説明

口臭治療におけるモルホリノ化合物の使用

口臭の予防または治療に用いられる薬剤の製造における、下記化学式(I)で表されるモルホリノ化合物またはその薬学的に許容可能な塩の使用。
【化4】


式中、R1は、モルホリノ環の2位もしくは3位に存在し、8〜16個の炭素原子を含む、直鎖型もしくは分岐鎖型アルキル基であり、R2は、2〜10個の炭素原子を含み、かつα位以外がヒドロキシ基で置換されている、直鎖もしくは分岐鎖アルキル基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口臭の予防および治療に関する。
【背景技術】
【0002】
口臭は、一般に「悪臭」として知られており、口腔から放出される不快な臭いもしくは悪臭として知られている(Roldan et al,J Periodontol,2005 Jun;76(6):1025−33)。口臭の原因は、口腔以外にも考えられるが、すべての悪臭のうちの約90%が、口内から発生している(Delanghe et al, Quintessence Int. 1999 May;30(5):307−10)。さらに詳細には、すべての悪臭のうちの約40%が、舌の背−後側領域から生じると考えられている(Delanghe et al,同上)。
【0003】
「悪臭」の主成分は、揮発性硫黄化合物(VSC)であるが、特に、硫化水素、メチルメルカプタンおよび硫化ジメチル、もしくはプトレッシン、カダベリン、酪酸およびプロピオン酸などの化合物である。これらの化合物は、主に口腔内の嫌気性グラム陰性菌による、食物の残骸、唾液、血液および上皮細胞中の各種硫黄含有基質のタンパク分解により生じる。VSC産生の基質としては、唾液もしく歯肉溝浸出液中の硫黄含有アミノ酸であるメチオニン、システイン、シスチンなどがあげられる(Tonzetich J,J.Periodontol.1977 Jan;48(1):13−20;Persson et al,Oral Microbiol Immunol.1990 Aug;5(4);195−201)。P.gingivalis、Actinobacillus actinomycetemcomitans、Fusobacterium nucleatum、Tannerella forsythensis、Prevotella intermedia、Campylobactor rectus、Eubacterium spおよびSpirochetesなどの細菌が、VSCを産生することが知られている(Tonzetich J,同上)。歯肉炎や歯周炎などの口腔感染症は、口臭の原因の一つであると考えられている(Yaegaki K. and Coli JM.,J Can Dent Assoc.2000 May;66(5):257−61)。
【0004】
口臭の効果的治療法としては、抗菌うがい薬の使用、歯口掃除、専門医による清掃および口腔感染症や口腔疾患の治療などがある。このような方法は、臨床歯科分野で広く普及しているが、各種方法の有効性を実証する科学的評価は極めて少ない。しかし、口臭の治療の成功は、硫黄含有基質を利用することのできる細菌類、特に嫌気性グラム陰性菌によるVSCの産生の減少と関連することが認められている。Quirynenらは、VSC量が、唾液中の嫌気性細菌数と相関すると結論付けている(J Periodontol.2005 May;76(5):705−12)。
【0005】
Roldanらは、口臭治療のための治療法の併用の有効性を測定する研究を記載している(同上)。口臭を有する被験者に対し、クロルヘキシジンおよび塩化セチルピリジニウムを、乳酸亜鉛と併用投与した。治療期間中、歯肉縁下部、唾液および舌苔における総細菌数は減少した。特に、歯肉縁下歯垢、無刺激時唾液および舌苔中のPorphyromonas gingivalisの菌量および割合の減少がみられた。このような減少は、官能検査のスコアの低下、揮発性硫黄化合物(VSC)産生量の低下およびWinkelの舌苔指標の低下と密接に関連していた。該研究期間における、舌苔中の好気性細菌に対する嫌気性細菌の割合も減少した。この治療の主な副作用は、歯の着色であった。
【0006】
Fineらは、塩化亜鉛を含有するエッセンシャルオイルのうがい薬(Tartar Control Listerine(登録商標) Anticeptic)により、舌背部および歯肉縁下歯垢の平均細菌数が低減したと報告している(J Clin Periodontol.2005 Apr;32(4):335−40)。細菌負荷の減少、特に嫌気性細菌(特に、嫌気性グラム陰性菌)、およびVSC産生菌の負荷の減少が、悪臭の軽減に関与していることが明らかになった。
【0007】
口臭を効果的に予防、治療、処置するための、さらなる製品および方法が必要とされている。
【非特許文献1】Roldan et al,J Periodontol,2005 Jun;76(6):1025−33
【非特許文献2】Delanghe et al, Quintessence Int. 1999 May;30(5):307−10
【非特許文献3】Tonzetich J,J.Periodontol.1977 Jan;48(1):13−20
【非特許文献4】Persson et al,Oral Microbiol Immunol.1990 Aug;5(4);195−201
【非特許文献5】Yaegaki K. and Coli JM.,J Can Dent Assoc.2000 May;66(5):257−61
【非特許文献6】Quirynen et al,J Periodontol.2005 May;76(5):705−12
【非特許文献7】Fine et al,J Clin Periodontol.2005 Apr;32(4):335−40
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、デルモピノール(3―(4―プロピル―ヘプチル)―4―(2―ヒドロキシエチル)モルホリン)およびその誘導体が、口臭の予防および治療に効果を有するという、驚くべき発見に基づいてなされたものである。デルモピノール(およびその誘導体)は、米国特許第4894221号に開示されているように、歯垢形成の除去および予防に有効であることで知られているものの、デルモピノールのうがい薬は、口腔内細菌の数または割合には大きく影響しないことが、すでに実証されている(Elworthy et al,J Clin Periodontol.1995 Jul;22(7):527−32)。デルモピノールが、口腔内細菌の負荷、まして嫌気性グラム陰性菌の負荷を減少させることは知られていない。そのため、デルモピノールでの処置によりVSC産生量が減少することは、驚くべきことである。
【0009】
本発明の第一の態様によれば、下記化学式(I)で表されるモルホリノ化合物またはその薬学的に許容可能な塩は、口臭の予防または治療に用いられる薬剤の製造に使用される。
【化2】

