説明

厚みの異なる部分を有する布帛の製造方法

【課題】同一布帛内で幅方向に厚みの異なるような布帛(例えば、大きい目合いで厚みのある格子状布帛)を樹脂加工する際に、樹脂加工機のテンターピン(若しくはクリップ)に把持する部分は格子部のように厚みにする必要は要求特性上で必要無いだけでなく、コストアップの原因になる。そのために耳部のみを薄い組織にすると、樹脂加工時の生地解じょ時に格子状部分が垂れ、耳部だけが吊り気味となって、それが樹脂加工後も垂れた部分が湾曲やフレアとなって目曲がり原因になっていた。
【解決手段】布帛製造〜巻取り時に、薄い耳組織幅分に、厚み差をある程度補う厚み調整材を同時に巻込む事で厚みギャップが解消され、その結果、格子状部と同等に巻き硬さに巻く事が可能となり、その巻反を解じょしても耳組織部と格子状部が同じように解じょされて吊りや弛みやフレアが無くなり、目曲がり等も解消した。挟み込んだ厚み調整材は、解じょ時に自然に落下して樹脂加工に支障はない。またこれらの厚み調整材は再利用が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚みの異なる部分を有する布帛の製造を品質向上して実施する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、衣料などで製編織される布帛で厚みが異なるといってもその厚み差は知れており、また製編織での巻取り長は100m前後であるために特に問題は無かった。しかし、繊維を使用した格子状の樹脂加工製品で、とりわけ土木建築関係の重目付で高い強力で且つ広幅製編織物の樹脂加工品を製造する際には、まず製編織直後に別巻取装置による長尺巻となる。これらの長尺巻生機は概ね後加工で樹脂(着色有無関係無く)付与されるために、樹脂加工機のテンターに耳端を把持させるため格子部と異なった幅数cmの耳組織を両耳部に構成するが、この耳組織部分が格子部分と目付けや厚みが異なってくる。このような厚み差を持ちながら製編織され、その直後に別の巻取り機で長尺巻に巻かれ、次工程の樹脂加工工程で解反〜樹脂ディップ〜乾燥していくと、格子状織編物の巻反の解じょ後に際立って目曲がりやフレアが発生し、樹脂加工製品の目曲がりの原因となっていた。とりわけ緯糸挿入経編機で作られる格子状編物は、緯糸のロスが大きくなるために編み機の働き幅の中央部で作ることはせずに、パターンドラム側に片方の生地端が必ず位置し、もう一方の端は、緯糸供給装置を機台働き幅の反ドラム側から生産生地の幅付近まで移設して非対称状態で生産されるために生地の左右のテンションバラツキなどが微妙に食い違うなどして、見た目は格子状の生地が整然と巻かれているように見えるが、巻かれた生地を解じょしていくと生地中央部と両端部でテンション差が生じ、目曲がりやフレア発生原因になっていた。
【0003】
この対策として、この現象が顕著な緯糸挿入経編製編格子物においては、耳部構成の経糸ランナー長を変更する、格子状部の経糸とは別供給する、巻取り装置上での巻取り用紙管ロール内に鉄製の芯を荷重として挿入する、あるいは樹脂加工機のテンター幅を強めに張るなどの対策を打ってみたが期待するほど顕著な効果を見る事はなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のような幅方向に厚みが異なる部分を有する布帛の巻反の解じょ後の目曲がりやフレアが発生してしまう問題を改良しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決せんと鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。即ち本発明は以下の構成にて解決するものである。
