説明

原子力発電プラント及びその運転方法

【課題】
全電源喪失が生じ、原子炉圧力容器内で発生した水素が蒸気とともに格納容器内に放出される場合でも、格納容器内での水素の蓄積を低減すると共に、原子炉建屋内に水素の漏洩が生じても水素爆発を防ぐことができることは勿論、炉心で発生した放射能を封じ込めること。
【解決手段】
本発明では、上記課題を解決するために、原子炉圧力容器から格納容器内に向けて全電源喪失時でも水素を含む蒸気が放出可能な原子炉隔離時冷却系の途中に、前記原子炉圧力容器内で発生した水素と反応させるための酸素を発生する金属酸化物が収められた酸素発生器と、該酸素発生器の下流側に位置し、前記原子炉圧力容器内で発生した水素を酸素と再結合させて水に戻すための触媒が納められた再結合器とが設置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子力発電プラント及びその運転方法に係り、特に、災害等によって外部電源、非常用電源等の全電源が喪失した際の安全性に対応した原子力発電プラント及びその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
先ず、原子力発電プラントの構成について、図1を用いて説明する。
【0003】
図1に示すように、原子炉圧力容器100は、格納容器109内に設置されている。格納容器109は、原子炉建屋を構成するコンクリートと一体で形成されており、原子炉圧力容器100側内面には、鋼製のライナが内張りされている。格納容器109内は、ダイヤフラムフロア108によって、上部のドライウエル110と下部のサプレッションチェンバー107に分けられている。ドライウエル110とサプレッションチェンバー107は、ベント管106によって連通されている。ベント管106の下端は、サプレッションプール105内に設置されている。格納容器109の外部の上部には、使用済み燃料プール101や蒸気乾燥器気水分離器ピット111などの設備があり、格納容器109の上部は、原子炉ウエル103を構成している。また、格納容器109の上部には、ドライウエルヘッド102があり、このドライウエルヘッド102によって、格納容器109は、解放することができる。また、原子炉建屋の上部空間には、クレーン112が設置されている。
【0004】
ところで、原子炉炉心(以下、炉心という)に設置された燃料の冷却が不可能となるような過酷事故が発生した場合、原子炉圧力容器100内では蒸気の発生が続き、内部の圧力が高まる。また、原子炉圧力容器100内で蒸気の発生が続くと水位が低下し、燃料上部が水面上に露出し始め、燃料を収納している被覆管を構成するジルコニウム合金と水が反応して水素が発生する。更に、原子炉圧力容器100内の圧力が高まると、通常は、図2に示すように、原子炉圧力容器100内部の水蒸気が水素と共に、主蒸気逃がし安全弁143と排気管144を通じてサプレッションプール105に放出される。放出された蒸気は、サプレッションプール105に凝縮して圧力は低下する。
【0005】
しかし、格納容器109内への蒸気の放出が続くと、格納容器109内の圧力が高まっていくので、やがて格納容器109の内圧を下げるためのベントが必要となる。ベントは、排気塔につながる系統で実施される。
【0006】
このような一連の蒸気の放出に伴って、格納容器109内に放出された水素は、水素爆発を引き起こす懸念がある。
【0007】
一方、過酷事故時に外部電源を喪失しても非常用電源が作動すれば、図3に示す可燃性ガス濃度制御系で安全に水素の処理ができる。即ち、図3に示す如く、格納容器109内の水素を、ブロア113を用いて加熱器114に送り、更に再結合器115を通過させる可燃性ガス濃度制御系であれば、水素が再結合器115を通過する際に、再結合器115内の触媒によって水素と酸素が反応して水蒸気になり、水素濃度は低下する。再結合器115で発生した水蒸気は、冷却器116で凝縮され、気水分離器117を通ってサプレッションプール105に戻る。
【0008】
また、非常用電源が動いていれば、図4に示すような非常用ガス処理系を使って、格納容器109内のガスを安全に処理することもできる。即ち、図4に示す如く、格納容器109内の水素を含むガスを、乾燥装置118、ファン119、フィルタ120を通過させて排気塔121から放出することで、安全に処理することができる。
【0009】
