説明

原木木材の害虫駆除システム

【課題】原木木材中の害虫を短時間で効率よく駆除できる原木木材の害虫駆除システムを提供する。
【解決手段】原木木材L中の害虫を駆除するシステム1において、原木木材Lが移動する原木木材用通路2と、その原木木材用通路2の途中に設けられ、原木木材用通路2を所定長さ遮蔽するための遮蔽室3と、内部に水wを貯留して原木木材Lを浮かべると共に、原木木材Lの両端部を把持して軸回りに回転させながら搬送する搬送台車6と、遮蔽室3を通過する搬送台車6に積載された原木木材Lに放射線を照射する放射線発生装置とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原木木材中の害虫を駆除するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の輸入原木木材(丸太(横断面が丸型の木材)、あるいは原木ともいう)の殺虫方法には、1)原木を所定時間熱処理する熱処理による殺虫方法、2)原木に臭化メチルを噴霧、あるいは原木を臭化メチル中に浸す臭化メチルによる殺虫方法、または3)原木を長期間海水に浸す海水による殺虫方法がある。
【0003】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【0004】
【特許文献1】特開2001−275540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術には以下の問題がある。
【0006】
1)の熱処理方法は、一般的な規定では、原木の内部中心温度が56℃以上で30分以上連続加熱する必要があるが、大型の木材に対しては、熱処理に数時間要するため時間がかかり、スループットが低下し、駆除処理の効率が悪くなることが見込まれる。
【0007】
2)の臭化メチル方法では、木材の表層に近い範囲しか殺虫できないため、内部に存在する害虫を駆除しにくい。特に、害虫の卵やさなぎは耐性が強く、これらに対する殺虫効力が低い。また、臭化メチルは人体・環境(温暖化など)に有害な物質のため、世界的な使用規制が図られている。
【0008】
3)の海水殺虫方法でも、数日間要するため時間がかかり、しかも害虫の卵やさなぎに対する殺虫効力が低い。また、原木を海水に浸すため、害虫を窒息死させるための時間がかかる。さらに、検疫にも時間を要する。
【0009】
一方、原木中の害虫を駆除する方法として、放射線を利用することも考えられるが、現状では、放射線を利用した大型木材の殺虫システムは世の中に存在しない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、原木木材中の害虫を短時間で効率よく駆除できる原木木材の害虫駆除システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、原木木材中の害虫を駆除するシステムにおいて、上記原木木材が移動する原木木材用通路と、その原木木材用通路の途中に設けられ、上記原木木材用通路を所定長さ遮蔽するための遮蔽室と、内部に水を貯留して上記原木木材を浮かべると共に、上記原木木材の両端部を把持して軸回りに回転させながら搬送する搬送台車と、上記遮蔽室を通過する上記搬送台車に積載された上記原木木材に放射線を照射する放射線発生装置とを備えた原木木材の害虫駆除システムである。
【0012】
請求項2の発明は、上記搬送台車を牽引する牽引車をさらに備えた請求項1記載の原木木材の害虫駆除システムである。
【0013】
請求項3の発明は、上記原木木材用通路を直線状に形成すると共に、その直線状の原木木材用通路の途中に上記遮蔽室を設けた請求項1または2記載の原木木材の害虫駆除システムである。
【0014】
請求項4の発明は、上記搬送台車は、水を貯留する貯留部と、その貯留部の内側両端に設けられ、貯留部内で上記原木木材を回転させるための回転機構とを有する請求項1〜3いずれかに記載の原木木材の害虫駆除システムである。
【0015】
請求項5の発明は、上記回転機構は、上記原木木材の両端部を把持する把持部材と、その把持部材を上記原木木材の長さに応じて伸縮させる回転自在なアームとを有する請求項4記載の原木木材の害虫駆除システムである。
【0016】
