原子力プラント構成部材の線量低減方法
【課題】応力腐食割れを抑制でき、フェライト皮膜への放射性核種の取り込みを抑制できる原子力プラント構成部材の線量低減方法を提供する。
【解決手段】原子力プラントの停止期間で、皮膜形成対象の再循環系配管に皮膜形成装置を接続し(S1)、鉄(II)イオン、過酸化水素及びヒドラジンを含むpHが5.5〜9.0の範囲内にある皮膜形成液を再循環配管に供給する。再循環系配管の内面にフェライト皮膜が形成される(S3)。皮膜形成装置を再循環系配管から取り外し、原子力プラントを起動する。昇温昇圧時に炉水の放射線分解で生成した酸化性化学種を含む炉水が上記フェライト皮膜表面に接触し、フェライト皮膜表面にヘマタイト皮膜が形成される。その後、再循環系配管の腐食電位が−0.5Vになる第1状態とその腐食電位が−0.2V乃至+0.2Vの範囲内になる第2状態が交互に繰り返えされる(S12,S13)。
【解決手段】原子力プラントの停止期間で、皮膜形成対象の再循環系配管に皮膜形成装置を接続し(S1)、鉄(II)イオン、過酸化水素及びヒドラジンを含むpHが5.5〜9.0の範囲内にある皮膜形成液を再循環配管に供給する。再循環系配管の内面にフェライト皮膜が形成される(S3)。皮膜形成装置を再循環系配管から取り外し、原子力プラントを起動する。昇温昇圧時に炉水の放射線分解で生成した酸化性化学種を含む炉水が上記フェライト皮膜表面に接触し、フェライト皮膜表面にヘマタイト皮膜が形成される。その後、再循環系配管の腐食電位が−0.5Vになる第1状態とその腐食電位が−0.2V乃至+0.2Vの範囲内になる第2状態が交互に繰り返えされる(S12,S13)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力プラント構成部材の線量低減方法に係り、特に、沸騰水型原子力プラントに適用するのに好適な原子力プラント構成部材の線量低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWRプラントという)は、原子炉圧力容器(RPVと称する)内に炉心を内蔵した原子炉を有する。再循環ポンプ(またはインターナルポンプ)によって炉心に供給された冷却水は、炉心内に装荷された燃料集合体内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、原子炉からタービンに導かれ、タービンを回転させる。タービンから排出された蒸気は、復水器で凝縮され、水になる。この水は、給水として原子炉に供給される。給水は、原子炉内での放射性腐食生成物の発生を抑制するため、給水配管に設けられたろ過脱塩装置で主として金属不純物が除去される。
【0003】
また、放射性腐食生成物の元となる腐食生成物が、RPV及び再循環系配管等のBWRプラントの構成部材の接水部から発生するため、主要な一次系の構成部材には腐食の少ないステンレス鋼及びニッケル基合金などの不銹鋼が使用されている。また、低合金鋼製のRPVは内面にステンレス鋼の肉盛りが施され、低合金鋼が、直接、炉水と接触することを防いでいる。炉水とは、原子炉内に存在する冷却水である。さらには、炉水の一部を原子炉浄化系のろ過脱塩装置によって浄化し、炉水に僅かに含まれた金属不純物を積極的に除去している。
【0004】
しかし、上述のような腐食対策を講じても、炉水中における極僅かな金属不純物の存在が避けられないため、一部の金属不純物が、金属酸化物として、燃料集合体に含まれる燃料棒の表面に付着する。燃料棒表面に付着した金属不純物(例えば、金属元素)は、燃料棒内の核燃料物質の核分裂により放出される中性子の照射によって原子核反応を起こし、コバルト60,コバルト58,クロム51,マンガン54等の放射性核種になる。
【0005】
これらの放射性核種は、大部分が酸化物の形態で燃料棒表面に付着したままである。しかしながら、一部の放射性核種は、取り込まれている酸化物の溶解度に応じて炉水中にイオンとして溶出したり、クラッドと呼ばれる不溶性固体として炉水中に再放出されたりする。炉水中の放射性物質は、原子炉に接続された原子炉浄化系によって取り除かれる。原子炉浄化系で除去されなかった放射性物質は炉水とともに再循環系などを循環している間に、原子力プラントの構成部材(例えば、配管)の炉水と接触する表面に蓄積される。その結果、構成部材の表面から放射線が放射され、定検作業時の従事者の放射線被曝の原因となる。
【0006】
その従業者の被曝線量は、各人毎に規定値を超えないように管理されている。近年この規定値が引き下げられ、各人の被曝線量を可能な限り低くする必要が生じている。
【0007】
そこで、配管の炉水と接触する表面への放射性核種の付着を低減する方法、及び炉水中の放射性核種の濃度を低減する方法が様々検討されている。例えば、特開2006−38483号公報、特開2007−192745号公報及び特開2007−24644号公報には、原子力プラント構成部材の炉水と接触する表面にフェライト皮膜であるマグネタイト皮膜を形成し、その構成部材への放射性核種の付着を抑制する方法が提案されている。構成部材の炉水と接触する表面へのフェライト皮膜の形成によって、原子力プラントの運転開始後において、その構成部材の表面に放射性核種が付着することが抑制される。この放射性核種付着抑制方法では、鉄(II)イオンを含むギ酸水溶液,過酸化水素及びヒドラジンを含み、常温から100℃の範囲に加熱された処理液を、その構成部材の表面に接触させてその表面にフェライト皮膜を形成する。
【0008】
特開2000−105295号公報には、酸化除染及び還元除染を含む化学除染が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−38483号公報
【特許文献2】特開2007−192745号公報
【特許文献3】特開2007−24644号公報
【特許文献4】特開2000−105295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特開2006−38483号公報に記載された原子力プラント構成部材への放射性核種の付着抑制方法は、フェライト皮膜を形成して原子力プラント構成部材の腐食を抑制し、腐食皮膜の成長に伴って生じる放射性核種の付着を抑制して原子力発電プラントの再循環配管の表面線量率を低減することができる。発明者らは、特開2006−38483号公報に記載された方法により原子力プラント構成部材の表面に形成されたフェライト皮膜の線量低減について詳細な検討を行った。この結果、作成されたフェライト皮膜自身への放射性核種の付着は、腐食皮膜の成長に伴って生じる放射性核種の付着に比べて非常に少なくなるが、フェライト皮膜自身の溶解再析出の際に、原子力プラント構成部材の表面に形成されているフェライト皮膜への若干の放射性核種の取り込みが認められた。
【0011】
本発明の目的は、原子力プラント構成部材の応力腐食割れが抑制でき、フェライト皮膜への放射性核種の取り込みをさらに抑制することができる原子力プラント構成部材の線量低減方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、原子力プラントの構成部材の表面にフェライト皮膜を形成し、構成部材の腐食電位を−0.2V乃至+0.2Vの範囲内に調節してそのフェライト皮膜の表層部にヘマタイト皮膜を形成し、その後、構成部材の腐食電位が−0.5Vになる第1状態と構成部材の腐食電位が−0.2V乃至+0.2Vの範囲内になる第2状態を交互に繰り返すことにある。
【0013】
構成部材の表面にフェライト皮膜を形成した後、構成部材の腐食電位を−0.2V乃至+0.2Vの範囲内に調節するので、フェライト皮膜の表層部にフェライト皮膜を覆ったヘマタイト皮膜を形成することができ、フェライト皮膜への放射性核種(例えば、放射性Coイオン)の取り込みをさらに抑制することができる。フェライト皮膜の表層部にヘマタイト皮膜が形成された後、構成部材の腐食電位が−0.5Vになる第1状態と構成部材の腐食電位が−0.2V乃至+0.2Vの範囲内になる第2状態を交互に繰り返えすので、フェライト皮膜を覆ったヘマタイト皮膜を持続することができ、構成部材の腐食電位が−0.5Vになる第1状態が生成されることにより、構成部材の応力腐食割れを抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、原子力プラント構成部材の応力腐食割れが抑制でき、原子力プラント構成部材の表面に形成されたフェライト皮膜への放射性核種の取り込みをさらに抑制することができる原子力プラント構成部材の線量をさらに低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の原子力プラント構成部材の線量低減方法の工程を示すフローチャートである。
【図2】図1に示す原子力プラント構成部材の線量低減方法を実施する際に用いられる皮膜形成装置が接続されるBWRプラントの構成図である。
【図3】図2に示される皮膜形成装置の詳細構成図である。
【図4】BWRプラントの起動時における復水器真空度、炉水温度及び原子炉圧力のそれぞれの変化を示す特性図である。
【図5】試験片の表面状態及び浸漬水の水質が試験片へのCo−60の付着量に及ぼす影響を示す説明図である。
【図6】図5に示す第二試験片及び第3試験片に形成された皮膜のラマンスペクトルを示す説明図である。
【図7】本発明の他の実施例である実施例2の原子力プラント構成部材の線量低減方法の工程を示すフローチャートである。
【図8】原子力プラント構成部材の線量低減方法の図7に示す工程が適用される沸騰水型原子力プラントの構成図である。
【図9】給水水素濃度と再循環系配管の腐食電位の関係を示す特性図である。
【図10】本発明の他の実施例である実施例3の原子力プラント構成部材の線量低減方法の工程を示すフローチャートである。
【図11】本発明の他の実施例である実施例4の原子力プラント構成部材の線量低減方法が適用される沸騰水型原子力プラントの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明者らは、原子力プラント構成部材に形成されたフェライト皮膜への放射性核種の取り込みをさらに抑制する方法を検討した。発明者らは、この検討において、特開2006−38483号公報に記載されたフェライト皮膜の放射性核種の付着抑制性能の向上を目指した。
【0017】
そこで、発明者らは、フェライト皮膜へのCo−60の付着条件を確認するために、以下に述べるCo−60実験を行った。この実験には、#600の耐水研磨紙で研磨したステンレス鋼製の試験片(第一試験片)、及びフェライト皮膜を形成したステンレス鋼製の試験片(第二試験片)を用いた。BWRプラントの水素注入条件(以下、HWC条件という)を模擬した、Co−60を含み、温度280℃、圧力7MPa、溶存酸素濃度5ppb以下、溶存水素濃度50ppbの、試験片の腐食電位を−0.5Vにする高温高圧純水(模擬炉水)中に、それらの2種類の試験片を、所定時間、浸漬した。また、フェライト皮膜を形成したステンレス鋼製の別の試験片(第三試験片)を前述の高温高圧純水に12時間浸漬した後、この高温高圧純水に過酸化水素を注入して第三試験片の腐食電位が−0.2Vになるように調整した状態で、過酸化水素を含む高温高圧純水にその第三試験片を50時間浸漬した。さらに、その後、過酸化水素の注入を停止して第三試験片の腐食電位を−0.5Vにし、第三試験片に対する合計の浸漬時間が第一試験片及び第二試験片と同じ浸漬時間になるまで、その高温高圧純水への第三試験片の浸漬を継続した。
【0018】
この所定時間が経過した後、各々の試験片におけるCo−60付着量を測定した。この測定結果を図5に示す。Co−60付着抑制対策としてフェライト皮膜処理のみを行った第二試験片は、フェライト皮膜を形成していない第一試験片に比べて約60%減のCo−60付着抑制効果が見られた。更に、フェライト皮膜処理を行った後、腐食電位が高くなる高温高圧純水に50時間浸漬した第三試験片では第二試験片に比べても約25%減のCo−60付着抑制効果が見られた。この結果について、発明者らは以下のように考察した。
【0019】
第二及び第三試験片におけるフェライト皮膜の形成は、以下のようにして行われる(特開2006−38483号公報参照)。フェライトの材料である鉄(II)イオン、鉄(II)イオンを酸化する過酸化水素、及びフェライト化反応を促進するpH調整剤であるヒドラジンを含む水溶液を、第ニ及び第三試験片の母材であるステンレス鋼材の表面に接触させることにより、(1)式で示す反応が生じ、その表面にフェライトの一種であるマグネタイトの皮膜が形成される。
【0020】
3Fe2++H2O2+6OH- → Fe3O4+4H2O …(1)
このマグネタイトの構造は、Fe(III)[Fe(II)Fe(III)]O4で表される。大括弧の部分は酸素の八面体構造の中心に位置する金属イオンを示しており、マグネタイトではこの部分にFe(II)イオンが存在している。(1)式の反応に基づいて形成されたフェライト皮膜であるマグネタイト皮膜が表面に形成された第二試験片を、HWC条件を満足する上記の高温高圧純水(第二試験片の腐食電位を−0.5Vにする)に浸漬させて得られた第1皮膜(第二試験片に形成)、及びこのマグネタイト皮膜が形成された第三試験片を、第三試験片の腐食電位を−0.5Vにする上記の高温高圧純水に浸漬させ、その後、第三試験片の腐食電位を−0.2Vと−0.5Vに交互に変化させるように過酸化水素濃度の異なる高温高圧純水に浸漬させて得られた第2皮膜(第三試験片に形成)のそれぞれのラマンスペクトルを計測した。
【0021】
計測された第1皮膜及び第2皮膜のラマンスペクトルを図6に示す。高温高圧純水に浸漬する前に形成したマグネタイト皮膜からはマグネタイトのみのピークが観測された(図6の上から3番目のラマンスペクトル参照)。このマグネタイト皮膜を形成して前述の高温高圧純水に浸漬した第二試験片(図6の1番上のラマンスペクトル参照)及び第三試験片(図6の上から2番目のラマンスペクトル参照)では、部位によってスペクトルの形状は異なっていたが、マグネタイトのほかにヘマタイトも観測された。第二試験片では図3に示すようにヘマタイトのピークが見られない部位も観測されたが、第三試験片では観測したすべての部位でヘマタイトのピークが観測された。ヘマタイトの生成はマグネタイトに含まれる鉄(II)イオンが(2)式に示すように鉄(III)イオンへと酸化されたためと考えられる。
【0022】
4Fe3O4+O2→ 6Fe2O3 …(2)
ヘマタイトの生成には酸素及び過酸化水素などの酸化剤が必要であるため、マグネタイトのヘマタイト化では、酸化剤と接触し易いマグネタイト皮膜のごく表層の部分のみがヘマタイト化しているものと考えられる。
【0023】
発明者らは、マグネタイトへのCoイオンの取り込みは、(3)式に示される化学反応のようにイオン交換反応によって行われると考えた。
【0024】
Fe(III)[Fe(II)Fe(III)]O4+Co2+ → Fe(III)[Co(II)Fe(III)]O4+Fe2+ …(3)
一方、ヘマタイトへのCoイオンの取り込みは、(4)式の化学反応のように固相反応によって行われると発明者らは考えた。
【0025】
Co2++2H2O → Co(OH)2+H+ …(4)
Fe2O3+Co(OH)2 → Fe(III)[Co(II)Fe(III)]O4+H2O …(5)
(5)式の反応はコランダム型結晶構造を持つヘマタイトからスピネル型結晶構造を持つマグネタイトへの結晶構造変化を伴う反応であるのに対して、(3)式の反応は結晶構造変化を伴わない反応であり、(5)式の反応が(3)の反応よりも起こり難い。このため、ステンレス鋼材の表面に形成されたマグネタイト皮膜表層のヘマタイト化が進行している、腐食電位を−0.2Vにする高温高圧純水に曝された第三試験片の方が、腐食電位を−0.2Vにする高温高圧純水に曝されていない第二試験片よりもCoの取り込みが抑制されると考えられる。
【0026】
発明者らは、形成されたフェライト皮膜の表層部にヘマタイト皮膜を形成する条件を検討した。この結果、原子力プラント構成部材の表面に形成されたフェライト皮膜の表層部にヘマタイト皮膜を形成するためには、その構造部材の腐食電位を−0.2V〜+0.2Vの範囲内にする水を、フェライト皮膜の表面に接触させる必要があることが分かった。構造部材の腐食電位を−0.2V以上にする水を構造部材の表面に形成されたフェライト皮膜と接触させることによって、マグネタイトよりもヘマタイトが安定化する。従って、通常の水素注入条件である、構造部材の腐食電位を−0.5Vにする水素注入量を減らすことにより生成された、構造部材の腐食電位を−0.2Vにする水をフェライト皮膜に接触させることにより、形成されたフェライト皮膜中のマグネタイトがヘマタイトに化学変化する。一方、構造部材の腐食電位を−0.4V以上−0.2V未満の範囲にする水をフェライト皮膜に接触させた場合には、フェライト皮膜内でのヘマタイトの形成が不完全となる。また、構造部材の腐食電位が+0.2Vを超えることは通常の原子力プラントの運転では考えられないので、腐食電位+0.2Vを上限とした。
【0027】
構造部材の腐食電位を、−0.5Vから、−0.2V〜+0.2Vの範囲へ変更する場合、及び構造部材の腐食電位を−0.2V〜+0.2Vの範囲に調節する場合は、炉水への水素注入量を制御する。構造部材の腐食電位は炉水の溶存水素濃度と酸化剤濃度の比によって変化するが、原子力プラントの型によって溶存水素濃度と酸化剤濃度の比の関係が変化し、これに依存して腐食電位も変化する。このため、構造部材の腐食電位を−0.2Vから+0.2Vに調節する溶存水素濃度は一義的に決まらないが、一般的には、炉水の溶存水素濃度が50ppbを越えると構造部材の腐食電位が−0.5V以下になり、炉水の溶存水素濃度が50ppbを下回ると急激に構造部材の腐食電位が上昇する。炉水の溶存水素濃度の制御は給水への水素注入濃度によって制御できる。図9に給水中の水素濃度と再循環系配管の腐食電位の関係の一例を示す。給水中の水素濃度が0.3ppm〜0.4ppmの範囲で再循環系配管の腐食電位が大きく変化している。給水中の水素濃度が0.3ppmより低い場合には再循環系配管の腐食電位が0.0V以上になり、その水素濃度が0.6ppmより大きい場合はその腐食電位が−0.5V以下となっている。
【0028】
Coイオンの酸化皮膜への取り込み抑制にはマグネタイトよりもヘマタイトの方が有効である。しかしながら、構造部材の応力腐食割れ抑制の観点からは、ヘマタイトが安定化される、構造部材の腐食電位を−0.2V〜+0.2Vの範囲内にする炉水よりも、構造部材の腐食電位を−0.5Vにする炉水を構造部材に形成されたフェライト皮膜に接触させる方が好ましく、構造部材の腐食電位を−0.2V〜+0.2Vの範囲内にする炉水においても、構造部材の腐食電位を−0.2Vにする炉水をそのフェライト皮膜に接触させる方が好ましい。このため、Coイオンの付着抑制及び応力腐食割れの抑制を両立させるためには、ヘマタイトの形成後に、構造部材の腐食電位を−0.5Vにする炉水とフェライト皮膜の接触を維持する必要がある。いったん形成されたヘマタイトは、腐食電位が−0.5Vの環境では、徐々にマグネタイトに還元される。
【0029】
6Fe2O3+2H2 → 4Fe3O4+2H2O ……(6)
