説明

反射鏡

【課題】 600nm〜1000nmの波長域で90%以上の反射率を有した反射鏡を安価に製造する。
【解決手段】 物理的膜厚1〜70nmの金膜、物理的膜厚10nm以上のアルミニウム膜を基板上に形成する。金膜が反射率を向上させ、アルミニウム膜によって安価に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、カメラ、顕微鏡、バーコードリーダなどの光学機器に使用される反射鏡に関する。
【0002】
【従来の技術】光学機器に用いられる反射鏡は、ガラスや樹脂などからなる基板の表面に、金やアルミニウムなどの反射性金属の反射膜を有することにより構成されている。従来の反射鏡としては、特開平8−54504号公報、特開平5−281405号公報に記載されている。
【0003】特開平8−54504号公報記載の反射鏡は、クロムからなる下地層と、この下地層上に形成された物理的膜厚が150nm以上の金からなる反射層の二層構造となっている。一方、特開平5−281406号公報記載の反射鏡は、アルミニウムを用いるものであり、二酸化珪素からなる下地層と、この下地層上に形成されたアルミニウムからなる反射層と、この反射層上に形成された二酸化珪素からなる保護層の三層構造となっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】特開平8−54504号公報の反射鏡は、高価な金を用いるだけでなく、その金を150nm以上の物理的膜厚で成膜しているため、反射鏡の製品コストが高価となる問題を有している。
【0005】特開平5−281406号公報の反射鏡は、アルミニウムを用いるため、安価とすることができるが、金を用いた反射鏡と比較して、800nm〜1000nmの波長域においては、反射率が90%以下と低くなる問題を有している。例えば、波長800nmでは86.0%の反射率であり、このような反射率では、実用性に欠けるものとなっている。
【0006】本発明は、このような従来の問題点を考慮してなされたものであり、安価であり、しかも600〜1000nmの波長域において90%以上の高反射率を有した反射鏡を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1の発明は、物理的膜厚1〜70nmの金膜、物理的膜厚10nm以上のアルミニウム膜が基板上に形成されていることを特徴とする。
【0008】請求項2の発明は、光学系の光線入射方向から物理的膜厚5〜70nmの金膜、物理的膜厚10nm以上のアルミニウム膜が基板上に順に形成されていることを特徴とする。
【0009】請求項3の発明は、光学系の光線入射方向から物理的膜厚10nm以上のアルミニウム膜、物理的膜厚1〜70nmの金膜が基板上に順に形成されていることを特徴とする。
【0010】これらの発明では、金膜が存在するため、600〜1000nmの波長域で90%以上の反射率となる。また、アルミニウム膜が積層されているため、金膜の膜厚を厚くする必要がなくなり、金の使用量を削減することができる。さらに、600nm未満の波長域では、金膜だけの場合に比べて反射率が高くなっているため、600nm未満の波長域においても実用的となっている。
【0011】これらの発明において、金膜の物理的膜厚は1〜70nmである。金膜の物理的膜厚が1nm未満の場合には、光線に対する反射率が低下するため、好ましくなく、70nmを越える場合には、金の使用量が多くなって、コストが高騰するため好ましくない。この金膜としては、物理的膜厚が7〜40nmの範囲がさらに良好である。
【0012】アルミニウム膜は基板と金膜との間に介在して金膜を支持するか、金膜の上に施されて金膜を保護するために用いられる。これらのいずれの場合においても、アルミニウム膜の物理的膜厚は10nm以上である。10nm未満の膜厚を金膜の支持層として形成した場合、金膜の良好な支持を行うことができないため、好ましくない。一方、10nm未満の膜厚を金膜の保護層として形成した場合、金膜の確実な保護を行うことができないため、好ましくない。この場合、アルミニウム膜の膜厚としては、10nm以上で且つ60nm以下が特に良好である。
【0013】これらの金膜、アルミニウム膜の成膜は、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等の適宜の手段によって行うことができる。また、これらの発明では、基板上に下地膜を成膜した後にアルミニウム膜や金膜を成膜しても良く、基板上に成膜したアルミニウム膜や金膜の上に保護膜を成膜しても良い。これらの下地膜、保護膜の材質しては、SiO等の無機酸化物を使用することができる。
【0014】以上の発明において、金膜、アルミニウム膜が成膜される基板としては、各種光学部品に応じて使用されているものを使用することができる。例えば、ガラス基板、ポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂などの樹脂基板を選択することができる。このようにガラス基板や樹脂基板を用いる場合には、光学部品としての反射鏡として有用となる。又、以上の発明においては、金膜、アルミニウム膜が形成されていない基板の裏面から光線を入射させても良く、この場合にも、上述した波長域で90%以上の反射率を有しているため、光線を確実に反射することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】(実施の形態1)表1に示すように、この実施の形態では、BK7(ショット(社)製)からなるガラス基板上に、アルミニウム膜を30nmの物理的膜厚で成膜し、このアルミニウム膜上に30nmの物理的膜厚で金膜を成膜した。成膜は基板を加熱し、真空蒸着法により行った。なお、これらの薄膜の形成は、金属酸化物などの無機物質を成膜するイオンプレーティングやスパッタリングなどによっても行うことができる。
【0016】なお、表1に示すように、比較例1として、BK7からなる基板上にアルミニウム膜を物理的膜厚100nmで成膜し、比較例2として、BK7からなる基板上に金膜膜を物理的膜厚100nmで成膜した。これらの成膜は実施の形態1と同様にして行った。
【0017】
【表1】


