説明

反射防止膜

【課題】モスアイ構造を利用した反射防止膜において、光の反射防止性能や光の透過改良性能等の光学特性を良好に維持しつつ、機械特性をも良好にした反射防止膜を提供すること。
【解決手段】表面に、平均高さ150nm以上250nm以下の凸部又は平均深さ150nm以上250nm以下の凹部を有し、その凸部又は凹部が、少なくともある一の方向に対し平均周期100nm以上250nm以下で存在し、該凸部の平均高さ又は該凹部の平均深さを該平均周期で割って得られるアスペクト比が1.0以上1.5以下であることを特徴とする反射防止膜により課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の表面形状を有する反射防止膜に関するものであり、更に詳細には、ディスプレイ等に良好な視認性等を付与する反射防止膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)等のフラットパネルディスプレイ(以下、「FPD」と略記する)等は、その視認性確保のために、反射防止膜の装着は必須である。かかる反射防止膜としては、(1)一般にドライ法と言われているもの、すなわち、誘電体多層膜を気相プロセスで作製し、光学干渉効果で低反射率を実現したもの、(2)一般にウエット法と言われているもの、すなわち、低屈折率材料を基板フィルム上にコーティングしたもの等が使用されてきた。
【0003】
また、これらとは原理的に全く異なる技術として、(3)表面に微細構造を付与することにより、低反射率を発現させる技術が知られている(特許文献1〜特許文献12)。この微細構造は、モスアイ構造(蛾の目(moth−eye)構造)とも呼ばれ、高さ数十nm〜約1000nm程度の円錐形又は紡錘形の、突起又は窪みが設けられているものであり、上記(1)、(2)に比較して、反射率の入射角依存性が小さく、広い波長帯に亘って優れた反射防止効果を有している。
【0004】
一般にかかる反射防止膜には、光の反射防止性能や光の透過性向上性能が必要であるのみならず、実用化の際には機械的強度が必要である。
【0005】
しかしながら、上記(3)に記載した表面微細構造(以下、「モスアイ構造」と略記することがある)を利用した反射防止膜については、良好な反射防止性能は得られるが、その一方で、一般に機械的強度が十分ではないという問題点があった。すなわち、光学特性と機械特性との両立ができていないのが現状であった。
【0006】
すなわち、モスアイ構造は極めて特殊な構造であるため、その構造を最表面に有する反射防止膜の機械特性を、その光学特性を維持しながら良好にしようとすると、従来知られていた機械特性の向上手段が利用できないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭50−070040号公報
【特許文献2】特開平9−193332号公報
【特許文献3】特開2003−162205号公報
【特許文献4】特開2003−215314号公報
【特許文献5】特開2003−240903号公報
【特許文献6】特開2004−004515号公報
【特許文献7】特開2004−059820号公報
【特許文献8】特開2004−059822号公報
【特許文献9】特開2005−010231号公報
【特許文献10】特開2005−092099号公報
【特許文献11】特開2007−199522号公報
【特許文献12】国際公開WO/2007/040159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、モスアイ構造を利用した反射防止膜において、光の反射防止性能や光の透過改良性能等の光学特性を良好に維持しつつ、機械特性をも良好にした反射防止膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、上記表面微細構造(モスアイ構造)を利用した反射防止膜において、少なくとも反射防止性能は有する構造(一般的モスアイ構造)、すなわち、「平均高さ100nm以上1000nm以下の凸部又は平均深さ100nm以上1000nm以下の凹部を有し、その凸部又は凹部が、少なくともある一の方向に対し平均周期100nm以上400nm以下で存在する構造」に対して、更に、平均高さ若しくは平均深さ、平均周期及びアスペクト比をより狭い範囲に限定することによって、意外にも光学特性と機械特性とが両立する点が存在することを見出した。
【0010】
モスアイ構造として一般に知られている構造に比べて、より限定された平均高さ又は平均深さを有し、かつ、より限定されたアスペクト比を有する凸部又は凹部を、より限定された平均周期で表面に存在させることによって、光学特性と機械特性とが両立でき、また、正反射率が極めて低く抑えられることを見出し本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、表面に、平均高さ150nm以上250nm以下の凸部又は平均深さ150nm以上250nm以下の凹部を有し、その凸部又は凹部が、少なくともある一の方向に対し平均周期100nm以上250nm以下で存在し、該凸部の平均高さ又は該凹部の平均深さを該平均周期で割って得られるアスペクト比が1.0以上1.5以下であることを特徴とする反射防止膜を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、波長380nm〜750nmにおける入射角5°の正反射率が0.1%以下である上記の反射防止膜を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、光照射、電子線照射及び/又は加熱によって、(メタ)アクリル系重合性組成物が重合したものである上記の反射防止膜を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光の反射防止性能、光の透過改良性能等の光学特性と、表面耐傷性、物理的強度等の機械特性とが両立した反射防止膜を提供できる。