そこで、原子力プラントの構成部材の表面に形成された、Coイオンの付着抑制効果を有するヘマタイト層を維持するためには、構成部材の表面に存在する、上記した還元により生成されたマグネタイトを、構造部材の腐食電位を−0.2V〜+0.2Vの範囲にする炉水に再び曝すと良い。従って、Coイオンの付着抑制及び応力腐食割れの抑制を両立させる状態を継続するためには、構成部材の表面に形成されたフェライト皮膜と接触する炉水が、構造部材の腐食電位を−0.2Vから+0.2Vの範囲内にする状態、及び構造部材の腐食電位を−0.5Vする状態を繰り返すように、炉水に注入される水素濃度を調節することにより、原子力プラントの運転を継続することが望ましい。
【0030】
以上に述べた検討結果を反映した本発明の実施例を、以下に説明する。
【実施例1】
【0031】
本発明の好適な一実施例である実施例1の原子力プラント構成部材の線量低減方法を、図1,図2及び図3を用いて説明する。本実施例は、原子力プラント構成部材の線量低減方法をBWRプラントに適用した例である。
【0032】
このBWRプラントの概略構成を、図2を用いて説明する。BWRプラントは、原子炉1、タービン3、復水器4、再循環系、原子炉浄化系及び給水系等を備えている。原子炉格納容器11内に設置された原子炉1は、炉心13を内蔵する原子炉圧力容器(以下、RPVという)12を有し、RPV12内にジェットポンプ14を設置している。炉心13には複数の燃料集合体(図示せず)が装荷されている。各燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットを充填した複数の燃料棒を含んでいる。再循環系は再循環ポンプ21及びステンレス鋼製の再循環系配管22を有し、再循環ポンプ21が再循環系配管22に設置されている。給水系は、復水器4とRPV12を連絡する給水配管10に、復水ポンプ5、復水浄化装置6、低圧給水加熱器8、給水ポンプ7及び高圧給水加熱器9を設置して構成される。水素注入装置16が、復水器4と復水ポンプ5の間で給水配管10に接続されている。原子炉浄化系は、再循環系配管22と給水配管10を連絡する浄化系配管20に、浄化系ポンプ24,再生熱交換器25,非再生熱交換器26及び炉水浄化装置27を設置して構成される。浄化系配管20は、再循環ポンプ21より上流で再循環系配管22に接続される。
【0033】
RPV12内の冷却水(以下、炉水という)は、再循環ポンプ21で昇圧され、再循環系配管22を通ってジェットポンプ14のノズル(図示せず)からジェットポンプ14のベルマウス(図示せず)内に噴出される。ノズルの周囲に存在する炉水も、ノズルから噴出される噴出流の作用により、ベルマウス内に吸引される。ジェットポンプ14から吐出された炉水は、炉心13に供給され、燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱される。加熱された炉水の一部が蒸気になる。この蒸気は、RPV12から主蒸気配管2を通ってタービン3に導かれ、タービン3を回転させる。タービン3に連結された発電機(図示せず)が回転され、電力が発生する。タービン3から排出された蒸気は、復水器4で凝縮され、水になる。
【0034】
この水は、給水として、給水配管10を通りRPV12内に供給される。給水配管10を流れる給水は、復水ポンプ5で昇圧され、復水浄化装置6で不純物が除去され、給水ポンプ7でさらに昇圧され、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9で加熱される。抽気配管15で主蒸気配管2,タービン3から抽気された抽気蒸気が、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9にそれぞれ供給され、給水の加熱源となる。
【0035】
RPV12内の炉水は、核燃料物質の核分裂に伴って発生する放射線の照射を受けて放射線分解を起こし、過酸化水素及び酸素などの酸化性化学種を生ずる。この酸化性化学種によって炉水と接触する構成部材の腐食電位が上昇する。このため、応力腐食割れに対する環境緩和対策として水素注入装置16から給水に水素を注入する。水素を含む給水をRPV12に供給し、RPV12内の炉水中でこの水素と酸化性化学種を反応させることにより、酸化性化学種濃度を低減させて腐食電位を下げる。このように炉水に水素を注入しながら行うBWRプラントの運転を水素注入水質運転(HWC:Hydrogen Water Chemistry)、水素注入を行わないBWRプラントの運転を通常水質運転(NWC:Normal Water Chemistry)と呼んでいる。
【0036】
再循環系配管22内を流れる炉水の一部は、浄化系ポンプ24の駆動によって浄化系配管20内に流入し、炉水浄化装置27で浄化される。浄化された炉水は、浄化系配管20及び給水配管10を経てRPV12内に戻される。
【0037】
BWRプラントは、1つの運転サイクルでの運転が終了した後に停止される。この運転停止後に、BWRプラントに対して定期検査が実施され、この定期検査が終了した後、BWRプラントが再度起動される。この定期検査の期間中において、炉心13内の一部の燃料集合体が新燃料集合体と交換される。すなわち、炉心内の一部の燃料集合体が、使用済燃料集合体としてRPV12から取り出され、燃焼度ゼロの新たな燃料集合体が炉心13に装荷される。
【0038】
BWRプラントの運転が停止されている定期検査の期間中において、RPV12に接続された配管系(例えば、再循環系配管22及び浄化系配管20等)の炉水と接する内面へのフェライト皮膜の形成が行われる。このフェライト皮膜の形成には、仮設の設備である皮膜形成装置30が用いられる。皮膜形成装置30の循環配管35が、BWRプラントの運転が停止された後、皮膜形成対象である、例えば、再循環系配管22に接続される。皮膜形成装置30は、フェライト皮膜の形成後、具体的には、フェライト皮膜の形成に使用した溶液の処理が終了した後、BWRプラントの運転開始前に再循環系配管22から取り外される。皮膜形成装置30は、BWRプラントの運転が停止されている間で、再循環系配管22の内面に形成した放射性核種を含む酸化皮膜の溶解除去、及び酸化皮膜溶解除去後の配管表面へのフェライト皮膜の形成、及びこの皮膜の形成に使用された溶液(廃液)の処理に用いられる。
【0039】
皮膜形成装置30の詳細な構成を、図3を用いて説明する。皮膜形成装置30は、サージタンク31、循環配管35、鉄(II)イオン注入装置81、酸化剤注入装置82、pH調整剤注入装置83、フィルタ54、分解処理装置67、カチオン交換樹脂塔63及び混床樹脂塔65を備えている。開閉弁50、循環ポンプ51、弁52、加熱器56、弁58,59,60、サージタンク31、循環ポンプ32、弁33及び開閉弁34が、上流よりこの順に循環配管35に設けられている。
【0040】
配管69が、弁52をバイパスするように両端で循環配管35に接続される。配管69には、弁53及びフィルタ54が設けられる。加熱器56及び弁58をバイパスする配管70の両端が循環配管35に接続される。冷却器61及び弁62が配管70に設置される。両端が循環配管35に接続されて弁59をバイパスする配管71に、カチオン交換樹脂塔63及び弁64が設置される。両端が配管71に接続されてカチオン交換樹脂塔63及び弁64をバイパスする配管72に、混床樹脂塔65及び弁66が設置される。弁68及び分解処理装置67が設置される配管73が、弁60をバイパスして循環配管35に接続される。分解処理装置67は、内部に、例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。弁36及びエゼクタ37が設けられる配管74が、弁33と循環ポンプ32の間で循環配管35に接続され、さらに、サージタンク31に接続される。化学除染の対象となる配管(例えば、再循環系配管22)の内面の汚染物を酸化溶解するための過マンガン酸カリウム、さらには配管内の汚染物を還元溶解するためのシュウ酸をサージタンク31内に供給するためのホッパ(図示せず)がエゼクタ37に設けられている。化学除染の対象となる配管は、皮膜形成対象の配管(例えば、再循環系配管22)である。
【0041】
鉄(II)イオン注入装置81は、薬液タンク47,弁41,注入ポンプ44及び注入配管75を有する。薬液タンク47は、注入ポンプ44及び弁41が設けられた注入配管75によって循環配管35に接続される。薬液タンク47は、鉄をギ酸で溶解して調製した2価の鉄(II)イオンを含む薬剤(第1の薬剤)が充填されている。この薬剤はギ酸も含んでいる。なお、鉄を溶解させる薬剤としては、ギ酸に限らず、鉄(II)イオンの対アニオンとなる有機酸または炭酸を用いることができる。
【0042】
酸化剤注入装置82は、薬液タンク48,注入ポンプ45,弁42及び注入配管76を有する。薬液タンク48は、注入ポンプ45及び弁42が設置された注入配管76によって循環配管35に接続されている。薬液タンク48には、酸化剤(第2の薬剤)である、例えば、過酸化水素が充填されている。
【0043】
pH調整剤注入装置83は、薬液タンク40,注入ポンプ39,弁38及び注入配管77を有する。薬液タンク40は、注入ポンプ39及び弁38が設置された注入配管77によって循環配管35に接続される。薬液タンク40には、pH調整剤(第3の薬剤)である、例えば、ヒドラジンを充填されている。
【0044】
弁57を設けた配管78が、注入配管76に接続され、さらに、分解処理装置67の上流で配管73に接続される。サージタンク31には、最初に、処理に用いられる水が充填されている。薬液タンク47及びサージタンク31には、それぞれの内部に存在する溶液に含まれる酸素を除去するために、窒素またはアルゴンなどの不活性ガスをその溶液内にバブリングする不活性ガス注入装置(図示せず)を接続することが好ましい。
【0045】
酸化剤注入装置82の注入配管76と循環配管35の第2接続点79、及びpH調整剤注入装置83の注入配管77と循環配管35の第3接続点80は、鉄(II)イオン注入装置81の注入配管75と循環配管35の第1接続点78よりも下流に配置される。pH調整剤注入装置83は、皮膜形成対象箇所にできるだけ近い位置で循環配管35に接続することが好ましい。このように、皮膜形成装置30の配管系統が構成されているので、循環配管35に鉄(II)イオンを注入した後、酸化剤注入装置82及びpH調整剤注入装置83を起動することによって、循環配管35内の鉄(II)イオンを含む水溶液に酸化剤及びpH調整剤を添加することができる。
【0046】
分解処理装置67は、鉄(II)イオンの対アニオンとして使用する有機酸(例えば、ギ酸)、及びpH調整剤であるヒドラジンを分解する。つまり、鉄(II)イオンの対アニオンとしては、廃棄物量の低減化を考慮して水および二酸化炭素に分解できる有機酸、または気体として放出可能で廃棄物を増やさない炭酸を用いている。
【0047】
皮膜形成装置30を用いて再循環系配管22内にフェライト皮膜を形成し、形成されたフェライト皮膜の表層部にプラント起動後にヘマタイト皮膜を形成する腐食電位(−0.2Vから+0.2Vの範囲の腐食電位)と応力腐食割れを抑制する腐食電位(−0.5V)を繰り返して生成する、本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法では、図1に示された各工程が実行される。本実施例におけるBWRプラント構成部材の、炉水と接触する表面へのフェライト皮膜の形成は、BWRプラントの運転を停止した後の、例えば、BWRプラントの定期検査(保守点検)の期間内で行われる。本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法を、図1に示す手順に沿って具体的に説明する。
【0048】
まず、皮膜形成装置30を皮膜形成対象の配管系に接続する(ステップS1)。BWRプラントが定期検査のために停止された後、前述したように、循環配管35が、皮膜形成対象の、例えば、再循環系配管22に接続される。再循環系配管22に接続された浄化系配管20には弁23が設けられている。この弁23のボンネットを開放して浄化系配管20の炉水浄化装置27側を閉鎖する。弁23のフランジに循環配管35の一端を接続する。循環配管35の他端は、再循環ポンプ21よりも下流で再循環系配管22、例えば、再循環系配管22に接続された枝管(ドレン配管または計装配管などを切り離した枝管)に接続される。このようにして、皮膜形成装置30が再循環系配管22に接続される。
【0049】
皮膜形成対象の配管系の内面に対して化学除染を実施する(ステップS2)。運転されたBWRプラントの、炉水と接触する、再循環系配管22の内面には、放射性核種を取り込んだ酸化皮膜(汚染物)が形成されている。このため、運転を経験したBWRプラントでは、配管系の内面にフェライト皮膜を形成する前に、配管系の内面に形成された、放射性核種を取り込んだ酸化皮膜(汚染物)を、除去することが好ましい。皮膜形成対象の配管系へのフェライト皮膜の形成はその配管系への放射性核種の付着抑制を目的とするものであるが、事前にその酸化皮膜を除去することは、形成されたフェライト皮膜が放射性核種を取り込んだ酸化皮膜を覆うことを防ぎ、配管系の線量を低減させることになる。本実施例では、配管系の内面に形成された、放射性核種を取り込んだ酸化皮膜の除去が、化学除染により行われる。
【0050】
ステップS2で実施する化学除染は、公知の方法(特開2000−105295号公報参照)であるが、簡単に説明する。まず、開閉弁50,弁52,58,59,60及び33、及び開閉弁34を開き、他の弁を閉じた状態で、循環ポンプ32,51を起動して、皮膜形成対象である再循環系配管22内にサージタンク31内の水を循環させる。そして、加熱器56によって加熱して、循環する水の温度を約90℃まで昇温させる。エゼクタ37に連絡されたホッパから供給された過マンガン酸カリウムが、弁36を開くことによって配管74内を流れる水により、サージタンク31内に供給される。サージタンク31内で、過マンガン酸カリウムにより酸化除染液が生成される。この酸化除染液は、循環配管35を通って再循環系配管22内に供給され、再循環系配管22の内面に形成されている酸化皮膜などの汚染物を溶解する。このようにして、再循環系配管22の内面の酸化除染が行われる。
【0051】
酸化除染終了後、酸化除染液に残留する過マンガン酸イオンは、上記のホッパからサージタンク31に注入されるシュウ酸によって分解される。サージタンク31内に更にシュウ酸を供給することによって還元除染液が生成される。還元除染液のpH調整のため、弁38を開いて薬液タンク40からヒドラジンを循環配管35内に供給する。ヒドラジンを含む還元除染液が、循環ポンプ32により再循環系配管22内に供給され、再循環系配管22の内面に形成されている酸化皮膜等の汚染物を還元溶解する。還元除染時に、弁64を開くと共に弁59の開度を調整し、還元除染液の一部をカチオン交換樹脂塔63に導く。再循環系配管22の内面から還元除染液中に溶出した金属陽イオンが、カチオン交換樹脂塔63内のカチオン交換樹脂に吸着され、除去される。
【0052】
還元除染の終了後、弁68を開いて循環配管35内を流れる還元除染液の一部を分解処理装置67に供給する。分解処理装置67は、薬液タンク48から配管78を通して供給される過酸化水素、及び活性炭触媒の作用によって還元除染液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンを分解する。シュウ酸及びヒドラジンの分解後、弁58を閉じて加熱を停止し、除染液を冷却器61で冷却して、例えば、60℃まで低下させる。60℃になった除染液が、弁64を閉じて弁66を開くことにより、混床樹脂塔65に供給される。混床樹脂塔65は、分解処理装置67で分解されなかった、除染液に含まれる不純物を除去する。
【0053】
皮膜形成対象箇所の表面にフェライト皮膜を形成する(ステップS3)。まず、上記の除染終了後で皮膜形成装置30による最後の浄化運転が終了した後、以下の弁操作が行われる。弁53を開いて弁52を閉じ、フィルタ54への通水を開始する。弁59を開いて弁66を閉じることにより、混床樹脂塔65への通水を停止する。さらに、弁62を閉じ、弁58を開いて加熱器56によって循環配管35内の水を所定温度まで加熱する。皮膜形成対象である再循環系配管22に供給される皮膜形成水溶液の温度調整が行われる。弁50,60,33,34は開いており、弁36,41,38,42,57,62,64,66,68は閉じている。加熱された皮膜形成水溶液は、循環配管35及び再循環系配管22により形成される閉ループの経路内を循環する。
【0054】
フィルタ54への通水は水中に残留している微細な固形物を除去するためである。この固形物が残留していると、皮膜形成対象箇所へのフェライト皮膜の形成の際に、その固形物の表面にもフェライト皮膜が形成され、薬剤が無駄に使用されることになる。上記の固形物の除去によって、皮膜形成水溶液(皮膜形成液)に含まれる薬剤を有効に使用できる。フィルタ54への通水を除染中に実施した場合には、溶解した高い放射能の放射性核種を含む固形物によってフィルタ54の線量率が高くなりすぎる恐れがある。このため、フィルタ54への通水は除染終了後に行う。上記固形物の除去が終了した時点で、弁52を開いて弁53を閉じる。
【0055】
皮膜形成水溶液の上記の所定温度は、100℃程度が好ましいが、これに限られない。要は、BWRプラントの運転時に炉水に含まれる放射性核種が、皮膜形成対象箇所に形成されるフェライト皮膜に取り込まれない程度に、その皮膜の結晶等の膜構造が緻密に形成できればよいのである。したがって、皮膜形成水溶液の温度は少なくとも200℃以下が好ましく、下限は常温(20℃)でもよいが、フェライト皮膜の生成速度が実用範囲になる60℃以上が好ましい。100℃以上では皮膜形成水溶液の沸騰を抑制するため、加圧しなければならず、皮膜形成装置30の耐圧性が要求されるようになり設備が大型化するため好ましくない。皮膜形成水溶液の温度が200℃以下であるので、皮膜形成対象の配管系、例えば、再循環系配管22の炉水と接触する内面に緻密なフェライト皮膜を形成することができる。
【0056】
皮膜形成対象箇所にフェライト皮膜を形成させるためには、鉄(II)イオンが皮膜形成対象箇所の金属部材の表面(例えば、再循環系配管22の内面)に吸着される必要がある。しかし、皮膜形成水溶液に含まれる鉄(II)イオンは、(7)式に基づいて溶存酸素により鉄(III)イオンに酸化される。鉄(III)イオンは、鉄(II)イオンに比べて溶解度が低いため、(8)式の反応により水酸化第二鉄として析出してしまい、フェライト皮膜の形成に寄与しなくなってしまう。そこで、皮膜形成水溶液中の溶存酸素を除去するため、上記したように、不活性ガスのバブリングまたは真空脱気を行うことが好ましい。
【0057】
4Fe2++O2+2H2O → 4Fe3++4OH− ……(7)
Fe3++3OH− → Fe(OH)3 ……(8)