尚、格納容器109内に放出された可燃性ガスの濃度を制御できる設備として、例えば特許文献1及び2に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−33285号公報
【特許文献2】特開2011−12973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、原子力発電所において、予想を超えた災害等によって全電源喪失を伴う事故が発生した場合、原子炉の安全設備として備えている動的な機能が損なわれる。その結果、前述した水素を処理する系統が使用できないため、格納容器の内圧を下げるためのベントでは、水素も同時に放出することになる。このとき、水素は排気塔につながる系統を流れるが、全電源喪失が生じるような過酷事故時には、水素が原子炉建屋内に漏えいすることが懸念される。
【0012】
従って、何かの着火源が存在すると原子炉建屋内で水素爆発が発生することが考えられ、一旦水素爆発が発生すると原子炉の冷却機能の喪失に加えて、放射能を閉じ込める機能が損なわれる可能性がある。
【0013】
このようなことから、全電源喪失時に原子炉建屋内での水素爆発の可能性を低減する技術を備えた原子力発電プラントが必要となる。
【0014】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、全電源喪失が生じ、原子炉圧力容器内で発生した水素が蒸気とともに格納容器内に放出される場合でも、格納容器内での水素の蓄積を低減すると共に、原子炉建屋内に水素の漏洩が生じても水素爆発を防ぐことができることは勿論、炉心で発生した放射能を封じ込めることが可能な原子力発電プラント及びその運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の原子力発電プラントは、上記目的を達成するために、原子炉圧力容器を収納している格納容器を備え、これらが原子炉建屋で覆われていると共に、前記原子炉圧力容器から前記格納容器内に向けて全電源喪失時でも水素を含む蒸気が放出可能な原子炉隔離時冷却系を備えた原子力発電プラントにおいて、前記原子炉隔離時冷却系の途中に、前記原子炉圧力容器内で発生した水素と反応させるための酸素を発生する金属酸化物が収められた酸素発生器と、該酸素発生器の下流側に位置し、前記原子炉圧力容器内で発生した水素を酸素と再結合させて水に戻すための触媒が納められた再結合器とが設置されているか、
若しくは、前記原子炉隔離時冷却系の途中に、全電源喪失時に前記原子炉隔離時冷却系内にヨウ素を噴射する畜圧式ヨウ素タンクが設置されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の原子力発電プラントの運転方法は、上記目的を達成するために、原子炉圧力容器を収納している格納容器を備え、これらが原子炉建屋で覆われていると共に、電源喪失により可燃性ガス濃度制御系が作動しないときに、前記原子炉圧力容器から前記格納容器内に向けて全電源喪失時でも水素を含む蒸気を放出可能な原子炉隔離時冷却系を作動させて原子力発電プラントを運転するに当たり、前記原子炉圧力容器内の蒸気と共に該原子炉圧力容器内で発生した水素を、前記原子炉隔離時冷却系の途中に設置されている前記水素と反応させるための酸素を発生する金属酸化物が収められた酸素発生器を通過させた後に、前記原子炉隔離時冷却系の途中に設置されている前記水素を酸素と再結合させて水に戻すための触媒が納められた再結合器を通過させるように運転するか、
若しくは、全電源喪失時に畜圧式ヨウ素タンクに畜圧されたヨウ素を前記原子炉隔離時冷却系内に噴射し、前記原子炉隔離時冷却系内を通る蒸気中の水素と反応させるように運転することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、全電源喪失が生じ、原子炉圧力容器内で発生した水素が蒸気と共に格納容器内に放出される場合でも、格納容器内での水素の蓄積を低減し、更に、原子炉建屋に漏えいが生じる場合でも、水素爆発を防ぐことができるので、格納容器および原子炉建屋の損壊を防止することは勿論、炉心で発生した放射能を封じ込めことができ、この種、原子力発電プラントには非常に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一般的な原子力発電プラントの原子炉建屋の構造を示す全体図である。
【図2】従来から採用されている主蒸気逃がし弁からサプレションプールへの蒸気の放出系の例を示す図である。
