説明

反応性物質が結合した微小粒子の安定化方法および該微小粒子含有試薬

【課題】反応性物質結合微小粒子の分散液中で該微小粒子を安定化することにより、分散液中の反応性物質結合微小粒子の反応性を長期間維持する方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、反応性を有する物質が結合した微小粒子の安定化方法を提供し、該方法は、該微小粒子の分散液中に、含硫アミノ酸またはその誘導体を共存させる工程を含む。含硫アミノ酸としては、システイン、シスチン、およびメチオニンが好ましい。本発明の方法は、特に、分散液中に、ポリアニオン、デキストランなどの沈降抑制物質を共存させる場合に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体または抗原などの反応性を有する物質が結合した微小粒子(以下、反応性物質結合微小粒子という)の安定化方法および該反応性物質結合微小粒子を用いた免疫測定用試薬に関する。特に、主として臨床検査の分野で、抗原抗体反応を利用した免疫学的測定に用いられる反応性物質結合微小粒子の安定化方法および該反応性物質結合微小粒子を用いた免疫測定用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、臨床検査などの各種検査においては、自動化および測定時間の短縮化が図られている。例えば、免疫反応を利用して、生体試料中の微量物質を測定する方法が広く用いられている。この免疫測定方法としては、RIA法、EIA法、免疫比濁法、ラテックス凝集法、金コロイド凝集法、イムノクロマト法などが挙げられる。その中でも、ラテックス凝集法、金コロイド凝集法などの反応性を有する物質が結合した微小粒子(反応性物質結合微小粒子)を用いる方法は、反応液の分離や洗浄操作を必要としないため、特に測定の自動化や短時間化に適している。
【0003】
しかし、これらのラテックス凝集法および金コロイド凝集法は、反応性物質結合微小粒子が分散液中で不安定であり、沈降や自己凝集などにより反応性を長期間維持することができないことから、測定精度を減ずることなく試薬を長期間保存することが困難という問題がある。
【0004】
特許文献1には、反応性物質結合微小粒子の分散液中に、ポリアニオンおよびその塩、デキストラン、シクロデキストリン、ポリエチレングリコール、およびグリセロールからなる群より選択される少なくとも1種を共存させる工程を含む、反応性物質結合微小粒子の沈降抑制方法が記載されている。これは、試薬溶液中の反応性物質結合微小粒子が沈降するのを抑制することにより、反応性物質結合微小粒子を安定化させようとするものである。しかし、反応性物質結合微小粒子を含む試薬を長期間保存した場合、反応性物質結合微小粒子は自己凝集を生じ、反応性が低下するという問題がある。
【0005】
特許文献2には、金属イオンおよびキレート物質を安定化剤として添加する方法が記載され、特許文献3には、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、デキストラン硫酸、コール酸、デオキシコール酸、キサンツレン酸、またはそれらの塩を添加する方法が記載されている。しかし、自己凝集、反応性の低下などの問題が依然として残っている。
【0006】
ところで、特許文献4には、チオール基およびアミノ基を有する化合物の共存下で塩化金酸を還元することを特徴とするカチオン性表面をもつ金ナノ粒子の作製法が記載されている(請求項1)。特許文献5には、混合単層膜をコーティングした金属質ナノ粒子であるチオプロニン単層膜保護金ナノ粒子の合成法が記載されている(実施例3)。特許文献6には、金粒子に対し、少なくとも1個のシステインを含むペプチドを、前記システイン中の硫黄原子を介して結合させることを特徴とする免疫反応性凝集剤が記載されている(請求項1)。しかし、これらはいずれも、単に反応性の向上などを目的として金粒子表面上に物質を結合した金粒子の調製方法を示したものであり、金粒子の安定化方法については開示していない。
【特許文献1】特開2007−114129号公報
【特許文献2】特開2000−146967号公報
【特許文献3】特開平11−101799号公報
【特許文献4】特開2005−287507号公報
