説明

口腔内レンサ球菌の測定方法

【課題】 ミュータンスレンサ球菌数を口腔内レンサ球菌数で除した値である齲蝕菌比率を求める際に必要になる、口腔内レンサ球菌を迅速簡便に測定する方法を提供すること。
【解決手段】 酸性プロリンリッチタンパクと口腔内レンサ球菌とを接触させて、該酸性プロリンリッチタンパクと口腔内レンサ球菌の結合物を形成させ、この酸性プロリンリッチタンパクと口腔内レンサ球菌の結合物量を測定することで、迅速簡便に口腔内レンサ球菌を測定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内に存在する微生物、具体的には口腔内レンサ球菌の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ミュータンスレンサ球菌と呼ばれる一群の乳酸発酵性細菌が、齲蝕発症に深く関わっていることが知られている。
【0003】
これらミュータンスレンサ球菌群は、ストレプトコッカス・クリセタス(S.cricetus、血清型a)、ストレプトコッカス・ラッタス(S.rattus、血清型b)、ストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans、血清型c、e、f)、ストレプトコッカス・フェルス(S.ferus、血清型c)、ストレプトコッカス・マカカ(S.macacae、血清型c)、ストレプトコッカス・ソブリヌス(S.sobrinus、血清型d、g)、ストレプトコッカス・ドウネイ(S.downey、血清型h)として、血清学的、遺伝学的に異なる7種の型に分類されている。
【0004】
従来、これらミュータンスレンサ球菌の唾液中の濃度が10〜10個/mLの場合には、齲蝕の危険あり、10個/mL以上の場合は特に危険であると言われており、人の口腔内におけるミュータンスレンサ球菌の存在量を知ることで、その人の齲蝕危険度の判定を行なうことが可能である。一般に、これらミュータンスレンサ球菌の濃度は、バシトラシンを入れた培地を用いて唾液中のミュータンスレンサ球菌を選択的に培養してコロニー数を調べることにより測定されている(そのための測定キットも市販されている)。そして、唾液中の各ミュータンスレンサ球菌の濃度についても、同様に培養を行なって得られたコロニーの中から各菌のコロニーを同定し、その数を調べることにより知ることができる。なお、同定の方法としては、糖発酵試験等の生化学的方法、DNAプローブを用いる遺伝学的方法、血清型特異的抗体を用いる免疫学的方法等が知られている。
【0005】
近年、ミュータンスレンサ球菌の中でヒトの口腔に存在するのは主にストレプトコッカス・ミュータンスとストレプトコッカス・ソブリヌスの2菌種であることが明らかとなった。特に、ストレプトコッカス・ミュータンスはヒト口腔から高頻度に分離され(9割以上の人から分離される)、齲蝕の発生に深く関連することが判明した。
【0006】
現在、口腔内のミュータンスレンサ球菌の測定法としては培養法が広く実施されている。しかし、培養法は、培養操作が不可欠であること、更に分離したコロニーの形態からの菌種の同定には熟練した手技が必要であることから、検査時間および操作の煩雑さの点で問題があったが、近年、各種モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体を用いた免疫学的測定方法が報告された。これらの方法は培養する必要が無く、検出に要する時間が大幅に短縮できるという利点がある(例えば非特許文献1参照)。
【0007】
唾液中のミュータンスレンサ球菌数の測定結果は、唾液採取条件、唾液採取から測定までの保存条件等の影響を受ける。唾液中のミュータンスレンサ球菌数が同等であっても、唾液採取条件や保存条件を一定にしないと、ミュータンス菌数が変動してしまい、正確に齲蝕危険度の判定ができない場合がある。例えば、ミュータンスレンサ球菌測定に使用する被検体の採取は、通常はガム等の咀嚼物を口全体の歯をまんべんなく使って一定時間噛み、唾液を採取することで実施されるが、ガムを特定の部位のみで噛んでしまったり、ガムを噛む時間が短すぎたりすると、口腔内のミュータンスレンサ球菌が十分に採取できず本来のミュータンスレンサ球菌数より少ない菌数となる可能性がある。また、例えば、培養法で菌数を測定する場合は、唾液採取から測定までの保存条件によっては菌が死んでしまい、本来の菌数より少ない菌数となる可能性がある。
【0008】
口腔内には、様々な細菌が存在しているが、最も多い菌群は、通性嫌気性菌のレンサ球菌で(以後、口腔内レンサ球菌と略す場合がある)、おおよそ全体の半分を占めているといわれている。口腔内レンサ球菌は多数の菌種の混合物であり、ミュータンスレンサ球菌も口腔内レンサ球菌に含まれる。これら口腔内レンサ球菌は、全ての人の口腔内に、一般的には唾液中に10個/mL程度存在すると言われている。
【0009】
そこで、唾液中のミュータンスレンサ球菌数と口腔内レンサ球菌数とを測定し、ミュータンスレンサ球菌数を口腔内レンサ球菌数で除した値(以後齲蝕菌比率という場合がある)を算出することで、上記唾液採取や唾液保存による変動を補正する方法が知られている(例えば非特許文献2参照)。前記の理由等により、採取した唾液中のミュータンスレンサ球菌数が本来のミュータンスレンサ球菌数より少なくなってしまったとしても、口腔内レンサ球菌数も同様に減少するので、齲蝕菌比率を算出することで、サンプリング時の菌数のブレを補正することが可能である。この方法によれば、齲蝕菌比率が0.1〜1%の場合が齲蝕の危険小、1〜5%の場合が齲蝕の危険中、5%以上の場合が齲蝕の危険大というように、安定して齲蝕危険度を判定することが可能となるが、口腔内レンサ球菌は多種類の菌種の混合物であるため、迅速に測定できる免疫学的測定法で測定するためには、多数の抗体を準備する必要があるため非現実的であり、口腔内レンサ球菌の測定は、結果が判明するまで日数を要する培養法により実施されているという問題があった。迅速な口腔内レンサ球菌の測定方法が望まれていた。
【0010】
【非特許文献1】大森かをる,私の愛すべき道具たち,デンタルダイヤモンド 第31巻,2006年,114−118
