説明

口内清浄剤

【課題】虫歯菌(う蝕原菌)に対して抗菌性が高い口内清浄剤を提供すること。
【解決手段】本発明の口内清浄剤は、アポラクトフェリンを含有し、該アポラクトフェリンの鉄結合度は5%以下であり、そして該アポラクトフェリンを1w/v%の濃度で含む水溶液を調製した場合に、該水溶液中の総陽イオン濃度は5mmol/L以下である。虫歯菌(う蝕原菌)に対して高い抗菌性を示す。したがって、本発明の口内清浄剤は、虫歯予防、口臭予防などに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口内清浄剤に関する。より詳細には、抗菌性を有するアポラクトフェリンを含有する口内清浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
う蝕を引き起こす要因には、微生物、歯牙、および食物の3つがある。例えば、口腔細菌叢のう蝕誘発性が高い状態、歯質のう蝕感受性の高い状態、および食生活パターンのう蝕誘発性の高い状態により、う蝕が引き起こされる。う蝕発生のメカニズムは、まず虫歯菌であるストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)が、歯垢形成酵素であるグルコシルトランスフェラーゼ(GTase)を生産し、スクロースを基質として不溶性かつ粘着性の多糖であるグルカンを合成する。合成されたグルカンが虫歯菌とともに歯の表面に付着してプラークを形成し、プラークの中で乳酸菌(Lactococcus lactis subsp. lactis)が乳酸を産生して、エナメル質を脱灰する。
【0003】
う蝕抑制効果、すなわち虫歯予防効果、を有する物質として、ラクトフェリンが病原菌付着阻止作用を有し、う蝕予防に対して効果的であることが報告されている(特許文献1)。さらに特許文献2には、ラクトフェリンを他の物質(ラクトパーオキシダーゼ、茶ポリフェノール、フッ素)と組み合わせてう蝕抑制効果を高めることが記載されている。
【0004】
ラクトフェリンは、多くの哺乳動物の体液中、例えば、乳汁中に存在する。特に、母乳の初乳には、5〜10g/L含まれ、含有されている全蛋白の30%〜70%を占めることが知られている。ラクトフェリンは、乳児の健康維持および発育に重要な蛋白であると共に、近年、抗菌作用および抗バクテリア作用を有することが明らかになり、食品工業の他、様々な分野で利用されている。
【0005】
ラクトフェリンは、1分子中に2個の鉄を結合している、分子量約80,000の鉄結合性の糖蛋白である。ラクトフェリンは、pH2のような酸性下で鉄を遊離し、アポラクトフェリンとなる。ラクトフェリンの静菌(制菌)作用に関して、以下のように考えられた。アポラクトフェリンのキレート作用によって、微生物の生育に必要とする鉄分が奪われ、その増殖が制限される。このため、生育の際に鉄分を強く要求する微生物が、ラクトフェリンの静菌(制菌)作用を受ける。このようなラクトフェリンの静菌(制菌)作用は、特に腸内環境において考察されている。このように、ラクトフェリンの静菌(制菌)作用に関してアポラクトフェリンのキレート作用が注目されている。しかし、アポラクトフェリン自体の性質については、まだ知られていない部分が多い。
【0006】
特許文献3には、ラクトフェリンを酸で加水分解することにより、特に皮膚常在病原菌およびう蝕原菌に対する抗菌性が増大する傾向にあることが記載されている。より詳細には、ウシ由来のラクトフェリンをクエン酸でpHを3以下に調整した後に高温(95℃)で5分〜3時間処理することにより、種々の鉄結合能の生成物を得、鉄結合能の低い生成物ほど皮膚常在病原菌およびう蝕原菌に対する抗菌効果が高かったことが記載されている
【特許文献1】特開平3−220130号公報
【特許文献2】特開平9−107917号公報
【特許文献3】特開平6−279310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、虫歯菌(う蝕原菌)に対して抗菌性が高い口内清浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アポラクトフェリンを含有する口内清浄剤を提供し、この口内清浄剤において、
該アポラクトフェリンの鉄結合度は5%以下であり、そして
