説明

取鍋摺動開閉装置用充填材

【課題】製鋼工場において、取鍋で受ける高温の溶融金属によっても容易に溶融せず、焼結及び溶融金属が浸透することなく、容易に落下、開孔しうる取鍋摺動開閉装置用充填材を提供することを課題とする。
【解決手段】アルカリ分が0.5質量%以上の第1のシリカ砂80〜50質量%と、アルカリ分が0.5質量%未満の第2のシリカ砂20〜50質量%からなることを特徴とする取鍋摺動開閉装置用充填材により上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取鍋摺動開閉装置用充填材に関する。更に詳しくは、本発明は、製鋼工場において、取鍋で受ける高温の溶融金属によっても容易に溶融せず、焼結及び溶融金属が浸透することなく、容易に落下、開孔しうる取鍋摺動開閉装置用充填材に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼工場にて使用される取鍋には、溶鋼の排出及び流量を制御するために、底部に摺動開閉装置(スライディングノズルあるいはロータリーノズル)が設けられている。このような摺動開閉装置はノズル内での溶鋼凝固を防止するため、あらかじめ耐火度の高い詰砂(以下充填材と呼ぶ)をノズル内に充填しておくことが一般的で、溶鋼の満たされた取鍋はこの摺動装置を開くことで、まず充填材が落下し、続いて溶鋼が自然に流出する仕組みとなっている(以下自然開孔と呼ぶ)。この際、充填材が焼結、高温溶融物の浸透等によって凝固し、溶鋼の自然流出を妨げる(以下開孔不良と呼ぶ)と、作業者が酸素パイプ等により凝固部を再加熱、溶解して溶鋼を排出する必要があり、労働災害の危険性及び溶鋼の酸化による品質悪化等により多大な損害が発生する。そのため自然開孔率(=自然開孔回数/全使用回数×100(%)で示される)を100%に近づける充填材の開発が不可欠であった。
【0003】
このような充填材として、天然シリカ砂、オリビンサンド、ジルコンサンド、粒状アルミナ等を用いたものが従来研究されてきた。しかし、いずれも性能とコストのバランスが悪いため、現在では比較的安価で高耐火度を有するクロマイト砂とシリカ砂を組合せたものが主流となっている。
【0004】
クロマイト砂とシリカ砂を組み合わせた充填材は、比較的容易に高い自然開孔率を得ることができる点で優れている。ところが、クロマイト砂は有害な6価クロムを反応生成する危険性があるため、安全性及び環境問題の観点から、その使用は望ましいものではない。
【0005】
このような背景から、より安全で低コストな充填材を得るために、クロマイト砂を使用しないか極力減らした充填材の開発が求められている。
【0006】
従来シリカ砂を用いた充填材として、特開昭62−244570号公報(特許文献1)には、SiO2の含有量が96重量%でかつAl23含有量が2.0重量%以下であるシリカ砂の混合物であって、粒度分布0.71〜1.68mmの砂が60〜75重量%、0.10〜0.71mmの砂が25〜40重量%、及び0.1mm未満の砂が5質量%以下である充填材が開示されている。
【0007】
また、特開平1−180776号公報(特許文献2)には、粒度分布が2.38〜0.125mmであり、空隙率が25〜50%である充填材が開示されている。
しかしながら、これらの充填材においても自然開孔率は97〜98%程度であり、満足いくものではなかった。
【0008】
これに対し、特許第2732795号公報(特許文献3)には、粒度分布が0.3〜1.7mmで粒形係数が1.4以下のシリカ砂で、Al23の含有量が2重量%以下、かつK2OとNa2Oの含有量の和が1重量%以下である充填材が開示されている。この特許には、特開昭62−244570号公報及び特開平1−180776号公報において開示されている充填材より耐火度を向上させるために、過焼結の原因となる0.3mm(実施例からすると実質的には0.6mm)未満の微粒子を除去し、シリカ砂の溶融性を増加させるAl23、K2O及びNa2O成分(不純物)を低減することで、より高い耐火度の充填材が得られると記載されている。加えて、この特許には、丸みを帯びたシリカ砂を用いることで、溶融物の浸透を防止できると記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開昭62−244570号公報
