説明

参照電極

【課題】電極本体の液絡部が設けられた端部側の一部分が高温高圧の被検液に接触した状態で使用することができ、電極本体内部に気泡が入り易い状況でも安定した計測を可能とする参照電極を提供する。
【解決手段】内部液7を収容するための管状の本体1と、本体1の一端側に設けられた液絡部2と、本体1の他端側に設けられた内部電極4と、を有する参照電極1は、本体1内に、一端が液絡部2に接触し、他端部が内部電極4に接触する、耐熱性且つ親水性の繊維fで構成された内部液保持部材10が配置される構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化還元電位差測定電極、pH電極などの電気化学的測定用の作用電極と共に用いられる参照電極に関し、より詳細には、電極本体の液絡部が設けられた端部側の一部分が高温高圧の被検液に接触した状態で用いられる参照電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、火力発電所や原子力発電所などのボイラーにおける高温高圧(例えば、200℃、2MPa)の水(通常、イオンが溶解している水溶液である。以下、単に「ボイラー水」という。)の腐食電位、酸化還元電位、pHなどを電気化学的に測定するために、酸化還元電位差測定電極(ORP電極)、pH電極といった、それぞれの目的の作用電極と共に参照電極が使用される。参照電極は、照合電極又は比較電極とも呼ばれる。
【0003】
参照電極の内部電極としては、銀−塩化銀電極が好適に用いられるが、高温状態では塩化銀が溶解し易く、寿命が短くなる。そのため、高温高圧用の参照電極は、内部電極の部分が高温高圧部から離隔された外部参照電極として使用される。
【0004】
図5は、この目的のために使用される従来の参照電極の一例の概略断面を示す。図5に示す参照電極Bは、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の管状の本体101を有し、その先端は、孔103aにアスベスト撚糸、多孔質セラミックスなどから成る液絡部102が詰められた栓103が嵌入されている。本体101の他端には、PTFE製の電極保持体106が嵌入されており、この電極保持体106の中心孔106aに、銀−塩化銀電極とされる内部電極104が先端に接続された銀線105が、この内部電極104が本体101内に露出するように貫通されている。上記栓103と電極保持体106とで封じられた本体101の内部空間は、内部液107によって満たされる。又、本体101は、これに略嵌合するステンレススチール製の保護管108に入れられている。そして、参照電極Bは、保護管108と一体に配設された取り付け部109を介して、被検液が収容(或いは流通)される高温容器に液密に接続される。保護管108は本体101に遊嵌しており、液絡部102側の先端部を通して、本体101と保護管108との間隙は高温容器内に連通している。これにより、本体101の内外で圧力のバランスが取られている。
【0005】
図5に示す高温高圧用の参照電極Bでは、内部電極104が収納される本体101は、熱容量を小さくするために外径が細くされ、又、高温容器から伝達される熱が放散され易くするために長くされている。
【0006】
これにより、本体101の液絡部102が設けられた端部側は高温容器内の温度下に置かれるが、内部電極104の部分は常温の状態を維持でき、塩化銀が溶解し難く、参照電極Bを長寿命化することができる。
【0007】
又、図5に示す参照電極Bは、内部電極104と被検液とを電気的に接続するために、本体101とは別に塩橋を接続する必要がなく、構造的にも簡単であり、非常に優れている。
【0008】
しかしながら、例えば被検液が減圧状態になるなどして圧力変化があった場合などに、本体101内に気泡αが発生することがある。そして、上記従来の参照電極Bでは、本体101が細長形状とされているため、このように本体101内に気泡が発生すると、液絡部102と内部電極104との間での電気的導通が絶たれた断線状態となり、作用電極との間で電位測定が不可能となる場合がある。
【0009】
又、参照電極は、通常、測定精度の維持などのために、例えば決められた期間毎に、本体101内の清掃、内部液104の交換などのメンテナンスを行う。従って、参照電極は、長期計測の信頼性が高いことに加えて、メンテナンス性が良好であることも重要である。
【0010】
ところで、特許文献1は、被検液と照合電極とを電気的に導通させる塩橋として、筒体内に、テフロン(登録商標)などの耐食性材料から成る紐を充填したものを用いることで、被検液が沸騰状態であるときに塩橋内に気泡が入り込み難くした照合電極装置を開示する。
