説明

受容体結合能画像化プログラム、記録媒体及び方法

【課題】ROI中に正常、異常な領域が混在する場合でも異常な領域のBPを示し、灰白質又は白質が損傷を受けるような病態に応じてBPを示し、PET脳画像上に解剖学的領域を正確に特定し、脳内全体の領域でのBPの評価を容易に行うBP画像化プログラム等を提供する。
【解決手段】PET脳画像を基準としてMRI脳画像の位置合わせを行う。MRI脳画像から灰白質部分と白質部分とを分離してノイズ除去処理を行う。MRI脳画像に対して参照領域にROIを設定し、当該ROIをPET脳画像に設定する。PET脳画像に楕円形状のROIを設定し、当該ROIについて一画素毎に時間−放射能カウント値を入力する。楕円形状のROIにおけるPET脳画像と参照領域のROIにおける時間−放射能カウント値とを用いて、参照領域法に基づき楕円形状のROIにおけるPET脳画像の一画素毎にBPを算出する。灰白質部分及び/又は白質部分のBPを表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PET脳画像データから受容体結合能の画像化を行うための受容体結合能画像化プログラム等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、脳神経分野では神経受容体に選択的に結合する放射性薬剤を用いて、神経伝達機能を評価する研究が行われている。この評価を行う際に、陽電子放出断層撮影(Positron Emission Tomography : PET)により脳内における放射性薬剤の分布を映像化するだけではなく、PET脳画像から受容体結合能(Binding Potential : BP)等の薬理学的指標を算出することも行われている。BPは、受容体と特異的に結合している薬剤の放射能濃度と組織中の遊離薬剤の濃度との比で表現できる(非特許文献1参照)。
【0003】
脳関門を通して脳内に取込まれた放射性薬剤には、放射性薬剤の特性に応じて取込まれやすい(留まりやすい)領域と取込まれにくい(留まりにくい)領域とがある。BPは、この取込まれやすさの程度を示しており、取込まれやすい領域ではBPが高くなる。従って、予め正常な脳について放射性薬剤に応じた各領域におけるBPの高低を調べておくことにより、BPの高低パターンを得ることができる。脳内に正常な領域と異常な領域とがある場合、脳内に取込まれた放射性薬剤は正常な領域には上述したBPの高低パターンに応じて留まるが、異常な領域には留まらずに脳外へ流れていくため、BPは通常より低くなる。従って、BPを求めることにより、脳内の異常な領域を発見することが可能となる。
【0004】
従来、PET脳画像からBPを算出する場合、まずPET脳画像に対して関心領域(Region of Interest : ROI)を設定し、当該ROIについて時間の経過による放射性薬剤の取込み及び洗出しの過程を調べることにより、BPを算出していた。より詳しくは、測定された時間と当該ROI中における全画素の放射能カウント値の平均値との間の変化を示す時間−放射能カウント値曲線を求め、この時間−放射能カウント値曲線のデータに基づきBPを算出していた。つまり、当該ROI中における全画素の放射能カウント値の平均値という一つの値により、当該ROIの挙動(どのようなBPとなるか)を代表させていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来のBP算出法では、まず先にPET脳画像に対してROIを設定し、当該ROI中における全画素の放射能カウント値の平均値という一つの値により当該ROIの挙動を代表させていた。このため、当該ROI中に正常な領域と異常な領域とが混在していた場合、正常な放射能カウント値と異常な放射能カウント値とが混ざってしまい、正常な領域のBPであるのか、異常な領域のBPであるのかが不明になってしまうという問題があった。
【0006】
脳神経分野における病態によっては、灰白質が損傷を受ける場合、又は白質が損傷を受ける場合がある。しかし、上述した従来のBP算出法では、まず先にPET脳画像に対してROIを設定するため、当該ROI中に灰白質と白質とが含まれることがある。この場合でも当該ROI中における全画素の放射能カウント値の平均値という一つの値により当該ROIの挙動を代表させていたため、病態に応じた正確なBPを算出することが困難であるという問題があった。
【0007】
PET脳画像は、X線断層写真撮影機(Computer Tomography : CT)、磁気共鳴映像機(Magnetic Resonance Imaging : MRI)等による画像と比較すると解像度が低い。このため、PET脳画像上では解剖学的領域を特定しにくいという問題があった。
【0008】
従来は設定した各ROI毎にBPを数値として算出していただけであったため、脳内全体の領域におけるBPの評価を短期間に行うことが困難であるという問題があった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記問題を解決するためになされたものであり、設定したROI中に正常な領域と異常な領域とが混在していた場合であっても、正常な放射能カウント値と異常な放射能カウント値とが混ざることなく、正常な領域のBPであるのか、異常な領域のBPであるのかを明瞭に示すことができる受容体結合能画像化プログラム等を提供することにある。
【0010】
本発明の第2の目的は、灰白質が損傷を受けるような病態、又は白質が損傷を受けるような病態に対しても、各々正確なBPを示すことができる受容体結合能画像化プログラム等を提供することにある。
【0011】
本発明の第3の目的は、PET脳画像、単光子放出断層撮像法(Single Photon Emission Computed Tomography : SPECT)脳画像等の機能的脳画像上に解剖学的領域を正確に特定することができる受容体結合能画像化プログラム等を提供することにある。
【0012】
本発明の第4の目的は、脳内全体の領域におけるBPを瞬時に示すことにより、脳内全体の領域におけるBPの評価を容易に行うことができる受容体結合能画像化プログラム等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の受容体結合能画像化プログラムは、機能的脳画像データ(好適にはPET又はSPECT脳画像データ)から受容体結合能の画像化を行うための受容体結合能画像化プログラムであって、コンピュータを、受容体に選択的に結合する所定の放射性薬剤を用いて撮像された被験者の機能的脳画像データを入力する機能的脳画像データ入力手段、前記被験者の形態脳画像データ(好適にはMRI又はCT脳画像データ)を入力する形態脳画像データ入力手段、前記機能的脳画像データ入力手段により入力された被験者の機能的脳画像データを基準として、該機能的脳画像データと前記形態脳画像データ入力手段により入力された該被験者の形態脳画像データとの位置合わせを行う位置合わせ手段、前記位置合わせ形態手段により位置合わせされた被験者の形態脳画像データから灰白質部分データと白質部分データとを分離する分離手段、前記位置合わせ手段により位置合わせされた形態脳画像データに対して前記所定の放射能薬剤が存在しないとみなし得る参照領域に関心領域を設定し、該関心領域を前記機能的脳画像データ入力手段により入力された被験者の機能的脳画像データに設定する関心領域設定手段、前記機能的脳画像データ入力手段により入力された被験者の機能的脳画像データに所定の形状の関心領域を設定する所定形状関心領域設定手段、前記関心領域設定手段により設定された機能的脳画像データの参照領域における関心領域について、一画素毎に時間−放射能カウント値を入力する放射能カウント値入力手段、前記所定形状関心領域設定手段により設定された所定の形状の関心領域における機能的脳画像データと、前記放射能カウント値入力手段により入力された参照領域の関心領域における時間−放射能カウント値とを用いて、前記放射能薬剤の動態を表す数学的モデルである参照領域法に基づき、該所定の形状の関心領域における該機能的脳画像データの一画素毎に受容体結合能を算出する受容体結合能算出手段、前記受容体結合能算出手段により算出された一画素毎の受容体結合能と前記分離手段により分離された灰白質部分データ及び/又は白質部分データとに基づき、灰白質部分及び/又は白質部分のデータの受容体結合能を所定の表示形式で表示する受容体結合能表示手段として機能させるための受容体結合能画像化プログラムである。
【0014】
ここで、この発明の受容体結合能画像化プログラムにおいて、前記参照領域法はSRTM(Simplified Reference Tissue Model)法及び/又は非侵襲性Logan法とすることができる。
【0015】
ここで、この発明の受容体結合能画像化プログラムにおいて、前記分離手段により分離された灰白質部分データ及び/又は白質部分データに対し所定のノイズ除去処理を行うノイズ除去手段をさらに備え、前記受容体結合能表示手段は、前記受容体結合能算出手段により算出された一画素毎の受容体結合能と前記分離手段により分離され前記ノイズ除去手段により所定のノイズ除去処理が行われた灰白質部分データ及び/又は白質部分データとに基づき、灰白質部分及び/又は白質部分の受容体結合能を所定の表示形式で表示することができる。
【0016】
ここで、この発明の受容体結合能画像化プログラムにおいて、前記ノイズ除去手段は、前記分離手段により分離された灰白質部分データ及び/又は白質部分データに対し膨張及び細線処理を施すことにより、ノイズ除去処を行うことができる。
【0017】
ここで、この発明の受容体結合能画像化プログラムにおいて、前記受容体結合能表示手段により受容体結合能が表示された画像データに対して関心領域を設定し、該関心領域に対応する機能的脳画像データの領域について時間−放射能カウント値を入力し、該時間−放射能カウント値に基づき該関心領域における平均受容体結合能を算出する他の受容体結合能算出手段をさらに備えることができる。
【0018】
ここで、この発明の受容体結合能画像化プログラムにおいて、前記所定形状関心領域設定手段により設定される所定の形状は楕円とすることができる。
【0019】
ここで、この発明の受容体結合能画像化プログラムにおいて、前記参照領域法がLogan-DVR法の場合、Logan-DVR法で回帰直線とみなされる開始点を初期値から終了値まで変化させて、各開始点について前記受容体結合能算出手段の処理を繰返させる繰返し手段と、前記繰返し手段により求められた各受容体結合能を所定の形式で表示し、特定の開始点を選択させる開始点選択手段とをさらに備えることができる。
【0020】
この発明の記録媒体は、本発明のいずれかの受容体結合能画像化プログラムを記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体である。
【0021】
この発明の受容体結合能画像化方法は、コンピュータが、機能的脳画像データから受容体結合能の画像化を実行する受容体結合能画像化方法であって、受容体に選択的に結合する所定の放射性薬剤を用いて撮像された被験者の機能的脳画像データを入力する機能的脳画像データ入力ステップと、前記被験者の形態脳画像データを入力する形態脳画像データ入力ステップと、前記機能的脳画像データ入力ステップで入力された被験者の機能的脳画像データを基準として、該機能的脳画像データと前記形態脳画像データ入力ステップで入力された該被験者の形態脳画像データとの位置合わせを行う位置合わせステップと、前記位置合わせ形態ステップで位置合わせされた被験者の形態脳画像データから灰白質部分データと白質部分データとを分離する分離ステップと、前記位置合わせステップで位置合わせされた形態脳画像データに対して前記所定の放射能薬剤が存在しないとみなし得る参照領域に関心領域を設定し、該関心領域を前記機能的脳画像データ入力ステップで入力された被験者の機能的脳画像データに設定する関心領域設定ステップと、前記機能的脳画像データ入力ステップで入力された被験者の機能的脳画像データに所定の形状の関心領域を設定する所定形状関心領域設定ステップと、前記関心領域設定ステップで設定された機能的脳画像データの参照領域における関心領域について、一画素毎に時間−放射能カウント値を入力する放射能カウント値入力ステップと、前記所定形状関心領域設定ステップで設定された所定の形状の関心領域における機能的脳画像データと、前記放射能カウント値入力ステップで入力された参照領域の関心領域における時間−放射能カウント値とを用いて、前記放射能薬剤の動態を表す数学的モデルである参照領域法に基づき、該所定の形状の関心領域における該機能的脳画像データの一画素毎に受容体結合能を算出する受容体結合能算出ステップと、前記受容体結合能算出ステップにより算出された一画素毎の受容体結合能と前記分離ステップにより分離された灰白質部分データ及び/又は白質部分データとに基づき、灰白質部分及び/又は白質部分の受容体結合能を所定の表示形式で表示する受容体結合能表示ステップとを備え、前記機能的脳画像データ入力ステップと前記形態脳画像データ入力ステップとは逆に実行可能であり、前記所定形状関心領域設定ステップは前記機能的脳画像データ入力ステップ後であれば先行する各ステップの前に実行可能であることを特徴とする。
【0022】
ここで、この発明の受容体結合能画像化方法において、前記参照領域法はSRTM(Simplified Reference Tissue Model)法及び/又は非侵襲性Logan法とすることができる。
【0023】
