説明

反芻動物における胃腸のメタン生成を低下するための組成物

本発明は、摂取された飼料の正常な発酵中にメタン生成菌によって必要とされる水素原子について競合する阻害剤の補助による、前記反芻動物における胃腸のメタン生成の低下に関する。本発明は、一態様では、硝酸塩の還元的経路および硫酸塩の還元的経路は双方とも反芻動物における胃腸のメタン生成に勝るという知見、ならびに実験部分において詳細に例証される通り、個別に用いられた場合に得られる硝酸塩および硫酸塩のメタン生成を低下する効果は完全に相加的であるという知見にある。同時に、硝酸塩および硫酸塩の組み合わせの投与は、硝酸塩を単独で用いるとき、通常遭遇する亜硝酸塩中毒の潜在的な問題を回避または軽減するために、十分に有効であることが判明した。更に、豊富な量の硝酸塩化合物と硫酸塩化合物と任意の亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物との組み合わせを含む製品、並びにそのような組成物を使用する反芻動物における胃腸のメタン生成を低下する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反芻動物用の飼料添加物およびサプリメントの分野に関する。より具体的には、本発明は、摂取された飼料の正常な発酵中にメタン生成菌によって必要とされる水素原子について競合する阻害剤の補助による、前記反芻動物における胃腸のメタン生成の低下に関する。本発明は、その中でもとりわけ、メタン生成を低下するための前記阻害剤を含む飼料サプリメントおよび飼料組成物ならびにそれらの非治療的な使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
メタン生成は、反芻胃発酵のプロセス中の水素(H2)処置の主な経路である(Beaucheminら、2008年)。反芻胃環境からH2を除去することは、反芻胃発酵を効率的に継続するために必須であるが、メタン生成によって生じるメタンは、動物にとっての飼料性エネルギーの損失(Johnson and Johnson、1995年)ならびに地球温暖化に寄与する重要な温室効果ガス(Steinfeldら、2006年)として関係づけられている。どちらの問題も、反芻動物からのメタン生成を軽減するための飼料添加物についての世界的な探求につながっている。
【0003】
メタン排出を低下するために探索された選択肢の1つは、反芻動物のためにより有益な生成物を生じるプロセスに過剰なH2を再誘導することであり、それによってメタン生成が低下される。例えば、プロピオン酸塩前駆体の添加によるプロピオン酸生成(propiogenesis)の刺激および還元的酢酸生成を反芻胃に導入する試みが含まれる(Joblin、1999年、Molanoら、2008年)。反芻胃中でこれらのプロセスをうまく誘発すると、動物のための栄養素としてプロピオン酸塩または酢酸塩をそれぞれ得られるはずであり、同時に、メタン生成のためのH2の利用可能性を低下できる。しかしながら、プロピオン酸塩前駆体(リンゴ酸塩およびフマル酸塩)の導入は、メタン生成に対して様々な影響をもたらし(Asanumaら、1999年、Ungerfeldら、2007年)、反芻胃中に還元的酢酸生成を導入する試みは、メタン生成と比べたときに水素への親和性が低いことから、これまでのところ失敗している(Le Vanら、1998年)。
【0004】
メタン排出を低下するための他の選択肢は、US5,843,498に記載されており、これは、反芻胃のメタン生成を抑え飼料効率を改善するための有効な成分としてシステインおよび/またはその塩を含む反芻動物飼料組成物に関する。
【0005】
少数の研究グループは、メタンを減少する飼料添加物としての硝酸塩の潜在能力を調査しており、硝酸塩の添加はメタン生成を一貫して低下するようである(Guoら、2009年、Sarら、2005年、Takahashiら、1998年)。
【0006】
反芻胃中のメタン生成を低下する代替的な水素シンクとして硝酸塩(NO3)を導入する可能性は、反芻胃中で硝酸塩がアンモニアに還元される間に中間体として形成される亜硝酸塩による毒性作用の一貫した知見により、ほとんど見過ごされてきた(Lewis、1951年)。反芻動物の飼料における高用量の硝酸塩は、酸素を動物の組織に輸送する血液の能力を低下するメトヘモグロビン血症を引き起こすことが報告されている。さらに、反芻胃中の亜硝酸塩蓄積は、反芻胃中で微生物活性を低下することが知られており、とりわけ、動物による飼料摂取を減少させる可能性がある。
【0007】
発酵に対する亜硝酸塩の阻害効果を緩和するために、高硝酸塩を給餌された反芻動物にギ酸塩、乳酸塩またはフマル酸塩を補うことが示唆されている(Iwamoto、1999年;Iwamoto、2001年)。硝酸塩およびGOSまたはナイシンの同時投与はまた、硝酸塩処置単独に比べて低レベルに反芻胃のメタン生成を維持しながら、反芻胃および血漿亜硝酸塩およびメトヘモグロビンの濃度を低下するために有効な手段として報告されている(Sar、2004年)。
【0008】
プロバイオティクスを用いた亜硝酸塩還元の促進もまた、広範な研究の対象である。米国特許第6,120,810号は、亜硝酸塩を還元する微生物プロピオニバクテリウム・アシジプロプリオニシ(Propionibacterium acidiproprionici)の有効量を含む組成物を動物に投与することによって硝酸塩による反芻動物の中毒を低下することを教示している。欧州特許出願第1 630 226号は、腸内細菌、コリネ型細菌群、枯草菌(Bacillus subtilis)、Methylophilus属、アクチノミセス(Actinomyces)属の細菌、反芻胃細菌およびそれらの組み合わせから選択される亜硝酸塩還元酵素活性を有する微生物を含む反芻動物のための飼料組成物を開示している。硝酸塩が反芻動物においてメタン生成を阻害するために用いられるとき、大腸菌(E.Coli)W3110を用いて中毒を和らげることができるということもまた報告されている(Sar、2005年)。
【0009】
硝酸塩還元に対する硫黄化合物、銅およびタングステンの阻害効果が調査されている(Takahashi、1989年)。著者らは、硝酸塩に順応させた去勢雄性ヒツジ(1日2回、0.55gNaNO3/kg体重)から得られた反芻胃液中で、亜硝酸塩形成が、硫酸塩−Sによるインキュベーションにも亜硫酸塩−Sによるインキュベーションにも影響を受けなかったことを報告している。S含有アミノ酸のうち、メチオニンは硝酸塩の微生物還元を阻害する上で非効率的であることが証明され、一方、システインは亜硝酸塩形成を著しく低下した。この出版物は、メタン生成を減少する効果に対して関心も注意も向けていなかった。亜硝酸塩蓄積の防止におけるシステインの有効性は、後の研究で確認された(Takahashi、1991年;Takahashi、1998年)。
【0010】
本発明の主な目的は、亜硝酸塩蓄積に伴う特定の問題を回避または克服しながら、反芻動物においてメタン生成をさらに低下するための処置およびそこにおいて使用するための組成物を提供することである。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、一態様では、硝酸塩の還元的経路および硫酸塩の還元的経路は双方とも反芻動物における胃腸のメタン生成に勝るという知見、ならびに実験部分において詳細に例証される通り、個別に用いられた場合に得られる硝酸塩および硫酸塩のメタン生成を低下する効果は完全に相加的であるという知見にある。硝酸塩および硫酸塩の個別の効果は、独立しているように思われる。
【0012】
同時に、硝酸塩および硫酸塩の組み合わせの投与は、実験部分においてより詳細に例証される通り、硝酸塩を単独で用いるとき、通常遭遇する亜硝酸塩中毒の潜在的な問題を回避または軽減するために、十分に有効であることが判明した。
【0013】
驚くべきことに、硝酸塩投与は腸溶メタン生成菌数を減少させることが見出されたが、硫酸塩または硝酸塩および硫酸塩の組み合わせの投与は腸溶メタン生成菌数を減少させない。しかしながら、硝酸塩および硫酸塩の組み合わせを投与すると、全細菌のうちのメタン生成菌の割合を著しく低下する。
【0014】
本発明の範囲は、かかる根底にある理論または仮説に限定されないまたはそれらによって縮小されるものではないが、硝酸塩によるメタン生成(式1)の低下は、硝酸塩のアンモニアへの還元においてHを代替として使用することによって引き起こされると考えられる。反芻胃中の硝酸塩還元は、式2に記載される還元経路に続くと考えられる。これは、8モルのHが硝酸塩還元に再誘導され、それによって、理論的には、摂餌させた硝酸塩の各モルにつき1モルでメタン生成を低下することを意味する。摂餌させたNO3の各100gは、このようにして、25.8gのCHの減少をもたらすことになる。
【0015】
CO+4H→CH+2HO(式1)
NO+4H+2H→NH+3HO(式2)。
【0016】
硝酸塩のアンモニアへの還元は、COからCHへの還元よりも多くのエネルギーをもたらし、したがって、十分な硝酸塩が反芻胃中で利用可能である場合、H処置の主な経路となることが予想され得る。NOからNHへの十分な還元は、8個の電子を消費し、したがって、還元される硝酸塩の各モルは、1モルのメタンによってメタン排出を低下させ得る。反応の最終生成物であるアンモニアは、低タンパク質の飼料を摂餌させた反芻動物のための貴重な栄養素とみなすことができる。
【0017】
上記で述べた通り、本発明者らは、硫酸塩自体が、硝酸塩還元とは独立した機序によってメタン排出を低下するのに有効な強力な還元体でもあることを見出した。HSへの硫酸塩還元(式3)はまた、8個の電子を消費し、したがって、モル当たりの硝酸塩と同様のメタン排出を低下する潜在能力を提供する。
【0018】
SO2−+4H+2H→HS+4HO(式3)。
【0019】
硫酸塩もまたメタン生成を低下するのに有効であるという知見は、熱力学的な観点から、硫酸塩還元もまた、メタン生成よりも都合がよい可能性があるという事実により説明することができる。化学量論的には、100gの硫酸塩の硫化水素への十分な還元は、CH生成を16.7g減少するはずである。
【0020】
硫化水素(HS)は、NOのNHへの還元において、電子ドナーとしてある役割を果たすと思われ、したがって、硫酸塩を含む飼料の補足は、反芻胃中の亜硝酸塩蓄積の軽減をさらに導き得る。
【0021】
