説明

口腔用器具及び該口腔用器具の洗浄方法

【課題】口腔用器具に付着した菌(例えば、虫歯の原因となる虫歯菌、歯周病の原因となる歯周病菌、人体の疫病の原因となるバクテリア、ウイルス、細菌、カビ類などの病原菌など)を、簡便かつ効率的に分解除去することができ、しかも人体や環境に悪影響がない口腔用器具及び該口腔用器具の洗浄方法の提供。
【解決手段】本発明の口腔用器具は、光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料が、練り込みまたは表面コーティングされたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料が練り込みまたは表面コーティングされた口腔用器具及び該口腔用器具の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内を清潔に保つことは、様々な感染症を抑止して健康を保つ上で重要である。しかしながら、病院や老人介護施設などで介護を必要としている人は、大概、自力で歯磨きなどを行うことができず、様々な感染症を引き起こしてしまうことがあり、最悪の場合、死亡に繋がってしまうという問題があった。
なお、口腔用器具として、光触媒ブラシ(例えば、特許文献1参照)、口腔洗浄清掃器具(例えば、特許文献2参照)などが開示されているが、これらの口腔用器具によっては、口腔内を十分に清潔に保つことができないという問題があった。
【0003】
また、入れ歯を装着している人にとって、入れ歯を清潔に保つということは、口臭予防だけでなく、自身の健康管理上において重要である。入れ歯表面に付着する汚れとしては、食べ物カス、様々な菌、バクテリア類などが挙げられる。しかしながら、従来の入れ歯洗浄剤は、界面活性剤と発泡剤を使用したものが主であったが、洗浄力が弱く抗菌効果が不十分であるという問題があった。
また、銀イオンによって抗菌効果を付与した入れ歯が存在するが、銀は重金属であるので、体内に装着する部材として用いるのは好ましくない。
なお、酸化チタンの水溶液を用いた洗浄方法(例えば、特許文献3参照)、光触媒(例えば、特許文献4参照)などが開示されている。
【特許文献1】特開2006−167396号公報
【特許文献2】特開2001−299784号公報
【特許文献3】特開2005−178025号公報
【特許文献4】特開2007−252983号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、口腔用器具に付着した菌(例えば、虫歯の原因となる虫歯菌、歯周病の原因となる歯周病菌、人体の疫病の原因となるバクテリア、ウイルス、細菌、カビ類などの病原菌など)を、簡便かつ効率的に分解除去することができ、しかも人体や環境に悪影響がない口腔用器具及び該口腔用器具の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
本発明の口腔用器具は、光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料が、練り込みまたは表面コーティングされたことを特徴とする。
【0006】
該口腔用器具では、口腔用器具に付着した菌(例えば、虫歯の原因となる虫歯菌、歯周病の原因となる歯周病菌、人体の疫病の原因となるバクテリア、ウイルス、細菌、カビ類などの病原菌など)を、簡便かつ効率的に分解除去することができ、しかも人体や環境に悪影響がない。
【0007】
該口腔用器具の洗浄方法は、前記光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料を含む洗浄液に、本発明の口腔用器具を浸漬して洗浄する洗浄工程と、前記洗浄液に、光触媒活性の発現に必要な所定波長の光を照射する光照射工程とを含むことを特徴とする。
【0008】
該口腔用器具の洗浄方法では、前記洗浄工程において、前記光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料を含む洗浄液に、本発明の口腔用器具が浸漬されて洗浄され、前記光照射工程において、前記洗浄液に、光触媒活性の発現に必要な所定波長の光が照射される。その結果、口腔用器具に付着した菌(例えば、虫歯の原因となる虫歯菌、歯周病の原因となる歯周病菌、人体の疫病の原因となるバクテリア、ウイルス、細菌、カビ類などの病原菌など)を、簡便かつ効率的に分解除去することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来における問題を解決することができ、口腔用器具に付着した菌(例えば、虫歯の原因となる虫歯菌、歯周病の原因となる歯周病菌、人体の疫病の原因となるバクテリア、ウイルス、細菌、カビ類などの病原菌など)を、簡便かつ効率的に分解除去することができ、しかも人体や環境に悪影響がない口腔用器具及び該口腔用器具の洗浄方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(口腔用器具)
