口腔内除菌液及び口腔内除菌方法
【課題】歯牙表面に付着したバイオフィルムを溶解し細菌を殺菌する物質とタンパク質を溶解する物質とを夫々所定の濃度により混合した水溶液を使用することにより、歯磨き感覚で容易にバイオフィルムを除去することが可能な口腔内除菌液を提供する。
【解決手段】本発明の第1の実施形態として、歯の表面に形成されたエナメル質に付着した細菌を除去する口腔内除菌液を発明した。即ち、この口腔内除菌液は、エナメル質表面に付着したタンパク質を溶解するタンパク質溶解物質と、バイオフィルムを分解し殺菌作用を有する殺菌物質と、を夫々所定の濃度により混合した水溶液である。
【解決手段】本発明の第1の実施形態として、歯の表面に形成されたエナメル質に付着した細菌を除去する口腔内除菌液を発明した。即ち、この口腔内除菌液は、エナメル質表面に付着したタンパク質を溶解するタンパク質溶解物質と、バイオフィルムを分解し殺菌作用を有する殺菌物質と、を夫々所定の濃度により混合した水溶液である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内除菌液及び口腔内除菌方法に関し、さらに詳しくは、歯周病及び虫歯を予防する口腔内除菌液及び口腔内除菌方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、口腔衛生学並びに歯科薬品の発達により、虫歯、或いは歯周病といった口腔内の不衛生が原因となる疾病が減少傾向にあることは確かである。しかしその反面、生活様式の多様化と食事の洋式化に伴って、虫歯、或いは歯周病が蔓延しやすい状況にある。例えば、生活様式の多様化、世の中のグローバル化に伴って、勤労時間が一定の時間帯に集約することなく、交代で24時間稼動する企業が増加したため、常に食物を摂取可能な環境が一般化している(例えば、コンビニエンスストア、深夜レストラン等)。このことは、いつでも食べたいときに食物が手に入るということであり、それだけ、口腔内を汚す機会が増加したことになる。また、食事が洋式化したことにより、旧来の日本的な食事と比べて柔らかく、且つ栄養分が高いものが多くなり、その結果、人間の咀嚼量が低下し、衛生学的には唾液の量が減少して口腔内の殺菌力の低下を招くようになった。更に、食事の栄養分が高いため口腔内の細菌の繁殖が活発となり、歯磨きをしても実際には細菌を除去できていないといった問題が発生する。
【0003】
そこで、最近では、PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トース・クリーニング)を行なう人が増加している。PMTCでは、家庭での歯磨きで着色料や茶渋による着色、歯石、歯茎の中で細菌が固着したバイオフィルムなどを、歯科医院で超音波スケーラーを用いて歯石除去したり、超音波波動によりバイオフィルムを破壊したり、クイックジェットによる粗い研磨、ブラシなどにより仕上げ研磨・フッ素塗布するといったことを内容としている。
【0004】
尚、従来技術として特許文献1には、塩酸もしくは酢酸、またはこれらの混合物の酸水溶液と、次亜塩素酸ナトリウムもしくは二酸化塩素、またはこれらの混合物の塩素系水溶液とを、水に混合させて製造する殺菌水の製造装置であって、水流に前記酸を混入させるための第1の混入器と、前記混入器に対して前記水流の下流にある第1の混合器と、前記第1の混合器に対して前記水流の下流にあって前記水流に前記塩素系水溶液を混入させるための第2の混入器と、前記第2の混入器に対して前記水流の下流にある第2の混合器とを含む殺菌水製造装置、およびこれに実現されるステップからなる殺菌水の製造方法について開示されており、また、この製造方法によって製造される殺菌水を用いる歯科用研削装置について開示されている。
【特許文献1】特開2003−200174公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように従来からバイオフィルムは歯周病、虫歯の原因となることが解っているが、抗菌剤でバイオフィルムが付着しないようにしても必ずしも良い効果が現れなかったため、研磨剤でそぎ取る方法しかなく、患者の負担が大きかったという問題がある。
また特許文献1に開示されている従来技術は、殺菌水の製造装置が大掛かりとなりコスト的にも負担が大きくなるといった問題がある。また殺菌水を使用した歯科用研削装置について開示されているが、あくまでも殺菌してもらうために歯科医まで出向く必要があり、患者の負担が大きいといった問題がある。
本発明は、かかる課題に鑑み、歯牙表面に付着したバイオフィルムを溶解し細菌を殺菌する物質とタンパク質を溶解する物質とを夫々所定の濃度により混合した水溶液を使用することにより、歯磨き感覚で容易にバイオフィルムを除去することが可能な口腔内除菌液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1は、口腔内硬組織表面に形成されたバイオフィルム細菌を除去する口腔内除菌液であって、前記口腔内除菌液は、前記口腔内硬組織表面に付着したタンパク質を溶解するタンパク質溶解物質と、殺菌作用を有する殺菌物質と、を夫々所定の濃度により混合した水溶液であることを特徴とする。
本発明の主たる構成要素は、タンパク質溶解物質と殺菌物質である。口腔内硬組織表面には、多くのタンパク質が付着しており、そのタンパク質を介して細菌が歯牙表面に付着し且つそれを栄養源として細菌が繁殖する。従って、細菌の栄養源であるタンパク質を除去する必要がある。除去する方法にはバイオフィルムそのものを機械的に剥ぎ取る方法が一般的であり、化学的にバイオフィルムを溶解しさらにタンパク質を溶解して取り除く方法はほとんど報告されていない。本発明では後者の方法で口腔内硬組織表面に形成されたバイオフィルムを次亜塩素酸ナトリウムで溶解し、硬組織表面のタンパク質を化学的に溶解する物質を使用するものである。
【0007】
請求項2は、前記タンパク質溶解物質は、水酸化ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムであり、前記殺菌物質は次亜塩素酸ナトリウムであることを特徴とする。
水酸化ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムはタンパク質を溶かす性質がある。また次亜塩素酸ナトリウムは、食品工場において加工設備を殺菌するための殺菌剤として広範に使用されている。本発明では、次亜塩素酸ナトリウムにより口腔内硬組織表面に形成されるバイオフィルムを溶解し水酸化ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムにより口腔内固相に付着しているタンパク質を溶解し、次亜塩素酸ナトリウムにより口腔内を消毒するものである。
【0008】
