説明

反応性ホットメルト接着剤

【課題】 耐熱性の低い被着体にも直接塗布が可能であり、しみ出しやズレを生じない接着性が良好な反応性ホットメルト接着剤を提供する。
【解決手段】 回転型レオメーターにて測定された40℃及び60℃の粘度η40(Pa・s)及びη60(Pa・s)が、50≦η60≦1000、かつ、η40/η60≧8であることを特徴とする反応性ホットメルト接着剤。回転型レオメーターにて測定された80℃の粘度η80が、50Pa・s以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応性ホットメルト接着剤に関し、特に布地の接着に適する。
【背景技術】
【0002】
布地用接着剤の一つとして環境負荷が低く、生産性の高い無溶剤型のホットメルト系接着剤が使用されている。特に、接着剤に耐熱性等の耐熱劣化性が求められる場合には、接着後に架橋反応を生じる反応性ホットメルト接着剤が適している。しかし、反応性ホットメルト接着剤は加熱溶融状態で被着体に塗布されるため、耐熱性の低い被着体への塗布が困難であったり、場合によってはしみ出しが発生するなどの問題が生じており、引用文献1で布地用反応性ホットメルト接着剤が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−138243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記引用文献1は反応性ホットメルト接着剤を布地に直接塗布して貼り合わせるのではなく、離型性を有する支持体フィルム又はシートに該接着剤を塗工後、形成された接着剤層を布地へ転写し、別の被着体と熱圧して貼り合わせることを特徴としている。この方法によれば、耐熱性の低い被着体の貼り合わせに有効であるが、工程が増えるためホットメルト接着剤の利点である高生産性が損なわれる。
【0005】
本発明では、耐熱性の低い被着体にも直接塗布が可能であり、しみ出しやズレを生じない接着性が良好な反応性ホットメルト接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は鋭意検討した結果、ある温度における粘度が特定の範囲にある反応性ホットメルト接着剤が、前記の課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、一般的な接着は塗布工程及び圧着工程からなり、本発明は各工程での粘度範囲を規定するものである。
【0007】
本発明は、[1] 回転型レオメーターにて測定された40℃及び60℃の粘度η40(Pa・s)及びη60(Pa・s)が、50≦η60≦1000、かつ、η40/η60≧8であることを特徴とする反応性ホットメルト接着剤である。
また、本発明は、[2] 回転型レオメーターにて測定された80℃の粘度η80が、50Pa・s以下であることを特徴とする上記[1]に記載の反応性ホットメルト接着剤である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐熱性の低い被着体の場合にも直接塗布することが可能であり、適切なアンカー効果を発現しながら、しみ出しが発生しない反応性ホットメルト接着剤の提供が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の第一の特徴は、圧着工程および圧着後の工程における粘度に関するものである。すなわち、回転型レオメーターにて測定された40℃及び60℃における粘度η40(Pa・s)及びη60(Pa・s)が、50≦η60≦1000、かつ、η40/η60≧8を満たす反応性ホットメルト接着剤であることを特徴とする。
【0010】
一般的な貼り合わせ装置では、接着剤温度が約60℃の状態で被着体に貼り合わされる。そのため、η60が、50Pa・s未満の場合は、粘度が低すぎて被着体にしみ込み過ぎ、接着剤層が減少して接着強さが低下する。一方、η60が1000Pa・sを超える場合は、粘度が高すぎて被着体へしみ込み難くなり、アンカー効果が減少するため接着強さが低下する。
【0011】
圧着直後は貼り合わせ品が、自然又は強制的に冷却されることにより、初期凝集力が発現する。温度領域としては約60〜40℃に相当する。貼り合わせ直後は、貼り合わされた被着体が、ハガレやズレを生じない程度の初期凝集力が求められる。よって、圧着後の接着剤の粘度は速やかに上昇することが好ましい。つまり、粘度上昇の度合いを示すη40/η60の値が大きい方が好ましい。なお、この値が8未満の場合は、粘度上昇が緩慢で初期凝集力が増加しないため、貼り合わせ後にハガレやズレを生じる。
【0012】
本発明の第二の特徴は、塗布工程の粘度に関するものであり、良好な塗工性を実現するためには塗布時の粘度が低粘度であるほど好ましい。また、ポリエチレンのような耐熱性の低い素材を含む被着体に塗布する場合は、80℃で塗布するのが一般的である。よって、回転型レオメーターにて測定された80℃の粘度η80が、50Pa・s以下であることを特徴とする。η80が50Pa・sを超える場合は、転写不良や塗工スジの発生、または、吐出量の低下などを引き起こす。
【0013】
反応性ホットメルト接着剤は、ポリオールとポリイソシアネートを−NCO/−OH比1.2以上、好ましくは、1.5〜3.0の範囲で反応させて得られるプレポリマーである。
ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリアクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、ロジン変性ポリオール、ポリエチレンブチレンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール等が用いられる。
【0014】
ポリイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジメチルジフェニルメタンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート等が用いられる。
