反射スクリーンの製造方法
【課題】反射スクリーンの面内において適正な反射膜の膜厚を確保する反射スクリーンの製造方法を提供する。
【解決手段】スクリーン基板10の垂直方向および水平方向に、複数の凹部を形成する凹部形成工程と、凹部の一部にスクリーン基板10の観察面の法線に対して垂直方向にずれた位置から、反射膜材料を蒸着源としてのフィラメント40から斜めに蒸着して投影光を反射する反射膜を形成する反射膜形成工程と、を有し、反射膜形成工程は、観察面の表面がフィラメント40に対して内側に向き、水平方向に曲面となるように配置したスクリーン基板10とフィラメント40との間に、フィラメント40から蒸発する粒子の一部を遮る補正板36を配置し、補正板36が垂直方向の軸を回転軸として回転するように構成し、スクリーン基板10に反射膜材料を蒸着して反射膜を形成する工程である。
【解決手段】スクリーン基板10の垂直方向および水平方向に、複数の凹部を形成する凹部形成工程と、凹部の一部にスクリーン基板10の観察面の法線に対して垂直方向にずれた位置から、反射膜材料を蒸着源としてのフィラメント40から斜めに蒸着して投影光を反射する反射膜を形成する反射膜形成工程と、を有し、反射膜形成工程は、観察面の表面がフィラメント40に対して内側に向き、水平方向に曲面となるように配置したスクリーン基板10とフィラメント40との間に、フィラメント40から蒸発する粒子の一部を遮る補正板36を配置し、補正板36が垂直方向の軸を回転軸として回転するように構成し、スクリーン基板10に反射膜材料を蒸着して反射膜を形成する工程である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投影光を入射させて用いる反射スクリーンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクターなどから射出される投影光を受け、その投影光を反射させて拡大画像を映し出す反射スクリーンが知られている。
例えば、近接型プロジェクター用の反射スクリーンの光の反射は、スクリーン基板の観察面に形成した複数の凹部からなる単位形状部に反射面を設けることで行われている。
特許文献1には、近接型プロジェクター用の反射スクリーンにおいて、スクリーン基板の凹部の投影光が入射される部分に、斜方から反射膜材料を蒸着して反射膜を成膜し、容易に反射面を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−15196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示すような、斜方から反射膜材料を蒸着して凹部に反射膜を形成する方法(斜方蒸着法)において、大きな面積を有する反射スクリーンでは、面内の膜厚のばらつきが大きくなるという課題がある。
例えば反射膜の膜厚が薄い部分では反射率が充分に得られず、また、膜厚が厚い部分では反射膜が剥離しやすいという問題が生ずる。
このため、反射スクリーンの全域において適正な反射膜の膜厚を確保する反射スクリーンの製造方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例にかかる反射スクリーンの製造方法は、スクリーン基板の観察面の法線に対して垂直方向にずれた位置に配置されたプロジェクターから、前記観察面に向けて斜めに射出された投影光を、観察側に反射する反射スクリーンの製造方法であって、前記スクリーン基板の垂直方向および水平方向に、複数の凹部を形成する凹部形成工程と、前記凹部の一部に前記スクリーン基板の前記観察面の前記法線に対して垂直方向にずれた位置から、反射膜材料を蒸着源から斜めに蒸着して投影光を反射する反射膜を形成する反射膜形成工程と、を有し、前記反射膜形成工程は、前記観察面の表面が前記蒸着源に対して内側に向き、水平方向に曲面となるように配置した前記スクリーン基板と前記蒸着源との間に、前記蒸着源から蒸発する反射膜材料の粒子の一部を遮る補正板を配置し、前記スクリーン基板と前記補正板とが垂直方向の軸を回転軸として相対的に回転するように構成し、前記スクリーン基板に反射膜材料を蒸着して前記反射膜を形成する工程であることを特徴とする。
【0007】
この反射スクリーンの製造方法によれば、スクリーン基板に複数の凹部を形成する凹部形成工程と、スクリーン基板の凹部の一部に反射膜材料を蒸着源から斜めに蒸着して投影光を反射する反射膜を形成する反射膜形成工程と、を有している。
反射膜形成工程では、観察面が曲面となるように配置したスクリーン基板と蒸着源との間に蒸着源から蒸発する反射膜材料の粒子の一部を遮る補正板を設け、スクリーン基板と補正板とが垂直方向の軸を回転軸として相対的に回転するように構成して反射膜の成膜を行う。
このように、補正板またはスクリーン基板が回転することで、蒸着源とスクリーン基板との間で、補正板が蒸着源から蒸発する粒子の一部を遮ってスクリーン基板の各部に到達する反射膜材料の粒子量を平均化し、スクリーン基板の面内における反射膜の膜厚ばらつきを減少できる。
このことから、スクリーン基板の面内において適正な反射膜の膜厚を確保し、反射率が良好で反射膜剥離のない反射スクリーンを得ることができる。
【0008】
[適用例2]上記適用例にかかる反射スクリーンの製造方法において、前記反射膜形成工程は、前記蒸着源の上方側から見て前記スクリーン基板を円周上に配置し、その円の中心に配置した前記蒸着源から反射膜材料を斜めに蒸着して前記反射膜を形成することが望ましい。
【0009】
この反射スクリーンの製造方法によれば、蒸着源を中心とし、その円周上にスクリーン基板を配置して反射膜材料を蒸着している。
このようにすることで、スクリーン基板の水平方向において蒸着源から等距離となる。このため、反射膜の膜厚ばらつきはスクリーン基板の垂直方向について補正を行えばよく、膜厚の補正が容易となる。
【0010】
[適用例3]上記適用例にかかる反射スクリーンの製造方法において、前記反射膜形成工程は、前記蒸着源の上方側から見て、前記スクリーン基板を円周上に配置し、その円の中心から前記スクリーン基板に近づく方向に外れた位置に配置した前記蒸着源から反射膜材料を斜めに蒸着して前記反射膜を形成することが望ましい。
【0011】
この反射スクリーンの製造方法によれば、円周上に配置したスクリーン基板の中心から外れて蒸着源を配置して、反射膜材料を蒸着している。
このようにすることで、反射膜材料をスクリーン基板の面内において入射させる角度を変えることができることから、反射膜の形状、大きさなどを任意に設定することができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例にかかる反射スクリーンの製造方法において、前記反射膜形成工程は、複数の前記蒸着源を用いて前記反射膜を蒸着することが望ましい。
