説明

卵黄淡色化剤

【課題】 ホップ抽出物の新たな用途を提供すること。
【解決手段】 本発明は、ホップ組織又はその冷水抽出物からなる卵黄淡色化剤を提供する。この卵黄淡色化剤を鶏に与えると、卵黄色は赤みが減少し、薄い黄色を呈するようになる。本発明はまた、この卵黄淡色化剤を含有する飼料添加剤を提供する。この飼料添加剤は、産卵家禽の飼育に好ましく使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵黄淡色化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ホップはビールなどの発泡性アルコール飲料製造に欠かせない原料であり、ビールなどに苦味や香りを与え、泡立ち・泡持ちを向上させるとともに、清澄性を高め、雑菌の繁殖も抑制すると言われている。また、ホップは健胃、消化促進等の薬理作用があり、従来、薬用植物としても利用されてきた。
【0003】
近年、このようなホップの有用性に着目して、その抽出物をビール以外の用途に適用する試みがなされている。例えば、ホップ抽出物を有効成分とする耐熱性好酸性菌増殖抑制剤(特許文献1)、ホップ抽出物を有効成分とする米加工食品用香味改良剤(特許文献2)、ホップ抽出物を含有する入浴剤(特許文献3)、活性酸素消去作用を有するホップ抽出物(特許文献4)等の用途が提案されている。
【0004】
また、ホップ苞抽出物を有効成分として含有する中性脂肪低減剤(特許文献5)やホップ苞抽出物を有効成分として含有するコレステロール代謝制御剤(特許文献6)が知られており、所定のホップ組織の冷水抽出物は抗アレルギー作用を有する(特許文献7及び8)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−137241号公報
【特許文献2】特開2005−269988号公報
【特許文献3】特開平9−067245号公報
【特許文献4】特開平4−202138号公報
【特許文献5】特開2006−111609号公報
【特許文献6】特開2006−151945号公報
【特許文献7】国際公開2006−093194号パンフレット
【特許文献8】国際公開2006−093202号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、ホップ由来の成分で各種機能を発現させる試みがなされているが、天然物であり人体に適用した場合に安全なホップについて、新たな機能を見出すことが期待されている。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ホップの新たな用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ホップ組織又はその冷水抽出物からなる卵黄淡色化剤を提供する。ここで、卵黄淡色化剤とは、経口摂取させることにより卵の卵黄部分の色を薄くする機能を有する剤を意味する。例えば、本発明の卵黄淡色化剤を鶏に与えると、卵黄色は赤みが減少し、薄い黄色を呈するようになる。なお、産卵性については変化が見られない。このような色彩の卵を食品等に用いると、卵の黄色が目立たず卵以外の素材の色を引き出した食品を得ることが可能になる。
【0009】
ホップ組織の冷水抽出物は、アストラガリン、アストラガリンマロニルグルコシド、イソケルシトリン、イソケルシトリンマロニルグルコシド、ケルセチンマロニルグルコシド、ケンフェロールルチノシド、ケンフェロールマロニルグルコシド、ルチン及びフロロアシルフェノン配糖体からなる群より選ばれるフラボノイド配糖体の少なくとも1種を含有することが好ましく、また、上記フロロアシルフェノン配糖体は、フロロイソブチロフェノン−2−O−β−D−グルコピラノシド、フロロ−2−メチルブチロフェノン−2−O−β−D−グルコピラノシド及びフロロイソバレロフェノン−2−O−β−D−グルコピラノシドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0010】
ホップ組織の冷水抽出物が上記フラボノイド配糖体を含有することで、卵黄淡色化の効果がより顕著に発揮される。
【0011】