【非特許文献2】花田信弘監修,「ミュータンスレンサ球菌の臨床生物学」 第1版,クインセッテンス出版株式会社,2003年,152−164
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、口腔内レンサ球菌を迅速簡便に測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は上記課題を解決するために、鋭意検討してきた。その結果、唾液中に存在する糖タンパク質であって、口腔内レンサ球菌に結合することが知られている酸性プロリンリッチタンパク(acidic Proline−rich Proteins,以下PRPsと略す場合がある)が、口腔内レンサ球菌に結合する性質を利用することで、口腔内レンサ球菌を迅速簡便に測定できることを見出した。そして、更に検討を進め、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、酸性プロリンリッチタンパクと口腔内レンサ球菌とを接触させることで酸性プロリンリッチタンパクと口腔内レンサ球菌の結合物を形成させ、該酸性プロリンリッチタンパクとレンサ球菌の結合物の量を測定することを特徴とする口腔内レンサ球菌の測定方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の口腔内レンサ球菌の測定方法により、迅速簡便に口腔内レンレンサ球菌を測定することが可能となり、例えば、ミュータンスレンサ球菌の迅速な測定法(例えば免疫学的測定法)と組合わせることで、迅速に齲蝕菌比率を算出することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の口腔内レンサ球菌の測定法では、唾液中の糖タンパク質である酸性プロリンリッチタンパク(PRPs)の口腔内レンサ球菌に結合する性質を利用して、口腔内レンサ球菌を測定する。
【0016】
本発明における口腔内レンサ球菌とは、口腔内に存在する通性嫌気性のストレプトコッカス(Streptococcus)属の細菌で、ミティス−サリバリウス培地(以下、MS培地と略す場合がある)で嫌気培養した場合に生育してくる細菌を指す。具体的には、ストレプトコッカス・クリセタス(S.cricetus)、ストレプトコッカス・ラッタス(S.rattus)、ストレプトコッカス・ミュータンス(S.mutans)、ストレプトコッカス・フェルス(S.ferus)、ストレプトコッカス・マカカ(S.macacae)、ストレプトコッカス・ソブリヌス(S.sobrinus、)、ストレプトコッカス・ドウネイ(S.downey)等のミュータンスレンサ球菌、ストレプトコッカス・サリバリウス(S.salivarius)、ストレプトコッカス・サンギス(S.sanguis)、ストレプトコッカス・ミティス(S.mitis)、ストレプトコッカス・アンギノーサス(S.anginosus)、ストレプトコッカス・ゴルドニイ(S.gordonii)、ストレプトコッカス・オラリス(S.oralis)等が該当する。
【0017】
本発明の口腔内レンサ球菌の測定方法で使用する被検体としては、上記口腔内レンサ球菌を含有するものであれば制限なく使用できる。例えば、微生物の培養液、微生物の懸濁液、食品およびその懸濁液、または、唾液、血漿、血清、尿等の体液、或いは歯垢等が挙げられる。齲蝕菌比率を検査する場合には、唾液、歯垢が特に好適に使用される。なお、唾液及び歯垢は、被検体中にそれぞれ単独で含まれていてもよいし、混合物として含まれていてもよい。
【0018】
例えば歯垢のみを含む被検体は、口腔内をうがい等により洗浄し唾液成分を除去した後に採取した歯垢を用いて調製すればよい。歯垢の採取は、口腔内の特定部位の歯垢をつまようじ、綿棒、スパチュラ等の従来公知の方法で採取することも出来るし、口腔内より無作為に採取することも出来る。このように採取された歯垢を緩衝液等の液体に懸濁し被検体とすればよい。
【0019】
例えば、歯垢と唾液の混合物を被検体とする場合は、パラフィンペレット、ガム等の咀嚼物を30秒〜10分間噛ませ、分泌された唾液を吐き出させることにより採取できる。また、唾液のみを含む被検体液は、例えば、スポイト、ピペット等の従来公知の方法で採取された唾液を用いて調製することが出来る。採取された唾液は、そのまま或いは、緩衝液等の液体で適宜希釈して被検体とすればよい。
【0020】
本発明で使用するPRPsとは、唾液中に存在する糖タンパク質で、以下の3つの特徴を有するものを指す(例えば、Infection and Immunity;56巻;1988年;439−445,Journal of Dental Research;68巻;1989年;1303−1307)。1)口腔内レンサ球菌の表面に存在するレセプターに結合する、2)分子中にプロリンを多く含む(プロリン含有量が10%以上、好適には15%以上)、3)酸性の等電点(pH2−5)を有する。
【0021】
以下PRPsの特徴の確認方法を具体的に説明する。
【0022】
口腔内レンサ球菌への結合は、例えば、酵素免疫測定法(以下ELISA法と略す場合がある)により確認することができる。ELISA法は、例えば、新生化学実験講座12 分子免疫学III(東京科学同人 1990年)88−99ページ記載の方法に従って実施できる。具体的手順を以下に説明する。まず、一定量の精製したPRPs溶液を96穴イムノプレートに添加し、一定時間放置することで、溶出画分に含まれる物質をイムノプレートに吸着させ、さらにブロッキングを行う。次いで、口腔内レンサ球菌(例えばストレプトコッカス・ミュータンス)を一定量ウェルに添加すると、ウェルに固定化されたPRPs量に比例した量の菌体が結合する。次いで、口腔内レンサ球菌に対する抗体(例えば抗ストレプトコッカス・ミュータンス抗体)を添加後、酵素標識した二次抗体を添加し、酵素活性を測定することで、精製したPRPsの口腔内レンサ球菌への結合が確認できる。
【0023】
プロリン含有量は、例えば、新生化学実験講座1 タンパク質II(東京科学同人 1990年)25−53ページ記載の、タンパク質の組成分析法(アミノ酸分析法)に従って調べることができる。精製したPRPsを塩酸等で加水分解し、タンパク質中に含まれるアミノ酸を、逆相カラムクロマトグラフィー、またはイオン交換カラムクロマトグラフィーで分離定量することで、プロリン含量を求めれば良い。