請求項6の発明は、上記搬送台車は、貯留部の内側面に、その貯留部内で上記原木木材を案内するガイドを有する請求項4または5記載の原木木材の害虫駆除システムである。
【0017】
請求項7の発明は、上記牽引車は、上記搬送台車の両側に、電磁石などの連結手段でそれぞれ連結される請求項2〜6いずれかに記載の原木木材の害虫駆除システムである。
【0018】
請求項8の発明は、上記原木木材用通路と上記遮蔽室に台車用レールを敷設し、その台車用レール上に上記搬送台車を走行させると共に、上記原木木材用通路と上記遮蔽室に牽引車用レールを敷設し、その牽引車用レール上に上記牽引車を自走させる請求項2〜7いずれかに記載の原木木材の害虫駆除システムである。
【0019】
請求項9の発明は、上記放射線発生装置で発生する放射線はX線あるいは電子線であり、その照射線量が50〜2000Gyである請求項1〜8いずれかに記載の原木木材の害虫駆除システムである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、原木木材を短時間で効率よく駆除処理できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明者らは、放射線を利用した大型木材の殺虫システムを研究するにあたり、まず、 i)漏洩放射線量を規制値以下に抑制する構造・システムであること
ii)照射線量を均一化するため、原木を一定速度で運搬し、その全表面に均一に照射するシステムであること
iii)処理量が他の殺虫方法に比べ優れたシステムであること
iv)比較的コンパクトなシステムであること(特に、陸上の閉じられた空間において)を念頭においた。
【0022】
また、本発明者らは、
v)放射線の照射線量を最適化することで、原木木材に影響を与えない範囲で、木材内部に浸透した害虫の成虫、卵、さなぎを不妊化または殺虫することができる点、
vi)放射線に対しては、成虫が最も耐性が強く、卵、さなぎは、比較的低い線量で死滅しやすいが、成虫の場合、死滅に到らなくとも不妊化できれば繁殖を抑制できる点、
vii)照射線量の最適値については、現在も諸機関で研究・実験が行われているところであるが、巨大な原木木材に放射線を照射する場合、全表面の均一照射は必要不可欠であり、その調整により、照射線量を制御することが可能である点
などが必要であることを考慮し、鋭意研究した結果、本発明を完成した。
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面にしたがって説明する。
【0024】
図1は、本発明の好適な実施形態である原木木材の害虫駆除システムの全体構成を示す平面断面図である。
【0025】
図1に示すように、本実施形態に係る原木木材(丸太(横断面が丸型の木材)、あるいは原木ともいう)の害虫駆除システム(以下、害虫駆除システム)1は、主として港や空港近傍の陸上(例えば、税関など)に設置されて使用され、原木L中の害虫を放射線照射によって駆除するためのものである。
【0026】
ここでいう駆除は、原木Lの品質に影響を与えない範囲で、原木L内部に浸透した害虫の成虫を不妊化または殺虫、あるいは卵、さなぎを殺虫することをいう。
【0027】
害虫駆除システム1で害虫を駆除処理する原木Lは、直径:約50〜200cm、長さ:約10〜20m、密度が0.5g/cm3 とすると、重量が1.5〜24tの原木である。図7には、その一例として、長さXが15m、直径がそれぞれφa:50cmの原木La、φb:100cmの原木Lb、φc:200cmの原木Lcを示した。
【0028】
害虫駆除システム1は、原木Lが移動する原木用通路2と、その原木用通路2の途中(図1では中央部)に設けられ、原木用通路2を所定長さ遮蔽するための遮蔽室3とを備える。原木用通路2は、両側が側壁2s,2sで外部と仕切られていればよく、上方が開放されていても、天井が備えられていてもよい。
【0029】
遮蔽室3は、原木用通路2の中央部と、その中央部の前後に開閉自在にそれぞれ設けられた遮蔽扉4f,4bと、原木用通路2の側壁2s,2sの長手方向に延長した直線上に設けられ、放射線の外部への漏れを防止する遮蔽壁3s,3sと、これら遮蔽壁3s,3sと原木用通路2の中央部上を覆う図示しない天井壁5(図3〜図5参照)とで区画形成される。
【0030】