循環配管35内を循環する水の温度が所定温度に達した後、鉄(II)イオンを含む薬剤(水溶液)を循環配管35内に注入する。すなわち、弁41を開いて注入ポンプ44を駆動し、鉄をギ酸で溶解して調製して得られた鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬剤を、薬液タンク47から循環配管35内を流れる皮膜形成水溶液に注入する。酸化剤である過酸化水素を循環配管35内に注入する。具体的には、弁42を開いて注入ポンプ45を駆動することにより、薬液タンク48内の過酸化水素が、注入配管76を通して、循環配管35内を流れる、鉄(II)イオンを含む皮膜形成水溶液に注入される。過酸化水素は、皮膜形成対象箇所の金属部材の表面(再循環系配管22の内面)に吸着された鉄(II)イオン、及び皮膜形成水溶液内の鉄(II)イオンを、鉄(III)イオンに酸化する。後者の鉄(II)イオンが鉄(III)イオンに酸化されることにより、皮膜形成水溶液は鉄(II)イオン及び鉄(III)イオンを含むことになる。続いて、pH調整剤であるヒドラジンを循環配管35内へ注入する。弁38を開いて注入ポンプ39を駆動することによって、薬液タンク40内のヒドラジンが、注入配管77を通って、循環配管35内を流れる、鉄(II)イオン、鉄(III)イオン及び過酸化水素を含む皮膜形成水溶液(皮膜形成液)に注入される。ヒドラジンが、皮膜形成水溶液のpHを5.5〜9.0の範囲内、例えば、7.0にするように注入される。皮膜形成水溶液のpHが5.5〜9.0の範囲内に調節されるので、鉄(II)イオン及び鉄(III)イオンからフェライトの一種であるマグネタイトが、反応式(9)に基づいて再循環系配管22の内面に形成される。
【0058】
Fe2++2Fe3++2H2O = Fe(III)[Fe(II)Fe(III)]O4+8H+ ……(9)
この皮膜形成水溶液が、循環配管35を通って再循環系配管22に供給される。皮膜形成水溶液と接触する再循環系配管22の内面全面でマグネタイト皮膜の生成反応が生じ、その全面にフェライト皮膜であるマグネタイト皮膜が形成される。制御装置(図示せず)は、pH計79によって計測された処理液のpH計測値に基づいて注入ポンプ39の回転速度を制御し、再循環系配管22内に注入するヒドラジンの注入量を調整する。この制御によって、皮膜形成水溶液のpHが上記の範囲内に調節される。本実施例では、皮膜形成水溶液のpHが7.0に調節される。
【0059】
循環ポンプ32、51が駆動されているので、ヒドラジン、鉄(II)イオン及び過酸化水素を含むpHが7.0である皮膜形成水溶液が、循環配管35により、開閉弁34を介して再循環系配管22内に供給される。この皮膜形成水溶液が、再循環系配管22内を流れて、循環配管35の開閉弁50側へと戻される。戻された皮膜形成水溶液に、鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬剤が薬液タンク47から、過酸化水素が薬液タンク48から、ヒドラジンが薬液タンク40からそれぞれ注入される。この皮膜形成水溶液が再び再循環系配管22内に導かれる。
【0060】
皮膜形成対象の配管系の内面へのフェライト皮膜の形成が完了したかの判定が行われる。この判定は、フェライト皮膜の形成処理開始、すなわち、鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬剤の注入が開始されて酸化剤及びpH調整剤の注入が開始された後の経過時間で行われる。この経過時間が再循環系配管22の内面に所定の厚みのフェライト皮膜を形成するのに要する時間になるまでの間は、フェライト皮膜の形成が完了したかの判定は「NO」になる。この場合には、再循環系配管22の内面へのフェライト皮膜の形成が引き続き行われる。その判定が「YES」になったとき、注入ポンプ39、44及び45を停止し(または弁38,41及び42を閉じ)て各薬剤の、循環している皮膜形成水溶液への注入を停止する。これによって、再循環系配管22の内面へのフェライト皮膜の形成作業が終了する。
【0061】
配管系の内面へのフェライト皮膜の形成作業が終了したとき、皮膜形成水溶液に含まれている薬剤の分解が実施される(ステップS4)。再循環系配管22の内面へのフェライト皮膜の形成に使用された皮膜形成水溶液は、フェライト皮膜の形成が終了した後においても、ヒドラジン及び有機酸であるギ酸を含んでいる。皮膜形成水溶液に含まれたヒドラジン及びギ酸は、還元除染剤であるシュウ酸の分解と同様に、分解処理装置67で分解される。薬剤の分解処理では、弁60,68の開度を調整し、循環配管35内の皮膜形成水溶液の一部を分解処理装置67に供給する。弁57を開くことにより、過酸化水素が、薬液タンク48から配管78を通して分解処理装置67に供給される。ヒドラジン及びギ酸は、分解処理装置67内で過酸化水素及び活性炭触媒の作用により分解される。ギ酸は(10)式の反応により二酸化炭素と水に、ヒドラジンは(11)式の反応により窒素と水にそれぞれ分解する。
【0062】
HCOOH+H2O2 → CO2+2H2O ……(10)
N2H4+2H2O2 → N2+4H2O ……(11)
薬剤の分解を実行している期間において、皮膜形成水溶液は、循環ポンプ32、51の駆動によって循環配管35の一端から再循環系配管22の一端に供給され、再循環系配管22内を通って循環配管35の他端に戻される。
【0063】
分解処理装置67に皮膜形成水溶液を供給する前に、弁53を開けて弁52を閉じ、皮膜形成水溶液をフィルタ54に供給する。皮膜形成水溶液に含まれたマグネタイト粒子がフィルタ54によって除去される。マグネタイト粒子の除去後、弁59、64の開度を調整して皮膜形成水溶液の一部をカチオン交換樹脂塔63に供給する。皮膜形成水溶液に含まれる鉄(II)イオン及びヒドラジニウムイオンがカチオン交換樹脂塔63によって除去される。皮膜形成水溶液に含まれているギ酸及びカチオン交換樹脂塔63で除去し切れなかったヒドラジンの分解は、前述したように、分解処理装置67を用いて行われる。
【0064】
ヒドラジン及びギ酸を混床樹脂塔65で処理することもできるが、イオン交換樹脂の廃棄物が増えてしまうので、これらの物質は分解処理装置67で分解処理するのが好ましい。ヒドラジンとギ酸ではギ酸の方が分解し難いので、分解処理装置67による薬剤の分解がある程度進むと、循環している皮膜形成水溶液のpHが低下し始める。この皮膜形成水溶液のpHが4以下になると、再循環系配管22の内面に形成したフェライト皮膜が溶解する可能性が生じる。このため、pH計79で計測されたpHの値が4以下にならないように、弁38を開けて注入ポンプ39を起動し、薬液タンク40内のヒドラジンを皮膜形成水溶液に注入する。ヒドラジンを注入しながら残留したギ酸、注入したヒドラジンの分解を進めるとギ酸の濃度も徐々に下がってくるので、pH4を維持するヒドラジン注入量は徐々には少なくなる。ギ酸の濃度が少なくなって来るとヒドラジンを注入しなくともpH4以上を維持できるようになるので、最終的にはヒドラジン注入無しでギ酸の分解が行われる。
【0065】
なお、触媒を用いた分解処理装置67の替りに紫外線照射装置を用いることも可能である。紫外線照射装置も、酸化剤の存在下でヒドラジン,ギ酸及びシュウ酸を分解することができる。
【0066】
ヒドラジン及びギ酸を分解処理装置67で上記のように気体及び水に分解することによって、カチオン交換樹脂塔64によるヒドラジン、及び混床樹脂塔65によるギ酸の除去を大幅に低減できるので、これらのイオン交換樹脂の廃棄物量を著しく低減できる。
【0067】
皮膜形成装置の、皮膜形成対象の配管系からの取り外しを行う(ステップS5)。皮膜形成水溶液に含まれている薬剤の分解が終了した後、再循環系配管22に連絡されている循環配管35の両端が、浄化系配管20、及び再循環系配管22に接続された枝管から取り外される。浄化系配管20に設けられたバルブ28、及びその枝管等が元通りに復旧される。これにより、BWRプラントの運転が開始できる状態になる。再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜は、BWRプラントの起動まで、そのままの状態に保たれる。
【0068】
BWRプラントの定期検査が終了した後、BWRプラント起動の準備が進められる。再循環ポンプ21が起動されて、再循環系配管22には炉水が循環され、ジェットポンプ14から吐出された炉水が炉心13に供給される。BWRプラントの起動時における復水器真空度、炉水温度、及び原子炉圧力の変化を図4に示す。BWRプラント起動前に復水器4の真空度を上昇させる。復水器4の真空度の上昇は、復水器4に接続されたオフガス系(図示せず)に設けられた空気抽出器(図示せず)により行われる。さらに、主蒸気配管2に設けられた主蒸気隔離弁を全開にし、主蒸気配管2と復水器4を接続するタービンパス配管(図示せず)に設けられたバイパス弁を開いて炉水の脱気を行い、炉水の溶存酸素濃度を0.2ppm程度まで低下させる。
【0069】
その後、原子炉を起動する(ステップS6)。中央制御室に設置された操作盤に設けられた原子炉モードスイッチが起動に入れられ、炉心13に挿入された複数の制御棒(図示せず)が順番に引き抜かれる。原子炉1のある運転サイクルにおける運転が開始される。やがて、原子炉1が臨界に達する(ステップS7)。炉心13に装荷された各燃料集合体に含まれた核燃料物質が核分裂を起こし、炉水の核加熱が開始される。原子炉の昇温昇圧が行われる(ステップS8)。この昇温昇圧工程では、制御棒が炉心からさらに引き抜かれて核燃料物質の核分裂が増大し、炉水の温度が上昇して蒸気が発生する。昇温昇圧工程により、原子炉圧力が定格圧力まで上昇し、炉水温度も定格温度(例えば、280℃)まで上昇する。炉心13では核燃料物質の核分裂によって中性子線及びガンマ線が発生する。中性子線及びガンマ線は炉水の放射線分解を誘発して、炉水中に過酸化水素及び酸素を生じさせる。昇温昇圧工程が終了した後、制御棒の引き抜き、及び炉心流量の増大によって、原子炉出力が定格出力(100%出力)まで、上昇される(ステップS9)。
【0070】
本実施例では、原子炉起動中に水素注入を行っていないので、放射線分解によって生成した酸化性化学種は炉水に残留する。酸化性化学種を含む高温の炉水が再循環系配管22内を流れるとき、その炉水が、ステップS3により再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜(例えば、マグネタイト皮膜)の表面に接触する。炉水に含まれた酸化性化学種が、280℃の高温環境においてフェライト皮膜の表面に接触することにより、このフェライト皮膜を構成するマグネタイトに含まれる鉄(II)イオンが酸化される。この結果、再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の表層部にヘマタイトが徐々に形成される。昇温昇圧工程で炉水が定格温度に到達してから原子炉出力が定格出力(100%出力)に到達するまでの期間において、ステップ3で形成されたフェライト皮膜の、炉水と接触する表層部がヘマタイト化する。水素注入が行われないため、構成部材である再循環系配管22の腐食電位が+0.2Vになり、再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の、炉水と接触する表面に、膜状のヘマタイト層(ヘマタイト皮膜)が形成される。このように、再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の表層部は、Coイオン付着抑制効果が向上するヘマタイト皮膜になっている。
【0071】
次に、応力腐食割れ抑制の観点から水素注入を開始し、所定の期間、水素注入を行う(ステップS10)。水素注入は、例えば、炉水の水素濃度が50ppbに保持されるように、連続して一週間(第1の所定期間)の間、行われる。ステップS10の水素注入は、給水配管10内を流れる給水に、水素注入装置16から水素(還元剤)を注入することによって行われる。この水素注入によって、原子炉1はHWC条件で運転されることになる。給水配管10を流れる、水素を含む給水がRPV12内に供給され、注入された水素が炉水に含まれる酸素及び過酸化水素などの酸化剤と反応して水を生成する。このため、RPV12内の炉水の酸化剤濃度が低下し、炉水の腐食電位が低下する。炉水と接触する、原子力プラントの構成部材の応力腐食割れを抑制することができる。構成部材の腐食電位を目標電位以下(例えば−0.5V)に低下させるように、炉水への水素注入が行われる。
【0072】
フェライト皮膜の表面に形成されたヘマタイト層は、再循環系配管22の腐食電位を−0.5Vにする炉水に曝され続けると、マグネタイトへ還元される。このため、水素注入量を減少させる(ステップS11)。第1所定期間での定格速度での水素注入が終了したとき、フェライト皮膜表層部のヘマタイトを増やすために、水素注入装置16から給水への水素注入量を減少させ、炉水の水素注入濃度を減少させる。応力腐食割れ抑制の観点からはできるだけ低電位の方が好ましいため、例えば、再循環系配管22の腐食電位が−0.2Vになるように、水素注入を、定格の注入速度(ステップS10での水素注入量)の1/2の注入速度で第2の所定時間、例えば6時間程度継続する。水素注入を1/2注入速度で行うことにより、再循環系配管22の腐食電位が−0.5Vから−0.2Vに上昇する。この結果、炉水に含まれた酸化性化学種の作用により、再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の表層部にヘマタイトが生成され、フェライト皮膜の表面にヘマタイト層が維持される。
【0073】
第2所定時間、例えば、6時間の、1/2注入速度での水素注入が終了した後、水素注入量を増加する(ステップS12)。水素注入量を増加は、ステップS10と同様に、水素注入を定格速度に上昇させることによって行われ、再循環系配管22の腐食電位も−0.5Vに低下する。ステップS12の定格速度による水素注入は、ステップS10と同様に、第1所定時間(例えば、1週間)の間、継続される。第1所定時間における、定格速度による水素注入が終了したとき、水素注入量を、再び、減少させる(ステップS13)。ステップS13においても、ステップS11と同様に、第2所定期間(例えば、6時間)の間、1/2注入速度での水素注入が行われ、再循環系配管22の腐食電位が−0.2Vに上昇する。第2所定期間における1/2注入速度での水素注入が終了した後、再循環系配管22の腐食電位が−0.5Vに低下する定格速度での水素注入(ステップS12)及び再循環系配管22の腐食電位が−0.2Vに増大する1/2速度での水素注入(ステップS13)が、交互に繰り返えされて、BWRプラントの運転を継続する(ステップS14)。ステップS12及びS13のそれぞれの水素注入の繰り返しは、1つの運転サイクルにおけるBWRプラントの運転が終了するまで継続される。これにより、再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の表面にヘマタイト層を、BWRプラントの定格運転期間に亘って維持することができ、Coイオンの付着抑制を継続させながら、応力腐食割れを抑制できる腐食電位−0.5Vの期間を長期間確保することができる。
【0074】
本実施例によれば、水素注入により構成部材(再循環系配管22)の腐食電位を−0.5Vにする期間の経過後に構成部材の腐食電位を−0.2Vにする期間を設け、これらの期間を繰り返すことにより、再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の表面がヘマタイト皮膜で覆われた状態を継続させることができ、再循環配管22内を流れる炉水がフェライト皮膜の表面と接触せずにヘマタイト皮膜の表面と接触する。炉水のフェライト皮膜への接触を防止できるので、フェライト皮膜の溶解、再析出が生じず、フェライト皮膜への放射性核種の取り込みを防止することができる。このため、再循環系配管22の線量をさらに低減することができる。ヘマタイトはフェライトよりも水に対する溶解度が低いため、炉水と接触するヘマタイト皮膜への放射性核種の取り込みが著しく抑制される。特に、原子炉出力が定格出力に到達した後、1つの運転サイクルを通して、構成部材の腐食電位を−0.5Vにする期間及び構成部材の腐食電位を−0.2Vにする期間を繰り返すので、原子炉出力が定格出力に到達した後、1つの運転サイクルでの運転が終了するまで、構成部材の表面に形成されたフェライト皮膜の表面にヘマタイト皮膜を保持することができるので、原子炉出力が定格出力に到達した後、1つの運転サイクルを通してフェライト皮膜へのCoイオンの付着をさらに抑制することができる。
【0075】
さらに、本実施例は、ヘマタイト皮膜が炉水に接触しているので、炉水に含まれるCo−60等の放射性核種の再循環系配管22の内面(具体的には、ヘマタイト皮膜の表面)への付着を著しく抑制することができる。
【0076】
本実施例では、鉄(II)イオン、及び鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する酸化剤を含むpHが5.5〜9.0の範囲内にある皮膜形成水溶液(皮膜形成液)を、好ましくは、60℃〜100℃の範囲内の温度に調節して、皮膜形成対象である配管(例えば、再循環系配管22)の内面に接触させるので、その配管の内面に緻密なフェライト皮膜を形成することができる。
【0077】
本実施例では、再循環系配管2の内面に形成したフェライト皮膜の表層部をヘマタイトに変えているので、フェライト皮膜自身に取り込まれるCo−60の付着量を低減する効果を得ることができる。
【0078】
本実施例では、ヘマタイト層を、炉水温度が定格温度に達した後で且つ炉水への水素注入を行う前で、酸化性化学種を含む炉水をフェライト皮膜の表面に接触させることによって形成しているので、フェライト皮膜自身に取り込まれるCo−60の付着量を低減する効果を得ることができる。
【0079】
本実施例では、ヘマタイト層がフェライト皮膜の表層部に形成された後、水素注入を行うことで応力腐食割れ抑制対策を行うとともに、水素注入によってヘマタイト層がマグネタイト層に還元されることを考慮して、定格の水素注入量を、第1所定期間の間、維持した後、水素注入量を半減させて再循環系配管22の腐食電位を−0.2V付近に上昇させることでフェライト皮膜の表層部に再びヘマタイトを形成させる。1/2に減少させた水素注入量を第2所定時間の間継続し、ヘマタイト層が厚くなった段階で、再度、水素注入量を定格に戻し、応力腐食割れを抑制する。ヘマタイト層がマグネタイト層に還元されてヘマタイト層の厚みが減少することを考慮し、第1所定期間の間、再循環系配管22の腐食電位を−0.5Vにする定格の水素注入量を維持した後、水素注入量を半減させて再循環系配管22の腐食電位を−0.2V付近に上昇させてヘマタイトを生成させる。これにより、第1所定期間で厚みが減少したヘマタイト層の厚みが、第2所定期間で厚くなる。以上述べたように、水素注入を、定格の水素注入量及び1/2(半減)の水素注入量で繰り返すことによって、Coイオン付着抑制効果のあるヘマタイト層を継続して維持しながら、応力腐食割れ抑制効果のある腐食電位−0.5Vの維持期間を長く確保することができる。
【0080】
本実施例では、水素注入装置16を給水配管10に接続しているが、水素注入装置16を浄化系配管20に接続しても良い。この場合には、浄化系配管20内に水素が注入され、この水素が浄化系配管20及び給水配管10を介してRPV12内の炉水に注入される。
【0081】
