説明

双方向回転型アキシャルピストンポンプ

【課題】双方向で常に斜板の吐出し領域と吸込み領域間の背圧差を相殺でき、バランスのとれた安定した斜板軸受状態が得られる双方向回転型アキシャルピストンポンプの提供。
【解決手段】双方向回転型アキシャルピストンポンプにおいて、斜板の軸受部の回転軸貫通部領域を挟む両側位置に第1と第2の摺接面を備え、各摺接面にポンプ吐出圧油の一部が導入されて潤滑油膜を形成する一対の凹状ポケット領域として、摺接面中央部に形成された相対的に開口面積の小さい小ポケットと該小ポケットの周囲に形成された相対的に開口面積が大きい大ポケットとの二重ポケット構成を有し、一方の大ポケットと他方の小ポケットのみに前記吐出圧油を導く第1潤滑油路と一方の小ポケットと他方の大ポケットのみに前記吐出圧油を導く第2潤滑油路とを有する油圧回路を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双方向回転型アキシャルピストンポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば重機の油圧ブーム駆動用のアクチュエータシリンダ等の比較的小容量で高圧の作動油の供給を必要とされる油圧パワー供給装置においては、従来から斜板式可変容量形のアキシャルピストンポンプが用いられることがある。これは、ポンプユニット内で回転軸と一体的に回転されるシリンダブロックのシリンダ室内に収容されている複数個のピストンの端部シューが、回転軸に対して傾斜可能に支持されている斜板の傾斜面に摺接するものであり、サーボモータ等の原動機による回転軸の回転駆動に伴って、斜板角度に応じたストロークで各ピストンが往復駆動することによって圧油を吸引・吐出するポンプとして作用するものである。
【0003】
従って、このようなアキシャルピストンポンプのピストン押し出し容積により決定する吐出量は、斜板角度によって決定されるが、この角度は、油圧を利用した制御によって変更可能となっている。即ち、アキシャルピストンポンプを備えた油圧回路において、該ポンプの吐出流路と斜板の角度変位を行うための容量可変機構の受圧部との間に電磁切換弁を設け、該電磁切換弁のON状態にてポンプの自己吐出圧の一部が前記受圧部へパイロット圧として導かれ、その受圧部に駆動により、斜板をバネ付勢力に抗して押圧することでその傾斜角度を小さくしてポンプ機構の吐出流量が小容量側に変位される。また電磁切換弁のOFF状態にてパイロット圧油の導入を止められ、タンク等に連通する低圧側流路に接続された受圧部は、斜板に対する押圧作用が軽減、解除され、斜板角度はバネ付勢力により大きくなってポンプ吐出流量が大容量側へ変位される。
【0004】
油圧制御によってアクチュエータシリンダのピストンロッドを前後進駆動させる油圧駆動装置においては、上記の如き可変容量形のアキシャルピストンポンプを双方向回転型ポンプとしたものが用いられる。この双方向回転型ポンプは、正逆2つの吐出口を備え、モータの回転方向に応じて正逆双方向への作動油の供給が切り換えられるものである。このポンプは、両ポートをアクチュエータシリンダのピストンヘッド側とロッド側とにそれぞれダイレクトに接続するだけで、制御弁を必要とせず、自給弁と安全弁からなる簡単な油圧回路でロッドを前後進駆動させることができる。このような双方向回転型ポンプを用いれば、作動油をほぼ閉鎖系で循環させる簡便な油圧回路で油圧配管のないコンパクトな設計で油圧供給装置を構成することができる。
【0005】
しかしながら、アキシャルピストンポンプの構成では、各部材間や軸受部材との間で摺動が行われるため、摺接面ではガタツキが生じ易く、振動、騒音の原因になり、場合によっては、制御特性の安定性に悪影響を与える恐れもある。
【0006】
そこで、従来から、対象部外から加圧された高圧流体を潤滑油としてその対象摺接面の隙間に強制的に供給することによって潤滑膜を形成し、摺接面同士を非接触状態に保つ所謂静圧軸受が多く採用されている。例えば、ピストンシューの斜板との摺接面に静圧ポケットを設けて潤滑油を該ポケット内へ導入するものや、また斜板底部と軸受部との間に潤滑油を供給するもの(例えば、特許文献1,2,3参照。)がある。