結果は、亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物の有効量を追加して投与することによりさらに増強できることがさらに見出された。実験部分において詳細に例証される通り、初期の遅延が、硫酸塩による亜硝酸塩還元の開始において観察され、これは、飼料摂取直後のHS利用可能度における遅延によって説明することができる。これは、飼料摂取の減少を引き起こす恐れがあり、したがって、本発明のさらなる目的は、これを回避することである。本発明者らは、実験部分においてより詳細に例証される通り、ある種の亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物を同時投与することにより実現し得るということを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】基礎食または硝酸塩化合物、硫酸塩化合物または硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせを補足した3つの実験食のうちの1つを与えられた雄性Texel交雑種子ヒツジにおける24の期間の経過に伴うメタン生成(L/時間)を示すグラフ。
【図2】基礎食または硝酸塩化合物、硫酸塩化合物または硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせを補足した3つの実験食のうち1つを与えられた雄性Texel交雑種子ヒツジにおける24の期間の経過に伴う酸素消費(L/kg MW/時間)を示すグラフ。
【図3】硝酸塩、または硝酸塩の3つの組み合わせのうちの1つおよび増量された硫酸塩を補足した4つの実験食のうちの1つを与えられた雌性ウシの血液中のメトヘモグロビンの濃度を示すグラフ。
【図4a】様々な試験生成物での反芻胃シミュレーションにおけるガス生成を示す図。パネルAは、指定された時点での累積的なガス生成を示す。エラーバーは、反復シミュレーション容器間のSEを示し、アスタリスクは、Ca(NO+MgSOを含む対照(「なし」と記載される)に対するt検定を用いた統計学的な差を示す。
【図4b】様々な試験生成物での反芻胃シミュレーションにおけるガス生成を示す図。パネルBは、指定された時点での累積的なガス生成を示す。エラーバーは、反復シミュレーション容器間のSEを示し、アスタリスクは、Ca(NO+MgSOを含む対照(「なし」と記載される)に対するt検定を用いた統計学的な差を示す。
【図4c】様々な試験生成物での反芻胃シミュレーションにおけるガス生成を示す図。パネルCは、指定された時点での累積的なガス生成を示す。エラーバーは、反復シミュレーション容器間のSEを示し、アスタリスクは、Ca(NO+MgSOを含む対照(「なし」と記載される)に対するt検定を用いた統計学的な差を示す。
【図5a】様々な試験生成物での反芻胃シミュレーションにおけるメタン生成を示す図。パネルAは、12時間シミュレーション後の累積的なメタン生成を示し、パネルBは、全体のガス生成されたメタンの割合を示す。エラーバーは、反復シミュレーション容器間のSEを示し、アスタリスクは、Ca(NO+MgSOを含む対照(「なし」と記載される)に対するt検定を用いた統計学的な差を示す。
【図5b】様々な試験生成物での反芻胃シミュレーションにおけるメタン生成を示す図。パネルAは、12時間シミュレーション後の累積的なメタン生成を示し、パネルBは、全体のガス生成されたメタンの割合を示す。エラーバーは、反復シミュレーション容器間のSEを示し、アスタリスクは、Ca(NO+MgSOを含む対照(「なし」と記載される)に対するt検定を用いた統計学的な差を示す。
【図6a】様々な試験生成物での反芻胃シミュレーションにおける硝酸塩の残留濃度を示す図。パネルA〜Cは、発酵の2、4および12時間後の硝酸塩の残留濃度を示す。エラーバーは、反復シミュレーション容器間のSEを示し、アスタリスクは、Ca(NO+MgSOを含む対照(「なし」と記載される)に対するt検定を用いた統計学的な差を示す。
【図6b】様々な試験生成物での反芻胃シミュレーションにおける硝酸塩の残留濃度を示す図。パネルA〜Cは、発酵の2、4および12時間後の硝酸塩の残留濃度を示す。エラーバーは、反復シミュレーション容器間のSEを示し、アスタリスクは、Ca(NO+MgSOを含む対照(「なし」と記載される)に対するt検定を用いた統計学的な差を示す。
【図6c】様々な試験生成物での反芻胃シミュレーションにおける硝酸塩の残留濃度を示す図。パネルA〜Cは、発酵の2、4および12時間後の硝酸塩の残留濃度を示す。エラーバーは、反復シミュレーション容器間のSEを示し、アスタリスクは、Ca(NO+MgSOを含む対照(「なし」と記載される)に対するt検定を用いた統計学的な差を示す。
【図7a】様々な試験生成物での反芻胃シミュレーションにおける亜硝酸塩の残留濃度を示す図。パネルA〜Cは、発酵の2、4および12時間後の亜硝酸塩の残留濃度を示す。エラーバーは、反復シミュレーション容器間のSEを示し、アスタリスクは、Ca(NO+MgSOを含む対照(「なし」と記載される)に対するt検定を用いた統計学的な差を示す。
【図7b】様々な試験生成物での反芻胃シミュレーションにおける亜硝酸塩の残留濃度を示す図。パネルA〜Cは、発酵の2、4および12時間後の亜硝酸塩の残留濃度を示す。エラーバーは、反復シミュレーション容器間のSEを示し、アスタリスクは、Ca(NO+MgSOを含む対照(「なし」と記載される)に対するt検定を用いた統計学的な差を示す。
【図7c】様々な試験生成物での反芻胃シミュレーションにおける亜硝酸塩の残留濃度を示す図。パネルA〜Cは、発酵の2、4および12時間後の亜硝酸塩の残留濃度を示す。エラーバーは、反復シミュレーション容器間のSEを示し、アスタリスクは、Ca(NO+MgSOを含む対照(「なし」と記載される)に対するt検定を用いた統計学的な差を示す。
【図8a】様々な試験生成物での反芻胃シミュレーションにおけるアンモニウムの残留濃度を示す図。パネルA〜Cは、発酵の2、4および12時間後のアンモニウムの残留濃度を示す。エラーバーは、反復シミュレーション容器間のSEを示し、アスタリスクは、Ca(NO+MgSOを含む対照(「なし」と記載される)に対するt検定を用いた統計学的な差を示す。
【図8b】様々な試験生成物での反芻胃シミュレーションにおけるアンモニウムの残留濃度を示す図。パネルA〜Cは、発酵の2、4および12時間後のアンモニウムの残留濃度を示す。エラーバーは、反復シミュレーション容器間のSEを示し、アスタリスクは、Ca(NO+MgSOを含む対照(「なし」と記載される)に対するt検定を用いた統計学的な差を示す。
【図8c】様々な試験生成物での反芻胃シミュレーションにおけるアンモニウムの残留濃度を示す図。パネルA〜Cは、発酵の2、4および12時間後のアンモニウムの残留濃度を示す。エラーバーは、反復シミュレーション容器間のSEを示し、アスタリスクは、Ca(NO+MgSOを含む対照(「なし」と記載される)に対するt検定を用いた統計学的な差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第一の態様は、硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせ10〜100%を含む動物飼料サプリメントに関する。
【0024】
本文書中およびその特許請求の範囲において、「含む」という動詞およびその活用は、その単語に続く項目を包含するが、具体的に述べていない項目は、除外されないことを意味するために限定しない意味において用いられる。さらに、不定冠詞「1つの(a)」または「1つの(an)」による要素への参照は、文脈が1つおよびそれらの要素のうち1つのみがあることを明らかに必要としない限り、2つ以上の要素が存在する可能性を除外しない。したがって、不定冠詞「1つの(a)」または「1つの(an)」は、通常「少なくとも1つ」を意味する。
【0025】
本明細書では、「動物飼料サプリメント」という用語は、活性成分を含む濃縮された添加物プレミックスを意味し、このプレミックスまたはサプリメントは、本発明に従って補足された飼料を形成するために動物の飼料または食料に加えることができる。「動物飼料プレミックス」、「動物飼料サプリメント」および「動物飼料添加物」という用語は、類似のもしくは同一の意味を有すると一般にみなされ、互いに置換え可能と一般にみなされる。通常、本発明の動物飼料サプリメントは、粉末または圧縮したもしくは顆粒状の固形物の形態となる。実際には、家畜は、例えば、いわゆる敷き肥として食料に直接動物飼料サプリメントを添加することにより動物飼料サプリメントを通常摂餌させることができる、または混合した動物飼料またはリックブロックなどの製品の調製または製造に用いることができ、これは、以下により詳細に記載される。本発明は、この点において特に制限されない。本発明によるサプリメントは、通常、16〜2500g/動物/日の範囲の量で動物に摂餌される。
【0026】
本動物飼料サプリメントは、硝酸塩化合物、通常、生理的に許容されるまたは耐容性がある硝酸塩化合物を含む。本発明によれば、硝酸塩−Nは、反芻胃または腸管微生物による還元のために容易に利用可能である必要があり、硝酸塩化合物は、水に対する十分な溶解性を有するべきである。そのため、本発明によれば、硝酸塩化合物は、好ましくは、イオン硝酸塩化合物であり、最も好ましくは、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硝酸アンモニウムなどの無機硝酸塩であり、そのすべては、標準温度および圧力で水に容易に可溶性である。さらに、健康および安全性の観点から、「カルシニット(Calcinit)」という商品名でYaraから市販されている、式、5・Ca(NO・NHNO・10HOによって表される化合物など、複合の無機硝酸塩を用いることが通常好ましい。
【0027】
本動物飼料サプリメントはまた、硫酸塩化合物、通常、生理的に許容されるもしくは耐容性がある硫酸塩化合物を含む。本発明によれば、硫酸塩化合物は、最も好ましくは、多くが水に可溶性が高い無機硫酸塩の群から選択される、イオン硫酸塩化合物であることが好ましい。例外には、硫酸カルシウムが含まれる。本硫酸塩化合物は、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、硫酸銅および硫酸第一鉄を含めた可溶性無機硫酸塩の群から選択されることが特に好ましい。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、サプリメントは、10〜100重量%の範囲の量で硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせを含み、好ましくは、前記量は、乾燥重量に基づいて過量の10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、97または99重量%である。
【0029】
