説明

口腔洗浄用キット

【課題】塩素系消毒洗浄剤の優れた殺菌効率を保持しつつ、使用後に口腔内に残留する有効塩素による悪影響を軽減できる口腔洗浄用の後処理液及びキットを提供すること。
【解決手段】後処理液は、口腔洗浄において塩素系消毒洗浄剤を含有する洗浄液の後に用いられ、塩素系消毒洗浄剤に対する還元剤を含有する。還元剤は、アスコルビン酸、チオ硫酸、重亜リン酸、次亜硫酸、及びこれらの生理学的に許容できる塩からなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔洗浄に用いられる後処理液、及びこの後処理液を備えるキットに関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内細菌性疾患の代表例であるう蝕は、歯周病と並ぶ歯科の二大疾患の一つであり、歯質の表面で増殖したう蝕原因菌が産生する乳酸等の酸で、エナメル質又は象牙質を構成する無機質が溶解(脱灰)されることにより誘発される歯質の欠損である。
【0003】
う蝕の進行の過程においては、バイオフィルムが歯質の表面に形成される。バイオフィルムが歯質表面に形成されると、バイオフィルム直下の歯質が脱灰し、う蝕が誘発される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
そこで、う蝕を防止するためには、う蝕原因菌の殺菌が有効である。う蝕原因菌の殺菌方法の代表例としては、う蝕原因菌の殺菌剤を含有する洗浄液を用いたうがい等が挙げられる。これにより、バイオフィルム形成や酸産生を制御でき、その結果、歯質の脱灰が抑制されるので、う蝕を有効に予防できる。また、う蝕に限らず、歯周病等も口腔内細菌によって誘発されることが分かっている。
【特許文献1】特開2003−116516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の口腔内細菌の殺菌剤としては、殺菌作用に優れる点で、次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系消毒洗浄剤が使用されている。しかし、かかる塩素系消毒洗浄剤の殺菌作用が非常に高いことから、塩素系消毒剤を使用するような場合には、口腔内常在菌叢の均衡、あるいは軟組織への影響を考慮すべきである。また、使用後に口腔内に残留した有効塩素による悪影響も考慮されるべきである。
【0006】
これらの問題を緩和するべく、洗浄液にフレーバー成分等の添加剤を添加する対策も考えられる。しかし、添加剤を使用した分、洗浄液の有効塩素濃度が低減するため、口腔内細菌の殺菌効率が低下してしまう。
【0007】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、塩素系消毒洗浄剤の優れた殺菌効率を保持しつつ、使用後に口腔内に残留する有効塩素による悪影響を軽減できる口腔洗浄用の後処理液及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、塩素系消毒洗浄剤に対する還元剤を含有する後処理液でうがいを行うことで、使用後に口腔内に残留する有効塩素による悪影響を軽減できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) 口腔洗浄において塩素系消毒洗浄剤を含有する洗浄液の後に用いられ、前記塩素系消毒洗浄剤に対する還元剤を含有する後処理液。
【0010】
(1)の発明によれば、口腔内細菌を効果的に殺菌した後に口腔内に残る塩素系消毒洗浄剤は、還元剤で速やかに還元されて除去される。ここで、還元剤は塩素系消毒洗浄剤と別個の液体中で保管されているため、洗浄液の有効塩素濃度を低下させることはない。このため、塩素系消毒洗浄剤の優れた殺菌効率を保持しつつ、使用後に口腔内に残留する有効塩素による悪影響を軽減できる。
【0011】
(2) 前記還元剤は、アスコルビン酸、チオ硫酸、重亜リン酸、次亜硫酸、及びこれらの生理学的に許容できる塩からなる群より選ばれる1種以上を含む(1)記載の後処理液。
【0012】
(2)の発明によれば、アスコルビン酸、チオ硫酸、重亜リン酸、次亜硫酸、及びこれらの生理学的に許容できる塩といった塩素系消毒洗浄剤の還元能力に優れた還元剤を用いるので、使用後に口腔内に残留する有効塩素による悪影響を更に軽減できる。
【0013】
(3) 前記還元剤は、アスコルビン酸又はその生理学的に許容できる塩を含む(2)記載の後処理液。
【0014】
