説明

反応性界面活性剤分子を用いる、電離放射線によるグラフトの方法並びに得られる布基材及び電池セパレータ

本発明は、布基材上に官能基をグラフトする方法に関する。上記方法では、上記官能基及び電離放射線に対して反応性の基を備えた機能性分子の溶液を上記基材に含浸させるとともに、上記布基材の上記溶液に対する濡れ性を向上させ得る界面活性剤分子を上記基材に含浸させる。上記界面活性剤分子は、少なくとも二種類の電離放射線に対して反応性の基を備えている。続いて、上記含浸した布基材上に電離放射線が照射され、上記反応性の基の反応が、上記機能性分子を上記界面活性剤分子に対して架橋グラフトする。本発明は、又、上記の方法を用いてグラフトを受けた布基材及び電池セパレータに関するものである。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、布基材上に官能基をグラフトする方法並びにかかる方法を用いてグラフトを受けた布基材及び電池セパレータに関するものである。
【0002】
本発明は、特に、イオン交換機能を付与するための布基材へのグラフトに適用することができる。特に、本発明は、双極性の(即ち、その面毎に異なるイオン交換機能を有する)布基材へのグラフトの方法を提案する。
【0003】
本発明に係る被グラフト布基材は、特に、農業食品分野、製薬分野、医療分野、エネルギー分野、生物学的分野及び環境分野において有用である。例えば、本発明に係るイオン交換布基材の使用は、以下を可能とする:
−電気透析分離法及び電気化学的な方法を改善させるための、溶液の導電性の向上;
−静菌性を任意に伴う、水の軟水化;
−殺ウイルス性を有する生物学的防護マスク又は衣服の製造;
−超純水の製造又は合成後の分子の脱塩のための電気脱イオン化;
−電池セパレータの製造;
−診断のための、所定の細菌又はウイルス特有の汚染指標物質の開発;
−連続又は一括の交換方法を用い、又、イオン交換膜及びイオン交換布基材を組み合わせた混成電気膜方法を用いた工業排水及び水の処理。
【0004】
従来技術において、化学過程を用いた工業的なグラフトの方法が知られている。上記方法では、その後になされる官能化(特に、酸性又は塩基性の溶媒中における反応を用いた官能化)のために、分子が布基材上に固定される。特に、これらの方法は、有機溶媒中において実施される必要があり、又、熱が必要であるという不利益を伴う。加えて、これらの方法では、広い範囲の官能基を、少なくとも簡易に、又、布基材の種類に従ってモジュール式にグラフトすることはできない。
【0005】
更に、公知の方法の実施は、グラフト後における上記布基材に含有されている溶媒及びグラフトされていない化学物質の除去に係る問題、並びにその後のそれらのリサイクルに係る問題を伴う。
【0006】
そして、従来技術に係る方法を用いた双極性の布基材の製造は、特に、各イオン交換機能が単一面上に存在している点において、満足を与えるものではない。
【0007】
本発明の目的は、布基材上に官能基をグラフトする方法であって、特に簡易であり、又、モジュール式に実施される方法を提案することによって、従来技術の問題点を解決することである。上記方法は、又、高品質の双極性の布基材を取得することを可能にする。
【0008】
本発明は、上記目的のため、第1の局面において、布基材上に官能基をグラフトする方法を提案する。上記方法は、官能基及び電離放射線反応性基を備えた機能性分子の溶液を、上記基材に含浸させる工程を包含している。上記溶液は、又、上記布基材の該溶液に対する濡れ性を向上させ得る界面活性剤分子を含有している。上記界面活性剤分子は、少なくとも二種類の電離放射線反応性基を備えている。上記方法は、上記反応性基の反応を用い、上記界面活性剤分子とのカップリングを用いて機能性分子をグラフトするために、上記含浸した布基材上に電離放射線を照射する工程を包含している。
【0009】
本発明は、第2の局面において、布基材を提案する。上記布基材において、少なくとも一つの面が官能基のグラフトを受けている。上記グラフトは、上述のような方法を用いた界面活性分子とのカップリングにより実施されている。
【0010】
本発明は、第3の局面において、電池セパレータを提案する。上記電池セパレータ上には、スルホン基並びにリン酸基及び/又はカルボキシル基がグラフトされている。上記グラフトは、上述のような方法を用いた少なくとも一つの界面活性分子とのカップリングにより実施されている。
【0011】
本発明の更なる詳細及び利点は、以下に記載する各種の実施形態の説明によって明らかになるであろう。
【0012】
本発明は、布基材上に官能基(特に、カチオン又はアニオンをその周囲(特に、上記布基材が配置された溶媒)と交換し得る官能基)をグラフトする方法に関するものである。
