲンの免疫学的な検出方法であれば特に制限されず、また、本発明の小麦アレルゲン検出用キットとしては、未変性小麦グリアジン及び変性剤で可溶化した小麦グリアジンを認識する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体を備えた免疫学的なアレルゲン検出用キットや、未変性小麦グリアジン及び変性剤で可溶化した小麦グリアジンを認識し、かつ異なるエピトープを認識する2種類の抗小麦グリアジンモノクローナル抗体を備えた免疫学的なアレルゲン検出用キットであれば特に制限されず、上記抗小麦グリアジンモノクローナル抗体としては、未変性小麦グリアジン、還元カルボキシメチル化小麦グリアジン、0.1M酢酸可溶化小麦グリアジン、70%エタノール可溶化小麦グリアジン、及び変性剤で可溶化した小麦グリアジンを認識する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体が好ましく、具体的には、ハイブリドーマ(FERM ABP−10267)が産生する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL1、ハイブリドーマ(FERM ABP−10268)が産生する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL2等を好適に例示することができる。これらの抗体を組み合わせることで、特に有利にサンドイッチELISAやイムノクロマトを行うことができる。例えば、サンドイッチELISAにより、食品中の未変性小麦グリアジン、還元カルボキシメチル化小麦グリアジン、0.1M酢酸可溶化小麦グリアジン、70%エタノール可溶化小麦グリアジン、及び変性剤で可溶化した小麦グリアジンを、10〜100ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析することができる。
【0030】
本発明のそばアレルゲンの検出方法としては、未変性そば粗タンパク質及び加熱変性そば粗タンパク質を認識する抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体を用いるそばアレルゲンの免疫学的な検出方法や、未変性そば粗タンパク質及び加熱変性そば粗タンパク質を認識し、かつ異なるエピトープを認識する2種類の抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体を併用するそばアレルゲンの免疫学的な検出方法であれば特に制限されず、また、本発明のそばアレルゲン検出用キットとしては、未変性そば粗タンパク質及び加熱変性そば粗タンパク質を認識する抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体を備えた免疫学的なアレルゲン検出用キットや、未変性そば粗タンパク質及び加熱変性そば粗タンパク質を認識し、かつ異なるエピトープを認識する2種類の抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体を備えた免疫学的なアレルゲン検出用キットであれば特に制限されず、抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体としては、24Daタンパク質及び加熱変性そば粗タンパク質を認識する抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体、又は76kDaタンパク質及び未変性そば粗タンパク質を認識する抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体が好ましく、具体的には、ハイブリドーマ(FERM ABP−10272)が産生する抗24kDaタンパク質モノクローナル抗体PBW1、ハイブリドーマ(FERM ABP−10273)が産生する抗76kDaタンパク質モノクローナル抗体PBW2、ハイブリドーマ(FERM ABP−10274)が産生する抗76kDaタンパク質モノクローナル抗体PBW3等を好適に例示することができる。また、PBW1等の24Daタンパク質及び加熱変性そば粗タンパク質を認識する抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体と、PBW2等の76kDaタンパク質及び未変性そば粗タンパク質を認識する抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体との組合せや、PBW2とPBW3等の未変性そば粗タンパク質と加熱変性そば粗タンパク質を共に認識する抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体との組み合わせ、中でも、これらのモノクローナル抗体の混合系として組み合わせることで、特に有利にサンドイッチELISAやイムノクロマトを行うことができる。例えば、サンドイッチELISAにより、未変性そば粗タンパク質及び加熱変性そば粗タンパク質を、10〜1000ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析することができる。
【0031】
さらに、本発明ののそばアレルゲンの検出方法においては、検体から、尿素と2−メルカプトエタノールを用いて加熱変性そば粗タンパク質を抽出することが好ましく、また、本発明のそばアレルゲン検出用キットとしては、検体からのそば粗タンパク質抽出剤としての、尿素と2−メルカプトエタノールが備えられているものが好ましい。
【0032】
本発明の落花生アレルゲンの検出方法としては、未変性落花生Ara h1タンパク質及び加熱変性落花生Ara h1タンパク質を認識する抗Ara h1タンパク質モノクローナル抗体を用いる落花生アレルゲンの免疫学的な検出方法や、未変性落花生Ara h1タンパク質及び加熱変性落花生Ara h1タンパク質を認識し、かつ異なるエピトープを認識する2種類の抗Ara h1タンパク質モノクローナル抗体を併用する落花生アレルゲンの免疫学的な検出方法であれば特に制限されず、また、本発明の落花生アレルゲン検出用キットとしては、未変性落花生Ara h1タンパク質及び加熱変性落花生Ara h1タンパク質を認識する抗落花生Ara h1タンパク質モノクローナル抗体を備えた免疫学的なアレルゲン検出用キットや、未変性落花生Ara h1タンパク質及び加熱変性落花生Ara h1タンパク質を認識し、かつ異なるエピトープを認識する2種類の抗落花生Ara h1タンパク質モノクローナル抗体を備えた免疫学的なアレルゲン検出用キットであれば特に制限されず、抗Ara h1タンパク質モノクローナル抗体としては、未変性Ara h1タンパク質と未変性落花生粗タンパク質、及び/又は、尿素処理Ara h1タンパク質と尿素処理落花生粗タンパク質を認識する抗Ara h1タンパク質モノクローナル抗体が好ましく、具体的には、ハイブリドーマ(FERM ABP−10269)が産生する抗未変性Ara h1タンパク質モノクローナル抗体PAh1−1、ハイブリドーマ(FERM ABP−10270)が産生する抗未変性Ara h1タンパク質モノクローナル抗体PAh1−2、ハイブリドーマ(FERM ABP−10271)が産生する抗加熱変性Ara h1タンパク質モノクローナル抗体PAh1−3等を好適に例示することができる。また、PAh1−1等の未変性Ara h1タンパク質と未変性落花生粗タンパク質を認識する抗Ara h1タンパク質モノクローナル抗体と、PAh1−2等の未変性/変性Ara h1タンパク質と未変性/変性落花生粗タンパク質を認識する抗Ara h1タンパク質モノクローナル抗体との組合せや、PAh1−2とPAh1−3等の未変性/変性Ara h1タンパク質と未変性/変性落花生粗タンパク質を認識する抗Ara h1タンパク質モノクローナル抗体同士の組み合わせ、中でも、これらのモノクローナル抗体の混合系として組み合わせることで、特に有利にサンドイッチELISAやイムノクロマトを行うことができる。例えば、サンドイッチELISAにより、未変性落花生Ara h1タンパク質及び加熱変性落花生Ara h1タンパク質を、10〜1000ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析することができる。
【0033】
さらに、本発明の落花生アレルゲンの検出方法においては、検体から、尿素と2−メルカプトエタノールを用いて加熱変性落花生粗タンパク質を抽出することが好ましく、また、本発明の落花生アレルゲン検出用キットとしては、検体からの加熱変性落花生粗タンパク質抽出剤としての、尿素と2−メルカプトエタノールが備えられているものが好ましい。
【0034】
以上の本発明の免疫学的なアレルゲンの検出方法は、未変性/変性の乳アレルゲン、未変性及び変性の卵白アレルゲン、未変性及び変性の小麦アレルゲン、未変性及び変性のそばアレルゲン、又は未変性及び変性の落花生アレルゲン(以下「食物アレルゲン」ということがある)を含む試料を、標識化した抗食物アレルゲンMAbと接触させ、あるいは標識化した抗体の存在下に食物アレルゲンMAbと接触させ、抗原抗体反応により標識化免疫複合体として捕捉する免疫反応段階と、生成した該免疫複合体をその分子中に存在する標識物質を用いて分離・測定する検出段階とからなり、かかる免疫反応段階における抗原抗体反応の方法も特に制限されず、例えば、以下の方法を例示することができる。
【0035】
不溶性担体に結合した本発明の抗食物アレルゲンMAbに試料中の食物アレルゲンを捕捉させた後に標識化抗IgG抗体を反応させるサンドイッチ法や、不溶性担体に結合した抗食物アレルゲンMAbと異なるエピトープを認識する標識抗食物アレルゲンMAb(第二抗体)を用いるサンドイッチ二抗体法や、不溶性担体に結合した抗食物アレルゲンMAbに試料中の食物アレルゲンを標識化抗原の存在下で反応させる競合法や、食物アレルゲンを含有する試料にこれらと特異的に反応する磁気ビーズ結合標識抗食物アレルゲンMAbを作用させさせた後、磁力により分離した免疫複合体中の標識物質を検出する磁気ビーズ法や、食物アレルゲンを含有する試料にこれらと特異的に反応する標識抗食物アレルゲンMAbを作用させて凝集沈殿させた後、遠心分離により分離した免疫複合体中の標識物質を検出する凝集沈殿法や、金コロイド等で標識された抗食物アレルゲンMAbと食物アレルゲンであるタンパク質が結合した抗原抗体複合体が試験ストリップ上を毛管現象等により移動する途中に、食物アレルゲンと結合する抗食物アレルゲンMAbをあらかじめ固定しておき、抗原抗体複合体を補足させることで現れる着色ラインの有無によって定性分析するイムノクロマト法の他、二重免疫拡散法、放射免疫拡散法など公知の免疫測定法を利用することができるが、抗食物アレルゲンMAbとして、それぞれ異なるエピトープを認識する2以上のモノクローナル抗体を用いる方法、例えば、食品中の未変性アレルゲン及び/又は変性アレルゲンが100〜1000ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析しうる高感度の点でサンドイッチ二抗体法が、定性的には簡便性からイムノクロマト法が好ましい。また、食肉製品等の食品試料中からアレルゲンを抽出する場合、尿素と2−メルカプトエタノールを用いることが望ましい。
【0036】
上記抗原抗体反応において用いられる不溶性担体としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、フッ素樹脂、架橋デキストラン、ポリサッカライド等の高分子化合物、その他、ガラス、金属、磁性粒子及びこれらの組み合わせ等を挙げることができ、また、不溶性担体の形状としては、例えば、トレイ状、球状、繊維状、棒状、盤状、容器状、セル、マイクロプレート、試験管、ラテックスビーズ状等の種々の形状で用いることができる。更に、これら不溶性担体への抗原又は抗体の固定化方法は特に限定されるものでなく、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法等を用いることができる。
【0037】
本発明の食物アレルゲンの検出方法や食物アレルゲン検出用キットに用いられる抗食物アレルゲンMAbの免疫グロブリンのクラス及びタイプは特に制限されないが、抗食物アレルゲンMAbとして、IgGクラス、タイプκの抗体が好適に用いられる。また、モノクローナル抗体の形態としては、全抗体又はF(ab’)2、Fab等の断片を用いることもできる。抗体の由来は特に限定されるものではないが、マウス、ラット、ヒト、兎、鶏等を挙げることができるが、作製の簡便性からマウスに由来するモノクローナル抗体が好適に用いられる。また、抗食物アレルゲンMAbは、未変性又は変性のαs1カゼインで免疫した動物から採取した抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合により調製されるハイブリドーマを培地上で培養するか、又は動物腹腔内に投与して腹水内で増殖させた後、該培養物又は腹水から採取することにより製造することができる。
【0038】
抗食物アレルゲンMAb産生ハイブリドーマは、例えば、未変性及び/又は変性の食物アレルゲンを用いてBALB/cマウスを免疫し、免疫されたマウスの抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞とを、常法により細胞融合させ、免疫蛍光染色パターンによりスクリーニングすることにより、抗食物アレルゲンMAb産生ハイブリドーマを作出することができる。上記の抗体産生細胞としては、例えば未変性及び/若しくは変性の食物アレルゲン又はこれを含有する組成物を投与して免疫した動物から得られる脾臓細胞、リンパ節細胞、B−リンパ球等を挙げることができる。免疫する動物としてはマウス、ラット、ウサギ、ウマ等が挙げられる。免疫は、例えば未変性及び/又は変性の食物アレルゲンをそのまま又は適当なアジュバントと共に動物の皮下、筋肉内又は腹腔内に1〜2回/月、1〜6ケ月間投与することにより行なわれる。抗体産生細胞の分離は、最終免疫から2〜4日後に免疫動物から採取することにより行なわれる。ミエローマ細胞としては、マウス、ラット由来のもの等を使用することができる。抗体産生細胞とミエローマ細胞とは同種動物由来であることが好ましい。
【0039】
細胞融合は、例えばダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)等の培地中で抗体産生細胞とミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の融合促進剤の存在下で混合することにより行なうことができる。細胞融合終了後、DMEM等で適当に希釈し、遠心分離し、沈殿をHAT培地等の選択培地に懸濁して培養することによりハイブリドーマを選択し、次いで、培養上清を用いて酵素抗体法により抗体産生ハイブリドーマを検索し、限界希釈法等によりクローニングを行ない、抗食物アレルゲンMAbを産生するハイブリドーマを得ることができる。また、αs1カゼイン等の未変性の食物アレルゲンのみを用いて免疫した抗免疫動物から、有利に抗変性食物アレルゲンMAbを得ることができる場合もある。この場合、抗変性αs1カゼインMAb等の抗変性食物アレルゲンMAb産生ハイブリドーマをスクリーニングしてもよいし、あるいは、固相状態でのELISAで未変性のαs1カゼイン等の未変性の食物アレルゲンに対するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを選択し、この抗体産生ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体から液相状態で未変性の食物アレルゲンに対してのみ特異的に反応する抗食物アレルゲンMAbを得ることができる。前記のように、抗体産生ハイブリドーマを培地中又は生体内で培養しモノクローナル抗体を培養物から採取することができるが、培養物又は腹水からのモノクローナル抗体の分離・精製方法としては、タンパク質の精製に一般的に用いられる方法であればどのような方法でもよく、例えば、IgG精製に通常使用される硫安分画法、陰イオン交換体又はプロテインA、G等のカラムによるクロマトグラフィーによって行なうことができる。
【0040】
また、標識化抗体作製に用いられる標識物質としては、単独でまたは他の物質と反応することにより検出可能なシグナルをもたらすことができる標識物質であればよく、酵素、蛍光物質、化学発光物質、放射性物質、金コロイド等を使用するのができ、酵素としてはペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコ−ス−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、アルコール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ペニシリナーゼ、カタラーゼ、アポグルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、ルシフェラーゼ若しくはアセチルコリンエステラーゼ等を、蛍光物質としては、フルオレスセインイソチオシアネート、フィコビリタンパク、希土類金属キレート、ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等を、発光物質としては、ルミノール類、ジオキセタン類、アクリジニウム塩類等を、放射性物質としては3H、14C、125I若しくは131I等を例示することができる。標識物質が酵素である場合には、その活性を測定するために基質、必要により発色剤、蛍光剤、発光剤等が用いることができる。
【0041】
本発明の食物アレルゲン検出用キットには、有効成分としての抗食物アレルゲンMAb、好ましくはそれぞれ異なるエピトープを認識する2以上の抗食物アレルゲンMAbを含むが、これらは保存安定性の点から、溶液状態よりも凍結乾燥物として収容されていることが好ましく、検出用キットにはかかる抗食物アレルゲンMAb溶解する緩衝液や培養液の他、試料を調製するための緩衝液等を含んでいてもよい。また、より好ましい別の態様の本発明の抗食物アレルゲン検出用キットとしては、前記イムノクロマト法における試験ストリップを挙げることができる。この場合、異なるエピトープを認識する2種類のモノクローナル抗体の少なくとも一つを、イムノクロマト用に用いられる金コロイドで標識されたモノクローナル抗体とすることが好ましい。
【0042】
本発明のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマ(FERM ABP−10263)が産生する抗αs1カゼインモノクローナル抗体Pas1CN1や、
ハイブリドーマ(FERM ABP−10264)が産生する抗αs1カゼインモノクローナル抗体Pas1CN2や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10281)が産生する抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体PLG1や、
ハイブリドーマ(FERM ABP−10282)が産生する抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体PLG2や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10283)が産生する抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体PLG3や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10265)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA1や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10266)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA2や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10275)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA1や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10276)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA2や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10279)が産生する抗オボムコイドモノクローナル抗体PNOM1や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10280)が産生する抗オボムコイドモノクローナル抗体PNOM2や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10277)が産生する抗オボムコイドモノクローナル抗体PDOM1や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10278)が産生する抗オボムコイドモノクローナル抗体PDOM2や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10267)が産生する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL1や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10268)が産生する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL2や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10272)が産生する抗24kDaタンパク質モノクローナル抗体PBW1や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10273)が産生する抗76kDaタンパク質モノクローナル抗体PBW2や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10274)が産生する抗76kDaタンパク質モノクローナル抗体PBW3や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10269)が産生する抗未変性Ara h1タンパク質モノクローナル抗体PAh1−1や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10270)が産生する抗未変性Ara h1タンパク質モノクローナル抗体PAh1−2や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10271)が産生する抗加熱変性Ara h1タンパク質モノクローナル抗体PAh1−3を挙げることができ、これらハイブリドーマは、平成17(2005)年2月24日(受領日)付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−5466 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受領されている。なお、上記Pas1CN1(FERM P−20206)、Pas1CN2(FERM P−20207)、PNOA1(FERM P−20208)、PNOA2(FERM P−20209)、PGL1(FERM P−20210)、PGL2(FERM P−20211)は平成16(2004)年9月7日(受託日)付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託されていたものである。
【0043】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
1.抗αs1カゼインモノクローナル抗体の確立
1−1 材料及び方法
1)αs1カゼイン(以下「αCN」という)の調製
新鮮な牛乳よりZittle(1959)に従い、αCNの粗画分を得た。この粗画分をさらにTSK gel DEAE 650S(TOSOH)を用いて、50mMのイミダゾール−HCl緩衝液(pH6.4)、4Mの尿素を含むNaClのリニアグラジエント(0から0.3M)により精製を行った。精製したαCN画分を蒸留水による透析後、凍結乾燥を行った。生理食塩水でこの凍結乾燥物の0.1%溶液を調製し、1ml容エッペンドルフチューブに500μLずつ分注し、免疫に供するまで−20℃で凍結保管し、抗原溶液とした。
【0045】
2)免疫
供試動物として、6週齢のBALB/cマウス(日本クレア株式会社製)5尾を用いた。初回免疫には、完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のαCNが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。また、追加免疫は、3週間の間隔で2回行った。免疫には、不完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のαCNが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。
【0046】
3)血中抗体価の測定
初回あるいは追加免疫でαCNを注射した1週間後に、各BALB/cマウスの尾部静脈より採血を行った。採血した血液は室温に2時間放置後、遠心分離を行い、血清を得た。これらの血清の10倍希釈段を作製し、非競合法ELISAによりマウス血中の抗αCN抗体価を調べた。なお、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)抗体(Jackson ImmunoReserch Laboratories Inc.製)を用いた。
【0047】
4)ハイブリドーマの作製
ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、十分に抗体価が上がったマウスに、0.1%αCN溶液100μlを尾部静脈より注射した。静脈注射から4日後、マウスより脾臓を無菌的に摘出した。脾臓を細切後、RPMI1640で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュ(Cell Strainer, 70 mm, Becton Dickinson)を通し、脾臓細胞懸濁液を得た。1,000rpm×10分の遠心分離により脾臓細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この脾臓細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を細胞数が10:1になるように混合し、再度1,000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3,350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加え希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×106cells/wellとなるように24ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に分注し、5%CO2下37℃で培養した。
【0048】
5)限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清について、ELISAの一次抗体として供試し、抗αCN抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISAによりαCNに対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9 cell/wellとなるように96ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に移し、限界希釈法によるクローニングを行った。なお、フィーダー細胞として、4週齢BALB/cマウス胸腺細胞を5×106cells/wellとなるように96ウェル細胞培養用プレートの各ウェルに加えた。
クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0049】
6)抗体のスクリーニング
モノクローナル抗体のスクリーニングは、未変性αCN(以下「N−αCN」という)、尿素処理αCN(以下「D−αCN」という)、市販のカゼインナトリウムの未変性物(以下「N−CN」という)又は市販のカゼインナトリウムの尿素処理物(以下「D−CN」という)の4種類のたんぱく質に対する反応性の違いを調べることで特異性の異なるクローンを得ることとした。D−αCNは、精製αCNを1mg量り、5%EDTA100μl、尿素6.0g、2−メルカプトエタノール0.2ml、50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.6)1ml、蒸留水1.5mlを加え、アルミフォイルで蓋をした後、100℃で1時間オイルバスで加熱、変性処理を行った。培養上清のN−αCN、D−αCN、N−CNあるいはD−CNに対する反応性を非競合法ELISAにて調べた。
【0050】
7)腹水の採取及びMAbの精製
Jonesら(1990)に従い、まず、BALB/cマウスに不完全フロイントアジュバントを0.2ml腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×106cellsのクローニングされたハイブリドーマを接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採種した腹水をProtein Gカラム(アマシャム ファルマシア)により精製した。
【0051】
8)MAbのクラス、サブクラス及びタイプ
MAbのクラス及びサブクラスについては、Monoclonal mouse immunoαCNobulin isotyping kit(Pharmingen)により、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgM、IgA、IgL(κ)及びIgL(γ)を決定した。
【0052】
9)MAbのビオチン化
精製したMAbについて、サンドイッチELISAに供試するため、それぞれビオチン化処理を行った。50mMの炭酸緩衝液(pH8.5)を用いて20mg/mlとなるよう調製し、DMSOに3mg/100μlで溶解したNHS−ビオチン溶液を10μl加え、撹拌後、氷冷しながら2時間静置した。その後、20mg/mlとなるようにPBSで置換した。
【0053】
1−2 結果
1)MAbの選択
乳の主要アレルゲンであるαs1カゼイン(αCN)を特異的に認識する6種類のMAbが得られた。これら6種類のMAbにおける、それぞれ固相とした各抗原N−αCN、D−αCN、N−CN、又はD−CNに対する特異性をダイレクトELISAにより調べた。また、これらMAbのクラス、サブクラスについても調べた。結果を表1に示す。表1中、+は各固相抗原に対し陽性であることを、−は陰性であることを示す。表1に示されるように、全ての状態の抗原に結合するMAbであるPas1CN1、Pas1CN2、Pas1CN3を選択した。
【0054】
【表1】
【0055】
2)サンドイッチELISAにおける組合せ条件
ダイレクトELISAで選択したPas1CN1、Pas1CN2、Pas1CN3を用いて、全てのMAbの組合わせについてサンドイッチELISAを行った。Pas1CN1、Pas1CN2、Pas1CN3をそれぞれ固相あるいはビオチン化抗体として、αCNあるいはCNを検出するためのMAbの組合せを、サンドイッチELISAにより選出した。その結果、N−αCN、D−αCN、N−CN、D−CNを検出できる組合せとしてPas1CN1(FERM ABP−10263)とPas1CN2(FERM ABP−10264)を選択した。結果を図1に示す。
2.Pas1CN1とPas1CN2の認識するエピトープ
αs1カゼイン溶液を、リシルエンドプロテアーゼで分解し、分解物をトリシンSDS−PAGE(分離ゲル16.5%、濃縮ゲル5%)により分離した。分離したゲルを用いて、エレクトロブロッティングによりPVDF膜に転写した。転写したPVDF膜にPas1CN1とPas1CN2の培養上清(1/1000)を反応させたのち、発色させて、認識するエピトープを確認した。結果を図2に示す。その結果、認識部位はPas1CN1とPas1CN2ともに、分子量約7000、配列番号1で示されるαs1カゼインのアミノ酸配列の132番目から193番目までの領域を認識した。
【0056】
3.サンドイッチELISAによる食品中の変性および未変性カゼインの検出
上記1.で選択されたPas1CN1とPas1CN2の組合せにより、実際の食品中のカゼインを検出できるかを試みた。
【0057】
3−1 材料及び方法
1)モデル食肉製品の作製
定量試験のためのモデル食品として食肉製品を選択し、表2に示す配合にて各濃度のカゼインナトリウムを含むモデル食肉製品を作製した。豚赤肉は、豚ロース肉より脂、スジを除去し、5mmで挽肉にしたものを使用した。
【0058】
【表2】
【0059】
各配合に従い添加物を計量し、フードプロセッサーにて混合後、塩ビチューブに充填を行い、75℃で30分の加熱を行った。
2)サンドイッチELISAによる定量分析
各モデル食肉製品を、フードプロセッサーにて均一になるまで磨砕し、分析用サンプルとした。サンプルを2gを量り取り、1M尿素および0.1% 2−メルカプトエタノールを含むPBSTを38g加え100℃、一時間加熱処理を行った。冷却後、3,000rpm×20分の遠心分離を行い、上清0.5mlにPBSTを9.5ml加え、ELISA用サンプルとした。検量線には同様に尿素・2−メルカプトエタノール処理を行ったカゼインナトリウムの段階希釈を用いた。また、分析用サンプルからPBSTを用いて抽出し、PBST(PBSにポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを0.5%加えたもの)に溶解したカゼインナトリウムを検量線とした尿素および2−メルカプトエタノールを用いない場合との比較を行った。
【0060】
3−2 結果
サンドイッチELISAによるモデル食肉製品中のカゼインナトリウムの分析について、尿素および2−メルカプトエタノールを用いた結果を表3に、また、PBSTのみで抽出した結果を表4に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
以上の結果から、尿素および2−メルカプトエタノールを抽出液に加えた場合に、高い回収率でモデル食肉製品中のカゼインナトリウムを検出可能であり、PBST抽出では非常に低い回収率となった。これらのことから、食品中からのカゼインナトリウムの抽出には尿素および2−メルカプトエタノールを用いることが有効であり、その場合に利用するMAbの特性には、尿素可溶化カゼインに結合可能であることが必要であることが明らかとなった。
【0064】
4.イムノクロマトによる変性および未変性カゼインナトリウムの検出
4−1材料および方法
1)金コロイド標識およびコンジュゲートパッドの作製
2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で1mg/mlとなるようにPas1CN1のMAb溶液を調製した。あらかじめ0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液(シグマ社製)5mlにMAb溶液を500μl加え、室温で30分間反応した後、10%BSA溶液を625μlを加え、さらに15分間反応させた。遠心分離を行い、1%BSA溶液でOD525=1.0になるよう調製した。ガラスウール製コンジュゲートパッドに68μl/cm2となるよう塗布し、乾燥させた。
【0065】
