説明

受精で用いられる精子分散液

【課題】本発明の目的は、保存、移送、または受精の困難から精子を保護することにある。
【解決手段】内因的に射精された精子に対して減少した運動性を有する精子分散液の形態で仕分けられたおよび仕分けられていない精子を保存する方法が開示される。該分散液の該不動性精子は、保存、輸送、および受精手順と関連した困難を耐えるより大きい能力を有する傾向がある。また、そのような精子分散液を提供するための方法、そのような精子分散液によって雌の哺乳類を受精するための方法、ならびに該精子分散液を含む組成物および組合せも開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、精子細胞を保存する方法に関する。より具体的には、本発明は、内在性の射精された精子に関して減少した運動性を有する仕分けられたおよび仕分けられていない精子を保存する方法、雌の哺乳類を受精させるためにそのような精子分散液を提供するための方法、そのような精子分散液を用いて雌の哺乳類を受精するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インビトロ受精に続く人工授精(AI)および胚移植による動物の受精は、確立された手順である。この手順において使用される精子の生存性および運動性は、該手順の結果(つまり、該受精および受精手順が上手く子孫を生じるか)に影響を及ぼすため、該精子細胞が、例えば、細胞の収集、保存、および輸送を含む該受精手順と関連することの多い困難を生存することが可能であることが重要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一例として、畜産業において、特定の性別の子孫のような1以上の好ましい特徴を有する子孫に向けた繁殖結果に影響を及ぼす能力が、しばしば望まれる。そのような結果を達成するために、雄の哺乳類からの精液試料を収集し、色素で染色し、引き続いてXおよびY染色体担持細胞に仕分け、所望により、冷凍または冷却状態で、一定期間保存し、次いで、雌の哺乳類が最終的に受精される育種の位置に移送する。これらのプロセスの工程の各々は、精子細胞生存率または運動率、特に前進運動率を減少する精子細胞に重点を置く。
【0004】
Salisbury et al.は、射精されたウシ血清を直接的に、細胞運動性を阻害し周辺の精漿から炭水化物の吸収を防ぐ希釈剤へ収集するための技術を記載する。該射精液が希釈剤に収集され、液体の上の空気相を100% CO2でガスを抜くことによって置き換えると、該射精液中の細胞は動かなくなった。該細胞が該希釈剤中に留まり、空気が排除される限り、該細胞は、室温にて数時間および5℃にて少なくとも8日間、動かないままだった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の種々の態様のなかに、保存、移送、または受精の困難から精子を保護するために、それらに対して該精子を不動にするための方法がある。従って、本発明の1つの具体例において、精子および該精子によって炭水化物の取り込みを下方制御する組成物を含む、精子懸濁液と呼ばれることもある精子分散液が形成される。
【0006】
従って、簡潔には、本発明は、仕分けられていない精子を仕分けるための方法に指向され、該方法は、精子、精子不動性を誘導する組成物、および抗生物質を含む精子分散液を形成し、該精子分散液を仕分けることを特徴とする。
【0007】
本発明は、さらに、仕分けられた精子を保存するための方法に指向され、ここに、該方法は、精子および精子不動性を誘導する組成物を含む精子分散液を形成し、集団のうちの1つの該精子が少なくとも約65% X染色体担持精子細胞または少なくとも約65% Y染色体担持精子細胞を含む該別々の集団に該精子分散液を仕分け、次いで、該1つの集団を約-4℃ないし約30℃の温度にて保存することを特徴とする。
【0008】
本発明は、さらに、雌の哺乳類を受精させるための方法に指向され、ここに該方法は精子および精子不動性を誘導する組成物を含む精子分散液によって、雌の哺乳類を受精させることを特徴とする。
【0009】
本発明は、さらに、雌の哺乳類を受精させるために新たな精子分散液を提供するための方法に指向され、ここに該方法は、精子および精子不動性を誘導する組成物を含む精子分散液を形成し、離れた場所への輸送のために容器内に該精子分散液を入れ、次いで、該精子分散液を形成後約24時間以内に離れた場所に該容器中の該精子分散液を輸送することを特徴とする。
【0010】
本発明は、さらに、雌の哺乳類の受精において使用するための細長い容器、および不動性精子および精子不動性を誘導する組成物を含む精子分散液を含む組合せに指向される。該精子分散液は該細長い容器中に含有される。
【0011】
本発明は、さらに、不動性精子、精子不動性を誘導する組成物、および低温保存剤を含む精子分散液に指向される。また、該精子分散液は、例えば、抗生物質、成長因子、カプロン酸、カタラーゼ、または細胞内でおよび/または細胞外で酸化/還元反応を制御する組成物のような精子生存性を高める添加剤を含有してもよい。
【0012】
本発明の他の態様および特徴は、部分的に明白であり、部分的に以後示されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
驚くべきことに、(同一種の)内因的に射精された精子に対して減少した運動性、およびより具体的には一時的に誘導された不動性を有する精子が、該精子を冷凍するために必要性なしに、保存および輸送の期間を耐えるのにより大きい能力を有する傾向があると決定されている。該精子は、該不動性精子による雌の哺乳類の受精まで該源哺乳類から収集される時点から、減少された運動性の状態で維持され得る。従って、好ましい具体例において、特定の濃度の、仕分けられたまたは仕分けられていない新鮮な、冷凍されていない精子、または増加した数の生存可能な細胞または増加した数の運動精子対冷凍され引き続いて解凍されている同一の特定の濃度の精子を有する受精を、保存、輸送のために調製してもよい。
【0014】
(例えば、人工授精ストロー中に含有された細胞のパーセンテージのような)該分散液のアリコート中に含有されたより大きいパーセンテージの細胞が、生存可能、前進運動性であり、従って、卵を受精させることが潜在的に可能であるように、精子分散液中の増加した生存性の精子の結果として、より少ない密度の精子を含有する精子分散液のアリコートを、受精または受精手順に使用してもよい。同様に、分散液のアリコート内のより小さい密度の精子細胞が、受精または受精手順に必要であるため、精子分散液の形態の単一射精液は、受精または受精手順での使用のためにより大きい数のアリコートに分割されてもよい。
【0015】
本発明の方法に従って、精子および該精子の運動性を阻害する1以上の組成物を含有する分散液が形成され;ここに阻害された運動性のそのような状態は、不動性または精子静止状態と呼ばれることもある。一般的には、該分散液は、少なくとも約1X103精子/mlの密度で、およびより好ましくは分散液の少なくとも約0.1x106精子/mlおよび一般的には約5X1010精子/mlを超えない、より好ましくは一般的には分散液の約5x108精子/mlを超えない密度で、精子を含有するであろう。例えば、1つの具体例において、該懸濁液は、「比較的低い」密度で、つまり、懸濁液の約1X107精子/ml未満、好ましくは約1X106精子/ml未満、より好ましくは約1X103ないし約5X106精子/ml、さらにより好ましくは約1X103ないし約1X106精子/ml、さらにより好ましくは約1X104ないし約1X105精子/ml、および最も好ましくは約1X105精子/mlの密度で精子を含有してもよい。代替の具体例において、該懸濁液は、「中程度」の密度で、つまり、懸濁液の約1X107ないし約1X108精子/mlの密度で精子を含有し得る。さらにもう1つの代替の具体例において、該懸濁液は、「比較的高い」密度で、つまり、懸濁液の少なくとも約1x108精子/ml、好ましくは約1X108ないし約5X1010精子/ml、より好ましくは約1.5X108ないし約2X1010精子/ml、さらにより好ましくは約1.5X108ないし約2X108精子/ml、およびさらにより好ましくは約1.5X108精子/mlで、精子を含有してもよい。従って、例えば、1つの具体例において、該分散液は、分散液の少なくとも約0.04x106、少なくとも約1x106、少なくとも約1.5x106、少なくとも約2x106、少なくとも約3x106、少なくとも約0.5x107、少なくとも約1x107、少なくとも約2x107、少なくとも約3x107、少なくとも約4x107、少なくとも約5x107、少なくとも約6x107、少なくとも約7x107、少なくとも約8x107、少なくとも約9x107、またはさらに少なくとも約12x107精子/mlを含有し得る。代替の具体例において、該懸濁液は、懸濁液の約9X105未満、約7X105未満、約5X105未満、約2X105未満、約1X105未満、約1X104未満、またはさらに約1X103精子/mlを含有し得る。
【0016】
