説明

原子炉格納容器および原子力プラント

【課題】原子炉事故時に、外部動力電源に頼らずに、粒子状放射性物質の環境への放出を抑制し、かつ、原子炉格納容器の圧力を設計圧力以下に制限する。
【解決手段】原子炉格納容器3は、原子炉圧力容器2を覆う内殻17と、内殻17の水平方向外周を覆う気密の空間であるアウターウェル19を形成する外殻18と、を有する。内殻17は、原子炉圧力容器3の水平方向周囲を取り囲む第1の円筒状側壁4aと、原子炉圧力容器2の上部を覆う上蓋6と、上蓋6の周囲と第1の円筒状側壁4aの上端部とを気密に接続する第1のトップスラブ5aと、を有する。外殻18は、第1の円筒状側壁4aの外周を取り囲む第2の円筒状側壁4bと、第2の円筒状側壁4bの上端部付近と第1の円筒状側壁4aとを気密に接続する第2のトップスラブ5bと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉格納容器およびそれを備えた原子力プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の沸騰水型軽水炉(BWR)で実用されている代表的なものに新型BWR(ABWR)がある。以下、このABWRの原子炉格納容器等の構造について、図6によりその概要を説明する(特許文献1等参照)。
【0003】
図6において、炉心1は原子炉圧力容器(RPV)2の内部に収納されている。原子炉格納容器(CV)3は、円筒状の側壁(筒状側壁)4と、その上部をふさぐトップスラブ5と、トップスラブ5の中心部に設けられた上蓋6と、これらを支持し円筒状側壁4の下部をふさぐ基底マット7とから構成される。これらは、設計基準事故時の圧力上昇に耐えるように設計されており、圧力バウンダリーを構成している。原子炉格納容器3の内部は、原子炉圧力容器2を収納するドライウェル(DW)8と圧力抑制室(ウェットウェル)(WW)9とに区分けされている。
【0004】
原子炉圧力容器2はベッセルサポート10によりベッセルスカート11を介して支持されている。ドライウェル8のベッセルスカート11よりも上の空間を上部ドライウェル12と呼び、これより下の空間を下部ドライウェル13と呼んでいる。この下部ドライウェル13を円周状に取り囲むように圧力抑制室9が設置され、その内部に圧力抑制プール(SP)14を貯えている。ドライウェル8と圧力抑制プール14はベント管15により連結されている。
【0005】
ドライウェル8とウェットウェル9は円筒上の一体構造をなしており、原子炉格納容器3を構成している。ドライウェル8とウェットウェル9を隔てている水平の床をダイアフラムフロアー16と呼ぶ。原子炉格納容器3は設計圧力がゲージ圧で3.16kg/cmであり、円筒状側壁4とトップスラブ5は、それぞれ、厚さ約2mと約2.4mの鉄筋コンクリート製で、その内表面に放射性物質の漏洩抑制の目的で鋼製ライナー(図示せず。)を内張りした構造となっている。基底マット7は約5mの厚さの同じく鉄筋コンクリート製になっている。
【0006】
なお、円筒状側壁4とトップスラブ5の接合部は、境界を分かり易くするため便宜的に円筒状側壁4の境界を最上部まで延長した例を示してある。実際の接合方法は、トップスラブ5が円筒状側壁4の上に乗る場合もある。また、鉄筋コンクリート製であるので接合部が両者の連続的な構造物としての共通部分を構成し明確な境界がない場合もある。このように主要な構造物を鉄筋コンクリート製とした原子炉格納容器を一般にRCCVと呼んでいる。
【0007】
上蓋6は燃料交換時に取り外しが可能なように鋼製のものを使用している。上蓋6の上部には、最近では、水遮蔽(図示せず。)のプール水が蓄えられているタイプのものがある。また、トップスラブ5の上部にも、最近では、静的安全系の冷却水プール(図示せず。)が蓄えられているタイプのものがある。原子炉格納容器3の設計漏洩率は約0.5%/日である。
【0008】
