説明

原子炉ウェルカバーおよび原子炉点検方法

【課題】水抜きおよび水張りについての作業工数の大幅な削減と作業期間の短縮を図ることができ、かつ作業内容の簡易化を図ることが可能な原子炉ウェルカバーおよびこれを用いた原子炉点検方法を提供する。
【解決手段】複数の隔壁202からなる原子炉ウェルカバーであって、複数の隔壁は原子炉ウェル102の上にあるオペレーティングフロア230に端部を支持され、オペレーティングフロアとの隙間を封止するフロアシール部202aと、DSPゲート170およびSFPゲート172との隙間を封止するゲートシール部202bと、隔壁同士の隙間を封止するプレートシール部202cと、を有し、原子炉ウェルをほぼ密閉することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定期検査時等の原子炉停止時に原子炉ウェルを遮蔽して放射線被爆を防止する原子炉ウェルカバーおよびこれを用いた原子炉点検方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉(BWR)や改良型沸騰水型原子炉(ABWR)では、炉心が原子炉圧力容器に収容され、原子炉圧力容器は原子炉格納容器に収容される。原子炉圧力容器には冷却水(軽水)が注水され、炉心から生じる熱によって高温高圧の蒸気を生じさせて、タービンを回転させる動力に利用する。
【0003】
かかる原子力発電所では、安全に運用するために、配管やポンプ、各種の弁などについて定期的に点検を行っている。点検を行う機器の中には、原子炉圧力容器(または原子炉ウェル)に接続する配管および水没弁がある。水没弁は、原子炉圧力容器に接続された配管上の1つめの弁であって、原子炉圧力容器から水を抜かなければ点検できない弁である。これらの配管および水没弁の点検は、原子炉圧力容器内の水を全て排水するか、またはノズルプラグ(閉止プラグ)で点検対象たる配管の入口(スパージャのノズル等)を止水して行われていた。
【0004】
従来の原子炉圧力容器内の水を全て排水する手法では、放射性物質の飛散を防止するために原子炉ウェルの水抜きと原子炉圧力容器の水抜きを別々に行っていた。詳述すると、原子炉圧力容器から水を抜くためには、まず原子炉圧力容器から燃料を取り出してSFP(使用済み燃料プール)に移動させる必要がある。そのため、原子炉格納容器および原子炉圧力容器の蓋を取り外してから原子炉ウェル、DSP(ドライヤセパレータプール)およびSFPに水張りを行う。
【0005】
そして燃料をSFPに移動させてからあらためて水抜きを行うのであるが、水を抜いた後の原子炉ウェルや原子炉圧力容器からは放射線が照射されるため、対処しながら水抜きを行う必要がある。ここで原子炉ウェル内は放射能汚染が比較的軽度であるため、除染しながら燃料プール冷却浄化系(FPC系)を介して水抜きを行う。原子炉ウェルから水抜きをしたら、原子炉格納容器の蓋を取り付けるためのトップフランジや、そのトップフランジの内側にあるバルクヘッド部(原子炉ウェルの床面の一部をなす)などを養生する。
【0006】
原子炉圧力容器内の水は放射能汚染が比較的重度である。また、原子炉圧力容器内部の放射線量は極めて高い。そこで、原子炉圧力容器の水抜き後は、放射性ダストによる汚染の拡散と原子炉圧力容器内部からの極めて高い放射線を遮蔽するために、原子炉圧力容器の上蓋をして、内部の空気を吸引して負圧に維持しながら、原子炉再循環系(PLR系)、原子炉冷却材浄化系(CUW系)等を介して水抜きを行う。空気の吸引を行うために、原子炉ウェルの内部周縁にカナルプラグ(原子炉ウェルとSFPおよびDSPとの間に設置されるブロック)を積み上げ、カナルプラグ上に原子炉ウェルカバーを取り付けて、原子炉ウェルカバー上に排気処理装置を設置する。なお、原子炉圧力容器から燃料を取り出す具体的な段取りは、例えば特許文献1に記載されている。
【0007】
一方、従来のノズルプラグで止水する手法では、原子炉建屋のオペレーティングフロア上に設置されている燃料取り扱い機を用いて、遠隔操作により原子炉圧力容器内側の点検対象たる配管(または点検対象たる弁を設置した配管)のノズル(接続孔)をノズルプラグで閉止していた。そして、配管の内部の水は、低電導度廃液処理系(LCW系)のサンプ(溜め枡)に排水していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−116284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