精子の密度は、例えば、該精子が得られる哺乳類の種類を含む多くの要因によって変動し得る。例えば、ウシ精子は、より高密度での分散液中に、典型的には、例えば約0.5 mlないし約25mlの容量中に0.5x 106精子/mlないし約8x107精子/mlのような、より小容量中に存在し得る。しかしながら、ブタ精子は、より低密度の分散液中に、典型的には、例えば約50mlないし約250mlの容量中の0.04x 106精子/mlないし約1x107精子/mlのようなより大きい容量中に存在し得る。
【0017】
精子分散液中の精子の密度は、個々の哺乳類または種特異的要因によって変動し得る。そのような要因の例は、例えば、異なる種の哺乳類間の偏差、単一種の哺乳類間の偏差、およびさらに単一哺乳類の異なる射精液間の偏差を含む。
【0018】
また、該精子分散液中の該精子の密度は、人工的に操作されて、特異的な精子密度の分散液を達成し得る。例えば、受精ストロー中に含有された精子分散液中の精子の密度への操作は、該分散液が保存される温度、該保存期間の長さ、該精子分散液中の該精子が仕分けられるか仕分けられないか、該精子が収集される雄の哺乳類の種、該精子が収集される哺乳類の受胎能力、および受精される該雌の哺乳類の種のような要因に基づきなされてもよい。
【0019】
また、精子分散液中の精子の密度は、該精子細胞が引き続いて豊富化されるまたは仕分けられ得る方法によって影響を受け得る。例えば、該精子細胞は、下記により詳細に記載されるように、フローサイトメトリーを用いて仕分けられてもよい。そのような例において、該緩衝された精子懸濁液は、典型的には、「中程度」または「比較的高い」密度の精子のものであってよい。他の仕分けまたは豊富化技術は、例えば、本明細書中に記載の色素および標識のようなマーカーによって標識された「比較的低い」密度の精子のようなより低密度の精子から利益を得てもよい。
【0020】
また、精子分散液中の該精子の密度は、例えば、遠心分離によってのように、該精子を単に濃縮することによって影響され得る。そのような例において、該分散液は、一般的にペレット (最小量の流体を含有する細胞のマス)および上澄み (溶解性液体画分)と呼ばれるものに、実質的に分離するであろう。次いで、該上澄みは、該ペレットの分裂なしにデカントされ、それにより、最小量の該阻害緩衝液を含有する精子細胞の比較的密なペレットを生じ、ここに、該効果は、該分散液の成分を変化せずに、該分散液の容量を減少させることである。結果として、該ペレットの該精子細胞は、不動状態のままである。
【0021】
好ましい具体例において、本発明の分散液中の精子は、特定の態様において、精巣上体精子の特徴的な様式で動き;例えば、該精子は、不動であり得、より少ない割合の固有呼吸を有し得、あるいは新たに射精された精子と比較して、より大きい割合の好気的解糖を有し得る。有利には、該阻害された精子は、(複数の)阻害剤からの分離の際、運動性に関して、1つの具体例において、運動性および呼吸に関して、射精された精子に特徴的である(精巣上体精子の特徴でない)様式で動く能力を有する。
【0022】
1つの具体例において、例えば、該運動阻害剤は、HTM-IVOS精子分析 (Hamilton-Thorne HTM-IVOSコンピューター補助精子分析システム Hamilton-Thorne Research, Beverly MA)によって測定されるように、該同一種の新たな射精液中の精子細胞の経路速度、前進速度、または両方に対して、該分散液中の精子細胞の少なくとも約50%の経路速度、前進速度、または両方を減少する。好ましくは、該運動阻害剤は、HTM-IVOS精子分析によって測定されるように、同一種の新たな射精液中の経路速度、前進速度、または両方に対して、該分散液中の精子細胞の経路速度、前進速度、または両方を減少する。より好ましくは、該運動阻害剤は、HTM-IVOS精子分析によって測定されるように、該同一種の新たな射精液中の精子細胞の経路速度、前進速度、または両方に対して、該分散液中の精子細胞の少なくとも約70%の経路速度、前進速度、または両方を減少する。さらにより好ましくは、HTM-IVOS精子分析によって測定されるように、該同一種の新たな射精液中の精子細胞の経路速度、前進速度、または両方に対して、該分散液中の該精子細胞の少なくとも約80%の経路速度、前進速度、または両方を減少する。さらにより好ましくは、該運動阻害剤は、HTM-IVOS精子分析によって測定されるように、該同一種の新たな射精液中の精子細胞の経路速度、前進速度、または両方に対して、該分散液中の該精子細胞の少なくとも約90%の経路速度、前進速度、または両方を減少する。さらにより好ましくは、該運動阻害剤は、HTM-IVOS精子分析によって測定されるように、該同一種の新たな射精液中の精子細胞の経路速度、前進速度、または両方に愛して、該分散液中の該精子細胞の少なくとも約95%の経路速度、前進速度、または両方を減少する。最も好ましくは、該運動阻害剤は、HTM-IVOS精子分析によって測定されるように、該同一種の新たな射精液中の精子細胞の経路速度、前進速度、または両方に対して、該分散液中の該精子細胞の少なくとも約99%の経路速度、前進速度、または両方を減少する。
【0023】
阻害緩衝液に加えてまたはその代わりに、精子細胞または精子細胞を取り囲む直接的な環境(つまり、精子分散液)の温度は、単に減少させて、該細胞の該運動性に影響を及ぼしてもよい。そのような温度の減少は、一般的には、不動性を増加させるであろう。さらに、例えば、該精子細胞または該精子分散液の温度の減少は、不動性を誘発するのに使用される阻害剤の濃度の減少を許容し得る。従って、該精子分散液は、5℃を超えない;好ましくは約0℃および約5℃の間; より好ましくは約3℃および約5℃の間; および最も好ましくは約5℃の温度であってよい。別法として、該精子分散液は、約4℃ないし約50℃; 好ましくは約7℃ないし約43℃; より好ましくは約10℃ないし約39℃; さらにより好ましくは約15℃ないし約30℃; さらにより好ましくは約17℃ないし約25℃の範囲内;および最も好ましくは約18℃の温度であってよい。しかしながら、好ましくは、該精子細胞は、該細胞の生存性に実質的に悪影響を及ぼす温度に暴露されない。
【0024】
該阻害剤は、精子運動性に対して抑圧効果を有する範囲の組成物のいずれかであってよい。そのような組成物は、例えば、ウアバインのようなナトリウム/カリウム ATPase阻害剤;カリウムイオンを含む組成物;およびカリウムおよびナトリウムイオンを含む組成物を含む。例えば、該分散液中の比較的高濃度のカリウムイオンは、精子運動性を抑制する傾向がある。従って、一般的には、該分散液がカリウムイオンの源を含有し、該分散液中の該カリウム濃度が少なくとも約0.05モル/Lであることが好ましい。より好ましくは、該カリウム濃度は、少なくとも約0.05モル/Lないし約0.5モル/Lである。さらにより好ましくは、該カリウム濃度は、少なくとも約0.1モル/Lないし約0.3モル/Lである。最も好ましくは、該カリウム濃度は、約0.173モル/Lである。また、そのような分散液は、典型的には、その必要はないが、ナトリウムイオンの源を含有するであろう。ナトリウムが存在する時、カリウム対ナトリウムのモル比は、一般的には、同等、またはそれぞれ、1:1より大きいが、一般的には、8:1のモル比を超えないであろう。好ましくは、カリウム対ナトリウムのモル比は、少なくとも約1.25:1である。さらにより好ましくは、カリウム対ナトリウムのモル比は、少なくとも約1.5:1である。さらにより好ましくは、カリウム対ナトリウムのモル比は、少なくとも約1.75:1である。さらにより好ましくは、カリウム対ナトリウムのモル比は、少なくとも約1.78:1である。1つの特定の具体例において、カリウム対ナトリウムのモル比は、少なくとも約2:1である。さらにもう1つの具体例において、カリウム対ナトリウムのモル比は、少なくとも約3:1である。さらにもう1つの具体例において、カリウム対ナトリウムのモル比は、少なくとも約4:1である。さらにもう1つの具体例において、カリウム対ナトリウムのモル比は、少なくとも約5:1である。さらにもう1つの具体例において、カリウム対ナトリウムのモル比は、少なくとも約6:1である。さらにもう1つの具体例において、カリウム対ナトリウムのモル比は、少なくとも約7:1である。さらにもう1つの具体例において、カリウム対ナトリウムのモル比は、少なくとも約8:1である。
【0025】
該精子分散液は、加えて、精子運動性の阻害を増加するまたはそれを助けることが可能な二酸化炭素のイオンまたは源を含み得る。この二酸化炭素の源は、例えば、1以上の炭酸塩のような分散液の成分の形態であってよく、あるいは雰囲気空気中の二酸化炭素の自然な分圧を超える二酸化炭素の正の分圧を有する分散液上のガスの雰囲気の形態であってよい。別法として、二酸化炭素の源は、分散液の成分、および雰囲気空気中の二酸化炭素の自然の分圧を超える二酸化炭素の正の分圧を有する分散液上のガスの雰囲気の双方の組合せであり得る。
【0026】