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示される照合電極装置は、照合電極を収納するハウジングに別途塩橋を接続することにより、被検液と照合電極との電気的導通をとるものであり、構造が複雑である。
【特許文献1】実開平5−59300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、信頼性が大幅に向上した参照電極を提供することである。
【0013】
本発明のより詳細な目的の一つは、電極本体の液絡部が設けられた端部側の一部分が高温高圧の被検液に接触した状態で使用することができ、電極本体内部に気泡が入り易い状況でも安定した計測を可能とする参照電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は本発明に係る参照電極にて達成される。要約すれば、本発明は、内部液を収容するための管状の本体と、前記本体の一端側に設けられた液絡部と、前記本体の他端側に設けられた内部電極と、を有する参照電極において、前記本体内に、一端が前記液絡部に接触し、他端部が前記内部電極に接触する、耐熱性且つ親水性の繊維で構成された内部液保持部材が配置されることを特徴とする参照電極である。
【0015】
本発明の一実施態様によると、前記内部液保持部材は、前記本体の軸線方向において前記液絡部及び/又は内部電極に重なる。又、本発明の他の実施態様によると、前記内部液保持部材は、前記内部電極の端部及び/又は前記液絡部の端部の少なくとも一部分を覆う。
【0016】
本発明の好ましい一実施態様によると、前記内部液保持部材は、前記繊維の編組体である。前記内部液保持部材は、前記繊維で編成された紐であってよい。
【0017】
又、本発明の好ましい一実施態様によると、前記繊維は、セラミックス繊維である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電極本体内の液絡部と内部電極とに、常に内部液が含浸された状態の耐熱性且つ親水性の内部液保持部材が接触した状態となる。このため、電極本体内に気泡が発生した場合にも、液絡部と内部電極とは内部液保持部材に保持された内部液を介して常に導通状態が保たれる。その結果、電極本体内部に気泡が入りやすい状況でも、安定した計測が可能となる。従って、本発明によれば、参照電極の信頼性は大幅に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る参照電極を図面に則して更に詳しく説明する。以下の実施例は、本発明を例示的に説明するものであって、正確な構成、寸法、形状、材質、その相対配置などは、特定的な記載がない限り、本発明をそれのみに限定することを意図するものではない。
【0020】
実施例1
図1は、本発明に係る参照電極の一実施例の概略断面を示す。本実施例の参照電極Aは、火力発電所や原子力発電所などにおける高温高圧(例えば、200℃、2MPa)のボイラー水の電気化学的指標を測定するために、酸化還元電位差測定電極、pH電極などの作用電極と共に用いることのできる高温高圧用外部参照電極である。
【0021】
参照電極Aは、管状の本体1を有する。通常、本体1は断面略円形、直線状の円管とされる。本体1は、高温高圧の熱水(特に、塩溶液)に耐える材料、好ましくは、耐熱性のフッ素樹脂で作製される。フッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体)などを用いることができる。本実施例では、PTFE製の直線状の円管を用いた。
【0022】
本体1の一端部(第1の端部)1aには液絡部2が設けられている。本実施例では、本体1の第1の端部1aには、高温高圧の熱水(特に、塩溶液)に耐える材料で作製された栓3が嵌入されている。そして、本体1と同心的に栓3に設けられた孔3aに液絡部2が固定されている。これにより、本体1の内外の液間で電気的接続が可能な状態で、本体1の第1の端部1aは封じられている。栓3は、好ましくは、本体1と同種又は異種のフッ素樹脂にて作製される。又、液絡部2は、高温高圧の水(特に、塩溶液)に耐える材料、好ましくは、アスベスト撚糸、多孔質セラミックスで作製される。本実施例では、栓3はPTFEで作製し、この栓3の孔3aに取り付けられる円柱状の液絡部2を多孔質セラミックスで作製した。
【0023】
