説明

原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法

【課題】RCS圧力の低下幅を抑制してRCPのシールを確保すると共にベンティング操作時間を短縮できる原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法を提供する。
【解決手段】加圧器のベント弁を閉じ、他のベント弁を開けた後、RCS内に原子炉冷却材を充填して加圧器に空気を残したままでRCS内の空気を追い出すスタティックベント工程と、他のベント弁を閉じた後、加圧器に気体を充填してRCS内の圧力を昇圧させる気体充填工程と、RCPを起動してRCS内の残留空気を加圧器のベント弁および他のベント弁の位置まで移動させるRCP起動工程と、加圧器のベント弁を開いてRCS内の圧力を降圧させると共に他のベント弁を開いて残留空気を排出するベント工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントを起動する前に原子炉冷却系統に残留する空気を排出する原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントを起動する際には、RCS(Reactor Cooling System:原子炉冷却系)内に空気が残留している。このため、RCP(Reactor Coolant Pump:原子炉冷却材ポンプ)が起動して原子炉冷却系内の原子炉冷却材が加圧されると、空気が圧縮されて、RCS内に存在する原子炉冷却材の圧力が一時的に低下する。原子炉冷却系内に存在する原子炉冷却材の圧力が低下すると、原子炉冷却材ポンプを保護するために原子炉冷却材ポンプを停止させる必要があるので、原子炉冷却材の圧力が低下しないようにする必要がある。特に蒸気発生器のUチューブ内の空気を排出するベンティング操作が重要となる。従来のベンティング操作はRCS内に原子炉冷却材を充填してRCS内の圧力を上昇させた後、圧力を降圧して空気をベント(排出)するという工程を繰り返すことで行われる。このようなベンティング操作工程は、原子力発電プラント起動時間を長期化させる要因の一つである。特許文献1には、RCS系に原子炉冷却材を充填する前にRCS内から真空ポンプで空気を吸引することで残留空気を極力減らしてからベンティンク操作を行う真空ベンティングが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4022026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のベンティング操作では、RCP起動により原子炉冷却材が撹拌されてUチューブ内にある空気が原子炉冷却材に溶け込むことで空気体積が減少し、RCS内の圧力がRCPのシール差圧(1.4MPag)以下に低下してRCPのシールが損傷する可能性があるという問題がある。また、真空ベンティングは、真空ポンプ等からなる真空ベンディング装置の追設が必要になるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、RCS内の圧力の低下幅を抑制してRCPのシールを確保すると共にベンティング操作時間を短縮できる原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法は、原子力発電プラントを起動する前にRCS内に残留している空気を排出するRCSベンティング操作方法であって、加圧器のベント弁を閉じ、他のベント弁を開けた後、RCS内に原子炉冷却材を充填して加圧器に空気を残したままでRCS内の空気を追い出すスタティックベント工程と、他のベント弁を閉じた後、加圧器に気体を充填してRCS内の圧力を昇圧させる気体充填工程と、RCPを起動してRCS内の残留空気を加圧器のベント弁および他のベント弁の位置まで移動させるRCP起動工程と、加圧器のベント弁を開いてRCS内の圧力を降圧させると共に他のベント弁を開いて残留空気を排出するベント工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、加圧器内に空気(気相部)を残すようにしてスタティックベントを行うことでRCP起動時のRCS内の圧力の一時的な減少幅を小さくすることが可能となった。これにより、RCS内の圧力がRCPのシール差圧以下に低下してRCPのシールが損傷することを防止することができる。またRCS内の圧力の昇圧を加圧器のベントラインから加圧器内にNガスを充填して行うことでベンティング操作時間を短縮することができる。
【0008】
本発明の原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法は、気体充填工程とRCP起動工程とベント工程とを少なくとも2回以上繰り返すことが、好ましい。
【0009】
