説明

反射防止フィルム

【課題】高屈折率層と隣接する界面の架橋(特に隣接する低屈折率層と高屈折率層の界面の架橋)を強化し、密着性、耐擦傷性などの物理強度を向上し、さらに鹸化処理を行ってもその物理強度が損なわれない高い耐薬品性を有する反射防止フィルムを提供すること。
【解決手段】透明支持体上に、エチレン性不飽和基を有する金属アルコキシドを含有する高屈折率層があり、かつ高屈折率層の固形分1グラム当たりのTiおよび/又はZrの含有量が少なくとも2.0ミリモルであり、さらに該高屈折率層の上にシリカ微粒子およびエチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物を主成分として含有する低屈折率層を形成し、熱および紫外線照射により硬化した反射防止フィルムを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止フィルムは、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、陰極管表示装置(CRT)などのような様々な画像表示装置において、ディスプレイの表面に配置され、外光の反射や像の映り込みによるコントラスト低下を防止するとともに、高い物理強度(耐擦傷性など)、透明性等が要求される。
反射防止の原理としては、屈折率の異なる薄膜の光学干渉を利用し反射光を低減するものであり、反射防止フィルムは、高屈折率層と低屈折率層を作製する技術が重要である。
【0003】
例えば、高屈折率層を作製する方法として、金属アルコキドのゾルゲル熱硬化とUV硬化を併用する高屈折率膜の技術が開示されている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかし、これらの特許文献では、高屈折率層の強度自体は高くできても、密着性については満足できるものではなかった。また、これらの特許文献におけるゾルゲル法により形成された高屈折率膜は、反射防止フィルムを偏光板に加工する際に行われる高アルカリ液の鹸化処理によって金属アルコキシドの加水分解重縮合物であるゾルゲル膜が加水分解され、膜強度が劣化することがあり、最終的な偏光板形態として耐擦傷性、密着性は満足できるものでなかった。
また、従来技術による反射防止フィルムは、面内の膜厚不均一によると推測される、反射光の色ムラが塗布面に発生しやすく、満足できるものではなかった。
【特許文献1】特許第3674293号公報
【特許文献2】特開2001−31871号公報
【特許文献3】特開2001−164119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、高屈折率層と隣接する界面の架橋(特に隣接する低屈折率層と高屈折率層の界面の架橋)を強化し、密着性、耐擦傷性などの物理強度を向上し、さらに鹸化処理を行ってもその物理強度が損なわれない高い耐薬品性を有する反射防止フィルムの提供にある。
さらに低反射率であり、反射光の色ムラが少ない反射防止フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、エチレン性不飽和基を有する金属アルコキシドと、TiおよびまたはZr(のゾルゲル成分)を含有する高屈折率層を下層とし、シリカ微粒子およびエチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物を主成分とする低屈折率層を上層とする組み合わせにより、上記課題が解決できることを見出し、下記構成の本発明を完成した。
まず本発明者らは、Tiおよび/またはZr(のゾルゲル成分)を多く含有する高屈折率層と、シリカ微粒子および含フッ素化合物を主成分とする低屈折率層を重層塗布した場合に、互いの層の交じり合いによる染み込みがなく、薄膜の厚み均一性が高いため、反射光の色ムラが起こらないという驚くべき事実を見出した。これは原因が明らかになっていないが、薄膜を重層する場合にのみ生じる現象であった。
さらに本発明者らは、高屈折率層がエチレン性不飽和基を有する金属アルコキシドを含有し、低屈折率層がエチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物を含有する場合に、紫外線硬化により上下層の強固な界面結合がなされることを見いだした。
またこのとき、上層には含フッ素化合物があるため、高アルカリ液処理(鹸化処理)でも膜内部へのアルカリ水の浸透が少なく、高屈折率層の金属アルコキシドの加水分解重縮合部は加水分解を受けにくいことがわかった。これらのことを考え合わせ本発明に到った。
すなわち、本発明は下記の構成である。
【0006】
(1)透明支持体上に、エチレン性不飽和基を有する金属アルコキシドを含有する高屈折率層があり、かつ高屈折率層の固形分1グラム当たりのTiおよび又はZrの含有量が少なくとも2.0ミリモルであり、さらに該高屈折率層の上にシリカ微粒子およびエチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物を主成分として含有する低屈折率層を形成し、熱および紫外線照射により硬化した反射防止フィルム。
【0007】
