説明

原子力プラントの被ばく低減方法、燃料集合体及び原子力プラント

【課題】燃料集合体の燃焼度を増大させた場合においても放射線被ばくをさらに低減できる原子力プラントの被ばく低減方法を提供する。
【解決手段】BWRプラント1は、原子炉圧力容器3を有し、原子炉圧力容器3内に燃料集合体5を装荷した炉心4を配置している。ダウンカマ8が原子炉圧力容器3と炉心4を取り囲む炉心シュラウドの間に形成される。複数のジェットポンプ7がダウンカマ8内に配置され、ダウンカマ8に連絡された再循環系配管9が、ジェットポンプ7のノズルに接続される。燃料集合体5に含まれた各燃料棒の外面にダイヤモンド皮膜が形成されている。炉水に含まれたクラッド等がダイヤモンド皮膜の表面に付着しても短時間に剥離するので、クラッドの放射化が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力プラントの被ばく低減方法、燃料集合体及び原子力プラントに係り、特に、沸騰水型原子力プラントに適用するのに好適な原子力プラントの放射線被ばく低減方法、燃料集合体及び原子力プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子力プラント(BWRプラント)において、定期検査時における作業員の放射線被ばくをさらに低減することは、プラント健全性の観点から重要な課題である。
【0003】
定期検査時における作業員の放射線被ばくの放射線源は、主に、再循環系配管及び原子炉水浄化系配管の内面に付着して蓄積したコバルト60である。すなわち、炉水(冷却水)または給水に接する、BWRプラントの金属部材から非放射性コバルトが腐食により溶出する。この非放射性コバルトは、原子炉圧力容器内の炉心に装荷された燃料集合体の燃料棒表面に存在するドライアウト面に、核沸騰に伴う濃縮効果でコバルト酸化物として析出し付着する。
【0004】
燃料棒表面に付着した非放射性コバルトは、燃料棒内に存在する核燃料の核分裂で発生する中性子の照射を受け、放射化されてコバルト60になる。コバルト60は、コバルト60を含むコバルト酸化物の燃料棒表面からの剥離またはそのコバルト酸化物の溶出によって炉水中に移行する。このコバルト60は、原子炉圧力容器に接続されて炉水が流れる配管(例えば、再循環系配管及び原子炉浄化系配管)の内面に付着し蓄積される。コバルト60の蓄積速度は、炉水のコバルト60濃度及び配管内面の酸化皮膜成長速度に比例する。
【0005】
したがって、炉水のコバルト60の濃度を低減することができれば、配管内面へのコバルト60の蓄積を抑制でき、定期検査時における作業員の放射線被ばくを低減することができる。なお、炉水は、原子炉圧力容器内及び原子炉圧力容器に接続された配管内を流れる冷却水である。ただし炉水は、給水配管の大部分及び主蒸気配管内には流れない。給水配管でも、原子炉浄化系配管との合流点と原子炉圧力容器の間で、原子炉浄化系配管から排出された炉水が流れる。
【0006】
特開平10−197672号公報は、炉水中のコバルト60の濃度を低減するために、燃料棒表面にコバルトを固定する方法を記載している。この方法は、予め燃料棒表面に三酸化二鉄(α−Fe)の層を形成し、燃料棒表面に付着したコバルト酸化物(CoO)をコバルト酸化物より溶解度の小さいコバルトフェライト(CoFe)に形態変化させるものである。コバルトフェライトは、燃料棒表面に付着したコバルトの溶解を抑制する。すなわち、コバルト60が燃料棒表面に固定されるので、炉水中のコバルト60の濃度が低減される。
【0007】
特開平5−264786号公報は、炉水中のコバルト60の濃度を低減する他の方法として、燃料棒表面へのコバルトの付着、蓄積を抑制する技術を記載している。コバルトの燃料棒表面への付着は、炉水中の鉄酸化物濃度に比例して増加する。特開平5−264786号公報は、その現象に着目して給水の鉄濃度を0.05ppb以下に抑制し、原子炉内でコバルトが燃料棒表面に付着することを抑制している。さらに、炉水に炭酸、窒素または一酸化二窒素を注入して炉水のpHを弱酸性に制御し、燃料棒表面に付着したコバルト酸化物の溶解を促進する。このような特開平5−264786号公報に記載された方法は、燃料棒表面におけるコバルトの滞在時間を減少させ、非放射性コバルトが中性子照射によりコバルト60に放射化されることを抑制する。したがって、炉水中のコバルト60の濃度が低減される。
【0008】
特開平6−148386号公報は、原子力プラントの腐食性生物抑制方法を記載している。この腐食性生物抑制方法は、燃料棒の表面、すなわち、燃料棒の燃料被覆管外面と炉水中の鉄酸化物の表面電位を制御することによって鉄酸化物が燃料被覆管外面に付着することを抑制している。このため、鉄酸化物に付随してコバルトが燃料被覆管外面に付着することを抑制することができる。その腐食性生物抑制方法においても、コバルトが放射化されることを抑制でき、炉水中のコバルト60の濃度を低減できる。
【0009】
特開昭63−52092号公報は、原子力プラントの運転中に、炉心に装荷された燃料集合体の燃料棒の燃料被覆管外面にニッケルフェライト及びコバルトフェライトを形成することを記載している。炉心に装荷する前において、燃料被覆管の外面に鉄酸化物(クラッド)層を形成し、この燃料被覆管を用いて燃料棒及び燃料集合体を製造する。外面に鉄酸化物層を形成した燃料被覆管を用いた燃料集合体を炉心内に装荷し、その後、原子力プラントの運転を開始する。原子力プラントの運転中において、炉水に含まれるニッケル及びコバルトが、燃料被覆管の外面の鉄酸化物層と接触し、フェライト酸化物へとその化学形態を変化させる。このため、燃料被覆管外面に安定なニッケルフェライト及びコバルトフェライトが形成され、放射性コバルトが燃料被覆管から炉水に溶出することを抑制することができる。したがって、炉水中の放射性核種の濃度を低減できる。
【0010】
放射性核種の付着を抑制するために、原子力プラントの配管(例えば、BWRプラントの再循環系配管)の内面にフェライト皮膜を形成することが、特開2006−38483号公報に記載されている。
【0011】
特開2009−222584号公報は、外面にフェライト皮膜(または親水性酸化物皮膜)を形成した燃料被覆管を用いた燃料棒を有する燃料集合体を炉心に装荷した原子力プラントの放射線被ばく低減方法が開示されている。この放射線被ばく低減方法によれば、燃料被覆管の外面に形成されたフェライト皮膜(または親水性酸化物皮膜)の表面に付着したコバルト酸化物は、フェライト皮膜を構成する化合物との間で生じる静電的反発力の作用によって剥離される。このため、燃焼度がさらに増大された燃料集合体においても、コバルト酸化物が燃料被覆管の外面に付着している時間が極めて短くなるので、そのコバルト酸化物に含まれる非放射性コバルトが燃料被覆管の外面に付着している間で放射化されることを抑制することができる。燃料集合体の燃焼度をさらに増大させた場合においても放射線被ばくをさらに低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−197672号公報
【特許文献2】特開平5−264786号公報
【特許文献3】特開平6−148386号公報
【特許文献4】特開昭63−52092号公報
【特許文献5】特開2006−38483号公報