【特許文献5】特表2005−534810号公報
【特許文献6】特開2006−317401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、測定精度を減ずることなく試薬の長期間の保存を図るために、反応性物質結合微小粒子を分散液中で安定化し、反応性を長期間維持する技術が望まれている。
【0008】
したがって、本発明の目的は、反応性物質結合微小粒子の分散液中で該微小粒子を安定化する方法を提供することである。本発明の目的はまた、反応性が長期間維持された反応性物質結合微小粒子を含む、測定精度を減ずることなく長期間保存できる試薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、反応性物質結合微小粒子の分散液中において、含硫アミノ酸またはその誘導体を共存させることにより、反応性物質結合微小粒子を安定化し、かつ反応性物質結合微小粒子の反応性を長期間維持できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、反応性を有する物質が結合した微小粒子の安定化方法を提供し、該方法は、該微小粒子の分散液中に、含硫アミノ酸またはその誘導体を共存させる工程を含む。
【0011】
1つの実施態様においては、上記含硫アミノ酸は、システイン、シスチン、およびメチオニンからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0012】
他の実施態様においては、上記分散液中に、上記含硫アミノ酸またはその誘導体は0.001〜2.0質量%の割合で含有される。
【0013】
別の実施態様においては、上記分散液中に、沈降抑制物質をさらに共存させる工程を含む。
【0014】
別の実施態様においては、上記沈降抑制物質は、ポリアニオンおよびその塩、デキストラン、シクロデキストリン、ポリエチレングリコール、およびグリセロールからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0015】
別の実施態様においては、上記ポリアニオンは、デキストラン硫酸またはヘパリンである。
【0016】
別の実施態様においては、上記反応性を有する物質が結合した微小粒子は、抗体または抗原が結合した金コロイド粒子である。
【0017】
本発明の試薬は、反応性を有する物質が結合した微小粒子と、含硫アミノ酸またはその誘導体とを含み、そのため該微小粒子が安定化されている。
【0018】
1つの実施態様においては、上記含硫アミノ酸は、システイン、シスチン、およびメチオニンからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0019】
他の実施態様においては、上記試薬中に、上記含硫アミノ酸またはその誘導体は0.001〜2.0質量%の割合で含有される。
【0020】
別の実施態様においては、上記試薬は、沈降抑制物質をさらに含む。
【0021】
別の実施態様においては、上記沈降抑制物質は、ポリアニオンおよびその塩、デキストラン、シクロデキストリン、ポリエチレングリコール、およびグリセロールからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0022】
別の実施態様においては、上記ポリアニオンは、デキストラン硫酸またはヘパリンである。
【0023】
別の実施態様においては、上記反応性を有する物質が結合した微小粒子は、抗体または抗原が結合した金コロイド粒子である。
【0024】
本発明はまた、上記試薬を含む試薬キットを提供する。
【0025】
本発明はさらに、上記試薬と試料とを混合する工程を含む自動化免疫測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、臨床検査などの分野で抗原抗体反応を利用した免疫学的測定に用いられる反応性物質結合微小粒子の分散液中で該微小粒子を安定化することができる。本発明によれば、反応性が長期間維持された反応性物質結合微小粒子を含む試薬を提供することができる。本発明の試薬を使用することで、測定精度を減ずることなく試薬の長期間の保存が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