【0007】
また、弁板に形成された複数の吐出ポートからそれぞれ複数の独立した吐出流を得るタイプのアキシャルピストンポンプでは、各吐出ポート間の油圧の相違に基づいたアンバランスモーメントが斜板に作用して、斜板が振動的になる恐れがあったが、このようなアンバランスモーメントを打ち消すように各吐出ポートからそれぞれ導かれた油圧によって斜板に相補的な逆向きモーメントを与える機構を備えたものもある(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−324749号公報
【特許文献2】特開平10−77956号公報
【特許文献3】特開2002−5006号公報
【特許文献4】特開平9−88811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、アキシャルピストンポンプの斜板全体をみると、ピストンシューを介して接するピストンが吐出しモードとなっている領域と吸込みモードになっている領域との二つに大別され、これらの二領域の間で斜板に係る背圧に比較的大きな相違が生じており、これが斜板振動や騒音の原因になる恐れがあった。
【0010】
しかも、双方向回転型の場合、回転方向が逆転すると、斜板の吐出し領域と吸込み領域も入れ替わってしまう。しかしながら、これまで、上記のような斜板の吐出し領域と吸込み領域との間に係る背圧の相違に着目し、片方向回転形においてもこのような背圧の相違を相殺するための手段を備えたものはなかった。
【0011】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、正逆双方向の回転にも対応して斜板の吐出し領域と吸込み領域との間の背圧差を相殺でき、常にバランスのとれた安定した斜板軸受状態が得られる双方向回転型アキシャルピストンポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、原動機により駆動される回転軸と、該回転軸と一体的に回転されるシリンダブロックと、シリンダブロック内に前記回転軸周りに等角度間隔で回転軸と平行に形成された複数個のシリンダ室と、各シリンダ室内に収容されているピストンと、前記回転軸に対して傾斜可能に支持され、各ピストンの端部シューが摺接する傾斜面を備えた斜板とを備え、前記原動機による正逆双方向に切換可能な回転軸の回転駆動に伴って、前記斜板の角度に応じたストロークで各ピストンが往復駆動することによって圧油を吸引し且つ回転方向によって選択的に特定される2つの吐出口のうちのいずれかから吐出するものであり、前記斜板を最大吐出量となる傾斜角度位置へ向けて傾転付勢するバネ部と、パイロット圧力としてのポンプ吐出圧力の一部の作用により操作されて前記バネ部の付勢力に抗して前記斜板を最小吐出量位置へ向けて押圧する操作ピストン部とを有し、前記パイロット圧力の増減に応じた操作ピストン部の機械的変位に伴う前記斜板の傾斜角度変位によって前記ピストンのストローク距離を変位させて前記シリンダブロックの単位回転当たりの吐出容量を変化させる容量可変機構を備えている双方向回転型アキシャルピストンポンプにおいて、前記斜板の傾転に伴って摺動する斜板の底部面を受け入れる軸受部を備え、該軸受部は、吐出しモード或いは吸込みモードにあるピストンの端部シューが摺接する傾斜面の半分領域に対応する第1斜板底部面領域に対面する第1の摺接面と、吸込みモード或いは吐出しモードにある他のピストンの端部シューが摺接する他方の半分領域に対応する第2斜板底部面領域に対面する第2の摺接面とを、前記回転軸の貫通部領域を挟む両側位置に有し、前記第1と第2の摺接面のそれぞれには、ポンプ吐出圧油の一部がハウジング内に形成された油路を介して導入されて各々対面する第1と第2の斜板底部面領域との間に潤滑油膜を形成する一対の凹状ポケット領域が設けられており、各ポケット領域は、摺接面中央部に形成された相対的に開口面積の小さい小ポケットと、該小ポケットの周囲に形成された相対的に開口面積が大きい大ポケットとの二重ポケット構成を有するものであり、前記回転軸の回転方向によって、前記第1斜板底部面領域に吐出しモードのピストンの背圧が掛かると共に前記第2斜板底部面領域に吸込みモードのピストンの背圧が掛かる回転駆動状態にて前記第1の摺接面の大ポケットと前記第2の摺接面の小ポケットのみに一方の吐出口からポンプ吐出圧油を導く第1潤滑油路と、前記第1斜板底部面領域に吸込みモードのピストンの背圧が掛かると共に前記第2斜板底部面領域に吐出しモードのピストンの背圧が掛かる回転駆動状態にて前記第1の摺接面の小ポケットと前記第2の摺接面の大ポケットのみに他方の吐出口からポンプ吐出圧油を導く第2潤滑油路とを有する油圧回路を備えているものである。