なお、最近では、円筒状側壁4とトップスラブ5を鉄筋コンクリートではなく、スチール・コンクリート複合構造(SC造)で構成する案も検討されている。このSC造は、2枚の型枠鉄板の間にコンクリートを充填したものである。鉄筋の敷設が不要で、モジュール工法が可能な点が特長である。SC造の構造物の原子力プラントへの採用例としては、東芝・ウェスティングハウス社のAP1000の遮蔽建屋がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−333357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
設計基準事故時に炉心から放出される放射性物質の内、環境に漏洩して最も被爆の被害をもたらすものは、粒子状の放射性物質であることが最近では広く認められている。その最大のものが粒子状の放射性ヨウ素である。この粒子状の放射性物質は水溶性が強く、水封された部分からは漏洩しにくい特性がある。その他の気体の放射性希ガス等は、設計漏洩率で漏洩しても大気中で拡散されるので被爆への寄与は小さくなることがわかっている。したがって、設計基準事故時の被爆線量を低減するためには、粒子状の放射性物質の漏洩を極力少なくすることが重要である。
【0011】
従来のABWRでは、設計基準事故が発生して粒子状の放射性物質が原子炉格納容器の内部に放出されても、トップスラブと上蓋の上部には、水が蓄えられていて粒子状の放射性物質が漏洩しにくい構造になっている。また、圧力抑制プールにもプール水が蓄えられていて粒子状の放射性物質が漏洩しにくい構造になっている。さらに、下部ドライウェルには、設計基準事故時には、原子炉圧力容器から流出した冷却材等が溜まるので、やはり下部ドライウェルからは粒子状の放射性物質が漏洩しにくい構造となっている。
【0012】
その結果、水封の効果がない筒状側壁を通って粒子状の放射性物質が環境に漏洩することが被爆線量を高くしている。特に、円筒状側壁の部分には、電気系や配管の貫通部が多数設置されており、原子炉格納容器の設計漏洩率のほとんどの部分が実際には、円筒状側壁から発生する漏洩によっている。したがって、設計基準事故時の被爆線量を低減するためには、円筒状側壁から漏洩する粒子状の放射性物質を環境に放出しないようにする必要があった。
【0013】
従来のABWRでは、設計基準事故時には、これを非常用ガス処理系(図示せず。)でフィルター処理する設計になっているが、実際の過酷事故時には電源喪失が発生し、この非常用ガス処理系が停止することもあるので、その場合には、粒子状放射性物質が過大に環境に放出されるおそれがあった。
【0014】
また、過酷事故時には、金属―水反応により大量の水素が炉心燃料から発生し、原子炉格納容器3の圧力が設計圧力以上(およそ設計圧力の2倍)に上昇する。これは、炉心燃料から発生した大量の水素と事故前から存在する窒素等の非凝縮性ガスが、ドライウェル8内の水蒸気によって随伴され、ベント管15を通って圧力抑制プール14に移行し、非凝縮性ガスがウェットウェル9気相部に押し込まれて圧縮されることにより発生する。ドライウェル8内の水蒸気の圧力は、このウェットウェル9気相部の非凝縮性ガスの圧縮による圧力を若干上回る。この高圧状態では、原子炉格納容器3からの漏洩が設計漏洩率を超えて発生するおそれがあった。
【0015】
この発明は、原子炉事故時に、外部動力電源に頼らずに、粒子状放射性物質の環境への放出を抑制し、かつ、原子炉格納容器の圧力を設計圧力以下に制限して、安全性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明に係る原子炉格納容器は、炉心を収納する原子炉圧力容器の荷重を支持し水平に広がる基底マットと、前記基底マットの上に配置されて前記原子炉圧力容器を気密に覆う内殻と、前記基底マットの上に配置されて前記内殻の水平方向外周を覆う気密の空間であるアウターウェルを形成する外殻と、を有する原子炉格納容器であって、前記内殻は、下端が基底マットに接続し、上端が少なくとも前記炉心の上端よりも高く、前記原子炉圧力容器の水平方向周囲を囲む