2)抗体固定化メンブレンの作製
PBSで4mg/mlとなるようPas1CN2のMAb溶液を調製し、ニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた。その後、1%BSA、0.1%Tween20を含むPBSで37℃、2時間ブロッキング後、PBSで洗浄し乾燥させた。
【0066】
3)イムノクロマトストリップの組立と評価
上記で作製したサンプルパッド、コンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドをそれぞれ貼り付け、イムノクロマトストリップとした。被検液としては、上記調製したモデル食肉製品を適宜希釈して用いた。
【0067】
4−2 結果
Pas1CN2および金コロイド標識Pas1CN1の組合せによりカゼインナトリウムは加熱、非加熱に係わらず50ppb(食品中2ppm)まで検出することができた。この結果から、製造工程中に混入した未変性カゼインナトリウムが対象となっても、加熱後の製品が対象となっても、いかなる場合にでも対応できるイムノクロマトストリップの設計が可能となった。
【0068】
市販のアレルゲン検出用イムノクロマトストリップでは、ブランクとして0.01Mの尿素のみを含むPBSを滴下したところ、非特異的なバンドが生じてしまい、擬陽性となってしまった。これでは、加熱などにより変性した食品たんぱく中から効率よくアレルゲンを抽出するためのたんぱく質変性剤を使用できず、アレルゲンとして検出できる対象が極めて狭い範囲に限られてしまう危険性が考えられた。
【0069】
5.抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体の確立
5−1 材料及び方法
1)βラクトグロブリン(以下「βLG」ということがある)の調製
新鮮な牛乳よりZittle(1959)に従い、ホエーの粗画分を得た。この粗画分をさらにTSK gel DEAE 650S(TOSOH)を用いて、50mMのトリス−HCl緩衝液(pH6.5)、NaClのリニアグラジエント(0から0.4M)により精製を行った。精製したβLG画分を蒸留水による透析後、凍結乾燥を行い、未変性βLG(以下「N−βLG」ということがある)とした。このN−βLGを10mg量り、1.4Mのトリス−HCl緩衝液(pH8.6)1ml、5%のEDTA100μl、尿素1.2g、2−メルカプトエタノール33μlを加え2.5mlに定容した後、窒素ガス置換を行い、37℃、1時間の還元処理を行い、さらに、1MのNaOH300μlに溶解した89mgのモノヨード酢酸を加え窒素ガス置換した後、室温で1時間のカルボキシメチル化を行い、還元カルボキシメチル化βLG(以下「R−βLG」ということがある)とした。生理食塩水でこれらの凍結乾燥物の0.1%溶液を調製し、1ml容エッペンドルフチューブに500μlずつ分注し、免疫に供するまで−20℃で凍結保管し、抗原溶液とした。
【0070】
2)免疫
供試動物として、5週齢のBALB/cマウス(日本クレア株式会社製)5尾を用いた。初回免疫には、完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のN−βLG又はR−βLGが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量ずつ加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。また、追加免疫は、2週間の間隔で3回行った。免疫には、不完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のN−βLG又はR−βLGが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量ずつ加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。
【0071】
3)血中抗体価の測定
初回あるいは追加免疫でN−βLG又はR−βLGを注射した1週間後に、各BALB/cマウスの尾部静脈より採血を行った。採血した血液は室温に2時間放置後、遠心分離を行い、血清を得た。これらの血清の10倍希釈段を作製し、非競合法ELISAによりマウス血中の抗N−βLG抗体価及び抗R−βLG抗体価を調べた。なお、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)抗体(Jackson ImmunoReserch Laboratories Inc.製)を用いた。
【0072】
4)ハイブリドーマの作製
ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、十分に抗体価が上がったマウスに、0.1%のN−βLG溶液又はR−βLG溶液100μlを尾部静脈より注射した。静脈注射から4日後、マウスより脾臓を無菌的に摘出した。脾臓を細切後、RPMI1640で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュ(Cell Strainer, 70 mm, Becton Dickinson)を通し、脾臓細胞懸濁液を得た。1,000rpm×10分の遠心分離により脾臓細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この脾臓細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を細胞数が10:1になるように混合し、再度1,000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3,350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加え希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×106cells/wellとなるように24ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に分注し、5%CO2下37℃で培養した。
【0073】
5)限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清について、ELISAの一次抗体として供試し、抗N−βLG抗体又は抗R−βLG抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISAによりN−βLG又はR−βLGに対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9cell/wellとなるように96ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に移し、限界希釈法によるクローニングを行った。なお、フィーダー細胞として、4週齢BALB/cマウス胸腺細胞を5×106cells/wellとなるように96ウェル細胞培養用プレートの各ウェルに加えた。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0074】
6)抗体のスクリーニング
モノクローナル抗体のスクリーニングは、N−βLG、R−βLG及び尿素処理βLG(以下「D−βLG」という)の3種類のたんぱく質に対する反応性の違いを調べることで特異性の異なるクローンを得ることとした。D−βLGは、N−βLGを1mg量り、6.0gの尿素、0.2mlの2−メルカプトエタノール、1mlの50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.6)、1.5mlの蒸留水を加え、アルミフォイルで蓋をした後、100℃で1時間オイルバスで加熱、変性処理を行った。培養上清のN−βLG、R−βLGあるいはD−βLGに対する反応性を非競合法ELISAにて調べた。
【0075】
7)腹水の採取及びMAbの精製
Jonesら(1990)に従い、まず、BALB/cマウスに不完全フロイントアジュバントを0.2ml腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×106cellsのクローニングされたハイブリドーマを接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採種した腹水をProtein G カラム(アマシャム ファルマシア)により精製した。
【0076】
8)MAbのクラス、サブクラス及びタイプ
抗N−βLGMAb又は抗R−βLGMAbの特性を決定するために、固相法を用いた。固相法として、N−βLG、R−βLG又はD−βLGをあらかじめ細胞培養用プレートのウェル内に固定し、この固定化された抗原に抗N−βLGMAb又は抗R−βLGMAbを作用させる方法を用いた。MAbのクラス及びサブクラスについては、Monoclonal mouse immunoαCNobulin isotyping kit(Pharmingen)により、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgM、IgA、IgL(κ)及びIgL(γ)を決定した。
【0077】
9)MAbのビオチン化
精製したMAbについて、サンドイッチELISAに供試するため、それぞれビオチン化処理を行った。50mMの炭酸緩衝液(pH8.5)を用いて20mg/mlとなるよう調製し、DMSOに3mg/100μlで溶解したNHS−ビオチン溶液を10μl加え、撹拌後、氷冷しながら2時間静置した。その後、20mg/mlとなるようにPBSで置換した。
【0078】
5−2 結果
1)抗N−βLGMAbと抗R−βLGMAbの特性とクラス、サブクラス
N−βLGに対する特異性を持つMAb13種類を得た。それぞれ固相の抗原に対する特異性を表5に示した。
【0079】
【表5】
【0080】
2)サンドイッチELISAにおける組合せ条件
固相の抗原に対し陽性反応を示した各MAbをそれぞれ固相あるいはビオチン化抗体として、N−βLG及びD−βLGを検出するためのMAbの組合せを、サンドイッチELISAにおける検出感度の点から選出した。その結果、N−βLG及びD−βLGを検出できる組合せとして、プレート固定化抗体PLG2(FERM ABP−10282)と、ビオチン化抗体PLG1(FERM ABP−10281)又はPLG3(FERM ABP−10283)を選択した。PLG2とPLG1のサンドイッチELISAによるN−βLG及びD−βLGに対する反応性の結果を図3に示す。また、PLG2とPLG3のサンドイッチELISAによるN−βLG及びD−βLGに対する反応性を図4に示す。
【0081】
3)MAb混合系でのN−βLG、D−βLGの検出
サンドイッチELISAにより選択した組合せ(固相にPLG2、ビオチン化にPLG1およびPLG3)を用い、N−βLGとD−βLGの検出感度を確認したところ、図5及び図6に示すように、MAb混合系でN−βLG、D−βLGともにMAb混合系の方が吸光値は高く、検出感度を上げることが可能であることが明らかとなった。
【0082】
6.サンドイッチELISAによる食品中のホエータンパク質の検出
上記1.で選択されたPLG2とPLG1、及びPLG2とPLG3の組合せにより、実際の食品中のホエータンパク質質を検出できるかを試みた。
【0083】
6−1 材料及び方法
1)モデル食肉製品の作製
定量試験のためのモデル食品として食肉製品を選択し、表6に示す配合にて各濃度のホエータンパク質を含むモデル食肉製品を作製した。豚赤肉は、豚ロース肉より脂、スジを除去し、5mmで挽肉にしたものを使用した。各配合に従い添加物を計量し、フードプロセッサーにて混合後、塩ビチューブに充填を行い、75℃で30分の加熱を行った。
【0084】
【表6】
【0085】
2)サンドイッチELISAによる定量分析
各モデル食肉製品を、フードプロセッサーにて均一になるまで磨砕し、分析用サンプルとした。サンプル1gを量り取り、10M尿素および0.1%の2−メルカプトエタノールを含むPBST(PBSにポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを0.5%加えたもの)を19g加え、ホモジナイザーにて30秒攪拌した。その後、100℃で1時間加熱処理を行った。冷却後、3,000rpm×20分の遠心分離を行い、上清0.5mlにPBSTを9.5ml加え、ELISA用サンプルとした。検量線には同様に10M尿素及び0.1%の2−メルカプトエタノール処理を行ったホエータンパク質の段階希釈を用いた。また、分析用サンプルからPBSTを用いて抽出し、PBSTに溶解したホエータンパク質を検量線とした尿素及び2−メルカプトエタノールを用いない場合との比較を行った。
【0086】
6−2 結果
サンドイッチELISAによるモデル食肉製品中のホエータンパク質の分析について、尿素および2−メルカプトエタノールを用いて抽出したモデル食肉製品中のホエータンパク質の分析結果を表7に、また、PBSTのみで抽出したモデル食肉製品中のホエータンパク質の分析結果を表8に示す。
【0087】
【表7】
【0088】
【表8】
【0089】
以上の結果から、尿素および2−メルカプトエタノールを抽出液に加えた場合に、高い回収率でモデル食肉製品中のホエータンパク質を検出可能であり、PBST抽出では検出できなかった。これらのことから、食品中からのホエータンパク質の抽出には尿素および2−メルカプトエタノールを用いることが有効であり、その場合に利用するMAbの特性には、尿素で変性させたβLGに結合可能であることが必要であることが明らかとなった。
【0090】
7.イムノクロマトによる変性および未変性カゼインナトリウムの検出
7−1 材料および方法
1)金コロイド標識およびコンジュゲートパッドの作製
2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で1mg/mlとなるようにPLG1及びPLG3のMAb溶液を調製した。あらかじめ0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液(シグマ社製)5mlにMAb溶液を500μl加え、室温で30分間反応した後、10%BSA溶液625μlを加え、さらに15分間反応させた。遠心分離を行い、1%BSA溶液でOD525=2.0になるよう調製し、1:1の割合で混合した。ガラスウール製コンジュゲートパッドに68μl/cm2となるよう塗布し、乾燥させた。
【0091】
2)抗体固定化メンブレンの作製
PBSで4mg/mlとなるようPLG2のMAb溶液を調製し、ニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた。その後、1%BSAを含む10mMリン酸バッファー(pH7.5)で37℃で1時間ブロッキング後、10mMリン酸バッファー(pH7.5)で洗浄し乾燥させた。
【0092】
3)イムノクロマトストリップの組立と評価
上記で作製したサンプルパッド、コンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドをそれぞれ貼り付け、イムノクロマトストリップとした。被検液としては、上記2.で調製したモデル食肉製品を適宜希釈して用いた。
【0093】
7−2 結果
メンブレン塗布MAbであるPLG2、および金コロイド標識MAbであるPLG1+PLG3の組合せにより、ホエータンパク質は加熱、非加熱に係わらず50ppb(食品中2ppm)まで検出することができた。この結果から、製造工程中に混入したホエーたんぱく質が対象となっても、加熱後の製品が対象となっても、いかなる場合にでも対応できるイムノクロマトストリップの設計が可能となった。
【0094】
市販のアレルゲン検出用イムノクロマトストリップでは、ブランクとして0.1M尿素、0.2%2−MEを含むPBSを滴下したところ、非特異的なバンドが生じてしまい、擬陽性となってしまった。これでは、加熱などにより変性した食品たんぱく中から効率よくアレルゲンを抽出するためのたんぱく質変性剤を使用できず、アレルゲンとして検出できる対象が極めて狭い範囲に限られてしまう危険性が考えられた。
【実施例2】
【0095】
1.変性/未変性オボアルブミンに結合可能なMAbの確立
1−1 材料及び方法
1)ニワトリオボアルブミン(以下「OA」ということがある)の調製
新鮮なニワトリ卵より卵白のみを採取し、泡立てないように均質化後、等量の飽和硫酸アンモニウムを加え、濾紙No.1(アドバンテック東洋)で濾過した。そして、得られたろ液に0.5Mの硫酸を添加しpH4.6に調整後、一晩放置した。8,000rpm×20分の遠心分離により得られた沈殿を蒸留水に溶解し、同じ方法で再結晶化し、粗OA画分を得た。粗OAはさらに、TSK gel DEAE 650S(Tosoh)を用いたイオン交換クロマトグラフィにより精製した。移動相には50mMイミダゾール−塩酸緩衝液(pH6.4)を用い、NaClの0から0.3MのリニアグラジェントによりOAを分画し、透析による脱塩後、凍結乾燥を行った。この凍結乾燥OAを用い、生理食塩水で0.1%のOA溶液を作製し、1ml容エッペンドルフチューブに500μlずつ分注して抗原溶液とし、免疫に供するまで−20℃で凍結保管した。
【0096】
2)免疫
供試動物として、6週齢のBALB/cマウス(日本クレア株式会社製)4尾を用いた。初回免疫には、完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のOAが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。また、追加免疫は、3週間の間隔で2回行った。免疫には、不完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のOAが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。なお、抗変性OAMAbを得る場合、最終免疫のみに後述する還元カルボキシメチル化OAを用いた。
【0097】
3)血中抗体価の測定
初回あるいは追加免疫でOAを注射した1週間後に、各BALB/cマウスの尾部静脈より採血を行った。採血した血液は室温に2時間放置後、遠心分離を行い、血清を得た。これらの血清の10倍希釈段を作製し、非競合法ELISAによりマウス血中の抗OA抗体価を調べた。なお、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)抗体(Jackson ImmunoReserch Laboratories Inc.製)を用いた。
【0098】
4)ハイブリドーマの作製
ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、十分に抗体価が上がったマウスに、0.1%OA溶液100μlを尾部静脈より注射した。静脈注射から4日後、マウスより脾臓を無菌的に摘出した。脾臓を細切後、RPMI1640で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュ(Cell Strainer, 70 mm, Becton Dickinson)を通し、脾臓細胞懸濁液を得た。1,000rpm×10分の遠心分離により脾臓細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この脾臓細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を細胞数が10:1になるように混合し、再度1,000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3,350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加え希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×106cells/wellとなるように24ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に分注し、5%CO2下37℃で培養した。
【0099】
5)限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清について、ELISAの一次抗体として供試し、抗OA抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISAによりOAに対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9 cell/wellとなるように96ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に移し、限界希釈法によるクローニングを行った。なお、フィーダー細胞として、4週齢BALB/cマウス胸腺細胞を5×106cells/wellとなるように96ウェル細胞培養用プレートの各ウェルに加えた。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100g/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0100】
6)抗体のスクリーニング
モノクローナル抗体のスクリーニングは、未変性OA(以下「NOA」ということがある)あるいは還元カルボキシメチル化OA(以下「RCMOA」ということがある)に対する反応性の違いを調べることで特異性の異なるクローンを得ることとした。RCMOAは、精製OA(上記凍結乾燥物)を10mg量り、1.4Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.6)1ml、5%のEDTA100μl、1.2gの尿素、33μlの2−メルカプトエタノールを加え2.5mlに定容した後、窒素ガス置換を行い、37℃、1時間の還元処理を行った。さらに、1MのNaOH300μlに溶解した89mgのモノヨード酢酸を加え窒素ガス置換した後、室温で1時間のカルボキシメチル化を行い、RCMOAとした。培養上清のNOAあるいはRCMOAに対する反応性を非競合法ELISAにより調べた。
【0101】
7)腹水の採取及びMAbの精製
Jonesら(1990)に従い、まず、BALB/cマウスに不完全フロイントアジュバントを0.2ml腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×106cellsのクローニングされたハイブリドーマを接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採種した腹水をProtein G カラム(アマシャム ファルマシア)により精製した。
【0102】
8)MAbの特性とMAbのクラス、サブクラス及びタイプ
抗OAMAbの特性を決定するために、固相法と液相法を用いた。固相法として、NOA又はRCMOAをあらかじめ細胞培養用プレートのウェル内に固定し、この固定化された抗原(NOA又はRCMOA)に抗未変性/変性OAMAbを作用させる方法を用い、また、液相法として、ウサギ抗OAポリクローナル抗体をあらかじめ細胞培養用プレートのウェル内に固定し、このポリクローナル抗体にNOA又はRCMOAを結合させた状態で、抗未変性/変性OAMAbを作用させる方法を用いた。また、MAbのクラス及びサブクラスについては、Monoclonal mouse immunoglobulin isotyping kit(Pharmingen)により、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgM、IgA、IgL(κ)及びIgL(γ)を決定した。
【0103】
9)MAbのビオチン化
精製したMAbについて、サンドイッチELISAに供試するため、それぞれビオチン化処理を行った。50mMの炭酸緩衝液(pH8.5)を用いて20mg/mlとなるよう調製し、DMSOに3mg/100μlで溶解したNHS−ビオチン溶液を10μl加え、撹拌後、氷冷しながら2時間静置した。その後、20mg/mlとなるようにPBSで置換した。
【0104】
1−2 結果
1)抗OAMAbの特性とクラス、サブクラス
NOAに対する特異性を持つMAb9種類、及び、RCMOAに対する特異性を持つMAb10種類を得た。それぞれ液相あるいは固相の抗原に対する特異性を表9に示した。
【0105】
【表9】
【0106】
2)組合せ条件
NOAを検出するためのMAbあるいはRCMOAを検出するためのMAbの組合せは、サンドイッチELISAにおける検出感度の点から選出した。その結果、NOAでは301B5と316G1や304E4(PNOA1;FERM ABP−10265)と306B2(PNOA2;FERM ABP−10266)、RCMOAでは117F9と119D11や948G11(PDOA1;FERM ABP−10275)と962B8(PDOA2;FERM ABP−10276)を高い組合せとして選択した。
【0107】
2.サンドイッチELISAによる変性及び未変性抗原の検出
2−1 材料及び方法
NOA溶液は、精製OAをPBSで100ppb溶液となるように調製し、3倍の希釈段を作製した(希釈段A)。一方、ガラス試験管に精製OAを1mg量り、6gの尿素、0.2mlの2−メルカプトエタノール、1mlの50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.6)、1.5mlの蒸留水を加え、アルミフォイルで蓋をした後、100℃で1時間オイルバスで加熱、変性処理を行った。冷却後、100ml容メスフラスコに移し、PBSで100mlにメスアップした。これをさらにPBSで100倍希釈し、尿素変性OA(以下「UDOA」という)100ppb溶液とした。さらに尿素濃度を0.01Mに保ちながら3倍の希釈段を作製した(希釈段B)。また、NOA100ppb溶液とUDOA100ppb溶液を等量ずつ混ぜ(NOA及びUDOAは各50ppb溶液となる)、尿素濃度を0.005Mに保ちながら3倍の希釈段を作製した(希釈段C)。また、サンドイッチELISAに供試した条件を表10に示す。コーティングMAb濃度は単独の場合は25μg/mlに、また混合した場合には各12.5μg/mlとし、合計で25μg/mlとなるようにした。
【0108】
【表10】
【0109】
2−2 結果
図7に示すように、未変性OAを対象とした(試験1)では301B5単独と、301B5と119D11の混合の曲線はほとんど重なったが、10ppb以下のより希薄な状態において301B5単独よりも301B5と119D11の混合の曲線では若干混合の方が吸光値は高く、検出感度が上げられる可能性が考えられた。また、変性OAを対象とした(試験2)のUDOAでは、301B5単独では吸光値が認められず、301B5及び316G1はUDOAに関与しないものと考えられたが、119D11単独と301B5と119D11の混合の曲線では明らかに混合の方が吸光値は高く、MAbを混合することにより検出感度を上げることができるものと考えられた(図8)。これは未変性/変性OAを対象とした(試験3)でも認められ、301B5単独よりも301B5と119D11の混合の方が明らかに吸光値が高かった(図9)。試験1〜3のいずれの場合も、単独でコーティングされた抗体濃度は25g/mlであり、混合ではそれぞれ半分の濃度の12.5mg/mlであったことから、MAbの種類を増やす混合系を用いることで、抗体濃度が同じあるいは少なくても、より抗原の検出感度を上げることが可能であることが明らかとなった。
【0110】
3.イムノクロマトによる変性及び未変性OAの検出
3−1 材料及び方法
1)金コロイド標識及びコンジュゲートパッドの作製
2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で1mg/mlとなるように119D11及び316G1のMAb単独あるいは混合溶液を調製した。あらかじめ0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液(シグマ社製)5mlにMAb溶液を500μl加え、室温で30分間反応した後、10%BSA溶液を625μlを加え、さらに15分間反応させた。遠心分離を行い、1%BSA溶液でOD525=1.0になるよう調製した。ガラスウール製コンジュゲートパッド(日本ミリポア社製)に68μl/cm2となるよう塗布し、乾燥させた。
【0111】
2)抗体固定化メンブレンの作製
PBSで4mg/mlとなるよう117F9及び301B5のMAb単独あるいは混合溶液を調製し、ニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた。その後、1%BSA、0.1%Tween20を含むPBSで37℃、2時間ブロッキング後、PBSで洗浄し乾燥させた。
【0112】
3)イムノクロマトストリップの組立と評価
上記で作製したコンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレンに加えて、被検液スポット用のガラスウール製サンプルパッド、被検液吸収用のガラスウール製吸収パッドを別途用意し、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドの順にそれぞれ貼り付け、イムノクロマトストリップとした。被検液としては、上記2.で調製したNOA並びにUDOAを適宜希釈して用いた。
【0113】
3−2 結果
301B5及び金コロイド標識316G1の組合せによりNOAは10ppbまで検出することができたが、UDOAは1ppmでも検出できなかった。一方、117F9及び金コロイド標識119D11の組合せにより、UDOAは10ppbまで検出することができたが、NOAは1ppmでも検出できなかった。これに対して、301B5及び117F9の固定化抗体混合物、並びに316G1及び119D11の金コロイド抗体混合物を用いたイムノクロマトストリップを作製した場合、変性OAあるいは未変性OAを10ppbまで検出可能であった。この様に変性OAに結合可能なMAbと未変性OAに結合可能なMAbを組み合わせることにより、製造工程中に混入した未変性卵白が対象となっても、加熱後の製品が対象となっても、いかなる場合にでも対応できるイムノクロマトストリップの設計が可能となった。
【0114】
市販の卵アレルゲン検出用イムノクロマトストリップでは、ブランクとして0.01Mの尿素のみを含むPBSを滴下したところ、非特異的なバンドが生じてしまい、擬陽性となってしまった。これでは卵白アレルゲン検査において、熱などにより不溶化した卵白アレルゲンを抽出するためのたんぱく質変性剤である尿素を使用できず、アレルゲンとして検出できる対象が極めて狭い範囲に限られてしまう危険性が考えられた。
【0115】
4.変性/未変性オボムコイドに結合可能なMAbの確立
4−1 材料及び方法
1)ニワトリオボムコイド(以下「OM」という)の調製
新鮮なニワトリ卵より卵白のみを採取し、泡立てないように均質化後、等量の0.1M酢酸緩衝液(pH3.8)と混合した。さらに0.1M酢酸緩衝液に対し透析後、8,000rpm×20分遠心し、上精を回収した。さらに、TSK gel DEAE 650S(Tosoh)を用いたイオン交換クロマトグラフィにより精製した。移動相には50mMイミダゾール−塩酸緩衝液(pH6.4)を用い、NaClの0から0.3MのリニアグラジェントによりOMを分画し、透析による脱塩後、凍結乾燥を行い、これを未変性OM(以下「NOM」ということがある)とした。この精製OMを1mg量り、6gの尿素、0.2mlの2−メルカプトエタノール、1mlの50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.6)、1.5mlの蒸留水を加え、アルミフォイルで蓋をした後、100℃で1時間オイルバスで加熱、変性処理を行い尿素変性OM(以下「DOM」ということがある)とした。生理食塩水でこれらの凍結乾燥物の0.1%溶液を調製し、1ml容エッペンドルフチューブに500μlずつ分注して抗原溶液とし、免疫に供するまで−20℃で凍結保管した。
【0116】
2)免疫
供試動物として、それぞれ6週齢のBALB/cマウス(日本クレア株式会社製)4尾を用いた。初回免疫には、完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のNOM又はDOMが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量ずつ加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。また、追加免疫は、3週間の間隔で2回行った。免疫には、不完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のNOM又はDOMが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量ずつ加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。
【0117】
3)血中抗体価の測定
初回あるいは追加免疫でNOM又はDOMを注射した1週間後に、各BALB/cマウスの尾部静脈より採血を行った。採血した血液は室温に2時間放置後、遠心分離を行い、血清を得た。これらの血清の10倍希釈段を作製し、非競合法ELISAによりマウス血中の抗OM抗体価を調べた。なお、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc.製)を用いた。
【0118】
4)ハイブリドーマの作製
ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、十分に抗体価が上がったマウスに、0.1%NOM溶液又はDOM溶液100mlを尾部静脈より注射した。静脈注射から4日後、マウスより脾臓を無菌的に摘出した。脾臓を細切後、RPMI1640で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュ(Cell Strainer, 70 mm, Becton Dickinson)を通し、脾臓細胞懸濁液を得た。1,000rpm×10分の遠心分離により脾臓細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この脾臓細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を細胞数が10:1になるように混合し、再度1,000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3,350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加え希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×106cells/wellとなるように24ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に分注し、5%CO2下37℃で培養した。
【0119】
5)限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清について、ELISAの一次抗体として供試し、抗NOM抗体又は抗DOM抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISAによりNOM又はDOMに対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9cell/wellとなるように96ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に移し、限界希釈法によるクローニングを行った。なお、フィーダー細胞として、4週齢BALB/cマウス胸腺細胞を5×106cells/wellとなるように96ウェル細胞培養用プレートの各ウェルに加えた。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100g/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0120】