1つの現在好ましい具体例において、該精子分散液はNaHCO3およびKHCO3を含み、それにより、カリウムおよびナトリウムイオンの源ならびに二酸化炭素の分圧を提供する。例えば、1つの現在好ましい具体例において、該分散液は、水溶液中にNaHCO3およびKHCO3を含み、好ましくは水中にNaHCO3、KHCO3、およびC6H8O7・H2Oを含む。一般的には、該分散液中の該KHCO3濃度は、少なくとも約0.05モル/Lであってよい。より好ましくは、該KHCO3濃度は少なくとも約0.05モル/Lないし約0.5モル/Lである。さらにより好ましくは、該KHCO3濃度は少なくとも約0.1モル/Lないし約0.3モル/Lである。最も好ましくは、該KHCO3濃度は約0.173モル/Lである。NaHCO3が存在する時、KHCO3対NaHCO3の該モル比は、カリウム対ナトリウムの該モル比に関して上記のとおりであってよい。
【0027】
C6H8O7・H2Oが該分散液中に存在する時、KHCO3対NaHCO3の該モル比は上記のとおりであってよい。KHCO3対C6H8O7・H2Oの該モル比は、一般的には、それぞれ、1:1と同等またはそれより大きくてもよいが、一般的に、8:1のモル比は超えないであろう。好ましくは、KHCO3対C6H8O7・H2Oの該モル比は、少なくとも約1.25:1からである。さらにより好ましくは、KHCO3対C6H8O7・H2Oの該モル比は、少なくとも約1.5:1である。さらにより好ましくは、KHCO3対C6H8O7・H2Oの該モル比は、少なくとも約1.75:1である。1つの特定の具体例において、KHCO3対C6H8O7・H2Oの該モル比は、少なくとも約1.78:1である。もう1つの特定の具体例において、KHCO3対C6H8O7・H2Oの該モル比は、少なくとも約2:1である。さらにもう1つの具体例において、KHCO3対C6H8O7・H2Oの該モル比は、少なくとも約3:1である。さらにもう1つの具体例において、KHCO3対C6H8O7・H2Oの該モル比は、少なくとも約4:1である。さらにもう1つの具体例において、KHCO3対C6H8O7・H2Oの該モル比は、少なくとも約5:1である。さらにもう1つの具体例において、KHCO3対C6H8O7・H2Oの該モル比は、少なくとも約6:1である。さらにもう1つの具体例において、KHCO3対C6H8O7・H2Oの該モル比は、少なくとも約7:1である。さらにもう1つの具体例において、KHCO3対C6H8O7・H2Oの該モル比は、少なくとも約8:1である。1つの特定の好ましい具体例において、該分散液は、Salisbury & Graves, J. Reprod. Fertil., 6:351-359 (1963)において開示されるように、水中に0.097モル/LのNaHCO3、0.173モル/LのKHCO3、0.090モル/L C6H8O7・H2Oを含む阻害緩衝液を用いて形成される。該精子細胞は、一般的には、それらが(複数の)運動阻害剤に暴露される限り、静止状態のままであろう。
【0028】
現在までの実験証拠は、さらに、精子細胞の全体的な健康および他の生存特徴が、もし該細胞分散液が、該分散液への酸素の核酸を減少または防ぐ雰囲気下で維持されるなら、改善され得ることを示唆する。これは、例えば、外気に対する二酸化炭素、窒素、または他の不活性ガスの促進された分圧を有する雰囲気と、該精子分散液の上のガスの雰囲気を置き換えることによって達成できる。好ましい具体例において、該分散液上の該雰囲気は、少なくとも約0.0001atmの二酸化炭素の分圧を有するが、一般的には、大気圧にて約5atm未満である。1つの具体例において、二酸化炭素の該分圧は、大気圧にて約0.5atmないし約2atmであり;もう1つの具体例において、二酸化炭素の該分圧は、大気圧にて約0.9atmないし約2atmであり;もう1つの具体例において、二酸化炭素の該分圧は、大気圧にて約0.95atmないし約2atmである。
【0029】
静止または不動細胞は、該運動阻害剤から該細胞を分離するまたはそれらを空気に暴露することによって、活性状態に戻してもよい。加えて、活性状態の開始は、さらに、生理食塩水(Salisbury et al., 1963)またはTCA緩衝液またはPBSのような緩衝液中の該細胞の希釈によって誘導され得る。典型的には、活性状態に戻った細胞(つまり、再活性化細胞)の少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約60%、さらにより好ましくは少なくとも約70%、さらにより好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、および最も好ましくは少なくとも約99%は、HTM-IVOS精子分析によって測定されるように、該運動阻害剤と組み合わされる前の該精子細胞(つまり、新たな射精液の精子細胞)の経路速度、前進速度、または両方の少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、さらにより好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、および最も好ましくは少なくとも約99%である経路速度、前進速度、または両方を有するであろう。
【0030】
本発明の方法を使用して、保存、輸送、および仕分けられたおよび仕分けられていない精子で受精してもよい。もし仕分けられていない精子が本発明の方法によって保存されるならば、該精子は、運動阻害剤を含有する容器に直接収集されて、該精子分散液を形成してもよい。また、該精子分散液は、少なくとも1つの抗生物質を含有し得る。該精子分散液は、引きつづいて、所望の期間保存され得る。
【0031】
もし仕分けられた精子が本発明の方法によって保存されるならば、該精子は、運動阻害剤を含有する容器に直接収集されて、該精子分散液を形成してもよい。一旦収集されると、該分散液中の該精子細胞は、複数の工程方法によって仕分けられる。一般的には、該細胞仕分け方法は、一連の別々の工程、つまり、該収集された細胞の染色、該細胞の仕分け、該仕分けられた細胞の収集、および所望により、該仕分けられた細胞の低温伸長(cryoextension)を含む。次いで、該仕分けられた細胞を所望の期間保存してもよい。有利には、該運動阻害剤は、該細胞仕分け方法のこれらの工程の1以上において形成または使用される精子分散液中に含まれてもよい。
【0032】
I.該細胞試料の収集
本発明の方法を使用して、仕分けられたまたは仕分けられていない精子を保存するかに拘わらず、無傷で生存可能なウシ、ブタ、ウマ、イノシシ、または他の哺乳類精子細胞を収集し、該運動阻害剤と接触させてもよい。生存可能な精子の収集の種々の方法が知られており、例えば、手袋を使った方法、人工膣の使用、および電気射精を含む。一例として、典型的に約0.5ないし約100億精子細胞/ミリリットルを含有するウシ精液試料を、源哺乳類から、または同一種の1以上の源哺乳類から、運動阻害剤を含有する容器へと収集して、精子分散液を形成してもよい。別法として、該精液試料を空の容器へと収集し、次いで、引きつづいて、収集後数分ないし数時間内に該運動阻害剤と接触させて、該精子分散液を形成してもよい。
【0033】
また、緩衝液に加えて、該精子分散液は、ある範囲の添加剤を含有して、精子生存性を高めてもよい。例示的添加剤は、ステロール、脂質、および脂肪酸、蛋白源、抗生物質、成長因子、カプロン酸、カタラーゼ、Caprogen、(カプロン酸、カタラーゼ、および5% 卵黄)、および細胞内および/または細胞外で酸化/還元反応を制御する組成物を含む。
【0034】
例示的蛋白源は、卵黄、卵黄抽出物、(熱で均質化されたおよびスキムを含む)乳、乳抽出物、大豆蛋白質、大豆蛋白質抽出物、血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ヒト代替血清補充物、例えば、全精漿または精漿抽出物(例えば、その内容が本明細書中に引用によって援用されるParks et al., Sperm Membrane Phospholipid Peroxidation and Fragmentation: Effects on Sperm Function and Role of Seminal Plasma PAF-Acetylhydrolase, Proceedings of the 16th Technical Conference on Artificial Insemination & reproduction, 1996参照)のような精子蛋白、およびその組合せを含む。アルブミン、およびより具体的にはウシ血清アルブミン (BSA)は、好ましい蛋白源である。例えば、もし含まれるなら、BSAは、約5.0%(w/v)未満、好ましくは約2%(w/v)未満、より好ましくは約1%(w/v)未満の量で、および最も好ましくは約0.1%(w/v)の量で、該精子分散液中に存在し得る。
【0035】
また、BSAのような蛋白源の使用は、単独では、該分散液中の該精子細胞のパーセンテージで受精能獲得のプロセスを開始し得る。このプロセスは、雌の生殖器官で起こるのが好ましい。従って、希釈の間、ならびにその後の染色および仕分けの間、受精能獲得の開始を阻害するために、代替の蛋白源または蛋白質代替物が該精子分散液中に含まれてもよい。代替の蛋白源または蛋白質代替物は、より大きいパーセンテージの該精子分散液中の細胞で、受精能獲得の開始を阻害する能力に加えて、BSAのような典型的な蛋白源の有益な効果を有する。代替の蛋白源の例は、ヒト代替血清補充物(SSS) (Irvine Scientific, Santa Ana, CA)およびコレステロール促進BSAを含むが、蛋白質代替物の例は、例えば、一般的に約30,000ないし約60,000の分子量を有する低ないし中程度の粘度のポリビニルアルコールのようなポリビニルアルコールを含む。一般的には、含まれるなら、これらの組成物は、BSAに関して上記で開示したのと同量で存在し、ここに該緩衝液または緩衝溶液の総アルブミン含有量は、一般的に、約5.0%(w/v)を超えない。