第1の円筒状側壁と、前記原子炉圧力容器の上部を覆う上蓋と、前記上蓋の周囲と前記第1の円筒状側壁の上端部とを気密に接続する第1のトップスラブと、前記内殻内を、前記原子炉圧力容器が収納されたドライウェルと圧力抑制プールが収容されたウェットウェルとに仕切る仕切り壁と、前記仕切り壁を貫通して前記ドライウェルと前記圧力抑制プール内とを連絡するベント管と、を有し、前記外殻は、下端が前記基底マットに接続し、前記第1の円筒状側壁の外周を取り囲む第2の円筒状側壁と、前記第2の円筒状側壁の上端部付近と前記第1の円筒状側壁とを気密に接続する第2のトップスラブと、を有すること、を特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る原子力プラントは、炉心を収納する原子炉圧力容器の荷重を支持し水平に広がる基底マットと、前記基底マットの上に配置されて前記圧力容器を気密に覆う内殻と、前記基底マットの上に配置されて前記内殻の水平方向外周を覆う気密の空間であるアウターウェルを形成する外殻と、を有する原子炉格納容器を備えた原子力プラントであって、前記内殻は、下端が基底マットに接続し、上端が少なくとも前記炉心の上端よりも高く、前記原子炉圧力容器の水平方向周囲を囲む第1の円筒状側壁と、前記原子炉圧力容器の上部を覆う上蓋と、前記上蓋の周囲と前記第1の円筒状側壁の上端部とを気密に接続する第1のトップスラブと、前記内殻内を、前記原子炉圧力容器が収納されたドライウェルと圧力抑制プールが収容されたウェットウェルとに仕切る仕切り壁と、前記仕切り壁を貫通して前記ドライウェルと前記圧力抑制プール内とを連絡するベント管と、を有し、前記外殻は、下端が前記基底マットに接続し、前記第1の円筒状側壁の外周を取り囲む第2の円筒状側壁と、前記第2の円筒状側壁の上端部付近と前記第1の円筒状側壁とを気密に接続する第2のトップスラブと、を有すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、原子炉事故時に炉心燃料から放出される粒子状放射性物質を、二重の閉じ込め機能により、外部動力電源に頼らずに原子炉格納容器の内部に閉じ込めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る原子炉格納容器を示す立面図。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る原子炉格納容器を示す立面図。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る原子炉格納容器を示す立面図。
【図4】本発明の第4の実施形態に係る原子炉格納容器を示す立面図。
【図5】本発明の第5の実施形態に係る原子力プラントを示す立面図。
【図6】従来のABWRの原子炉格納容器の例を示す立面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態を図1ないし図5に基づいて説明する。なお、図1ないし図5においては、前述の図6と同一部または類似の部分には同一符号を付して、重複する部分の説明は省略し要部のみを説明する。
【0021】
[第1の実施形態]
図1により本発明による原子炉格納容器(CV)の第1の実施形態を説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る原子炉格納容器を示す立面図である。
【0022】
本発明の第1の実施形態が従来例と異なるおもな相違点は、原子炉格納容器3の筒状側壁を二重に設けたことにある。第1の円筒状側壁4aの外周にこれを覆うように間隔をあけて第2の円筒状側壁4bを設置している。また、上部を覆う第2のトップスラブ5bを設置している。この第2の円筒状側壁4bと第2のトップスラブ5bも圧力バウンダリーを構成し、設計圧力は、たとえば、ゲージ圧で2.11kg/cmから3.16kg/cm程度である。第1の円筒状側壁4aの上部は第1のトップスラブ5aと上蓋6で覆われている。この部分の設計圧力は、たとえば、ゲージ圧で3.16kg/cm程度である。