請求項3は、前記口腔内除菌液は、濃度100ppm乃至200ppmの次亜塩素酸ナトリウムと、濃度150ppm乃至300ppmの水酸化ナトリウムの混合水溶液であることを特徴とする。
本発明の口腔内除菌液は、当然口腔内において使用するため、安全性が最も重要である。即ち、次亜塩素酸ナトリウムの濃度は位相差顕微鏡にてバイオフィルムの分解能が高い濃度がどこにあるかを確認して決定し、水酸化ナトリウムの濃度は国内のアルカリ温泉のpH(略)と同じもしくは下になるように決定した。その結果、次亜塩素酸ナトリウムの濃度として100ppm〜200ppmの範囲が最適であることを確認した。また水酸化ナトリウムの濃度は濃度150ppm乃至300ppmの範囲であれば、使用感と安全性の両面から問題ないことが確認された。
【0009】
請求項4は、前記口腔内除菌液に所定量の香料を含有したことを特徴とする。
次亜塩素酸ナトリウムは、塩素を水酸化ナトリウム水溶液に通じることにより生成する。従って、密閉状態から蓋を開けると塩素臭が発生するのが特徴である。この塩素臭は個人差はあるが、嫌がる人もいる。そこで本発明では、口腔内除菌液に所定量の香料を含有して塩素臭を低減するものである。
請求項5は、請求項1乃至4に記載の口腔内除菌液を、歯ブラシに付着させて歯の表面及び歯茎を摩擦洗浄することにより該口腔内の細菌を殺菌することを特徴とする。
従来のPMTCによる方法でも大部分のバイオフィルムを除去することができる。本発明では歯ブラシに本発明の口腔内除菌液を付着して歯を磨くことにより、口腔内固相に付着したバイオフィルムをPMTCの場合に比べ短時間のうちに溶解し剥ぎ取ることができ、専用の高価な機材を必要としない。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、口腔内除菌液は、口腔内硬組織表面に付着したタンパク質を溶解するタンパク質溶解物質と、殺菌作用を有する殺菌物質と、を夫々所定の濃度により混合した水溶液であるので、タンパク質を溶かして細菌の栄養源を除去することにより、清掃後の細菌の繁殖を抑制することができる。
また請求項2では、タンパク質溶解物質は、水酸化ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムであり、殺菌物質は次亜塩素酸ナトリウムであるので、互いに混合することが容易で、且つ安全性の高い水溶液を生成することができる。
【0011】
また請求項3では、前記口腔内除菌液は、濃度100ppm乃至200ppmの次亜塩素酸ナトリウムと、濃度150ppm乃至300ppmの水酸化ナトリウムの混合水溶液であるので、使用感と安全性の両面から問題なく使用することができる。
また請求項4では、口腔内除菌液に所定量の香料を含有したので、塩素臭を低減して使用感を向上させることができる。
また請求項5では、請求項1乃至4に記載の口腔内除菌液を、歯ブラシに付着させて歯の表面及び歯茎を摩擦洗浄することにより口腔内のバイオフィルムを溶解しながら細菌を殺菌するので、効率よくバイオフィルムを除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
本発明の実施形態を説明する前に、エナメル質の構造と、このエナメル質にどのようにして細菌が付着するかを説明しておく。
図1はエナメル質表面の電子顕微鏡写真を示す図である。エナメル質表面は肉眼で見ると一見平坦のように見えるが、実際は図のように表面にはエナメル小柱と呼ばれる凹凸10が一面にあり、更に、表面は大きな凹凸12や孔11が存在する。このようにエナメル質表面は、細菌から見れば繁殖の巣として恰好の場所となる。
【0013】
図2は獲得ペリクル及び上皮細胞に対する細菌の静電気的結合様式を説明する図である。図2(a)は獲得ペリクルに対する細菌の静電気的結合様式を表し、図2(b)は上皮細胞に対する細菌の静電気的結合様式を表す(医歯薬出版株式会社発行、「第4版、歯学微生物学」より引用)。
図2(a)を参照すると、歯では表面即ちヒドロキシアパタイト(HA)に唾液糖蛋白中の特定物質が付着して、細菌に先行してペリクル(獲得薄膜)が形成される。このペリクル表面の酸性側鎖基は負の荷電である。負に荷電した両表面を唾液中の特にCa2+が架橋することによって、細菌が歯の表面に吸着されると考えられる。
また図2(b)を参照すると、またペリクル形成が十分でない歯の表面への吸着は、HA分子のCa2+を介して直接的に結合すると理解される。また、菌体表層にグルカンなど多糖体が結合ないし被覆した状態では、これら多糖体分子とペリクルは水素結合を経て歯面に吸着する可能性も示されている。粘膜面への吸着も上皮細胞中の糖蛋白が静電気的に負に荷電しており、ペリクルと類似した電気的な相互作用によるものと考えられる。
【0014】
(本発明の実施形態)
以上のように、エナメル質表面は図1で説明したとおり決して平坦ではないため、図2で説明した静電気的結合様式により細菌が結合することが考えられる。そこで本発明の第1の実施形態として、歯の表面に形成されたバイオフィルムを除去する口腔内除菌液を発明した。即ち、この口腔内除菌液は、口腔内固相表面に付着したバイオフィルムと固相と細菌の接着剤であるペリクルタンパク質を溶解するタンパク質溶解物質とを夫々所定の濃度により混合した水溶液である。
歯の表面には常に唾液タンパク質が接触する。この唾液は多くのタンパク質で構成され、結果的に歯のエナメル質には獲得ペリクルと呼ばれるタンパク質が付着することになる。そして細菌はそのタンパク質を介し硬組織表面に付着する。そのとき細菌は歯牙表面に存在する唾液タンパク質をアミノ酸に分解し栄養源として繁殖するため、細菌の栄養源であるタンパク質を口腔内硬組織表面から除去する必要がある。歯の表面の細菌を除去する方法には、バイオフィルムそのものを機械的に剥ぎ取る方法(PMTC)が現在一般的であり、化学的にバイオフィルムを溶解しさらに硬組織表面のタンパク質を溶解して取り除く方法はほとんど報告されていない。本発明では後者の方法でバイオフィルムとタンパク質を化学的に溶解する物質を口腔内除菌液として使用するものである。これにより、タンパク質を溶かして細菌の付着因子と栄養源を除去するので、口腔内固相表面の細菌の繁殖を抑制することができる。
【0015】
また本発明の第2の実施形態として、タンパク質溶解物質として水酸化ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムを使用し、バイオフィルム溶解および殺菌物質として次亜塩素酸ナトリウムを使用する。即ち、水酸化ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムはタンパク質を溶かす性質がある。また次亜塩素酸ナトリウムは、食品工場において加工設備を殺菌するための殺菌剤として広範に使用されている。本発明では、次亜塩素酸ナトリウムのバイオフィルム分解能を利用し、水酸化ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムにより歯のエナメル質に付着しているタンパク質を溶解し、次亜塩素酸ナトリウムにより口腔内を消毒するものである。これにより、互いに混合することが容易で、且つ安全性の高い水溶液を生成することができる。