【0036】
細胞内および/または細胞外で酸化/還元反応を制御する例示的組成物は、例えば、ピルビン酸塩、ビタミンK、リポ酸、グルタチオン、フラビン、キノン、スーパーオキシドジスムターゼ (SOD)、およびSOD模倣体を含む。もし該精子分散液中に含まれるなら、そのような組成物は、精子健康に悪影響を及ぼさずに、保護効果を達成するのに十分な濃度で存在し得る。例示的な濃度範囲は、使用される特定の組成物または該分散液中の精子の濃度のような因子によって、約10μMないし約20mMを含む。例えば、ピルビン酸塩は、約1mMないし約20mM、好ましくは約5mMないし約15mM、およびより好ましくは約10mMの濃度で、該精子分散液中に存在し得る、ビタミンKは、約1μMないし約100μM、好ましくは約10μMないし約100μM、およびより好ましくは約100μMの濃度で、該精子分散液中に存在し得る。リポ酸は、約0.1mMないし約1mM、好ましくは約0.5mMないし約1mM、およびより好ましくは約1mMの濃度で、該精子分散液中に存在し得る。
【0037】
細菌成長を阻害するために、抗生物質が該精子分散液中に含まれてもよい。例示的抗生物質は、例えば、チロシン、ゲンタマイシン、リンコマイシン、スペクチノマイシン、Linco-Spectin(登録商標) (塩酸リンコマイシン-スペクチノマイシン)、ペニシリン、ストレプトマイシン、チカルシリン、ポリミキシンB、またはそのいずれかの組合せを含む。もし含まれるなら、該抗生物質は、該精液が純物、緩衝された、あるいは例えば本明細書中に言及されるいずれかの添加剤のようなさらなる物質を含有するかに拘わらず、約50μgないし約800μg/精液のmlの濃度で存在し得る。The Certified Semen Services (CSS)およびNational Association of Animal Breeders (NAAB)は、精子収集および使用に関して、抗生物質の使用に関するガイドラインを推奨している。
【0038】
該精子細胞の生存性を維持するのを助けるために、成長因子を、該精子分散液に添加してもよい。例示的成長因子は、例えば、TGFβ-1およびTGFβ-2のような形質転換成長因子(「TGF」)、および例えば、IGF-1のようなインスリン様成長因子(「IGF」)を含む。一般的には、TGFは、該精子分散液中に、約0.1ng/Lないし約10μg/Lの濃度でTGFβ-1の形態でまたは約0.1ng/Lないし約200ng/Lの濃度でTGFβ-2として存在し得、IGFは、約0.1ng/Lないし約50μg/Lの濃度でIGF-1の形態で、該精子分散液中に存在し得る。そのような成長因子の使用は当該分野でよく知られており、例えば、その内容が本明細書中に引用によって援用される米国特許出願2003/0157473に開示される。
【0039】
一旦収集されると、該細胞は、所望の期間、静止状態で保存されてもよく、あるいは別法として、数時間内に使用されてもよい。いずれの場合においても、該細胞は、例えば、染色プロセス、仕分けプロセス、または受精プロセスにおいて使用され得る。
【0040】
A.収集された細胞の仕分け
(i)該細胞の染色
運動阻害剤を使用して、該細胞の染色の間、細胞を不動にしてもよい。典型的には、精子細胞を染色する方法は、標識と呼ばれることもある無傷の生存可能な精子細胞、運動阻害剤、および色素を含有する、標識混合物と呼ばれることもある染色混合物の形成を特徴とする。本発明のこの態様において、該運動阻害剤を、該精子細胞と接触させて、精子分散液を形成し、次いで、該分散液をDNA選択色素と接触させてもよい。この具体例において、該精子源は、純物精液、または別法として、遠心分離または精液を画分へと分離する他の手段の使用によって得られた精子含有精液誘導体であってもよい。
【0041】
代替の具体例において、該色素は、運動阻害剤と組み合わされ、それにより色素溶液を形成してもよい。従って、例えば、自由流動粉末を含めた純物固体、または液体組成物の形態の染料を阻害剤と組み合わせて染料溶液を形成し、次いで、これを純物精液、精液分散液、または精子含有精液誘導体と組み合わせることができる。
【0042】
いずれの場合においても、該阻害剤中で維持される限り、該精子細胞は、一般的には、静止状態のままであろう。(Salisbury et al., 1963)しかしながら、好ましくは、該染色混合物は、雰囲気空気に対して二酸化炭素の豊富化分圧を有する雰囲気下に維持され;例えば、99%+CO2である染料混合物上の雰囲気を供するのが一般に好ましい。
【0043】
該染色混合物のpHは、ある範囲のpHのいずれかで維持されてもよく;典型的にはこれは約5.0ないし約9.0の範囲であろう。例えば、該染色混合物は、「僅かに酸性の」pH、つまり約5.0ないし約7.0で維持されてもよい。この具体例において、該pHは、好ましくは約6.0ないし約7.0であり、より好ましくは約6.0ないし約6.5であり、最も好ましくは約6.2である。別法として、該染色混合物は、「僅かに塩基性の」pH、つまり、約7.0ないし約9.0で維持されてもよい。この具体例において、該pHは、好ましくは約7.0ないし約8.0であり、より好ましくは約7.0ないし約7.5であり、最も好ましくは約7.35である。
【0044】
該染色混合物は、米国特許5,135,759およびWO02/41906に前述のように、1以上のUVまたは励起可能な可視光、DNA選択色素を用いることによって形成されてもよく、その各々の内容は、本明細書中に引用によって援用される。例示的なUV光励起可能、選択色素は、Hoechst 33342およびHoechst 33258を含み、その各々は、Sigma-Aldrich (St. Louis, MO)から商業的に入手可能である。例示的な可視光励起可能色素は、Molecular Probes, Inc. (Eugene, OR)から入手可能なSYBR-14およびWO02/41906に記載のビスベンズイミド-BODIPY(登録商標)コンジュゲート6-{[3-((2Z)-2-{[1-(ジフルオロボリル)-3,5-ジメチル-1H-ピロル-2-イル]メチレン}-2H-ピロル-5-イル)プロパノイル]アミノ}-N-[3-(メチル{3-[({4-[6-(4-メチルピペラジン-1-イル)-1H,3'H-2,5'-ビベンズイミダゾール-2'-イル]フェノキシ}アセチル)アミノ]プロピル}アミノ)プロピル]ヘキサンアミド (「BBC」)を含む。
【0045】
これらの色素の各々は、単独でまたは組合せで使用されてもよく;別法として、他の細胞透過UVおよび可視光励起可能色素を単独でまたは前述の色素と組み合わせて使用してもよく、但し、該色素は、他所で記載のように、仕分けまたは豊富化を可能にする濃度で使用される時、許容できない程度まで該精子細胞の生存性を悪影響を及ぼさない。
【0046】
別法として、該染色混合物は、蛍光性ポリアミド、より具体的には蛍光標識またはそれにコンジュゲートしたレポーターを有するポリアミドを用いて形成してもよい。そのような標識は、核酸に結合した時、発光するであろう。蛍光標識またはそれに結合したレポーターを有するポリアミドの例は、例えば、Best et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100(21): 12063-12068 (2003); Gygi, et al., Nucleic Acids Res., 30(13): 2790-2799 (2002); 米国特許 5,998,140; 米国特許 6,143,901;および米国特許 6,090,947に記載のものを含み、それらの各々は、本明細書中に引用によって援用される。
【0047】
また、蛍光ヌクレオチド配列を使用して、該精子細胞を標識してもよい。標的または相補的配列を含有する核酸にハイブリダイズする時、そのようなヌクレオチド配列は発光するが、さもなければ、ハイブリダイズされていない状態の時、発光しない。そのようなオリゴヌクレオチドは、例えば、(本明細書中に引用によって援用される)米国特許出願公報2003/0113765に開示される。
【0048】
また、性別特異的抗体を使用して、染色混合物中の該精子細胞を標識してもよい。この具体例において、例えば、性別特異的抗体は、蛍光部位(または同等のレポーター分子)とコンジュゲートしてもよい。該抗体は、X染色体を持った、または別法として、Y染色体担持細胞上に存在する抗原に結合するため、そのような細胞は、(標識されていない細胞の非蛍光に対して)それらの蛍光に基づき選択的に同定することができる。さらに、各抗体がそれに結合した異なる蛍光部位を有する1以上の性別特異的抗体を同時に使用してもよい。これによって、各々の異なる蛍光に基づき、X染色体を持ったおよびY染色体担持細胞の識別が可能になる。