(3)の発明によれば、アスコルビン酸又はその生理学的に許容できる塩という安全性に極めて優れる還元剤を用いるので、後処理液が口腔内に多量に残留しても全く問題がない。このため、後処理液の使用後に後処理液を排出するためのうがい等を行わなくてもよく、安全性及び簡便性を向上できる。
【0015】
(4) 緩衝剤を更に含有する(1)から(3)いずれか記載の後処理液。
【0016】
(4)の発明によれば、後処理液のpHが安定するので、後処理液の官能性の変動を抑制し、一定レベルに維持しやすい。
【0017】
(5) 前記緩衝剤は、炭酸水素ナトリウムを含む(4)記載の後処理液。
【0018】
(5)の発明によれば、アスコルビン酸を始めとする還元剤の酸味が緩和されるため、後処理液の官能性をより向上できる。
【0019】
(6) フレーバー成分を更に含有する(1)から(5)いずれか記載の後処理液。
【0020】
(6)の発明によれば、使用する還元剤の種類や量等に応じて、適切なフレーバー成分を適宜選択することで、後処理液の官能性を更に向上できる。また、フレーバー成分を洗浄液に添加する場合と異なり、塩素系消毒洗浄剤の優れた殺菌効率を低下させることがない。
【0021】
(7) 塩素系消毒洗浄剤を含有する洗浄液と、前記塩素系消毒洗浄剤に対する還元剤と、を備える口腔洗浄用キット。
【0022】
(8) 前記洗浄液はゲル体である(7)記載の口腔洗浄用キット。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、口腔内細菌を効果的に殺菌した後に口腔内に残る塩素系消毒洗浄剤は、還元剤で速やかに還元されて除去される。ここで、還元剤は塩素系消毒洗浄剤と別個の液体中で保管されているため、洗浄液の有効塩素濃度を低下させることはない。このため、塩素系消毒洗浄剤の優れた殺菌効率を保持しつつ、使用後に口腔内に残留する有効塩素による悪影響を軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明がこれに限定されるものではない。
【0025】
<洗浄液>
洗浄液は塩素系消毒洗浄剤を含有し、この塩素系消毒洗浄剤の作用で口腔内細菌を有効に殺菌できる。その具体的な組成は、特に限定されず、適宜選択されてよい。
【0026】
塩素系消毒洗浄剤としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム等の次亜塩素酸アルカリ土類金属塩、塩素化イソシアヌル酸ナトリウム、塩素化イソシアヌル酸カリウム等の塩素化イソシアヌル酸アルカリ金属塩、塩素化イソシアヌル酸カルシウム等の塩素化イソシアヌル酸アルカリ土類金属塩が挙げられる。これらの中でも、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩が好ましく、次亜塩素酸ナトリウムがより好ましい。
【0027】
かかる塩素系消毒洗浄剤は、有効塩素濃度が100ppm以上になるように添加されることが好ましい。これにより、口腔内細菌の殺菌力を充分に得ることができる。有効塩素濃度は、200ppm以上であることがより好ましく、更に好ましくは300ppm以上、最も好ましくは400ppm以上である。有効塩素濃度の上限は、口腔常在菌叢あるいは口腔内組織への影響を考慮し、600ppm程度であってよい。
【0028】
ただし、塩素系消毒洗浄剤は、口腔内細菌の殺菌能力には優れるものの、バイオフィルム内の口腔内細菌を殺菌する能力には乏しい。このため、一旦バイオフィルムが形成されてしまうと、う蝕の進行を充分には抑制できないことが懸念される。そこで、有効塩素濃度を上げることにより、バイオフィルム浸透性が高まり、バイオフィルム内の口腔細菌の活動を制御できる。かかる塩素系消毒洗浄剤は、有効塩素濃度が300ppm以上になるように添加されることが好ましく、400ppm以上であることがより好ましく、更に好ましくは500ppm以上、最も好ましくは550ppm以上である。有効塩素濃度の上限は、600ppm程度であってよい。
【0029】
なお、塩素系消毒洗浄剤を含有する洗浄液の製造は、特に限定されず、塩素ガスを吹き込んだり、塩化ナトリウム水溶液(例えば、塩化ナトリウム濃度が2〜5質量%)を電気分解したりすることで行うことができる。炭酸水素ナトリウムを更に含有する洗浄液を製造する場合には、塩化ナトリウムに加えて二酸化炭素が含有されている水溶液を電気分解すればよい。
【0030】
なお、充分なバイオフィルム破壊性能を与えると言われている炭酸水素ナトリウム含量を得るためには、二酸化炭素を強制溶解させることが望ましい。強制溶解は、例えば、塩化ナトリウム水溶液に、炭酸ガスを吹き込んだり、ドライアイスを添加したり、接する雰囲気の二酸化炭素分圧を増加させたりすることで行うことができる。
