説明

反射防止フィルムの製造方法

【課題】環境を害すること無く、白濁の無い反射防止フィルムを製造する方法を提供する。
【解決手段】含フッ素共重合体および水を含む水性塗料組成物を基材フィルム上に塗布する工程、及び
該塗布された水性塗料組成物を硬化する工程
を含むことを特徴とする反射防止フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止フィルムの製造方法に関し、詳細には、反射防止フィルムの低屈折率層を、含フッ素共重合体を含む水性塗料組成物を用いて形成することによって、環境を害すること無く、白濁の無い反射防止フィルムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止フィルムは、画像表示装置表面での外光の反射による、画像のコントラスト低下等を防止するために、画像表示装置の表面に配置して使用される。画像表示装置が紙媒体に取って代わる中、反射防止フィルムの特性に対する要求も益々高度なものになっている。
【0003】
反射防止フィルムは、通常、透明基材の上側に、該透明基材の屈折率よりも低い屈折率を有する物質からなる層(低屈折率層)を形成することによって製造される。該低屈折率層を構成する物質として、含フッ素樹脂が用いられ、例えば含フッ素樹脂バインダー樹脂中に、該樹脂よりも屈折率の低い物質の微粒子を分散させた樹脂組成物が用いられている(例えば、特許文献1)。
【0004】
これらの樹脂組成物において、含フッ素樹脂は有機溶媒に溶解されているが、基材フィルムに塗布されて、溶媒が蒸発した後にフィルムの白濁を起こす(以下「白化」という)場合がある。この問題を解決するために、含フッ素樹脂の溶媒として、炭素数4のモノアルコールと、親水性基を有する炭素数6以上のエーテル類又はケトン類との混合溶媒を用いることが提案されている(特許文献2)。同文献によれば、白化は大気中の水分が関与し、上記親水性基を有する溶媒を含む溶媒系を用いることによって、水分が原因である塗膜のはじき、及び凹凸の発生が防止されて、白化が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO 02/075373号公報
【特許文献2】特開2010−196014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記溶媒系を用いても、湿度が高い環境では、必ずしも白化を防止することはできない。また、本発明者が検討したところ、白化の他の原因として、有機溶媒による基材フィルム表面の損傷がある。何より、有機溶媒は環境に良くない。そこで、本発明は、これらの問題の無い製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くことに、水分の混入を防ぐべきことを示唆する上記特許文献2の記載に反し、水系組成物を用いることで白化を防止できることを見出した。即ち、本発明は、以下のものである。
[1]含フッ素共重合体および水を含む水性塗料組成物を基材フィルム上に塗布する工程、及び
該塗布された水性塗料組成物を硬化する工程
を含むことを特徴とする反射防止フィルムの製造方法。
[2]前記含フッ素共重合体および水を含む水性塗料組成物が、有機溶媒を含まない、又は該組成物の全質量に対して10質量%以下で含むことを特徴とする、上記[1]記載の反射防止フィルムの製造方法。
[3]前記含フッ素共重合体が、水酸基、カルボキシル基、及びアミノ基なる群より選ばれる少なくとも一種の基を有し、
前記塗布する工程の前に、前記含フッ素共重合体および水を含む水性塗料組成物とポリイソシアネート化合物を混合する工程をさらに含む、上記[1]又は[2]記載の反射防止フィルムの製造方法。
[4]前記含フッ素共重合体が、式(a1)で表される構造単位40〜60モル%、式(a2)で表される構造単位3〜50モル%、式(a3)で表される構造単位4〜30モル%、式(a4)で表される構造単位0.4〜7モル%(ただし、(a1)、(a2)、(a3)、(a4)で表される各構造単位の合計モル%の値は80〜100である。)からなる共重合体であることを特徴とする、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の反射防止フィルムの製造方法。
−CFX−CX− ・・・式(a1)
[ただし、式(a1)において、XおよびXは、それぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子であり、Xは塩素原子、フッ素原子または−CY(Y、Y、Yはそれぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子である。)である。]
【化1】

[ただし、式(a2)において、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜12のアルキル基、または炭素数4〜10の1価の脂環式基であり、jは0〜8の整数、kは0または1である。]
【化2】

[ただし、式(a3)において、Rbは水素原子またはメチル基、R2は炭素数1〜10のアルキレン基、または炭素数4〜10の2価の脂環式基であり、mは0〜8の整数、nは0または1である。]
【化3】