【0016】
また本発明の第3の実施形態として、本発明の口腔内除菌液は、濃度100ppm乃至200ppmの次亜塩素酸ナトリウムと、濃度150ppm乃至300ppmの水酸化ナトリウムの混合水溶液である。即ち、次亜塩素酸ナトリウムの濃度は位相差顕微鏡にてバイオフィルムの分解能が高い濃度がどこにあるかを確認して決定し、水酸化ナトリウムの濃度は国内のアルカリ温泉のpH(略)と同じもしくは下になるように決定した。その結果、次亜塩素酸ナトリウムの濃度として100ppm〜200ppmの範囲が最適であることを確認した。また水酸化ナトリウムの濃度は濃度150ppm乃至300ppmの範囲であれば、使用感と安全性の両面から問題ないことが確認された。
【0017】
また本発明の第4の実施形態として、本発明の口腔内除菌液の使用方法としては、歯ブラシに付着させて歯の表面及び歯茎を摩擦洗浄することにより口腔内の細菌を殺菌するものである。従来のPMTCによる方法でも大部分のバイオフィルムを除去することができるが、本発明では歯ブラシに本発明の口腔内除菌液を付着して歯を磨くことにより、表面のバイオフィルムを溶解しながら細菌の接着因子でもあり、栄養源でもあるタンパク質の膜も剥ぎ取るものである。これにより効率よくバイオフィルムを除去することができ、バイオフィルムの再形成も抑制される。
【0018】
また本発明の第5の実施形態として、口腔内除菌液に所定量の香料を含有するものである。即ち、次亜塩素酸ナトリウムは、塩素を水酸化ナトリウム水溶液に通じることにより生成する。従って、密閉状態から蓋を開けると塩素臭が発生する。この塩素臭は個人差はあるが、嫌がる人もいる。そこで本発明では、口腔内除菌液に所定量の香料を含有して塩素臭を低減するものである。これにより、塩素臭を低減して使用感を向上させることができる。
【0019】
(実施例)
図3から図10は、各被験者ごとの術前と術後の口腔内細菌の唾液検査結果のデータを示す図である。各図の(a)は検査項目の結果一覧表であり、(b)はその結果をチャート図に表現したものである。尚、本検査はBML株式会社の市販キットを使用した。本実施例では、被験者として被験者1は男性、36歳、被験者2は女性、35歳、被験者3は男性、32歳、被験者4は女性、31歳とした。検査項目は、飲食後の歯磨きの程度(官能的な検査)、口腔内の様子(目視により判断したもの)、生活習慣(食事時間や食事の内容等)、喫煙状況(喫煙の有無や本数)、プラーク指数(プラーク量を指数化したもの)、歯肉炎指数(歯肉炎の程度を指数化したもの)、A.a.菌数、P.g.菌数、口腔内総菌数(菌の種類を特定しないで全ての菌の総数)、A.a.菌比率(口腔内総菌数に占めるA.a.菌の数)、P.g.菌比率(口腔内総菌数に占めるP.g.菌の数)、参考データとして唾液の量、唾液のpHを示めす。これらの項目を検査結果値として数値化し、各項目をスコアとして表す。またリスクの程度をノーリスク(スコア0)、ローリスク(スコア1)、リスク(スコア2)、ハイリスク(スコア3)の4段階で表現する。
【0020】
また図3、図4は被験者1の術前(本発明の口腔内除菌液を使用する前)と術後(本発明の口腔内除菌液を使用して1週間後)のデータであり、図5、図6は被験者2の術前(本発明の口腔内除菌液を使用する前)と術後(本発明の口腔内除菌液を使用して1週間後)のデータであり、図7、図8は被験者3の術前(本発明の口腔内除菌液を使用する前)と術後(本発明の口腔内除菌液を使用して1週間後)のデータであり、図9、図10は被験者4の術前(本発明の口腔内除菌液を使用する前)と術後(本発明の口腔内除菌液を使用して1週間後)のデータである。
【0021】
例えば図3を参照して被験者1の術前のデータについて考察する。飲食後の歯磨きの程度はあまり良いとは言えず検査結果値は「5」であり、スコアが「2」となり、リスクは中程度である。口腔内の様子は検査結果値は「0」であり、スコアが「0」となり、リスクはノーリスクである。生活習慣は検査結果値は「4」であり、スコアが「2」となり、リスクは中程度である。喫煙状況は検査結果値は「0」であり、スコアが「0」となり、リスクはノーリスクである。プラーク指数は検査結果値は「0」であり、スコアが「0」となり、リスクはノーリスクである。歯肉炎指数は検査結果値は「0」であり、スコアが「0」となり、リスクはノーリスクである。A.a.菌数は検査結果値は「85」である。P.g.菌数は検査結果値は「0」である。口腔内総菌数は検査結果値は「110、000、000」である。A.a.菌比率は口腔内総菌数に対して無視できる数なので検査結果値は「0」であるが、スコアは「1」となりリスクはローリスクである。P.g.菌比率は「0」なので検査結果値は「0」であり、スコアは「0」となりリスクはノーリスクである。そしてここまでのリスク合計は「5」となる。また参考データとして唾液の量は「7.5ml」であり、スコアは「1」となりリスクはローリスクである。唾液のpHは「7.2」であり、スコアは「1」となりリスクはローリスクである。
【0022】
次に図4を参照して被験者1の術後のデータについて考察する。飲食後の歯磨きの程度はあまり良いとは言えず検査結果値は「5」であり、スコアが「2」となり、リスクは中程度である。口腔内の様子は検査結果値は「0」であり、スコアが「0」となり、リスクはノーリスクである。生活習慣は検査結果値は「4」であり、スコアが「2」となり、リスクは中程度である。喫煙状況は検査結果値は「0」であり、スコアが「0」となり、リスクはノーリスクである。プラーク指数は検査結果値は「0」であり、スコアが「0」となり、リスクはノーリスクである。歯肉炎指数は検査結果値は「0」であり、スコアが「0」となり、リスクはノーリスクである。A.a.菌数は検査結果値は「95」である。P.g.菌数は検査結果値は「0」である。口腔内総菌数は検査結果値は「50、000、000」となり術前の半分に減少している。A.a.菌比率は口腔内総菌数に対して無視できる数なので検査結果値は「0」であるが、スコアは「1」となりリスクはローリスクである。P.g.菌比率は「0」なので検査結果値は「0」であり、スコアは「0」となりリスクはノーリスクである。そしてここまでのリスク合計は「5」となる。また参考データとして唾液の量は「4.5ml」であり、スコアは「2」となりリスクは中程度である。唾液のpHは「7.2」であり、スコアは「1」となりリスクはローリスクである。