【0031】
洗浄液のpHが過小であると、歯の脱灰が懸念され、またHCO、HCO、及びCO2−の濃度分率におけるHCOの存在比率が低くなり、一般的にバイオフィルムを充分に破壊できる程度の炭酸水素ナトリウム含量を得るのが困難になる。他方、pHが過大であると、Cl、HClO、及びClOの濃度分率におけるHClOの存在比率が低下し、細菌、特にう蝕原因菌の殺菌が不充分になりやすい。そこで洗浄液のpHは、6.3以上8.0以下であることが好ましく、より好ましくは7.0以上8.0以下である。pHが7.0以上(つまり、弱アルカリ性)であることで、う蝕原因菌が産生する乳酸等の酸が中和され、口腔内の酸性化が抑制されるため、う蝕の進行を阻害できる。
【0032】
洗浄液は、その他の任意成分を含有してもよいが、任意成分の添加は、有効塩素濃度の低下をもたらすため、必要最低限にするべきである。なお、上記の具体的組成は、あくまで例示のためのものであり、これに限定されるものではない。
【0033】
以上の洗浄液は、液体、ゲル等の任意の形態をとってよい。液体の場合、口腔常在菌叢あるいは口腔内組織への影響を考慮し、殺菌可能な有効塩素濃度の範囲内でできる限り低い濃度を示す洗浄液を用いて数秒〜数十秒間うがいを行えばよい。ゲルの場合、歯面に塗布すればよく、塗布は、歯列に沿った形状(例えば馬蹄状)の凹部を有するトレー内にゲルを投入し、この状態のトレーを歯列に嵌合させることで行うことが好ましい。これにより、口腔内細菌の殺菌作用の飛躍的な向上が期待でき、また洗浄液が必要箇所に集中的に適用されるため、口腔軟組織、更には口腔常在菌への影響を調節でき、また不快な後味を抑制できる。
【0034】
<後処理液>
後処理液は、口腔洗浄において前述の洗浄液の後に用いられ、塩素系消毒洗浄剤に対する還元剤を含有する。これにより、口腔内細菌を効果的に殺菌した後に口腔内に残る塩素系消毒洗浄剤は、還元剤で速やかに還元されて除去されるため、使用後に口腔内に残留する有効塩素による悪影響を軽減できる。
【0035】
ここで、還元剤を洗浄液に含有させて一液化することも考えられるが、この場合、塩素系消毒洗浄剤が還元剤で10〜20秒程度という短期間で還元され消失してしまうため、口腔内細菌の殺菌性能が著しく低下し得る。これに対して、本発明では、還元剤が塩素系消毒洗浄剤と別個の液体中で保管されている二液型を採用しているため、洗浄液の有効塩素濃度を低下させることはなく、塩素系消毒洗浄剤の優れた殺菌効率を保持できる。
【0036】
還元剤は、用いる塩素系消毒洗浄剤の種類に応じて、適切な還元性能が得られるように適宜選択されてよいが、アスコルビン酸、チオ硫酸、重亜リン酸、次亜硫酸、及びこれらの生理学的に許容できる塩からなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。これらのような塩素系消毒洗浄剤の還元能力に優れた還元剤を用いることで、使用後に口腔内に残留する有効塩素による悪影響を更に軽減できる。
【0037】
なお、生理学的に許容できる塩とは、アルカリ付加塩であり、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等の無毒性の塩が挙げられ、これらは従来公知の方法で製造できる。なお、還元剤として、上記の化合物とその生理学的に許容できる塩とを併用したものを用いれば、緩衝作用が奏される。これにより、後処理液のpHが安定するので、後処理液の官能性の変動を抑制し、一定レベルに維持しやすく、また洗浄液による歯質脱灰のリスクを制御できる。
【0038】
還元剤は、アスコルビン酸又はその生理学的に許容できる塩を含むことが好ましい。安全性に極めて優れるアスコルビン酸又はその生理学的に許容できる塩を用いるので、後処理液が口腔内に多量に残留しても全く問題がない。このため、後処理液の使用後に後処理液を排出するためのうがい等を行わなくてもよく、安全性及び簡便性を向上できる。
【0039】
以上の還元剤の含有量は、洗浄液の有効塩素濃度に応じて適宜設定されてよく、好ましくは洗浄液の有効塩素濃度と同等又は同等以上(約3倍)である。例えば、有効塩素濃度600ppmを示す塩素系消毒剤5mLに対しては、0.02g以上のアスコルビン酸ナトリウム(粉末)が必要である。
【0040】