【0013】
即ち、本発明の双方向回転形アキシャルピストンポンプにおいては、斜板底部面との間でポンプ吐出圧力の一部の自己圧油を導入してなる潤滑膜を形成して所謂静圧軸受けを構成するための凹状ポケット領域を設ける軸受部の摺接面を、斜板の吐出しモード或いは吸込みモードにある約半数のピストンの端部シューが摺接する半分領域側の第1斜板底部面領域に対面する第1の摺接面と斜板の吸込みモード或いは吐出しモードにある他のピストンの端部シューが摺接する他方の半分領域側の第2斜板底部面領域に対面する第2の摺接面との二つを設定し、両摺接面に設けた一対の凹状ポケット領域をそれぞれ相対的に開口面積の小さい中央部の小ポケットとその周囲に形成した相対的に開口面積の大きい大ポケットとからなる二重ポケット構成とし、一方の小ポケットと他方の大ポケットを組み合わせて選択的にどちらかの組のみにいずれかのポンプ吐出口からその吐出圧力の一部を導入する二つの油路を有する油圧回路を設けたものであるため、吐出しモードのピストンの背圧によってより大きな重負荷が掛かる側の一方の摺接面の大ポケットと吸込みモードのピストンの背圧によってより小さい重負荷が掛かる側の他方の摺接面の小ポケットとにポンプ吐出圧力を導入することができる。
【0014】
従って、斜板からより大きな負荷が掛かる一方の摺接面では、その対面する側の一方の斜板底部面領域に対して大ポケットのより広い領域に亘る相対的に強い油圧で対抗すると共に、同時に斜板からの負荷が小さい他方の摺接面では、その対面する側の他方の斜板底部面領域に対して小ポケットのより小さい領域のみでの相対的に小さい油圧で対抗することになるため、吐出しモードにあるピストンから背圧を受ける斜板領域と吸込みモードにあるピストンから背圧を受ける斜板領域との間の背圧差に基づく軸受部へ掛かる負荷の差は、軸受部の二つの摺接面間の斜板底部面に対抗する油圧力の差で相殺され、前記背圧差が原因となっていた従来のガタツキ振動や騒音を抑えることができる。
【0015】
さらに、ポンプの回転駆動方向が逆転して斜板の吐出しモードにあるピストンの強い背圧を受ける側の領域と吸込みモードにあるピストンにより受ける背圧が小さい側の領域とが入れ替わっても、軸受部側の二つの摺接面においても、油圧回路における油路も切り換えられてそれぞれポンプ吐出圧油が導入されるポケットも大側と小側とで入れ替わって対応するため、正逆双方向のいずれの回転駆動状態でも、斜板に掛かる背圧差に基づく軸受部へ掛かる負荷の差は相殺され、軸受部において常に適切な荷重バランスを取ることが可能となる。
【0016】
また、前記油圧回路は、2つの吐出口のうちの一方からポンプ吐出圧油の一部が第1潤滑油路を介して軸受部へ導かれると同時に同じ吐出口からのポンプ吐出圧油の一部をパイロット圧油として可変容量機構へ導入する第1パイロット油路と、他方の吐出口からポンプ吐出圧油の一部が第2潤滑油路を介して軸受部へ導かれると同時に同じ吐出口からのポンプ吐出圧油の一部をパイロット圧油として可変容量機構へ導入する第2パイロット油路とを備えれば、ポンプの回転駆動が正逆双方向のいずれの場合でも、回転方向の選択的切換に伴ってポンプ吐出圧油の一部の軸受部への導入油路が切り換えられても常に可変容量機構へパイロット圧油が良好に導入される。
【0017】
また、容量可変機構は、斜板を大容量側に変位させるときは操作ピストン部を低圧側流路に接続してパイロット圧を低下させる第1の回路接続を形成すると共に斜板を小容量側に変位させるときはパイロット圧油としてポンプ吐出圧油を操作ピストン部に導く第2の回路接続を形成する切換弁を備えたものとするのが好ましい。