【0024】
PRPsの等電点は、例えば、新生化学実験講座1 タンパク質I(東京科学同人 1990年)361−364ページ記載の等電点電気泳動法により調べることができる。等電点電気泳動法はタンパク質の等電点により分画する方法なので、PRPsと等電点マーカー(等電点既知の複数のタンパク質の混合物)を同時に等電点電気泳動法により分離し、電気泳動後のゲルをクマシーブリリアントブルー等の色素でタンパク質を染色し、等電点マーカーとPRPsのタンパク質バンドの位置を確認することでPRPsの等電点を確認すれば良い。
【0025】
PRPsには、部分的にアミノ酸の置換、欠失、挿入等が生じた複数の分子種が存在することが知られている。従って、PRPsは単一のアミノ酸配列を持つ糖タンパク質ではなく、前記1)〜3)の特徴を持つ複数の糖タンパク質の集団の総称であると言える。本発明のPRPsとしては、複数の分子種の混合物を用いても良いし、単一の分子種を用いても良い。
【0026】
本発明で使用するPRPsは、例えば、Infection and Immunity;56巻;1988年;439−445ページに記載されているように、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー、イオン交換樹脂カラムクロマトグラフィー等、タンパク質の精製で従来用いられているカラムクロマトグラフィー等の方法を組み合わせることで精製することができる。
【0027】
上記公知の精製法で調製したPRPsは、通常、PRPsに加えてPRPs以外の唾液中に存在する成分(タンパク質等)を夾雑物として含有する場合が多い。PRPsの精製に使用した唾液の種類、精製方法等により該夾雑物の種類、含量は変動するが、該夾雑物が、口腔内レンサ球菌に結合するというPRPsの作用を妨害することがない限り(具体的には、後述する口腔内レンサ球菌測定法に精製したPRPsを適応した場合に10個/mLオーダーの口腔内レンサ球菌が検出可能であれば)唾液から精製したPRPsが夾雑物を含有していても、本発明のPRPsとして制限なく使用することができる。精製PRPs中の夾雑物が多いと、口腔内レンサ球菌の測定感度が低下する場合があるので、本発明に使用するPRPsは、PRPsの含有率が50%以上であることが望ましい。PRPsの含有率が70%以上であると、後述する固定化PRPs調製の容易さ等の理由から更に好適である。
【0028】
精製PRPs中のPRPs含有率は、例えば、新生化学実験講座1 タンパク質I(東京科学同人 1990年)356−387ページ記載のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法で(以下SDS−PAGEと略す場合がある)調べることができる。SDS−PAGEは分子量により分画する方法なので、PRPs画分をSDS−PAGEにより分離し、電気泳動後のゲル中のタンパク質をクマシーブリリアントブルー、アミドブラック等のタンパク質に結合する色素で染色し、全タンパク質バンドに対するPRPsバンドの占める割合を求めれば良い。一般的にPRPsの分子量は1万−3万であることが知られているので、全タンパク質バンドに対する分子量1万−3万のバンドの占める割合を求めれば良い。
【0029】
以下、タンパク質に結合する色素による染色の具体的方法を、クマシーブリリアントブルーによる染色を例として説明する。電気泳動終了後のゲルを、タンパク質固定液(例えば、10%トリクロロ酢酸、50%メタノール−7%酢酸、等)に10分〜2時間浸して、ゲル内のタンパク質を固定化する。次いで、ゲルを、タンパク質固定液にクマシーブリリアントブルーを0.1〜0.5%となるように溶解させた染色液中に10分〜2時間浸しタンパク質を染色する。染色後のゲルを脱色液(例えば、5%メタノール−7%酢酸)に浸し、バックグランドの脱色を行なった後、タンパク質バンドを観察する。
【0030】
電気泳動後のゲルの染色法としては、PRPsは糖タンパク質であるので、上記のタンパク質に結合する色素による染色だけでなく、例えば、新生化学実験講座3 糖質I(東京科学同人 1990年)763−767ページ記載の糖を染色する方法を採用しても良い。この場合、糖鎖を含有しないタンパク質は染色されないので、本染色法と上記タンパク質を染色する方法を組合わせることによって、タンパク質に糖鎖が含まれるかどうか(即ち糖タンパク質であるかどうか)を確認することができる。以下、代表的な糖鎖染色法である過ヨウ素酸シッフ染色(以下PAS染色と略す場合がある)を例に、染色手順を具体的に説明する。電気泳動終了後のゲルを、タンパク質固定液(例えば、10%トリクロロ酢酸、50%メタノール−7%酢酸、等)に10分〜2時間浸して、ゲル内のタンパク質を固定化する。次いで、ゲルを、酸化溶液(例えば、1%過ヨウ素酸水溶液)中に10分〜1時間浸し、イオン交換水でゲルを洗浄する。次に、ゲルをシッフ試薬中に10分〜1時間浸した後、還元溶液(例えば、0.5%メタ亜硫酸水素ナトリウム)中に10分〜1時間浸す。最後にイオン交換水でゲルを洗浄し、糖鎖を含むタンパク質のバンドを観察する。PAS染色で使用するシッフ試薬の代表的な調製方法を以下に示す。1gの塩基性フクシンを200mLの沸騰イオン交換水に溶解し、50℃に冷却、濾過後、濾液に1N塩酸を20mL添加し、25℃にしてメタ亜硫酸水素ナトリウムを1g添加、24時間暗所に放置してから使用する。
【0031】
夾雑物を含むPRPs画分のプロリン含量を分析する目的でアミノ酸分析を行なう場合、夾雑物量が少なければ(例えば、前記PRPs含有率が90%以上の場合)そのまま通法に従ってPRPs画分を加水分解し、分析しても差し障りないが、夾雑物量が多い場合、PRPsを更に精製し夾雑物を取り除いてからアミノ酸分析する必要がある。この場合は、例えば、新生化学実験講座1 タンパク質II(東京科学同人 1990年)27−28ページに記載されているように、SDS−PAGEによりPRPsと夾雑物を分離し、ゲルからPVDF膜にタンパク質を転写した後、PVDF膜のPRPsのバンド部分のみを切り出し、加水分解後アミノ酸分析すれば良い。