【0023】
第1の円筒状側壁4a、第1のトップスラブ5aおよび上蓋6と、水平に広がる基底マット7のうちの第1の円筒状側壁4a、第1のトップスラブ5aおよび上蓋6の真下の部分7aで構成される構造物を内殻17と呼ぶ。一方、第2の円筒状側壁4bおよび第2のトップスラブ5bと、基底マット7のうちの第2の円筒状側壁4bおよび第2のトップスラブ5bの真下の部分7bで構成される構造物を外殻18と呼ぶ。さらに、第1の円筒状側壁4aと第2のトップスラブ5bと第2の円筒状側壁4bの外面とこれらの直下の基底マット7の部分7bにより囲まれる空間をアウターウェル19と呼ぶ。
【0024】
図1は、第2のトップスラブ5bの位置が、第1のトップスラブ5aの高さと同じ位置にある場合を示している。両者が第1の円筒状側壁4aに両側から接合する例を示しているが、接合方法はこれに限定されない。たとえば、第2のトップスラブと第1のトップスラブが水平に接合され、その下部に第1の円筒状側壁4aの上端を接合しても良い。また、三者の接合部を三者の連続的な共通部分として接合しても良い。
【0025】
内殻17の内部は、原子炉圧力容器(RPV)2を収納するドライウェル(DW)8とウェットウェル(圧力抑制室、WW)9とに区分けされている。原子炉圧力容器2はベッセルサポート10によりベッセルスカート11を介して支持されている。ベッセルサポート10は円筒状のペデスタル30を介して基底マット7により支持されている。即ち、原子炉圧力容器2の荷重は、最終的に基底マット7によって支持されている。
【0026】
ドライウェル8のベッセルスカート11よりも上の空間を上部ドライウェル12と呼び、下の空間を下部ドライウェル13と呼ぶ。この下部ドライウェル13を円周状に取り囲むようにウェットウェル9が設置され、その内部に圧力抑制プール(SP)14を貯えている。ドライウェル8とウェットウェル9は、ダイアフラムフロアー16を含む仕切り壁によって仕切られている。ドライウェル8と圧力抑制プール14はベント管15により連結されている。
【0027】
ドライウェル8とウェットウェル9は、全体で、第1の円筒状側壁4aによって囲まれた円筒状の空間をなしている。第1の円筒状側壁4aは、上部ドライウェル12およびウェットウェル9の外壁を構成している。
【0028】
なお、本実施形態では、原子炉圧力容器2とウェットウェル9の高さを従来のABWRよりも少し増加し、炉心1の上端がダイアフラムフロアー16の高さ以下になるようにしている。
【0029】
ウェットウェル9の気相部とアウターウェル19の間を連結する気相ベント管20が設けられている。気相ベント管20の入り口部には、隔離連通切り替え手段(ICSS)21が設けられている。隔離連通切り替え手段21は、原子炉の通常運転時は閉じていて、事故時に開くようになっている。隔離連通切り替え手段21としては、たとえば、ラプチャーディスク、真空破壊弁、自動隔離弁等が利用可能である。
【0030】
ラプチャーディスクは、設定した圧力差で配管内に設置した円盤状の仕切り板を破壊して雰囲気を連通可能とするものであり、作動後の隔離閉鎖機能はない。したがって、作動後は雰囲気は順方向にも逆方向にも差圧に応じて流れることが可能である。
【0031】
真空破壊弁は高信頼度の気相逆止弁である。設定した圧力差で作動して雰囲気を連通可能とするが圧力差が低下すると再び閉鎖し流路を隔離する。雰囲気は順方向には流れるが逆方向には流れることはない。順方向への連通機能も逆方向への隔離機能も高信頼度で実施する必要がある場合等に使用されている。
【0032】
自動隔離弁は電動弁や空気作動弁等で設定した圧力差で自動的に開閉する。一度開状態にした後は開状態を維持することも再び閉鎖状態に戻すことも可能である。電動弁の場合には作動に若干時間がかかる。一方、空気作動弁は作動時間は早いがアキュムレーターの設置が必要になる。
【0033】