1.反応性物質結合微小粒子の安定化方法
本明細書において、反応性物質結合微小粒子の安定化とは、反応性物質結合微小粒子の反応性が経時的に実質上変化しないこと、すなわち長期間維持されることをいう。反応性物質結合微小粒子を安定化することにより、該微小粒子を含む、測定精度を減ずることなく長期間保存できる試薬を提供することができる。
【0028】
本発明の反応性物質結合微小粒子の安定化方法は、該微小粒子の分散液中に、含硫アミノ酸またはその誘導体を共存させる工程を含む。
【0029】
本発明の方法に用いられる反応性物質結合微小粒子は、免疫測定試薬として使用され得る微小粒子であり、好ましくはラテックス粒子および金属コロイド粒子である。金属コロイド粒子としては、金、銀、セレンなどのコロイド粒子があるが、金コロイド粒子が一般的に利用され易く、好ましく用いられる。金コロイド粒子は、市販品を用いてもよく、当業者が通常用いる方法、例えば塩化金酸をクエン酸ナトリウムで還元する方法により調製してもよい。金コロイド粒子の粒径は、通常5nm〜100nm、好ましくは30nm〜60nmの範囲である。
【0030】
上記微小粒子に結合させる物質については、測定対象物質に特異的に結合するものであれば利用可能である。例えば、抗体、還元IgG、抗体のF(ab’)断片またはFab’断片、抗原、レセプター、レクチン、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)などの結合親和性を有する物質が挙げられる。
【0031】
本発明の方法においては、含硫アミノ酸またはその誘導体が用いられる。本明細書においては、これらの化合物を安定化物質という。安定化物質は、単独で用いてもよく、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本明細書において、含硫アミノ酸とは、天然の含硫アミノ酸、および天然のアミノ酸であって硫黄原子が導入されたものをいう。また、誘導体とは、有機化学で一般的に用いられる概念を意味し、置換体、付加体などをいう。
【0033】
上記安定化物質である含硫アミノ酸のうち、天然の含硫アミノ酸としては、例えば、システイン、シスチン、およびメチオニンが挙げられ、含硫アミノ酸の誘導体としては、例えば、メチオニノール、メチニナール、メチオニンアミド、2−アルキルシステイン、S−メチルシステイン、システイノール、システイナール、およびシステインアミドが挙げられる。システイン、シスチン、およびメチオニンは市販されており、本発明においては、これらを利用するのが好ましい。特に好ましいのは、メチオニンである。
【0034】
本発明の方法は、上記反応性物質結合微小粒子の分散液中に、上記安定化物質を共存させる。共存させる手段は、特に制限されない。例えば、反応性物質結合微小粒子の分散液に安定化物質を加えてもよく、安定化物質または安定化物質を分散媒で希釈した希釈液に、反応性物質結合微小粒子を加えてもよく、あるいは反応性物質結合微小粒子と安定化物質とを混合し、この混合物を分散媒に加えてもよい。なお、分散媒は、特に制限されないが、例えば、水、あるいは後述する緩衝剤を用いた緩衝液などが用いられる。
【0035】
本発明の方法において、分散液中の反応性物質結合微小粒子の濃度は、当該分野で通常採用される濃度であり得る。
【0036】
本発明の方法において、分散液中に共存される安定化物質の濃度は、安定化物質の種類に応じて適宜設定される。例えば、含硫アミノ酸の場合、好ましくは0.001〜2.0質量%、より好ましくは0.005〜1.0質量%、さらに好ましくは0.02〜0.5質量%である。
【0037】
本発明の方法において、分散液中には、さらに沈降抑制物質が適宜添加されてもよい。本明細書において、沈降抑制物質とは、反応性物質結合微小粒子の分散液中に共存させることによって、該微小粒子の沈降を抑制する物質をいう。
【0038】
上記沈降抑制物質としては、例えば、ポリアニオンおよびその塩、デキストラン、シクロデキストリン、ポリエチレングリコール、またはグリセロールが挙げられる。沈降抑制物質は、単独で用いてもよく、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