【図3】従来から採用されている可燃性ガス濃度制御系の例を示す図である。
【図4】従来から採用されている非常用ガス処理系の例を示す図である。
【図5】従来から採用されている原子炉隔離時冷却系の例を示す図である。
【図6】本発明の原子力発電プラントの実施例1における水素の処理を行う系統を説明するための図である。
【図7】本発明の原子力発電プラントの実施例2における水素の処理を行う系統を説明するための図である。
【図8】本発明の原子力発電プラントの実施例3における水素の処理を行う系統を説明するための図である。
【図9】本発明の原子力発電プラントの実施例4における水素の処理を行う系統を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図示した実施例に基いて本発明の原子力発電プラント及びその運転方法について説明する。尚、符号は、従来と同一のものは同符号を使用する。
【実施例1】
【0020】
図5及び図6を用いて、本発明の原子力発電プラントを説明する。その構成は、図1に示した従来例と略同一のため、ここでは、本発明に関連する部分の説明とする。また、図1に示した使用済み燃料プール101や蒸気乾燥器気水分離器ピット111などは省略している。
【0021】
図5に示す原子炉隔離時冷却系は、給復水系が事故による電源喪失などにより停止した場合に、原子炉圧力容器100内の燃料を冷却するためのものである。タービンに向かう主蒸気系は、原子炉圧力容器100と隔離され、給水系からは逆止弁により給水のみが可能となっているが、タービン側からの給水が停止している状態で使用する。主蒸気隔離弁147の上流から分岐した原子炉隔離時冷却系の配管を通った水素を含む主蒸気は、蒸気駆動タービン142に入り、蒸気駆動タービン142を回転させた後、サプレッションプール105に入って凝縮される。このとき蒸気で回転した蒸気駆動タービン142によって原子炉隔離時冷却ポンプ141が作動し、サプレッションプール10又は復水貯蔵タンク140の水が給水系へと送られ、原子炉圧力容器100に入り、炉心が冷却される。
【0022】
この原子炉隔離時冷却系は、原子炉圧力容器100と格納容器109内の圧力差で駆動するので、全電源停止時でもこの系統を機能させることができる。
【0023】
ところが、上述した原子炉隔離時冷却系では、炉内で水素が発生している時期に原子炉圧力容器100内の燃料を冷却するために、主蒸気隔離弁147の上流から分岐した原子炉隔離時冷却系の配管を通った水素を含む主蒸気を、原子炉圧力容器100内に供給し続けると、原子炉圧力容器100内の水素量或いは水素濃度が上昇してしまう可能性がある。そのため、図3や図4に示した可燃性ガス濃度制御系や非常用ガス処理系が機能しない状況下に置かれた場合には、水素爆発の潜在的危険性が増す。そのため、全電源喪失を防ぐための様々な対策が行われるのは勿論、システム自体が備える安全性をより高めることが必要となる。
【0024】
そこで、図6に示す本発明の実施例1では、上述した構成の原子炉隔離時冷却系の蒸気駆動タービン142の上流側に、酸素発生器145と再結合器146を設置したことを特徴としている。
【0025】
即ち、事故時に冷却が不十分で原子炉圧力容器100内の圧力が高まった時に、原子炉隔離時冷却系を作動させるが、これによって、高温の蒸気(100〜300℃)と共に、原子炉圧力容器100内の水素と酸素が酸素発生器145に流入する。ここで、炉内で発生した水素に対し、酸素が十分過剰であると酸素発生器145内の酸素分圧が高いため、酸素発生器145内に内蔵された金属酸化物は酸素を放出しない。そのため、水素と酸素は、酸素発生器145を抜けて再結合器146に流入し、高温の蒸気で加熱された再結合用の触媒(白金又はパラジウム)上で再結合反応により水に変わり水素濃度が低下する。水素と酸素の反応の進んだ蒸気は、蒸気駆動タービン142を抜けてサプレッションプール105に流入して、そこで凝縮する。
【0026】
一方、炉内で発生した水素に対し酸素が不足しているときには、酸素発生器145内の酸素分圧が低くなり、酸素発生器145内に内蔵された金属酸化物は、酸素発生器145内で酸素と金属酸化物間の平衡反応により、酸素分圧を上げるために酸素が放出される。そのため、酸素発生器145内で酸素濃度の上昇した蒸気が再結合器146に流入し、高温の蒸気で加熱された再結合用の触媒(白金又はパラジウム)上で再結合反応により水に変わり蒸気中の水素濃度が低下する。水素と酸素の反応の進んだ蒸気は、蒸気駆動タービン142を抜けてサプレッションプール105に流入して、そこで凝縮する。