どの隔離連通切り替え手段を選択するかは設計上のオプションとなる。これらの隔離連通切り替え手段21に共通した機能は通常時は隔離状態にあり、設定した差圧に達すると順方向に雰囲気を流すことである。
【0034】
したがって、これらの隔離連通切り替え手段21は、原子炉が通常の運転中は隔離状態にあり、ウェットウェル9気相部とアウターウェル19とは分離されている。ウェットウェル9気相部の圧力上昇を伴わない過渡事象や小規模な冷却材喪失事故(LOCA)の場合も、これらの隔離連通切り替え手段21は隔離状態に維持される。これにより、過渡事象や小規模な冷却材喪失事故を内殻17の中に閉じ込めることができる。そのために、第1の筒状側壁4aには、気相ベント管20以外には開口部がないように構成される。
【0035】
一方、万一、大破断冷却材喪失事故や過酷事故が発生した場合は、ウェットウェル9の気相部の圧力が上昇し、隔離連通切り替え手段21の作動設定差圧に達すると隔離連通切り替え手段21が開いて、ウェットウェル9の気相部とアウターウェル19が連通される。これによりウェットウェル9気相部に蓄積する水素および窒素等の非凝縮性ガスによる内殻内17の過大な圧力上昇を外殻18内に放出し、原子炉格納容器3の圧力上昇を大幅に緩和できる。
【0036】
さらに、過酷事故時には大量の水素が原子炉格納容器3の内部に放出されるので、空気雰囲気のままでは水素爆轟するおそれがある。このリスクを排除するために、原子炉格納容器3内部の雰囲気を、アウターウェル19を含めて窒素で置換し通常の空気雰囲気よりも酸素濃度を低く維持する。
【0037】
この実施形態で、図1では図示を省略しているが、第1のトップスラブ5aおよび第2のトップスラブ5bの上には例えば燃料プール27(図5参照)が配置され、また、上蓋6の上には水遮蔽28(図5参照)が配置されている。
【0038】
本実施形態では、過酷事故時の原子炉格納容器内圧力上昇を低く維持することが可能となる。アウターウェル19の自由空間体積はウェットウェル9の自由空間体積のおよそ4倍程度となる。したがって、過酷事故時の原子炉格納容器圧力を従来の1/4程度とすることが可能となり、容易に設計圧力以下に抑制することが可能となる。
【0039】
また、本実施形態によれば、隔離連通切り替え手段21が開かない程度の小規模な事故の場合は、第1の円筒状側壁4aと第2の円筒状側壁4bが二重に放射性物質の閉じ込めを行ない、環境への放射性物質の放出を抑制することができる。また、隔離連通切り替え手段21が開く事故の場合には、内殻17の内部とアウターウェル19が均圧化されるので、第1の円筒状側壁4aの内外差圧がほぼなくなり、ドライウェル8内に浮遊する粒子状放射性物質が第1の円筒状側壁4aから直接漏洩することを防止できる。ドライウェル8内に浮遊する粒子状放射性物質は、ベント管15を通って圧力抑制プール14内に導かれ、圧力抑制プール水中に溶解するのでウェットウェル気相部にはごく微量のみが移行する。この微量の粒子状放射性物質は、隔離連通切り替え手段21を通りアウターウェル19に移行するが、外殻18により閉じ込められるので、環境への漏洩をほとんどゼロに制限することができる。
【0040】
過酷事故時には大量の水素がアウターウェル19に移行するが、アウターウェル19の雰囲気は窒素により置換され、酸素濃度を低く制限しているので水素爆轟が発生する可能性も排除される。
【0041】
以上説明したように、この実施形態によれば、事故時に炉心燃料から放出される大量の粒子状放射性物質を二重の閉じ込め機能により原子炉格納容器の内部に閉じ込めることが可能になる。外部動力電源を使用せず、静的手段のみで放射性物質を原子炉格納容器の内部に閉じ込めることができるので、巨大地震等の自然災害により過酷事故が発生しても周辺住民の方の安全性は避難を行なうこと無く確保することが可能になる。過酷事故時に炉心から発生する大量の水素による原子炉格納容器の圧力上昇を低く抑えることが可能になり、過酷事故状態が長期にわたり継続しても原子炉格納容器の過圧破損や過大漏洩の発生を防止可能になる。
【0042】