【特許文献2】特開平1-180776号公報
【特許文献3】特許第2732795号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許の充填材を使用すれば、この特許の出願当時の製鋼条件であれば、99.26%以上の自然開孔率が得られていた。しかし、近年のより高温かつ長時間化された製鋼条件下においては、十分でない場合があり、自然開孔率を更に向上しうる充填材の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者等は、アルカリ分が異なるシリカ砂を特定の割合で含む取鍋摺動開閉装置用充填材により、上記近年の製鋼条件下でも十分な自然開孔率が得られることを意外にも見い出し本発明にいたった。
【0012】
かくして本発明によれば、アルカリ分が0.5質量%以上の第1のシリカ砂80〜50質量%と、アルカリ分が0.5質量%未満の第2のシリカ砂20〜50質量%からなることを特徴とする取鍋摺動開閉装置用充填材が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製鋼工場において、取鍋で受ける高温の溶融金属によっても容易に溶融せず、焼結及び溶融金属が浸透することなく、容易に落下、開孔しうる取鍋摺動開閉装置用充填材を提供できる。更に、公知の充填材において、満足しうる開孔率を得ることが困難な重精錬条件(溶鋼保持時間100分以上かつ受鋼温度1660℃以上)においても、満足しうる開孔率を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明では、取鍋摺動開閉装置用充填材(以下、単に充填材ともいう)が、アルカリ分が0.5質量%以上含まれる第1のシリカ砂80〜50質量%と、アルカリ分が0.5質量%未満の第2のシリカ砂20〜50質量%からなることで、充填材の焼結性を低減できることを見出している。本発明では、第1のシリカ砂に規定したような、一般に採取されるシリカ砂と同程度のアルカリ分を含むシリカ砂が高い焼結性を示すのに対して、第2のシリカ砂に規定したような、アルカリ分をほとんど含まないシリカ砂の焼結性が特異的に低いことを利用している。ここで、アルカリ分はJIS−R2216規定の蛍光X線分析方法に準じて測定したK2O及びNa2O成分の総和を意味する。
【0015】
第1のシリカ砂に対し、第2のシリカ砂を少なくとも20質量%以上配合すると、焼結性を見かけ上低減する効果が得られる。なお、第2のシリカ砂の配合割合を50質量%まで増やすほどこの効果は高くなる。50質量%を超えて配合すると、第2のシリカ砂は、アルカリ分が少ない、言い換えるとSiO2純度が高いため熱膨張率が高く、第2のシリカ砂が熱膨張した結果、充填材が摺動開閉装置(特に、ノズル)内で棚つり現象を起こし、自然開孔率が悪化するため好ましくない。
【0016】
より好ましい第1のシリカ砂と第2のシリカ砂の配合割合は、80〜60質量%と20〜40質量%であり、更に好ましい配合割合は、75〜65質量%と25〜35質量%である。
【0017】
また、本発明では、第1のシリカ砂のアルカリ分が0.5質量%以上であり、第2のシリカ砂のアルカリ分が0.5質量%未満である。このようにアルカリ分の異なる2種のシリカ砂を使用すれば、アルカリ分の多いシリカ砂で溶融物を保持し、アルカリ分の少ないシリカ砂で溶融物の浸透防止性を向上できる。
【0018】
第1のシリカ砂のアルカリ分が0.5質量%未満の場合、溶融物の浸透防止性が十分でないため好ましくない。第2のシリカ砂のアルカリ分が0.5質量%以上の場合、焼結性が強くなりすぎるため好ましくない。第1のシリカ砂と第2のシリカ砂のより好ましいアルカリ分は、それぞれ0.5〜3.0質量%と0〜0.1質量%であり、特に好ましいアルカリ分は、それぞれ0.8〜1.4質量%と0〜0.05質量%である。