本発明の口腔用器具は、光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料が、練り込みまたは表面コーティングされているものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、歯ブラシ器具、入れ歯などが挙げられる。
【0011】
−光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料−
前記光触媒活性(光触媒能)及び有機物吸着能を有する材料としては、光触媒活性及び有機物吸着能を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カルシウムハイドロキシアパタイトを挙げることができ、この中でも、光触媒活性を有するのに必要な金属原子(以下、光触媒活性を発現可能な金属原子と称することがある。)を有してなるものなどが好ましい。前記カルシウムハイドロキシアパタイトが該光触媒活性を有するのに必要な金属原子を有すると、該アパタイトに光が照射されると、該光触媒活性を有するのに必要な金属原子の作用により該アパタイトが活性化され、該アパタイトの表面に吸着している分解対象物から電子を奪い取ることができ、該分解対象物を酸化し、分解させることができる。
【0012】
前記カルシウムハイドロキシアパタイト(CaHAP)は、吸着性に優れるカルシウム原子(Ca)及び生体親和性が良好なリン原子(P)を含み、Ca10(PO(OH)で表される。
前記カルシウムハイドロキシアパタイト(CaHAP)は、カチオンに対してもアニオンに対してもイオン交換し易いため、各種の分解対象物に対する吸着特性に優れ、特にタンパク質等の有機物に対する吸着性に優れており、加えて、ウイルス、カビ、細菌等の微生物等に対する吸着特性にも優れ、これらの増殖を阻止乃至抑制し得る点で好ましい。
【0013】
なお、前記分解対象物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、その成分としては、タンパク質、アミノ酸、脂質、糖質、などが挙げられる。該分解対象物は、これらを1種単独で含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。該分解対象物の具体例としては、一般に、微生物、ウイルス、などが挙げられる。前記微生物としては、特に制限はなく、原核生物及び真核生物のいずれであってもよいし、原生動物も含まれ、前記原核生物としては、例えば、大腸菌、黄色ブドウ球菌等の細菌などが挙げられ、前記真核生物としては、例えば、酵母菌類、カビ、放線菌等の糸状菌類などが挙げられる。さらに、前記微生物としては、虫歯菌及び歯周病菌などが挙げられる。前記ウイルスとしては、例えば、DNAウイルス、RNAウイルスなどが挙げられ、具体的には、インフルエンザウイルスなどが挙げられる。これらの分解対象物は、固体状、液体状、及び気体状のいずれの態様で存在していてもよい。
【0014】
前記カルシウムハイドロキシアパタイトの平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、5μm以下が好ましい。
前記カルシウムハイドロキシアパタイトの平均粒径が、5μmを超えると、口腔用器具への練り込み状態または表面コーティング状態を好適に維持することができないことがある。
【0015】
前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子としては、光触媒中心として機能し得る限り、特に制限はなく、光触媒活性を有するものとして公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、光触媒活性に優れる点で、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、インジウム(In)、鉄(Fe)、などから選択される少なくとも1種が好ましい。これらの中でも、前記光触媒活性(光触媒能)に優れる点で、チタン(Ti)がより好ましい。
【0016】
前記光触媒活性を有するのに必要な金属原子が、前記カルシウムハイドロキシアパタイトの結晶構造を構成する金属原子の一部として該アパタイトの結晶構造中に取り込まれる(置換等される)ことによって、該アパタイトの結晶構造変化により、光触媒機能を発揮し得る物性に変化する(該アパタイトの結晶構造内に、光触媒機能を発揮し得る「光触媒性部分構造」が形成される)。
このような光触媒活性を発現する光触媒性部分構造を有する前記カルシウムハイドロキシアパタイトは、光触媒活性を有し、また、アパタイト構造部分が吸着特性に優れ、光触媒活性を有する公知の金属酸化物よりも、前記有害成分(分解対象物)に対する吸着特性に優れるため、分解作用、抗菌作用、防汚作用、カビや細菌等の増殖阻止乃至抑制作用に優れる。
【0017】