(2)前記高屈折率層のエチレン性不飽和基を有する金属アルコキシドの金属種が、Ti、Ta、Zr、In、Znのいずれかである(1)に記載の反射防止フィルム。
【0008】
(3)前記低屈折率層のエチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物が、一分子中に2個以上のエチレン性不飽和基を有する(1)又は(2)に記載の反射防止フィルム。
【0009】
(4)前記低屈折率層のエチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物が、重合体である(1)〜(3)のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【0010】
(5)前記シリカ微粒子が、中空状シリカ微粒子である請求項1〜4のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【0011】
(6)前記低屈折率層の屈折率が1.20〜1.40である(1)〜(5)のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【0012】
(7)前記高屈折率層の屈折率が1.70〜2.00である(1)〜(6)のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【0013】
(8)前記高屈折率層が、さらに1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性モノマーを含有する(1)〜(7)のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【発明の効果】
【0014】
極低反射率を得るために好ましい薄膜の屈折率を容易に実現することができ、鹸化処理を行ってもフィルムの密着性が高く、耐擦傷性に優れた反射防止フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明の反射防止フィルムについて説明する。
〔光学フィルムの層構成〕
本発明の反射防止フィルムは、透明な基材(支持体とも言う。)上に、少なくとも1層の高屈折率層と、少なくとも1層の低屈折率層を有し、目的に応じてその他の機能層を単独又は複数層設けることができる。
好ましい一つの態様としては、基材上に光学干渉によって反射率が減少するように屈折率、膜厚、層の数、層順等を考慮して積層された反射防止フィルムを挙げることができる。反射防止フィルムは、基材よりも屈折率の高い高屈折率層と、基材よりも屈折率の低い低屈折率層を組み合わせて構成することが好ましい。構成例としては、基材側から高屈折率層/低屈折率層の2層のものや、屈折率の異なる3層を、中屈折率層(基材又はハードコート層よりも屈折率が高く、高屈折率層よりも屈折率の低い層)/高屈折率層/低屈折率層の順に積層されているもの等があり、更に多くの反射防止層を積層するものも提案されている。中でも、耐久性、光学特性、コストや生産性等から、ハードコート層を有する基材上に、中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層の順に塗布することが好ましく、例えば、特開平8−122504号公報、同8−110401号公報、同10−300902号公報、特開2002−243906号公報、特開2000−111706号公報等に記載の構成が挙げられる。
また、各層に他の機能を付与させてもよく、例えば、防汚性の低屈折率層、帯電防止性の高屈折率層としたもの(例、特開平10−206603号公報、特開2002−243906号公報等)等が挙げられる。
【0016】
上記態様のフィルムの好ましい層構成の例を下記に示す。下記構成において基材フィルムは、フィルムで構成された支持体を指している。
・基材フィルム/ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層
・基材フィルム/防眩層/高屈折率層/低屈折率層
・基材フィルム/防湿層/ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層
・基材フィルム/防湿層/防眩層/高屈折率層/低屈折率層
・基材フィルム/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
・基材フィルム/防眩層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
・防湿層/基材フィルム/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
・防湿層/基材フィルム/防眩層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
・基材フィルム/ハードコート層/導電性層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
・基材フィルム/ハードコート層/導電性中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
