説明

受光部カバー及びこれを備えた電気機器

【課題】成形性、信頼性及び意匠性が良好で、且つ良好に赤外光を透光するような、厚みと酸化チタン含有量である受光部カバーを提供する。
【解決手段】受光部カバー10は、樹脂材に酸化チタンを混ぜ込むことによって白色化する材料で形成されるため、本体筐体が白色系の色である電気製品に備えられた際にも意匠性を損なうことがなく、また、可視光透光率を35パーセント以下に抑えることで受光部を良好に隠蔽しつつ、赤外光透光率を40%以上とすることで赤外線リモコンから送信される赤外線信号を良好に受光することができる。また、樹脂材として、物性とコストバランスが良く、ブタジエン系ゴムやスチレンをブレンドすることによって耐衝撃性を向上させることもできるポリスチレン樹脂(PS)を使用することによって、安価でより信頼性の高い受光部カバー10とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器に備えられた赤外線受光部を覆うように装着される受光部カバーに係わり、特に、成形性、信頼性及び意匠性が良好で、且つ良好に赤外光を透光する受光部カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空調機器や映像機器等の電気機器には、赤外線リモコンから送信される赤外線信号を受光するフォトトランジスタ等からなる受光素子や、人体が発する赤外線を受光して人の在否を検出する人検知センサ、等の赤外線受光部が備えられており、電気機器は、赤外線リモコンから送信された赤外線信号や人体が発する赤外線(以下、区別して記載する必要がない場合は、これらを赤外光と記載する)を受光部で受光し、受光した赤外光に対応した制御を行う。
【0003】
受光部には、受光部を覆うように受光部カバーが装着されている。受光部カバーは、受光部を塵埃等から守ると共に、受光部を隠蔽して電気製品の意匠性を高める役目を果たしている。そして、受光部の隠蔽性を高めるために、従来は受光部カバーを、透明な樹脂材に印刷もしくは顔料を混ぜ込む等の方法で黒色としたものが多く使用されてきた。
【0004】
しかしながら、空気調和機の室内機や空気清浄機等、赤外線リモコンや人検知センサ等を備え、本体筐体色を白色系の色とすることが多い電気製品に、黒色の受光部カバーを備えた場合は、受光部の隠蔽性は良好であるものの、本体筐体色(白色系)と調和せずに受光部カバーが目立ってしまい、意匠性を損ねるという問題があった。
【0005】
そこで、樹脂材に酸化チタンを所定量混ぜ込むことによって、樹脂材を白色化することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。酸化チタンは、高い光屈折率を有すると共に、樹脂材に混ぜ込むことによって樹脂材を白色化し、樹脂材に、一方の面から他の面を見通すことができない隠蔽性を持たせることができる。この酸化チタンの粒形状や粒径を調整し、樹脂材に混ぜ込むことによって、可視光や赤外光の散乱能に優れた白色の樹脂材を得ることができる。
【0006】
従って、樹脂材に酸化チタンを所定量混ぜ込んだ材料で受光部カバーを形成すれば、本体筐体を白色系の色とした電気製品に受光部カバーを装着した場合でも、受光部カバーが白色であることから目立つということがなく意匠性を損なうことがなくなると共に、受光部カバーが白色隠蔽性を有するために、電気機器の外部から受光部が視認できなくなり、受光部を良好に隠蔽することができる。
【0007】
一方、受光部カバーは、赤外光が受光部で受光できるだけの赤外光を透光させる必要がある。これら白色隠蔽性や赤外光透光性を評価する方法としては、分光光度計等の測定器で赤外光透光率や可視光透光率を測定し、その数値が所定の値以上もしくは以下であれば、赤外光を良好に透光する、あるいは、可視光を良好に遮光すると判断する方法がある。一般的に、赤外光の透光率を40パーセント以上、可視光の透光率を35パーセント以下とすれば、良好な隠蔽性を維持しつつ赤外光が受光部で効率良く受光できるだけの赤外光を透光させることができるが、赤外光及び可視光の透光率は、受光部カバーの厚みと酸化チタンの含有量によって変化する。
【0008】