原子力発電所の定期点検には数千人規模の労働者が携わること、停止している間は発電できないことを鑑みると、点検は効率的に完了させることが望ましい。ここで、水抜きは以後の工程に対するクリティカルパス(ある工程に行くために必ず経なければならない工程)であるため、水抜きにかかる所要時間はそのまま定期点検全体にかかる所要時間に影響を与える。そのため、1日でも早く水抜き、水張りの期間を短縮できないかという検討課題がある。
【0010】
しかしながら、上記の原子炉ウェルおよび原子炉圧力容器内の水を全て排水する手法には、点検前の水を抜く作業(または点検後の水を張る作業)に多大な時間を要する課題があった。これは、原子炉ウェルの除染作業や、原子炉格納容器のバルクヘッド部および原子炉圧力容器のフランジの養生作業、あるいは原子炉ウェルカバーを取り付けるためのカナルプラグ積上作業といった多くの付帯作業が必要になるためであった。また、水抜きを実施する系統の容量の制限で大容量の水抜きができないことに加え、ポンプのNPSH(Net Positive Suction Head)の制限で水抜きが完全に終了する前にポンプを停止し、残水の水抜きはドレンラインから少量ずつ実施していた。そのため、上述した手法では、原子炉再循環系(PLR系)の水没弁の点検が可能になるレベルまで水抜きするのに数日間を要していた。
【0011】
一方、上記のノズルプラグで止水する手法には、直近にバッフルプレート(じゃま板)を配置しているノズルや、ジェットポンプノズル等に適用できない課題があった。また、多数の開口を有するスパージャが設置されているノズルへの施栓の場合は、施栓する箇所が膨大(約700個)になる上、プラグの口径が小さい(15mm〜45mm程度)ことから、施栓の施工性が悪く、作業時間が増大する課題があった。すなわち、原子炉ウェルおよび原子炉圧力容器の水抜き時間がなくなる代わりにプラグの施栓時間が長くなるため、配管および水没弁の点検作業が実施できる状態になるまでの期間を短縮することができなかった。加えて、この手法では、遠隔の水中作業となるため相当の熟練が必要であった。
【0012】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、水抜きおよび水張りについての作業工数の大幅な削減と作業期間の短縮を図ることができ、かつ作業内容の簡易化を図ることが可能な原子炉ウェルカバーおよびこれを用いた原子炉点検方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明にかかる原子炉ウェルカバーの代表的な構成は、複数の隔壁からなる原子炉ウェルカバーであって、複数の隔壁は原子炉ウェルの上にあるオペレーティングフロアに端部を支持され、オペレーティングフロアとの隙間を封止するフロアシール部と、DSPゲートおよびSFPゲートとの隙間を封止するゲートシール部と、隔壁同士の隙間を封止するプレートシール部と、を有し、原子炉ウェルをほぼ密閉することを特徴とする。
【0014】
かかる原子炉ウェルカバーを用いれば、カナルプラグなしで取り付けることができ、原子炉ウェル全体をほぼ密閉することが可能となる。そのため、原子炉ウェルおよび原子炉圧力容器全体から空気を吸引して汚染空気を除去することができ、原子炉ウェルの水抜きと原子炉圧力容器の水抜きを連続して短期間に行うことが可能となる。
【0015】
また上記構成によれば、原子炉ウェル内での作業をなくすことができる。すなわち、従来必要であった原子炉ウェルの除染作業、バルクヘッド部の養生作業、上蓋の取り付け作業、フランジ部の養生作業等が不要となる。このため、作業工数の大幅な削減を図ることができる。また、上述したノズルプラグで止水する手法のように適用範囲が限定される訳でもなく、熟練も要しない。
【0016】
上記フロアシール部は、オペレーティングフロアに設けられた受け台に立設されたリブと嵌合するインロー構造を有するとよい。これにより、原子炉ウェルカバーを原子炉ウェル上に確実に据え付けることができ、耐震性も得ることができる。
【0017】
上記ゲートシール部は、隔壁からDSPゲートまたはSFPゲートに向かって進退する方向に位置調節可能なアジャスター部材と、アジャスター部材の先端に配置されたパッキンと、を有するとよい。これにより、DSPゲートおよびSFPゲートに対しては横方向からパッキンを当接させて、これらとの隙間を確実に封止(ほぼ密閉)することができる。
【0018】