本体1の上記第1の端部1aとは反対側の他端部(第2の端部)1bには、内部電極4が設けられている。本実施例では、本体1の第2の端部1bには、高温高圧の熱水(特に、塩溶液)に耐える材料で作製された電極保持体6が嵌入されている。そして、本体1と同心的に電極保持体6に設けられた中心孔6aに、先端に内部電極4が接続された導線5が、この内部電極4が本体1内に露出するように貫通されている。これにより、本体1の第2の端部1bは封じられている。電極保持体6は、好ましくは、本体1と同種又は異種のフッ素樹脂にて作製される。内部電極4としては、基準電極として安定な銀−塩化銀電極が好ましく用いられる。又、導線5としては銀線が好ましく用いられる。銀線の表面に塩化銀を形成することで内部電極4とすることができる。本実施例では、電極保持体6はPTFEで作製し、内部電極4としては銀−塩化銀電極を用い、又導線5としては銀線を用いた。
【0024】
栓3と電極保持体6とで封じられた本体1の内部空間は、内部液7によって満たされる。高温高圧用の参照電極Aの内部液7としては、一般に、0.1MのKCl水溶液が用いられる。
【0025】
更に、本体1は、高温高圧の熱水に耐える材料で作製された保護管8に入れられている。保護管8は、本体1に略嵌合する断面形状を有する略管状部材で形成される。保護管8は、通常、機械的強度の観点から金属で作製される。本実施例では、保護管8は、本体1の外径より若干大きい内径を有するステンレススチール製の直線状の直管とされる。
【0026】
保護管8には、被検液を収容する高温容器の取り付け部に参照電極Aを取り付けるための取り付け部9が一体に配設されている。これにより、参照電極Aは、例えばボイラー水系統中の測定箇所、即ち、被検液が収容(或いは流通)される高温容器(高温高圧空間)内に液絡部2側の先端部の一部分が挿入された状態で、この高温容器に気密に接続される。保護管8は本体1に遊嵌しており、液絡部2側の先端部を通して、本体1と保護管8との間隙は高温容器内に連通している。これにより、本体1の内外で圧力のバランスが取られている。
【0027】
前述のように、図1に示すような高温高圧用の参照電極Aでは、本体1の内部に配置された内部電極4を保護するために、液絡部2が設けられた端部側が高温容器内の温度下に置かれた場合でも、内部電極2の部分がより低温、典型的には常温となるようにする。つまり、内部電極4が収容される本体1は、熱容量を小さくするために外径は細くされ、又、高温容器から伝達される熱が放散され易くするために長くされる。例えば、ボイラー水の電気化学的指標の測定に用いられる参照電極Aでは、通常、本体1の内径dは、4mm〜10mm(肉厚0.5mm〜2mm)とされる。又、本体1の長さは、液絡部2の端部(本体1の軸線方向中心側)から内部電極4の端部(本体1の軸線方向中心側)までの距離lで代表して、通常、200mm〜400mmとされる。
【0028】
そして、本実施例の参照電極Aは、本体1内に、一端が液絡部2に接触し、他端部が内部電極に接触する耐熱性且つ親水性の繊維fで構成された内部液保持部材10が配置されている。
【0029】
これにより、本体1内の液絡部2と内部電極4とに、常に内部液7が含浸された状態の耐熱性且つ親水性の内部液保持部材10が接触した状態となる。このため、本体1内に気泡が発生した場合にも、液絡部2と内部電極4とは、内部液保持部材10に保持された内部液7を介して常に導通状態が保たれる。その結果、本体1の内部に気泡が入りやすい状況でも、安定した計測が可能となる。これにより、例えば1ヶ月以上といった長期計測における信頼性は大幅に向上する。
【0030】
内部液保持部材10が液絡部2、内部電極4のいずれか又は両方に接触していない場合、液絡部2或いは内部電極4と内部液保持部材10との間に気泡が発生した場合に、液絡部2と内部電極4との間の電気的接続が絶たれ易くなる。例えば、液絡部2或いは内部電極4の近傍に大きな気泡が発生した場合に、液絡部2或いは内部電極4と内部液保持部材10との間の電気的接続が絶たれて内部液保持部材10に含浸された内部液7を介した導通状態が絶たれると共に、内部液保持部材10に含浸されていない内部液7を介した導通状態も絶たれ易くなる。
【0031】
内部液保持部材10は、耐熱性、且つ、親水性の材料から成る繊維fで構成されて、高温高圧の熱水(特に、塩溶液)に耐えると共に、水、即ち、内部液7の含浸性、保持性が良好であるものであればよい。又、参照電極Aのメンテナンス時に、内部液7の交換や、本体1内の清掃を容易とするため、或いは内部液保持部材10自体の交換・洗浄のために、内部液保持部材10は容易に本体1内へ配置(挿入)することができ、又容易に本体10から取り出せることが好ましい。
【0032】