[ただし、式(a4)において、RおよびRは式(3)における各々と同じ意味であり、Rは炭素数2〜10のアルキレン基または炭素数4〜10の2価の脂環式基であり、Rは水素原子または−NHZ(Z、Z、Zはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基である。)であって、少なくとも一部のRは−NHZであり、pは0〜8の整数、qは0または1である。]
[5]式(a2)で表わされる構造単位が、j=k=0の構造単位であり、式(a3)で表わされる構造単位が、m=n=0の構造単位であることを特徴とする上記[4]記載の反射防止フィルムの製造方法。
[6]前記ポリイソシアネート化合物が、水分散型であることを特徴とする上記[3]〜[5]のいずれかに記載の反射防止フィルムの製造方法。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかに記載の反射防止フィルムの製造方法で製造された反射防止フィルムを少なくとも片面に有することを特徴とする偏光板。
[8]上記[1]〜[6]のいずれかに記載の反射防止フィルムの製造方法で製造された反射防止フィルムを備えることを特徴とする画像表示装置。
【発明の効果】
【0008】
上記本発明の方法によれば、環境を汚染すること無く、又、湿度に関係なく、白濁の無い反射防止フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[基材フィルム]
本発明において、基材フィルムを構成する樹脂は特に限定されず、例えば、セルロースエステル(例、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース)、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリノルボルネン(商品名:アートン、ゼオネックス)などが挙げられる。このうちトリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリノルボルネンが挙げられ、これらのうちトリアセチルセルロースが好ましい。
【0010】
該基材フィルムの膜厚は、10〜300μmであることが好ましく、より好ましくは20〜200μm、さらに好ましくは30〜120μmである。また、該基材フィルムには、下塗り層、帯電防止層、マット層、滑り層等を設けてもよい。
【0011】
[含フッ素共重合体を含む水性塗料組成物]
該含フッ素共重合体を含む水性塗料組成物(以下「水性塗料組成物」という場合がある。)は、水を含む媒体中、即ち水性媒体中に、含フッ素共重合体が分散又は溶解されている塗料用組成物である。該組成物は、有機溶媒を含まないか、該組成物の全質量に対して10質量%以下で含むことが好ましい。有機溶媒を含まないことにより、反射防止フィルムの白化がなく、また、環境に与える影響が小さく、好ましい。有機溶媒としては、水と均一に混合する溶媒であれば特に限定されず、例えばメタノール、エタノール、及び、後述する含フッ素共重合体(A)の製造過程で用いられる有機溶媒、例えばメチルエチルケトン等が挙げられる。より好ましくは、該組成物は、有機溶媒を含まないか、該組成物の全質量に対して3質量%以下で含む。また、塗料としては、基材上に被膜を形成するための材料など、種々のものを包含し、表面処理剤であってもよい。
【0012】
含フッ素共重合体としては、所定の条件下で、硬化剤を用いて又は自己架橋して、硬化膜を形成することができる含フッ素共重合体であれば特に制限はなく、具体的には、(a)含フッ素単量体と、(b)架橋性官能基を有する単量体との共重合体を挙げることができる。(a)含フッ素単量体としては、含フッ素不飽和化合物、例えば、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フッ化ビニリデン(VdF)、フッ化ビニル(VF)、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)が挙げられる。
【0013】
(b)架橋性官能基を有する単量体としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、シリル基、カルボニル基、又はイソシアネート基等を有する不飽和化合物が挙げられる。水酸基を有する単量体としては、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシ-2−メチルプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、4−ヒドロキシ−2−メチルブチルビニルエーテル、5−ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類;ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラエチレングリコールモノビニルエーテル等のエチレングリコールモノビニルエーテル類;ヒドロキシエチルアリルエーテル、ヒドロキシブチルアリルエーテル、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、4−ヒドロキシブチルアリルエーテル、グリセロールモノアリルエーテル等のヒドロキシアルキルアリルエーテル類;ヒドロキシエチルビニルエステル、ヒドロキシブチルビニルエステル等のヒドロキシアルキルビニルエステル類;ヒドロキシエチルアリルエステル、ヒドロキシブチルアリルエステル等のヒドロキシアルキルアリルエステル類;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル類等が挙げられる。
【0014】
カルボキシル基を有する単量体としては、3−ブテン酸、4−ペンテン酸、2−ヘキセン酸、3−ヘキセン酸、5−ヘキセン酸、2−ヘプテン酸、3−ヘプテン酸、6−ヘプテン酸、3−オクテン酸、7−オクテン酸、2−ノネン酸、3−ノネン酸、8−ノネン酸、9−デセン酸または10−ウンデセン酸、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、桂皮酸、などの不飽和カルボン酸類;ビニルオキシ吉草酸、3−ビニルオキシプロピオン酸3−(2−ビニルオキシブトキシカルボニル)プロピオン酸、3−(2−ビニルオキシエトキシカルボニル)プロピオン酸などの飽和カルボン酸ビニルエーテル類;アリルオキシ吉草酸、3−アリルオキシプロピオン酸、3−(2−アリロキシブトキシカルボニル)プロピオン酸、3−(2−アリロキシエトキシカルボニル)プロピオン酸などの飽和カルボン酸アリルエーテル類;3−(2−ビニロキシエトキシカルボニル)プロピオン酸、3−(2−ビニロキシブトキシカルボニル)プロピオン酸などのカルボン酸ビニルエーテル類;アジピン酸モノビニル、こはく酸モノビニル、フタル酸ビニル、ピロメリット酸ビニルなどの飽和多価カルボン酸モノビニルエステル類;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸無水物、イタコン酸無水物などの不飽和ジカルボン酸類またはその分子内酸無水物;イタコン酸モノエステル、マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステルなどの不飽和カルボン酸モノエステル類等が挙げられる。
【0015】
アミノ基を有する単量体としては、CH=C−O−(CH−NH(x=0〜10)で示されるアミノビニルエーテル類;CH=CH−O−CO(CH−NH(x=1〜10)で示されるアリルアミン類;そのほかアミノメチルスチレン、ビニルアミン、アクリルアミド、ビニルアセトアミド、ビニルホルムアミド等が挙げられる。
【0016】
エポキシ基を有する単量体としては、グリシジルビニルエーテルが挙げられる。また、シリル基を有する単量体としては、CH=CHCO(CHSi(OCH、CH=CHCO(CHSi(OC、CH=C(CH)CO(CHSi(OCH、CH=C(CH)CO(CHSi(OC、CH=CHCO(CHSiCH(OC、CH=C(CH)CO(CHSiC(OCH、CH=C(CH)CO(CHSi(CH(OC)、CH=C(CH)CO(CHSi(CHOH、CH=CH(CHSi(OCOCH、CH=C(CH)CO(CHSiC(OCOCH、CH=C(CH)CO(CHSiCH(N(CH)COCH、CH=CHCO(CHSiCH〔ON(CH)C、CH=C(CH)CO(CHSiC〔ON(CH)Cなどのアクリル酸エステル類またはメタクリル酸エステル類;CH=CHSi[ON=C(CH)(C)]、CH=CHSi(OCH、CH=CHSi(OC、CH=CHSiCH(OCH、CH=CHSi(OCOCH、CH=CHSi(CH(OC)、CH=CHSi(CHSiCH(OCH、CH=CHSiC(OCOCH、CH=CHSiCH〔ON(CH)C、ビニルトリクロロシランまたはこれらの部分加水分解物などのビニルシラン類;トリメトキシシリルエチルビニルエーテル、トリエトキシシリルエチルビニルエーテル、トリメトキシシリルブチルビニルエーテル、メチルジメトキシシリルエチルビニルエーテル、トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル、トリエトキシシリルプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類等が挙げられる。これらの単量体のうちでも、水酸基、カルボキシル基、より好ましくは水酸基を有する不飽和化合物が使用される。
【0017】
上記単量体に加えて、(c)フッ素原子及び架橋性官能基を有しない単量体を用いてもよい。例えば、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、プロペニルエーテル類、プロペニルエステル類およびアクリル酸エステル類、メタアクリル酸エステル類が挙げられ、具体的にはエチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ピバリン酸ビニル、ベオバ9およびベオバ10(シェル化学社製、炭素数9または10の分岐脂肪酸のビニルエステルの商品名)などが挙げられる。
【0018】
(a)含フッ素単量体に基づく単位と、(b)架橋性官能基を有する単量体に基づく単位、及び(c)フッ素原子及び架橋性官能基を有しない単量体に基づく単位の含有割合としては、含フッ素共重合体中の全重合単位に対して、(a)含フッ素単量体が、40〜60モル%、(b)架橋性官能基を有する単量体が4〜30モル%、(c)フッ素原子も架橋性の官能基も有しない単量体が3〜50モル%であることが好ましく、より好ましくは、(a)含フッ素単量体が、45〜55モル%、(b)架橋性官能基を有する単量体が8〜25モル%、(c)フッ素原子も架橋性の官能基も有しない単量体が20〜45モル%である。
【0019】
好ましい含フッ素共重合体としては、国際公開WO2007/125970に記載のものが挙げられる。該含フッ素共重合体(以下、含フッ素共重合体(A)という。)は、下記式(a1)で表される構造単位、式(a2)で表される構造単位、式(a3)で表される構造単位、及び(a4)で表される構造単位を有している。(a1)、(a2)、(a3)、(a4)で表される各構造単位の合計モル%の値は80〜100、好ましくは95〜100である。以下、式(a1)で表される構造単位を「構造単位(a1)」のようにも記す。他の式で表される化合物についても同様に記す。
【0020】
構造単位(a1)は、下式(a1)で表される。