尚、A.a.とはActinobacillus actinomycetemcomitans、P.g.はPorphyromonas gingivalisである。
【0023】
以下同様にして被験者2〜4を検査して、口腔内総細菌数の推移を棒グラフに表した図が図11(a)であり、術前の総細菌数を100として正規化している。図11(a)から、被験者1は術後の総細菌数比率は45.5%となり最も減少しているのが解る。次に被験者3の46.8%、続いて被験者2の84.5%、最も効果が少なかった被験者は被験者4の87.5%であった。
図11(b)は各被験者の術前と術後の口腔内総細菌数の減少数の絶対値を表にした図である。この図を参照して他の観点から数値を考察してみる。最も大切なことは口腔内総細菌数の絶対値を極力少なくすることである。その観点から見ると、被験者3が術後の口腔内総細菌数が15×106と少なく、順次被験者4、被験者1、被験者2の順番になるのが解る。ここで被験者3は術前の口腔内総細菌数が28×106と最も少なく、次に被験者4、被験者2、被験者1の順となる。この結果から術前の口腔内総細菌数を少なくしておくことが、口腔内総細菌数の絶対値を少なくする要因であることがわかる。言い換えると、日常の生活習慣において常に口腔内を衛生的にしておくことが重要であることがわかる。
【0024】
図12は図11の術前と術後における被験者全員の口腔内総細菌数の平均値の変化を表す図である。術前を100%として正規化してある。この図から解るとおり、術後の平均値は66.1%となり、本発明の口腔内除菌液を使用して1週間後でも口腔内総細菌数を大幅に減少しているのがわかる。この結果から、本発明の口腔内除菌液の効果が1週間以上持続することがわかる。また本発明の口腔内除菌液は、口腔内のバイオフィルムコントロールに使用されていたが、過去数例アナフィラキシーショックを起こすことが報告されているグルコン酸クロルヘキシジン溶液に比べ、安全性の面において非常に優れている。
【0025】
図13は本発明の口腔内除菌液をマウスに使用した場合の急性毒性試験の結果を表す図である。(a)はpHを変化させた場合のマウスの消化器の病理的変化を観察した図、(b)は各部の名称を明示する図である。
その方法は、pHの異なる口腔内除菌液をマウスに飲用させ、1時間後の消化管(胃)における病理的変化を観察した。口腔内除菌液の濃度は夫々次亜塩素酸ナトリウム100ppmとし、pHを(1)生理食塩水pH7、(2)pH9,(3)pH11、(4)pH13に調整して行った。その結果、(1)〜(4)に示すとおり胃の粘膜には糜爛や潰瘍などの病的所見は認められなかった。
【0026】
以上の通り本発明によれば、口腔内除菌液は、口腔内硬組織表面に付着したタンパク質を溶解するタンパク質溶解物質と、殺菌作用を有する殺菌物質と、を夫々所定の濃度により混合した水溶液であるので、タンパク質を溶かして細菌の栄養源を除去することにより、清掃後の細菌の繁殖を抑制することができる。
また、タンパク質溶解物質は、水酸化ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムであり、殺菌物質は次亜塩素酸ナトリウムであるので、互いに混合することが容易で、且つ安全性の高い水溶液を生成することができる。
【0027】
また、前記口腔内除菌液は、濃度100ppm乃至200ppmの次亜塩素酸ナトリウムと、濃度150ppm乃至300ppmの水酸化ナトリウムの混合水溶液であるので、使用感と安全性の両面から問題なく使用することができる。
また、口腔内除菌液に所定量の香料を含有したので、塩素臭を低減して使用感を向上させることができる。
また、本発明の口腔内除菌液を、歯ブラシに付着させて歯の表面及び歯茎を摩擦洗浄することにより口腔内のバイオフィルムを溶解しながら細菌を殺菌するので、効率よくバイオフィルムを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】エナメル質表面の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図2】獲得ペリクル及び上皮細胞に対する細菌の静電気的結合様式を説明する図である。
【図3】被験者1の術前の口腔内細菌の唾液検査結果のデータを示す図である。
【図4】被験者1の術後の口腔内細菌の唾液検査結果のデータを示す図である。
【図5】被験者2の術前の口腔内細菌の唾液検査結果のデータを示す図である。
【図6】被験者2の術後の口腔内細菌の唾液検査結果のデータを示す図である。
【図7】被験者3の術前の口腔内細菌の唾液検査結果のデータを示す図である。
【図8】被験者3の術後の口腔内細菌の唾液検査結果のデータを示す図である。
【図9】被験者4の術前の口腔内細菌の唾液検査結果のデータを示す図である。
【図10】被験者4の術後の口腔内細菌の唾液検査結果のデータを示す図である。
【図11】口腔内総細菌数の推移を棒グラフに表した図及び、各被験者の術前と術後の口腔内総細菌数の減少数の絶対値を表にした図である。
【図12】術前と術後における被験者全員の口腔内総細菌数の平均値の変化を表す図である。
【図13】本発明の口腔内除菌液をマウスに使用した場合の急性毒性試験の結果を表す図である。
【符号の説明】
【0029】
10 エナメル小柱、11 孔、12 大きな凹凸
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内除菌液及び口腔内除菌方法に関し、さらに詳しくは、歯周病及び虫歯を予防する口腔内除菌液及び口腔内除菌方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、口腔衛生学並びに歯科薬品の発達により、虫歯、或いは歯周病といった口腔内の不衛生が原因となる疾病が減少傾向にあることは確かである。しかしその反面、生活様式の多様化と食事の洋式化に伴って、虫歯、或いは歯周病が蔓延しやすい状況にある。例えば、生活様式の多様化、世の中のグローバル化に伴って、勤労時間が一定の時間帯に集約することなく、交代で24時間稼動する企業が増加したため、常に食物を摂取可能な環境が一般化している(例えば、コンビニエンスストア、深夜レストラン等)。このことは、いつでも食べたいときに食物が手に入るということであり、それだけ、口腔内を汚す機会が増加したことになる。また、食事が洋式化したことにより、旧来の日本的な食事と比べて柔らかく、且つ栄養分が高いものが多くなり、その結果、人間の咀嚼量が低下し、衛生学的には唾液の量が減少して口腔内の殺菌力の低下を招くようになった。更に、食事の栄養分が高いため口腔内の細菌の繁殖が活発となり、歯磨きをしても実際には細菌を除去できていないといった問題が発生する。
【0003】