【特許文献6】特開2009−222584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特開平10−197672号公報に記載された方法は、燃料被覆管外面にコバルトをコバルトフェライトとして固定させるため、炉水中のコバルト60イオンの濃度を低減できる。しかしながら、この方法では、燃料棒表面のコバルトフェライトが冷却水の流れのせん断力により燃料棒表面から剥離して炉水中に移行する。このため、炉水中のコバルト60を含む酸化物濃度が増加する。また、燃料集合体の高燃焼度化により燃料集合体の炉心滞在期間が増加すると、燃料棒表面に付着した非放射性コバルトが放射化される量が増大し、炉水中のコバルト60イオンの濃度が増加する。
【0014】
特開平5−264786号公報は、炉水に炭酸、窒素または一酸化二窒素を注入して炉水のpHを弱酸性に制御している。しかしながら、炭酸などは、構造部材の応力腐食割れの感受性を高める可能性があるので、炉水に注入することは好ましくない。
【0015】
特開平6−148386号公報に記載された腐食性生物抑制方法は、鉄酸化物と燃料被覆管外面の表面電位を同符号にすることによって、燃料被覆管外面への鉄酸化物の付着を抑制することができる。しかしながら、燃料被覆管外面に鉄酸化物が付着していなくても、コバルトは燃料被覆管外面に付着する。更に、コバルト酸化物の表面電位は炉水中では鉄酸化物及び燃料被覆管外面の表面電位と逆符号になるので、コバルト酸化物が燃料被覆管外面に付着することを抑制できない。
【0016】
また、特開昭63−52092号公報に記載された放射線被ばく低減方法は、炉心に装荷される前に形成された、燃料被覆管外面に形成された酸化物層に、原子力プラントの運転開始後に炉水に含まれているニッケル及びコバルトが接触することによって燃料被覆管外面にニッケルフェライト及びコバルトフェライトを形成している。これらのフェライト形成により燃料被覆管外面部分に取り込まれたニッケル及びコバルトは、中性子照射を受けて放射化され、放射性コバルトになる。ニッケルフェライト及びコバルトフェライトは安定な物質で放射性コバルトの溶出を抑制するが、その溶出が完全に防止されるわけではないので、微量の放射性コバルトが炉水に溶出される。燃焼度がさらに増大された燃料集合体を炉心に装荷した場合には、この燃料集合体の炉心滞在期間が長くなる。燃焼度がさらに増大された燃料集合体の各燃料被覆管の外面に特開昭63−52092号公報に記載された方法でニッケルフェライト及びコバルトフェライトを形成した場合には、炉心滞在期間が長くなる分、燃料被覆管の外面から炉水に溶出する放射性コバルトの量も多くなる。また、燃料被覆管の外面で生成される放射性コバルトの量も増大する。
【0017】
さらに、特開2009−222584号公報に記載された放射線被ばく低減方法は、フェライト(または親水性酸化物)の皮膜を、燃料棒、特に、燃料被覆管の外面に形成するため、炉水に含まれるクラッドが酸素を介してフェライト(または親水性酸化物)の皮膜と結合する。このとき、フェライト皮膜の表面に付着したクラッドにコバルトあるいはニッケルが取り込まれて燃料被覆管の表面に付着することがわずかながら生じる可能性がある。このため、燃料集合体の高燃焼度化に伴って、燃料集合体が炉心に長期間に亘って装荷さるようになると、炉水の放射能が上昇する可能性がある。
【0018】
本発明の目的は、燃料集合体の燃焼度を増大させた場合においても放射線被ばくをさらに低減できる原子力プラントの放射線被ばく低減方法、燃料集合体及び原子力プラントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、外面にダイヤモンド皮膜を形成した燃料被覆管を用いた複数の燃料棒を有する燃料集合体を、原子炉の炉心内に装荷し、その後、原子炉を運転することにある。
【0020】
燃料被覆管の外面にダイヤモンド皮膜が形成されているので、炉水に含まれたクラッドがダイヤモンド皮膜に付着しても短時間に剥離されるので、クラッドの放射化が抑制され、燃焼度がさらに増大した燃料集合体が炉心に装荷される場合であっても、原子力プラントの運転停止後において定期検査を実施する作業員の被ばくをさらに低減することができる。
【0021】
外面にダイヤモンド皮膜を形成した燃料被覆管内に核燃料物質を充填した複数の燃料棒と、これらの燃料棒を束ねる複数の燃料スペーサと、各燃料棒の下端部を保持する下部保持部材と、各燃料棒の上端部を保持する上部保持部材とを備える燃料集合体によっても、上記した目的を達成することができる。
【0022】
外面にダイヤモンド皮膜を形成した燃料被覆管を用いた複数の燃料棒、これらの燃料棒を束ねる複数の燃料スペーサ、各燃料棒の下端部を保持する下部保持部材、及び各燃料棒の上端部を保持する上部保持部材を有する複数の燃料集合体を装荷した炉心と、炉心に炉水を供給するポンプ装置とを備えることよっても、上記した目的を達成することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、燃料集合体の燃焼度をさらに増大させた場合においても放射線被ばくをさらに低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の沸騰水型原子力プラントの放射線被ばく低減方法を適用する沸騰水型原子力プラントの構成図である。
【図2】図1に示す沸騰水型原子力プラントの炉心に装荷される燃料集合体の燃料棒に用いられる燃料被覆管の外面にダイヤモンド皮膜を形成する皮膜形成装置の構成図である。
【図3】燃料被覆管の外面にコバルト酸化物が付着する過程を示す説明図である。
【図4】燃料被覆管の外面におけるコバルトの固着度と炉水中のコバルト60イオンの濃度との関係を示す特性図である。
【図5】ダイヤモンド及びダイヤモンドライクカーボン(DLC)のそれぞれの物性を示す説明図である。
【図6】ジルコニウム合金製の燃料被覆管の外面におけるジルコニウムの酸化及び水素化を示す説明図であり、(A)燃料被覆管の、ダイヤモンド皮膜が形成されていない外面におけるジルコニウムの酸化及び水素化を示す説明図、及び(B)は燃料被覆管の、ダイヤモンド皮膜が形成されている外面におけるジルコニウムの酸化及び水素化を示す説明図である。
【図7】燃料被覆管の外面にダイヤモンド皮膜を形成する、他の実施例の皮膜形成装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明者らは、燃料集合体のさらなる高燃焼度化に備え、高燃焼度燃料集合体の燃料棒外面へのクラッドの付着を抑制でき、定期検査時における作業員の放射線被ばくをより低減できる方法を種々検討した。燃料棒外面へのクラッド付着の抑制は、放射能源となるコバルトなどの金属イオンが燃料棒外面に付着して放射化されることを抑制することにつながり、炉水の放射能濃度の低下をもたらす。発明者らによって行われた上記の検討の内容を以下に説明する。
【0026】
まず、発明者らは、燃料棒の外面、具体的には、ジルコニウム合金製の燃料被覆管の外面へのクラッド(コバルト酸化物を含む)の付着メカニズムについて検討した。炉心内に装荷された燃料集合体の燃料棒内に存在する核燃料物質の核分裂によって、燃料集合体内を上昇する炉水が加熱されて沸騰する。炉水に含まれるクラッドは、その沸騰を駆動力にして燃料被覆管の外面に付着する。燃料被覆管外面へのクラッドの付着の過程を、図3を用いて説明する。炉心に装荷されている燃料集合体に含まれている燃料棒の燃料被覆管40の外側を流れている炉水の沸騰により、燃料被覆管40の外面に気泡45が発生する(図3に示された(a)の状態)。やがて、発生した気泡45と燃料被覆管40の外面との界面に存在する炉水の薄膜46が蒸発する(図3に示された(b)の状態)。炉水の薄膜46が蒸発することにより、薄膜46に含まれたコバルト酸化物47が凝集して燃料被覆管40の外面に析出し付着する(図3に示された(c)の状態)。