【0013】
この反射スクリーンの製造方法によれば、複数の蒸着源を用いて反射膜の蒸着ができ、大きな面積のスクリーン基板に短時間で所定の膜厚の反射膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態に係る反射スクリーンの構成を示す概略平面図。
【図2】第1の実施形態に係る反射スクリーンの構成を示す概略断面図。
【図3】第1の実施形態に係る反射スクリーンの製造工程を説明する概略平面図。
【図4】第1の実施形態に係る反射スクリーンの製造工程を説明する概略断面図。
【図5】第1の実施形態に係る反射スクリーンの製造工程を説明する概略断面図。
【図6】第1の実施形態に係る反射スクリーンの製造に用いられる蒸着装置の構成を示す概略正面図。
【図7】第1の実施形態に係る蒸着装置における蒸着源と補正板とスクリーン基板との配置関係を示す模式断面図。
【図8】第1の実施形態に係る蒸着装置における補正板の形状を説明する概略斜視図。
【図9】他の蒸着装置における蒸着源と補正板とスクリーン基板との配置関係を示す模式断面図。
【図10】他の蒸着装置の構成を示す概略正面図。
【図11】他の蒸着装置における蒸着源と補正板とスクリーン基板との配置関係を示す模式断面図。
【図12】他の蒸着装置における補正板の形状を説明する概略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の寸法の割合を適宜変更している。また、これらの説明においては直交座標系を設定して各部材の位置関係について説明する。鉛直面内における所定方向をX軸方向、鉛直面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれに直交する方向をZ軸方向とする。
【0016】
<反射スクリーン>
図1は本実施形態に係る反射スクリーンの構成を示す概略平面図である。図2は実施形態に係る反射スクリーンの構成を示す概略断面図である。
図1、図2に示すように、反射スクリーン100は、反射スクリーン100の観察面100aの中心点を通る法線NLに対して垂直方向(Y軸方向)にずれた位置に配置された光源PVから、観察面100aに向けて斜めに投射された投影光Lpを、反射スクリーン100の観察側(Z軸正方向側)に反射光Lrとして反射するものである。そして、反射スクリーン100は、法線NLがZ軸と平行に配置されている。
スクリーン基板10の基材は、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタート(PET)、エポキシなどの樹脂を用いて形成され可撓性を有している。そして、スクリーン基板10は樹脂に黒色顔料を混ぜたものが用いられ、全体が黒色で可視光を吸収可能に形成されている。なお、このスクリーン基板10は、染色等によって全体が黒色の光吸収材によって着色されてもよく、透明基材の片面もしくは両面に黒色の塗装、コーティングしたものであってもよい。
【0017】
反射スクリーン100はスクリーン基板10の観察面100a側に単位形状部としての凹部11が複数備えられている。そして、この凹部11は、断面が半球状でありそれぞれが互いに接して配置されている。
凹部11の一部には投影光を反射する反射膜12が形成され、その他の部分に外光Loを吸収する外光吸収部13が形成されている。
反射膜12は効率よく投影光を反射させるために、アルミニウム(Al)等の反射性を有する材料により反射膜12が形成されている。この反射膜12は蒸着法により膜厚が10nm〜5μmとなるように成膜されている。
【0018】
ここで、凹部11の投影光Lpが照射される部分に合わせて、部分的に反射膜12が形成されている。また、凹部11の内壁面の投影光Lpが照射される部分に沿って、観察側(Z軸正方向側)から見て凹状の反射膜12が光源PVを中心に、観察面100aに放射状に形成されている。
これにより、反射スクリーン100の垂直方向上方(Y軸方向正方向)側および水平方向の両端側に、垂直方向および水平方向に角度を有して観察面100aに入射する投影光Lpを、反射膜12によって観察側のより法線NLに近い方向に効率よく反射させ、投影光Lpの反射率を向上させることができる。
【0019】
外光吸収部13は、スクリーン基板10の基材が露出し、この基材が黒色の光吸収材によって着色されていることから光を吸収できるように構成されている。
なお、凹部11の半球の直径としては例えば20μm〜200μm程度に形成されている。
さらに、反射膜12の上にSiO2などを蒸着して反射防止膜として機能する膜を付加しても良い。
【0020】
また、スクリーン基板10の観察面100a上には、凹部11を充填するように保護層が形成されても良い。保護層は、例えば、樹脂などの可撓性を有する材料で形成することができる。そして、保護層の上でスクリーン基板10の観察面100a側の最表面には、反射防止膜が形成されても良い。反射防止膜は、保護層と同様な材料で形成され、保護層の表面での投影光または外光などの反射を防止するように保護層との間で屈折率が調整されていることが好ましい。
【0021】
<反射スクリーンの製造方法>
次に、上記で説明した反射スクリーン100の製造工程について説明する。
図3は本実施形態に係る反射スクリーンの凹部形成工程を説明する概略平面図であり、図4は図3の概略断面図である。図5は反射膜形成工程を説明する概略断面図である。
まず、図3,図4に示すように、スクリーン基板10の観察面100aの垂直方向(Y軸方向)および水平方向(X軸方向)に、複数の凹部11を形成する(凹部形成工程)。
【0022】
凹部11の形成方法は、例えば、ガラス基板上に形成したエッチングマスク膜に、レーザー加工により多数の凹部11の形成位置に対応する穴を形成し、この穴を通してウエットエッチングを行うことで、略半球状の凹部形状を形成する。そして、このガラス基板に形成した凹部形状をスクリーン基板に熱や圧力を加えて転写することで凹部11が得られる。また他の方法として、ガラス基板に形成した凹部形状をもとに電鋳型を製作し、電鋳型からスクリーン基板に凹部形状を転写する方法を用いても良い。
なお、凹部11の直径および水平方向の中心間の間隔は、例えば、約100μm程度に形成される。また、スクリーン基板10の基材は樹脂に黒色の顔料が混ぜたものが用いられている。
【0023】