この構成によれば、RCP起動時にRCS内の圧力がRCPのシール差圧以下に低下してRCPのシールが損傷することを確実に防止することができる。
【0010】
本発明の原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法の気体充填工程は、加圧器のベント弁から気体を充填することが、好ましい。
【0011】
この構成によれば、加圧器のベントライン(ベント弁)から加圧器内にNガスを充填することでNガスを充填するために新たな設備を設ける必要がない。
【0012】
本発明の原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法の気体は窒素ガスであることが、好ましい。
【0013】
この構成によれば、新たな設備を設ける必要がなく既存のNガス供給設備からNガスを供給することができる。
【0014】
本発明の原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法は、原子力発電プラントを起動する前にRCS内に残留している空気を排出するRCSベンティング操作方法であって、加圧器のベント弁および他のベント弁を閉じた後、真空ポンプでRCS内の空気を排出する真空ポンプ排出工程と、RCS内に原子炉冷却材を充填してRCS内の残留空気を追い出すスタティックベント工程と、加圧器に気体を充填してRCS内の圧力を昇圧させる気体充填工程と、RCPを起動してRCS内の残留空気を加圧器のベント弁および他のベント弁の位置まで移動させるRCP起動工程と、加圧器のベント弁を開いてRCSの圧力を降圧させると共に他のベント弁を開いて残留空気を排出するベント工程と、を有することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、RCS内に原子炉冷却材の充填(水張り)を行う前に、RCS内の空気を真空ポンプにより吸引するので、RCS内の圧力の昇圧・降圧を1回とすることが可能となった。これにより、RCSベンティング操作と比較して、さらにベンティング操作時間を短縮することができる。またRCS内の圧力の上昇を加圧器のベントライン(ベント弁)から加圧器内にNガスを充填して行うことでベンティング操作時間を短縮することができる。さらに加圧器内にNガスを充填するためRCP起動時のRCS内の圧力の一時的な減少幅を小さくすることが可能となった。これにより、RCS内の圧力がRCPのシール差圧以下に低下してRCPのシールが損傷することを防止することができる。
【0016】
本発明の原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法のRCP起動工程は、少なくとも2回以上行うことが、好ましい。
【0017】
この構成によれば、RCP起動時にRCS内の圧力がRCPのシール差圧以下に低下してRCPのシールが損傷することを確実に防止することができる。
【0018】
本発明の原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法の気体充填工程は、加圧器のベント弁から気体を充填することが、好ましい。
【0019】
この構成によれば、加圧器のベントライン(ベント弁)から加圧器内にNガスを充填することでNガスを充填するために新たな設備を設ける必要がない。
【0020】
本発明の原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法の気体は窒素ガスであることが、好ましい。
【0021】
この構成によれば、新たな設備を設ける必要がなく既存のNガス供給設備からNガスを供給することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法によれば、RCS内の圧力の低下幅を抑制してRCPのシールを確保すると共にベンディング操作時間を短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本実施例に係るRCSベンティング操作方法が適用される原子力発電プラントを模式的に表した概略構成図である。
【図2】図2は、本実施例に係るRCSベンティング操作方法の手順を説明する図である。
【図3】図3は、従来のRCSベンティング操作方法の手順を説明する図である。
【図4】図4は、本実施例に係るRCS真空ベンティング操作方法の手順を説明する図である。
【図5】図5は、従来のRCS真空ベンティング操作方法の手順を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明に係るRCSベンティング操作方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0025】
図1は、本発明の実施例に係るRCSベンティング操作方法が適用される原子力発電プラントを模式的に表した概略構成図である。
【0026】