【0027】
このコバルト酸化物47の凝集過程においてコバルト酸化物47に内包されていた水が脱水され、コバルト酸化物47の微粒子が相互に酸素を共有することで互いに結合し強固な塊を形成する。この酸素の共有は同様に、燃料被覆管40外面の酸化ジルコニウム及び燃料被覆管40の母材であるジルコニウム合金に含まれている鉄及びクロムなどの酸化物の間でも形成されるので、コバルト酸化物47は燃料被覆管40外面に安定に固定されることになる。
【0028】
なお、図3の(b)の状態ではクラッドが薄膜46に含まれているので、クラッドも、コバルト酸化物47と同様に、凝集して燃料被覆管40の外面に析出しその外面に付着し、そして互いに結合して強固な塊を形成し、燃料被覆管40外面に安定に固定される。
【0029】
給水配管から原子炉に供給される給水に含まれるクラッドの量の低減等により、これらのクラッドの量(炉水中のクラッド濃度)を制御し、燃料被覆管40外面へのコバルト酸化物(CoO)の付着を制御することが、従来の被ばく低減術の考え方となっている。
【0030】
例えば、特開昭63−52092号公報に記載された放射線被ばく低減方法では、クラッドを燃料被覆管40の外面に予め付着させておき、図3の(d)に示すように炉水の沸騰により付着したコバルト酸化物47を、クラッドを構成するヘマタイト(Fe)48と反応させてコバルトフェライト(CoFe)49を生成する。CoFeは、CoOと比較して溶解度が小さいため、燃料被覆管40の外面から炉水に再溶解し難い。すなわち、燃料被覆管外面へのコバルトの固着度を高めてコバルトの炉水への再溶解を抑制することにより、炉水中のコバルト60の濃度が低減される。また、CoOとヘマタイトを反応させるためにはヘマタイトが一定量以上存在していることが必要である。CoOとヘマタイトの反応が生じない場合には、コバルトの燃料被覆管への固着度と炉水の60Coイオン濃度の関係を示した図4の特性から明らかであるように、コバルト酸化物の燃料被覆管への固着度が中程度であるため、放射化されたコバルトが炉水に溶出し、炉水の60Coイオン濃度が高くなる。
【0031】
なお、図3に示す(e)の状態は、特開2009−222584号公報において、ジルコニウム合金製の燃料被覆管40の外面にフェライト皮膜50を形成した状態を示している。燃料被覆管40の外面に形成されたフェライト皮膜50の表面に付着したコバルト酸化物47は、フェライト皮膜を構成する化合物との間で生じる静電的反発力の作用によって剥離される(図3に示す(e)の状態)。このため、燃焼度がさらに増大された燃料集合体においても、コバルト酸化物47が燃料被覆管40の外面に形成されたフェライト皮膜50の表面に付着している時間が極めて短くなる。
【0032】
給水から原子炉圧力容器内に持ち込まれる鉄酸化物は、炉水中では主に三酸化二鉄として存在する。炉水に含まれた、この三酸化二鉄48は、燃料被覆管40の外面に形成されたフェライト皮膜(四酸化三鉄皮膜)50の表面に静電的に吸着される(図3の(f)の状態)。三酸化二鉄48がフェライト皮膜50の表面に付着すると、フェライト皮膜50を構成する四酸化三鉄に起因する静電反発力が弱められるので、炉水に含まれるコバルト酸化物(CoO)47が、その付着した三酸化二鉄48の表面に付着する。燃料被覆管40の外面に形成されたフェライト皮膜50の表面に付着した三酸化二鉄48はコバルト酸化物(CoO)47と反応してコバルトフェライト49を生成する(図3(d)を参照)。このコバルトフェライト49に含まれるコバルトが中性子照射によって放射化される。燃料被覆管40の外面にフェライト皮膜50が形成されている場合は、燃料被覆管40の外面にフェライト皮膜50が形成されていない場合よりも炉水中の放射性コバルトの濃度が著しく小さいが、フェライト皮膜50が形成されている場合でも、コバルトフェライト49に含まれたその放射化されたコバルトが炉水に溶出する。このため、炉水中のそのコバルト濃度が増加する。
【0033】
先に述べたように、ジルコニウム合金製の燃料被覆管の外面へのクラッドの付着は、燃料被覆管外面での炉水の沸騰によって燃料被覆管外面を基盤としてクラッドが脱水、固着することによって生じる。このとき、ジルコニウム合金の酸化皮膜である酸化ジルコニウムとクラッドは酸素を共有することによって強固に結合する。したがって、燃料被覆管の外面へのクラッドの付着を抑えるためには、クラッドとジルコニウム合金間での結合を弱くすることができればよい。
【0034】
以上のことを考慮し、燃料被覆管の外面とクラッドの主たる成分である金属酸化物の間での結合は酸素を共有することによって生じるので、発明者らは、酸素を含まない皮膜を燃料被覆管外面に形成することが基本的な対策であると認識した。そして、発明者らは、酸素を含まない皮膜の形成によって、この皮膜に付着したクラッドとこの皮膜の間において酸素を介した結合の形成が阻害され、燃料被覆管外面へのクラッド付着が抑制できると考えた。
【0035】
そこで、発明者らは、酸素を含まない皮膜について検討した結果、好適なその皮膜としてダイヤモンドの皮膜を選択した。ダイヤモンドは炭素(C)で構成されるため、ダイヤモンド皮膜は酸素を含まない。ダイヤモンド皮膜を形成する際に、不純物として一酸化炭素(CO)及び水素(H)などがその皮膜の中に取り込まれるが、それらが取り込まれる量は微量である。酸化ジルコニウム及び酸化鉄などの金属酸化物と比較すると、ダイヤモンド皮膜に含まれる酸素の量は非常にわずかであり、その酸素による悪影響は極めて小さい。
【0036】
炉心に装荷された燃料集合体に含まれる燃料棒の燃料被覆管の外面に形成されたダイヤモンド皮膜が原子力プラントの運転中において酸化される可能性は極めて小さい。ダイヤモンドは、600℃くらいの温度までは酸化しにくい物質である。このため、原子力プラントの原子炉の使用温度である300℃前後では、ダイヤモンドは安定に存在できる。したがって、炉心内の燃料被覆管の外面に形成されたダイヤモンド皮膜のダイヤモンドが酸化され、酸化されたダイヤモンド上にクラッドが付着してクラッドとダイヤモンドが酸素を介して強固に結合することはない。
【0037】
一方、ダイヤモンドと似た性質を有するダイヤモンドライクカーボン(DLC)は、ダイヤモンド結合とグラファイト結合が混在した非晶質の物質である。このDLCは、ダイヤモンドよりも安定性が低く300〜400℃付近で酸化される(図5参照)ので、原子炉内での使用、特に、炉心に装荷される燃料集合体に含まれる燃料棒の燃料被覆管外面への適用は、不適切である。また、酸化チタン及び酸化ジルコニウムなどの金属酸化物の皮膜を燃料被覆管外面に形成した場合には、この皮膜表面に付着したクラッドと皮膜がこの皮膜表面の酸素を介して長期的に結合を形成する。TiN、ZrN、CrN、TiAlNのような非酸化物の皮膜の場合には、皮膜表面が炉水中で酸化されると、その非酸化物は結果的に酸化物として表面に付着したクラッドと結合を形成する。また、窒化物の皮膜を形成した燃料被覆管を有する燃料棒を炉心に装荷すると、その窒化物は中性子によって放射化され、放射性のC−15に変化する。このとき、窒化物皮膜内のC−15は核反応の反跳エネルギーで炉水にはじき出されるため、窒化物皮膜に欠陥が残ってこの欠陥が酸素の侵入経路になり、長期的に窒化物皮膜そのものの酸化が進んでクラッドが付着していくことになる。窒化物皮膜の表面の一部が酸化した結果、酸化クロムおよび酸化チタンが窒化物皮膜の表面に生成され、生成された酸化クロムおよび酸化チタンにクラッドが付着すると考えられる。
【0038】