次に、図5に示すように、スクリーン基板10の観察側(Z軸正方向側)で、スクリーン基板10の観察面100aの法線NLに対して垂直方向下方側(Y軸負方向側)にずれた位置に蒸着源Sを配置する。そして、蒸着法により反射膜材料を観察面100aに対して斜めに蒸着させ、凹部11の内壁面に反射膜12を形成する(反射膜形成工程)。反射膜材料としては、例えば、アルミニウム等の反射性に優れた金属材料を用いることができる。
【0024】
蒸着法により反射膜12を形成する際には、観察面100aに対して斜めに投影光Lpを射出するプロジェクターの光源PVの位置を予め想定しておく。そして、観察面100aの各凹部11に対する反射膜材料の蒸着の角度が、観察面100aの各凹部11に対する光源PVからの投影光Lpの入射角度と等しいか、それよりも小さくなるように蒸着源Sを配置して各凹部11に反射膜材料を蒸着させる。
これにより、凹部11の内壁面の投影光Lpが照射される部分に沿って、観察側(Z軸正方向側)から見て凹状の反射膜12が、蒸着源Sを中心に放射状に形成される。
【0025】
<蒸着装置>
ここで、スクリーン基板に反射膜を形成する蒸着装置の構成について詳しく説明する。
図6は本実施形態に係る反射スクリーンの製造に用いられる蒸着装置の構成を示す概略正面図である。図7は図6のA−A断線方向から見た蒸着源と補正板とスクリーン基板の配置関係を示す模式断面図である。図8は本実施形態に係る蒸着装置における補正板の形状を説明する概略斜視図である。
【0026】
蒸着装置30には減圧容器31が備えられ、その内部にスクリーン基板取り付け板33と、補正板36と、蒸着源であるフィラメント40とが設けられている。
減圧容器31は内部が所望の減圧状態となるようにロータリーポンプ、拡散ポンプ、クライオポンプなどを用いた排気システム(図示せず)が接続されている。
減圧容器31の内部の上方にはスクリーン基板取り付け板33が支柱32を介して減圧容器31に固定されている。このスクリーン基板取り付け板33は、図7に示すように上下が開放された円筒状に形成され、その内側にスクリーン基板10が円周に沿って取り付け可能に構成されている。このように、スクリーン基板10は蒸着源に対して内側を向き、水平方向に曲面となるように配置される。
【0027】
減圧容器31の内部の下方には抵抗加熱用の蒸着源であるフィラメント40が設けられている。フィラメント40は、基台41と絶縁されて固定された電極42に両端が固定されている。フィラメントはタングステンなどの材料で形成されたバスケット型フィラメントであり、そのバスケット部に蒸着材料であるアルミニウムの線材などが供給される。
なお、抵抗加熱用の蒸着源としては他にヘリカルコイル型フィラメントが使用でき、さらにモリブデンなどで形成された箱型ボートを用いても良い。また、蒸着源としてEBガンを用いた蒸着源としても良い。
【0028】
そして、スクリーン基板取り付け板33とフィラメント40との間の位置には、スクリーン基板10における反射膜の膜厚分布を適正化する補正板36が設けられている。
補正板36は、図8に示すように、板材を円筒形に形成し、その一部をV字状に切り欠いた切り欠き部38を有する形状である。そして、補正板36は吊り下げアーム34に固定され、吊り下げアーム34は接続板39を介して回転軸35に接続されている。
【0029】
回転軸35は減圧容器31の内部から外部に引き出され、モーターなどの電動機に接続されている。回転軸35は減圧容器31の内部で、垂直方向の軸を回転軸として回転できるように構成されている。また、この回転軸35と減圧容器31との間には、ウィルソンシール、磁気カップリングシールなどを用いたシール部37が設けられ減圧容器31のリークを防いでいる。
【0030】
蒸着装置30の上方側より見たスクリーン基板取り付け板33と、補正板36と、フィラメント40の配置は、図7に示すように、蒸着源であるフィラメント40を中心として補正板36が設けられ、補正板36の外側に同心円状にスクリーン基板取り付け板33が配置されている。
【0031】
このように、フィラメント40から蒸発した蒸着粒子は回転する補正板36によりその一部が遮られ、その他の蒸着粒子はスクリーン基板取り付け板33の内側に配置されたスクリーン基板10に斜め方向から入射して蒸着が行われる。
補正板36はフィラメント40に近いほど蒸着粒子を多く遮り、フィラメント40に遠いほど蒸着粒子を少なく遮るように形成され、少なくとも一つの略三角形の形状であれば良い。
【0032】
以上のように、反射スクリーン100の反射膜形成工程では、観察面が曲面となるように配置したスクリーン基板10とフィラメント40との間にフィラメント40から蒸発する粒子の一部を遮る補正板36を設け、補正板36が垂直方向の軸を回転軸として相対的に回転するように構成して反射膜12の成膜を行う。
このように、補正板36が回転することで、フィラメント40とスクリーン基板10との間で、補正板36がフィラメント40から蒸発する粒子の一部を遮ってスクリーン基板10の各部に到達する反射膜材料の粒子量を平均化し、スクリーン基板10の面内における反射膜12の膜厚ばらつきを減少できる。
このことから、スクリーン基板10の面内において適正な反射膜12の膜厚を確保し、反射率が良好で反射膜剥離のない反射スクリーン100を得ることができる。
【0033】
また、本実施形態の反射スクリーンの製造方法によれば、フィラメント40を中心とし、その円周上にスクリーン基板10を配置して反射膜材料を蒸着している。
このようにすることで、スクリーン基板10の水平方向においてフィラメント40から等距離となる。このため、反射膜12の膜厚ばらつきはスクリーン基板10の垂直方向について補正を行えばよく、膜厚の補正が容易となる。
【0034】
さらに、本実施形態の反射スクリーンの製造方法では、反射膜を形成するスクリーン基板10を水平方向に曲面となるように配置している。このため、蒸着装置30の減圧容器31を小さくでき、その容量を小さくすることができる。そして、減圧容器31内を減圧する排気システムも小容量に対応すればよく、蒸着装置30のコストを削減でき、ひいては反射スクリーン100の製造コストを低減することができる。
【0035】
また、上記で説明した蒸着装置の他に、以下に説明する蒸着装置の構成であっても良い。
<複数の蒸着源を備える蒸着装置>
例えば、図6で説明した蒸着装置に複数の蒸着源を備えていても良い。
図9は複数の蒸着源を備えた他の蒸着装置における構成および蒸着源と補正板とスクリーン基板との配置関係を示す模式断面図であり、図7に相当する。このため、上記の実施形態で説明した蒸着装置と同じ構成については同じ符号を付し、蒸着源付近についてのみ説明する。