そこで、最近では、PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トース・クリーニング)を行なう人が増加している。PMTCでは、家庭での歯磨きで着色料や茶渋による着色、歯石、歯茎の中で細菌が固着したバイオフィルムなどを、歯科医院で超音波スケーラーを用いて歯石除去したり、超音波波動によりバイオフィルムを破壊したり、クイックジェットによる粗い研磨、ブラシなどにより仕上げ研磨・フッ素塗布するといったことを内容としている。
【0004】
尚、従来技術として特許文献1には、塩酸もしくは酢酸、またはこれらの混合物の酸水溶液と、次亜塩素酸ナトリウムもしくは二酸化塩素、またはこれらの混合物の塩素系水溶液とを、水に混合させて製造する殺菌水の製造装置であって、水流に前記酸を混入させるための第1の混入器と、前記混入器に対して前記水流の下流にある第1の混合器と、前記第1の混合器に対して前記水流の下流にあって前記水流に前記塩素系水溶液を混入させるための第2の混入器と、前記第2の混入器に対して前記水流の下流にある第2の混合器とを含む殺菌水製造装置、およびこれに実現されるステップからなる殺菌水の製造方法について開示されており、また、この製造方法によって製造される殺菌水を用いる歯科用研削装置について開示されている。
【特許文献1】特開2003−200174公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように従来からバイオフィルムは歯周病、虫歯の原因となることが解っているが、抗菌剤でバイオフィルムが付着しないようにしても必ずしも良い効果が現れなかったため、研磨剤でそぎ取る方法しかなく、患者の負担が大きかったという問題がある。
また特許文献1に開示されている従来技術は、殺菌水の製造装置が大掛かりとなりコスト的にも負担が大きくなるといった問題がある。また殺菌水を使用した歯科用研削装置について開示されているが、あくまでも殺菌してもらうために歯科医まで出向く必要があり、患者の負担が大きいといった問題がある。
本発明は、かかる課題に鑑み、歯牙表面に付着したバイオフィルムを溶解し細菌を殺菌する物質とタンパク質を溶解する物質とを夫々所定の濃度により混合した水溶液を使用することにより、歯磨き感覚で容易にバイオフィルムを除去することが可能な口腔内除菌液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はかかる課題を解決するために、請求項1は、口腔内硬組織表面に形成されたバイオフィルム細菌を除去する口腔内除菌液であって、前記口腔内除菌液は、前記口腔内硬組織表面に付着したタンパク質を溶解するタンパク質溶解物質と、殺菌作用を有する殺菌物質と、を夫々所定の濃度により混合した水溶液であることを特徴とする。
本発明の主たる構成要素は、タンパク質溶解物質と殺菌物質である。口腔内硬組織表面には、多くのタンパク質が付着しており、そのタンパク質を介して細菌が歯牙表面に付着し且つそれを栄養源として細菌が繁殖する。従って、細菌の栄養源であるタンパク質を除去する必要がある。除去する方法にはバイオフィルムそのものを機械的に剥ぎ取る方法が一般的であり、化学的にバイオフィルムを溶解しさらにタンパク質を溶解して取り除く方法はほとんど報告されていない。本発明では後者の方法で口腔内硬組織表面に形成されたバイオフィルムを次亜塩素酸ナトリウムで溶解し、硬組織表面のタンパク質を化学的に溶解する物質を使用するものである。
【0007】
請求項2は、前記タンパク質溶解物質は、水酸化ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムであり、前記殺菌物質は次亜塩素酸ナトリウムであることを特徴とする。
水酸化ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムはタンパク質を溶かす性質がある。また次亜塩素酸ナトリウムは、食品工場において加工設備を殺菌するための殺菌剤として広範に使用されている。本発明では、次亜塩素酸ナトリウムにより口腔内硬組織表面に形成されるバイオフィルムを溶解し水酸化ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムにより口腔内固相に付着しているタンパク質を溶解し、次亜塩素酸ナトリウムにより口腔内を消毒するものである。
【0008】
請求項3は、前記口腔内除菌液は、濃度100ppm乃至200ppmの次亜塩素酸ナトリウムと、濃度150ppm乃至300ppmの水酸化ナトリウムの混合水溶液であることを特徴とする。
本発明の口腔内除菌液は、当然口腔内において使用するため、安全性が最も重要である。即ち、次亜塩素酸ナトリウムの濃度は位相差顕微鏡にてバイオフィルムの分解能が高い濃度がどこにあるかを確認して決定し、水酸化ナトリウムの濃度は国内のアルカリ温泉のpH(略)と同じもしくは下になるように決定した。その結果、次亜塩素酸ナトリウムの濃度として100ppm〜200ppmの範囲が最適であることを確認した。また水酸化ナトリウムの濃度は濃度150ppm乃至300ppmの範囲であれば、使用感と安全性の両面から問題ないことが確認された。
【0009】
請求項4は、前記口腔内除菌液に所定量の香料を含有したことを特徴とする。
次亜塩素酸ナトリウムは、塩素を水酸化ナトリウム水溶液に通じることにより生成する。従って、密閉状態から蓋を開けると塩素臭が発生するのが特徴である。この塩素臭は個人差はあるが、嫌がる人もいる。そこで本発明では、口腔内除菌液に所定量の香料を含有して塩素臭を低減するものである。
請求項5は、請求項1乃至4に記載の口腔内除菌液を、歯ブラシに付着させて歯の表面及び歯茎を摩擦洗浄することにより該口腔内の細菌を殺菌することを特徴とする。
従来のPMTCによる方法でも大部分のバイオフィルムを除去することができる。本発明では歯ブラシに本発明の口腔内除菌液を付着して歯を磨くことにより、口腔内固相に付着したバイオフィルムをPMTCの場合に比べ短時間のうちに溶解し剥ぎ取ることができ、専用の高価な機材を必要としない。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、口腔内除菌液は、口腔内硬組織表面に付着したタンパク質を溶解するタンパク質溶解物質と、殺菌作用を有する殺菌物質と、を夫々所定の濃度により混合した水溶液であるので、タンパク質を溶かして細菌の栄養源を除去することにより、清掃後の細菌の繁殖を抑制することができる。
また請求項2では、タンパク質溶解物質は、水酸化ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムであり、殺菌物質は次亜塩素酸ナトリウムであるので、互いに混合することが容易で、且つ安全性の高い水溶液を生成することができる。