上記プレートシール部は、隣接する隔壁において互いに組み合う段部が形成されており、この段部の対向する水平面にパッキンを有するとよい。これにより、パッキンは段部で上下方向に挟まれる構成となるため、段部を重ね合わせて隔壁を順に並べるだけで、隔壁間からの空気の漏れを確実に抑制することができる。
【0019】
上記隔壁の少なくとも下面は、ほぼ平坦な鉄鋼製であるとよい。これにより、下面が放射性物質に汚染されても、下面を容易に洗浄することができる。また、下面が平坦であれば、塗膜剥離型除染剤をあらかじめ塗布しておき、作業後にこれを剥離することによって容易に除染を行うことが可能となる。
【0020】
当該原子炉ウェルカバーは、上記隔壁に形成された複数の管台をさらに有し、管台の少なくとも一部は、原子炉中心部から発せられる放射線と交差するように傾斜しているとよい。これにより、複数の管台を設けた場合であっても、放射線の外部への漏れを抑制することができる。
【0021】
上記課題を解決するために本発明にかかる原子炉点検方法の代表的な構成は、オペレーティングフロアに端部を支持され、原子炉ウェルをほぼ密閉する原子炉ウェルカバーを設置するステップと、原子炉ウェルカバーに形成されたダクト接続部に、空気を吸引する排気処理装置を取り付けるステップと、排気処理装置を稼動させ、原子炉ウェルカバー内部の空気を負圧に維持するステップと、原子炉ウェルまたは原子炉圧力容器に張られた水を抜くステップと、原子炉ウェルまたは原子炉圧力容器に接続する配管、およびこの配管に備えられた水没弁を点検するステップと、を含むことを特徴とする。
【0022】
かかる構成では、原子炉ウェルをほぼ密閉する原子炉ウェルカバーを用いることから、原子炉ウェル、原子炉圧力容器に張られた水を連続して抜くことができる。そのため、作業工数の大幅な削減と作業期間の短縮を図ることができる。なお、上述した原子炉ウェルカバーにおける技術的思想に対応する構成要素やその説明は、当該原子炉点検方法にも適用可能である。
【0023】
上記原子炉ウェルカバーの取り外しは、排気処理装置を稼動させた状態でこの原子炉ウェルカバーに形成された外気を吸入する管台の弁を開き、この原子炉ウェルカバー内部の空気をこの排気処理装置に吸引させてから行うとよい。これにより、原子炉建屋内への放射線放出を防止することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、水抜きおよび水張りについての作業工数の大幅な削減と作業期間の短縮を図ることができ、かつ作業内容の簡易化を図ることが可能な原子炉ウェルカバーおよびこれを用いた原子炉点検方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】原子炉プールについて説明する図である。
【図2】図1の原子炉プールにDSPゲートおよびSFPゲートを挿入した状態を例示する図である。
【図3】原子炉建屋のオペレーティングフロアについて説明する図である。
【図4】本実施形態にかかる原子炉ウェルカバーについて説明する図である。
【図5】図4の各断面図である。
【図6】ゲートシール部の詳細を例示する図である。
【図7】本実施形態にかかる原子炉点検方法について説明する図である。
【図8】サプレッションプールへの水抜きを行った状態を例示する図である。
【図9】原子炉ウェルおよび原子炉圧力容器の水抜きを終了した状態を例示する図である
【図10】原子炉圧力容器および原子炉ウェルの水張りを終了した状態を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0027】
[原子炉プール]
図1は、原子炉プールについて説明する図である。特に、図1(a)は原子炉プールの上面図であり、図1(b)は原子炉プールについて説明する図である。また、図2は、図1の原子炉プールにDSPゲートおよびSFPゲートを挿入した状態を例示する図である。なお、図1、図2では、使用済み燃料棒取り出し後の水が張られた状態を例示しているため、原子炉圧力容器108の上蓋が取り外されている。
【0028】
図1、図2に例示するように、原子炉プールは、原子炉ウェル102、DSP(ドライヤセパレータプール:気水分離器等貯蔵プール)104、SFP(使用済み燃料プール)106からなり、DSPゲート170、SFPゲート172を挿入することでそれぞれが隔離可能になっている。なお、これらのプールゲートの挿入は、不図示の原子炉建屋天井クレーンを用いて行われる。
【0029】