この場合の「光」は、少なくとも可視光領域の波長の光を含む光である。また、正反射率(例えば、波長380nm〜750nmにおける入射角5°の正反射率等)を極めて低くでき、また、可視光線の入射角が大きい(表面とのなす角が小さい)場合の反射光に青味がかかる現象を抑制できる。すなわち、特定の表面構造を有する構造体を用いることにより、例えばディスプレイ等の表面層等の反射防止、透過性改良、表面保護等に適し、光学特性と機械特性とを両立させ、また、光学特性が更に優れた反射防止膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の反射防止膜の製造方法の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の反射防止膜の製造方法を説明するための連続製造装置の一例を示す模式図である。
【図3】本発明における、反射防止膜表面の凹凸のアスペクト比(b/a)の定義を示すための模式図である。
【図4】反射防止膜(2)の、波長380nm〜750nmの光をスキャンさせて測定した「正5°反射率」のスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<平均高さ又は平均深さ>
本発明の反射防止膜は、少なくともその一の表面に、平均高さ150nm以上250nm以下の凸部又は平均深さ150nm以上250nm以下の凹部を有していることが必須である。ここで凸部とは、基準となる面より出っ張った部分をいい、凹部とは、基準となる面より凹んだ部分をいう。本発明の反射防止膜は、その表面に凸部を有していても、凹部を有していてもよい。また、凸部と凹部の両方を有していてもよく、更に、それらが連結して波打った構造を有していてもよい。
【0017】
凸部又は凹部は、反射防止膜の両面に有していてもよいが、少なくとも一方の表面に有していることが必須である。中でも、空気と接している最表面に有していることが好ましい。空気は本発明の反射防止膜とは屈折率が大きく異なり、互いに屈折率の異なる物質の界面が、本発明のように特定の構造になっていることによって、反射防止性能や透過改良性能が良好に発揮されるからである。このように、機械的外力を受け易い最表面に反射防止膜の凹凸構造が存することが好ましいので、なおさら、後述する本発明の反射防止膜の構造(特定の平均高さ、平均深さ、平均周期、アスペクト比)の効果が特に発揮されて、優れた機械特性を発揮できるようになる。
【0018】
「機械特性」とは、表面の傷の付き方(表面耐傷性)、表面硬度、表面の凹み方、物理的強度等、広く物理的な力によって、表面が損傷したりしなかったりする特性をいう。
【0019】
凸部又は凹部は、反射防止膜の表面全体に均一に存在していることが、上記効果を奏するために好ましい。凸部の場合には、基準となる面からのその平均高さが、150nm以上250nm以下であることが必須であり、凹部の場合にも、基準となる面からのその平均深さが、150nm以上250nm以下であることが必須である。高さ又は深さは一定でなくてもよく、その平均値が上記範囲に入っていればよいが、実質的に一定の高さ又は一定の深さを有していることが好ましい。
【0020】
凸部の場合でも、凹部の場合でも、その平均高さ又は平均深さは、170nm以上240nm以下であることがより好ましく、180nm以上230nm以下であることが特に好ましい。平均高さ又は平均深さが小さすぎると、良好な光学特性が発現されない場合があり、一方、大きすぎると、機械特性が劣ったり、製造が困難になったりする場合がある。凸部と凹部が連結して波打った構造を有している場合では、最高部(凸部の上)と最深部(凹部の下)の平均長さは、300nm以上500nm以下であることが同様の理由から好ましい。
【0021】
<平均周期>
本発明の反射防止膜は、その表面に、上記凸部又は凹部が、少なくともある一の方向の平均周期が、100nm以上250nm以下となるように配置されていることが必須である。凸部又は凹部は、ランダムに配置されていてもよいし、規則性を持って配置されていてもよい。また、何れの場合でも、上記凸部又は凹部は、反射防止膜の表面全体に実質的に均一に配置されていることが反射防止性や透過改良性の点で好ましい。また、少なくとも、ある一の方向について、平均周期が、100nm以上250nm以下となるように配置されていればよく、全ての方向に、その平均周期が100nm以上250nm以下となっている必要はない。
【0022】
凸部又は凹部が、規則性を持って配置されている場合、上記のように、少なくともある一の方向の平均周期が、100nm以上250nm以下となるように配置されていればよいが、最も周期が短い方向(以下「x軸方向」という)への周期が、100nm以上250nm以下となるように配置されていることが好ましい。すなわち、ある一の方向として、最も周期が短い方向をとったときに、周期が上記範囲内になっていることが好ましい。更にその際、x軸方向に垂直なy軸方向についても、その周期が100nm以上250nm以下となるように配置されていることが特に好ましい。
【0023】
上記平均周期(凸部又は凹部の配置場所に規則性がある場合は周期)は、120nm以上240nm以下がより好ましく、140nm以上230nm以下が特に好ましく、150nm以上220nm以下が更に好ましい。平均周期が短過ぎる場合、反射防止効果が充分でなかったり、機械特性が劣ったりする場合があり、一方、平均周期が長過ぎる場合は、反射防止効果が充分でない場合がある。特に、可視光線の入射角が大きい(表面とのなす角が小さい)場合の反射光に青味がかかる現象を抑制できる点で、平均周期の上限は、より短い方、例えば230nm以下に限定されていることが特に好ましい。