【0019】
更に、本発明において好ましい充填材は、第1のシリカ砂が、0.6〜1.7mmの粒度分布のシリカ砂を90質量%以上かつ0.85〜1.7mmの粒度分布のシリカ砂を50質量%以上含み、前記第2のシリカ砂が、0.212〜0.85mmの粒度分布のシリカ砂を90質量%以上かつ0.212〜0.6mmの粒度分布のシリカ砂を50質量%以上含む充填材である。ここで、粒度分布はJIS−Z2602規定の粒度試験方法に準じて測定した値を意味する。
【0020】
上記粒度分布のシリカ砂を混合した充填材は、混合後の粒度分布において、例えば図1中(a)に示すように0.85〜1.7mm及び0.212〜0.6mmの範囲に通常2つのピークが存在しているか、又は図1中(b)に示すように2つの範囲内で変曲点Aを有していることが好ましい。本発明の充填材では、0.212〜0.6mmの範囲のシリカ砂のアルカリ分が0.5質量%未満であることが、特に好適である。
【0021】
上記背景技術に記載した特許では、0.3mm未満(実施例から実質的には0.6mm未満)の粒子の除去により、充填材の耐火度を向上させている。しかし、このような粒子を除去すると、溶融物の浸透防止性が低下し、十分な自然開孔率を得ることが困難であった。これに対し本発明では、除去されていた微細な粒子を除去せずに、アルカリ分が低く、低焼結性の第2のシリカ砂とすることで、充填材の耐火性の向上(焼結性の低減)と溶融物の浸透防止性を両立でき、その結果自然開孔率を向上できることを見出している。
【0022】
粒度分布0.6〜1.7mmの砂を90質量%以上、0.85〜1.7mmの砂を50質量%以上含む第1のシリカ砂を使用すると、これはアルカリ分を少なくとも0.5質量%以上含む焼結性の高いシリカ砂であっても、焼結性を比較的低く保持できる。実際に、第1のシリカ砂は、取鍋に受鋼する溶鋼温度(以下受鋼温度と呼ぶ)が1,660℃未満、及び取鍋内での溶鋼保持時間(受鋼から連続鋳造機上で取鍋摺動装置を開にするまでに要する時間)が100分未満であれば、100%に近い自然開孔率を得ることができることを発明者等は見い出している。また、第1のシリカ砂のアルカリ分は、熱膨張率を低く保つために0.5〜3.0質量%程度であることが望ましい。
【0023】
このようなアルカリ分の第1のシリカ砂は、粒度分布0.6mm〜1.7mmが80質量%以上含まれる長石をシリカ砂に配合することにより得ることも可能である。なお、長石に含まれるアルカリ分は、通常7〜14質量%である。更に、長石の第1のシリカ砂に対する配合割合は、30質量%以下であることが好ましい。長石の粒子は一般的に形状が角張っているため、30質量%以上の混合は充填性を悪化させる場合があるので好ましくない。より好ましい長石の配合割合は、20質量%以下である。
【0024】
添加する長石は、カリ長石であることが好ましい。このカリ長石には、セイチョウ石、ビシャカリチョウ石、ハリチョウ石、コオリチョウ石等があるが、これらに限定されるものではなく、また、これらを単独もしくは2種類以上組み合わせて使用することも可能である。
【0025】
第2のシリカ砂は、粒度分布の0.212〜0.85mmの砂を90質量%以上、0.212〜0.6mmの砂を50質量%以上含むことが好ましいが、これはスラグ、地金等の高温溶融物の浸透を防ぐのに、0.212〜0.85mm、より詳しくは0.212〜0.6mmの微粒子を配合することが有効なためである。特に受鋼温度が1,660℃以上、及び取鍋内での溶鋼保持時間が100分以上の製鋼の場合、高温溶融物の浸透による開孔不良の発生がより顕著になる。そのため、第2のシリカ砂を配合すれば、開孔不良の発生を抑制できる。更に、第2のシリカ砂のアルカリ分が0.5質量%未満であることで、焼結しやすい微粒子であっても、焼結性を極めて低く保つことができるからである。
【0026】