また、不純物をドープしない純粋なダイヤモンドは良好な電気絶縁体であるので、燃料被覆管外面のダイヤモンド皮膜は、表面での電気化学反応を抑制し、燃料被覆管の腐食を緩和する。ジルコニウム合金製の燃料被覆管の腐食は、燃料被覆管外面に形成された酸化ジルコニウム皮膜が耐食性を確保しているため、実用上は十分に速度が遅い。ただし、この酸化ジルコニウムは、図6(A)に示すように、酸素イオンを通す性質を有する。
【0039】
図6(A)は、表面に酸化ジルコニウム皮膜が形成されたジルコニウム合金母材が水に浸漬された状態における、水素イオン、酸素イオン及び電子の挙動を模式的に示している。なお、図6(A)に示されたジルコニウム合金母材には、ダイヤモンド皮膜が形成されていない。ジルコニウム合金母材上に形成された酸化ジルコニウム皮膜の表面では、酸化ジルコニウム皮膜に接触している水が一部解離して酸素イオン(O2−)を放出する。高温状態では、この酸素イオンが、酸化ジルコニウム皮膜内を拡散してジルコニウム合金と酸化ジルコニウム皮膜の界面でジルコニウム合金のジルコニウムと反応して酸化ジルコニウムを形成する。このとき、ジルコニウム合金母材のジルコニウムから放出された電子は、酸化ジルコニウム皮膜内を移動して、酸化ジルコニウム皮膜と水の界面でHと結合して水素原子(H)を生成する。この水素原子の一部が、酸化ジルコニウム皮膜内を拡散してジルコニウム合金母材内に到達し、ジルコニウム合金母材内でジルコニウムと反応して水素化ジルコニウムを生成する。また、生成された蒸気の水素原子の一部は、水素分子(H)を形成して炉水に溶解する。このようなジルコニウム合金母材の腐食の進行と、これに伴う水素化ジルコニウムの生成をできる限り抑制することが望まれている。
【0040】
これに対して、図6(B)に示すように、ダイヤモンド皮膜をジルコニウム合金母材上に形成した場合には、仮に酸素イオンが炉水及びダイヤモンド皮膜表面に発生しても、酸素原子がダイヤモンド皮膜内に存在しないので、ダイヤモンド皮膜内への酸素イオンの拡散が生じ難くなる。なお、ダイヤモンド皮膜は、ジルコニウム合金母材の表面に形成された酸化ジルコニウム皮膜の上を覆っている。また、ダイヤモンド皮膜は絶縁体であるので、ジルコニウム合金母材で生成した電子の、ダイヤモンド皮膜内での移動が阻止され、その電子が炉水及びダイヤモンド皮膜の表面上に存在する水素イオンと結びつくこと抑制することができる。したがって、ダイヤモンド皮膜上に一時的にクラッドが付着しても燃料被覆管とクラッドの間の電気化学的相互作用がダイヤモンド皮膜によって遮断されるので、ダイヤモンド皮膜表面に付着したクラッドは、安定にダイヤモンド皮膜表面に存在することができず、炉水中に放出される。この結果、燃料被覆管外面に留まるクラッドの量が低減され、炉心内での中性子によるクラッドの放射化が低減される。
【0041】
燃料被覆管外面へのダイヤモンド皮膜の形成は、気中での化学蒸着法(CVD)または物理蒸着法によって行われる。燃料被覆管外面にダイヤモンド皮膜を形成する場合には、ダイヤモンド皮膜を形成する皮膜形成装置である気相合成装置または物理蒸着装置を燃料製造工場に設置し、燃料集合体の製造工程で気相合成装置または物理蒸着装置を用いて燃料被覆管外面にダイヤモンド膜を形成する。これによって、燃料被覆管へのクラッドの付着を抑制可能なダイヤモンド皮膜を、燃料被覆管の外面に形成することができる。ダイヤモンド皮膜を化学蒸着法または物理蒸着法により燃料被覆管外面に形成する場合には、ダイヤモンド皮膜内での欠陥の生成を抑え、且つこの皮膜内の不純物量を少なくすることができる。したがって、高温状態でのダイヤモンド皮膜の安定性が高まるとともにダイヤモンド皮膜が有する特性を十分に発揮させることができる。
【0042】
また、燃料被覆管外面に形成されたダイヤモンド皮膜の厚みは、1μm〜100μmの範囲にすることが望ましい。燃料被覆管上へのダイヤモンド被覆厚さを1μm以上にすれば、ダイヤモンド皮膜の表面に接触する水が酸素イオンを含んでいる場合でも、この酸素イオンがダイヤモンド皮膜内を拡散して燃料被覆管を構成するジルコニウム合金まで到達することを確実に防止でき、ジルコニウム合金の腐食を確実に防ぐことができる。電気絶縁体であるダイヤモンドの電気比抵抗は1012Ωcm以上であるので、ダイヤモンド皮膜の厚みを1μm以上にすれば、1cmあたりの電気比抵抗が10Ωとなり、上記したように、ダイヤモンド皮膜内での酸素イオンの拡散を防止することができる。燃料被覆管の母材であるジルコニウム合金の腐食が防止され、ダイヤモンド皮膜表面へのクラッドの固着を防止することができる。ダイヤモンド皮膜の厚みを100μmよりも厚くした場合には、ダイヤモンド皮膜の形成に要する時間が長くなり、燃料集合体の製造に要する時間も長くなる。このため、ダイヤモンド皮膜の厚みは100μm以下にすることが望ましい。
【0043】
ダイヤモンドは高温で使用可能な物質のなかでも熱伝導率が1000〜2000W/cm/Kと著しく高いため、1μm〜100μmのダイヤモンド皮膜は、燃料被覆管の伝熱性能に悪影響を与えない。一方、DLCは、熱伝導率が50W/cm/K以下であってダイヤモンドよりも熱伝導率が一桁以上低くなっている。また、酸化チタンや酸化ジルコニウムなどの金属酸化物は熱伝導率が著しく低い。これらの金属酸化物は、ガスタービンなどの高温機器の耐熱被覆として用いられていることから、燃料被覆管の外面に形成する皮膜に使用するメリットがダイヤモンドよりも非常に劣る。
【0044】
好ましくは、燃料被覆管の外面に形成するダイヤモンド皮膜は、電子的特徴としてバンドギャップが5eV〜5.5eVの範囲にあるが望ましい。ダイヤモンドのバンドギャップは5.5eVと高いが、酸化チタンなどではバンドギャップが3eV程度と低い。このため、酸化チタン皮膜を外面に形成した燃料被覆管を有する燃料棒を備えた燃料集合体を炉心に装荷した場合には、その酸化チタン皮膜が炉心で発生するチェレンコフ光の影響を受ける可能性がある。すなわち、酸化チタン皮膜は、チェレンコフ光により生じる光電流によって酸化チタン皮膜に付着したクラッドとの相互作用を生じる可能性がある。一方、ダイヤモンドではバンドギャップが大きいため、燃料被覆管の外面に形成したダイヤモンド皮膜はチェレンコフ光の影響をほとんど受けない。このため、ダイヤモンド皮膜を外面に形成した燃料被覆管は、炉心内で使用することが可能である。
【0045】
気相合成装置または物理蒸着装置を用いてダイヤモンド皮膜を燃料被覆管の外面に形成するときにダイヤモンド皮膜に含まれる一部のダイヤモンドがグラファイト化した場合には、バンドギャップが5eV以上になっているダイヤモンド皮膜が形成された燃料被覆管を用いる。バンドギャップが5eV以上であるダイヤモンド皮膜は、炉心で発生するチェレンコフ光の影響を受けないでクラッドの付着を抑制できる。なお、DLCは様々なバンドギャップを有するものが存在しており、グラファイト構造のまじりあっている量に応じてバンドギャップが変化する。このため、グラファイト構造が混じり合う分だけDLCのバンドギャップがダイヤモンドのそれよりも小さくなる。なお、グラファイトは導電体である。
【0046】
さらに、好ましくは、ダイヤモンド皮膜を構成するダイヤモンドの比重が3.4〜3.52の範囲にあることが望ましい。ダイヤモンドの比重は3.52であるので、ダイヤモンド皮膜の比重を3.4〜3.52の範囲にすることにより、燃料被覆管外面へのダイヤモンド皮膜の形成時にダイヤモンドの一部がグラファイト構造の混入によって非晶質化してもその影響を10%にとどめることができる。比重3.4のダイヤモンド皮膜の特性は、実質的に、比重3.52のダイヤモンド皮膜の特性を有する。DLCはグラファイト構造とダイヤモンド構造が混成しており、グラファイトの比重が2.0であるのでDLCの比重は2.0〜3.0程度になる。