−CFX−CX− (a1)

式(a1)において、XおよびXは、それぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子であり、Xは塩素原子、フッ素原子または−CY(Y、Y、Yはそれぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子である。)である。
【0021】
構造単位(a1)は、CF=CF、CClF=CF、CClF=CClF、CHF=CCl等のフルオロエチレン類;CFClCF=CF、CFCCl=CF、CFCF=CFCl、CFClCCl=CF、CFClCF=CFCl、CFClCF=CF、CFCCl=CClF、CClCF=CF、等のフルオロプロペン類、又はこれらの混合物から誘導することができる。これらの中で、CF=CF、CClF=CFが、塗膜の耐候性が優れる点で好ましい。
【0022】
含フッ素共重合体(A)における構造単位(a1)の含有割合は、構造単位全体に対して40〜60モル%であることが好ましく、45〜55モル%であることがより好ましい。 構造単位(a1)の含有割合が上記範囲である共重合体は、ガラス転移温度が高くなりすぎず、非晶質で良好な膜を構成する。
【0023】
構造単位(a2)は、下式(a2)で表される。
【化4】


式(a2)中のRは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜12のアルキル基または炭素数4〜10の1価の脂環式基であり、jは0〜8の整数、kは0または1である。好ましくは、式(a2)において、j=0であり、k=0または1である。
【0024】
構造単位(a2)は、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類(j=0、k=0の場合。);酢酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のカルボン酸ビニル類(j=0、k=1の場合)、又はこれらの混合物から誘導することができ、これらの中で、ビニルエーテル類が好ましく、構造単位(a1)を形成する単量体との交互共重合性がよく、共重合体のガラス転位温度を調整しやすい点で、エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルがより好ましい。
【0025】
含フッ素共重合体(A)における構造単位(a2)の含有割合は、含フッ素共重合体(A)の構造単位全体に対して、3〜50モル%が好ましく、より好ましくは20〜45モル%である。
【0026】
構造単位(a3)は、下式(a3)で表される。
【化5】

式(a3)中のRは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基または炭素数4〜10の2価の脂環式基であり、mは0〜8の整数、nは0または1である。
【0027】
構造単位(a3)は、4−ヒドロキシブチルビニルーテル、1−ヒドロキシメチル−4−ビニロキシメチルシクロヘキサン等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類(m=0、n=0の場合。);4−ヒドロキシブチルビニルエステル等のヒドロキシアルキルビニルエステル類(m=0、n=1の場合。)、又はこれらの混合物から誘導することができ、これらの中で重合性、架橋性などからヒドロキシアルキルビニルエーテル類が好ましい。
【0028】
含フッ素共重合体(A)における構造単位(a3)の含有割合は、含フッ素共重合体(A)の構造単位全体に対して4〜30モル%であることが好ましく、8〜25モル%であることがより好ましい。構造単位(a3)の含有割合が少なすぎると、硬化後の、架橋密度が低くなる。また、構造単位(a3)の含有割合が多すぎると、得られる塗膜の耐水性の低下が懸念される。
【0029】
構造単位(a4)は、下式(a4)で表される構造単位である。
【化6】