該アポラクトフェリンを1w/v%の濃度で含む水溶液を調製した場合に、該水溶液中の総陽イオン濃度は5mmol/L以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、虫歯菌(う蝕原菌)に対して抗菌性が高い口内清浄剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(アポラクトフェリン)
本発明の口内清浄剤は、アポラクトフェリンを含有する。アポラクトフェリンとは、ラクフェリン分子中に結合されている鉄が遊離した糖蛋白分子である。本発明で使用するアポラクトフェリンは、以下の特性を有する限り、特に限定されない。
【0011】
本発明におけるアポラクトフェリンは、その分子中の鉄結合度が5%以下、好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下である。ここで、鉄結合度とは、アポラクトフェリンのモル数に対する鉄のモル数の割合をいう。鉄結合度は、分光分析によりアポラクトフェリンの吸光度を測定すること、あるいは原子吸光分析やICP分光分析によりアポラクトフェリン中の鉄量を直接測定することによって決定され得る。本発明においては、鉄結合度は、アポラクトフェリン粉末を純水に溶解して1w/v%溶液とし、これを470nmの吸光度で測定して求めたものをいう。
【0012】
本発明におけるアポラクトフェリンは、1w/v%の濃度でアポラクトフェリンを含む水溶液を調製した場合に、該水溶液中の総陽イオン濃度が5mmol/L以下である。総陽イオン濃度の決定は、アポラクトフェリン粉末を0.1N塩酸に溶解して0.1w/v%溶液を調製し、原子吸光光度法によって各陽イオン量を測定することにより各陽イオンの濃度を求め、これらを合算する。総陽イオン濃度は、アポラクトフェリン粉末に不純物として含有される塩(イオン)に相当し得る。上記の0.1N塩酸によって、ラクトフェリンに結合しているイオンではなく、その粉末に混入している塩のみが溶け出され得るためである。総陽イオン濃度は、好ましくは、3.0mmol/L以下であり、より好ましくは、1.0mmol/L以下である。
【0013】
アポラクトフェリンは、通常、ラクトフェリンを含有する水溶液のpHを、酸性側に調節して、ラクトフェリン分子が有する2価の鉄イオンを解離させることにより、製造され得る。
【0014】
アポラクトフェリンの原料となるラクトフェリンは、乳汁(例えば、牛乳)などの哺乳動物の分泌液または脱脂乳、ホエイ(乳清)などの乳汁加工物からの分離精製(例えば、カチオン交換樹脂に吸着させた後、高濃度塩類溶液で脱離させる方法、電気泳動による分離法、アフィニティークロマトグラフィーによる分離法など)を利用することによって得られたものであってもよい。さらに遺伝子組換えにより得られる種々の細胞(微生物、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞などを含む)、植物、動物などにより産生されたものであってもよい。ラクトフェリンは、医薬品、試薬などとして市販されているものであってもよい。ラクトフェリンは、好ましくは、天然物に由来する。好ましくは、乳清由来のものである。牛乳または脱脂乳から乳製品(例えば、チーズ、カゼインなど)を製造する際に発生する副産物として得られるホエイは、ラクトフェリンの供給源として好適に用いられ得る。
【0015】
アポラクトフェリンは、好適には、例えば、ラクトフェリン含有液を限外濾過する際に該液に酸を添加し、ラクトフェリンに結合している鉄イオンを解離させることによって製造され得る。ここで用いられ得る酸としては、例えば、クエン酸、塩酸、リン酸、リンゴ酸、または(0.4M以上の)酢酸が挙げられるが、クエン酸が好ましい。あるいは、アポラクトフェリンは、例えば、カチオン交換膜とアニオン交換膜とが張り合わさった構造を有する複合イオン交換膜であるバイポーラ膜とカチオン交換膜とが交互に配列されて、これらの膜により仕切られた酸室と塩基室とを有する電気透析装置を使用することによっても、好適に製造され得る。この場合、酸としては、電気透析装置での製造工程の間に産生される塩酸が用いられる。
【0016】
本発明におけるアポラクトフェリンの製造において、調節される酸性側のpHは、好ましくは0.5〜3.0であり、より好ましくは1.5〜2.5である。pHが中性に近い場合(例えば、5.5)では、得られるアポラクトフェリンの抗菌性が弱くなることがある。ラクトフェリンを含有する水溶液のpH調整剤としては、上記酸だけでなく、フタル酸、グリシンなども用いられ得る。これらのpH調整剤は、ラクトフェリンを含有する水溶液に、そのpHを上記の値に調節するに適切な量で添加される。