【0032】
以下、カラムクロマトグラフィーによる唾液からのPRPsの精製法を詳細に説明する。唾液は、例えば、ガム等の咀嚼物を噛ませ採取した刺激唾液が使用できる。最初に該唾液を遠心分離し不溶物を除去すると後のカラム操作が簡便になり好適である。次いでカラムクロマトグラフィーにより精製する。カラムクロマトグラフィーとしては、例えば、新生化学実験講座1 タンパク質I(東京科学同人 1990年)161−327ページ記載の種々のカラムクロマトグラフィー(イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、疎水性クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー等)が制限なく利用できる。これらカラムクロマトグラフィーは、原理の異なる方法を組み合わせて使用すると、PRPsの純度が上がり好適である。PRPsは前述したように等電点が酸性(pH2−5)で、分子量が1万−3万程度であるので、この性質を利用して精製すれば良く、例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィーとゲル濾過カラムクロマトグラフィーの組み合わせが好適である。
【0033】
イオン交換カラムクロマトグラフィーには、例えば、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂等従来公知のイオン交換樹脂が制限なく使用することができる。イオン交換樹脂の具体例としては、ジエチルアミノエチル(以下DEAEと略す場合がある)基、第四級アミノエチル基等のアニオン交換基、または、カルボキシメチル基、スルホプロピル基等のカチオン交換基を、セルロース、デキストラン、アガロース、親水性アクリルアミド系ポリマー、親水性ビニルポリマー等のクロマトグラフィー用樹脂に結合させたものを示すことができる。PRPsの等電点が酸性であることから、アニオン交換樹脂を使用することが好適である。アニオン交換樹脂でも特にDEAE基を有するアニオン交換樹脂を使うことが、PRPsクロマトグラフィー操作の容易性、PRPsの回収量の点から特に好適である。
【0034】
ゲル濾過カラムクロマトグラフィーには、例えば、従来公知のゲル濾過用樹脂を制限なく使用することができる。ゲル濾過用樹脂を具体的に示すと、例えば、セルロース、デキストラン、アガロース、親水性アクリルアミド系ポリマー、親水性ビニルポリマー等が挙げられる。上述したようにPRPsの分子量は1万−3万なので、この範囲の分子量が分画範囲に含まれるゲル濾過用樹脂を選択すれば良い。
【0035】
イオン交換カラムクロマトグラフィー、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーの実施法は、従来公知の方法に従って実施すれば良い[例えば、新生化学実験講座1 タンパク質I(東京科学同人 1990年)169−184ページ、に記載の方法]。カラムクロマトグラフィーは、試料の安定性や、クロマトグラフィーの再現性の観点から、一定のpHで実施することが望ましく、この目的のために、カラム操作時には、緩衝液が使用されるのが一般的である。緩衝液としては、従来公知の緩衝液、例えば、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、重炭酸緩衝液、GOODの緩衝液等、を制限なく使用することができる。緩衝液の濃度は、0.001〜1Mの範囲が好適である。
【0036】
イオン交換カラムクロマトグラフィーによるPRPsの精製法の具体例を以下に説明する。イオン交換樹脂を充填したカラムを開始緩衝液で平衡化する。開始緩衝液の濃度は、あまり高すぎるとPRPsのイオン交換樹脂への結合を阻害するので、0.001〜0.2Mの範囲であることが好ましい。次いで、PRPsを含有する試料をカラムを通過させ、PRPsをイオン交換樹脂に結合させる。次いで、開始緩衝液をカラム容量の3〜20倍程度流し、カラムを洗浄する。PRPsの溶出は、カラムに流す緩衝液のpH、塩濃度を変化させることにより実施する。塩濃度を変化させる方法は、PRPsが変性する危険が少ないので、好適な方法である。開始緩衝液の緩衝物質(トリス、リン酸塩等)自身の濃度を上げても良いし、開始緩衝液に塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩を添加しても良い。このようにしてPRPsをカラムから溶出させて回収する。
【0037】
溶出画分中のPRPsは、PRPsが口腔内レンサ球菌に結合するという性質を利用して、従来公知の方法により、例えば、前述のELISA法により定量することができる。具体的手順を以下に説明する。まず、一定量の溶出画分を96穴イムノプレートに添加し、一定時間放置することで、溶出画分に含まれる物質をイムノプレートに吸着させ、さらにブロッキングを行う。次いで、口腔内レンサ球菌(例えばストレプトコッカス・ミュータンス)を一定量ウェルに添加すると、ウェルに固定化されたPRPs量に比例した量の菌体が結合する。次いで、口腔内レンサ球菌に対する抗体(例えば抗ストレプトコッカス・ミュータンス抗体)を添加後、酵素標識した二次抗体を添加し、酵素活性を測定することで、溶出画分内に存在するPRPs量を評価することができる。
【0038】
ゲル濾過カラムクロマトグラフィーによるPRPsの精製法の具体例を以下に説明する。ゲル濾過用樹脂を充填したカラムを緩衝液で平衡化する。緩衝液の濃度が、あまり低すぎるとタンパク質のゲル濾過用樹脂への非特異的吸着が起こる場合があるので、緩衝液の濃度は0.01〜1Mの範囲であることが好ましい。PRPsを含有する試料をカラムを通過させ分画する。溶出画分中のPRPs量は上記イオン交換カラムクロマトグラフィーの場合と同様に、例えばELISA法により、測定することができる。
【0039】
イオン交換カラムクロマトグラフィーとゲル濾過カラムクロマトグラフィーを行なう順番、回数等には特に制限はなく、唾液の量、種類、精製PRPsの純度に応じて、適宜選択すれば良い。
【0040】