本実施形態では、原木用通路2を直線状に形成すると共に、その直線状の原木用通路2の途中に遮蔽室3を平面視で同一直線上となるように形成した。すなわち、原木Lの積み込み(投入)から荷降ろし(回収)まで、原木Lが真っ直ぐに移動する(搬送される)害虫駆除システム1の例を説明する。
【0031】
遮蔽壁3s,3sには、コンクリート壁を用いた。遮蔽扉としては、放射線の外部への漏れを防止でき、かつ開閉自在であれば開閉方向は上下左右問わない。本実施形態では、水平方向に片開きする2枚の遮蔽扉4f,4bを用いた。
【0032】
害虫駆除システム1は、内部に水wを貯留して(内部に水wを張って)原木Lを浮かべると共に、原木Lの両端部を(厳密には、原木Lの中心軸あるいはその近傍を両端から)把持して軸回りに回転させながら搬送する搬送台車(ワゴン)6と、その搬送台車6を牽引する牽引車として、搬送台車6の前部両側にそれぞれ着脱自在に連結される2台1セットの牽引車7a,7bとを備える。
【0033】
さらに、害虫駆除システム1では、遮蔽室3の上方に、遮蔽室3を通過する原木Lに放射線を照射する図示しない放射線発生装置を収納した照射部Iが設けられる。
【0034】
原木用通路2と遮蔽室3の床面上には、2本の台車用レール8が敷設される。これら台車用レール8上を搬送台車6が走行する。また、原木用通路2と遮蔽室3の床面上で、各台車用レール8の両側には、牽引車用レール9が敷設される。この牽引車用レール9上を牽引車7a,7bが自走する。本実施形態では、各牽引車7a,7bごとに2本の牽引車用レール9を用いたが、牽引車の構造によっては1本の牽引車用レール9でもよい。
【0035】
ここで、搬送台車6と牽引車7a,7bをより詳細に説明する。
【0036】
図2〜図5に示すように、搬送台車6は、上方が開放した直方体状に形成された長尺のケース21と、そのケース21の内部空間であり、水wを張って貯留し、原木Lを浮かべて収納するための貯留部22と、その貯留部22の内側前後両端に設けられ、貯留部22内で原木Lを軸回りに回転させるための2個の回転機構23とを有する。
【0037】
ケース21の両側下部には、台車用レール8上を搬送台車6が走行するための車輪24が、片側で3個、合計6個設けられる。例えば、金属製の台車用レール8を用いる場合は車輪24も金属製にし、コンクリート製の台車用レール8を使用する場合には、車輪24をゴム製にするとよい。本実施形態では、横断面が凹状の台車用レール8、牽引車用レール9を用いた。
【0038】
各回転機構23は、原木Lの中心軸あるいはその近傍を両端から把持する把持部材25と、把持部材25を原木Lの長さに応じて水平方向に伸縮させる回転自在なアーム26と、そのアーム26の基部が取り付けられる回転機構本体23mとからなる。回転機構23は、水wに浸るため防水構造にする。
【0039】
回転機構本体23mには、アーム26を回転させるアーム用モータと、そのアーム用モータを駆動するインバータと、アーム26を伸縮させる伸縮装置と、アーム用モータの回転数を検出するロータリエンコーダなどの回転センサと、これら各部品を制御する台車用制御盤などが備えられる。
【0040】
台車用制御盤には、原木Lの長さや直径の大まかなデータを、オペレータにより無線や手動で予め設定しておくとよい。本実施形態では、油圧駆動する伸縮装置を用いた。
【0041】
把持部材25は、図6(a)および図6(b)に示すように、アーム26の先端から水平方向に突出するほぼ円錐状に形成された複数本(図6(b)では4本)の爪部材61からなる。各爪部材61の基部には、爪部材61が原木Lの端面に突き刺さった後、所定の長さまでアーム26を伸長させるため、放射線に耐性が強いリミットスイッチなどの機械式スイッチが設けられる。
【0042】
図2〜図5に示すように、搬送台車6は、貯留部22の内側面に、その貯留部22内で原木Lを案内する可動式ガイド27が、片側で2個、合計4個設けられる。各可動式ガイド27は、上述した台車用制御盤に接続され、原木Lの直径に応じて水平方向に伸縮自在に設けられる。可動式ガイド27は、水wに浸るため防水構造にする。
【0043】
牽引車7a,7bは、同じ構成であり、牽引車用レール9上に対向配置される。牽引車7aは、牽引車本体7mの下部に、牽引車用レール9上を牽引車7aが自走するための車輪24が2個設けられる。各車輪24の上部は牽引車本体7m内に収納され、各車輪24の下部は牽引車本体7m外に突出される。