6)腹水の採取及びMAbの精製
Jonesら(1990)に従い、まず、BALB/cマウスに不完全フロイントアジュバントを0.2ml腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×106cellsのクローニングされたハイブリドーマを接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採種した腹水をProtein G カラム(アマシャム ファルマシア)により精製した。
【0121】
7)MAbの特性とMAbのクラス、サブクラス及びタイプ
抗NOMMAb及び抗DOMMabの特性を決定するために、固相法と液相法を用いた。固相法として、NOM又はDOMをあらかじめ細胞培養用プレートのウェル内に固定し、この固定化されたNOM又はDOMにMAbを作用させる方法を用い、また、液相法として、ウサギ抗オボムコイドポリクロナール抗体をあらかじめ細胞培養用プレートのウェル内に固定し、このポリクロナール抗体にNOM又はDOMを結合させた状態で、MAbを作用させる方法を用いた。また、MAbのクラス及びサブクラスについては、Monoclonal mouse immunoglobulin isotyping kit(Pharmingen)により、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgM、IgA、IgL(κ)及びIgL(γ)を決定した。
【0122】
8)MAbのビオチン化
精製したMAbについて、サンドイッチELISAに供試するため、それぞれビオチン化処理を行った。50mMの炭酸緩衝液(pH8.5)を用いて20mg/mlとなるよう調製し、DMSOに3mg/100μlで溶解したNHS−ビオチン溶液を10ml加え、撹拌後、氷冷しながら2時間静置した。その後、20mg/mlとなるようにPBSで置換した。
【0123】
4−2 結果
1)抗NOMMAb及び抗DOMMabの特性とクラス、サブクラス
NOMに対する特異性を持つMAb7種類、DOMに対する特異性を持つMAb10種類を得た。それぞれ液相あるいは固相の抗原に対する特異性を表11に示した。
【0124】
【表11】
【0125】
2)組合せ条件
NOMを検出するためのMAbの組合せは、サンドイッチELISAにおける検出感度の点から選出した。その結果、47E5(PNOM1;FERM ABP−10279)と50A12(PNOM2;FERM ABP−10280)とを高い組合せとして選択した。また、上記、10個のモノクローナル抗体を用いてサンドイッチELISAを行い、最も感度の高い628E1(PDOM1;FERM ABP−10277)と648A9(PDOM2;FERM ABP−10278)とを高い組合せとして選択した。
【0126】
3)サンドイッチELISAによる各モノクローナル抗体とOMの反応性
PNOM1およびPNOM2のサンドイッチELISAでは、未変性オボムコイドは検出できたが、変性オボムコイドはまったく検出できなかった(図10)。また、PDOM1およびPNOM2のサンドイッチELISAでは、変性OMを検出できたが、未変性OMでは10〜100ppbの間で、感度が低かった(図11)。しかし、プレート抗体としてPNOM2及びPDOM2を用い、ビオチン抗体としてPNOM1及びPDOM1を用いる各モノクローナル抗体を組み合わせたサンドイッチELISAでは、特に未変性OMの10〜100ppbで検出感度の向上が認められた(図12)。
5.イムノクロマトによるOMを指標とした卵白の検出
【0127】
5−1 材料及び方法
1)金コロイド標識及びコンジュゲートパッドの作製
2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で1mg/mlとなるようにPNOM1のMAb溶液を調製した。あらかじめ0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液(シグマ社製)5mlにMAb溶液を500μl加え、室温で30分間反応した後、10%BSA溶液を625μlを加え、さらに15分間反応させた。遠心分離を行い、1%BSA溶液でOD525=1.0になるよう調製した。ガラスウール製コンジュゲートパッド(日本ミリポア社製)に68μl/cm2となるよう塗布し、乾燥させた。
【0128】
2)抗体固定化メンブレンの作製
PBSで4mg/mlとなるようPNOM2のMAb溶液を調製し、ニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた。その後、1%BSA、0.1%Tween20を含むPBSで37℃、2時間ブロッキング後、PBSで洗浄し乾燥させた。
【0129】
3)イムノクロマトストリップの組立と評価
上記で作製したコンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレンに加えて、被検液スポット用のガラスウール製サンプルパッド、被検液吸収用のガラスウール製吸収パッドを別途用意し、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドの順にそれぞれ貼り付け、イムノクロマトストリップとした。被検液としては、凍結乾燥卵白粉末の0.1%溶液をそれぞれ室温、50℃、75℃、100℃で1時間処理したものを適宜希釈して用いた。
【0130】
5−2 結果
PNOM1及び金コロイド標識PNOM2の組み合わせにより、室温及び50℃で1時間処理した卵白溶液は10ppbまで検出できた。また、75、100℃で1時間処理した卵白は、100ppbまで検出することができた。この結果から、100℃で1時間に相当する加熱処理をされた食品では、尿素の様な変性剤を用いなくても、この抗OMMAbのイムノクロマトストリップを用いることで、卵白として100ppbまでは、簡便な抽出により検出可能であった。しかし、100℃を越えた熱処理ではOMのイムノクロマトでは検出できないため、上記のように尿素による可溶化処理が必要であった。
【0131】
6.抗OAMAbと抗OMMAbとの併用効果
6−1 方法
上記の結果より、PNOA1、PDOA1及びPNOM1の固定化抗体混合物、並びにPNOA2、PDOA2及びPNOM2の金コロイド抗体混合物を用いたイムノクロマトストリップを上記のように作製し、卵白の検出を試みた。
【0132】
6−2 結果
PNOA1とPNOA2、PDOA1とPDOA2およびPNOM1とPNOM2の組み合わせは、それぞれ上記に示したように目的の変性/未変性オOAあるいはOMをそれぞれの感度で検出することが可能であった。このことから、加工食品の製造過程において未加熱状態の場合には未変性OA及びOMに対するMAbが反応し、50から100℃の場合には、未変性/変性OA、及びOMに対するMAbが反応、それ以上の場合には尿素による可溶化処理により変性OAが反応する卵白の検出方法を開発することができた。
【実施例3】
【0133】
1.変性/未変性小麦グリアジンに結合可能なMAbの確立
1−1 材料及び方法
1)小麦グリアジン(以下「GL」という)の調製
小麦粉に2倍量のn−ブタノールを加え脱脂を行い、一晩風乾した。得られた脱脂小麦粉に0.1%塩化ナトリウム溶液を2倍量加え、10,000rpm×15分遠心分離した。得られた沈殿に20倍量の0.01N酢酸を加え、撹拌後、10,000rpm×15分遠心分離した。得られた上清を蒸留水で透析し、凍結乾燥を行った。得られた凍結乾燥物に70%となるようにエタノールを加え、10,000rpm×15分遠心分離した。得られた上清を蒸留水で透析し、粗GL画分を得た。粗GL画分はさらに、Sephacryl S-200HR(Amersham Biosciences)を用いたゲルろ過により精製した。移動相には0.1N酢酸を用いてGLを分画し、蒸留水に透析後、凍結乾燥を行った。生理食塩水でこの凍結乾燥物の0.1%溶液を調製し、1ml容エッペンドルフチューブに500μlずつ分注し、免疫に供するまで−20℃で凍結保管し、抗原溶液とした。
【0134】
2)免疫
供試動物として、5週齢のBALB/cマウス(日本クレア株式会社製)5尾を用いた。初回免疫には、完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のGLが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。また、追加免疫は、3週間の間隔で2回行った。免疫には、不完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のGLが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。
【0135】
3)血中抗体価の測定
初回あるいは追加免疫でGLを注射した1週間後に、各BALB/cマウスの尾部静脈より採血を行った。採血した血液は室温に2時間放置後、遠心分離を行い、血清を得た。これらの血清の10倍希釈段を作製し、非競合法ELISAによりマウス血中の抗GL抗体価を調べた。なお、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)抗体(Jackson ImmunoReserch Laboratories Inc.製)を用いた。
【0136】
4)ハイブリドーマの作製
ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、十分に抗体価が上がったマウスに、0.1%GL溶液100μlを尾部静脈より注射した。静脈注射から4日後、マウスより脾臓を無菌的に摘出した。脾臓を細切後、RPMI1640で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュ(Cell Strainer, 70 mm, Becton Dickinson)を通し、脾臓細胞懸濁液を得た。1,000rpm×10分の遠心分離により脾臓細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この脾臓細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を細胞数が10:1になるように混合し、再度1,000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3,350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加え希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×106cells/wellとなるように24ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に分注し、5%CO2下37℃で培養した。
【0137】
5)限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清について、ELISAの一次抗体として供試し、抗GL抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISAによりGLに対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9 cell/wellとなるように96ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に移し、限界希釈法によるクローニングを行った。なお、フィーダー細胞として、4週齢BALB/cマウス胸腺細胞を5×106cells/wellとなるように96ウェル細胞培養用プレートの各ウェルに加えた。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0138】
6)抗体のスクリーニング
モノクローナル抗体のスクリーニングは、未変性GL(以下「NGL」という)あるいは還元カルボキシメチル化GL(以下「RCMGL」という)、0.1M酢酸可溶化GL(以下「AGL」という)、70%エタノール可溶化GL(以下「EGL」という)、変性剤で可溶化したGL(以下「DGL」という)に対する反応性の違いを調べることで特異性の異なるクローンを得ることとした。RCMGLは、精製GLを10mg量り、1.4Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.6)1ml、5%EDTA100μl、1.2g尿素、33μlの2−メルカプトエタノールを加え2.5mlに定容した後、窒素ガス置換を行い、37℃、1時間の還元処理を行った。さらに、1MのNaOH300μlに溶解した89mgのモノヨード酢酸を加え窒素ガス置換した後、室温で1時間のカルボキシメチル化を行い、RCMGLとした。培養上清のNGL、RCMGL、AGL、EGL及びDGLに対する反応性を非競合法ELISAにより調べた。
【0139】
7)腹水の採取及びMAbの精製
Jonesら(1990)に従い、まず、BALB/cマウスに不完全フロイントアジュバントを0.2ml腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×106cellsのクローニングされたハイブリドーマを接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採種した腹水をProtein G カラム(アマシャム ファルマシア)により精製した。
【0140】
8)MAbのクラス、サブクラス及びタイプ
MAbのクラス及びサブクラスについては、Monoclonal mouse immunoglobulin isotyping kit(Pharmingen)により、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgM、IgA、IgL(κ)及びIgL(γ)を決定した。
【0141】
9)MAbのビオチン化
精製したMAbについて、サンドイッチELISAに供試するため、それぞれビオチン化処理を行った。50mMの炭酸緩衝液(pH8.5)を用いて20mg/mlとなるよう調製し、DMSOに3mg/100μlで溶解したNHS−ビオチン溶液を10μl加え、撹拌後、氷冷しながら2時間静置した。その後、20mg/mlとなるようにPBSで置換した。
【0142】
2−2 結果
1)MAbの選択
小麦の主要アレルゲンであるグリアジン(GL)は、水に不溶性で、酢酸やエタノールに溶けるタンパク質である。そこで、PBSに溶かしたGL(NGL)、還元カルボキシメチル化GL(RCMGL)、0.1M酢酸可溶化GL(AGL)、70%エタノール可溶化GL(EGL)、変性剤で可溶化したGL(DGL)を調製し、どの状態のGLに特異的に結合するMAbであるかを検証した。抗GLMAbの各状態のGLに対するダイレクトELISAの結果を表12に示す。表1に示されるように、全ての状態のGLに結合するMAbであるPGL1(FERM ABP−10267)、PGL2(FERM ABP−10268)、PGL4、PGL7を選択した。
【0143】
【表12】
【0144】
2)サンドイッチELISAにおける組合せ条件
ダイレクトELISAで選択したPGL1、PGL2、PGL4、PGL7を用いて、全てのMAbの組合わせについてサンドイッチELISAを行った。グリアジンはNGL、RCMGL、AGL、EGL、DGLを用いた。その結果、いずれの状態のGLでも最も高く検出できたのは、PGL1とPGL2の組合わせであった。PGL1とPGL2を用いたサンドイッチELISAの結果を図13に示す。その他の組み合わせについてはサンドイッチELISAにて全てのGLを検出できない、または検出感度が極めて低かった。以上の結果から、食品に様々な状態で含まれるGLを検出するMAbとして、PGL1とPGL2を選択した。
【0145】
2.PGL1とPGL2の認識するエピトープの相違
イムノブロッティングで、各抗体が認識するエピトープを限定するため、A−PAGEとエレクトロブロッティングに続いてイムノブロッティングを行った。まず、小麦グリアジンをLafiandra,D.&Kasarda,D.D.に従いA−PAGE(Cereal Chemistry,,62,314-319,1985)により分離した。分離したゲルを用いて、エレクトロブロッティングによりPVDF膜に転写した。転写したPVDF膜にPGL1とPGL2の培養上清(1/1000)を反応させたのち、発色させて、認識するエピトープを確認した。その結果、図14に示されるように、PGL1で認識されるタンパク質分解バンドがPGL2では認識されなかった。このことから、PGL1とPGL2とは異なるエピトープを認識することがわかった。
【0146】
3.イムノクロマトによる変性及び未変性GLの検出
3−1 材料及び方法
1)金コロイド標識及びコンジュゲートパッドの作製
2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で1mg/mlとなるようにPGL1(又はPGL2)溶液を調製した。あらかじめ0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液(シグマ社製)5mlにMAb溶液を500μl加え、室温で30分間反応した後、10%BSA溶液を625μlを加え、さらに15分間反応させた。遠心分離を行い、1%BSA溶液でOD525=1.0になるよう調製した。ガラスウール製コンジュゲートパッド(日本ミリポア社製)に68μl/cm2となるよう塗布し、乾燥させた。
【0147】
2)抗体固定化メンブレンの作製
PBSで4mg/mlとなるようPGL2(又はPGL1)溶液を調製し、ニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた。その後、1%BSA、0.1%Tween20を含むPBSで37℃、2時間ブロッキング後、PBSで洗浄し乾燥させた。
【0148】
3)イムノクロマトストリップの組立と評価
上記で作製したコンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレンに加えて、被検液スポット用のガラスウール製サンプルパッド、被検液吸収用のガラスウール製吸収パッドを別途用意し、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドの順にそれぞれ貼り付け、イムノクロマトストリップとした。
【0149】
被検液としては、小麦粉に20倍量のPBST(PBSにポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを0.5%加えたもの)を加え4℃で一晩撹拌し、遠心分離後に脱脂処理した上清を回収し、透析後、凍結乾燥したものを小麦粉抽出物として調製した。調製した小麦粉抽出物を用いて、未変性のもとしてPBSで希釈したもの、変性のものとして変性剤で可溶化したものを用いた。
【0150】
3−2 結果
サンドイッチELISAにより様々な状態のGLを検出できたことから、より簡易な検出方法としてイムノクロマトによる検出系を構築し、評価した。評価にあたっては、現在市販されているアレルゲン検出キットと同じ抗体を用いている市販A及び市販Bと比較した。結果を表13に示す。なお、表13中、「非特異反応」は、緩衝液のみを供したときに陽性と判定されたとき「あり」とした。その結果、市販Aでは、未変性小麦粉抽出物は検出できたが、変性小麦粉抽出物は非特異反応が見られ判定できなかった。また、市販Bでは、未変性小麦粉抽出物では1ppmでも検出できず、変性小麦粉抽出物は非特異反応が見られ判定できなかった。本発明のキットを用いる方法では、未変性小麦粉抽出物、変性小麦粉抽出物のどちらも50ppb程度まで検出することができた。また、変性小麦粉抽出物での非特異反応は見られなかった。
【0151】
【表13】
【0152】
次に、実際の食品からのアレルゲン検出を想定して、市販の食パンを用いて評価した。評価にあたっては、現在市販されているアレルゲン検出キットを用いる市販A及び市販Bと比較した。結果を表14に示す。なお、表14中、「非特異反応」は、緩衝液のみを供したときに陽性と判定されたとき「あり」とした。食パンのたんぱく質は約8%であるため、以下の濃度は8%を全量抽出したと仮定した数字となる。評価した結果、市販Aでは、未変性食パンを4ppm以下の濃度では検出できず、変性食パンでは非特異反応が見られ、判定できなかった。市販Bでは、4ppm程度は検出できたものの、それ以外の濃度では検出できず、また変性食パンでは非特異反応が見られ、判定できなかった。本発明のキットを用いる方法では、未変性食パン、変性食パンのどちらも40ppb程度の低濃度でも検出ができ、変性では非特異反応もなく、検出できることがわかった。
【0153】
【表14】
【実施例4】
【0154】
1.抗24kDaタンパク質MAb及び抗76kDaタンパク質MAbの確立
1−1 材料及び方法
1)そば24kDaタンパク質MAb及び抗76kDaタンパク質の調製
市販そば粉に5倍量の精製水を加え、攪拌後12000rpmで遠心分離を行い沈殿を得た。得られた沈殿に1M塩化ナトリウムを5倍量加え、攪拌後12000rpmで遠心分離を行い、上清を得た。上清を透析により脱塩し、凍結乾燥を行って得られた画分をそば粗タンパク質画分とした。このそば粗タンパク質画分をさらにプレップセル960(BioRad)を用いて精製を行った。24kDaタンパク質の精製は、そば粗タンパク質画分を2.0%SDSと5%2−メルカプトエタノールが含まれるサンプルバッファーに溶解後、95℃で4分間加熱したものをサンプルとして供試し、アクリルアミド12%分離ゲルを用いたプレップセル960にて分画し、24kDaタンパク質を得た。76kDaタンパク質の精製は、そば粗タンパク質画分を2.0%SDSが含まれ、2−メルカプトエタノールが含まれないサンプルバッファーに溶解したものをサンプルとして供試し、アクリルアミド12%分離ゲルを用いたプレップセル960にて分画し、76kDaタンパク質を得た。得られた各画分は透析後、凍結乾燥を行った。これらの凍結乾燥を用い、生理食塩水で0.1%の24kDaタンパク質溶液及び0.1%の76kDaタンパク質溶液それぞれを作製し、1ml容エッペンドルフチューブに500μlずつ分注して抗原溶液とし、免疫に供するまで−20℃で凍結保管した。
【0155】
2)免疫
供試動物として、5週齢のBALB/cマウス(日本クレア株式会社製)5尾を用いた。初回免疫には、完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%の24kDaタンパク質溶液及び0.1%の76kDaタンパク質溶液がそれぞれ500μl入ったエッペンドルフチューブに等量ずつ加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。また、追加免疫は、3週間の間隔で2回行った。免疫には、不完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%の24kDaタンパク質溶液及び0.1%の76kDaタンパク質溶液がそれぞれ500μl入ったエッペンドルフチューブに等量ずつ加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。
【0156】
3)血中抗体価の測定
初回あるいは追加免疫で24kDaタンパク質溶液又は76kDaタンパク質溶液を注射した1週間後に、各BALB/cマウスの尾部静脈より採血を行った。採血した血液は室温に2時間放置後、遠心分離を行い、血清を得た。これらの血清の10倍希釈段を作製し、非競合法ELISAによりマウス血中の抗24kDaタンパク質抗体価及び抗76kDaタンパク質抗体価を調べた。なお、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)抗体(Jackson ImmunoReserch Laboratories Inc.製)を用いた。
【0157】
4)ハイブリドーマの作製
ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、十分に抗体価が上がったマウスに、0.1%の24kDaタンパク質溶液又は0.1%の76kDaタンパク質溶液それぞれ100μlを尾部静脈より注射した。静脈注射から4日後、マウスより脾臓を無菌的に摘出した。脾臓を細切後、RPMI1640で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュ(Cell Strainer, 70 mm, Becton Dickinson)を通し、脾臓細胞懸濁液を得た。1,000rpm×10分の遠心分離により脾臓細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この脾臓細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を細胞数が10:1になるように混合し、再度1,000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3,350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加え希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×106cells/wellとなるように24ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に分注し、5%CO2下37℃で培養した。
【0158】
5)限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清について、ELISAの一次抗体として供試し、抗24kDaタンパク質抗体又は76kDaタンパク質抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISAにより24kDaタンパク質又は76kDaタンパク質に対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9 cell/wellとなるように96ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に移し、限界希釈法によるクローニングを行った。なお、フィーダー細胞として、4週齢BALB/cマウス胸腺細胞を5×106cells/wellとなるように96ウェル細胞培養用プレートの各ウェルに加えた。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100g/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0159】
6)抗体のスクリーニング
モノクローナル抗体のスクリーニングは、24kDaタンパク質、76kDaタンパク質、PBSで希釈したそば粗タンパク質(以下「NBW」ということがある)、あるいは変性剤により可溶化したそば粗タンパク質(以下「DBW」ということがある)に対する反応性の違いを調べることで特異性の異なるクローンを得ることとした。そば粗タンパク質は、そば粉に20倍量のPBSTを加え4℃で一晩撹拌し、遠心分離後に脱脂処理した上清を回収し、透析後、凍結乾燥したものをそば粉抽出物として調製した。変性剤による可溶化は、そば粗タンパク質を10mg量り、尿素6g、2−メルカプトエタノール0.2ml、 50 mMのTris−HCl緩衝液(pH8.6)1ml、蒸留水1.5mlを加え、アルミフォイルで蓋をした後、100℃で1時間オイルバスで加熱、変性処理を行い、これをDBWとした。培養上清の24kDaタンパク質、76kDaタンパク質、NBW、及びDBWに対する反応性を非競合法ELISAにて調べた。
【0160】
7)腹水の採取及びMAbの精製
Jonesら(1990)に従い、まず、BALB/cマウスに不完全フロイントアジュバントを0.2ml腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×106cellsのクローニングされたハイブリドーマを接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採種した腹水をProtein G カラム(アマシャム ファルマシア)により精製した。
【0161】
8)MAbの特性とMAbのクラス、サブクラス及びタイプ
抗24kDaタンパク質MAb又は抗76kDaタンパク質MAbの特性を決定するために、固相法を用いた。固相法として、24kDaタンパク質、76kDaタンパク質、NBW又はDBWをあらかじめ細胞培養用プレートのウェル内に固定し、この固定化された抗原に抗24kDaタンパク質MAb又は76kDaタンパク質MAbを作用させる方法を用いた。また、MAbのクラス及びサブクラスについては、Monoclonal mouse immunoglobulin isotyping kit(Pharmingen)により、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgM、IgA、IgL(κ)及びIgL(γ)を決定した。
【0162】
9)MAbのビオチン化
精製したMAbについて、サンドイッチELISAに供試するため、それぞれビオチン化処理を行った。50mMの炭酸緩衝液(pH8.5)を用いて20mg/mlとなるよう調製し、DMSOに3mg/100μlで溶解したNHS−ビオチン溶液を10μl加え、撹拌後、氷冷しながら2時間静置した。その後、20mg/mlとなるようにPBSで置換した。
【0163】
1−2 結果
1)抗24kDaタンパク質MAbと76kDaタンパク質MAbの特性とクラス、サブクラス
24kDaタンパク質に対する特異性を持つMAb5種類、及び、76kDaタンパク質に対する特異性を持つMAb4種類を得た。それぞれ固相の抗原に対する特異性を表15及び表16に示した。
【0164】
【表15】
【0165】
【表16】
【0166】
2)組合せ条件
固相の抗原に対し陽性反応を示した各MAbをそれぞれ固相あるいはビオチン化抗体として、NBWおよびDBWを検出するためのMAbの組合せを、サンドイッチELISAにおける検出感度の点から選出した。その結果、NBWを検出できる組合せとして、プレート固定化抗体PBW2(FERM ABP−10273)とビオチン化抗体PBW3(FERM ABP−10274)を、また、DBWを検出できる組み合わせとして、プレート固定化抗体PBW1(FERM ABP−10272)とビオチン化抗体PBW2を選択した。PBW2およびPBW3のサンドイッチELISAによる各種そば粗タンパク質に対する反応性の結果を図15に示す。また、PBW1およびPBW2のサンドイッチELISAによる各種そば粗タンパク質に対する反応性を図16に示す。
【0167】
3)MAb混合系でのNBW、DBWの検出
サンドイッチELISAにより選択したMAbを混合し、NBW、DBWの検出感度を確認した。すなわち、NBWでは、プレート固定化抗体をPBW2単独とした場合と、PBW1およびPBW2を混合した場合で、ビオチン化PBW3を二次抗体として比較した。また、DBWでは、高い検出感度であったプレート固定化抗体PBW1、ビオチン化PBW2の組み合わせと、PBW1およびPBW2を混合したプレート固定化抗体と、ビオチン化PBW3を二次抗体とした場合を比較した。図17及び図18に示すように、NBW、DBWともにプレート抗体を混合した方が吸光値が高く、検出感度を上げることが可能であることが明らかとなった。
【0168】
【0169】
2.サンドイッチELISAによる食品中のNBW、DBWの検出
上記1.で選択されたPBW1、PBW2、PBW3の組合せにより、実際の食品中のそば粗タンパク質を検出できるかを試みた。
【0170】
2−1 材料及び方法
1)モデル食肉製品の作製
定量試験のためのモデル食品として食肉製品を選択し、表17に示す配合にて各濃度のそば粗タンパク質を含むモデル食肉製品を作製した。豚赤肉は、豚ロース肉より脂、スジを除去し、5mmで挽肉にしたものを使用した。各配合に従い添加物を計量し、フードプロセッサーにて混合後、塩ビチューブに充填を行い、75℃で30分の加熱を行った。
【0171】
【表17】
【0172】
2)サンドイッチELISAによる定量分析
(モデル塩漬肉)
各モデル塩漬肉を、フードプロセッサーにて均一になるまで磨砕し、分析用サンプルとした。サンプル1gを量り取り、PBST19gを加えホモジナイザーにて30秒攪拌した。3,000rpm×20分の遠心分離を行い、上清をろ紙でろ過したものを0.5ml測り取り、PBSTを9.5ml加え、ELISA用サンプルとした。検量線には同様にPBSTを用いたそば粗タンパク質の段階希釈を用いた。
(モデル加熱製品)
各モデル加熱製品を、フードプロセッサーにて均一になるまで磨砕し、分析用サンプルとした。サンプル1gを量り取り、1%SDS、1%2−メルカプトエタノールを含むPBS 19gを加えホモジナイザーにて30秒攪拌した。その後、100℃1時間加熱処理を行った。冷却後3,000rpm×20分の遠心分離を行い、上清をろ紙でろ過したものを0.5ml測り取りPBSTを9.5ml加え、ELISA用サンプルとした。検量線には同様にSDS、2−メルカプトエタノール処理を行ったそば粗タンパク質の段階希釈を用いた。
【0173】
2−2 結果
サンドイッチELISAによるモデル食肉製品中のそば粗タンパク質の分析について、モデル塩漬肉の結果を表18に、また、モデル加熱製品の結果を表19に示す。
【0174】
【表18】
【0175】
【表19】
【0176】
以上の結果から、モデル塩漬肉のように未加熱のそば粗タンパク質でも、モデル加熱製品のような加熱変性したそば粗タンパク質でも、高い回収率でそば粗タンパク質を検出可能であった。これらのことから、未変性そばタンパク質に結合可能なMAbと変性そばタンパク質に結合可能なMAbを組み合わせることにより、未加熱(未変性)、加熱(変性)のいかなる状態のそばタンパク質でも、高感度で分析できることがわかった。
【0177】
3.イムノクロマトによる変性及び未変性そば粗タンパク質の検出
3−1 材料及び方法
1)金コロイド標識及びコンジュゲートパッドの作製
2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で1mg/mlとなるようにPBW3MAb溶液を調製した。あらかじめ0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液(シグマ社製)5mlにMAb溶液を500μl加え、室温で30分間反応した後、10%BSA溶液を625μlを加え、さらに15分間反応させた。遠心分離を行い、1%BSA溶液でOD525=1.0になるよう調製した。ガラスウール製コンジュゲートパッド(日本ミリポア社製)に68μl/cm2となるよう塗布し、乾燥させた。
【0178】
2)抗体固定化メンブレンの作製
PBSで8mg/mlとなるようPBW1とPBW2のMAb溶液を調製し、1:1の割合で混合したものをニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた。その後、1% スキムミルクを含む10mMリン酸バッファー(pH7.5)で37℃、1時間ブロッキング後、10mMリン酸バッファー(pH7.5)で洗浄し乾燥させた。
【0179】
3)イムノクロマトストリップの組立と評価
上記で作製したサンプルパッド、コンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドをそれぞれ貼り付け、イムノクロマトストリップとした。非検液としては、上記2.で調製したモデル食肉製品を適宜希釈して用いた。
【0180】
3−2 結果
メンブレン塗布MAb PBW1+PBW2、および金コロイド標識MAb PBW3の組合せにより、そばタンパク質は加熱、非加熱に係わらず50ppb(食品中2ppm)まで検出することができた。この結果から、製造工程中に混入したそばタンパクが対象となっても、加熱後の製品が対象となっても、いかなる場合にでも対応できるイムノクロマトストリップの設計が可能となった。