上記沈降抑制物質の1種であるポリアニオンとしては、例えば、デキストラン硫酸、へパリン、ポリスチレンスルホン酸、ヒアルロン酸、およびコンドロイチン硫酸が挙げられる。ポリアニオンの塩としては、例えば、デキストラン硫酸ナトリウム、ヘパリンナトリウムなどが挙げられる。ポリアニオンまたはその塩の中でも、沈降抑制効果が高い観点から、硫酸基を有する水溶性高分子化合物が好適に用いられる。このような化合物は、例えば、デキストラン硫酸、ヘパリン、デキストラン硫酸ナトリウム、およびヘパリンナトリウムである。
【0040】
本発明の方法において、分散液中に共存される沈降抑制物質の濃度は、沈降抑制物質の種類に応じて適宜設定される。例えば、ポリアニオンまたはその塩の場合、好ましくは0.3〜5.0質量%、より好ましくは0.5〜2.0質量%、さらに好ましくは0.7〜1.1質量%である。デキストランまたはシクロデキストリンの場合、好ましくは0.1〜5.0質量%、より好ましくは0.2〜1.8質量%、さらに好ましくは0.5〜1.5質量%である。ポリエチレングリコールの場合、好ましくは0.3〜5.0質量%、より好ましくは0.5〜3.0質量%である。グリセロールの場合、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜35質量%である。
【0041】
本発明の方法において、分散液中には、さらに他の安定化物質として、金属イオンおよびキレート剤(特許文献2)、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、デキストラン硫酸、コール酸、デオキシコール酸、キサンツレン酸、およびそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種(特許文献3)が適宜添加されてもよい。
【0042】
本発明の方法において、分散液中には、さらに従来用いられている緩衝剤、糖および糖アルコール、アルブミン、ポリエチレングリコール、塩化ナトリウム、防腐剤、およびその他の物質が適宜含まれる。
【0043】
本発明の方法によれば、反応性物質結合微小粒子の分散液中に、安定化物質を共存させることによって、反応性物質結合微小粒子を安定化することができる。したがって、この方法を用いることによって、分散液中で該微小粒子の反応性を長期間維持することが可能となる。特に、分散液中に、ポリアニオン、デキストランなどの沈降抑制物質を共存させる場合に有用である。
【0044】
2.反応性物質結合微小粒子と安定化物質とを含む試薬
本発明の試薬は、上記反応性物質結合微小粒子と、上記安定化物質とを含み、必要に応じて、上記沈降抑制物質、他の安定化物質、緩衝剤、糖、糖アルコール、アルブミン、塩化ナトリウム、防腐剤、およびその他の添加剤を含む。
【0045】
本発明の試薬は、反応性物質結合微小粒子が安定化されているため、該微小粒子の反応性が長期間維持される。本発明の試薬の保存温度としては、好ましくは25℃以下、より好ましくは10℃以下、さらに好ましくは8℃以下である。本発明の試薬の他の保存条件としては、好ましくは暗所かつ低湿度下である。
【0046】
本発明の試薬は、通常、液状であり、反応性物質結合微小粒子を用いた試薬、特に当該分野で通常用いられる免疫測定用試薬として用いられる。
【0047】
本発明の試薬中の反応性物質結合微小粒子の濃度、および安定化物質の濃度は、特に制限されない。反応性物質結合微小粒子の安定化を高める観点から、上記方法で採用される濃度の範囲内であることが好ましい。
【0048】
本発明の試薬に含有され得る緩衝剤としては、リン酸緩衝液;トリス塩酸緩衝液;コハク酸緩衝液;グリシルグリシン、MES(2−(N−モノホリノ)エタンスルホン酸)、HEPES(N−2−ヒドロキシエチル−ピペラジン−N’−エタンスルホン酸)、TES(N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸)、MOPS(3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸))、Bis−Tris(ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン)などのグッド緩衝液などが挙げられる。上記緩衝剤は、試薬中のpHが5〜9、あるいは濃度が1〜100mMとなるように含有されることが好ましい。