図9に示すように、本蒸着装置には蒸着源としてのフィラメント40a,40bを備えている。これらのフィラメント40a,40bは、円周上に配置したスクリーン基板取り付け板33の中心から外れて配置されている。そして、2つのフィラメント40a,40bの間には蒸着粒子の飛散を遮蔽する遮蔽板45が設けられている。
【0036】
このような蒸着装置を用いることで、複数のフィラメント40から反射膜材料を蒸発させて反射膜12の蒸着ができ、大きな面積のスクリーン基板10に短時間で所定の膜厚の反射膜12を形成することが可能である。
また、円周上に配置したスクリーン基板10の中心から外れてフィラメント40を配置して、反射膜材料を蒸着することで、反射膜材料をスクリーン基板10の面内において入射させる角度を変えることができることから、反射膜12の形状、大きさなどを任意に設定することが可能である。
なお、フィラメント40の配置は遮蔽板45を設けずに並列に並べることや、円弧状に並べるなど適宜行うことができる。
【0037】
<他の蒸着装置>
次に反射スクリーンの製造に使用できる他の蒸着装置の構成について説明する。
図10は反射スクリーンの製造に用いられる蒸着装置の構成を示す概略正面図である。図11は図10のB−B断線方向から見た蒸着源と補正板とスクリーン基板との配置関係を示す模式断面図である。図12は蒸着装置における補正板の形状を説明する概略斜視図である。
【0038】
蒸着装置50には減圧容器51が備えられ、その内部にスクリーン基板取り付け板53と、補正板56と、蒸着源であるフィラメント60とが設けられている。
減圧容器51は内部が所望の減圧状態となるようにロータリーポンプ、拡散ポンプ、クライオポンプなどを用いた排気システム(図示せず)が接続されている。
減圧容器51の内部の上方にはスクリーン基板取り付け板53が支柱52を介して減圧容器51に固定されている。このスクリーン基板取り付け板53は、上下が開放された円筒状に形成され、その内側にスクリーン基板10が円周に沿って取り付け可能に構成されている。このように、スクリーン基板10は蒸着源に対して内側を向き、水平方向に曲面となるように配置される。
【0039】
減圧容器51の内部の下方には抵抗加熱用の蒸着源であるフィラメント60が設けられている。フィラメント60は、基台61と絶縁されて固定された電極62に両端が固定されている。フィラメントはタングステンなどの材料で形成されたバスケット型フィラメントであり、そのバスケット部に蒸着材料であるアルミニウムの線材などが供給される。
なお、抵抗加熱用の蒸着源としては他にヘリカルコイル型フィラメントが使用でき、さらにモリブデンなどで形成された箱型ボートを用いても良い。また、蒸着源としてEBガンを用いた蒸着源としても良い。
【0040】
そして、スクリーン基板取り付け板53とフィラメント60との間の位置にはスクリーン基板10における反射膜の膜厚分布を適正化する補正板56が設けられている。
補正板56は、図12に示すように、板材を円筒形に形成し、その一部をV字状に切り欠いた切り欠き部58を有する形状である。そして、補正板56はリング歯車63に固定され、リング歯車63には歯車64とかみ合っている。歯車64はモーター65の回転軸に直結され、モーター65の回転により垂直方向を回転軸として補正板56が回転するように構成されている。
【0041】
蒸着装置50の上方側より見たスクリーン基板取り付け板53と、補正板56と、フィラメント60の配置は、図11に示すように、蒸着源であるフィラメント60を中心として補正板56が設けられ、補正板56の外側に同心円状にスクリーン基板取り付け板53が配置されている。
【0042】
以上のように、この蒸着装置50を用いて反射スクリーン100の反射膜12を形成することができ、スクリーン基板10の面内において適正な反射膜の膜厚を確保し、良好な特性を備えた反射スクリーン100を得ることができる。
【0043】
なお、上記の蒸着装置においてスクリーン基板取り付け板を固定し、補正板を回転するように構成したが、スクリーン基板を取り付けるスクリーン基板取り付け板を回転させ、補正板を固定する構造であっても良いし、両者を逆向きに回転させる構造であっても良い。
【符号の説明】
【0044】
10…スクリーン基板、11…凹部、12…反射膜、13…外光吸収部、30…蒸着装置、31…減圧容器、32…支柱、33…スクリーン基板取り付け板、34…吊り下げアーム、35…回転軸、36…補正板、37…シール部、38…切り欠き部、39…接続板、40…フィラメント、41…基台、42…電極、45…遮蔽板、50…蒸着装置、51…減圧容器、52…支柱、53…スクリーン基板取り付け板、56…補正板、58…切り欠き部、60…蒸着源としてのフィラメント、61…基台、62…電極、63…リング歯車、64…歯車、65…モーター、100…反射スクリーン、100a…観察面、Lo…外光、Lp…投影光、Lr…反射光、NL…法線、PV…光源、S…蒸着源。
【技術分野】
【0001】
本発明は、投影光を入射させて用いる反射スクリーンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクターなどから射出される投影光を受け、その投影光を反射させて拡大画像を映し出す反射スクリーンが知られている。
例えば、近接型プロジェクター用の反射スクリーンの光の反射は、スクリーン基板の観察面に形成した複数の凹部からなる単位形状部に反射面を設けることで行われている。
特許文献1には、近接型プロジェクター用の反射スクリーンにおいて、スクリーン基板の凹部の投影光が入射される部分に、斜方から反射膜材料を蒸着して反射膜を成膜し、容易に反射面を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−15196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示すような、斜方から反射膜材料を蒸着して凹部に反射膜を形成する方法(斜方蒸着法)において、大きな面積を有する反射スクリーンでは、面内の膜厚のばらつきが大きくなるという課題がある。
例えば反射膜の膜厚が薄い部分では反射率が充分に得られず、また、膜厚が厚い部分では反射膜が剥離しやすいという問題が生ずる。