これらの観点から、内部保持部材10としては、複数本の繊維(複数本のフィラメントの集合体(ヤーン、ストランド)を含む。)fを編成した編組体が好ましい。特に、複数本の繊維fで編成された組紐(紐)が好適である。紐は、編組組織で囲まれた中心空間が軸線方向に沿って形成されているスリーブ状のものであってよい。内部液保持部材10としてスリーブ状の紐を用いる場合、上記中心空間を潰したクロス状にして使用しても、スリーブ状のまま使用してもよい。
【0033】
親水性の繊維fで作製された紐などの編組体は、内部液7の含浸性、保持性が良好であると共に、繊維fが纏まっていることから、極めて容易に本体1内への抜き差しが可能である点で極めて有利である。例えば、本実施例の参照電極Aでは、電極保持体6ごと内部電極4を本体1から抜き取り、本体1の開放した端部(第2の端部)1bを上にして本体1を縦位置にした状態で、その開放した端部1bから落下させることで、紐などの編組体とされる内部液保持部材10は容易に本体1内に配置することができる。又、上記本体1の開放した端部(第2の端部)1bを下にして本体1を縦位置とすることなどにより、内部液保持部材10は容易に本体1内から取り出すことができる。
【0034】
勿論、所望により、複数本の繊維fをそのまま、又は所定単位毎に若しくは全体に緩く撚りを掛けるなどして纏めて、内部液保持部材10として用いることもできる。又、所望により、繊維fから成る不織布も使用することができる。
【0035】
内部液保持部材10を構成する繊維fとしては、使用に際して液絡部2が設けられた端部側の少なくとも一部分が曝される高温高圧の熱水(特に、塩溶液)に実用上許容し得る期間だけ耐え得る程度に十分耐熱性で、且つ、本体1内に気泡が発生した場合にも液絡部2と内部電極4との間の電気的接続を維持し得るだけの内部液7を内部液保持部材10に速やかに含浸することを可能とする程度に十分親水性である繊維を用いる。典型的には、ボイラー水の電気化学的指標の測定に用いられる参照電極Aでは、内部液保持部材10の液絡部2が設けられた端部側の少なくとも一部は、200℃以上の高温環境下に置かれることがある。又、この場合、本体1は、2MPa以上の高圧環境下に置かれる。従って、このような参照電極Aでは、200℃以上、2MPa以上の高温高圧環境下で実用上許容し得る程度に長期間安定して使用可能であることが必要である。更に、後述のような電気的な絶縁処理を行うことなく、そのまま内部液保持部材10として使用することができる点で、繊維fは電気絶縁性であることが好ましい。
【0036】
これらの観点から、内部液保持部材10を構成する繊維fとしては、セラミックス繊維を用いることが好ましい。セラミックス繊維としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素、或いは炭化ケイ素を主要成分とするセラミックス繊維を用いることができる。又、シリカヤーンも使用することができる。
【0037】
ガラス繊維は200℃以上の高温の水中で表面が変性することがあり、又、ポリエステル、ナイロン、アクリルなどの有機繊維は200℃以上の高温水中で長時間使用すると炭化する。
【0038】
又、内部液保持部材10を構成する繊維fとして、高温の水(特に、塩溶液)中で腐食し難い金属繊維、或いは炭素繊維も使用することができる。但し、後述するように、金属繊維、炭素繊維などの導電性の繊維を用いる場合には、内部電極4との接触部において、繊維f自体が内部電極4に接触しないように、絶縁処理を行う必要がある。例えば、白金、チタンなどの耐食性のある金属は、高温の塩溶液中でも腐食し難いため使用することができる。ステンレススチール繊維は、高温の塩溶液中で腐食し易い。
【0039】
更に、PTFE、PFA、FEP、ETFEなどのフッ素樹脂繊維で、撥水性から親水性に変えるように表面改質されたものを使用することもできる。この表面改質方法としては、斯界にて知られているものを特に制限なく用いることができる。例えば、化学処理やレーザー処理によりフッ素樹脂の表面化学特性を親水性に表面改質する方法が知られている。
【0040】
上述のように、内部液保持部材10は、液絡部2及び内部電極4に接触していればよい。より確実に内部液保持部材10を液絡部2及び/又は内部電極4に接触させるために、内部液保持部材10は、その端部の少なくとも一部分が本体1の軸線方向において液絡部2及び/又は内部電極4に重なるように配置することができる。
【0041】
本実施例では、栓3の本体1の内部側の面よりも液絡部2が本体1の内部に向かって突出している。そして、内部液保持部材10の端部の一部分が栓3から突出した液絡部2と本体1の軸線方向において重なる。又、本実施例では、内部液保持部材10の端部の一部分が内部電極4と本体1の軸線方向において重なる。つまり、本実施例では、内部液保持部材10の長さは、上記本体1の軸線方向長さlよりも長い。