本発明は、一部で、反芻動物における胃腸メタン生成を低下する目的のために、硝酸塩および硫酸塩が一部で互いに置換可能であるという知見に属するため、サプリメント中の硝酸塩および硫酸塩の間のモル比は、通常、100:1〜1:50、より好ましくは50:1〜1:10、25:1〜1:5、または10:1〜1:2.5、最も好ましくは5:1〜1:1の範囲となり得る。
【0030】
本発明の飼料サプリメント中の硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせは、通常、乾燥重量に基づいて50g/kg以上の硝酸塩および硫酸塩の合計量を提供する。好ましい実施形態において、硝酸塩および硫酸塩の前記合計量は、75g/kg以上、より好ましくは90g/kg以上、最も好ましくは100g/kg以上である。実際には、前記量は、通常750g/kg以下である。他の好ましい実施形態では、飼料サプリメント中の硫酸塩の量は、乾燥重量に基づいて25g/kg以上、より好ましくは40g/kg以上、最も好ましくは50g/kg以上である。通常、前記量は、250g/kg以下、好ましくは200g/kg以下、最も好ましくは165g/kg以下である。他の好ましい実施形態では、飼料サプリメント中の硝酸塩の量は、乾燥重量に基づいて20g/kg以上、より好ましくは30g/kg以上、最も好ましくは40g/kg以上である。通常、前記量は、乾燥重量に基づいて600g/kg以下であり、より好ましくは550g/kg以下である。
【0031】
本明細書で用いられる通り、「硝酸塩」および/または「硫酸塩」のすべての量および/または用量は、別段の指示がない限り、当業者によって理解される通り、組成物の全乾燥重量に対する、硝酸塩化合物および/または硫酸塩化合物に含まれるまたはそれらによって提供される硝酸塩および/または硫酸塩の重量に関する。サプリメント中に含まれる成分の理想的な量、および飼料または混合された動物飼料などの調製に使用されるべきサプリメントの量は、動物の具体的な種類およびそれが適用される状況を考慮して正確に決定することは、訓練を受けた専門家の技術の範囲内にある。それぞれの成分の好ましい用量は以下の通りである。
【0032】
本発明の動物飼料サプリメントは、本発明の範囲から逸脱することなく任意のさらなる成分を含んでよい。本発明の動物飼料サプリメントは、通常、所望の生成物の形態を調製することが必要である周知の添加剤を含むことができ、飼料の品質を向上するおよび/またはサプリメントを消費する動物の能力を改善することを目的とした添加物をさらに含んでよい。かかる添加剤の適切な例は、乳糖、スクロース、マンニトール、デンプン結晶セルロース、ナトリウム水素カルボナート、塩化ナトリウムなどの担体または充填剤、ならびにアラビアゴム、トラガカントゴム、アルギン酸ナトリウム、デンプン、PVPおよびセルロース誘導体などの結合剤を含む。当業者に公知の飼料添加物の例には、ビタミン、アミノ酸および微量元素、消化促進剤および腸管細菌叢安定剤などが含まれる。
【0033】
好ましい実施形態において、動物飼料サプリメントは、亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物をさらに含む。本明細書では、「亜硝酸塩プロバイオティック微生物」という用語は、適切な量で投与されるとき、以前に本明細書で説明した通り、反芻胃および/または腸管中で蓄積する亜硝酸塩をアンモニウムに還元することにより宿主に健康上の利益を与える生きた微生物を意味する。かかる亜硝酸塩を還元する微生物の多くの例は、当業者に知られている。亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物の好ましい例には、亜硝酸塩還元酵素活性を有する反芻胃および腸内細菌プロピオニバクテリウム・アシジプロプリオニシ(Propionibacterium acidiproprionici)、コリネ型細菌群、枯草菌、メチロフィルス(Methylophilus)属、アクチノミセス属の細菌および大腸菌W3110が含まれる。本発明によれば、最も好ましくは、亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物は、メガスファエラ・エルスデニイ(Megasphaera elsdenii)、具体的にはそれらの反芻胃の株、およびプロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ(Propionibacterium acidipropionici)、具体的には、アメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(American Type Culuture Collection)(ATCC)の微生物収集物における受託番号55467で登録されたおよびAgtech Products Incから「Bova−Pro(登録商標)concentrate」として市販されているプロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ(Propionibacterium acidipropionici)株P5の群から選択される。
【0034】
好ましい実施形態において、以前に本明細書で定義された通り動物飼料サプリメントは提供され、これは、乾燥重量に基づいて1.0×10〜1.0×1014cfu/kgの量、より好ましくは1.0×10〜1.0×1013cfu/kgの量、最も好ましくは1.0×1010〜1.0×1012cfu/kgの量、例えば1.0×1011cfu/kgの量で前記亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物をさらに含む。当業者により知られている通り、コロニー形成単位(CFU)は、生存可能な細菌または真菌数の測定である。死細胞および生細胞のすべての細胞をカウントする直接鏡検法とは違って、CFUは、生細胞を測定し、例えば、寒天またはトリプチカーゼ大豆寒天プレート上で(希釈された)サンプルを拡大し、そのようにして得られたコロニーをカウントすることにより測定される。
【0035】
さらに、本発明者らは、乳酸または乳酸塩化合物が投与されるとき、よい結果が得られることを明らかにしている。いかなる特定の理論に縛られることも望まずに、乳酸または乳酸塩補足は、プロバイオティック微生物の有効性を増強できると考えられる。そのため、好ましい実施形態において、以前に本明細書で定義された通り混合された動物飼料が提供され、これは、乳酸塩または乳酸の有効量をさらに含み、好ましくは、乾燥重量に基づいて20g/kg以上の量、より好ましくは30g/kg以上の量、最も好ましくは40g/kg以上の量で、乳酸または乳酸塩を含む。
【0036】
本発明のさらなる態様は、以前に本明細書で定義された通りサプリメントを含む混合された動物飼料およびリックブロックなどの生成物に関する。
【0037】
そのため、一態様では、混合された動物飼料組成物は、硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせを含むものが提供され、前記組み合わせは、乾燥重量に基づいて合計量10g/kg以上の硝酸塩および硫酸塩を提供する。
【0038】
本明細書では、「混合された動物飼料組成物」という用語は、動物飼料としての使用に適しており、様々な天然もしくは非天然塩基または原料および/または添加物から調製される組成物を意味する。そのため、具体的には、「混合された」という用語は、本動物飼料組成物を天然に存在する任意の原料と識別するために本明細書で用いられる。これらの混合物または混合された飼料は、標的動物の特定の所要量に従って配合される。商業上調製された混合された飼料に用いられる主な成分には、通常、小麦ふすま、米糠、コーンミール、大麦、小麦、ライ麦およびオート麦などの穀物、大豆油粕、アルファルファミール、小麦粉末などが含まれる。市販の化合物飼料は、本発明はこの点で特に制限されないが、通常、粗タンパク質15%以上および可消化の全栄養素70%以上を含む。液体、固形ならびに半固形の混合された動物飼料組成物は、本発明の範囲内で包含され、固体および半固形の形態は、特に好ましい。これらの組成物は、通常、あらびき粉タイプ、ペレットまたはクランブルとして製造される。実際には、通常、本発明のものおよびサイレージまたは乾草などの混合された飼料の組み合わせを家畜に摂餌させてよい。通常、混合された動物飼料は、0.3〜10kg/動物/日の範囲内の量で摂餌される。動物のタイプおよびそれが保持される状況を考慮し、混合された動物飼料中に含まれるべきこれらの成分の適切な量を決定することは訓練を受けた専門家の技術の範囲内である。
【0039】
本発明の混合された動物飼料中の硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせは、通常、乾燥重量に基づいて10g/kg以上の硝酸塩および硫酸塩の合計量を提供する。好ましい実施形態において、前記硝酸塩および硫酸塩の合計量は、15g/kg以上、より好ましくは17.5g/kg以上、最も好ましくは20g/kg以上である。実際には、前記量は、通常、750g/kg以下、好ましくは500g/kg以下、より好ましくは250g/kg以下である。他の好ましい実施形態では、混合された動物飼料中の硫酸塩の量は、乾燥重量に基づいて、5g/kg以上、より好ましくは7.5g/kg以上、10g/kg以上、または12g/kg以上である。通常、前記量は、200g/kg以下、好ましくは175g/kg以下、最も好ましくは150g/kg以下である。他の好ましい実施形態では、混合された動物飼料中の硝酸塩の量は、乾燥重量に基づいて5g/kg以上、より好ましくは7.5g/kg以上、最も好ましくは10g/kg以上である。通常、前記量は、乾燥重量に基づいて600g/kg以下、より好ましくは500g/kg以下、最も好ましくは250g/kg以下である。さらに、好ましい実施形態において、以前に本明細書で定義された通り混合された動物飼料が提供され、これは1.0×10〜1.0×1014cfu/kg、より好ましくは1.0×10〜1.0×1013cfu/kg、最も好ましくは1.0×1010〜1.0×1012cfu/kgの量で亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物をさらに含む。さらに、好ましい実施形態において、以前に本明細書で定義した通り混合された動物飼料が提供され、これは、好ましくは5g/kg以上、より好ましくは7.5g/kg以上、最も好ましくは10g/kg以上の量で乳酸塩または乳酸の有効量をさらに含む。
【0040】