後処理液のpHは、特に限定されないが、8以上12以下であることが好ましい。pH8以上のアルカリ性であると、α−1,3−グルカン、及びα−1,6−グルカンが後処理液に溶解する。これにより、洗浄液では除去しれなかったバイオフィルムが分散するので、バイオフィルムを十分に除去できる。また、pH12以下であれば、強アルカリによる口腔内の傷害等の問題も発生しない。ただし、後処理液のpHは、これに限定されず、任意の値であってよい。
【0041】
後処理液は、緩衝剤を更に含有することが好ましい。これにより、後処理液のpHが安定するので、後処理液の官能性の変動を抑制し、一定レベルに維持しやすく、また洗浄液による歯質脱灰のリスクを制御できる。
【0042】
緩衝剤としては、クエン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、炭酸等の弱酸、及びこれらの生理学的に許容できる塩からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。ここで、本明細書における緩衝剤とは、添加された系において緩衝作用を発生させることのできる物質一般を指し、必ずしも緩衝剤のみで緩衝作用を奏することができる必要はない。
【0043】
例えば、アスコルビン酸を始めとする還元剤のpHを中性に回復するため、また還元剤の酸味が緩和されるため、後処理液の官能性をより向上できる点で、緩衝剤としては炭酸水素ナトリウムが好ましい。ここで、アスコルビン酸を含有する後処理液において、炭酸水素ナトリウムを添加すると、アスコルビン酸ナトリウムが生成される結果、アスコルビン酸及びアスコルビン酸ナトリウムによる緩衝作用が奏される。この場合、炭酸水素ナトリウムは単独で緩衝作用を奏することはできないが、添加された系において緩衝作用を発生させることができるため、本発明における緩衝剤に該当する。
【0044】
本発明の後処理液は、上記成分に加え、他の任意成分を更に含有してもよい。例えば、後処理液は、フレーバー成分を更に含有することが好ましい。使用する還元剤の種類や量等に応じて、適切なフレーバー成分を適宜選択することで、後処理液の官能性を更に向上できる。また、フレーバー成分を洗浄液に添加する場合と異なり、塩素系消毒洗浄剤の優れた殺菌効率を低下させることがない。
【0045】
用いるフレーバー成分の具体例は、通常、口腔内で使用されている成分であればよく、例えば、柑橘類、コーヒー、紅茶、ミント、ハーブ等のフレーバーを奏する成分が挙げられる。フレーバー成分の添加量は、還元剤の種類や量に応じて、適切な官能性を付与できるように適宜選択されてよい。
【0046】
以上の後処理液は、液体、ゲル等の任意の形態をとってよい。液体の場合、後処理液を用いて数秒〜数十秒間うがいを行えばよいし、ゲルの場合、歯、歯肉、舌等に塗布すればよい。ただし、使用後に口腔内に残留する有効塩素による悪影響を速やかに軽減できる点では、後処理液は液体であり、うがいに用いられることが好ましい。
【0047】
<口腔洗浄用キット>
本発明の口腔洗浄用キットは、前述の塩素系消毒洗浄剤を含有する洗浄液と、塩素系消毒洗浄剤に対する還元剤と、を備える。洗浄液及び還元剤は、互いに混ざり合わないよう、別々に保管されていなければならない。また、洗浄液及び還元剤の各々を収容する容器は、成分の変質や分解を抑制できるよう、化学的に安定な樹脂製であることが好ましく、内部を遮光できるよう遮光性の部材で被覆されていることが好ましい。
【0048】
ここで、キット内における洗浄液の組成は、前述の使用時における洗浄液の組成と同じであっても、異なっていてもよい。例えば、キット内における洗浄液は、濃縮されていて、使用時に希釈されてもよい。これにより、またキット内に多量の塩素系消毒洗浄剤を収納させることができ流通コストを削減でき、また保管中の洗浄液の安定性の向上も期待できる。
【0049】
また、キット内における還元剤の形態は、粉末であってもよいし、溶媒に溶解した溶液又はゲルであってもよい。用いる還元剤にもよるが、アスコルビン酸、チオ硫酸、重亜リン酸、次亜硫酸、及びこれらの生理学的に許容できる塩、特にアスコルビン酸又はその生理学的に許容できる塩は、安全性に優れ、使用者が取り扱っても問題のない物質である。このため、流通コスト削減の観点からは、キット内における還元剤は、粉末、あるいは濃縮された液体又はゲルであることが好ましい。
【0050】
洗浄液及び/又は還元剤が、使用時の希釈を想定した形態でキットに備えられている場合には、キットは希釈用容器を備えることが好ましい。これにより、使用者は容易に希釈を行うことができ、口腔洗浄の簡便性を向上できる。なお、希釈用容器には、希釈の指標となる標識(例えば目盛り)等が付されていることが好ましい。また、洗浄液がゲル体でキットに備えられている場合、キットは歯列に沿った形状(例えば馬蹄状)の凹部を有するトレーを更に備えることが好ましい。これにより、ゲル体を歯に容易に塗布でき、また洗浄液が歯に集中的に適用されるため、使用後に口腔内に残留する有効塩素による悪影響を軽減できる。