皮膜形成装置30の循環配管35の両端を浄化系配管20に接続し、BWRプラントの運転停止期間において、浄化系配管20の内面にフェライト皮膜を形成してもよい。浄化系配管20の内面にフェライト皮膜が形成された後、循環配管35の両端を浄化系配管20から取り外して、BWRプラントの運転を開始する。ステップS8において、炉水が定格温度になった状態からステップS9の定格出力となるまでの間、NWC条件となるので、この期間において、酸化性化学種を含む炉水が浄化系配管20の内面に形成されたフェライト皮膜の表面に接触され、フェライト皮膜の表層部にヘマタイト皮膜が形成される。この浄化系配管20においても、応力腐食割れ抑制対策のために行われる水素注入が開始される(ステップS10)と、ヘマタイト皮膜がマグネタイトに還元され、ヘマタイト皮膜の厚みが減少する。そこで、ヘマタイト層がマグネタイトに還元されてヘマタイト層の厚みが減少することを考慮し、第1所定期間の間、定格の水素注入量を維持した後、水素注入量を半減させて浄化系配管20の腐食電位を−0.2V付近とすることによりヘマタイトを生成してヘマタイト層の厚みを増加させる。その後、前述の再循環系配管22の場合と同様に、水素注入を、定格の水素注入量及びその1/2の注入量に交互に繰り返すことより、再循環系配管22で得られる上記の各効果を得ることができる。
【0082】
新設のBWRプラントに対しても、このBWRプラントの運転開始前に、再循環系配管22及び浄化系配管20の少なくとも1つの配管の内面にフェライト皮膜を形成することができる。しかしながら、新設のBWRプラントの運転開始前では、再循環系配管22及び浄化系配管20の少なくとも1つの配管の内面に放射性核種が付着していない。このため、再循環系配管22及び浄化系配管20の少なくとも1つの配管の内面にフェライト皮膜を形成する場合には、ステップS1,S3,S4及びS5の各工程が実施され、ステップS2の化学除染は実施されない。
【0083】
新設のBWRプラントの最初の運転サイクルにおいて、原子炉起動が行われ(ステップS6)、その後、ステップS7〜S13の各操作が行われる。新設のBWRプラントの再循環系配管22及び浄化系配管20の少なくとも1つの配管の内面に形成されたフェライト皮膜の表層部でのヘマタイト皮膜の形成が、ステップS9において行われる。続いて、定格速度での水素注入を行って(ステップS10)、フェライト皮膜及びヘマタイト皮膜が形成された配管の腐食電位を−0.5Vにし、応力腐食割れ抑制対策を行う。第1所定時間が経過したとき、定格速度の1/2の速度で水素注入を行い(ステップS11)、フェライト皮膜及びヘマタイト皮膜が形成された配管の腐食電位を−0.2Vにする。その後、ステップS12及びS13の操作を交互に繰り返して実施する。したがって、新設のBWRプラントにおいても、前述した運転を経験したBWRプラントと同様な各効果を得ることができる。
【実施例2】
【0084】
本発明の他の実施例である実施例2の原子力プラント構成部材の線量低減方法を、図7及び図8を用いて説明する。本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法も、運転を経験したBWRプラントに適用される。本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法が適用されるBWRプラントは、実施例1が適用されるBWRプラントに水素注入装置17を追加した構成を有する。水素注入装置17が、浄化系配管20の、炉水浄化装置27よりも下流で且つ再生熱交換器25の下流に存在する部分に接続されている。
【0085】
本実施例における原子力プラント構成部材の線量低減方法でも、実施例1における原子力プラント構成部材の線量低減方法において実施するステップS1〜S6の各工程を実施する。ステップS3において、フェライト皮膜が、例えば、再循環系配管22の内面に形成される。原子炉を起動した(ステップS6)後、水素注入を行う(ステップS15)。この水素注入は、原子炉1の起動後の臨界到達前に、水素注入装置17から浄化系配管20に水素を供給することによって行われる。水素注入装置17から浄化系配管20への水素は、定格速度で行われる。このため、炉水と接触する再循環系配管22等の構成部材の腐食電位が、−0.5Vになる。原子炉1が起動されたときには、給水配管10によるRPV12への給水の供給は行われていないが、浄化系ポンプ24が駆動されて浄化系配管20内に炉水が流れている。浄化系配管20内を流れている炉水に注入された水素は、この炉水と共にRPV1内に導かれる。この水素注入は、原子炉の昇温昇圧(ステップS8)が終了して炉水の温度が280℃になったときに停止される。
【0086】
原子炉の昇温昇圧により炉水の温度が280℃になった後、ステップS9において、原子炉出力が定格出力まで上昇される。原子炉出力が定格出力になったとき、原子炉浄化系からの水素注入が停止される(ステップS16)。原子炉出力が定格出力になったとき、水素注入装置17から浄化系配管20への水素の注入を停止する。その後、ステップS10による、水素注入装置16から給水配管10への水素注入が行われる。水素注入装置17から浄化系配管20への水素注入の停止(ステップS16)から水素注入装置16から給水配管10への水素注入(ステップS10)までの間の期間(通常は数日間)は、炉水温度が定格温度に実質的に保持されて水素注入を行っていない状態(NWC)で、原子炉1が運転される。この期間では、炉水の放射線分解で発生した酸化性化学種を含む炉水が、再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の表面に接触する。腐食電位は+0.2Vとなる。実施例1と同様に、再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の表層部にヘマタイトが生成され、やがて、フェライト皮膜の表面全面を覆うヘマタイト皮膜が形成される。
【0087】
ステップS10で水素注入装置16から給水配管10への水素注入が行われた後、実施例1と同様に、ステップS11,S12及びS13が行われ、ステップS12及びS13のそれぞれの水素注入が1つの運転サイクルが終了するまで繰り返されてBWRプラントの運転を継続する(ステップS14)。ステップS10〜S13では、水素注入が、水素注入装置17からではなく、水素注入装置16から行われる。
【0088】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例では、原子炉の起動からRPV12内の炉水に水素を注入することができるので、原子力プラント構成部材の応力腐食割れをさらに抑制することができる。
【0089】
BWRプラントの起動により、炉内構造物等の原子力プラント構成部材は、起動時の約50℃〜60℃から昇温昇圧過程終了時の定格温度(280℃)まで温度が上昇する。この温度変化に伴う構成部材の熱膨張により、構成部材に応力が発生する。このため、原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制対策の観点から、原子炉の起動直後から炉水に水素を注入する場合がある。しかしながら、原子炉の起動直後から炉水への水素注入を実施して定格出力運転に至る場合には、再循環系配管22の内面に形成したフェライト皮膜の表面が酸化される期間が得られなくなり、フェライト皮膜の表層部にヘマタイト皮膜を形成することができなくなる。そこで、本実施例では、原子炉の起動直後に炉水への水素注入を行って炉水温度が定格温度に到達したときに浄化系配管20からの水素注入を停止し、水素注入を行わない期間を経て、給水配管10への水素注入を開始している。このため、ステップS16による水素注入の停止からステップS10による水素注入開始までの水素注入を行わない期間において、再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の表層部のマグネタイトを酸化させてヘマタイトを生成することができる。
【0090】
本実施例も、新設のBWRプラントの配管系の内面にフェライト皮膜を形成することができ、この場合には実施例1と同様にステップS2の化学除染の実施は不要である。
【実施例3】
【0091】
本発明の他の実施例である実施例3の原子力プラント構成部材の線量低減方法を、図10を用いて説明する。本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法も、運転を経験したBWRプラントに適用される。本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法が適用されるBWRプラントは、実施例2が適用されるBWRプラントと同じ構成を有し、水素注入装置17を有する。
【0092】
本実施例における原子力プラント構成部材の線量低減方法は、実施例2における原子力プラント構成部材の線量低減方法と同様に、ステップS1〜S6,S15及びS7〜S9の各工程を実施する。ステップS3では、フェライト皮膜が、例えば、再循環系配管22の内面に形成される。本実施例では、ステップS10が実施されない。ステップS9によって原子炉出力が定格出力になったとき、給水配管への水素注入を行う(ステップS11)。水素注入装置16から給水配管10内を流れる給水へ1/2注入速度で水素注入を行う。このステップS11による水素注入が開始されたとき、浄化系配管への水素注入を停止する(ステップS16)。水素注入装置17から浄化系配管20への水素の注入が停止される。この結果、水素注入装置16から給水配管10内に1/2注入速度で注入された水素が、RPV12内に供給され、構成部材の腐食電位が−0.2Vになる。再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の表層部のマグネタイトがヘマタイト化され、フェライト皮膜の表面にヘマタイト皮膜が形成される。1/2注入速度での水素注入は6時間行われる。この6時間が経過したとき、ステップS12による水素注入、及びステップS13による水素注入が、実施例2と同様に順次行われる。そして、ステップS12及びS13のそれぞれの水素注入が、1つの運転サイクルが終了するまで繰り返されてBWRプラントの運転が継続される(ステップS14)。
【0093】
本実施例は、実施例2で生じる各効果を得ることができる。本実施例では、原子炉出力が定格出力に到達した後における浄化系配管20からの水素注入の停止を、給水配管10からの水素注入を開始した後に行うので、構成部材がNWC環境に暴露される期間を排除することができ、原子力プラントの構成部材の応力腐食割れをさらに抑制することができる。
【0094】
本実施例も、新設のBWRプラントの配管系の内面にフェライト皮膜を形成することができ、この場合には実施例1と同様にステップS2の化学除染の実施は不要である。
【実施例4】
【0095】
本発明の他の実施例である実施例4の原子力プラント構成部材の線量低減方法を、図11を用いて説明する。本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法も、運転を経験したBWRプラントに適用される。本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法が適用されるBWRプラントは、実施例2が適用されるBWRプラントに、各再循環系配管22に設置した腐食電位センサー18を追加した構成を有する。
【0096】
実施例1〜3の各実施例では、他のBWRプラントの実績、または実験データを用いた計算結果に基づいて、構成部材の腐食電位が−0.5Vまたは−0.2Vになるように、ステップS10またはS11における水素の注入量を制御している。これに対して、本実施例では、再循環系配管22の腐食電位を腐食電位センサー18で測定し、測定された構造部材の腐食電位が−0.5Vまたは−0.2Vになるように炉水への水素注入量を制御する。
【0097】
本実施例は、例えば、実施例1と同様に、ステップS1〜S14の各工程が実施される。ステップS10及びS12おいて、水素注入量が腐食電位センサー18で測定された腐食電位が−0.5Vになるように、水素注入装置16からの水素注入量が、図2において図示されていない制御装置(または手動)により調節される。ステップS11及びS13において、水素注入量が腐食電位センサー18で測定された構造部材の腐食電位が−0.2Vになるように、水素注入装置16からの水素注入量が上記の制御装置(または手動)により調節される。なお、定格速度での水素注入量が構造部材の腐食電位を−0.5Vにする水素注入量に相当し、定格速度の1/2速度での水素注入量が構造部材の腐食電位を−0.2Vにする水素注入量に相当する。
【0098】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例では、再循環系配管22に設置した腐食電位センサー18で測定された腐食電位に基づいて水素の注入を制御するので、達成したい構造部材の腐食電位(−0.5V及び−0.2V)に確実に制御することができる。
【0099】
本実施例は、実施例2及び3にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、沸騰水型原子力プラントに適用することができる。
【符号の説明】
【0101】
1…原子炉、2…主蒸気配管、3…タービン、4…復水器、7…給水ポンプ、10…給水配管、12…原子炉圧力容器、13…炉心、14…ジェットポンプ、16,17…水素注入装置、18…腐食電位センサー、20…浄化系配管、21…再循環ポンプ、22…再循環系配管、27…炉水浄化装置、30…皮膜形成装置、31…サージタンク、32,51…循環ポンプ、35…循環配管、39,44,45…注入ポンプ、40,47,48…薬液タンク、56…加熱器、61…冷却器、63…カチオン交換樹脂塔、65…混床樹脂塔、67…分解処理装置、79…pH計、81…鉄(II)イオン注入装置、82…酸化剤注入装置、83…pH調整剤注入装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力プラント構成部材の線量低減方法に係り、特に、沸騰水型原子力プラントに適用するのに好適な原子力プラント構成部材の線量低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWRプラントという)は、原子炉圧力容器(RPVと称する)内に炉心を内蔵した原子炉を有する。再循環ポンプ(またはインターナルポンプ)によって炉心に供給された冷却水は、炉心内に装荷された燃料集合体内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱され、一部が蒸気になる。この蒸気は、原子炉からタービンに導かれ、タービンを回転させる。タービンから排出された蒸気は、復水器で凝縮され、水になる。この水は、給水として原子炉に供給される。給水は、原子炉内での放射性腐食生成物の発生を抑制するため、給水配管に設けられたろ過脱塩装置で主として金属不純物が除去される。
【0003】
また、放射性腐食生成物の元となる腐食生成物が、RPV及び再循環系配管等のBWRプラントの構成部材の接水部から発生するため、主要な一次系の構成部材には腐食の少ないステンレス鋼及びニッケル基合金などの不銹鋼が使用されている。また、低合金鋼製のRPVは内面にステンレス鋼の肉盛りが施され、低合金鋼が、直接、炉水と接触することを防いでいる。炉水とは、原子炉内に存在する冷却水である。さらには、炉水の一部を原子炉浄化系のろ過脱塩装置によって浄化し、炉水に僅かに含まれた金属不純物を積極的に除去している。
【0004】
しかし、上述のような腐食対策を講じても、炉水中における極僅かな金属不純物の存在が避けられないため、一部の金属不純物が、金属酸化物として、燃料集合体に含まれる燃料棒の表面に付着する。燃料棒表面に付着した金属不純物(例えば、金属元素)は、燃料棒内の核燃料物質の核分裂により放出される中性子の照射によって原子核反応を起こし、コバルト60,コバルト58,クロム51,マンガン54等の放射性核種になる。
【0005】
これらの放射性核種は、大部分が酸化物の形態で燃料棒表面に付着したままである。しかしながら、一部の放射性核種は、取り込まれている酸化物の溶解度に応じて炉水中にイオンとして溶出したり、クラッドと呼ばれる不溶性固体として炉水中に再放出されたりする。炉水中の放射性物質は、原子炉に接続された原子炉浄化系によって取り除かれる。原子炉浄化系で除去されなかった放射性物質は炉水とともに再循環系などを循環している間に、原子力プラントの構成部材(例えば、配管)の炉水と接触する表面に蓄積される。その結果、構成部材の表面から放射線が放射され、定検作業時の従事者の放射線被曝の原因となる。
【0006】
その従業者の被曝線量は、各人毎に規定値を超えないように管理されている。近年この規定値が引き下げられ、各人の被曝線量を可能な限り低くする必要が生じている。
【0007】
そこで、配管の炉水と接触する表面への放射性核種の付着を低減する方法、及び炉水中の放射性核種の濃度を低減する方法が様々検討されている。例えば、特開2006−38483号公報、特開2007−192745号公報及び特開2007−24644号公報には、原子力プラント構成部材の炉水と接触する表面にフェライト皮膜であるマグネタイト皮膜を形成し、その構成部材への放射性核種の付着を抑制する方法が提案されている。構成部材の炉水と接触する表面へのフェライト皮膜の形成によって、原子力プラントの運転開始後において、その構成部材の表面に放射性核種が付着することが抑制される。この放射性核種付着抑制方法では、鉄(II)イオンを含むギ酸水溶液,過酸化水素及びヒドラジンを含み、常温から100℃の範囲に加熱された処理液を、その構成部材の表面に接触させてその表面にフェライト皮膜を形成する。
【0008】
特開2000−105295号公報には、酸化除染及び還元除染を含む化学除染が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−38483号公報
【特許文献2】特開2007−192745号公報
【特許文献3】特開2007−24644号公報
【特許文献4】特開2000−105295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特開2006−38483号公報に記載された原子力プラント構成部材への放射性核種の付着抑制方法は、フェライト皮膜を形成して原子力プラント構成部材の腐食を抑制し、腐食皮膜の成長に伴って生じる放射性核種の付着を抑制して原子力発電プラントの再循環配管の表面線量率を低減することができる。発明者らは、特開2006−38483号公報に記載された方法により原子力プラント構成部材の表面に形成されたフェライト皮膜の線量低減について詳細な検討を行った。この結果、作成されたフェライト皮膜自身への放射性核種の付着は、腐食皮膜の成長に伴って生じる放射性核種の付着に比べて非常に少なくなるが、フェライト皮膜自身の溶解再析出の際に、原子力プラント構成部材の表面に形成されているフェライト皮膜への若干の放射性核種の取り込みが認められた。
【0011】
本発明の目的は、原子力プラント構成部材の応力腐食割れが抑制でき、フェライト皮膜への放射性核種の取り込みをさらに抑制することができる原子力プラント構成部材の線量低減方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、原子力プラントの構成部材の表面にフェライト皮膜を形成し、構成部材の腐食電位を−0.2V乃至+0.2Vの範囲内に調節してそのフェライト皮膜の表層部にヘマタイト皮膜を形成し、その後、構成部材の腐食電位が−0.5Vになる第1状態と構成部材の腐食電位が−0.2V乃至+0.2Vの範囲内になる第2状態を交互に繰り返すことにある。
【0013】