【0018】
即ち、この切換弁により第1の回路接続が形成された状態では、第1パイロット油路又は第2パイロット油路を介して一部の自己圧が導かれてなるパイロット圧力が操作ピストン部へ作用し、該ピストン部が斜板を押圧してその傾斜角度を小さくし、ポンプ吐出量が小容量側に切り換えられ、また、切換弁により第2の回路接続が形成された状態では、パイロット圧油の導入を止め、パイロット圧力が小さくなるに従って操作ピストン部への作用が軽減され、斜板の押圧が解除されつつ傾斜角度が大きくなり、ポンプ吐出量が大容量側に切り換えられる。
【0019】
このような切換弁によって、流量制御時には大容量側に切り換えて大流量とすることができると共に、圧力制御時には小容量側に切り換えてモータにかかる負荷トルクを小さく抑えることができるため、モータは小型のもので済み、装置構成が大型化することなく効率的な双方向回転型ポンプを実現できる。
【0020】
なお、上記のような可変容量形ポンプでは、斜板角制御をポンプの自己圧で行うものであるため、小容量側に切り換え、吐出圧力がポンプ最低調整圧力以下になると、操作ピストン部は斜板を押すためのパイロット圧を確保できずに斜板角を小さい状態に維持することが困難となり、斜板が勝手に動く無制御状態になる恐れがある。そこで、第1と第2のパイロット油路には、それぞれ、操作ピストン部からポンプ吐出口側への圧油の流出を阻止して操作ピストン部に作用しているパイロット圧力を封じ込める逆止弁をそれぞれ配置しておくことが望ましい。
【0021】
これら逆止弁により、容量可変機構において斜板傾転位置を小容量側に切り換えた際に、ポンプ吐出圧力が最低調整圧力以下となっても、封じ込められたパイロット圧力が操作ピストン部に作用し続けることができるため、低圧領域でも安定な制御状態が維持できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は以上説明した通り、斜板の傾転に伴って摺動する斜板の底部面を受け入れる軸受部に、吐出しモード或いは吸込みモードにあるピストンの端部シューが摺接する傾斜面の半分領域に対応する第1斜板底部面領域に対面する第1の摺接面と、吸込みモード或いは吐出しモードにある他のピストンの端部シューが摺接する他方の半分領域に対応する第2斜板底部面領域に対面する第2の摺接面とを、前記回転軸の貫通部領域を挟む両側位置に有し、第1と第2の摺接面のそれぞれにポンプ吐出圧力の一部がハウジング内に形成された油路を介して導入されて各々対面する第1と第2の斜板底部面領域との間に潤滑油膜を形成する一対の凹状ポケット領域として、摺接面中央部に形成された相対的に開口面積の小さい小ポケットと、該小ポケットの周囲に形成された相対的に開口面積が大きい大ポケットとの二重ポケット構成を備えたものであり、吐出しモードにあるピストンからの背圧が掛かる斜板領域からより大きな負荷が掛かる軸受部の一方の摺接面で、その対面する側の一方の斜板底部面領域に対して大ポケットのより広い領域に亘る相対的に強い油圧で対抗すると共に、同時に吸込みモードにあるピストンからの背圧が掛かる斜板領域からの負荷が小さい他方の摺接面で、その対面する側の他方の斜板底部面領域に対して小ポケットのより小さい領域のみでの相対的に小さい油圧で対抗することによって、吐出しモードにあるピストンから背圧を受ける斜板領域と吸込みモードにあるピストンから背圧を受ける斜板領域との間の背圧差に基づく軸受部へ掛かる負荷の差を、軸受部の二つの摺接面間の斜板底部面に対抗する油圧力の差で相殺し、前記背圧差が原因となっていた従来のガタツキ振動や騒音を抑えることができるという効果がある。
【0023】
さらに、ポンプの回転駆動方向が逆転して斜板の吐出しモードにあるピストンの強い背圧を受ける側の領域と吸込みモードにあるピストンにより受ける背圧が小さい側の領域とが入れ替わっても、軸受部側の二つの摺接面においても、油圧回路における油路も切り換えられてそれぞれポンプ吐出圧油が導入されるポケットも大側と小側とで入れ替わって対応するため、正逆双方向のいずれの回転駆動状態でも、斜板に掛かる背圧差に基づく軸受部へ掛かる負荷の差は相殺され、軸受部において常に適切な荷重バランスを取ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態による双方向回転型アキシャルピストンポンプの概略構成図であり、(a)は本ポンプの側断面図、(b)は本ポンプの正面図である。
