説明

反応を起こさせる微流体デバイス

本発明は反応を起こさせるため少なくとも2つの窪み群を備えたウエハで構成されたデバイスに関する。発明によるデバイス1によると、デバイスの1つの層の溝2によって窪み8は互いに熱的に分離されるが、一方、溝で分離された部分は局部的にブリッジ4で結合される。この方法でデバイスは良好な機械的強度と良好な熱絶縁とを併せ備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は少なくとも2つの窪み群を備えたウエハで構成され反応を起こさせるデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
このようなデバイスは、例えば生化学的反応を起こさせる分野で知られている。
集積回路技術で製造されたデバイスの重要な点は、実際に使用するために、実際の条件(機械応力および熱応力など)に耐える必要があるという点である。換言すれば、このデバイスは十分に強いものでなければならない。しかしながら、熱応力を受けるデバイスに関して、隣接する窪みに影響を与えない、または少なくともできるだけ影響を与えないために必要とする熱絶縁をできるだけ少なくするようにしなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は良好な機械的強度と良好な熱絶縁を併せもつデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的のために本発明は序文に記載した種類のデバイスを備え、このデバイスの特徴は、少なくとも2つの窪み群を備えたウエハで構成され反応を起こさせるデバイスにおいて、窪みは互いに熱的に分離され、デバイスは窪みの温度を変化させる手段を備え、ウエハは少なくとも2つの層で構成され、頂部層である第1の層は窪みの底を形成し、第1の層の下方に位置する第2の層の少なくとも1つのレセスによって熱分離が行われ、
2つの隣接する窪み間に少なくとも1つのレセスが存在し、
第2の層は第1の層に出現して窪みの底において少なくとも底の一部となり、この出現して少なくとも底の一部となる第2の層の部分は機械的補強部分と呼ばれ、また第2の層は第2の層上の窪みの底の出現部分の外側となる第2の層の一部と少なくとも1つのブリッジで結合され、底の外側に配置される第2の層の突出部分はバルク部分と呼ばれ、
窪みの温度を変化させる手段は、第1の層に突出して、窪みの底に位置する。
【0005】
1つ以上のレセスは優れた熱絶縁となり、また一方では機械的補強部分として底を補強し、少なくとも1つのブリッジで第2の層との補強接合が保証される。少なくとも1つのブリッジは第1の層と接触しても接触しなくてもよい。温度を変化させる手段は、例えば、ペルチェ素子である。本発明において第1の層および第2の層について言及すれば、1つまたは2つの層がいくつかのサブレイヤ(sublayer)で構成される可能性を除外するものではない。例えば、第1の層は、電気的に温度を変化させる手段を含む第1のサブレイヤと、第1のサブレイヤを電気絶縁する第2のサブレイヤと、第1のサブレイヤに給電するため第2のサブレイヤを貫通する導電性の第3のサブレイヤとで構成することができる。第3のサブレイヤ上に形成された第4のサブレイヤは、第1のサブレイヤに接続するが第3の導電性サブレイヤには接続しない導電性の第5のサブレイヤに対して電気絶縁し、さらに電気絶縁の第6のサブレイヤで窪みの実際の底が形成される。本願において窪みとは立設する壁で囲まれたデバイス上の場所であり、このような壁のない場合は温度を変化させる手段が設けられた場所であると理解されるべきである。本発明によるデバイスは、好ましくは特にそれぞれの窪みの1つの箇所に配置された1つ以上の統合されたセンサで構成することができる。第1の層の上側をより明確に限定し、例えばより平滑にするため、変換器(温度、センサなどを変換する手段)の接続を含む層は下部層である第2の層とするのが好ましい。このことは分析を行うのに便利になる。レセスは完全には貫通しない、すなわちデバイスの合計厚さに対して貫通しない開口列の形にすることができる。
【0006】
Korsjes Rなどは酸化物を充填した溝で熱絶縁を行ったフローセンサについて述べている(Sensors and Actuators A, 46−47、373−379頁、1995)。溝に充填すると一方では機械的強度が増加するが、他方では温度が変化したときデバイスの機械的応力が増加する。さらに絶縁の程度が制限される。
【0007】
好ましい実施形態によると、レセスは溝状に形成される。
このようなレセスによって相当な距離にわたって優れた熱絶縁が与えられる。したがって、標準のIC製造技術を使用することが容易に実現される。
【0008】