式(a4)中のR、Rは、式(a3)における各々と同じ意味であり、Rは炭素数2〜10のアルキレン基または炭素数4〜10の2価の脂環式基であり、Rは水素原子または−NHZ(Z、Z、Zはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基である。)であって、少なくとも一部のRは−NHZであることを必須とし、pは0〜8の整数、qは0または1である。含フッ素共重合体(A)が有する全構造単位(a4)のうち、Rが−NHZである割合は30〜100モル%であることが好ましく、50〜100モル%であることがより好ましい。
【0030】
含フッ素共重合体(A)における構造単位(a4)の含有割合は、含フッ素共重合体(A)の構造単位全体に対して0.4〜7モル%であることが好ましく、1.4〜6モル%であることがより好ましい。構造単位(a4)の割合が上記範囲であると、水への溶解性または分散性に優れ、水中での安定性に優れる。構造単位(a4)は、後述するように、構造単位(a3)をエステル化及び中和することにより誘導することができる。
【0031】
含フッ素共重合体(A)は、構造単位(a1)、構造単位(a2)、構造単位(a3)、構造単位(a4)以外の構造単位(以下、その他の構造単位という。)を、構造単位全体に対して20モル%以下の含有割合で含んでいてもよい。その他の構造単位としては、構造単位(a1)、(a2)、(a3)、(a4)を形成する単量体以外であって、エチレン性不飽和結合を有する単量体に基づく構造単位が挙げられる。
【0032】
含フッ素共重合体(A)の特に好ましい構成は、構造単位(a1)が45〜55モル%、構造単位(a2)が14〜45.6モル%、構造単位(a3)が8〜25モル%、構造単位(a4)が1.4〜6モル%であって、その他の構造単位を含有しない構成である。
【0033】
該水性塗料組成物には、含フッ素共重合体に加えて、他の樹脂が水に分散又は溶解していてもよい。他の樹脂としては、フッ素系、フェノール系、アルキド系、メラミン系、ユリア系、ビニル系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリウレタン系、アクリル系などの樹脂が挙げられる。これらの中でも、相溶性の点からフッ素系樹脂、アクリル系樹脂がより好ましい。
【0034】
フッ素系樹脂としては、特許第2955336号に記載のフルオロオレフィンに基づく重合単位及び親水性部位を有するマクロモノマーに基づく重合単位を必須構成成分とする含フッ素共重合体が挙げられる。ここで、親水性部位とは、親水性基を有する部位、又は親水性の結合を有する部位、及びこれらの組合せからなる部位を意味する。また、マクロモノマーとは片末端にラジカル重合性不飽和基を有する低分子量のポリマー又はオリゴマーのことである。この含フッ素共重合体を含有させた場合は、水性塗料組成物の安定性が改良される点で好ましい。
【0035】
該水性塗料組成物において、水に分散又は溶解している樹脂分に占める含フッ素共重合体の比率は、10〜100質量%が好ましく、50〜100質量%がより好ましい。含フッ素共重合体以外の他の樹脂として、フッ素系以外の樹脂を用いる場合は、優れた耐候性を付与する観点から含フッ素共重合体の比率を55質量%以上とすることが好ましい。該水性塗料組成物において、水に分散又は溶解している樹脂濃度は、3〜50質量%であることが好ましく、30〜50質量%であることがより好ましい。
【0036】
[微粒子]
該水性塗料組成物には、屈折率が低い微粒子を配合することが好ましい。該微粒子としては非晶質の無機微粒子が好ましく用いられ、金属等の酸化物、窒化物、硫化物またはハロゲン化物を用いることができ、なかでも酸化物が好ましい。これら無機化合物を構成する金属等の原子としては、Mg、Ca、Ba、Al、Zn、Fe、Cu、Ti、Sn、In、Si、B、Mo、Ce、PbおよびNi等が挙げられ、Mg、Ca、BおよびSiが好ましく、より好ましくはシリカ、特に多孔性シリカである。
【0037】
該微粒子の平均粒径は、0.001〜0.2μmであることが好ましく、0.005〜0.05μmであることがより好ましい。また、微粒子の粒径分布が狭い単分散であることが好ましい。
【0038】
該微粒子の添加量は、低屈折率層の全質量の5〜90質量%であることが好ましく、10〜70質量%であると更に好ましく、10〜50質量%が特に好ましい。該微粒子は表面処理を施して用いることも好ましい。表面処理法としてはプラズマ放電処理やコロナ放電処理のような物理的表面処理とカップリング剤を使用する化学的表面処理があるが、カップリング剤を使用する化学的表面処理が好ましい。カップリング剤としては、オルガノアルコキシメタル化合物(例、チタンカップリング剤、シランカップリング剤)が好ましく用いられる。該微粒子がシリカの場合はシランカップリング処理が特に有効である。
【0039】
上記微粒子の他に、該水性塗料組成物は、造膜助剤、表面調整剤、増粘剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤等の添加剤を適宜含有してよい。造膜助剤としては、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノ(2−メチルプロピオネート)、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。なお、造膜助剤は、有機溶媒の1種である。よって、造膜助剤を含有させる場合は、造膜助剤とそれ以外の有機溶媒の含有割合の合計が、水性塗料組成物において10質量%以下となるようにする。造膜助剤の含有量は、樹脂固形分の100質量部に対し、3質量部以下、特には1質量部以下とするのが好ましい。
【0040】
表面調整剤としては、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性シロキサン等が好ましく挙げられる。増粘剤としては、ポリウレタン系会合性増粘剤等が好ましく挙げられる。
【0041】
紫外線吸収剤としては、公知の種々のものが使用できる。例えば、サリチル酸メチル、サリチル酸フェニル、サリチル酸クレジル、サリチル酸ベンジル等のサリチル酸エステル類;
2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−5−クロロベンゾフェノン、2−アミノベンゾフェノン、アデカ・アーガス社製のT−57として販売されているような高分子量変性品等のベンゾフェノン類;
2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−ネオペンチルフェニル)ベンゾトリアゾール、チバ・ガイギー社製のチヌビン900、1130として販売されているような高分子量変性品等のベンゾトリアゾール類;
2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸エチル、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸2−エチルヘキシル、α−シアノ−β−メチル−4−メトキシ桂皮酸メチル等の置換アクリロニトリル類;
2,2’−チオビス(4−オクチルフェノレート)ニッケル錯塩、{2,2’−チオビス(4−t−オクチルフェノラート)}−n−ブチルアミン・ニッケル錯塩等のニッケル錯塩;
p−メトキシベンジリデンマロン酸ジメチル、レゾルシノールモノ安息香酸エステル、ヘキサメチルリン酸トリアミド、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン等の紫外線吸収剤;及びビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン)セバケート、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)等があり、これらは1種または2種以上の混合物として組み合わせて用いることもできる。紫外線吸収剤は、水性塗料組成物中の樹脂固形分100質量部あたり0.1〜15質量部、特には0.1〜5質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0042】
光安定剤としてはアデカアーガス社製のMARK LA 57,62,63,67,68、チバ・ガイギー社製のチヌビン622LDなどのようなヒンダードアミン系の光安定剤が挙げられる。これらは、1種または2種以上の混合物として紫外線吸収剤と組み合わせて用いることもできる。
【0043】
消泡剤としては、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸塩類、液体脂肪油硫酸エステル類、脂肪族アミン及び脂肪族アミドの硫酸塩類、脂肪族アルコールリン酸エステル類、二塩基性脂肪酸エステルのスルホン酸塩類、脂肪酸アミドスルホン酸塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類、ホルマリン縮合のナフタリンスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、アクリル系ポリマー、シルコーン混合アクリル系ポリマー、ビニル系ポリマー、ポリシロキサン化合物などが挙げられる。これらの消泡剤のうち、消泡効果は親水基と疎水基のバランス(HLB価)で左右され、HLBが6以下、特に4以下のものが好ましく採用される。
【0044】
[含フッ素共重合体を含む水性塗料組成物の製造方法]
含フッ素共重合体を含む水性塗料組成物の製造方法は特に制限されない。例えば(I)乳化重合により、含フッ素共重合体の水性分散体を得る方法、(II)溶液重合で得られた含フッ素共重合体を、適宜変性した後、溶媒を水性媒体に転換して含フッ素共重合体の水性分散体を得る方法が挙げられる。
【0045】
(I)の乳化重合による方法は公知の方法で得られ、例えば特許3373256に記載の方法などが挙げられる。(I)、(II)の方法のうち、水性塗料用組成物が乳化剤を含有しないことから(II)の方法が好ましく、例えば、含フッ素共重合体(A)を用いる場合は、以下のようにして組成物を製造することができる。