【0181】
市販のアレルゲン検出用イムノクロマトストリップでは、ブランクとして0.1M尿素+0.2%2−メルカプトエタノールを含むPBSを滴下したところ、非特異的なバンドが生じてしまい、擬陽性となってしまった。これでは、加熱などにより変性した食品タンパク中から効率よくアレルゲンを抽出するためのタンパク質変性剤を使用できず、アレルゲンとして検出できる対象が極めて狭い範囲に限られてしまう危険性が考えられた。
【実施例5】
【0182】
1.抗Ara h1MAbの確立
1−1 材料及び方法
1)Ara h1タンパク質の調製
市販生落花生に5倍量の20mM bis-tris-propane buffer(pH7.2)を加え、室温で2時間攪拌後3000×gで遠心分離を行い沈殿および油分を除去した。得られた水溶性画分を再度10000×gで遠心分離を行い上清を得た。上清をさらにSource Q(アマシャム ファルマシア)を用いて、20mMのbis-tris-propane buffer(pH7.2)、NaClのリニアグラジエント(0〜1M)により精製を行った。精製したAra h1画分を蒸留水による透析後、凍結乾燥を行い、未変性Ara h1(以下NAh1と記す)とした。また、変性Ara h1(以下DAh1と記す)はNAh1を10mg量り、尿素6g、2−メルカプトエタノール(以下2−MEと記す)0.2ml、50mMのTris−HCl緩衝液(pH 8.6)1ml、蒸留水1.5mlを加え、アルミフォイルで蓋をした後、100℃で1時間オイルバスで加熱、変性処理を行った。その後透析し、凍結乾燥を行った。これらの凍結乾燥を用い、生理食塩水で0.1%のDAh1溶液及び0.1%のDAh1溶液それぞれを作製し、1ml容エッペンドルフチューブに500μlずつ分注して抗原溶液とし、免疫に供するまで−20℃で凍結保管した。
【0183】
2)免疫
供試動物として、5週齢のBALB/cマウス(日本クレア株式会社製)5尾を用いた。初回免疫には、完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のNAh1溶液及び0.1%のDAh1溶液がそれぞれ500μl入ったエッペンドルフチューブに等量ずつ加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。また、追加免疫は、2週間の間隔で3回行った。免疫には、不完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のNAh1溶液及び0.1%のDAh1溶液がそれぞれ500μl入ったエッペンドルフチューブに等量ずつ加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。
【0184】
3)血中抗体価の測定
初回あるいは追加免疫でNAh1溶液又はDAh1溶液を注射した1週間後に、各BALB/cマウスの尾部静脈より採血を行った。採血した血液は室温に2時間放置後、遠心分離を行い、血清を得た。これらの血清の10倍希釈段を作製し、非競合法ELISAによりマウス血中の抗NAh1抗体価及び抗DAh1抗体価を調べた。なお、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)抗体(Jackson ImmunoReserch Laboratories Inc.製)を用いた。
【0185】
4)ハイブリドーマの作製
ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、十分に抗体価が上がったマウスに、0.1%のNAh1溶液又は0.1%のDAh1溶液それぞれ100μlを尾部静脈より注射した。静脈注射から4日後、マウスより脾臓を無菌的に摘出した。脾臓を細切後、RPMI1640で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュ(Cell Strainer, 70 mm, Becton Dickinson)を通し、脾臓細胞懸濁液を得た。1,000rpm×10分の遠心分離により脾臓細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この脾臓細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を細胞数が10:1になるように混合し、再度1,000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3,350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加え希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×106cells/wellとなるように24ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に分注し、5%CO2下37℃で培養した。
【0186】
5)限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清について、ELISAの一次抗体として供試し、抗NAh1抗体又はDAh1抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISAによりNAh1又はDAh1に対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9 cell/wellとなるように96ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に移し、限界希釈法によるクローニングを行った。なお、フィーダー細胞として、4週齢BALB/cマウス胸腺細胞を5×106cells/wellとなるように96ウェル細胞培養用プレートの各ウェルに加えた。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100g/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0187】
6)抗体のスクリーニング
モノクローナル抗体のスクリーニングは、NAh1、DAh1、あるいは落花生粗タンパク質の未変性物(以下NP−eと記す)、尿素処理(以下DP−eと記す)の4種類に対する反応性の違いを調べることで特異性の異なるクローンを得ることとした。なお、NP−eは落花生に5倍量の20mMbis-tris-propane buffer(pH7.2)を加え、室温で2時間攪拌後遠心分離を2回行い得られた上清を透析した後、凍結乾燥したものとした。また、DP−eはNP−eを10mg量り、尿素6g、2−ME0.2ml、50mMのTris−HCl緩衝液(pH8.6)1ml、蒸留水1.5mlを加え、アルミフォイルで蓋をした後、100℃で1時間オイルバスで加熱、変性処理を行ったものとした。培養上清のNAh1、NP−e、DAh1あるいはDP−eに対する反応性を非競合法ELISAにて調べた。
【0188】
7)腹水の採取及びMAbの精製
Jonesら(1990)に従い、まず、BALB/cマウスに不完全フロイントアジュバントを0.2ml腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×106cellsのクローニングされたハイブリドーマを接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採種した腹水をProtein G カラム(アマシャム ファルマシア)により精製した。
【0189】
8)MAbの特性とMAbのクラス、サブクラス及びタイプ
抗NAh1MAb又は抗DAh1MAbの特性を決定するために、固相法を用いた。固相法として、NAh1、DAh1、NP−e又はDP−eをあらかじめ細胞培養用プレートのウェル内に固定し、この固定化された抗原に抗NAh1MAb又はDAh1MAbを作用させる方法を用いた。また、MAbのクラス及びサブクラスについては、Monoclonal mouse immunoglobulin isotyping kit(Pharmingen)により、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgM、IgA、IgL(κ)及びIgL(γ)を決定した。
【0190】
9)MAbのビオチン化
精製したMAbについて、サンドイッチELISAに供試するため、それぞれビオチン化処理を行った。50mMの炭酸緩衝液(pH8.5)を用いて20mg/mlとなるよう調製し、DMSOに3mg/100μlで溶解したNHS−ビオチン溶液を10μl加え、撹拌後、氷冷しながら2時間静置した。その後、20mg/mlとなるようにPBSで置換した。
【0191】
1−2 結果
1)抗NAh1MAbとDAh1MAbの特性とクラス、サブクラス
NAh1に対する特異性を持つMAb7種類、及び、DAh1に対する特異性を持つMAb3種類を得た。それぞれ固相の抗原に対する特異性を表20及び表21に示した。
【0192】
【表20】
【0193】
【表21】
【0194】
2)組合せ条件
固相の抗原に対し陽性反応を示した各MAbをそれぞれ固相あるいはビオチン化抗体として、NP−eおよびDP−eを検出するためのMAbの組合せを、サンドイッチELISAにおける検出感度の点から選出した。その結果、NP−eを検出できる組合せとして、プレート抗体にPAh1−2(FERM ABP−10270)とビオチン抗体にPAh1−1(FERM ABP−10269)、また、DP−eを検出できる組合せとしてプレート抗体にPAh1−2とビオチン抗体にPAh1−3(FERM ABP−10271)の組合せを選択した(図19と図20)。
3)MAb混合系でのNP−e、DP−eの検出
固相にPAh1−2(細胞寄託番号)、ビオチン化にPAh1−1(細胞寄託番号)およびPAh1−3(細胞寄託番号)を混合し、NP−e、DP−eの検出感度を確認した。それぞれのMAb濃度は50μg/mlに設定した。その結果、MAb混合系でNP−e、DP−eともに検出することが可能であった(図21と図22)。
2.サンドイッチELISAによる食品中の落花生粗タンパク質の検出
上記1.で選択されたPAh1−1、PAh1−2およびPAh1−3の組合せにより、実際の食品中の落花生粗タンパク質を検出できるかを試みた。
【0195】
2−1 材料及び方法
1)モデル食肉製品の作製
定量試験のためのモデル食品として食肉製品を選択し、表22に示す配合にて各濃度の落花生粗タンパク質を含むモデル食肉製品を作製した。豚赤肉は、豚ロース肉より脂、スジを除去し、5mmで挽肉にしたものを使用した。各配合に従い添加物を計量し、フードプロセッサーにて混合後、塩ビチューブに充填を行い、75℃で30分の加熱を行った。
【0196】
【表22】
【0197】
2)サンドイッチELISAによる定量分析
(モデル塩漬肉)
各モデル塩漬肉を、フードプロセッサーにて均一になるまで磨砕し、分析用サンプルとした。サンプル1gを量り取り、PBST19gを加えホモジナイザーにて30秒攪拌した。3000rpm×20分の遠心分離を行い、上清をろ紙でろ過したものを0.5ml測り取り、PBSTを9.5ml加え、ELISA用サンプルとした。検量線には同様にPBSTに溶解した落花生粗タンパク質の段階希釈を用いた。
(モデル加熱製品)
各モデル加熱製品を、フードプロセッサーにて均一になるまで磨砕し、分析用サンプルとした。サンプル1gを量り取り、1M尿素および0.1%2−MEを含むPBS 19gを加えホモジナイザーにて30秒攪拌した。その後、100℃で1時間加熱処理を行った。冷却後3000rpm×20分の遠心分離を行い、上清をろ紙でろ過したものを0.5ml測り取りPBSTを9.5ml加え、ELISA用サンプルとした。検量線には同様に1M尿素および0.1% 2−ME処理を行った落花生粗タンパク質の段階希釈を用いた。また、分析用サンプルからPBSTを用いて抽出し、PBSTに溶解した落花生粗タンパク質を検量線とした尿素および2−MEを用いない場合との比較を行った。
【0198】
2−2 結果
サンドイッチELISAによるモデル食肉製品中の落花生粗タンパク質の分析について、モデル塩漬肉の結果を表23に、モデル加熱製品の結果を表24に、また、PBSTのみで抽出した結果を表25に示す。
【0199】
【表23】
【0200】
【表24】
【0201】
【表25】
【0202】
以上の結果から、モデル塩漬肉のように未加熱の落花生粗タンパク質でも、モデル加熱製品のような加熱変性した落花生粗タンパク質でも、高い回収率で落花生粗タンパク質を検出可能であった。これらのことから、未変性タンパク質に結合可能なMAbと変性タンパク質に結合可能なMAbを組み合わせることにより、未加熱(未変性)、加熱(変性)のいかなる状態の落花生タンパク質でも、高感度で分析できることがわかった。また、食品中からの落花生粗タンパク質の抽出には尿素および2−MEを用いることが有効であり、尿素で変性させたAh1に結合可能であることが必要であることが明らかとなった。
【0203】
3.イムノクロマトによる未変性および変性落花生粗タンパク質の検出
3−1 材料及び方法
1)金コロイド標識及びコンジュゲートパッドの作製
2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で1mg/mlとなるようにPAh1−1とPAh1−3のMAb溶液を調製した。あらかじめ0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液(シグマ社製)5mlにMAb溶液を500ml加え、室温で30分間反応した後、10%BSA溶液625μlを加え、さらに15分間反応させた。遠心分離を行い、1% BSA溶液でOD525=2.0になるよう調製し、1:1の割合で混合した。ガラスウール製コンジュゲートパッドに68μl/cm2となるよう塗布し、乾燥させた。
【0204】
2)抗体固定化メンブレンの作製
PBSで4mg/mlとなるようPAh1−2のMAb溶液を調製し、ニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた。その後、1%スキムミルクを含む10mMリン酸バッファー(pH7.5)で37℃、1時間ブロッキング後、10mMリン酸バッファー(pH7.5)で洗浄し乾燥させた。
【0205】
3)イムノクロマトストリップの組立と評価
上記で作製したサンプルパッド、コンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドをそれぞれ貼り付け、イムノクロマトストリップとした。非検液としては、上記2.で調製したモデル食肉製品を適宜希釈して用いた。
【0206】
3−2 結果
メンブレン塗布MAb PAh1−2、および金コロイド標識MAb PAh1−1とPAh1−3 の組合せにより、落花生粗タンパク質は加熱、非加熱に係わらず50ppb(食品中2ppm)まで検出することができた。この結果から、製造工程中に混入した落花生タンパク質が対象となっても、加熱後の製品が対象となっても、いかなる場合にでも対応できるイムノクロマトストリップの設計が可能となった。
【0207】
市販のアレルゲン検出用イムノクロマトストリップでは、ブランクとして0.01M尿素、0.2%2−MEを含むPBSを滴下したところ、非特異的なバンドが生じてしまい、擬陽性となってしまった。これでは、加熱などにより変性した食品タンパク中から効率よくアレルゲンを抽出するためのタンパク質変性剤を使用できず、アレルゲンとして検出できる対象が極めて狭い範囲に限られてしまう危険性が考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0208】
本発明によると、食品等に含まれる乳アレルゲン、卵白アレルゲン、小麦アレルゲン、そばアレルゲン、落花生アレルゲンについての免疫学的な検出方法において、これらアレルゲンが、変性/未変性のいかなる状態にあっても正確に定性かつ定量的に検出することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等の試料中に含まれる未変性及び変性の乳アレルゲン、未変性及び変性の卵白アレルゲン、未変性及び変性の小麦アレルゲン、未変性及び変性のそばアレルゲン、又は未変性及び変性の落花生アレルゲンを指標とした乳アレルゲンの検出方法や、それに用いられる乳アレルゲンの検出用キットに関する。
【0002】
また、本発明は、食品等の試料中に含まれる未変性又は変性の乳アレルゲンを定性的かつ定量的に高感度で分析することができる、カゼインの主要タンパク質であるαs1カゼイン、あるいは、ホエーの主要たんぱく質であるβラクトグロブリンを指標としたアレルゲンの検出方法や、それに用いられるアレルゲンの検出用キットに関する。
【0003】
また、本発明は、食品等の試料中に含まれる未変性又は変性のオボアルブミンやオボムコイドの卵白アレルゲンを定性的かつ定量的に高感度で分析することができる、オボアルブミン及び/又はオボムコイドを指標とした卵白アレルゲンの検出方法や、それに用いられる卵白アレルゲンの検出用キットに関する。
【0004】
また、本発明は、食品等の試料中に含まれる未変性又は変性の小麦アレルゲンを定性的かつ定量的に高感度で分析することができる、小麦の主要タンパク質であるグリアジンを指標とした小麦アレルゲンの検出方法や、それに用いられる小麦アレルゲンの検出用キットに関する。
【0005】
また、本発明は、食品等の試料中に含まれる未変性又は変性のそばアレルゲンを定性的かつ定量的に高感度で分析することができる、そばの主要タンパク質である分子量24kDaと76kDaのタンパク質を指標としたそばアレルゲンの検出方法や、それに用いられるそばアレルゲンの検出用キットに関する。
【0006】
また、本発明は、食品等の試料中に含まれる未変性又は変性の落花生アレルゲンを定性的かつ定量的に高感度で分析することができる、落花生の主要タンパク質であるAra h1を指標とした落花生アレルゲンの検出方法や、それに用いられる落花生アレルゲンの検出用キットに関する。
【背景技術】
【0007】
自然環境の減少、車や工場などからの排気ガス、住宅事情等、或いは食べ物の変化など様々な因子により、現在では、3人に1人が何らかのアレルギー疾患をもつといわれている。特に、食物アレルギーは、食品中に含まれるアレルギー誘発物質(以下、食物アレルゲンという)の摂取が引き起こす有害な免疫反応であり、皮膚炎、喘息、消化管障害、アナフィラキシーショック等を引き起こし、このような食物アレルギーの患者が増加していることから、医学上及び食品産業上、深刻な問題を生じている。これらの危害は死に至らせることがあり、未然に処置を施す必要がある。そのためには、表示を通じて消費者へ情報提供の必要性も高まっており、FAO/WHO合同食品規格委員会は、アレルギー物質として知られている8種の原材料を含む食品にあっては、それを含む旨の表示について合
意し、加盟国で各国の制度に適した表示方法を検討することとした(1999年6月)。日本では過去の健康危害などの程度、頻度を考慮して重篤なアレルギー症状を起した実績のある24品目の食品について、その表示方法が定められた(2002年4月より施行)。アレルギーを引き起こす食品としては、卵類、牛乳類、肉類、魚類、甲殻類及び軟体動物類、穀類、豆類及びナッツ類、果実類、野菜類、ビール酵母若しくはゼラチンなどが知られており、特に乳アレルゲンの主要成分としてのαs1カゼインや、ホエーアレルゲンの主要成分であるβラクトグロブリンや、卵白アレルゲン成分としてはオボアルブミンとオボムコイドや、小麦アレルゲンの主要成分としてグリアジンや、そばの主要タンパク質である分子量24kDaと76kDaのタンパク質や、落花生の主要タンパク質であるAra h1が知られている。
【0008】
従来、アレルゲンの検出する方法としては、例えば、アレルゲンに特異的に反応するイムノグロブリンを定量する方法(特開平05−249111号公報参照)や、抗原抗体複合体を含有する検体中の該抗原抗体複合体を酸処理等により解離させ、必要に応じてアルカリを用いて中和処理を行った後、該検体中のアレルゲン特異的IgE抗体を測定する方法(特開平07−140144号公報参照)等が知られている。
【0009】
また、現在、乳、卵、小麦、そば、落花生の特定原材料を検出するための公定法として、加熱・非加熱複合抗原より得られるポリクローナル抗体を用いた免疫学的な検出方法(特開2003−155297号公報参照;以下「市販公定法A」という)、あるいは精製抗原より得られたポリクローナル抗体を用いた免疫学的な検出方法(以下「市販公定法B」という)が用いられている。これらは、特異的にアレルゲンを検出するために有効な方法であるが問題も多い。例えば、市販公定法Aでは複合抗原を用いているため、何に対する抗体なのかが不明で、交差性が高く、例えば、イムノブロット法などによる抗原の同定ができず、また非特異反応が増える可能性がある。また、市販公定法Bでは、抗原が精製されているため抗体の特異性は明確であるものの、未変性の抗原を用いて作製された抗体を使用しているため、変性/未変性により抗体が結合する程度に違いがあるため、同じ添加量であっても、加熱前、加熱後での定量値が異なるという問題があった。特に、小麦は他の特定原材料(卵、乳、そば、落花生)の中でも過酷な加熱処理が施される場合が多い(例えばパン、唐揚げ等)ため、小麦アレルゲンは未変性から加熱変性まで、広範囲な状態で存在する。そこで、小麦アレルゲンを検出するためには、どの様な状態のアレルゲンに対して結合するかを明らかにしたモノクローナル抗体を作製し、その特性に応じて利用する必要がある。
【0010】
さらに、卵の同定、定量に関しては、オボムコイドを指標として、すでにポリクローナル抗体を用いた方法(例えば、Int. Archs. Allergy appl. Immun., 75, 8-15, 1984参照)あるいはモノクローナル抗体を用いた方法(例えば、Nutr. Sci. Vitaminol. 45, 491-500, 1999参照)が知られている。また、オボムコイドを認識するモノクローナル抗体で、未変性オボムコイドと反応するが熱変性オボムコイドとは反応しないモノクローナル抗体、熱変性オボムコイドと反応するが未変性オボムコイドとは反応しないモノクローナル抗体、及び未変性オボムコイドと熱変性オボムコイドに反応するモノクローナル抗体を用いて、加熱変性状態をも識別してオボムコイドを定量し、卵アレルゲンの同定と正確な定量を可能とする免疫学的定量方法が報告されている(例えば、特開2002−253230号公報参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、乳アレルゲン、卵白アレルゲン、小麦アレルゲン、そばアレルゲン、又は落花生アレルゲンを含む食品において、乳アレルゲン、卵白アレルゲン、小麦アレルゲン、そばアレルゲン、又は落花生アレルゲンが、変性/未変性のいかなる状態にあっても検出できる高感度な免疫学的な検出方法及びそれに用いられる検出キット等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、特定原材料である乳、卵白、小麦、そば又は落花生の各アレルゲンを検出する方法について鋭意検討し、未変性及び変性の乳アレルゲン、未変性及び変性の卵白アレルゲン、未変性及び変性の小麦アレルゲン、未変性及び変性のそばアレルゲン、又は未変性及び変性の落花生アレルゲンを認識する各2種類又はそれ以上のモノクローナル抗体を用いると、これら特定原材料の各アレルゲンを検出することができることを見い出した。
【0013】
特定原材料の一つである乳の検出方法の検討を行うに当たっては、カゼインの主要たんぱく質であるαs1カゼインを指標として、これに対するモノクローナル抗体(以下MAbと記す場合がある)を作出し、その中から未変性αs1カゼイン、尿素処理αs1カゼイン、未変性カゼインナトリウム、及び変性カゼインナトリウムを認識することができるMAbを複数選択し、サンドイッチELISAにより、未変性αs1カゼイン、尿素処理αs1カゼイン、未変性カゼインナトリウム、及び変性カゼインナトリウムを、100〜1000ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析しうるMAbの組合わせを見い出した。また、これらのMAbを用いると、食品中の乳アレルゲンがいかなる加工工程を経た場合にでも、本発明による検出方法や検出キットを利用する者がより簡便に検査対象製品からの乳アレルゲンを検出しうることを確認した。
【0014】
また、特定原材料の一つである乳の検出方法の検討を行うに当たって、ホエーの主要たんぱく質であるβラクトグロブリンを指標として、これに対するモノクローナル抗体を作出し、その中から未変性βラクトグロブリン、尿素処理βラクトグロブリン、還元カルボキシメチル化βラクトグロブリンを認識することができるMAbを複数選択し、サンドイッチELISAにより、未変性βラクトグロブリン、尿素処理βラクトグロブリン、還元カルボキシメチル化βラクトグロブリンを、30〜1000ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析しうるMAbの組合わせを見い出した。また、これらのMAbを用いると、食品中の乳アレルゲンがいかなる加工工程を経た場合にでも、本発明による検出方法や検出キットを利用する者がより簡便に検査対象製品からの乳アレルゲンを検出しうることを確認した。
【0015】
特定原材料の一つである卵白の検出方法の検討を行うに当たっては、精製オボアルブミンやオボムコイドに対するモノクローナル抗体を作出し、その中から未変性抗原に結合できるMAbと、変性抗原に結合できるMAbとをそれぞれ複数選択し、未変性抗原結合MAb群と変性抗原結合MAb群を組み合わせることで、抗原となるオボアルブミンやオボムコイドが変性/未変性のいかなる状態にあっても高感度で検出できることを見い出し、特に未変性抗原結合MAb群と変性抗原結合MAb群を組み合わせて用いた場合、未変性オボアルブミンやオボムコイドあるいは変性オボアルブミンやオボムコイドのみが存在する場合であっても、未変性抗原結合MAb(群)単独使用や変性抗原結合MAb(群)単独使用におけるよりも優れた検出感度で検出しうることを確認した。また、卵白アレルゲンであるオボアルブミンとオボムコイドに対するMAbを組み合わせることにより、食品中の卵白がいかなる加工工程を経た場合にでも、本発明による検出方法や検出キットを利用する者がより簡便に検査対象製品からの卵白アレルゲンを検出しうることを確認した。
【0016】
特定原材料の一つである小麦の検出方法の検討を行うに当たっては、精製グリアジンに対するモノクローナル抗体を作出し、その中から未変性小麦グリアジン、還元カルボキシメチル化小麦グリアジン、0.1M酢酸可溶化小麦グリアジン、70%エタノール可溶化小麦グリアジン、及び変性剤で可溶化した小麦グリアジンを認識することができるMAbを複数選択し、サンドイッチELISAにより、未変性小麦グリアジン、還元カルボキシメチル化小麦グリアジン、0.1M酢酸可溶化小麦グリアジン、70%エタノール可溶化小麦グリアジン、及び変性剤で可溶化した小麦グリアジンを、10〜100ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析しうるMAbの組合わせを見い出した。また、これらのMAbを用いると、食品中の小麦アレルゲンがいかなる加工工程を経た場合にでも、本発明による検出方法や検出キットを利用する者がより簡便に検査対象製品からの小麦アレルゲンを検出しうることを確認した。
【0017】
特定原材料の一つであるそばの検出方法の検討を行うに当たっては、精製した24kDaタンパク質、又は精製した76kDaタンパク質に対するモノクローナル抗体を作出し、その中から24kDaタンパク質又は76kDaタンパク質を認識することができるMAbを複数選択し、サンドイッチELISAにより、未加熱(未変性)、加熱(変性)のいかなる状態のそばタンパク質でも、高感度で分析できる未変性そばタンパク質に結合可能なMAbと変性そばタンパク質に結合可能なMAbの組合わせを見い出した。また、これらのMAbを用いると、食品中のそばアレルゲンがいかなる加工工程を経た場合にでも、本発明による検出方法や検出キットを利用する者がより簡便に検査対象製品からのそばアレルゲンを検出しうることを確認した。
【0018】
特定原材料の一つである落花生の検出方法の検討を行うに当たっては、精製した未変性のAra h1(以下「NAh1」という場合がある)、又は精製したAra h1を尿素とml2−メルカプトエタノールを用いて変性したAra h1(以下「DAh1」という場合がある)に対するモノクローナル抗体を作出し、その中からNAh1、DAh1、未変性の落花生粗タンパク質(以下「NP−e」という場合がある)、及び/又は尿素処理した落花生粗タンパク質(以下「DP−e」という場合がある)を認識することができるMAbを複数選択し、サンドイッチELISAにより、未加熱(未変性)、加熱(変性)のいかなる状態の落花生タンパク質でも、高感度で分析できるMAbの組合わせを見い出した。また、これらのMAbを用いると、食品中の落花生アレルゲンがいかなる加工工程を経た場合にでも、本発明による検出方法や検出キットを利用する者がより簡便に検査対象製品からの落花生アレルゲンを検出しうることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明(乳アレルゲン)の2種類の抗αs1カゼインMAbを用いた、各種状態のαs1カゼインに対するサンドイッチELISAの結果を示す図である。
【図2】本発明(乳アレルゲン)のPas1CN1およびPas1CN2の認識する小麦αs1カゼインの構成たんぱく質の相違を示す図である。
【図3】本発明(乳アレルゲン)のPLG2とPLG1のサンドイッチELISAによる各種βラクトグロブリンに対する反応性を示す図である。
【図4】本発明(乳アレルゲン)のPLG2とPLG3のサンドイッチELISAによる各種βラクトグロブリンに対する反応性を示す図である。
【図5】本発明(乳アレルゲン)のMAb混合系でのサンドイッチELISAによる未変性ラクトグロブリンに対する反応性を示す図である。
【図6】本発明(乳アレルゲン)のMAb混合系でのサンドイッチELISAによる尿素変性ラクトグロブリンに対する反応性を示す図である。
【図7】本発明(卵白アレルゲン)の試験1における各希釈段に対する抗オボアルブミンMAbの反応性を示す図である。
【図8】本発明(卵白アレルゲン)の試験2における各希釈段に対する抗オボアルブミンMAbの反応性を示す図である。
【図9】本発明(卵白アレルゲン)の試験3における各希釈段に対する抗オボアルブミンMAbの反応性を示す図である。
【図10】本発明(卵白アレルゲン)のPNOM1およびPNOM2のサンドイッチELISAによる変性/未変性オボムコイドに対する反応性を示す図である。
【図11】本発明(卵白アレルゲン)のPDOM1およびPDOM2のサンドイッチELISAによる変性/未変性オボムコイドに対する反応性を示す図である。
【図12】本発明(卵白アレルゲン)のPNOM2とPDOM2及びPNOM1とPDOM1による変性/未変性オボムコイドに対する反応性を示す図である。
【図13】本発明(小麦アレルゲン)の2種類の抗グリアジンMAbを用いた、各種状態のグリアジンに対するサンドイッチELISAの結果を示す図である。
【図14】本発明(小麦アレルゲン)のPGL1およびPGL2の認識する小麦グリアジンの構成たんぱく質の相違を示す図である。
【図15】本発明(そばアレルゲン)のPBW2およびPBW3のサンドイッチELISAによる各種そば粗タンパク質に対する反応性を示す図である。
【図16】本発明(そばアレルゲン)のPBW1およびPBW2のサンドイッチELISAによる各種そば粗タンパク質に対する反応性を示す図である。
【図17】本発明(そばアレルゲン)のPBW1、PBW2及びPBW3のMAb混合系サンドイッチELISAによる未変性そば粗タンパク質に対する反応性を示す図である。
【図18】本発明(そばアレルゲン)のPBW1、PBW2及びPBW3のMAb混合系サンドイッチELISAによる変性そば粗タンパク質に対する反応性を示す図である。
【図19】本発明(落花生アレルゲン)のPAh1−1およびPAh1−2のサンドイッチELISAによる各種落花生粗タンパク質に対する反応性を示す図である。
【図20】本発明(落花生アレルゲン)のPAh1−2およびPAh1−3のサンドイッチELISAによる各種落花生粗タンパク質に対する反応性を示す図である。
【図21】本発明(落花生アレルゲン)のPAh1−1、PAh1−2及びPAh1−3のMAb混合系サンドイッチELISAによる未変性落花生粗タンパク質に対する反応性を示す図である。
【図22】本発明(落花生アレルゲン)のPAh1−1、PAh1−2及びPAh1−3のMAb混合系サンドイッチELISAによる変性落花生粗タンパク質に対する反応性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の食品中のアレルゲンの検出方法としては、未変性及び変性の乳アレルゲン、未変性及び変性の卵白アレルゲン、未変性及び変性の小麦アレルゲン、未変性及び変性のそばアレルゲン、又は未変性及び変性の落花生アレルゲンを認識する各2種類又はそれ以上のモノクローナル抗体を用いるアレルゲンの検出方法であって、αs1カゼインの主要タンパク質であるαs1カゼイン、ホエーの主要たんぱく質であるβラクトグロブリン、卵白主要タンパク質であるオボアルブミンとオボムコイド、小麦の主要タンパク質であるグリアジン、そばの主要タンパク質である分子量24kDaと76kDaのタンパク質、又は落花生の主要タンパク質であるAra h1を指標とする食品等に含まれるアレルゲンの検出方法であれば特に制限されるものではない。
【0021】
本発明の乳アレルゲンの検出方法としては、未変性乳アレルゲンを認識するモノクローナル抗体と、変性乳アレルゲンを認識するモノクローナル抗体とを併用する乳アレルゲンの免疫学的な検出方法であれば特に制限されず、また、本発明の乳アレルゲン検出用キットとしては、未変性乳アレルゲンを認識するモノクローナル抗体と、変性乳アレルゲンを認識するモノクローナル抗体とを備え、未変性乳アレルゲンを認識するモノクローナル抗体と変性乳アレルゲンとを認識するモノクローナル抗体とを併用する条件下で用いられる免疫学的なアレルゲン検出用キットであれば特に制限されないが、未変性乳アレルゲン及び/又は変性乳アレルゲンを認識するモノクローナル抗体として、それぞれ異なるエピトープを認識する2以上のモノクローナル抗体を備えたものが好ましい。かかる未変性乳アレルゲン及び/又は変性乳アレルゲンを認識するモノクローナル抗体として、抗αs1カゼインモノクローナル抗体や抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体を具体的に例示することができる。ここで「乳アレルゲン」とは、乳カゼインの主要タンパク質であるαs1カゼイン及び/又はホエーの主要たんぱく質であるβラクトグロブリンを含むものをいう。
【0022】
上記抗αs1カゼインモノクローナル抗体としては、未変性αs1カゼイン、尿素処理αs1カゼイン、未変性カゼインナトリウム、及び変性カゼインナトリウムを認識する抗αs1カゼインモノクローナル抗体、好ましくは、配列番号1で示されるαs1カゼインのアミノ酸配列の132番目から193番目までの領域を認識するモノクローナル抗体を挙げることができ、具体的には、ハイブリドーマ(FERM ABP−10263)が産生する抗αs1カゼインモノクローナル抗体Pas1CN1、ハイブリドーマ(FERM ABP−10264)が産生する抗αs1カゼインモノクローナル抗体Pas1CN2等を好適に例示することができる。また、Pas1CN1とPas1CN2を組み合わせることで、特に有利にサンドイッチELISAやイムノクロマトを行うことができる。例えば、これらの抗体を用いることで、サンドイッチELISAにより、食品中の未変性αs1カゼイン及び尿素処理αs1カゼインを、10〜1000ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析することができる。