本実施例が適用される原子力発電プラントの原子炉は、軽水を原子炉冷却材及び中性子減速材として使用し、一次系全体にわたって沸騰しない高温高圧水とし、この高温高圧水を蒸気発生器に送って二次冷却材と熱交換させることにより蒸気を発生させ、この蒸気をタービン発電機へ送って発電する加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)である。なお、本実施例は、このPWRに限らず、これを改良した改良型加圧水型原子炉(APWR:Advanced Pressurized Water Reactor)に適用することができる。また、蒸気発生器と加圧器とを備えている他の発電プラントにも適用可能である。
【0027】
原子炉2を用いた原子力発電プラントは、原子炉2を含む原子炉冷却系3と、原子炉冷却系3と熱交換するタービン系4とで構成されており、原子炉冷却系3には、原子炉冷却材(一次冷却水)が流通し、タービン系4には、二次冷却材(二次冷却水)が流通している。
【0028】
原子炉冷却系3は、原子炉2と、コールドレグ5a及びホットレグ5bを介して原子炉2に接続された蒸気発生器6とを有している。また、ホットレグ5bには、加圧器7が介設され、コールドレグ5aには、加圧器スプレ配管34と原子炉冷却材ポンプ8とが介設されている。そして、原子炉2、コールドレグ5a、ホットレグ5b、蒸気発生器6、加圧器7及び原子炉冷却材ポンプ8は、原子炉格納容器1に収容されている。
【0029】
原子炉2は、上記したように加圧水型原子炉であり、その内部は原子炉冷却材(一次冷却水)で満たされている。そして、原子炉2内は、多数の燃料集合体15を収容すると共に、燃料集合体15の燃料棒内の核燃料の核分裂を制御する多数の制御棒16が、各燃料集合体15に対し挿入可能に設けられている。
【0030】
制御棒16により核分裂反応を制御しながら燃料集合体15の燃料棒内の核燃料を核分裂させると、この核分裂により熱エネルギーが発生する。発生した熱エネルギーは原子炉冷却材を加熱し、加熱された原子炉冷却材は、ホットレグ5bを介して蒸気発生器6へ送られる。一方、コールドレグ5aを介して各蒸気発生器6から送られてきた原子炉冷却材は、原子炉2内に流入して、原子炉2内を冷却する。
【0031】
ホットレグ5bに介設された加圧器7は、高温となった原子炉冷却材を加圧することにより、原子炉冷却材の沸騰を抑制している。コールドレグ5aに介設された加圧器スプレ配管34は加圧器7に原子炉冷却材を補給するスプレ32に繋がっている。スプレ32から加圧器7に補給される原子炉冷却材の量は、加圧器スプレ弁33により調節される。加圧器7のスプレ32と加圧器スプレ弁33との間には空気を排出するベントラインが介設されている。ベントラインは一端が加圧器スプレ配管34に接続し、中間にベント弁30が設けられ、他端は閉止栓31により閉じられている。ベントラインから空気を排出する時は、他端の閉止栓31を取り外した後、ベント弁30を開いて空気を排出する。また、蒸気発生器6は、高温高圧となった原子炉冷却材(一次冷却水)を二次冷却材(二次冷却水)と熱交換させることにより、二次冷却材を蒸発させて蒸気を発生させ、かつ、高温高圧となった原子炉冷却材を冷却している。原子炉冷却材ポンプ8は、原子炉冷却系3において原子炉冷却材を循環させている。原子炉冷却材ポンプ8は、原子炉冷却材を蒸気発生器6からコールドレグ5aを介して原子炉2へ送り込むと共に、原子炉冷却材を原子炉2からホットレグ5bを介して蒸気発生器6へ送り込んでいる。
【0032】
原子炉冷却材は、原子炉2と蒸気発生器6との間を循環している。なお、原子炉冷却材は、冷却材及び中性子減速材として用いられる軽水である。
【0033】
タービン系4は、蒸気管21を介して各蒸気発生器6に接続されたタービン22と、タービン22に接続された復水器23と、復水器23と各蒸気発生器6とを接続する給水管26に介設された給水ポンプ24と、を有している。そして、上記のタービン22には、発電機25が接続されている。
【0034】
ここで、原子力発電プラントのタービン系4における一連の動作について説明する。蒸気管21を介して蒸気発生器6から蒸気がタービン22に流入すると、タービン22は回転する。タービン22が回転すると、タービン22に接続された発電機25は、発電を行う。この後、タービン22から排出された蒸気は復水器23に流入する。復水器23は、その内部に冷却管27が配設されており、冷却管27の一方には冷却水(例えば、海水)を供給するための取水管28が接続され、冷却管27の他方には冷却水を排水するための排水管29が接続されている。そして、復水器23は、タービン22から流入した蒸気を冷却管27内を流れる冷却水により冷却することで、蒸気を液体に戻している。液体となった二次冷却材は、給水ポンプ24により給水管26を介して蒸気発生器6に送られる。蒸気発生器6に送られた二次冷却材は、蒸気発生器6において原子炉冷却材と熱交換を行うことにより再び蒸気となる。
【0035】