ここで、この発明の受容体結合能画像化方法において、前記分離ステップの後で且つ前記受容体結合能表示ステップの前に、該分離ステップで分離された灰白質部分データ及び/又は白質部分データに対し所定のノイズ除去処理を行うノイズ除去ステップをさらに備え、前記受容体結合能表示ステップは、前記受容体結合能算出ステップで算出された一画素毎の受容体結合能と前記分離ステップで分離され前記ノイズ除去ステップで所定のノイズ除去処理が行われた灰白質部分データ及び/又は白質部分データとに基づき、灰白質部分及び/又は白質部分の受容体結合能を所定の表示形式で表示することができる。
【0024】
ここで、この発明の受容体結合能画像化方法において、前記ノイズ除去ステップは、前記分離ステップで分離された灰白質部分データ及び/又は白質部分データに対し膨張及び細線処理を施すことにより、ノイズ除去処を行うことができる。
【0025】
ここで、この発明の受容体結合能画像化方法において、前記受容体結合能表示ステップで受容体結合能が表示された画像データに対して関心領域を設定し、該関心領域に対応する機能的脳画像データの領域について時間−放射能カウント値を入力し、該時間−放射能カウント値に基づき該関心領域における平均受容体結合能を算出する他の受容体結合能算出ステップをさらに備えることができる。
【0026】
ここで、この発明の受容体結合能画像化方法において、前記所定形状関心領域設定ステップで設定される所定の形状は楕円とすることができる。
【0027】
ここで、この発明の受容体結合能画像化方法において、前記参照領域法がLogan-DVR法の場合、前記受容体結合能算出ステップの前に、Logan-DVR法で回帰直線とみなされる開始点を初期値から終了値まで変化させて、各開始点について前記受容体結合能算出手段の処理を繰返させる繰返しステップと、前記繰返しステップで求められた各受容体結合能を所定の形式で表示し、特定の開始点を選択させる開始点選択ステップとをさらに備えることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の受容体結合能画像化プログラム等によれば、MRI脳画像、CT脳画像等の形態(解剖学的)脳画像と、PET脳画像、SPECT脳画像等の機能的脳画像とを位置合わせして両脳画像を同じ座標にしている。これにより、解剖学的情報が豊富なMRI画像等の形態(解剖学的)脳画像に対して解剖学的領域を設定してから、当該解剖学的領域をPET脳画像等の機能的脳画像へ設定している。このため、PET脳画像等の機能的脳画像上でも解剖学的領域を正確に特定することができるという効果がある。
【0029】
PET脳画像等の機能的脳画像の一画素毎に時間−放射能カウント値を求め、一画素毎に受容体結合能を求めている。このため、設定した関心領域中に正常な領域と異常な領域とが混在していた場合であっても、正常な放射能カウント値と異常な放射能カウント値とが混ざることなく、正常な領域のBPであるのか、異常な領域のBPであるのかを明瞭に示すことができるという効果がある。求めたBPを画像として表示しているため、脳内全体の領域におけるBPを瞬時に示すことができ、脳内全体の領域におけるBPの評価を短期間で容易に行うことができるという効果がある。灰白質と白質とに分けて、各々につきBPを求めている。このため、灰白質が損傷を受けるような病態、又は白質が損傷を受けるような病態に対しても、病態に応じた正確なBPを算出することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例1等におけるBP画像化プログラム等が実行されるBP画像化システム1を示す図である。
【図2】PET脳画像データ入力部21により入力されたPET脳画像データに基づくPET脳画像40を例示する図である。
【図3】MRI脳画像データ入力部22により入力されたMRI脳画像データに基づくMRI脳画像50を例示する図である。
【図4】位置合わせ部23により位置合わせが行われた結果の脳画像60を例示する図である。
【図5】相互情報量を説明するための概念図である。
【図6】医用脳画像の平均情報量(エントロピー)を説明するための図である。
【図7】結合事象のヒストグラムを説明するための図である。
【図8】図7に示されるジョイント・ヒストグラム300を視点VPから見た場合の3次元ジョイント・ヒストグラム400を示す図である。
【図9】2次元ジョイント・ヒストグラムから相互情報量を計算する方法を説明するための図である。
【図10】2次元ジョイントヒストグラムG(A,B)(ヒストグラム310)から計算された参照画像270(事象A)とフローティング画像260(事象B)との結合確率分布p(A,B)を示す図である。
【図11】セグメンテーション部24による被験者のMRI脳画像データ50から灰白質部分データ55と白質部分データ56とを分離する例を示す図である。
【図12】細線・膨張処理部25による細線・膨張処理(closing演算)を例示する図である。
【図13】細線・膨張処理部25による処理状態を例示する画面70を示す図である。
【図14】リファレンスROI設定部26の処理状況を例示する画面80を示す図である。
【図15】楕円ROI設定部27の処理状況を例示する画面90を示す図である。
【図16】放射能カウント値入力部28の処理状況を例示する画面100を示す図である。
【図17】SRTM法を説明するためのコンパートメントモデルを示す図である。
【図18】被験者に対し放射性薬剤として[11C]PE2Iが使用された場合におけるBP画像表示部30により表示された画面120a〜120dを示す図である。
【図19】被験者に対し放射性薬剤として[18F]flumazenilが使用された場合におけるBP画像表示部30により表示された画面130a〜130dを示す図である。
【図20】BP画像表示部30により表示された画面140を示す図である。
【図21】本発明の実施例1等における、コンピュータがPET脳画像データからBPの画像化を実行するBP画像化プログラム及び方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【図22】本発明の実施例3における楕円ROI設定部27の処理状況を例示する画面160を示す図である。
【図23】式23の左辺Yを縦軸とし、式23の右辺のXを横軸としたグラフを示す図である。
【図24】本発明の実施例4における最適開始点によるBP算出法(BP画像化プログラム等)の流れを示すフローチャートである。
【図25】実施例4における最適開始点によるBP算出法の処理状況を例示する画面170を示す図である。
【図26】本発明のBP画像化プログラムを実行するコンピュータ10の内部回路180を示すブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下では説明の便宜のために、形態(解剖学的)脳画像の例としてMRI脳画像を取り上げ、機能的脳画像の例としてPET脳画像を取り上げて説明する。しかし、本発明の受容体結合能画像化プログラム等が適用される形態(解剖学的)脳画像はMRI脳画像に限定されるものではなく、CT脳画像等の他の形態(解剖学的)脳画像に対しても同様に適用することができる。同様に、本発明の受容体結合能画像化プログラム等が適用される機能的脳画像はPET脳画像に限定されるものではなく、SPECT脳画像等の他の機能的脳画像に対しても同様に適用することができる。従って、本発明の受容体結合能画像化プログラム等が適用される形態(解剖学的)脳画像と機能的脳画像との組合わせは、例えばMRI脳画像とPET脳画像、MRI脳画像とSPECT脳画像、CT脳画像とPET脳画像、CT脳画像とSPECT脳画像等になる。以下では、本発明のPET脳画像データ等の機能的脳画像データからBPの画像化を行うための受容体結合能画像化プログラムを「BP画像化プログラム」と言う。本発明のコンピュータがPET脳画像データ等の機能的脳画像データからBPの画像化を実行する受容体結合能画像化方法を「BP画像化方法」と言う。BP画像化プログラム及び方法を「BP画像化プログラム等」と言う。以下、実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0032】
図1は、本発明の実施例1等におけるBP画像化プログラム等が実行されるBP画像化システム1を示す。図1で、符号10はBP画像化プログラム等を実行するコンピュータ、12はコンピュータ10に接続されたハードディスク等の記録装置、14は記録装置12内に記録されたPET脳画像データのデータべース(PET−DB)、16は記録装置12内に記録されたMRI脳画像データのデータべース(MRI−DB)、20はBP画像化プログラムの機能を示す機能ブロックである。以下、機能ブロック20内に示される各機能について説明していく。
【0033】
PET脳画像データ入力部(機能的脳画像データ入力手段。上述したようにSPECT脳画像データ入力部であってもよい。以下同様。)21は、受容体に選択的に結合する所定の放射性薬剤を用いて撮像された被験者のPET脳画像データ(放射能カウント値)を入力する。本明細書では、受容体として特に脳内の神経受容体を取り扱う。所定の放射性薬剤としては[11C]PE2I、[18F]flumazenil等が好適である。PET脳画像データの収集及び所定の放射性薬剤の分布を画像化するためのPET装置としては3次元収集型が好適である。PET専用機ではなく、PET/CT装置、SPECT(単光子放出断層撮像法:Single Photon Emission Computed Tomography)/PET装置等を用いてもよい。図2は、PET脳画像データ入力部21により入力されたPET脳画像データに基づくPET脳画像40を例示する。以下では、特に区別する場合を除いて「PET脳画像」と「PET脳画像データ」とを同様に用いる。図2に示されるように、PET脳画像データ40のマトリクスサイズとしては128×128(画素)が好適であるが、このマトリクスサイズに限定されるものではない。
【0034】
MRI脳画像データ入力部(形態脳画像データ入力手段。上述したようにCT脳画像データ入力部であってもよい。以下同様。)22は、上記被験者のMRI脳画像データを入力する。MRI脳画像データの収集及びMRI画像の作成に用いるMRI装置としては、トンネル型、オープン型等のいずれを用いてもよい。図3は、MRI脳画像データ入力部22により入力されたMRI脳画像データに基づくMRI脳画像50を例示する。以下では、特に区別する場合を除いて「MRI脳画像」と「MRI脳画像データ」とを同様に用いる。図3に示されるように、MRI脳画像データ50のマトリクスサイズとしては256×256(画素)が好適であるが、このマトリクスサイズに限定されるものではない。
【0035】
位置合わせ部(位置合わせ手段)23は、PET脳画像データ入力部21により入力された被験者のPET脳画像データ40を基準として、PET脳画像データ40とMRI脳画像データ入力部22により入力された同じ被験者のMRI脳画像データ50との位置合わせを行う。具体的には、まず、MRI脳画像データ50のマトリクスサイズ(256×256(画素))をPET脳画像データ40のマトリクスサイズ(128×128(画素))に合わせるリスライスを行う。一般的には、MRI脳画像データの方が解像度が良いため、MRI脳画像データを基準としてPET脳画像データをリスライスする。しかし、本発明のBP画像化プログラムでは計算時間短縮のためマトリクスサイズの小さいPET脳画像データ40を基準にMRI脳画像データ50をリスライスする。次に、PET脳画像データ40とマトリクスサイズがリスライスされたMRI脳画像データ50R(不図示)との位置合わせ(レジストレーション)を行う。図4は、位置合わせ部23により位置合わせが行われた結果のMRI脳画像データ60を例示する。
【0036】
レジストレーションとは同一の被験者の2組の異なる脳画像(ここでは、PET脳画像40とMRI脳画像50R)について対応する画素(ピクセル)を決めることをいう。レジストレーションには種々の方法があり、本願のように性質が異なる2画像(PET脳画像とMRI脳画像)の場合、例えばMRI画像の画素値によってセグメンテーション(脳画像の一部抽出)を行い、各セグメント毎に両画素値の比の分散を計算する方法がある。
【0037】
上記の方法では剛体変換を用いている。詳しくは、2つの脳画像を揃えるために、X方向の平行移動dx、Y方向の平行移動dy、Z方向の平行移動dzの3方向のベクトルに加えて、X軸の周りの回転dθx、Y軸の周りの回転dθy、Z軸の周りの回転dθという3つの回転成分を有する6つのパラメータを用いる。この6つのパラメータを用いてMRI脳画像50Rの回転/平行移動を行ない、この結果をPET脳画像40を用いて評価する。評価の結果、所定の収束条件を満たしているかどうか判定し、収束していると判定された場合はMRI脳画像データ60を得て、レジストレーションは終了する。一方、収束していると判定されなかった場合は6つのパラメータの更新を行なって、回転/平行移動から繰返す。
【0038】
上述の評価では所望の評価基準を用いて行なうことができる。ここでは、評価基準としてMI(Mutual Information:相互情報(量))を用いた場合について説明する。これは、MRI脳画像上のある画素値を持つすべての画素は同じ組織(partition)であり、それに対応するPET(又はSPECT)脳画像の画素は、ほぼ同じ画素値を持つであろうという考え方に依拠するものである。MRI脳画像とPET脳画像との間に何らかの共有情報(相互情報)があることを前提とする。両脳画像の位置ずれが起きると相互情報量は減少するため、相互情報量が最大になるようにレジストレーションを行うという手法である。以下、まず相互情報量について説明する。
【0039】
ある事象が起きる確率P(≦1.0)が与えられたとき、情報量(エントロピー)Hは以下の式1で定義される。
【0040】
【数1】