【実施例】
【0051】
<試験例1>
[洗浄液の調製]
次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系消毒洗浄剤を含有する洗浄液として、PerfectPerio(商標)(PPW、野口歯科医学研究所社製)を用いた。この洗浄液は、pHが7.5±0.5、有効塩素濃度が600ppmであった。更に、PPWを2倍、3倍、6倍及び10倍に希釈したサンプルも用いた(PPW−2、PPW−3、PPW−6、PPW−10)。また、この洗浄液の比較対象として、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、及び0.06質量%次亜塩素酸ナトリウム溶液(NaOCl)を用いた。
【0052】
(生死判定)
生死判定に用いた菌株はStreptococcus mutan MT8148(S. mutans)、Streptococcus sobrinus 6715(S. sobrinus)、Streptococcus gordonii ATCC10558(S.gordonii)及びLactobacillus casei IAM12473(L.casei)である。口腔レンサ球菌群は、Brain Heart Infusion(BHI)培地にて16時間培養後、PBSを用いて再懸濁(OD500=2.0)し、L.caseiに関してはLactobacilli MRS Broth培地にて、48時間培養し、同様の操作を行った。その後、遠心操作(3000rpm、10分)を行い、上澄み液を除去後、菌塊の各溶液を混和し、常温にて10秒間安置した。その後、口腔レンサ球菌群は、Mitis Salivarius培地に、L.caseiに関してはRogosa agar培地にそれぞれ接種した。37℃で48時間培養した後、培地上に生じたコロニーの数を計数した。この結果を図1に示す。
【0053】
図1に示されるように、PPWは、NaOClと共に、すべての菌種を死滅させることが確認された。また、PPWを6倍程度に希釈したものも、高い殺菌能力を有することが分かった。これにより、次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系消毒洗浄剤を含有する洗浄液の殺菌効果が有効であることが分かった。
【0054】
(バイオフィルム浸透性の評価)
次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系消毒洗浄剤を含有する洗浄液として、PerfectPerio(商標)(PPW、野口歯科医学研究所社製)を用いた。この洗浄液は、pHが7.5±0.5、有効塩素濃度が600ppmであった。更に、PPWを2倍、3倍、6倍及び10倍に希釈したサンプルも用いた(PPW−2、PPW−3、PPW−6)。また、この洗浄液の比較対象として、水道水(TW)及び0.06質量%次亜塩素酸ナトリウム溶液(NaOCl)を用いた。
【0055】
図2は、実施例で使用した人工口腔装置100の全体斜視図である。人工口腔装置100は、筒状の透光壁110で形成された内部空間を有し、この内部空間は外部から遮断されている。内部空間には、円板状のステージ120が設けられ、このステージ120の上部には複数の滴下管130の先端が配置されている。これにより、滴下管130の先端から滴下された液体培地等は、ステージ120上に載置された試料121に添加される。
【0056】
牛歯エナメル質を4mm×4mm×1.5mmとなるように切断し、この切断片の表面を耐水研磨紙#1200SiCで研削することで、試料を調製した。この試料を、前述した人工口腔装置100(37℃温熱還流)のステージ120上に固定し、固定された試料に、PBS、S. mutans、S. sobrinus、S.gordonii、Streptococcus mitis ATCC6249株(S.mitis)の混合懸濁液(OD300=3.0)、スクロース入りHI培地(25g/L スクロース、10.0g/L ハートインフュージョン、10.0g/L トリプトース、5.0g/L 塩化ナトリウム)を12時間に亘って連続的に滴下して、人工バイオフィルムを形成させた。
【0057】