次に、図2〜図5を参照しながら、本実施例に係るRCSベンティング操作方法について説明する。
【0036】
<RCSベンティング操作方法>
図2は、本実施例に係るRCSベンティング操作方法の手順を説明する図である。図3は、従来のRCSベンティング操作方法の手順を説明する図である。
【0037】
図2において、一段目60及び二段目61は機器の動作を示している。両矢印はその動作を行っている時間を表している。三段目62は加圧器ベント弁30(PRZ:Pressure relief valve)と原子炉容器(RV:Reactor Vessel)ベント弁の開閉状態を表している。横線が立ち下がっている状態がベント弁の閉を表し、横線が立ち上がっている状態がベント弁の開を表している。四段目63はRCS3内の圧力の変化を相対的に表しているものである。単位はMPagで大気圧基準の圧力を意味しており、本明細書においては、MPaの表記も同じ意味を表すものとする(以下同様)。五段目64はダイナミックベンティング操作におけるRCS3内の気相容積の変化を相対的に表しているものである。実線(太線)が本実施例の場合を表し、右下がりになるほど気相容積が小さくなることを意味している。点線は従来のベンティング操作における気相容積の変化を表している。
【0038】
本実施例のベンティング操作を以下に説明する。加圧器7内に空気(気相部)を残すためにPRZベント弁30を閉じ(ステップS1)、RVベント弁を開く(ステップS2)。この操作をスタティックベント(ステップS3)という。この時、RCS3内の圧力は約0.2MPag程度である。スタティックベントが終了したら、RVベント弁を閉じ(ステップS4)、加圧器7のベントラインのベント弁30から加圧器7内にNガスを充填してRCS3内の圧力を、例えば約2.7MPagまで昇圧させる(ステップS5)。Nガスの充填によりRCS3内の圧力が約2.7MPagに到達したらNガスの充填を終了する。ここで圧力2.7MPagは、RCPのシールを維持するのに適当な圧力であり、RCPを起動できる圧力である。また加圧器7に空気(気相部)が残っていることで加圧器7のベントラインのベント弁30から加圧器7内にNガスを充填することが可能となるので、Nガスを充填するために新たな設備を設ける必要がない。Nガスの供給はベント弁30の先にあるベントライン(ベント弁30から閉止栓31までのベントライン)を取り外し、既存のNガス供給設備の配管をベント弁30に接続して行うことになる。
【0039】
次にRCPを起動して(ステップS6)RCS3内の残留空気を加圧器ベント弁30および原子炉容器ベント弁の位置まで移動させる。この時、RCS3内の圧力はRCP起動により蒸気発生器6のUチューブトップに残留している空気が原子炉冷却材の中に溶け込んで体積が減少するので実線40の圧力減少カーブで示すように一時的に減少することになる。点線41の圧力減少カーブは従来のベンティング操作での圧力減少を示している。本実施例は加圧器7内に空気(気相部)を残すために従来のベンティング操作に比べて圧力減少幅が小さくなっている。RCP起動してからRCS3内の圧力が安定したらRPC起動を停止して、加圧器ベント弁30および原子炉容器ベント弁を開いてRCS3内の圧力を0.2MPag程度まで降圧させ(ステップS7)、加圧器ベント弁30および原子炉容器ベント弁に移動させた残留空気を排出(ベント)する。
【0040】
上述したステップS5からステップS7までの操作をダイナミックベントという。通常はダイナミックベントをRCP1台あたり約2回繰り返している。このダイナミックベントをループ毎に繰り返して行うことになる。例えば、蒸気発生器6を4ループ備えている場合は、およそ8回のダイナミックベントを行うことになる。図2にはAループからCループまでの3ループ各1回のダイナミックベントを行う例を示している。なおダイナミックベントの繰り返し回数は適宜設定することができる。
【0041】
実線42で示した本実施例における気相容積は、ダイナミックベントの残留空気の排出により確実に減少している。点線43で示した従来例における気相容積は、ダイナミックベントで見かけ上減少する。しかし従来例では残留空気が確実に排出されていないため、ダイナミックベントが終了すると気相容積が元に戻る。そのためダイナミックベントを繰り返す回数が増加していた。
【0042】
図3は、従来のRCSベンティング操作の流れであるが、図2と同様な部分には同じ符号を付して詳細な説明は省略する。図2と同様で、一段目60と二段目61は機器の動作を示している。両矢印はその動作を行っている時間を表している。三段目62は加圧器ベント弁30(PRZ:Pressure relief valve)と原子炉容器(RV:Reactor Vessel)ベント弁の開閉状態を表している。横線が立ち下がっている状態がベント弁の閉を表し、横線が立ち上がっている状態がベント弁の開を表している。四段目63はRCS3内の圧力の変化を相対的に表しているものである。五段目64はダイナミックベンティング操作におけるRCS3内の気相容積の変化を相対的に表しているものである。実線は、右下がりになるほど気相容積が小さくなることを意味している。