【0041】
式1で定義されるように、めったに起こらない事象の情報量は非常に大きい。事象の確率分布Pが与えられたとき、平均情報量H(P)は以下の式2で定義される。
【0042】
【数2】

【0043】
ここで、2つの事象A、Bを考える。事象AおよびBの結合事象p(A,B)が全体として持っている平均情報量H(A,B)は、以下の式3で定義される。
【0044】
【数3】

【0045】
平均情報量H(A,B)は事象AおよびBの結合エントロピーと言われる。事象A、Bの例としてはMRI脳画像とPET又はSPECT脳画像とが挙げられる。さて、相互情報量とは多少関係のある2つの事象又は情報源A(MRI脳画像)とB(PET脳画像)とにおいて、事象A(又は事象B)を知ったことにより得られる事象B(又は事象A)に関する情報量と定義される。図5は、相互情報量を説明するための概念図である。図5において、点aで示される矩形は事象Aの持っている平均情報量H(A)を示し、点bで示される矩形は事象Bの持っている平均情報量H(B)を示す。平均情報量H(A)とH(B)とが重なった点bで示される矩形は事象AとBとが共有する平均情報量であり、当該平均情報量を相互情報量I(A,B)と呼ぶ。つまり、相互情報量I(A,B)とは事象A(MRI脳画像)を知ることによって得られる事象B(PET脳画像)の平均情報量を意味する。
【0046】
図5において、点aで示される矩形は事象AおよびBの結合エントロピーH(A,B)を示す。点aで示される矩形は事象Bが起きたことを条件とする事象Aが持っている平均情報量(条件付きエントロピー)H(A|B)を示し、点aで示される矩形は事象Aが起きたことを条件とする事象Bが持っている平均情報量(条件付きエントロピー)H(B|A)を示す。条件付きエントロピーを用いると相互情報量I(A,B)は以下の式4で与えられる。
【0047】
【数4】

【0048】
ここで、条件付き確率と相互情報量について示す。事象Aが起きる確率をP(A)、事象Aが起きたことを条件として事象Bが起きる条件付き確率をP(B|A)とすると、事象AおよびBの結合事象P(A,B)は以下の式5で与えられ、式5を変形して条件付き確率P(B|A)は式6のように与えられる。
【0049】
【数5】

【0050】
同様にして、条件付き確率P(A|B)は以下の式7のように与えられ、条件付きエントロピーH(A|B)は以下の式8のように与えられる。相互情報量I(A,B)は式4(第1式)、式7および式8から、式9のように与えられる。
【0051】
【数6】

【0052】
以上説明した相互情報量を医用脳画像に適用する。医用脳画像の場合の平均情報量(エントロピー)は医用脳画像のヒストグラム(度数分布)を用いることにより定義することができる。図6は医用脳画像の平均情報量(エントロピー)を説明するための図である。図6に示されるようなMRI脳画像200のデータについて、ある信号強度のピクセルがいくつ存在するかを計算してグラフにすると、上記医用脳画像のヒストグラムを得ることができる。符号202は横軸を信号強度とし縦軸を出現頻度とするMRI脳画像200のヒストグラムである。ヒストグラム202において、信号強度がdからdまでの範囲(原図では青色で示す。)とdからdまでの範囲(原図では黄色で示す。)とをMRI脳画像上で表すと、青色で示される範囲はMRI脳画像204に表されるようにほぼ灰白質の領域に対応し、黄色で示される範囲はMRI脳画像206に表されるようにほぼ白質の領域に対応している。このように、医用脳画像のヒストグラムと脳の解剖学的構造とは強く関連している。
【0053】
MRI脳画像等の事象Aと、SPECT、PET脳画像等の事象Bとの結合事象P(A,B)のヒストグラムの場合は、2次元のヒストグラム(Joint Histogram :ジョイント・ヒストグラム)を考えればよい。図7は結合事象のヒストグラムを説明するための図である。図7で図6と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図7に示されるように、符号212は横軸をカウント(値)とし縦軸を出現頻度とするSPECT脳画像(事象B)のヒストグラムである。MRI脳画像200(事象A)とSPECT脳画像210(事象B)との結合事象P(A,B)の2次元のヒストグラムは、図7に示されるジョイント・ヒストグラム300で表される。ジョイント・ヒストグラム300で、横軸はMRI脳画像200のヒストグラム202における信号強度であり、縦軸はSPECT脳画像210のヒストグラム212におけるカウントである。ジョイント・ヒストグラム300における座標(Ai,Bj)の値は、信号強度Aiに対応するヒストグラム202の出現頻度とカウントBjに対応するヒストグラム212の出現頻度とから計算した値であり、当該値の大小は明るさの強弱で表している。但し、説明の都合上、両脳画像のヒストグラムにおける信号強度、カウントが0に近い部分はカットして表している。
【0054】
図8は、図7に示されるジョイント・ヒストグラム300を視点VP(図7参照)から見た場合の3次元ジョイント・ヒストグラム400を示す。図8下部の座標軸に示されるように、図7における明るさの強弱(出現頻度、カウントの大小)は3次元の垂直軸で表されており、信号強度軸は右側の原点0から左上側へ向かって大きくなり、カウント軸は右側の原点0から左下側へ向かって大きくなっている。図8に示されるように、白質、灰白質、脳脊髄液の領域が3次元ジョイント・ヒストグラム400では垂直軸方向のピークとして明瞭に示されており、3次元ジョイント・ヒストグラム400と脳の解剖学的構造とは強く関連していることがわかる。
【0055】
図9は、2次元ジョイント・ヒストグラムから相互情報量を計算する方法を説明するための図である。図9において、符号260は変形されるフローティング画像(SPECT脳画像。事象B)、270はフローティング画像260を合わせ込む対象となる(固定の)参照画像(SPECT脳画像。事象A)である。図9では明示されていないが、図7に示されるSPECT脳画像210のヒストグラム212のように、フローティング画像260および参照画像270は各々横軸をカウントとし縦軸を出現頻度とするヒストグラムを有している。続いて、図9において符号310はフローティング画像260(事象B)と参照画像270(事象A)との結合事象である2次元ジョイント・ヒストグラムG(A,B)であり、その横軸は参照画像270のカウントAであり、縦軸はフローティング画像260のカウントBである。図9に示されるように、フローティング画像260と参照画像270とがオーバーラップした部分、例えば、座標(x、y)の部分のみについてヒストグラム212のようなヒストグラムを各々作成する。つまり、フローティング画像260と参照画像270とがオーバーラップしなかった部分についての画像のカウントは、当該画像のヒストグラムにおいて出現頻度には取り入れない。あとは図7に示されるジョイント・ヒストグラム300の場合と同様に、ジョイント・ヒストグラム310における座標(A,B)の値G(A,B)は、カウントAに対応する参照画像270のヒストグラム(不図示)の出現頻度とカウントBに対応するフローティング画像260のヒストグラム(不図示)の出現頻度とから計算した値であり、当該値の大小は明るさの強弱で表している。
【0056】
図10は、2次元ジョイントヒストグラムG(A,B)(ヒストグラム310)から計算された参照画像270(事象A)とフローティング画像260(事象B)との結合確率分布p(A,B)を示す。図10に示されるように、結合確率分布p(A,B)の横軸は参照画像270のカウントAであり縦軸はフローティング画像のカウントBである。結合確率p(A,B)は、式10に示されるように2次元ジョイント・ヒストグラムG(A,B)を総和で規格化することにより求めることができる。
【0057】
【数7】

【0058】
図10に示されるように、結合確率p(A,B)を変数B方向に総和をとったものが周辺確率(marginal probability)p(A)であり(式11)、変数A方向に総和をとったものが周辺確率p(B)である(式12)。
【0059】
【数8】

【0060】
式11および12と結合確率p(A,B)とを用い式9を参照して、式13に示されるように相互情報量MIを計算することができる。式13で示される相互情報量MIは事象Aの出現頻度(確率分布)と事象Bの出現頻度(確率分布)との差を量る物差であり、Kullbac-Leiblerダイバージェンスと呼ばれている。式13で示される相互情報量MIが最大になるようにレジストレーションを行う。相互情報量MIの最大化は、2次元ジョイント・ヒストグラムG(A,B)のバラツキを少なくすること(広がりを小さくすること)になり、3次元ジョイント・ヒストグラム400のピークを高くすることになる。
【0061】
【数9】