【0049】
本発明の試薬に含有され得る糖および糖アルコールとしては、グルコース、マンノース、サッカロース、ラクトース、マルトース、マンニトール、ソルビトールなどが挙げられる。上記糖または糖アルコールは、試薬中の濃度が0.01〜10.0質量%であることが好ましい。
【0050】
本発明の試薬に含有され得るアルブミンとしては、ウシ血清アルブミン(BSA)などが挙げられる。アルブミンは、試薬中の濃度が0.001〜1.0質量%であることが好ましい。
【0051】
本発明の試薬に含有され得る防腐剤としては、アジ化ナトリウムなどが挙げられる。防腐剤は、試薬中の濃度が0.01〜0.5質量%であることが好ましい。
【0052】
本発明の試薬に含有され得るその他の添加剤としては、ツィーン20、ポリエチレングリコールラウリルエーテル、5−ブロモサリチル酸、サリチル酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、フェノール、チモールなどが挙げられる。
【0053】
本発明の試薬は、上記のように、反応性物質結合微小粒子が安定化されているため、該微小粒子の反応性が長期間維持される。したがって、この試薬を用いて免疫測定を行う場合には、測定精度を減ずることなく試薬の長期間の保存が可能となる。
【0054】
3.試薬キット
本発明の試薬キットは、上記反応性物質結合微小粒子と安定化物質とを含む試薬(本発明の試薬)を含む。この試薬キットは、例えば、ラテックス凝集法、金コロイド凝集法などを用いた免疫測定、特に自動化免疫測定に用いられる。
【0055】
本発明の試薬キットが免疫測定用試薬キットとして用いられる場合、そのキットは、通常、試料の希釈、試料の免疫反応前の前処理、および免疫反応を補助する成分などを含有する第一試薬、本発明の試薬でなる第二試薬、および必要に応じて、検量線作成用の測定対象物質の標準品から構成され得る。
【0056】
本発明の試薬キットは、本発明の試薬中の微小粒子に結合された反応性物質に応じて、試料中の種々の物質を測定対象とすることができる。測定対象となり得る物質(測定対象物質)としては、例えば、アルブミン、ヘモグロビン、ヘモグロビンA1c、ミオグロビン、トランスフェリン、ラクトフェリン、シスタチンC、フェリチン、α−フェトプロテイン、癌胎児性抗原、CA19−9、前立腺特異抗原、C反応性蛋白質(CRP)、繊維素分解産物(FDP)、ペプシノーゲンIおよびII、コラーゲンなどの蛋白質;高比重リポ蛋白質、低比重リポ蛋白質、超低比重リポ蛋白質などの脂質蛋白質;デオキシリボ核酸、リボ核酸などの核酸;アルカリ性ホスファターゼ、乳酸脱水素酵素、リパーゼ、アミラーゼなどの酵素;IgG、IgM、IgA、IgD、IgEなどの免疫グロブリン;B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヘリコバクターピロリ、およびこれらに対する抗体などの感染症に関する抗原や抗体;ハロペリドール、ブロムペリドールなどの薬物;性ホルモンなどのホルモンなどが挙げられる。
【0057】
測定に供する測定対象物質を含む試料としては、血液、血漿、血清、尿、糞便(懸濁液)、髄液、腹水などの生体試料、環境中より得られたサンプルまたはその抽出物などが挙げられる。
【0058】
4.自動化免疫測定方法
本発明の自動化免疫測定方法は、本発明の試薬を用いて行われる。この自動化免疫測定方法は、試薬中において、反応性物質結合微小粒子が安定化され、反応性が長期間維持されるため、長期間保存された試薬を用いても精度の高い測定値を得ることができる。
【0059】
本発明の自動化免疫測定方法は、具体的には、試料、第一試薬、および本発明の試薬(第二試薬)を自動分析装置にセットし、試料に、第一試薬および第二試薬を順次自動的に混合することによって行われる。第一試薬と第二試薬との割合は、適宜設定される。好ましくは本発明の試薬(第二試薬)は、2〜9倍、より好ましくは3〜5倍に希釈される。
【実施例】
【0060】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。以下の実施例において、特に記載がない限り、%はいずれも質量/容量%(W/V%)を表す。