上記特定の粒度分布及びアルカリ分の第2のシリカ砂が、第1と第2のシリカ砂の合計に対して、少なくとも20質量%以上含まれていることで、充填材の焼結性を低く保ったまま高温溶融物の浸透性を低減することができる。その結果として自然開孔率を100%に近づけることが可能となる。
【0027】
第1及び第2のシリカ砂は、1.4未満の粒形係数を有することが好ましい。この粒形係数を有することにより、充填性が向上し、高温溶融物の浸透をより効果的に低減することが可能となる。より好ましい粒形係数は1.3未満である。ここで、粒形係数は砂表面積測定器(ジョージ・フィッシャー社製)を用いて算出した値を意味する。具体的には、粒形係数とは、1gあたりの実際の砂粒(シリカ砂)の表面積を、砂粒を真球と仮定して求めた理論的表面積で割った値を指す。従って、粒形係数が1に近いほど砂粒が真球に近い形状であることを表している。
【0028】
一般的に、シリカ砂は産出地によって、アルカリ分が0〜7質量%に分布している。特に日本産のシリカ砂のアルカリ分は、0.1〜7質量%に分布し、海外産出のシリカ砂のアルカリ分は、0〜7質量%に分布している。そのため、所望の性質の充填材を得るべく砂を各産地から選択すればよい。
【0029】
なお、上記のシリカ砂及び長石の品質を一定にするため、磨鉱処理を施した砂を使用してもよい。更に、磨鉱処理を施した砂と施さない砂とを2以上混合して使用してもよい。
磨鉱処理には、公知の乾式法、湿式法による処理が挙げられる。また、乾式法と湿式法とを組み合わせてもよい。
【0030】
乾式法には、原料砂を高速気流により装置内で上昇させ、衝突板に衝突させることによって、砂粒相互の衝突と摩擦により磨鉱処理するサンドリクレマ等のニューマッチスクラバー装置、高速回転するロータ上に原料砂を投入し、その遠心力で生ずる投射砂と落下する投入砂との間で起こる衝突と摩擦によって磨鉱処理する高速回転するスクラバー装置、砂粒同士の摩擦を利用して磨鉱処理するアジテーターミル等の高速攪拌機等を用いた方法が挙げられる。
【0031】
一方、湿式法には、羽を回転させたトラフ内の砂粒相互の摩擦によって磨鉱処理するトラフ式等の磨鉱機による方法が挙げられる。
【0032】
これらの磨鉱処理のうち、湿式法を使用することが望ましい。これは、磨鉱処理時の水洗によって所望の粒度より小さい砂を同時に取り除くことができるからである。しかしながら、乾式法であっても、水洗装置を併設すれば湿式法と同程度の砂を得ることができる。
【0033】
また、第1のシリカ砂、第2のシリカ砂、又は第1のシリカ砂及び第2のシリカ砂が、外部添加で0.05〜1.0質量%のカーボン(例えば、鱗状黒鉛、土状黒鉛、カーボンブラック等)で表面全体又は表面の一部をコートされていることが好ましい。コートされたシリカ砂を使用することで、高温溶融物の浸透及び焼結を効果的に低減することが可能である。カーボンの添加量が、1.0質量%を超えると、カーボンの作用により焼結層が形成されにくくなり、不開孔の発生原因となるうえ、極低炭素鋼を製造する場合には、加炭が促進されることとなって、溶鋼の組成分上に問題が生じる場合があるので好ましくない。
【0034】
シリカ砂の表面をカーボンでコートする方法としては、特に限定されないが、例えば、リボン型ブレンダーにより、シリカ砂を、別々又は同一の装置で別々又は同時に攪拌して帯電させた後、カーボンを添加し、更に攪拌して静電コートする方法がある。この場合、攪拌によって充填材に生じる静電気の電位は、−0.1kv以上の電位に相当する静電気量を有するが、好ましくは、−0.1〜−0.05kvの範囲にあることが望まれる。−0.1kv以上の電位を有することにより、遊離カーボンの実質的に存在しない充填材を得ることができる。また、この攪拌によって、カーボンはシリカ砂の全表面又は一部に静電コートできる。
【0035】
本発明では、カーボンの内、カーボンブラックが好ましい。使用できるカーボンブラックは特に限定されず、公知のものでよいが、衛生上の観点や充填材の性能及びコストの観点から、粒状のカーボンブラックを使用することが好ましい。粒状品は、例えば、乾式法や湿式法で造粒することにより得られたものを使用することがより好ましい。この粒状品の粒度分布は、2000μm以下であることが好ましく、250〜2000μmであることがより好ましい。