イオン交換カラムクロマトグラフィーとゲル濾過カラムクロマトグラフィーにより唾液から精製したPRPsは複数の分子種を含んでいる。例えば、Biochemical Journal,255巻,1988年,15−21ページに記載されているように、カラムで精製したPRPsを等電点電気泳動法により精製すれば単一種のPRPsを調製することができる。
【0041】
上記のようにカラムクロマトグラフィー、等電点電気泳動等により調製したPRPsを含む溶液を、例えば、中性付近(pH6〜8)の緩衝液(トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液等)に対し透析し、PRPs溶液とすれば良い。
【0042】
本発明では、上記のようにして調製した被検体とPRPsを接触させ、PRPsと口腔内レンサ球菌の結合物を形成させる。唾液、歯垢中の口腔内レンサ球菌は、表面が歯垢(不溶性多糖)で覆われていたり、また、唾液中のタンパク質等が菌体表面に結合している場合があるので、そのまま本発明の測定方法の被検体として使用すると、歯垢や唾液中のタンパク質等が妨害し、PRPsと口腔内レンサ球菌の結合物が形成されない場合がある。このため、特に、被検体が唾液または歯垢である場合には、前処理を行い、歯垢及び/又は唾液中のタンパク質等を被検体中の口腔内レンサ球菌菌体表面から取り除く必要がある。
【0043】
前処理は、一般的にタンパク質の変性方法や不溶性多糖の可溶化法として知られている方法により実施することができ、例えば、生化学実験講座4 糖質の化学(上)(東京化学同人 第一版 1976年)81−258ページに記載されている不溶性多糖の可溶化法(抽出法)に従って実施できる。具体例として、アルカリ処理、酸処理、界面活性剤処理、変性剤処理等が表示でき、具体的な操作方法として、アルカリ処理の場合には、0.05〜5Mの水酸化ナトリウム、または水酸化カリウム溶液中で、酸処理としては0.1M〜5Mの塩酸、または酢酸溶液中で、界面活性剤処理の場合は、0.01%〜10%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルコール酸ナトリウム等のイオン性界面活性剤、またはトリトンX−100、ツイーン20等の非イオン性界面活性剤の溶液中で、変性剤処理の場合は1〜8Mの塩酸グアニジン、または尿素溶液中で、4℃〜120℃にて5分〜24時間放置するという方法等が例示できる。
【0044】
上記の方法中、アルカリ処理、酸処理は、反応後、緩衝液、酸、アルカリ等を添加しpHを中性に調製するという操作を行なうだけで本発明の測定方法に供することができるので、特に好適である。例えば、アルカリ処理の場合は、反応後に、塩酸、酢酸、クエン酸等の酸を添加することでpHを6〜8程度に調整すれば良い。また、酸処理の場合には、反応後に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基を添加することでpHを6〜8程度に調整すればよい。
【0045】
本発明の口腔内レンサ球菌の測定法では、前記のように調製したPRPsと口腔内レンサ球菌を含む被検体とを接触させ、PRPsとレンサ球菌の結合物を形成させ、該PRPsと口腔内レンサ球菌の結合物の量を測定することで、口腔内レンサ球菌の量を測定する。PRPsと口腔内レンサ球菌の接触、PRPsと口腔内レンサ球菌の結合物の測定は、従来公知の種々の免疫学的測定法に準じて実施することができる[例えば、新生化学実験講座12 分子免疫学III 抗原・抗体・補体(東京化学同人 第一版 1992年)33−125ページ]。従来の免疫学的測定法において抗体を使用しているところをPRPsに置きかえれば、従来の免疫学的測定方法と同様に実施することができる。
【0046】
以下好適な方法について説明する。
[遊離のPRPsを使用する方法]
該方法は、不溶性担体にPRPsを担持させることなく口腔内レンサ球菌を測定する方法である。具体例として、口腔内レンサ球菌を含む被検体と遊離PRPsを混合し、口腔内レンサ球菌の凝集による濁度の変化で口腔内レンサ球菌を定量する方法(凝集法)、または、口腔内レンサ球菌を含む被検体と放射性物質、酵素、蛍光色素、色素等で標識したPRPsとを混合し、遠心分離により沈殿を回収することで、口腔内レンサ球菌に結合しなかった遊離の標識PRPsを除去し、最終的に、口腔内レンサ球菌に結合した標識PRPsの標識物の量、すなわち標識物質に由来する放射活性、酵素活性、蛍光強度、着色(色調の変化)等を測定することによって、被検体中の口腔内レンサ球菌を検出、定量する方法(標識PRPs法)等が挙げられる。遊離のPRPsを使用する方法で使用する好適なPRPs量は、PRPsと被検体と混合した後の懸濁液中の濃度が0.001〜5mg/mLの範囲である。
【0047】
前記のように公知の精製法により調製したPRPs画分は、通常PRPs以外の夾雑物を含有するため、PRPs画分のタンパク質量を測定しただけでは実際のPRPs濃度が不明である。このような場合には、例えば、前述のようにSDS−PAGEにより夾雑物の含有率を確認し、PRPs画分のタンパク質量と該夾雑物含有率からPRPs画分中の実際のPRPs濃度を算出し、このようにして算出した実際のPRPsの濃度が前記の好適な範囲になるようにPRPs濃度を調整すれば良い。
[固定化PRPsを使用する方法]
該方法は、不溶性担体にPRPsを担持させた固定化PRPsを使用して口腔内レンサ球菌を測定する方法である。
【0048】
不溶性担体としては、形状は、例えば、膜、粒子、プレート、試験管等の従来公知のものが特に制限なく使用できる。材質は、例えば、ニトロセルロース、PVDF、ラテックス、ゼラチン、金属コロイド、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等の従来公知のものが何ら制限なく使用できる。
【0049】