[第2の実施形態]
図2は、本発明の第2の実施形態に係る原子炉格納容器を示す立面図である。この実施形態では、第2の円筒状側壁4bの上端が第1の円筒状側壁4aの上端よりも低く、第2のトップスラブ5bは第1のトップスラブ5aよりも低い位置で水平に広がっている。図2に示す例では、第2のトップスラブ5bは、第1の円筒状側壁4aに接合される。ただし、接合部は両者の共通部分として構成しても良い。
【0043】
第1のトップスラブ5aおよび第2のトップスラブ5bの上に燃料プール27(図5)を配置する場合に、この実施形態においては、燃料プール27のうちで、第2のトップスラブ5bの上の部分の水深を第1のトップスラブ5aの上の部分よりも深くすることができる。
【0044】
[第3の実施形態]
図3は、本発明の第3の実施形態に係る原子炉格納容器を示す立面図である。この実施形態では、アウターウェル19の一部を耐圧性の隔壁22で区画して、空気雰囲気の機器室23を設置している。機器室23内には、たとえば残留熱除去系熱交換器や各種電気設備のパネルなどの機器を設置することができる。その他の構成は第1の実施形態と同様である。
【0045】
アウターウェル19の体積は十分に大きいので、一部を機器室23に使用することが可能である。特に、圧力抑制プール14の外側は圧力抑制プール水の水封機能があり、粒子状放射性物質は漏洩しないので、この部分を機器室23に使用することが有効である。さらに、この実施形態でも第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0046】
[第4の実施形態]
図4は、本発明の第4の実施形態に係る原子炉格納容器を示す立面図である。この実施形態では、アウターウェル19の下部にアウタープール24を設け、気相ベント管20の先端をアウタープール24の水中に導き、さらに、気相ベント管20の先端部分にスクラビングノズル25を設置している。その他の構成は第1の実施形態と同様である。
【0047】
スクラビングノズル25は、たとえばベンチュリーノズルである。ベンチュリーノズルは、たとえばスウェーデンのBWRプラントの過酷事故対策であるFILTRA MVSSのスクラビングノズルと同様のものを採用してもよい。
【0048】
なお、アウタープール24は、圧力抑制プール14とは、第1の円筒状側壁4aによって分離され、両者の間で水の環流および混入が発生しないようになっている。
【0049】
この実施形態によれば、原子炉事故時に隔離連通切り替え手段21が開放されると、ウェットウェル9内の高圧の気体が気相ベント管20を通ってアウタープール24の水中に導かれる。このとき、スクラビングノズル25により、アウタープール24の水中に微細な気泡が発生し、ウェットウェル9の気相部にごくわずかに浮遊する粒子状放射性物質がアウタープール24内のプール水中に溶解する。
【0050】
この第4の実施形態によれば、第1の実施形態の効果が得られるのみならず、粒子状放射性物質がアウターウェル19から外部に漏洩するのをさらに抑制することができる。
【0051】
なお、アウタープール24のプール水中にヨウ素の溶存性を高める薬剤、たとえば苛性ソーダを混入しておくこともできる。これにより、放射性ヨウ素をより確実にアウタープール24内のプール水中に溶解させることができる。
【0052】
また、アウタープール24のプール水中に非放射性のヨウ素を混入しておくこともできる。この場合、放射性ヨウ素がアウタープール24のプール水中に流入すると、放射性の有機ヨウ素と置換反応が行なわれ、放射性有機ヨウ素を効率良く除去することができる。
【0053】
[第5の実施形態]
図5は、本発明の第5の実施形態に係る原子力プラントを示す立面図である。
【0054】
本実施形態においては、たとえば第2の実施形態(図2)の原子炉格納容器3の第2の円筒状側壁4bおよび第2のトップスラブ5bを基底として、航空機落下対策の上部防護壁26を原子炉格納容器の上部を覆う形状で設置している。ただし、図5では気相ベント管20などの図示は省略している。上部防護壁26は原子炉格納容器3を構成しないので耐圧性は不要である。