構成部材の表面にフェライト皮膜を形成した後、構成部材の腐食電位を−0.2V乃至+0.2Vの範囲内に調節するので、フェライト皮膜の表層部にフェライト皮膜を覆ったヘマタイト皮膜を形成することができ、フェライト皮膜への放射性核種(例えば、放射性Coイオン)の取り込みをさらに抑制することができる。フェライト皮膜の表層部にヘマタイト皮膜が形成された後、構成部材の腐食電位が−0.5Vになる第1状態と構成部材の腐食電位が−0.2V乃至+0.2Vの範囲内になる第2状態を交互に繰り返えすので、フェライト皮膜を覆ったヘマタイト皮膜を持続することができ、構成部材の腐食電位が−0.5Vになる第1状態が生成されることにより、構成部材の応力腐食割れを抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、原子力プラント構成部材の応力腐食割れが抑制でき、原子力プラント構成部材の表面に形成されたフェライト皮膜への放射性核種の取り込みをさらに抑制することができる原子力プラント構成部材の線量をさらに低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の原子力プラント構成部材の線量低減方法の工程を示すフローチャートである。
【図2】図1に示す原子力プラント構成部材の線量低減方法を実施する際に用いられる皮膜形成装置が接続されるBWRプラントの構成図である。
【図3】図2に示される皮膜形成装置の詳細構成図である。
【図4】BWRプラントの起動時における復水器真空度、炉水温度及び原子炉圧力のそれぞれの変化を示す特性図である。
【図5】試験片の表面状態及び浸漬水の水質が試験片へのCo−60の付着量に及ぼす影響を示す説明図である。
【図6】図5に示す第二試験片及び第3試験片に形成された皮膜のラマンスペクトルを示す説明図である。
【図7】本発明の他の実施例である実施例2の原子力プラント構成部材の線量低減方法の工程を示すフローチャートである。
【図8】原子力プラント構成部材の線量低減方法の図7に示す工程が適用される沸騰水型原子力プラントの構成図である。
【図9】給水水素濃度と再循環系配管の腐食電位の関係を示す特性図である。
【図10】本発明の他の実施例である実施例3の原子力プラント構成部材の線量低減方法の工程を示すフローチャートである。
【図11】本発明の他の実施例である実施例4の原子力プラント構成部材の線量低減方法が適用される沸騰水型原子力プラントの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明者らは、原子力プラント構成部材に形成されたフェライト皮膜への放射性核種の取り込みをさらに抑制する方法を検討した。発明者らは、この検討において、特開2006−38483号公報に記載されたフェライト皮膜の放射性核種の付着抑制性能の向上を目指した。
【0017】
そこで、発明者らは、フェライト皮膜へのCo−60の付着条件を確認するために、以下に述べるCo−60実験を行った。この実験には、#600の耐水研磨紙で研磨したステンレス鋼製の試験片(第一試験片)、及びフェライト皮膜を形成したステンレス鋼製の試験片(第二試験片)を用いた。BWRプラントの水素注入条件(以下、HWC条件という)を模擬した、Co−60を含み、温度280℃、圧力7MPa、溶存酸素濃度5ppb以下、溶存水素濃度50ppbの、試験片の腐食電位を−0.5Vにする高温高圧純水(模擬炉水)中に、それらの2種類の試験片を、所定時間、浸漬した。また、フェライト皮膜を形成したステンレス鋼製の別の試験片(第三試験片)を前述の高温高圧純水に12時間浸漬した後、この高温高圧純水に過酸化水素を注入して第三試験片の腐食電位が−0.2Vになるように調整した状態で、過酸化水素を含む高温高圧純水にその第三試験片を50時間浸漬した。さらに、その後、過酸化水素の注入を停止して第三試験片の腐食電位を−0.5Vにし、第三試験片に対する合計の浸漬時間が第一試験片及び第二試験片と同じ浸漬時間になるまで、その高温高圧純水への第三試験片の浸漬を継続した。
【0018】
この所定時間が経過した後、各々の試験片におけるCo−60付着量を測定した。この測定結果を図5に示す。Co−60付着抑制対策としてフェライト皮膜処理のみを行った第二試験片は、フェライト皮膜を形成していない第一試験片に比べて約60%減のCo−60付着抑制効果が見られた。更に、フェライト皮膜処理を行った後、腐食電位が高くなる高温高圧純水に50時間浸漬した第三試験片では第二試験片に比べても約25%減のCo−60付着抑制効果が見られた。この結果について、発明者らは以下のように考察した。
【0019】
第二及び第三試験片におけるフェライト皮膜の形成は、以下のようにして行われる(特開2006−38483号公報参照)。フェライトの材料である鉄(II)イオン、鉄(II)イオンを酸化する過酸化水素、及びフェライト化反応を促進するpH調整剤であるヒドラジンを含む水溶液を、第ニ及び第三試験片の母材であるステンレス鋼材の表面に接触させることにより、(1)式で示す反応が生じ、その表面にフェライトの一種であるマグネタイトの皮膜が形成される。
【0020】
3Fe2++H2O2+6OH- → Fe3O4+4H2O …(1)
このマグネタイトの構造は、Fe(III)[Fe(II)Fe(III)]O4で表される。大括弧の部分は酸素の八面体構造の中心に位置する金属イオンを示しており、マグネタイトではこの部分にFe(II)イオンが存在している。(1)式の反応に基づいて形成されたフェライト皮膜であるマグネタイト皮膜が表面に形成された第二試験片を、HWC条件を満足する上記の高温高圧純水(第二試験片の腐食電位を−0.5Vにする)に浸漬させて得られた第1皮膜(第二試験片に形成)、及びこのマグネタイト皮膜が形成された第三試験片を、第三試験片の腐食電位を−0.5Vにする上記の高温高圧純水に浸漬させ、その後、第三試験片の腐食電位を−0.2Vと−0.5Vに交互に変化させるように過酸化水素濃度の異なる高温高圧純水に浸漬させて得られた第2皮膜(第三試験片に形成)のそれぞれのラマンスペクトルを計測した。
【0021】
計測された第1皮膜及び第2皮膜のラマンスペクトルを図6に示す。高温高圧純水に浸漬する前に形成したマグネタイト皮膜からはマグネタイトのみのピークが観測された(図6の上から3番目のラマンスペクトル参照)。このマグネタイト皮膜を形成して前述の高温高圧純水に浸漬した第二試験片(図6の1番上のラマンスペクトル参照)及び第三試験片(図6の上から2番目のラマンスペクトル参照)では、部位によってスペクトルの形状は異なっていたが、マグネタイトのほかにヘマタイトも観測された。第二試験片では図3に示すようにヘマタイトのピークが見られない部位も観測されたが、第三試験片では観測したすべての部位でヘマタイトのピークが観測された。ヘマタイトの生成はマグネタイトに含まれる鉄(II)イオンが(2)式に示すように鉄(III)イオンへと酸化されたためと考えられる。
【0022】
4Fe3O4+O2→ 6Fe2O3 …(2)
ヘマタイトの生成には酸素及び過酸化水素などの酸化剤が必要であるため、マグネタイトのヘマタイト化では、酸化剤と接触し易いマグネタイト皮膜のごく表層の部分のみがヘマタイト化しているものと考えられる。
【0023】
発明者らは、マグネタイトへのCoイオンの取り込みは、(3)式に示される化学反応のようにイオン交換反応によって行われると考えた。
【0024】
Fe(III)[Fe(II)Fe(III)]O4+Co2+ → Fe(III)[Co(II)Fe(III)]O4+Fe2+ …(3)
一方、ヘマタイトへのCoイオンの取り込みは、(4)式の化学反応のように固相反応によって行われると発明者らは考えた。
【0025】
Co2++2H2O → Co(OH)2+H+ …(4)
Fe2O3+Co(OH)2 → Fe(III)[Co(II)Fe(III)]O4+H2O …(5)
(5)式の反応はコランダム型結晶構造を持つヘマタイトからスピネル型結晶構造を持つマグネタイトへの結晶構造変化を伴う反応であるのに対して、(3)式の反応は結晶構造変化を伴わない反応であり、(5)式の反応が(3)の反応よりも起こり難い。このため、ステンレス鋼材の表面に形成されたマグネタイト皮膜表層のヘマタイト化が進行している、腐食電位を−0.2Vにする高温高圧純水に曝された第三試験片の方が、腐食電位を−0.2Vにする高温高圧純水に曝されていない第二試験片よりもCoの取り込みが抑制されると考えられる。
【0026】
発明者らは、形成されたフェライト皮膜の表層部にヘマタイト皮膜を形成する条件を検討した。この結果、原子力プラント構成部材の表面に形成されたフェライト皮膜の表層部にヘマタイト皮膜を形成するためには、その構造部材の腐食電位を−0.2V〜+0.2Vの範囲内にする水を、フェライト皮膜の表面に接触させる必要があることが分かった。構造部材の腐食電位を−0.2V以上にする水を構造部材の表面に形成されたフェライト皮膜と接触させることによって、マグネタイトよりもヘマタイトが安定化する。従って、通常の水素注入条件である、構造部材の腐食電位を−0.5Vにする水素注入量を減らすことにより生成された、構造部材の腐食電位を−0.2Vにする水をフェライト皮膜に接触させることにより、形成されたフェライト皮膜中のマグネタイトがヘマタイトに化学変化する。一方、構造部材の腐食電位を−0.4V以上−0.2V未満の範囲にする水をフェライト皮膜に接触させた場合には、フェライト皮膜内でのヘマタイトの形成が不完全となる。また、構造部材の腐食電位が+0.2Vを超えることは通常の原子力プラントの運転では考えられないので、腐食電位+0.2Vを上限とした。
【0027】
構造部材の腐食電位を、−0.5Vから、−0.2V〜+0.2Vの範囲へ変更する場合、及び構造部材の腐食電位を−0.2V〜+0.2Vの範囲に調節する場合は、炉水への水素注入量を制御する。構造部材の腐食電位は炉水の溶存水素濃度と酸化剤濃度の比によって変化するが、原子力プラントの型によって溶存水素濃度と酸化剤濃度の比の関係が変化し、これに依存して腐食電位も変化する。このため、構造部材の腐食電位を−0.2Vから+0.2Vに調節する溶存水素濃度は一義的に決まらないが、一般的には、炉水の溶存水素濃度が50ppbを越えると構造部材の腐食電位が−0.5V以下になり、炉水の溶存水素濃度が50ppbを下回ると急激に構造部材の腐食電位が上昇する。炉水の溶存水素濃度の制御は給水への水素注入濃度によって制御できる。図9に給水中の水素濃度と再循環系配管の腐食電位の関係の一例を示す。給水中の水素濃度が0.3ppm〜0.4ppmの範囲で再循環系配管の腐食電位が大きく変化している。給水中の水素濃度が0.3ppmより低い場合には再循環系配管の腐食電位が0.0V以上になり、その水素濃度が0.6ppmより大きい場合はその腐食電位が−0.5V以下となっている。
【0028】
Coイオンの酸化皮膜への取り込み抑制にはマグネタイトよりもヘマタイトの方が有効である。しかしながら、構造部材の応力腐食割れ抑制の観点からは、ヘマタイトが安定化される、構造部材の腐食電位を−0.2V〜+0.2Vの範囲内にする炉水よりも、構造部材の腐食電位を−0.5Vにする炉水を構造部材に形成されたフェライト皮膜に接触させる方が好ましく、構造部材の腐食電位を−0.2V〜+0.2Vの範囲内にする炉水においても、構造部材の腐食電位を−0.2Vにする炉水をそのフェライト皮膜に接触させる方が好ましい。このため、Coイオンの付着抑制及び応力腐食割れの抑制を両立させるためには、ヘマタイトの形成後に、構造部材の腐食電位を−0.5Vにする炉水とフェライト皮膜の接触を維持する必要がある。いったん形成されたヘマタイトは、腐食電位が−0.5Vの環境では、徐々にマグネタイトに還元される。
【0029】
6Fe2O3+2H2 → 4Fe3O4+2H2O ……(6)
そこで、原子力プラントの構成部材の表面に形成された、Coイオンの付着抑制効果を有するヘマタイト層を維持するためには、構成部材の表面に存在する、上記した還元により生成されたマグネタイトを、構造部材の腐食電位を−0.2V〜+0.2Vの範囲にする炉水に再び曝すと良い。従って、Coイオンの付着抑制及び応力腐食割れの抑制を両立させる状態を継続するためには、構成部材の表面に形成されたフェライト皮膜と接触する炉水が、構造部材の腐食電位を−0.2Vから+0.2Vの範囲内にする状態、及び構造部材の腐食電位を−0.5Vする状態を繰り返すように、炉水に注入される水素濃度を調節することにより、原子力プラントの運転を継続することが望ましい。
【0030】
以上に述べた検討結果を反映した本発明の実施例を、以下に説明する。
【実施例1】
【0031】
本発明の好適な一実施例である実施例1の原子力プラント構成部材の線量低減方法を、図1,図2及び図3を用いて説明する。本実施例は、原子力プラント構成部材の線量低減方法をBWRプラントに適用した例である。
【0032】
このBWRプラントの概略構成を、図2を用いて説明する。BWRプラントは、原子炉1、タービン3、復水器4、再循環系、原子炉浄化系及び給水系等を備えている。原子炉格納容器11内に設置された原子炉1は、炉心13を内蔵する原子炉圧力容器(以下、RPVという)12を有し、RPV12内にジェットポンプ14を設置している。炉心13には複数の燃料集合体(図示せず)が装荷されている。各燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットを充填した複数の燃料棒を含んでいる。再循環系は再循環ポンプ21及びステンレス鋼製の再循環系配管22を有し、再循環ポンプ21が再循環系配管22に設置されている。給水系は、復水器4とRPV12を連絡する給水配管10に、復水ポンプ5、復水浄化装置6、低圧給水加熱器8、給水ポンプ7及び高圧給水加熱器9を設置して構成される。水素注入装置16が、復水器4と復水ポンプ5の間で給水配管10に接続されている。原子炉浄化系は、再循環系配管22と給水配管10を連絡する浄化系配管20に、浄化系ポンプ24,再生熱交換器25,非再生熱交換器26及び炉水浄化装置27を設置して構成される。浄化系配管20は、再循環ポンプ21より上流で再循環系配管22に接続される。
【0033】
RPV12内の冷却水(以下、炉水という)は、再循環ポンプ21で昇圧され、再循環系配管22を通ってジェットポンプ14のノズル(図示せず)からジェットポンプ14のベルマウス(図示せず)内に噴出される。ノズルの周囲に存在する炉水も、ノズルから噴出される噴出流の作用により、ベルマウス内に吸引される。ジェットポンプ14から吐出された炉水は、炉心13に供給され、燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱される。加熱された炉水の一部が蒸気になる。この蒸気は、RPV12から主蒸気配管2を通ってタービン3に導かれ、タービン3を回転させる。タービン3に連結された発電機(図示せず)が回転され、電力が発生する。タービン3から排出された蒸気は、復水器4で凝縮され、水になる。
【0034】
この水は、給水として、給水配管10を通りRPV12内に供給される。給水配管10を流れる給水は、復水ポンプ5で昇圧され、復水浄化装置6で不純物が除去され、給水ポンプ7でさらに昇圧され、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9で加熱される。抽気配管15で主蒸気配管2,タービン3から抽気された抽気蒸気が、低圧給水加熱器8及び高圧給水加熱器9にそれぞれ供給され、給水の加熱源となる。
【0035】
RPV12内の炉水は、核燃料物質の核分裂に伴って発生する放射線の照射を受けて放射線分解を起こし、過酸化水素及び酸素などの酸化性化学種を生ずる。この酸化性化学種によって炉水と接触する構成部材の腐食電位が上昇する。このため、応力腐食割れに対する環境緩和対策として水素注入装置16から給水に水素を注入する。水素を含む給水をRPV12に供給し、RPV12内の炉水中でこの水素と酸化性化学種を反応させることにより、酸化性化学種濃度を低減させて腐食電位を下げる。このように炉水に水素を注入しながら行うBWRプラントの運転を水素注入水質運転(HWC:Hydrogen Water Chemistry)、水素注入を行わないBWRプラントの運転を通常水質運転(NWC:Normal Water Chemistry)と呼んでいる。
【0036】
再循環系配管22内を流れる炉水の一部は、浄化系ポンプ24の駆動によって浄化系配管20内に流入し、炉水浄化装置27で浄化される。浄化された炉水は、浄化系配管20及び給水配管10を経てRPV12内に戻される。
【0037】
BWRプラントは、1つの運転サイクルでの運転が終了した後に停止される。この運転停止後に、BWRプラントに対して定期検査が実施され、この定期検査が終了した後、BWRプラントが再度起動される。この定期検査の期間中において、炉心13内の一部の燃料集合体が新燃料集合体と交換される。すなわち、炉心内の一部の燃料集合体が、使用済燃料集合体としてRPV12から取り出され、燃焼度ゼロの新たな燃料集合体が炉心13に装荷される。
【0038】
BWRプラントの運転が停止されている定期検査の期間中において、RPV12に接続された配管系(例えば、再循環系配管22及び浄化系配管20等)の炉水と接する内面へのフェライト皮膜の形成が行われる。このフェライト皮膜の形成には、仮設の設備である皮膜形成装置30が用いられる。皮膜形成装置30の循環配管35が、BWRプラントの運転が停止された後、皮膜形成対象である、例えば、再循環系配管22に接続される。皮膜形成装置30は、フェライト皮膜の形成後、具体的には、フェライト皮膜の形成に使用した溶液の処理が終了した後、BWRプラントの運転開始前に再循環系配管22から取り外される。皮膜形成装置30は、BWRプラントの運転が停止されている間で、再循環系配管22の内面に形成した放射性核種を含む酸化皮膜の溶解除去、及び酸化皮膜溶解除去後の配管表面へのフェライト皮膜の形成、及びこの皮膜の形成に使用された溶液(廃液)の処理に用いられる。
【0039】
皮膜形成装置30の詳細な構成を、図3を用いて説明する。皮膜形成装置30は、サージタンク31、循環配管35、鉄(II)イオン注入装置81、酸化剤注入装置82、pH調整剤注入装置83、フィルタ54、分解処理装置67、カチオン交換樹脂塔63及び混床樹脂塔65を備えている。開閉弁50、循環ポンプ51、弁52、加熱器56、弁58,59,60、サージタンク31、循環ポンプ32、弁33及び開閉弁34が、上流よりこの順に循環配管35に設けられている。
【0040】
配管69が、弁52をバイパスするように両端で循環配管35に接続される。配管69には、弁53及びフィルタ54が設けられる。加熱器56及び弁58をバイパスする配管70の両端が循環配管35に接続される。冷却器61及び弁62が配管70に設置される。両端が循環配管35に接続されて弁59をバイパスする配管71に、カチオン交換樹脂塔63及び弁64が設置される。両端が配管71に接続されてカチオン交換樹脂塔63及び弁64をバイパスする配管72に、混床樹脂塔65及び弁66が設置される。弁68及び分解処理装置67が設置される配管73が、弁60をバイパスして循環配管35に接続される。分解処理装置67は、内部に、例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒を充填している。弁36及びエゼクタ37が設けられる配管74が、弁33と循環ポンプ32の間で循環配管35に接続され、さらに、サージタンク31に接続される。化学除染の対象となる配管(例えば、再循環系配管22)の内面の汚染物を酸化溶解するための過マンガン酸カリウム、さらには配管内の汚染物を還元溶解するためのシュウ酸をサージタンク31内に供給するためのホッパ(図示せず)がエゼクタ37に設けられている。化学除染の対象となる配管は、皮膜形成対象の配管(例えば、再循環系配管22)である。