【0013】
上記方法は、官能基及び電離放射線反応性基を備えた機能性分子の溶液を布基材に含浸させる工程を包含している。上記機能性分子の溶解度に従って、上記溶液は少なくとも部分的にエマルジョンの形態になる。
【0014】
一実施形態において、上記含浸はパディングにより実施される。上記含浸した布基材は、電離放射線の照射前に乾燥される。
【0015】
特に、上記反応性基は、電離放射線の影響下において反応性のフリーラジカルを形成する不飽和結合を含有し得る。いくつかの実施形態において、上記電離放射線反応性基は、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アクリレート基、メタクリレート基、アリル基、アミン基、アミド基、イミド基及びウレタン基を含んでなる群より選択される。
【0016】
一実施形態において、カチオン交換基は、スルホン基、カルボキシル基及びリン酸基を含んでなる群より選択される。カチオン交換基は、アミン基及びアンモニウム基を含んでなる群より選択される。
【0017】
上記官能基は、例えば、スルホアルキルメタクリレート基(特に、スルホプロピルメタクリレート基)、カルボキシルアルキル(メタ)アクリレート基(特に、アクリル酸基)、リン酸アルキルメタクリレート基、エチレングリコールメタクリレートホスフェート基、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート基(特に、ジメチルアミノエチルメタクリレート基)、アルキルトリアルキルアンモニウムメタクリレート基(特に、アクリルオキシエチルトリメチルアンモニウム基)を含んでなる群より選択される。
【0018】
上記溶液の溶媒が水であり、上記官能基の濃度が、例えば、0.5Mから1Mの間であることは、実施面及び環境面において有利である。尚、上記溶液は、他の剤、特に、上記分子の溶解度及び/又は該溶液の安定性を向上させるための剤を含有し得る。
【0019】
一実施形態において、上記布基材は、グラフトを受ける布基材への応用においてしばしば求められるように、合成物質(特に、ポリオレフィン)からなる繊維を主原料とする。上記繊維は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリビニルアルコール若しくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はこれら各種繊維の混合物であり得る。
【0020】
上記基材は、例えば、厚さが0.2mmから5mmの間であり、重さが30g/m2から600g/m2の間である不織布を備え得る。他の実施形態において、上記布基材は、少なくとも一つの織り上げ層又は編み上げ層から形成され得る。
【0021】
本発明に係るグラフトの方法は、又、綿若しくは羊毛のような天然繊維又はビスコース若しくはセルロースのような合成繊維からなる布を用いて実施されてもよい。
【0022】
上記方法では、上記溶液に対する上記布基材の濡れ性を向上させるために、該溶液が、又、界面活性剤分子を含有し得る。これにより、上記溶液と上記布基材の繊維との間の親和性を向上させることによって、例え、該布基材が、高い疎水性を示す合成繊維を主原料としていた場合でも、上記方法は、該布基材へのグラフトを実施し得る。
【0023】
特に、上記溶液中の上記界面活性剤分子の性質及び量は、上記溶液の界面張力と上記繊維の界面張力とを近似させるものであり得る。これにより、上記布基材上にグラフトされる官能基の密度が向上するように、上記布基材に大量の溶液を含浸させることができる。
【0024】
更に、上記界面活性剤分子のその後の脱離を抑制し、上記官能基のグラフトを増進させるために、用いられる界面活性剤分子は少なくとも二種類の電離放射線反応性基を備えている。上記電離放射線反応性基の種類は、場合によって、互いに同一であるか又は互いに異なり、上記機能性分子と同一であるか又は異なる。
【0025】
以上のように、上記含浸した布基材上に電離放射線を照射することにより、上記反応性基の反応が、上記界面活性剤分子とのカップリングを介して、上記機能性分子のグラフトを確実なものとする。実際、上記反応性基の反応は、上記界面活性剤分子と上記繊維との結合、上記界面活性剤分子同士の結合、上記機能性分子と上記界面活性剤分子との結合及び上記機能性分子と上記繊維との直接の結合を可能にする。これにより、上記繊維と上記機能性分子と上記界面活性剤分子との間のネットワークが生じる。上記ネットワークは、上記被グラフト布基材が、その用途の範囲内において受けるであろう化学的及び機械的なストレスに対して特に耐性を有する。
【0026】