【0018】図1は、この実施の形態及び比較例の分光反射率特性を示し、特性曲線aはこの実施の形態、特性曲線bは比較例1、特性曲線cは比較例2である。この実施の形態では、波長600nmで92.6%、波長800nmで95.3%と高い反射率となっており、600〜1000nmの波長域において、90%以上の高い反射率を得ることが可能となっている。
【0019】これに対し、比較例1の反射率特性は波長500nmで92.1%、波長600nmで91.0%、波長800nmで86.4%であり、アルミニウム膜と金膜とによって構成された実施の形態1はアルミニウム膜のみの比較例1と比較して600nm以上の波長領域で高い反射率となっている。一方、比較例2の反射率特性は、波長500nmで50.9%、波長600nmで91.4%、波長800nmで97.3%であり、アルミニウム膜と金膜とからなる実施の形態1は金膜のみからなる比較例2と比較しても、600nm以上の波長領域で同程度の高い反射率が得られ、また、比較例2と比較した場合、金の使用量が少ないため、安価に生産することができ、光学部品として広範囲に使用することができる。なお、図示を省略したが、実施の形態1では、基板の裏面から光線を入射させても、特性曲線aと略同等の反射率を有していた。
【0020】(実施の形態2)表2に示すように、この実施の形態では、BK7(ショット(社)製)からなるガラス基板上に、金膜を30nmの物理的膜厚で成膜し、この金膜上に30nmの物理的膜厚でアルミニウム膜を成膜した。成膜は基板を加熱し、真空蒸着法により行った。これらの薄膜の形成は、金属酸化物などの無機物質を成膜するイオンプレーティングやスパッタリングなどによっても行うことができる。なお、基板に対する金膜の密着性をさらに向上させる必要がある場合には、クロム(Cr)などのコンタクトメタルを基板と金膜との間に成膜することにより可能となる。
【0021】表2に示すように、比較例3として、BK7からなる基板上にアルミニウム膜を物理的膜厚100nmで成膜し、比較例4として、BK7からなる基板上に金膜膜を物理的膜厚100nmで成膜した。これらの成膜は実施の形態2と同様にして行った。
【0022】
【表2】


【0023】図2は、この実施の形態及び比較例の分光反射率特性を示し、特性曲線dはこの実施の形態、特性曲線eは比較例3、特性曲線fは比較例4である。この実施の形態では、波長600nmで90.0%、波長800nmで93.3%と高い反射率となっており、600〜1000nmの波長域において、90%以上の高い反射率を得ることが可能となっている。
【0024】これに対し、比較例3の反射率特性は波長500nmで88.1%、波長600nmで91.0%、波長800nmで80.8%であり、アルミニウム膜と金膜とによって構成された実施の形態2はアルミニウム膜のみの比較例3と比較して600nm以上の波長領域で高い反射率となっている。一方、比較例4の反射率特性は、波長500nmで44.8%、波長600nmで88.7%、波長800nmで96.2%であり、アルミニウム膜と金膜とからなる実施の形態2は金膜のみからなる比較例4と比較しても、600nm以上の波長領域で同程度の高い反射率が得られ、また、比較例4と比較した場合、金の使用量が少ないため、安価に生産することができ、光学部品として広範囲に使用することができる。さらに、実施の形態2においても、基板の裏面から光線を入射させても、特性曲線dと略同等の反射率を有していた。
【0025】(実施の形態3)表3に示すように、この実施の形態では、商品名ZEONEX(日本ゼオン(社)製)からなる樹脂基板上に、下地層としてSiO膜を10nmの物理的膜厚で成膜し、この上にアルミニウム膜を30nmの物理的膜厚で成膜し、このアルミニウム膜上に30nmの物理的膜厚で金膜を成膜した。成膜は基板を加熱することなく、真空蒸着法により行った。なお、これらの薄膜の形成は、金属酸化物などの無機物質を成膜するイオンプレーティングやスパッタリングなどによっても行うことができる。
【0026】表3に示すように、比較例5として、ZEONEXからなる樹脂基板上に、下地層としてSiO膜を10nmの物理的膜厚で成膜し、この上にアルミニウム膜を100nmの物理的膜厚で成膜した。また、比較例6として、ZEONEXからなる樹脂基板上に、下地層としてSiO膜を10nmの物理的膜厚で成膜し、この上に金膜を100nmの物理的膜厚で成膜した。これらの成膜は実施の形態3と同様にして行った。なお、比較例6の場合には、SiO膜と金膜との間に、クロム等のコンタクトメタルを形成してある。
【0027】
【表3】