固定化PRPsは、一般的に、PRPsが緩衝液等の水溶液に溶解しているPRPs溶液と不溶性担体を一定時間接触させることにより、PRPsを該不溶性担体に結合させることにより製造される。固定化PRPs製造時の溶液のpHは一定の範囲内に(例えば、pH6〜9)保つことが好ましく、この目的のために、緩衝液中でPRPsと不溶性担体を接触させることが好ましい。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、GOODの緩衝液、炭酸緩衝液、ホウ酸緩衝液等が使用できる。具体的なPRPsと不溶性担体を接触させる方法として、例えば、PRPs溶液を調製し、該PRPs溶液と不溶性担体を4〜56℃にて、2分以上接触させる、という方法を示すことができる。PRPsの好適な濃度は、0.001〜5mg/mLの範囲である。前記の[遊離のPRPsを使用する方法]で述べたように、唾液から精製したPRPsをSDS−PAGE等で分析し、実際のPRPs濃度を算出し、上記の好適な濃度範囲となるようにすれば良い。
【0050】
固定化PRPsを使用する具体的な方法として、例えば、ラテックス粒子にPRPsを担持させた固定化PRPs(以下、感作粒子という場合がある)と口腔内レンサ球菌を含む被検体を混合し、ラテックス粒子の凝集による濁度変化により口腔内レンサ球菌を測定するラテックス凝集法が挙げられる。
【0051】
別の測定法として、例えば、標識PRPsを使用する方法を示すことができる。該方法は固定化PRPsと標識PRPsを組合わせて、口腔内レンサ球菌を測定する方法である。標識物としては、遊離のPRPsを使用する方法で述べた、放射物質、酵素、蛍光色素、色素に加えて、着色粒子(金コロイド、炭素コロイド、着色ラテックス等)や標識物質(酵素、放射性物質等)を結合させたラテックス粒子等の不溶性担体も使用することができる。着色粒子や標識物質を結合させたラテックス粒子等にPRPsを担持させたものは、固定化PRPsであると同時に標識PRPsでもあると言える。
【0052】
具体的な測定法としては、例えば、膜、イムノプレート等の不溶性担体にPRPsを担持させた固定化PRPsに、被検体中の口腔内レンサ球菌を結合させ、次いで標識PRPsを更に結合させて、固定化PRPs−口腔内レンサ球菌−標識PRPsのサンドイッチ複合体を形成させて標識物の量を測定する方法を示すことが示すことができる。このような方法の更に具体的な例として、ニトロセルロース等の膜にPRPsを担持させた固定化PRPsと、着色コロイドまたは各種着色粒子等にPRPsを担持させた標識PRPsを使用し色調の変化により測定する方法[標識PRPsクロマト法(免疫クロマト法に準じた方法)]を挙げることができる。
【0053】
固定化PRPsを使用する方法は、遊離PRPsを使用する方法に比べて、感度が高い、操作が簡便等の特徴を持つので、より好適な実施形態であるといえる。固定化PRPsを使用する方法の中でも、上記説明した標識PRPsクロマト法、ラテックス凝集法は、高感度、簡便、迅速に測定できるという特徴があり、特に好ましい実施形態である。
【0054】
本発明の口腔内レンサ球菌の測定法とミュータンスレンサ球菌の測定法とを組合わせて齲蝕菌比率を算出する場合は、例えば、ミュータンスレンサ球菌の測定に免疫学的測定法を採用すれば、培養する必要がなく、迅速簡便に齲蝕菌比率が算出でき特に好適である。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0056】
実施例1[標識PRPsクロマト法による口腔内レンサ球菌の測定]
(1)ストレプトコッカス・ミュータンスに対するポリクローナル抗体の作製
ブレインハートインフージョン(以下、「BHI」と略することもある;DIFCO社)3.7gを100mlの超純水に溶解後、オートクレーブ処理し、BHI液体培地を調製し、Ingbritt(ストレプトコッカス・ミュータンス)を37℃、18時間、嫌気条件下で培養した。培養液を4000g、5分遠心処理し、上清の培地成分を除去し菌体沈殿を回収した。次いで、沈殿物を100mLのリン酸生理食塩緩衝液(pH7.4)(以下、「PBS」と略すこともある)に懸濁し、同様の遠心分離をする操作を3回行い、沈殿物を洗浄した。
【0057】
菌体沈殿をPBSに懸濁しA600=1.0に調整し、Ingbrittの菌体懸濁液を調製した。なお、該菌体懸濁液を超音波処理後、適宜希釈した後にBHI培地プレート上に添加し、生じたコロニー数を計数し菌体懸濁液の希釈倍率を乗じることで該菌体懸濁液の菌体濃度を求めたところ、約1×10個/mLであった。
【0058】
免疫は以下のように実施した。
【0059】
第1週は菌体懸濁液0.5mLを、5日連続で5回ウサギに対し耳介静脈注射した。第2週は該菌体懸濁液1.0mLを、5日連続で5回ウサギに対し耳介静脈注射した。第3週は菌体懸濁液2.0mLを、5日連続で5回ウサギに対し耳介静脈注射した。第4週は第3週と同様に免疫した。力価の上昇をスライドグラスを利用した菌体の凝集反応の程度により確認後、最終免疫より1週間後に、定法に従い採血しストレプトコッカス・ミュータンスに対する抗血清を得た。
【0060】
BHI培地にて、上記(1)と同様の方法でChallis(ストレプトコッカス・ゴルドニイ)を培養した後、PBSで洗浄し2×1012個/mL含む菌体懸濁液30mlを調製した。次いで該菌体懸濁液と、抗血清0.5mLを混合し4℃、60分反応した。混合液を4000g、5分遠心処理後上清を分取し、0.22μmフィルターで濾過した。
【0061】
次いで、あらかじめPBSで平衡化した1mLのプロテインA−セファロース(GEヘルスケア バイオサイエンス社)を充填したカラムに上清試料を添加し、5mLのPBSでカラムを洗浄後、5mLの0.1Mグリシン−塩酸緩衝液(pH3.0)にて溶出し、直ちに1M トリス−塩酸(pH9.0)を添加しpH7.4に調整した。IgGの溶出画分は、A280を測定することで確認した。0.5mLの抗血清より、約5mgの抗ストレプトコッカス・ミュータンスポリクローナル抗体を回収した。
(2)PRPsの精製
複数の被験者にガムを噛ませることで150mLの刺激唾液を採取した。刺激唾液を10,000rpmで5分間遠心分離し、上清を回収し、0.05M トリス塩酸緩衝液pH8.0(緩衝液A)に対して透析した(4℃、48時間)。透析後、再度遠心分離することで不溶物を除去した。100mLのDE52(ワットマン社)を充填したカラムを緩衝液Aで平衡化し、緩衝液Aに対して透析した唾液をカラムにアプライし、カラムを緩衝液Aで洗浄した。次いで、塩化ナトリウムを含む緩衝液Aで、カラムに結合した成分を溶出した。溶出は塩化ナトリウム濃度を直線的に0Mから0.4Mへ増加させることにより実施した。溶出液を20mLずつ分画し、各フラクション中のPRPs量を以下のように測定した。