【0024】
<アスペクト比>
更に、本発明の反射防止膜は、該凸部の平均高さ又は該凹部の平均深さを該平均周期で割って得られるアスペクト比が1.0以上1.5以下であることが必須である。好ましくは、1.05以上1.45以下であり、特に好ましくは、1.1以上1.35以下である。「アスペクト比」は、模式的な図3における「b/a」の値と定義される。図3は、本発明の反射防止膜の2種類の模式的な形状を示すが、何れの場合も、「アスペクト比」は、「凸部の平均高さ(図3の場合)又は凹部の平均深さ」を、上記平均周期で割った値である。アスペクト比が大き過ぎると、表面耐傷性、物理的強度等の機械特性が劣る場合があり、更により大き過ぎても反射防止効果が小さくなっていく場合がある。一方、アスペクト比が小さ過ぎると、反射防止効果が充分でない場合がある。
【0025】
反射防止効果だけから見たアスペクト比は、0.9〜2.3の範囲であれば充分であるが、機械特性をも満たそうとすると、1.0以上1.5以下であることが必須である。かかる狭い範囲のアスペクト比の存在を見出したことによって、モスアイ構造において、初めて光学特性と機械特性の両立が実現することが判った。
【0026】
<正5°反射率>
また、本発明の反射防止膜の正反射率は特に限定はないが、波長380nm〜750nmにおける入射角5°の正反射率(以下、「正5°反射率」と略記する場合がある)が、0.1%以下であることが好ましく、0.07%以下であることがより好ましく、0.05%以下であることが特に好ましい。「波長380nm〜750nmにおける入射角5°の正反射率」とは、この波長範囲の全域にわたって、どの波長で測定しても、正5°反射率が上記値以下という意味である。
【0027】
本発明における「波長380nm〜750nmにおける入射角5°の正反射率」(正5°反射率)は、後述する実施例に記載の方法に従い測定した値である。
【0028】
前記したような極めて限定された表面構造にすることによって、正5°反射率を上記値以下に収めることが初めて可能になる。正5°反射率が大き過ぎると、反射防止膜として使用できない場合がある。本発明の反射防止膜は、光学特性と機械特性とが両立しているが、光の入射角依存性が小さく、広い波長領域で良好な反射防止性能を有している。
【0029】
凸部又は凹部の形状には特に限定はなく、前述の特許文献に記載の形状が挙げられる。また、凸部又は凹部の形成方法も特に限定はなく、型を用いて形状を転写させる方法、微粒子を貼りつける方法、化学物質によってエッチングする方法、微粒子の吹き付けによる方法、有機溶媒を蒸発させ生じた微小水滴を蒸発させる方法等何れも使用できる。このうち、型を用いて形状を転写させる方法が、該型を忠実に転写でき、所望の形状を確実に実現できる点で好ましく、アルミニウムを陽極酸化したときに陽極酸化被膜に生じる凹部を型として、その形状を転写させて、反射防止膜の表面に凸部を形成させる方法が、前記平均高さ、平均周期及びアスペクト比について、その特定の数値範囲を実現し易いために特に好ましい。
【0030】
<平均透過率>
本発明の反射防止膜は、平均透過率94%以上が達成できる。本発明における平均透過率は、実施例記載の方法で、可視光線の平均透過率を測定して得られる。
【0031】
<反射防止膜の材料>
型を用いて形状を転写させる方法等において、本発明の反射防止膜を製造するために用いる材料には特に限定はなく、光照射、電子線照射又は加熱により硬化する硬化性組成物であっても、熱可塑性組成物等のような非硬化性組成物であってもよいが、硬化性組成物であることが好ましい。中でも、本発明の反射防止膜は、光照射、電子線照射及び/又は加熱によって、(メタ)アクリル系重合性組成物が重合したものであることが特に好ましい。
【0032】
[硬化性組成物]
[[光照射又は電子線照射により硬化する硬化性組成物]]
「光照射又は電子線照射により硬化する硬化性組成物」(以下、「光硬化性組成物」と略記する)としては特に限定はなく、アクリル系重合性組成物又はメタクリル系重合性組成物(以下、「(メタ)アクリル系重合性組成物」と略記する)、光酸触媒で架橋し得る組成物等、何れも使用できるが、(メタ)アクリル系重合性組成物が、本発明の微細構造に適した機械特性を与える点、型となる例えば陽極酸化被膜からの剥離性の点、化合物群が豊富なため種々の物性の反射防止膜が調製できる点等から(メタ)アクリル系重合性組成物が好ましい。
【0033】
[[熱硬化性組成物]]
「熱硬化性組成物」とは、加熱すると重合を起こして高分子の網目構造を形成し、硬化して元に戻らなくなる組成物であれば特に制限はないが、例えば、(メタ)アクリル系重合組成物、フェノール系重合性組成物、キシレン系重合性組成物、エポキシ系重合性組成物、メラミン系重合性組成物、グアナミン系重合性組成物、ジアリルフタレート系重合性組成物、尿素系重合性組成物(ユリア系重合性組成物)、不飽和ポリエステル系重合性組成物、アルキド系重合性組成物、ポリウレタン系重合性組成物、ポリイミド系重合性組成物、フラン系重合性組成物、ポリオキシベンゾイル系重合性組成物、マレイン酸系重合性組成物、メラミン系重合性組成物等が挙げられる。フェノール系重合性組成物としては、例えば、レゾール型フェノール樹脂等である。エポキシ系重合性組成物としては、例えば、ビスフェノールA−エピクロロヒドリン樹脂、エポキシノボラック樹脂、脂環式エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、多官能性エポキシ等である。不飽和ポリエステル系重合性組成物としては、例えば、オルソフタル酸系、イソフタル酸系、アジピン酸系、ヘット酸系、ジアリルフタレート系等である。中でも、熱硬化性組成物としては、(メタ)アクリル系重合組成物が好ましい。