【0023】
上記抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体として、未変性βラクトグロブリン、尿素処理βラクトグロブリン、還元カルボキシメチル化βラクトグロブリンを認識する抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体を挙げることができ、具体的には、ハイブリドーマ(FERM ABP−10281)が産生する抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体PLG1、ハイブリドーマ(FERM ABP−10282)が産生する抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体PLG2、ハイブリドーマ(FERM ABP−10283)が産生する抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体PLG3等を好適に例示することができる。また、PLG2とPLG1や、PLG2とPLG3や、PLG2とPLG1およびPLG3を組み合わせることで、特に有利にサンドイッチELISAやイムノクロマトを行うことができる。例えば、これらの抗体を用いることで、サンドイッチELISAにより、食品中の未変性βラクトグロブリン及び尿素処理βラクトグロブリンを、30〜1000ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析することができる。
【0024】
本発明の乳アレルゲンの検出方法においては、検体から、尿素と2−メルカプトエタノールを用いてカゼイン及び/又はホエータンパク質を抽出することが好ましく、また、未変性カゼインを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体及び変性カゼインを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体、並びに、未変性βラクトグロブリンを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体及び変性βラクトグロブリンを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体を用いることが好ましい。また、本発明の乳アレルゲン検出用キットにおいては、カゼイン及び/又はホエータンパク質を抽出するための尿素と2−メルカプトエタノールを含むものが好ましく、また、未変性カゼインを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体及び変性カゼインを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体、並びに、未変性βラクトグロブリンを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体及び変性βラクトグロブリンを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体を備えるものが好ましい。
【0025】
本発明の卵白アレルゲンの検出方法としては、未変性卵白アレルゲンを認識するモノクローナル抗体と、変性卵白アレルゲンを認識するモノクローナル抗体とを併用する卵白アレルゲンの免疫学的な検出方法であれば特に制限されず、また、本発明の卵白アレルゲン検出用キットとしては、未変性卵白アレルゲンを認識するモノクローナル抗体と、変性卵白アレルゲンを認識するモノクローナル抗体とを備え、未変性卵白アレルゲンを認識するモノクローナル抗体と変性卵白アレルゲンとを認識するモノクローナル抗体とを併用する条件下で用いられる免疫学的なアレルゲン検出用キットであれば特に制限されず、未変性卵白アレルゲン及び/又は変性卵白アレルゲンを認識するモノクローナル抗体として、それぞれ異なるエピトープを認識する2以上のモノクローナル抗体を備えたものが好ましい。かかる未変性卵白アレルゲン及び/又は変性卵白アレルゲンを認識するモノクローナル抗体として、抗オボアルブミンモノクローナル抗体や抗オボムコイドモノクローナル抗体を具体的に例示することができる。ここで「卵白アレルゲン」とは、卵白の主要タンパク質であるオボアルブミン及び/又はオボムコイドを含むものをいう。
【0026】
上記抗オボアルブミンモノクローナル抗体としては、未変性オボアルブミン及び/又は還元カルボキシメチル化オボアルブミンを認識する抗オボアルブミンモノクローナル抗体が好ましく、具体的には、ハイブリドーマ(FERM ABP−10265)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA1、ハイブリドーマ(FERM ABP−10266)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA2、ハイブリドーマ(FERM ABP−10275)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA1、ハイブリドーマ(FERM ABP−10276)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA2等を好適に例示することができる。また、PNOA1とPNOA2等の抗未変性オボアルブミンモノクローナル抗体や、PDOA1とPDOA2等の抗変性オボアルブミンモノクローナル抗体の組み合せ、特にPNOA1とPNOA2等の抗未変性オボアルブミンモノクローナル抗体とPDOA1とPDOA2等の抗変性オボアルブミンモノクローナル抗体を組み合わせることで、特に有利にサンドイッチELISAやイムノクロマトを行うことができる。例えば、これらの抗体を用いることで、サンドイッチELISAにより、食品中の未変性オボアルブミン及び/又は変性オボアルブミンを、1.0〜10.0ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析することができる。
【0027】
上記抗オボムコイドモノクローナル抗体として、未変性オボムコイド及び/又は尿素変性オボムコイドを認識する抗オボムコイドモノクローナル抗体を挙げることができ、具体的には、ハイブリドーマ(FERM ABP−10279)が産生する抗オボムコイドモノクローナル抗体PNOM1、ハイブリドーマ(FERM ABP−10280)が産生する抗オボムコイドモノクローナル抗体PNOM2、ハイブリドーマ(FERM ABP−10277)が産生する抗オボムコイドモノクローナル抗体PDOM1、ハイブリドーマ(FERM ABP−10278)が産生する抗オボムコイドモノクローナル抗体PDOM2等を好適に例示することができる。また、PNOM1とPNOM2等の抗未変性オボムコイドモノクローナル抗体や、PDOM1とPDOM2等の抗変性オボムコイドモノクローナル抗体の組み合せ、特にPNOM1とPNOM2等の抗未変性オボムコイドモノクローナル抗体とPDOM1とPDOM2等の抗変性オボムコイドモノクローナル抗体を組み合わせることで、特に有利にサンドイッチELISAやイムノクロマトを行うことができる。例えば、これらの抗体を用いることで、サンドイッチELISAにより、食品中の未変性オボムコイド及び/又は変性オボムコイドを、10〜100ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析することができる。
【0028】
本発明の卵白アレルゲンの検出方法においては、尿素と2−メルカプトエタノールを用いてオボアルブミン及び/又はオボムコイドを抽出することが好ましく、また、未変性オボアルブミンを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体及び変性オボアルブミンを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体、並びに、未変性オボムコイドを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体及び変性オボムコイドを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体を用いることが好ましい。また、本発明の卵白アレルゲン検出用キットにおいては、オボアルブミン及び/又はオボムコイドを抽出するための尿素と2−メルカプトエタノールを含むものが好ましく、また、未変性オボアルブミンを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体及び変性オボアルブミンを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体、並びに、未変性オボムコイドを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体及び変性オボムコイドを認識する1又は2以上のモノクローナル抗体を備えるものが好ましい。
【0029】
本発明の小麦アレルゲンの検出方法としては、未変性小麦グリアジン及び変性剤で可溶化した小麦グリアジンを認識する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体を用いる小麦アレルゲンの免疫学的な検出方法や、未変性小麦グリアジン及び変性剤で可溶化した小麦グリアジンを認識し、かつ異なるエピトープを認識する2種類の抗小麦グリアジンモノクローナル抗体を併用する小麦アレルゲンの免疫学的な検出方法であれば特に制限されず、また、本発明の小麦アレルゲン検出用キットとしては、未変性小麦グリアジン及び変性剤で可溶化した小麦グリアジンを認識する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体を備えた免疫学的なアレルゲン検出用キットや、未変性小麦グリアジン及び変性剤で可溶化した小麦グリアジンを認識し、かつ異なるエピトープを認識する2種類の抗小麦グリアジンモノクローナル抗体を備えた免疫学的なアレルゲン検出用キットであれば特に制限されず、上記抗小麦グリアジンモノクローナル抗体としては、未変性小麦グリアジン、還元カルボキシメチル化小麦グリアジン、0.1M酢酸可溶化小麦グリアジン、70%エタノール可溶化小麦グリアジン、及び変性剤で可溶化した小麦グリアジンを認識する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体が好ましく、具体的には、ハイブリドーマ(FERM ABP−10267)が産生する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL1、ハイブリドーマ(FERM ABP−10268)が産生する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL2等を好適に例示することができる。これらの抗体を組み合わせることで、特に有利にサンドイッチELISAやイムノクロマトを行うことができる。例えば、サンドイッチELISAにより、食品中の未変性小麦グリアジン、還元カルボキシメチル化小麦グリアジン、0.1M酢酸可溶化小麦グリアジン、70%エタノール可溶化小麦グリアジン、及び変性剤で可溶化した小麦グリアジンを、10〜100ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析することができる。
【0030】
本発明のそばアレルゲンの検出方法としては、未変性そば粗タンパク質及び加熱変性そば粗タンパク質を認識する抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体を用いるそばアレルゲンの免疫学的な検出方法や、未変性そば粗タンパク質及び加熱変性そば粗タンパク質を認識し、かつ異なるエピトープを認識する2種類の抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体を併用するそばアレルゲンの免疫学的な検出方法であれば特に制限されず、また、本発明のそばアレルゲン検出用キットとしては、未変性そば粗タンパク質及び加熱変性そば粗タンパク質を認識する抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体を備えた免疫学的なアレルゲン検出用キットや、未変性そば粗タンパク質及び加熱変性そば粗タンパク質を認識し、かつ異なるエピトープを認識する2種類の抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体を備えた免疫学的なアレルゲン検出用キットであれば特に制限されず、抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体としては、24Daタンパク質及び加熱変性そば粗タンパク質を認識する抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体、又は76kDaタンパク質及び未変性そば粗タンパク質を認識する抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体が好ましく、具体的には、ハイブリドーマ(FERM ABP−10272)が産生する抗24kDaタンパク質モノクローナル抗体PBW1、ハイブリドーマ(FERM ABP−10273)が産生する抗76kDaタンパク質モノクローナル抗体PBW2、ハイブリドーマ(FERM ABP−10274)が産生する抗76kDaタンパク質モノクローナル抗体PBW3等を好適に例示することができる。また、PBW1等の24Daタンパク質及び加熱変性そば粗タンパク質を認識する抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体と、PBW2等の76kDaタンパク質及び未変性そば粗タンパク質を認識する抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体との組合せや、PBW2とPBW3等の未変性そば粗タンパク質と加熱変性そば粗タンパク質を共に認識する抗そば粗タンパク質モノクローナル抗体との組み合わせ、中でも、これらのモノクローナル抗体の混合系として組み合わせることで、特に有利にサンドイッチELISAやイムノクロマトを行うことができる。例えば、サンドイッチELISAにより、未変性そば粗タンパク質及び加熱変性そば粗タンパク質を、10〜1000ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析することができる。
【0031】
さらに、本発明ののそばアレルゲンの検出方法においては、検体から、尿素と2−メルカプトエタノールを用いて加熱変性そば粗タンパク質を抽出することが好ましく、また、本発明のそばアレルゲン検出用キットとしては、検体からのそば粗タンパク質抽出剤としての、尿素と2−メルカプトエタノールが備えられているものが好ましい。
【0032】
本発明の落花生アレルゲンの検出方法としては、未変性落花生Ara h1タンパク質及び加熱変性落花生Ara h1タンパク質を認識する抗Ara h1タンパク質モノクローナル抗体を用いる落花生アレルゲンの免疫学的な検出方法や、未変性落花生Ara h1タンパク質及び加熱変性落花生Ara h1タンパク質を認識し、かつ異なるエピトープを認識する2種類の抗Ara h1タンパク質モノクローナル抗体を併用する落花生アレルゲンの免疫学的な検出方法であれば特に制限されず、また、本発明の落花生アレルゲン検出用キットとしては、未変性落花生Ara h1タンパク質及び加熱変性落花生Ara h1タンパク質を認識する抗落花生Ara h1タンパク質モノクローナル抗体を備えた免疫学的なアレルゲン検出用キットや、未変性落花生Ara h1タンパク質及び加熱変性落花生Ara h1タンパク質を認識し、かつ異なるエピトープを認識する2種類の抗落花生Ara h1タンパク質モノクローナル抗体を備えた免疫学的なアレルゲン検出用キットであれば特に制限されず、抗Ara h1タンパク質モノクローナル抗体としては、未変性Ara h1タンパク質と未変性落花生粗タンパク質、及び/又は、尿素処理Ara h1タンパク質と尿素処理落花生粗タンパク質を認識する抗Ara h1タンパク質モノクローナル抗体が好ましく、具体的には、ハイブリドーマ(FERM ABP−10269)が産生する抗未変性Ara h1タンパク質モノクローナル抗体PAh1−1、ハイブリドーマ(FERM ABP−10270)が産生する抗未変性Ara h1タンパク質モノクローナル抗体PAh1−2、ハイブリドーマ(FERM ABP−10271)が産生する抗加熱変性Ara h1タンパク質モノクローナル抗体PAh1−3等を好適に例示することができる。また、PAh1−1等の未変性Ara h1タンパク質と未変性落花生粗タンパク質を認識する抗Ara h1タンパク質モノクローナル抗体と、PAh1−2等の未変性/変性Ara h1タンパク質と未変性/変性落花生粗タンパク質を認識する抗Ara h1タンパク質モノクローナル抗体との組合せや、PAh1−2とPAh1−3等の未変性/変性Ara h1タンパク質と未変性/変性落花生粗タンパク質を認識する抗Ara h1タンパク質モノクローナル抗体同士の組み合わせ、中でも、これらのモノクローナル抗体の混合系として組み合わせることで、特に有利にサンドイッチELISAやイムノクロマトを行うことができる。例えば、サンドイッチELISAにより、未変性落花生Ara h1タンパク質及び加熱変性落花生Ara h1タンパク質を、10〜1000ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析することができる。
【0033】
さらに、本発明の落花生アレルゲンの検出方法においては、検体から、尿素と2−メルカプトエタノールを用いて加熱変性落花生粗タンパク質を抽出することが好ましく、また、本発明の落花生アレルゲン検出用キットとしては、検体からの加熱変性落花生粗タンパク質抽出剤としての、尿素と2−メルカプトエタノールが備えられているものが好ましい。
【0034】
以上の本発明の免疫学的なアレルゲンの検出方法は、未変性/変性の乳アレルゲン、未変性及び変性の卵白アレルゲン、未変性及び変性の小麦アレルゲン、未変性及び変性のそばアレルゲン、又は未変性及び変性の落花生アレルゲン(以下「食物アレルゲン」ということがある)を含む試料を、標識化した抗食物アレルゲンMAbと接触させ、あるいは標識化した抗体の存在下に食物アレルゲンMAbと接触させ、抗原抗体反応により標識化免疫複合体として捕捉する免疫反応段階と、生成した該免疫複合体をその分子中に存在する標識物質を用いて分離・測定する検出段階とからなり、かかる免疫反応段階における抗原抗体反応の方法も特に制限されず、例えば、以下の方法を例示することができる。
【0035】
不溶性担体に結合した本発明の抗食物アレルゲンMAbに試料中の食物アレルゲンを捕捉させた後に標識化抗IgG抗体を反応させるサンドイッチ法や、不溶性担体に結合した抗食物アレルゲンMAbと異なるエピトープを認識する標識抗食物アレルゲンMAb(第二抗体)を用いるサンドイッチ二抗体法や、不溶性担体に結合した抗食物アレルゲンMAbに試料中の食物アレルゲンを標識化抗原の存在下で反応させる競合法や、食物アレルゲンを含有する試料にこれらと特異的に反応する磁気ビーズ結合標識抗食物アレルゲンMAbを作用させさせた後、磁力により分離した免疫複合体中の標識物質を検出する磁気ビーズ法や、食物アレルゲンを含有する試料にこれらと特異的に反応する標識抗食物アレルゲンMAbを作用させて凝集沈殿させた後、遠心分離により分離した免疫複合体中の標識物質を検出する凝集沈殿法や、金コロイド等で標識された抗食物アレルゲンMAbと食物アレルゲンであるタンパク質が結合した抗原抗体複合体が試験ストリップ上を毛管現象等により移動する途中に、食物アレルゲンと結合する抗食物アレルゲンMAbをあらかじめ固定しておき、抗原抗体複合体を補足させることで現れる着色ラインの有無によって定性分析するイムノクロマト法の他、二重免疫拡散法、放射免疫拡散法など公知の免疫測定法を利用することができるが、抗食物アレルゲンMAbとして、それぞれ異なるエピトープを認識する2以上のモノクローナル抗体を用いる方法、例えば、食品中の未変性アレルゲン及び/又は変性アレルゲンが100〜1000ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析しうる高感度の点でサンドイッチ二抗体法が、定性的には簡便性からイムノクロマト法が好ましい。また、食肉製品等の食品試料中からアレルゲンを抽出する場合、尿素と2−メルカプトエタノールを用いることが望ましい。
【0036】
上記抗原抗体反応において用いられる不溶性担体としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、フッ素樹脂、架橋デキストラン、ポリサッカライド等の高分子化合物、その他、ガラス、金属、磁性粒子及びこれらの組み合わせ等を挙げることができ、また、不溶性担体の形状としては、例えば、トレイ状、球状、繊維状、棒状、盤状、容器状、セル、マイクロプレート、試験管、ラテックスビーズ状等の種々の形状で用いることができる。更に、これら不溶性担体への抗原又は抗体の固定化方法は特に限定されるものでなく、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法等を用いることができる。
【0037】
本発明の食物アレルゲンの検出方法や食物アレルゲン検出用キットに用いられる抗食物アレルゲンMAbの免疫グロブリンのクラス及びタイプは特に制限されないが、抗食物アレルゲンMAbとして、IgGクラス、タイプκの抗体が好適に用いられる。また、モノクローナル抗体の形態としては、全抗体又はF(ab’)2、Fab等の断片を用いることもできる。抗体の由来は特に限定されるものではないが、マウス、ラット、ヒト、兎、鶏等を挙げることができるが、作製の簡便性からマウスに由来するモノクローナル抗体が好適に用いられる。また、抗食物アレルゲンMAbは、未変性又は変性のαs1カゼインで免疫した動物から採取した抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合により調製されるハイブリドーマを培地上で培養するか、又は動物腹腔内に投与して腹水内で増殖させた後、該培養物又は腹水から採取することにより製造することができる。
【0038】
抗食物アレルゲンMAb産生ハイブリドーマは、例えば、未変性及び/又は変性の食物アレルゲンを用いてBALB/cマウスを免疫し、免疫されたマウスの抗体産生細胞とマウスミエローマ細胞とを、常法により細胞融合させ、免疫蛍光染色パターンによりスクリーニングすることにより、抗食物アレルゲンMAb産生ハイブリドーマを作出することができる。上記の抗体産生細胞としては、例えば未変性及び/若しくは変性の食物アレルゲン又はこれを含有する組成物を投与して免疫した動物から得られる脾臓細胞、リンパ節細胞、B−リンパ球等を挙げることができる。免疫する動物としてはマウス、ラット、ウサギ、ウマ等が挙げられる。免疫は、例えば未変性及び/又は変性の食物アレルゲンをそのまま又は適当なアジュバントと共に動物の皮下、筋肉内又は腹腔内に1〜2回/月、1〜6ケ月間投与することにより行なわれる。抗体産生細胞の分離は、最終免疫から2〜4日後に免疫動物から採取することにより行なわれる。ミエローマ細胞としては、マウス、ラット由来のもの等を使用することができる。抗体産生細胞とミエローマ細胞とは同種動物由来であることが好ましい。
【0039】
細胞融合は、例えばダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)等の培地中で抗体産生細胞とミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の融合促進剤の存在下で混合することにより行なうことができる。細胞融合終了後、DMEM等で適当に希釈し、遠心分離し、沈殿をHAT培地等の選択培地に懸濁して培養することによりハイブリドーマを選択し、次いで、培養上清を用いて酵素抗体法により抗体産生ハイブリドーマを検索し、限界希釈法等によりクローニングを行ない、抗食物アレルゲンMAbを産生するハイブリドーマを得ることができる。また、αs1カゼイン等の未変性の食物アレルゲンのみを用いて免疫した抗免疫動物から、有利に抗変性食物アレルゲンMAbを得ることができる場合もある。この場合、抗変性αs1カゼインMAb等の抗変性食物アレルゲンMAb産生ハイブリドーマをスクリーニングしてもよいし、あるいは、固相状態でのELISAで未変性のαs1カゼイン等の未変性の食物アレルゲンに対するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを選択し、この抗体産生ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体から液相状態で未変性の食物アレルゲンに対してのみ特異的に反応する抗食物アレルゲンMAbを得ることができる。前記のように、抗体産生ハイブリドーマを培地中又は生体内で培養しモノクローナル抗体を培養物から採取することができるが、培養物又は腹水からのモノクローナル抗体の分離・精製方法としては、タンパク質の精製に一般的に用いられる方法であればどのような方法でもよく、例えば、IgG精製に通常使用される硫安分画法、陰イオン交換体又はプロテインA、G等のカラムによるクロマトグラフィーによって行なうことができる。
【0040】
また、標識化抗体作製に用いられる標識物質としては、単独でまたは他の物質と反応することにより検出可能なシグナルをもたらすことができる標識物質であればよく、酵素、蛍光物質、化学発光物質、放射性物質、金コロイド等を使用するのができ、酵素としてはペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコ−ス−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、アルコール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ペニシリナーゼ、カタラーゼ、アポグルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、ルシフェラーゼ若しくはアセチルコリンエステラーゼ等を、蛍光物質としては、フルオレスセインイソチオシアネート、フィコビリタンパク、希土類金属キレート、ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等を、発光物質としては、ルミノール類、ジオキセタン類、アクリジニウム塩類等を、放射性物質としては3H、14C、125I若しくは131I等を例示することができる。標識物質が酵素である場合には、その活性を測定するために基質、必要により発色剤、蛍光剤、発光剤等が用いることができる。
【0041】
本発明の食物アレルゲン検出用キットには、有効成分としての抗食物アレルゲンMAb、好ましくはそれぞれ異なるエピトープを認識する2以上の抗食物アレルゲンMAbを含むが、これらは保存安定性の点から、溶液状態よりも凍結乾燥物として収容されていることが好ましく、検出用キットにはかかる抗食物アレルゲンMAb溶解する緩衝液や培養液の他、試料を調製するための緩衝液等を含んでいてもよい。また、より好ましい別の態様の本発明の抗食物アレルゲン検出用キットとしては、前記イムノクロマト法における試験ストリップを挙げることができる。この場合、異なるエピトープを認識する2種類のモノクローナル抗体の少なくとも一つを、イムノクロマト用に用いられる金コロイドで標識されたモノクローナル抗体とすることが好ましい。
【0042】
本発明のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマ(FERM ABP−10263)が産生する抗αs1カゼインモノクローナル抗体Pas1CN1や、
ハイブリドーマ(FERM ABP−10264)が産生する抗αs1カゼインモノクローナル抗体Pas1CN2や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10281)が産生する抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体PLG1や、
ハイブリドーマ(FERM ABP−10282)が産生する抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体PLG2や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10283)が産生する抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体PLG3や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10265)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA1や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10266)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA2や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10275)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA1や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10276)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA2や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10279)が産生する抗オボムコイドモノクローナル抗体PNOM1や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10280)が産生する抗オボムコイドモノクローナル抗体PNOM2や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10277)が産生する抗オボムコイドモノクローナル抗体PDOM1や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10278)が産生する抗オボムコイドモノクローナル抗体PDOM2や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10267)が産生する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL1や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10268)が産生する抗小麦グリアジンモノクローナル抗体PGL2や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10272)が産生する抗24kDaタンパク質モノクローナル抗体PBW1や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10273)が産生する抗76kDaタンパク質モノクローナル抗体PBW2や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10274)が産生する抗76kDaタンパク質モノクローナル抗体PBW3や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10269)が産生する抗未変性Ara h1タンパク質モノクローナル抗体PAh1−1や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10270)が産生する抗未変性Ara h1タンパク質モノクローナル抗体PAh1−2や、ハイブリドーマ(FERM ABP−10271)が産生する抗加熱変性Ara h1タンパク質モノクローナル抗体PAh1−3を挙げることができ、これらハイブリドーマは、平成17(2005)年2月24日(受領日)付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305−5466 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受領されている。なお、上記Pas1CN1(FERM P−20206)、Pas1CN2(FERM P−20207)、PNOA1(FERM P−20208)、PNOA2(FERM P−20209)、PGL1(FERM P−20210)、PGL2(FERM P−20211)は平成16(2004)年9月7日(受託日)付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託されていたものである。
【0043】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0044】
1.抗αs1カゼインモノクローナル抗体の確立
1−1 材料及び方法
1)αs1カゼイン(以下「αCN」という)の調製
新鮮な牛乳よりZittle(1959)に従い、αCNの粗画分を得た。この粗画分をさらにTSK gel DEAE 650S(TOSOH)を用いて、50mMのイミダゾール−HCl緩衝液(pH6.4)、4Mの尿素を含むNaClのリニアグラジエント(0から0.3M)により精製を行った。精製したαCN画分を蒸留水による透析後、凍結乾燥を行った。生理食塩水でこの凍結乾燥物の0.1%溶液を調製し、1ml容エッペンドルフチューブに500μLずつ分注し、免疫に供するまで−20℃で凍結保管し、抗原溶液とした。
【0045】
2)免疫
供試動物として、6週齢のBALB/cマウス(日本クレア株式会社製)5尾を用いた。初回免疫には、完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のαCNが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。また、追加免疫は、3週間の間隔で2回行った。免疫には、不完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のαCNが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。
【0046】
3)血中抗体価の測定
初回あるいは追加免疫でαCNを注射した1週間後に、各BALB/cマウスの尾部静脈より採血を行った。採血した血液は室温に2時間放置後、遠心分離を行い、血清を得た。これらの血清の10倍希釈段を作製し、非競合法ELISAによりマウス血中の抗αCN抗体価を調べた。なお、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)抗体(Jackson ImmunoReserch Laboratories Inc.製)を用いた。
【0047】
4)ハイブリドーマの作製
ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、十分に抗体価が上がったマウスに、0.1%αCN溶液100μlを尾部静脈より注射した。静脈注射から4日後、マウスより脾臓を無菌的に摘出した。脾臓を細切後、RPMI1640で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュ(Cell Strainer, 70 mm, Becton Dickinson)を通し、脾臓細胞懸濁液を得た。1,000rpm×10分の遠心分離により脾臓細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この脾臓細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を細胞数が10:1になるように混合し、再度1,000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3,350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加え希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×106cells/wellとなるように24ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に分注し、5%CO2下37℃で培養した。