【0011】
また請求項3では、前記口腔内除菌液は、濃度100ppm乃至200ppmの次亜塩素酸ナトリウムと、濃度150ppm乃至300ppmの水酸化ナトリウムの混合水溶液であるので、使用感と安全性の両面から問題なく使用することができる。
また請求項4では、口腔内除菌液に所定量の香料を含有したので、塩素臭を低減して使用感を向上させることができる。
また請求項5では、請求項1乃至4に記載の口腔内除菌液を、歯ブラシに付着させて歯の表面及び歯茎を摩擦洗浄することにより口腔内のバイオフィルムを溶解しながら細菌を殺菌するので、効率よくバイオフィルムを除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
本発明の実施形態を説明する前に、エナメル質の構造と、このエナメル質にどのようにして細菌が付着するかを説明しておく。
図1はエナメル質表面の電子顕微鏡写真を示す図である。エナメル質表面は肉眼で見ると一見平坦のように見えるが、実際は図のように表面にはエナメル小柱と呼ばれる凹凸10が一面にあり、更に、表面は大きな凹凸12や孔11が存在する。このようにエナメル質表面は、細菌から見れば繁殖の巣として恰好の場所となる。
【0013】
図2は獲得ペリクル及び上皮細胞に対する細菌の静電気的結合様式を説明する図である。図2(a)は獲得ペリクルに対する細菌の静電気的結合様式を表し、図2(b)は上皮細胞に対する細菌の静電気的結合様式を表す(医歯薬出版株式会社発行、「第4版、歯学微生物学」より引用)。
図2(a)を参照すると、歯では表面即ちヒドロキシアパタイト(HA)に唾液糖蛋白中の特定物質が付着して、細菌に先行してペリクル(獲得薄膜)が形成される。このペリクル表面の酸性側鎖基は負の荷電である。負に荷電した両表面を唾液中の特にCa2+が架橋することによって、細菌が歯の表面に吸着されると考えられる。
また図2(b)を参照すると、またペリクル形成が十分でない歯の表面への吸着は、HA分子のCa2+を介して直接的に結合すると理解される。また、菌体表層にグルカンなど多糖体が結合ないし被覆した状態では、これら多糖体分子とペリクルは水素結合を経て歯面に吸着する可能性も示されている。粘膜面への吸着も上皮細胞中の糖蛋白が静電気的に負に荷電しており、ペリクルと類似した電気的な相互作用によるものと考えられる。
【0014】
(本発明の実施形態)
以上のように、エナメル質表面は図1で説明したとおり決して平坦ではないため、図2で説明した静電気的結合様式により細菌が結合することが考えられる。そこで本発明の第1の実施形態として、歯の表面に形成されたバイオフィルムを除去する口腔内除菌液を発明した。即ち、この口腔内除菌液は、口腔内固相表面に付着したバイオフィルムと固相と細菌の接着剤であるペリクルタンパク質を溶解するタンパク質溶解物質とを夫々所定の濃度により混合した水溶液である。
歯の表面には常に唾液タンパク質が接触する。この唾液は多くのタンパク質で構成され、結果的に歯のエナメル質には獲得ペリクルと呼ばれるタンパク質が付着することになる。そして細菌はそのタンパク質を介し硬組織表面に付着する。そのとき細菌は歯牙表面に存在する唾液タンパク質をアミノ酸に分解し栄養源として繁殖するため、細菌の栄養源であるタンパク質を口腔内硬組織表面から除去する必要がある。歯の表面の細菌を除去する方法には、バイオフィルムそのものを機械的に剥ぎ取る方法(PMTC)が現在一般的であり、化学的にバイオフィルムを溶解しさらに硬組織表面のタンパク質を溶解して取り除く方法はほとんど報告されていない。本発明では後者の方法でバイオフィルムとタンパク質を化学的に溶解する物質を口腔内除菌液として使用するものである。これにより、タンパク質を溶かして細菌の付着因子と栄養源を除去するので、口腔内固相表面の細菌の繁殖を抑制することができる。
【0015】
また本発明の第2の実施形態として、タンパク質溶解物質として水酸化ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムを使用し、バイオフィルム溶解および殺菌物質として次亜塩素酸ナトリウムを使用する。即ち、水酸化ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムはタンパク質を溶かす性質がある。また次亜塩素酸ナトリウムは、食品工場において加工設備を殺菌するための殺菌剤として広範に使用されている。本発明では、次亜塩素酸ナトリウムのバイオフィルム分解能を利用し、水酸化ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムにより歯のエナメル質に付着しているタンパク質を溶解し、次亜塩素酸ナトリウムにより口腔内を消毒するものである。これにより、互いに混合することが容易で、且つ安全性の高い水溶液を生成することができる。
【0016】
また本発明の第3の実施形態として、本発明の口腔内除菌液は、濃度100ppm乃至200ppmの次亜塩素酸ナトリウムと、濃度150ppm乃至300ppmの水酸化ナトリウムの混合水溶液である。即ち、次亜塩素酸ナトリウムの濃度は位相差顕微鏡にてバイオフィルムの分解能が高い濃度がどこにあるかを確認して決定し、水酸化ナトリウムの濃度は国内のアルカリ温泉のpH(略)と同じもしくは下になるように決定した。その結果、次亜塩素酸ナトリウムの濃度として100ppm〜200ppmの範囲が最適であることを確認した。また水酸化ナトリウムの濃度は濃度150ppm乃至300ppmの範囲であれば、使用感と安全性の両面から問題ないことが確認された。
【0017】
また本発明の第4の実施形態として、本発明の口腔内除菌液の使用方法としては、歯ブラシに付着させて歯の表面及び歯茎を摩擦洗浄することにより口腔内の細菌を殺菌するものである。従来のPMTCによる方法でも大部分のバイオフィルムを除去することができるが、本発明では歯ブラシに本発明の口腔内除菌液を付着して歯を磨くことにより、表面のバイオフィルムを溶解しながら細菌の接着因子でもあり、栄養源でもあるタンパク質の膜も剥ぎ取るものである。これにより効率よくバイオフィルムを除去することができ、バイオフィルムの再形成も抑制される。
【0018】
また本発明の第5の実施形態として、口腔内除菌液に所定量の香料を含有するものである。即ち、次亜塩素酸ナトリウムは、塩素を水酸化ナトリウム水溶液に通じることにより生成する。従って、密閉状態から蓋を開けると塩素臭が発生する。この塩素臭は個人差はあるが、嫌がる人もいる。そこで本発明では、口腔内除菌液に所定量の香料を含有して塩素臭を低減するものである。これにより、塩素臭を低減して使用感を向上させることができる。
【0019】
(実施例)