【0036】
更に、本発明に効果を阻害しない範囲において、クロマイト砂、ジルコン砂、アルミナ砂、カーボン等を含んでいてもよい。充填材に占める第1及び第2のシリカ砂の割合は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。更には、充填材の粒度分布及びアルカリ分を微調整するために、所定の粒度分布及びアルカリ分のシリカ砂を更に加えてもよい。
【0037】
本発明の充填材は、公知の充填材と同様にして取鍋摺動開閉装置中のノズルに充填できる。また、ノズルを充填しかつノズル上及びその周辺領域に盛り上がるように充填材を使用してもよい。更に、ノズルへの充填材を公知のシリカ砂とクロマイト砂の混合砂とし、ノズル上及びその周辺領域に盛り上がるように使用される充填材を本発明の充填材とすることで、より開孔率を向上できる。0.85mm以下の粒度分布の混合砂であることが好ましい。より好ましくは、0.85〜0.15mmの粒度分布の砂を90質量%以上含み、0.5質量%以下のアルカリ分の混合砂である。
【0038】
更に、混合砂と本発明の充填材との使用割合は、0.5〜1:1(質量比)であることが好ましい。
混合砂を構成するシリカ砂とクロマイト砂は、1.4未満の粒形係数を有することが好ましい。この粒形係数を有することにより、充填性が向上し、高温溶融物の浸透をより効果的に低減することが可能となる。より好ましい粒形係数は1.3未満である。
【実施例】
【0039】
以下に実験例及び実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
実験例1
シリカ砂のアルカリ分を0.5質量%未満に限定すると、焼結性が特異的に低下する現象を確認する試験を行った。
【0040】
具体的には、粒度分布0.212〜0.85mmの砂を90質量%以上、0.212〜0.6mmの砂を50質量%以上含み、アルカリ分を0〜2.5質量%の間で調整したシリカ砂(第2のシリカ砂に対応)を用意し、有機バインダーを用いて30mmφ×30mm高さに成型、乾燥した後、耐火坩堝内に低焼結性骨材にて埋め込み拘束した。この耐火坩堝ごと電気炉にて1,600℃雰囲気中で2時間加熱して焼結させて得た試験片を、室温で油圧式万能試験機(前川試験機製作所製、商品名MR−30−ACT)にかけて残留圧縮強度を求めた。
結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1から、アルカリ分が0質量%では全く焼結が認められず、0.5質量%であってもきわめてわずかな焼結しか認められなかった。しかし、アルカリ分が1.0質量%になるとかなりの焼結が認められ、更に2.5質量%では強固な焼結体となった。よって、シリカ砂のアルカリ分を0.5質量%以下に限定することで、焼結性を特異的に低下できることが確認された。
【0043】
実験例2
表2に示した第1のシリカ砂と第2のシリカ砂の割合を変化させて配合した充填材に対して、充填材に含まれる第2のシリカ砂の質量割合と液体(水)浸透性との関係、及び第2のシリカ砂の配合割合と充填材の1,600℃焼成による焼結体残留圧縮強度の関係を調査した結果を表3に示した。なお液体浸透量は、液状となった高温融物の充填材への浸透性の代替値として、焼結体残留圧縮強度は充填材の焼結性の代替値として評価に用いた。また、実験例には第2のシリカ砂にアルカリ分を実質的に含まない第2のシリカ砂(A)を用い、比較実験例には第2のシリカ砂としてアルカリ分を2.5質量%含む第2のシリカ砂(B)を用いた。
【0044】
これ以降、実験例と比較実験例には全て同様の第2のシリカ砂の使い分けを行った。
液体浸透量は、50mmφ×51mm高さの円筒容器に充填した充填材の内部を通過する50mmφの水柱の量を表す。具体的には、土壌透水性測定器(大起理化工業社製、商品名DIK−4000)により、定水位法で測定したシリカ砂の透水係数から算出した。