本発明の混合された動物飼料組成物は、当技術分野で通常使用されるさらなる任意の飼料添加物を含んでもよい。当業者によって公知である通り、本文脈中の「飼料添加物」という用語は、飼料の品質および動物起源から得られる食品の品質を改善する目的のために、または例えば、飼料物質の消化性の改善を提供するなど、動物の能力を改善するために、動物栄養学的に用いられる製品を意味する。非限定的な例には、保存剤、酸化防止剤、乳化剤、安定化剤、酸性度調節剤およびサイレージ添加物などの科学技術的な添加物;感覚性の添加物、特に芳香料および着色料;(さらに)ビタミン、アミノ酸および微量元素などの栄養学的な添加物;(さらに)消化促進剤および腸管細菌叢安定剤などの畜産学的な添加物が含まれる。
【0041】
当業者に明らかである通り、本混合された動物飼料組成物は、本発明の範囲から逸脱することなくさらなる任意の成分または添加物を含んでもよい。
【0042】
さらなる態様では、本発明は、本発明のサプリメントを含むリックストーンまたはリックブロックを提供する。当業者に公知である通り、かかるリックストーンまたはブロックは、天然および栽培された牧草のいずれかまたは両方を食べる反芻動物に対する鉱物サプリメント(ならびにタンパク質および炭水化物)のために特に都合がよい。本発明に従うと、かかるリックブロックまたはリックストーンは、通常、本発明の硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせおよび亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物に加えて、様々な種類の結合剤、例えば、セメント、セッコウ、石灰、リン酸カルシウム、カルボナートおよび/またはゼラチンなど、任意のさらなる添加物、例えば、ビタミン、微量元素、鉱物塩、感覚性添加物などを含む。
【0043】
本発明のリックブロック中の硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせは、通常、乾燥重量に基づいて合計量15g/kg以上の硝酸塩および硫酸塩を提供する。好ましい実施形態において、硝酸塩および硫酸塩の前記合計量は、25g/kg以上、より好ましくは30g/kg以上である。実際には、前記量は、通常、450g/kg以下、好ましくは400g/kg以下である。他の好ましい実施形態では、リックブロック中の硫酸塩の量は、乾燥重量に基づいて3g/kg以上、より好ましくは5g/kg以上、最も好ましくは6g/kg以上である。通常、前記量は、150g/kg以下、好ましくは100g/kg以下、最も好ましくは75g/kg以下である。他の好ましい実施形態では、リックブロック中の硝酸塩の量は、乾燥重量に基づいて10g/kg以上、より好ましくは20g/kg以上、最も好ましくは25g/kg以上である。通常、前記量は、乾燥重量に基づいて400g/kg以下、より好ましくは300g/kg以下である。好ましい実施形態において、以前に本明細書で定義した通りリックブロックが提供され、これは、1.0×10〜1.0×1014cfu/kg、より好ましくは1.0×10〜1.0×1013cfu/kg、最も好ましくは1.0×1010〜1.0×1012cfu/kgの量で、亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物をさらに含む。
【0044】
本発明のさらなる態様は、反芻動物における胃腸のメタン生成を低下する方法に関し、前記方法は、硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせの有効量を反芻動物に投与することを含み、前記方法は非治療的方法である。
【0045】
本明細書では、「胃腸のメタン生成を低下する」という用語は、胃腸管中のメタンガス生成の低下を意味する。以前に本明細書で説明した通り、反芻動物の反芻胃および腸管中の発酵は、いわゆるメタン生成菌によるメタンガスの生成を生じる。本発明は、例えば、胃腸管からの直接のメタン排出を減少することなどのプロセスを減少することを目的とする。動物によるメタン排出を評価することは、訓練を受けた当業者の知識および技術の範囲内である。以前に説明した通り、反芻胃および腸管中のメタン生成は、健常な動物において通常起こるプロセスであり、メタン生成の低下は、反芻動物の一般的な健康状態または快適な状態を高めることも、損なうこともしない。このような次第ではあるが、硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせを用いたメタン形成の低下は、本方法が動物の成長および/または生産性を高め得るように、動物の栄養素利用効率を高める可能性がある。
【0046】
当業者によって容易に認識されるように、本処置方法は、「第一胃鼓脹」として公知の状態を処置する上で有効ではないだろう。第一胃鼓脹は、反芻胃中のガス蓄積の結果として反芻胃の異常な膨満として一般に記される状態である。ガス(二酸化炭素、メタンおよび他のガス)は、反芻胃発酵中で通常生成され、食道により通常放出されて、ガスの蓄積が防止される。第一胃鼓脹の出現している間、食道は、泡の層により遮断される。食道の開口部は、液体(または泡)が感知される場合に食道を遮断する受容体を含む。第一胃鼓脹の間に形成される泡は、小型の飼料粒子の急速な発酵から生じる。第一胃鼓脹の原因は、泡の形態であり、反芻動物において天然に起こるプロセスである、反芻胃のガスの生成ではない。結果として、メタン生成は、第一胃鼓脹の一因として示すことができず、メタンの低下は、第一胃鼓脹の処置として示すことはできない。第一胃鼓脹に対する治療上の処置は、反芻胃中の泡層の形成を防止すること、またはその除去を目的としており、反芻胃のガスの生成を防止することを目的としない。さらに、二酸化炭素は、反芻胃発酵中に生成される主なガスである。したがって、本方法は、第一胃鼓脹を処置するためにまたはその症状を緩和するために意図されておらず、適してもいない。
【0047】
したがって、本処置の方法は、非治療的な処置方法である、すなわち、方法は、ある特定の状態に罹患した動物の健康を改善しない、ある特定の疾患もしくは状態を予防しない、または他の任意の方法で、すなわち、本処置方法を受けない反芻動物に比べて反芻動物の健康にいかなる程度の影響も与えない。本方法の利点は、以前に説明した通り環境および/または経済的な側面に制限される。
【0048】
分類学的に、反芻動物は、偶蹄目の哺乳動物であり、これは、動物の反芻胃として知られる第1の胃の中で植物を基本とする食物を最初に軟らかくし、次いで、反芻食塊として現在において知られる半消化された塊を逆流し、それを再び咀嚼することにより消化する。植物物質をさらに破壊し、消化を刺激するために反芻食塊を再咀嚼するプロセスは、「反芻」と呼ばれる。反芻哺乳動物には、ウシ、ヤギ、ヒツジ、キリン、バイソン、ヤク、水牛、シカ、ラクダ、アルパカ、ラマ、ウィルドビースト、アンテロープ、プロングホーン、およびニルガイが含まれる。本発明は、家畜化された反芻動物、特に、商業的な家畜飼育用に保持されるものを処置する方法に主として関する。したがって、本発明の好ましい実施形態において、反芻動物は、ウシ、ヤギ、ヒツジおよびバッファローの群から選択される。
【0049】
本発明の好ましい実施形態は、上記で定義した方法を提供し、硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせは、1日当たり0.05g/kg体重以上の硝酸塩および硫酸塩の合計用量をもたらす量で反芻動物に投与される。好ましい実施形態において本方法における硝酸塩および硫酸塩の前記合計用量は、1日当たり0.05〜10g/kg体重、より好ましくは1日当たり0.1〜5g/kg体重、最も好ましくは1日当たり0.2〜2.5g/kg体重の範囲内である。
【0050】
他の好ましい実施形態では、以前に本明細書で定義した方法は提供され、硫酸塩の用量は、1日当たり0.025〜1.8g/kg体重の範囲内であり、より好ましくは1日当たり0.05〜0.9g/kg体重、最も好ましくは1日当たり0.1〜0.45g/kg体重の範囲内である。
【0051】
他の好ましい実施形態では、以前に本明細書で定義した方法は提供され、硝酸塩の用量は、1日当たり0.025〜8g/kg体重、より好ましくは1日当たり0.05〜4g/kg体重、最も好ましくは1日当たり0.1〜2g/kg体重の範囲内である。
【0052】
1日当たり体重1kg当たりの量として本明細書で定義する用量は、処置の所与の期間、例えば、処置の1週間または1カ月の間のそれぞれの化合物の平均量に関する。したがって、化合物は、本発明の範囲から逸脱することなく、毎日、1日おき、2日おきなどに投与することができる。しかし、好ましくは、この方法は、処方された用量で硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせを毎日投与することを含む。さらにより好ましくは、組み合わせは、動物が、上記の1日投与量をもたらす量で摂餌させる度に、動物の飼育中に投与される。
【0053】
以前に説明された通り、飼料中の硝酸塩に対して前もって順応してない動物からの反芻胃ミクロフローラの硝酸塩を亜硝酸塩に還元する能力は、亜硝酸塩をアンモニアに還元するそれらの能力を上回る。これは、反芻胃における亜硝酸塩の正味の蓄積をもたらし、これは、容易に、反芻胃壁全体で吸収され、血液ヘモグロビンを第一鉄から第二鉄、メトヘモグロビンの形態に転換し、酸素を組織に輸送することのできないヘモグロビン分子にする。結果として生じる状態であるメトヘモグロビン血症は、全身の無酸素の状態であり、軽度の場合では、動物の行動を抑え得るが、重症の場合では、動物を死亡させ得る。本発明者らは、本方法において、ヒツジの飼料中に硝酸塩を慎重に段階的に導入することにより、反芻胃ミクロフローラについて硝酸塩および亜硝酸塩を還元する能力を順応および増大させることを可能にすることを立証している。高硝酸塩の飼料にゆっくりと順応されたヒツジは、メトヘモグロビン血症の臨床的徴候を全く経験しないことが示されている。そのため、本発明の好ましい実施形態において、この方法は、硝酸塩順応の第1相および連続させた処置の第2相を含み、前記第1相は、少なくとも3日間、好ましくは少なくとも4日間、最も好ましくは少なくとも5日間の2以上、好ましくは3以上の連続した期間を含み、各期間中の硝酸塩の1日の平均投与量は、第2相の間に投与された平均1日投与量の100%未満であり、各期間中の平均1日投与量は、それに先行する期間における平均1日投与量よりも高い。好ましい実施形態において、1期間から次の期間への硝酸塩の平均1日投与量の増加は、1日当たり1g/kg体重未満、好ましくは0.5g/kg体重未満、より好ましくは0.25g/kg体重未満であり、最も好ましくは1日当たり0.1g/kg体重未満である。好ましくは、前記第2相は、体重1kg当たり0.15〜3gの範囲内の平均1日投与量で硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせを投与する5、10、25、50、100、250または350日間以上の期間を含む。