1.幅方向に厚みの異なる部分を有する布帛において、その厚い部分の厚さがAであり、薄い部分の厚さがBである該布帛を製造する際に、全幅若しくは、薄い幅部分の一部若しくは全部に、厚さが0.1B〜0.99Aである厚み調整材を巻込みながら巻取り、その巻反の解じょ後の目曲がりやフレアの発生を少なくさせることを特徴とする布帛の製造方法。
2.厚み調整材が布帛であることを特徴とする上記1記載の巻反の解じょ後の目曲がりやフレアの発生を少なくさせる布帛の製造方法。
3.厚み調整材の布帛の厚さが巻込む場所で異なる厚さであることを特徴とする上記1〜2記載の巻反の解じょ後の目曲がりやフレアの発生を少なくさせる布帛の製造方法。
4.幅方向に厚みの異なる部分を有する布帛の巻反が解じょ後に着色や樹脂付与やヒートセット等の後加工される布帛であることを特徴とする上記1〜3記載の巻反の解じょ後の目曲がりやフレアの発生を少なくさせる布帛の製造方法。
5.幅方向に厚みの異なる部分を有する布帛を巻き取るに際して、厚みの薄い部分に巻込む布帛が不織布である事を特徴とする上記1〜4記載の巻反の解じょ後の目曲がりやフレアの発生を少なくさせる布帛の製造方法。
6.幅方向に厚みの異なる部分を有する布帛が格子状(メッシュも含む)構造であることを特徴とする上記1〜5記載の巻反の解じょ後の目曲がりやフレアの発生を少なくさせる布帛の製造方法。
7.幅方向に厚みの異なる部分を有する布帛が編物であることを特徴とする上記1〜6記載の巻反の解じょ後の目曲がりやフレアの発生を少なくさせる布帛の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば幅方向に厚みが相当異なる部分を有する布帛、とりわけ大きい目合いの格子状布帛の製編生機長尺巻でも解反後のフレアが発生し難く、目曲がりも大幅に解消できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
大きな格子状目合いなどの布帛を製編織する場合、織物なら主に絡み組織もしくはこれに類似の織組織で、またラッセル機ではとりわけ緯糸挿入経編機製格子状組織において、製編織された後に巻取り機で巻き始めていくと、表面は一見目曲がりもなく巻かれているように見える。しかし、内部は巻取り長が増えていくごとに巻き重量が増加していくために、巻取装置の生機を巻いているロールを廻す巻取り機のロールと生機の接する部分は、生機の厚い部分がロールとの接圧が強くなり、厚みの薄い部分(例えば両端の耳組織部分)などは非常に弱い接圧になったまま巻かれていくことになる。この状態で長尺巻を続けていくと、巻取りロールに接圧する厚みの大きい部分は、生機重量の増加とともに益々接圧が上昇して、その接圧は巻取りロールに接している最表層部分だけでなくその内側へも強く働いているから、その結果として内層部分の生機にも巻取りロール部分を通過する際に、その接圧から格子を形成する経糸に「しごき」が加えられる。この「しごき」の力は結果として緯糸に伝播して、緯糸を押し戻すような力(巻き取り方向とは反対側に押し戻されながら巻かれていく力)となり、経糸が巻取りロールから受ける接圧力と相俟って、厚みの厚い部分の経糸群に「緊張力」を与え続けながら巻き続けている事になる。しかも巻き取り長が長くなるほどこの「緊張力」は微々ながら増加していく方向となる。一回の巻取り接圧しか受けていない最表面部では一見大きな目曲がりは無い様に見えるも、1枚中側の生機は二度、2枚中側は三度、3枚中側は四度、というように、幾度と無く「しごき」と「緊張力」が掛かるので、じわじわと押し戻されているのである。一方、接圧の少ない耳部などはこの「しごき」や「緊張力」が殆ど加わらないので押し戻される事無く連られて巻かれていく。同一布帛内で厚みが大きく異なる部分を有する布帛、特に格子状布帛ではこの傾向が強く表れて、厚みの大きい格子状部と薄い部分(例えば耳部部分)で微妙な経糸長差(糸長ギャップ)として表れてくることに発明者は気付いた。
【0008】