原子炉ウェル102は、燃料交換作業等において、遮蔽水が張られ放射線を遮蔽する。DSP104は、機器仮置きプールとも呼ばれ、放射線により汚染された炉内構造物を一時的に保管する。SFP106は、使用済み燃料棒を貯蔵するプールであって、概して常時水が張られている。
【0030】
[循環系統]
以下、原子炉圧力容器108の水の循環系統について簡単に説明する。原子炉圧力容器108の周辺の循環系統としては、燃料プール冷却浄化系(FPC系)、原子炉再循環系(PLR系)、残留熱除去系(RHR系)、原子炉冷却材浄化系(CUW系)、低電導度廃液処理系(LCW系)、復水補給水系(MUWC系)が例示される。原子炉圧力容器108への注水または原子炉圧力容器108からの排水は、原子炉圧力容器108へ接続する各系統のノズルを通じて行われる。例えば注水の場合には、多数のノズルを有する給水スパージャ160やスプレイスパージャ162により原子炉圧力容器108に散水される。
【0031】
FPC系は、スキマサージタンク110の下部に接続する系統であって、SFP106内の水を所定の基準に保つ役割を担う。堰を越えてスキマサージタンク110に侵入した水は、FPCポンプ112、FPCフィルターデミネライザ114、FPC熱交換器116に流入後SFP106に戻る。FPCフィルターデミネライザ114は、イオン交換樹脂等からなり不純物を取り除く。FPC熱交換器116は、SFP106で発生した熱を除去するために冷却する。FPC系は、RHR系を介しサプレッションプール124にも連結している。サプレッションプール124は原子炉格納容器内の蒸気を凝縮して圧力を下げるための貯留槽である。
【0032】
PLR系は、炉心流量を調節して出力(反応速度)を制御するための系統であって、原子炉圧力容器108の両側に備えられている。詳細には、原子炉圧力容器108のアニュラス部近傍に接続していて、それぞれPLRポンプ130a、130bが備えられている。
【0033】
RHR系は、主に、原子炉停止時において燃料の崩壊熱の除去や非常時に炉水を維持する役割を担う。RHR系は多くの機能を有しているが、当業者においては周知であるためその説明を省略する。本実施形態において、RHR系は、PLR系より分岐接続しており、またMUWC系にも接続している。RHR系には、RHRポンプ140、RHR熱交換器142が備えられている。
【0034】
CUW系は、炉水中の不純物を除去し水質を維持するための浄化系統である。また、原子炉の起動、停止時および定検中において余剰水を排出して原子炉の水位を制御するためにも用いられる。本実施形態では、PLR系のPLRポンプ130b手前の配管および原子炉圧力容器108の下部に接続していて、中途にCUWポンプ150を備えている。
【0035】
LCW系は、原子炉建屋内のさまざまな機器(ポンプ、配管等)からの排水、漏洩水や試料採取ラインの廃液等で、水質的に清浄な水を処理する系統である。LCW系で浄化された水はMUWC系に送られ、ふたたび使用される。
【0036】
MUWC系は、原子炉建屋および付帯設備等に設置される機器、配管および弁類等に対し、発電所の円滑な運転および保守を行うために必要な容量および圧力を有する復水を供給する系統である。具体的には、不図示の復水貯蔵タンク(CST)から原子炉圧力容器108やSFP106へと復水の供給を行う。
【0037】
[オペレーティングフロア]
図3は、原子炉建屋のオペレーティングフロア230について説明する図である。特に、図3(a)はオペレーティングフロア230を例示する上面図であり、図3(b)は図3(a)のA−A断面図、図3(c)は図3(a)のB−B断面図である。図3(a)に例示するように、原子炉ウェル102の上部には、オペレーティングフロア230が設けられ、その周囲には受け台214が配置されている。
【0038】
図3(b)、(c)に例示するように、受け台214にはリブ214aが立設されている。オペレーティングフロア230の床面と受け台214の間には、水平性を確保するためのバッカープレート212が介在される。すなわち、バッカープレート212は、機器据え付け時における高さ調節の役割を果たす、鉄鋼製等の板材である。受け台214には、上向きに締結ボルト232が備えられる。また、受け台214は、据付ボルト234により、オペレーティングフロア230上に据え付けられる。
【0039】
[原子炉ウェルカバー]
図4は、本実施形態にかかる原子炉ウェルカバー200について説明する図である。特に、図4(a)は原子炉ウェルカバー200組立前の状態を例示しており、図4(b)は原子炉ウェルカバー200組立後の状態を例示している。また、図5は、図4の各断面図である。