続いて、人工バイオフィルムを上層、中層、及び下層の三層に分け、以下の実験を行った。具体的には、前述の洗浄液又は比較溶液に懸濁した後、常温で10秒間放置した。その後、振動を加えて剥離したバイオフィルムを上層とした(A−layer)。その後、試料をPBS中に浸漬し、再度振動を加えて剥離したバイオフィルムを中層とした(B−layer)。最後に試料に残存した下層バイオフィルムをエキスカベータで採取し、PBS中に保存した(C−layer)。A−layer、B−layer、C−layer中の菌体をPBS内に懸濁させ、適宜倍率で希釈し、Mitis Salivarius培地に接種した。37℃で48時間培養した後、培地上に生じたコロニーの数を計数した。この結果を図3〜5に示す。
【0058】
図3〜5に示されるように、TW、NaOHと比較し、PPWは有意に最下層まで浸透していることが分かった。これにより、次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系消毒洗浄剤を含有する洗浄液は、バイオフィルム中に浸透し、菌の活動を制御できることが確認された。
【0059】
(還元剤の評価)
水道水(TW)5mLに、アスコルビン酸ナトリウム(SA)、及びアスコルビン酸(AA)を0.01g添加した溶液を準備した。これらの溶液と、高濃度次亜塩素酸電解水であるPerfectPerio(PPW、野口歯科医学研究所社製)とを同量ずつ混和した(PPW+TW+SA/PPW+TW+AA)。比較対象として、水道水及びPBSを同量ずつ混和した溶液を準備した。各溶液のpHを表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
(生死判定)
生死判定に用いた菌株はS.mutans、S.sobrinus、S.gordonii及びS.mitisである。各菌株をBrain Heart Infusion (BHI)培地にて16時間培養後、PBSを用いて再懸濁(OD500=2.0)した。その後、遠心操作(3000rpm、10分)を行い、上澄み液を除去後、菌塊の各溶液(TW、PPW+TW+SA、PPW+TW+AA及びPPW)を混和し、常温にて10秒間安置した。その後、LIVE/DEAD(登録商標) BacLight(商標) Bacterial Viability Kit(Molecular Probes, Invitrogen Detection Technologies, Carlsbad, USA)を用いて染色し、蛍光顕微鏡下にて観察を行った。この結果を図6に示す。
【0062】
図6に示されるように、PPW+TW+SA群(図6中の「SA」)は、PBSとほぼ同等の様相を示し、ほぼ100%の生菌が認められ、有効塩素の効果を制御できることが分かった。また、PPW+TW+SA群は、pHにおいても、強酸を示すPPW+TW+AA群(図6中の「AA」)と異なり、中性を示すため、歯質への影響が少ないと考えられる。
【0063】
<試験例2>
[洗浄液の調製]
次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系消毒洗浄剤を含有する洗浄液として、PerfectPerio(商標)(PPW、野口歯科医学研究所社製)を用いた。この洗浄液は、pHが7.5±0.5、有効塩素濃度が600ppmであった。さらにPPWを2倍、3倍、6倍及び10倍に希釈したサンプルも用いた(PPW−2、PPW−3、PPW−6、PPW−10)。また、この洗浄液の比較対象として、0.25質量%次亜塩素酸ナトリウム溶液(NaOCl)を用いた。
【0064】
(細胞生死判定)
HeLa−KB細胞を10%ウシ胎児血清(FBS)及び抗生剤含有DMEMにて、37度、5%CO、95%Air条件化にて培養した。細胞がコンフルエントになった時点で、0.25w/v%トリプシン−1mmol/L EDTAにより剥離し回収し、試験に供した。上記操作により準備されたKB細胞に10%FBS含有DMEMを加え、これをマルチウェルプレート等に等量ずつ加え、再び培養を開始した。次に遠心操作により培養液を除去し、新しくDMSOを加えた。その後、各洗浄剤を加えた後、LIVE/DEAD(登録商標) BacLight(商標) Bacterial Viability Kit(Molecular Probes, Invitrogen Detection Technologies, Carlsbad, USA)を用いて染色し、蛍光顕微鏡下にて観察を行った。この結果を図7に示す。
【0065】