好ましい実施形態によると、窪みの下方に配置された機械的補強部分は補強部分の周囲に分散配置された少なくとも3つのブリッジによってバルク部分に結合される。
この方法によって顕著な機械強度を得ることができる。
【0009】
窪みの温度を変化させる手段は第2の層に統合されると有利となる。
重要な実施形態によると、温度を変化させる手段は窪みを加熱する手段である。
例えば、デバイス上の隣接する箇所では反応を起こさずに、加熱によって局部的に化学反応を開始することができる。例えば、このような反応は窪みにおけるオリゴペプチドまたはオリゴヌクレオチドの合成に使用することができる。重要で可能な別の方法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などのポリヌクレオチド増幅にデバイスを使用することである。
【0010】
少なくとも第1の層は光透過層であることが有利となる。
その場合は窪みで光学測定を実施することが可能となり、検出器および/または選択的励起源は窪み側に配置する必要がなくなる。例えば、励起は第1の層で起こさせることができる。
【0011】
また本発明は発明によるデバイスを製造する方法に関する。この方法は
第2の層を形成するウエハに頂部層である第1の層を設け、
第1の層の隣接する2つの窪み間において第2の層の底側でウエハにレセスを設けることを特徴とする。
【0012】
最後に、発明によるデバイスの重要な適用として、本発明はポリヌクレオチド増幅を行う方法に関する。この方法は発明によるデバイスを使用して温度を周期的に変化させることに特徴がある。
【0013】
発明によるデバイスは熱容量がほとんどなく良好な熱絶縁が可能であるので非常に好都合であり、そのため、ポリヌクレオチド増幅サイクルが急速に完成できる(加熱/冷却で引き起こされる時間損失がほとんどない)。冷却は受動で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に本発明を一般的な実施形態および図面を使用して詳細に説明する。
図1は集積回路(IC)技術によって製造した本発明によるデバイス1の平面図を示す。アイランド3の境となる溝2はデバイスの底側に示される。ここに示すデバイスは4つのアイランド3で構成される。ここに示す実施形態ではアイランド3は結合ブリッジ4を介して、バルク部分である第2の層5の別の部分と4箇所で結合される(図3)。アイランド3は機械的に補強された部分として機能し、発明によると、結合ブリッジ4で特別に強い構造が付与される。
【0015】
ここに示す実施形態では、隣接するアイランド3,3’の結合ブリッジ4、4’はできるだけ離れて配置される。またデバイス1のアイランド3は添加された多結晶シリコン製の抵抗加熱素子6を備える。加熱素子6に通電するとアイランド3は加熱されるが、溝2が存在するため熱はほとんど消散しない。
【0016】
図2は図1のデバイスの斜視平面図を示す。第1の層7が見えるが、この層7には抵抗加熱素子6および第2の層5が含まれる。デバイスには、垂直壁9で囲まれ、この場合第1の層の一部である4つの窪み8が備わる。
【0017】
図3は図1のデバイスの斜視底面図を示す。第1の層7と溝2を有する第2の層とが見える。結合ブリッジ4によってアイランド3がアイランド3の外部に配置された第2の層5の部分と結合し機械的強度が付与される。この強度はデバイスを取り扱うためだけでなく、アイランド3の加熱の結果生じるデバイス内の応力に耐えるためにも重要である。
【0018】
この実施形態では、溝2の深さは第2の層5が残らないようになっているが、必ずしもこの深さにする必要はない。溝の深さは第2の層の厚さの少なくとも50%が好ましく、少なくとも80%、例えば100%がさらに好ましい。
【0019】
上記実施形態は反応温度を周期的に変化させる必要のあるポリメラーゼ連鎖反応、生化学ヌクレオチド増幅技術を実施するのに適している。反応をリアルタイムにモニターするために上記実施形態の各アイランドに感光性領域10と、加熱素子6によって上昇した温度を測定する温度センサ11とを備える。以下に、前述のデバイスの製造工程について説明する。
【0020】
(PCRチップ製造)
(標準製造工程)
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)チップを製造する製造工程はシリコンの局部的酸化(LOCOS)に基づく、標準1.6μmの通常の多結晶シリコンゲートの相補型金属酸化物半導体(CMOS)工程に基づく。前面側でエピタキシャル成長をさせた12μmの層を有する525μm厚さのP型基板上にこの構造を形成する。製造工程の第1の工程はアクチュエータ(加熱素子6)のウエハの前面側にセンサ(読み出して電子を制御する光検出用と温度測定用の10,11)を形成する。この工程自体には半導体製造技術で一般的ないくつかの製造工程が含まれる。