・防湿層/基材フィルム/ハードコート層/導電性中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
【0017】
これらの層は、蒸着、大気圧プラズマ、塗布などの方法により形成することができる。生産性の観点からは、塗布により形成することが好ましい。
以下各構成層について説明する。
【0018】
(低屈折率層)
本発明において、低屈折率層は、反射防止フィルムの最表面側に位置し、反射防止フィルムの層の中で最も屈折率が低い層であり、エチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物を含有する。
エチレン性不飽和基とは、具体的には末端がビニル基、アリル基、アクリロリル基、メタクリロイル基、イソプロペニル基であることを意味し、アクリロリル基、メタクリロイル基が特に好ましい。
エチレン性不飽和基は一分子中に一つであってもよいが、エチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物が一分子中に2個以上のエチレン性不飽和基を有することがより好ましい。
【0019】
2個以上のエチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物の具体例としては、公知の技術を使用することができ、例えば特開平9−301925号公報に記載の含フッ素多官能(メタ)アクリル酸エステル、特開平10−182745号公報に記載の含フッ素多官能(メタ)アクリル酸エステル、特開平10−182746号公報に記載の含フッ素多官能(メタ)アクリル酸エステル、特開2001−72646号公報に記載の含フッ素多官能(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。
【0020】
さらにエチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物が重合体であることが好ましく、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下GPCともいう)で、テトラヒドロフラン(以下THFともいう)を溶剤として測定したポリスチレン換算数平均分子量が1000〜500,000であることが好ましい。数平均分子量が500,000を超えると、組成物の粘度が高くなり、薄膜化が困難となるため好ましくない。
【0021】
本発明において好ましいエチレン性不飽和基を有する含フッ素重合体は、具体的には公知の技術を使用することができ、例えば特開2005−89536号公報、特開2005−290133号公報、特開2006−36835号公報に記載されたエチレン性不飽和基含有含フッ素重合体を挙げることができる。
【0022】
これらエチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物の添加量は、低屈折率層の固形分100質量%に対して10〜100質量%が好ましく、20〜90質量%がより好ましく、30〜90質量%が最も好ましい。
【0023】
本発明において低屈折率層は、シリカ微粒子を含有し、その平均粒子径は1nm〜100nmであることが好ましい。シリカ微粒子は、中実粒子でも良いが、屈折率を低下させるために中空状シリカ微粒子を用いることが好ましい。該中空状シリカ微粒子は屈折率が1.17〜1.40、より好ましくは1.17〜1.35、さらに好ましくは1.17〜1.30である。ここでの屈折率は粒子全体としての屈折率を表し、中空状シリカ微粒子を形成している外殻のシリカのみの屈折率を表すものではない。この時、粒子内の空腔の半径をa、粒子外殻の半径をbとすると、空隙率xは下記数式(VIII)で算出される。
(数式VIII) x=(4πa 3 /3)/(4πb 3 /3)×100
空隙率xは、好ましくは10〜60%、さらに好ましくは20〜60%、最も好ましくは30〜60%である。中空状シリカ微粒子をより低屈折率に、より空隙率を大きくしようとすると、外殻の厚みが薄くなり、粒子の強度としては弱くなるため、耐擦傷性の観点から1.17未満の低屈折率の粒子は成り立たない。
なお、これら中空状シリカ微粒子の屈折率はアッベ屈折率計(アタゴ(株)製)にて測定をおこなった。
【0024】
これらシリカ微粒子または中空状シリカ微粒子の添加量は、低屈折率層の固形分100質量%に対して10〜80質量%が好ましく、20〜70質量%がより好ましく、30〜60質量%が最も好ましい。
【0025】
本発明において低屈折率層は、シリカ微粒子およびエチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物を主成分として含有するが、低屈折率層の全固形分を100質量%としたときに、シリカ微粒子とエチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物の合計固形分が70質量%以上であるとき、主成分といえる。シリカ微粒子とエチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物の合計固形分は80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが最も好ましい。