【0034】
[[(メタ)アクリル系重合性組成物]]
本発明の反射防止膜は、光照射又は電子線照射により硬化する硬化性組成物であっても、熱硬化性組成物であっても、(メタ)アクリル系重合性組成物の(メタ)アクリル基の炭素−炭素間二重結合が、光照射、電子線照射及び/又は加熱によって反応してなるものであることが好ましい。本発明において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又は「メタクリル」を意味し、以下同様である。また、「光照射、電子線照射及び/又は加熱によって」とは、光照射、電子線照射及び加熱からなる群のうち、何れか1つの処理によってでもよく、そこから選ばれた2つの処理の併用によってでもよく、3つの処理全ての併用によってでもよいことを示す。
【0035】
本発明の反射防止膜において、(メタ)アクリル基の炭素−炭素二重結合の反応率は特に限定はないが、85%以上であることが好ましく、90%以上であることが特に好ましい。ここで「反応率」とは、露光前後の(メタ)アクリル系重合性組成物を赤外線分光法(IR)、具体的にはフーリエ変換赤外分光光度計Spectrum One D(perkin Elmer社製)全反射法(ATR法)で測定されるエステル結合の炭素−酸素結合に帰属される1720cm−1の吸光度と、炭素−炭素結合に帰属される811cm−1の吸光度の比率から求めたものである。反応率が低すぎると、機械的強度の低下や耐薬品性の低下をまねく場合がある。
【0036】
充分な反応率や硬化性を得るためには、後述する本発明の反射防止膜形成のための材料である(メタ)アクリル系重合性組成物の組成(例えば、(メタ)アクリレート化合物の種類、配合量;重合開始剤の種類、量等)、重合に用いる光や電子線の照射条件(強度、露光時間、波長、酸素の除去等)、重合に際しての加熱条件(温度、加熱時間、酸素の除去等)、反射防止膜の形状(厚さ等)等を調整する。
【0037】
本発明の反射防止膜は、低反射率や高透過性が発現される特殊な表面構造を有するため、その物性にも特殊な物性が要求される。本発明は、上記特殊な表面微細構造を有し、光の反射防止性能、光の透過改良性能等の光学特性と、機械的損傷ができにくく、表面耐傷性、物理的強度等の機械特性との両立が可能な反射防止膜を見出したことを特徴としている。
【0038】
上記したような特定の表面構造を有する本発明の反射防止膜は、下記の材料から形成したときに上記したような特定の物性を好適に付与できる。以下に、本発明の反射防止膜の材料について詳述する。
【0039】
本発明の反射防止膜は、(メタ)アクリル系重合性組成物が重合してなる重合体を含有していることが好ましい。(メタ)アクリル系重合性組成物としては、前記した特定の構造が形成できて、機械特性が得られるものであれば特に限定はないが、ウレタン(メタ)アクリレート及びエステル(メタ)アクリレートを含有することが好ましい。「ウレタン(メタ)アクリレート」とは、分子中にウレタン結合を有する(メタ)アクリレート化合物をいう。また、「エステル(メタ)アクリレート」とは、分子中に、酸基(酸無水物や酸クロライドを含む)と水酸基との反応で得られたエステル結合を有し、ウレタン結合もシロキサン結合も有さないものをいう。
【0040】
本発明における(メタ)アクリル系重合性組成物は、更に、エポキシ(メタ)アクリレートを含有することも好ましい。「エポキシ(メタ)アクリレート」とは、エポキシ基に(メタ)アクリル酸が反応して得られる構造を有する(メタ)アクリレート化合物をいう。
【0041】
更に、本発明の反射防止膜は、変性シリコーンオイルを含有する組成物が重合したものであることも好ましい。「変性シリコーンオイル」とは、分子中にシロキサン結合を有し、ケイ素原子(Si)にメチル基以外の有機基も結合している化合物をいう。「変性シリコーンオイル」には、シリコン(メタ)アクリレートが含まれる。従って、本発明における(メタ)アクリル系重合性組成物は、シリコン(メタ)アクリレートを含有することも好ましい。「シリコン(メタ)アクリレート」とは、分子中にシロキサン結合を有する(メタ)アクリレート化合物をいう。
【0042】
[1]ウレタン(メタ)アクリレートについて
本発明に用いられるウレタン(メタ)アクリレートは特に限定はなく、例えば、ウレタン結合の位置や個数、(メタ)アクリル基の位置や個数は特に限定はない。
【0043】
本発明において、膜形成材料に用いられるウレタン(メタ)アクリレートの好ましい化学構造としては、(A)分子中に(好ましくは複数個の)イソシアネート基を有する化合物に対して、分子中に水酸基と(好ましくは複数個の)(メタ)アクリル基を有する化合物を反応させて得られるような構造をもつもの、(B)複数個の水酸基を有する化合物にジイソシアネート化合物やトリイソシアネート化合物を反応させ、得られた化合物の未反応イソシアネート基に、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のように分子中に水酸基と(メタ)アクリル基を有する化合物を反応させて得られるような構造をもつものが挙げられる。
【0044】
上記(メタ)アクリレート化合物が、ウレタン(メタ)アクリレートを含有することによって、得られた反射防止膜の硬化性、反応率が上がり、貯蔵弾性率が大きくなると共に柔軟性が優れたものになり、光学特性と機械特性の両立が達成できる。
【0045】