【図2】図1のポンプにおいて、上部に示すシリンダブロックの吐出しポート領域と吸込みポート領域に対応した軸受部の各摺接面のポケット構成を示す模式図と各ポケットへポンプ吐出圧力の一部を導く油路を含む油圧回路図であり、(a)と(b)とで互いに回転方向が正逆となっているポンプ駆動状態を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施の形態による双方向回転形アキシャルピストンポンプを図1および図2に示す。図1は、本ポンプの概略構成図であり、(a)は本側断面図、(b)は正面図である。この正面図では、シリンダブロックのシリンダ室の配置を透過部分として点線で示した。図2は、軸受部の各摺接面のポケット構成を示す模式図と各ポケットへポンプ吐出圧力の一部を導く油路を含む油圧回路図であり、(a)と(b)とで互いに回転方向が正逆となっているポンプ駆動状態を示している。なお、それぞれ軸受部の上部に、その回転駆動状態におけるシリンダブロックの吐出しポート領域と吸込みポート領域を示す模式図を並べた。
【0026】
本実施の形態における双方向回転型アキシャルピストンポンプは、原動機(不図示)により駆動される回転軸1と、ハウジング30内で該回転軸1と一体的に回転されるシリンダブロック2と、シリンダブロック2内に回転軸1周りに等角度間隔で回転軸1と平行に形成された複数個のシリンダ室3と、各シリンダ室3内に収容されているピストン4と、回転軸1に対して傾斜可能に支持され、各ピストンの端部シュー5が摺接する傾斜面を備えた斜板6とを備えたものである。
【0027】
従って、前記原動機による正逆双方向に切換可能な回転軸1の回転駆動に伴って、斜板1の角度に応じたストロークで各ピストン4がシリンダ室3内を往復駆動することによって圧油を吸引し且つ回転方向によって選択的に特定される2つの吐出口のうちのいずれかから吐出するポンプ作用が得られる。
【0028】
また本実施形態によるアキシャルピストンポンプは、シリンダブロック2の単位回転当たりの吐出用量を変化させる容量可変機構が設けられている。即ち、斜板6は、バネ部8により最大吐出量となる傾斜角度位置へ向けて傾転付勢されており、このバネ部8による付勢力に抗して、斜板6を最小吐出量となる位置へ向けて押圧する操作ピストン部9を備えたものである。この操作ピストン部9は、ポンプ吐出圧力の一部からなるパイロット圧力の作用により操作されるものであり、該パイロット圧力の増減に応じた機械的変位によって斜板6の傾斜角度を変位させ、これに伴ってシリンダブロック2内でのピストン4のストローク距離が変位してポンプ吐出容量が変化する。
【0029】
さらに、本実施形態における可変容量機構では、斜板6を大容量側に変位させるときは操作ピストン部9を低圧側流路に接続してパイロット圧力を低下させる第1の回路接続を形成すると共に斜板6を小容量側に変位させるときはパイロット圧力としてポンプ吐出圧力を操作ピストン部9に導く第2の回路接続を形成する電磁切換弁10を備えた。
【0030】
このアキシャルピストンポンプは、2つの吐出口にそれぞれ連通する第1吐出側油路11xのポートXと第2吐出側油路11yのポートYとが、アクチュエータ駆動用の油圧シリンダ等(不図示)に直列的に接続できる。本ポンプは、正逆双方向に圧油を供給でき、その正逆回転方向によって圧油の吐出方向が選択される。
【0031】
第1と第2の吐出油路(11x,11y)からそれぞれ分岐した第1のパイロット油路12xおよび第2のパイロット油路12yと、これらパイロット油路によって各吐出口から作動油の一部がパイロット圧力として導かれる電磁切換弁10を介して可変容量機構の操作ピストン部9に接続されている。
【0032】