【0054】
好ましい実施形態において、初期順応相を有するまたは有さない前に定義した方法はまた、以前に本明細書で定義した通り亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物を反芻動物に投与することを含む。1日当たり1.0×10〜1.0×1014cfu/kg体重、より好ましくは1日当たり1.0×10〜1.0×1013cfu/kg体重、最も好ましくは1日当たり1.0×10〜1.0×1012cfu/kg体重の量で前記プロバイオティック微生物を投与することが特に好ましい。好ましい実施形態において、前記方法は、プロバイオティック微生物の投与および乳酸または乳酸塩の投与を含む。1日当たり少なくとも0.025g/kg体重、より好ましくは1日当たり0.05〜5g/kg体重、最も好ましくは1日当たり0.1〜2.5g/kg体重の量で乳酸または乳酸塩を投与することが特に好ましい。
【0055】
本方法は、少なくとも5、10、25、50、100、250または350日間の期間の上述した用量投与計画に従って硝酸塩化合物、硫酸塩化合物、任意の亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物の組み合わせの投与を含んでよい。以前に本明細書で記述した通り、本発明の興味深い態様は、本方法が、腸溶メタン生成を低下するのに非常に持続する有効性をもたらす、すなわち、例えば、反芻胃または腸管微生物の抵抗性を増大し、それによって、特に適した反芻動物の長期処置を与える結果として、その効果は長期の処置期間に亘って減弱しないという事実をもたらす。
【0056】
上記により明らかなように、本方法は、硝酸塩化合物と、硫酸塩化合物と、任意の亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物との組み合わせの経口投与を含む。好ましくは、処置は、以前に本明細書で定義した通り混合された動物飼料組成物および/または動物飼料サプリメント製品の経口投与を含むが、さらに他の液体、固形または半固形の経口で摂取可能な組成物も、当業者によって理解される通り、本発明の範囲から逸脱することなく用いることができる。
【0057】
前述に従って、本発明のさらなる態様は、反芻動物における胃腸のメタン生成の非治療的な低下のための硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせを含む組成物の使用に関する。使用は、1日当たり0.05g/kg体重以上の合計用量の硝酸塩および硫酸塩をもたらす量で、硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせを反芻動物に投与することを含むことが好ましい。好ましくは、硝酸塩化合物および硫酸塩化合物は、以前に本明細書に記載した用量で用いられる。他の好ましい実施形態では、その使用は、以前に本明細書に記載した用量で亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物を反芻動物に投与することをさらに含む。さらにより好ましくは、以前に本明細書で定義した通り組成物の任意の1つの使用は、反芻動物における胃腸のメタン生成の非治療的な低下を提供する。
【0058】
本発明の他の態様は、硝酸塩を補足された反芻動物の治療上の処置に関する。以前に説明された通り、反芻動物の硝酸塩補足は、胃腸のメタン生成を低下する助けとなるが、亜硝酸塩蓄積、いわゆる「硝酸塩毒性症候群」および/または酸素を動物の組織に輸送する血液の能力を低下するメトヘモグロビン血症のリスクもしくは発生もまた高めることが知られる。さらに、反芻胃中の亜硝酸塩蓄積は、反芻胃中の微生物活性を低下することが知られ、とりわけ、動物による飼料摂取を減少させる可能性がある。以前に説明された通り、本発明者らは、好ましくは、亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物と併用して、硫酸塩化合物をかかる硝酸塩を補足された反芻動物に投与することにより、これらの有害作用を大いに減少し、さらに防止することを立証している。
【0059】
そのため、本発明の一態様は、硝酸塩を補足された反芻動物において亜硝酸塩蓄積、「硝酸塩毒性症候群」および/またはメトヘモグロビン血症を処置するまたは予防する方法に関し、任意の有効量の亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物と併用して前記反芻動物に、有効量の硫酸塩化合物を投与することを含む。
【0060】
本発明の他の態様は、硝酸塩を補足された反芻動物において亜硝酸塩蓄積、「硝酸塩毒性症候群」および/またはメトヘモグロビン血症を処置するまたは予防する方法に用いるために、任意の亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物と併用して、硫酸塩化合物を含む製剤に関する。
【0061】
本発明のさらなる他の態様は、硝酸塩を補足された反芻動物において亜硝酸塩蓄積、「硝酸塩毒性症候群」および/またはメトヘモグロビン血症を処置するまたは予防する方法に使用するための製剤の製造において、任意の亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物と併用した硫酸塩化合物の使用に関する。
【0062】
前述に従って、亜硝酸塩蓄積、「硝酸塩毒性症候群」および/またはメトヘモグロビン血症を処置するまたは予防する方法は、通常、1日当たり0.025〜1.8g/kg体重、より好ましくは1日当たり0.05〜0.9g/kg体重、最も好ましくは1日当たり0.1〜0.45g/kg体重の範囲内の硫酸塩の合計用量、任意の1日当たり1.0×10〜1.0×1014cfu/kg体重、より好ましくは1日当たり1.0×10〜1.0×1013cfu/kg体重、最も好ましくは1日当たり1.0×10〜1.0×1012cfu/kg体重の前記プロバイオティック微生物の合計用量をもたらすのに十分な量で前記組成物を投与することを含む。好ましい実施形態において、前記方法は、プロバイオティック微生物の投与および乳酸または乳酸塩の投与を含む。少なくとも1日当たり0.025g/kg体重、より好ましくは1日当たり0.05〜5g/kg体重、最も好ましくは1日当たり0.1〜2.5g/kg体重の量で乳酸または乳酸塩を投与することが特に好ましい。
【0063】
本明細書では、「硝酸塩を補足された反芻動物」という用語は、通常、飼料により硝酸塩の相当量を投与される反芻動物を意味する。好ましくは、反芻動物は、胃腸のメタン生成を低下するために十分な量で、より好ましくは1日当たり0.025g/kg体重以上の量で、最も好ましくは1日当たり0.05〜8g/kg体重以上の量で、硝酸塩を補足される。当業者によって理解される通り、この方法は、他の目的のために、さらに、意図せずに、例えば、環境条件の結果として硝酸塩の相当量を投与される反芻動物において、亜硝酸塩蓄積、「硝酸塩毒性症候群」および/またはメトヘモグロビン血症を処置するまたは予防するのに等しく適切であってよい。
【0064】
上記の本明細書で定義した本発明は、以下の実験部分において例証され、より詳細に説明され、これは決して本発明の範囲を制限するものではない。
【0065】
[例1]
メタン緩和における硝酸塩および硫酸塩
材料および方法
動物およびハウジング
現在の実験において、飼料性硝酸塩および硫酸塩のメタンを減少する特性を評価した。硝酸塩と硫酸塩の両方を、4週間の順応期間中飼料に緩徐に導入した。飼料摂取および成長を実験中モニターした。飼料性硝酸塩と硫酸塩の双方が、腸溶発酵からメタン排出を低下するという仮説を立てた。
【0066】
Animal Care and Use Committee of the Animal Sciences Group、WUR、Lelystadは、本実験の実験プロトコールを承認した。実験を、実験開始時に体重42.9±4.3kg(平均値+標準偏差)の20例の雄性Texel Cross仔ヒツジで行った。4週間の飼料添加物への順応相中、動物を個別のカーフハッチ(calf hutch)に収容して個体を飼育した。毎週ヒツジの体重を測定し、その実験期間に亘り成長をモニタリングした。
【0067】
順応期間後、4例の動物(1区間)を、間接呼吸熱量チャンバーに1週間収容してガス交換を測定した。その後の週において、ヒツジの新たな1区間を、各週チャンバーに導入した。各呼吸室は個別のヒツジを収容した。使用した呼吸熱量チャンバーは、Verstegenら(1987年)に詳細に記載されている。温度を15℃に維持し、相対湿度を70%に設定した。換気率は、チャンバーの一方の様式は70L/分であり、もう一方の様式は90L/分であった。
【0068】
チャンバーに出入りする空気を、CO、OおよびCHについて9分間隔で分析した。これらのガスの正味の生成または消費を、空気の出入りの濃度の差から空気の流れを乗じて算定し、続いて、標準の環境(0℃、101kPa、水蒸気なし)まで再度算出した。
【0069】
実験計画
実験を、硝酸塩および硫酸塩を因子として有する2×2の階乗デザインとして設計した。動物を、体重ごとに区画し、続いて1区画内で、4種類の飼料処置、すなわち、CON、NO、SOまたはNO+SOのうち1つに無作為に割り当てた。
【0070】
飼料
基礎食は、DMを基礎に74%トウモロコシサイレージ、16%粗く刻んだ大麦わら、9%ホルムアルデヒド処理した大豆油粕および鉱物プレミックス1%からなった。飼料添加物は、10%の飼料DMでの基礎食に添加された混合物(表1)中に含まれた。飼料において、プレミックスを飼料に対して手で混ぜ合わせた。実験中、水は自由に利用可能とした。硝酸塩は市販の供給源(Calcinit、Yara)から得て、追加のSOを、無水MgSOの形態で飼料に加えた。
【0071】
順応相の間、ヒツジを、1週間当たり25%ずつ実験プレミックスに導入した。仔ヒツジは1日1回8時30分に摂餌された。朝の摂餌の前に、くずを飼料ビンから除去し、体重を測定して自発的な飼料摂取量を決定した。呼吸室における週の間は、飼料利用可能度を、呼吸室内に収容する前の週に区画内で最も少ない飼料を消費した動物により消費される飼料の95%に制限した。飼料制限を適用して、添加物のDMIに対する影響とメタン生成に対する影響との相互作用を回避した。
【0072】
実験食中の硝酸塩を対照の飼料において尿素と交換して、等窒素の飼料を維持した。石灰石を、対照の飼料に加えて処置間の等しいCa摂取量を保証した。MgOを飼料に含ませて飼料間で同様のMgレベルを得た。飼料への異なる添加の体積は、処置毎に異なり、木材セルロースを用いて、これについてのバランスをとった。