【0041】
鉄(II)イオン注入装置81は、薬液タンク47,弁41,注入ポンプ44及び注入配管75を有する。薬液タンク47は、注入ポンプ44及び弁41が設けられた注入配管75によって循環配管35に接続される。薬液タンク47は、鉄をギ酸で溶解して調製した2価の鉄(II)イオンを含む薬剤(第1の薬剤)が充填されている。この薬剤はギ酸も含んでいる。なお、鉄を溶解させる薬剤としては、ギ酸に限らず、鉄(II)イオンの対アニオンとなる有機酸または炭酸を用いることができる。
【0042】
酸化剤注入装置82は、薬液タンク48,注入ポンプ45,弁42及び注入配管76を有する。薬液タンク48は、注入ポンプ45及び弁42が設置された注入配管76によって循環配管35に接続されている。薬液タンク48には、酸化剤(第2の薬剤)である、例えば、過酸化水素が充填されている。
【0043】
pH調整剤注入装置83は、薬液タンク40,注入ポンプ39,弁38及び注入配管77を有する。薬液タンク40は、注入ポンプ39及び弁38が設置された注入配管77によって循環配管35に接続される。薬液タンク40には、pH調整剤(第3の薬剤)である、例えば、ヒドラジンを充填されている。
【0044】
弁57を設けた配管78が、注入配管76に接続され、さらに、分解処理装置67の上流で配管73に接続される。サージタンク31には、最初に、処理に用いられる水が充填されている。薬液タンク47及びサージタンク31には、それぞれの内部に存在する溶液に含まれる酸素を除去するために、窒素またはアルゴンなどの不活性ガスをその溶液内にバブリングする不活性ガス注入装置(図示せず)を接続することが好ましい。
【0045】
酸化剤注入装置82の注入配管76と循環配管35の第2接続点79、及びpH調整剤注入装置83の注入配管77と循環配管35の第3接続点80は、鉄(II)イオン注入装置81の注入配管75と循環配管35の第1接続点78よりも下流に配置される。pH調整剤注入装置83は、皮膜形成対象箇所にできるだけ近い位置で循環配管35に接続することが好ましい。このように、皮膜形成装置30の配管系統が構成されているので、循環配管35に鉄(II)イオンを注入した後、酸化剤注入装置82及びpH調整剤注入装置83を起動することによって、循環配管35内の鉄(II)イオンを含む水溶液に酸化剤及びpH調整剤を添加することができる。
【0046】
分解処理装置67は、鉄(II)イオンの対アニオンとして使用する有機酸(例えば、ギ酸)、及びpH調整剤であるヒドラジンを分解する。つまり、鉄(II)イオンの対アニオンとしては、廃棄物量の低減化を考慮して水および二酸化炭素に分解できる有機酸、または気体として放出可能で廃棄物を増やさない炭酸を用いている。
【0047】
皮膜形成装置30を用いて再循環系配管22内にフェライト皮膜を形成し、形成されたフェライト皮膜の表層部にプラント起動後にヘマタイト皮膜を形成する腐食電位(−0.2Vから+0.2Vの範囲の腐食電位)と応力腐食割れを抑制する腐食電位(−0.5V)を繰り返して生成する、本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法では、図1に示された各工程が実行される。本実施例におけるBWRプラント構成部材の、炉水と接触する表面へのフェライト皮膜の形成は、BWRプラントの運転を停止した後の、例えば、BWRプラントの定期検査(保守点検)の期間内で行われる。本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法を、図1に示す手順に沿って具体的に説明する。
【0048】
まず、皮膜形成装置30を皮膜形成対象の配管系に接続する(ステップS1)。BWRプラントが定期検査のために停止された後、前述したように、循環配管35が、皮膜形成対象の、例えば、再循環系配管22に接続される。再循環系配管22に接続された浄化系配管20には弁23が設けられている。この弁23のボンネットを開放して浄化系配管20の炉水浄化装置27側を閉鎖する。弁23のフランジに循環配管35の一端を接続する。循環配管35の他端は、再循環ポンプ21よりも下流で再循環系配管22、例えば、再循環系配管22に接続された枝管(ドレン配管または計装配管などを切り離した枝管)に接続される。このようにして、皮膜形成装置30が再循環系配管22に接続される。
【0049】
皮膜形成対象の配管系の内面に対して化学除染を実施する(ステップS2)。運転されたBWRプラントの、炉水と接触する、再循環系配管22の内面には、放射性核種を取り込んだ酸化皮膜(汚染物)が形成されている。このため、運転を経験したBWRプラントでは、配管系の内面にフェライト皮膜を形成する前に、配管系の内面に形成された、放射性核種を取り込んだ酸化皮膜(汚染物)を、除去することが好ましい。皮膜形成対象の配管系へのフェライト皮膜の形成はその配管系への放射性核種の付着抑制を目的とするものであるが、事前にその酸化皮膜を除去することは、形成されたフェライト皮膜が放射性核種を取り込んだ酸化皮膜を覆うことを防ぎ、配管系の線量を低減させることになる。本実施例では、配管系の内面に形成された、放射性核種を取り込んだ酸化皮膜の除去が、化学除染により行われる。
【0050】
ステップS2で実施する化学除染は、公知の方法(特開2000−105295号公報参照)であるが、簡単に説明する。まず、開閉弁50,弁52,58,59,60及び33、及び開閉弁34を開き、他の弁を閉じた状態で、循環ポンプ32,51を起動して、皮膜形成対象である再循環系配管22内にサージタンク31内の水を循環させる。そして、加熱器56によって加熱して、循環する水の温度を約90℃まで昇温させる。エゼクタ37に連絡されたホッパから供給された過マンガン酸カリウムが、弁36を開くことによって配管74内を流れる水により、サージタンク31内に供給される。サージタンク31内で、過マンガン酸カリウムにより酸化除染液が生成される。この酸化除染液は、循環配管35を通って再循環系配管22内に供給され、再循環系配管22の内面に形成されている酸化皮膜などの汚染物を溶解する。このようにして、再循環系配管22の内面の酸化除染が行われる。
【0051】
酸化除染終了後、酸化除染液に残留する過マンガン酸イオンは、上記のホッパからサージタンク31に注入されるシュウ酸によって分解される。サージタンク31内に更にシュウ酸を供給することによって還元除染液が生成される。還元除染液のpH調整のため、弁38を開いて薬液タンク40からヒドラジンを循環配管35内に供給する。ヒドラジンを含む還元除染液が、循環ポンプ32により再循環系配管22内に供給され、再循環系配管22の内面に形成されている酸化皮膜等の汚染物を還元溶解する。還元除染時に、弁64を開くと共に弁59の開度を調整し、還元除染液の一部をカチオン交換樹脂塔63に導く。再循環系配管22の内面から還元除染液中に溶出した金属陽イオンが、カチオン交換樹脂塔63内のカチオン交換樹脂に吸着され、除去される。
【0052】
還元除染の終了後、弁68を開いて循環配管35内を流れる還元除染液の一部を分解処理装置67に供給する。分解処理装置67は、薬液タンク48から配管78を通して供給される過酸化水素、及び活性炭触媒の作用によって還元除染液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンを分解する。シュウ酸及びヒドラジンの分解後、弁58を閉じて加熱を停止し、除染液を冷却器61で冷却して、例えば、60℃まで低下させる。60℃になった除染液が、弁64を閉じて弁66を開くことにより、混床樹脂塔65に供給される。混床樹脂塔65は、分解処理装置67で分解されなかった、除染液に含まれる不純物を除去する。
【0053】
皮膜形成対象箇所の表面にフェライト皮膜を形成する(ステップS3)。まず、上記の除染終了後で皮膜形成装置30による最後の浄化運転が終了した後、以下の弁操作が行われる。弁53を開いて弁52を閉じ、フィルタ54への通水を開始する。弁59を開いて弁66を閉じることにより、混床樹脂塔65への通水を停止する。さらに、弁62を閉じ、弁58を開いて加熱器56によって循環配管35内の水を所定温度まで加熱する。皮膜形成対象である再循環系配管22に供給される皮膜形成水溶液の温度調整が行われる。弁50,60,33,34は開いており、弁36,41,38,42,57,62,64,66,68は閉じている。加熱された皮膜形成水溶液は、循環配管35及び再循環系配管22により形成される閉ループの経路内を循環する。
【0054】
フィルタ54への通水は水中に残留している微細な固形物を除去するためである。この固形物が残留していると、皮膜形成対象箇所へのフェライト皮膜の形成の際に、その固形物の表面にもフェライト皮膜が形成され、薬剤が無駄に使用されることになる。上記の固形物の除去によって、皮膜形成水溶液(皮膜形成液)に含まれる薬剤を有効に使用できる。フィルタ54への通水を除染中に実施した場合には、溶解した高い放射能の放射性核種を含む固形物によってフィルタ54の線量率が高くなりすぎる恐れがある。このため、フィルタ54への通水は除染終了後に行う。上記固形物の除去が終了した時点で、弁52を開いて弁53を閉じる。
【0055】
皮膜形成水溶液の上記の所定温度は、100℃程度が好ましいが、これに限られない。要は、BWRプラントの運転時に炉水に含まれる放射性核種が、皮膜形成対象箇所に形成されるフェライト皮膜に取り込まれない程度に、その皮膜の結晶等の膜構造が緻密に形成できればよいのである。したがって、皮膜形成水溶液の温度は少なくとも200℃以下が好ましく、下限は常温(20℃)でもよいが、フェライト皮膜の生成速度が実用範囲になる60℃以上が好ましい。100℃以上では皮膜形成水溶液の沸騰を抑制するため、加圧しなければならず、皮膜形成装置30の耐圧性が要求されるようになり設備が大型化するため好ましくない。皮膜形成水溶液の温度が200℃以下であるので、皮膜形成対象の配管系、例えば、再循環系配管22の炉水と接触する内面に緻密なフェライト皮膜を形成することができる。
【0056】
皮膜形成対象箇所にフェライト皮膜を形成させるためには、鉄(II)イオンが皮膜形成対象箇所の金属部材の表面(例えば、再循環系配管22の内面)に吸着される必要がある。しかし、皮膜形成水溶液に含まれる鉄(II)イオンは、(7)式に基づいて溶存酸素により鉄(III)イオンに酸化される。鉄(III)イオンは、鉄(II)イオンに比べて溶解度が低いため、(8)式の反応により水酸化第二鉄として析出してしまい、フェライト皮膜の形成に寄与しなくなってしまう。そこで、皮膜形成水溶液中の溶存酸素を除去するため、上記したように、不活性ガスのバブリングまたは真空脱気を行うことが好ましい。
【0057】
4Fe2++O2+2H2O → 4Fe3++4OH− ……(7)
Fe3++3OH− → Fe(OH)3 ……(8)
循環配管35内を循環する水の温度が所定温度に達した後、鉄(II)イオンを含む薬剤(水溶液)を循環配管35内に注入する。すなわち、弁41を開いて注入ポンプ44を駆動し、鉄をギ酸で溶解して調製して得られた鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬剤を、薬液タンク47から循環配管35内を流れる皮膜形成水溶液に注入する。酸化剤である過酸化水素を循環配管35内に注入する。具体的には、弁42を開いて注入ポンプ45を駆動することにより、薬液タンク48内の過酸化水素が、注入配管76を通して、循環配管35内を流れる、鉄(II)イオンを含む皮膜形成水溶液に注入される。過酸化水素は、皮膜形成対象箇所の金属部材の表面(再循環系配管22の内面)に吸着された鉄(II)イオン、及び皮膜形成水溶液内の鉄(II)イオンを、鉄(III)イオンに酸化する。後者の鉄(II)イオンが鉄(III)イオンに酸化されることにより、皮膜形成水溶液は鉄(II)イオン及び鉄(III)イオンを含むことになる。続いて、pH調整剤であるヒドラジンを循環配管35内へ注入する。弁38を開いて注入ポンプ39を駆動することによって、薬液タンク40内のヒドラジンが、注入配管77を通って、循環配管35内を流れる、鉄(II)イオン、鉄(III)イオン及び過酸化水素を含む皮膜形成水溶液(皮膜形成液)に注入される。ヒドラジンが、皮膜形成水溶液のpHを5.5〜9.0の範囲内、例えば、7.0にするように注入される。皮膜形成水溶液のpHが5.5〜9.0の範囲内に調節されるので、鉄(II)イオン及び鉄(III)イオンからフェライトの一種であるマグネタイトが、反応式(9)に基づいて再循環系配管22の内面に形成される。
【0058】
Fe2++2Fe3++2H2O = Fe(III)[Fe(II)Fe(III)]O4+8H+ ……(9)
この皮膜形成水溶液が、循環配管35を通って再循環系配管22に供給される。皮膜形成水溶液と接触する再循環系配管22の内面全面でマグネタイト皮膜の生成反応が生じ、その全面にフェライト皮膜であるマグネタイト皮膜が形成される。制御装置(図示せず)は、pH計79によって計測された処理液のpH計測値に基づいて注入ポンプ39の回転速度を制御し、再循環系配管22内に注入するヒドラジンの注入量を調整する。この制御によって、皮膜形成水溶液のpHが上記の範囲内に調節される。本実施例では、皮膜形成水溶液のpHが7.0に調節される。
【0059】
循環ポンプ32、51が駆動されているので、ヒドラジン、鉄(II)イオン及び過酸化水素を含むpHが7.0である皮膜形成水溶液が、循環配管35により、開閉弁34を介して再循環系配管22内に供給される。この皮膜形成水溶液が、再循環系配管22内を流れて、循環配管35の開閉弁50側へと戻される。戻された皮膜形成水溶液に、鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬剤が薬液タンク47から、過酸化水素が薬液タンク48から、ヒドラジンが薬液タンク40からそれぞれ注入される。この皮膜形成水溶液が再び再循環系配管22内に導かれる。
【0060】
皮膜形成対象の配管系の内面へのフェライト皮膜の形成が完了したかの判定が行われる。この判定は、フェライト皮膜の形成処理開始、すなわち、鉄(II)イオン及びギ酸を含む薬剤の注入が開始されて酸化剤及びpH調整剤の注入が開始された後の経過時間で行われる。この経過時間が再循環系配管22の内面に所定の厚みのフェライト皮膜を形成するのに要する時間になるまでの間は、フェライト皮膜の形成が完了したかの判定は「NO」になる。この場合には、再循環系配管22の内面へのフェライト皮膜の形成が引き続き行われる。その判定が「YES」になったとき、注入ポンプ39、44及び45を停止し(または弁38,41及び42を閉じ)て各薬剤の、循環している皮膜形成水溶液への注入を停止する。これによって、再循環系配管22の内面へのフェライト皮膜の形成作業が終了する。
【0061】
配管系の内面へのフェライト皮膜の形成作業が終了したとき、皮膜形成水溶液に含まれている薬剤の分解が実施される(ステップS4)。再循環系配管22の内面へのフェライト皮膜の形成に使用された皮膜形成水溶液は、フェライト皮膜の形成が終了した後においても、ヒドラジン及び有機酸であるギ酸を含んでいる。皮膜形成水溶液に含まれたヒドラジン及びギ酸は、還元除染剤であるシュウ酸の分解と同様に、分解処理装置67で分解される。薬剤の分解処理では、弁60,68の開度を調整し、循環配管35内の皮膜形成水溶液の一部を分解処理装置67に供給する。弁57を開くことにより、過酸化水素が、薬液タンク48から配管78を通して分解処理装置67に供給される。ヒドラジン及びギ酸は、分解処理装置67内で過酸化水素及び活性炭触媒の作用により分解される。ギ酸は(10)式の反応により二酸化炭素と水に、ヒドラジンは(11)式の反応により窒素と水にそれぞれ分解する。
【0062】
HCOOH+H2O2 → CO2+2H2O ……(10)
N2H4+2H2O2 → N2+4H2O ……(11)
薬剤の分解を実行している期間において、皮膜形成水溶液は、循環ポンプ32、51の駆動によって循環配管35の一端から再循環系配管22の一端に供給され、再循環系配管22内を通って循環配管35の他端に戻される。
【0063】
分解処理装置67に皮膜形成水溶液を供給する前に、弁53を開けて弁52を閉じ、皮膜形成水溶液をフィルタ54に供給する。皮膜形成水溶液に含まれたマグネタイト粒子がフィルタ54によって除去される。マグネタイト粒子の除去後、弁59、64の開度を調整して皮膜形成水溶液の一部をカチオン交換樹脂塔63に供給する。皮膜形成水溶液に含まれる鉄(II)イオン及びヒドラジニウムイオンがカチオン交換樹脂塔63によって除去される。皮膜形成水溶液に含まれているギ酸及びカチオン交換樹脂塔63で除去し切れなかったヒドラジンの分解は、前述したように、分解処理装置67を用いて行われる。
【0064】
ヒドラジン及びギ酸を混床樹脂塔65で処理することもできるが、イオン交換樹脂の廃棄物が増えてしまうので、これらの物質は分解処理装置67で分解処理するのが好ましい。ヒドラジンとギ酸ではギ酸の方が分解し難いので、分解処理装置67による薬剤の分解がある程度進むと、循環している皮膜形成水溶液のpHが低下し始める。この皮膜形成水溶液のpHが4以下になると、再循環系配管22の内面に形成したフェライト皮膜が溶解する可能性が生じる。このため、pH計79で計測されたpHの値が4以下にならないように、弁38を開けて注入ポンプ39を起動し、薬液タンク40内のヒドラジンを皮膜形成水溶液に注入する。ヒドラジンを注入しながら残留したギ酸、注入したヒドラジンの分解を進めるとギ酸の濃度も徐々に下がってくるので、pH4を維持するヒドラジン注入量は徐々には少なくなる。ギ酸の濃度が少なくなって来るとヒドラジンを注入しなくともpH4以上を維持できるようになるので、最終的にはヒドラジン注入無しでギ酸の分解が行われる。
【0065】
なお、触媒を用いた分解処理装置67の替りに紫外線照射装置を用いることも可能である。紫外線照射装置も、酸化剤の存在下でヒドラジン,ギ酸及びシュウ酸を分解することができる。
【0066】
ヒドラジン及びギ酸を分解処理装置67で上記のように気体及び水に分解することによって、カチオン交換樹脂塔64によるヒドラジン、及び混床樹脂塔65によるギ酸の除去を大幅に低減できるので、これらのイオン交換樹脂の廃棄物量を著しく低減できる。
【0067】
皮膜形成装置の、皮膜形成対象の配管系からの取り外しを行う(ステップS5)。皮膜形成水溶液に含まれている薬剤の分解が終了した後、再循環系配管22に連絡されている循環配管35の両端が、浄化系配管20、及び再循環系配管22に接続された枝管から取り外される。浄化系配管20に設けられたバルブ28、及びその枝管等が元通りに復旧される。これにより、BWRプラントの運転が開始できる状態になる。再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜は、BWRプラントの起動まで、そのままの状態に保たれる。
【0068】
BWRプラントの定期検査が終了した後、BWRプラント起動の準備が進められる。再循環ポンプ21が起動されて、再循環系配管22には炉水が循環され、ジェットポンプ14から吐出された炉水が炉心13に供給される。BWRプラントの起動時における復水器真空度、炉水温度、及び原子炉圧力の変化を図4に示す。BWRプラント起動前に復水器4の真空度を上昇させる。復水器4の真空度の上昇は、復水器4に接続されたオフガス系(図示せず)に設けられた空気抽出器(図示せず)により行われる。さらに、主蒸気配管2に設けられた主蒸気隔離弁を全開にし、主蒸気配管2と復水器4を接続するタービンパス配管(図示せず)に設けられたバイパス弁を開いて炉水の脱気を行い、炉水の溶存酸素濃度を0.2ppm程度まで低下させる。