【0017】
ラクトフェリンを含有する水溶液のpHを酸性側へ調節する際の温度は、蛋白の変性を考慮すると高温でないほうが好ましい。通常5℃〜60℃、より好ましくは15℃〜35℃であり、さらにより好ましくは室温である。
【0018】
本発明におけるアポラクトフェリンの具体的な製造については、以下の調製例に詳述するが、アポラクトフェリンの製造方法はこれらに限定されない。本発明におけるアポラクトフェリンは、アポラクトフェリンとして市販されているものを上記の鉄結合度および総陽イオン濃度を有するように改質することによっても得られ得る。
【0019】
アポラクトフェリンの製造の際に、通常、アポラクトフェリンは水溶液の形態で得られ得る。アポラクトフェリンを用いて本発明の口内清浄剤を調製する場合、水溶液の形態で用いても、あるいは溶媒を除去して粉末化した形態で用いてもよい。
【0020】
(口内清浄剤)
本発明の口内清浄剤中のアポラクトフェリンの含有量については、剤形に応じて変わるため、特に制限はない。好ましくは0.01質量%〜20質量%であり、より好ましくは0.1質量%〜10質量%であり、さらにより好ましくは1質量%〜5質量%である。
【0021】
本発明の口内清浄剤は、口臭、う蝕、歯周病などの口腔内疾患の予防および治療を目的とする。本発明の口内清浄剤は、口腔内に適用可能である任意の形態をとり得る。本発明の外用剤の剤形としては、ローション剤、乳剤、スプレー剤、ゲル剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤などが挙げられる。本発明の口内清浄剤は、医薬品、医薬部外品、トイレタリー用品、口腔用製剤などとして使用できる。より具体的には、歯磨剤、マウスウォッシュ、スプレー、トローチなどが挙げられる。
【0022】
本発明の口内清浄剤は、上述したアポラクトフェリンに加えて、その目的、組成物の種類などに応じて、適切な成分を配合し得る。
【0023】
例えば、通常の口腔内疾患の予防または治療に用いられる、殺菌剤、抗炎症剤、止血剤、組織賦活剤など、清涼化剤としての香料などが配合され得る。
【0024】
また、溶剤、増粘剤、界面活性剤、研磨剤、甘味剤、防腐剤、色素などが配合され得る。
【0025】
例えば、溶剤としては、エチルアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、マルチット、ラクチツトなどが挙げられる。増粘剤としては、カルボキシビニルポリマーおよび/またはその塩、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カラギーナン、モンモリナイト、ゼラチンなどが挙げられる。
【0026】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン性界面活性剤が挙げられる。より具体的には、ラウリル硫酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル、ラクチトール脂肪酸エステル、マルチトール脂肪酸エステル、ステアリン酸モノグリセライド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(10、20、40、60、80、100モル)硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンモノラウリルエステルなどのポリエチレンオキサイドと脂肪酸、アルキロールアマイド、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインなどが挙げられる。
【0027】
研磨剤としては、沈降性シリカ、ジルコノシリケートなどのシリカ系研磨剤、リン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【0028】
甘味剤としては、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、ステビアエキス、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン等、防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウムなどが挙げられる。着色剤としては、青色1号、黄色4号、二酸化チタンなどが挙げられる。