【0061】
調製例1:金コロイド液の調製
95℃の蒸留水1Lに10%塩化金酸水溶液2mLを攪拌しながら加え、1分後に2%クエン酸ナトリウム水溶液10mLを加え、さらに20分間攪拌した後、30℃に冷却した。冷却後、0.1%炭酸カリウム水溶液でpH7.1に調節した。
【0062】
調製例2:抗シスタチンC抗体結合金コロイド試薬の調製
抗シスタチンC抗体(ダコ・ジャパン株式会社)を、0.05%アジ化ナトリウムを含む10mM HEPES(pH7.1)で希釈し、50μg/mLの濃度にした。この抗シスタチンC抗体溶液100mLを、調製例1で調製した金コロイド液約1Lに加え、冷蔵下で2時間攪拌した。さらに、5.46%マンニトール、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)、および0.05%アジ化ナトリウムを含む10mM HEPES(pH7.1)を110mL添加し、37℃で90分間攪拌した。次いで、8000rpmで40分間遠心分離し、上清を除去した後、3%マンニトール、0.1%BSA、および0.05%アジ化ナトリウムを含む5mM HEPES(pH7.5)(A溶液)を約1L加え、抗体結合金コロイドを分散させた。さらに、8000rpmで40分間遠心分離し、上清を除去し、1.5%デキストラン硫酸ナトリウムを含むA溶液で抗体結合金コロイドを分散させ、全量を240mLとし、抗シスタチンC抗体結合金コロイド試薬を得た。
【0063】
調製例3:抗シスタチンC還元IgGの調製
抗シスタチンC抗体(ダコ・ジャパン株式会社)を、0.05%アジ化ナトリウム、5mM EDTA・2Na、および150mM塩化ナトリウムを含む10mM HEPES(pH7.1)(B溶液)で透析後、10mg/mLの濃度になるようにB溶液で希釈した。この抗体溶液に2−メルカプトエチルアミン塩酸塩を濃度6mg/mLになるように添加し、溶解後、37℃で90分間加温した。ゲル濾過カラムにて、2−メルカプトエチルアミン塩酸塩を除き、抗シスタチンC還元IgGを得た。
【0064】
調製例4:抗シスタチンC還元IgG結合金コロイド試薬の調製
調製例3で調製した抗シスタチンC還元IgGを、0.05%アジ化ナトリウムを含む10mM HEPES(pH7.1)で希釈し、50μg/mLの濃度にした。この抗シスタチンC還元IgG溶液100mLを、調製例1で調製した金コロイド液約1Lに加え、冷蔵下で2時間撹拌した。さらに、5.46%マンニトール、0.5%BSA、および0.05%アジ化ナトリウムを含む10mM HEPES(pH7.1)を110mL添加し、37℃で90分間撹拌した。次いで、8000rpmで40分間遠心分離し、上清を除去した後、A溶液を約1L加え、還元IgG結合金コロイドを分散させた。さらに、8000rpmで40分間遠心分離し、上清を除去し、1.5%デキストラン硫酸ナトリウムを含むA溶液で抗体感作金コロイドを分散させ、全量を240mLとし、抗シスタチンC還元IgG結合金コロイド試薬Aを得た。1.25%デキストラン硫酸ナトリウムを含むA溶液で抗体感作金コロイドを分散させ、全量を240mLとし、抗シスタチンC還元IgG結合金コロイド試薬Bを得た。
【0065】
調製例5:シスタチンC測定用第一試薬の調製
5%塩化ナトリウム、0.2%EDTA、0.2%アルキルフェニルジスルホン酸ナトリウム塩、および0.35%ポリオキシエチレンラウリルエーテルを含む0.5M Bis−Tris(pH6.7)緩衝液に、反応促進剤としてポリエチレングリコールを1.0〜2.5%程度添加してシスタチンC測定用第一試薬とした。
【0066】
実施例1:メチオニンの添加効果の検討
調製例2で調製した抗シスタチンC抗体結合金コロイド試薬にメチオニンを0.005%、0.02%、0.05%、0.1%、または0.5%の濃度になるように添加してシスタチンC測定用第二試薬とした。シスタチンC濃度が8mg/Lの試料の測定において、第二試薬の反応性についての保存による経時変化を検討した。対照としてメチオニン無添加の抗シスタチンC抗体結合金コロイド試薬をシスタチンC測定用第二試薬とした。第二試薬を25℃で保存し、開始時、4日後、8日後、20日後、および39日後に、調製例5で調製した第一試薬を用いて、以下に示す方法で検討した。