また、シリカ微粒子とエチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物の固形分の比は、3:7〜7:3であることが好ましい。
【0026】
低屈折率層の屈折率は、1.50以下であることが好ましく、特に1.40以下であることがより好ましく、1.20〜1.40であることが最も好ましい。
【0027】
また、低屈折率層の厚みは、10nm〜500nmであることが好ましく、さらに20nm〜300nmであることがより好ましく、40nm〜200nmであることが最も好ましい。
【0028】
(高屈折率層)
本発明において高屈折率層は、反射防止フィルムの表面側から低屈折率層の直下にある隣接層であり、前述の低屈折率層よりも屈折率が高い層であり、エチレン性不飽和基を有する金属アルコキシドを含有する。
エチレン性不飽和基を有する金属アルコキシドは、単体で高屈折率層に添加されてもよいし、加水分解物としたものを高屈折率層に添加しても良い。
エチレン性不飽和基とは、具体的には末端がビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、イソプロペニル基であることを意味し、アクリロイル基、メタクリロイル基が特に好ましい。
エチレン性不飽和基は一分子中に複数あってもよい。
【0029】
エチレン性不飽和基を有する金属アルコキシドの金属種は、熱硬化した際の金属酸化物の屈折率が2.0以上となる金属種が好ましく、特にTi、Ta、Zr、In、Znのいずれかであることが好ましい。中でもTi、Zrであることが最も好ましい。
【0030】
エチレン性不飽和基を有する金属アルコキシドの具体例としては、ビニルトリメトキシチタン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)チタン、ジビニロキジメトキシチタン、アクリロイルオキシエチルトリエトキシチタン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリ(n)プロポキシチタン、メタクリロイルオキシプロピルトリ(n)プロポキシチタン、ジ(γ−アクリロイルオキシプロピル)ジ(n)プロポキシチタン、アクリロイルオキシジメトキシエトキシチタン、メタクリロイルオキシトリイソプロポキシチタン、アクリロイルオキシ(n)ブトキシチタン、2−(アクリロイルオキシ)エトキシトリイソプロポキシチタン、ビニルトリメトキシジルコニウム、ジビニロキジメトキシジルコニウム、アクリロイルオキシエチルトリエトキシジルコニウム、γ−アクリロイルオキシプロピルトリ(n)プロポキシジルコニウム、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリ(n)プロポキシジルコニウム、ジ(γ−アクリロイルオキシプロピル)ジ(n)プロポキシジルコニウム、アクリロイルオキシジメトキシエトキシジルコニウム、アクリロイルオキシ(n)ブトキシジルコニウム、ビニルジメトキシタリウム、ビニルジ(β−メトキシ−エトキシ)タリウム、ジビニロキシメトキシタリウム、アクリロイルオキシエチルジエトキシタリウム、γ−アクリロイルオキシプロピルジ(n)プロポキシタリウム、γ−メタクリロイルオキシプロピルジ(n)プロポキシタリウム、ジ(γ−アクリロイルオキシプロピル)(n)プロポキシタリウム、アクリロイルオキシメトキシエトキシタリウム、アクリロイルオキシ(n)ブトキシタリウム等を挙げることが出来る。
【0031】
これらエチレン性不飽和基を有する金属アルコキシドの添加量は、高屈折率層の固形分100質量%に対して10〜90質量%が好ましく、15〜85質量%がより好ましく、20〜80質量%が最も好ましい。
【0032】
高屈折率層の屈折率は、1.70〜2.00であることが好ましく、特に1.75〜1.95であることがより好ましく、1.80〜1.90であることが最も好ましい。
【0033】
また、高屈折率層の厚みは、10nm〜500nmであることが好ましく、さらに20nm〜400nmであることがより好ましく、40nm〜300nmであることが最も好ましい。
【0034】
本発明において、高屈折率層の固形分1グラム当たりのTiおよび/又はZrの含有量は少なくとも2.0ミリモルであるが、これは高屈折率層の主成分がTiまたはZrのゾルゲル成分であることを意図したものである。高屈折率層の固形分1グラム当たりのTiおよび又はZrの含有量が2.0ミリモル未満になると、低屈折率層と高屈折率層の互いの染み込みが起こり、膜厚にムラが生じるため、反射光に色味ムラが生じるという問題が起こる。特に高屈折率層の固形分1グラム当たりのTiおよび又はZrの含有量はさらに2.2〜10.0ミリモルであることがより好ましく、2.4〜10.0ミリモルであることが最も好ましい。
【0035】
また高屈折率層は、TiまたはZrのゾルゲル成分としてテトラアルコキシチタンまたはテトラアルコキシジルコニウムのモノマー、オリゴマーまたはそれらの加水分解物を含有することが好ましい。これらの材料は、膜を乾燥させた後、フィルムを90〜200℃の温度で加熱し、アルコキシド基を加水分解して縮合架橋硬化させることができる。