ウレタン(メタ)アクリレートとしては、4官能以上のウレタン(メタ)アクリレートを含有するものであることが特に好ましい。すなわち、分子中に(メタ)アクリル基を4個以上有する化合物を含有することが好ましい。この場合のウレタン結合の位置や個数、(メタ)アクリル基が分子末端にあるか否か等は特に限定はない。分子中に(メタ)アクリル基を6個以上有する化合物が特に好ましく、10個以上有する化合物が更に好ましい。また、分子中の(メタ)アクリル基の個数の上限は特に限定はないが、15個以下が特に好ましい。ウレタン(メタ)アクリレート分子中の(メタ)アクリル基の数が少なすぎると、得られた反射防止膜の硬化性、反応率が低下し、耐傷性、機械的強度が小さくなる場合がある。一方、ウレタン(メタ)アクリレート分子中の(メタ)アクリル基の数が多すぎると、重合による(メタ)アクリル基の炭素間二重結合消費率、すなわち反応率が十分に上がらない場合がある。
【0046】
[2]エステル(メタ)アクリレートについて
本発明の反射防止膜を形成させるための(メタ)アクリル系重合体は、ウレタン(メタ)アクリレートに加え、エステル(メタ)アクリレートを含有することが好ましい。このエステル(メタ)アクリレートを含有させることによって、反射防止膜が軟らかくなり、本発明における特殊な構造を有する表面の機械的強度が良好になる。また、硬化性等を向上させるために使用したウレタン(メタ)アクリレートにより反射防止膜の柔軟性が悪化するのを防ぐことが可能となる。このエステル(メタ)アクリレートを含有せず、ウレタン(メタ)アクリレートの含有のみでは、反射防止膜が軟らかくなりすぎ、機械的強度が劣る場合がある。
【0047】
エステル(メタ)アクリレートとしては特に限定はなく、2官能以上の(メタ)アクリレート化合物が好ましいものとして挙げられる。2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、直鎖アルカンジオールジ(メタ)アクリレート、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、3価以上のアルコールの部分(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノール系ジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。2官能エステル(メタ)アクリレートを含有すると、硬化性が上がり、機械的強度向上等の点で好ましい。2官能(メタ)アクリレートの中でも、アルキレングリコール鎖を有し、分子の両末端にそれぞれ1個ずつの(メタ)アクリル基を有する2官能エステル(メタ)アクリレートを含有することが、更に硬化性を上げるために好ましい。
【0048】
3官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、グリセリンPO変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性ε−カプロラクトン変性トリ(メタ)アクリレート、1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−s−トリアジン、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートトリプロピオネート等が挙げられる。
【0049】
4官能以上の(メタ)アクリレートとしては、例えば、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートモノプロピオネート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラメチロールエタンテトラ(メタ)アクリレート、オリゴエステルテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0050】
[3]エポキシ(メタ)アクリレートについて
本発明の反射防止膜を形成させるための(メタ)アクリル系重合体は、エポキシ(メタ)アクリレートを含有することも好ましい。このエポキシ(メタ)アクリレートを含有させることによって、反射防止膜が更に強靭になり、本発明における特殊な構造を有する表面の耐傷性等の機械的強度が更に良好になる。
【0051】
上記「エポキシ(メタ)アクリレート」としては特に限定はないが、具体的には例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等のアルキレングリコ−ルのジグリシジルエーテル類;グリセリンジグリシジルエーテル等のグリセリングリシジルエーテル類;ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAのPO変性ジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリジルエーテル等のビスフェノール系化合物のジグリシジルエーテル類等に、(メタ)アクリル酸を付加させた構造を有するもの等が挙げられる。また、縮重合されたエポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を付加させた構造を有するものが挙げられる。更に、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等の縮重合物に、例えばエピクロロヒドリン等を反応させて得られた構造を有するエポキシ樹脂に対して、(メタ)アクリル酸を付加させた構造を有するもの等が挙げられる。
【0052】
[4]変性シリコーンオイルについて