【0027】
このような本発明の実施例1によれば、格納容器109内の水素濃度の上昇が抑制されるので、水素爆発の危険性がなくなり、安全性が向上する。
【0028】
尚、酸素発生器145内に内蔵された金属酸化物は、酸素発生器145内で酸素を放出しやすい特性を持つものを使用し、酸素発生器145内での酸素量が水素との反応に十分になるように、酸素発生器145の容量を設計すればよい。高温で酸素を発生しやすい金属酸化物としては、Fe3O4、Cu2O、CeO2、NiOがあり、これらの中から選ばれた少なくとも一つの化合物を用いればよい。
【0029】
平衡反応のギブスの自由エネルギーΔGと酸素の分圧PO2
ΔG=RTlnPO2
として与えられ、エリンガム図からその温度での酸素分圧が求められ、酸素分圧の高いグループに所属する上記の金属酸化物を使用すればよい。温度特性が異なるので、広い温度範囲をカバーする場合、これらの酸化物の中から組み合わせて使用すればよい。
【0030】
また、金属酸化物の表面での平衡反応を速やかに進行させるため、Fe3O4、Cu2O、CeO2、NiOの中から選ばれた少なくとも一つの化合物に、少量の白金やパラジウムを金属酸化物中に添加させることで、酸素発生器145の酸素発生効率は向上する。また、これは、同時に金属酸化物を直接水素で還元することも可能となる。この酸素発生器145は、金属酸化物を使用するため、長期的に安定に酸素を保管することができることも特徴である。
【0031】
また、再結合器146内の再結合触媒は、白金或いはパラジウムをアルミナ担体に担持したペレットや、白金或いはパラジウムをアルミナに担持させ金属スポンジ上に付着させて、その上に白金を含浸させた金属触媒を使用する。事故時の高温の蒸気によって再結合反応に必要な温度(120℃以上)に加熱され、水素と酸素が流入すると触媒上で再結合反応が生じる。
【実施例2】
【0032】
次に、本発明の原子力発電プラントの実施例2について、図7を用いて説明する。その構成は、図1に示した従来例と略同一のため、ここでは、本発明に関連する部分の説明とする。また、図1に示した使用済み燃料プール101や蒸気乾燥器気水分離器ピット111などは省略している。また、原子炉隔離時冷却系については、図5で示している。
【0033】
図7に示す本発明の実施例2では、原子炉隔離時冷却系の蒸気駆動タービン142の上流側に第1の再結合器146a、酸素発生器145、及び第2の再結合器146bを設置したことを特徴としている。図6に示した実施例1との違いは、酸素発生器145の上流に、もう一つの第2の再結合器146bを設置したことである。
【0034】
これによって、事故時に冷却が不十分で原子炉圧力容器100内の圧力が高まった時に、原子炉隔離時冷却系を作動させると、高温の蒸気(100〜300℃)と共に、原子炉圧力容器100内の水素と酸素が、初めに第2の再結合器146bに流入し、次に酸素発生器145に流入する。ここで、蒸気中に含まれる酸素と水素が再結合反応し、もともとの蒸気に含まれていた水素と酸素の濃度が低下する。もともと酸素が水素に対して十分過剰である場合には水素は消費されてしまい、酸素発生器145と第1の再結合器146aを酸素を含んだ蒸気が通り抜けることになる。
【0035】
一方、炉内で発生した水素に対し酸素が不足しているときには、第2の再結合器146bで酸素がほとんど消費されてしまうため、酸素発生器145には酸素の欠乏した条件で、水素が流入することになる。そのため、酸素発生器145から酸素が供給されて、第1の再結合器146aに入り再結合反応が進行することになる。
【0036】
このような本発明の実施例2によれば、再結合反応を酸素発生器145の前で一度進行させておくことで、酸素発生器145に流入する酸素濃度が下がり、効果的に酸素を供給することができ、格納容器109内の水素濃度の上昇が効果的に抑制されるので、安全性が向上する。
【実施例3】
【0037】
次に、本発明の原子力発電プラントの実施例3について、図8を用いて説明する。その構成は、図1に示した従来例と略同一のため、ここでは、本発明に関連する部分の説明とする。また、図1に示した使用済み燃料プール101や蒸気乾燥器気水分離器ピット111などは省略している。また、主蒸気逃がし安全弁143からサプレションプール105に至る排気管144は、図2で説明した通りである。
【0038】