【0069】
その後、原子炉を起動する(ステップS6)。中央制御室に設置された操作盤に設けられた原子炉モードスイッチが起動に入れられ、炉心13に挿入された複数の制御棒(図示せず)が順番に引き抜かれる。原子炉1のある運転サイクルにおける運転が開始される。やがて、原子炉1が臨界に達する(ステップS7)。炉心13に装荷された各燃料集合体に含まれた核燃料物質が核分裂を起こし、炉水の核加熱が開始される。原子炉の昇温昇圧が行われる(ステップS8)。この昇温昇圧工程では、制御棒が炉心からさらに引き抜かれて核燃料物質の核分裂が増大し、炉水の温度が上昇して蒸気が発生する。昇温昇圧工程により、原子炉圧力が定格圧力まで上昇し、炉水温度も定格温度(例えば、280℃)まで上昇する。炉心13では核燃料物質の核分裂によって中性子線及びガンマ線が発生する。中性子線及びガンマ線は炉水の放射線分解を誘発して、炉水中に過酸化水素及び酸素を生じさせる。昇温昇圧工程が終了した後、制御棒の引き抜き、及び炉心流量の増大によって、原子炉出力が定格出力(100%出力)まで、上昇される(ステップS9)。
【0070】
本実施例では、原子炉起動中に水素注入を行っていないので、放射線分解によって生成した酸化性化学種は炉水に残留する。酸化性化学種を含む高温の炉水が再循環系配管22内を流れるとき、その炉水が、ステップS3により再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜(例えば、マグネタイト皮膜)の表面に接触する。炉水に含まれた酸化性化学種が、280℃の高温環境においてフェライト皮膜の表面に接触することにより、このフェライト皮膜を構成するマグネタイトに含まれる鉄(II)イオンが酸化される。この結果、再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の表層部にヘマタイトが徐々に形成される。昇温昇圧工程で炉水が定格温度に到達してから原子炉出力が定格出力(100%出力)に到達するまでの期間において、ステップ3で形成されたフェライト皮膜の、炉水と接触する表層部がヘマタイト化する。水素注入が行われないため、構成部材である再循環系配管22の腐食電位が+0.2Vになり、再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の、炉水と接触する表面に、膜状のヘマタイト層(ヘマタイト皮膜)が形成される。このように、再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の表層部は、Coイオン付着抑制効果が向上するヘマタイト皮膜になっている。
【0071】
次に、応力腐食割れ抑制の観点から水素注入を開始し、所定の期間、水素注入を行う(ステップS10)。水素注入は、例えば、炉水の水素濃度が50ppbに保持されるように、連続して一週間(第1の所定期間)の間、行われる。ステップS10の水素注入は、給水配管10内を流れる給水に、水素注入装置16から水素(還元剤)を注入することによって行われる。この水素注入によって、原子炉1はHWC条件で運転されることになる。給水配管10を流れる、水素を含む給水がRPV12内に供給され、注入された水素が炉水に含まれる酸素及び過酸化水素などの酸化剤と反応して水を生成する。このため、RPV12内の炉水の酸化剤濃度が低下し、炉水の腐食電位が低下する。炉水と接触する、原子力プラントの構成部材の応力腐食割れを抑制することができる。構成部材の腐食電位を目標電位以下(例えば−0.5V)に低下させるように、炉水への水素注入が行われる。
【0072】
フェライト皮膜の表面に形成されたヘマタイト層は、再循環系配管22の腐食電位を−0.5Vにする炉水に曝され続けると、マグネタイトへ還元される。このため、水素注入量を減少させる(ステップS11)。第1所定期間での定格速度での水素注入が終了したとき、フェライト皮膜表層部のヘマタイトを増やすために、水素注入装置16から給水への水素注入量を減少させ、炉水の水素注入濃度を減少させる。応力腐食割れ抑制の観点からはできるだけ低電位の方が好ましいため、例えば、再循環系配管22の腐食電位が−0.2Vになるように、水素注入を、定格の注入速度(ステップS10での水素注入量)の1/2の注入速度で第2の所定時間、例えば6時間程度継続する。水素注入を1/2注入速度で行うことにより、再循環系配管22の腐食電位が−0.5Vから−0.2Vに上昇する。この結果、炉水に含まれた酸化性化学種の作用により、再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の表層部にヘマタイトが生成され、フェライト皮膜の表面にヘマタイト層が維持される。
【0073】
第2所定時間、例えば、6時間の、1/2注入速度での水素注入が終了した後、水素注入量を増加する(ステップS12)。水素注入量を増加は、ステップS10と同様に、水素注入を定格速度に上昇させることによって行われ、再循環系配管22の腐食電位も−0.5Vに低下する。ステップS12の定格速度による水素注入は、ステップS10と同様に、第1所定時間(例えば、1週間)の間、継続される。第1所定時間における、定格速度による水素注入が終了したとき、水素注入量を、再び、減少させる(ステップS13)。ステップS13においても、ステップS11と同様に、第2所定期間(例えば、6時間)の間、1/2注入速度での水素注入が行われ、再循環系配管22の腐食電位が−0.2Vに上昇する。第2所定期間における1/2注入速度での水素注入が終了した後、再循環系配管22の腐食電位が−0.5Vに低下する定格速度での水素注入(ステップS12)及び再循環系配管22の腐食電位が−0.2Vに増大する1/2速度での水素注入(ステップS13)が、交互に繰り返えされて、BWRプラントの運転を継続する(ステップS14)。ステップS12及びS13のそれぞれの水素注入の繰り返しは、1つの運転サイクルにおけるBWRプラントの運転が終了するまで継続される。これにより、再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の表面にヘマタイト層を、BWRプラントの定格運転期間に亘って維持することができ、Coイオンの付着抑制を継続させながら、応力腐食割れを抑制できる腐食電位−0.5Vの期間を長期間確保することができる。
【0074】
本実施例によれば、水素注入により構成部材(再循環系配管22)の腐食電位を−0.5Vにする期間の経過後に構成部材の腐食電位を−0.2Vにする期間を設け、これらの期間を繰り返すことにより、再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の表面がヘマタイト皮膜で覆われた状態を継続させることができ、再循環配管22内を流れる炉水がフェライト皮膜の表面と接触せずにヘマタイト皮膜の表面と接触する。炉水のフェライト皮膜への接触を防止できるので、フェライト皮膜の溶解、再析出が生じず、フェライト皮膜への放射性核種の取り込みを防止することができる。このため、再循環系配管22の線量をさらに低減することができる。ヘマタイトはフェライトよりも水に対する溶解度が低いため、炉水と接触するヘマタイト皮膜への放射性核種の取り込みが著しく抑制される。特に、原子炉出力が定格出力に到達した後、1つの運転サイクルを通して、構成部材の腐食電位を−0.5Vにする期間及び構成部材の腐食電位を−0.2Vにする期間を繰り返すので、原子炉出力が定格出力に到達した後、1つの運転サイクルでの運転が終了するまで、構成部材の表面に形成されたフェライト皮膜の表面にヘマタイト皮膜を保持することができるので、原子炉出力が定格出力に到達した後、1つの運転サイクルを通してフェライト皮膜へのCoイオンの付着をさらに抑制することができる。
【0075】
さらに、本実施例は、ヘマタイト皮膜が炉水に接触しているので、炉水に含まれるCo−60等の放射性核種の再循環系配管22の内面(具体的には、ヘマタイト皮膜の表面)への付着を著しく抑制することができる。
【0076】
本実施例では、鉄(II)イオン、及び鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する酸化剤を含むpHが5.5〜9.0の範囲内にある皮膜形成水溶液(皮膜形成液)を、好ましくは、60℃〜100℃の範囲内の温度に調節して、皮膜形成対象である配管(例えば、再循環系配管22)の内面に接触させるので、その配管の内面に緻密なフェライト皮膜を形成することができる。
【0077】
本実施例では、再循環系配管2の内面に形成したフェライト皮膜の表層部をヘマタイトに変えているので、フェライト皮膜自身に取り込まれるCo−60の付着量を低減する効果を得ることができる。
【0078】
本実施例では、ヘマタイト層を、炉水温度が定格温度に達した後で且つ炉水への水素注入を行う前で、酸化性化学種を含む炉水をフェライト皮膜の表面に接触させることによって形成しているので、フェライト皮膜自身に取り込まれるCo−60の付着量を低減する効果を得ることができる。
【0079】
本実施例では、ヘマタイト層がフェライト皮膜の表層部に形成された後、水素注入を行うことで応力腐食割れ抑制対策を行うとともに、水素注入によってヘマタイト層がマグネタイト層に還元されることを考慮して、定格の水素注入量を、第1所定期間の間、維持した後、水素注入量を半減させて再循環系配管22の腐食電位を−0.2V付近に上昇させることでフェライト皮膜の表層部に再びヘマタイトを形成させる。1/2に減少させた水素注入量を第2所定時間の間継続し、ヘマタイト層が厚くなった段階で、再度、水素注入量を定格に戻し、応力腐食割れを抑制する。ヘマタイト層がマグネタイト層に還元されてヘマタイト層の厚みが減少することを考慮し、第1所定期間の間、再循環系配管22の腐食電位を−0.5Vにする定格の水素注入量を維持した後、水素注入量を半減させて再循環系配管22の腐食電位を−0.2V付近に上昇させてヘマタイトを生成させる。これにより、第1所定期間で厚みが減少したヘマタイト層の厚みが、第2所定期間で厚くなる。以上述べたように、水素注入を、定格の水素注入量及び1/2(半減)の水素注入量で繰り返すことによって、Coイオン付着抑制効果のあるヘマタイト層を継続して維持しながら、応力腐食割れ抑制効果のある腐食電位−0.5Vの維持期間を長く確保することができる。
【0080】
本実施例では、水素注入装置16を給水配管10に接続しているが、水素注入装置16を浄化系配管20に接続しても良い。この場合には、浄化系配管20内に水素が注入され、この水素が浄化系配管20及び給水配管10を介してRPV12内の炉水に注入される。
【0081】
皮膜形成装置30の循環配管35の両端を浄化系配管20に接続し、BWRプラントの運転停止期間において、浄化系配管20の内面にフェライト皮膜を形成してもよい。浄化系配管20の内面にフェライト皮膜が形成された後、循環配管35の両端を浄化系配管20から取り外して、BWRプラントの運転を開始する。ステップS8において、炉水が定格温度になった状態からステップS9の定格出力となるまでの間、NWC条件となるので、この期間において、酸化性化学種を含む炉水が浄化系配管20の内面に形成されたフェライト皮膜の表面に接触され、フェライト皮膜の表層部にヘマタイト皮膜が形成される。この浄化系配管20においても、応力腐食割れ抑制対策のために行われる水素注入が開始される(ステップS10)と、ヘマタイト皮膜がマグネタイトに還元され、ヘマタイト皮膜の厚みが減少する。そこで、ヘマタイト層がマグネタイトに還元されてヘマタイト層の厚みが減少することを考慮し、第1所定期間の間、定格の水素注入量を維持した後、水素注入量を半減させて浄化系配管20の腐食電位を−0.2V付近とすることによりヘマタイトを生成してヘマタイト層の厚みを増加させる。その後、前述の再循環系配管22の場合と同様に、水素注入を、定格の水素注入量及びその1/2の注入量に交互に繰り返すことより、再循環系配管22で得られる上記の各効果を得ることができる。
【0082】
新設のBWRプラントに対しても、このBWRプラントの運転開始前に、再循環系配管22及び浄化系配管20の少なくとも1つの配管の内面にフェライト皮膜を形成することができる。しかしながら、新設のBWRプラントの運転開始前では、再循環系配管22及び浄化系配管20の少なくとも1つの配管の内面に放射性核種が付着していない。このため、再循環系配管22及び浄化系配管20の少なくとも1つの配管の内面にフェライト皮膜を形成する場合には、ステップS1,S3,S4及びS5の各工程が実施され、ステップS2の化学除染は実施されない。
【0083】
新設のBWRプラントの最初の運転サイクルにおいて、原子炉起動が行われ(ステップS6)、その後、ステップS7〜S13の各操作が行われる。新設のBWRプラントの再循環系配管22及び浄化系配管20の少なくとも1つの配管の内面に形成されたフェライト皮膜の表層部でのヘマタイト皮膜の形成が、ステップS9において行われる。続いて、定格速度での水素注入を行って(ステップS10)、フェライト皮膜及びヘマタイト皮膜が形成された配管の腐食電位を−0.5Vにし、応力腐食割れ抑制対策を行う。第1所定時間が経過したとき、定格速度の1/2の速度で水素注入を行い(ステップS11)、フェライト皮膜及びヘマタイト皮膜が形成された配管の腐食電位を−0.2Vにする。その後、ステップS12及びS13の操作を交互に繰り返して実施する。したがって、新設のBWRプラントにおいても、前述した運転を経験したBWRプラントと同様な各効果を得ることができる。
【実施例2】
【0084】
本発明の他の実施例である実施例2の原子力プラント構成部材の線量低減方法を、図7及び図8を用いて説明する。本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法も、運転を経験したBWRプラントに適用される。本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法が適用されるBWRプラントは、実施例1が適用されるBWRプラントに水素注入装置17を追加した構成を有する。水素注入装置17が、浄化系配管20の、炉水浄化装置27よりも下流で且つ再生熱交換器25の下流に存在する部分に接続されている。
【0085】
本実施例における原子力プラント構成部材の線量低減方法でも、実施例1における原子力プラント構成部材の線量低減方法において実施するステップS1〜S6の各工程を実施する。ステップS3において、フェライト皮膜が、例えば、再循環系配管22の内面に形成される。原子炉を起動した(ステップS6)後、水素注入を行う(ステップS15)。この水素注入は、原子炉1の起動後の臨界到達前に、水素注入装置17から浄化系配管20に水素を供給することによって行われる。水素注入装置17から浄化系配管20への水素は、定格速度で行われる。このため、炉水と接触する再循環系配管22等の構成部材の腐食電位が、−0.5Vになる。原子炉1が起動されたときには、給水配管10によるRPV12への給水の供給は行われていないが、浄化系ポンプ24が駆動されて浄化系配管20内に炉水が流れている。浄化系配管20内を流れている炉水に注入された水素は、この炉水と共にRPV1内に導かれる。この水素注入は、原子炉の昇温昇圧(ステップS8)が終了して炉水の温度が280℃になったときに停止される。
【0086】
原子炉の昇温昇圧により炉水の温度が280℃になった後、ステップS9において、原子炉出力が定格出力まで上昇される。原子炉出力が定格出力になったとき、原子炉浄化系からの水素注入が停止される(ステップS16)。原子炉出力が定格出力になったとき、水素注入装置17から浄化系配管20への水素の注入を停止する。その後、ステップS10による、水素注入装置16から給水配管10への水素注入が行われる。水素注入装置17から浄化系配管20への水素注入の停止(ステップS16)から水素注入装置16から給水配管10への水素注入(ステップS10)までの間の期間(通常は数日間)は、炉水温度が定格温度に実質的に保持されて水素注入を行っていない状態(NWC)で、原子炉1が運転される。この期間では、炉水の放射線分解で発生した酸化性化学種を含む炉水が、再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の表面に接触する。腐食電位は+0.2Vとなる。実施例1と同様に、再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の表層部にヘマタイトが生成され、やがて、フェライト皮膜の表面全面を覆うヘマタイト皮膜が形成される。
【0087】
ステップS10で水素注入装置16から給水配管10への水素注入が行われた後、実施例1と同様に、ステップS11,S12及びS13が行われ、ステップS12及びS13のそれぞれの水素注入が1つの運転サイクルが終了するまで繰り返されてBWRプラントの運転を継続する(ステップS14)。ステップS10〜S13では、水素注入が、水素注入装置17からではなく、水素注入装置16から行われる。
【0088】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例では、原子炉の起動からRPV12内の炉水に水素を注入することができるので、原子力プラント構成部材の応力腐食割れをさらに抑制することができる。
【0089】
BWRプラントの起動により、炉内構造物等の原子力プラント構成部材は、起動時の約50℃〜60℃から昇温昇圧過程終了時の定格温度(280℃)まで温度が上昇する。この温度変化に伴う構成部材の熱膨張により、構成部材に応力が発生する。このため、原子力プラントの構成部材の応力腐食割れ抑制対策の観点から、原子炉の起動直後から炉水に水素を注入する場合がある。しかしながら、原子炉の起動直後から炉水への水素注入を実施して定格出力運転に至る場合には、再循環系配管22の内面に形成したフェライト皮膜の表面が酸化される期間が得られなくなり、フェライト皮膜の表層部にヘマタイト皮膜を形成することができなくなる。そこで、本実施例では、原子炉の起動直後に炉水への水素注入を行って炉水温度が定格温度に到達したときに浄化系配管20からの水素注入を停止し、水素注入を行わない期間を経て、給水配管10への水素注入を開始している。このため、ステップS16による水素注入の停止からステップS10による水素注入開始までの水素注入を行わない期間において、再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の表層部のマグネタイトを酸化させてヘマタイトを生成することができる。
【0090】
本実施例も、新設のBWRプラントの配管系の内面にフェライト皮膜を形成することができ、この場合には実施例1と同様にステップS2の化学除染の実施は不要である。
【実施例3】
【0091】
本発明の他の実施例である実施例3の原子力プラント構成部材の線量低減方法を、図10を用いて説明する。本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法も、運転を経験したBWRプラントに適用される。本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法が適用されるBWRプラントは、実施例2が適用されるBWRプラントと同じ構成を有し、水素注入装置17を有する。
