説明

原子炉格納容器の内部観察方法

【課題】最小限のアクセスで原子炉格納容器内の事前調査を可能とする原子炉格納容器の内部観察方法を提供する。
【解決手段】原子炉格納容器の内部観察方法において、原子炉格納容器12の内外を貫通するように設けられるペネトレーション13から観察用プローブ50を挿入しその内部観察を実施することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉格納容器の外側に作業員を配置して実施される原子炉格納容器の内部観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントは、密閉鋼板容器がコンクリート打設された原子炉格納容器(PCV)の内部に、原子炉圧力容器(RPV)が配置され、この原子炉圧力容器の内部に炉心が形成された構造を有している(例えば、特許文献1)。
原子力プラントにおいて冷却材喪失事故等が発生し、炉心溶融等のシビアアクシデントに発展した場合、PCVの内部が高線量となり、作業員が接近してその内部観察することが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−101387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シビアアクシデントが発生してPCV内部が高線量となった場合、PCV内の線量抑制等の作業が必要となる。そして、この作業に先立って、PCVの内部状況を事前調査により把握しておく必要がある。
一方、PCVは放射性物質を内部に閉じ込める役割を有しており、このような事前調査にあたる場合も、放射性物質の閉じ込めを極力維持した状態でPCVの内部観察を実行する必要がある。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、最小限のアクセスでPCV内の事前調査を可能とする原子炉格納容器の内部観察方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
原子炉格納容器の内部観察方法において、原子炉格納容器の内外を貫通するように設けられるペネトレーションから観察用プローブを挿入しその内部観察を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、最小限のアクセスでPCV内の事前調査を可能とする原子炉格納容器の内部観察方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る原子炉格納容器の内部観察方法の実施形態を示すフローチャート。
【図2】(A)〜(D)は、ペネトレーションの穿孔手順の説明図。
【図3】(E)〜(G)は、観察装置の設置工程の説明図。
【図4】(A)〜(B)は、使用中のペネトレーションから観察装置を挿入する場合の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
本実施形態に係る原子炉格納容器の内部観察方法は、原子炉格納容器の内外を貫通するように設けられるペネトレーションから観察用プローブを挿入しその内部観察を実施するものである。
【0010】
図2(A)に示すように、ペネトレーション13は、原子炉格納容器12の内側と外側とを物理的に接続するための、例えば電気配線又は配管を貫通させる部位である。そして、この原子炉格納容器12の外周には、放射能を遮蔽するためのコンクリート壁11が設けられている。
【0011】
また、ペネトレーション13は、原子炉格納容器12の側面に複数個が設けられており、これら複数のうち、電気配線又は配管が実際に貫通して使用中のものもあれば(図4(A)参照)、将来的な使用を見越した予備(未使用)のものもある(図2(A)参照)。
このような、予備のペネトレーション13は、密閉蓋14が、ボルトで締結され、原子炉格納容器の気密性を保っている。
【0012】
図1のフローチャートに示すように、本実施形態に係る原子炉格納容器の内部観察方法では、原子炉格納容器の内部観察を実施するのに最適なペネトレーションを、設計図面を用いて選定する(S11)。
次に、選択されたペネトレーションの内側に異物が存在するか否かについて超音波検査が実施される(S12)。これは、放射能汚染水がペネトレーションの内側に滞留している場合や、放射能を遮蔽するコンクリートブロックがその内部に配置されている場合が想定されるからである。
【0013】
超音波エコーを解析することにより、ペネトレーションの内側に存在する異物は、滞留水又はコンクリートブロックであるといった同定がなされる。滞留水が存在する場合は、別のペネトレーションに選定し直す(S13;No、S11)。
そして、ペネトレーションの内側に、滞留水が存在しないことが確認された場合は、ペネトレーションの穿孔作業に移る(S13;Yes、S14)。なお、コンクリートブロックの存在が確認された場合も、同様にペネトレーションの穿孔作業に移る。
【0014】
図2(B)〜(D)を参照して、ペネトレーションの穿孔手順を説明する。