【0044】
牽引車本体7mの内側には、電磁石などの連結手段28が設けられる。搬送台車6の前部両外側には、連結手段28と連結するための永久磁石などの被連結手段29が設けられる。これら連結手段28と被連結手段29により、搬送台車6の両側に、2台の牽引車7a,7bがそれぞれ連結・分離される。
【0045】
本実施形態では、電磁石を連結手段28に、永久磁石を被連結手段29に用いたが、電車や列車などで慣用されている並形自動連結器を使用してもよい。
【0046】
牽引車本体7mには、各車輪24を駆動する牽引車用モータと、その牽引車用モータを駆動するインバータと、連結手段28としての電磁石をON/OFFするスイッチと、搬送台車6の位置を検出する位置センサと、これら各部品を制御する牽引車用制御盤などが備えられる。
【0047】
遮蔽室3の上方には、その遮蔽室3の長さ方向に沿って天井壁5が設けられ、その天井壁5上に、放射線発生装置31を遮蔽室3の長さ方向に沿って複数個(図3では、3個)収納した照射部Iが区画形成される。
【0048】
放射線発生装置31としては、X線照射装置を用いる。このX線照射装置で発生させたX線を放射線rとして原木Lに照射する。放射線発生装置31の照射口32は、遮蔽室3内に突出しており、遮蔽室3内において昇降自在に設けられるとよい。
【0049】
放射線rは距離の2乗に比例して強度が小さくなるので、照射口32と搬送台車6内の原木Lとの距離D(図5参照)は、遮蔽室3内を原木Lが通過できる範囲で極力近づけた方がよい。
【0050】
このため、本実施形態では、照射口32を適宜昇降させたり、搬送台車6の貯留部22に張る水wの量を増減したりする。水wの量を増減するには、図示しない給水タンク、給水ポンプなどの給水手段や、排水口、排水ポンプなどの排水手段をさらに設ければよい。
【0051】
X線の照射線量は、原木Lの直径や種類にもよるが、50〜2000Gy、好ましくは100〜500Gy、さらに好ましくは140〜300Gyにする。
【0052】
搬送台車6の回転機構本体23mと牽引車本体7mに供給する電力は、例えば、回転機構本体23mと牽引車本体7mのそれぞれに設けたバッテリ、牽引車7mに接続した給電ケーブル、あるいは原木用通路2と遮蔽室3の上部側方に布設した架線(トロリ線)と、その架線から電力を取り入れる集電装置(トロリ)とによって行う。
【0053】
次に、図8(a)〜図8(d)を用いて、本実施形態の作用を害虫駆除システム1の動作と共に説明する。
【0054】
ここでは、2台の搬送台車6(第1搬送台車6f、第2搬送台車6bとする)、2台1セットの牽引車7a,7bを2セット(第1牽引車7fa,7fbと第2牽引車7ba,7bbとする)使用する例で説明する。
【0055】
まず、図8(a)に示すように、予め第1搬送台車6fと第2搬送台車6bの各貯留部に、原木Lの直径、重量に応じて水wを張っておく。遮蔽室3の上流(図8では、手前)側に、第1牽引車7fa,7fbを連結した第1搬送台車6fを待機させる。遮蔽扉4f,4bは開いておく。
【0056】
この状態でピッキング装置などを用いて、第1搬送台車6fに原木Lを積み込み、水wに原木Lを浮かせる。積み込まれた原木Lを、その直径に応じて各可動式ガイド27で案内して貯留部内で位置決めを行う。その後、回転機構23のアームを伸長させ、原木Lの中心軸あるいはその近傍を両端から把持部材25で把持することで、貯留部22内で原木Lを固定する。
【0057】
図8(b)に示すように、第1牽引車7fa,7fbで第1搬送台車6fを遮蔽室3内の上流側まで搬送し、停止させる。このとき、予め遮蔽室3内の照射部Iの下流側に、第2牽引車7ba,7bbを待機させておく。
【0058】
図8(c)に示すように、第1搬送台車6fから第1牽引車7fa,7fbを切り離して上流側に後退させ、第2牽引車7ba,7bbを第1搬送台車6fの前部両側まで後退させて、第2牽引車7ba,7bbに第1搬送台車6fを受け渡す。
【0059】
第1牽引車7fa,7fbが遮蔽室3外の上流側まで戻ったら、遮蔽扉4f,4bを閉め、照射部Iの放射線発生装置により、原木LにX線照射を開始する。
【0060】