この微妙な経糸長差(糸長ギャップ)を修正するために厚み差分を埋める方法、つまり別の素材で適当な均一の厚さを持った不織布を巻取り機上で厚みの薄い個所に挿入巻込みすることで、厚み差が減少し、その結果として薄い部分の経糸長も厚い部分の経糸長に近づいてくるので、あたかも同一に近い厚みの布帛を巻き取るが如くになり、「しごき」や「緊張力」が格子状分と似てくる。その結果として経糸長差(糸長ギャップ)が近似値範囲内となり、格子状部も耳部も近似テンション内で解じょし、その結果としてフレアや目曲がりが解消されることとなった。厚み差修正材は特に限定しないが、品質やコスト面更に柔らかくて巻き取り易いことから不織布が好ましい。またこれら不織布は全幅に渡り挿入しても良いが、厚み差を解消するとなると余りにも薄い厚さでは効果が無いためにある程度以上の厚いものが必要となる。しかし厚い不織布の挿入は、やたらと巻直径を大きくさせて巻取り長を少なくさせる事となり、好ましいものではない。その点で、薄い部分の幅に合わせた幅で、厚さが0.1B〜0.99A(ダイアルゲージ厚み計使用。ただしAは格子状部などの厚みの厚い場所の厚さであり、Bは耳組織部分などの厚みの薄い場所の厚さ)の範囲である厚さを持った不織布が良い事がわかった。この場合の不織布の厚さは0.99Aを超えると逆に薄い場所が厚くなり過ぎて問題となる。また、0.1B未満になるとフレアや目曲がり修正効果が発揮されない。より好ましくは0.2B〜0.5Aが良い。また、これら挿入する不織布は巻反の解じょ時には勝手に巻反から離れていくだけでなく、これを巻反の解じょと同時に巻き取る事により繰り返し使用できる特徴もある。なお、不織布の厚み差のある布帛の巻取り時の巻込み方法で我々は図1のような方法で巻込んだが、特にこの方法に限定するものではない。
【実施例】
【0009】
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。本発明に記載した特性の測定法は次の通りである。
【0010】
目曲がり測定:格子部の緯糸1本の両耳端間の位置ずれ長と樹脂加工時の加工幅を測定し、下記式より算出した。
目曲がり(%)=(格子部の緯糸1本の両耳端間の位置ずれ長/樹脂加工時の加工幅)×100
【0011】
(実施例1)
ポリエステルマルチフィラメント1650dtexを64本撚り束ねたものを経糸に、1650dtexの24本を撚り束ねたものを緯糸に使用して2.54cm目合いの格子状布帛をラッセル機で作った。この時、この布帛を次工程で樹脂加工するために耳組織として布帛の両端部10cm幅にポリエステルマルチフィラメント1650dtexの6本撚糸品を経糸として30本配し、これら2種類の厚みを有する経糸と上述の緯糸を560dtexポリエステルマルチフィラメントの鎖糸と経挿入糸で固定化した。この時の格子部の経糸と緯糸の交点の厚みは3.8mmで、耳組織部の厚みは0.8mmであった。次にこの格子状ラッセル布帛を編成しながら巻取り機で巻き上げていく際に、厚みの薄い10cm幅の両耳組織部分に、厚さ1.5mmで幅10cmに切ったテープ状の不織布を別巻の不織布ロールから自動的に耳部に巻込まれるようにセッティングして200mの格子状布帛を巻き上げた。次にこの布帛の巻反を解じょし、アクリル系樹脂のディップ加工時にフレア発生や目曲がり程度を判定した。
【0012】
(実施例2)
実施例1の不織布に厚さ0.3mmのものを使用して200mの格子状布帛を巻き上げ、同様にアクリル系樹脂処理してフレアや目曲がり程度を判定した。
【0013】
(比較例1)
実施例1のラッセル布帛で不織布を挿入せずに巻き取り機で200mを巻き上げて同様に樹脂処理してフレアや目曲がり程度を判定した。
【0014】
上記の実施例1,2と比較例1の結果を表にまとめた。
【0015】
【表1】

【0016】