【0040】
図4(a)、(b)に例示するように、原子炉ウェルカバー200は複数の隔壁202からなり、各隔壁202同士の隙間はプレートシール部202cにより封止される。隔壁202の移動、設置および撤去は、不図示の原子炉建屋天井クレーンを用いて行われる。
【0041】
図5(a)〜(d)に例示するように、プレートシール部202cは、隣接する隔壁202において互いに組み合う段部が形成されている。そして、段部の対向する水平面にパッキン240を有している。隔壁202の組立は、一方に設けられた締結ボルト232に、他方の締結孔233を挿通させ、上からナット締めすることにより行われる。この際、パッキン240が弾性を有しているため、確実に隔壁202同士の隙間が封止される。
【0042】
隔壁202の少なくとも下面は、ほぼ平坦な鉄鋼製で形成される。これにより、下面が放射性物質に汚染されても、下面を容易に洗浄することができる。また、下面が平坦であれば、塗膜剥離型除染剤をあらかじめ塗布しておき、作業後に剥離することによって容易に除染を行うことが可能となる。
【0043】
隔壁202は、遮蔽材として機能を充足するために、原子炉圧力容器108からの放射線の強さに応じた遮蔽厚さとする。現在稼動している原子力発電所を基にした想定では、隔壁の遮蔽厚さを150mmとした場合には、原子炉ウェルカバー200上の線量率が0.15〜0.18mS/h程度となり、2時間半〜4時間程度の連続作業が可能となる。遮蔽厚さを165mmにすれば、線量が1/2となり5〜8時間の連続作業が可能となる。
【0044】
複数の隔壁202を組み立てることにより、図4(a)に例示する状態から、図4(b)に例示する原子炉ウェルカバー200が形成される。隔壁202の端部(原子炉ウェルカバー200の周縁)には、オペレーティングフロア230との隙間を封止するフロアシール部202aが設けられる。
【0045】
図5(e)に例示するように、フロアシール部202aは、受け台214のリブ214aと嵌合するインロー構造を有する。本実施形態ではインロー構造として、隔壁202の両端部のフロアシール部202aが原子炉ウェルの両縁のリブ214aの外側に嵌合し、原子炉ウェルカバー200が冠着する形態として図示している。ただし、フロアシール部202aの外側にリブ214aが位置するような配置としてもよい。フロアシール部202aは、弾性を有するパッキン240を介して締結ボルト232によりナット締めされる。これにより、原子炉ウェル102の周縁を確実に封止すると共に、耐震性も得ることができる。
【0046】
通常、原子炉圧力容器108からSFP106に燃料棒を移動させる際には、遮蔽水の水位はほぼオペレーティングフロア230の位置まで張られている。しかし原子炉ウェルカバー200と汚染された遮蔽水との接触を回避したいことから、DSPゲート170およびSFPゲート172を取り付けた後であって原子炉ウェルカバー200を設置する前に、原子炉ウェルカバー200が遮蔽水に接触しない程度に水位を下げておくことが好ましい。
【0047】
図4(a)、(b)に例示するように、原子炉ウェルカバー200上には、複数の管台204が設けられる。管台204としては、DSPゲート170、SFPゲート172近傍に設けられる漏水確認用の覗き窓204a、後述するデミスター262のダクトを接続するダクト接続部204b、デミスター262が吸湿した水分を排出するための水分排出部204c、圧力測定用のマノメータを接続するマノメータ取付部204d、水位を計測する水位計を取り付ける水位計取付部204e、原子炉ウェルカバー200内部に外気を吸入するための外気吸入部204fが設けられる。外気吸入部204fには弁が備えられていて、弁の開閉により外気が吸入・遮断される。
【0048】
図5(f)は、管台204の例としてダクト接続部204bの詳細を示している。図5(f)に示すように、ダクト接続部204bは、原子炉中心部から発せられる放射線と交差するように傾斜している。そのため、原子炉圧力容器108から放射される放射線がダクト接続部204bを通じて原子炉ウェルカバー200の外部に漏洩することを防止できる。かかる傾斜はダクト接続部204bに限らず、覗き窓204a、水分排出部204c、マノメータ取付部204d、外気吸入部204fにも設けられる。
【0049】