【0028】図3は、この実施の形態及び比較例の分光反射率特性を示し、特性曲線gはこの実施の形態、特性曲線hは比較例5、特性曲線iは比較例6である。この実施の形態では、波長600nmで90.0%、波長800nmで95.0%と高い反射率となっており、600〜1000nmの波長域において、90%以上の高い反射率を得ることが可能となっている。また、この実施の形態では、膜の密着性強度の試験を行った。密着性強度試験は、セロテープ(NICHIBAN(社)製)を膜の表面に貼り付けた後、セロテープ(登録商標)を真上方向に引き剥がして膜の剥がれ具合を観察するものであり、観察の結果、剥がれは全く発生することがなかった。
【0029】これに対し、比較例5の反射率特性は波長500nmで92.1%、波長600nmで91.0%、波長800nmで86.4%であり、実施の形態3は比較例5と比較して600nm以上の波長領域で高い反射率となっている。一方、比較例6の反射率特性は、波長500nmで50.9%、波長600nmで91.4%、波長800nmで97.3%であり、実施の形態3は比較例6と比較しても、600nm以上の波長領域で同程度の高い反射率が得られている。しかも、比較例6と比較した場合、金の使用量が少ないため、安価に生産することができ、光学部品として広範囲に使用することができる。
【0030】(実施の形態4)表4に示すように、この実施の形態では、商品名ZEONEX(日本ゼオン(社)製)からなる樹脂基板上に、金膜を30nmの物理的膜厚で成膜し、この上にアルミニウム膜を30nmの物理的膜厚で成膜し、このアルミニウム膜上に保護層としてSiO膜を10nmの物理的膜厚で成膜した。成膜は基板を加熱することなく、真空蒸着法により行った。なお、これらの薄膜の形成は、金属酸化物などの無機物質を成膜するイオンプレーティングやスパッタリングなどによっても行うことができる。この場合、基板に対する金膜の密着性をさらに向上させる必要がある場合には、クロム(Cr)などのコンタクトメタルを基板と金膜との間に成膜することにより可能となる。なお、比較例8の場合には、SiO膜と金膜との間に、クロム等のコンタクトメタルを形成してある。
【0031】表4に示すように、比較例7として、ZEONEXからなる樹脂基板上に、アルミニウム膜を100nmの物理的膜厚で成膜し、この上に保護層としてSiO膜を10nmの物理的膜厚で成膜した。また、比較例6として、ZEONEXからなる樹脂基板上に、金膜を100nmの物理的膜厚で成膜し、この上に保護層としてSiO膜を10nmの物理的膜厚で成膜した。なお、これらの成膜は実施の形態4と同様にして行った。
【0032】
【表4】


【0033】図4は、この実施の形態及び比較例の分光反射率特性を示し、特性曲線kはこの実施の形態、特性曲線mは比較例7、特性曲線nは比較例8である。この実施の形態では、波長600nmで90.0%、波長800nmで93.3%と高い反射率となっており、600〜1000nmの波長域において、90%以上の高い反射率を得ることが可能となっている。
【0034】これに対し、比較例7の反射率特性は波長500nmで88.1%、波長600nmで91.0%、波長800nmで80.8%であり、実施の形態4は比較例7と比較して600nm以上の波長領域で高い反射率となっている。一方、比較例8の反射率特性は、波長500nmで44.8%、波長600nmで88.7%、波長800nmで96.2%であり、実施の形態4は比較例8と比較しても、600nm以上の波長領域で同程度の高い反射率が得られている。しかも、比較例8と比較した場合、金の使用量が少ないため、安価に生産することができ、光学部品として広範囲に使用することができる。
【0035】以上の実施の形態1〜4においては、図1〜図4に示すように、600nm未満の波長域において、金膜だけの場合に比べて反射率が高くなっている。このため、実施の形態1〜4では、600nm未満の波長域においても実用的となっている。
【0036】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1〜3のいずれの発明においても、600nm〜1000nmの波長域において90%以上の高い反射率とすることができると共に、安価に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態1、比較例1,比較例2の分光反射率特性図である。
【図2】実施の形態2、比較例3,比較例4の分光反射率特性図である。
【図3】実施の形態3、比較例5,比較例6の分光反射率特性図である。
【図4】実施の形態4、比較例7,比較例8の分光反射率特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 物理的膜厚1〜70nmの金膜、物理的膜厚10nm以上のアルミニウム膜が基板上に形成されていることを特徴とする反射鏡。
【請求項2】 光学系の光線入射方向から物理的膜厚1〜70nmの金膜、物理的膜厚10nm以上のアルミニウム膜が基板上に順に形成されていることを特徴とする反射鏡。
【請求項3】 光学系の光線入射方向から物理的膜厚10nm以上のアルミニウム膜、物理的膜厚1〜70nmの金膜が基板上に順に形成されていることを特徴とする反射鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2001−264523(P2001−264523A)
【公開日】平成13年9月26日(2001.9.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−72670(P2000−72670)
【出願日】平成12年3月15日(2000.3.15)
【出願人】(000000376)オリンパス光学工業株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】