(1)構造単位(a1)、構造単位(a2)、および構造単位(a3)を所定割合で含む、含フッ素共重合体(B)を作る工程、
(2)含フッ素共重合体(B)と、二塩基性酸無水物とを反応させることにより、構造単位(a3)における水酸基の一部をエステル化しカルボキシ基を導入するエステル化工程(エステル化工程)、
(3)工程(2)で得られた共重合体に、塩基性化合物を加え、前記カルボキシ基の少なくとも一部を塩基性化合物で中和して、構造単位(a4)を形成し、及び水を加える中和工程、及び
(4)有機溶媒を除去する溶媒除去工程。
【0046】
工程(1)は、各構造単位に対応する単量体を、t−ブチルパーオキシアセテート等の酸化物触媒下で、重合させることにより行われることが好ましい。得られる含フッ素共重合体(B)は、構造単位(a1)40〜60モル%、構造単位(a2)3〜50モル%、および構造単位(a3)4.4〜37モル%(ただし、式(a1)、式(a2)、式(a3)で表される各構造単位の合計モル%の値は80〜100である。)から構成されることが好ましい。
【0047】
(2)エステル化工程では、含フッ素共重合体(B)に、二塩基性酸無水物を反応させることにより、(a3)で表される構造単位における水酸基の一部をエステル化しカルボキシ基を導入する。
【0048】
二塩基性酸無水物としては無水コハク酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸、無水アジピン酸、無水1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、無水cis−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、無水フタル酸、無水1,8−ナフタル酸、無水マレイン酸等が好ましく採用される。
【0049】
該エステル化は、有機溶媒中で行われることが好ましく、該有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ペンタノール等のアルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、イソプロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、第2級ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のプロピレングリコール誘導体;エチレングリコールエチルエーテルアセテート;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族化合物などが挙げられ、含フッ素重合体(B)および二塩基性酸無水物の溶解性などを勘案して適宜選定される。 なお、工程(1)における重合で有機溶媒を用い、該有機溶媒が充分に残留していれば、エステル化工程において新たに有機溶媒を添加する必要はない。
【0050】
反応させる二塩基性酸無水物の量は、結果的に、得られる含フッ素共重合体(A)における、構造単位(a4)の含有割合が0.4〜7モル%となり、構造単位(a3)の含有割合が4〜30モル%残存するように調整して決定することが好ましい。エステル化反応後の構造単位(a4)の量は、酸価を測定することによって確認できる。エステル化反応後の酸価が2〜35mgKOH/gであると、構造単位(a4)が0.4〜7モル%であることが確認できる。エステル化反応前の構造単位(a3)の量は、エステル化前の水酸基価から確認できる。構造単位(a3)が4〜30モルであるためには、エステル化前の水酸基価が20〜150mgKOH/gであって、エステル化後の酸価が上記範囲であることが必要である。
【0051】
(3)中和工程では、エステル化された含フッ素共重合体(B)に塩基性化合物を加え、エステル化工程で導入されたカルボキシ基の少なくとも一部を塩基性化合物で中和する。構造単位(a4)中、塩基性化合物で中和する割合は30〜100モル%であることが好ましく、50〜100モル%であることがより好ましい。中和工程の反応は、塩基性化合物または塩基性化合物の水溶液を、エステル化された含フッ素共重合体(B)が溶解した有機溶媒に対して、室温で数10分攪拌しながら加えれば、充分に進行する。
【0052】
中和工程では、塩基性化合物を加えると共に水も加えることが好ましい。水は、塩基性化合物と同時に加えても別々に加えても、一部を同時に加えて残りを別々に加えてもよい。一部または全部を同時に加える場合には、塩基性化合物の水溶液とすることが好ましい。別々に加える場合には、塩基性化合物を加える前に加えても、後に加えてもよい。中でも、塩基性化合物を加えた後に水を加える方法と、塩基性化合物の水溶液を加える方法が好ましい。中和工程で加える水の量は、エステル化された含フッ素共重合体(B)の固形分濃度が、3〜50質量%、特には15〜35質量%となるようにすることが好ましい。
【0053】
中和工程で用いる塩基性化合物は、低屈折率層中に塩基性化合物が残留しない様、沸点が200℃以下であることが好ましい。かかる塩基性化合物としては、アンモニア;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン等の1級、2級または3級のアルキルアミン類;モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール等のアルカノールアミン類;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のジアミン類;エチレンイミン、プロピレンイミン等のアルキレンイミン類;ピペラジン、モルホリン、ピラジン、ピリジン等が挙げられる。
【0054】
(4)溶媒除去工程では、有機溶媒を除去する。これにより、有機溶媒が全質量に対して10質量%以下である水性塗料組成物が得られる。ここで除去すべき溶媒としては、エステル化工程で用いた有機溶媒が残留したものが挙げられる。また、含フッ素共重合体(B)を製造する場合の重合過程で用いられた有機溶媒が残留したものが挙げられる。溶媒の除去は、減圧留去により行うことができる。
【0055】
[水性塗料組成物の塗布方法]
上記水性塗料組成物を、基材フィルムに塗布する前に、必要に応じて硬化剤及び触媒と混合した後、基材フィルムに塗布し、硬化反応に付する。硬化反応条件は、硬化剤及び触媒等に応じて変わるが、常温で放置もしくは、加熱焼き付けすることにより行うことができる。
【0056】
硬化剤を使用する場合には、含フッ素共重合体中の架橋性官能基と反応する硬化剤であれば特に制限なく使用することができる。含フッ素共重合体中の架橋性官能基としては、水酸基、カルボキシル基が好ましいことから、水酸基、カルボキシ基等と反応する官能基を有する硬化剤であることが好ましい。斯かる硬化剤としては、イソシアネート系化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、メラミン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、又はトルエン樹脂からなる硬化剤などが挙げられる。特にイソシアネート化合物が耐候性、機械的性質に優れた塗膜が得られやすいため好ましい。
【0057】
イソシアネート化合物からなる硬化剤としては、機械的に水に分散されたもの、または自己乳化性の水分散型ポリイソシアネート化合物からなる硬化剤が好ましい。自己乳化性のポリイソシアネート化合物とは、乳化剤なしに水に乳化分散可能な化合物のことである。機械的に水に分散させるポリイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート類;m−またはp−フェニレンジイソシアネート、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネート−3,3’−ジメチルジフェニルなどの芳香族ポリイソシアネート類;ビス−(イソシアネートシクロヘキシル)メタン、イソホロンジイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネート類;クルードトリレンジイソシアネート、クルードジフェニルメタンジイソシアネートなどのクルードポリイソシアネート類;カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリオール変性ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリオール変性ヘキサメチレンジイソシアネートなどの変性ポリイソシアネート類が挙げられる。
【0058】
これらのポリイソシアネート類はビューレット型、イソシアヌレート環型、ウレトジオン型等により、2量体または3量体になっているもの、あるいはイソシアネート基をブロック化剤と反応させたブロックポリイソシアネート類であってもよい。ブロック化剤としては、アルコール類、フェノール類、カプロラクタム類、オキシム類、活性メチレン化合物類などが挙げられる。
【0059】
上記のポリイソシアネート類は、2種以上併用してもよい。機械的に水に分散させる際に乳化剤を添加すると、より安定な分散体が得られる。ここで使用する乳化剤としては、公知のものが特に限定なく使用されるが、イオン性、特に、活性水素原子を有するものは、分散時に反応して増粘したり、分散性が低下したりするため好ましくない。非イオン性乳化剤、特にポリオキシエチレン鎖を有する乳化剤が好ましい。
【0060】
ブロックポリイソシアネート類は、通常120℃以上でないと硬化しないため、それより低い温度で硬化させる場合には、ブロック化されていないポリイソシアネート類を使用することが好ましい。
【0061】
また、自己乳化性のポリイソシアネート化合物としては、上記のポリイソシアネート類に親水性のポリオキシアルキレン類を反応せしめたプレポリマーなどが例示できる。親水性のポリオキシアルキレン類としては、イソシアネート反応性基を少なくとも1個有する、数平均分子量が200〜4000の範囲のものが好ましい。特に好ましくは分子量が300〜1500の範囲のポリオキシアルキレンポリオールまたはポリオキシアルキレンモノオールである。分子量の小さいものは自己乳化性が充分に達成されず、分子量の高いものは、自己乳化性は良好であるが、水中安定性が悪くなり、また、結晶性が高くなるため、低温での貯蔵安定性が低く、濁りが発生する。ポリオキシアルキレン類におけるオキシアルキレン鎖としては、その全部または多くがオキシエチレン基であるものが親水性の面から好ましい。