【0029】
なお、これらの成分の配合量は、本発明における口内清浄効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0030】
本発明の口内清浄剤は、必要に応じて、上述したような当業者が通常用いる成分を含有し、当業者が通常用いる方法に従って調製され得る。アポラクトフェリンは、口内清浄剤に、当業者が通常用いる手順によって添加、配合または含有され得る。例えば、水またはアルコールなどの溶媒に予め溶解後、他の配合成分と混合することによって、または粉末のまま他の配合成分と攪拌混合することによって、口内清浄剤中に添加、配合または含有させ得る。
【0031】
本発明の口内清浄剤は、上記で説明したような形態とされ、その形態での投与または適用に通常用いられる手段(例えば、スプレー、うがい、口腔内での溶解)に従って、個体に投与または適用され得る。
【0032】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
(調製例1:種々の酸処理によるアポラクトフェリンの製造)
マイクローザUFラボテスト機(LX−22001;旭化成ケミカルズ株式会社))に、同社製のUFモジュールであるLOV(中空糸モジュール:膜内径0.8mm、有効膜面積41m、膜素材:ポリアクリロニトリル、公称分画分子量:50,000)を組み込んだ限外濾過装置を用いて、以下のようにアポラクトフェリンを製造した。
【0034】
50mg/mLのラクトフェリン(フォンテラ製;鉄結合度は約20%)溶液を10kg用いた。アポラクトフェリンの製造工程において、ラクトフェリンを以下のいずれかの酸で処理した:0.1Mクエン酸、0.1M乳酸、0.1M塩酸、0.1Mリンゴ酸、0.1M酢酸、または0.4M酢酸。まず、上記ラクトフェリン溶液を装置の供給タンクに投入し、10分間循環させた後、5秒間逆方向に循環させて、溶液を濃縮した。このとき、UF膜の入口および出口の圧力、循環液流量を、それぞれ0.12Mpa、0.08Mpa、15L/分と設定した。この操作を非透過の濃縮液が半減するまで繰り返した(これを1ラウンドとする)。次いで、ラクトフェリン溶液の代わりにクエン酸溶液をタンクに投入し、上と同様の操作を2ラウンド行った。次いで、8MΩ・cm以上の純水をタンクに投入し、上記の操作を5ラウンド行い、非透過の濃縮液中に残存する酸を除去した。なお、循環液の温度は、製造工程を通して10〜28℃の範囲内であり、pHは2〜3であった。
【0035】
上記製造工程により、40kgの濃縮液を得た。次いで、濃縮液を凍結乾燥し、9.5gの白色粉末を得た。
【0036】
各酸処理により得られた粉末がアポラクトフェリンであることおよびアポラクトフェリンの純度を、粉末を純水に溶解後、BIOXYTECH(登録商標)Lacto f EIATM(OXIS International Inc. 米国・オレゴン)を用いて抗体定量を行うことにより決定した。アポラクトフェリンの純度はそれぞれ、以下の通りであった:0.1Mクエン酸では93%、0.1M乳酸では94%、0.1M塩酸では96%、0.1Mリンゴ酸では91%、0.1M酢酸では91%、0.4M酢酸では91%。
【0037】
さらに、各酸処理により得られた粉末の鉄結合度を、粉末を純水に1w/v%の濃度になるように溶解し、次いで、アポラクトフェリンに結合している鉄量を470nmの吸光度で測定することにより決定した。得られたアポラクトフェリンの鉄結合度をそれぞれ表1に示す。ここで、鉄結合度は、鉄結合度(%)=(1w/v%溶液中の鉄モル数/1w/v%溶液中のアポラクトフェリンモル数)×100によって算出した。
【0038】
【表1】

【0039】
(調製例2:種々のクエン酸処理回数によるアポラクトフェリンの製造)
クエン酸処理回数を増減させたこと以外は、上記調製例1に記載の手順に従ってアポラクトフェリン粉末を製造し、鉄結合度を測定した。得られたアポラクトフェリンの鉄結合度を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
(実施例1:大腸菌を用いたアポラクトフェリン抗菌試験)
上記調製例1で製造した種々の酸処理によるアポラクトフェリン粉末について抗菌性を調べた。対照として、ラクトフェリン粉末(フォンテラ製)を用いた。
【0042】