【0048】
5)限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清について、ELISAの一次抗体として供試し、抗αCN抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISAによりαCNに対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9 cell/wellとなるように96ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に移し、限界希釈法によるクローニングを行った。なお、フィーダー細胞として、4週齢BALB/cマウス胸腺細胞を5×106cells/wellとなるように96ウェル細胞培養用プレートの各ウェルに加えた。
クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0049】
6)抗体のスクリーニング
モノクローナル抗体のスクリーニングは、未変性αCN(以下「N−αCN」という)、尿素処理αCN(以下「D−αCN」という)、市販のカゼインナトリウムの未変性物(以下「N−CN」という)又は市販のカゼインナトリウムの尿素処理物(以下「D−CN」という)の4種類のたんぱく質に対する反応性の違いを調べることで特異性の異なるクローンを得ることとした。D−αCNは、精製αCNを1mg量り、5%EDTA100μl、尿素6.0g、2−メルカプトエタノール0.2ml、50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.6)1ml、蒸留水1.5mlを加え、アルミフォイルで蓋をした後、100℃で1時間オイルバスで加熱、変性処理を行った。培養上清のN−αCN、D−αCN、N−CNあるいはD−CNに対する反応性を非競合法ELISAにて調べた。
【0050】
7)腹水の採取及びMAbの精製
Jonesら(1990)に従い、まず、BALB/cマウスに不完全フロイントアジュバントを0.2ml腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×106cellsのクローニングされたハイブリドーマを接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採種した腹水をProtein Gカラム(アマシャム ファルマシア)により精製した。
【0051】
8)MAbのクラス、サブクラス及びタイプ
MAbのクラス及びサブクラスについては、Monoclonal mouse immunoαCNobulin isotyping kit(Pharmingen)により、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgM、IgA、IgL(κ)及びIgL(γ)を決定した。
【0052】
9)MAbのビオチン化
精製したMAbについて、サンドイッチELISAに供試するため、それぞれビオチン化処理を行った。50mMの炭酸緩衝液(pH8.5)を用いて20mg/mlとなるよう調製し、DMSOに3mg/100μlで溶解したNHS−ビオチン溶液を10μl加え、撹拌後、氷冷しながら2時間静置した。その後、20mg/mlとなるようにPBSで置換した。
【0053】
1−2 結果
1)MAbの選択
乳の主要アレルゲンであるαs1カゼイン(αCN)を特異的に認識する6種類のMAbが得られた。これら6種類のMAbにおける、それぞれ固相とした各抗原N−αCN、D−αCN、N−CN、又はD−CNに対する特異性をダイレクトELISAにより調べた。また、これらMAbのクラス、サブクラスについても調べた。結果を表1に示す。表1中、+は各固相抗原に対し陽性であることを、−は陰性であることを示す。表1に示されるように、全ての状態の抗原に結合するMAbであるPas1CN1、Pas1CN2、Pas1CN3を選択した。
【0054】
【表1】
【0055】
2)サンドイッチELISAにおける組合せ条件
ダイレクトELISAで選択したPas1CN1、Pas1CN2、Pas1CN3を用いて、全てのMAbの組合わせについてサンドイッチELISAを行った。Pas1CN1、Pas1CN2、Pas1CN3をそれぞれ固相あるいはビオチン化抗体として、αCNあるいはCNを検出するためのMAbの組合せを、サンドイッチELISAにより選出した。その結果、N−αCN、D−αCN、N−CN、D−CNを検出できる組合せとしてPas1CN1(FERM ABP−10263)とPas1CN2(FERM ABP−10264)を選択した。結果を図1に示す。
2.Pas1CN1とPas1CN2の認識するエピトープ
αs1カゼイン溶液を、リシルエンドプロテアーゼで分解し、分解物をトリシンSDS−PAGE(分離ゲル16.5%、濃縮ゲル5%)により分離した。分離したゲルを用いて、エレクトロブロッティングによりPVDF膜に転写した。転写したPVDF膜にPas1CN1とPas1CN2の培養上清(1/1000)を反応させたのち、発色させて、認識するエピトープを確認した。結果を図2に示す。その結果、認識部位はPas1CN1とPas1CN2ともに、分子量約7000、配列番号1で示されるαs1カゼインのアミノ酸配列の132番目から193番目までの領域を認識した。
【0056】
3.サンドイッチELISAによる食品中の変性および未変性カゼインの検出
上記1.で選択されたPas1CN1とPas1CN2の組合せにより、実際の食品中のカゼインを検出できるかを試みた。
【0057】
3−1 材料及び方法
1)モデル食肉製品の作製
定量試験のためのモデル食品として食肉製品を選択し、表2に示す配合にて各濃度のカゼインナトリウムを含むモデル食肉製品を作製した。豚赤肉は、豚ロース肉より脂、スジを除去し、5mmで挽肉にしたものを使用した。
【0058】
【表2】
【0059】
各配合に従い添加物を計量し、フードプロセッサーにて混合後、塩ビチューブに充填を行い、75℃で30分の加熱を行った。
2)サンドイッチELISAによる定量分析
各モデル食肉製品を、フードプロセッサーにて均一になるまで磨砕し、分析用サンプルとした。サンプルを2gを量り取り、1M尿素および0.1% 2−メルカプトエタノールを含むPBSTを38g加え100℃、一時間加熱処理を行った。冷却後、3,000rpm×20分の遠心分離を行い、上清0.5mlにPBSTを9.5ml加え、ELISA用サンプルとした。検量線には同様に尿素・2−メルカプトエタノール処理を行ったカゼインナトリウムの段階希釈を用いた。また、分析用サンプルからPBSTを用いて抽出し、PBST(PBSにポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを0.5%加えたもの)に溶解したカゼインナトリウムを検量線とした尿素および2−メルカプトエタノールを用いない場合との比較を行った。
【0060】
3−2 結果
サンドイッチELISAによるモデル食肉製品中のカゼインナトリウムの分析について、尿素および2−メルカプトエタノールを用いた結果を表3に、また、PBSTのみで抽出した結果を表4に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
以上の結果から、尿素および2−メルカプトエタノールを抽出液に加えた場合に、高い回収率でモデル食肉製品中のカゼインナトリウムを検出可能であり、PBST抽出では非常に低い回収率となった。これらのことから、食品中からのカゼインナトリウムの抽出には尿素および2−メルカプトエタノールを用いることが有効であり、その場合に利用するMAbの特性には、尿素可溶化カゼインに結合可能であることが必要であることが明らかとなった。
【0064】
4.イムノクロマトによる変性および未変性カゼインナトリウムの検出
4−1材料および方法
1)金コロイド標識およびコンジュゲートパッドの作製
2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で1mg/mlとなるようにPas1CN1のMAb溶液を調製した。あらかじめ0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液(シグマ社製)5mlにMAb溶液を500μl加え、室温で30分間反応した後、10%BSA溶液を625μlを加え、さらに15分間反応させた。遠心分離を行い、1%BSA溶液でOD525=1.0になるよう調製した。ガラスウール製コンジュゲートパッドに68μl/cm2となるよう塗布し、乾燥させた。
【0065】
2)抗体固定化メンブレンの作製
PBSで4mg/mlとなるようPas1CN2のMAb溶液を調製し、ニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた。その後、1%BSA、0.1%Tween20を含むPBSで37℃、2時間ブロッキング後、PBSで洗浄し乾燥させた。
【0066】
3)イムノクロマトストリップの組立と評価
上記で作製したサンプルパッド、コンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドをそれぞれ貼り付け、イムノクロマトストリップとした。被検液としては、上記調製したモデル食肉製品を適宜希釈して用いた。
【0067】
4−2 結果
Pas1CN2および金コロイド標識Pas1CN1の組合せによりカゼインナトリウムは加熱、非加熱に係わらず50ppb(食品中2ppm)まで検出することができた。この結果から、製造工程中に混入した未変性カゼインナトリウムが対象となっても、加熱後の製品が対象となっても、いかなる場合にでも対応できるイムノクロマトストリップの設計が可能となった。
【0068】
市販のアレルゲン検出用イムノクロマトストリップでは、ブランクとして0.01Mの尿素のみを含むPBSを滴下したところ、非特異的なバンドが生じてしまい、擬陽性となってしまった。これでは、加熱などにより変性した食品たんぱく中から効率よくアレルゲンを抽出するためのたんぱく質変性剤を使用できず、アレルゲンとして検出できる対象が極めて狭い範囲に限られてしまう危険性が考えられた。
【0069】
5.抗βラクトグロブリンモノクローナル抗体の確立
5−1 材料及び方法
1)βラクトグロブリン(以下「βLG」ということがある)の調製
新鮮な牛乳よりZittle(1959)に従い、ホエーの粗画分を得た。この粗画分をさらにTSK gel DEAE 650S(TOSOH)を用いて、50mMのトリス−HCl緩衝液(pH6.5)、NaClのリニアグラジエント(0から0.4M)により精製を行った。精製したβLG画分を蒸留水による透析後、凍結乾燥を行い、未変性βLG(以下「N−βLG」ということがある)とした。このN−βLGを10mg量り、1.4Mのトリス−HCl緩衝液(pH8.6)1ml、5%のEDTA100μl、尿素1.2g、2−メルカプトエタノール33μlを加え2.5mlに定容した後、窒素ガス置換を行い、37℃、1時間の還元処理を行い、さらに、1MのNaOH300μlに溶解した89mgのモノヨード酢酸を加え窒素ガス置換した後、室温で1時間のカルボキシメチル化を行い、還元カルボキシメチル化βLG(以下「R−βLG」ということがある)とした。生理食塩水でこれらの凍結乾燥物の0.1%溶液を調製し、1ml容エッペンドルフチューブに500μlずつ分注し、免疫に供するまで−20℃で凍結保管し、抗原溶液とした。
【0070】
2)免疫
供試動物として、5週齢のBALB/cマウス(日本クレア株式会社製)5尾を用いた。初回免疫には、完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のN−βLG又はR−βLGが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量ずつ加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。また、追加免疫は、2週間の間隔で3回行った。免疫には、不完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のN−βLG又はR−βLGが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量ずつ加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。
【0071】
3)血中抗体価の測定
初回あるいは追加免疫でN−βLG又はR−βLGを注射した1週間後に、各BALB/cマウスの尾部静脈より採血を行った。採血した血液は室温に2時間放置後、遠心分離を行い、血清を得た。これらの血清の10倍希釈段を作製し、非競合法ELISAによりマウス血中の抗N−βLG抗体価及び抗R−βLG抗体価を調べた。なお、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)抗体(Jackson ImmunoReserch Laboratories Inc.製)を用いた。
【0072】
4)ハイブリドーマの作製
ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、十分に抗体価が上がったマウスに、0.1%のN−βLG溶液又はR−βLG溶液100μlを尾部静脈より注射した。静脈注射から4日後、マウスより脾臓を無菌的に摘出した。脾臓を細切後、RPMI1640で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュ(Cell Strainer, 70 mm, Becton Dickinson)を通し、脾臓細胞懸濁液を得た。1,000rpm×10分の遠心分離により脾臓細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この脾臓細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を細胞数が10:1になるように混合し、再度1,000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3,350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加え希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×106cells/wellとなるように24ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に分注し、5%CO2下37℃で培養した。
【0073】
5)限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清について、ELISAの一次抗体として供試し、抗N−βLG抗体又は抗R−βLG抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISAによりN−βLG又はR−βLGに対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9cell/wellとなるように96ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に移し、限界希釈法によるクローニングを行った。なお、フィーダー細胞として、4週齢BALB/cマウス胸腺細胞を5×106cells/wellとなるように96ウェル細胞培養用プレートの各ウェルに加えた。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0074】
6)抗体のスクリーニング
モノクローナル抗体のスクリーニングは、N−βLG、R−βLG及び尿素処理βLG(以下「D−βLG」という)の3種類のたんぱく質に対する反応性の違いを調べることで特異性の異なるクローンを得ることとした。D−βLGは、N−βLGを1mg量り、6.0gの尿素、0.2mlの2−メルカプトエタノール、1mlの50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.6)、1.5mlの蒸留水を加え、アルミフォイルで蓋をした後、100℃で1時間オイルバスで加熱、変性処理を行った。培養上清のN−βLG、R−βLGあるいはD−βLGに対する反応性を非競合法ELISAにて調べた。
【0075】
7)腹水の採取及びMAbの精製
Jonesら(1990)に従い、まず、BALB/cマウスに不完全フロイントアジュバントを0.2ml腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×106cellsのクローニングされたハイブリドーマを接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採種した腹水をProtein G カラム(アマシャム ファルマシア)により精製した。
【0076】
8)MAbのクラス、サブクラス及びタイプ
抗N−βLGMAb又は抗R−βLGMAbの特性を決定するために、固相法を用いた。固相法として、N−βLG、R−βLG又はD−βLGをあらかじめ細胞培養用プレートのウェル内に固定し、この固定化された抗原に抗N−βLGMAb又は抗R−βLGMAbを作用させる方法を用いた。MAbのクラス及びサブクラスについては、Monoclonal mouse immunoαCNobulin isotyping kit(Pharmingen)により、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgM、IgA、IgL(κ)及びIgL(γ)を決定した。
【0077】
9)MAbのビオチン化
精製したMAbについて、サンドイッチELISAに供試するため、それぞれビオチン化処理を行った。50mMの炭酸緩衝液(pH8.5)を用いて20mg/mlとなるよう調製し、DMSOに3mg/100μlで溶解したNHS−ビオチン溶液を10μl加え、撹拌後、氷冷しながら2時間静置した。その後、20mg/mlとなるようにPBSで置換した。
【0078】
5−2 結果
1)抗N−βLGMAbと抗R−βLGMAbの特性とクラス、サブクラス
N−βLGに対する特異性を持つMAb13種類を得た。それぞれ固相の抗原に対する特異性を表5に示した。
【0079】
【表5】
【0080】
2)サンドイッチELISAにおける組合せ条件
固相の抗原に対し陽性反応を示した各MAbをそれぞれ固相あるいはビオチン化抗体として、N−βLG及びD−βLGを検出するためのMAbの組合せを、サンドイッチELISAにおける検出感度の点から選出した。その結果、N−βLG及びD−βLGを検出できる組合せとして、プレート固定化抗体PLG2(FERM ABP−10282)と、ビオチン化抗体PLG1(FERM ABP−10281)又はPLG3(FERM ABP−10283)を選択した。PLG2とPLG1のサンドイッチELISAによるN−βLG及びD−βLGに対する反応性の結果を図3に示す。また、PLG2とPLG3のサンドイッチELISAによるN−βLG及びD−βLGに対する反応性を図4に示す。
【0081】
3)MAb混合系でのN−βLG、D−βLGの検出
サンドイッチELISAにより選択した組合せ(固相にPLG2、ビオチン化にPLG1およびPLG3)を用い、N−βLGとD−βLGの検出感度を確認したところ、図5及び図6に示すように、MAb混合系でN−βLG、D−βLGともにMAb混合系の方が吸光値は高く、検出感度を上げることが可能であることが明らかとなった。
【0082】
6.サンドイッチELISAによる食品中のホエータンパク質の検出
上記1.で選択されたPLG2とPLG1、及びPLG2とPLG3の組合せにより、実際の食品中のホエータンパク質質を検出できるかを試みた。
【0083】
6−1 材料及び方法
1)モデル食肉製品の作製
定量試験のためのモデル食品として食肉製品を選択し、表6に示す配合にて各濃度のホエータンパク質を含むモデル食肉製品を作製した。豚赤肉は、豚ロース肉より脂、スジを除去し、5mmで挽肉にしたものを使用した。各配合に従い添加物を計量し、フードプロセッサーにて混合後、塩ビチューブに充填を行い、75℃で30分の加熱を行った。
【0084】
【表6】
【0085】
2)サンドイッチELISAによる定量分析
各モデル食肉製品を、フードプロセッサーにて均一になるまで磨砕し、分析用サンプルとした。サンプル1gを量り取り、10M尿素および0.1%の2−メルカプトエタノールを含むPBST(PBSにポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを0.5%加えたもの)を19g加え、ホモジナイザーにて30秒攪拌した。その後、100℃で1時間加熱処理を行った。冷却後、3,000rpm×20分の遠心分離を行い、上清0.5mlにPBSTを9.5ml加え、ELISA用サンプルとした。検量線には同様に10M尿素及び0.1%の2−メルカプトエタノール処理を行ったホエータンパク質の段階希釈を用いた。また、分析用サンプルからPBSTを用いて抽出し、PBSTに溶解したホエータンパク質を検量線とした尿素及び2−メルカプトエタノールを用いない場合との比較を行った。
【0086】
6−2 結果
サンドイッチELISAによるモデル食肉製品中のホエータンパク質の分析について、尿素および2−メルカプトエタノールを用いて抽出したモデル食肉製品中のホエータンパク質の分析結果を表7に、また、PBSTのみで抽出したモデル食肉製品中のホエータンパク質の分析結果を表8に示す。
【0087】
【表7】
【0088】
【表8】
【0089】
以上の結果から、尿素および2−メルカプトエタノールを抽出液に加えた場合に、高い回収率でモデル食肉製品中のホエータンパク質を検出可能であり、PBST抽出では検出できなかった。これらのことから、食品中からのホエータンパク質の抽出には尿素および2−メルカプトエタノールを用いることが有効であり、その場合に利用するMAbの特性には、尿素で変性させたβLGに結合可能であることが必要であることが明らかとなった。
【0090】
7.イムノクロマトによる変性および未変性カゼインナトリウムの検出
7−1 材料および方法
1)金コロイド標識およびコンジュゲートパッドの作製
2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で1mg/mlとなるようにPLG1及びPLG3のMAb溶液を調製した。あらかじめ0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液(シグマ社製)5mlにMAb溶液を500μl加え、室温で30分間反応した後、10%BSA溶液625μlを加え、さらに15分間反応させた。遠心分離を行い、1%BSA溶液でOD525=2.0になるよう調製し、1:1の割合で混合した。ガラスウール製コンジュゲートパッドに68μl/cm2となるよう塗布し、乾燥させた。
【0091】
2)抗体固定化メンブレンの作製
PBSで4mg/mlとなるようPLG2のMAb溶液を調製し、ニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた。その後、1%BSAを含む10mMリン酸バッファー(pH7.5)で37℃で1時間ブロッキング後、10mMリン酸バッファー(pH7.5)で洗浄し乾燥させた。
【0092】
3)イムノクロマトストリップの組立と評価
上記で作製したサンプルパッド、コンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドをそれぞれ貼り付け、イムノクロマトストリップとした。被検液としては、上記2.で調製したモデル食肉製品を適宜希釈して用いた。
【0093】
7−2 結果
メンブレン塗布MAbであるPLG2、および金コロイド標識MAbであるPLG1+PLG3の組合せにより、ホエータンパク質は加熱、非加熱に係わらず50ppb(食品中2ppm)まで検出することができた。この結果から、製造工程中に混入したホエーたんぱく質が対象となっても、加熱後の製品が対象となっても、いかなる場合にでも対応できるイムノクロマトストリップの設計が可能となった。
【0094】
市販のアレルゲン検出用イムノクロマトストリップでは、ブランクとして0.1M尿素、0.2%2−MEを含むPBSを滴下したところ、非特異的なバンドが生じてしまい、擬陽性となってしまった。これでは、加熱などにより変性した食品たんぱく中から効率よくアレルゲンを抽出するためのたんぱく質変性剤を使用できず、アレルゲンとして検出できる対象が極めて狭い範囲に限られてしまう危険性が考えられた。
【実施例2】
【0095】
1.変性/未変性オボアルブミンに結合可能なMAbの確立
1−1 材料及び方法
1)ニワトリオボアルブミン(以下「OA」ということがある)の調製
新鮮なニワトリ卵より卵白のみを採取し、泡立てないように均質化後、等量の飽和硫酸アンモニウムを加え、濾紙No.1(アドバンテック東洋)で濾過した。そして、得られたろ液に0.5Mの硫酸を添加しpH4.6に調整後、一晩放置した。8,000rpm×20分の遠心分離により得られた沈殿を蒸留水に溶解し、同じ方法で再結晶化し、粗OA画分を得た。粗OAはさらに、TSK gel DEAE 650S(Tosoh)を用いたイオン交換クロマトグラフィにより精製した。移動相には50mMイミダゾール−塩酸緩衝液(pH6.4)を用い、NaClの0から0.3MのリニアグラジェントによりOAを分画し、透析による脱塩後、凍結乾燥を行った。この凍結乾燥OAを用い、生理食塩水で0.1%のOA溶液を作製し、1ml容エッペンドルフチューブに500μlずつ分注して抗原溶液とし、免疫に供するまで−20℃で凍結保管した。
【0096】
2)免疫
供試動物として、6週齢のBALB/cマウス(日本クレア株式会社製)4尾を用いた。初回免疫には、完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のOAが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。また、追加免疫は、3週間の間隔で2回行った。免疫には、不完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のOAが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。なお、抗変性OAMAbを得る場合、最終免疫のみに後述する還元カルボキシメチル化OAを用いた。
【0097】
3)血中抗体価の測定
初回あるいは追加免疫でOAを注射した1週間後に、各BALB/cマウスの尾部静脈より採血を行った。採血した血液は室温に2時間放置後、遠心分離を行い、血清を得た。これらの血清の10倍希釈段を作製し、非競合法ELISAによりマウス血中の抗OA抗体価を調べた。なお、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)抗体(Jackson ImmunoReserch Laboratories Inc.製)を用いた。
【0098】
4)ハイブリドーマの作製
ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、十分に抗体価が上がったマウスに、0.1%OA溶液100μlを尾部静脈より注射した。静脈注射から4日後、マウスより脾臓を無菌的に摘出した。脾臓を細切後、RPMI1640で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュ(Cell Strainer, 70 mm, Becton Dickinson)を通し、脾臓細胞懸濁液を得た。1,000rpm×10分の遠心分離により脾臓細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この脾臓細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を細胞数が10:1になるように混合し、再度1,000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3,350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加え希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×106cells/wellとなるように24ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に分注し、5%CO2下37℃で培養した。
【0099】
5)限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清について、ELISAの一次抗体として供試し、抗OA抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISAによりOAに対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9 cell/wellとなるように96ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に移し、限界希釈法によるクローニングを行った。なお、フィーダー細胞として、4週齢BALB/cマウス胸腺細胞を5×106cells/wellとなるように96ウェル細胞培養用プレートの各ウェルに加えた。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100g/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0100】
6)抗体のスクリーニング
モノクローナル抗体のスクリーニングは、未変性OA(以下「NOA」ということがある)あるいは還元カルボキシメチル化OA(以下「RCMOA」ということがある)に対する反応性の違いを調べることで特異性の異なるクローンを得ることとした。RCMOAは、精製OA(上記凍結乾燥物)を10mg量り、1.4Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.6)1ml、5%のEDTA100μl、1.2gの尿素、33μlの2−メルカプトエタノールを加え2.5mlに定容した後、窒素ガス置換を行い、37℃、1時間の還元処理を行った。さらに、1MのNaOH300μlに溶解した89mgのモノヨード酢酸を加え窒素ガス置換した後、室温で1時間のカルボキシメチル化を行い、RCMOAとした。培養上清のNOAあるいはRCMOAに対する反応性を非競合法ELISAにより調べた。
【0101】
7)腹水の採取及びMAbの精製
Jonesら(1990)に従い、まず、BALB/cマウスに不完全フロイントアジュバントを0.2ml腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×106cellsのクローニングされたハイブリドーマを接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採種した腹水をProtein G カラム(アマシャム ファルマシア)により精製した。
【0102】
8)MAbの特性とMAbのクラス、サブクラス及びタイプ
抗OAMAbの特性を決定するために、固相法と液相法を用いた。固相法として、NOA又はRCMOAをあらかじめ細胞培養用プレートのウェル内に固定し、この固定化された抗原(NOA又はRCMOA)に抗未変性/変性OAMAbを作用させる方法を用い、また、液相法として、ウサギ抗OAポリクローナル抗体をあらかじめ細胞培養用プレートのウェル内に固定し、このポリクローナル抗体にNOA又はRCMOAを結合させた状態で、抗未変性/変性OAMAbを作用させる方法を用いた。また、MAbのクラス及びサブクラスについては、Monoclonal mouse immunoglobulin isotyping kit(Pharmingen)により、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgM、IgA、IgL(κ)及びIgL(γ)を決定した。
【0103】
9)MAbのビオチン化
精製したMAbについて、サンドイッチELISAに供試するため、それぞれビオチン化処理を行った。50mMの炭酸緩衝液(pH8.5)を用いて20mg/mlとなるよう調製し、DMSOに3mg/100μlで溶解したNHS−ビオチン溶液を10μl加え、撹拌後、氷冷しながら2時間静置した。その後、20mg/mlとなるようにPBSで置換した。
【0104】
1−2 結果
1)抗OAMAbの特性とクラス、サブクラス
NOAに対する特異性を持つMAb9種類、及び、RCMOAに対する特異性を持つMAb10種類を得た。それぞれ液相あるいは固相の抗原に対する特異性を表9に示した。
【0105】
【表9】
【0106】
2)組合せ条件
NOAを検出するためのMAbあるいはRCMOAを検出するためのMAbの組合せは、サンドイッチELISAにおける検出感度の点から選出した。その結果、NOAでは301B5と316G1や304E4(PNOA1;FERM ABP−10265)と306B2(PNOA2;FERM ABP−10266)、RCMOAでは117F9と119D11や948G11(PDOA1;FERM ABP−10275)と962B8(PDOA2;FERM ABP−10276)を高い組合せとして選択した。
【0107】
2.サンドイッチELISAによる変性及び未変性抗原の検出
2−1 材料及び方法
NOA溶液は、精製OAをPBSで100ppb溶液となるように調製し、3倍の希釈段を作製した(希釈段A)。一方、ガラス試験管に精製OAを1mg量り、6gの尿素、0.2mlの2−メルカプトエタノール、1mlの50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.6)、1.5mlの蒸留水を加え、アルミフォイルで蓋をした後、100℃で1時間オイルバスで加熱、変性処理を行った。冷却後、100ml容メスフラスコに移し、PBSで100mlにメスアップした。これをさらにPBSで100倍希釈し、尿素変性OA(以下「UDOA」という)100ppb溶液とした。さらに尿素濃度を0.01Mに保ちながら3倍の希釈段を作製した(希釈段B)。また、NOA100ppb溶液とUDOA100ppb溶液を等量ずつ混ぜ(NOA及びUDOAは各50ppb溶液となる)、尿素濃度を0.005Mに保ちながら3倍の希釈段を作製した(希釈段C)。また、サンドイッチELISAに供試した条件を表10に示す。コーティングMAb濃度は単独の場合は25μg/mlに、また混合した場合には各12.5μg/mlとし、合計で25μg/mlとなるようにした。
【0108】
【表10】
【0109】
2−2 結果
図7に示すように、未変性OAを対象とした(試験1)では301B5単独と、301B5と119D11の混合の曲線はほとんど重なったが、10ppb以下のより希薄な状態において301B5単独よりも301B5と119D11の混合の曲線では若干混合の方が吸光値は高く、検出感度が上げられる可能性が考えられた。また、変性OAを対象とした(試験2)のUDOAでは、301B5単独では吸光値が認められず、301B5及び316G1はUDOAに関与しないものと考えられたが、119D11単独と301B5と119D11の混合の曲線では明らかに混合の方が吸光値は高く、MAbを混合することにより検出感度を上げることができるものと考えられた(図8)。これは未変性/変性OAを対象とした(試験3)でも認められ、301B5単独よりも301B5と119D11の混合の方が明らかに吸光値が高かった(図9)。試験1〜3のいずれの場合も、単独でコーティングされた抗体濃度は25g/mlであり、混合ではそれぞれ半分の濃度の12.5mg/mlであったことから、MAbの種類を増やす混合系を用いることで、抗体濃度が同じあるいは少なくても、より抗原の検出感度を上げることが可能であることが明らかとなった。