【0049】
発光性、色選択性ナノ結晶を使用して、染色混合物中の精子細胞を標識してもよい。また、量子ドットと呼ばれるこれらの粒子は、それらの各々が本明細書中に引用によって援用される米国特許6,322,901および米国特許6,576,291によって示されるように、当該分野でよく知られる。これらのナノ結晶は、例えば、ペプチド、抗体、核酸、ストレプトアビジン、および多糖(例えば、それらの各々が本明細書中に引用によって援用される米国特許6,207,392; 6,423,551; 5,990,479、および6,326,144参照)を含む多くの生物学的物質にコンジュゲートされており、生物学的標的を検出するのに使用されている(例えば、それらの各々が本明細書中に引用によって援用される米国特許6,207,392および6,247,323参照)。
【0050】
該染色混合物の該DNA選択性または他のタイプの色素のいずれかの好ましい濃度は、該選択された色素への細胞の透過性、該染色混合物の温度、染色が起こるのに許容される時間の量、精子の濃度、引き続いての仕分けまたは豊富化工程で望ましい豊富化の程度を含むある範囲の変数の関数である。一般的には、該色素濃度は、好ましくは、実質的に精子生存性に悪影響を及ぼさずに、適度に短い時間で望ましい程度の染色を達成するのに十分である。例えば、該染色混合物中のHoechst 33342、Hoechst 33258、SYBR-14、またはBBCの濃度は、一般的には、約0.1μMおよび約1.0Mの間、好ましくは約0.1μMないし約1000μM、より好ましくは約100μMないし約500μM、さらにより好ましくは約200μMないし約500μM、およびさらにより好ましくは約300μMないし約450μMであろう。従って、一組の染色条件下で、Hoechst 33342の濃度は、好ましくは約350μMである。もう一組の染色条件下で、Hoechst 33342の濃度は約400μMである。さらにもう一組の染色条件下で、該濃度は好ましくは約450μMである。
【0051】
もう1つの例として、例えば、米国出願公報2001/0002314に記載のもののような蛍光ポリアミドの濃度は、一般的には、約0.1μMおよび約1mMの間、好ましくは約1μMないし約1mM、より好ましくは約5μMないし約100μM、さらにより好ましくは約10μMであろう。
【0052】
また、所望により、該染色混合物は、添加剤を含有して、精子生存性を高めてもよい。例示的な添加剤は、細胞試料収集に関して上記で論議されるように、抗生物質、成長因子または細胞内でおよび/または細胞外で酸化/還元反応を制御する組成物を含む。これらの添加剤を、それに従って、該収集流体に添加してもよい。
【0053】
一旦形成されると、該染色混合物は、ある範囲の温度のいずれかで維持されてよく;典型的には、これは、約4℃ないし約50℃の範囲内であろう。例えば、該染色混合物は、「比較的低い」温度、つまり、約4℃ないし約30℃の温度で維持されてよく;この具体例において、該温度は、好ましくは約20℃ないし約30℃, より好ましくは約25℃ないし約30℃、および最も好ましくは約28℃である。別法として、該染色混合物は、「中程度の」温度範囲、つまり、約30℃ないし約39℃の温度内で維持されてよく;この具体例において、該温度は、好ましくは約34℃ないし約39℃、より好ましくは約37℃である。加えて、該染色混合物は、「比較的高い」温度範囲内、つまり、約40℃ないし約50℃の温度で維持されてよく;この具体例において、該温度は好ましくは約41℃ないし約49℃であり、より好ましくは約41℃ないし約45℃、さらにより好ましくは約41℃ないし約43℃、最も好ましくは約41℃である。好ましい温度の選択は、一般的には、例えば、使用される(複数の)色素への細胞の透過性、該染色混合物中の(複数の)色素の濃度、該細胞が該染色混合物中に維持されるであろう時間の量、および該仕分けまたは豊富化工程で望ましい豊富化の程度を含むある範囲の変数に基づく。
【0054】
該染色混合物中の該精子細胞による色素の取り込みは、望ましい程度のDNA染色を得るのに十分な時間、継続される。該期間は、典型的には、XおよびY染色体担持精子細胞が該2つの間の異なるおよび測定可能な蛍光強度に基づき保存または豊富化され得るように、該精子細胞の該DNAに該色素が結合するのに十分な期間である。一般的には、これは24時間以下; 好ましくは約10時間以下、より好ましくは、約2時間以下、さらにより好ましくは約90分以下、さらにより好ましくは約60分以下、最も好ましくは約5分ないし約60分であろう。特定の具体例において、該期間は約30分である。
【0055】
該染色期間の長さおよび染色の期間が長いほど、染色温度の温度はより低くなるように、染色が起こる染色期間の長さおよび温度は関連する。例えば、1つの具体例において、該染色は、「比較的低い」温度にて、約3時間ないし約24時間の期間生じ得る。別法として、該染色は、「中程度の」温度にて、約1.5時間ないし約3時間の期間、生じ得る。加えて、染色は、「比較的高い」温度にて、約10分ないし約90分の期間生じ得る。特定の具体例において、染色は、約4℃の温度にて、約24時間の期間、生じ得る。もう1つの具体例において、染色は、約18℃の温度にて約4時間の期間生じ得る。さらにもう1つの具体例において、染色は、約41℃の温度にて約30分の期間、生じ得る。
【0056】
従って、1つの具体例において、精子細胞、運動阻害剤、および約100μMないし約450μMの濃度で色素を含む染色混合物が形成され、該染色混合物は、一定の期間、約41℃の温度にて維持される。もう1つの具体例において、該一定の期間は約30分である。もう1つの具体例において、該運動阻害剤は、0.204g NaHCO3、0.433g KHCO3、および0.473g C6H8O7・H2O/25mLの精製水 (水中に0.097モル/LのNaHCO3、0.173モル/LのKHCO3、0.090モル/L C6H8O7・H2O)を含む。
【0057】
さらにもう1つの具体例において、精子細胞、運動阻害剤、および約100μMないし約450μMの濃度の色素を含む染色混合物が形成され、該染色混合物はある一定の時間、約28℃の温度にて維持される。もう1つの具体例において、該一定の時間は約3時間である。もう1つの具体例において、該運動阻害剤は、0.204g NaHCO3、0.433g KHCO3、および0.473g C6H8O7・H2O/25mLの精製水 (水中に0.097モル/LのNaHCO3、0.173モル/LのKHCO3、0.090モル/L C6H8O7・H2O)を含む。
【0058】
(ii)該染色された細胞の仕分けまたは豊富化
運動阻害剤を使用して、該精子細胞の仕分けの間、該精子細胞を不動にしてもよい。一般的には、一旦該精子が本発明によって染色されると、それらは、蛍光に基づく分離を可能にするいずれかの既知の手段によって仕分けられてもよい。一般的に使用されよく知られた方法は、それらの各々の内容が本明細書中に引用によって援用される米国特許5,135,759、5,985,216、6,071,689、6,149,867、および6,263,745、国際特許公報WO99/33956およびWO01/37655、および米国特許出願10/812,351 (国際特許公報WO2004/088283に対応)によって例示され記載されるように、フローサイトメトリーシステムを含む。そのような方法によって仕分ける時、該精子は、試料流体において、フローサイトメーターのノズルに導入される。従って、1つの具体例において、該試料流体は、該染色された精子細胞および運動阻害剤を含み得る。
【0059】
また、同様に、それが該サイトメーターを通過する時に試料流体の流れを取り囲むのに使用される該シース液は、運動阻害剤を含み得る。一般的には、該シース液は、加圧ガスを用いてまたはシリンジポンプによって、サイトメーターのノズルに導入され得る。好ましくは、該加圧ガスは二酸化炭素または窒素、より好ましくは二酸化炭素である。別法として、該加圧ガスは窒素であってよい。
【0060】
所望により、該試料流体またはシース液は、抗生物質、細胞内または細胞外で酸化/還元反応を制御する組成物、または細胞試料収集に関して上記で論議されたような成長因子のような添加剤を含有し得る。これらの添加剤の各々を、それに従って、いずれかの流体に添加してもよい。
【0061】
別法として、精子分散液の該細胞を、レーザー操縦を用いて、仕分けまたは豊富化してもよい。これは、しばしば、光トラッピングまたはホログラフィック光トラッピングと呼ばれる。一般的には、例えば、顕微鏡レンズによってフォーカスされた光のようなきつくフォーカスされたレーザー光は、急な強度勾配を有するであろう。光トラップは、光線の勾配力を用いて、該光線の誘電率に基づき、粒子をトラップする。そのエネルギーを最小化するために、周辺の媒体より大きい誘電率を有する粒子は、該磁場が最高である光トラップの領域に動くであろう。そのようなデバイスおよび方法は、例えば、それらの各々の内容が本明細書中に引用によって援用されるWO2004/012133、米国特許6,416,190および関連出願および特許に記載される。これらの方法によって仕分けまたは豊富化される精子細胞の不動性は、該流れ中の細胞およびこれらの細胞のレーザー操縦の並びを容易にし、それにより、該所望の細胞を、より効率的かつ正確に仕分けまたは豊富化することが可能となる。