このため、反射スクリーンの全域において適正な反射膜の膜厚を確保する反射スクリーンの製造方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例にかかる反射スクリーンの製造方法は、スクリーン基板の観察面の法線に対して垂直方向にずれた位置に配置されたプロジェクターから、前記観察面に向けて斜めに射出された投影光を、観察側に反射する反射スクリーンの製造方法であって、前記スクリーン基板の垂直方向および水平方向に、複数の凹部を形成する凹部形成工程と、前記凹部の一部に前記スクリーン基板の前記観察面の前記法線に対して垂直方向にずれた位置から、反射膜材料を蒸着源から斜めに蒸着して投影光を反射する反射膜を形成する反射膜形成工程と、を有し、前記反射膜形成工程は、前記観察面の表面が前記蒸着源に対して内側に向き、水平方向に曲面となるように配置した前記スクリーン基板と前記蒸着源との間に、前記蒸着源から蒸発する反射膜材料の粒子の一部を遮る補正板を配置し、前記スクリーン基板と前記補正板とが垂直方向の軸を回転軸として相対的に回転するように構成し、前記スクリーン基板に反射膜材料を蒸着して前記反射膜を形成する工程であることを特徴とする。
【0007】
この反射スクリーンの製造方法によれば、スクリーン基板に複数の凹部を形成する凹部形成工程と、スクリーン基板の凹部の一部に反射膜材料を蒸着源から斜めに蒸着して投影光を反射する反射膜を形成する反射膜形成工程と、を有している。
反射膜形成工程では、観察面が曲面となるように配置したスクリーン基板と蒸着源との間に蒸着源から蒸発する反射膜材料の粒子の一部を遮る補正板を設け、スクリーン基板と補正板とが垂直方向の軸を回転軸として相対的に回転するように構成して反射膜の成膜を行う。
このように、補正板またはスクリーン基板が回転することで、蒸着源とスクリーン基板との間で、補正板が蒸着源から蒸発する粒子の一部を遮ってスクリーン基板の各部に到達する反射膜材料の粒子量を平均化し、スクリーン基板の面内における反射膜の膜厚ばらつきを減少できる。
このことから、スクリーン基板の面内において適正な反射膜の膜厚を確保し、反射率が良好で反射膜剥離のない反射スクリーンを得ることができる。
【0008】
[適用例2]上記適用例にかかる反射スクリーンの製造方法において、前記反射膜形成工程は、前記蒸着源の上方側から見て前記スクリーン基板を円周上に配置し、その円の中心に配置した前記蒸着源から反射膜材料を斜めに蒸着して前記反射膜を形成することが望ましい。
【0009】
この反射スクリーンの製造方法によれば、蒸着源を中心とし、その円周上にスクリーン基板を配置して反射膜材料を蒸着している。
このようにすることで、スクリーン基板の水平方向において蒸着源から等距離となる。このため、反射膜の膜厚ばらつきはスクリーン基板の垂直方向について補正を行えばよく、膜厚の補正が容易となる。
【0010】
[適用例3]上記適用例にかかる反射スクリーンの製造方法において、前記反射膜形成工程は、前記蒸着源の上方側から見て、前記スクリーン基板を円周上に配置し、その円の中心から前記スクリーン基板に近づく方向に外れた位置に配置した前記蒸着源から反射膜材料を斜めに蒸着して前記反射膜を形成することが望ましい。
【0011】
この反射スクリーンの製造方法によれば、円周上に配置したスクリーン基板の中心から外れて蒸着源を配置して、反射膜材料を蒸着している。
このようにすることで、反射膜材料をスクリーン基板の面内において入射させる角度を変えることができることから、反射膜の形状、大きさなどを任意に設定することができる。
【0012】
[適用例4]上記適用例にかかる反射スクリーンの製造方法において、前記反射膜形成工程は、複数の前記蒸着源を用いて前記反射膜を蒸着することが望ましい。
【0013】
この反射スクリーンの製造方法によれば、複数の蒸着源を用いて反射膜の蒸着ができ、大きな面積のスクリーン基板に短時間で所定の膜厚の反射膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態に係る反射スクリーンの構成を示す概略平面図。
【図2】第1の実施形態に係る反射スクリーンの構成を示す概略断面図。
【図3】第1の実施形態に係る反射スクリーンの製造工程を説明する概略平面図。
【図4】第1の実施形態に係る反射スクリーンの製造工程を説明する概略断面図。
【図5】第1の実施形態に係る反射スクリーンの製造工程を説明する概略断面図。
【図6】第1の実施形態に係る反射スクリーンの製造に用いられる蒸着装置の構成を示す概略正面図。
【図7】第1の実施形態に係る蒸着装置における蒸着源と補正板とスクリーン基板との配置関係を示す模式断面図。
【図8】第1の実施形態に係る蒸着装置における補正板の形状を説明する概略斜視図。
【図9】他の蒸着装置における蒸着源と補正板とスクリーン基板との配置関係を示す模式断面図。
【図10】他の蒸着装置の構成を示す概略正面図。
【図11】他の蒸着装置における蒸着源と補正板とスクリーン基板との配置関係を示す模式断面図。
【図12】他の蒸着装置における補正板の形状を説明する概略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した実施形態について図面に従って説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の寸法の割合を適宜変更している。また、これらの説明においては直交座標系を設定して各部材の位置関係について説明する。鉛直面内における所定方向をX軸方向、鉛直面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれに直交する方向をZ軸方向とする。
【0016】
<反射スクリーン>
図1は本実施形態に係る反射スクリーンの構成を示す概略平面図である。図2は実施形態に係る反射スクリーンの構成を示す概略断面図である。
図1、図2に示すように、反射スクリーン100は、反射スクリーン100の観察面100aの中心点を通る法線NLに対して垂直方向(Y軸方向)にずれた位置に配置された光源PVから、観察面100aに向けて斜めに投射された投影光Lpを、反射スクリーン100の観察側(Z軸正方向側)に反射光Lrとして反射するものである。そして、反射スクリーン100は、法線NLがZ軸と平行に配置されている。
スクリーン基板10の基材は、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタート(PET)、エポキシなどの樹脂を用いて形成され可撓性を有している。そして、スクリーン基板10は樹脂に黒色顔料を混ぜたものが用いられ、全体が黒色で可視光を吸収可能に形成されている。なお、このスクリーン基板10は、染色等によって全体が黒色の光吸収材によって着色されてもよく、透明基材の片面もしくは両面に黒色の塗装、コーティングしたものであってもよい。
【0017】