【0015】
ポリイソシアネートとポリオール混合物のNCO/OH比は、1.2以上、好ましくは、1.5〜3.0の範囲となるように決定される。1.2未満では、得られるプレポリマーの粘度が高くなり過ぎ、作業性の悪化を招き、3.0を超えると得られる皮膜が硬くなり、風合いの低下を生じるという欠点がある為である。
【0016】
上記ポリオール混合物とポリイソシアネートからプレポリマーを得るには、加熱及び脱泡可能な混合機を用いて、50〜130℃の範囲で窒素ガスをパージする等の方法で湿気を遮断しつつ数時間加熱、反応させる。
【0017】
回転型レオメーターにて測定された40℃及び60℃の粘度η40(Pa・s)及びη60(Pa・s)が50≦η60≦1000、かつη40/η60≧8である反応性ホットメルト接着剤は以下のようにして得ることができる。40℃及び60℃の粘度η40(Pa・s)及びη60(Pa・s)が50≦η60≦1000の反応性ホットメルト接着剤は、例えば重量平均分子量が5000以下、かつ、ガラス転移温度が−30〜+30℃のポリオールを一種類以上含むポリオール混合物に、NCO/OH比を1.5〜3.0で反応させることで得られる。更に、η40/η60≧8を同時に満たすには、前記の方法にて得られた反応性ホットメルト接着剤のガラス転移温度が−20℃以上であることが必要である。
回転型レオメーターにて測定された80℃の粘度η80が、50Pa・s以下である反応性ホットメルト接着剤は、前述したように重量平均分子量やNCO/OH比を調整することにより得られる。更に、粘着付与剤や可塑剤を添加することにより粘度を調整することも可能である。
【0018】
本発明では、必要に応じて、熱可塑性ポリマー(ポリウレタン、エチレン系共重合体、プロピレン系共重合体、塩化ビニル系共重合体、アクリル共重合体、スチレン−共役ジエンブロック共重合体等の各種ゴム系)、粘着付与樹脂(ロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、水添ロジンエステル樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、水添テルペン樹脂、石油樹脂、水添石油樹脂、クマロン樹脂、ケトン樹脂、スチレン樹脂、変性スチレン樹脂、キシレン樹脂、エポキシ樹脂等の各種樹脂系)、更に触媒(ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンオクテート、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリオクチルアミン等)、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、難燃剤、充填剤等を適量配合しても良い。
【0019】
本発明によると、回転型レオメーターにて測定された40℃及び60℃の粘度η40(Pa・s)及びη60(Pa・s)が、50≦η60≦1000、かつ、η40/η60≧8であることを特徴とする接着剤により、特に布地の接着に適した反応性ホットメルト接着剤を得ることができる。
【実施例】
【0020】
次に、実施例及び比較例によって本発明を更に具体的に説明し、これらの具体例の結果を示すが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。反応性ホットメルト接着剤の試験方法・評価方法を以下に説明する。
【0021】
溶融粘度は回転型レオメーター(Reologica製STRESSTECH)を用いて測定した。
ジオメトリー:20mmφパラレルプレート
GAP:2mm
周波数:0.5Hz
せん断応力:100Pa
温度:120〜30℃(5℃/minで降温)
【0022】
貼り合わせは、グラビアロールコーター(CAVITEC製CAVIMELT)を用い、ポリエステルタフタ(スーツやスカートの裏地に使われているツルツルした生地)に塗布してナイロン起毛布を貼り合わせた。
塗布・貼り合わせ条件を下記のようにして行った。
塗布温度:80℃
塗布速度:3m/min
グラビアロール:セル直径0.66mm×深度0.22mm,82個/cm
標準転写量 15g/m
コーティングロールGAP:0mm
コーティングロールエア圧:2bar
ラミネートロールGAP: 0mm
ラミネートロールエア圧: 2bar
被着体:ナイロン起毛布×ポリエステルタフタ
養生:23℃・50%RH×7日
【0023】
しみ出しの有無は、貼り合わせ品の外観を目視で確認した。
【0024】
接着剤の初期凝集力は、下記の初期クリープ試験にて評価した。
試験雰囲気:23℃・50%RH
被着体:市販MDF×オレフィンシート(約50μm厚)
試験片:25mm×100mm幅
試験方法:オレフィンシートに反応性ホットメルト接着剤を約70g/mで塗布し、MDFに貼り合わせる。その直後、50gfの錘を90°方向にぶら下げて5分間放置し、落下したとき(100mm以上のズレ)は×、落下しなかったとき(100mm未満のズレ)は○と判定した。
*MDF:中質繊維板(木質繊維を熱圧して成形されたボード)
【0025】
接着剤の塗工性は、グラビアロールコーター(CAVITEC製CAVIMELT)を用い、ポリエステルタフタに塗布して判定した。
塗布温度:80℃
塗布速度:3m/min
グラビアロール:セル直径0.66mm×深度0.22mm,82個/cm
標準転写量 15g/m
コーティングロールGAP:0mm
コーティングロールエア圧:2bar
被着体:ポリエステルタフタ
判定方法:転写量が15g/m以上である場合を100%とし下記の様に判定
した。
◎:転写量100%
○:転写量 80%以上
△:転写量 60%以上
×:転写量 60%未満
【0026】
貼り合わせ品のT型はく離接着強さは、JIS K6854−3に準じて測定した。
引張試験機:株式会社島津製作所製ストログラフ
試験雰囲気:23℃・50%RH
試験片: 25mm幅
試験速度: 200mm/min
【0027】
実施例及び比較例二使用したポリオールを表1に示した。
【0028】
【表1】