【0062】
以上、評価関数としてMIを用いた場合について説明した。次に、その他の評価関数としてRIU(Ratio Image Uniformity)を用いた場合について説明する。これは、MRI脳画像上のある画素値を持つすべての画素は同じ組織(partition)であり、それに対応するPET脳画像の画素は、ほぼ同じ画素値を持つであろうという考え方に依拠するものである。すなわち、MRI脳画像の各組織に対応するPET脳画像(上述したセグメント)の画素値の均一性を最大にする、つまり標準偏差の重み付け平均を最小にするというものである。具体的には、MRI脳画像50R上で画素値jの画素に対応するPET脳画像40上の画素値をaijとする。次に、aijのすべての画素iについての平均aj’を求める。aijのすべての画素iについての標準偏差σjを求める。σj’=σj/aj’を求める。以下の式(14)で求められるσj’’を最小化する。
【0063】
σj’’= Σjσj’×nj/N (14)
【0064】
ここで、Σjは添字jについての和を意味する。njはMRI画像50R上での画素値jの画素数、N=Σjnjである。
【0065】
セグメンテーション部(分離手段)24は、位置合わせ部23により位置合わせされた被験者のMRI脳画像データ50から灰白質部分データと白質部分データとを分離する(セグメンテーション)。図11は、セグメンテーション部24による被験者のMRI脳画像データ60から灰白質部分データ55と白質部分データ56とを分離する例を示す。本発明のBP画像化プログラムの目的の一つは、最終的に灰白質領域におけるBPと白質領域におけるBPとを別々に求めることにある。そこで、予め、灰白質領域のみを抜き出した灰白質部分データ55と白質領域のみを抜き出した白質部分データ56とを用意しておき、後述するように各々灰白質マスク、白質マスクとして使用する。セグメンテーションは、フリーソフトウェアのSPM(statistical parametric mapping)2又は99を用いて実行することができる。SPM2等では被験者のMRI脳画像データ60をアフィン変換により標準脳のテンプレートに合わせ、その後、予め標準脳用に切り出された灰白質、白質のテンプレートを逆変換して、被験者の灰白質部分データ55、白質部分データ56を切り出すとされている。
【0066】
上述したセグメンテーション部24により分離された灰白質部分データ55及び白質部分データ56を、そのまま各々灰白質マスク、白質マスクとして使用することも可能であるが、ノイズが残ることがあるため、細線・膨張処理部(ノイズ除去手段)25を設けてある。細線・膨張処理部25は、セグメンテーション部24により分離された灰白質部分データ55及び/又は白質部分データ56に対し、所定のノイズ除去処理を行う。本明細書及び特許請求の範囲において「及び/又は」とは、例えば灰白質部分データ55及び/又は白質部分データ56を例にとると、灰白質部分データ55のみ、白質部分データ56のみ、灰白質部分データ55と白質部分データ56との両方、を意味する。
【0067】
上記所定のノイズ除去処理としては膨張及び細線処理が好適である。細線・膨張処理部25では、Mathematical Morphology(モルフォロジー又はモフォロジー)で定義されるdilation(拡張、ずらし重ね、膨張)及びerosion(浸食、掻き取り、細線)に相当する演算を用いて、膨張後に細線化、又は細線化後に膨張する処理を行う。集合A、Bについてのdilation、erosionは以下の式15、16で定義される。細線・膨張処理部25における膨張後に細線化する処理は式17で示される集合Aの集合B(構造要素)によるclosing演算(A)に相当し、細線化後に膨張する処理は式18で示される集合Aの集合B(構造要素)によるopening演算(A)に相当する。
【0068】
【数10】

【0069】
具体的には、灰白質部分データ55、白質部分データ56を各々処理対象の画像(集合A)として、集合Aの構造要素Bによるopening演算(A)又はclosing演算(A)を行う。構造要素Bとしては所望のサイズのものを用いればよい。図12は、細線・膨張処理部25による細線・膨張処理(closing演算)を例示する。図12(A)は細線・膨張処理前の灰白質部分データ55を示し、図12(B)は灰白質部分データ55に膨張処理を行った結果の灰白質部分データ55+を示し、図12(C)は灰白質部分データ55+に細線処理を行った結果の灰白質部分データ55−を示す。細線・膨張処理部25は灰白質部分データ55と白質部分データ56とに対し、上述した細線・膨張処理(opening演算(A)、closing演算(A))を任意の順に任意回数行うことができる。あるいは、細線・膨張処理部25はopening演算(A)、closing演算(A)によらず、dilation、erosion処理を任意の順に任意の回数行うこともできる。
【0070】
図13は、細線・膨張処理部25による処理状態を例示する画面70である。画面70を始め、以下に示す画面はコンピュータ10のディスプレイに表示される。まず最初に画面70に示されるerosionボタン72aをマウス等でクリックすると、左上枠内に表示された処理前のMRI脳画像に対して上述したerosion処理が行われ、その処理結果であるMRI脳画像が左下枠内に表示される。次に、画面70に示されるdilatation(dilationと同義。以下同様)ボタン73aをクリックすると、左下枠内に表示された先ほどのerosion処理結果であるMRI脳画像に対して上述したdilation処理が行われ、その処理結果であるMRI脳画像が同じ左下枠内に表示される。resetボタン71aを1回クリックすると、左下枠内にはerosion処理もdilation処理も行っていない元々の処理前のMRI脳画像が表示される。以上のように、左上枠内に表示された処理前のMRI脳画像に対してdilation、erosion処理を任意の順に任意の回数行うことができる。Resetボタン71b、erosionボタン72b、dilatationボタン73bも中央上下枠内に表示されたMRI脳画像に対して同様に用いられるため、説明は省略する。
【0071】
画面70に例示されているMRI脳画像は以下の通りである。左上枠内は細線・膨張処理前の灰白質部分データ55を示し、左下枠内は細線・膨張処理(closing演算)後の灰白質部分データ55−を示す。灰白質部分データ55−を灰白質マスクとして用いることができる。同様に、中央上枠内は細線・膨張処理前の白質部分データ56を示し、中央下枠内は細線・膨張処理(closing演算)後の白質部分データ56−を示す。白質部分データ56−を白質マスクとして用いることができる。画面70において、右下枠内は灰白質マスク(灰白質部分データ55−)と白質マスク(白質部分データ56−)とを合わせた全脳マスク51を示す。画面70の右上枠内はPET脳画像41であり、リファレンス(後述)として表示してある。
【0072】
リファレンスROI設定部(関心領域設定手段)26は、位置合わせ部23により位置合わせされたMRI脳画像データに対して、上述した所定の放射能薬剤が存在しないとみなし得る参照領域(reference region : リファレンス領域)に関心領域(Region of
Interest : ROI)を設定し、当該ROIをPET脳画像データ入力部21により入力された被験者のPET脳画像データに設定する。所定の放射能薬剤は標的となる受容体に特異的に結合するものが選ばれるため、リファレンス領域は当該受容体が存在しない領域とも考えられる。リファレンスROI設定部26の機能はBPの計算のために必要であり、詳細は後述する。図14は、リファレンスROI設定部26の処理状況を例示する画面80である。画面80内の左画像がPET脳画像データ入力部21により入力された被験者のPET脳画像データ42であり、右画像が位置合わせ部23によりPET脳画像データ42に位置合わせされたMRI脳画像データ61である。画面80内で、符号81はMRI脳画像データ側の種々のオプションを設定可能なMRIオプション枠、82はMRI脳画像データが位置合わせ済みか否かを選択可能なレジストレーションボックス、85はROIに対する種々のオプションを設定可能なROI枠、86はROIの形状として多角形を選択可能な多角形ROIボックスである。
【0073】
リファレンスROI設定部26は、画面80内の右枠内に示されるMRI脳画像データ61に対して、リファレンス領域MRef(点線で示す。)内にROI(ROI61)を設定する。具体的にはユーザにカーソル等を用いて所望の形状のROIを画面80内に描かせて入力させ、この入力したROIの座標に基づきROI61を設定する。図14では、ROI61はやや変形した鉄アレイ状に設定されている。この設定が完了すると、リファレンスROI設定部26は、画面80内の左枠内に示されるPET脳画像データ42に対して、リファレンス領域MRefに対応するリファレンス領域PRef内にROI61をコピーする。この結果、PET脳画像データ42上にROI61を設定することができる。上述したように、MRI脳画像データ61は位置合わせ部23によりPET脳画像データ42と位置合わせされているため、両脳画像データは同じ座標になっている。これにより、解剖学的情報が豊富なMRI画像データ61に対して正確にROI61を設定してから、ROI61をPET脳画像データ42へコピーすることによってPET脳画像データ42上にROI61を設定している。このため、PET脳画像データ42上でもROI61を正確に設定することができる。
【0074】
楕円ROI設定部(所定形状関心領域設定手段)27は、PET脳画像データ入力部21により入力された被験者のPET脳画像データに所定の形状のROIを設定する。本発明のBP画像化プログラムでは、後述するように一画素毎にBPを計算している。この際、PET脳画像上の全画素を対象としてBPを計算すると、実際には脳画像データが存在しない領域等のように無駄な領域についてもBPを計算することになり、処理時間が長くなる。そこで、無駄な領域についてBPを計算しないようにするためPET脳画像上に所定の形状のROI(マスク)を設定し、当該所定の形状の外側をカットして内側だけをBPの計算の対象としている。所定の形状としては楕円の形状(楕円マスク)が好適である。
【0075】
図15は、楕円ROI設定部27の処理状況を例示する画面90である。図15で図14と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。画面90内の左画像がPET脳画像データ入力部21により入力された被験者のPET脳画像データ43であり、右画像が位置合わせ部23によりPET脳画像データ43に位置合わせされたMRI脳画像データ62である。画面90内で、符号83は上述した灰白質マスク等に関する種々のオプションを設定可能なマスクオプション枠、84は灰白質マスク等が位置合わせ済みか否かを選択可能なレジストレーションボックス、87はROIの形状として楕円を選択可能な楕円ROIボックスである。
【0076】
楕円ROI設定部27は、画面90内の右枠内に示されるMRI脳画像データ61に対して、楕円の形状のROI62を設定する。具体的にはユーザにカーソル等を用いて楕円形状のROIを画面90内に描かせて入力させ、この入力させたROIの座標に基づきROI62を設定する。図9では、ROI62は丁度脳画像全体が入るような楕円形状に設定されている。この設定が完了すると、楕円ROI設定部27は、画面90内の左枠内に示されるPET脳画像データ43に対して、楕円形状のROI62をコピーする。この結果、PET脳画像データ43上に楕円形状のROI62(楕円マスク)を設定することができる。上述したように、MRI脳画像データ62は位置合わせ部23によりPET脳画像データ43と位置合わせされているため、両脳画像データは同じ座標になっている。これにより、解剖学的情報が豊富なMRI画像データ63に対して正確に楕円形状のROI62を設定してから、楕円形状のROI62をPET脳画像データ43へコピーすることによってPET脳画像データ43上に楕円形状のROI62を設定している。このため、PET脳画像データ43上でも楕円形状のROI62を正確に設定することができる。
【0077】
上述したリファレンスROI設定部26によるリファレンス領域PRef内へのROI61の設定の場合、ROI61はユーザのフリーハンドによる自由な形状を有していた。しかし、楕円ROI設定部27の場合におけるユーザによる楕円形状の入力はフリーハンドではなく、従来技術を用いた自動的な楕円形状作成機能により入力させることができる。加えて、楕円形状のROI62は丁度脳画像全体が入るように作成すればよいため、必ずしも画面90の右枠内に示されるMRI脳画像データ61ではなく、左枠内に示されるPET脳画像43に対して直接、楕円の形状のROI62を設定してもよい。この場合、楕円ROI設定部27はPET脳画像43上に設定された楕円形状のROI62をMRI脳画像62上へコピーすることによって、MRI脳画像データ62上に楕円形状のROI62を設定することができる。
【0078】
放射能カウント値入力部(放射能カウント値入力手段)28は、リファレンスROI設定部26により設定されたPET脳画像データのリファレンス領域におけるROIについて、一画素毎に時間−放射能カウント値を入力する。放射能カウント値入力部28の機能はBPの計算のために必要であり、詳細は後述する。図16は、放射能カウント値入力部28の処理状況を示す画面100である。図16で図14、15と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。画面100内で、符号101はある特定の一画素について入力された時間−放射能カウント値を対にした表であり、上から下へ時間の経過による放射能カウント値が示されている。符号102は表101に対応するグラフであり、横軸を時間、縦軸を放射能カウント値として時間−放射能カウント値曲線TAC(Time Activity Curve)が示されている。
【0079】
図16に示されるように、放射能カウント値入力部28はリファレンスROI設定部26により設定されたPET脳画像データ42のリファレンス領域PRefにおけるROI61について、一画素毎に時間−放射能カウント値を入力する。放射能カウント値入力部28は、特定の一画素について表101の表示とグラフ102内における時間−放射能カウント値曲線TACの表示とを行うことができる。ここで、一画素の特定(選択)はPET脳画像42上のROI61又はMRI脳画像61上のROI61において、ユーザがカーソルをあてることにより行うことができる。あるいは画素の番号又は座標をユーザにより指定することにとっても一画素の特定(選択)を行うことができる。TAC曲線は一画素毎の曲線であるためノイズの影響を受けやすい。そこで、放射能カウント値入力部28はユーザに画面100内の符号103で示されるSボタンをクリックさせることによりスムージングを行って、TAC曲線を平滑化することができる。符号104で示されるRボタンはスムージングを元に戻すリセットを行う。
【0080】
以上のようにして得られたリファレンス領域PRefにおけるROI61内の一画素毎の時間−放射能カウント値から、リファレンス領域PRefにおけるROI61での所定の放射性薬剤の挙動がわかる。この挙動に対して他の領域の画素がどのような挙動を示しているかを計算することにより、BPを求めることができる。即ち、リファレンス領域PRefにおける放射能カウント値を基準として、他の領域にどれ位放射性薬剤が取込まれたかを知ることができる。BP算出部(受容体結合能算出手段)29は、楕円ROI設定部27により設定された楕円形状のROI62におけるPET脳画像データ43と、放射能カウント値入力部28により入力されたリファレンス領域PRefのROI61における時間−放射能カウント値とを用いて、放射能薬剤の動態を表す数学的モデルである参照領域法に基づき、楕円形状のROI62におけるPET脳画像データ43の一画素毎にBPを算出する。BP算出部29は、楕円ROI設定部27により設定されたPET脳画像データ43上のROI62(楕円マスク)の外側をカットして、内側だけをBPの計算の対象としている。言い換えれば、BP算出部29はPET脳画像データ43に楕円マスクをかけて、当該楕円マスク内のみのPET脳画像データを計算の対象としている。このため、全PET脳画像データ43を計算の対象とするより無駄が少なく速い速度で計算することができる。本発明のBP画像化プログラムでは、参照領域法として非線形最小二乗フィッティング(non-linear least square fitting)の一つであるSRTM法(Lammertsma A.A., Hume S.P., Simplified reference tissue model for PET receptor studies.
NeuroImage 4:153-158, 1996参照)と、グラフ解析法の一つである非侵襲性Logan法(Logan, J., Fowler, J.S., Volkow, N.D., et al. Distribution Volume Ratios Without Blood Sampling from Graphical Analysis of PET Data. Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolism, 16, 834-840, 1996.参照)とを用いた。以下、各法について概要を説明する。
【0081】
SRTM法.
図17は、SRTM法を説明するためのコンパートメントモデルを示す。図17(A)は対象領域(Target region)を示す3コンパートメントモデルである。図17(A)で符号110は血漿(Plasma)、111は組織(Tissue)、112は組織111中で放射性薬剤が遊離している遊離領域(Non-displaceable area)、113は組織111中で放射性薬剤が結合している受容体(Receptor sites又はReceptor rich region)であり、血漿110と組織111との間が血脳関門(Blood-Brain Barrier。不図示)である。図17(A)に示されるように、時間tにおける血漿110の放射能濃度をCp(t)、遊離領域112の放射能濃度をCf(t)、受容体113の放射能濃度をCb(t)とする。各部分間における放射性薬剤の移動量を規定する速度定数を、血漿110から遊離領域112へはK(毛細血管からの拡散によるもので、単位は[ml/min/cm])、遊離領域112から受容体113へはk(結合によるもので、単位は[1/min])、受容体113から遊離領域112へはk(乖離によるもので、単位は{1/min})、遊離領域112から血漿110へはk(静脈へのクリアランスによるもので、単位は[1/min])とする。図17(B)は参照領域(Reference region)を示す2コンパートメントモデルである。図17(B)で図11(A)と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図17(B)で符号114は組織、115は放射性薬剤が存在しないとみなすことができる参照領域である。図17(B)に示されるように、放射性薬剤の移行定数は血漿110から参照領域115へはK’、参照領域115から血漿110へはK’である。図17(A)、(B)の各コンパートメントモデルにおいて、以下の式19〜21成り立つ(東北大学サイクロトロン核医学研究部ホームページ参照)。
【0082】
【数11】