図8(d)に示すように、照射中、第2牽引車7ba,7bbで第1搬送台車6fを定速度で走行させると共に、回転機構23により、原木Lを定速度で回転させ、原木Lの全表面にX線を均一に照射する。原木Lの末端(後端)までX線の照射が完了したら、原木Lの回転を停止し、原木L中の害虫を駆除する駆除処理が終了する。
【0061】
これと同時に、第1牽引車7fa,7fbをさらに後退させ、第2搬送台車6bに連結した後、第2搬送台車6bを遮蔽室3の上流側まで搬送して待機させ、第2搬送台車6bに次の原木Lを積み込む。
【0062】
その後、図8(a)の上側に示すように、遮蔽扉4f,4bを開き、第2牽引車7ba,7bbで第1搬送台車6fを遮蔽室3外の下流側まで搬送し、停止させる。第1搬送台車6fを停止した後、原木Lから把持部材25を引き離す。ここで、ピッキング装置などを用いて、第1搬送台車6fから原木Lの荷降ろしを行う。
【0063】
このように、害虫駆除システム1は、ワゴン型の搬送台車6に巨木である原木Lを積載し、これを遮蔽扉4f,4b付きの遮蔽室3の中に搬送して放射線照射を行うバッチ方式のシステムである。
【0064】
害虫駆除システム1は、搬送台車6内に張った水wに原木Lを浮かべて搬送するため、その浮力を利用することで、原木Lの全表面にX線を均一に照射するために必要な回転動力を軽減し、回転機構23の負担を減少できる。
【0065】
また、害虫駆除システム1は、搬送台車6内において、把持部材25を有する各回転機構23により、原木Lの中心軸を両端から把持して軸回りに回転させながら搬送するため、原木Lを定速度で回転させることができ、原木Lの全表面にX線を均一に、かつ確実に照射できる。
【0066】
さらに、害虫駆除システム1は、牽引車7a,7bで搬送台車6を牽引して搬送するため、搬送台車6の搬送速度と、原木Lの回転速度とを所望の値に制御でき、原木LへのX線の照射線量を高精度に制御できる。
【0067】
害虫駆除システム1は、原木用通路2と遮蔽室3とを直線状に区画形成しているため、放射線処理で一般的に用いられている迷路構造(折れ曲がりや蛇行構造)が不要なため、システム全体を構築するための建屋構造物が簡便で安価となる。しかも、駆除処理に要する時間も短くなり、スループットが向上する。
【0068】
害虫駆除システム1では、遮蔽室3の出入り口に遮蔽扉4f,4bを設けているため、これらを閉めれば、遮蔽室3外への放射線漏洩を確実に防止できる。
【0069】
したがって、害虫駆除システム1によれば、原木Lを短時間で効率よく駆除処理できる。
【0070】
上記実施形態では、搬送台車6の貯留部22に水wを張ったが、原木Lよりも比重が大きい海水などの他の液体を張ってもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、放射線発生装置31として、透過力が大きいX線を発生させるX線照射装置を用いたが、原木Lの直径や種類によっては、X線に比べると透過力が小さい電子線を発生させる電子線照射装置を使用してもよい。
【0072】
上記実施形態とは異なり、原木用通路2と遮蔽室3はそのままにし、台車用レール8と牽引車用レール9のみをループ状にした循環レールにしてもよい。さらに、原木用通路2と遮蔽室3もループ状にした循環通路にし、搬送台車6が構内を循環するようにしてもよい。
【0073】
上記実施形態では、2台の搬送台車6と、2台1セットの牽引車7a,7bを2セットとを用いた例で説明したが、搬送台車6を3台以上(例えば、通路の全長が約200mのときは6台が最適)使用してもよい。もちろん、1台の搬送台車6と2台1セットの牽引車7a,7bのみで上述したバッチ方式の放射線照射を行ってもよい。
【0074】
また、2台1セットの牽引車7a,7bを用いず、牽引車本体7mと同様の部品を搬送台車6に追加し、搬送台車6を自走させてもよく、1台の牽引車で搬送台車6を牽引してもよい。
【実施例】
【0075】
(実施例1)
害虫駆除システム1において、放射線rとしてX線を用い、この場合の照射線量と照射時間の関係を実験した。照射時間は、必要線量、放射線発生装置31の能力、照射点位置、搬送台車6の搬送速度、原木Lの回転速度、原木Lの直径などに応じて決まる。X線の条件を表1に、原木Lの直径、X線ターゲット−原木L間距離(照射口32と搬送台車6内の原木Lとの距離Dに比例)を種々に変えたときのX線による処理時間を表2、表3に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