電磁切換弁10が第2の回路接続としてポートPA接続(ポートBプラグ)を形成した状態にて、第1吐出側油路11x又は第2吐出側油路11yから一部の自己圧が第1のパイロット油路12xまたは第2のパイロット油路12yを介して導かれてなるパイロット圧力が操作ピストン部9へ作用し、該操作ピストン部9の操作ピストンが変位して斜板6を押圧してその傾斜角度を小さくすることによりポンプ吐出量が小容量側に切り換えられる。
【0033】
また、電磁切換弁10が第1の回路接続としてポートBT接続(ポートAプラグ)を形成した状態にて、パイロット圧油の導入を止めることによってパイロット圧力が小さくなり、これに従って操作ピストン部9への作用が軽減され、斜板6に対する操作ピストンによる押圧が解除されつつ傾斜角度が大きくなり、ポンプ吐出量が大容量側に切り換えられる。
【0034】
なお、大容量側の第2の回路接続を形成しているときに操作ピストン部9側から第1吐出側油路11xまたは第2吐出側油路11yへの圧油の流出を阻止して操作パイロット部9に作用しているパイロット圧力を封じ込めるために、第1のパイロット油路12x中および第2のパイロット油路12y中のそれぞれに逆止弁(Cx,Cy)を配置した。
【0035】
従って、容量可変機構においてポンプ吐出量を小容量側に切り換えた際に、ポンプ吐出し圧力が最低調整圧力以下となっても、これら逆止弁(Cx,Cy)によって封じ込められたパイロット圧力が操作ピストン部9に作用し続けることができるので、低圧領域でも安定な制御状態が維持できる。
【0036】
また、斜板6の半円柱形状の底部7を有しており、この底部曲面と同じ曲率の摺接面で斜板傾転に伴って摺動する該底部を受け入れて斜板6を支承する軸受部20がハウジング30内に固定されている。従って、この軸受部20により斜板6は回転軸1を中心に傾転可能に軸受されている。
【0037】
この軸受部20は、摺接面上にハウジング30内に形成された油路31を介してポンプ吐出圧油が導かれて斜板底部面との間で潤滑膜が形成される静圧軸受構造となっている。この軸受け部20の摺接面は、回転軸貫通孔21を含む中央溝部22を挟んだ両側に位置する第1と第2の摺接面(23,25)の二つからなる。
【0038】
各ピストン4は、シリンダブロック2の回転に伴って端部シュー5が摺接する斜板6の傾斜面上の約半分領域で作動油をシリンダ室3内に吸込み、別の半分領域で吸込んだ作動油を吐出する。またシリンダブロック2の回転方向が逆になればこの傾斜面上の二分領域でのピストン4による吐出しモードと吸い込みモードは入れ代わる。よって、一方の領域に基づくポートXと他方の領域に基づくポートYは、回転方向の切換によって互いに吐出しポートと吸込みポートとしての機能も入れ代わる。
【0039】
また、斜板6の傾斜面は、吐出しモードにあるピストン4の端部シュー5が摺接する半分領域においてそのピストン4から受ける背圧が、吸込みモードにある他のピストン4の端部シュー5が摺接する他方の半分領域においてそのピストン4から受ける背圧より大きい。
【0040】
そこで、斜板6の底部面も、前記傾斜面のうち一方の半分領域(ポートX側)に対応する領域を第1斜板底部面領域とし、他方の半分領域(ポートY側)に対応する領域を第2斜板底部面領域と設定し、軸受部20の側で第1斜板底部面領域の摺動を受け入れる方を第1の摺接面23とし、第2斜板底部面領域の摺動を受け入れる方を第2の摺接面25となるように構成した。
【0041】
第1の摺接面23と第2の摺接面25のそれぞれには、ポンプ吐出圧力の一部がハウジング30内に形成された油路31を介して導入されて各々対面する第1と第2の斜板底部面領域との間に潤滑油膜を形成する一対の凹状ポケット領域(24,26)が設けられている。各ポケット領域(24,26)は、摺接面中央部に形成された相対的に開口面積の小さい小ポケット(24S,26S)と、該小ポケットの周囲に形成された相対的に開口面積が大きい大ポケット(24L,26L)との二重ポケット構成となっている。
【0042】
そして、本ポンプの油圧回路においては、第1吐出側油路11xから分岐し、ポンプ吐出圧油を第1の摺接面23の大ポケット24Lと第2の摺接面25の小ポケット26Sとに同時に導く第1潤滑油路13xと、第2吐出側油路11yから分岐し、ポンプ吐出圧油を第1の摺接面23の小ポケット24Sと第2の摺接面25の大ポケット26Lとに同時に導く第2潤滑油路13yとを備えた。