【0062】
各フラクションを0.1M炭酸緩衝液pH9.0で1/2に希釈し、96穴イムノプレート(Nunc社、Maxisorp)の各ウェルに0.05mLずつ添加し、4℃、12時間放置し固定した後、イムノプレートから溶液を除去し、各ウェルを0.3mLのPBSで3回洗浄した。次いで、イムノプレートの各ウェルに、2%BSA−0.1M炭酸緩衝液(pH9.0)を0.3mL添加し、37℃、2時間放置した後、イムノプレートから2%BSA−炭酸緩衝液(pH9.0)を除去し、0.3mLの0.05%Tween20−PBS(pH7.4)で3回洗浄した。次いで、1×10個/mLに調整したIngbrittのPBS懸濁液を各ウェルに0.05mL添加し、37℃で1時間放置した。イムノプレートから溶液を除去し、0.3mLの0.05%Tween20−PBS(pH7.4)で3回洗浄した。次いで、上記(1)で調製した抗ストレプトコッカス・ミュータンスポリクローナル抗体を1%BSA−0.05%Tween20−PBS(pH7.4)にて0.001mg/mLとなるよう希釈し、イムノプレートの各ウェルに0.05mL添加し、37℃、1時間放置した後、イムノプレートから溶液を除去し、0.3mLの0.05%Tween20−PBS(pH7.4)で3回洗浄した。次いで、アルカリホスファターゼ標識抗ウサギIgG(Fc)ポリクローナル抗体(ヤギ)(カッペル社)を、1%BSA−0.05%Tween20−PBS(pH7.4)にて0.01mg/mLとなるよう希釈し、イムノプレートの各ウェルに0.05mL添加し、37℃、1時間放置した後、イムノプレートから溶液を除去し、0.3mL0.05%Tween20−PBS(pH7.4)で3回洗浄した。次いで、発色基質溶液として、p−ニトロフェニルリン酸の2−エタノールアミン水溶液(バイオ・ラッド ラボラトリーズ社)を各ウェルに0.05mLずつ添加し、室温下20分反応した。反応後、0.4MのNaOHを各ウェルに0.05mLずつ添加し反応を停止し、405nmの吸光度を測定した。
【0063】
上述の方法で各フラクション中のPRPs量を測定し、PRPsを含有するフラクションを回収し、緩衝液Aで透析し、再度同様の条件にてDE−52カラム(50mL)でイオン交換クロマトグラフィーを行ない、各フラクション(5mL)中のPRPs量を測定し、PRPsを含むフラクションを回収した。回収したフラクションをアミコンウルトラ−15 10kDa(ミリポア社)で1mLに濃縮し、0.1M 塩化ナトリウムを含む0.05M トリス塩酸緩衝液pH7.2で平衡化したセファクリルS−100 HRカラム(2cm×50cm,GEヘルスケア バイオサイエンス社)にアプライし、フラクションを分取した。各フラクション中のPRPs量はイオン交換クロマトグラフィーの場合と同様の方法にて測定し、PRPsを含有するフラクションを回収し、PBSに対し透析した後、アミコンウルトラ−15で濃縮しPRPs溶液を調製した。
(3)精製PRPsの分析
(2)で調製したPRPs溶液のPRPs含量とプロリン含量、等電点を、それぞれ、SDS−PAGE、アミノ酸分析法、等電点電気泳動法により調べた。
【0064】
SDS−PAGEは12.5%ポリアクリルアミドゲルを用いて実施した。3枚のゲルによりPRPsを電気泳動し、泳動後のゲルを、1枚はクマシーブリリアントブルーで染色し、1枚はPAS染色を行なった。残りの1枚は、後述するアミノ酸分析に使用した。クマシーブリリアントブルー染色の結果、全タンパク質バンドに対しPRPsのタンパク質バンド(分子量10−30kDa)の占める割合は90%であることが分かった。PAS染色の結果、分子量10−30kDaのバンドはPAS染色陽性であり、糖鎖を含有することが分かった。
【0065】
SDS−PAGE後、PVDF膜(イモビロン,ミリポア社)にゲルからタンパク質バンドを転写した。PVDF膜上の分子量10−30kDaのタンパク質バンドを切り出し、イオン交換水でよく洗浄した。切り出したPVDF膜中に含まれるタンパク質(PRPs)を塩酸で加水分解し、常法に従ってアミノ酸分析を行なったところ、プロリン含量は約20%であった。
【0066】
等電点電気泳動は、2%アンフォライン pH3.5〜10(GEヘルスケア バイオサイエンス社)を含む10%ポリアクリルアミドゲルにより実施した。クマシーブリリアントブルー染色の結果、PRPsの等電点はpH2〜5の範囲内であることが確認できた。
【0067】
上記(2)の精製過程での分析と、SDS−PAGE(PAS染色)、アミノ酸分析、等電点電気泳動の結果から、今回精製したPRPsは、糖タンパク質であり、口腔内レンサ球菌に結合し、プロリン含有量が10%以上、酸性の等電点を有していることが確認できた。
(4)口腔内レンサ球菌測定用標識PRPs法ストリップの作製
a)金コロイド標識PRPsの調製
コロイド粒径が40nmの市販金コロイド溶液(British BioCell International社製)10mLに100mMKCOを88μL添加し、pHを9.0に調製後、0.22μmフィルター処理した。金コロイド溶液の520nmの吸光度を測定したところ、A520=1.0であった。
【0068】
次いで、PRPs濃度1mg/mLに調整したPRPs溶液64μLを、上記金コロイド溶液に撹拌しながら添加し、室温下5分放置した。次いで、10%スキムミルク−2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)を1.1mL撹拌しながら添加し(スキムミルク終濃度1%)、室温下30分放置した。次いで、反応溶液を10℃、10000g、30分遠心処理し、上清を除去後、2mLの2mMPBS(pH7.4)を添加し、下層の金コロイド画分を再懸濁した。得られた金コロイド画分(以下、「金コロイド標識PRPs」と表記することもある)は、4℃にて保存した。
【0069】
b)標識PRPsクロマト法ストリップの作製