さらには、受光部カバーの厚みと酸化チタンの含有量は、受光部カバーの成形性や強度等の信頼性にも影響を与える。従って、受光部カバーの成形性や、強度等の信頼性を確保しつつ、上述した赤外光及び可視光の透光率を実現できる、受光部カバーの厚みと酸化チタンの含有量との関係が確立されることが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−298316号公報(第3頁、第8頁、及び第10〜12頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上述べた問題点を解決し、成形性、信頼性及び意匠性が良好で、且つ良好に赤外光を透光するような、厚みと酸化チタン含有量である受光部カバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上述の課題を解決するものであって、本発明の受光部カバーは、樹脂材に酸化チタンを混ぜ込んだ材料からなり、受光部カバーの赤外光の透光率を40パーセント以上、可視光の透光率を35パーセント以下とするものである。また、樹脂材はポリスチレン樹脂(PS)であり、受光部カバーの、少なくとも電気機器に備えられた受光部に対応する箇所については、厚みを1ミリメートル以上2ミリメートル以下とすると共に、酸化チタンの含有率を0.05重量パーセント以上0.35重量パーセント以下とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の受光部カバーは、樹脂材に酸化チタンを混ぜ込むことによって白色化した材料で形成されるため、本体筐体が白色系の色である電気製品に備えられた際にも意匠性を損なうことがなく、また、可視光透光率を35パーセント以下に抑えることにより、電気機器に備えられた受光部を良好に隠蔽しつつ、赤外光透光率を40%以上とすることにより、赤外線リモコンから送信される赤外線信号を受光部で良好に受光することができる。
【0013】
また、樹脂材として、物性とコストバランスが良く、ブタジエン系ゴムやスチレンをブレンドすることによって耐衝撃性を向上させることもできるポリスチレン樹脂(PS)を使用することによって、安価で信頼性の高い受光部カバーとすることができる。さらには、受光部カバーの、少なくとも電気機器に備えられた受光部に対応する箇所については、厚みを1ミリメートル以上2ミリメートル以下とすると共に、酸化チタンの含有率を0.05重量パーセント以上0.35重量パーセント以下とすることで、成形性、信頼性及び意匠性をより向上させ、良好に赤外光を透光し且つ受光部の隠蔽性が高い受光部カバーとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例である受光部カバーの説明図であり、(A)は受光部カバー位置を含んだ室内機の外観図、(B)は(A)におけるD部拡大図、(C)は(B)におけるE−E断面図である。
【図2】受光部カバーの厚さと酸化チタン含有率との関係を説明する図であり、(A)は所定の赤外光/可視光透光率における受光部厚さと酸化チタン含有率の関係を示すグラフ、(B)は所定の受光部厚さと酸化チタン含有率との対応表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。尚、実施例としては、室内に設置された室内機と、これを操作できる赤外線リモコンとを有する空気調和機を例に挙げて説明する(但し、空気調和機本体や赤外線リモコンの図示や詳細な説明は省略する)。尚、本発明は以下の実施形態に限定されることはなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形することができる。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の実施例である受光部カバーの説明図であり、(A)は受光部カバー位置を含んだ室内機の外観図、(B)は(A)におけるD部拡大図、(C)は(B)におけるE−E断面図である。また、図2は受光部カバーの厚さと酸化チタン含有率との関係を説明する図であり、(A)は所定の赤外光/可視光透光率における受光部厚さと酸化チタン含有率の関係を示すグラフ、(B)は所定の受光部厚さと酸化チタン含有率との対応表である。
【0017】
図1(A)に示すように、室内機20は、横長の箱体であり、前面にグリル12を備えたカバー11が、図示しない熱交換器や送風ファン等といった内部の構造物を覆うように配置されている。また、下方に備えられた吹出口13には、複数の上下風向板14や図示しない複数の左右風向板が配置されている。また、吹出口13右側には受光部カバー10が配置されている。
【0018】
図1(B)に示すように、受光部カバー10は、カバー本体3に、受光窓1と、3個のスリット2を設けてなり、後述するように、ハイインパクトポリスチレン樹脂(HIPS。ポリスチレン樹脂にブタジエン系ゴムやスチレンをブレンドして耐衝撃性を向上したもの。以降、特に必要のある場合を除いてポリスチレン樹脂と記載する)に、所定割合の酸化チタンを混ぜ込んだ材料で形成されている。