【0043】
以上の構成において、回転軸1の回転方向によって図2(a)に示すような第1吐出側流路11xからポートXへ作動油が吐出される作動工程では、ポートX側の斜板上でピストン4が吐出しモードとなると共にポートY側の斜板上でピストン4が吸込みモードとなる回転駆動状態となり、第1吐出側油路11xから分岐する第1潤滑油路13xを介して第1の摺接面23の大ポケット24Lと第2の摺接面25の小ポケット26Sへポンプ吐出圧油の一部が導入される。
【0044】
従って、この作動工程では、ポートX側の斜板半分領域に掛かる吐出しモードのピストン4による大きい背圧が第1斜板底部面領域を介して第1の摺接面23に大きい負荷を生じ、ポートY側の斜板半分領域に掛かる吸込みモードのピストン4による小さい背圧が第2斜板底部面領域を介して第2の摺接面25に小さい負荷を生じるが、第1の摺接面23に掛かる大きい負荷に対して、大ポケット24Lに送られた油圧が相対的に大きい面積に亘って対抗すると同時に、第2の摺接面25に掛かる小さい負荷に対しては小ポケット26Sに送られた油圧が相対的に小さい面積で対抗することにより、斜板側からの背圧の領域差は第1と第2の摺接面間のポケット油圧の差で相殺される。
【0045】
さらにこのような相殺効果は、以上をポンプ正回転方向として、逆回転方向とした作動工程でも同様に発揮される。即ち、図2(b)に示すような第21吐出側流路11yからポートYへ作動油が吐出される工程では、ポートX側の斜板上でピストン4が吸込みしモードとなると共にポートY側の斜板上でピストン4が吐出しモードとなる回転駆動状態であり、第2吐出側油路11yから分岐する第2潤滑油路13yを介して第1の摺接面23の小ポケット24Sと第2の摺接面25の大ポケット26Lへポンプ吐出圧油の一部が導入される。
【0046】
従って、この作動工程では、ポートY側の斜板半分領域に掛かる吐出しモードのピストン4による大きい背圧が第2斜板底部面領域を介して第2の摺接面25に大きい負荷を生じ、ポートX側の斜板半分領域に掛かる吸込みモードのピストン4による小さい背圧が第1斜板底部面領域を介して第1の摺接面23に小さい負荷を生じるが、第2の摺接面25に掛かる大きい負荷に対して、大ポケット26Lに送られた油圧が相対的に大きい面積に亘って対抗すると同時に、第1の摺接面23に掛かる小さい負荷に対しては小ポケット24Sに送られた油圧が相対的に小さい面積で対抗することにより、斜板側からの背圧の領域差は第1と第2の摺接面間のポケット油圧の差で相殺される。
【0047】
以上のように、本実施形態による双方向回転型アキシャルピストンポンプにおいては、ポンプの回転駆動が正逆いずれの方向であっても、吐出しポート側と吸込みポート側とのピストン背圧の差は軸受部20側で第1と第2の摺接面間で相殺されるため、常にバランスのとれた適切な斜板軸受状態が維持され、回転駆動中に前記背圧差に基づく軸受部20でのガタツキ振動、騒音が生じる恐れがなくなる。
【符号の説明】
【0048】
1:回転軸
2:シリンダブロック
3:シリンダ室
4:ピストン
5:端部シュー
6:斜板
7:半円柱形状底部
8:バネ部
9:操作ピストン部
10:電磁切換弁
11x:第1吐出側油路
11y:第2吐出側油路
12x:第1パイロット油路
12y:第2パイロット油路
13x:第1潤滑油路
13y:第2潤滑油路
20:軸受部
21:貫通孔
22:中央溝部
23:第1の摺接面
25:第2の摺接面
24,26:凹状ポケット領域
24L,26L:大ポケット
24S,26S:小ポケット
30:ハウジング
31:ハウジング内油路
Cx,Cy:逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機により駆動される回転軸と、該回転軸と一体的に回転されるシリンダブロックと、シリンダブロック内に前記回転軸周りに等角度間隔で回転軸と平行に形成された複数個のシリンダ室と、各シリンダ室内に収容されているピストンと、前記回転軸に対して傾斜可能に支持され、各ピストンの端部シューが摺接する傾斜面を備えた斜板とを備え、前記原動機による正逆双方向に切換可能な回転軸の回転駆動に伴って、前記斜板の角度に応じたストロークで各ピストンが往復駆動することによって圧油を吸引し且つ回転方向によって選択的に特定される2つの吐出口のうちのいずれかから吐出するものであり、