【0110】
3.イムノクロマトによる変性及び未変性OAの検出
3−1 材料及び方法
1)金コロイド標識及びコンジュゲートパッドの作製
2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で1mg/mlとなるように119D11及び316G1のMAb単独あるいは混合溶液を調製した。あらかじめ0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液(シグマ社製)5mlにMAb溶液を500μl加え、室温で30分間反応した後、10%BSA溶液を625μlを加え、さらに15分間反応させた。遠心分離を行い、1%BSA溶液でOD525=1.0になるよう調製した。ガラスウール製コンジュゲートパッド(日本ミリポア社製)に68μl/cm2となるよう塗布し、乾燥させた。
【0111】
2)抗体固定化メンブレンの作製
PBSで4mg/mlとなるよう117F9及び301B5のMAb単独あるいは混合溶液を調製し、ニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた。その後、1%BSA、0.1%Tween20を含むPBSで37℃、2時間ブロッキング後、PBSで洗浄し乾燥させた。
【0112】
3)イムノクロマトストリップの組立と評価
上記で作製したコンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレンに加えて、被検液スポット用のガラスウール製サンプルパッド、被検液吸収用のガラスウール製吸収パッドを別途用意し、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドの順にそれぞれ貼り付け、イムノクロマトストリップとした。被検液としては、上記2.で調製したNOA並びにUDOAを適宜希釈して用いた。
【0113】
3−2 結果
301B5及び金コロイド標識316G1の組合せによりNOAは10ppbまで検出することができたが、UDOAは1ppmでも検出できなかった。一方、117F9及び金コロイド標識119D11の組合せにより、UDOAは10ppbまで検出することができたが、NOAは1ppmでも検出できなかった。これに対して、301B5及び117F9の固定化抗体混合物、並びに316G1及び119D11の金コロイド抗体混合物を用いたイムノクロマトストリップを作製した場合、変性OAあるいは未変性OAを10ppbまで検出可能であった。この様に変性OAに結合可能なMAbと未変性OAに結合可能なMAbを組み合わせることにより、製造工程中に混入した未変性卵白が対象となっても、加熱後の製品が対象となっても、いかなる場合にでも対応できるイムノクロマトストリップの設計が可能となった。
【0114】
市販の卵アレルゲン検出用イムノクロマトストリップでは、ブランクとして0.01Mの尿素のみを含むPBSを滴下したところ、非特異的なバンドが生じてしまい、擬陽性となってしまった。これでは卵白アレルゲン検査において、熱などにより不溶化した卵白アレルゲンを抽出するためのたんぱく質変性剤である尿素を使用できず、アレルゲンとして検出できる対象が極めて狭い範囲に限られてしまう危険性が考えられた。
【0115】
4.変性/未変性オボムコイドに結合可能なMAbの確立
4−1 材料及び方法
1)ニワトリオボムコイド(以下「OM」という)の調製
新鮮なニワトリ卵より卵白のみを採取し、泡立てないように均質化後、等量の0.1M酢酸緩衝液(pH3.8)と混合した。さらに0.1M酢酸緩衝液に対し透析後、8,000rpm×20分遠心し、上精を回収した。さらに、TSK gel DEAE 650S(Tosoh)を用いたイオン交換クロマトグラフィにより精製した。移動相には50mMイミダゾール−塩酸緩衝液(pH6.4)を用い、NaClの0から0.3MのリニアグラジェントによりOMを分画し、透析による脱塩後、凍結乾燥を行い、これを未変性OM(以下「NOM」ということがある)とした。この精製OMを1mg量り、6gの尿素、0.2mlの2−メルカプトエタノール、1mlの50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.6)、1.5mlの蒸留水を加え、アルミフォイルで蓋をした後、100℃で1時間オイルバスで加熱、変性処理を行い尿素変性OM(以下「DOM」ということがある)とした。生理食塩水でこれらの凍結乾燥物の0.1%溶液を調製し、1ml容エッペンドルフチューブに500μlずつ分注して抗原溶液とし、免疫に供するまで−20℃で凍結保管した。
【0116】
2)免疫
供試動物として、それぞれ6週齢のBALB/cマウス(日本クレア株式会社製)4尾を用いた。初回免疫には、完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のNOM又はDOMが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量ずつ加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。また、追加免疫は、3週間の間隔で2回行った。免疫には、不完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のNOM又はDOMが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量ずつ加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。
【0117】
3)血中抗体価の測定
初回あるいは追加免疫でNOM又はDOMを注射した1週間後に、各BALB/cマウスの尾部静脈より採血を行った。採血した血液は室温に2時間放置後、遠心分離を行い、血清を得た。これらの血清の10倍希釈段を作製し、非競合法ELISAによりマウス血中の抗OM抗体価を調べた。なお、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc.製)を用いた。
【0118】
4)ハイブリドーマの作製
ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、十分に抗体価が上がったマウスに、0.1%NOM溶液又はDOM溶液100mlを尾部静脈より注射した。静脈注射から4日後、マウスより脾臓を無菌的に摘出した。脾臓を細切後、RPMI1640で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュ(Cell Strainer, 70 mm, Becton Dickinson)を通し、脾臓細胞懸濁液を得た。1,000rpm×10分の遠心分離により脾臓細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この脾臓細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を細胞数が10:1になるように混合し、再度1,000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3,350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加え希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×106cells/wellとなるように24ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に分注し、5%CO2下37℃で培養した。
【0119】
5)限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清について、ELISAの一次抗体として供試し、抗NOM抗体又は抗DOM抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISAによりNOM又はDOMに対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9cell/wellとなるように96ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に移し、限界希釈法によるクローニングを行った。なお、フィーダー細胞として、4週齢BALB/cマウス胸腺細胞を5×106cells/wellとなるように96ウェル細胞培養用プレートの各ウェルに加えた。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100g/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0120】
6)腹水の採取及びMAbの精製
Jonesら(1990)に従い、まず、BALB/cマウスに不完全フロイントアジュバントを0.2ml腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×106cellsのクローニングされたハイブリドーマを接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採種した腹水をProtein G カラム(アマシャム ファルマシア)により精製した。
【0121】
7)MAbの特性とMAbのクラス、サブクラス及びタイプ
抗NOMMAb及び抗DOMMabの特性を決定するために、固相法と液相法を用いた。固相法として、NOM又はDOMをあらかじめ細胞培養用プレートのウェル内に固定し、この固定化されたNOM又はDOMにMAbを作用させる方法を用い、また、液相法として、ウサギ抗オボムコイドポリクロナール抗体をあらかじめ細胞培養用プレートのウェル内に固定し、このポリクロナール抗体にNOM又はDOMを結合させた状態で、MAbを作用させる方法を用いた。また、MAbのクラス及びサブクラスについては、Monoclonal mouse immunoglobulin isotyping kit(Pharmingen)により、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgM、IgA、IgL(κ)及びIgL(γ)を決定した。
【0122】
8)MAbのビオチン化
精製したMAbについて、サンドイッチELISAに供試するため、それぞれビオチン化処理を行った。50mMの炭酸緩衝液(pH8.5)を用いて20mg/mlとなるよう調製し、DMSOに3mg/100μlで溶解したNHS−ビオチン溶液を10ml加え、撹拌後、氷冷しながら2時間静置した。その後、20mg/mlとなるようにPBSで置換した。
【0123】
4−2 結果
1)抗NOMMAb及び抗DOMMabの特性とクラス、サブクラス
NOMに対する特異性を持つMAb7種類、DOMに対する特異性を持つMAb10種類を得た。それぞれ液相あるいは固相の抗原に対する特異性を表11に示した。
【0124】
【表11】
【0125】
2)組合せ条件
NOMを検出するためのMAbの組合せは、サンドイッチELISAにおける検出感度の点から選出した。その結果、47E5(PNOM1;FERM ABP−10279)と50A12(PNOM2;FERM ABP−10280)とを高い組合せとして選択した。また、上記、10個のモノクローナル抗体を用いてサンドイッチELISAを行い、最も感度の高い628E1(PDOM1;FERM ABP−10277)と648A9(PDOM2;FERM ABP−10278)とを高い組合せとして選択した。
【0126】
3)サンドイッチELISAによる各モノクローナル抗体とOMの反応性
PNOM1およびPNOM2のサンドイッチELISAでは、未変性オボムコイドは検出できたが、変性オボムコイドはまったく検出できなかった(図10)。また、PDOM1およびPNOM2のサンドイッチELISAでは、変性OMを検出できたが、未変性OMでは10〜100ppbの間で、感度が低かった(図11)。しかし、プレート抗体としてPNOM2及びPDOM2を用い、ビオチン抗体としてPNOM1及びPDOM1を用いる各モノクローナル抗体を組み合わせたサンドイッチELISAでは、特に未変性OMの10〜100ppbで検出感度の向上が認められた(図12)。
5.イムノクロマトによるOMを指標とした卵白の検出
【0127】
5−1 材料及び方法
1)金コロイド標識及びコンジュゲートパッドの作製
2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で1mg/mlとなるようにPNOM1のMAb溶液を調製した。あらかじめ0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液(シグマ社製)5mlにMAb溶液を500μl加え、室温で30分間反応した後、10%BSA溶液を625μlを加え、さらに15分間反応させた。遠心分離を行い、1%BSA溶液でOD525=1.0になるよう調製した。ガラスウール製コンジュゲートパッド(日本ミリポア社製)に68μl/cm2となるよう塗布し、乾燥させた。
【0128】
2)抗体固定化メンブレンの作製
PBSで4mg/mlとなるようPNOM2のMAb溶液を調製し、ニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた。その後、1%BSA、0.1%Tween20を含むPBSで37℃、2時間ブロッキング後、PBSで洗浄し乾燥させた。
【0129】
3)イムノクロマトストリップの組立と評価
上記で作製したコンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレンに加えて、被検液スポット用のガラスウール製サンプルパッド、被検液吸収用のガラスウール製吸収パッドを別途用意し、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドの順にそれぞれ貼り付け、イムノクロマトストリップとした。被検液としては、凍結乾燥卵白粉末の0.1%溶液をそれぞれ室温、50℃、75℃、100℃で1時間処理したものを適宜希釈して用いた。
【0130】
5−2 結果
PNOM1及び金コロイド標識PNOM2の組み合わせにより、室温及び50℃で1時間処理した卵白溶液は10ppbまで検出できた。また、75、100℃で1時間処理した卵白は、100ppbまで検出することができた。この結果から、100℃で1時間に相当する加熱処理をされた食品では、尿素の様な変性剤を用いなくても、この抗OMMAbのイムノクロマトストリップを用いることで、卵白として100ppbまでは、簡便な抽出により検出可能であった。しかし、100℃を越えた熱処理ではOMのイムノクロマトでは検出できないため、上記のように尿素による可溶化処理が必要であった。
【0131】
6.抗OAMAbと抗OMMAbとの併用効果
6−1 方法
上記の結果より、PNOA1、PDOA1及びPNOM1の固定化抗体混合物、並びにPNOA2、PDOA2及びPNOM2の金コロイド抗体混合物を用いたイムノクロマトストリップを上記のように作製し、卵白の検出を試みた。
【0132】
6−2 結果
PNOA1とPNOA2、PDOA1とPDOA2およびPNOM1とPNOM2の組み合わせは、それぞれ上記に示したように目的の変性/未変性オOAあるいはOMをそれぞれの感度で検出することが可能であった。このことから、加工食品の製造過程において未加熱状態の場合には未変性OA及びOMに対するMAbが反応し、50から100℃の場合には、未変性/変性OA、及びOMに対するMAbが反応、それ以上の場合には尿素による可溶化処理により変性OAが反応する卵白の検出方法を開発することができた。
【実施例3】
【0133】
1.変性/未変性小麦グリアジンに結合可能なMAbの確立
1−1 材料及び方法
1)小麦グリアジン(以下「GL」という)の調製
小麦粉に2倍量のn−ブタノールを加え脱脂を行い、一晩風乾した。得られた脱脂小麦粉に0.1%塩化ナトリウム溶液を2倍量加え、10,000rpm×15分遠心分離した。得られた沈殿に20倍量の0.01N酢酸を加え、撹拌後、10,000rpm×15分遠心分離した。得られた上清を蒸留水で透析し、凍結乾燥を行った。得られた凍結乾燥物に70%となるようにエタノールを加え、10,000rpm×15分遠心分離した。得られた上清を蒸留水で透析し、粗GL画分を得た。粗GL画分はさらに、Sephacryl S-200HR(Amersham Biosciences)を用いたゲルろ過により精製した。移動相には0.1N酢酸を用いてGLを分画し、蒸留水に透析後、凍結乾燥を行った。生理食塩水でこの凍結乾燥物の0.1%溶液を調製し、1ml容エッペンドルフチューブに500μlずつ分注し、免疫に供するまで−20℃で凍結保管し、抗原溶液とした。
【0134】
2)免疫
供試動物として、5週齢のBALB/cマウス(日本クレア株式会社製)5尾を用いた。初回免疫には、完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のGLが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。また、追加免疫は、3週間の間隔で2回行った。免疫には、不完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のGLが500μl入ったエッペンドルフチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。
【0135】
3)血中抗体価の測定
初回あるいは追加免疫でGLを注射した1週間後に、各BALB/cマウスの尾部静脈より採血を行った。採血した血液は室温に2時間放置後、遠心分離を行い、血清を得た。これらの血清の10倍希釈段を作製し、非競合法ELISAによりマウス血中の抗GL抗体価を調べた。なお、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)抗体(Jackson ImmunoReserch Laboratories Inc.製)を用いた。
【0136】
4)ハイブリドーマの作製
ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、十分に抗体価が上がったマウスに、0.1%GL溶液100μlを尾部静脈より注射した。静脈注射から4日後、マウスより脾臓を無菌的に摘出した。脾臓を細切後、RPMI1640で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュ(Cell Strainer, 70 mm, Becton Dickinson)を通し、脾臓細胞懸濁液を得た。1,000rpm×10分の遠心分離により脾臓細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この脾臓細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を細胞数が10:1になるように混合し、再度1,000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3,350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加え希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×106cells/wellとなるように24ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に分注し、5%CO2下37℃で培養した。
【0137】
5)限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清について、ELISAの一次抗体として供試し、抗GL抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISAによりGLに対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9 cell/wellとなるように96ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に移し、限界希釈法によるクローニングを行った。なお、フィーダー細胞として、4週齢BALB/cマウス胸腺細胞を5×106cells/wellとなるように96ウェル細胞培養用プレートの各ウェルに加えた。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0138】
6)抗体のスクリーニング
モノクローナル抗体のスクリーニングは、未変性GL(以下「NGL」という)あるいは還元カルボキシメチル化GL(以下「RCMGL」という)、0.1M酢酸可溶化GL(以下「AGL」という)、70%エタノール可溶化GL(以下「EGL」という)、変性剤で可溶化したGL(以下「DGL」という)に対する反応性の違いを調べることで特異性の異なるクローンを得ることとした。RCMGLは、精製GLを10mg量り、1.4Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.6)1ml、5%EDTA100μl、1.2g尿素、33μlの2−メルカプトエタノールを加え2.5mlに定容した後、窒素ガス置換を行い、37℃、1時間の還元処理を行った。さらに、1MのNaOH300μlに溶解した89mgのモノヨード酢酸を加え窒素ガス置換した後、室温で1時間のカルボキシメチル化を行い、RCMGLとした。培養上清のNGL、RCMGL、AGL、EGL及びDGLに対する反応性を非競合法ELISAにより調べた。
【0139】
7)腹水の採取及びMAbの精製
Jonesら(1990)に従い、まず、BALB/cマウスに不完全フロイントアジュバントを0.2ml腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×106cellsのクローニングされたハイブリドーマを接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採種した腹水をProtein G カラム(アマシャム ファルマシア)により精製した。
【0140】
8)MAbのクラス、サブクラス及びタイプ
MAbのクラス及びサブクラスについては、Monoclonal mouse immunoglobulin isotyping kit(Pharmingen)により、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgM、IgA、IgL(κ)及びIgL(γ)を決定した。
【0141】
9)MAbのビオチン化
精製したMAbについて、サンドイッチELISAに供試するため、それぞれビオチン化処理を行った。50mMの炭酸緩衝液(pH8.5)を用いて20mg/mlとなるよう調製し、DMSOに3mg/100μlで溶解したNHS−ビオチン溶液を10μl加え、撹拌後、氷冷しながら2時間静置した。その後、20mg/mlとなるようにPBSで置換した。
【0142】
2−2 結果
1)MAbの選択
小麦の主要アレルゲンであるグリアジン(GL)は、水に不溶性で、酢酸やエタノールに溶けるタンパク質である。そこで、PBSに溶かしたGL(NGL)、還元カルボキシメチル化GL(RCMGL)、0.1M酢酸可溶化GL(AGL)、70%エタノール可溶化GL(EGL)、変性剤で可溶化したGL(DGL)を調製し、どの状態のGLに特異的に結合するMAbであるかを検証した。抗GLMAbの各状態のGLに対するダイレクトELISAの結果を表12に示す。表1に示されるように、全ての状態のGLに結合するMAbであるPGL1(FERM ABP−10267)、PGL2(FERM ABP−10268)、PGL4、PGL7を選択した。
【0143】
【表12】
【0144】
2)サンドイッチELISAにおける組合せ条件
ダイレクトELISAで選択したPGL1、PGL2、PGL4、PGL7を用いて、全てのMAbの組合わせについてサンドイッチELISAを行った。グリアジンはNGL、RCMGL、AGL、EGL、DGLを用いた。その結果、いずれの状態のGLでも最も高く検出できたのは、PGL1とPGL2の組合わせであった。PGL1とPGL2を用いたサンドイッチELISAの結果を図13に示す。その他の組み合わせについてはサンドイッチELISAにて全てのGLを検出できない、または検出感度が極めて低かった。以上の結果から、食品に様々な状態で含まれるGLを検出するMAbとして、PGL1とPGL2を選択した。
【0145】
2.PGL1とPGL2の認識するエピトープの相違
イムノブロッティングで、各抗体が認識するエピトープを限定するため、A−PAGEとエレクトロブロッティングに続いてイムノブロッティングを行った。まず、小麦グリアジンをLafiandra,D.&Kasarda,D.D.に従いA−PAGE(Cereal Chemistry,,62,314-319,1985)により分離した。分離したゲルを用いて、エレクトロブロッティングによりPVDF膜に転写した。転写したPVDF膜にPGL1とPGL2の培養上清(1/1000)を反応させたのち、発色させて、認識するエピトープを確認した。その結果、図14に示されるように、PGL1で認識されるタンパク質分解バンドがPGL2では認識されなかった。このことから、PGL1とPGL2とは異なるエピトープを認識することがわかった。
【0146】
3.イムノクロマトによる変性及び未変性GLの検出
3−1 材料及び方法
1)金コロイド標識及びコンジュゲートパッドの作製
2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で1mg/mlとなるようにPGL1(又はPGL2)溶液を調製した。あらかじめ0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液(シグマ社製)5mlにMAb溶液を500μl加え、室温で30分間反応した後、10%BSA溶液を625μlを加え、さらに15分間反応させた。遠心分離を行い、1%BSA溶液でOD525=1.0になるよう調製した。ガラスウール製コンジュゲートパッド(日本ミリポア社製)に68μl/cm2となるよう塗布し、乾燥させた。
【0147】
2)抗体固定化メンブレンの作製
PBSで4mg/mlとなるようPGL2(又はPGL1)溶液を調製し、ニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた。その後、1%BSA、0.1%Tween20を含むPBSで37℃、2時間ブロッキング後、PBSで洗浄し乾燥させた。
【0148】
3)イムノクロマトストリップの組立と評価
上記で作製したコンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレンに加えて、被検液スポット用のガラスウール製サンプルパッド、被検液吸収用のガラスウール製吸収パッドを別途用意し、サンプルパッド、コンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドの順にそれぞれ貼り付け、イムノクロマトストリップとした。
【0149】
被検液としては、小麦粉に20倍量のPBST(PBSにポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを0.5%加えたもの)を加え4℃で一晩撹拌し、遠心分離後に脱脂処理した上清を回収し、透析後、凍結乾燥したものを小麦粉抽出物として調製した。調製した小麦粉抽出物を用いて、未変性のもとしてPBSで希釈したもの、変性のものとして変性剤で可溶化したものを用いた。
【0150】
3−2 結果
サンドイッチELISAにより様々な状態のGLを検出できたことから、より簡易な検出方法としてイムノクロマトによる検出系を構築し、評価した。評価にあたっては、現在市販されているアレルゲン検出キットと同じ抗体を用いている市販A及び市販Bと比較した。結果を表13に示す。なお、表13中、「非特異反応」は、緩衝液のみを供したときに陽性と判定されたとき「あり」とした。その結果、市販Aでは、未変性小麦粉抽出物は検出できたが、変性小麦粉抽出物は非特異反応が見られ判定できなかった。また、市販Bでは、未変性小麦粉抽出物では1ppmでも検出できず、変性小麦粉抽出物は非特異反応が見られ判定できなかった。本発明のキットを用いる方法では、未変性小麦粉抽出物、変性小麦粉抽出物のどちらも50ppb程度まで検出することができた。また、変性小麦粉抽出物での非特異反応は見られなかった。
【0151】
【表13】
【0152】
次に、実際の食品からのアレルゲン検出を想定して、市販の食パンを用いて評価した。評価にあたっては、現在市販されているアレルゲン検出キットを用いる市販A及び市販Bと比較した。結果を表14に示す。なお、表14中、「非特異反応」は、緩衝液のみを供したときに陽性と判定されたとき「あり」とした。食パンのたんぱく質は約8%であるため、以下の濃度は8%を全量抽出したと仮定した数字となる。評価した結果、市販Aでは、未変性食パンを4ppm以下の濃度では検出できず、変性食パンでは非特異反応が見られ、判定できなかった。市販Bでは、4ppm程度は検出できたものの、それ以外の濃度では検出できず、また変性食パンでは非特異反応が見られ、判定できなかった。本発明のキットを用いる方法では、未変性食パン、変性食パンのどちらも40ppb程度の低濃度でも検出ができ、変性では非特異反応もなく、検出できることがわかった。
【0153】
【表14】
【実施例4】
【0154】
1.抗24kDaタンパク質MAb及び抗76kDaタンパク質MAbの確立
1−1 材料及び方法
1)そば24kDaタンパク質MAb及び抗76kDaタンパク質の調製
市販そば粉に5倍量の精製水を加え、攪拌後12000rpmで遠心分離を行い沈殿を得た。得られた沈殿に1M塩化ナトリウムを5倍量加え、攪拌後12000rpmで遠心分離を行い、上清を得た。上清を透析により脱塩し、凍結乾燥を行って得られた画分をそば粗タンパク質画分とした。このそば粗タンパク質画分をさらにプレップセル960(BioRad)を用いて精製を行った。24kDaタンパク質の精製は、そば粗タンパク質画分を2.0%SDSと5%2−メルカプトエタノールが含まれるサンプルバッファーに溶解後、95℃で4分間加熱したものをサンプルとして供試し、アクリルアミド12%分離ゲルを用いたプレップセル960にて分画し、24kDaタンパク質を得た。76kDaタンパク質の精製は、そば粗タンパク質画分を2.0%SDSが含まれ、2−メルカプトエタノールが含まれないサンプルバッファーに溶解したものをサンプルとして供試し、アクリルアミド12%分離ゲルを用いたプレップセル960にて分画し、76kDaタンパク質を得た。得られた各画分は透析後、凍結乾燥を行った。これらの凍結乾燥を用い、生理食塩水で0.1%の24kDaタンパク質溶液及び0.1%の76kDaタンパク質溶液それぞれを作製し、1ml容エッペンドルフチューブに500μlずつ分注して抗原溶液とし、免疫に供するまで−20℃で凍結保管した。
【0155】
2)免疫
供試動物として、5週齢のBALB/cマウス(日本クレア株式会社製)5尾を用いた。初回免疫には、完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%の24kDaタンパク質溶液及び0.1%の76kDaタンパク質溶液がそれぞれ500μl入ったエッペンドルフチューブに等量ずつ加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。また、追加免疫は、3週間の間隔で2回行った。免疫には、不完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%の24kDaタンパク質溶液及び0.1%の76kDaタンパク質溶液がそれぞれ500μl入ったエッペンドルフチューブに等量ずつ加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。
【0156】
3)血中抗体価の測定
初回あるいは追加免疫で24kDaタンパク質溶液又は76kDaタンパク質溶液を注射した1週間後に、各BALB/cマウスの尾部静脈より採血を行った。採血した血液は室温に2時間放置後、遠心分離を行い、血清を得た。これらの血清の10倍希釈段を作製し、非競合法ELISAによりマウス血中の抗24kDaタンパク質抗体価及び抗76kDaタンパク質抗体価を調べた。なお、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)抗体(Jackson ImmunoReserch Laboratories Inc.製)を用いた。
【0157】
4)ハイブリドーマの作製
ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、十分に抗体価が上がったマウスに、0.1%の24kDaタンパク質溶液又は0.1%の76kDaタンパク質溶液それぞれ100μlを尾部静脈より注射した。静脈注射から4日後、マウスより脾臓を無菌的に摘出した。脾臓を細切後、RPMI1640で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュ(Cell Strainer, 70 mm, Becton Dickinson)を通し、脾臓細胞懸濁液を得た。1,000rpm×10分の遠心分離により脾臓細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この脾臓細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を細胞数が10:1になるように混合し、再度1,000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3,350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加え希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×106cells/wellとなるように24ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に分注し、5%CO2下37℃で培養した。
【0158】
5)限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清について、ELISAの一次抗体として供試し、抗24kDaタンパク質抗体又は76kDaタンパク質抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISAにより24kDaタンパク質又は76kDaタンパク質に対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9 cell/wellとなるように96ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に移し、限界希釈法によるクローニングを行った。なお、フィーダー細胞として、4週齢BALB/cマウス胸腺細胞を5×106cells/wellとなるように96ウェル細胞培養用プレートの各ウェルに加えた。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100g/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0159】
6)抗体のスクリーニング