【0062】
ポリイソシアネート類とポリオキシアルキレングリコール類の反応は、3級アミン類、アルキル置換エチレンイミン類、3級アルキルホスフィン類、金属アルキルアセトネート類、有機酸金属塩類等の触媒の存在下、必要に応じて助触媒の存在下に100℃以下で行う。また、反応に際しては、残存イソシアネート基の量が10〜24質量%、特には15〜20質量%となるように調整することが好ましい。残存イソシアネート基の量が少ないと含フッ素共重合体との反応性が低下することがあり好ましくない。また、充分な架橋度を達成するために多量のイソシアネート化合物が必要となるため、塗膜の耐候性に悪い影響を与えることがあり好ましくない。残存イソシアネート基の量が多すぎると安定な乳化液が形成されにくいため好ましくない。自己乳化性のイソシアネート化合物は特公平4−15270号公報などに記載されている。
【0063】
メラミン樹脂からなる硬化剤としては、メチルエーテル化、ブチルエーテル化、イソブチルエーテル化などのアルキルエーテル化されたメラミン樹脂が挙げられ、水溶性の面から、少なくとも一部がメチルエーテル化されたメラミン樹脂が好ましい。
【0064】
含フッ素共重合体と硬化剤との質量比(質量%)は、30〜95/5〜50、特に65〜90/10〜35であることが好ましい。
【0065】
上記硬化剤及び触媒を添加した後、基材フィルム上に水性塗料組成物を塗布する。塗布方法としては、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法等の公知の方法を用いることができる。又、水性塗料組成物の量は、乾燥・硬化後の低屈折率層の厚みが、0.01〜30μm、好ましくは0.05〜5μmとなる量であることが好ましい。
【0066】
[ハードコート層]
フィルム強度を向上するために、基材フィルムと低屈折率層の間に、ハードコート層を塗設してもよい。該ハードコート層の屈折率は、低屈折率層及び基材フィルムの屈折率に応じて調整する。該ハードコート層は、二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーと、フッ素以外のハロゲン原子、硫黄、リン、及び窒素から選ばれた少なくとも1つのヘテロ原子を含む、エチレン性不飽和基を有するモノマーを共重合させて、高屈折率とすることが好ましい。
【0067】
二個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの例には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル;及び1,4−ジビニルベンゼン、1,4−ジビニルシクロヘキサノン、ジビニルスルホン等の、ジビニルベンゼンおよびその誘導体が含まれる。
【0068】
ヘテロ原子を含むモノマーとしては、ビス(4−メタクリロイルチオフェニル)スルフィドビニルフェニルスルフィド、4−メタクリロキシフェニル−4’−メトキシフェニルチオエーテル等が挙げられる。
【0069】
該ハードコート層には、膜の硬化強度を高め、又、屈折率を高めるための無機微粒子を添加してもよい。無機微粒子としては平均粒子サイズが0.5μm以下のものが好ましく、0.2μm以下のものが特に好ましい。例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリンおよび硫酸カルシウム等の微粒子が挙げられ、これらのうち、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウムの微粒子が好ましい。これらの微粒子は、バインダー樹脂との親和性を高めるために、表面処理されていることが好ましい。
【0070】
また、酸化錫、酸化インジウム等の導電性無機微粒子を添加して、ハードコート層に導電性を持たせてもよい。ハードコート層に添加する上記の各種無機微粒子の添加量は、ハードコート層の全質量の10〜90質量%であることが好ましく、20〜80質量%であると更に好ましく、30〜60質量%が特に好ましい。また、ハードコート層の厚さは1〜15μmであることが好ましい。
【0071】
[高屈折率層]
上記ハードコート層と低屈折率層の間に、高屈折率層を設けてもよい。該高屈折率層は、上記ハードコート層と同様のものから構成してよく、ハードコート層の機能を兼ねたものであってよい。該高屈折層の屈折率は、基材フィルムの屈折率より、0.05〜1.5高いことが好ましい。該高屈折率層の厚さは、0.05μm〜50μmであることが好ましく、0.1μm〜20μmであることがより好ましく、0.3μm〜10μmであることが最も好ましい。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下において「部」は特に断わりのない限り「質量部」を示す。
<含フッ素共重合体を含む水性塗料組成物の合成例1>
以下の方法により、含フッ素共重合体水性塗料組成物を調製した。
フレーク状のクロロトリフルオロエチレン/エチルビニルエーテル/シクロヘキシルビニルエーテル/ヒドロキシブチルビニルエーテル共重合体(モル%比が50/15/15/20) (水酸基価100mgKOH/g、Mw7000、ルミフロン(商標)旭硝子社製)を、メチルエチルケトン(MEK)に溶解して固形分60質量%の共重合体溶液を得た。
【0073】
この共重合体溶液300部に、無水こはく酸の20質量%アセトン溶液の19.3部、及び触媒としてトリエチルアミンの0.072部を加え、70℃で6時間反応させエステル化した。反応液の赤外吸収スペクトルを測定したところ、反応前に観測された無水酸の特性吸収(1850cm−1、1780cm−1)が反応後では消失しており、カルボン酸(1710cm−1)およびエステル(1735cm−1)の吸収が観測された。得られたエステル化後の含フッ素共重合体の酸価は12mgKOH/g、水酸基価は86mgKOH/gであった。この酸価と水酸基価の値によれば、ヒドロキシブチルビニルエーテルの構造単位20モル%の内、約2.4モル%がエステル化されたこととなる。
【0074】
次に、エステル化後の含フッ素共重合体に、トリエチルアミン2.73部を加え室温で20分攪拌しカルボン酸の一部を中和し、次いでイオン交換水の180部を徐々に加えた。これにより、エステル化されカルボキシ基が導入された構造単位、約2.4モル%の内、約1.7モル%を中和した。
【0075】
その後、アセトンおよびメチルエチルケトンを減圧留去した。さらにイオン交換水の約90部を加えて、固形分濃度40質量%の合成例1の水性塗料組成物を得た。得られた合成例1の原料組成及びエステル化後の酸価と水酸基価、並びに、これらの値から求めた各構造単位のモル%を表1に示す。 なお、表1において、(a1)はクロロトリフルオロエチレン構造単位のモル%を、(a2)はエチルビニルエーテル構造単位とシクロヘキシルビニルエーテル構造単位の合計モル%を、(a3)はヒドロキシブチルビニルエーテル構造単位のモル%を、(a4−1)はエステル化されたヒドロキシブチルビニルエーテル構造単位の内、中和されていないもののモル%を、(a4−2)はエステル化されたヒドロキシブチルビニルエーテル構造単位の内、中和されたもののモル%を各々示す。
【0076】
<合成例2及び3>
エステル化に使用する無水こはく酸のアセトン溶液の量を、夫々、33.8部及び48.2部、および中和反応に使用するトリエチルアミンの量を4.78部及び6.83部に変更した他は、合成例1と同様にして合成例2及び3の水性塗料組成物を得た。
得られた合成例1〜3の共重合体における各構造単位のモル%、及び溶媒量を表1に示す。
【0077】
<比較合成例1>
比較用に、含フッ素共重合体有機溶媒系組成物を調製した。
内容積2500mlのステンレス製撹拌機付き耐圧反応器にキシレンの590g、エタノールの170g、エチルビニルエーテル(EVE)の206g、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル(HBVE)の129g、シクロヘキシルビニルエーテル(CHVE)の208g、炭酸カルシウムの11g及び重合開始剤としてパーブチルパーピバレート(PBPV)の3.5gを仕込み、窒素による脱気により液中の溶存酸素を除去した。次にクロロトリフルオロエチレン(CTFE)の660gを導入して徐々に昇温し、温度65℃に維持しながら反応を続けた。
10時間後、反応器を水冷して反応を停止した。この反応液を室温まで冷却した後、未反応モノマーをパージし、得られた反応液を珪藻土で濾過して固形物を除去した。次にキシレンの一部とエタノールを減圧留去により除去し、含フッ素共重合体キシレン溶液を得た。該含フッ素ポリマーの水酸基価は50mgKOH/g、該含フッ素ポリマー溶液の固形分濃度は60%であった。
【0078】
[実施例1〜3、比較例1]
合成例1〜3及び比較合成例1の各100gに、シリカゾル(MEK−ST、日産化学(株)製)7gを加えて分散させた。得られた各分散液に、水分散型ポリイソシアネート(バイヒジュール3100、住化バイエルウレタン社製)を、夫々、水性塗料組成物100gに対して、15.2g、14g、12.2g添加した。比較例1の分散液には、共重合体キシレン溶液100gに対して、10.7gの該水分散型ポリイソシアネートと、触媒として、ジブチルチンジラウレート(100ppmキシレン溶液)4.2gを添加した。
得られた各組成物を、トリアセチルセルロースフィルム(厚み80μm、TAC−TD80U、富士写真フィルム(株)製、屈折率1.49)上に、バーコーターを用いて、硬化後の厚みが0.1μmとなる様に塗布し、室温で72時間放置し、反射防止フィルムを得た。
【0079】
各反射防止フィルムの白化の有無を、目視にて確認し、下記基準により評価した。結果を表1に示す。
A:透明度が高く、白化が無い。
B:若干白化がある。
C:白化が顕著である。
【0080】
【表1】