前記光触媒活性の発現に必要な光の波長としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、紫外光乃至可視光等の広帯域の光に対して吸収性を示し、光触媒活性を発現可能であるのが好ましい。
【0018】
前記光触媒活性は、分解対象物の濃度、分解生成物の濃度等を測定することにより評価することができる。
【0019】
−歯ブラシ器具−
前記歯ブラシ器具は、柄部と、ブラシ部とを少なくとも備え、好ましくは、光源、充電池、注水用水路、吸引用水路、洗浄液タンク、及びドレインタンクなどを備え、更に必要に応じて適宜選択したその他の部材を備える。
【0020】
−−柄部−−
前記柄部は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料が練り込みまたは表面コーティングされたものや、後述する光源、充電池などが内蔵できるように、内部が空洞であるものなどが好ましい。
【0021】
−−−練り込み−−−
前記練り込みの方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、柄部の材料に光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料を混錬して、柄部を成形する方法などが挙げられる。
【0022】
−−−表面コーティング−−−
前記表面コーティングの方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、成形された柄部に光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料を物理的方法で被覆する方法などが挙げられる。ここで、物理的方法としては、イオン蒸着、スパッタリング、塗布などが適用可能である。
【0023】
−−ブラシ部−−
前記ブラシ部は、光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料が、練り込みまたは表面コーティングされていれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
−−−練り込み−−−
前記練り込みの方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ブラシ部の材料に光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料を混錬して、ブラシ部を成形する方法などが挙げられる。
【0024】
−−−表面コーティング−−−
前記表面コーティングの方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、成形されたブラシ部に光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料を物理的方法で被覆する方法などが挙げられる。ここで、物理的方法としては、イオン蒸着、スパッタリング、塗布などが適用可能である。
【0025】
−−光源−−
前記光源は、光触媒活性の発現に必要な所定波長の光を照射するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ブラシ部の根元の部分に組み込まれたLEDなどが挙げられる。
【0026】
−−充電池−−
前記充電池は、光源に電力供給するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、柄部に内蔵してあるものや、充電中は常に光源に電力供給するものなどが挙げられる。
【0027】
−−注水用水路−−
前記注水用水路は、注水口に接続され、注水口から液体を注入するために配設されたものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、この注水用水路を介して、後述する洗浄液タンクに収容された洗浄液が注水口から口腔内に注水乃至噴霧される。
【0028】
−−吸引用水路−−
前記吸引用水路は、吸引口に接続され、注水された液体を吸引口から吸引するために配設されたものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、この吸引用水路を介して、吸引口から吸引された洗浄後排水(例えば、口腔内に溜まった唾液や洗浄液)が後述するドレインタンクに排出される。
【0029】
−−洗浄液タンク−−
前記洗浄液タンクは、注水用水路に接続されたものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。この洗浄液タンクには、例えば、光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料が分散した洗浄液が収容される。また、この洗浄液タンクの周辺部には、光触媒活性の発現に必要な所定波長の光を照射する光源が配設されていることが好ましい。
【0030】
−−ドレインタンク−−