【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
その結果、実験例、比較実験例に関わらず、充填材に含まれる第2のシリカ砂の割合が20質量%になると、充填材への液体浸透量は大きく減少することが確認された。従って、第2のシリカ砂の割合を20質量%以上にすることで、スラグ、溶鋼等の高温溶融物の浸透性も低減されることが類推された。このときの充填材に含まれる0.212〜0.6mmの粒子量は何れもほぼ14質量%であった。また、粒形係数が小さい実験例の第2のシリカ砂の方が、この効果がより高いことも確認された。
【0048】
一方、各充填材の焼結体残留圧縮強度には、実験例と比較実験例で顕著な差が認められた。実験例の場合は第2のシリカ砂の配合割合増加によって、焼結体残留圧縮強度が低下するのに対し、比較実験例の場合では第2のシリカ砂の配合割合増加によって焼結体残留圧縮強度が大きく増加することが確認された。従って、実質的にアルカリ分を含まない第2のシリカ砂を配合することにより、充填材の焼結性が低く保たれることが明らかとなった。
【0049】
以上の結果から、表2に示したような0.6mm未満の粒子を実質的に含まない第1のシリカ砂に対して、実施例に示したようなアルカリ分を実質的に含まない第2のシリカ砂を少なくとも20質量%以上配合することにより、スラグ、溶鋼等の高温溶融物の浸透性を低減しつつ、焼結性をも低減した充填材が得られることが見出された。
【0050】
実施例1〜3及び比較例1〜3
表2に示したシリカ砂原料を用いて、表4に示した各種充填材を製造し、これらの充填材を製鋼工場にて、250tの取鍋の底部に備えられた図2のような摺動開閉装置に充填し、約200回使用して得られた自然開孔率を表6に示す。図2中、1は充填材、2は受レンガ、3は上ノズル、4は固定盤、5は摺動盤、6は下ノズルを意味する。実施例1〜3及び比較例2では、第2のシリカ砂に表1の第2のシリカ砂(A)を使用し、比較例3では、第2のシリカ砂(B)を使用した。
【0051】
なお使用条件を、溶鋼保持時間と受鋼温度によって分類し、熱条件の比較的易しい軽精錬条件(溶鋼保持時間100分未満かつ受鋼温度1660℃未満)と、熱条件のより厳しい重精錬条件(溶鋼保持時間100分以上かつ受鋼温度1660℃以上)に対して個別に自然開孔率を求め、比較した。なお、具体的な溶鋼保持時間と受鋼温度は、軽精錬条件では45〜99分、1550〜1659℃とし、重精錬条件では100〜300分、1660〜1720℃とした。
【0052】
更に、実施例3として、図3に示した通りノズル内の下層部にシリカ砂30質量%とクロマイト砂70質量%を混合した充填材(粒形係数1.27)を充填し、上層部に実施例2のシリカ砂を30kg盛り上げて自然開孔率を測定し、表6に示した。下層部に使用した充填材の粒度分布及びアルカリ分を表5に示す。図3中、1aは充填材上層部、1bは充填材下層部を意味する(2〜6は図2と同じ)。
【0053】
また、実施例3で使用した表5に示す粒度分布及びアルカリ分のシリカ砂30質量%とクロマイト砂70質量%を混合した充填材のみを使用した場合を比較例4として、自然開孔率を測定し、表6に示した。
【0054】
【表4】

【0055】
【表5】

【0056】
【表6】

【0057】
※比較例2は開孔性が非常に悪かったため、2回使用にてテストを中止した。
比較例1は従来技術により開発されたシリカ砂と同等の特性を持ち、軽精錬条件では高い開孔率が得られたが、より熱条件の厳しい重精錬条件では自然開孔率が大きく悪化した。
【0058】
実施例1及び2では、軽精錬条件では比較例1に対する自然開孔率の差はなかったが、重精錬条件では比較例1に対して自然開孔率が大きく改善されており、軽精錬条件と比較しても自然開孔率の悪化はわずかであった。
【0059】