原子炉ウェルカバー200において、DSPゲート170、SFPゲート172に当接する部分に対してはゲートシール部202bが設けられる。図6は、ゲートシール部202bの詳細を例示する図である。特に、図6(a)はアジャスター部材250の調整前の状態を例示しており、図6(b)はそのI−I断面図である。また、図6(c)はアジャスター部材250の調整後の状態を例示しており、図6(d)はそのJ−J断面図である。
【0050】
図6(a)〜(d)に例示するように、ゲートシール部202bは、アジャスター部材250とその先端に配置されたパッキン240とから構成されている。アジャスター部材250は複数の長穴にボルトを挿通しており、ナットを締めることによって固定可能になっている。したがって、隔壁202からDSPゲート170またはSFPゲート172に向かって進退する方向に位置調節可能となっている。また長穴はボルトの径に対して緩めに形成されており、アジャスター部材250は隔壁202に対して若干斜めの姿勢にすることができる。これにより、アジャスター部材250を位置調整してパッキン240をDSPゲート170またはSFPゲート172に当接させることができ、確実に原子炉ウェル102を封止(ほぼ密閉)することができる。
【0051】
以上、上述した原子炉ウェルカバー200では、オペレーティングフロア230に端部を支持されるため、カナルプラグを要することなく取り付けることができ、また原子炉ウェル102全体をほぼ密閉することが可能となる。そのため、原子炉ウェル102全体から空気を吸引して放射能汚染物質を除去することができるため、原子炉ウェル102の水抜きと原子炉圧力容器108の水抜きを連続して行うことが可能となる。
【0052】
故に、従来必要であった原子炉ウェルの除染作業、バルクヘッド部の養生作業、上蓋の取り付け作業、フランジ部の養生作業等が不要とする。このため、作業工数の大幅な削減を図ることができる。また、ノズルプラグで止水する手法のように適用範囲が限定される訳でもなく、熟練も要しない。
【0053】
これらのことから、水抜きおよび水張りについての作業工数の大幅な削減と作業期間の短縮を図ることができ、かつ作業内容の簡易化を図ることができる。
【0054】
[原子炉点検方法]
以下、上述した原子炉ウェルカバー200を用いた原子炉点検方法(原子炉圧力容器108に接続した配管および水没弁300の点検方法)について説明する。図7は、本実施形態にかかる原子炉点検方法について説明する図である。特に、図7(a)は原子炉ウェルカバー200および排気処理装置268を取り付けた原子炉プールの上面図であり、図7(b)は原子炉ウェルカバー200および排気処理装置268を取り付けた原子炉プールについて説明する図である。
【0055】
まず、原子炉圧力容器108からSFP106に燃料棒が移動され、DSPゲート170およびSFPゲート172が挿入された状態であるとする。このとき、原子炉ウェル102および原子炉圧力容器108には遮蔽水が張られている。この状態で、原子炉ウェルカバー200をオペレーティングフロア230に取り付ける。詳細には、平坦な鉄鋼製の下面に事前に塗膜剥離型除染剤を塗布し、原子炉ウェルカバー200の隔壁202を原子炉建屋天井クレーン等の揚重機で受け台214に吊り込み、締結ボルト232により固定する。そして、DSPゲート170、SFPゲート172との隙間をアジャスター部材250の調整により封止する。
【0056】
次に、図7(a)、(b)に例示するように、原子炉ウェルカバー200上に、原子炉ウェル102(および原子炉圧力容器108)内の空気を吸引するデミスター262、フィルタ264、制御弁266、および排気処理装置268を設置する。
【0057】
原子炉ウェル102内の空気は、ダクト接続部204bより吸引され、ダクトを通じてデミスター262へと流入する。デミスター262は吸湿作用を担い、吸湿した水分を水分排出部204cから排出する。デミスター262を通過した空気は、フィルタ264に流入し、除塵される。そして、制御弁266を介して、排気処理装置268に吸引されて排出される。
【0058】
上記の排気処理装置268を稼動させることにより、内部の空気を負圧に維持することができる。これにより、原子炉ウェルカバー200が、原子炉ウェル102を完全に密閉せずとも(若干の隙間が残っていたとしても)、放射能によって汚染された空気の外部への漏れを防止することができる。なお、排気処理装置268の稼動は、以下に記すサプレッションプール124への水抜きが終了する前でよい。しかし、原子炉ウェル102(原子炉圧力容器108)の水を抜く前に、排気処理装置268を仮運転させ、原子炉ウェルカバー200がほぼ密閉されているか(負圧になるか)確認するとよい。