前記ドレインタンクは、吸引用水路に接続されたものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。このドレインタンクには、例えば、吸引口から吸引された洗浄後排水が収容される。また、このドレインタンクの周辺部には、光触媒活性の発現に必要な所定波長の光を照射する光源が配設されていることが好ましい。
【0031】
図1は、本発明の口腔用器具としての歯ブラシ器具の構成を示す図である。
図1において、歯ブラシ器具100は、歯ブラシ本体10と、歯ブラシ本体10に接続された洗浄液タンク20と、歯ブラシ本体10に接続されたドレインタンク30とを備える。
歯ブラシ本体10は、柄部11と、柄部11の先端部11aに装着されたブラシ部12と、ブラシ部12の根元(柄部11の先端部11a)に配設され、光触媒活性の発現に必要な所定波長の光を照射するLED(光源)13と、柄部11に内蔵され、導線(不図示)を介してLED(光源)13に電力供給する充電池14と、柄部11の先端部11aから後端部11bに亘って延設され、柄部11の先端部11aに配設された噴出孔(注水口)15と接続された注水用水路16と、柄部11の先端部11aから後端部11bに亘って延設され、柄部11の先端部11aに配設された吸引孔(吸引口)17と接続された吸引用水路18とを備える。
歯ブラシ本体10における注水用水路16と接続された洗浄液タンク20には、周辺部に光触媒活性の発現に必要な所定波長の光を照射する光源21が配設されている。
歯ブラシ本体10における吸引用水路18と接続されたドレインタンク30には、周辺部に光触媒活性の発現に必要な所定波長の光を照射する光源31が配設されている。
【0032】
洗浄液タンク20に収容された洗浄液は、ポンプ40の吸引力により、柄部11の後端部11bの注水用水路16に加圧導入される。注水用水路16に加圧導入された洗浄液は、注水用水路16内を柄部11の後端部11bから先端部11aに向かって移動し、噴出孔15から口腔内に噴出される。そして、口腔内に噴出された洗浄液により口腔内が洗浄される。口腔内洗浄後の洗浄後排水(例えば、口腔内に溜まった唾液や洗浄液)は、ポンプ40の吸引力により、吸引孔17から吸引され、吸引用水路18内を柄部11の先端部11aから後端部11bに向かって移動し、ドレインタンク30に収容される。
また、洗浄液タンク20に収容された洗浄液には、洗浄液タンク20の周辺部に配設された光源21により、光触媒活性の発現に必要な所定波長の光が照射され、該洗浄液は滅菌される。
また、ドレインタンク30に収容された洗浄後排水には、ドレインタンク30の周辺部に配設された光源31により、光触媒活性の発現に必要な所定波長の光が照射され、該洗浄後排水は滅菌される。
【0033】
図2は、本発明の口腔用器具としての歯ブラシ器具の充電を示す図である。
図2において、歯ブラシ器具100は、充電スタンド200に立掛けられて充電される。この充電の際、LED(光源)13は、光触媒活性の発現に必要な所定波長の光をブラシ部12に照射(常灯)する。この光照射により、ブラシ部12が滅菌される。
【0034】
歯ブラシ器具100によれば、虫歯菌、歯周病菌、及び病原菌に対する吸着能が高く、かつ高い光触媒活性を示す材料が少なくともブラシ部12に含まれているので、光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料と、口腔内の虫歯菌、歯周病菌、及び病原菌との接触確率を増大して、歯ブラシ器具100に付着した虫歯菌、歯周病菌、及び病原菌を簡単かつ効率的に分解除去することができる。
【0035】
また、歯ブラシ器具100によれば、虫歯菌、歯周病菌、及び病原菌に対する吸着能が高く、かつ高い光触媒活性を示す材料を、微細な粉体として口腔内に分散させることができ、もって、光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料と、口腔内の虫歯菌、歯周病菌、及び病原菌との接触確率を増大して、口腔内の虫歯菌、歯周病菌、及び病原菌を簡単かつ効率的に分解除去することができる。
【0036】
また、歯ブラシ器具100は、光エネルギーにより抗菌性を発揮するものであるため、従来の銀系抗菌剤を含む歯ブラシ器具と比較して、人体や環境への悪影響を低減することができる。
【0037】
−入れ歯−
前記入れ歯としては、光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料が練り込みまたは表面コーティングされてたものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0038】
−光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料−
前記光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料としては、前記歯ブラシ器具で用いたものを用いることができる。