図8に示す本発明の実施例3では、主蒸気逃がし安全弁143からサプレッションプール105に至る排気管144の途中に、酸素発生器145及び再結合器146を設置したことを特徴としている。図8の実施例3では、酸素発生器145及び再結合器146を、ドライウエル110内に設置している。
【0039】
本実施例の主蒸気逃がし安全弁143は、原子炉圧力容器100の内圧が上昇したときに作動し、このとき原子炉圧力容器内100内の蒸気は、排気管144を通ってサプレションプール105に流入して凝縮する。従って、本実施例は、全電源喪失時も動力なし主蒸気逃がし安全弁143の設定圧力で作動することができる。
【0040】
本実施例の構成では、高温の蒸気(100〜300℃)と共に、原子炉圧力容器100内の水素と酸素が酸素発生器145に流入する。ここで、炉内で発生した水素に対し、酸素が十分過剰であると、酸素発生器145内の酸素分圧が高いため、酸素発生器145内に内蔵された金属酸化物は酸素を放出しない。そのため、水素と酸素は酸素発生器145を抜けて、再結合器146に流入し高温の蒸気で加熱された再結合用の触媒(白金又はパラジウム)上で再結合反応により水に変わり水素濃度が低下する。水素と酸素の反応の進んだ蒸気は、サプレッションプール105に流入して、そこで凝縮する。
【0041】
一方、炉内で発生した水素に対し酸素が不足しているときには、酸素発生器145内の酸素分圧が低くなり、酸素発生器145内に内蔵された金属酸化物は、酸素発生器145内で、酸素と金属酸化物間の平衡反応により酸素分圧を上げるために酸素が放出される。そのため、酸素発生器145内で酸素濃度の上昇した蒸気が再結合器146に流入し、高温の蒸気で加熱された再結合用の触媒(白金又はパラジウム)上で再結合反応により水に変わり蒸気中の水素濃度が低下する。水素と酸素の反応の進んだ蒸気は、サプレッションプール105に流入して、そこで凝縮する。
【0042】
このような実施例3によれば、格納容器109内の水素濃度の上昇が抑制されるので、安全性が向上する。
【実施例4】
【0043】
次に、本発明の原子力発電プラントの実施例4について、図9を用いて説明する。その構成は、図1に示した従来例と略同一のため、ここでは、本発明に関連する部分の説明とする。また、図1に示した使用済み燃料プール101や蒸気乾燥器気水分離器ピット111などは省略している。また、原子炉隔離時冷却系については、図5で示している。
【0044】
図9に示す実施例4の原子炉隔離時冷却系は、図5と同じであり、原子炉圧力容器100と格納容器109内の圧力差で駆動するので、全電源停止時でもこの系統を機能させることができる。
【0045】
そこで、図9に示す本発明の実施例4では、原子炉隔離時冷却系の蒸気駆動タービン142の上流側に、畜圧式ヨウ素タンク148を設置したことを特徴としている。
【0046】
図9に示す実施例4では、事故時に冷却が不十分で原子炉圧力容器100内の圧力が高まった時に、原子炉隔離時冷却系を作動させる。これによって、高温の蒸気(100〜300℃)と共に、原子炉圧力容器100内の水素と酸素が畜圧式ヨウ素タンク148に流入する。ここで、炉内で発生した水素を処理しないでいると、サプレッションプール105に流入した蒸気が凝集した後、含まれていた水素がサプレッションプール105内に蓄積していき、圧力が上昇する。
そこで、全電源喪失時に原子炉隔離時冷却系が作動すると、その信号を受けて畜圧式ヨウ素タンク148から原子炉隔離時冷却系内にヨウ素が噴射される。これによって、
+H → 2HI(気体)
HI(気体) + HO(液体) → H+ + I
の反応が生じ、HIが水に可溶であるので、サプレッションプール105内に蒸気が流入すると反応で生じたHIは、プール水に溶解し、このとき水素を酸として溶解することで、格納容器109内の水素濃度の上昇を抑えることができる。
【0047】
このような実施例4によれば、格納容器109内の水素濃度の上昇が抑制されるので、安全性が向上する。
【符号の説明】
【0048】