図7に示されるように、PPW、PPW−2、及びNaOCl群では細胞が死滅していることが認められた。これは、有効塩素により細胞形態が破壊され、核膜の透過性が高まったためによるものと考えられる。他方、PPW−3、PPW−6、及びPPW−10群では細胞の死滅がほとんど生じていなかった(図示せず)。従って、継続使用の場合、有効塩素の悪影響を制限するために、PPWを3倍以上に希釈することが好ましいことが分かった。
【0066】
[後処理液の調製]
以下の3種の後処理液を調製した。各後処理液のpHを表2に示す。
(1)水道水5mLに対し、アスコルビン酸ナトリウム(SA)を0.01g混和した(アスコルビン酸ナトリウム溶液;0.012mol/L)。
(2)水道水5mlに対し、アスコルビン酸(AA)を0.01g混和した(アルコルビン酸溶液;0.012mol/L)。
(3)水道水5mlに対し、アスコルビン酸を0.01g及び炭酸水素ナトリウム0.01gを混和した(アルコルビン酸−炭酸水素ナトリウム溶液;0.012mol/L)。
【0067】
【表2】

【0068】
[官能性評価]
専門パネリストに、前述の洗浄液(PPW)を用いて10秒間に亘ってうがいを行わせ、後味を官能評価した(後処理液なし)。また、20秒間に亘るうがいの後、前述の後処理液1〜3又は水道水でうがいを行わせ、その後の後味を官能評価した。この結果を表2に示す。なお、表3に示す評価の基準は次の通りである。
A:塩素の後味をほとんど感じない
B:塩素の後味が若干残っている
C:塩素の後味が残っている
D:強烈な塩素の後味が残っている
【0069】
【表3】

【0070】
表3に示されるように、後処理液によるうがいを行わなかった場合及び水道水でうがいを行った場合に比べ、後処理液でうがいを行った場合には、洗浄液に起因する塩素の後味が解消されていた。これにより、アスコルビン酸のように塩素系消毒洗浄剤に対する還元剤を含有する後処理液によれば、塩素系消毒洗浄剤に起因する使用者に与える不快な後味を抑制できることが確認された。また、特にアスコルビン酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムを用いることで、官能性を更に向上できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の一実施例に係る洗浄液の殺菌作用を示す図である。
【図2】本発明の実施例で使用した人工口腔装置の斜視図である。
【図3】本発明の一実施例に係る洗浄液のバイオフィルム表層への浸透性を示す図である。
【図4】本発明の一実施例に係る洗浄液のバイオフィルム中層への浸透性を示す図である。
【図5】本発明の一実施例に係る洗浄液のバイオフィルム下層への浸透性を示す図である。
【図6】本発明の試験例に係る還元剤の口腔内細菌に与える影響を示す図である。
【図7】本発明の一実施例に係る洗浄液の上皮細胞に与える影響を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
100 人工口腔装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔洗浄において塩素系消毒洗浄剤を含有する洗浄液の後に用いられ、前記塩素系消毒洗浄剤に対する還元剤を含有する後処理液。
【請求項2】
前記還元剤は、アスコルビン酸、チオ硫酸、重亜リン酸、次亜硫酸、及びこれらの生理学的に許容できる塩からなる群より選ばれる1種以上を含む請求項1記載の後処理液。
【請求項3】
前記還元剤は、アスコルビン酸又はその生理学的に許容できる塩を含む請求項2記載の後処理液。
【請求項4】
緩衝剤を更に含有する請求項1から3いずれか記載の後処理液。
【請求項5】
前記緩衝剤は、炭酸水素ナトリウムを含む請求項4記載の後処理液。
【請求項6】
フレーバー成分を更に含有する請求項1から5いずれか記載の後処理液。
【請求項7】
塩素系消毒洗浄剤を含有する洗浄液と、前記塩素系消毒洗浄剤に対する還元剤と、を備える口腔洗浄用キット。
【請求項8】
前記洗浄液はゲル体である請求項7記載の口腔洗浄用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−126506(P2010−126506A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305358(P2008−305358)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【出願人】(504339239)パーフェクトペリオ株式会社 (3)
【出願人】(591133712)葵エンジニヤリング株式会社 (1)
【Fターム(参考)】