【0083】
ここで、簡略化のために対象領域と参照領域とにおける放射性薬剤の分布容積(Volumes of Distribution : DV)は等しいという仮定を置く。分布容積とは、人体に投与した薬剤がどの程度組織に移行したかを示す指標であり、体内薬物量(投与量)を平衡状態に達したときの血漿の薬物濃度で除することにより算出できる(非特許文献1参照)。対象領域と参照領域とにおいて、血漿110と組織111、114側との間の移行定数に以下の式22で示される線形の関係を仮定する。式22を変形すると式23となる。
【0084】
【数12】

【0085】
受容体113と結合した放射性薬剤の挙動が結合前とあまり変わらないとき、対象領域は図17(C)のような2コンパートメントモデルで示すことができる。図17(C)で図17(A)と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図17(C)で符号116は遊離領域112と受容体113とを合わせた対象部位、k2aは対象部位116から血漿110へのみかけの速度定数である。図17(C)に示される対象領域では以下の式24が成り立つ。
【0086】
【数13】

【0087】
図17(C)に示される対象領域における分布容積DVを考えると、上述した分布容積の定義から対象領域は平衡状態に達しているため、式24においてdC(t)/dt=0となり、式20においてdC(t)/dt=0となり、式21においてdC(t)/dt=0となる。以上とC(t)=C(t)+C(t)であることから、以下の式25を得ることができる。式26に示されるように、BPは移行定数kとkとの比で表される。SRTM法では一切採血は行わないため、非侵襲的な利点がある。
【0088】
【数14】

【0089】
式19、24をLaplace変換と式25とを用いて解くと、式27が得られる。
【0090】
【数15】

【0091】
式27で、λは壊変定数(崩壊定数)であり、減衰補正(decay correction)を行った場合は不要である。本発明のBP画像化プログラムでは式27において、λ=0とした式28を用いた。本発明のBP画像化プログラムは式28において、C(t)は上述した放射能カウント値入力部28により求めた一画素毎の時間−放射能カウント値を用い、C(t)はPET脳画像データ入力部21により入力したPET脳画像データ(放射能カウント値)を用いて、R(式23参照)、k及びBPの値を変化させながら式28の両辺が等しくなるようなR、k及びBPの値を求めた。この時のBPの値が求めたいBPの値である。
【0092】
非侵襲性Logan法.
本方法は一般的にはLogan plot法と呼ばれており、採血法と非採血法とがある。本明細書では非採血法を採用したため、以下では非侵襲性Logan法と表記する。上述した対象領域における分布容積DV(式25)を式26の関係を用いて変形すると、以下の式25’のようになる。参照領域におけるDVは式29のようになり、両者の比DVRは式30のように表すことができる(早稲田大学Dspace参照)。
(http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/356/9/Honbun-05_chapter5.pdf)。
【0093】
【数16】

【0094】
ここで、以下の式31のようにDVRを定義すると、
【0095】
【数17】

【0096】
式30のk/kは式32のようになる。
【0097】
【数18】

【0098】
ここで、対象領域のK/kと参照領域のK’/k’とが等しい場合、DVR=1となるため、式32は式33のように表すことができる。
【0099】
【数19】

【0100】
式33のDVRはLoganらによって提唱されたグラフ法(または上述したようにLogan plot法)によれば、式34において左辺を変数Y、右辺第1項のDVRを除く項を変数Xとしたグラフ(回帰直線)の傾きから推定することができる。
【0101】
【数20】

【0102】
本発明のBP画像化プログラムでは、時間の経過により式34の第2項におけるC(t)とC(T)とが平衡になったものとみなして、第2項を第3項の定数項intに入れてint’とした式35を用いた。
【0103】
【数21】