図3から図10は、各被験者ごとの術前と術後の口腔内細菌の唾液検査結果のデータを示す図である。各図の(a)は検査項目の結果一覧表であり、(b)はその結果をチャート図に表現したものである。尚、本検査はBML株式会社の市販キットを使用した。本実施例では、被験者として被験者1は男性、36歳、被験者2は女性、35歳、被験者3は男性、32歳、被験者4は女性、31歳とした。検査項目は、飲食後の歯磨きの程度(官能的な検査)、口腔内の様子(目視により判断したもの)、生活習慣(食事時間や食事の内容等)、喫煙状況(喫煙の有無や本数)、プラーク指数(プラーク量を指数化したもの)、歯肉炎指数(歯肉炎の程度を指数化したもの)、A.a.菌数、P.g.菌数、口腔内総菌数(菌の種類を特定しないで全ての菌の総数)、A.a.菌比率(口腔内総菌数に占めるA.a.菌の数)、P.g.菌比率(口腔内総菌数に占めるP.g.菌の数)、参考データとして唾液の量、唾液のpHを示めす。これらの項目を検査結果値として数値化し、各項目をスコアとして表す。またリスクの程度をノーリスク(スコア0)、ローリスク(スコア1)、リスク(スコア2)、ハイリスク(スコア3)の4段階で表現する。
【0020】
また図3、図4は被験者1の術前(本発明の口腔内除菌液を使用する前)と術後(本発明の口腔内除菌液を使用して1週間後)のデータであり、図5、図6は被験者2の術前(本発明の口腔内除菌液を使用する前)と術後(本発明の口腔内除菌液を使用して1週間後)のデータであり、図7、図8は被験者3の術前(本発明の口腔内除菌液を使用する前)と術後(本発明の口腔内除菌液を使用して1週間後)のデータであり、図9、図10は被験者4の術前(本発明の口腔内除菌液を使用する前)と術後(本発明の口腔内除菌液を使用して1週間後)のデータである。
【0021】
例えば図3を参照して被験者1の術前のデータについて考察する。飲食後の歯磨きの程度はあまり良いとは言えず検査結果値は「5」であり、スコアが「2」となり、リスクは中程度である。口腔内の様子は検査結果値は「0」であり、スコアが「0」となり、リスクはノーリスクである。生活習慣は検査結果値は「4」であり、スコアが「2」となり、リスクは中程度である。喫煙状況は検査結果値は「0」であり、スコアが「0」となり、リスクはノーリスクである。プラーク指数は検査結果値は「0」であり、スコアが「0」となり、リスクはノーリスクである。歯肉炎指数は検査結果値は「0」であり、スコアが「0」となり、リスクはノーリスクである。A.a.菌数は検査結果値は「85」である。P.g.菌数は検査結果値は「0」である。口腔内総菌数は検査結果値は「110、000、000」である。A.a.菌比率は口腔内総菌数に対して無視できる数なので検査結果値は「0」であるが、スコアは「1」となりリスクはローリスクである。P.g.菌比率は「0」なので検査結果値は「0」であり、スコアは「0」となりリスクはノーリスクである。そしてここまでのリスク合計は「5」となる。また参考データとして唾液の量は「7.5ml」であり、スコアは「1」となりリスクはローリスクである。唾液のpHは「7.2」であり、スコアは「1」となりリスクはローリスクである。
【0022】
次に図4を参照して被験者1の術後のデータについて考察する。飲食後の歯磨きの程度はあまり良いとは言えず検査結果値は「5」であり、スコアが「2」となり、リスクは中程度である。口腔内の様子は検査結果値は「0」であり、スコアが「0」となり、リスクはノーリスクである。生活習慣は検査結果値は「4」であり、スコアが「2」となり、リスクは中程度である。喫煙状況は検査結果値は「0」であり、スコアが「0」となり、リスクはノーリスクである。プラーク指数は検査結果値は「0」であり、スコアが「0」となり、リスクはノーリスクである。歯肉炎指数は検査結果値は「0」であり、スコアが「0」となり、リスクはノーリスクである。A.a.菌数は検査結果値は「95」である。P.g.菌数は検査結果値は「0」である。口腔内総菌数は検査結果値は「50、000、000」となり術前の半分に減少している。A.a.菌比率は口腔内総菌数に対して無視できる数なので検査結果値は「0」であるが、スコアは「1」となりリスクはローリスクである。P.g.菌比率は「0」なので検査結果値は「0」であり、スコアは「0」となりリスクはノーリスクである。そしてここまでのリスク合計は「5」となる。また参考データとして唾液の量は「4.5ml」であり、スコアは「2」となりリスクは中程度である。唾液のpHは「7.2」であり、スコアは「1」となりリスクはローリスクである。
尚、A.a.とはActinobacillus actinomycetemcomitans、P.g.はPorphyromonas gingivalisである。
【0023】
以下同様にして被験者2〜4を検査して、口腔内総細菌数の推移を棒グラフに表した図が図11(a)であり、術前の総細菌数を100として正規化している。図11(a)から、被験者1は術後の総細菌数比率は45.5%となり最も減少しているのが解る。次に被験者3の46.8%、続いて被験者2の84.5%、最も効果が少なかった被験者は被験者4の87.5%であった。
図11(b)は各被験者の術前と術後の口腔内総細菌数の減少数の絶対値を表にした図である。この図を参照して他の観点から数値を考察してみる。最も大切なことは口腔内総細菌数の絶対値を極力少なくすることである。その観点から見ると、被験者3が術後の口腔内総細菌数が15×106と少なく、順次被験者4、被験者1、被験者2の順番になるのが解る。ここで被験者3は術前の口腔内総細菌数が28×106と最も少なく、次に被験者4、被験者2、被験者1の順となる。この結果から術前の口腔内総細菌数を少なくしておくことが、口腔内総細菌数の絶対値を少なくする要因であることがわかる。言い換えると、日常の生活習慣において常に口腔内を衛生的にしておくことが重要であることがわかる。
【0024】
図12は図11の術前と術後における被験者全員の口腔内総細菌数の平均値の変化を表す図である。術前を100%として正規化してある。この図から解るとおり、術後の平均値は66.1%となり、本発明の口腔内除菌液を使用して1週間後でも口腔内総細菌数を大幅に減少しているのがわかる。この結果から、本発明の口腔内除菌液の効果が1週間以上持続することがわかる。また本発明の口腔内除菌液は、口腔内のバイオフィルムコントロールに使用されていたが、過去数例アナフィラキシーショックを起こすことが報告されているグルコン酸クロルヘキシジン溶液に比べ、安全性の面において非常に優れている。
【0025】
図13は本発明の口腔内除菌液をマウスに使用した場合の急性毒性試験の結果を表す図である。(a)はpHを変化させた場合のマウスの消化器の病理的変化を観察した図、(b)は各部の名称を明示する図である。