反射スクリーン100はスクリーン基板10の観察面100a側に単位形状部としての凹部11が複数備えられている。そして、この凹部11は、断面が半球状でありそれぞれが互いに接して配置されている。
凹部11の一部には投影光を反射する反射膜12が形成され、その他の部分に外光Loを吸収する外光吸収部13が形成されている。
反射膜12は効率よく投影光を反射させるために、アルミニウム(Al)等の反射性を有する材料により反射膜12が形成されている。この反射膜12は蒸着法により膜厚が10nm〜5μmとなるように成膜されている。
【0018】
ここで、凹部11の投影光Lpが照射される部分に合わせて、部分的に反射膜12が形成されている。また、凹部11の内壁面の投影光Lpが照射される部分に沿って、観察側(Z軸正方向側)から見て凹状の反射膜12が光源PVを中心に、観察面100aに放射状に形成されている。
これにより、反射スクリーン100の垂直方向上方(Y軸方向正方向)側および水平方向の両端側に、垂直方向および水平方向に角度を有して観察面100aに入射する投影光Lpを、反射膜12によって観察側のより法線NLに近い方向に効率よく反射させ、投影光Lpの反射率を向上させることができる。
【0019】
外光吸収部13は、スクリーン基板10の基材が露出し、この基材が黒色の光吸収材によって着色されていることから光を吸収できるように構成されている。
なお、凹部11の半球の直径としては例えば20μm〜200μm程度に形成されている。
さらに、反射膜12の上にSiO2などを蒸着して反射防止膜として機能する膜を付加しても良い。
【0020】
また、スクリーン基板10の観察面100a上には、凹部11を充填するように保護層が形成されても良い。保護層は、例えば、樹脂などの可撓性を有する材料で形成することができる。そして、保護層の上でスクリーン基板10の観察面100a側の最表面には、反射防止膜が形成されても良い。反射防止膜は、保護層と同様な材料で形成され、保護層の表面での投影光または外光などの反射を防止するように保護層との間で屈折率が調整されていることが好ましい。
【0021】
<反射スクリーンの製造方法>
次に、上記で説明した反射スクリーン100の製造工程について説明する。
図3は本実施形態に係る反射スクリーンの凹部形成工程を説明する概略平面図であり、図4は図3の概略断面図である。図5は反射膜形成工程を説明する概略断面図である。
まず、図3,図4に示すように、スクリーン基板10の観察面100aの垂直方向(Y軸方向)および水平方向(X軸方向)に、複数の凹部11を形成する(凹部形成工程)。
【0022】
凹部11の形成方法は、例えば、ガラス基板上に形成したエッチングマスク膜に、レーザー加工により多数の凹部11の形成位置に対応する穴を形成し、この穴を通してウエットエッチングを行うことで、略半球状の凹部形状を形成する。そして、このガラス基板に形成した凹部形状をスクリーン基板に熱や圧力を加えて転写することで凹部11が得られる。また他の方法として、ガラス基板に形成した凹部形状をもとに電鋳型を製作し、電鋳型からスクリーン基板に凹部形状を転写する方法を用いても良い。
なお、凹部11の直径および水平方向の中心間の間隔は、例えば、約100μm程度に形成される。また、スクリーン基板10の基材は樹脂に黒色の顔料が混ぜたものが用いられている。
【0023】
次に、図5に示すように、スクリーン基板10の観察側(Z軸正方向側)で、スクリーン基板10の観察面100aの法線NLに対して垂直方向下方側(Y軸負方向側)にずれた位置に蒸着源Sを配置する。そして、蒸着法により反射膜材料を観察面100aに対して斜めに蒸着させ、凹部11の内壁面に反射膜12を形成する(反射膜形成工程)。反射膜材料としては、例えば、アルミニウム等の反射性に優れた金属材料を用いることができる。
【0024】
蒸着法により反射膜12を形成する際には、観察面100aに対して斜めに投影光Lpを射出するプロジェクターの光源PVの位置を予め想定しておく。そして、観察面100aの各凹部11に対する反射膜材料の蒸着の角度が、観察面100aの各凹部11に対する光源PVからの投影光Lpの入射角度と等しいか、それよりも小さくなるように蒸着源Sを配置して各凹部11に反射膜材料を蒸着させる。
これにより、凹部11の内壁面の投影光Lpが照射される部分に沿って、観察側(Z軸正方向側)から見て凹状の反射膜12が、蒸着源Sを中心に放射状に形成される。
【0025】
<蒸着装置>
ここで、スクリーン基板に反射膜を形成する蒸着装置の構成について詳しく説明する。
図6は本実施形態に係る反射スクリーンの製造に用いられる蒸着装置の構成を示す概略正面図である。図7は図6のA−A断線方向から見た蒸着源と補正板とスクリーン基板の配置関係を示す模式断面図である。図8は本実施形態に係る蒸着装置における補正板の形状を説明する概略斜視図である。
【0026】
蒸着装置30には減圧容器31が備えられ、その内部にスクリーン基板取り付け板33と、補正板36と、蒸着源であるフィラメント40とが設けられている。
減圧容器31は内部が所望の減圧状態となるようにロータリーポンプ、拡散ポンプ、クライオポンプなどを用いた排気システム(図示せず)が接続されている。
減圧容器31の内部の上方にはスクリーン基板取り付け板33が支柱32を介して減圧容器31に固定されている。このスクリーン基板取り付け板33は、図7に示すように上下が開放された円筒状に形成され、その内側にスクリーン基板10が円周に沿って取り付け可能に構成されている。このように、スクリーン基板10は蒸着源に対して内側を向き、水平方向に曲面となるように配置される。
【0027】
減圧容器31の内部の下方には抵抗加熱用の蒸着源であるフィラメント40が設けられている。フィラメント40は、基台41と絶縁されて固定された電極42に両端が固定されている。フィラメントはタングステンなどの材料で形成されたバスケット型フィラメントであり、そのバスケット部に蒸着材料であるアルミニウムの線材などが供給される。
なお、抵抗加熱用の蒸着源としては他にヘリカルコイル型フィラメントが使用でき、さらにモリブデンなどで形成された箱型ボートを用いても良い。また、蒸着源としてEBガンを用いた蒸着源としても良い。
【0028】
そして、スクリーン基板取り付け板33とフィラメント40との間の位置には、スクリーン基板10における反射膜の膜厚分布を適正化する補正板36が設けられている。
補正板36は、図8に示すように、板材を円筒形に形成し、その一部をV字状に切り欠いた切り欠き部38を有する形状である。そして、補正板36は吊り下げアーム34に固定され、吊り下げアーム34は接続板39を介して回転軸35に接続されている。
【0029】