【0019】
3個のスリット2は、室内機20に設けられた図示しない複数の表示部から発光される光を透過させるために設けられており、複数の表示部の配置に対応した位置に設けられている。尚、表示部は、発光ダイオード等の複数の発光素子からなり、電源の入/切やタイマー運転予約の有無等といった、室内機20の制御状態を表示するために設けられている。
【0020】
また、受光窓1は略四方形状であり、図1(C)に示すように、室内機20に設けられた受光部30の配置に対応した位置に設けられている。尚、受光部30は、赤外線リモコンから発光された赤外線信号を受光するためのフォトトランジスタ等の受光素子や、受光した信号を増幅するためのアンプ等で構成されており、受光部30で受光した信号に対応して室内機20の制御が行われる。
【0021】
次に、図1及び図2を用いて、受光部カバー10の受光窓1の厚さ寸法tと、受光部カバー10(受光窓1)を形成する材料(ポリスチレン樹脂に酸化チタンを混ぜ込んだ材料)における酸化チタンの含有率との関係について説明すると共に、受光部カバー10の成形性、信頼性及び意匠性が良好となり、且つ赤外光透光率が40%以上、及び可視光透光率が35%以下となるような、受光窓1の厚さ寸法tと酸化チタン含有率の値について説明する。
【0022】
図2(A)は、受光窓1での赤外光透光率が40%以上、及び可視光透光率が35%以下となる、受光窓1の厚さ寸法tと酸化チタン含有率との関係を表すグラフであり、縦軸が受光窓1の厚さ寸法t(単位:ミリメートル)、横軸が酸化チタンの含有率(単位:重量パーセント)である。
【0023】
本実施例で使用しているポリスチレン樹脂は、材料色が乳白色であり、受光窓1の厚さ寸法tを3.0ミリメートルとした場合は、酸化チタンを全く混ぜ込まなくても赤外光透光率が40パーセント以下となる(このため、図2(A)では、受光窓厚さ寸法tが3.0ミリメートルの箇所は白抜き丸で表示している)。また、本実施例で使用している酸化チタンは、断面が真円もしくは楕円形状である略球形状であり、粒の大きさは、可視光波長(380〜700ナノメートル)や近赤外光波長(700〜1100ナノメートル)の約半分程度とされているものである。
【0024】
図2(A)に示すように、受光窓1の厚さ寸法tを、”2.0<t<3.0(ミリメートル)”とした場合は、酸化チタンの含有率を調整することで、赤外光透光率を40パーセント以上、及び可視光透光率を35パーセント以下とすることができる。しかし、この厚さ寸法tでは、受光部カバー10(受光窓1)成形時に体積収縮による凹痕、所謂ヒケが発生する虞があり、ヒケによる受光窓1のゆがみが赤外光透光率や可視光透光率に悪影響を与えると共に、外観不良となって、信頼性及び意匠性を損なう虞がある。
【0025】
また、図2(A)に示すように、受光窓1の厚さ寸法tを、”t<1.0(ミリメートル)”以下とした場合も、酸化チタンの含有率を調整することで、赤外光透光率を40パーセント以上、及び可視光透光率を35パーセント以下とすることができる。しかし、この厚さ寸法tでは、受光窓1の機械的な強度不足が懸念され、特に、成形金型の射出ゲートの設置位置によっては、2つ以上の樹脂材流動先端部が会合して発生する糸状の細い線状痕、所謂ウエルドラインが受光窓1の一部に発生して強度が劣化し、使用者が受光窓1を指で押す等、小さな力が加わった際でも簡単に割れる虞がある。
【0026】
以上の問題点を考慮し、信頼性、意匠性及び成形性と、赤外光透光率:40パーセント以上、及び可視光透光率:35パーセント以下、とを両立する受光窓1の厚さ寸法tは、1.0ミリメートル以上2.0ミリメートル以下となり(図2(A)の太線を参照)、図2(A)から、受光窓1の厚さ寸法が下限値と上限値の場合の酸化チタンの含有率は、0.05重量パーセント以上0.35重量パーセント以下となる。
【0027】
すなわち、図2(B)の受光窓1の厚さと酸化チタン含有率との対応表に示すように、受光窓1の厚さ寸法tが1.0ミリメートルの場合は酸化チタンの含有率は0.35重量パーセントとなり、受光窓1の厚さ寸法tが2.0ミリメートルの場合は酸化チタンの含有率は0.05重量パーセントとなる。尚、本実施例では、図1(B)に示すように、受光部カバー10の受光窓1の厚さ寸法tは1.5ミリメートルであり、この場合の酸化チタンの含有率は、図2(A)から読み取ると0.11パーセントである(本実施例での受光窓1の厚さ寸法tと酸化チタン含有率は、図2(A)において数値を四角で囲んで記載している。又、図2(B)の対応表にも記載している)。尚、図1(B)に示すように、受光窓1と受光部30との間隔を3.0ミリメートルから5.0ミリメートルとしておけば、上述した厚さ寸法tと酸化チタンの含有率を有する受光窓1によって、外部から受光部30を視認することが困難であり、受光部カバー10による受光部30の隠蔽性を高めることができる。
