説明

口腔衛生装置

【課題】人体に効果的な電流を流すことができる上に、安全性も高いものとする。
【解決手段】ブラシを備えて人体の口腔内に入れられるヘッド部1と、把持用の柄部2とを備え、ヘッド部1及び柄部2の夫々に電極13,23が設けられて、両電極間に電圧が印加されているものにおいて、電源である電池の出力電圧を昇圧して上記電極間に印加する昇圧回路3と、一方の電極から人体を介して他方の電極へと流れる電流を制限する電流制限回路4とを備える。昇圧回路によって電池電圧より高く且つ望む電流を流すことができる電圧を確保し、電流制限回路によって突入電流を防ぐと同時に人による抵抗値のばらつきにもかかわらず電流が流れすぎることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内に微弱な電流を流すことで口腔内の衛生状態を向上させる口腔衛生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から電子歯ブラシやイオン歯ブラシと称されている口腔衛生装置がある。これは口腔内に微着な電流を流すことで、歯垢を歯面から除去しやすくしてブラッシングの刷掃効果を高めるもので、特許文献1にはブラシ毛が植毛されたヘッド部と、市販電池を収納した柄部とからなり、柄部の一部表面に上記電池の一方の極に接続した電極を配設し、ヘッド部に上記電池の他方の極に接続した電極を配して、柄部を使用者が持ってヘッド部を口腔内に入れた時、使用者の上記柄部を持つ手から身体を通じて口腔内の歯や歯肉とヘッド部間に微弱電流を流すものが示されており、特許文献2には人体の抵抗値のばらつきが電流値に及ぼす影響を避けるために、上記電池の両極に夫々接続された2つの電極を共にヘッド部に設けたものが示されている。
【0003】
ところで、この種の口腔衛生装置において使用する市販電池の電圧は1.5〜3Vであり、人体の抵抗値が平均80kΩあることから、効果が十分得られる電流を流すことは難しい。
【0004】
また、人体の抵抗値は平均80kΩであるが、実際には40kΩから120kΩの間でばらついており、電池電圧を3Vとすると、流れる定常電流が25〜75μAの範囲でばらつくことになり、人によって得られる効果に大きな差が生じる。
【0005】
また、上記電池を直列に複数接続したりすることで、電圧を高くすれば、機器全体の大きさが大きくなり、歯磨きの際の取り回しが困難となってしまうとともにコストも高くなる上に、人によっては大きな電流が流れることになるために、安全上の問題が生じる。
【0006】
人体に通電する時の初期には突入電流が生じるが、これが特に問題となる。図4は生体組織の等価回路であり、コンデンサCが直列に接続されている抵抗R2よりも、並列に接続されている他方の回路中の抵抗R1の抵抗値が十分大きい。この場合、通電初期はコンデンサCを含む経路に電流が流れるとともに、コンデンサCに充電されるまでの短い時間に瞬間的にではあるが大きな電流(突入電流)が流れ、コンデンサCの充電が完了すれば、抵抗値の大きい抵抗R1を含む経路で微小電流が流れる。図5に初期の突入電流とその後の定常電流とを示す。
【0007】
口腔内に電流を流した時の知覚電流を動物実験によって測定すると、約300μAで刺激を感じる挙動を示した。また、口腔内から手までを通電経路とする人体での実験では、DC3Vの場合、定常電流が約40μA、突入電流が約1mAであった。定常電流値を上げた時には突入電流も上がることから、通電による刺激を感じやすくなり、安全性の点で問題が大きくなる。
【0008】
特許文献2で示したものの場合は、口腔内が唾液で満たされている時、ブラシ部を有するヘッド部に設けた2つの電極間が唾液を介して短絡してしまうために、歯や歯茎に殆ど電流が流れず、本来の効果が得られにくいという問題がある。
【特許文献1】特許第2560162号公報
【特許文献2】特開2005−192578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、人体に効果的な電流を流すことができる上に、安全性も高い口腔衛生装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明に係る口腔衛生装置は、ブラシを備えて人体の口腔内に入れられるヘッド部と、把持用の柄部とを備え、ヘッド部及び柄部の夫々に電極が設けられて、両電極間に電圧が印加されているものにおいて、電源である電池の出力電圧を昇圧して上記電極間に印加する昇圧回路と、一方の電極から人体を介して他方の電極へと流れる電流を制限する電流制限回路とを備えていることに特徴を有している。昇圧回路を設けることで、電池電圧より高く且つ望む電流を流すことができる電圧を確保するものであり、また電流制限回路を設けることで、突入電流を防ぐと同時に人による抵抗値のばらつきにもかかわらず、電流が流れすぎることがないようにしたものである。
【0011】
上記電流制限値としては、300μA以下とするのが好ましい。この値よりも大きい電流が流れる時には個人差があるものの、人体に刺激が生じる虞がきわめて高くなる。
【0012】
また、電流制限値を可変としておくのも好ましい。抵抗値についての個人差に応ずることができる。
【0013】