【0039】
−−−練り込み−−−
前記練り込みの方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、入れ歯の材料に光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料を混錬して、入れ歯を成形する方法などが挙げられる。
【0040】
−表面コーティング−
前記表面コーティングの方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、入れ歯に光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料を物理的方法で被覆する方法などが挙げられる。ここで、物理的方法としては、イオン蒸着、スパッタリング、塗布などが適用可能である。
【0041】
(口腔用器具の洗浄方法)
前記口腔用器具の洗浄方法は、洗浄工程と、光照射工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて適宜選択した、その他の工程を含む。
【0042】
−洗浄工程−
前記洗浄工程は、光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料が分散した洗浄液に、本発明の口腔用器具を浸漬して洗浄する工程である。
【0043】
−−光照射工程−−
前記光照射工程は、光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料が分散した洗浄液に、光触媒活性の発現に必要な所定波長の光を照射する工程である。
【0044】
−その他の工程−
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、照射工程などが挙げられる。
【0045】
−−照射工程−−
前記照射工程は、光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料が分散した洗浄液に、超音波、高周波、及び低周波の少なくもいずれかを照射する工程である。
【0046】
図3は、本発明の口腔用器具の洗浄方法が実施される入れ歯洗浄装置である。
図3において、入れ歯洗浄装置300は、洗浄液302を噴出するための噴出孔303と、洗浄液302を攪拌する攪拌手段(不図示)と、光触媒活性の発現に必要な所定波長の光を照射する光源310と、超音波、高周波、低周波などを照射する照射手段(不図示)とを備える。
【0047】
入れ歯洗浄装置300には、噴出孔303から洗浄液302が注入され、入れ歯301が洗浄液302に投入され、入れ歯301が投入された洗浄液302が攪拌され、洗浄液302には、光触媒活性の発現に必要な所定波長の光、超音波、高周波、低周波などが照射される。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
まず、光触媒(カルシウム・チタンハイドロキシアパタイト(TiHAP;太平化学産業株式会社製、PHOTOHAP PCAP−100)、粒子径3μm〜8μmの白色粉体)がブラシ部に練り込まれた歯ブラシ器具(図1)を準備した。
次に、虫歯菌としてのStreptococcus mutans、歯周病菌としてのActinobacillus actinomycetemcomitans、及び大腸菌をそれぞれ3.0×10個含む1つのサンプル液を調製した。
この調製したサンプル液を収容した透明容器に、準備した歯ブラシ器具の歯ブラシ本体を投入して、2時間浸漬させ、浸漬後のサンプル液におけるStreptococcus mutansActinobacillus actinomycetemcomitans、及び大腸菌の数を測定した。結果を表1に示す。
なお、この実施例1における実験は、通常の室内において行った。
また、光触媒のブラシ部への練り込みは、ブラシ部の材料であるナイロン610(ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸との重縮合体)100質量部に対して光触媒30質量部を混錬して、ブラシ部を成形することにより行った。
【0050】
(実施例2)
実施例1において、光触媒がブラシ部に練り込まれた歯ブラシ器具の代わりに、光触媒がブラシ部に表面コーティングされた歯ブラシ器具を用いた以外は、実施例1と同様に実験を行い、浸漬後のサンプル液におけるStreptococcus mutansActinobacillus actinomycetemcomitans、及び大腸菌の数を測定した。結果を表1に示す。
なお、表面コーティングは、純水100質量部に対して光触媒30質量部を分散させた分散液にブラシ部を3分間浸漬させた後、100℃のオーブンで2時間乾燥させることにより行った。
【0051】
(実施例3)