ホップ組織としては、ホップの茎、葉、球花又はこれらの乾燥粉砕物を用いることができる。これらの組織から、上記フラボノイド配糖体をより確実に得ることができるため、淡色化効果の高い卵黄淡色化剤を効率的に得ることができる。
【0012】
ホップ組織は、乾燥ホップ苞の粉砕物、又は、乾燥ホップ球花の粉砕物から、ルプリンの大きさ以下の粉砕物の少なくとも一部を除いて得られたものであることが特に好ましい。ホップ球花にはホップ苞及びルプリン(油滴状の黄色顆粒)が含まれ、ルプリンにはビールの苦味のもととなる樹脂や香りの成分である精油が含まれるため、ビールなどの製造においてホップ球花の粉砕物からルプリンを多く含む部分を篩い分けて使用し、残りの主に乾燥ホップ苞からなる粉砕物を廃棄してしまうことが多い。
【0013】
したがって、乾燥ホップ苞の粉砕物、又は、乾燥ホップ球花の粉砕物からルプリンの少なくとも一部を取り除いて得られたホップ組織を原料とすることで、卵黄淡色化作用を有するホップ組織の冷水抽出物を効率よく得ることが可能となると共に、産業廃棄物の新たな利用法が提供される。
【0014】
乾燥ホップ球花の粉砕物としては、乾燥ホップ球花の凍結物の粉砕物を適用できる。ビール製造には生のホップ球花を使用する場合もあるが、流通及び保存の利便性の観点から乾燥ホップ球花を凍結させることも多い。そのため、ホップ球花の凍結乾燥物の粉砕物を原料とすれば、より簡単かつ大量に原料を入手することで、卵黄淡色化作用を有する冷水抽出物を効率よく得ることが可能となる。
【0015】
ホップ組織としては、ホップ球花から有機溶媒抽出又は超臨界流体抽出によって抽出される物質の少なくとも一部を、当該ホップ球花から除いて得られたホップ残渣を用いることもできる。ビール製造において、ホップ球花から有機溶媒抽出又は超臨界流体抽出により抽出されるホップエキスだけ使用し、残りの残渣を廃棄してしまう場合がある。この場合、抽出される物質は主にルプリンに含まれる樹脂や精油であり、乾燥ホップ球花中の水可溶性成分は殆ど抽出されずに残渣に残ることとなる。したがって、上記ホップ残渣を原料とすることで、卵黄淡色化作用を有する冷水抽出物を効率よく得ることが可能となる。また、産業廃棄物に新たな用途を提供することになる。
【0016】
本発明の卵黄淡色化剤を飼料添加剤に含有させることで、卵黄を淡色化させる機能を有する飼料を得ることができる。
【0017】
なお、ホップ組織又はその冷水抽出物は卵黄淡色化剤として機能するのみならず、卵のハウユニット向上剤としても機能する。すなわち、ホップ組織又はその冷水抽出物を添加した飼料を用いて鶏を飼育すると、産卵性が変わらないにもかかわらず、鶏卵のハウユニット値が高くなり、卵の品質が向上する。例えば、産卵直後のハウユニット値が75以上(好ましくは80以上、更には85以上)の卵を得ることができ、貯卵28日までのハウユニット値を60以上(好ましくは65以上、更には70以上)に維持することができる。
【発明の効果】
【0018】
ホップ組織又はその抽出物の、卵黄淡色化剤又は卵のハウユニット向上剤としての用途が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の卵黄淡色化剤の好適な実施形態について説明する。
【0020】
本発明の卵の卵黄淡色化剤は、経口摂取により卵黄の色彩を淡色にする機能を有するものである。特に卵黄の赤みを低減させた卵(例えば、色差計を用いて卵色を測定した場合、特にa値が低減された卵)を得ることができるようになる。卵黄が淡色化された卵は、例えば、食品等に用いることができ、卵に由来する着色(黄色化)を抑制して、卵以外の素材の色を引き立たせることが可能になる。
【0021】
卵黄淡色化剤の原料となるホップとしては、あらゆる品種のホップを適用できる。しかしながら、得られる抽出成分の卵黄淡色化効果が高いこと、また一般的に入手しやすいことから、チェコ産ザーツ種、ドイツ産ハラタウ・トラディション種、国産フラノ18号、中国産等のビール醸造用ホップ品種が好ましく、チェコ産ザーツ種が、ホップとして特に好ましい。
【0022】