ニトロセルロースメンブレン(ミリポア社、Hi−Flow Plus Membrane、HF75、25mm×6mm)からなる展開メンブレン上の検出ライン上に、PRPs濃度2mg/mLのPRPs溶液1μLをスポットし、インキュベーター内で37℃、60分乾燥しPRPsを固定化した。該PRPs固定化メンブレンを1%スキムミルク−0.1%TritonX100水溶液中で室温下、5分振とうした。次いで、該メンブレンを10mMリン酸緩衝液(pH7.4)中で室温下、10分振とう後取り出し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。
【0070】
また、コンジュゲートパッド(ミリポア社、7.5mm×6mm)を0.5%PVA−0.5%ショ糖水溶液中で1分間振とう後取り出し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。該コンジュゲートパッドにA520=1.0に調整した金コロイド標識PRPsを25μL添加し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。更に、サンプルパッド(ミリポア社、17mm×6mm)を1%Tween20−PBS水溶液中で1分間振とう後取り出し、真空ポンプで吸引しながら60分間デシケーター中で乾燥した。尚、吸収パッド(ミリポア社、20mm×6mm)は未処理のまま用いた。
【0071】
このように調製した、図1に示すような標識PRPsクロマト法ストリップの各構成部分をプラスチックの支持台上に配置し、図2に示すような標識PRPsクロマト法ストリップを組み立てた。
(5)〔被検体の調製〕
被験者にガムを5分間噛ませ、分泌された唾液を採取し、20秒間、60Wで超音波処理することで被検体を得た。
(6)〔培養法による被検体中の口腔内レンサ球菌の測定〕
上記(5)の方法に従い得られた被検体を適宜希釈して、100μLをMS固体培地上に添加し、37℃、嫌気条件下、48時間培養した。MS培地上に生じるコロニー数を計数し、被検体液の希釈率から、口腔内レンサ球菌濃度を個/mLとして算出した。
(7)〔標識PRPsクロマト法ストリップによる被検体中の口腔内レンサ球菌の測定〕
上記(4)にて作製した標識PRPsクロマト法ストリップを用いて、被検体中の口腔内レンサ球菌数の測定を実施した。上記(6)で使用した被検体のそれぞれ0.1mLに1.0M水酸化ナトリウム溶液を0.01mL添加し、10分間室温で放置した後、1.0M塩酸溶液を0.01mL添加し中和した。この被検体全量を標識PRPsクロマト法ストリップのサンプルパッドに滴下し、15分後のスポット発色強度を、4段階(+++:強い陽性、++:陽性、+:弱い陽性、−:陰性)に識別した結果と、(6)の培養法により得られた口腔内レンサ球菌数とを比較した。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1に示したように、培養法により得られた口腔内レンサ球菌濃度と相関するスポット発色強度が得られた。本発明の口腔内レンサ球菌の測定法により、被検体中の口腔内レンサ球菌を迅速且つ濃度依存的に検出可能であった。
【0074】
実施例2[ラテックス凝集法による口腔内レンサ球菌の測定]
(1)PRPs感作ラテックス粒子の調製
実施例1(2)で調製したPRPs溶液を希釈し、PRPs濃度0.5mg/mLに調整した。このPRPs溶液1mLに0.5%のポリスチレンラテックス粒子(JSR社)1mLを加え、室温で1時間放置し、次いで、1%ウシ血清アルブミン溶液を0.5mL添加し、室温で1時間放置した。遠心分離によりPRPsの結合したラテックス粒子を単離し、0.05Mの塩化ナトリウムを含む0.01Mリン酸緩衝液(以下緩衝液Bとよぶ場合がある)で1回洗浄し、抗体固定化ラテックス粒子が0.5%となるように緩衝液Bで懸濁した。
(2)PRPs感作ラテックス粒子による口腔内レンサ球菌の測定
実施例1で使用した被検体を実施例1(7)と同様の方法により前処理を行なった。前処理済み被検体にPRPs感作ラテックス粒子懸濁液を0.1mL添加、混合し、室温で30分放置後、ラテックス粒子の凝集を目視で観察し、結果を4段階(+++:強い凝集、++:やや強い凝集、+:弱い凝集、−:凝集せず)に識別した結果を表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
PRPs感作ラテックス粒子によるラテックス凝集法によっても、被検体中の口腔内レンサ球菌を迅速且つ濃度依存的に検出可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本図は、本発明の口腔内レンサ球菌測定法で使用する標識PRPsクロマト法で使用するストリップの各部材の概略図である。
【図2】本図は、本発明の口腔内レンサ球菌測定法で使用する標識PRPsクロマト法で使用するストリップの各部材の側面図である。
【符号の説明】
【0078】
1・・・ストリップ
2・・・サンプルパッド
3・・・コンジュゲートパッド
4・・・展開メンブレン
5・・・吸収パッド
6・・・検出ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性プロリンリッチタンパクと口腔内レンサ球菌とを接触させることで酸性プロリンリッチタンパクと口腔内レンサ球菌の結合物を形成させ、該酸性プロリンリッチタンパクとレンサ球菌の結合物の量を測定することを特徴とする口腔内レンサ球菌の測定方法。
【請求項2】
不溶性担体に酸性プロリンリッチタンパクを担持させた固定化酸性プロリンリッチタンパクを使用することを特徴とする請求項1記載の口腔内レンサ球菌の測定方法。
【請求項3】
酸性プロリンリッチタンパクと口腔内レンサ球菌の結合物量を、濁度または色調の変化で測定することを特徴とする請求項1または2記載の口腔内レンサ球菌の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−195195(P2009−195195A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41728(P2008−41728)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】