【表1】

【0073】
血液、反芻胃および肝臓サンプリング
血液を摂餌後1時間、3時間および5時間目にd2、d8、d15、d22およびd28で採取した。2日目、8日目、15日目および22日目はすべて、飼料中の実験プレミックスの25%を段階的に増加した次の日であった。28日目に、仔ヒツジは、1週間に亘り100%の飼料処置に置かれた。血液サンプルを、ヘパリンを含有する採血管(Vacutainer)に採取し、サンプリング後、直ちに冷蔵庫で貯蔵した。サンプリングの日の終わりに、サンプルを分析のため発送し、翌日分析した。血液のメトヘモグロビン含有量を、Evelyn and Malloy(1938年)に記載されている方法により測定した。
【0074】
呼吸室の期間の完了後、ヒツジを屠畜し、反芻胃の液体サンプル(200ml)を屠畜後できるだけ早く反芻胃から採取した。サンプルを、サンプリング後直ちに氷水に浸漬して微生物の発酵を停止させ、すべてのサンプルを採取後に凍結させた。屠畜時に、肝臓の複製サンプルを採取し、その後ビタミンA状態の評価のために冷却し凍結させた。
【0075】
結果および考察
順応期間中の血中メトヘモグロビン含有量
最終プレミックス含有率25%または50%の飼料の補足中、どのヒツジも陽性の血液MetHb含有量(Hb<2%)を有さなかった。含有率75%が飼料に含まれたとき、NO飼料における1例のヒツジが、摂餌後3時間で陽性と判定されたが、値は3%のHbに過ぎなかった。ヒツジが1週間(d28)含有率100%であったとき、NO処置における2例のヒツジは、摂餌後の3時間でMetHb値がHbのそれぞれ7%および3%で陽性と判定された。対照の飼料および両方の硫酸塩を含む飼料におけるヒツジは、2%のHb(検出限界)よりも高いMetHb−レベルを有さず、おそらくSは反芻胃中の亜硝酸塩の減少において役割を果たすことが示された。
【0076】
4週間の順応期は、明らかに、亜硝酸塩毒性およびメトヘモグロビン血症に伴う任意の重大な問題を十分に防止する。同様の知見が、Alaboudi and Jones(1985年)によって報告された。DMの2.9%の硝酸塩レベルは、順応されない反芻動物の場合では致死とみなされるはずであるが、順応により、明らかに反芻胃細菌はこれらの亜硝酸塩を減少する能力を増大できる。
【0077】
飼料性硝酸塩および硫酸塩に対する順応の間の飼料摂取量および成長
飼料摂取量は、NOまたはSOの添加の結果と違いはなかったが(表2)、硝酸塩の総用量が提供されたときには低下する傾向があった。しかしながら、最終含有率の25%以上の含有では、飼料摂取量は、NOの含有の結果として(1週間以上の期間でおよそ9%)、一貫して減少した。この試験に使用された少ない動物の数が、飼料摂取量における影響についての結論を出す妨げになるが、一貫した飼料摂取量の低下は無視すべきことではない。Bruning−Fann and Kaneene(1993年)は、飼料性硝酸塩レベルが飼料DMの3%を超えたとき、ヒツジにおいて飼料摂取量に対する否定的な影響が観察されていることを報告する。この飼料摂取量の減少は、Maraisら(1988年)によるインビトロにおいて示された通り、細胞壁消化の亜硝酸塩誘導性の抑制に関連するのかもしれない。
【0078】
飼料NOまたはSOは、体重増加に影響を与えなかった(表3)。
【表2】

【表3】

【表4】

【0079】
ガス交換に対するNOおよびSOの影響
呼吸室において測定されたガスの流動を表4に示す。実験のこの部分の間に適用された制限飼料は、処置間での飼料摂取量は非常に類似していた。硝酸塩供給源を飼料に添加した結果、メタン生成は34%が低下した。
【0080】
本発明者らの実験におけるNO処置におけるヒツジは、平均して1日当たり24.9gのNOを消費し、これは、メタン生成を理論上6.4g低下する。NO処置についてのメタン生成の実際の低下は、8.1Lであり、これはCHの5.8g(CH=0.714g/L)に対応する。したがって、メタン生成の低下は、化学量論によって説明することができるよりも実際にはいくぶん低く、これは、硝酸塩のアンモニアへの不完全な還元または異化性硝酸塩の還元よりも他のプロセスにおける硝酸塩の使用によって説明することができる。本試験に用いられる硝酸塩供給源は、可溶性が高く、したがって、硝酸塩の大部分が、反芻胃中での還元に利用可能であったという可能性がある。しかしながら、溶解された硝酸塩の大部分が、反芻胃の液体相となっているはずであり、還元される前に反芻胃の外側を通過し得る。
【0081】
硫酸塩の添加は、1日当たりのメタン生成の19%を減少した。
【0082】
本発明者らの研究において、SO処置におけるヒツジは、平均して27.0g/日のSOを消費し、これは4.5gのメタンの減少に相当した。実際に観察されたメタン生成の低下は、4L、すなわち2.9gであった。水素シンクとしてのSOについての理論的能力とメタン排出を低下するその観察された能力の相違は、反芻胃中のMgSOの溶解性の相違である可能性がある。
【0083】
SO処置におけるヒツジは、飼料中でかなりの量のSを摂餌した(1kgのDM当たり7.4gのSの添加)。このレベルは、NRCによって示される最大の推奨量を十分に上回る(1kgのDM中4g)。この上限を超える飼料は、反芻胃のヘッドスペースに発生する高レベルのHSおよびその後のHSの吸入により、灰白髄脳軟化症のリスクを高める。しかしながら、この実験の結果により、SOは、メタン生成を低下するのに有効であるということが示される。推奨されるレベル(2〜4gS/kgDM)の範囲内で摂餌されたとき、SOはメタン生成を低下する効果を有することが予想される。
【0084】
硝酸塩処置の結果として、酸素消費およびCO生成は共に低下した。反芻動物の飼料における高用量の硝酸塩は、酸素を動物の組織に輸送する血液の能力を低下するメトヘモグロビン血症を引き起こすことが報告されている。しかしながら、この実験では、血液が定期的に採取され、わずかに上昇したMetHb−レベルが2例のヒツジにおいて見出したに過ぎず(最大レベルは7%のHbであった)、低いO消費を説明する見込みはないようにみえる。硝酸塩が摂餌されるとき、低いO消費は、異なる代謝を反映する可能性がある。Sarら(2004年)はまた、0.9gのNO/kg0.75BWをヒツジの反芻胃内に投与したときに、低いO消費および低いCO生成を観察した。本試験では、かなり多くの硝酸塩を摂餌したが(1.4gのNO/kg0.75BW)、本発明者らの試験ではMetHb−レベルはかなり低かった(Sarらの研究においては18.4%のHb)。これは、おそらくSarら(2004年)の試験においては順応期間がないことと、硝酸塩が反芻胃中で液剤として投与されたこととの事実によるものである。他の試験において(Takahashiら、1998年)は、1.5g/kg BW0.75の割合でヒツジの反芻胃にNaNOを投与し、これは、本発明者らの試験に用いられる濃度に非常に類似した。30%を超えるMetHbの濃度を観察し、試験データから、MetHbが各10%で増加する場合、酸素消費は、10.3%低下することが結論づけられた。本発明者らの試験では、6%の酸素消費の低下を観察した。Takahashiら(1998年)による回帰方程式を用いると、これは、動物がおよそ5%のMetHb−レベルを有することを意味した。2例の動物において、類似のレベル(3%および7%のHb)が実際に観察された。
【0085】
対照処置におけるメタン生成は、1日1回の制限摂餌されたヒツジに特有なものである。動物は午前8時に摂餌し、その後、メタン生成が徐々に増加し、摂餌後5〜6時間目に最大のメタン生成に達した。動物を制限摂餌され、1日1回の摂餌だけであるために、メタン生成はピーク後に連続して低下した。硝酸塩を飼料に添加すると、著しく異なるメタン生成パターンを引き起こし;摂餌した直後、メタン生成率は、依然としてはるかに低いレベルで維持され、この期間において、水素が硝酸塩還元に利用され、それによって、メタン生成のためのH利用可能度が制限されると仮定した。摂餌後10時間では、メタン生成率は、もはや対照処置との違いはなく、これはおそらく硝酸塩を含む飼料の不在とHシンクとしてのメタン生成への回復を反映している。メタン生成が、摂餌された硝酸塩の結果として摂餌後において有意に低かったが、メタン生成は0に低下されず、硝酸塩還元およびメタン生成は同時に生じた。メタン生成の基底レベルは、後腸発酵からのメタン生成により少なくとも部分的に説明することができる。硝酸塩が、低下されずに後腸に達し、したがって、硝酸塩飼料が、胃腸管のこの部分におけるメタン生成におそらく影響を与えないという可能性は低い。
【0086】
SO処置のメタン生成率は、対照処置と違いはなかったが、24時間の全期間にわたって対照処置よりも一貫して低かった。SO処置をNO+SO処置と比較したとき、同じことが観察された。明らかに、メタン生成に対するNOおよびSOの効果は、優れており、SOの効果は、SOを含む飼料の利用可能性の依存は小さいようである。
【0087】
実験の結果をまた、図1のグラフに示し、基礎食または3種類の実験食のうちの1種類を与えた群において24期間の経過に伴うメタン生成(L/時間)を示す。
【0088】
24時間の期間の経過に伴う酸素消費
午前8時に摂餌後直ちに、酸素消費は、NO処置の場合では10〜18%低下した。処置間の酸素消費の差は、午後16時の後に消失した。この現象は、NO処置のための摂餌後の期間で著しく低下したメタン生成と一致する。この期間において、NO処置における中間体として亜硝酸塩が生成されると共に、顕著な硝酸塩還元が反芻胃中で生じたと仮定される。この期間中の亜硝酸塩の存在が、NO処置よりも低い酸素消費を説明できる。7%のHbを超えるMetHb−レベルはNO処置について観察されなかったが、酸素消費の一定の低下が観察された。サンプルの貯蔵時間(サンプルをサンプリング後およそ24時間分析した)が、予想されたMetHbレベルよりも低い観察値を説明するかもしれない。
【0089】
NO+SO処置において、酸素消費は、摂餌(午前9時)後直ちに低下し、この時点よりも後に対照処置と同じレベルに回復した。SOの添加は、硝酸塩を摂餌することにより引き起こされた酸素消費の抑制を明らかに緩和する。おそらく、SOは摂餌後直ちにその期間においてHSに還元され、提唱されるように亜硝酸塩の還元の促進における役割を果たした。硫化物をインビトロで反芻胃液に加えたとき、亜硝酸塩還元の明らかな用量依存的な促進が早い時期に観察された(Takahashiら、1989年)。SOを培地に加えたときには、亜硝酸塩還元の促進はそれほど大きくはなく、したがって、本発明者らの実験において酸素消費を能動的に回復したものはHSであったことは妥当であるようである。