本発明におけるホップ組織とは、ホップの組織のいずれか又はその一部を意味する。冷水抽出に用いるホップ組織は、茎、葉又は球花であってもよく、球花が好ましく、ホップ苞がより好ましい。また、これらの組織の乾燥粉砕物も好ましく使用される。乾燥粉砕物又は乾燥組織の粉砕物とは、例えば、ホップ組織を乾燥及び粉砕の2つの工程によって処理して得ることのできるものであるが、2つの工程の順番は特に限定されない。なお、乾燥及び粉砕の工程については後述の通りである。
【0023】
本発明において使用されるホップ組織は、乾燥ホップ苞の粉砕物、又は、乾燥ホップ球花の粉砕物からルプリンの大きさ以下の粉砕物の少なくとも一部が除かれたものであることがより好ましい。ホップ苞は、ホップ球花を構成する苞葉のことであり、球花からルプリン(油滴状の黄色顆粒)の少なくとも一部を取り除いて得ることができる。ビール等発泡性アルコール飲料の製造に用いるホップペレットを加工する際に、ホップ球花からルプリンを多く含む部分を篩い分けて使用するため、規定の大きさ(およそルプリンの大きさ)に粉砕されずに残ったホップ苞は廃棄されてしまう。このため、乾燥ホップ苞の粉砕物、又は乾燥ホップ球花の粉砕物から、ルプリンの大きさ以下の粉砕物の少なくとも一部が除かれたものを原料とすることは、産業廃棄物の新たな利用法を提供するものとなる。特に、ホップペレットを加工する際に規定の大きさ(およそルプリンの大きさ)に粉砕されずに残ったホップ苞が好ましく使用される。
【0024】
上記のようなホップ組織は、例えば、ホップ球花を乾燥して乾燥ホップ球花を得る乾燥工程と、乾燥ホップ球花を粉砕して乾燥ホップ球花の粉砕物を得る粉砕工程と、この粉砕物からルプリンの大きさ以下の粉砕物を取り除く選別工程と、を備える製造方法により得られる。乾燥工程では、ホップ球花を100℃以下の温度で乾燥させ、ホップ球花を保存可能な程度にまで水分を除去すればよいが、55℃以下の温度で水分含量を7〜9%まで乾燥することが好ましい。粉砕工程では、ホップ球花を効率的に微粉状に粉砕すればよく、粉砕には、例えば、ピンミル、ハンマーミル、ボールミル等の粉砕機を用いることができる。選別工程では、粉砕物をふるいにかけ、例えば、長径が0.1mm以上の粉砕物を「ルプリンを超える大きさ」のものとして選別することができる。この場合において、ふるいを通過させない大きさを長径0.3mm以上とすることが好ましく、長径0.5mm以上とすることがより好ましい。乾燥ホップ球花の粉砕物からルプリンの大きさ以下の粉砕物を取り除くには、例えば、目開き0.1、0.3又は0.5mmのふるいで乾燥ホップ球花の粉砕物をふるい分け、ふるいを通過しなかった粉砕物を回収すればよい。
【0025】
また、ホップ組織として用いる乾燥ホップ球花の粉砕物は、乾燥ホップ球花の凍結物の粉砕物であることが好ましい。乾燥ホップ球花の凍結物の粉砕物は、ホップ球花を乾燥、凍結、粉砕の3つの工程によって処理し得ることができるものであるが、これらの3工程の順番は特に限定されない。乾燥及び粉砕工程は上記の通りであり、凍結工程の方法は特に制限されないが、凍結温度が−10℃以下であることが好ましく、−35℃以下であることがより好ましい。
【0026】
ホップ組織としては、ホップ球花から有機溶媒抽出又は超臨界流体抽出によって抽出される物質の少なくとも一部を、当該ホップ球花から除いて得られたホップ残渣を用いてもよい。このようなホップ残渣は、ビール等の製造に用いられずこれまで殆ど廃棄されてしまっていた。このような産業廃棄物だったホップ残渣を原料とすることで、産業廃棄物の新たな用途を提供することができる。有機溶媒抽出に用いる有機溶媒としては、例えば、アルコール又はヘキサンが挙げられ、炭素数1〜4の低級アルコールが好ましく、エタノールがより好ましい。超臨界流体抽出に用いる超臨界流体としては、例えば、二酸化炭素、水、メタン、エタン、エチレン、プロパン、ペンタン、メタノール、エタノールが挙げられ、二酸化炭素が好ましい。
【0027】
本発明において使用されるホップ組織は、発泡性アルコール飲料製造後のホップ残渣(発泡性アルコール飲料の製造のために組織や成分の一部が除去されたホップをいう。但し、冷水抽出後の残渣を除く。)であってもよい。
【0028】