本発明の反射防止膜を形成させるための(メタ)アクリル系重合体は、変性シリコーンオイルを含有することも好ましい。(メタ)アクリレート化合物が、変性シリコーンオイルを含有することによって、上記特殊な表面形状に対し、耐傷性等の機械特性が優れたものになる。なお、本発明の反射防止膜形成においては、硬化させた反射防止膜を型から剥離する工程を有するので、そのとき賦型性が重要になる。しかしながら、本発明においては、該変性シリコーンオイルの使用は、この賦型性の改良よりはむしろ表面耐傷性の改良に効果的である。
【0053】
変性シリコーンオイルの数平均分子量としては、400〜20000が好ましく、1000〜15000が特に好ましい。数平均分子量が大き過ぎるときには、他成分との相溶性が悪化する場合があり、一方、数平均分子量が小さ過ぎるときには、表面耐傷性が劣る場合がある。
【0054】
[5](メタ)アクリル系重合性組成物の組成
(メタ)アクリレート系重合性組成物中の、ウレタン(メタ)アクリレート、エステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート及び変性シリコーンオイルの含有比率は特に限定はないが、ウレタン(メタ)アクリレート100重量部に対して、エステル(メタ)アクリレート10重量部以上が好ましく、20重量部以上が特に好ましい。また、上限は、400重量部以下が好ましく、300重量部以下がより好ましく、200重量部以下が特に好ましく、100重量部以下が最も好ましい。
【0055】
また、ウレタン(メタ)アクリレート100重量部に対して、エポキシ(メタ)アクリレート0〜50重量部が好ましく、0〜20重量部が特に好ましく、1〜10重量部が更に好ましい。また、ウレタン(メタ)アクリレート100重量部に対して、変性シリコーンオイル0〜10重量部が好ましく、0.02〜5重量部が特に好ましく、0.05〜2重量部が更に好ましい。変性シリコーンオイルが多過ぎると、反射防止膜中で分離し不透明な反射防止膜を形成する場合があり、一方、少な過ぎると、表面の耐傷性が劣る場合がある。
【0056】
本発明の(メタ)アクリル系重合性化合物には、上記したもの以外に、その他の(メタ)アクリレート、重合開始剤等を含有させることができる。
【0057】
本発明の反射防止膜が、(メタ)アクリル系重合性化合物の光照射によって形成される場合には、その材料となる(メタ)アクリル系重合性化合物中の光重合開始剤の有無は特に限定はないが、光重合開始剤が含有されることが好ましい。光重合開始剤としては特に限定はないが、ラジカル重合に対して従来用いられている公知のもの、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、アルキルアミノベンゾフェノン類、ベンジル類、ベンゾイン類、ベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルアセタール類、ベンゾイルベンゾエート類、α−アシロキシムエステル類等のアリールケトン系光重合開始剤;スルフィド類、チオキサントン類等の含硫黄系光重合開始剤;アシルジアリールホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド類;アントラキノン類等が挙げられる。また、光増感剤を併用させることもできる。
【0058】
前記光重合開始剤の配合量は、(メタ)アクリレート化合物100重量部に対して、通常0.2〜10重量部、好ましくは0.5〜7重量部の範囲で選ばれる。
【0059】
本発明の反射防止膜が、(メタ)アクリル系重合性化合物の熱重合によって形成される場合には、熱重合開始剤が含有されることが好ましい。熱重合開始剤としては、ラジカル重合に対して従来用いられている公知のものが使用可能であるが、例えば、過酸化物、ジアゾ化合物等が挙げられる。
【0060】
また、(メタ)アクリル系重合性組成物等の硬化性組成物には、更に、バインダーポリマー、微粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、離型剤、潤滑剤、レベリング剤等を配合することもできる。これらは、従来公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
【0061】
[非硬化性組成物]
本発明の反射防止膜の材料としては、上記した硬化性組成物の他に、熱可塑性組成物等の非硬化性組成物も挙げられる。熱可塑性組成物としては、ガラス転移温度又は融点まで加熱することによって軟らかくなるものであれば特に制限はないが、例えば、アクリロニトリル−スチレン系重合体組成物、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン系重合体組成物、スチレン−(メタ)アクリレート系重合体組成物、ブダジエン−スチレン系重合体組成物等のスチレン系重合体組成物;塩化ビニル系重合体組成物、エチレン−塩化ビニル系重合体組成物、エチレン−酢酸ビニル系重合体組成物、プロピレン系重合体組成物、プロピレン−塩化ビニル系重合体組成物、プロピレン−酢酸ビニル系重合体組成物、塩素化ポリエチレン系組成物、塩素化ポリプロピレン系組成物等のポリオレフィン系組成物;ケトン系重合体組成物;ポリアセタール系組成物;ポリエステル系組成物;ポリカーボネート系組成物;ポリ酢酸ビニル系組成物、ポリビニル系組成物、ポリブタジエン系組成物、ポリ(メタ)アクリレート系組成物等が挙げられる。
【0062】
また、熱可塑性組成物等の非硬化性組成物には、更に、微粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、離型剤、潤滑剤、レベリング剤等を配合することもできる。これらは、従来公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
【0063】
<製造方法>