【0021】
光検出器10は2段に積み重ねたpn接合で構成する。下の接合はpエピレイヤとnウエルとで形成する。上の接合は通常ドレンコンタクトとソースコンタクトに使用されるnウエルと平滑なインプラントp層とで形成する。抵抗加熱素子6はリンを添加した多結晶シリコンで作る。温度センサ11はCMOS工程におけるラテラルPNPトランジスタで作り、ラテラルPNPトランジスタはインプラントp層とnウエルとpエピレイヤとで形成する。形成された構造を絶縁して保護するためにプラズマエンハンス化学気相堆積法(PECVD)を使用して800nm層の窒化ケイ素を適用する。
【0022】
(特別の後製造工程)
上記標準のCMOS製造工程の後、標準にはなっていない後製造工程を多数適用する。この後製造におけるリソグラフィ工程では3つのマスクだけが使用される。これらのマスクはSU−8フォトレジストによる窪みの(選択的)形成用に、膜のエッチング用に、さらに断熱溝2の形成用に使用される。後製造工程の第1の工程として厚さ1から2μmの窒化ケイ素層をウエハの裏側に適用する。リソグラフィおよびエッチング工程によって、SiN層にパターンを付ける。水酸化カリウム(KOH)を使用したエッチング工程によってシリコンバルク層を約150μm厚さの膜にまでエッチングすることができる。引き続き、ウエハの裏側の残りのSiN層をエッチング工程を使用して除去する。ウエハの表側にSU−8フォトレジストの(選択的)層を塗布する。この層に、表側に形成される窪みおよび電気接続用開口に相当するパターンをリソグラフィ的に与える。フォトレジストを現像した後、所望の窪みおよび電気接続を行う開口がSU−8フォトレジストに形成される。裏側は2μm厚さのシリコン酸化物を設ける。この層にエッチングされる溝に相当するパターンをリソグラフィ的に与える。最後の工程として、シリコン酸化物で停止する反応性イオンエッチング工程(RIE)を実施することで、裏側に熱絶縁用の溝2を形成する。
【0023】
このようにして形成されたウエハは個々にチップとして使用できるように切断される。
(実験)
このようにして製造したチップをキャリアに取り付ける。チップはキャリアに接着接合によって取り付ける。接着に際しては熱絶縁構造を損なわないように注意する必要がある。このキャリアの目的はチップをより容易に取扱い、電気接続を可能にし、かつチップを保護するためである。
【0024】
チップは電子制御調節することができる。この場合、チップと外部界との連絡はチップの制御装置を介して行うことができる。しかし以下の記載は、電子制御調節することなく、チップの最も簡単な形態から出発して、多結晶シリコン熱抵抗器および温度測定用の膜統合ダイオードのみを使用することを意味する。
【0025】
この実験の組立てにおいては熱抵抗器を制御するのに外部電力源を使用する。例えば、基板を通り抜ける場合に電力供給が制限されることが電力源の利点になるが、電圧源を使用する場合にはそうはならない。実際にチップを試験局面以外で使用するときには、電力源および電圧源の両方を使用することができる。
【0026】
膜の温度は膜に備わったダイオードによって測定する。このダイオードの順方向電圧の温度係数は約−2.1mV/℃である。この順方向電圧を測定するために、電力源によって発生した一定電流をダイオードに導く。好ましくはデジタル電圧計を使用して、ダイオードの順方向電圧を測定する。測定に先立って、温度を正確に測定できるようにダイオードの温度依存度を正確に決定する。このために、ダイオードを備えたチップを空調ボックスに入れる。空調ボックスの温度を多数のステップに渡って上昇させ、それぞれの温度ステップにおいて空調ボックス内のダイオードの温度が十分安定する時間に渡って空調ボックスの温度を一定に維持する。この温度でダイオードの順方向の電圧を測定する。このようにして得られた温度特性はPCRサイクルの最終の温度測定に使用できる。
【0027】
PCRサイクルを行うため、プログラム化可能な直流源を使用する。この直流源は下記の温度ステップを経過するようプログラム化する。
・ 第1ステップ:94℃
・ 第2ステップ:55℃
・ 第3ステップ:72℃
・ 第4およびこれに続くステップ(約30x):ステップ1から3を繰り返す
・ 最終ステップ:周囲温度に冷却
所望の温度に達したという事実は統合されたダイオードによって記録される。所望の温度に達したとき、電力源は次の温度ステップの温度に達するため必要な電力に調節する。
【0028】
このステップを自動化するために、ダイオードの順方向電圧を測定するデジタルマルチ測定器に接続したコンピュータおよびプログラム化可能な電力源を使用して熱抵抗を制御することが可能である。コンピュータは制御ソフトウエア、例えばAgilentのVEEを備え、連絡バスを介して測定装置に接続される。コンピュータは、PCRサイクルが(十分迅速に)完了するようプログラム化可能である。