一方、比較例2では使用初回から重篤な開孔不良が発生し、2回使用にてテストを打ち切ることとなった。これは第2のシリカ砂のアルカリ量が極端に少なく、配合割合を過剰に増やしたために熱膨張率が増加し、上ノズル内で強固な棚吊り閉塞が発生したものと考えられる。
【0060】
また比較例3では、軽精錬条件での自然開孔率もやや悪く、重精錬条件では更に悪化した。これは第2のシリカ砂の焼結によるものと考えられる。
【0061】
比較例4では、軽精錬条件では高い開孔率が得られたが、より熱条件の厳しい重精錬条件では自然開孔率が大きく悪化した。また、この比較例では、使用量を減らすことが望まれているクロマイト砂を使用しているという課題を有する。
【0062】
更には、図2に示した通りノズル内の下層部にシリカ砂30質量%とクロマイト砂70質量%を混合した充填材を充填し、上層部に実施例2のシリカ砂を30kg盛り上げて使用した実施例3の形態では、軽精錬条件及び重精錬条件の何れにおいても非常に高い自然開孔率が得られた。
【0063】
以上の結果から、アルカリ分を0.5質量%以上含む第1のシリカ砂80〜50質量%と、アルカリ分が0.5質量%未満の第2のシリカ砂20〜50質量%とからなる充填材は、より厳しい精錬条件にも適合する取鍋摺動開閉装置用充填材であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の充填材の粒度分布の一例を示すグラフである。
【図2】実施例で使用した摺動開閉装置の概略図である。
【図3】実施例で使用した摺動開閉装置の概略図である。
【符号の説明】
【0065】
A 変曲点、1 充填材、2 受レンガ、3 上ノズル、4 固定盤、5 摺動盤、6 下ノズル、1a 充填材上層部、1b 充填材下層部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ分が0.5質量%以上の第1のシリカ砂80〜50質量%と、アルカリ分が0.5質量%未満の第2のシリカ砂20〜50質量%からなることを特徴とする取鍋摺動開閉装置用充填材。
【請求項2】
前記第1のシリカ砂が、0.6〜1.7mmの粒度分布のシリカ砂を90質量%以上かつ0.85〜1.7mmの粒度分布のシリカ砂を50質量%以上含み、前記第2のシリカ砂が、0.212〜0.85mmの粒度分布のシリカ砂を90質量%以上かつ0.212〜0.6mmの粒度分布のシリカ砂を50質量%以上含む請求項1記載の取鍋摺動開閉装置用充填材。
【請求項3】
前記取鍋摺動開閉装置用充填材が、0.5質量%未満のアルカリ分で0.212〜0.6mmの粒度分布の粒子を含む請求項1又は2に記載の取鍋摺動開閉装置用充填材。
【請求項4】
前記取鍋摺動開閉装置用充填材が、1,660℃以上の受鋼温度、100分以上の溶鋼保持時間の溶鋼精錬に用いられる充填材である請求項1〜3いずれか1つに記載の取鍋摺動開閉装置用充填材。
【請求項5】
前記第1のシリカ砂が、0.6〜1.7mmの粒度分布の砂を80質量%以上含む長石とシリカ砂との混合砂である請求項1〜4のいずれか1つに記載の取鍋摺動開閉装置用充填材。
【請求項6】
前記第1のシリカ砂及び第2のシリカ砂が、1.4以下の粒形係数を有する請求項1〜5のいずれか1に記載の取鍋摺動開閉装置用充填材。
【請求項7】
前記第1のシリカ砂、前記第2のシリカ砂、又は第1のシリカ砂及び第2のシリカ砂は、外部添加で0.05〜1.0質量%のカーボンで表面全体又は表面の一部がコートされたシリカ砂である請求項1〜6のいずれか1つに記載の取鍋摺動開閉装置用充填材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−297426(P2006−297426A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120030(P2005−120030)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(391062333)山川産業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】