独立行政法人・製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門(NBRC)から購入した大腸菌(E. coli)(NBRC 3972)をSCDブイヨン(日水製薬株式会社)5mL中に継代培養法(液体)で保存した。この保存された大腸菌液50μLをSCDブイヨン5mL中に接種し、振盪水浴中で30℃にて16時間培養した(前培養)。前培養した菌液を滅菌水で希釈し、10倍までの10倍段階希釈液を調製した。96ウェル平底マイクロプレート(BD Falcon)の各ウェルに、アポラクトフェリンまたはラクトフェリン粉末を滅菌水に溶解し倍数希釈した系列を50μL、2倍濃度のSCDブイヨンを100μL、および上記で調製した希釈液のうち10希釈の菌液を50μL加えた。上記マイクロプレートを35℃にて24時間培養した。培養後、マイクロプレートはマイクロプレートリーダー(マルチスキャンJX:Thermo Labsystems)にて、630nmの波長で濁度(吸光度)を測定し、抗菌作用を確認した。
【0043】
図1は、各酸処理により得られたアポラクトフェリンまたはラクトフェリンを種々の濃度で添加した場合の大腸菌培養液における吸光度を示すグラフである。横軸は培養液中のアポラクトフェリンまたはラクトフェリン濃度(%)を示す。縦軸は吸光度を示し、吸光度が低いほど生菌数が少ない、すなわち抗菌活性が高いことを表す。図1から明らかなように、ラクトフェリンでは抗菌作用があまり見られないのに対し、アポラクトフェリンでは、添加濃度の増加と共に抗菌作用が見られた。特に、クエン酸処理によって得られたアポラクトフェリンの抗菌効果が最も優れていた。
【0044】
(実施例2:大腸菌を用いたアポラクトフェリン抗菌試験における鉄結合度の影響)
上記調製例2で得られたアポラクトフェリン、市販のラクトフェリン(フォンテラ製)、および市販のアポラクトフェリン(タツア・デイリー製)を用いて、上記実施例1と同様にして大腸菌に対する抗菌性を調べた。ここで市販のラクトフェリンの鉄結合度は19.8%であり、そして市販のアポラクトフェリンの鉄結合度は4.39%であった。
【0045】
図2は、種々の鉄結合度のアポラクトフェリンを種々の濃度で添加した場合の大腸菌培養液における吸光度を示すグラフである。横軸はアポラクトフェリン添加濃度(%)を示し、縦軸は吸光度を示す。吸光度が低いほど生菌数が少ない、すなわち抗菌活性が高いことを表す。図2から、鉄結合度が19.8%であったラクトフェリンは吸光度が低下せず、抗菌作用が見られなかった。鉄結合度が5%以下のアポラクトフェリンでは、添加量の増大と共に吸光度が低下し、優れた抗菌作用が見られた。さらに、鉄結合度が約4%以下のアポラクトフェリン(鉄結合度4.09%、鉄結合度2.95%、鉄結合度2.2%、鉄結合度1.66%、および鉄結合度1.04%)では、5w/v%の濃度でアポラクトフェリン含む水溶液においても、十分な抗菌性が見られた。
【0046】
(実施例3:大腸菌を用いたアポラクトフェリン抗菌試験における塩の影響)
上記実施例1の大腸菌の抗菌試験において、クエン酸処理アポラクトフェリンを用いて、塩の影響を調べた。1w/v%のクエン酸処理アポラクトフェリン溶液に種々のイオン濃度となるように塩化ナトリウムを加えたこと以外は、実施例1と同様の手順に従って抗菌性を調べた。
【0047】
図3は、種々の濃度の塩化ナトリウムおよび2.0w/v%アポラクトフェリンを含む大腸菌培養液における吸光度を示すグラフである。横軸は、塩化ナトリウム濃度(mmol/L)を示し、縦軸は吸光度を示す。吸光度が低いほど生菌数が少ない、すなわち抗菌活性が高いことを表す。図3では、塩添加濃度が増大するにつれて、抗菌作用が減少していた。したがって、アポラクトフェリン粉末に不純物として混在され得る塩の量が抗菌性に影響を与えると理解される。さらに、そのような塩の量は、アポラクトフェリンを1%溶液とした場合に、全イオンに対して5mmol/L以下であることが望ましいことが明らかとなった。
【0048】
そこで、調製例2にて得た鉄結合度2.95%のアポラクトフェリンの総陽イオン濃度を決定した。アポラクトフェリンの凍結乾燥粉末に0.1N塩酸を加え、0.1w/v%アポラクトフェリン溶液を調製し、原子吸光光度法によってNa、K、Ca、Mg、およびCuについて測定することにより、これらの各陽イオンの濃度を求め、合計したものを総陽イオン濃度とした。比較のために、市販のラクトフェリンおよびアポラクトフェリンの総陽イオン濃度も決定した。この結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