【0081】
上表から分かるように、水性塗料組成物を用いて低屈折率層を構成した場合、特に有機溶媒を含まない組成物を用いた場合には、ほとんど白化が認められなかった。それに対して、有機溶媒系組成物を用いた場合には、白化が顕著であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素共重合体および水を含む水性塗料組成物を基材フィルム上に塗布する工程、及び
該塗布された水性塗料組成物を硬化する工程
を含むことを特徴とする反射防止フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記含フッ素共重合体および水を含む水性塗料組成物が、有機溶媒を含まない、又は該組成物の全質量に対して10質量%以下で含むことを特徴とする、請求項1記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記含フッ素共重合体が、水酸基、カルボキシル基、及びアミノ基なる群より選ばれる少なくとも一種の基を有し、
前記塗布する工程の前に、前記含フッ素共重合体および水を含む水性塗料組成物とポリイソシアネート化合物からなる硬化剤を混合する工程をさらに含む、請求項1又は2記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記含フッ素共重合体が、式(a1)で表される構造単位40〜60モル%、式(a2)で表される構造単位3〜50モル%、式(a3)で表される構造単位4〜30モル%、式(a4)で表される構造単位0.4〜7モル%(ただし、(a1)、(a2)、(a3)、(a4)で表される各構造単位の合計モル%の値は80〜100である。)からなる共重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の反射防止フィルムの製造方法。
−CFX−CX− ・・・式(a1)
[ただし、式(a1)において、XおよびXは、それぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子であり、Xは塩素原子、フッ素原子または−CY(Y、Y、Yはそれぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子である。)である。]
【化1】