【0090】
また、実験の結果は図2のグラフに示され、基礎食または3種類の実験食のうちの1種類を受けた群における24期間の経過に伴う酸素消費(L/kg MW/時間)を示す。
【0091】
[例2]
硝酸塩を補足したウシにおけるメトヘモグロビン血症に対する硫酸塩の効果
硝酸塩を補足した雌性ウシの血液中のメトヘモグロビン濃度に対する飼料性硫酸塩摂取の効果を評価した。飼料性硫酸塩が、硝酸塩を摂餌した雌性ウシの反芻胃中の亜硝酸塩の蓄積を減少させ、その結果、血液中のメトヘモグロビンの形成を防止すると仮定した。
【0092】
材料および方法
実験計画
実験は、1区画当たり4例の動物とし、処置として異なる硫酸塩用量での無作為区画デザインであった。動物を、牛乳収率ごとに区画し、続いて1区画内に4種類の飼料処置、すなわち、NO、NO+低SO、NO+中間SO、NO+高SOのうちの1つに無作為に割り当てた。
【0093】
飼料
基礎食は、DMを基礎に45%トウモロコシサイレージ、7.5%乾燥アルファルファ、4.1%粗く刻んだ大麦わら、および濃縮プレミックス42%からなった。飼料添加物は、プレミックス中に含まれた(表5)。給餌時に、プレミックスを完全混合飼料の一部分として雌性ウシに与えた。水は、実験中、自由に利用可能とした。硝酸塩は市販の供給源(Calcinit、Yara AS、Norway)から得て、追加のSOを、無水MgSOの形態で飼料に加えた。
【表5】

【0094】
順応相の間、雌性ウシを、1週間当たり25%ずつ実験プレミックスに導入した(表6)。
【表6】

【0095】
血液採取
血液を、実験中、1週間に2回、摂餌後3時間で採取して、メトヘモグロビンの濃度を詳しくモニターした。血液を、ヘパリンを含む真空管に採取し、氷冷した水に直ちに浸し、4℃の冷蔵庫に貯蔵した。各サンプリング日の終わりに、サンプルを分析のため発送し、翌日分析した。血液のメトヘモグロビン含有量をEvelyn and Malloy(1938年)の方法により測定した。37日目に、硝酸塩をその最大の含有率(DMに基づいて3%の硝酸塩)で摂餌させたとき、硝酸塩の動態および血漿中の様々な代謝産物を明らかにするために、血液採取をより頻繁に行った(摂餌後の−0.5時間、0.5時間、1.5時間、3時間、5時間および8時間)。
【0096】
結果および考察
順応期間中の血液のメトヘモグロビン含有量
何れの雌性ウシも最終硝酸塩含有率25%または50%を有する飼料の補足中、検出可能な血液メトヘモグロビンを有さなかった。硝酸塩を最終含有率75%で飼料に加えたとき、硫酸塩を補足しなかった雌性ウシは、摂餌後3時間で血液ヘモグロビンの上昇を示した。対照的に、飼料に硫酸塩を与えた雌性ウシは、供給されたSの量に関係のないメトヘモグロビンについて陰性と判定された。硝酸塩含有率100%で、すべての処置は、血液メトヘモグロビンの上昇を示したが、それらの問題の硝酸塩および硫酸塩と比較して、雌性ウシについて硝酸塩単独よりも明白であった。硫酸塩を補足した雌性ウシのうち、硫酸塩の用量の効果を識別することはできなかった(表7を参照のこと)。硫酸塩は反芻胃中の亜硝酸塩の蓄積を相殺することができ、そのため、血液中のメトヘモグロビンの形成を(中間の硝酸塩添加で)予防または(高硝酸塩添加で)減少すると結論づけられた。
【表7】

【0097】
実験の結果はまた図3のグラフにも示され、4種類の実験食のうちの1種類を与えられた雌性ウシの血液中のメトヘモグロビンの濃度が示される。
【0098】
[例3]
反芻胃発酵モデルにおける硝酸塩および亜硝酸塩還元の割合に対するメガスファエラ・エルスデニイ(Megasphaera elsdenii)およびセレノモナス・ルミナンチウム(Selenomonas ruminantium)の影響
本実験において、インビトロでの反芻胃発酵系における硝酸塩還元の動態を研究し、M.エルスデニイ(M.elsdenii)およびS.ルミナンチウム(S.ruminantium)による影響を研究した。
【0099】
材料および方法
反芻胃シミュレーションに用いた飼料は、乾燥物1グラムであり、牧草サイレージ(0.5g乾燥物)および市販の配合飼料0.5gの乾燥物から構成された。処置は、以下の表に示される通りである。
【表8】

【0100】
すべての処置を、4通り行い、シミュレーション容器の総数は72であった。
【0101】
乾燥飼料成分およびカルシニット(Calcinit)を、血清瓶中で秤量し、瓶は、O掃去のための熱銅触媒に通したCOでフラッシュし、厚いブチルゴム栓で密封した。嫌気性還元された温度調節した(+37℃)緩衝液36.5mLを無酸素のCO流入下で各シミュレーション容器に導入した。一晩増殖させた細菌培養、MgSO溶液、乳酸塩溶液および総液体体積を1.5mL/容器に同等化するために緩衝液を加えた。最後に、2mLの新鮮なろ過された反芻胃液を血清瓶に加えて、最終体積を40mLにした。この接種により、実際の反芻胃シミュレーションを開始した。各容器の接種時間を記録し、サンプリングした時を考慮して、発酵を停止した。
【0102】
反芻胃発酵シミュレーションを37℃で12時間にわたり続けた。発酵中、全ガス生成をシミュレーション2、4、6、9および12時間後に測定して反芻胃微生物の一般的な代謝活性についての見解を得た。
【0103】
各シミュレーション容器中で12時間の間に生成されたすべてのガスを、72個の容器それぞれから、排気された2リットル注入瓶中に個別に収集し、内部標準として事前に導入されたエタンを使用した。これらのサンプルをメタンについて分析して、12時間の間に反芻胃細菌によって生成された総メタンにおける処置の影響を調べた。分析は、水素炎イオン化検出器、ならびに純粋なメタンおよびエタンを標準として用いて、ガスクロマトグラフィーによって行った。
【0104】
4時間目および12時間目に、すべてのシミュレーション容器を、揮発性脂肪酸(VFA)および(集合的にSCFAと称される)乳酸について分析した。これらの酸を、遊離酸の分析のための充填カラムを用いたガスクロマトグラフィーにより分析した。定量化されたSCFAは、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、2−メチル酪酸、吉草酸、イソ吉草酸および乳酸であった。
【0105】
NOおよびNOは、0、2、4および12時間目にすべてのシミュレーション容器について分析した。方法は、分光光度法であり、酸性のグリース反応(Griess reaction)による検出と組み合わせたバナジウム(III)での硝酸塩還元に基づいた。
【0106】
NHを0、2、4および12時間目にすべてのシミュレーション容器について分析した。方法は、比色定量であり、フェノール−次亜塩素酸塩反応に基づいた。
【0107】
統計分析は、すべての測定したパラメータについて両側t検定により行った。これらの検定を、カルシニット(Calcinit)およびMgSO修正による処置に対して行った(処置2および17)。t検定を選択して個別の処置を、同時に試験された他の処置から独立させた。結果を図に記録し、0.01≦p値<0.05をと示し;0.001≦p値<0.01を**と示し;0.0001≦p値<0.001を***と示し;p値<0.0001を****と示す。
【0108】
結果
総ガス生成に対する処置の影響
この作業において、本発明者らは、5%反芻胃液を含む容器すべてについて接種したが、さらに、いくつかの容器には、セレノモナス・ルミナンチウム(Selenomonas ruminantium)またはメガスファエラ・エルスデニイ(Megasphaera elsdenii)を与えた。これらの細菌は、反芻胃中の主な乳酸塩利用菌であり、さらに、これらは、硝酸塩および/または亜硝酸塩を還元する能力を有すると考えられている。また、M.エルスデニイ(M.elsdenii)を乳酸との組み合わせにおいて試験し、その原理は、乳酸が細菌のための基質であり、反芻胃のミクロ生態系中のその競合性において陽性の影響を有し得るということである。図4に示される通り、NOおよびMgSOの添加は、ガス生成の有意な抑制を引き起こす。この効果は、時間の経過によって、より明白となり;累積するガス生成のほぼ25%抑制が12時間の時点で測定された。
【0109】
硝酸塩で強化された処置と比較したとき、S.ルミナンチウム(S.ruminantium)種の細菌は、最初の4時間の間、ガス生成において陽性の効果を有した。この効果は、用量100μL/40mLおよび1000μL/40mLで統計的に有意であった。また、初期のガス生成をM.エスデニイ(M.esdenii)によって刺激したが、最高用量の1000μLのみであった。乳酸が提供されたとき、ガス生成は抑制され、これは、反芻胃の微生物(microbiotics)の代謝におけるその直接的な阻害効果によるものである可能性がある。S.ルミナンチウム(S.ruminantium)の刺激効果は、遅い時点では検出されなかった。しかしながら、M.エスルデニイ(M.esldenii)の最高用量は、累積的なガス生成の増大が続き、相対的な陽性の効果は、より遅い時点でさらに有意であった。乳酸添加は、インキュベーションの全期間にわたり、用量依存的にガス生成の抑制を持続した。しかしながら、乳酸塩との組み合わせにおいて、M.エルスデニイ(M.elsdenii)の高用量は、代謝の抑制を解除し、実際に、それはガス生成の刺激に変わった。M.エルスデニイ(M.elsdenii)が高用量で全体的なガス生成を刺激したという事実にも関わらず、硝酸塩のマイナス効果を十分に克服することができなかった。
【0110】
メタン生成に対する処置の効果
本発明者らは、総ガス生成に加えて生成されたCHを定量化した。この発酵研究において、生成された総メタンの割合は、相対的に低く、明らかに10%を下回ったままであった(図5B)。メタン生成のレベルは、反芻胃液ドナーとして用いられ雌性ウシの飼料および生理状態に依存する。この場合において、動物は、高エネルギー飼料の乳牛であった。飼料中の硝酸塩は、絶対メタン生成をほぼ80%抑制した(図5A)。
【0111】
硝酸塩還元に対する処置の効果
硝酸塩の固定された量を、製品「Calcinit」(14mM硝酸塩の最終濃度まで)の形態で「修正なし」と表示されたものを除いて、すべてのシミュレーション容器に加えた。この発酵研究において、生成された総メタンは、硝酸塩の不在において7から8mLであり、硝酸塩が提供されたとき、1.5mLまで減少した。
【0112】