ここで、発泡性アルコール飲料とは、ビール、発泡酒又は発泡性雑酒をいう。ビールとは、麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたもの又は麦芽、ホップ、水及び麦その他の政令で定める物品(麦、米、とうもろこし、こうりゃん、ばれいしょ、でんぷん、糖類、又は財務省で定める苦味料若しくは着色料)を原料として発酵させたものであって、麦芽使用率が2/3以上であるのものをいい、発泡酒とは、麦芽又は麦を原料の一部とした酒類で発泡性を有する雑酒であって、麦芽使用率が2/3未満であるのものをいい、雑酒とは、原料に麦芽を使用せずに、ビールと同様の製造方法で得られるアルコール飲料であり、例えば、麦芽の代わりにエンドウタンパクを原料としたアルコール飲料などが挙げられる。
【0029】
本発明におけるホップ組織の冷水抽出物は、ホップ組織を冷水で抽出する工程を備える製造方法により得られる。ここで「冷水」とは室温以下の水を意味し、通常、0℃超50℃以下の水のことをいう。冷水の温度は、0℃超40℃以下が好ましく、10℃以上30℃以下がより好ましく、20±5℃(さらには20±3℃)が特に好ましい。このような温度の冷水を用いることによって、抽出が効率的になり、抽出物収量が多くなる。0℃以下の冷水を用いると、冷却コストが増大してしまい、50℃超の水を用いると、本発明の効果以外の効果を奏する成分までもが溶出されてしまう傾向がある。なお、抽出時間を短縮するためには、水に少量のアルコール、好ましくはエタノールを、10質量%以下添加することができる。
【0030】
ホップ組織を冷水で抽出する方法としては、植物から天然物を水抽出する方法が採用でき、例えば、ホップ組織と一定量の冷水とを容器に入れ、適宜撹拌しながら所定時間静置し、抽出液を濾過して残渣を取り除く方法が挙げられる。混入する残渣や不純物等を完全に取り除くためには、濾過した抽出液をさらに遠心分離すればよく、その上澄み(遠心上澄み)を冷水抽出物として使用できる。なお、得られた冷水抽出物は、濃縮し、乾燥して使用することもできる。
【0031】
ホップ組織の冷水抽出物は、精製されたものであってもよい。例えば、合成吸着剤を充填したカラムに通して、精製することができる。合成吸着剤としては、例えば、Amberlite XAD−4、7及び16(オルガノ社)、活性炭、ポリビニルポリピロリドン(PVPP;ポリフェノール吸着剤)が挙げられ、この中でもAmberlite XAD−4が好ましく用いられる。具体的には、ホップ組織の冷水抽出物を、合成吸着剤を充填したカラムに通し、その吸着成分を、例えば、水及びメタノールの混合溶媒で溶出させ、溶出した画分を使用できる。
【0032】
ホップ組織の冷水抽出物は、典型的には、アストラガリン、アストラガリンマロニルグルコシド、イソケルシトリン、イソケルシトリンマロニルグルコシド、ケルセチンマロニルグルコシド、ケンフェロールルチノシド、ケンフェロールマロニルグルコシド、ルチン及びフロロアシルフェノン配糖体からなる群より選ばれるフラボノイド配糖体の少なくとも1種を含有する。
【0033】
ここで、フロロアシルフェノン配糖体は、下記一般式(1)で表すことができる。
【化1】



[式(1)中、Rはイソプロピル基、イソブチル基又はsec−ブチル基を示す。]
【0034】
式(1)において、Rがイソプロピル基である場合は、フロロアシルフェノン配糖体は下記式(2)で表されるフロロイソブチロフェノン−2−O−β−D−グルコピラノシドであり、Rがイソブチル基である場合は、フロロアシルフェノン配糖体は下記式(3)で表されるフロロ−2−メチルブチロフェノン−2−O−β−D−グルコピラノシドであり、Rがsec−ブチル基である場合は、フロロアシルフェノン配糖体は下記式(4)で表されるフロロイソバレロフェノン−2−O−β−D−グルコピラノシドである。
【0035】
【化2】



【0036】
本発明の飼料添加剤は、上述した卵黄淡色化剤を有効成分として含有し、卵黄の色彩を淡色化させる機能を有するものである。この飼料添加剤を飼料に添加することにより、飼育対象の産卵性に影響を与えることなく、卵黄を淡色化させることができる。本発明の飼料添加剤は、産卵家禽の飼育に好ましく使用される。家禽としては、鶏、鴨、ガチョウ、ダチョウ、鶉などが挙げられる。卵黄淡色化剤は、産卵家禽の産卵期に使用することが効果的であり、特に産卵後期において好ましく使用される。
【0037】