そして電流をパルス状としておくことも歯茎へのマッサージ効果を高めることができる点で好ましく、この場合、パルス形状はヘッド部の電極を陰極側とする単極であることが電極金属の溶出を防ぐことができる点で望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は昇圧手段によって適切な電流値が得られる電圧値の電圧を印加していることから、口腔内の歯垢剥離効果や歯牙へのフッ素導入効果、歯茎への間サージ効果といった効果を適切に得られるものであり、しかも突入電流等の刺激を感ずることになる電流は電流制限回路によって制限されて流れないために、安全性も高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明すると、図2において、1は軸部11の一端側面にブラシ10を植設したヘッド部、2は電池20を内蔵する柄部であり、柄部2は上記電池20の他に、上記ヘッド部1が一端に連結される駆動軸21と、この駆動軸21に軸方向の往復運動などの動きを行わせるアクチュエータ22、回路基板24を内蔵している。また、上記柄部2の外表面には電極23が配設されており、ヘッド部1もそのブラシ10の根元近傍に電極13を備えている。
【0016】
ここにおける上記電極23は、図1に示す出力抵抗Ro1と上記回路基板24上に実装された昇圧回路3とを介して上記電池20の陽極に接続されたものであり、またヘッド部1の電極13は軸部11内に配した通電板12と駆動軸21と回路基板24とを介して上記電池20の陰極に接続されたものである。
【0017】
また、上記回路基板24は、上記昇圧回路3に加えて、図1に示す電流制限回路4を備えている。制御抵抗Rlim1と電流制限トランジスタTRa及び制限抵抗Rlim2とからなる電流制限回路4は、基準電圧DCから制御抵抗Rlim1を介して一定のベース電流を作り出し、電流制限トランジスタTRaに流すことのできるコレクタ電流を制限する。制限抵抗Rlim2は基準電圧の調整用であり、可変抵抗で構成すれば、抵抗値の個人差や電流に対する反応の個人差などに応じて電流制限値を調整することができる。なお、電流制限によって流すことができる電流は、前記動物実験の結果などを踏まえれば300μA以下とするのが好ましい。
【0018】
ここで、上記昇圧回路3は、電池電圧VBを昇圧して電圧Vh(Vh>VB)を生成するのであるが、この電圧Vhは、人体を含む通電経路の抵抗が大きくばらついたとしても、所望の効果を得られる電流を流すことができる電圧であることが望ましく、たとえば人体を含む経路の最大抵抗(接触抵抗等も含む)を150kΩと見込む場合に100μAの電流を流したい場合は、電圧Vhは15V(=150kΩ×100μA)とすることになる。
【0019】
今、昇圧回路3で生成した電圧Vhを電極13,23間に加えた状態で柄部2を握るとともにヘッド部1を口腔内に入れたならば、出力抵抗Ro1から電極23、人体、電極13、駆動軸21、出力抵抗Ro2、電流制限トランジスタTRaと電流が流れるが、この電流は上述のコレクタ電流によってたとえば100μAに制限される。このために人体の抵抗値が低くても上記電流値(100μA)以上の電流が流れることはなく、前記突入電流も抑えられるために、人体に流れる電流は、図3に実線で示すように、破線で示した従来例のような安全性に問題のあるものではなくなる。
【0020】
なお、図1に示した回路構成は一例であり、たとえば出力抵抗Ro1,Ro2はなくてもよく、また電流制限の構成も図示例に限るものではない。
【0021】
また、図1に示すように、電流制限トランジスタTRaのベース電位を一定周期でゼロとすることによって電流を一時的に遮断することで人体に流れる電流をパルス状とするトランジスタTRbを設けてもよい。ちなみに人体に流れる上記電流をパルス状、殊に4000Hz〜15000Hzの周波数のパルス状とした場合、歯茎へのマッサージ効果が増大する。
【0022】
なお、電極13側が陰極となる単極のパルス状としているわけであるが、これは電極金属の溶出を防ぐためである。口腔内に入れる電極が陽極となることがあれば、その時、歯牙や歯茎は陰極となり、陽極側の金属が溶出して陰極の歯牙や歯茎に析出することになるからである。
【0023】
上記実施例では、アクチュエータ22を備えてヘッド部1に動きを加えることができるものを示したが、このようなアクチュエータ22(またはこれに代わる駆動手段)を備えていないものであってもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態の一例のブロック回路図である。
【図2】同上の断面図である。
【図3】同上の動作を示すもので、(a)は電流波形図、(b)は電圧波形図である。
【図4】人体の等価回路を示す回路図である。
【図5】突入電流波形を示す波形図である。
【符号の説明】
【0025】
1 ヘッド部
2 柄部
3 昇圧回路
4 電流制限回路
13 電極
23 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシを備えて人体の口腔内に入れられるヘッド部と、把持用の柄部とを備え、ヘッド部及び柄部の夫々に電極が設けられて、両電極間に電圧が印加されている口腔衛生装置において、電源である電池の出力電圧を昇圧して上記電極間に印加する昇圧回路と、一方の電極から人体を介して他方の電極へと流れる電流を制限する電流制限回路とを備えていることを特徴とする口腔衛生装置。
【請求項2】
電流制限値が300μA以下であることを特徴とする請求項1記載の口腔衛生装置。
【請求項3】
電流制限値を可変としていることを特徴とする請求項1記載の口腔衛生装置。
【請求項4】
電流をパルス状としていることを特徴とする請求項1または2記載の口腔衛生装置。
【請求項5】
パルス形状がヘッド部の電極を陰極側とする単極であることを特徴とする請求項3記載の口腔衛生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−93038(P2008−93038A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275681(P2006−275681)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】