実施例1において、歯ブラシ器具全体を前記サンプル液に浸漬している間(2時間)、LEDから光触媒活性の発現に必要な所定波長の光を照射した以外は、実施例1と同様に実験を行い、浸漬後のサンプル液におけるStreptococcus mutansActinobacillus actinomycetemcomitans、及び大腸菌の数を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
(比較例1)
実施例1において、光触媒がブラシ部に練り込まれた歯ブラシ器具の代わりに、光触媒を含有しない歯ブラシ器具を用いた以外は、実施例1と同様に実験を行い、浸漬後のサンプル液におけるStreptococcus mutansActinobacillus actinomycetemcomitans、及び大腸菌の数を測定した。結果を表1に示す。
【表1】

【0053】
表1の結果より、ブラシ部に光触媒が練り込みまたは表面コーティングされた歯ブラシ器具(実施例1〜3)は、光触媒が含まれていない歯ブラシ器具(比較例1)よりも浸漬後での菌数が少なく、抗菌性(菌の吸着度及び菌に対する滅菌性)が高いことが分かった。
さらに、ブラシ部光触媒が練り込みまたは表面コーティングされた歯ブラシ器具(実施例1〜3)の中でも、LEDから光触媒活性の発現に必要な所定波長の光を照射した実施例3における浸漬後での菌数が最も少なく、抗菌性(菌の吸着度及び菌に対する滅菌性)が最も高いことが分かった。
【0054】
(実施例4〜6)
まず、光触媒(カルシウム・チタンハイドロキシアパタイト(TiHAP;太平化学産業株式会社製、PHOTOHAP PCAP−100)、粒子径3μm〜8μmの白色粉体)がブラシ部に練り込まれ、かつ、洗浄液タンクに洗浄液(前記光触媒を含有する無菌液(固形分含有量が1質量%))400mmが収容された歯ブラシ器具Aを準備し、光触媒がブラシ部に練り込まれ、かつ、洗浄液タンクに純水が注入された歯ブラシ器具Bを準備し、さらに、光触媒がブラシ部に練り込まれ、かつ、洗浄液タンクに洗浄液が注入されていない歯ブラシ器具Cを準備した。
なお、光触媒のブラシ部への練り込みは、ブラシ部の材料であるナイロン610(ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸との重縮合体)100質量部に対して光触媒30質量部を混錬して、ブラシ部を成形することにより行った。
次に、入れ歯モデル(日本医療器研究所製、歯形模型ジョーズ)を15個準備し、人工歯垢(デンプンのり1gに歯垢染色剤(赤色3号(エリスロシン))1滴を加えて混和したもの)を同量塗布した。
次に、虫歯菌としてのStreptococcus mutans、歯周病菌としてのActinobacillus actinomycetemcomitans、及び大腸菌をそれぞれ3.0×10個含む1つのサンプル液を調製した。
この調製したサンプル液を、人工歯垢が塗布された入れ歯モデル15個に、それぞれ、同量噴霧して、2時間放置した。
放置後の入れ歯モデル15個のうち5個に対して、歯ブラシ器具Aを用いて噴射孔(注水口)より洗浄液を噴射しながら、歯みがき力200gのスクラッブ法で歯みがきを実施し、洗浄後の洗浄液を吸引口から吸引し、洗浄液を吸引した後の入れ歯モデルにおけるStreptococcus mutansActinobacillus actinomycetemcomitans、及び大腸菌の数を測定すると共に、洗浄液を吸引した後の入れ歯モデル5個の状態をデジタルカメラで撮影した。前記デジタルカメラにより撮影された画像において、人工歯垢付着面積と人工歯垢未付着面積とを検出し、歯垢除去率(%)(人工歯垢未付着面積/(人工歯垢未付着面積+人工歯垢付着面積)×100)を算出した。その結果(平均値)を表2に示す。
【0055】
また、放置後の入れ歯モデル15個のうち他の5個に対して、歯ブラシ器具Bを用いて噴射孔(注水口)より純水を噴射しながら、歯みがき力200gのスクラッブ法で歯みがきを実施し、洗浄後の純水を吸引口から吸引し、洗浄後の純水を吸引した後の入れ歯モデルにおけるStreptococcus mutansActinobacillus actinomycetemcomitans、及び大腸菌の数を測定すると共に、洗浄後の純水を吸引した後の入れ歯モデル5個の状態をデジタルカメラで撮影し、歯垢除去率(%)を算出した。その結果(平均値)を表2に示す。
さらに、放置後の入れ歯モデル15個のうち残りの5個に対して、噴射孔(注水口)からの噴射を行わないで、歯ブラシ器具Cを用いて歯みがき力200gのスクラッブ法で歯みがきを実施し、歯みがき実施後の入れ歯モデルにおけるStreptococcus mutansActinobacillus actinomycetemcomitans、及び大腸菌の数を測定すると共に、歯みがき実施後の入れ歯モデル5個の状態をデジタルカメラで撮影し、歯垢除去率(%)を算出した。その結果(平均値)を表2に示す。
なお、これら実施例4〜6における実験は、通常の室内において行った。
【0056】
【表2】

【0057】