その方法は、pHの異なる口腔内除菌液をマウスに飲用させ、1時間後の消化管(胃)における病理的変化を観察した。口腔内除菌液の濃度は夫々次亜塩素酸ナトリウム100ppmとし、pHを(1)生理食塩水pH7、(2)pH9,(3)pH11、(4)pH13に調整して行った。その結果、(1)〜(4)に示すとおり胃の粘膜には糜爛や潰瘍などの病的所見は認められなかった。
【0026】
以上の通り本発明によれば、口腔内除菌液は、口腔内硬組織表面に付着したタンパク質を溶解するタンパク質溶解物質と、殺菌作用を有する殺菌物質と、を夫々所定の濃度により混合した水溶液であるので、タンパク質を溶かして細菌の栄養源を除去することにより、清掃後の細菌の繁殖を抑制することができる。
また、タンパク質溶解物質は、水酸化ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムであり、殺菌物質は次亜塩素酸ナトリウムであるので、互いに混合することが容易で、且つ安全性の高い水溶液を生成することができる。
【0027】
また、前記口腔内除菌液は、濃度100ppm乃至200ppmの次亜塩素酸ナトリウムと、濃度150ppm乃至300ppmの水酸化ナトリウムの混合水溶液であるので、使用感と安全性の両面から問題なく使用することができる。
また、口腔内除菌液に所定量の香料を含有したので、塩素臭を低減して使用感を向上させることができる。
また、本発明の口腔内除菌液を、歯ブラシに付着させて歯の表面及び歯茎を摩擦洗浄することにより口腔内のバイオフィルムを溶解しながら細菌を殺菌するので、効率よくバイオフィルムを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】エナメル質表面の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図2】獲得ペリクル及び上皮細胞に対する細菌の静電気的結合様式を説明する図である。
【図3】被験者1の術前の口腔内細菌の唾液検査結果のデータを示す図である。
【図4】被験者1の術後の口腔内細菌の唾液検査結果のデータを示す図である。
【図5】被験者2の術前の口腔内細菌の唾液検査結果のデータを示す図である。
【図6】被験者2の術後の口腔内細菌の唾液検査結果のデータを示す図である。
【図7】被験者3の術前の口腔内細菌の唾液検査結果のデータを示す図である。
【図8】被験者3の術後の口腔内細菌の唾液検査結果のデータを示す図である。
【図9】被験者4の術前の口腔内細菌の唾液検査結果のデータを示す図である。
【図10】被験者4の術後の口腔内細菌の唾液検査結果のデータを示す図である。
【図11】口腔内総細菌数の推移を棒グラフに表した図及び、各被験者の術前と術後の口腔内総細菌数の減少数の絶対値を表にした図である。
【図12】術前と術後における被験者全員の口腔内総細菌数の平均値の変化を表す図である。
【図13】本発明の口腔内除菌液をマウスに使用した場合の急性毒性試験の結果を表す図である。
【符号の説明】
【0029】
10 エナメル小柱、11 孔、12 大きな凹凸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内の硬組織表面に形成されたバイオフィルムおよびその栄養源を除去する口腔内除菌液であって、
前記口腔内除菌液は、殺菌作用を有する殺菌物質と、前記表面に付着したタンパク質を溶解するタンパク質溶解物質とを夫々所定の濃度により混合した水溶液であることを特徴とする口腔内除菌液。
【請求項2】
前記タンパク質溶解物質は、水酸化ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムであり、前記殺菌物質は次亜塩素酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1に記載の口腔内除菌液。
【請求項3】
前記口腔内除菌液は、濃度100ppm乃至200ppmの次亜塩素酸ナトリウムと、濃度150ppm乃至300ppmの水酸化ナトリウムの混合水溶液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の口腔内除菌液。
【請求項4】
前記口腔内除菌液に所定量の香料を含有したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の口腔内除菌液。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の口腔内除菌液を、歯ブラシに付着させて歯の表面及び歯茎を摩擦洗浄することにより該口腔内の細菌を殺菌することを特徴とする口腔内除菌方法。
【請求項1】
口腔内の硬組織表面に形成されたバイオフィルムおよびその栄養源を除去する口腔内除菌液であって、
前記口腔内除菌液は、殺菌作用を有する殺菌物質と、前記表面に付着したタンパク質を溶解するタンパク質溶解物質とを夫々所定の濃度により混合した水溶液であることを特徴とする口腔内除菌液。
【請求項2】
前記タンパク質溶解物質は、水酸化ナトリウム又は炭酸水素ナトリウムであり、前記殺菌物質は次亜塩素酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1に記載の口腔内除菌液。
【請求項3】
前記口腔内除菌液は、濃度100ppm乃至200ppmの次亜塩素酸ナトリウムと、濃度150ppm乃至300ppmの水酸化ナトリウムの混合水溶液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の口腔内除菌液。
【請求項4】
前記口腔内除菌液に所定量の香料を含有したことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の口腔内除菌液。
【請求項5】
請求項1乃至4に記載の口腔内除菌液を、歯ブラシに付着させて歯の表面及び歯茎を摩擦洗浄することにより該口腔内の細菌を殺菌することを特徴とする口腔内除菌方法。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図13】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図13】
【公開番号】特開2007−126437(P2007−126437A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−168161(P2006−168161)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(505370707)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(505370707)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]