【0059】
図8は、サプレッションプール124への水抜きを行った状態を例示する図である。図8に例示するように、原子炉ウェル102および原子炉圧力容器108内のアニュラス部(シュラウド外周)までの水を、PLR系からRHR系の経路でサプレッションプール124へと抜く。具体例としては、図8において実線で示すように、RHRポンプ140およびグローブ弁290を介してサプレッションプール124に水抜きしてもよい(経路としてRHRポンプ140を通っているが、RHRポンプ140を動作させる必要はない)。また、図8において点線で示すように、RHRポンプ140を介さず直接サプレッションプール124に水抜きしてもよい。さらには、これら2つの経路を同時に使用してもよい。このとき、原子炉ウェル102と原子炉圧力容器108とで区別する必要はないため、連続して水抜きすることができる。いずれの方法も水位差のみで水抜きが可能であり、ポンプなどの動力源を必要としない。
【0060】
なお、最初は少量の水抜きをして、DSP104およびSFP106の水位が下がらないことを確認するとよい。これにより、DSPゲート170、SFPゲート172から原子炉ウェル102への漏水がないことを確認することができる。
【0061】
従来は原子炉ウェル102の水は位置の高いFPC系を介して水抜きし、シュラウド外部の水はCUWポンプ150を介して水抜きしていた。これらのポンプを使用した場合は流量の制限があったが、本実施形態の構成ではポンプを動作させないためNPSHの制限を受けることなく、毎時1,300m程度もの水抜きを行うことができる。なお、図8の実線の経路においてRHRポンプ140を動作さても良いが、その場合においても原子炉ウェル102と位置の低いサプレッションプール124との位置差が大きいため、やはりNPSHの制限を受けることはない。
【0062】
水抜きが終了する前に、負圧を維持するために排気処理装置268が稼動開始される。これは、従来除染作業を行って水を抜いていたように、原子炉ウェルカバー200の内部が放射能で汚染されている可能性があるためである。水抜きが終了すると、従来点検に最も時間がかかっていたPLR系の配管および水没弁300等の点検が可能となる。
【0063】
図9は、原子炉ウェル102および原子炉圧力容器108の水抜きを終了した状態を例示する図である。図9に例示するように、原子炉圧力容器108のシュラウド内側の水をCUW系からLCW系へと抜く。この水抜きが終了すると、原子炉圧力容器108内から全ての水が抜かれた状態となる。これにより、全ての配管および水没弁300の点検が可能となる。
【0064】
以上、本実施形態にかかる原子点検方法では、原子炉ウェル102をほぼ密閉する原子炉ウェルカバー200を用いるため、原子炉ウェル102、原子炉圧力容器108に張られた水を連続して抜くことができる。このように、作業工数を大幅に削減し、また連続的に、大流量で水抜きすることが可能となるため、作業期間の大幅な短縮を図ることができる。
【0065】
図10は、原子炉圧力容器108および原子炉ウェル102に水張りを終了した状態を例示する図である。図10に例示するように、上記の配管および水没弁300の点検作業後には、新しい燃料棒を原子炉圧力容器108に装荷する必要があるので、原子炉圧力容器108および原子炉ウェル102に再び水が張られる。水張りにおいては、水位計取付部204eに設置された水位計で水張り状況を監視し、原子炉ウェル102の所定の水位に達したところで終了する。
【0066】
水張り作業においても、従来必要であった原子炉ウェル102内での作業(原子炉圧力容器の蓋の撤去、カナルプラグおよび従来の原子炉ウェルカバーの撤去など)がないため、作業工数を大幅に削減することができる。また原子炉圧力容器108から原子炉ウェル102まで、途中で停止することなく連続して注水することができる。したがって、作業期間の大幅な短縮を図ることができる。
【0067】
水張りが終了したら、排気処理装置268を稼動させた状態で外気吸入部204fの弁を開いて、外気吸入部204fより外気を原子炉ウェルカバー200内部に流入させる。そして、排気処理装置268の吸引を継続して、原子炉ウェルカバー200内部に密閉されていた空気と外気を置換する(密閉されていた空気を排気処理装置268に吸引させる)。これは、密閉されていた空気が放射性物質により汚染されている可能性があるためである。原子炉ウェルカバー200の取り外しは、その後行われる。原子炉ウェルカバー200の下面は事前に塗布した塗膜剥離型除染剤を剥ぎ取ることによって容易に除染することができる。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、定期検査時等の原子炉停止時に原子炉ウェルを遮蔽して放射線被爆を防止する原子炉ウェルカバーおよびこれを用いた原子炉点検方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