まず図2(B)に示すように、ペネトレーション13の密閉蓋14に弁付継手21を気密に接合する。この弁付継手21は、開閉自在の弁体22が設けられており、開口部にはフランジ23が形成されている。また、弁付継手21の密閉蓋14への気密な接合方法は、溶接による場合の他、シール材を介して固定具(例えばOリングとボルト締結の併用や、接着剤による固定)を用いる方法等が挙げられる。
【0015】
そして、図2(C)に示すように、弁付継手21の内部空間と外界とを遮断する遮断バッグ31をセットする。この遮断バッグ31の内側には、ドリル工具32を予め配置させておく。そして、弁付継手21を開弁状態にし、密閉蓋14をドリル工具32で穿孔して孔部15を設ける(図2(D))。
【0016】
この遮断バッグ31には、その内圧を原子炉格納容器12の内圧よりも高く設定する高圧ガス供給部33が設けられている。この高圧ガス供給部33は、窒素ガスボンベ等を用いることができる。
このように、遮断バッグ31の内圧が高く設定されることにより、原子炉格納容器12の内部の放射性物質が、遮断バッグ31に侵入することを防止する。
また、遮断バッグ31には、その内部ガスを吸引して浄化するポンプ34が設けられており、仮に遮断バッグ31に放射性物質が侵入してもトラップすることができる。
【0017】
図1に戻って説明を続ける。
ペネトレーション13の穿孔作業が終了したところで(S14)、前記したコンクリートブロックが内部に存在している場合は、適当な押し棒(図示略)を用いて、このコンクリートブロックを原子炉格納容器12の内部に落下させる。そして、図3(E)に示すように、弁付継手21を閉弁状態にし、遮断バッグ及びドリル工具を撤去する。
【0018】
その後、作業用シェルタを、ペネトレーション13の周辺に設置する(S15)。これは、以降の作業が比較的長時間連続する場合があるために、作業員の被曝を低減することを目的としている。ここで、作業用シェルタとは、例えば、放射線を遮蔽する小型のコンテナを、一部開口可能にして開口部をペネトレーション13付近と接続することで作業箇所近傍を遮蔽可能な構造とし、このコンテナをキャタピラ車等に搭載することで移動可能としたものである。
【0019】
次に、観察装置の設置工程(図1;S16)及び観察の実施工程(S17)を、図3(F)〜(G)を参照して説明する。
図3(F)に示すように、閉弁状態にした弁付継手21に観察用プローブ50の挿入治具41を気密に接合する。この挿入治具41の一端には、弁付継手21のフランジ23(図2(B))とネジ締結されるフランジ面が形成され、その他端には、観察用プローブ50を挿通させる挿通孔42が設けられている。
【0020】
実施形態における観察用プローブ50は、イメージスコープ53を例示しているが、これに限定されるものでなく、その他、温度センサ、放射線線量センサ及び水位センサ等を用いることが検討されている。
イメージスコープ53は、外部衝撃から保護するための被覆管54を貫通しており、さらにこの被覆管54の先端を保護するための保護カバー55が設けられている。この保護カバー55は、密閉蓋14の孔部15に係入し、被覆管54の先端部分を密閉蓋14に支持させるものである。
【0021】
図3(G)に示すように、弁付継手21を開弁状態にして観察用プローブ50の保護カバー55を密閉蓋14の孔部15に案内する。このように、被覆管54が挿入治具41及び密閉蓋14に支持された状態で、ライン送出手段51を用いて、イメージスコープ53を原子炉格納容器12の内部に送出させる。
ライン送出手段51は、一対のピンチロール52が互いに接触回転する接点に狭持されるイメージスコープ53を、被覆管54に貫通させながら送出する。
【0022】
また、イメージスコープ53の先端から原子炉格納容器12の内部画像が得られる。なお、イメージスコープ53には必要に応じてライトをつける。PCV内部により多数の光源を確保したい場合は、イメージスコープ53の挿入に先立って、PCV内部に光源を投入してもよい。光源の投入は、例えば孔部15に中空のチューブを挿入し、バッテリーとライトが内蔵されて独自に発光する光源を、チューブから空圧等でPCV内部に複数射出することで行う。この光源の形状は特に限定されず、例えばカプセル状や球状が考えられる。
【0023】
なお、観察用プローブ50において、被覆管54の末端には、高圧ガス供給部33から高圧ガスの供給を受けるガスパージユニット35が設けられている。このガスパージユニット35は、原子炉格納容器12の放射性物質が、被覆管54とイメージスコープ53との隙間を伝って、外部に漏洩することを防止するものである。
【0024】
なお、図2及び図3では、未使用のペネトレーション13の密閉蓋14を穿孔して設けた孔部15に観察用プローブ50を挿通させる実施形態を示した。
しかし、図4(A)に示すような配管18が接続された使用中のペネトレーション13に適用される実施形態も考えられる。例えば、図4(B)に示すように、観察用プローブ50のアクセス孔16を設けたタップ17に交換し、ペネトレーションにおける既設の配管から観察用プローブを挿通させる。
【0025】
観察の実施工程(図1;S17)において、イメージスコープ53を操作することによって、原子炉格納容器12の内部画像を可能な限り多く取得する。