一実施形態において、上記電離放射線は電子衝撃からなる。上記電子衝撃では、上記反応性基を好適に活性化するように出力及び持続期間が調節され得る。
【0027】
更に、上記グラフトの方法は、特に、上記界面活性剤分子の性質が、上記布基材に従って(特に、上記布基材の界面張力に従って)選択され得るとともに、上記機能性分子の性質が、グラフトすべき上記官能基に従って選択され得る点においてモジュール式である。
【0028】
上記界面活性剤分子は、二種類の反応性基を備える二官能分子であり得る。上記界面活性剤分子は、例えば、ジアクリレート、特に、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEG DA)を含んでなる群より選択され得る。特に、PTFE繊維と組み合わせる場合、PEG600 DAが特に良好である。高密度ポリエチレン繊維と組み合わせる場合、PEG200 DAの使用が満足を与える。
【0029】
他の実施形態において、上記界面活性剤分子は、三種類の反応性基を備える三官能分子であり得る。上記界面活性剤分子は、例えば、トリアクリレート、特に、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレートを含んでなる群より選択され得る。特に、ポリプロピレン繊維と組み合わせる場合、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート20が特に好適である。
【0030】
電離放射線の照射後、上記布基材に対し、洗浄及び乾燥又は該布基材のその後の用途に必要な他の処理がなされ得る。尚、グラフトの前に、上記布基材に対し、特定の処理、特に、その凝集力及び/又は濡れ性を向上させるための処理がなされ得る。
【0031】
一実施形態において、上記溶液は、それぞれが互いに異なる官能基を備える二つの機能性分子を含有し、電離放射線の照射は、該各官能基が上記布基材の別々の一面にグラフトされるように設定されている。特に、上記方法は、グラフトされた物質が表層を形成するように、上記布基材の所定の深さにグラフトするように設定されている。
【0032】
このようにして、それぞれが互いに異なる官能基がグラフトされている二つの面を有する布基材が取得される。特に、上記布基材は、一つのアニオン交換面と、一つのカチオン交換面を有し得る。
【0033】
上記目的のため、電離放射線がそれぞれの面に対して照射される。上記放射線の貫通厚は、上記布基材の厚さよりも薄い。特に、上記放射線の照射は、上記布基材のそれぞれの面を通過するように実施され、上記電離放射線の出力は、適切な貫通厚が得られるように調節されている。例えば、上記布基材は、その厚さの片側の半分においてアニオン交換基がグラフトされ得、反対側の半分においてカチオン交換基がグラフトされ得る。
【0034】
あり得る一つの具体的な応用において、上記グラフトの方法は、布基材、特に、合成繊維の不織布からなり、スルホン基並びにリン酸基及び/又はカルボキシル基がグラフトされている布基材を備えた電池セパレータを製造することを可能にする。ここで、上記グラフトは、上述したような、少なくとも一つの界面活性剤分子とのカップリングを用いて実施される。
【0035】
特に、上記電池は、良好なエネルギー性能を示すが、再充電及び放電を繰り返す中でアンモニウムイオンを発生させるという欠点を有するニッケル水素タイプである。アンモニウムイオンは電極を汚染し、それゆえ、電池の再充電のレベルを劣化させる。これにより、上記電池の自律性は減少する。
【0036】
本発明に係る電池セパレータは、以下の構成を備えていることを特徴とする:
−スルホン基を介した、導電性の向上による電池出力の向上機能;
−リン酸基及び/又はカルボキシル基を介した、電池の電気化学的な動作中に生産されるアンモニウムイオンの捕捉機能。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布基材上に官能基をグラフトする方法であって、
該方法は、該官能基及び電離放射線反応性基を備えた機能性分子の溶液を、該基材に含浸させる工程を包含しており、
該溶液は、該布基材の該溶液に対する濡れ性を向上させ得る界面活性剤分子を更に含有しており、
該界面活性剤分子は、少なくとも二種類の電離放射線反応性基を備えており、
該方法は、該反応性基の反応を用い、上記界面活性剤分子とのカップリングを用いて該機能性分子をグラフトするために、該含浸した布基材上に電離放射線を照射する工程を包含していることを特徴とする方法。
【請求項2】