【0029】
この試験において窪みに水性試験液体を充填させる。充填後に、試験液体の蒸発を防止するため窪みの上側を密封する。このシステムを使用し約3分半の操作時間でPCRサイクルの完了を実現することが可能である。このことを説明するため、図5に窪みがいかに速く所望の温度に達するかを示す。点線は理想的な温度曲線に相当する。また点線は加熱素子6によって導入された電力に対応する。言うまでもなく、最初に加熱素子6に、より強い電流を送ることによって、一層容易に理想の温度曲線に近づけることができる。ホットスポットと、それに伴う、例えば反応で酵素を不活性化させる危険性とは避けなければならない。
【0030】
前記タスクを自動的に行うためチップに統合される電子制御調節でさらに完全化することが可能となる。このシステム反応は比例積分微分制御システムを使用することでさらに改善できる。
【0031】
また本発明は底部層である第2の層のレセスに加えて、またはそれに代えて、頂部層である第1の層に熱絶縁用のレセスを設けることも考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】4つの窪みで構成される本発明によるデバイスの平面図を示す。
【図2】図1に描いたデバイスの一部斜視平面図を示す。
【図3】図1に描いたデバイスの一部斜視底面図を示す。
【図4】図1に描いたデバイスの線IV−IVで切断した断面図を示す。
【図5】本発明によるデバイスで実施した温度サイクルのグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの窪み群を備えたウエハで構成され反応を起こさせるデバイスにおいて、
窪みは互いに熱的に分離され、デバイスは窪みの温度を変化させる手段を備え、ウエハは少なくとも2つの層で構成され、頂部層である第1の層は窪みの底を形成し、第1の層の下方に位置する第2の層の少なくとも1つのレセスによって熱分離が行われ、
2つの隣接する窪み間に少なくとも1つのレセスが存在し、
第2の層は第1の層に出現し窪みの底において少なくとも底の一部となり、この出現し少なくとも底の一部となる第2の層の部分は機械的補強部分と呼ばれ、また第2の層は第2の層上の窪みの底の出現部分の外側となる第2の層の一部と少なくとも1つのブリッジで結合され、底の外側に位置する第2の層の突出部分はバルク部分と呼ばれ、
窪みの温度を変化させる手段は、第1の層に突出して、窪みの底に位置する
ことを特徴とするデバイス。
【請求項2】
レセスは溝状に形成されることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
窪みの下方に位置する機械的補強部分は補強部分の周囲に分散配置された少なくとも3つのブリッジによってバルク部分に結合されることを特徴とする請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
窪みの温度を変化させる手段は第2の層に集積化されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項5】
温度を変化させる手段は窪みを加熱する手段であることを特徴とする請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
第1の層は少なくとも光透過層であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のデバイスを製造する方法であって、
第2の層を形成するウエハに頂部層である第1の層を設け、
第1の層の隣接する2つの窪み間において第2の層の底側でウエハにレセスを設ける
ことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のデバイスを使用してポリヌクレオチド増幅を行う方法であって、周期的に温度を変化させることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−514405(P2007−514405A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−536463(P2006−536463)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000618
【国際公開番号】WO2005/037433
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(500292149)テクニッシェ ユニヴァージテート デルフト (14)
【Fターム(参考)】