飼料添加剤における卵黄淡色化剤の配合量は、飼料添加剤の全質量基準で0.001〜100質量%がよく、0.001〜50質量%が好ましく、0.01〜30質量%がより好ましく、0.1〜20質量%が更に好ましく、0.5〜10質量%が特に好ましい。また、飼料添加剤は、本発明の卵黄淡色化剤の他、浸潤剤、油性成分、保湿剤、粉体、色素、乳化剤、分散助剤、可溶化剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬剤、香料、樹脂、賦形剤、防菌防黴剤、消臭・脱臭剤、酵素、精製水、アルコールを含有していてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
(製造例1)
ホップ(チェコ産ザーツ種)のタイプ90ペレット100kgを蒸留水1000Lに入れ、20℃にて適宜撹拌しながらペレットを消失させて一晩静置した。これを、15分間遠心分離した(コクサン社製)。遠心分離後、上澄みを回収し、それをさらに濃縮して、15kgの濃縮液(以下「冷水抽出物A」という)を得た。
【0040】
得られた冷水抽出物Aの一部を分液ロートに移し、ヘキサンを加えヘキサン移行成分を廃棄した。さらに、水層に酢酸エチルを加え、酢酸エチル移行成分を廃棄した。最後に水層にn−ブタノールを加えブタノール抽出操作を3回繰り返して得たブタノール層を合併し、減圧濃縮してフラボノール画分(ホップ組織の冷水抽出物から分離されたフラボノイド配糖体)を得た。
【0041】
得たフラボノール画分を、まず、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。HPLCによる分析は、C18カラム(Waters Symmetry)を40℃にて使用し、流速を0.2mL/分とした。移動相は、0.05%TFA/H2Oを1液とし、アセトニトリルを2液とし、2液の割合を10%〜50%まで16分間で変化させるリニアグラジェントとした。検出は350nmのUV検出器で行った。
【0042】
さらに、上記フラボノール画分の各ピークを分取用HPLCで分離し、各ピークの成分を同定した。HPLCによる分取用分離は、C18カラム(Waters SunFire)を40℃にて使用し、流速を6mL/分とした。移動相は、10%MeCNを10分間保持し、さらに150分間かけて60%MeCNまで変化させるリニアグラジェントとした。検出は350nmのUV検出器で行った。HPLCの分析結果を図1に示した。
【0043】
図1に示すように、ホップペレット抽出物のフラボノール画分には主要ピークが3つ存在し、これらはケンフェロール配糖体(アストラガリン及びケンフェロールマロニルグルコシド)とケルセチンマロニルグルコシドであることが同定された。詳しくは、図1の1で示すピークはケンフェロールマロニルグルコシド、2で示すピークはアストラガリン、3で示すピークはケルセチンマロニルグルコシドであった。なお、図1の4で示すピークはルチン、5で示すピークはイソケルシトリン、6で示すピークはケンフェロールルチノシドであった。
【0044】
得られた冷水抽出物A10kgとデキストリン2kgとを混合し、その混合物をスプレードライヤーで粉化し、乾燥物A4kgを得た。
【0045】
(卵黄色)
ホップ残渣又は乾燥物Aを添加したことによる卵黄色に及ぼす影響を以下の指標によって評価し、その結果を表1に示した。なお、表1に示す数値は、鶏卵24個の平均値である。
卵黄色(1):1〜15の数字で表したロッシュヨークカラーファンを用いて目視判定によってカラーファン値を判定した。
卵黄色(2):色差計(ミノルタ社製CM−508d)を用いて、L値、a値、b値を測定した。
【0046】
【表1】



【0047】
表1から、卵黄色は、カラーファンの値では対照区よりホップ残渣及び乾燥物Aを添加した区で有意に低下することが認められた。色差計のデータで見ると、L値は各区とも差が見られないが、a値は乾燥物Aの添加量が増加するにつれて有意に低下した。
【0048】
さらに、卵黄中の色素含有量を測定し、その結果を表2に示した。なお、表2に示す数値は、鶏卵10個の平均値である。表2から、各色素含有量は大きな差がなかった。評価対象でない赤味に関与する色素含有量がa値の低下原因であると考えられる。