【0104】
式35において、左辺を変数Y、右辺の分数を変数Xとすると式36が得られる。式36において、Yは上述したPET脳画像データ入力部21により入力された値を用いてい一画素毎に計算し、XはPET脳画像データ入力部21により入力された値と上述した放射能カウント値入力部28により入力された値とを用いて一画素毎に計算してグラフを作成した。当該グラフの傾きは式36よりDVRとなる。このDVRを用いて式33よりBPを一画素毎に求めた。
【0105】
以上のようにして、PET脳画像の一画素毎に時間−放射能カウント値を求め、一画素毎にBPを求めている。このため、楕円ROI設定部27により設定されたPET脳画像データ43上のROI62(楕円マスク)中に正常な領域と異常な領域とが混在している場合であっても、両者の挙動を区別することができる。上述したBP算出部29は、SRTM法又は非侵襲性Logan法のいずれかだけを用いてBPを算出することができ、両方を用いてBPを算出することもできる。
【0106】
BP画像表示部(受容体結合能表示手段)30は、BP算出部29により算出された一画素毎のBPとセグメンテーション部24により分離された灰白質部分データ55及び/又は白質部分データ56とに基づき、灰白質部分及び/又は白質部分のデータのBPを所定の表示形式で表示する。上述したように、PET脳画像データ43に楕円マスクがかけられた楕円ROI62の領域についてBP算出部29により一画素毎にBPが求められ、画素全体から成るBP脳画像データが求められる。この画素全体から成るBP脳画像データに対して灰白質部分データ55をマスクとして用いることにより、灰白質部分だけのBP脳画像データを得ることができ、当該灰白質部分だけのBP脳画像データを表示することにより、当該灰白質部分だけのBP脳画像を得ることができる。白質部分についても同様に、画素全体から成るBP脳画像データに対して白質部分データ56をマスクとして用いることにより、白質部分だけのBP脳画像データを得ることができ、当該白質部分だけのBP脳画像データを表示することにより、当該白質部分だけのBP脳画像を得ることができる。以上のように、本発明のBP画像化プログラムでは灰白質と白質とに分けて、各々につきBPを求めている。このため、病態に応じた正確なBPを算出することができる。灰白質部分データ55と白質部分データ56とを合わせた全脳マスク51を用いて全脳のBP脳画像を表示できることは勿論である。
【0107】
細線・膨張処理部25によるノイズ除去処理を行った場合、BP画像表示部30は、BP算出部29により算出された一画素毎のBPとセグメンテーション部24により分離され且つ細線膨張処理部25により処理された灰白質部分データ55−及び/又は白質部分データ56−とに基づき、灰白質部分及び/又は白質部分のデータのBPを所定の表示形式で表示する。上述したように、PET脳画像データ43に楕円マスクがかけられた楕円ROI62の領域についてBP算出部29により一画素毎にBPが求められ、画素全体から成るBP脳画像データが求められる。この画素全体から成るBP脳画像データに対して灰白質部分データ55−をマスクとして用いることにより、ノイズが除去された灰白質部分だけのBP脳画像データを得ることができ、当該灰白質部分だけのBP脳画像データを表示することにより、当該灰白質部分だけのBP脳画像を得ることができる。白質部分についても同様に、画素全体から成るBP脳画像データに対して白質部分データ56−をマスクとして用いることにより、ノイズが除去された白質部分だけのBP脳画像データを得ることができ、当該白質部分だけのBP脳画像データを表示することにより、当該白質部分だけのBP脳画像を得ることができる。
【0108】
図18は、被験者に対し放射性薬剤として[11C]PE2Iが使用された場合におけるBP画像表示部30により表示された画面120a〜120dを示す。図18において、符号44はPET脳画像、121はPET脳画像44に対応するBP画像、122は上述したように式15の両辺が等しくなった時のR(式10参照)の画像、123は上述したように式15の両辺が等しくなった時のkの画像である。画面120bに示されるように、(原図では)BP画像121では放射性薬剤を取り込みやすい領域(BPが大きい値の領域)を赤色で表示し、取込みにくい領域(BPが小さい値の領域)を青色で表示し、それらの中間の領域は赤色から青色への中間の色で表示している(所定の表示形式)。BP画像121に示されるように、[11C]PE2Iは脳の一部に取り込まれやすいということが一見して理解できる。画面120cに示されるように、(原図では)Rの値が大きい領域を赤色で表示し、小さい領域を青色で表示し、それらの中間の領域は赤色から青色への中間の色で表示している。画面120dに示されるように、(原図では)kの値が大きい領域を赤色で表示し、小さい領域を青色で表示し、それらの中間の領域は赤色から青色への中間の色で表示している。以上の表示形式は一例であって、他の表示形式を用いてもよいことは勿論である。
【0109】
図19は、被験者に対し放射性薬剤として[18F]flumazenilが使用された場合におけるBP画像表示部30により表示された画面130a〜130dを示す。図19において、符号45はPET脳画像、131はPET脳画像45に対応するBP画像、132は上述したように式15の両辺が等しくなった時のR(式10参照)の画像、133は上述したように式15の両辺が等しくなった時のkの画像である。BP画像131の表示形式は図12のBP画像121の場合と同様であるため、説明は省略する。BP画像131に示されるように、[18F]flumazenilは脳の広い部分に取り込まれやすいということが一見して理解できる。画面130cに示されるR画像132の表示形式、画面130dに示されるk画像133の表示形式は、各々図12のR画像122、k画像123の場合と同様であるため、説明は省略する。
【0110】
図20は、BP画像表示部30により表示された画面140を示す。画面140に示されるように、BP画像表示部30はBPの大小を特定の色(原図の画面140では赤色)の濃淡を用いて表示することもできる(所定の表示形式)。特定の色は赤色に限定されるものではなく、他の色であってもよいことは勿論である。さらに、画面140に示されるように、脳の横断面のBP画像を頭頂部から頸部へかけて並べて表示することもできる。図20では脳の横断面のBP画像を示したが、冠状断面、矢状断面についても同様に表示することができる。以上のように、本発明のBP画像化プログラムでは求めたBPを画像として表示しているため、脳内全体の領域におけるBPの評価を短期間で容易に行うことができる。
【0111】
図21は、本発明の実施例1等における、コンピュータがPET脳画像データからBPの画像化を実行するBP画像化プログラム等の処理の流れをフローチャートで示す。図21に示されるように、まず、受容体に選択的に結合する所定の放射性薬剤を用いて撮像された被験者のPET脳画像データ40を入力する(ステップS10。PET脳画像データ入力ステップ)。次に、同じ被験者のMRI脳画像データ50を入力する(ステップS12。MRI脳画像データ入力ステップ)。これらのPET脳画像データ入力ステップ(ステップS10)とMRI脳画像データ入力ステップ(ステップS12)とは逆の順に実行しても差し支えない。
【0112】
PET脳画像データ入力ステップ(ステップS10)で入力された被験者のPET脳画像データ40を基準として、PET脳画像データ40とMRI脳画像データ入力ステップ(ステップS12)で入力された同じ被験者のMRI脳画像データ50との位置合わせを行う(ステップS14。位置合わせステップ)。位置合わせステップ(ステップS14)で位置合わせされた被験者のMRI脳画像データ60から灰白質部分データ55と白質部分データ56とを分離する(ステップS16。分離ステップ又はセグメンテーションステップ)。
【0113】
分離ステップ(ステップS16)で分離された灰白質部分データ55及び白質部分データ56を、そのまま各々灰白質マスク、白質マスクとして使用することも可能であるが、ノイズが残ることがある。このため、ノイズ除去が必要か否かユーザに選択させ(ステップS18)、必要な場合はノイズ除去を行う。分離ステップ(ステップS16)で分離された灰白質部分データ55及び/又は白質部分データ56に対し所定のノイズ除去処理を行う(ステップS20。ノイズ除去ステップ)。ノイズ除去ステップ(ステップS20)は、分離ステップ(ステップS16)で分離された灰白質部分データ55及び/又は白質部分データ56に対し膨張及び細線処理を施すことにより、ノイズ除去処を行うことが好適である。ノイズ除去ステップ(ステップS20)は分離ステップ(ステップS16)の後で且つ後述するBP画像表示ステップ(ステップS30)の前に実行してもよい。ステップS18でノイズ除去が選択されなかった場合、次のステップ22へ進む。
【0114】
位置合わせステップ(ステップS14)で位置合わせされたMRI脳画像データ61等に対して所定の放射能薬剤が存在しないとみなし得る参照領域にROI61等を設定し、当該ROI61等をPET脳画像データ入力ステップ(ステップS10)で入力された被験者のPET脳画像データ42等に設定する(ステップS22。関心領域設定ステップ)。 PET脳画像データ入力ステップ(ステップS10)で入力された被験者のPET脳画像データ43等に所定の形状の関心領域を設定する(ステップS24。所定形状関心領域設定ステップ)。所定の形状は楕円であることが好適である。所定形状関心領域設定ステップ(ステップS24)は、PET脳画像データ入力ステップ(ステップS10)後であれば先行する各ステップ(ステップS12、14等)の前でも実行可能である。
【0115】
関心領域設定ステップ(ステップS22)で設定されたPET脳画像データ42等の参照領域におけるROI61等について、一画素毎に時間−放射能カウント値を入力する(ステップS26。放射能カウント値入力ステップ)。所定形状関心領域設定ステップ(ステップS24)で設定された所定の形状(楕円形状)のROI62等におけるPET脳画像データ43等と、放射能カウント値入力ステップ(ステップS26)で入力された参照領域のROI61等における時間−放射能カウント値とを用いて、放射能薬剤の動態を表す数学的モデルである参照領域法に基づき、所定の形状(楕円形状)のROI62等におけるPET脳画像データ43等の一画素毎にBPを算出する(ステップS28。受容体結合能算出ステップ又はBP算出ステップ)。参照領域法としてはSRTM法及び/又は非侵襲性Logan法が好適である。受容体結合能算出ステップ(ステップS28)で算出された一画素毎のBPと分離ステップ(ステップS16)で分離された灰白質部分データ55及び/又は白質部分データ56とに基づき、灰白質部分及び/又は白質部分のBPを所定の表示形式で表示する(ステップS30。受容体結合能表示ステップ又はBP画像表示ステップ)。受容体結合能表示ステップ(ステップS30)において、灰白質部分データ55と白質部分データ56とを合わせた全脳マスク51を用いて全脳のBP脳画像を表示できることは勿論である。
【0116】
ステップ18でノイズ除去が選択された場合、受容体結合能表示ステップ(ステップS30)は、受容体結合能算出ステップ(ステップS28)で算出された一画素毎のBPと分離ステップ(ステップS16)で分離されノイズ除去ステップ(ステップS20)で所定のノイズ除去処理が行われた灰白質部分データ55−及び/又は白質部分データ56−とに基づき、灰白質部分及び/又は白質部分のBPを所定の表示形式で表示する。
【0117】
以上より、本発明の実施例1によれば、PET脳画像データ入力部21は、受容体に選択的に結合する所定の放射性薬剤を用いて撮像された被験者のPET脳画像データ(放射能カウント値)を入力する。MRI脳画像データ入力部22は、上記被験者のMRI脳画像データを入力する。位置合わせ部23は、PET脳画像データ入力部21により入力された被験者のPET脳画像データ40を基準として、PET脳画像データ40とMRI脳画像データ入力部22により入力された同じ被験者のMRI脳画像データ50との位置合わせを行う。具体的には、まず、MRI脳画像データ50のマトリクスサイズ(256×256(画素))をPET脳画像データ40のマトリクスサイズ(128×128(画素))に合わせるリスライスを行う。本発明のBP画像化プログラムでは計算時間短縮のためマトリクスサイズの小さいPET脳画像データ40を基準にMRI脳画像データ50をリスライスする。次に、PET脳画像データ40とマトリクスサイズがリスライスされたMRI脳画像データ50R(不図示)との位置合わせ(レジストレーション)を行う。セグメンテーション部24は、位置合わせ部23により位置合わせされた被験者のMRI脳画像データ50から灰白質部分データと白質部分データとを分離する(セグメンテーション)。本発明のBP画像化プログラムの目的の一つは、最終的に灰白質領域におけるBPと白質領域におけるBPとを別々に求めることにある。そこで、予め、灰白質領域のみを抜き出した灰白質部分データ55と白質領域のみを抜き出した白質部分データ56とを用意しておき、各々灰白質マスク、白質マスクとして使用する。セグメンテーション部24により分離された灰白質部分データ55及び白質部分データ56を、そのまま各々灰白質マスク、白質マスクとして使用することも可能であるが、ノイズが残ることがあるため、細線・膨張処理部25を設けてある。細線・膨張処理部25は、セグメンテーション部24により分離された灰白質部分データ55及び/又は白質部分データ56に対し、所定のノイズ除去処理を行う。所定のノイズ除去処理としては膨張及び細線処理が好適である。リファレンスROI設定部26は、位置合わせ部23により位置合わせされたMRI脳画像データに対して、リファレンス領域にROIを設定し、当該ROIをPET脳画像データ入力部21により入力された被験者のPET脳画像データに設定する。上述したように、MRI脳画像データ61は位置合わせ部23によりPET脳画像データ42と位置合わせされているため、両脳画像データは同じ座標になっている。これにより、解剖学的情報が豊富なMRI画像データ61に対して正確にROI61を設定してから、ROI61をPET脳画像データ42へコピーすることによってPET脳画像データ42上にROI61を設定している。このため、PET脳画像データ42上でもROI61を正確に設定することができる。楕円ROI設定部27は、PET脳画像データ入力部21により入力された被験者のPET脳画像データに所定の形状のROIを設定する。本発明のBP画像化プログラムでは、一画素毎にBPを計算している。この際、PET脳画像上の全画素を対象としてBPを計算すると、実際には脳画像データが存在しない領域等のように無駄な領域についてもBPを計算することになり、処理時間が長くなる。そこで、無駄な領域についてBPを計算しないようにするためPET脳画像上に所定の形状のROI(マスク)を設定し、当該所定の形状の外側をカットして内側だけをBPの計算の対象としている。所定の形状としては楕円の形状(楕円マスク)が好適である。放射能カウント値入力部28は、リファレンスROI設定部26により設定されたPET脳画像データのリファレンス領域におけるROIについて、一画素毎に時間−放射能カウント値を入力する。