[ただし、式(a2)において、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜12のアルキル基、または炭素数4〜10の1価の脂環式基であり、jは0〜8の整数、kは0または1である。]
【化2】

[ただし、式(a3)において、Rbは水素原子またはメチル基、R2は炭素数1〜10のアルキレン基、または炭素数4〜10の2価の脂環式基であり、mは0〜8の整数、nは0または1である。]
【化3】

[ただし、式(a4)において、RおよびRは式(3)における各々と同じ意味であり、Rは炭素数2〜10のアルキレン基または炭素数4〜10の2価の脂環式基であり、Rは水素原子または−NHZ(Z、Z、Zはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基である。)であって、少なくとも一部のRは−NHZであり、pは0〜8の整数、qは0または1である。]
【請求項5】
式(a2)で表わされる構造単位が、j=k=0の構造単位であり、式(a3)で表わされる構造単位が、m=n=0の構造単位であることを特徴とする請求項4記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ポリイソシアネート化合物からなる硬化剤が、水分散型であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の反射防止フィルムの製造方法で製造された反射防止フィルムを少なくとも片面に有することを特徴とする偏光板。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項記載の反射防止フィルムの製造方法で製造された反射防止フィルムを備えることを特徴とする画像表示装置。

【公開番号】特開2012−168330(P2012−168330A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28858(P2011−28858)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】