【0043】
図2に示す従来のRCSベンディング(従来例)と本実施例との違いは、ステップS31でPRZベント弁30を開けておくことである。従来例では、PRZベント弁30を開けた状態でRCS3内に原子炉冷却材の充填(水張り)を行っていたので加圧器7内の空気も同時に追い出していた。またステップS35でRCS3内の圧力を上昇させるために原子炉冷却材をRCS3内に充填して行っていた。原子炉冷却材の充填はポンプにより行うが、専用のポンプ設備でないものを前記充填に兼用していたため、RCS3内の圧力を約2.7MPag程度まで上昇させるのに非常に時間を要していた。またステップS37でRCS3内の圧力を約0.2MPag程度まで降圧させる場合も前記充填に用いたポンプと同じポンプで、充填した原子炉冷却材を抽出していたので、圧力を上昇させる時間と同じく長時間を必要としていた。これに対して、本実施例では、RCS3内の圧力の昇圧・降圧を短時間で大量に供給できる既存のNガス設備からNガスを充填して行うので、RCS3内の圧力の昇圧・降圧時間を大幅に短縮することが可能である。
【0044】
従来例では、例えば、RCS3内の昇降圧(0.2MPag→2.7MPag→0.2MPag)は、充填・抽出ラインによるRCS3内への原子炉冷却材の出し入れで行うが、RCS3内に多量の空気があるとこれを圧縮するための時間を要するので、昇降圧に時間を要する。例えば、RCS3内に10mの空気が残存しているとすると、RCS3内の圧力を0.2MPagから2.0MPagに昇圧するには気相の容積を10mから1mに小さくする必要があるので、9mの水をRCS3内に充填する必要がある。充填ポンプの容量が10m/hであった場合は、昇圧に約1時間(54分)がかかる。1回のダイナミックベンティングでは、昇圧(1時間)→RCP運転/停止(30分)→降圧(1時間)のために約2時間半を要し、4ループの場合では約20時間かかることとなり、定期検査工程の時間を短縮できない要因となっていた。
【0045】
(本実施例の効果)
上述したように、本実施例では、加圧器7内に空気(気相部)を残すようにしてスタティックベントを行うことで、RCP起動時のRCS3内の圧力の一時的な減少幅を小さくすることが可能となった。これにより、RCS3内の圧力がRCPのシール差圧(1.4MPag)以下に低下してRCPのシールが損傷することを防止することができる。
【0046】
またRCS3内の圧力の上昇を加圧器7のベントラインから加圧器7内にNガスを充填して行うことでベンティング操作に要する時間を短縮することができる。
【0047】
<RCS真空ベンティング操作方法>
図4は、本実施例に係るRCS真空ベンティング操作方法の流れを説明する図である。図5は、従来のRCS真空ベンティング操作方法の流れを説明する図である。
【0048】
図4において、一段目70と二段目71は機器の動作を示している。両矢印はその動作を行っている時間を表している。三段目72は加圧器ベント弁30(PRZ:Pressure relief valve)と原子炉容器(RV:Reactor Vessel)ベント弁の開閉状態を表している。横線が立ち下がっている状態がベント弁の閉を表し、横線が立ち上がっている状態がベント弁の開を表している。四段目73はRCS3内の圧力の変化を相対的に表しているものである。五段目74はダイナミックベンティング操作におけるRCS3内の気相容積の変化を相対的に表しているものである。実線(太線)が本実施例の場合を表し、右下がりになるほど気相容積が小さくなることを意味している。点線は従来のベンティング操作における気相容積の変化を表している。
【0049】
本実施例のRCS真空ベンティング操作を以下に説明する。PRZベント弁30を閉じ(ステップS10)、RVベント弁を閉じる(ステップS11)。次にRCS3内の空気を真空ポンプにより吸引する(ステップS12)。この状態で、PRZベント弁30とRVベント弁を開き(ステップS13,S14)、RCS3内に原子炉冷却材の充填(水張り)を行うことでRCS3内の残留空気を追い出すことができる。この操作をスタティックベント(ステップS15)という。この時、RCS3内の圧力は約0.2MPag程度である。スタティックベントが終了したら、PRZベント弁30とRVベント弁を閉じ(ステップS16,S17)、加圧器7のベントラインから加圧器7内にNガスを充填してRCS3内の圧力を、例えば約2.7MPagまで昇圧させる(ステップS18)。Nガスの充填によりRCS3内の圧力が約2.7MPagに到達したらNガスの充填を終了する。ここで圧力2.7MPagは、RCPのシールを維持するのに適当な圧力であり、RCPを起動できる圧力である。また加圧器7に空気(気相部)が残っていることで加圧器7のベントラインのベント弁30から加圧器7内にNガスを充填することが可能となるので、Nガスを充填するために新たな設備を設ける必要がない。Nガスの供給はベント弁30の先にあるベントライン(ベント弁30から閉止栓31までのベントライン)を取り外し、既存のNガス供給設備の配管をベント弁30に接続して行うことになる。