【0042】
内部液保持部材10として上述のようなスリーブ状の紐を用いる場合、図2に示すように、内部電極4の端部の一部分を、このスリーブ状の紐で覆うようにしてもよい。同様にして、液絡部2の端部の一部分をスリーブ状の紐で覆うこともできる。これにより、内部液保持部材10と内部電極4、液絡部2の接触をより確実にすることができる。
【0043】
勿論、内部液保持部材10の端部が、液絡部2、内部電極4の本体1の端面に単に接触するようにして、内部液保持部材10を本体1内に配置してもよい。又、液絡部2は、本体1内に突出していなくてもよい。
【0044】
ここで、上述のように、内部液保持部材10を構成する繊維fとして白金、チタンなどの金属、或いは炭素繊維などの導電性の繊維を用いる場合は、内部電極4との接触部において、導電性の繊維f自体が内部電極4に直接触しないように絶縁処理を行う。つまり、図3に示すように、本体1の軸線方向において少なくとも内部電極4に接触する領域iにおいて、繊維fの表面、或いは繊維fで構成された内部液保持部材10としての表面に電気絶縁層10aを設ける。これにより、例えば銀−塩化銀電極とされる内部電極4と、内部液保持部材10自体とを電気的に絶縁することができる。勿論、電気絶縁層10aは、導電性の繊維fの表面、或いは繊維fで構成された内部液保持部材10としての表面の全体に設けてもよい。
【0045】
電気絶縁層10aは、好ましくは高温の水(特に、塩溶液)に耐える材料で形成することが好ましい。例えば、内部液保持部材10を構成する繊維fとして金属繊維を用いる場合、電気絶縁層10aは、金属の表面に酸化皮膜を形成したり、或いはセラミックスコーティングを施すことで設けることができる。又、繊維fとして炭素繊維を用いる場合も同様に、電気絶縁層10aはセラミックスコーティングを施すことにより設けることができる。酸化被膜、或いはセラミックスコーティングは、斯界にて知られている利用可能な如何なる電気化学的、化学的或いは物理的製膜方法によって設けてもよい。
【0046】
尚、本体1内に配置する内部液保持部材10の量、より詳細には、内部液保持部材10を構成する繊維fの量は、本体1内で内部液7を含浸して保持し、本体1内に気泡が発した場合にも液絡部2と内部電極4との間での電気的接続を維持するのに十分な量である必要がある。一方、必要以上に内部液保持部材10の量を増やすと、内部液7を本体1内に注入し難くなったり、或いは内部液7の量が不十分となるので好ましくない。
【0047】
このような観点から、内部液保持部材10の体積をV、本体1の内容積(内部液保持部材10が配置されていない状態で内部液7を収容し得る本体1内の容積)をVとしたとき、次式、(V÷V)×100で算出される、本体1内の内部液保持部材10の体積占有率(%)は、2%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。一方、上記体積占有率(%)は、50%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。
【0048】
実験例
本実施例の参照電極Aと、内部液保持部材10が設けられていない従来の参照電極B(図5)とを用いて測定データの安定性を比較した。
【0049】
本実施例の参照電極Aは、本体1の内径dが4mm(肉厚1mm)、上記本体1の長さ(液絡部2の端部から内部電極4の端部までの距離)lが280mmであった。又、内部液保持部材10として、アルミナセラミックス繊維fで編成されたスリーブ状の紐(三井鉱山マテリアル(株):品番 CD−2)を300mmに切り取ったものを、編組組織で囲まれた中心空間を潰した状態で用いた。この内部液保持部材10は、両端がそれぞれ液絡部2、内部電極4に重なるように本体1内に配置した。本体1内の内部液保持部材10の体積占有率は、約10%であった。
【0050】
従来の参照電極Bは、内部液保持部材10が設けられていないことを除いて、本実施例の参照電極Aと実質的に同一の構成とした。
【0051】
そして、作用電極としてORP電極(白金電極)を参照電極A、Bと組み合わせて用い、被検液としての耐圧容器内のボイラー水の温度を、常温(約25℃)から約250℃まで上昇させる際の電極電位を経時的に測定した。
【0052】
従来の参照電極Bを用いた場合、図6に示すように、測定途中から電極電位のデータが乱点となり、正確な測定結果を得ることが困難となることがあった。
【0053】
これに対し、本実施例の参照電極Aを用いた場合には、図4に示すように、同様の条件下で常に安定した測定を行うことができた。
【0054】