【0067】
(検討方法)
3μLの試料に、第一試薬を200μL分注し、37℃で約5分間加温し、次いで、第二試薬を100μL分注し、37℃で反応させ、日立7070自動分析装置により、主波長505nmおよび副波長660nmで測光ポイント18から24の吸光度変化量を測定した。保存開始時の吸光度変化量に対する各保存期間経過後の吸光度変化量の割合を第二試薬の反応性(%)とした。結果を表1および図1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1および図1の結果から明らかなように、保存20日後の第二試薬の反応性は、メチオニン無添加の場合、約20%の低下が認められた。しかし、メチオニンを0.5%含有する場合は、約5%の低下にとどまった。保存39日後においても、メチオニン無添加の場合は、30%以上の低下が認められたが、メチオニンを0.5%含有する場合は、約7%の低下にとどまった。保存39日後においては、メチオニンを0.005%含有する場合でも、メチオニン無添加の場合と比較して、約7%高いことから、メチオニンの添加による安定化効果が認められた。このことから、メチオニンを抗体結合金コロイド粒子の分散液中に共存させることによって、該粒子を安定化できることがわかった。
【0070】
実施例2:メチオニンおよびシステインの添加効果の検討
調製例4で調製した抗シスタチンC還元IgG結合金コロイド試薬Aにメチオニンを0.03%、0.06%、または0.12%の濃度に、あるいはシステインを0.03%の濃度になるように、それぞれ添加してシスタチンC測定用第二試薬とした。シスタチンC濃度が8mg/Lの試料の測定において、第二試薬の反応性についての保存による経時変化を検討した。対照として6’,6’−ジチオジニコチン酸またはN−アセチルチオ尿素を0.03%の濃度になるように添加した抗シスタチンC還元IgG結合金コロイド試薬Aおよび無添加の抗シスタチンC還元IgG結合金コロイド試薬AをシスタチンC測定用第二試薬とした。第二試薬を冷蔵保存し、開始時、2週後、5週後、9週後、および13週後に、調製例5で調製した第一試薬を用いて、実施例1と同様の方法で測定した。結果を表2および図2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
表2および図2の結果から明らかなように、保存13週後の第二試薬の反応性は、無添加の場合、約15%の低下が認められた。しかし、メチオニンまたはシステインを含有する場合は、ほとんど低下が認められなかった。一方、含硫化合物ではあるがアミノ酸またはその誘導体ではない6’,6’−ジチオジニコチン酸またはN−アセチルチオ尿素を含有する場合は、無添加の場合と同等以上の低下が認められた。このことから、メチオニンまたはシステインを還元IgG結合金コロイド粒子の分散液中に共存させることによって、該粒子を安定化できることがわかった。
【0073】
実施例3:アミノ酸の添加効果の検討
調製例4で調製した抗シスタチンC還元IgG結合金コロイド試薬Bにメチオニン、グルタミン、グルタミン酸、またはリシンを0.02%の濃度になるように、それぞれ添加してシスタチンC測定用第二試薬とした。シスタチンC濃度が4mg/Lの試料の測定において、第二試薬の反応性についての保存による経時変化を検討した。対照として無添加の抗シスタチンC還元IgG結合金コロイド試薬BをシスタチンC測定用第二試薬とした。第二試薬を冷蔵保存し、開始時、2ヵ月後、4ヵ月後、および6ヵ月後に、調製例5で調製した第一試薬を用いて、実施例1と同様の方法で測定した。結果を表3および図3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