調製例2にて得た鉄結合度2.95%のアポラクトフェリンは、総陽イオン濃度が5mmol/L以下であった。実施例2において、市販のアポラクトフェリン(タツア・デイリー製)では、鉄結合度が5%以下であったにも関わらず、吸光度は一定以上には低下しかった。このアポラクトフェリンは、本実施例に示されるように、総陽イオン濃度が5mmol/Lを上回る。したがって、アポラクトフェリン粉末の鉄結合度と総陽イオン濃度との両方が抗菌性に影響すると考えられた。
【0051】
(実施例4:所定の鉄結合度および総陽イオン濃度を有するアポラクトフェリンの抗菌試験)
上記実施例3の結果を考慮して、鉄結合度が5%以下であり、かつ総陽イオン濃度が5mmol/L以下であるアポラクトフェリンの抗菌性についてさらに検討した。以下の3種のアポラクトフェリンを使用した:試料A(市販のアポラクトフェリン:鉄結合度4.39%、総陽イオン濃度14.7mmol/L);試料B(試料Aを調製例1の方法に従って温度25±1℃、pH2.6にて再処理した:鉄結合度3.89%、総陽イオン濃度4.5mmol/L);および試料C(上記調製例2にて得られたアポラクトフェリン:鉄結合度4.56%、総陽イオン濃度4.4mmol/L)。
【0052】
抗菌性については、実施例1と同様の手順で行った。なお、アポラクトフェリンの最終濃度は20mg/mLとした。
【0053】
試料A、B、およびCを添加した場合の大腸菌の培養液における吸光度を示すグラフを図4に示す。縦軸は吸光度を示し、吸光度が低いほど生菌数が少ない、すなわち抗菌活性が高いことを表す。鉄結合度が5%以下であるが総陽イオン濃度が5mmol/Lを上回る試料Aでは、アポラクトフェリンを添加していない培養液と比較して吸光度にあまり差異は見られなかった。これに対して、鉄結合度が5%以下であり、かつ総陽イオン濃度が5mmol/Lである試料BおよびCは、アポラクトフェリンを添加していない培養液と比較して吸光度が低く、良好な抗菌性を示した。
【0054】
(実施例5:培養虫歯菌に対するアポラクトフェリンの効果)
上記調製例2にて得られた鉄結合度2.95%のアポラクトフェリンについて、2種のストレプトコッカス・ミュータンス菌(エアブラウン株式会社より入手:25175株(S.mutans MT)および35668株(S.mutans XC))に対するその発育抑制効果を調べた。対照として、ラクトフェリン(鉄結合度約20%;フォンテラ製)を使用した。
【0055】
試験管中に入れたTodd Hewitt Broth(TH培地:関東化学株式会社製)5mLにミュータンス菌を接種し、インキュベータ上で37℃にて24時間静置培養した。
【0056】
アポラクトフェリン粉末およびラクトフェリン粉末を水に溶解して8w/v%水溶液とした。次いで、この8w/v%水溶液を希釈して、4w/v%、2w/v%、1w/v%、および0.5w/v%の各水溶液を作製した。これら各水溶液50μLおよび培養したミュータンス菌(10希釈)の菌液50μL、さらにTH培地100μLをマイクロプレートに入れ、37℃にて24時間培養した。培養後、マイクロプレートを595nmで吸光度を測定して25175株の細菌濃度を測定し、630nmで吸光度を測定して35668株の細菌濃度を測定した。
【0057】
図5は、種々の濃度のアポラクトフェリン(Apo-Lfn)またはラクトフェリン(Lfn)を添加した場合の各ミュータンス菌培養液における吸光度を示すグラフである(A:ミュータンス菌25175株、B:ミュータンス菌35668株)。横軸はアポラクトフェリンまたはラクトフェリン添加濃度(%)を示し、縦軸は吸光度を示す。吸光度が低いほど生菌数が少ない、すなわち抗菌活性が高いことを表す。A:ミュータンス菌25175株およびB:ミュータンス菌35668株とも、図5に示すように、アポラクトフェリンの添加量の増大と共に吸光度が低下し、抗菌作用を示した。このことから、アポラクトフェリンは、強いミュータンス菌抑制作用を示すことがわかった。
【0058】
(実施例6:ヒト口腔中のミュータンス菌数レベル試験)
健常ボランティアを20名募集し、医師による健康診断を行い、本試験の試験基準に満たす者のみをエントリーした。以下のようにグループ分けし、処置を行った:
Aグループ(7名):1日目−無処置、2日目−アポラクトフェリン(ApoLfn)うがい、3日目−水うがい;
Bグループ(7名):1日目−水うがい、2日目−無処置、3日目−ApoLfnうがい;および