【0062】
従って、該精子分散液の細胞は、別々の集団に仕分けられてもよく、ここに、該集団の該精子は、特定のパーセントのX染色体を持ったまたはY染色体担持精子細胞を含む。例えば、該集団のうちの1つの該精子は、少なくとも約65% X染色体を持ったまたはY染色体担持精子細胞、少なくとも約70% X染色体を持ったまたはY染色体担持精子細胞、少なくとも約75% X染色体を持ったまたはY染色体担持精子細胞、少なくとも約80% X染色体を持ったまたはY染色体担持精子細胞、少なくとも約85% X染色体を持ったまたはY染色体担持精子細胞、少なくとも約90% X染色体を持ったまたはY染色体担持精子細胞、またはさらに少なくとも約95% X染色体を持ったまたはY染色体担持精子細胞を含み得る。
【0063】
(iii)該仕分けられた細胞の集団
一旦仕分けられると、該仕分けられた集団は、収集流体を含有する容器中に収集される。一般的には、該収集流体の目的は、該細胞に流体支持体を提供することを含む。
【0064】
1つの具体例において、該収集流体は運動阻害剤を含む。所望により、該収集流体は、ステロール、脂質、脂肪酸、または蛋白源を含んでもよい。もし該収集流体中に含まれるなら、該ステロール、脂質、および脂肪酸は、例えば、コレステロールであってもよい。
【0065】
もし該収集流体中に含まれるなら、該蛋白源は、該精子細胞の生存性と干渉せず、該運動阻害剤と適合性のあるいずれかの蛋白源であってもよい。一般的な蛋白源の例は、(熱で均質化されたおよびスキムを含む)乳、乳抽出物、卵黄、卵黄抽出物、大豆蛋白質および大豆蛋白質抽出物を含む。そのような蛋白質は、約1%(v/v)ないし約30%(v/v)、好ましくは約10%(v/v)ないし約20%(v/v)、およびより好ましくは約10%(v/v)の濃度で使用され得る。
【0066】
所望により、該収集流体は、細胞試料収集に関して上記で論議したように、抗生物質、成長因子または細胞内または細胞外で酸化/還元反応を制御する組成物のような添加剤を含有し得る。これらの添加剤の各々を、それに従って、該収集流体に添加してもよい。
【0067】
従って、特定の具体例において、該収集流体は、約6.2、より好ましくは約7.0、およびさらにより好ましくは約6.5のpHにて、水中に0.097モル/LのNaHCO3、0.173モル/LのKHCO3、0.090モル/L C6H8O7・H2Oおよび10%(v/v) 卵黄を含む。好ましくは、該収集流体は、空気に対して二酸化炭素の豊富化された分圧を有する雰囲気下に維持され;例えば、該雰囲気は0.9、より好ましくは 0.95、さらにより好ましくは 0.99過剰の二酸化炭素の分圧を有することができる。
【0068】
より慣用的な収集流体を使用する代わりに、該仕分けられた細胞を、低温エキステンダーを含有するまたはそれで覆われた容器中に収集してもよい。従って、1つの特定の具体例において、該仕分けられた細胞を、運動阻害剤を含む低温エキステンダーに収集する。もう1つの具体例において、該仕分けられた細胞は、運動阻害剤、水、Triladyl(登録商標) (Minitube, Verona, WI, 60ml グリセロール、24.2g トリス、13.8g クエン酸、10.0g フルクトース/リットル、5mg/100ml チロシン、25mg/100ml ゲンタマイシン、30mg/100ml スペクチノマイシン、および15mg/100ml リンコマイシンを含む)、卵黄、および所望によりピルビン酸を含む低温エキステンダーに収集される。さらにもう1つの具体例において、該収集流体は、水中に0.097モル/LのNaHCO3、0.173モル/LのKHCO3、0.090モル/L C6H8O7・H2O、および25g Triladyl(登録商標)、25g 卵黄、および10mM ピルビン酸/75mLの水を含む低温エキステンダーである。さらにもう1つの具体例において、該収集流体は、水中に0.097モル/LのNaHCO3、0.173モル/LのKHCO3、0.090モル/L C6H8O7・H2O、および25g Triladyl(登録商標)、25g 卵黄/75mLの水を含む該低温エキステンダーである。
【0069】
(iv)該仕分けられた細胞の低温伸長
一旦該精子が収集容器へと仕分けられ収集されると、それらを雌の哺乳類を受精するのに使用してもよい。これは、ほとんど直ぐに行うことができ、該精子のさらなる処理をほとんど必要としない。そのような例において、該精子は、例えば、該受精が起こる場所に該精子を輸送するのに必要な時間、現在の状態で保存してもよい。従って、該精子は、例えば、該収集流体中に保存され輸送されてよい。同様に、該精子は、運動阻害剤において、該特定の哺乳類種に適切な密度、例えば、約50x106精子/mlないし約120x106精子/mlの密度に濃縮し、引き続いて保存および輸送してよい。該選択された密度は、該細胞が入手される哺乳類の該種を含む、受精に関して下記で論議されたもののような要因に基づく。該精子が入手された哺乳類の種に基づくそのような範囲の密度は、当業者によく知られる。いずれかの事象において、該精子は、より詳細に下記されるように、保存または輸送期間の間、不動のままであってよい。
【0070】
同様に、該精子は、後日での使用のために冷却または冷凍してよい。そのような例において、該精子は、低温エキステンダーの添加から利益を得て、冷却または冷凍の結果として、生存性または解凍後運動性に対する衝撃を最小化し得る。
【0071】
運動阻害剤を使用して、該低温エキステンダー中の細胞を不動にしてもよい。一般的には、低温エキステンダーは、運動阻害剤、蛋白源、および抗凍結剤を含み得る。もし含まれるなら、蛋白源を添加して、該細胞に支持体を提供してもよい。該蛋白源は、該精子細胞の生存性と干渉せず、該運動阻害剤と適合性のあるいずれの蛋白源であってもよい。一般的な蛋白源の例は、(熱で均質化されたおよびスキムを含む)乳、乳抽出物、卵黄、卵黄抽出物、大豆蛋白質および大豆蛋白質抽出物を含む。そのような蛋白質は、約10%(v/v)ないし約30%(v/v)、好ましくは約10%(v/v)ないし約20%(v/v)、およびより好ましくは約20%(v/v)の濃度で見つけ得る。
【0072】
抗凍結剤は、好ましくは、該低温エキステンダー中に含まれて、冷ショックを緩和または防ぐあるいは該精子の受精率を維持する。数多くの抗凍結剤が当該分野で知られる。所与のエクステンダーとの使用に適当な抗凍結剤の選択は変動し得、冷凍される種が得られる種によって決まる。適当な抗凍結剤の例は、例えば、グリセロール、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、プロピレングリコール、トレハロース、Triladyl(登録商標)、およびその組合せを含む。もし含まれるなら、一般的には、これらの抗凍結剤は、該低温エキステンダー中に約1%(v/v)ないし約15%(v/v)の量で、好ましくは約5%(v/v)ないし約10%(v/v)の量で、より好ましくは約7%(v/v)の量で、最も好ましくは約6%(v/v)の量で存在する。
【0073】
1つの特定の具体例において、該低温エキステンダーは、運動阻害剤、水、Triladyl(登録商標)、卵黄、および、所望によりピルビン酸を含む。さらにもう1つの具体例において、該低温エキステンダーは、水中に0.097モル/LのNaHCO3、0.173モル/LのKHCO3、0.090モル/L C6H8O7・H2O、および25g Triladyl(登録商標)、25g 卵黄、および10mMピルビン酸/75mLの水を含む。
【0074】
もう1つの特定の具体例において、該低温エキステンダーは、運動阻害剤、水、Triladyl(登録商標)、および卵黄を含む。さらにもう1つの具体例において、該低温エキステンダーは、水中に0.097モル/LのNaHCO3、0.173モル/LのKHCO3、0.090モル/L C6H8O7・H2O、および25g Triladyl(登録商標)、および25g 卵黄/75mLの水を含む。
【0075】
また、所望により、該低温エキステンダーは、細胞試料収集に関して上記で論議したように、抗生物質、成長因子、または細胞内でおよび/または細胞外で酸化/還元反応を制御する組成物を含み得る。これらの添加剤の各々を、それに従って該低温エキステンダーに添加してもよい。
【0076】
II.該収集された細胞の保存
A.保存期間
一旦該細胞が該源哺乳類から収集されると、それらはその後所望により仕分けられるかに拘わらず、該細胞は、一定の時間、保存されてよい。保存の期間は、例えば、該細胞が保存される温度、該保存容器内の細胞の数、該細胞が仕分けられるまたは仕分けられないか、該細胞が使用される受精の方法、および受精される該雌の哺乳類を含むいくつかの要因によって決まる。一般的には、例えば、該細胞は、例えば、2、4、8、12、または24時間のような数時間;例えば1、2、3、4、5、6、または7日間のような数日間;例えば、1、2、3、または4週間のような数週間;あるいは例えば、1、2、または3ヶ月間のような数ヶ月間、保存されてよい。典型的には、細胞は、約5℃ないし約30℃の温度にて、数時間ないし数日間; 約-4℃ないし約5℃の温度にて数日間ないし数週間;および(液体窒素蒸気において)約-196℃ないし約-4℃の温度にて、数週間ないし数ヶ月間、保存され得る。