【0092】
本実施例における原子力プラント構成部材の線量低減方法は、実施例2における原子力プラント構成部材の線量低減方法と同様に、ステップS1〜S6,S15及びS7〜S9の各工程を実施する。ステップS3では、フェライト皮膜が、例えば、再循環系配管22の内面に形成される。本実施例では、ステップS10が実施されない。ステップS9によって原子炉出力が定格出力になったとき、給水配管への水素注入を行う(ステップS11)。水素注入装置16から給水配管10内を流れる給水へ1/2注入速度で水素注入を行う。このステップS11による水素注入が開始されたとき、浄化系配管への水素注入を停止する(ステップS16)。水素注入装置17から浄化系配管20への水素の注入が停止される。この結果、水素注入装置16から給水配管10内に1/2注入速度で注入された水素が、RPV12内に供給され、構成部材の腐食電位が−0.2Vになる。再循環系配管22の内面に形成されたフェライト皮膜の表層部のマグネタイトがヘマタイト化され、フェライト皮膜の表面にヘマタイト皮膜が形成される。1/2注入速度での水素注入は6時間行われる。この6時間が経過したとき、ステップS12による水素注入、及びステップS13による水素注入が、実施例2と同様に順次行われる。そして、ステップS12及びS13のそれぞれの水素注入が、1つの運転サイクルが終了するまで繰り返されてBWRプラントの運転が継続される(ステップS14)。
【0093】
本実施例は、実施例2で生じる各効果を得ることができる。本実施例では、原子炉出力が定格出力に到達した後における浄化系配管20からの水素注入の停止を、給水配管10からの水素注入を開始した後に行うので、構成部材がNWC環境に暴露される期間を排除することができ、原子力プラントの構成部材の応力腐食割れをさらに抑制することができる。
【0094】
本実施例も、新設のBWRプラントの配管系の内面にフェライト皮膜を形成することができ、この場合には実施例1と同様にステップS2の化学除染の実施は不要である。
【実施例4】
【0095】
本発明の他の実施例である実施例4の原子力プラント構成部材の線量低減方法を、図11を用いて説明する。本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法も、運転を経験したBWRプラントに適用される。本実施例の原子力プラント構成部材の線量低減方法が適用されるBWRプラントは、実施例2が適用されるBWRプラントに、各再循環系配管22に設置した腐食電位センサー18を追加した構成を有する。
【0096】
実施例1〜3の各実施例では、他のBWRプラントの実績、または実験データを用いた計算結果に基づいて、構成部材の腐食電位が−0.5Vまたは−0.2Vになるように、ステップS10またはS11における水素の注入量を制御している。これに対して、本実施例では、再循環系配管22の腐食電位を腐食電位センサー18で測定し、測定された構造部材の腐食電位が−0.5Vまたは−0.2Vになるように炉水への水素注入量を制御する。
【0097】
本実施例は、例えば、実施例1と同様に、ステップS1〜S14の各工程が実施される。ステップS10及びS12おいて、水素注入量が腐食電位センサー18で測定された腐食電位が−0.5Vになるように、水素注入装置16からの水素注入量が、図2において図示されていない制御装置(または手動)により調節される。ステップS11及びS13において、水素注入量が腐食電位センサー18で測定された構造部材の腐食電位が−0.2Vになるように、水素注入装置16からの水素注入量が上記の制御装置(または手動)により調節される。なお、定格速度での水素注入量が構造部材の腐食電位を−0.5Vにする水素注入量に相当し、定格速度の1/2速度での水素注入量が構造部材の腐食電位を−0.2Vにする水素注入量に相当する。
【0098】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例では、再循環系配管22に設置した腐食電位センサー18で測定された腐食電位に基づいて水素の注入を制御するので、達成したい構造部材の腐食電位(−0.5V及び−0.2V)に確実に制御することができる。
【0099】
本実施例は、実施例2及び3にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、沸騰水型原子力プラントに適用することができる。
【符号の説明】
【0101】
1…原子炉、2…主蒸気配管、3…タービン、4…復水器、7…給水ポンプ、10…給水配管、12…原子炉圧力容器、13…炉心、14…ジェットポンプ、16,17…水素注入装置、18…腐食電位センサー、20…浄化系配管、21…再循環ポンプ、22…再循環系配管、27…炉水浄化装置、30…皮膜形成装置、31…サージタンク、32,51…循環ポンプ、35…循環配管、39,44,45…注入ポンプ、40,47,48…薬液タンク、56…加熱器、61…冷却器、63…カチオン交換樹脂塔、65…混床樹脂塔、67…分解処理装置、79…pH計、81…鉄(II)イオン注入装置、82…酸化剤注入装置、83…pH調整剤注入装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力プラントの構成部材の表面にフェライト皮膜を形成し、前記構成部材の腐食電位を−0.2V乃至+0.2Vの範囲内に調節して前記フェライト皮膜の表層部にヘマタイト皮膜を形成し、その後、前記構成部材の腐食電位が−0.5Vになる第1状態と前記構成部材の腐食電位が−0.2V乃至+0.2Vの範囲内になる第2状態を交互に繰り返すことを特徴とする原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項2】
前記構成部材の表面への前記フェライト皮膜の形成は、前記原子力プラントの運転が停止されているときに、鉄(II)イオン、及び鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する酸化剤を含むpHが5.5〜9.0の範囲内にある皮膜形成液を、前記構成部材の前記表面に接触させることによって行われる請求項1に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項3】
前記構成部材の前記表面に接触させる前記皮膜形成液は、60℃〜100℃の範囲内の温度に調節されている請求項2に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項4】
前記原子力プラントの運転中において原子炉内に供給される水素量を前記第1状態において前記原子炉内に供給される前記水素量よりも減少させることによって、前記第2状態が生成される請求項1ないし3のいずれか1項に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項5】
前記原子力プラントの運転中における前記第2状態の前記第1状態への変化は、前記原子炉内に供給される水素量を前記第2状態において前記原子炉内に供給される前記水素量よりも増加させることによって、行われる請求項4に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項6】
前記原子炉の昇温昇圧工程の前に前記原子炉に水素を注入して前記第1状態を生成するときには、前記水素を、前記原子炉に連絡されて前記原子炉の昇温昇圧工程の前に炉水を前記原子炉に導く、前記原子力プラントの配管系に注入する請求項4に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項7】
原子炉出力が定格出力に到達したとき、前記原子炉の昇温昇圧工程の前に炉水を前記原子炉に導く、前記原子力プラントの前記配管系への前記水素の注入を停止し、前記定格出力に到達したとき以降に前記第1状態及び前記第2状態をそれぞれ繰り返して生成するときには、この水素注入の停止から所定の時間経過後に、前記原子炉に接続される給水配管に水素を注入する請求項6に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項8】
原子炉出力が定格出力に到達したとき、前記原子炉の昇温昇圧工程の前に炉水を前記原子炉に導く前記配管系以外の、前記原子炉に連絡される他の配管系に、前記原子炉の昇温昇圧工程の前に炉水を前記原子炉に導く前記配管系への前記水素の注入量よりも少ない注入量で水素を注入し、この水素の注入後に、前記原子炉の昇温昇圧工程の前に炉水を前記原子炉に導く前記配管系への前記水素の注入を停止する請求項6に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項9】
原子炉出力が定格出力に到達したとき以降に前記第1状態及び前記第2状態をそれぞれ繰り返して生成するときには、前記原子炉に接続される給水配管に水素を注入する請求項4,5及び8のいずれか1項に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項10】
前記原子力プラントの運転が停止されているときで、前記構成部材の表面への前記フェライト皮膜の形成の前に、前記構成部材の表面を除染する請求項1ないし9のいずれか1項に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項11】
原子炉出力が定格出力に到達したとき以降において、第2状態が形成される第2期間が、第1状態が形成される第1期間よりも短くなっている請求項1ないし10のいずれか1項に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項12】
前記原子力プラントの運転が停止されているときに、鉄(II)イオン、及び鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する酸化剤を含むpHが5.5〜9.0の範囲内にある皮膜形成液を、加熱装置及びポンプを備えた配管を通して原子力プラントの構成部材である配管系に供給し、
前記皮膜形成液を前記配管系の内面に接触させてこの内面にフェライト皮膜を形成し、
前記原子力プラントが運転されているとき、前記配管系の腐食電位を−0.2V乃至+0.2Vの範囲内に調節して前記フェライト皮膜の表層部にヘマタイト皮膜を形成し、
その後、前記配管系の腐食電位が−0.5Vになる第1状態と前記構成部材の腐食電位が−0.2V乃至+0.2Vの範囲内になる第2状態を交互に繰り返すことを特徴とする原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項13】
前記配管系への前記皮膜形成液の供給は、前記原子力プラントの運転が停止されているときに、前記配管を前記配管系に接続した後に行い、
前記配管系内面への前記フェライト皮膜の形成が終了した後、前記配管を前記配管系から取り外して前記原子力プラントを起動させる請求項12に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項14】
前記構成部材の前記表面に接触させる前記皮膜形成液は、前記加熱装置により、60℃〜100℃の範囲内の温度に調節されている請求項12または13に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項15】
前記原子力プラントの運転中において原子炉内に供給される水素量を前記第1状態において前記原子炉内に供給される前記水素量よりも減少させることによって、前記第2状態が生成される請求項12ないし14のいずれか1項に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項16】
前記原子力プラントの運転中における前記第2状態の前記第1状態への変化は、前記原子炉内に供給される水素量を前記第2状態において前記原子炉内に供給される前記水素量よりも増加させることによって、行われる請求項15に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項1】
原子力プラントの構成部材の表面にフェライト皮膜を形成し、前記構成部材の腐食電位を−0.2V乃至+0.2Vの範囲内に調節して前記フェライト皮膜の表層部にヘマタイト皮膜を形成し、その後、前記構成部材の腐食電位が−0.5Vになる第1状態と前記構成部材の腐食電位が−0.2V乃至+0.2Vの範囲内になる第2状態を交互に繰り返すことを特徴とする原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項2】
前記構成部材の表面への前記フェライト皮膜の形成は、前記原子力プラントの運転が停止されているときに、鉄(II)イオン、及び鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する酸化剤を含むpHが5.5〜9.0の範囲内にある皮膜形成液を、前記構成部材の前記表面に接触させることによって行われる請求項1に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項3】
前記構成部材の前記表面に接触させる前記皮膜形成液は、60℃〜100℃の範囲内の温度に調節されている請求項2に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項4】
前記原子力プラントの運転中において原子炉内に供給される水素量を前記第1状態において前記原子炉内に供給される前記水素量よりも減少させることによって、前記第2状態が生成される請求項1ないし3のいずれか1項に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項5】
前記原子力プラントの運転中における前記第2状態の前記第1状態への変化は、前記原子炉内に供給される水素量を前記第2状態において前記原子炉内に供給される前記水素量よりも増加させることによって、行われる請求項4に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項6】
前記原子炉の昇温昇圧工程の前に前記原子炉に水素を注入して前記第1状態を生成するときには、前記水素を、前記原子炉に連絡されて前記原子炉の昇温昇圧工程の前に炉水を前記原子炉に導く、前記原子力プラントの配管系に注入する請求項4に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項7】
原子炉出力が定格出力に到達したとき、前記原子炉の昇温昇圧工程の前に炉水を前記原子炉に導く、前記原子力プラントの前記配管系への前記水素の注入を停止し、前記定格出力に到達したとき以降に前記第1状態及び前記第2状態をそれぞれ繰り返して生成するときには、この水素注入の停止から所定の時間経過後に、前記原子炉に接続される給水配管に水素を注入する請求項6に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項8】
原子炉出力が定格出力に到達したとき、前記原子炉の昇温昇圧工程の前に炉水を前記原子炉に導く前記配管系以外の、前記原子炉に連絡される他の配管系に、前記原子炉の昇温昇圧工程の前に炉水を前記原子炉に導く前記配管系への前記水素の注入量よりも少ない注入量で水素を注入し、この水素の注入後に、前記原子炉の昇温昇圧工程の前に炉水を前記原子炉に導く前記配管系への前記水素の注入を停止する請求項6に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項9】
原子炉出力が定格出力に到達したとき以降に前記第1状態及び前記第2状態をそれぞれ繰り返して生成するときには、前記原子炉に接続される給水配管に水素を注入する請求項4,5及び8のいずれか1項に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項10】
前記原子力プラントの運転が停止されているときで、前記構成部材の表面への前記フェライト皮膜の形成の前に、前記構成部材の表面を除染する請求項1ないし9のいずれか1項に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項11】
原子炉出力が定格出力に到達したとき以降において、第2状態が形成される第2期間が、第1状態が形成される第1期間よりも短くなっている請求項1ないし10のいずれか1項に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項12】
前記原子力プラントの運転が停止されているときに、鉄(II)イオン、及び鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する酸化剤を含むpHが5.5〜9.0の範囲内にある皮膜形成液を、加熱装置及びポンプを備えた配管を通して原子力プラントの構成部材である配管系に供給し、
前記皮膜形成液を前記配管系の内面に接触させてこの内面にフェライト皮膜を形成し、
前記原子力プラントが運転されているとき、前記配管系の腐食電位を−0.2V乃至+0.2Vの範囲内に調節して前記フェライト皮膜の表層部にヘマタイト皮膜を形成し、
その後、前記配管系の腐食電位が−0.5Vになる第1状態と前記構成部材の腐食電位が−0.2V乃至+0.2Vの範囲内になる第2状態を交互に繰り返すことを特徴とする原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項13】
前記配管系への前記皮膜形成液の供給は、前記原子力プラントの運転が停止されているときに、前記配管を前記配管系に接続した後に行い、
前記配管系内面への前記フェライト皮膜の形成が終了した後、前記配管を前記配管系から取り外して前記原子力プラントを起動させる請求項12に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項14】
前記構成部材の前記表面に接触させる前記皮膜形成液は、前記加熱装置により、60℃〜100℃の範囲内の温度に調節されている請求項12または13に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項15】
前記原子力プラントの運転中において原子炉内に供給される水素量を前記第1状態において前記原子炉内に供給される前記水素量よりも減少させることによって、前記第2状態が生成される請求項12ないし14のいずれか1項に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【請求項16】
前記原子力プラントの運転中における前記第2状態の前記第1状態への変化は、前記原子炉内に供給される水素量を前記第2状態において前記原子炉内に供給される前記水素量よりも増加させることによって、行われる請求項15に記載の原子力プラント構成部材の線量低減方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−2983(P2013−2983A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134944(P2011−134944)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
[ Back to top ]