【0050】
次にRCPを起動して(ステップS19)RCS3内の残留空気を加圧器ベント弁30および原子炉容器ベント弁の位置まで移動させる。この時、RCS3内の圧力はRCP起動により蒸気発生器6のUチューブトップに残留している空気が原子炉冷却材の中に溶け込んで体積が減少するので実線50の圧力減少カーブで示すように一時的に減少することになる。点線51の圧力減少カーブは従来のベンティング操作での圧力減少を示している。本実施例は加圧器7内にNガスを充填するため従来のベンティング操作に比べて圧力減少幅が小さくなっている。加圧器7内に気相部があることで、RCS3内の原子炉冷却材の圧力応答が支配できるため、RCP起動時のRCS3内の圧力の減少幅を小さくすることができる。RCP起動してからRCS3内の圧力が安定したらRPC起動を停止する。所定の時間経過後、RCS3内の圧力が安定したら、再度RCP起動を行う(ステップS20)。図4ではRCP起動を3回繰り返して行う例を示しているが、これに限ることではなくRCP起動を繰り返す回数は適宜設定することができる。RCP起動を停止した後、RCS3内の圧力が安定したら、加圧器ベント弁30および原子炉容器ベント弁を開いて(ステップS21,22)RCS3内の圧力を0.2MPag程度まで降圧させ(ステップS23)、加圧器ベント弁30および原子炉容器ベント弁に移動させた残留空気を排出(ベント)する。
【0051】
上述したステップS18からステップS23までの操作をダイナミックベントという。通常はダイナミックベントをループ毎に繰り返すことになる。例えば、蒸気発生器6を4ループ備えている場合は、およそ4回のダイナミックベントを行うことになる。図4には1ループ1回のダイナミックベントでRCP起動を3回繰り返す例を示している。なおダイナミックベントは1ループ1回に限ることはなく、複数回行うことができる。
【0052】
実線52で示した本実施例における気相容積は、ダイナミックベントの残留空気の排出により確実に減少している。点線53で示した従来例における気相容積は、ダイナミックベントで見かけ上減少する。しかし従来例では残留空気が確実に排出されていないため、ダイナミックベントを繰り返す回数が増加していた。
【0053】
図5は、従来のRCS真空ベンティング操作の流れであるが、図4と同様な部分には同じ符号を付して詳細な説明は省略する。図4と同様で、一段目70と二段目71の段は機器の動作を示している。両矢印はその動作を行っている時間を表している。三段目72は加圧器ベント弁30(PRZ:Pressure relief valve)と原子炉容器(RV:Reactor Vessel)ベント弁の開閉状態を表している。横線が立ち下がっている状態がベント弁の閉を表し、横線が立ち上がっている状態がベント弁の開を表している。四段目73はRCS3内の圧力の変化を相対的に表しているものである。五段目74はダイナミックベンティング操作におけるRCS3内の気相容積の変化を相対的に表しているものである。実線は、右下がりになるほど気相容積が小さくなることを意味している。
【0054】
図4に示す従来のRCS真空ベンディング(従来例)と本実施例との違いは、ステップS88でRCS3内の圧力を上昇させるために原子炉冷却材をRCS3内に充填して行っていた。原子炉冷却材の充填はポンプにより行うが、専用のポンプ設備でないものを前記充填に兼用していたため、RCS3内の圧力を約2.7MPag程度まで上昇させるのに非常に時間を要していた。またステップS93でRCS3内の圧力を約0.2MPag程度まで降圧させる場合も前記充填に用いたポンプと同じポンプで、充填した原子炉冷却材を抽出していたので、圧力を上昇させる時間と同じく長時間を要していた。従って、RCSベンティング操作と同様でRCS3内の圧力を昇圧・降圧するのに長時間を要し、定期検査工程の時間を短縮できない要因となっていた。これに対して、本実施例では、RCS3内の圧力の昇圧・降圧を短時間で大量に供給できる既存のNガス設備からNガスを充填して行うので、RCS3内の圧力の昇圧・降圧時間を大幅に短縮することが可能である。
【0055】
(本実施例の効果)
上述したように、本実施例では、RCS3内に原子炉冷却材の充填(水張り)を行う前に、RCS3内の空気を真空ポンプで吸引することで残留空気を極力減らすので、RCS3内の圧力の昇圧・降圧を1回とすることが可能となった。これにより、RCSベンティング操作と比較して、さらにベンティング操作に要する時間を短縮することができる。
【0056】