Cグループ(6名):1日目−ApoLfnうがい、2日目−水うがい、3日目−無処置。
【0059】
ここで、「無処置」とは、一切の口内洗浄を行わないことをいい、「水うがい」とは、150mLの水道水で3回に分けて、1回5秒間口腔内をうがいによって洗浄することをいい、そして「アポラクトフェリン(ApoLfn)うがい」とは、上記調製例1で製造されたアポラクトフェリン2w/v%水溶液150mLを3回に分けて、1回5秒間で口腔内をうがいによって洗浄することをいう。
【0060】
試験前日21時以降は食事をせず、歯磨きを禁止した。試験当日の3時以降、飲水および喫煙も禁止した。さらに、前日より激しい運動を禁止した。朝7時に各グループのメンバーに対し、それぞれ記載の処置を行った。9時に集合し、リラックスした状態で、キット「オーラルテスター(登録商標)」(株式会社トクヤマデンタル)に含まれるガムを5分間噛んでもらった。唾液を容器に出してもらい、シリンジで0.5mL吸い取り、上記キットに含まれるシリンジフィルターを装着し、濾過した。次いで、上記キットに含まれる処理液1を全量吸い取り、再び濾過した。次いで、上記キットに含まれる処理液2を全量吸い取り、濾過し、そしてそのまま2分間放置した。次いで、上記キットに含まれる処理液3を全量吸い取り、そして上記キットに含まれる処理液トレーに全量排出した。回収した液(抗原)をミュータンス用スポイトを使用して、0.1mL吸い取り、クロマトデバイスのサンプル窓に全量添加した。添加10〜20分後に、判定用チャートを用いて、「少ない(スコア0)」、「やや多い(スコア1)」、「多い(スコア2)」、および「非常に多い(スコア3)」で判断した。2日目および3日目も、同様に試験した。したがって、同一被験者が、3通りの各処置を受けたことになる。結果は、処置毎にまとめ、被験者20名(脱落者なし)の平均±S.D.で表した。
【0061】
図6は、に対する水うがいおよびアポラクトフェリンうがいにおける口腔内のミュータンス菌数スコアを示すグラフである。図中、「Control群」は、無処置の結果をまとめた群であり、「水うがい群」は、水うがい処置の結果をまとめた群であり、「ApoLfnうがい群」は、アポラクトフェリンうがい処置の結果をまとめた群である。図6に示すように、アポラクトフェリンうがい群は、Control群に対して、口腔中のミュータンス菌が有意に減少した(p<0.01)。したがって、アポラクトフェリンでのうがいにより、口腔中のミュータンス菌が抑制された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の口内清浄剤は、虫歯菌(う蝕原菌)に対して高い抗菌性を有する。また、安全性が高く副作用を引き起こし得ない。したがって、本発明の口内清浄剤は、虫歯予防、口臭予防などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】各酸処理により得られたアポラクトフェリンまたはラクトフェリンを種々の濃度で添加した場合の大腸菌培養液における吸光度を示すグラフである。
【図2】種々の濃度の塩化ナトリウムと共にアポラクトフェリンを添加した場合のE. coli培養液における吸光度を示すグラフである。
【図3】種々の鉄結合度のアポラクトフェリンを種々の濃度で添加した場合のE. coli培養液における吸光度を示すグラフである。
【図4】種々の鉄結合度および種々の総陽イオン濃度を有するアポラクトフェリンである試料A、B、およびCを添加した場合の大腸菌の培養液における吸光度を示すグラフである。
【図5】種々の濃度のアポラクトフェリンまたはラクトフェリンを添加した場合の各ミュータンス菌培養液における吸光度を示すグラフである
【図6】水うがいおよびアポラクトフェリンうがいにおける口腔内のミュータンス菌数スコアを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アポラクトフェリンを含有する口内清浄剤であって、
該アポラクトフェリンの鉄結合度が5%以下であり、そして
該アポラクトフェリンを1w/v%の濃度で含む水溶液を調製した場合に、該水溶液中の総陽イオン濃度が5mmol/L以下である、
口内清浄剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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