そして、解析の実施工程(S18)では、イメージスコープ53で取得された画像と無事故状態を示す画像との差異点とを比較する。
無事故状態を示す画像には、例えばシビアアクシデントが発生する前にレーザスキャンにより現場計測された画像や、CADデータから構成した画像を用いる。
【0026】
また、無事故状態の画像に、内部画像で観測された変化を無事故状態の画像に反映(例えば瓦礫の追加、構造物の変形や破損)を反映する加工を行ってもよい。内部画像はイメージスコープ53の性能、作業可能時間、光源不足等の様々な要因から視認性が阻害されることが考えられるため、両方の画像を組み合わせることで信頼性の高い事故後状態の推定画像を生成することができる。
【0027】
また、イメージスコープ53による観察が終了した後は、観察用プローブ50を温度センサ、放射線線量センサ又は水位センサ等に交換し、観察対象を変更して原子炉格納容器12の内部観察及び解析を実施する。
【0028】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の原子炉格納容器の内部観察方法によれば、ペネトレーションから観察用プローブを挿入することにより、厳しい放射線環境の下において、最小限のアクセスで原子炉格納容器の内部観察が可能となる。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0030】
11…コンクリート壁、12…原子炉格納容器、13…ペネトレーション、14…密閉蓋、15…孔部、16…アクセス孔、17…タップ、18…配管、21…弁付継手、22…弁体、23…フランジ、31…遮断バッグ、32…ドリル工具、33…高圧ガス供給部、33…弁付継手、34…ポンプ、35…ガスパージユニット、41…挿入治具、42…挿通孔、50…観察用プローブ、51…ライン送出手段、52…ピンチロール、53…イメージスコープ、54…被覆管、55…保護カバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉格納容器の内外を貫通するように設けられるペネトレーションから観察用プローブを挿入しその内部観察を実施することを特徴とする原子炉格納容器の内部観察方法。
【請求項2】
請求項1に記載の原子炉格納容器の内部観察方法において、
前記ペネトレーションは密閉蓋によって閉塞されたもので、この密閉蓋を穿孔して孔部を設け、この孔部に前記観察用プローブを挿通させることを特徴とする原子炉格納容器の内部観察方法。
【請求項3】
請求項2に記載の原子炉格納容器の内部観察方法において
前記穿孔の前に、超音波検査により前記ペネトレーション内部の異物が存在するか否かを確認することを特徴とする原子炉格納容器の内部観察方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の原子炉格納容器の内部観察方法において、
前記ペネトレーションの密閉蓋に弁付継手を気密に接合し、
前記弁付継手を開弁状態にして前記穿孔を行い、
前記弁付継手に前記観察用プローブの挿入治具を気密に接合し、
前記弁付継手を開弁状態にして前記観察用プローブを前記密閉蓋の孔部に案内すること特徴とする原子炉格納容器の内部観察方法。
【請求項5】
請求項4に記載の原子炉格納容器の内部観察方法において、
前記穿孔前に、前記弁付継手の内部空間と外界とを遮断する遮断バッグをセットすることを特徴とする原子炉格納容器の内部観察方法。
【請求項6】
請求項5に記載の原子炉格納容器の内部観察方法において、
前記遮断バッグには、その内圧を原子炉格納容器の内圧よりも高く設定する高圧ガス供給部が設けられていることを特徴とする原子炉格納容器の内部観察方法。
【請求項7】
請求項6に記載の原子炉格納容器の内部観察方法において、
前記観察用プローブは、その被覆管が前記挿入治具及び前記密閉蓋に支持された状態で、ライン送出手段により、原子炉格納容器の内部に送出されることを特徴とする原子炉格納容器の内部観察方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の原子炉格納容器の内部観察方法において、
前記観察用プローブが原子炉格納容器内部を撮影する光学装置であり、前記観察用プローブにより取得した内部画像と、あらかじめ用意した事故が起きていないときの原子炉格納容器内部の無事故画像とを比較し、両画像の差異点を前記無事故画像に反映する修正を行うことを特徴とする原子炉格納容器の内部観察方法。
【請求項9】
請求項1に記載の原子炉格納容器の内部観察方法において、
前記ペネトレーションは既設の配管に接続されており、前記配管に設けられたタップを前記観察用プローブのアクセス孔を有するものに交換し、前記アクセス孔から前記観察用プローブを挿通させることを特徴とする原子炉格納容器の内部観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−104817(P2013−104817A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249846(P2011−249846)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】