回転軸35は減圧容器31の内部から外部に引き出され、モーターなどの電動機に接続されている。回転軸35は減圧容器31の内部で、垂直方向の軸を回転軸として回転できるように構成されている。また、この回転軸35と減圧容器31との間には、ウィルソンシール、磁気カップリングシールなどを用いたシール部37が設けられ減圧容器31のリークを防いでいる。
【0030】
蒸着装置30の上方側より見たスクリーン基板取り付け板33と、補正板36と、フィラメント40の配置は、図7に示すように、蒸着源であるフィラメント40を中心として補正板36が設けられ、補正板36の外側に同心円状にスクリーン基板取り付け板33が配置されている。
【0031】
このように、フィラメント40から蒸発した蒸着粒子は回転する補正板36によりその一部が遮られ、その他の蒸着粒子はスクリーン基板取り付け板33の内側に配置されたスクリーン基板10に斜め方向から入射して蒸着が行われる。
補正板36はフィラメント40に近いほど蒸着粒子を多く遮り、フィラメント40に遠いほど蒸着粒子を少なく遮るように形成され、少なくとも一つの略三角形の形状であれば良い。
【0032】
以上のように、反射スクリーン100の反射膜形成工程では、観察面が曲面となるように配置したスクリーン基板10とフィラメント40との間にフィラメント40から蒸発する粒子の一部を遮る補正板36を設け、補正板36が垂直方向の軸を回転軸として相対的に回転するように構成して反射膜12の成膜を行う。
このように、補正板36が回転することで、フィラメント40とスクリーン基板10との間で、補正板36がフィラメント40から蒸発する粒子の一部を遮ってスクリーン基板10の各部に到達する反射膜材料の粒子量を平均化し、スクリーン基板10の面内における反射膜12の膜厚ばらつきを減少できる。
このことから、スクリーン基板10の面内において適正な反射膜12の膜厚を確保し、反射率が良好で反射膜剥離のない反射スクリーン100を得ることができる。
【0033】
また、本実施形態の反射スクリーンの製造方法によれば、フィラメント40を中心とし、その円周上にスクリーン基板10を配置して反射膜材料を蒸着している。
このようにすることで、スクリーン基板10の水平方向においてフィラメント40から等距離となる。このため、反射膜12の膜厚ばらつきはスクリーン基板10の垂直方向について補正を行えばよく、膜厚の補正が容易となる。
【0034】
さらに、本実施形態の反射スクリーンの製造方法では、反射膜を形成するスクリーン基板10を水平方向に曲面となるように配置している。このため、蒸着装置30の減圧容器31を小さくでき、その容量を小さくすることができる。そして、減圧容器31内を減圧する排気システムも小容量に対応すればよく、蒸着装置30のコストを削減でき、ひいては反射スクリーン100の製造コストを低減することができる。
【0035】
また、上記で説明した蒸着装置の他に、以下に説明する蒸着装置の構成であっても良い。
<複数の蒸着源を備える蒸着装置>
例えば、図6で説明した蒸着装置に複数の蒸着源を備えていても良い。
図9は複数の蒸着源を備えた他の蒸着装置における構成および蒸着源と補正板とスクリーン基板との配置関係を示す模式断面図であり、図7に相当する。このため、上記の実施形態で説明した蒸着装置と同じ構成については同じ符号を付し、蒸着源付近についてのみ説明する。
図9に示すように、本蒸着装置には蒸着源としてのフィラメント40a,40bを備えている。これらのフィラメント40a,40bは、円周上に配置したスクリーン基板取り付け板33の中心から外れて配置されている。そして、2つのフィラメント40a,40bの間には蒸着粒子の飛散を遮蔽する遮蔽板45が設けられている。
【0036】
このような蒸着装置を用いることで、複数のフィラメント40から反射膜材料を蒸発させて反射膜12の蒸着ができ、大きな面積のスクリーン基板10に短時間で所定の膜厚の反射膜12を形成することが可能である。
また、円周上に配置したスクリーン基板10の中心から外れてフィラメント40を配置して、反射膜材料を蒸着することで、反射膜材料をスクリーン基板10の面内において入射させる角度を変えることができることから、反射膜12の形状、大きさなどを任意に設定することが可能である。
なお、フィラメント40の配置は遮蔽板45を設けずに並列に並べることや、円弧状に並べるなど適宜行うことができる。
【0037】
<他の蒸着装置>
次に反射スクリーンの製造に使用できる他の蒸着装置の構成について説明する。
図10は反射スクリーンの製造に用いられる蒸着装置の構成を示す概略正面図である。図11は図10のB−B断線方向から見た蒸着源と補正板とスクリーン基板との配置関係を示す模式断面図である。図12は蒸着装置における補正板の形状を説明する概略斜視図である。
【0038】
蒸着装置50には減圧容器51が備えられ、その内部にスクリーン基板取り付け板53と、補正板56と、蒸着源であるフィラメント60とが設けられている。
減圧容器51は内部が所望の減圧状態となるようにロータリーポンプ、拡散ポンプ、クライオポンプなどを用いた排気システム(図示せず)が接続されている。
減圧容器51の内部の上方にはスクリーン基板取り付け板53が支柱52を介して減圧容器51に固定されている。このスクリーン基板取り付け板53は、上下が開放された円筒状に形成され、その内側にスクリーン基板10が円周に沿って取り付け可能に構成されている。このように、スクリーン基板10は蒸着源に対して内側を向き、水平方向に曲面となるように配置される。
【0039】
減圧容器51の内部の下方には抵抗加熱用の蒸着源であるフィラメント60が設けられている。フィラメント60は、基台61と絶縁されて固定された電極62に両端が固定されている。フィラメントはタングステンなどの材料で形成されたバスケット型フィラメントであり、そのバスケット部に蒸着材料であるアルミニウムの線材などが供給される。
なお、抵抗加熱用の蒸着源としては他にヘリカルコイル型フィラメントが使用でき、さらにモリブデンなどで形成された箱型ボートを用いても良い。また、蒸着源としてEBガンを用いた蒸着源としても良い。
【0040】
そして、スクリーン基板取り付け板53とフィラメント60との間の位置にはスクリーン基板10における反射膜の膜厚分布を適正化する補正板56が設けられている。
補正板56は、図12に示すように、板材を円筒形に形成し、その一部をV字状に切り欠いた切り欠き部58を有する形状である。そして、補正板56はリング歯車63に固定され、リング歯車63には歯車64とかみ合っている。歯車64はモーター65の回転軸に直結され、モーター65の回転により垂直方向を回転軸として補正板56が回転するように構成されている。