尚、本実施例の参照電極Aに用いた内部液保持部材10は、容易に本体1内に配置することができ、又本体1から容易に取り出すことができた。又、この内部液保持部材10は、参照電極Aの液絡部2が設けられた端部側の領域h(約20mm)が200℃以上、2MPa以上の高温高圧条件下に置かれた状態で1ヶ月以上しても、外見上、機能上共に、初期と変わるところは見あたらなかった。
【0055】
以上説明したように、本実施例によれば、内部液保持部材10が液絡部2と内部電極4とに接触していることにより、本体1内の圧力変動があるなど、本体1内に気泡が発生し易い状況でも、被検液の電気化学的指標の安定した測定が可能となる。これにより、参照電極Aの信頼成は大幅に向上した。
【0056】
又、本実施例の参照電極Aは、液絡部2と内部電極4との電気的接続は、耐熱性且つ親水性の繊維fで構成された内部液保持部材10で確保されているので、内部電極4の部分を高温部から離隔した状態で液絡部2が設けられた端部側の少なくとも一部分を高温高圧の被検液に曝すために、たとえ本体1の外径を小さくし、又液絡部2と内部電極4との間の距離を長くした場合でも、安定した測定を可能とすることができる。このように、本実施例の参照電極Aは、内部電極4と被検液とを電気的に接続するために、本体1とは別に塩橋を接続する必要がなく、構造的に簡単である。更に、本実施例の参照電極Aは、長期計測の信頼性が高いと共に、メンテナンス性が極めて良好である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る参照電極の一実施例の概略断面図である。
【図2】内部液保持部材と内部電極との接触部の他の実施例を示す部分拡大図である。
【図3】内部液保持部材と内部電極との接触部の他の実施例を示す部分拡大図である。
【図4】本発明の効果を示す実験結果を説明するためのグラフ図である。
【図5】従来の参照電極の一例の概略断面図である。
【図6】従来の参照電極を用いた実験結果を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0058】
1 電極本体(本体)
2 液絡部
3 栓
4 内部電極
10 内部液保持部材(セラミックス繊維の組紐)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部液を収容するための管状の本体と、前記本体の一端側に設けられた液絡部と、前記本体の他端側に設けられた内部電極と、を有する参照電極において、
前記本体内に、一端が前記液絡部に接触し、他端部が前記内部電極に接触する、耐熱性且つ親水性の繊維で構成された内部液保持部材が配置されることを特徴とする参照電極。
【請求項2】
前記内部液保持部材は、前記本体の軸線方向において前記液絡部及び/又は内部電極に重なることを特徴とする請求項1の参照電極。
【請求項3】
前記内部液保持部材は、前記内部電極の端部及び/又は前記液絡部の端部の少なくとも一部分を覆うことを特徴とする請求項1又は2の参照電極。
【請求項4】
前記内部液保持部材は、前記繊維の編組体であることを特徴とする請求項1、2又は3の参照電極。
【請求項5】
前記内部液保持部材は、前記繊維で編成された紐であることを特徴とする請求項4の参照電極。
【請求項6】
前記繊維は、セラミックス繊維であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の参照電極。
【請求項7】
前記内部液保持部材は、前記本体から取り出すことができることを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載の参照電極。
【請求項8】
前記本体内の前記内部液保持部材の体積占有率は2%以上50%以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかの項に記載の参照電極。
【請求項9】
前記内部電極は、銀−塩化銀電極であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの項に記載の参照電極。
【請求項10】
前記内部液は、塩溶液であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかの項に記載の参照電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−177678(P2006−177678A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368344(P2004−368344)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)