【0118】
以上のようにして得られたリファレンス領域PRefにおけるROI61内の一画素毎の時間−放射能カウント値から、リファレンス領域PRefにおけるROI61での所定の放射性薬剤の挙動がわかる。この挙動に対して他の領域の画素がどのような挙動を示しているかを計算することにより、BPを求めることができる。即ち、リファレンス領域PRefにおける放射能カウント値を基準として、他の領域にどれ位放射性薬剤が取込まれたかを知ることができる。BP算出部29は、楕円ROI設定部27により設定された楕円形状のROI62におけるPET脳画像データ43と、放射能カウント値入力部28により入力されたリファレンス領域PRefのROI61における時間−放射能カウント値とを用いて、放射能薬剤の動態を表す数学的モデルである参照領域法に基づき、楕円形状のROI62におけるPET脳画像データ43の一画素毎にBPを算出する。BP算出部29はPET脳画像データ43に楕円マスクをかけて、当該楕円マスク内のみのPET脳画像データを計算の対象としている。このため、全PET脳画像データ43を計算の対象とするより無駄が少なく速い速度で計算することができる。本発明のBP画像化プログラムでは、参照領域法として非線形最小二乗フィッティングの一つであるSRTM法と、グラフ解析法の一つである非侵襲性Logan法とを用いた。以上のようにして、PET脳画像の一画素毎に時間−放射能カウント値を求め、一画素毎にBPを求めている。このため、楕円ROI設定部27により設定されたPET脳画像データ43上のROI62(楕円マスク)中に正常な領域と異常な領域とが混在している場合であっても、両者の挙動を区別することができる。BP画像表示部30は、BP算出部29により算出された一画素毎のBPとセグメンテーション部24により分離された灰白質部分データ55及び/又は白質部分データ56とに基づき、灰白質部分及び/又は白質部分のデータのBPを所定の表示形式で表示する。上述したように、PET脳画像データ43に楕円マスクがかけられた楕円ROI62の領域についてBP算出部29により一画素毎にBPが求められ、画素全体から成るBP脳画像データが求められる。この画素全体から成るBP脳画像データに対して灰白質部分データ55をマスクとして用いることにより、灰白質部分だけのBP脳画像データを得ることができ、当該灰白質部分だけのBP脳画像データを表示することにより、当該灰白質部分だけのBP脳画像を得ることができる。白質部分についても同様に、画素全体から成るBP脳画像データに対して白質部分データ56をマスクとして用いることにより、白質部分だけのBP脳画像データを得ることができ、当該白質部分だけのBP脳画像データを表示することにより、当該白質部分だけのBP脳画像を得ることができる。以上のように、本発明のBP画像化プログラムでは灰白質と白質とに分けて、各々につきBPを求めている。このため、病態に応じた正確なBPを算出することができる。細線・膨張処理部25による処理を行った場合、BP画像表示部30は、BP算出部29により算出された一画素毎のBPとセグメンテーション部24により分離され且つ細線膨張処理部25により処理された灰白質部分データ55−及び/又は白質部分データ56−とに基づき、灰白質部分及び/又は白質部分のデータのBPを所定の表示形式で表示する。本発明のBP画像化プログラムでは求めたBPを画像として表示しているため、脳内全体の領域におけるBPの評価を短期間で容易に行うことができる。
【0119】
本発明の実施例1では、MRI脳画像とPET脳画像とを位置合わせして両脳画像を同じ座標にしている。これにより、解剖学的情報が豊富なMRI画像に対して解剖学的領域を設定してから、当該解剖学的領域をPET脳画像へ設定している。このため、PET脳画像上でも解剖学的領域を正確に特定することができる。PET脳画像の一画素毎に時間−放射能カウント値を求め、一画素毎にBPを求めている。このため、設定した(楕円形状の)ROI中に正常な領域と異常な領域とが混在していた場合であっても、正常な放射能カウント値と異常な放射能カウント値とが混ざることなく、正常な領域のBPであるのか、異常な領域のBPであるのかを明瞭に示すことができる。求めたBPを画像として表示しているため、脳内全体の領域におけるBPを瞬時に示すことができ、脳内全体の領域におけるBPの評価を短期間で容易に行うことができる。灰白質と白質とに分けて、各々につきBPを求めている。このため、灰白質が損傷を受けるような病態、又は白質が損傷を受けるような病態に対しても、病態に応じた正確なBPを算出することができる。
【実施例2】
【0120】
上述した本発明のBP画像化プログラム等によりBP画像が表示される。医師等は当該BP画像データを見ることにより、正常な領域と異常な領域とを正確に判断することができる。その後、医師等は異常と思われる領域にROIを設定し、当該ROIについて、従来技術と同様に平均BPを算出することができる。実施例2では、上述したBP画像表示部30によりBPが表示された画像データ、例えば図12に示されるBP画像121、に対して所望のROIを設定し、当該ROIに対応するPET脳画像データの領域について時間−放射能カウント値を入力し、当該時間−放射能カウント値に基づき当該ROIにおける平均BPを算出する他のBP算出部(他の受容体結合能算出手段。不図示)をさらに備えることができる。
【0121】
以上より、本発明の実施例2によれば、医師等は当該BP画像データを見ることにより、正常な領域と異常な領域とを正確に判断することができる。その後、医師等は異常と思われる領域にROIを設定し、当該ROIについて、従来技術と同様に平均BPを算出することができる。
【実施例3】
【0122】
図22は、本発明の実施例3における楕円ROI設定部27の処理状況を例示する画面160である。図22で図15と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。図22に示されるように、楕円ROI設定部27がユーザに設定させる楕円形状のROIは必ずしもROI62のように脳全体を覆うサイズ又は位置ではなく、ROI62aのように脳の一部を覆うサイズ又は位置であってもよい。さらに、ROI62aのように楕円を傾けて設定させることもできる。図18のように、放射性薬剤によっては特定の領域にしか集積しないことが分かっている場合(PET脳画像44)、当該領域を覆うような楕円形状を設定させることができる。
【0123】
以上より、本発明の実施例3によれば、楕円ROI設定部27はユーザに脳の一部を覆うサイズ又は位置に楕円形状のROI62aを設定させることができ、加えて楕円を傾けて設定させることもできる。このため、特定の領域にしか集積しないことが分かっている放射性薬剤を使用する場合、当該領域を覆うような楕円形状を設定させ、より速い計算時間でBP画像を表示させることができる。
【実施例4】
【0124】
上述した実施例1等におけるBP画像化プログラムでは、BP算出部29は参照領域法としてSRTM法と非侵襲性Logan法との両方又は片方を用いた。本実施例4では非侵襲性Logan法を用いた場合における他の計算例について説明する。
【0125】
上述したように、BP算出部29は式35および36を用いて非侵襲性Logan法によりBPを算出する。図23は、式36の左辺Yを縦軸とし、右辺のXを横軸としたグラフを示す。図23に示される回帰直線Yの傾きDVRを求める際、直線部分の開始点をBとするか、Bとするか等により、傾きDVRが変わってくる。そこで、実施例4では、最適な開始点をユーザに選択させる方法を用いている。
【0126】
図24は、本発明の実施例4における最適開始点によるBP算出法(BP画像化プログラム等)の流れをフローチャートで示す。図24に示されるフローチャートは図21に示されるフローチャートの放射能カウント値入力ステップ(ステップS26)の後(又はBP算出ステップ(ステップS28)の前)から始める。まず、ステップS40でユーザにSRTM法と非侵襲性Logan法とのいずれかを選択させ、SRTM法が選択された場合はそのままBP算出ステップ(ステップS28)へ進む。ステップS40で非侵襲性Logan法が選択された場合、Logan-DVR法で回帰直線とみなされる開始点Bを初期値Bから終了値Bまで変化させて、各開始点BについてBP算出ステップ(ステップS44又はS28)の処理を繰返させる(繰返しステップ(ステップS42、S46、S48)。詳細は後述。繰返し手段)。繰返しステップ(ステップSS42、S46、S48)により求められた各BPを所定の形式で表示し、ユーザに最適な開始点(特定の開始点)を選択させる(開始点選択ステップ(ステップS49)。開始点選択手段)。以下、詳しく説明する。まず、Logan-DVR法で回帰直線Yとみなされる開始点の初期値設定を行う(開始点初期値設定ステップ(ステップS42)。開始点の初期値は、図17に示されるBとする。次に、非侵襲性Logan法によるBP算出ステップ(ステップS44又はS28)を実行する。その後、開始点初期値設定ステップ(ステップS42)で設定された開始点について、終了かどうかを判断する(開始点終了判断ステップ(ステップS46)。例えば開始点が図17に示されるBであれば終了と判断する。開始点終了判断ステップ(ステップS46)で開始点が終了でないと判断された場合、開始点初期値設定ステップ(ステップS42)で設定された開始点を次の開始点に変更してBP算出ステップ(ステップS44又はS28)の処理を繰返させる(ステップS48)。開始点の変更は開始点BをインクリメントしてBとすることにより行う。以下同様に開始点BをB〜Bまで変更する。開始点終了判断ステップ(ステップS46)で開始点が終了と判断された場合、各開始点B(i=0〜n)毎に計算されたBPをユーザに示し、ユーザに最適な開始点Bを選択させる(開始点選択ステップS49)。各BPのユーザへの示し方としては、縦軸をBPとし横軸を各開始点B(i=0〜n)とするプロット表示が好適である。ユーザはプロット表示においてプラトーになった肩の部分のBP(プラトーになった最初のBP)に対応する開始点Bを最適な開始点Bと判断し、当該Bを入力する。その後、当該開始点Bを用いてステップS28へ進む。以上により、最適な開始点BによるBPを得ることができる。
【0127】
図25は、実施例4における最適開始点によるBP算出法の処理状況を例示する画面170を示す。画面170において、符号171はある開始点Bを用いた際に表示されるBP画像であり、172はその際の回帰直線Yを表示するグラフである。
【0128】
以上より、本発明の実施例4によれば、BPの算出法として非侵襲性Logan法を用いる場合、図23に示される回帰直線Yの傾きDVRを求める際に、開始点Bを変更していきながら最適な開始点Bをユーザに選択させることができる。この結果、最適な開始点BによるBPを得ることができる。
【実施例5】
【0129】
図26は、本発明のBP画像化プログラムを実行するコンピュータ10の内部回路180を示すブロック図である。図26に示されるように、CPU181、ROM182、RAM183、画像制御部186、コントローラ187、入力制御部190及び外部I/F部192はバス193に接続されている。図26において、上述した本発明のBP画像化プログラムは、ROM182、ディスク188又はDVD若しくはCD−ROM189等の記録媒体(脱着可能な記録媒体を含む)に記録されている。ディスク188には、上述したPET−DB14、MRI−DB16等を記録しておくことができる。BP画像化プログラムは、ROM182からバス193を介し、あるいはディスク188又はDVD若しくはCD−ROM189等の記録媒体からコントローラ187を経由してバス193を介しRAM183へロードされる。画像制御部186は、BP画像表示部30等により表示される種々の画面70等の画像データをVRAM185へ送出する。表示装置(ディスプレイ)184はVRAM185から送出された上記データ等を表示する。VRAM185は表示装置184の一画面分のデータ容量に相当する容量を有している画像メモリである。入力操作部191はコンピュータ10に入力、指定等(ROIの設定等)を行うためのマウス、キーボード等の入力装置であり、入力制御部190は入力操作部191と接続され入力制御等を行う。外部I/F部192はコンピュータ(CPU)181の外部と接続する際のインタフェース機能を有している。
【0130】