100…原子炉圧力容器、101…使用済み燃料プール、102…ドライウエルヘッド、103…原子炉ウエル、105…サプレッションプール、106…ベント管、107…サプレッションチャンバー、108…ダイヤフラムフロア、109…格納容器、110…ドライウエル、111…蒸気乾燥器気水分離器ピット、112…クレーン、113…ブロア、114…加熱器、115、146…再結合器、116…冷却器、117…気水分離器、118…乾燥装置、119…ファン、120…フィルタ、121…排気塔、140…復水貯蔵タンク 、141…原子炉隔離時冷却ポンプ、142…蒸気駆動タービン、143…主蒸気逃がし安全弁、144…排気管、145…酸素発生器、146a…第1の再結合器、146b…第2の再結合器、147…主蒸気隔離弁、148…畜圧式ヨウ素タンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器を収納している格納容器を備え、これらが原子炉建屋で覆われていると共に、前記原子炉圧力容器から前記格納容器内に向けて全電源喪失時でも水素を含む蒸気が放出可能な原子炉隔離時冷却系を備えた原子力発電プラントにおいて、
前記原子炉隔離時冷却系の途中に、前記原子炉圧力容器内で発生した水素と反応させるための酸素を発生する金属酸化物が収められた酸素発生器と、該酸素発生器の下流側に位置し、前記原子炉圧力容器内で発生した水素を酸素と再結合させて水に戻すための触媒が納められた再結合器とが設置されていることを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項2】
請求項1に記載の原子力発電プラントにおいて、
前記原子炉圧力容器から前記格納容器内に向けて全電源喪失時でも水素を含む蒸気が放出可能な原子炉隔離時冷却系は、主蒸気配管から蒸気駆動タービンを経てサプレッションプールにつながる配管から成り、前記蒸気駆動タービンの上流側の前記配管の途中に、前記酸素発生器と前記再結合器が設置されていることを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項3】
請求項2に記載の原子力発電プラントにおいて、
前記酸素発生器の上流側の配管の途中に、前記再結合器とは別の再結合器が配置されていることを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項4】
請求項1に記載の原子力発電プラントにおいて、
前記原子炉圧力容器から前記格納容器内に向けて全電源喪失時でも水素を含む蒸気が放出可能な原子炉隔離時冷却系は、主蒸気配管に設けられた主蒸気逃がし安全弁からサプレッションプールにつながる排気管から成り、前記排気管の途中に、前記酸素発生器と前記再結合器が設置されていることを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の原子力発電プラントにおいて、
前記再結合器に納められている触媒は、Pd或いはPtをアルミナに担持させた構造を有する粒子状、又はPd或いはPtをアルミナに担持させ金属スポンジ上に付着させた形状であることを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の原子力発電プラントにおいて、
前記酸素発生器に納められた金属酸化物は、Fe3O4、CeO2、Cu2O、NiOの中から選ばれた少なくとも一つの化合物、又はFe3O4、CeO2、Cu2O、NiOの中から選ばれた少なくとも一つの化合物に少量のPt又はPdを添加されたものであることを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項7】
原子炉圧力容器を収納している格納容器を備え、これらが原子炉建屋で覆われていると共に、前記原子炉圧力容器から前記格納容器内に向けて全電源喪失時でも水素を含む蒸気が放出可能な原子炉隔離時冷却系を備えた原子力発電プラントにおいて、
前記原子炉隔離時冷却系の途中に、全電源喪失時に前記原子炉隔離時冷却系内を通る前記水素と反応させるヨウ素を噴射する畜圧式ヨウ素タンクが設置されていることを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項8】
請求項7に記載の原子力発電プラントにおいて、
前記原子炉圧力容器から前記格納容器内に向けて全電源喪失時でも水素を含む蒸気が放出可能な原子炉隔離時冷却系は、主蒸気配管から蒸気駆動タービンを経てサプレッションプールにつながる配管から成り、前記蒸気駆動タービンの上流側の前記配管の途中に、全電源喪失時に前記配管内を通る前記水素と反応させるヨウ素を噴射する畜圧式ヨウ素タンクが設置されていることを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の原子力発電プラントにおいて、