【0036】
テトラアルコキシチタンの具体例としては、Ti(OCH34、Ti(OC254、Ti(O−n−C374、Ti(O−i−C374、Ti(O−n−C494、Ti(O−n−C374の2〜10量体、Ti(O−i−C374の2〜10量体、Ti(O−n−C494の2〜10量体等が好ましい例として挙げられる。
【0037】
テトラアルコキシジルコニウムの具体例としては、Zr(OCH34、Zr(OC254、Zr(O−n−C374、Zr(O−i−C374、Zr(O−n−C494、Zr(O−n−C374の2〜10量体、Zr(O−i−C374の2〜10量体、Zr(O−n−C494の2〜10量体等が好ましい例として挙げられる。
これらは単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
これらテトラアルコキシチタンまたはテトラアルコキシジルコニウムの添加量は、高屈折率層の固形分100質量%に対して10〜90質量%が好ましく、20〜80質量%がより好ましく、20〜70質量%が最も好ましい。
【0038】
高屈折率層は、屈折率調整の必要に応じて酸化チタン微粒子、酸化ジルコニウム微粒子を含有しても良い。その場合、酸化チタン微粒子、酸化ジルコニウム微粒子のTiとZr成分は、高屈折率層の固形分1グラム当たりのTiおよび又はZrの含有量に加算する。
【0039】
さらに高屈折率層は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性モノマーを含有することが好ましい。
多官能性モノマーとしては、1、4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1、6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチルペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールビスβ‐(メタ)アクリロイルオキシプロピネート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリ(2−ヒドロキシエチル)イソシアネートジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、2、3‐ビス(メタ)アクリロイルオキシエチルオキシメチル[2.2.1]ヘプタン、ポリ1、2−ブタジエンジ(メタ)アクリレート、1、2−ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルヘキサン、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカンエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、10−デカンジオール(メタ)アクリレート、3、8−ビス(メタ)アクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.10]デカン、水素添加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、2、2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、1、4−ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)シクロヘキサン、ヒドロキシピバリンサンエステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジ(メタ)アクリレート、エポキシ変成ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。多官能モノマーは、一種類のみを使用しても良いし、二種類以上を併用しても良い。
【0040】
本発明において、これら多官能性モノマーの添加量は、高屈折率層の固形分100質量%に対して1〜50質量%が好ましく、1〜40質量%がより好ましく、3〜30質量%が最も好ましい。
【0041】
(中屈折率層)
本発明においては、反射率の低減のために、ハードコート層または防眩層が設けられた透明支持体と高屈折率層の間に中屈折率層を設けることが好ましい。中屈折率層の屈折率はハードコート層または防眩層の屈折率と、高屈折率層の中間的な値であるように調節し、値としては1.55〜1.80であることが好ましい。
【0042】
また、中屈折率層の厚みは10nm〜500nmであることが好ましく、20nm〜200nmであることがより好ましく、40nm〜200nmであることが最も好ましい。
【0043】
また中屈折率層は、高屈折率層と同様にテトラアルコキシチタンまたはテトラアルコキシジルコニウムのモノマー、オリゴマーまたはそれらの加水分解物を含有することが好ましい。これらの具体例は高屈折率層の記載と同じである。
これらテトラアルコキシチタンまたはテトラアルコキシジルコニウムの添加量は、中屈折率層の固形分100質量%に対して10〜90質量%が好ましく、10〜70質量%がより好ましく、10〜50質量%が最も好ましい。