102…原子炉ウェル、104…DSP(ドライヤセパレータプール)、106…SFP(使用済み燃料プール)、108…原子炉圧力容器、110…スキマサージタンク、112…FPCポンプ、114…FPCフィルターデミネライザ、116…FPC熱交換器、124…サプレッションプール、130…RHR熱交換器、130a、130b…PLRポンプ、140…RHRポンプ、142…RHR熱交換器、150…CUWポンプ、160…給水スパージャ、162…スプレイスバー、170…DSPゲート、172…SFPゲート、200…原子炉ウェルカバー、202…隔壁、202a…フロアシール部、202b…ゲートシール部、202c…プレートシール部、204…管台(204a…覗き窓、204b…ダクト接続部、204c…水分排出部、204d…マノメータ取付部、204e…水位計取付部、204f…外気吸入部)、212…バッカープレート、214…受け台、214a…リブ、230…オペレーティングフロア、232…締結ボルト、233…締結孔、234…据付ボルト、240…パッキン、250…アジャスター部材、262…デミスター、264…フィルタ、266…制御弁、268…排気処理装置、290…グローブ弁、300…水没弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の隔壁からなる原子炉ウェルカバーであって、
前記複数の隔壁は原子炉ウェルの上にあるオペレーティングフロアに端部を支持され、
オペレーティングフロアとの隙間を封止するフロアシール部と、
DSPゲートおよびSFPゲートとの隙間を封止するゲートシール部と、
前記隔壁同士の隙間を封止するプレートシール部と、を有し、
原子炉ウェルをほぼ密閉することを特徴とする原子炉ウェルカバー。
【請求項2】
前記フロアシール部は、オペレーティングフロアに設けられた受け台に立設されたリブと嵌合するインロー構造を有することを特徴とする請求項1に記載の原子炉ウェルカバー。
【請求項3】
前記ゲートシール部は、前記隔壁から前記DSPゲートまたは前記SFPゲートに向かって進退する方向に位置調節可能なアジャスター部材と、該アジャスター部材の先端に配置されたパッキンと、を有することを特徴とする請求項1に記載の原子炉ウェルカバー。
【請求項4】
前記プレートシール部は、隣接する前記隔壁において互いに組み合う段部が形成されており、該段部の対向する水平面にパッキンを有することを特徴とする請求項1に記載の原子炉ウェルカバー。
【請求項5】
前記隔壁の少なくとも下面は、ほぼ平坦な鉄鋼製であることを特徴とする請求項1に記載の原子炉ウェルカバー。
【請求項6】
当該原子炉ウェルカバーは、前記隔壁に形成された複数の管台をさらに有し、
前記管台の少なくとも一部は、原子炉中心部から発せられる放射線と交差するように傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の原子炉ウェルカバー。
【請求項7】
オペレーティングフロアに端部を支持され、原子炉ウェルをほぼ密閉する原子炉ウェルカバーを設置するステップと、
前記原子炉ウェルカバーに形成されたダクト接続部に、空気を吸引する排気処理装置を取り付けるステップと、
前記排気処理装置を稼動させ、前記原子炉ウェルカバー内部の空気を負圧に維持するステップと、
原子炉ウェルまたは原子炉圧力容器に張られた水を抜くステップと、
原子炉ウェルまたは原子炉圧力容器に接続する配管、および該配管に備えられた水没弁を点検するステップと、
を含むことを特徴とする原子炉点検方法。
【請求項8】
前記原子炉ウェルカバーの取り外しは、前記排気処理装置を稼動させた状態で該原子炉ウェルカバーに形成された外気を吸入する管台の弁を開き、該原子炉ウェルカバー内部の空気を該排気処理装置に吸引させてから行うことを特徴とする請求項6に記載の原子炉点検方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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