【0047】
以上に述べた発明者らの検討結果を反映した、本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0048】
本発明の好適な一実施例である実施例1の沸騰水型原子力プラント(BWRプラント)の被ばく低減方法を、図1を用いて説明する。
【0049】
本実施例のBWRプラント1は、原子炉2、タービン11、復水器12及び給水配管17を備えている。原子炉2は、原子炉圧力容器(以下、RPVという)3及びRPV3内に配置された炉心4を有する。より高燃焼度化された複数の燃料集合体5が炉心4に装荷されている。燃料集合体5は、核燃料物質で構成された複数の燃料ペレットをジルコニウム合金製の燃料被覆管内に充填している複数の燃料棒を有する。炉水と接する燃料被覆管40の外面には、ダイヤモンド皮膜41が形成されている(図2参照)。複数のジェットポンプ7がRPV3と炉心4の間に形成された環状のダウンカマ8内に配置されている。RPV3に接続された主蒸気配管10はタービン11に接続される。給水配管17は、復水器12とRPV3を連絡している。二重式腹水脱塩器13、低圧給水加熱器15、給水ポンプ14及び高圧給水加熱器16が、この順に上流より給水配管17に設置される。二重式腹水脱塩器13は中空糸フィルタ(復水フィルタ)(図示せず)及び脱塩器(図示せず)を有している。中空糸フィルタの代わりに、プリーツフィルターあるいはろ過脱塩装置を用いてもよい。ろ過脱塩装置は、粉末イオン交換樹脂を給水が通過可能な支持部材にプリコートして構成されている。鉄注入装置23及び酸素注入装置24が給水配管17に接続される。
【0050】
二重式腹水脱塩器13の中空糸フィルタは、給水に含まれる、復水器からの鉄を除去する。しかしながら、中空糸フィルタの除鉄性能が高く中空糸フィルタは給水に含まれる鉄をほぼ100%除去する。このため、炉水の鉄濃度を制御するFe/Ni比制御の場合には、一部の中空糸フィルタをバイパスして鉄を供給するか、鉄注入装置を用いて鉄を供給する。また、酸素注入装置24は、炭素鋼製の給水配管17の腐食減肉を防ぐために30〜50ppb程度の酸素を給水に溶存させるために設けられる。
【0051】
BWRプラント1に設けられた再循環系は、再循環系配管9及び再循環系配管9に設けられた再循環ポンプ10を有している。再循環系配管9の一端は、ダウンカマ8内に配置されたジェットポンプ7のノズル(図示せず)に接続されるライザ管(図示せず)に接続される。再循環系配管9の他端は、RPV3に設けられたノズル(図示せず)に接続され、ダウンカマ8に連絡される。ダウンカマ8は、原子炉圧力容器3と炉心4を取り囲む炉心シュラウドの間に形成される。炉水浄化系は、炉水浄化系配管18、及び炉水浄化系配管18に設置された再生熱交換器19、ポンプ20、非再生熱交換器21及び炉水浄化装置22を有する。炉水浄化系配管18は再循環系配管9及び給水配管17に接続される。RPV3の底部に接続されたドレン配管が、再生熱交換器19の上流で炉水浄化系配管18に接続される。サンプリング配管25が給水配管17に接続され、サンプリング配管26が炉水浄化系配管17に接続され、サンプリング配管27が主蒸気配管10に接続される。
【0052】
炉心4に装荷された燃料集合体5に含まれる燃料棒(図示せず)に用いられた燃料被覆管の外面にダイヤモンド皮膜を形成する方法を、図2を用いて説明する。燃料被覆管の外面へのダイヤモンド皮膜の形成には、図2に示す皮膜形成装置30が用いられ、CVDが適用される。皮膜形成装置30は具体的には気相合成装置である。皮膜形成装置30は燃料製造工場内に設置されており、燃料被覆管の外面へのダイヤモンド皮膜の形成は燃料製造工場内で行われる。
【0053】
皮膜形成装置30は、チャンバー31、マイクロ波キャビティ32、マイクロ波発生器33、原料ガス供給系36、皮膜形成対象物移送装置37及び真空排気管38を備えている。原料ガス供給系36は原料ガス供給管35を含んでいる。この原料ガス供給管35がチャンバー31の上端に接続され、マイクロ波キャビティ32がチャンバー31に取り付けられて原料ガス供給管35を取り囲んでいる。原料ガス供給管35のマイクロ波キャビティ32で取り囲まれている部分は、石英管で構成されている。マイクロ波キャビティ32がケーブル34によりマイクロ波発生器33に接続される。真空ポンプ60に接続された真空排気管38がチャンバー31の上端部に接続される。真空排気管38のチャンバー31への接続箇所は、複数存在する。多段の差動排気が可能な真空排気系が真空排気管38及び真空ポンプにより構成される。皮膜形成対象物移送装置(例えば、コンベア装置)37が、チャンバー31に設けられ、チャンバー31を貫通している。
【0054】
皮膜形成装置30である気相合成装置は、CVD(化学蒸着法)を適用している。CVDは高真空でなくても適用が可能であるため、CVDを適用した皮膜形成装置30が小型化される。さらに、CVDは、皮膜形成対象物である燃料被覆管の表面の多少の粗さの影響を受けず、かつ皮膜形成速度が速いので、燃料被覆管(または燃料棒)のような長尺物の表を全面に皮膜を形成するのに適している。
【0055】
燃料被覆管40にダイヤモンド皮膜を形成する際には、事前に、真空ポンプを駆動して、チャンバー31内の空気を、真空排気管38を通して排気し、チャンバー31内を負圧に減圧する。皮膜形成対象物である燃料被覆管40は、皮膜形成対象物移送装置37上に置かれている。燃料被覆管40は、皮膜形成対象物移送装置37の駆動により、チャンバー31内に移送される。
【0056】
チャンバー31内に移送された燃料被覆管40の外面に形成されるダイヤモンド皮膜41の形成に用いられる原料ガスが、原料ガス供給管35により供給される。原料ガスはメタンを1〜30%含む水素ガスである。この原料ガスに、酸素、一酸化炭素あるいは二酸化炭素を数%混ぜても良い。酸素、一酸化炭素あるいは二酸化炭素の混合によって、燃料被覆管40の外面に形成されるダイヤモンド皮膜41へのススなどの付着を抑えることができ、形成されるダイヤモンド皮膜の膜質を向上させることができる。また、水素ガスの代わりにアルゴンと水素の混合ガスを使用しても良い。アルゴンガスの使用によって燃料被覆管40の外面上でのダイヤモンド皮膜の成長速度を制御することができる。ダイヤモンド皮膜の成長速度を高めるには、ダイヤモンドの種となるメタンラジカルの供給量を多くすると良い。このため、そのダイヤモンド皮膜の成長速度は、上記の混合ガスの供給圧力を大きくなるようにして制御する。混合ガス中のアルゴン濃度を高くすることにより、クエンチングによりメタンラジカルの生成が増加する。
【0057】
マイクロ波発生器33で発生した2.45GHzのマイクロ波が、ケーブル34を通してマイクロ波キャビティ32に導かれる。マイクロ波キャビティ32は、このマイクロ波を、原料ガス供給管35の一部である石英管内を流れる原料ガスに照射する。マイクロ波を照射された原料ガスは、石英管内でプラズマになる。マイクロ波キャビティ32内の原料ガス供給管35が石英管になっているので、マイクロ波キャビティ32から石英管内の原料ガスに照射されるマイクロ波がこの原料ガスに吸収され易くなり、それだけ、原料ガスのプラズマ化が促進される。プラズマ状態になった原料ガスは、原料ガスに含まれたメタンが分解して生成された、反応性に富むC及びCHなどの化学種を含んでいる。プラズマ化されてこのような化学種を含む原料ガスが、石英管からチャンバー31内に噴射される。原料ガスのプラズマ化には、マイクロ波キャビティ32及びマイクロ波発生器33の代わりに、高周波コイルを用いても良い。高周波コイルを用いる場合には、高周波コイルを原料ガス供給管35の外面を取り囲むように取り付ける。