【0044】
さらに中屈折率層は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性モノマーを含有することが好ましい。
多官能性モノマーとしては、高屈折率層の記載と同じである。
これら多官能性モノマーの添加量は、中屈折率層の固形分100質量%に対して1〜90質量%が好ましく、10〜90質量%がより好ましく、20〜90質量%が最も好ましい。
【0045】
本発明は、高屈折率層の上に低屈折率層を形成し、熱および紫外線照射により硬化することを特徴とする。
ここでいう熱による硬化とは、膜を乾燥させた後にフィルムを90〜200℃の温度で1〜60分間加熱し、膜を硬化させることをいう。特に加熱条件は、90〜150℃の温度で1〜40分間加熱することが好ましく、100〜140℃の温度で1〜30分間加熱することがより好ましい。
熱による硬化の場合、各層を1層ずつ加熱してもよいし、積層後加熱してもよい。生産性の点から、高屈折率層を形成した後、加熱することが好ましい。
【0046】
また、本発明でいう紫外線照射による硬化とは、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等、また、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、エキシマランプまたはシンクロトロン放射光等の光源を用いて乾燥した膜に紫外線を照射して膜を硬化させることをいう。
照射条件はそれぞれのランプによって異なるが、照射光量は20〜10000mJ/cm2が好ましく、さらに好ましくは、100〜2000mJ/cm2であり、特に好ましくは、400〜2000mJ/cm2である。
紫外線による硬化の場合、各層を1層ずつ照射してもよいし、積層後照射してもよい。生産性の点から、低屈折率層を形成した後、紫外線を照射することが好ましい。
【実施例】
【0047】
本実施例において使用した化合物を以下に示す。
・エチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物
特開平9−301925号公報の実施例3−3に記載された方法に従い、特開平9−301925の(30)で表されるエチレン性不飽和基を一分子中に4個有する下記構造の含フッ素化合物を得た。
この化合物を、エチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物A−1とした。
【0048】
【化1】

【0049】
特開2006−36835号公報の製造例2に記載された方法に従い得られたメタアクリル変性含フッ素重合体を、A−2とした。
特開2006−36835号公報の製造例3に記載された方法に従い得られたアクリル変性含フッ素重合体を、A−3とした。
【0050】
・中空シリカ微粒子分散物
中空シリカ微粒子ゾル(イソプロピルアルコールシリカゾル、平均粒子径60nm、シェル厚み10nm、シリカ濃度20質量%、シリカ粒子の屈折率1.31、特開2002−79616の調製例4に準じサイズを変更して調製)500gに、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)30g、およびジイソプロポキシアルミニウムエチルアセテート1.5g加え混合した後に、イオン交換水を9gを加えた。60℃で8時間反応させた後に室温まで冷却し、アセチルアセトン1.8gを添加した。この分散液500gにほぼシリカの含量が一定となるようにシクロヘキサノンを添加しながら、減圧蒸留による溶媒置換を行った。分散液に異物の発生はなく、固形分濃度をシクロヘキサノンで調整し20質量%にしたときの粘度は25℃で5mPa・sであった。得られた分散液のイソプロピルアルコールの残存量をガスクロマトグラフィーで分析したところ、1.5%であった。
【0051】
・TEOS:テトラエトキシシランの加水分解物
・DPHA:ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物[日本化薬(株)製]
・Irg907:重合開始剤イルガキュア907[チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製]
・TBT:テトラ(n)ブトキシチタン[日本曹達(株)製]
【0052】
(エチレン性不飽和基を有する金属アルコキシド)
・アクリロイルオキシ(n)ブトキシチタン 化合物B−1とする。
・アクリロイルオキシ(n)ブトキシジルコニウム 化合物B−2とする。
【0053】
<実施例1>
表1に示すような構成要件で反射防止フィルムの試料101〜105を作製した。
【0054】
<塗布液の調製>
(ハードコート層)
DPHA;95質量%、Irg907;5質量%を溶解したメチルイソブチルケトン溶液を調製した。
(高屈折率層、低屈折率層)
表1に示す組成の高屈折率層、および低屈折率層の塗布液を、メチルエチルケトンを溶媒として調製した。塗布液の固形分濃度は5%とした。
【0055】
<反射防止フィルムの塗設方法>