全電源喪失時に前記原子炉隔離時冷却系又は前記配管が作動すると、その信号を受けて前記畜圧式ヨウ素タンクから前記原子炉隔離時冷却系又は前記配管内にヨウ素が噴射されることを特徴とする原子力発電プラント。
【請求項10】
原子炉圧力容器を収納している格納容器を備え、これらが原子炉建屋で覆われていると共に、電源喪失により可燃性ガス濃度制御系が作動しないときに、前記原子炉圧力容器から前記格納容器内に向けて全電源喪失時でも水素を含む蒸気を放出可能な原子炉隔離時冷却系を作動させて原子力発電プラントを運転するに当たり、
前記原子炉圧力容器内の蒸気と共に該原子炉圧力容器内で発生した水素を、前記原子炉隔離時冷却系の途中に設置されている前記水素と反応させるための酸素を発生する金属酸化物が収められた酸素発生器を通過させた後に、前記原子炉隔離時冷却系の途中に設置されている前記水素を酸素と再結合させて水に戻すための触媒が納められた再結合器を通過させるように運転することを特徴とする原子力発電プラントの運転方法。
【請求項11】
請求項10に記載の原子力発電プラントの運転方法において、
前記原子炉圧力容器から前記格納容器内に向けて全電源喪失時でも水素を含む蒸気が放出可能な原子炉隔離時冷却系は、主蒸気配管から蒸気駆動タービンを経てサプレッションプールにつながる配管であり、前記原子炉圧力容器内の蒸気と共に該原子炉圧力容器内で発生した水素を、前記蒸気駆動タービンの上流側の前記配管の途中に設置された前記酸素発生器を通過させた後に、前記配管の途中に設置された前記再結合器を通過させるように運転することを特徴とする原子力発電プラントの運転方法。
【請求項12】
請求項11に記載の原子力発電プラントの運転方法において、
前記水素が前記酸素発生器を通過する前に、該酸素発生器の上流側の配管の途中に設置された前記再結合器とは別の再結合器を前記水素が通過するように運転することを特徴とする原子力発電プラントの運転方法。
【請求項13】
請求項10に記載の原子力発電プラントの運転方法において、
前記原子炉圧力容器から前記格納容器内に向けて全電源喪失時でも水素を含む蒸気が放出可能な原子炉隔離時冷却系は、主蒸気配管に設けられた主蒸気逃がし安全弁からサプレッションプールにつながる排気管であり、前記原子炉圧力容器内の蒸気と共に該原子炉圧力容器内で発生した水素を、前記排気管の途中に設置された前記酸素発生器を通過させた後に、前記排気管の途中に設置された前記再結合器を通過させるように運転することを特徴とする原子力発電プラントの運転方法。
【請求項14】
原子炉圧力容器を収納している格納容器を備え、これらが原子炉建屋で覆われていると共に、電源喪失により可燃性ガス濃度制御系が作動しないときに、前記原子炉圧力容器から前記格納容器内に向けて全電源喪失時でも水素を含む蒸気が放出可能な原子炉隔離時冷却系を作動させて原子力発電プラントを運転するに当たり、
全電源喪失時に畜圧式ヨウ素タンクに畜圧されたヨウ素を前記原子炉隔離時冷却系内に噴射し、前記原子炉隔離時冷却系内を通る蒸気中の水素と反応するように運転することを特徴とする原子力発電プラントの運転方法。
【請求項15】
請求項14に記載の原子力発電プラントの運転方法において、
前記原子炉圧力容器から前記格納容器内に向けて全電源喪失時でも水素を含む蒸気が放出可能な原子炉隔離時冷却系は、主蒸気配管から蒸気駆動タービンを経てサプレッションプールにつながる配管であり、全電源喪失時に畜圧式ヨウ素タンクに畜圧されたヨウ素を前記配管内に噴射し、前記配管内を通る蒸気中の水素と反応するように運転することを特徴とする原子力発電プラントの運転方法。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の原子力発電プラントの運転方法において、
全電源喪失時に前記原子炉隔離時冷却系又は前記配管が作動すると、その信号を受けて前記畜圧式ヨウ素タンクから前記原子炉隔離時冷却系又は前記配管内にヨウ素を噴射し、前記原子炉隔離時冷却系又は前記配管内を通る蒸気中の水素と反応するように運転することを特徴とする原子力発電プラントの運転方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−247331(P2012−247331A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119961(P2011−119961)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】