上述したようにコンピュータ(CPU)181が本発明のBP画像化プログラムを実行することにより、本発明の目的を達成することができる。BP画像化プログラムは上述のようにDVD若しくはCD−ROM189等の記録媒体の形態でコンピュータ(CPU)181に供給することができ、BP画像化プログラムを記録したDVD若しくはCD−ROM189等の記録媒体も同様に本発明を構成することになる。BP画像化プログラムを記録した記録媒体としては上述された記録媒体の他に、例えばメモリ・カード、メモリ・スティック、光ディスク、FD等を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明の活用例として、PET脳画像又は他の部位のPET画像に適用することができる。
【符号の説明】
【0132】
1 BP画像化システム、 10 コンピュータ、 12 記録装置、 14 PET−DB、 16 MRI−DB、 20 機能ブロック、 21 PET脳画像データ入力部、 22 MRI脳画像データ入力部、 23 位置合わせ部、 24 セグメンテーション部、 25 細線・膨張処理部、 26 リファレンスROI設定部、 27 楕円ROI設定部、 28 放射能カウント入力部、 29 BP算出部、 30 BP画像表示部、 40、41、42、43、44、45 PET脳画像データ、 50 MRI脳画像データ、 51 全脳マスク、 55、55+、55− 灰白質部分データ、 56、56− 白質部分データ、 60、61、62 (位置合わせ後)MRI脳画像データ、 70、80、90、100、120、130、140 画面、 71a、71b resetボタン、 72a、72b erosionボタン、 73a、73b dilatationボタン、81 MRIオプション枠、 82、84 レジストレーションボックス、 83 マスクオプション枠、 85 ROI枠、 86 多角形ROIボックス、 87 楕円ROIボックス、 101 表、 102、172 グラフ、 103 Sボタン、 104 Rボタン、 110 血漿、 111、114 組織、 112 遊離領域、 113 受容体、 115 参照領域、 116 対象部位、 121、131、171 BP画像、 122、132 R画像、 123、133 k画像、 181 CPU、 182 ROM、 183 RAM、 184 表示装置、 185 VRAM、 186 画像制御部、 187 コントローラ、 188 ディスク、 189 CD−ROM、 190 入力制御部、 191 入力操作部、 192 外部I/F部、 192 バス。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0133】
【非特許文献1】坂口 和也、木村 祐一著、「PETにおける脳神経受容体機能計測のための動態解析」、MEDICAL IMAGING TECHNOLOGY、第27巻、第5号、第286頁−第291頁、2009年11月、日本医用画像工学会。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能的脳画像データから受容体結合能の画像化を行うための受容体結合能画像化プログラムであって、コンピュータを、
受容体に選択的に結合する所定の放射性薬剤を用いて撮像された被験者の機能的脳画像データを入力する機能的脳画像データ入力手段、
前記被験者の形態脳画像データを入力する形態脳画像データ入力手段、
前記機能的脳画像データ入力手段により入力された被験者の機能的脳画像データを基準として、該機能的脳画像データと前記形態脳画像データ入力手段により入力された該被験者の形態脳画像データとの位置合わせを行う位置合わせ手段、
前記位置合わせ形態手段により位置合わせされた被験者の形態脳画像データから灰白質部分データと白質部分データとを分離する分離手段、
前記位置合わせ手段により位置合わせされた形態脳画像データに対して前記所定の放射能薬剤が存在しないとみなし得る参照領域に関心領域を設定し、該関心領域を前記機能的脳画像データ入力手段により入力された被験者の機能的脳画像データに設定する関心領域設定手段、
前記機能的脳画像データ入力手段により入力された被験者の機能的脳画像データに所定の形状の関心領域を設定する所定形状関心領域設定手段、
前記関心領域設定手段により設定された機能的脳画像データの参照領域における関心領域について、一画素毎に時間−放射能カウント値を入力する放射能カウント値入力手段、
前記所定形状関心領域設定手段により設定された所定の形状の関心領域における機能的脳画像データと、前記放射能カウント値入力手段により入力された参照領域の関心領域における時間−放射能カウント値とを用いて、前記放射能薬剤の動態を表す数学的モデルである参照領域法に基づき、該所定の形状の関心領域における該機能的脳画像データの一画素毎に受容体結合能を算出する受容体結合能算出手段、
前記受容体結合能算出手段により算出された一画素毎の受容体結合能と前記分離手段により分離された灰白質部分データ及び/又は白質部分データとに基づき、灰白質部分及び/又は白質部分のデータの受容体結合能を所定の表示形式で表示する受容体結合能表示手段として機能させるための受容体結合能画像化プログラム。
【請求項2】
請求項1記載の受容体結合能画像化プログラムにおいて、前記参照領域法はSRTM(Simplified Reference Tissue Model)法及び/又は非侵襲性Logan法であることを特徴とする受容体結合能画像化プログラム。
【請求項3】
請求項2記載の受容体結合能画像化プログラムにおいて、前記分離手段により分離された灰白質部分データ及び/又は白質部分データに対し所定のノイズ除去処理を行うノイズ除去手段をさらに備え、
前記受容体結合能表示手段は、前記受容体結合能算出手段により算出された一画素毎の受容体結合能と前記分離手段により分離され前記ノイズ除去手段により所定のノイズ除去処理が行われた灰白質部分データ及び/又は白質部分データとに基づき、灰白質部分及び/又は白質部分の受容体結合能を所定の表示形式で表示することを特徴とする受容体結合能画像化プログラム。
【請求項4】
請求項3記載の受容体結合能画像化プログラムにおいて、前記ノイズ除去手段は、前記分離手段により分離された灰白質部分データ及び/又は白質部分データに対し膨張及び細線処理を施すことにより、ノイズ除去処を行うことを特徴とする受容体結合能画像化プログラム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の受容体結合能画像化プログラムにおいて、前記受容体結合能表示手段により受容体結合能が表示された画像データに対して関心領域を設定し、該関心領域に対応する機能的脳画像データの領域について時間−放射能カウント値を入力し、該時間−放射能カウント値に基づき該関心領域における平均受容体結合能を算出する他の受容体結合能算出手段をさらに備えたことを特徴とする受容体結合能画像化プログラム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の受容体結合能画像化プログラムにおいて、前記所定形状関心領域設定手段により設定される所定の形状は楕円であることを特徴とする受容体結合能画像化プログラム。
【請求項7】
請求項2乃至6のいずれかに記載の受容体結合能画像化プログラムにおいて、前記参照領域法がLogan-DVR法の場合、
Logan-DVR法で回帰直線とみなされる開始点を初期値から終了値まで変化させて、各開始点について前記受容体結合能算出手段の処理を繰返させる繰返し手段と、
前記繰返し手段により求められた各受容体結合能を所定の形式で表示し、特定の開始点を選択させる開始点選択手段とをさらに備えたことを特徴とする受容体結合能画像化プログラム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の受容体結合能画像化プログラムを記録したコンピュータ読取り可能な記録媒体。
【請求項9】
コンピュータが、機能的脳画像データから受容体結合能の画像化を実行する受容体結合能画像化方法であって、
受容体に選択的に結合する所定の放射性薬剤を用いて撮像された被験者の機能的脳画像データを入力する機能的脳画像データ入力ステップと、
前記被験者の形態脳画像データを入力する形態脳画像データ入力ステップと、
前記機能的脳画像データ入力ステップで入力された被験者の機能的脳画像データを基準として、該機能的脳画像データと前記形態脳画像データ入力ステップで入力された該被験者の形態脳画像データとの位置合わせを行う位置合わせステップと、
前記位置合わせ形態ステップで位置合わせされた被験者の形態脳画像データから灰白質部分データと白質部分データとを分離する分離ステップと、
前記位置合わせステップで位置合わせされた形態脳画像データに対して前記所定の放射能薬剤が存在しないとみなし得る参照領域に関心領域を設定し、該関心領域を前記機能的脳画像データ入力ステップで入力された被験者の機能的脳画像データに設定する関心領域設定ステップと、
前記機能的脳画像データ入力ステップで入力された被験者の機能的脳画像データに所定の形状の関心領域を設定する所定形状関心領域設定ステップと、
前記関心領域設定ステップで設定された機能的脳画像データの参照領域における関心領域について、一画素毎に時間−放射能カウント値を入力する放射能カウント値入力ステップと、
前記所定形状関心領域設定ステップで設定された所定の形状の関心領域における機能的脳画像データと、前記放射能カウント値入力ステップで入力された参照領域の関心領域における時間−放射能カウント値とを用いて、前記放射能薬剤の動態を表す数学的モデルである参照領域法に基づき、該所定の形状の関心領域における該機能的脳画像データの一画素毎に受容体結合能を算出する受容体結合能算出ステップと、
前記受容体結合能算出ステップにより算出された一画素毎の受容体結合能と前記分離ステップにより分離された灰白質部分データ及び/又は白質部分データとに基づき、灰白質部分及び/又は白質部分の受容体結合能を所定の表示形式で表示する受容体結合能表示ステップとを備え、
前記機能的脳画像データ入力ステップと前記形態脳画像データ入力ステップとは逆に実行可能であり、前記所定形状関心領域設定ステップは前記機能的脳画像データ入力ステップ後であれば先行する各ステップの前に実行可能であることを特徴とする受容体結合能画像化方法。
【請求項10】
請求項9記載の受容体結合能画像化方法において、前記参照領域法はSRTM(Simplified Reference Tissue Model)法及び/又は非侵襲性Logan法であることを特徴とする受容体結合能画像化方法。
【請求項11】
請求項10記載の受容体結合能画像化方法において、
前記分離ステップの後で且つ前記受容体結合能表示ステップの前に、該分離ステップで分離された灰白質部分データ及び/又は白質部分データに対し所定のノイズ除去処理を行うノイズ除去ステップをさらに備え、
前記受容体結合能表示ステップは、前記受容体結合能算出ステップで算出された一画素毎の受容体結合能と前記分離ステップで分離され前記ノイズ除去ステップで所定のノイズ除去処理が行われた灰白質部分データ及び/又は白質部分データとに基づき、灰白質部分及び/又は白質部分の受容体結合能を所定の表示形式で表示することを特徴とする受容体結合能画像化方法。
【請求項12】
請求項11記載の受容体結合能画像化方法において、前記ノイズ除去ステップは、前記分離ステップで分離された灰白質部分データ及び/又は白質部分データに対し膨張及び細線処理を施すことにより、ノイズ除去処を行うことを特徴とする受容体結合能画像化方法。
【請求項13】
請求項9乃至12のいずれかに記載の受容体結合能画像化方法において、前記受容体結合能表示ステップで受容体結合能が表示された画像データに対して関心領域を設定し、該関心領域に対応する機能的脳画像データの領域について時間−放射能カウント値を入力し、該時間−放射能カウント値に基づき該関心領域における平均受容体結合能を算出する他の受容体結合能算出ステップをさらに備えたことを特徴とする受容体結合能画像化方法。
【請求項14】
請求項9乃至13のいずれかに記載の受容体結合能画像化方法において、前記所定形状関心領域設定ステップで設定される所定の形状は楕円であることを特徴とする受容体結合能画像化方法。
【請求項15】
請求項10乃至14のいずれかに記載の受容体結合能画像化方法において、前記参照領域法がLogan-DVR法の場合、
前記受容体結合能算出ステップの前に、
Logan-DVR法で回帰直線とみなされる開始点を初期値から終了値まで変化させて、各開始点について前記受容体結合能算出手段の処理を繰返させる繰返しステップと、
前記繰返しステップで求められた各受容体結合能を所定の形式で表示し、特定の開始点を選択させる開始点選択ステップとをさらに備えたことを特徴とする受容体結合能画像化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図17】
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【図21】
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【図23】
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【図24】
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【図26】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図22】
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【図25】
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【公開番号】特開2013−61196(P2013−61196A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198915(P2011−198915)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000149837)富士フイルムRIファーマ株式会社 (54)
【Fターム(参考)】