表2の結果より、洗浄液噴霧を行った入れ歯モデル(実施例4〜5)は、洗浄液噴霧を行っていない入れ歯モデル(実施例6)よりも、歯垢除去率が高く、各菌数が少ないことが分かった。これは、洗浄液噴霧による人工歯垢の物理的破壊によるものと考えられる。
また、表2の結果より、洗浄液として光触媒水分散液を用いた実施例4は、洗浄液として純水を用いた実施例5よりも、歯垢除去率が高く、各菌数が少ないことが分かった。これは、光触媒水分散液噴霧は、純水噴霧よりも、人工歯垢の物理的破壊効果及び菌吸着効果が高いことによるものと考えられる。
【0058】
(実施例7)
まず、光触媒(カルシウム・チタンハイドロキシアパタイト(TiHAP;太平化学産業株式会社製、PHOTOHAP PCAP−100)、粒子径3μm〜8μmの白色粉体)が表面コーティングされた入れ歯を準備した。
次に、虫歯菌としてのStreptococcus mutans、歯周病菌としてのActinobacillus actinomycetemcomitans、及び大腸菌をそれぞれ3.0×10個含む1つのサンプル液を調製した。
この調製したサンプル液に、準備した入れ歯を投入して、入れ歯全体を前記サンプル液に2時間浸漬し、浸漬後のサンプル液におけるStreptococcus mutansActinobacillus actinomycetemcomitans、及び大腸菌の数を測定した。結果を表3に示す。
なお、この実施例7における実験は、通常の室内において行った。
また、表面コーティングは、純水100質量部に対して光触媒30質量部を分散させた分散液に入れ歯を3分間浸漬させた後、100℃のオーブンで2時間乾燥させることにより行った。
【0059】
(比較例2)
実施例7において、光触媒が表面コーティングされた入れ歯の代わりに、光触媒を含有しない入れ歯を用いた以外は、実施例7と同様に実験を行い、浸漬後のサンプル液におけるStreptococcus mutansActinobacillus actinomycetemcomitans、及び大腸菌の数を測定した。結果を表3に示す。
【表3】

【0060】
表3の結果より、光触媒が表面コーティングされた入れ歯(実施例7)は、光触媒が含まれていない入れ歯(比較例2)よりも浸漬後での菌数が少なく、抗菌性(菌の吸着度及び菌に対する滅菌性)が高いことが分かった。
【0061】
(実施例8)
まず、光触媒(カルシウム・チタンハイドロキシアパタイト(TiHAP;太平化学産業株式会社製、PHOTOHAP PCAP−100)、粒子径3μm〜8μmの白色粉体)が表面コーティングされた入れ歯を準備した。
次に、虫歯菌としてのStreptococcus mutans、歯周病菌としてのActinobacillus actinomycetemcomitans、及び大腸菌をそれぞれ3.0×10個含む1つのサンプル液を調製した。
この調製したサンプル液を準備した入れ歯に噴霧して、2時間放置した。放置後の入れ歯のStreptococcus mutansActinobacillus actinomycetemcomitans、及び大腸菌の数を測定した。結果を洗浄前として表4に示す。
さらに、放置後の入れ歯を入れ歯洗浄装置(図3)を用いて洗浄液(前記光触媒を含有する無菌液(固形分含有量が1質量%))で30分間洗浄し、入れ歯を洗浄装置から取り出し、洗浄後の入れ歯のStreptococcus mutansActinobacillus actinomycetemcomitans、及び大腸菌の数を測定した。結果を洗浄後として表4に示す。
なお、この実施例8における実験は、通常の室内において行った。
また、表面コーティングは、純水100質量部に対して光触媒30質量部を分散させた分散液に入れ歯を3分間浸漬させた後、100℃のオーブンで2時間乾燥させることにより行った。
【0062】
(比較例3)
実施例8において、光触媒が表面コーティングされた入れ歯の代わりに、光触媒を含有しない入れ歯を用いた以外は、実施例8と同様に実験を行い、浸漬後のサンプル液におけるStreptococcus mutansActinobacillus actinomycetemcomitans、及び大腸菌の数を測定した。結果を表4に示す。
【表4】

【0063】
表4の結果より、入れ歯洗浄装置(図3)を用いて洗浄した入れ歯は、菌が生存していないことが分かった。
また、光触媒が表面コーティングされた入れ歯(実施例8)は、光触媒が含まれていない入れ歯(比較例3)よりも洗浄前での菌数が少なく、抗菌性(菌の吸着度及び菌に対する滅菌性)が高いことが分かった。
【0064】
本発明の好ましい態様を付記すると、以下の通りである。
(付記1)光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料が、練り込みまたは表面コーティングされたことを特徴とする口腔用器具。