上記布基材は、合成繊維を主原料とすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記溶液の溶媒は、水であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
上記官能基は、カチオン又はアニオンを交換し得ることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
上記カチオンを交換し得る官能基は、スルホン基、カルボキシル基及びリン酸基を含んでなる群より選択され、上記カチオンを交換し得る官能基は、アミン基及びアンモニウム基を含んでなる群より選択されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記官能基は、スルホアルキルメタクリレート基、カルボキシルアルキル(メタ)アクリレート基、リン酸アルキルメタクリレート基、エチレングリコールメタクリレートホスフェート基、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート基及びアルキルトリアルキルアンモニウムメタクリレート基を含んでなる群より選択されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上記溶液は、それぞれが互いに異なる官能基を備える二つの機能性分子を含有し、
上記電離放射線の照射は、該各官能基が上記布基材の別々の一面にグラフトされるように設定されていることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
上記電離放射線がそれぞれの面に対して照射され、該電離放射線の貫通厚は、上記布基材の厚さよりも薄いことを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記電離放射線反応性基は、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アクリレート基、メタクリレート基、アリル基、アミン基、アミド基、イミド基及びウレタン基を含んでなる群より選択されることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
上記界面活性剤分子は、ジアクリレート(特に、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEG DA))及びトリアクリレート(特に、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート)を含んでなる群より選ばれることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
上記含浸はパディングにより実施され、上記含浸した布基材は、電離放射線の照射前に乾燥されることを特徴とする請求項1〜10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
上記電離放射線は、電子衝撃からなることを特徴とする請求項1〜11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも一つの表面に官能基がグラフトされている布基材であって、該グラフトが、請求項1〜12の何れか一項に記載の方法を用い、界面活性剤分子とのカップリングを用いて実施されていることを特徴とする布基材。
【請求項14】
合成繊維を主原料とすることを特徴とする請求項13に記載の布基材。
【請求項15】
上記官能基がカチオン又はアニオンを交換し得ることを特徴とする請求項13又は14に記載の布基材。
【請求項16】
それぞれが互いに異なる官能基がグラフトされている二つの面を有していることを特徴とする請求項13〜15の何れか一項に記載の布基材。
【請求項17】
スルホン基並びにリン酸基及び/又はカルボキシル基がグラフトされている布基材を備えた電池セパレータであって、該グラフトは、請求項1〜12の何れか一項に記載の方法を用い、少なくとも一つの界面活性剤分子とのカップリングを用いて実施されていることを特徴とする電池セパレータ。

【公表番号】特表2010−516916(P2010−516916A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−546792(P2009−546792)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【国際出願番号】PCT/FR2008/000098
【国際公開番号】WO2008/110681
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(507191474)
【Fターム(参考)】