前記斜板を最大吐出量となる傾斜角度位置へ向けて傾転付勢するバネ部と、パイロット圧力としてのポンプ吐出圧力の一部の作用により操作されて前記バネ部の付勢力に抗して前記斜板を最小吐出量位置へ向けて押圧する操作ピストン部とを有し、前記パイロット圧力の増減に応じた操作ピストン部の機械的変位に伴う前記斜板の傾斜角度変位によって前記ピストンのストローク距離を変位させて前記シリンダブロックの単位回転当たりの吐出容量を変化させる容量可変機構を備えている双方向回転型アキシャルピストンポンプにおいて、
前記斜板の傾転に伴って摺動する斜板の底部面を受け入れる軸受部を備え、
該軸受部は、吐出しモード或いは吸込みモードにあるピストンの端部シューが摺接する傾斜面の半分領域に対応する第1斜板底部面領域に対面する第1の摺接面と、吸込みモード或いは吐出しモードにある他のピストンの端部シューが摺接する他方の半分領域に対応する第2斜板底部面領域に対面する第2の摺接面とを、前記回転軸の貫通部領域を挟む両側位置に有し、
前記第1と第2の摺接面のそれぞれには、ポンプ吐出圧油の一部がハウジング内に形成された油路を介して導入されて各々対面する第1と第2の斜板底部面領域との間に潤滑油膜を形成する一対の凹状ポケット領域が設けられており、各ポケット領域は、摺接面中央部に形成された相対的に開口面積の小さい小ポケットと、該小ポケットの周囲に形成された相対的に開口面積が大きい大ポケットとの二重ポケット構成を有するものであり、
前記回転軸の回転方向によって、前記第1斜板底部面領域に吐出しモードのピストンの背圧が掛かると共に前記第2斜板底部面領域に吸込みモードのピストンの背圧が掛かる回転駆動状態にて前記第1の摺接面の大ポケットと前記第2の摺接面の小ポケットのみに一方の吐出口からポンプ吐出圧油を導く第1潤滑油路と、前記第1斜板底部面領域に吸込みモードのピストンの背圧が掛かると共に前記第2斜板底部面領域に吐出しモードのピストンの背圧が掛かる回転駆動状態にて前記第1の摺接面の小ポケットと前記第2の摺接面の大ポケットのみに他方の吐出口からポンプ吐出圧油を導く第2潤滑油路とを有する油圧回路を備えていることを特徴とする双方向回転型アキシャルピストンポンプ。
【請求項2】
前記油圧回路は、前記2つの吐出口のうちの一方からポンプ吐出圧油の一部が前記第1油路を介して軸受部へ導かれると同時に同じ吐出口からのポンプ吐出圧油の一部をパイロット圧油として前記可変容量機構へ導入する第1パイロット油路と、他方の吐出口からポンプ吐出圧油の一部が前記第2油路を介して軸受け部へ導かれると同時に同じ吐出口からのポンプ吐出圧油の一部をパイロット圧油として前記可変容量機構へ導入する第2パイロット油路とを備えていることを特徴とする請求項1に記載の双方向回転型アキシャルピストンポンプ。
【請求項3】
前記容量可変機構は、前記斜板を大容量側に変位させるときは前記操作ピストン部を低圧側流路に接続してパイロット圧力を低下させる第1の回路接続を形成すると共に前記斜板を小容量側に変位させるときはパイロット圧油としてポンプ吐出圧油を前記操作ピストン部に導く第2の回路接続を形成する切換弁を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の双方向回転型アキシャルピストンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−251459(P2012−251459A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123299(P2011−123299)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000246251)油研工業株式会社 (28)
【Fターム(参考)】