【0049】
【表2】



【0050】
(鶏卵の性質)
ホップ残渣又は乾燥物Aを添加したことによる鶏卵の性質に及ぼす影響を、以下の指標によって評価し、その結果を表3に示した。なお、表3に示す数値は、鶏卵24個の平均値である。また、ハウユニットは産卵後1日の鶏卵を使用した。
卵殻強度(kgf/cm):鋭端を下向きに固定し上部より圧を加え、卵殻に亀裂が生じた際の圧力であり、FHK製卵殻強度計によって測定した。
卵殻厚(1/100mm):卵殻膜を取り除いた卵殻赤道部の厚みであり、FHK製卵殻厚測定器によって測定した。
ハウユニット:水平なガラス平板上で割卵した卵の濃厚卵白中央部の高さと卵重から下記の算式によって求めた。
ハウユニット=100×log(H−1.7W0.37+7.6)
[式中、Hは卵重(g)であり、Wは濃厚卵白高(mm)である]
単位面積当たりの卵殻重量(mg/cm)=乾燥後の卵殻重量(mg)/卵重より算出した表面積(cm
【0051】
【表3】



【0052】
表3に示すように、卵殻強度、卵殻厚、単位面積当たりの卵殻重量は対照区と各試験区との間に大きな差異はなかったが、ハウユニットは試験区3が対照区より有意に高い値を示した。
【0053】
(鶏卵の一般成分)
ホップ残渣又は乾燥物Aを添加したことによる鶏卵の一般成分に及ぼす影響を評価し、その結果を表4に示した。なお、表4に示す数値は、鶏卵10個の平均値である。表4から、各項目に差は見られず、乾燥物Aの添加が鶏卵の一般成分に及ぼす影響はみられなかった。
【0054】
【表4】



【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】ホップペレット(チェコ産ザーツ種)から水抽出したフラボノール画分のHPLCチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホップ組織又はその冷水抽出物からなる卵黄淡色化剤。
【請求項2】
前記冷水抽出物は、アストラガリン、アストラガリンマロニルグルコシド、イソケルシトリン、イソケルシトリンマロニルグルコシド、ケルセチンマロニルグルコシド、ケンフェロールルチノシド、ケンフェロールマロニルグルコシド、ルチン及びフロロアシルフェノン配糖体からなる群より選ばれるフラボノイド配糖体の少なくとも1種を含有する、請求項1記載の卵黄淡色化剤。
【請求項3】
前記フロロアシルフェノン配糖体は、フロロイソブチロフェノン−2−O−β−D−グルコピラノシド、フロロ−2−メチルブチロフェノン−2−O−β−D−グルコピラノシド及びフロロイソバレロフェノン−2−O−β−D−グルコピラノシドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項2記載の卵黄淡色化剤。
【請求項4】
前記ホップ組織は、ホップの茎、葉、球花又はホップ苞である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の卵黄淡色化剤。
【請求項5】
前記ホップ組織は、乾燥ホップ苞の粉砕物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の卵黄淡色化剤。
【請求項6】
前記ホップ組織は、乾燥ホップ球花の粉砕物から、ルプリンの大きさ以下の粉砕物の少なくとも一部が除かれたものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の卵黄淡色化剤。
【請求項7】
前記乾燥ホップ球花の粉砕物は、乾燥ホップ球花の凍結物の粉砕物である、請求項6記載の卵黄淡色化剤。
【請求項8】
前記ホップ組織は、ホップ球花から有機溶媒抽出又は超臨界流体抽出によって抽出される物質の少なくとも一部を、当該ホップ球花から除いて得られたホップ残渣である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の卵黄淡色化剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の卵黄淡色化剤を含有する、飼料添加剤。

【図1】
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