【0028】
以上説明した実施例では、樹脂材としてポリスチレン樹脂を例に挙げて説明したが、他の樹脂材としてもよく、例えば、ポリエチレン樹脂(PE)を使用し、ポリエチレン樹脂の物性に応じて成形性や信頼性を満足する受光窓の厚さ寸法として、この厚さ寸法の際に赤外光透光率が40パーセント以上、及び可視光透光率が35パーセント以下となる酸化チタンの含有率を決定する、というように選択した樹脂材の物性に応じた厚さ寸法と酸化チタン含有率を設定すればよい。
【0029】
以上説明した通り、本発明によれば、受光部カバーは、樹脂材に酸化チタンを混ぜ込むことによって白色化した材料で形成されるため、本体筐体が白色系の色である電気製品に備えられた際にも意匠性を損なうことがなく、また、可視光透光率を35パーセント以下に抑えることにより、電気機器に備えられた受光部を良好に隠蔽しつつ、赤外光透光率を40%以上とすることにより、赤外線リモコンから送信される赤外線信号を受光部で良好に受光することができる。
【0030】
また、樹脂材として、物性とコストバランスが良く、ブタジエン系ゴムやスチレンをブレンドすることによって耐衝撃性を向上させることもできるポリスチレン樹脂(PS)を使用することによって、安価で信頼性の高い受光部カバーとすることができる。さらには、受光部カバーの、少なくとも電気機器に備えられた受光部に対応する箇所については、厚みを1ミリメートル以上2ミリメートル以下とすると共に、酸化チタンの含有率を0.05重量パーセント以上0.35重量パーセント以下とすることで、成形性、信頼性及び意匠性をより向上させ、良好に赤外光を透光し且つ受光部の隠蔽性が高い受光部カバーとすることができる。
【0031】
以上説明した実施例では、室内に設置された室内機と、これを操作できる赤外線リモコンとを有する空気調和機の、室内機に設けられる受光部カバーを例に挙げて説明したが、これに限るものではなく、電気機器に設けられ、電気機器が設置された部屋に人が存在するか否かを検出する人検知センサ等、電気機器に備えられて赤外光を検出する受光部を覆うように装着される受光部カバーに広く応用できる。
【0032】
また、酸化チタンを混ぜ込んだ材料で形成する受光部カバーを、電気機器の受光部を覆える大きさとするのではなく、例えば、空気調和機の室内機の前面パネルを樹脂材に酸化チタンを混ぜ込んだ材料で形成し、受光部に対応する箇所の厚さ寸法を赤外光透光率が40パーセント以上、及び可視光透光率が35パーセント以下となるような寸法とする、というように、電気機器の筐体を構成する部品すべてを、樹脂材に酸化チタンを混ぜ込んだ材料で形成してもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 受光窓
2 スリット
3 カバー本体
10 受光部カバー
11 カバー
12 グリル
13 吹出口
14 上下風向板
20 室内機
30 受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器に備えられた赤外光を受光する受光部を覆うように装着される受光部カバーであって、
前記受光部カバーは、樹脂材に所定割合の酸化チタンを含有した材料で所定の厚さ寸法となるよう形成され、
前記受光部カバーの赤外光透光率が40パーセント以上であり、且つ可視光透光率が35パーセント以下であることを特徴とする受光部カバー。
【請求項2】
前記樹脂材は、ポリスチレン樹脂であり、
前記受光部カバーの、少なくとも前記受光部に対応する箇所については、厚さ寸法を1ミリメートル以上2ミリメートル以下とし、同厚さ寸法に対応して酸化チタンの含有率を0.05重量パーセント以上0.35重量パーセント以下としたことを特徴とする請求項1に記載の受光部カバー。
【請求項3】
請求項1及び請求項2に記載の受光部カバーを備えた電気機器。

【図1】
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【図2】
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