本発明の反射防止膜の製造方法は特に限定はないが、例えば下記の方法が好ましい。すなわち、上記(メタ)アクリル系重合性組成物を、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略記する)等のフィルム上に採取、バーコーター若しくはアプリケーター等の塗工機又はスペーサーを用いて、均一膜厚になるように塗布する。そして、上記表面構造をもった型を貼り合わせる。貼り合わせた後、該フィルム面から紫外線照射若しくは電子線照射及び/又は熱により硬化させる。あるいは、上記表面構造をもった型の上に、直接(メタ)アクリル系重合性組成物を採取、塗工機やスペーサー等で均一膜厚の塗布膜を作成してもよい。その後、得られた硬化膜を該フィルム又は型から剥離させて本発明の反射防止膜を作成する。
【0064】
この製造方法を、更に図1を用いて具体的に説明するが、本発明は図1の具体的態様に限定されるものではない。すなわち、型(2)に反射防止膜形成材料(1)を適量供給又は塗布し(図1(a))、ローラー部側を支点に基材(3)を斜めから貼り合せる(図1(b))。型(2)と反射防止膜形成材料(1)と基材(3)が一体となった貼合体を、ローラー(4)へと移動し(図1(c))、ローラー圧着させることにより、型(2)が有する特定の構造を反射防止膜形成材料(1)に転写、賦型させる(図1(d))。これを硬化させた後、型(2)から剥離することにより(図1(e))、本発明の目的とする反射防止膜(5)を得る。
【0065】
図2は、連続的に反射防止膜を製造する装置の一例の模式図であるが、本発明はこの模式図に限定されるものではない。すなわち、型(2)に反射防止膜形成材料(1)を付着させ、ローラー(4)により力を加え、基材(3)を型に対して斜めの方向から貼り合せて、型(2)が有する特定の構造を反射防止膜形成材料(1)に転写させる。これを、硬化装置(6)を用いて硬化させた後、型(2)から剥離することにより、本発明の目的とする反射防止膜(5)を得る。支持ローラー(7)は、反射防止膜(5)を上部に引き上げるためのものである。
【0066】
ローラー(4)を用いて、斜めから貼り合わせることによって、気泡が入らず欠陥のない反射防止膜(5)が得られる。また、ローラーを用いれば線圧を加えることになるため圧力を大きくでき、そのため大面積の反射防止膜の製造が可能になり、また、圧の調節も容易になる。また、基材と一体となった均一な膜厚と、所定の光学特性を有する反射防止膜の製造が可能になり、更に、連続的に製造できるため生産性に優れたものになる。
【0067】
本発明の反射防止膜は、光照射、電子線照射及び/又は加熱によって重合したものであることが好ましいが、光照射の場合の光の波長については特に限定はないが、可視光線及び/又は紫外線を含有する光であることが、要すれば光重合開始剤の存在下で良好に(メタ)アクリル基の炭素間二重結合を重合させる点で好ましい。特に好ましくは紫外線を含有する光である。光源は特に限定はなく、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、ハロゲンランプ、各種レーザー等公知のものが用いられ得る。電子線の照射の場合、電子線の強度や波長には特に限定はなく、公知の方法が用いられ得る。
【0068】
熱によって重合させる場合は、その温度は特に限定はないが、80℃以上が好ましく、100℃以上が特に好ましい。また、200℃以下が好ましく、180℃以下が特に好ましい。重合温度が低すぎる場合は重合が充分に進行しない場合があり、高すぎる場合は重合が不均一になったり、基材の劣化が起こったりする場合がある。加熱時間も特に限定はないが、5秒以上が好ましく、10秒以上が特に好ましい。また、10分以下が好ましく、2分以下が特に好ましく、30秒以下が更に好ましい。
【0069】
<作用・原理>
本発明の反射防止膜は、特定の表面構造を有するとき、光の反射防止性能、光の透過改良性能等の光学特性と、表面耐傷性、物理的強度等の機械特性が両立できる作用・原理については、明らかではないが、高分子の力学物性を考慮すると、凹凸1個1個の微細な部分の形態が特定の範囲の値になることにより、光学特性を維持しつつ、反射防止膜表面が外力に耐えられる性能を有するようになったと考えられる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらに限定されるものではない。
【0071】
[反射防止膜の製造]
以下に示す光硬化性組成物(a)の適量をPETフィルム上に採取、バーコーター:No.28にて、均一な膜厚になるよう塗布した。以下に示す光硬化性組成物(a)は(メタ)アクリル系重合性組成物である。
【0072】
<光硬化性組成物(a)>
下記式(1)で示される化合物(1)11.8重量部、下記の化合物(2)23.0重量部、テトラエチレングリコールジアクリレート45.2重量部、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート20.0重量部及び光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.0重量部を均一に配合することにより、光硬化性組成物(a)を得た。
【0073】
化合物(1)は、下記の式(1)で示される化合物である。
【化1】

[式(1)中、Xは、ジペンタエリスリトール(6個の水酸基を有する)残基を示す。]
【0074】
化合物(2)は、以下で示される化合物である。
2HEA−−IPDI−−(アジピン酸と1,6−ヘキサンジオールとの重量平均分子量3500の末端水酸基のポリエステル)−−IPDI−−2HEA
ここで、「2HEA」は、2−ヒドロキシエチルアクリレートを示し、「IPDI」は、イソホロンジイソシアネートを示し、「−−」は、イソシアネート基と水酸基の通常の下記の反応による結合を示す。
−NCO + HO− → −NHCOO−