トリアセチルセルロースフィルム(TAC−TD80U、富士フイルム(株)製)をロール形態で巻き出して、スロットルダイを有するコーターを用いて、前述のハードコート層用塗布液を直接押し出して塗布した。搬送速度30m/分の条件で塗布し、30℃で15秒間、90℃で20秒間乾燥の後、さらに窒素パージ下で160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照射量90mJ/cm2の紫外線を照射して塗布層を硬化させ、厚さ3.0μmのハードコート層を形成し、巻き取った。
【0056】
さらに上記のハードコート層上に前述の高屈折率層塗布液を、スロットルダイを有するコーターを用いて塗布した。搬送速度30m/分の条件で塗布し、30℃で15秒間、90℃で20秒間乾燥の後、100℃5分間の熱処理を行い、さらに窒素パージ下で160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照射量90mJ/cm2の紫外線を照射して塗布層を硬化させた。
各層の厚み、屈折率は表1に記載した。
【0057】
上記の様にして得られた塗布フィルムの高屈折率層の上に、スロットルダイを有するコーターを用いて、前述の低屈折率層用塗布液を塗布し、乾燥:90℃60秒で乾燥し、窒素パージにより酸素濃度0.1%の雰囲気下で240W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照射量400mJ/cm2の紫外線を照射し、その後120℃10分加熱を施し、表1に示す反射防止フィルムを作製した。
【0058】
各試料の各層の成分比率、屈折率、厚みを表1に示した。
表1おいて、成分比率は各層の固形分合計を100質量%とした成分比率を記載してある。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示した各反射防止フィルムを以下の方法で評価した。
なお、スチールウール耐擦傷性および密着性の評価は後述の偏光板加工したフィルムで評価した。
【0061】
<評価方法>
〔積分反射率〕
フィルムの裏面をサンドペーパーで粗面化した後に黒色インクで処理し、裏面反射をなくした状態で、表面側を、分光光度計(日本分光(株)製)を用いて、380〜780nmの波長領域において、入射角5°における積分分光反射率を測定した。結果には450〜650nmの積分反射率の算術平均値を用いた。
【0062】
〔反射光色ムラ〕
各試料の反射防止フィルム1mを白色蛍光灯下で目視観察し、反射光の色ムラの発生頻度を以下の3段階に分類、評価した。
○:反射光色ムラが1mに全く認められなかったもの。
△:反射光色ムラが1mに1箇所のもの。
×:反射光色ムラが1mに2箇所以上のもの。
【0063】
[光学フィルムの鹸化処理]
各反射防止フィルム試料の裏面を以下に示す条件で鹸化処理した。
アルカリ浴:1.5mol/dm水酸化ナトリウム水溶液、55℃−120秒
第1水洗浴:水道水、60秒
中和浴:0.05mol/dm硫酸、30℃−20秒
第2水洗浴:水道水、60秒
乾燥:120℃、60秒
[光学フィルム付き偏光板の作製]
延伸したポリビニルアルコールフィルムに、ヨウ素を吸着させて偏光膜を作製した。鹸化処理済みの反射防止フィルムに、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、該反射防止フィルムの支持体(トリアセチルセルロース)側が偏光膜側となるように偏光膜の片側に貼り付けた。このようにして偏光板を作製した。
【0064】
〔スチールウール耐擦傷性〕
反射防止フィルムの低屈折率層を有する側の表面を、スチールウールに200g/cm2の加重をかけ50往復擦り、このとき生じる傷の状態を観察して、以下の5段階で評価した。
◎:傷が全くつかなかったもの。
○:ほとんど見えない傷が少しついたもの。
△:明確に見える傷がついたもの。
×:明確に見える傷が顕著についたもの。
××:膜の剥離が生じたもの。
【0065】
〔密着性〕
反射防止フィルムの低屈折率層を有する側の表面にカッターナイフで碁盤目状に縦11本、横11本の切り込みを入れて合計100個の正方形の升目を刻み、日東電工(株)製のポリエステル粘着テープ(NO.31B)を圧着して密着試験を同じ場所で繰り返し5回行った。剥がれの度合いを以下の4段階で評価した。
◎:100個の升目中に剥がれが全く認められなかったもの。
○:100個の升目中に剥がれが認められたものが2升以内のもの。
△:100個の升目中に剥がれが認められたものが3〜10升のもの。
×:100個の升目中に剥がれが認められたものが10升を越えたもの。
【0066】
以上の評価方法に従った評価結果を表2に示した。
【0067】
【表2】

【0068】