【0077】
B.保存温度
該細胞はある範囲の異なる温度にて保存され得る。保存温度の選択は、例えば、該細胞が保存される時間の長さ、該保存容器内の細胞の濃度、該細胞が仕分けられるか仕分けられないか、該細胞が使用される受精の方法、および受精される雌の哺乳類のようないくつかの要因によって決まる。これらの要因の全ては、該保存期間の間生存可能のままであろう細胞の数に影響を与える。一例として、一般的には、該細胞が保存され得る時間が長ければ長いほど、該細胞が保存され得る温度は低い。温度の減少は、一般的には、より大きいパーセンテージの保存された細胞が、より長い時間、生存可能のままでいることを可能にする。
【0078】
従って、細胞は、約-196℃ないし約30℃の温度にて保存され得る。例えば、細胞は、「比較的低い保存温度」、つまり、約-196℃ないし約-4℃の温度範囲にて保存されてよく;この具体例において、該温度は好ましくは約-12℃ないし約-4℃、より好ましくは約-10℃ないし約-4℃、最も好ましくは約-4℃である。別法として、該細胞は、「中程度の保存温度」つまり、約-4℃ないし約5℃の温度範囲で保存されてよく;この具体例において、該温度は好ましくは約-3℃ないし約5℃、より好ましくは 約0℃ないし約5℃、最も好ましくは約5℃である。加えて、該細胞は、「中程度に高い保存温度」、つまり、約5℃ないし約30℃の温度範囲にて保存されてよく; この具体例において、該温度は、好ましくは約10℃ないし約25℃、より好ましくは約12℃ないし約23℃、さらにより好ましくは約15℃ないし約20℃、最も好ましくは約18℃である。有利には、より高い温度または冷凍温度(つまり、0℃以下の温度)のいずれかでの保存の困難が精子生存性に対して有害であり得るように、該阻害剤緩衝液中の18℃での該細胞の保存が、増加した数の生存可能かつ運動性精子細胞のさらなる利益を提供することが決定されている。
【0079】
C.保存容器
該精子分散液を、ある範囲の異なる容器中に保存してもよい。該容器は大きさが変動し得るが、一般的には適当な容器は該精子分散液を含有することが可能であろう;つまり、該容器は、そのような接触が該容器の内側または外側で起こるかに拘わらず、一般的には流体、および特異的には精子分散液との接触の結果として、漏出または劣化に感受性でない物質で構築されるであろう。適当な容器の例は、例えば、フラスコ、ビーカー、試験管、アンプル、およびガラス、プラスチック、または他の同様の物質で構築された他のそのような容器を含む。特定の具体例において、該容器は、例えば、細長い容器のような雌の哺乳類の受精において使用されるタイプの構築のものである。そのような細長い容器は、一般的には、約1000:1ないし約100:1の長さと直径の比、好ましくは約900:1ないし約200:1の長さと直径の比、より好ましくは約800:1ないし約300:1の長さと直径の比、さらにより好ましくは約700:1ないし約400:1の長さと直径の比、さらにより好ましくは約600:1ないし約400:1の長さと直径の比、さらにより好ましくは約500:1ないし約400:1の長さと直径の比、および1つの特定の具体例において、約450:1の長さと直径の比を有し得る。そのような細長い容器は、一般的には、約0.1ccないし約100ccの容量を有し得、ここに使用に選択された該容器の容量は、該精液が収集される哺乳類の種に基づく。例えば、そのような細長い容器の容量は、約0.1ccないし約0.7cc、好ましくは約0.2ccないし約0.6ccの容量、より好ましくは約0.23ccないし約0.5ccの容量、最も好ましくは約0.3ccないし約0.4ccの容量であり得る。特定の具体例において、該細長い容器は、約0.23ccの容量および約133:1の長さと直径の比を有する、該人工授精産業において、ストローとして一般的に呼ばれるものである。もう1つの特定の具体例において、該細長い容器は、約0.5ccの容量および約67:1の長さと直径の比を有する該人工授精産業においてストローと一般的に呼ばれるものである。典型的には、これらの容量の容器は、ウシ精子細胞の保存に使用される。
【0080】
別法として、該細長い容器の容量は、約1ccないし約100ccの容量、好ましくは約10ccないし約75ccの容量、より好ましくは約15ccないし約50ccの容量、さらにより好ましくは約20cc,ないし約40ccの容量、さらにより好ましくは約25ccないし約30ccの容量であってよい。特定の具体例において、該細長い容器は、約25ccの容量および約445:1の長さと直径の比を有する、該人工授精産業において、ストローとして一般的に呼ばれるものである。典型的には、これらの容量の容器は、ブタ精子細胞の保存に使用される。
【0081】
ストロー中に該精子分散液を保存する利益は、該分散液が、それが雌の哺乳類の受精に使用されるまで、その中に保存されたままであってよいということであり、この時、該ストローの該内容物は、雌の哺乳類の子宮に移されてよい。従って、そのような例において、該細胞は、雌が該分散液によって受精されるまで、運動阻害剤において、該ストローにおいて、従って、不動の状態で、維持され得、この時、該子宮内流体は該運動阻害剤を希釈して、該不動細胞を動かすであろう。
【0082】
III.受精(Fertilization)または受精(Insemination)
本発明のもう1つの態様は、一般的に上記のような精子を保存するための該新規方法を使用する、卵子の該受精または雌の哺乳類の受精である。
【0083】
一旦精子分散液が、精子細胞試料の収集に関して上記でより詳細に論議されるように形成されると、該精子分散液を使用して、雌の哺乳類を受精してもよい。受精を、当業者によく知られた多くの方法のいずれかによって実施してもよい。これらの方法は、例えば、標準の人工授精および深子宮受精(deep uterine insemination)を含む人工授精、および当業者によく知られた他の方法を含む。例えば、不動性精子および精子不動性を誘導する組成物を含む精子分散液を使用して、例えば、人工授精によってのような雌の哺乳類を受精してもよい。特定の具体例において、該精子分散液は、雌の哺乳類の受精における使用のための細長い容器にあってよく、該精子分散液中の該精子は、該雌の哺乳類の該分散液による受精まで、不動のままであってよい。もう1つの具体例において、該精子懸濁液中の該精子を、例えば、上記の方法によって、動くまたは活性な状態に戻し、引き続いて、雌の哺乳類を受精するのに使用する。
【0084】
別法として、該精子分散液を使用して、例えば、卵細胞質内精子注入法(ICSI)、および当業者によく知られた他の方法を含むマイクロインジェクションのような、卵子、より具体的には卵子をインビトロで受精してもよい。その後、該受精された卵子を、例えば、胚移植のような当業者によく知られた多くの手段のいずれかによって、雌の哺乳類の子宮に導入してもよい。
【0085】
精子分散液を用いる雌の哺乳類の受精または卵子のインビトロでの受精(その後、雌の子宮に該受精された卵子を導入)は、例えば、該精子分散液の形成後、約120時間内、好ましくは約96時間内、より好ましくは約72時間内、さらにより好ましくは約48時間内、特定の具体例において約24時間内で、該精子分散液の形成後直ぐに起こり得る。そのような例において、一般的には該分散液は、雌の哺乳類の受精または卵子のインビトロでの受精前に冷凍保存されず(つまり、該分散液は新鮮であるかあるいは新鮮な精子細胞を含む);代わりに、それは、運動阻害剤中で維持されてよくおよび/または約4℃ないし約25℃、より好ましくは約10℃ないし約25℃、さらにより好ましくは約15℃ないし約20℃、および最も好ましくは約18℃の温度で冷凍されてよい。別法として、該分散液は冷凍保存され、次いで、雌の哺乳類の受精または卵子のインビトロ受精前に解凍されてもよい(つまり、該分散液は冷凍され/解凍されるかあるいは冷凍された/解凍された精子細胞を含む)。典型的には、そのような例において、該冷凍保存された分散液は、例えば、雌の哺乳類の受精または卵子のインビトロ受精前約15分以内に、直ぐに解凍されるであろう。別法として、該冷凍保存された分散液は、一定の時間にわたり解凍されるかあるいは例えば、約5日間未満、より好ましくは約2日間未満、さらにより好ましくは約1日未満、および最も好ましくは、約12時間未満のような一定の時間解凍され、引き続いて保存されてもよい。
【0086】
IV.新鮮な精子分散液を提供するための方法