(付記2)柄部と、前記柄部の先端部に装着されたブラシ部とを備える歯ブラシ器具である口腔用器具において、前記ブラシ部に、前記光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料が、練り込みまたは表面コーティングされた付記1に記載の口腔用器具。
(付記3)前記光触媒活性の発現に必要な所定波長の光を照射する光源をさらに備える付記2に記載の口腔用器具。
(付記4)前記光源に電力供給する充電池をさらに備える付記3に記載の口腔用器具。
(付記5)前記柄部の先端部に注水口及び吸引口が配設され、前記注水口に接続され、前記注水口から液体を注入するために配設された注水用水路と、前記吸引口に接続され、前記注水された液体を前記吸引口から吸引するために配設された吸引用水路とをさらに備える付記2乃至4のいずれかに記載の口腔用器具。
(付記6)前記注水用水路に接続された洗浄液タンクをさらに備え、前記洗浄液タンクに光触媒活性の発現に必要な所定波長の光を照射する光源が配設されている付記2乃至5のいずれかに記載の口腔用器具。
(付記7)前記吸引用水路に接続されたドレインタンクをさらに備え、前記ドレインタンクに光触媒活性の発現に必要な所定波長の光を照射する光源が配設されている付記2乃至6のいずれかに記載の口腔用器具。
(付記8)前記口腔用器具が入れ歯である付記1に記載の口腔用器具。
(付記9)前記光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料が、カルシウムハイドロキシアパタイトである付記1乃至8のいずれかに記載の口腔用器具。
(付記10)前記カルシウムハイドロキシアパタイトが、チタン(Ti)を有してなる付記9に記載の口腔用器具。
(付記11)前記光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料の平均粒径が、5μm以下である付記1乃至10のいずれかに記載の口腔用器具。
(付記12)前記光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料を含む洗浄液に、付記1乃至11のいずれかに記載の口腔用器具を浸漬して洗浄する洗浄工程と、前記洗浄液に、光触媒活性の発現に必要な所定波長の光を照射する光照射工程とを含むことを特徴とする口腔用器具の洗浄方法。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、本発明の口腔用器具としての歯ブラシ器具の構成を示す図である。
【図2】図2は、本発明の口腔用器具としての歯ブラシ器具の充電を示す図である。
【図3】図3は、本発明の口腔用器具の洗浄方法が実施される入れ歯洗浄装置を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
10 歯ブラシ本体
11 柄部
11a 先端部
11b 後端部
12 ブラシ部
13 LED(光源)
14 充電池
15 噴出孔(注水口)
16 注水用水路
17 吸引孔(吸引口)
18 吸引用水路
20 洗浄液タンク
21 光源
30 ドレインタンク
31 光源
40 ポンプ
100 歯ブラシ器具
200 充電スタンド
300 入れ歯洗浄装置
301 入れ歯
302 洗浄液
303 噴出孔
310 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料が、練り込みまたは表面コーティングされたことを特徴とする口腔用器具。
【請求項2】
柄部と、前記柄部の先端部に装着されたブラシ部とを備える歯ブラシ器具である口腔用器具において、前記ブラシ部に、前記光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料が、練り込みまたは表面コーティングされた請求項1に記載の口腔用器具。
【請求項3】
前記柄部の先端部に注水口及び吸引口が配設され、前記注水口に接続され、前記注水口から液体を注入するために配設された注水用水路と、前記吸引口に接続され、前記注水された液体を前記吸引口から吸引するために配設された吸引用水路とをさらに備える請求項2に記載の口腔用器具。。
【請求項4】
前記口腔用器具が入れ歯である請求項1に記載の口腔用器具。
【請求項5】
前記光触媒活性及び有機物吸着能を有する材料を含む洗浄液に、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の口腔用器具を浸漬して洗浄する洗浄工程と、前記洗浄液に、光触媒活性の発現に必要な所定波長の光を照射する光照射工程とを含むことを特徴とする口腔用器具の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−125067(P2010−125067A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303042(P2008−303042)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】