モノクローナル抗体のスクリーニングは、24kDaタンパク質、76kDaタンパク質、PBSで希釈したそば粗タンパク質(以下「NBW」ということがある)、あるいは変性剤により可溶化したそば粗タンパク質(以下「DBW」ということがある)に対する反応性の違いを調べることで特異性の異なるクローンを得ることとした。そば粗タンパク質は、そば粉に20倍量のPBSTを加え4℃で一晩撹拌し、遠心分離後に脱脂処理した上清を回収し、透析後、凍結乾燥したものをそば粉抽出物として調製した。変性剤による可溶化は、そば粗タンパク質を10mg量り、尿素6g、2−メルカプトエタノール0.2ml、 50 mMのTris−HCl緩衝液(pH8.6)1ml、蒸留水1.5mlを加え、アルミフォイルで蓋をした後、100℃で1時間オイルバスで加熱、変性処理を行い、これをDBWとした。培養上清の24kDaタンパク質、76kDaタンパク質、NBW、及びDBWに対する反応性を非競合法ELISAにて調べた。
【0160】
7)腹水の採取及びMAbの精製
Jonesら(1990)に従い、まず、BALB/cマウスに不完全フロイントアジュバントを0.2ml腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×106cellsのクローニングされたハイブリドーマを接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採種した腹水をProtein G カラム(アマシャム ファルマシア)により精製した。
【0161】
8)MAbの特性とMAbのクラス、サブクラス及びタイプ
抗24kDaタンパク質MAb又は抗76kDaタンパク質MAbの特性を決定するために、固相法を用いた。固相法として、24kDaタンパク質、76kDaタンパク質、NBW又はDBWをあらかじめ細胞培養用プレートのウェル内に固定し、この固定化された抗原に抗24kDaタンパク質MAb又は76kDaタンパク質MAbを作用させる方法を用いた。また、MAbのクラス及びサブクラスについては、Monoclonal mouse immunoglobulin isotyping kit(Pharmingen)により、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgM、IgA、IgL(κ)及びIgL(γ)を決定した。
【0162】
9)MAbのビオチン化
精製したMAbについて、サンドイッチELISAに供試するため、それぞれビオチン化処理を行った。50mMの炭酸緩衝液(pH8.5)を用いて20mg/mlとなるよう調製し、DMSOに3mg/100μlで溶解したNHS−ビオチン溶液を10μl加え、撹拌後、氷冷しながら2時間静置した。その後、20mg/mlとなるようにPBSで置換した。
【0163】
1−2 結果
1)抗24kDaタンパク質MAbと76kDaタンパク質MAbの特性とクラス、サブクラス
24kDaタンパク質に対する特異性を持つMAb5種類、及び、76kDaタンパク質に対する特異性を持つMAb4種類を得た。それぞれ固相の抗原に対する特異性を表15及び表16に示した。
【0164】
【表15】
【0165】
【表16】
【0166】
2)組合せ条件
固相の抗原に対し陽性反応を示した各MAbをそれぞれ固相あるいはビオチン化抗体として、NBWおよびDBWを検出するためのMAbの組合せを、サンドイッチELISAにおける検出感度の点から選出した。その結果、NBWを検出できる組合せとして、プレート固定化抗体PBW2(FERM ABP−10273)とビオチン化抗体PBW3(FERM ABP−10274)を、また、DBWを検出できる組み合わせとして、プレート固定化抗体PBW1(FERM ABP−10272)とビオチン化抗体PBW2を選択した。PBW2およびPBW3のサンドイッチELISAによる各種そば粗タンパク質に対する反応性の結果を図15に示す。また、PBW1およびPBW2のサンドイッチELISAによる各種そば粗タンパク質に対する反応性を図16に示す。
【0167】
3)MAb混合系でのNBW、DBWの検出
サンドイッチELISAにより選択したMAbを混合し、NBW、DBWの検出感度を確認した。すなわち、NBWでは、プレート固定化抗体をPBW2単独とした場合と、PBW1およびPBW2を混合した場合で、ビオチン化PBW3を二次抗体として比較した。また、DBWでは、高い検出感度であったプレート固定化抗体PBW1、ビオチン化PBW2の組み合わせと、PBW1およびPBW2を混合したプレート固定化抗体と、ビオチン化PBW3を二次抗体とした場合を比較した。図17及び図18に示すように、NBW、DBWともにプレート抗体を混合した方が吸光値が高く、検出感度を上げることが可能であることが明らかとなった。
【0168】
【0169】
2.サンドイッチELISAによる食品中のNBW、DBWの検出
上記1.で選択されたPBW1、PBW2、PBW3の組合せにより、実際の食品中のそば粗タンパク質を検出できるかを試みた。
【0170】
2−1 材料及び方法
1)モデル食肉製品の作製
定量試験のためのモデル食品として食肉製品を選択し、表17に示す配合にて各濃度のそば粗タンパク質を含むモデル食肉製品を作製した。豚赤肉は、豚ロース肉より脂、スジを除去し、5mmで挽肉にしたものを使用した。各配合に従い添加物を計量し、フードプロセッサーにて混合後、塩ビチューブに充填を行い、75℃で30分の加熱を行った。
【0171】
【表17】
【0172】
2)サンドイッチELISAによる定量分析
(モデル塩漬肉)
各モデル塩漬肉を、フードプロセッサーにて均一になるまで磨砕し、分析用サンプルとした。サンプル1gを量り取り、PBST19gを加えホモジナイザーにて30秒攪拌した。3,000rpm×20分の遠心分離を行い、上清をろ紙でろ過したものを0.5ml測り取り、PBSTを9.5ml加え、ELISA用サンプルとした。検量線には同様にPBSTを用いたそば粗タンパク質の段階希釈を用いた。
(モデル加熱製品)
各モデル加熱製品を、フードプロセッサーにて均一になるまで磨砕し、分析用サンプルとした。サンプル1gを量り取り、1%SDS、1%2−メルカプトエタノールを含むPBS 19gを加えホモジナイザーにて30秒攪拌した。その後、100℃1時間加熱処理を行った。冷却後3,000rpm×20分の遠心分離を行い、上清をろ紙でろ過したものを0.5ml測り取りPBSTを9.5ml加え、ELISA用サンプルとした。検量線には同様にSDS、2−メルカプトエタノール処理を行ったそば粗タンパク質の段階希釈を用いた。
【0173】
2−2 結果
サンドイッチELISAによるモデル食肉製品中のそば粗タンパク質の分析について、モデル塩漬肉の結果を表18に、また、モデル加熱製品の結果を表19に示す。
【0174】
【表18】
【0175】
【表19】
【0176】
以上の結果から、モデル塩漬肉のように未加熱のそば粗タンパク質でも、モデル加熱製品のような加熱変性したそば粗タンパク質でも、高い回収率でそば粗タンパク質を検出可能であった。これらのことから、未変性そばタンパク質に結合可能なMAbと変性そばタンパク質に結合可能なMAbを組み合わせることにより、未加熱(未変性)、加熱(変性)のいかなる状態のそばタンパク質でも、高感度で分析できることがわかった。
【0177】
3.イムノクロマトによる変性及び未変性そば粗タンパク質の検出
3−1 材料及び方法
1)金コロイド標識及びコンジュゲートパッドの作製
2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で1mg/mlとなるようにPBW3MAb溶液を調製した。あらかじめ0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液(シグマ社製)5mlにMAb溶液を500μl加え、室温で30分間反応した後、10%BSA溶液を625μlを加え、さらに15分間反応させた。遠心分離を行い、1%BSA溶液でOD525=1.0になるよう調製した。ガラスウール製コンジュゲートパッド(日本ミリポア社製)に68μl/cm2となるよう塗布し、乾燥させた。
【0178】
2)抗体固定化メンブレンの作製
PBSで8mg/mlとなるようPBW1とPBW2のMAb溶液を調製し、1:1の割合で混合したものをニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた。その後、1% スキムミルクを含む10mMリン酸バッファー(pH7.5)で37℃、1時間ブロッキング後、10mMリン酸バッファー(pH7.5)で洗浄し乾燥させた。
【0179】
3)イムノクロマトストリップの組立と評価
上記で作製したサンプルパッド、コンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドをそれぞれ貼り付け、イムノクロマトストリップとした。非検液としては、上記2.で調製したモデル食肉製品を適宜希釈して用いた。
【0180】
3−2 結果
メンブレン塗布MAb PBW1+PBW2、および金コロイド標識MAb PBW3の組合せにより、そばタンパク質は加熱、非加熱に係わらず50ppb(食品中2ppm)まで検出することができた。この結果から、製造工程中に混入したそばタンパクが対象となっても、加熱後の製品が対象となっても、いかなる場合にでも対応できるイムノクロマトストリップの設計が可能となった。
【0181】
市販のアレルゲン検出用イムノクロマトストリップでは、ブランクとして0.1M尿素+0.2%2−メルカプトエタノールを含むPBSを滴下したところ、非特異的なバンドが生じてしまい、擬陽性となってしまった。これでは、加熱などにより変性した食品タンパク中から効率よくアレルゲンを抽出するためのタンパク質変性剤を使用できず、アレルゲンとして検出できる対象が極めて狭い範囲に限られてしまう危険性が考えられた。
【実施例5】
【0182】
1.抗Ara h1MAbの確立
1−1 材料及び方法
1)Ara h1タンパク質の調製
市販生落花生に5倍量の20mM bis-tris-propane buffer(pH7.2)を加え、室温で2時間攪拌後3000×gで遠心分離を行い沈殿および油分を除去した。得られた水溶性画分を再度10000×gで遠心分離を行い上清を得た。上清をさらにSource Q(アマシャム ファルマシア)を用いて、20mMのbis-tris-propane buffer(pH7.2)、NaClのリニアグラジエント(0〜1M)により精製を行った。精製したAra h1画分を蒸留水による透析後、凍結乾燥を行い、未変性Ara h1(以下NAh1と記す)とした。また、変性Ara h1(以下DAh1と記す)はNAh1を10mg量り、尿素6g、2−メルカプトエタノール(以下2−MEと記す)0.2ml、50mMのTris−HCl緩衝液(pH 8.6)1ml、蒸留水1.5mlを加え、アルミフォイルで蓋をした後、100℃で1時間オイルバスで加熱、変性処理を行った。その後透析し、凍結乾燥を行った。これらの凍結乾燥を用い、生理食塩水で0.1%のDAh1溶液及び0.1%のDAh1溶液それぞれを作製し、1ml容エッペンドルフチューブに500μlずつ分注して抗原溶液とし、免疫に供するまで−20℃で凍結保管した。
【0183】
2)免疫
供試動物として、5週齢のBALB/cマウス(日本クレア株式会社製)5尾を用いた。初回免疫には、完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のNAh1溶液及び0.1%のDAh1溶液がそれぞれ500μl入ったエッペンドルフチューブに等量ずつ加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。また、追加免疫は、2週間の間隔で3回行った。免疫には、不完全フロイントアジュバント(Difco)を0.1%のNAh1溶液及び0.1%のDAh1溶液がそれぞれ500μl入ったエッペンドルフチューブに等量ずつ加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1尾当たり150μl腹腔内に注射した。
【0184】
3)血中抗体価の測定
初回あるいは追加免疫でNAh1溶液又はDAh1溶液を注射した1週間後に、各BALB/cマウスの尾部静脈より採血を行った。採血した血液は室温に2時間放置後、遠心分離を行い、血清を得た。これらの血清の10倍希釈段を作製し、非競合法ELISAによりマウス血中の抗NAh1抗体価及び抗DAh1抗体価を調べた。なお、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)抗体(Jackson ImmunoReserch Laboratories Inc.製)を用いた。
【0185】
4)ハイブリドーマの作製
ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、十分に抗体価が上がったマウスに、0.1%のNAh1溶液又は0.1%のDAh1溶液それぞれ100μlを尾部静脈より注射した。静脈注射から4日後、マウスより脾臓を無菌的に摘出した。脾臓を細切後、RPMI1640で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュ(Cell Strainer, 70 mm, Becton Dickinson)を通し、脾臓細胞懸濁液を得た。1,000rpm×10分の遠心分離により脾臓細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この脾臓細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を細胞数が10:1になるように混合し、再度1,000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3,350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加え希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×106cells/wellとなるように24ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に分注し、5%CO2下37℃で培養した。
【0186】
5)限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清について、ELISAの一次抗体として供試し、抗NAh1抗体又はDAh1抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISAによりNAh1又はDAh1に対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9 cell/wellとなるように96ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson)に移し、限界希釈法によるクローニングを行った。なお、フィーダー細胞として、4週齢BALB/cマウス胸腺細胞を5×106cells/wellとなるように96ウェル細胞培養用プレートの各ウェルに加えた。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40mMの2−メルカプトエタノール、100U/mlのペニシリン、100g/mlのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0187】
6)抗体のスクリーニング
モノクローナル抗体のスクリーニングは、NAh1、DAh1、あるいは落花生粗タンパク質の未変性物(以下NP−eと記す)、尿素処理(以下DP−eと記す)の4種類に対する反応性の違いを調べることで特異性の異なるクローンを得ることとした。なお、NP−eは落花生に5倍量の20mMbis-tris-propane buffer(pH7.2)を加え、室温で2時間攪拌後遠心分離を2回行い得られた上清を透析した後、凍結乾燥したものとした。また、DP−eはNP−eを10mg量り、尿素6g、2−ME0.2ml、50mMのTris−HCl緩衝液(pH8.6)1ml、蒸留水1.5mlを加え、アルミフォイルで蓋をした後、100℃で1時間オイルバスで加熱、変性処理を行ったものとした。培養上清のNAh1、NP−e、DAh1あるいはDP−eに対する反応性を非競合法ELISAにて調べた。
【0188】
7)腹水の採取及びMAbの精製
Jonesら(1990)に従い、まず、BALB/cマウスに不完全フロイントアジュバントを0.2ml腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×106cellsのクローニングされたハイブリドーマを接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採種した腹水をProtein G カラム(アマシャム ファルマシア)により精製した。
【0189】
8)MAbの特性とMAbのクラス、サブクラス及びタイプ
抗NAh1MAb又は抗DAh1MAbの特性を決定するために、固相法を用いた。固相法として、NAh1、DAh1、NP−e又はDP−eをあらかじめ細胞培養用プレートのウェル内に固定し、この固定化された抗原に抗NAh1MAb又はDAh1MAbを作用させる方法を用いた。また、MAbのクラス及びサブクラスについては、Monoclonal mouse immunoglobulin isotyping kit(Pharmingen)により、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgM、IgA、IgL(κ)及びIgL(γ)を決定した。
【0190】
9)MAbのビオチン化
精製したMAbについて、サンドイッチELISAに供試するため、それぞれビオチン化処理を行った。50mMの炭酸緩衝液(pH8.5)を用いて20mg/mlとなるよう調製し、DMSOに3mg/100μlで溶解したNHS−ビオチン溶液を10μl加え、撹拌後、氷冷しながら2時間静置した。その後、20mg/mlとなるようにPBSで置換した。
【0191】
1−2 結果
1)抗NAh1MAbとDAh1MAbの特性とクラス、サブクラス
NAh1に対する特異性を持つMAb7種類、及び、DAh1に対する特異性を持つMAb3種類を得た。それぞれ固相の抗原に対する特異性を表20及び表21に示した。
【0192】
【表20】
【0193】
【表21】
【0194】
2)組合せ条件
固相の抗原に対し陽性反応を示した各MAbをそれぞれ固相あるいはビオチン化抗体として、NP−eおよびDP−eを検出するためのMAbの組合せを、サンドイッチELISAにおける検出感度の点から選出した。その結果、NP−eを検出できる組合せとして、プレート抗体にPAh1−2(FERM ABP−10270)とビオチン抗体にPAh1−1(FERM ABP−10269)、また、DP−eを検出できる組合せとしてプレート抗体にPAh1−2とビオチン抗体にPAh1−3(FERM ABP−10271)の組合せを選択した(図19と図20)。
3)MAb混合系でのNP−e、DP−eの検出
固相にPAh1−2(細胞寄託番号)、ビオチン化にPAh1−1(細胞寄託番号)およびPAh1−3(細胞寄託番号)を混合し、NP−e、DP−eの検出感度を確認した。それぞれのMAb濃度は50μg/mlに設定した。その結果、MAb混合系でNP−e、DP−eともに検出することが可能であった(図21と図22)。
2.サンドイッチELISAによる食品中の落花生粗タンパク質の検出
上記1.で選択されたPAh1−1、PAh1−2およびPAh1−3の組合せにより、実際の食品中の落花生粗タンパク質を検出できるかを試みた。
【0195】
2−1 材料及び方法
1)モデル食肉製品の作製
定量試験のためのモデル食品として食肉製品を選択し、表22に示す配合にて各濃度の落花生粗タンパク質を含むモデル食肉製品を作製した。豚赤肉は、豚ロース肉より脂、スジを除去し、5mmで挽肉にしたものを使用した。各配合に従い添加物を計量し、フードプロセッサーにて混合後、塩ビチューブに充填を行い、75℃で30分の加熱を行った。
【0196】
【表22】
【0197】
2)サンドイッチELISAによる定量分析
(モデル塩漬肉)
各モデル塩漬肉を、フードプロセッサーにて均一になるまで磨砕し、分析用サンプルとした。サンプル1gを量り取り、PBST19gを加えホモジナイザーにて30秒攪拌した。3000rpm×20分の遠心分離を行い、上清をろ紙でろ過したものを0.5ml測り取り、PBSTを9.5ml加え、ELISA用サンプルとした。検量線には同様にPBSTに溶解した落花生粗タンパク質の段階希釈を用いた。
(モデル加熱製品)
各モデル加熱製品を、フードプロセッサーにて均一になるまで磨砕し、分析用サンプルとした。サンプル1gを量り取り、1M尿素および0.1%2−MEを含むPBS 19gを加えホモジナイザーにて30秒攪拌した。その後、100℃で1時間加熱処理を行った。冷却後3000rpm×20分の遠心分離を行い、上清をろ紙でろ過したものを0.5ml測り取りPBSTを9.5ml加え、ELISA用サンプルとした。検量線には同様に1M尿素および0.1% 2−ME処理を行った落花生粗タンパク質の段階希釈を用いた。また、分析用サンプルからPBSTを用いて抽出し、PBSTに溶解した落花生粗タンパク質を検量線とした尿素および2−MEを用いない場合との比較を行った。
【0198】
2−2 結果
サンドイッチELISAによるモデル食肉製品中の落花生粗タンパク質の分析について、モデル塩漬肉の結果を表23に、モデル加熱製品の結果を表24に、また、PBSTのみで抽出した結果を表25に示す。
【0199】
【表23】
【0200】
【表24】
【0201】
【表25】
【0202】
以上の結果から、モデル塩漬肉のように未加熱の落花生粗タンパク質でも、モデル加熱製品のような加熱変性した落花生粗タンパク質でも、高い回収率で落花生粗タンパク質を検出可能であった。これらのことから、未変性タンパク質に結合可能なMAbと変性タンパク質に結合可能なMAbを組み合わせることにより、未加熱(未変性)、加熱(変性)のいかなる状態の落花生タンパク質でも、高感度で分析できることがわかった。また、食品中からの落花生粗タンパク質の抽出には尿素および2−MEを用いることが有効であり、尿素で変性させたAh1に結合可能であることが必要であることが明らかとなった。
【0203】
3.イムノクロマトによる未変性および変性落花生粗タンパク質の検出
3−1 材料及び方法
1)金コロイド標識及びコンジュゲートパッドの作製
2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で1mg/mlとなるようにPAh1−1とPAh1−3のMAb溶液を調製した。あらかじめ0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液(シグマ社製)5mlにMAb溶液を500ml加え、室温で30分間反応した後、10%BSA溶液625μlを加え、さらに15分間反応させた。遠心分離を行い、1% BSA溶液でOD525=2.0になるよう調製し、1:1の割合で混合した。ガラスウール製コンジュゲートパッドに68μl/cm2となるよう塗布し、乾燥させた。
【0204】
2)抗体固定化メンブレンの作製
PBSで4mg/mlとなるようPAh1−2のMAb溶液を調製し、ニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた。その後、1%スキムミルクを含む10mMリン酸バッファー(pH7.5)で37℃、1時間ブロッキング後、10mMリン酸バッファー(pH7.5)で洗浄し乾燥させた。
【0205】
3)イムノクロマトストリップの組立と評価
上記で作製したサンプルパッド、コンジュゲートパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドをそれぞれ貼り付け、イムノクロマトストリップとした。非検液としては、上記2.で調製したモデル食肉製品を適宜希釈して用いた。
【0206】
3−2 結果
メンブレン塗布MAb PAh1−2、および金コロイド標識MAb PAh1−1とPAh1−3 の組合せにより、落花生粗タンパク質は加熱、非加熱に係わらず50ppb(食品中2ppm)まで検出することができた。この結果から、製造工程中に混入した落花生タンパク質が対象となっても、加熱後の製品が対象となっても、いかなる場合にでも対応できるイムノクロマトストリップの設計が可能となった。
【0207】
市販のアレルゲン検出用イムノクロマトストリップでは、ブランクとして0.01M尿素、0.2%2−MEを含むPBSを滴下したところ、非特異的なバンドが生じてしまい、擬陽性となってしまった。これでは、加熱などにより変性した食品タンパク中から効率よくアレルゲンを抽出するためのタンパク質変性剤を使用できず、アレルゲンとして検出できる対象が極めて狭い範囲に限られてしまう危険性が考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0208】
本発明によると、食品等に含まれる乳アレルゲン、卵白アレルゲン、小麦アレルゲン、そばアレルゲン、落花生アレルゲンについての免疫学的な検出方法において、これらアレルゲンが、変性/未変性のいかなる状態にあっても正確に定性かつ定量的に検出することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元カルボキシメチル化オボアルブミンを認識し、かつ、それぞれ異なるエピトープを認識する2種の抗オボアルブミンモノクローナル抗体を用いることを特徴とする卵白アレルゲンの検出方法。
【請求項2】
還元カルボキシメチル化オボアルブミンを認識する抗オボアルブミンモノクローナル抗体が、ハイブリドーマ(FERM BP−10275)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA1及び/又はハイブリドーマ(FERM BP−10276)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA2であることを特徴とする請求項1記載の卵白アレルゲンの検出方法。
【請求項3】
さらに、未変性オボアルブミンを認識し、かつ、それぞれ異なるエピトープを認識する2種の抗オボアルブミンモノクローナル抗体を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の卵白アレルゲンの検出方法。
【請求項4】
未変性オボアルブミンを認識する抗オボアルブミンモノクローナル抗体が、ハイブリドーマ(FERM BP−10265)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA1及び/又はハイブリドーマ(FERM BP−10266)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA2であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の卵白アレルゲンの検出方法。
【請求項5】
サンドイッチELISAにより、食品中のオボアルブミンを、1.0〜10.0ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析しうることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の卵白アレルゲンの検出方法。
【請求項6】
還元カルボキシメチル化オボアルブミンを認識し、かつ、それぞれ異なるエピトープを認識する2種の抗オボアルブミンモノクローナル抗体を備えたことを特徴とする卵白アレルゲン検出用キット。
【請求項7】
還元カルボキシメチル化オボアルブミンを認識する抗オボアルブミンモノクローナル抗体が、ハイブリドーマ(FERM BP−10275)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA1及び/又はハイブリドーマ(FERM BP−10276)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA2であることを特徴とする請求項6記載の卵白アレルゲン検出用キット。
【請求項8】
さらに、未変性オボアルブミンを認識し、かつ、それぞれ異なるエピトープを認識する2種の抗オボアルブミンモノクローナル抗体を備えたことを特徴とする請求項6又は7記載の卵白アレルゲン検出用キット。
【請求項9】
未変性オボアルブミンを認識する抗オボアルブミンモノクローナル抗体が、ハイブリドーマ(FERM BP−10265)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA1及び/又はハイブリドーマ(FERM BP−10266)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA2であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか記載の卵白アレルゲン検出用キット。
【請求項10】
異なるエピトープを認識する2種のモノクローナル抗体の少なくとも一つが、イムノクロマト用に用いられる金コロイドで標識されたモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか記載の卵白アレルゲン検出用キット。
【請求項11】
ハイブリドーマ(FERM BP−10265)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA1。
【請求項12】
ハイブリドーマ(FERM BP−10266)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA2。
【請求項13】
ハイブリドーマ(FERM BP−10275)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA1。
【請求項14】
ハイブリドーマ(FERM BP−10276)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA2。
【請求項1】
還元カルボキシメチル化オボアルブミンを認識し、かつ、それぞれ異なるエピトープを認識する2種の抗オボアルブミンモノクローナル抗体を用いることを特徴とする卵白アレルゲンの検出方法。
【請求項2】
還元カルボキシメチル化オボアルブミンを認識する抗オボアルブミンモノクローナル抗体が、ハイブリドーマ(FERM BP−10275)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA1及び/又はハイブリドーマ(FERM BP−10276)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA2であることを特徴とする請求項1記載の卵白アレルゲンの検出方法。
【請求項3】
さらに、未変性オボアルブミンを認識し、かつ、それぞれ異なるエピトープを認識する2種の抗オボアルブミンモノクローナル抗体を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の卵白アレルゲンの検出方法。
【請求項4】
未変性オボアルブミンを認識する抗オボアルブミンモノクローナル抗体が、ハイブリドーマ(FERM BP−10265)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA1及び/又はハイブリドーマ(FERM BP−10266)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA2であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の卵白アレルゲンの検出方法。
【請求項5】
サンドイッチELISAにより、食品中のオボアルブミンを、1.0〜10.0ppbの濃度範囲においても定性的かつ定量的に分析しうることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の卵白アレルゲンの検出方法。
【請求項6】
還元カルボキシメチル化オボアルブミンを認識し、かつ、それぞれ異なるエピトープを認識する2種の抗オボアルブミンモノクローナル抗体を備えたことを特徴とする卵白アレルゲン検出用キット。
【請求項7】
還元カルボキシメチル化オボアルブミンを認識する抗オボアルブミンモノクローナル抗体が、ハイブリドーマ(FERM BP−10275)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA1及び/又はハイブリドーマ(FERM BP−10276)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA2であることを特徴とする請求項6記載の卵白アレルゲン検出用キット。
【請求項8】
さらに、未変性オボアルブミンを認識し、かつ、それぞれ異なるエピトープを認識する2種の抗オボアルブミンモノクローナル抗体を備えたことを特徴とする請求項6又は7記載の卵白アレルゲン検出用キット。
【請求項9】
未変性オボアルブミンを認識する抗オボアルブミンモノクローナル抗体が、ハイブリドーマ(FERM BP−10265)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA1及び/又はハイブリドーマ(FERM BP−10266)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA2であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか記載の卵白アレルゲン検出用キット。
【請求項10】
異なるエピトープを認識する2種のモノクローナル抗体の少なくとも一つが、イムノクロマト用に用いられる金コロイドで標識されたモノクローナル抗体であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか記載の卵白アレルゲン検出用キット。
【請求項11】
ハイブリドーマ(FERM BP−10265)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA1。
【請求項12】
ハイブリドーマ(FERM BP−10266)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PNOA2。
【請求項13】
ハイブリドーマ(FERM BP−10275)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA1。
【請求項14】
ハイブリドーマ(FERM BP−10276)が産生する抗オボアルブミンモノクローナル抗体PDOA2。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2009−244276(P2009−244276A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170621(P2009−170621)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【分割の表示】特願2006−510755(P2006−510755)の分割
【原出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000113067)プリマハム株式会社 (72)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【分割の表示】特願2006−510755(P2006−510755)の分割
【原出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000113067)プリマハム株式会社 (72)
【Fターム(参考)】
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