【0058】
燃料被覆管40は、皮膜形成対象物移送装置37によって燃料被覆管40の先端部が原料ガス供給管35の真下に位置するように、移動されている。プラズマ状態になった原料ガスが、燃料被覆管40の先端部の外面に向かって原料ガス供給管35から噴射される。
【0059】
スループットとして設定した燃料被覆管40の移動速度に対して、所定の膜圧(例えば1μm)を得られるように原料ガス供給管35によって供給される原料ガスの流量を決め、ポンプ制御装置62による真空ポンプ60の排気速度の調整(またはポンプ制御装置62による、多段の作動排気系の真空排気管38に設けた弁の開度の調整)によってチャンバー31内の内圧を1〜10kPaの範囲内に制御する。原料ガスの炭化水素と水素の比率は予め供給側の圧力と流量で分圧を一定に維持することで制御する。以上によってダイヤモンド膜質を維持する。コーティング速度は現状では毎時1μm程度のオーダーなので、コーティング速度を上げるためにはプラズマ源を複数配置し、同時に多数のコーティングが行えるようにすることでスループットを高めることができる。
【0060】
原料ガス供給管35から噴射された、プラズマ化された原料ガスが、図2に示す原料ガスの流れ39のように、下方に向かって燃料被覆管40の先端部の外面に沿って流れる。このとき、メタンから生成した反応性に富む化学種が燃料被覆管40の外面に付着して反応し、燃料被覆管40の外面にダイヤモンド構造が生成される。これにより、ダイヤモンド構造が皮膜へと成長し、燃料被覆管40の外面にダイヤモンド皮膜が形成される。燃料被覆管40は、外面に設定された皮膜厚み(例えば、1μm)のダイヤモンド皮膜が燃料被覆管40の外面に形成されるように、燃料被覆管40の軸方向において燃料被覆管40の一端から他端に向かって(図2では右から左に向かって)、皮膜形成対象物移送装置37によって移動される。チャンバー31内で燃料被覆管40の軸方向に移動させることにより、燃料被覆管40の軸方向の全長に亘って、燃料被覆管40の外面に均一な厚みのダイヤモンド皮膜41を形成することができる。
【0061】
原料ガス供給管35から噴射された、プラズマ化された原料ガスは、燃料被覆管40の周方向において、原料ガス供給管35とは反対側の外面にも回り込むので、燃料被覆管40の周方向においても、全周に亘って燃料被覆管40の外面にイヤモンド皮膜41が形成される。もし、原料ガス供給管35とは反対側の外面に回り込む原料ガスが不足してその反対側の外面にダイヤモンド皮膜が形成されない場合、及び原料ガスが原料ガス供給管35とは反対側の外面に回り込んだとしても、燃料被覆管40の周方向においてその外面に形成されたダイヤモンド皮膜41の厚みが不均一になる場合には、原料ガス供給管35からプラズマ化された原料ガスが噴出されている状態で、燃料被覆管40を回転すればよい。この回転によって、燃料被覆管40の外面に形成されたダイヤモンド皮膜41の厚みは、燃料被覆管40の周方向において均一化される。
【0062】
このとき、メタンを1〜30%含む水素ガスを、内圧1〜10kPaの条件下で2.45GHzのマイクロ波を照射することでプラズマ化することによって、燃料被覆管に噴射すると表面にはダイヤモンド(バンドギャップ5.5eV、比重3.52)が生成する。ダイヤモンドの生成にはSPネットワークを形成し易いメタンラジカルの生成が重要であるので、できるだけ電子温度を下げメタンラジカルが分解しないようにする必要がある。それには原子状の水素を用いてSPのグラファイト成分を除去する方法を用いる。したがって、水素が少ないとダイヤモンドライクカーボンの比率が高くなり、バンドギャップや比重がダイヤモンドの値から低下する。したがって、多量の水素にメタンが1〜30%含まれた状態でプラズマ化する必要がある。さらに、燃料被覆管の温度を150〜200℃の範囲に制御することで緻密なダイヤモンドを形成する。
【0063】
軸方向の全長に亘って外面へのダイヤモンド皮膜41の形成が終了した燃料被覆管40は、皮膜形成対象物移送装置37により移動され、チャンバー31外に取り出される。皮膜形成装置30では、皮膜形成対象物である燃料被覆管40をチャンバー31の一端からチャンバー31内に移送し、チャンバー31内で燃料被覆管40の外面にダイヤモンド皮膜41を形成し、その後、ダイヤモンド皮膜41が外面に形成された燃料被覆管40をチャンバー31の他端から外部に取り出すので、複数の燃料被覆管40に対するダイヤモンド皮膜の形成作業を連続して行うことができる。このため、本実施例におけるダイヤモンド皮膜41の形成は、連続して実施できるので、バッチ式での処理に比べてスループットが大きくなる。
【0064】
皮膜形成対象物移送装置37の上に水平方向に並列に複数本の燃料被覆管40を並べてこれらの燃料被覆管40を同時にチャンバー31内で移動させ、燃料被覆管40ごとに設けられた、原料ガス供給管35の原料ガス噴射口から、それぞれの燃料被覆管40に向かって、プラズマ状態になった原料ガスをそれぞれ噴射することによって、複数の燃料被覆管40に対して同時にダイヤモンド皮膜を形成することができる。
【0065】
チャンバー31から取り出されて外面にダイヤモンド皮膜41が形成された燃料被覆管40を用いて、燃料集合体が燃料製造工場内で製造される。燃料被覆管40の一端に下部端栓が溶接され、複数の燃料ペレットが開放されている他端より燃料被覆管40内に充填される。さらに、コイルバネ等の必要な部品が燃料被覆管40内に挿入される。上部端栓が燃料被覆管40の他端に溶接され、燃料被覆管40は複数のペレットを収納した状態で密封される。以上の工程により燃料棒が完成する。
【0066】
複数の燃料棒の下端部が下部タイプレートに保持され、それらの燃料棒の上端部が上部タイプレートで保持される。これらの燃料棒は、軸方向の複数箇所で、複数の燃料スペーサによって相互の間隔が所定の間隔になるように保持されている。燃料スペーサで束ねられた複数の燃料棒の周囲を取り囲むチャンネルボックスが、上部タイプレートに取り付けられる。外面にダイヤモンド皮膜41が形成された複数の燃料棒を有する燃料集合体5が完成する。燃料集合体5の横断面の中央部には水ロッドが配置されている。より高燃焼度化された燃料集合体5は、濃縮度をより高めた核燃料物質で製造された燃料ペレットを燃料棒内に収納することによって実現可能である。
【0067】
以上のようにして製造された複数の燃料集合体5は、BWRプラント1の運転を停止した後の定期検査の期間において、RPV3の炉心4に装荷される。すなわち、RPV3の蓋(図示せず)が取り外され、RPV3内に設置されている蒸気乾燥器及び気水分離器等がRPV3内に取り出される。炉心4に装荷されている複数の燃料集合体5のうち寿命が来た複数の燃料集合体(使用済燃料集合体)5が取り出され、RPV3外の燃料貯蔵プール(図示せず)に移送される。外面にダイヤモンド皮膜41が形成された複数の燃料棒を有する新しい複数の燃料集合体5が、炉心4に装荷される。このような燃料交換が終了し、定期検査が終了した後、取り出された機器がRPV3内に設置され、RPV3に蓋が取り付けられる。そして、定期検査が終了した後、BWRプラント1の運転が開始される。
【0068】