またRCS3内の圧力の上昇を加圧器7のベントラインから加圧器7内にNガスを充填して行うことでベンティング操作時間を短縮することができる。
【0057】
さらに加圧器7内にNガスを充填するためRCP起動時のRCS3内の圧力の一時的な減少幅を小さくすることが可能となった。これにより、RCS3内の圧力がRCPのシール差圧(1.4MPag)以下に低下してRCPのシール性能が低下することを防止することができる。
【0058】
本実施例の原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法は、上述した2つの実施例によってベンティング操作を行うので、RCP起動時のRCS3内の圧力の一時的な低下幅を抑制してRCPのシールを確保すると共にベンティング操作時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 原子炉格納容器
2 原子炉
3 原子炉冷却系(RCS)
4 タービン系
5a コールドレグ
5b ホットレグ
6 蒸気発生器
7 加圧器
8 原子炉冷却材ポンプ
21 蒸気管
22 タービン
23 復水器
24 給水ポンプ
25 発電機
26 給水管
27 冷却管
30 ベント弁
31 閉止栓
32 スプレ
33 加圧器スプレ弁
34 加圧器スプレ配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電プラントを起動する前にRCS内に残留している空気を排出するRCSベンティング操作方法であって、
加圧器のベント弁を閉じ、他のベント弁を開けた後、RCS内に原子炉冷却材を充填して前記加圧器に空気を残したままで前記RCS内の空気を追い出すスタティックベント工程と、
前記他のベント弁を閉じた後、前記加圧器に気体を充填して前記RCS内の圧力を昇圧させる気体充填工程と、
RCPを起動して前記RCS内の残留空気を前記加圧器のベント弁および前記他のベント弁の位置まで移動させるRCP起動工程と、
前記加圧器のベント弁を開いて前記RCS内の圧力を降圧させると共に前記他のベント弁を開いて前記残留空気を排出するベント工程と、
を有することを特徴とする原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法。
【請求項2】
前記気体充填工程と前記RCP起動工程と前記ベント工程とを少なくとも2回以上繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法。
【請求項3】
前記気体充填工程は、前記加圧器のベント弁から前記気体を充填することを特徴とする請求項1または2に記載の原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法。
【請求項4】
前記気体は窒素ガスであることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法。
【請求項5】
原子力発電プラントを起動する前にRCS内に残留している空気を排出するRCSベンティング操作方法であって、
加圧器のベント弁および他のベント弁を閉じた後、真空ポンプでRCS内の空気を排出する真空ポンプ排出工程と、
前記RCS内に原子炉冷却材を充填して前記RCS内の残留空気を追い出すスタティックベント工程と、
加圧器に気体を充填して前記RCS内の圧力を昇圧させる気体充填工程と、
RCPを起動して前記RCS内の残留空気を前記加圧器のベント弁および前記他のベント弁の位置まで移動させるRCP起動工程と、
前記加圧器のベント弁を開いて前記RCSの圧力を降圧させると共に前記他のベント弁を開いて前記残留空気を排出するベント工程と、
を有することを特徴とする原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法。
【請求項6】
前記RCP起動工程は、少なくとも2回以上行うことを特徴とする請求項5に記載の原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法。
【請求項7】
前記気体充填工程は、前記加圧器のベント弁から前記気体を充填することを特徴とする請求項5または6に記載の原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法。
【請求項8】
前記気体は窒素ガスであることを特徴とする請求項5から7の何れか1項に記載の原子力発電プラントのRCSベンティング操作方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−154900(P2012−154900A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16794(P2011−16794)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)