(実施例2)
害虫駆除システム1において、放射線rとして電子線を用い、この場合の照射線量と照射時間の関係を実験した。照射時間は、必要線量、放射線発生装置の能力、照射点位置、搬送台車6の搬送速度、原木Lの回転速度、原木Lの直径などに応じて決まる。電子線の条件を表4に、原木Lの直径、照射線量を種々に変えたときの電子線による処理時間を表5に示す。
【0080】
【表4】

【0081】
【表5】

【0082】
駆除処理に必要な照射線量は害虫の種類によって異なるが、表1〜表5に示すように、主に放射線rの照射線量、原木Lの直径、X線ターゲット−原木L間距離で搬送台車6の搬送速度を設定すれば、原木Lを短時間で効率よく駆除処理できることがわかった。
【0083】
また、本発明者らの実験により、原木L内部に浸透した害虫の成虫を不妊化するのに必要な照射線量は、殺虫に必要な照射線量の半分であることもわかった。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の好適な実施形態を示す原木木材の害虫駆除システムの平面断面図である。
【図2】図1に示した搬送台車と牽引車の平面図である。
【図3】図1の照射部における縦断面図である。
【図4】図1の照射部における原木木材がない場合の正面図である。
【図5】図1の照射部における原木木材がある場合の正面図である。
【図6】図6(a)は回転機構の側面図、図6(b)はその把持部材の正面図である。
【図7】原木木材の一例を示す平面図である。
【図8】図8(a)〜図8(d)は、図1に示した原木木材の害虫駆除システムの動作を説明する平面図である。
【符号の説明】
【0085】
1 原木木材の害虫駆除システム
2 原木木材用通路
3 遮蔽室
4f,4b 遮蔽扉
6 搬送台車
7a,7b 牽引車
I 照射部
L 原木木材
w 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原木木材中の害虫を駆除するシステムにおいて、上記原木木材が移動する原木木材用通路と、その原木木材用通路の途中に設けられ、上記原木木材用通路を所定長さ遮蔽するための遮蔽室と、内部に水を貯留して上記原木木材を浮かべると共に、上記原木木材の両端部を把持して軸回りに回転させながら搬送する搬送台車と、上記遮蔽室を通過する上記搬送台車に積載された上記原木木材に放射線を照射する放射線発生装置とを備えたことを特徴とする原木木材の害虫駆除システム。
【請求項2】
上記搬送台車を牽引する牽引車をさらに備えた請求項1記載の原木木材の害虫駆除システム。
【請求項3】
上記原木木材用通路を直線状に形成すると共に、その直線状の原木木材用通路の途中に上記遮蔽室を設けた請求項1または2記載の原木木材の害虫駆除システム。
【請求項4】
上記搬送台車は、水を貯留する貯留部と、その貯留部の内側両端に設けられ、貯留部内で上記原木木材を回転させるための回転機構とを有する請求項1〜3いずれかに記載の原木木材の害虫駆除システム。
【請求項5】
上記回転機構は、上記原木木材の両端部を把持する把持部材と、その把持部材を上記原木木材の長さに応じて伸縮させる回転自在なアームとを有する請求項4記載の原木木材の害虫駆除システム。
【請求項6】
上記搬送台車は、貯留部の内側面に、その貯留部内で上記原木木材を案内するガイドを有する請求項4または5記載の原木木材の害虫駆除システム。
【請求項7】
上記牽引車は、上記搬送台車の両側に、電磁石などの連結手段でそれぞれ連結される請求項2〜6いずれかに記載の原木木材の害虫駆除システム。
【請求項8】
上記原木木材用通路と上記遮蔽室に台車用レールを敷設し、その台車用レール上に上記搬送台車を走行させると共に、上記原木木材用通路と上記遮蔽室に牽引車用レールを敷設し、その牽引車用レール上に上記牽引車を自走させる請求項2〜7いずれかに記載の原木木材の害虫駆除システム。
【請求項9】
上記放射線発生装置で発生する放射線はX線あるいは電子線であり、その照射線量が50〜2000Gyである請求項1〜8いずれかに記載の原木木材の害虫駆除システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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