BWRプラント1が運転されているとき、再循環ポンプ10の駆動によりRPV3内のダウンカマ8から再循環系配管9内に吸引された炉水は、再循環ポンプ10で昇圧され、ライザ管を通ってジェットポンプ7のノズルから噴出される。ノズルの周囲でダウンカマ8内に存在する炉水が、そのノズルからの噴出流によってジェットポンプ内に吸い込まれ、ジェットポンプから吐出されて炉心4に導かれる。この炉水は、燃料集合体5内の各燃料棒の間を上昇する間に、各燃料棒内に存在する核燃料物質の核分裂によって発生する熱で加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、RPV3内の気水分離器(図示せず)及び蒸気乾燥器(図示せず)で水分を除去されて主蒸気配管10を通ってタービン11に導かれ、タービン11を回転させる。タービン11に連結された発電機(図示せず)が回転して電力が発生する。タービン11から排気された蒸気は、復水器12で凝縮される。この凝縮によって発生した水は、給水として、給水ポンプ14で昇圧されて低圧給水加熱器15及び高圧給水加熱器16で加熱され、給水配管17によりRPV3内のダウンカマ8に供給される。
【0069】
復水器12から流出した給水は、給水配管17により二重式腹水脱塩器13に導かれる。二重式腹水脱塩器13は、復水器12内で発生して給水に含まれている腐食生成物(例えば、鉄酸化物である三酸化二鉄)を除去する。二重式腹水脱塩器13内に設置した中空糸フィルタは除鉄性能が高いので、二重式腹水脱塩器13から排出された給水に含まれる鉄酸化物の濃度は、1×10−9mol/kg以下に抑制される。このため、給水と共にRPV3内に持ち込まれる鉄酸化物の濃度が低下する。また、二重式腹水脱塩器13内の復水脱塩器は、復水器12において伝熱管(図示せず)内を流れて蒸気の凝縮に使用される海水が漏洩したとき、海水成分(ナトリウムイオン及び塩化物イオン)がRPV3内に流入するのを防ぐためにその海水成分を除去する。現在のBWRプラントでは、給水が二重式腹水脱塩器13内の中空糸フィルタの一部をバイパスする構成、または鉄注入装置23を用いたりすることによって、給水の鉄濃度を所定値に制御している。
【0070】
本実施例では、炉心に装荷された燃料集合体5の燃料棒の外面(燃料被覆管40の外面)に形成されたダイヤモンド皮膜41の炉水に接触する外面で、炉水が沸騰して気泡が生じ(図3に示された(a)の状態に相当)、薄膜が蒸発して(図3に示された(b)の状態に相当)、コバルト酸化物47がダイヤモンド皮膜41の表面に析出して付着したとしても、図3の(4)の状態のように、コバルト酸化物47はダイヤモンド皮膜41の表面から剥離する。このため、炉水に含まれるコバルト酸化物47が燃料被覆管40の外面に形成されたダイヤモンド皮膜41の表面に付着している時間は僅かであり、コバルト酸化物47に含まれるコバルトの、核分裂で発生する中性子による放射化が低減される。炉水に含まれるクラッドがダイヤモンド皮膜41の表面に付着しても、コバルト酸化物47と同様に、短時間にダイヤモンド皮膜41の表面から剥離される。このため、クラッドの中性子による放射化も低減される。
【0071】
本実施例によれば、炉心4に配置された各燃料棒の燃料被覆管40の外面がダイヤモンド皮膜41によって被覆されているので、燃料被覆管40の外面が高温の炉水に直接曝されることを防ぐことができる。クラッド及びコバルト酸化物47のジルコニウム合金製の燃料被覆管40の外面への固着を著しく抑制することができる。
【0072】
したがって、燃料被覆管40の外面にダイヤモンド皮膜41を形成するので、燃焼度がさらに増大した燃料集合体5を炉心4に装荷した場合であっても、原子力プラント1の運転停止後において定期検査を実施する作業員の放射線被ばくをさらに低減することができる。
【0073】
さらには、燃料棒40の外面に形成されたダイヤモンド皮膜41の硬度がほかの物質よりも高いため、フレッチング及びデブリによる燃料被覆管40の外面への傷つきも抑制できる。さらに、クラッドの付着抑制は腐食を抑えることによって達成されるため、燃料被覆管40の酸化及び水素吸収も同時に低減することができる。
【0074】
皮膜形成対象物移送装置37の上に燃料被覆管40の代わりに、ダイヤモンド皮膜41を外面に形成していない燃料被覆管40を用いて燃料被覆管40内に複数の燃料ペレットを充填して前述したように製造された燃料棒を、皮膜形成対象物移送装置37の上に置いてチャンバー31内に移送し、原料ガス供給管35から噴射された、プラズマ状態になっている原料ガスを、燃料棒の外面に接触させることによって、燃料皮膚管40の場合と同様に、燃料棒の外面にダイヤモンド皮膜41を形成しても良い。燃料棒の外面にダイヤモンド皮膜41を形成することによって、燃料被覆管40の外面にダイヤモンド皮膜41を形成した場合には不可能であった、燃料被覆管40の両端での各端栓との溶接部、及び各端栓のそれぞれの表面にも、ダイヤモンド皮膜41を形成することができる。このため、端栓との溶接部及び端栓にクラッド及びコバルト酸化物が固着することを防止することができるので、ダイヤモンド皮膜を形成した燃料被覆管を用いて燃料棒を作成した場合に比べて、定期検査時における作業員の被ばくをさらに低減することができる。
【0075】
燃料被覆管40の外面にダイヤモンド皮膜を形成する他の方法を、以下に説明する。このダイヤモンド皮膜の形成方法は、物理蒸着法である。物理蒸着法(PVD)を実施するためには、図7に示す皮膜形成装置30Aが用いられる。
【0076】
皮膜形成装置30Aは、CVD(化学蒸着法)を適用する皮膜形成装置30においてマイクロ波キャビティ32及びマイクロ波発生器33をフィラメント55及びフィラメント用電源56に替え、放電用陰極57、放電用陽極58及び放電用電源59を追加した構成を有する。皮膜形成装置30Aの他の構成は皮膜形成装置30と同じである。
【0077】
フィラメント55がチャンバー31の近くで原料ガス供給管35内に配置されており、フィラメント55はケーブル60によってフィラメント用電源56に接続される。放電用陰極57及び放電用陽極58が、原料ガス配管35の原料ガス噴出口付近でチャンバー31内に設置されている。放電用陰極57及び放電用陽極58は放電用電源59に接続され、この放電用電源59はチャンバー31内に挿入される皮膜形成対象物である燃料被覆管40にも接続される。
【0078】
皮膜形成装置30Aを用いた燃料被覆管40の外面へのダイヤモンド皮膜41の形成について説明する。皮膜形成装置30Aを用いたダイヤモンド皮膜41の形成も、燃料製造工場で行われる。
【0079】
皮膜形成装置30Aを用いて燃料被覆管40の外面にダイヤモンド皮膜41を形成する際にも、真空ポンプ及び真空排気管38を用いてチャンバー31内を負圧に減圧する。皮膜形成対象物移送装置37によって燃料被覆管40がチャンバー31内に移送される。燃料被覆管40の先端部が、原料ガス供給管35の真下に位置している。ダイヤモンド皮膜41の形成に用いられる原料ガスは、ベンゼンなどの炭化水素と水素の混合ガスでありベンゼンが1〜30%含まれている。原料ガス供給管35により供給される。原料ガス供給管35内のフィラメント55に、フィラメント用電源56からケーブル60を通して電圧が印加される。原料ガス中のベンゼンなどの炭化水素が、数十〜100V程度の電圧が印加されたフィラメント55に接触することによって熱分解され、炭素原子ないし炭素分子が生成される。炭素原子ないし炭素分子を含む原料ガスが、原料ガス配管35の原料ガス噴出口からチャンバー31内に噴射される。
【0080】