【0055】
また、この実施形態では、第1のトップスラブ5aおよび第2のトップスラブ5bの上に燃料プール27が配置され、上蓋6の上に水遮蔽28が配置されている。燃料プール27および水遮蔽28は上部防護壁26の内側にある。
【0056】
この実施形態によれば、原子炉格納容器3のトップスラブ5a,5b上に設置される静的安全系(図示せず。)や燃料プール27を航空機落下事故から防護することが可能になる。
【0057】
従来から提案されている航空機落下対策の防護壁は、基底マット7から立ち上がり原子炉格納容器3の外周全体を覆うように設置される(たとえば、二重格納容器)。しかし、本実施形態では、第2の円筒状側壁4bを利用してその上に設置するので、コストと物量の大幅な削減が可能になる。第2の円筒状側壁4bは耐圧構造壁であるため、それ自体に航空機落下対策用の防護壁としての機能があり、新たに側壁部分を防護する防護壁を別途設ける必要がない。すなわち、本実施形態によれば、原子炉格納容器3自体が外殻18によって防護されるので、新たに側壁部分の防護壁を設ける必要がない。
【0058】
[他の実施形態]
以上説明した各実施形態は単なる例示であって、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
たとえば、各実施形態の特徴を種々に組み合わせることもできる。さらに具体的には、第5の実施形態は第2の実施形態の原子炉格納容器に上部防護壁26などを追加したものとしたが、第1、第3、第4の実施形態の原子炉格納容器に上部防護壁を追加することもできる。
【0060】
また、第1、第2、第3および第5の実施形態で、気相ベント管20を設けない構成も可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…炉心、2…原子炉圧力容器(RPV)、3…原子炉格納容器(CV)、4…円筒状側壁、4a…第1の円筒状側壁、4b…第2の円筒状側壁、5…トップスラブ、5a…第1のトップスラブ、5b…第2のトップスラブ、6…上蓋、7…基底マット、8…ドライウェル(DW)、9…ウェットウェル(圧力抑制室、WW)、10…ベッセルサポート、11…ベッセルスカート、12…上部DW、13…下部DW、14…圧力抑制プール(SP)、15…ベント管、16…ダイアフラムフロアー、17…内殻、18…外殻、19…アウターウェル、20…気相ベント管、21…隔離連通切り替え手段(ICSS)、22…隔壁、23…機器室、24…アウタープール、25…スクラビングノズル、26…上部防護壁、27…燃料プール、28…水遮蔽、30…ペデスタル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉心を収納する原子炉圧力容器の荷重を支持し水平に広がる基底マットと、
前記基底マットの上に配置されて前記原子炉圧力容器を気密に覆う内殻と、
前記基底マットの上に配置されて前記内殻の水平方向外周を気密に覆う外殻と、
を有する原子炉格納容器であって、
前記内殻は、
下端は前記基底マットに接続し、上端は少なくとも前記炉心の上端よりも高く、前記原子炉圧力容器の水平方向周囲を囲む第1の円筒状側壁と、
前記原子炉圧力容器の上部を覆う上蓋と、
前記上蓋の周囲と前記第1の円筒状側壁の上端部とを気密に接続する第1のトップスラブと、
前記第1の円筒状側壁の一部を構成し、前記原子炉圧力容器を収納するドライウェルと、
前記第1の円筒状側壁の一部を構成し前記ドライウェルとベント管で接続された圧力抑制プールを収容するウェットウェルと、
を有し、
前記外殻は、
下端が前記基底マットに接続し、前記第1の円筒状側壁の外周を囲む第2の円筒状側壁と、
前記第2の円筒状側壁の上端と前記内殻とを気密に接続する第2のトップスラブと、
前記第2の円筒状側壁と前記第2のトップスラブと前記基底マットで気密に囲まれた空間であるアウターウェルと、