実施例1〜2、比較例1の樹脂加工時のフレアや目曲がりの判定結果より明らかなように、同一の布帛の中で幅方向に一定の幅で厚みが大幅に異なる部分を持つような布帛の製造にはその部分に厚み差を埋めるようなものを挿入することが最終製品でフレアや目曲がり発生を抑え、良好な品質を得る事が出来る。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は土木や建築用途に使用される補強材や隠蔽材や養生材等の格子状構造材が、格子構造ゆえに目曲がりやフレアが外見ですぐ見つけ出す事が出来るが、その修正法が意外と簡単に行かなかった従来の技術を改善したものである。特に厚み差の大きい布帛は目曲がりやフレアが目立ちやすかったが、本発明の方法を使用する事で、薄い部分と厚い部分の巻取りロールとの接圧が近似となり、その結果として今まで巻き硬さが異なっていた耳部と格子状部が同じ状態になった。そして同じ硬さになった巻生地を解じょしていく時にも耳部が異常に吊ったりすることなく格子状部と同一状態に解じょして樹脂加工〜乾燥が出来るようになり、炉から出てきた樹脂加工格子状布帛は目曲がりやフレアが格段に改善される結果を得た。そして安定した品質の格子状製品を出す事が出来、その結果として、実使用面で格子状布帛同士の縫製や連結作業性をスムーズにする事ができた。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の不織布を挿入ながら巻き取り中の簡略なラッセル機図である。
【符号の説明】
【0019】
1:緯糸挿入ラッセル機
2:原糸供給ビーム群
3:供給原糸群
4:幅方向に厚みの異なる格子状編地
5:巻取りロール駆動ロール(装置)
6:巻き取られている編地
7:厚み調整材(不織布)
8:厚み調整材(不織布)が巻かれているロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向に厚みの異なる部分を有する布帛において、その厚い部分の厚さがAであり、薄い部分の厚さがBである該布帛を製造する際に、全幅若しくは、薄い幅部分の一部若しくは全部に、厚さが0.1B〜0.99Aである厚み調整材を巻込みながら巻取り、その巻反の解じょ後の目曲がりやフレアの発生を少なくさせることを特徴とする布帛の製造方法。
【請求項2】
厚み調整材が布帛であることを特徴とする特許請求項1記載の巻反の解じょ後の目曲がりやフレアの発生を少なくさせる布帛の製造方法。
【請求項3】
厚み調整材の布帛の厚さが巻込む場所で異なる厚さであることを特徴とする特許請求項1〜2記載の巻反の解じょ後の目曲がりやフレアの発生を少なくさせる布帛の製造方法。
【請求項4】
幅方向に厚みの異なる部分を有する布帛の巻反が解じょ後に着色や樹脂付与やヒートセット等の後加工される布帛であることを特徴とする特許請求項1〜3記載の巻反の解じょ後の目曲がりやフレアの発生を少なくさせる布帛の製造方法。
【請求項5】
幅方向に厚みの異なる部分を有する布帛を巻き取るに際して、厚みの薄い部分に巻込む布帛が不織布である事を特徴とする特許請求項1〜4記載の巻反の解じょ後の目曲がりやフレアの発生を少なくさせる布帛の製造方法。
【請求項6】
幅方向に厚みの異なる部分を有する布帛が格子状(メッシュも含む)構造であることを特徴とする特許請求項1〜5記載の巻反の解じょ後の目曲がりやフレアの発生を少なくさせる布帛の製造方法。
【請求項7】
幅方向に厚みの異なる部分を有する布帛が編物であることを特徴とする特許請求項1〜6記載の巻反の解じょ後の目曲がりやフレアの発生を少なくさせる布帛の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−37313(P2006−37313A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223098(P2004−223098)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】