【0075】
次いで、PETフィルム上に塗布された光硬化性組成物(a)の上に、表面がテーパー形状の細孔を有する陽極酸化被膜で覆われたアルミニウム材料からなる型を貼り合わせた。型は9種類用意し、反射防止膜(1)〜(10)を製造した。
【0076】
型全体が、光硬化性組成物(a)に貼り合わされたことを確認して、フュージョン製UV照射装置を用い、3.6J/cmの紫外線照射によって硬化させ、反射防止膜(1)〜(10)を製造した。
【0077】
[評価]
以下の測定方法で、反射防止膜(1)〜(10)の表面の形状と物性を観察又は測定した。
<表面の形状>
作成した反射防止膜の切片を作製、該切片の断面を、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」と略記する)を用い、加速電圧12kVにて観察した。結果を表1に示す。
【0078】
<光学特性>
(正5°反射率の測定方法)
島津製作所製、自記分光光度計「UV−3150」を用い、反射防止膜の裏面に黒色テープを貼り付け、裏面から波長380nm〜750nmの光をスキャンさせて、正5°反射率スペクトルを測定した。波長380nm〜750nmの範囲で最も正5°反射率の大きかった波長での正5°反射率を表1に示す。また、反射防止膜(2)については、代表例として、その正5°反射率スペクトルを図4に示す。
【0079】
(平均透過率の測定方法)
スガ試験製、ヘイズメーター「HGM−2DP」を用いて、可視光線の平均透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0080】
<機械特性>
(表面耐傷性の評価方法)
上記反射防止膜(1)〜(10)の表面上を、新東科学(株)社製の表面試験機ドライボギアTYPE−14DRを用い、φ25mm円柱の平滑な断面にスチールウール#0000を均一に貼り付け、荷重400gをかけながら、速度10cm/秒で10往復させたときの傷の付き具合を観察した。以下の基準で判定した。結果を表1に示す。
【0081】
(判定基準)
5:引掻き傷なし
4:数本の引掻き傷あるが問題にならない程度
3:φ25mm円柱の半分の引掻き傷あり
2:φ25mm円柱の2/3の引掻き傷あり
1:φ25mm円柱の全面の引掻き傷あり
【0082】
【表1】

【0083】
表1に示した結果から判るように、本発明の構造を有する反射防止膜(1)ないし(5)は何れも、光学特性と機械特性の両方が優れていた。一方、本発明の構造を有さない反射防止膜(6)ないし(10)は何れも、光学特性と機械特性が両立できるものはなかった。
【0084】
すなわち、反射防止膜(10)は、アスペクト比が大き過ぎるため、表面耐傷性等の機械特性に劣っており、反射防止膜(6)は、アスペクト比が小さ過ぎるため、正5°反射率に劣っていた。
【0085】
また、反射防止膜(7)は、凸部の平均高さが小さ過ぎ、しかも凸部の平均周期が小さ過ぎるため、正5°反射率が劣っており、反射防止膜(8)は、凸部の平均高さが大き過ぎるため、表面耐傷性等の機械特性に劣っていた。
【0086】
反射防止膜(9)は、凸部の平均周期が大き過ぎ、アスペクト比が小さ過ぎるため、正5°反射率が劣っており、また、斜めから見ると青色が反射されてしまった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の反射防止膜は、光の反射防止性能、光の透過性能等の光学特性に優れているので、良好な視認性を付与する。また、優れた機械的強度(表面耐傷性能や物理的強度性)を有するので、液晶表示ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、有機EL(OEL)、CRT、フィールドエミッションディスプレイ(FED)等のフラットパネルディスプレイ(FPD)等の、表面に機械的外力が加わりやすい用途に特に広く好適に利用されるものである。また、より一般に、反射防止膜、透過性改良膜等としても、広く好適に利用されるものである。
【符号の説明】
【0088】
1 反射防止膜形成材料
2 型
3 基材
4 ローラー
5 反射防止膜
6 硬化装置
7 支持ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に、平均高さ150nm以上250nm以下の凸部又は平均深さ150nm以上250nm以下の凹部を有し、その凸部又は凹部が、少なくともある一の方向に対し平均周期100nm以上250nm以下で存在し、該凸部の平均高さ又は該凹部の平均深さを該平均周期で割って得られるアスペクト比が1.0以上1.5以下であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項2】
波長380nm〜750nmにおける入射角5°の正反射率が0.1%以下である請求項1記載の反射防止膜。
【請求項3】
光照射、電子線照射及び/又は加熱によって、(メタ)アクリル系重合性組成物が重合したものである請求項1又は請求項2記載の反射防止膜。
【請求項4】
上記(メタ)アクリル系重合性組成物が、ウレタン(メタ)アクリレート及びエステル(メタ)アクリレートを含有するものである請求項3記載の反射防止膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−2759(P2011−2759A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147652(P2009−147652)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000183923)株式会社DNPファインケミカル (268)
【Fターム(参考)】