硝酸塩ならびにその還元生成物、亜硝酸塩およびアンモニウムの濃度を、接種から2、4および12時間後に分析した。14mM硝酸塩が0時間目に与えられた間、硝酸塩の約10mMの濃度が、2時間目にすべての容器のろ液で観察されただけであった。さらに、溶液中の測定された硝酸塩は、その後の2時間にわたり同じであるかまたはわずかに高かった。これは、硝酸塩が固形マトリックスにより急速に吸収された、または微生物叢により処理されたことを示唆する。分配におけるこの平衡は、細菌による硝酸塩消費が良好な速度になるまで維持されるはずである。本研究において、最終サンプリングは、4時間と12時間との間における硝酸塩レベルの急落を示した(図6)。高用量のM.エルスデニイ(M.elsdenii)修正の効果は、硝酸塩還元がこの細菌の高用量により有意に減速したことを示唆した。
【0113】
2および4時間時点での亜硝酸塩の分析は、硝酸塩データと整合した。2時間目に、亜硝酸塩濃度は0.05mMを下回り、すべての処置で、硝酸塩還元の割合が低かったことを示唆している(図7A)。4時間目に、亜硝酸塩のレベルは上昇し始めたが、0.2mMを下回った。S.ルミナンチウム(S.ruminantium)は、亜硝酸塩を用量依存的に増加するようにみえる一方で、M.エルスデニイ(M.elsdenii)が、亜硝酸塩を用量依存的に減少することは注目に値する(図7B)。12時間後に、M.エルスデニイ(M.elsdenii)の効果は、その不在において亜硝酸塩の濃度が8mMに増加し、細菌を加えたときに用量依存的に減少したために、より明らかであった。純粋なM.エルスデニイ(M.elsdenii)修正により、1000μL用量が、亜硝酸塩を完全に除去するために必要とされる。しかし、乳酸塩と組み合わせたときは、すでに100μL用量は、亜硝酸塩濃度を検出限界まで低下された(図7C)。S.ルミナンチウム(S.ruminantium)の亜硝酸塩を増加する効果は、12時間目ではもはや検出されず、反芻胃モデルのミクロ生態系におけるその代謝の役割は、無視できることが示唆された。
【0114】
アンモニウムは、硝酸塩/亜硝酸塩の究極的な還元生成物である。しかし、アンモニウムは、好ましい有機窒素供給源が利用可能でないとき、微生物により容易に同化される窒素の形態であるため、微生物の系に定量的に蓄積されることが予想され得る生成物ではない。アンモニウムのこうした一過性の役割のために、正確な化学量論的平衡算出を行うことは不可能である。また、14mM硝酸塩を発酵系中に加えたとき、12時間後のアンモニウムの残留濃度は、10から18mMまで増加したことは明らかであった。また、M.エルスデニイ(M.elsdenii)を発酵培地中に加えたとき、アンモニウムのレベルは、添加される追加の乳酸塩基質の用量に依存して23から31mM濃度に達した(図8C)。これらのデータは、硝酸塩修正がアンモニウム生成または蓄積を上昇させることを議論の余地なく示す。データはまた、M.エルスデニイ(M.elsdenii)がこの代謝プロセスをさらに強化することを強く示唆する。アンモニウムの残留濃度は、M.エルスデニイ(M.elsdenii)の100μL用量でピークに達しており、1000μL用量で明らかな下降を示した。
【0115】
結論
本明細書で提供されるデータにより、飼料中の硝酸塩がメタン生成を低下することを再度確認した。硝酸塩が亜硝酸塩に還元され、またさらにアンモニウムに還元されることを示した。このプロセスは、硝酸塩の定量的に還元を防止した条件はまた、メタン生成阻害の程度を減少したために、メタン生成に直接に関連付けられるようである。
【0116】
M.エルスデニイ(M.elsdenii)修正は、硝酸塩還元を促進せず、実際には、それを阻害するようであった。対照的に、細菌は、亜硝酸塩の残留濃度を用量依存的に減少し、同時に、その還元生成物であるアンモニウムの濃度を増加した。これらのデータは、この菌株が機能的な硝酸塩還元酵素を発現はしないが、いくつかの他の細菌は硝酸塩の亜硝酸塩への還元を触媒する場合に、M.エルスデニイ(M.elsdenii)の菌株が、亜硝酸塩をさらにアンモニウムに容易に還元することを示唆する。この特徴が、M.エルスデニイ(M.elsdenii)を、硝酸塩を還元する細菌による亜硝酸塩の急速な生成と蓄積により生じる亜硝酸塩中毒の理想的な妨害剤にする。
【0117】
本発明者らの以前の知見によれば、M.エルスデニイ(M.elsdenii)は、乳牛における主な乳酸塩の利用菌ではない。しかし、高穀物飼料を摂餌される食用牛においては、M.エルスデニイ(M.elsdenii)のための条件は都合がよい。その理由は、反芻胃中の乳酸のレベルが高いときのみ、まさにこの乳酸塩利用菌が高度に競合するからである。当該細菌のこの特徴が、本発明者らがここにおいて、乳酸の効果およびM.エルスデニイ(M.elsdenii)−乳酸の組み合わせの効果についても試験した理由である。様々なパラメータに対するM.エルスデニイ(M.elsdenii)効果は、乳酸が含まれていてもいなくても同じ傾向であったが、乳酸が提供されたときに、その効果はより強力であった。これは、M.エルスデニイ(M.elsdenii)の競合性が乳酸塩によって改善されたことを示唆する。
【0118】
なぜ、高用量のM.エルスデニイ(M.elsdenii)が硝酸塩還元を阻害したのか。これは、ここでは推測するのみであり、最終的な答えは、具体的に設計された研究により得られるのみである。1つの考えられる説明は、M.エルスデニイ(M.elsdenii)が、幾つかの重要な栄養素または補助因子について主な硝酸塩を還元する細菌と競合することである。M.エルスデニイ(M.elsdenii)の増殖が、亜硝酸塩還元に依存せず、硝酸塩還元菌に勝るためである。他の考えられる説明は、最終生成物阻害である。高用量のM.エルスデニイ(M.elsdenii)は、アンモニウム濃度を増大し、それにより硝酸塩還元のフィードバック阻害剤として役立つ。
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【0119】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
反芻動物における胃腸のメタン生成を低下する非治療的な方法であって、有効量の硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせを前記反芻動物に投与することを含む方法。
【請求項2】
硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の前記組み合わせが、1日当たり0.05g/kg体重以上の合計用量の硝酸塩および硫酸塩を与える量で反芻動物に投与される請求項1に記載の反芻動物における胃腸のメタン生成を低下する非治療的な方法。
【請求項3】
前記硝酸塩化合物が、1日当たり0.025〜8g/kg体重の硝酸塩の用量を与える量で前記反芻動物に投与され、前記硫酸塩化合物が、1日当たり0.025〜1.8g/kg体重の硫酸塩の用量を与える量で前記反芻動物に投与される請求項2に記載の反芻動物における胃腸のメタン生成を低下する非治療的な方法。
【請求項4】
1×10〜1×1014cfu/kg/日の量で亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物を前記反芻動物に投与することをさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の反芻動物における胃腸のメタン生成を低下する非治療的な方法。
【請求項5】
前記反芻動物に有効量の乳酸塩化合物を投与することをさらに含む請求項4に記載の反芻動物における胃腸のメタン生成を低下する非治療的な方法。
【請求項6】
反芻動物における胃腸のメタン生成の非治療的な低下のための硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせを含む組成物の使用。
【請求項7】
1日当たり0.05g/kg体重以上の合計用量の硝酸塩および硫酸塩を与える量で、硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の前記組み合わせを前記反芻動物に投与することを含む請求項6に記載の使用。
【請求項8】
1×10〜1×1014cfu/kg/日の量で亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物を前記反芻動物に投与することをさらに含む請求項5および6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせを含む配合動物飼料であって、前記組み合わせが10g/kg以上の合計量の硝酸塩および硫酸塩を与え、前記硫酸塩の量が乾燥重量に基づいて7.5g/kg以上である配合動物飼料。
【請求項10】
前記硝酸塩の量が乾燥重量に基づいて7.5g/kg以上である請求項9に記載の配合動物飼料。
【請求項11】
好ましくは、メガスファエラ・エルスデニイ(Megasphaera elsdenii)およびプロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ(Propionibacterium acidipropionici)の群から選択される亜硝酸塩を還元するプロバイオティック微生物をさらに含む請求項9または10に記載の配合動物飼料。
【請求項12】
10〜100%の硝酸塩化合物および硫酸塩化合物の組み合わせを含む動物飼料サプリメントであって、前記動物飼料サプリメント中の前記硫酸塩の量が、乾燥重量に基づいて25g/kg以上である動物飼料サプリメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図8a】
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【図8b】
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【図8c】
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【公表番号】特表2012−533320(P2012−533320A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521592(P2012−521592)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【国際出願番号】PCT/NL2010/050473
【国際公開番号】WO2011/010921
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(512018483)プロフィミ・ホールディング・ビー.ブイ. (1)
【氏名又は名称原語表記】Provimi Holding B.V.
【住所又は居所原語表記】Veerlaan 17−23, 3072 AN Rotterdam, The Netherlands
【Fターム(参考)】