EG:エチレングリコール、DEG:ジエチレングリコール、Ad:アジピン酸、Az:アゼライン酸、PA:フタル酸、PO付加Bis−A:ポリオキシエチレン付加ビスフェノールA
MW:重量平均分子量、Tm:融点、Tg:ガラス転移温度
【0029】
(実施例1)
温度計、攪拌機、コンデンサー及び窒素ガス導入管を備え付けたセパラブルフラスコに、ポリオールA(15重量部)及びポリオールB(85重量部)を仕込み、攪拌しながら昇温した。90℃において減圧下で水分を除去した後、ジフェニルメタンジイソシアネート(25重量部)を仕込み昇温し、窒素雰囲気下に温度120℃で1時間反応後、更に減圧下にて脱泡しながら1時間反応させて反応性ホットメルト接着剤を得た。
【0030】
(実施例2)
温度計、攪拌機、コンデンサー及び窒素ガス導入管を備え付けたセパラブルフラスコに、ポリオールA(20重量部)及びポリオールC(80重量部)を仕込んだ以外は、実施例1と同様の操作を行い反応性ホットメルト接着剤を得た。
【0031】
(実施例3)
温度計、攪拌機、コンデンサー及び窒素ガス導入管を備え付けたセパラブルフラスコに、ポリオールB(100重量部)を仕込んだ以外は、実施例1と同様の操作を行い反応性ホットメルト接着剤を得た。
【0032】
(比較例1)
温度計、攪拌機、コンデンサー及び窒素ガス導入管を備え付けたセパラブルフラスコに、ポリオールA(100重量部)を仕込んだ以外は、実施例1と同様の操作を行い反応性ホットメルト接着剤を得た。
【0033】
(比較例2)
温度計、攪拌機、コンデンサー及び窒素ガス導入管を備え付けたセパラブルフラスコに、ポリオールA(10重量部)、ポリオールD(88重量部)及びポリオールE(2重量部)を仕込んだ以外は、実施例1と同様の操作を行い反応性ホットメルト接着剤を得た。
【0034】
実施例1〜4及び比較例1、2の反応性ホットメルト接着剤の配合及び試験結果を表2に示した。
【0035】
【表2】

【0036】
表2から、特に圧着時の粘度(η60)及び粘度の温度依存性(η40/η60)が特性に対して強く影響していることがわかる。図1に実施例2及び比較例1の粘度の温度依存性を示した。しみ込みと初期凝集力に関する本発明の50≦η60≦1000、かつ、η40/η60≧8を満たす実施例1〜3は、しみだしがなく、また、初期凝集力に優れる。これに対し、50≦η60とη40/η60≧8を満たさない比較例1は、しみだしが有り、初期凝集力に劣る。比較例2は、塗工性に関するη80が、50Pa・s以下を満たさず、塗工性に劣る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例2及び比較例1で用いた反応性ホットメルト接着剤の粘度の温度依存性を示した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転型レオメーターにて測定された40℃及び60℃の粘度η40(Pa・s)及びη60(Pa・s)が、50≦η60≦1000、かつ、η40/η60≧8であることを特徴とする反応性ホットメルト接着剤。
【請求項2】
回転型レオメーターにて測定された80℃の粘度η80が、50Pa・s以下であることを特徴とする請求項1に記載の反応性ホットメルト接着剤。



【図1】
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