を有すること、を特徴とする原子炉格納容器。
【請求項2】
前記ウェットウェルの気相部と前記アウターウェルの間を連結する気相ベント管と、
前記気相ベント管に設けられて、原子炉通常運転時は閉じていて原子炉事故時に開放可能な隔離連通切り替え手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の原子炉格納容器。
【請求項3】
原子炉通常運転時に前記ドライウェル内およびウェットウェル内の雰囲気およびアウターウェルの少なくとも一部の空間内の雰囲気が窒素により置換されて酸素濃度が通常の空気よりも低いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の原子炉格納容器。
【請求項4】
前記アウターウェルの一部が区画されて空気雰囲気の機器室が形成され、前記機器室以外のアウターウェル内の原子炉通常運転時の雰囲気が窒素により置換されて酸素濃度が通常の空気よりも低いことを特徴とする請求項3に記載の原子炉格納容器。
【請求項5】
前記アウターウェルにプール水を蓄えたアウタープールを設けたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の原子炉格納容器。
【請求項6】
前記気相ベント管の先端が前記アウタープール内のプール水中に配置されていることを特徴とする請求項5に記載の原子炉格納容器。
【請求項7】
前記気相ベント管の先端にスクラビングノズルが設けられていることを特徴とする請求項6に記載の原子炉格納容器。
【請求項8】
前記アウターウェルのプール水に、放射性ヨウ素の溶存性を高める薬剤が混入されていることを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれか一項に記載の原子炉格納容器。
【請求項9】
前記アウターウェルのプール水に、非放射性ヨウ素が混入されていることを特徴とする請求項5ないし請求項8のいずれか一項に記載の原子炉格納容器。
【請求項10】
炉心を収納すると原子炉圧力容器の荷重を支持し水平に広がる基底マットと、
前記基底マットの上に配置されて前記圧力容器を気密に覆う内殻と、
前記基底マットの上に配置されて前記内殻の水平方向外周を気密に覆う外殻と、
を有する原子炉格納容器を備えた原子力プラントであって、
前記内殻は、
下端は前記基底マットに接続し、上端は少なくとも前記炉心の上端よりも高く、前記原子炉圧力容器の水平方向周囲を囲む第1の円筒状側壁と、
前記原子炉圧力容器の上部を覆う上蓋と、
前記上蓋の周囲と前記第1の円筒状側壁の上端部とを気密に接続する第1のトップスラブと、
前記第1の円筒状側壁の一部を構成し、前記原子炉圧力容器を収納するドライウェルと、
前記第1の円筒状側壁の一部を構成し前記ドライウェルとベント管で接続された圧力抑制プールを収容するウェットウェルと、
を有し、
前記外殻は、
下端が前記基底マットに接続し、前記第1の円筒状側壁の外周を囲む第2の円筒状側壁と、
前記第2の円筒状側壁の上端と前記内殻とを気密に接続する第2のトップスラブと、
前記第2の円筒状側壁と前記第2のトップスラブと前記基底マットで気密に囲まれた空間であるアウターウェルと、
を有すること、を特徴とする原子力プラント。
【請求項11】
前記第1および第2のトップスラブの上に燃料プールが配置されていることを特徴とする請求項10に記載の原子力プラント。
【請求項12】
前記原子炉格納容器の上方を覆う上部防護壁を設けたことを特徴とする請求項10または請求項11に記載の原子力プラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−117821(P2012−117821A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264968(P2010−264968)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】