【0041】
蒸着装置50の上方側より見たスクリーン基板取り付け板53と、補正板56と、フィラメント60の配置は、図11に示すように、蒸着源であるフィラメント60を中心として補正板56が設けられ、補正板56の外側に同心円状にスクリーン基板取り付け板53が配置されている。
【0042】
以上のように、この蒸着装置50を用いて反射スクリーン100の反射膜12を形成することができ、スクリーン基板10の面内において適正な反射膜の膜厚を確保し、良好な特性を備えた反射スクリーン100を得ることができる。
【0043】
なお、上記の蒸着装置においてスクリーン基板取り付け板を固定し、補正板を回転するように構成したが、スクリーン基板を取り付けるスクリーン基板取り付け板を回転させ、補正板を固定する構造であっても良いし、両者を逆向きに回転させる構造であっても良い。
【符号の説明】
【0044】
10…スクリーン基板、11…凹部、12…反射膜、13…外光吸収部、30…蒸着装置、31…減圧容器、32…支柱、33…スクリーン基板取り付け板、34…吊り下げアーム、35…回転軸、36…補正板、37…シール部、38…切り欠き部、39…接続板、40…フィラメント、41…基台、42…電極、45…遮蔽板、50…蒸着装置、51…減圧容器、52…支柱、53…スクリーン基板取り付け板、56…補正板、58…切り欠き部、60…蒸着源としてのフィラメント、61…基台、62…電極、63…リング歯車、64…歯車、65…モーター、100…反射スクリーン、100a…観察面、Lo…外光、Lp…投影光、Lr…反射光、NL…法線、PV…光源、S…蒸着源。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーン基板の観察面の法線に対して垂直方向にずれた位置に配置されたプロジェクターから、前記観察面に向けて斜めに射出された投影光を、観察側に反射する反射スクリーンの製造方法であって、
前記スクリーン基板の垂直方向および水平方向に、複数の凹部を形成する凹部形成工程と、
前記凹部の一部に前記スクリーン基板の前記観察面の前記法線に対して垂直方向にずれた位置から、反射膜材料を蒸着源から斜めに蒸着して投影光を反射する反射膜を形成する反射膜形成工程と、を有し、
前記反射膜形成工程は、前記観察面の表面が前記蒸着源に対して内側に向き、水平方向に曲面となるように配置した前記スクリーン基板と前記蒸着源との間に、前記蒸着源から蒸発する反射膜材料の粒子の一部を遮る補正板を配置し、
前記スクリーン基板と前記補正板とが垂直方向の軸を回転軸として相対的に回転するように構成し、前記スクリーン基板に反射膜材料を蒸着して前記反射膜を形成する工程であることを特徴とする反射スクリーンの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の反射スクリーンの製造方法において、
前記反射膜形成工程は、
前記蒸着源の上方側から見て前記スクリーン基板を円周上に配置し、その円の中心に配置した前記蒸着源から反射膜材料を斜めに蒸着して前記反射膜を形成することを特徴とする反射スクリーンの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の反射スクリーンの製造方法において、
前記反射膜形成工程は、
前記蒸着源の上方側から見て、前記スクリーン基板を円周上に配置し、その円の中心から前記スクリーン基板に近づく方向に外れた位置に配置した前記蒸着源から反射膜材料を斜めに蒸着して前記反射膜を形成することを特徴とする反射スクリーンの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の反射スクリーンの製造方法において、
前記反射膜形成工程は、
複数の前記蒸着源を用いて前記反射膜を蒸着することを特徴とする反射スクリーンの製造方法。
【請求項1】
スクリーン基板の観察面の法線に対して垂直方向にずれた位置に配置されたプロジェクターから、前記観察面に向けて斜めに射出された投影光を、観察側に反射する反射スクリーンの製造方法であって、
前記スクリーン基板の垂直方向および水平方向に、複数の凹部を形成する凹部形成工程と、
前記凹部の一部に前記スクリーン基板の前記観察面の前記法線に対して垂直方向にずれた位置から、反射膜材料を蒸着源から斜めに蒸着して投影光を反射する反射膜を形成する反射膜形成工程と、を有し、
前記反射膜形成工程は、前記観察面の表面が前記蒸着源に対して内側に向き、水平方向に曲面となるように配置した前記スクリーン基板と前記蒸着源との間に、前記蒸着源から蒸発する反射膜材料の粒子の一部を遮る補正板を配置し、
前記スクリーン基板と前記補正板とが垂直方向の軸を回転軸として相対的に回転するように構成し、前記スクリーン基板に反射膜材料を蒸着して前記反射膜を形成する工程であることを特徴とする反射スクリーンの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の反射スクリーンの製造方法において、
前記反射膜形成工程は、
前記蒸着源の上方側から見て前記スクリーン基板を円周上に配置し、その円の中心に配置した前記蒸着源から反射膜材料を斜めに蒸着して前記反射膜を形成することを特徴とする反射スクリーンの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の反射スクリーンの製造方法において、
前記反射膜形成工程は、
前記蒸着源の上方側から見て、前記スクリーン基板を円周上に配置し、その円の中心から前記スクリーン基板に近づく方向に外れた位置に配置した前記蒸着源から反射膜材料を斜めに蒸着して前記反射膜を形成することを特徴とする反射スクリーンの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の反射スクリーンの製造方法において、
前記反射膜形成工程は、
複数の前記蒸着源を用いて前記反射膜を蒸着することを特徴とする反射スクリーンの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−180551(P2011−180551A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47510(P2010−47510)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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