本発明のもう1つの態様は、一般的に上記の該精子分散液を使用して雌の哺乳類を受精するための新鮮な精子分散液を提供することである。有利には、該運動阻害剤は、源哺乳類からそれへの精子の収集、および該分散液を冷凍する必要なしに、該精子分散液の育種位置(つまり、該雌の哺乳類が受精される場所)への輸送を可能にする。従って、これは、該分散液中のより大きいパーセンテージの精子が、冷凍/解凍分散液に対して生存可能のままであることを可能にし、ここに、該分散液中の細胞を冷凍し引き続いて解凍することの困難性は、該細胞の生存性に悪影響を与えるリスクを増加する。該精子分散液中の運動阻害剤の使用、および所望により、約4℃ないし約25℃、好ましくは約10℃ないし約20℃、より好ましくは約15℃ないし約20℃、および最も好ましくは約18℃の温度での該分散液の保存および/または輸送は、該精子分散液によって受精された雌の哺乳類においてより高い受精率を可能にする。また、該精子分散液中の運動阻害剤の使用、および所望により低温保存および輸送は、該分散液中のより多くの細胞が生存性を維持するように、雌の哺乳類を受精するためのより低い精子濃度の使用を可能にする。
【0087】
一旦該精子分散液が、試料収集に関して上記でより主催に記載されたように形成されると、該分散液は、該精子が得られたまたは該精子分散液が形成された場所から1マイル以上(1.69キロ以上)離れていることもある農場または他の育種場所のような離れた場所への輸送のための容器に入れられてもよい。該分散液は、輸送の困難の結果としての損傷から、該分散液を保護するであろういずれかの容器に入れてよい。該容器は、例えば、約4℃ないし約25℃の間、より好ましくは約10℃ないし約25℃、さらにより好ましくは約15℃ないし約20℃、および最も好ましくは約18℃のような適当な温度にて該分散液を維持するために、断熱されてもよい。さらに、該分散液は、雌の哺乳類の受精における使用のための容器、次いで、該離れた場所への輸送のための容器に入れられた1以上の該受精容器に入れられてよい。一例として、該精子分散液は、1以上のストローに入れられ、該ストローは、該育種場所への輸送のためのクーラーに入れてもよい。
【0088】
該容器は、例えば、U.S.メールによって、多くの翌日配達サービスのいずれかによって、または国際宅配便によってのようなアイテムを輸送する多くのよく知られた手段のいずれかによって輸送され得る。
【0089】
本発明を詳細に記載してきて、修飾および変動は、添付の請求の範囲において定義される本発明の範囲を逸脱せずに可能であることが明白であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仕分けられていない精子を保存するための方法であって、
a.精子分散液を形成し、ここに該精子分散液は精子、精子不動性を誘導する組成物、および抗生物質を含み、次いで
b.該精子分散液を保存することを特徴とする該方法。
【請求項2】
雌の哺乳類を受精させるための方法であって、雌の哺乳類を精子分散液で受精させることを特徴とし、ここに該精子分散液が不動性精子および精子不動性を誘導する組成物を含む該方法。
【請求項3】
雌の哺乳類を受精させるための新たな精子分散液を提供するための方法であって:
a.精子分散液を形成し、ここに該精子分散液は精子および精子不動性を誘導する組成物を含み、
b.離れた場所への発送用の容器に該精子分散液を入れ、次いで
c.該精子分散液を形成後約24時間以内に、離れた場所に、該容器中の該精子分散液を発送することを特徴とする該方法。
【請求項4】
不動性精子、精子不動性を誘導する組成物、および低温保存剤を含む精子分散液。
【請求項5】
該精子分散液が約-4℃ないし約30℃で保存される前記請求項のいずれか1記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項6】
該精子分散液が少なくとも約24時間保存される前記請求項のいずれか1記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項7】
該精子分散液中の精子の濃度が少なくとも約0.04x106精子/mlである前記請求項のいずれか1記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項8】
精子不動性を誘導する該組成物が、カリウムおよび所望によりナトリウムを含み、ここにカリウム対ナトリウムのモル比が、それぞれ、1:1より大きい前記請求項のいずれか1記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項9】
精子不動性を誘導する該組成物が、カリウムおよび所望によりナトリウムを含み、ここにカリウム対ナトリウムのモル比が1.25:1より大きい前記請求項のいずれか1記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項10】
該精子分散液中の該精子が、同一種の内在性の射精された精子よりも精巣上体精子に特徴的である運動性を有する前記請求項のいずれか1記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項11】
該精子分散液が炭酸の源を含む前記請求項のいずれか1記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項12】
該分散液がNaHCO3、KHCO3、およびC6H8O7・H2Oを含む前記請求項のいずれか1記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項13】
該分散液が、水中に0.097モル/LのNaHCO3、0.173モル/LのKHCO3、0.090モル/L C6H8O7・H2Oを含む緩衝液を含む前記請求項のいずれか1記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項14】
該精子分散液が、さらに、低温保存剤を含む前記請求項のいずれか1記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項15】
該低温保存剤がグリセロールを含む請求項14記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項16】
該低温保存剤が卵黄を含む請求項14または15記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項17】
該低温保存剤が、グリセロール、TRIS、クエン酸、およびフラクトースを含む請求項14、15、または16のいずれか1記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項18】
該低温保存剤が、低温保存剤の1リットル当たり、60ml グリセロール、24.2g TRIS、13.8g クエン酸、10.0gフラクトースを含む請求項14、15、16、また17のいずれか1記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項19】
該精子分散液中の該精子が、同一種の1以上の哺乳類からである前記請求項のいずれか1記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項20】
該精子分散液中の該精子が、ウシ、ブタ、ウマ、またはイノシシよりなる群から選択される哺乳類からである前記請求項のいずれか1記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項21】
該集団のうちの1つの該精子が、少なくとも約85% X染色体を持ったまたは少なくとも約85% Y染色体担持精子細胞を含む請求項1、2または3に従属するいずれかの請求項記載の方法。
【請求項22】
該精子分散液が別々の集団に仕分けられた精子を含み、ここに、該集団のうちの1つの該精子が少なくとも約85% X染色体担持精子細胞または少なくとも約85% Y染色体担持精子細胞を含む請求項2、3または4いずれかの請求項記載の方法。
【請求項23】
該精子分散液が冷凍される前記請求項のいずれか1記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項24】
該精子分散液が冷凍されない請求項1ないし23のいずれか1記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項25】
該精子分散液が、該精子分散液による雌の哺乳類の受精前少なくとも約24時間、保存される前記請求項のいずれか1記載の方法、組合せ、または分散液。
【請求項26】
該精子分散液が、該精子分散液の形成後約24時間以内に発送される前記請求項のいずれか1記載の方法、組合せ、または分散液。

【公開番号】特開2009−100752(P2009−100752A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314417(P2008−314417)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【分割の表示】特願2007−506489(P2007−506489)の分割
【原出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(308015348)イングラン・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (4)
【氏名又は名称原語表記】Inguran, LLC
【Fターム(参考)】