チャンバー31内で原料ガス供給管35から噴射された原料ガスが通る流路に配置された放電用陰極57と放電用陽極58の間には、放電用電源59から60〜100Vの電圧が印加されている。原料ガス供給管35から噴射された原料ガスに含まれた炭素原子ないし炭素分子および水素分子は、放電用陰極57と放電用陽極58の間に印加された電圧の作用により、イオン化される。
【0081】
このとき、放電用電源59から燃料被覆管40に対してマイナス側のバイアス電圧を100〜2000Vの範囲で印加することによって、放電用陰極57及び放電用陽極58から燃料被覆管40に向かって炭素イオンの流れが生じる。このようにイオン化した炭素を加速するので本法はPVDに分類される。燃料被覆管40に印加するバイアス電圧は、燃料被覆管40の外面に形成するダイヤモンド皮膜41の厚みに応じて調整される。燃料被覆管40に向かって加速された炭素イオンが、燃料被覆管40の外面に付着して反応し、燃料被覆管40の外面にダイヤモンド構造が生成される。グラファイト構造は水素イオンの衝突によって除去される。これにより、ダイヤモンド構造が皮膜へと成長し、燃料被覆管40の外面にダイヤモンド皮膜が形成される。実施例1における皮膜形成装置30の場合と同様に、外面に設定された皮膜厚み(例えば、1μm)のダイヤモンド皮膜が燃料被覆管40の外面に形成されるように、皮膜形成対象物移送装置37によって燃料被覆管40の軸方向への移動速度を調節する。このとき、実施例1と同様に、ポンプ制御装置62による真空ポンプ60の排気速度の調整も行われる。燃料被覆管40の軸方向の全長に亘ってダイヤモンド皮膜41が形成されたとき、この燃料被覆管40に対するダイヤモンド皮膜41の形成作業が終了する。
【0082】
外面にダイヤモンド皮膜41が形成された燃料被覆管40を用いた燃料棒の製造、及びこの燃料棒を用いた燃料集合体の製造は、前述したように行われる。
【0083】
皮膜形成装置30Aで形成されたダイヤモンド皮膜41を外面に有する燃料被覆管40を備えた燃料集合体を、炉心4に装荷することによっても、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
【0084】
皮膜形成装置30Aにおいても、皮膜形成装置30と同様に、燃料棒の外面にダイヤモンド皮膜41を形成することができる。このとき、ベンゼンのような炭化水素系ダイヤモンド原料ガスを内圧0.01〜0.1Paの高真空条件下で使用し、原料ガスをフィラメントで分解、イオン化したのち電場で加速して燃料被覆管に衝突させることによって、燃料被覆管表面にダイヤモンド(バンドギャップ5.5eV、比重3.52)が生成する。このとき水素雰囲気とすることでsp2結合を有するグラファイト成分が除去されるため、ダイヤモンドライクカーボンの比率を下げバンドギャップや比重がダイヤモンドの値に近づく。
【0085】
PVDを適用することによる燃料被覆管の外面へのダイヤモンド皮膜の形成は、レーザーアブレーションまたは加速粒子によってグラファイトをスパッタすることによって炭素原子をたたき出し、皮膜形成対象物にバイアス電圧をかけて皮膜形成対象物の表面にダイヤモンド皮膜を形成しても良い。この場合、さらに、生成したダイヤモンド膜中の水素の含有を抑えることができる。
【0086】
PVDによるダイヤモンド皮膜の形成は、CVDによるダイヤモンド皮膜の形成と比較して、ダイヤモンド皮膜の形成温度が低温で済むために燃料被覆管への熱的影響が少なくなり、さらに、不純物としての水素の含有が少ないという利点である。
【0087】
ダイヤモンド皮膜を外面に形成した燃料被覆管を有する燃料棒は、加圧水型原子力プラントの炉心に装荷される燃料集合体に用いることができる。
【符号の説明】
【0088】
1…沸騰水型原子力プラント、3…原子炉圧力容器、4…炉心、5…燃料集合体、10…主蒸気配管、11…タービン、12…復水器、13…二重式復水脱塩器、17…給水配管、30,30A…皮膜形成装置、31…チャンバー、32…マイクロ波キャビティ、33…マイクロ波発生器、35…原料ガス供給管、37…皮膜形成対象物移送装置、38…真空排気管、40…燃料被覆管、41…ダイヤモンド皮膜、55…フィラメント、56…フィラメント用電源、57…放電用陰極、58…放電用陽極、59…放電用電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面にダイヤモンド皮膜を形成した燃料被覆管を用いた複数の燃料棒を有する燃料集合体を、原子炉の炉心内に装荷し、その後、原子炉を運転することを特徴とする原子力プラントの被ばく低減方法。
【請求項2】
前記燃料被覆管として1μm〜100μmの範囲内にある厚みを有する前記ダイヤモンド皮膜が形成された前記燃料被覆管が用いられている請求項1に記載の原子力プラントの被ばく低減方法。
【請求項3】
前記燃料被覆管として前記ダイヤモンド皮膜に含まれるダイヤモンドのバンドギャップが5〜5.5eVの範囲内にある前記ダイヤモンド皮膜が形成された前記燃料被覆管が用いられている請求項2に記載の原子力プラントの被ばく低減方法。
【請求項4】
前記燃料被覆管として前記ダイヤモンド皮膜に含まれるダイヤモンドの比重が3.4〜3.52の範囲内にある前記ダイヤモンド皮膜が形成された前記燃料被覆管が用いられている請求項2または3に記載の原子力プラントの被ばく低減方法。
【請求項5】
前記ダイヤモンド皮膜をジルコニウム合金製の前記燃料被覆管の外面に形成される請求項1ないし4のいずれか1項に記載の原子炉プラントの被ばく低減方法。
【請求項6】
前記燃料被覆管の外面への前記ダイヤモンド皮膜の形成が、化学蒸着法及び物理蒸着法のいずれかによって行われる請求項1ないし5のいずれか1項に記載の原子炉プラントの被ばく低減方法。
【請求項7】
外面にダイヤモンド皮膜を形成した燃料被覆管内に核燃料物質を充填した複数の燃料棒と、これらの燃料棒を束ねる複数の燃料スペーサと、前記各燃料棒の下端部を保持する下部保持部材と、前記各燃料棒の上端部を保持する上部保持部材とを備えることを特徴とする燃料集合体。
【請求項8】
前記ダイヤモンド皮膜の厚みが1μm〜100μmの範囲内にある請求項7に記載の燃料集合体。
【請求項9】
前記ダイヤモンド皮膜に含まれるダイヤモンドのバンドギャップが5〜5.5eVの範囲内にある請求項8に記載の燃料集合体。
【請求項10】
前記ダイヤモンド皮膜に含まれるダイヤモンドの比重が3.4〜3.52の範囲内にある請求項8または9に記載の燃料集合体。
【請求項11】
外面にダイヤモンド皮膜を形成した燃料被覆管を用いた複数の燃料棒、これらの燃料棒を束ねる複数の燃料スペーサ、前記各燃料棒の下端部を保持する下部保持部材、及び前記各燃料棒の上端部を保持する上部保持部材を有する複数の燃料集合体を装荷した炉心と、前記炉心に炉水を供給するポンプ装置とを備えることを特徴とする原子力プラント。
【請求項12】
前記ダイヤモンド皮膜の厚みが1μm〜100μmの範囲内にある請求項11に記載の原子力プラント。
【請求項13】
前記ダイヤモンド皮膜に含まれるダイヤモンドのバンドギャップが5〜5.5eVの範囲内にある請求項12に記載の原子力プラント。
【請求項14】
前記ダイヤモンド皮膜に含まれるダイヤモンドの比重が3.4〜3.52の範囲内にある請求項12または13に記載の原子力プラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−167981(P2012−167981A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28318(P2011−28318)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)