表3および図3の結果から明らかなように、第二試薬の反応性は、アミノ酸としてグルタミン、グルタミン酸、またはリジンを含有する場合、無添加の場合と同等の低下が認められた。しかし、メチオニンを含有する場合は、6ヵ月後においても、ほとんど低下が認められなかった。また、自己凝集による凝集物の発生もメチオニンを含有する場合には認められなかった。このことから、アミノ酸の中でも含硫アミノ酸であるメチオニンを還元IgG結合金コロイド粒子の分散液中に共存させることによって、該粒子を安定化できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、反応性物質結合微小粒子を安定化することができる。したがって、該微小粒子が安定化された試薬の提供が可能となる。この試薬は、該微小粒子の反応性が長期間維持される。そのため、この試薬を用いて免疫測定を行う場合には、測定精度を減ずることなく試薬の長期間の保存が可能となる。この試薬および該試薬を含む試薬キットは、特に自動化免疫装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】種々の濃度のメチオニンを添加した場合におけるシスタチンC測定用第二試薬(抗シスタチンC抗体結合金コロイド試薬)の反応性の経時変化を示すグラフである。
【図2】種々の含硫化合物を添加した場合におけるシスタチンC測定用第二試薬(抗シスタチンC還元IgG結合金コロイド試薬A)の反応性の経時変化を示すグラフである。
【図3】種々のアミノ酸を添加した場合におけるシスタチンC測定用第二試薬(抗シスタチンC還元IgG結合金コロイド試薬B)の反応性の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性を有する物質が結合した微小粒子の安定化方法であって、
該微小粒子の分散液中に、含硫アミノ酸またはその誘導体を共存させる工程を含む、方法。
【請求項2】
前記含硫アミノ酸が、システイン、シスチン、およびメチオニンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分散液中に、前記含硫アミノ酸またはその誘導体が0.001〜2.0質量%の割合で含有される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記分散液中に、沈降抑制物質をさらに共存させる工程を含む、請求項1から3のいずれかの項に記載の方法。
【請求項5】
前記沈降抑制物質が、ポリアニオンおよびその塩、デキストラン、シクロデキストリン、ポリエチレングリコール、およびグリセロールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリアニオンが、デキストラン硫酸またはヘパリンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記反応性を有する物質が結合した微小粒子が、抗体または抗原が結合した金コロイド粒子である、請求項1から6のいずれかの項に記載の方法。
【請求項8】
反応性を有する物質が結合した微小粒子と、含硫アミノ酸またはその誘導体とを含む、試薬。
【請求項9】
前記含硫アミノ酸が、システイン、シスチン、およびメチオニンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項8に記載の試薬。
【請求項10】
前記試薬中に、前記含硫アミノ酸またはその誘導体が0.001〜2.0質量%の割合で含有される、請求項8または9に記載の試薬。
【請求項11】
沈降抑制物質をさらに含む、請求項8から10のいずれかの項に記載の試薬。
【請求項12】
前記沈降抑制物質が、ポリアニオンおよびその塩、デキストラン、シクロデキストリン、ポリエチレングリコール、およびグリセロールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項11に記載の試薬。
【請求項13】
前記ポリアニオンが、デキストラン硫酸またはヘパリンである、請求項12に記載の試薬。
【請求項14】
前記反応性を有する物質が結合した微小粒子が、抗体または抗原が結合した金コロイド粒子である、請求項8から13のいずれかの項に記載の試薬。
【請求項15】
請求項8から14のいずれかの項に記載の試薬を含む、試薬キット。
【請求項16】
請求項8から14のいずれかの項に記載の試薬と、試料とを混合する工程を含む、自動化免疫測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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