表2において、低屈折率層の構成要件が異なる試料101、102、103を比較すると、耐擦傷性と密着性の両方を満足するのは、本発明の試料101のみである。比較例102は、最外層がゾルゲル膜であるため鹸化処理による低屈折率層、高屈折率層の両方の膜強度劣化が起こっており、耐擦傷性が劣っている。また比較例103では、最外層がDPHAをバインダーとしており、DPHAの耐薬品性が低いために、鹸化処理による高屈折率層の膜強度劣化が起こっていると推測している。これに対し、試料101のエチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物(化合物A−1)を含有する低屈折率層では、エチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物を含有させることにより、鹸化処理の悪影響が高屈折率層に及んでいないと考えられる。また、試料101、102、103、105を比較すると、反射光色ムラが良好なのは本発明101のみである。これは本発明の組合せのみが低屈折率層と高屈折率層の界面の染み込みがないため、各薄層の厚みが面内で均一に保たれるからであろうと推測している。
一方、低屈折率層に中空状シリカ微粒子とエチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物(化合物A−1)を含有し、高屈折率層の構成要件が異なる試料101、104、105を比較しても、耐擦傷性と密着性の両方を満足するのは、本発明の試料101のみである。比較例104は高屈折率層のゾルゲル成分比率が高すぎ、低屈折率層と高屈折率層間の界面の密着性が劣っている。また比較例105は高屈折率層にエチレン性不飽和基を有する金属アルコキシド(化合物B−1)がないため、低屈折率層と高屈折率層間の界面の密着性が不十分である。すなわちエチレン性不飽和基を有する金属アルコキシド(化合物B−1)を高屈折率層に含有することが好ましいことがわかる。
これらの比較から本発明が従来技術に比して優れていることがわかる。
【0069】
<実施例2>
実施例1のハードコート層と高屈折率層の間に中屈折率層を新たに設けて、それ以外は実施例1と同様に試料201〜205を作製した。
中屈折率層の塗布液は、メチルエチルケトンを溶媒として固形分濃度を5%として塗布した。
各試料の各層の成分比率、屈折率、厚みを表3に示した。
表3おいて、成分比率は各層の固形分合計を100質量%として成分比率を記載してある。
【0070】
【表3】

【0071】
本発明品201〜205を実施例1と同様に評価した。
評価結果を表4に示した。
【表4】

【0072】
表4から分るように、エチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物が重合体(化合物A−2、A−3)である場合、スチールウール耐擦傷性、密着性、反射光色ムラともに極めて好ましい結果が得られた。また、いずれの試料も最適な屈折率、最適な厚みで、低屈折率層、高屈折率層、中屈折率層を形成したので、積分反射率は極めて低い値を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明支持体上に、エチレン性不飽和基を有する金属アルコキシドを含有する高屈折率層があり、かつ高屈折率層の固形分1グラム当たりのTiおよび/又はZrの含有量が少なくとも2.0ミリモルであり、さらに該高屈折率層の上にシリカ微粒子およびエチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物を主成分として含有する低屈折率層を形成し、熱および紫外線照射により硬化した反射防止フィルム。
【請求項2】
前記高屈折率層のエチレン性不飽和基を有する金属アルコキシドの金属種が、Ti、Ta、Zr、In、Znのいずれかである請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
前記低屈折率層のエチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物が、一分子中に2個以上のエチレン性不飽和基を有する請求項1又は2に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
前記低屈折率層のエチレン性不飽和基を有する含フッ素化合物が、重合体である請求項1〜3のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
前記シリカ微粒子が、中空状シリカ微粒子である請求項1〜4のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【請求項6】
前記低屈折率層の屈折率が1.20〜1.40である請求項1〜5のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【請求項7】
前記高屈折率層の屈折率が1.70〜2.00である請求項1〜6のいずれかに記載の反射防止フィルム。
【請求項8】
前記高屈折率層が、さらに1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性モノマーを含有する請求項1〜7のいずれかに記載の反射防止フィルム。

【公開番号】特開2008−233656(P2008−233656A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75056(P2007−75056)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】