上式中、R1は、モルホリノ環の2位もしくは3位に存在し、8〜16個の炭素原子を含む、直鎖型もしくは分岐鎖型アルキル基であり、R2は、2〜10個の炭素原子を含み、かつα位以外がヒドロキシ基で置換されている、直鎖型もしくは分岐鎖型アルキル基である。
【0010】
本発明の第二の態様によれば、口臭を治療するためのキットには、前記化学式(I)で表される化合物、もしくは前記化学式(I)で表される化合物を含有する薬剤と、前記化合物もしくは薬剤が口臭治療のために使用されるものである旨の説明書とが含まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
化学式(I)で表されるモルホリノ化合物は、口臭の予防および治療に使用することができる。本発明のモルホリノ化合物は、下記化学式(I)で表される化合物であるか、またはその薬学的に許容可能な塩である。
【化3】

上式中、R1は、モルホリノ環の2位もしくは3位に存在し、8〜16個の炭素原子を含む、直鎖型もしくは分岐鎖型アルキル基であり、R2は、2〜10個の炭素原子を含み、かつα位以外がヒドロキシ基で置換された、直鎖型もしくは分岐鎖型アルキル基である。好ましい実施形態では、前記モルホリノ化合物のR1基およびR2基における炭素原子の総和は、少なくとも10個であり、好ましくは10〜20個である。さらに好ましい実施形態では、前記R2基は、ヒドロキシ基で終端する。
【0012】
請求項に記載のモルホリノ化合物自体は、化合物として公知であり、公知のいずれかの方法、たとえば本明細書において参照として援用される、米国特許第5,082,653号および国際公開第90/14342号に開示されている方法により製造可能である。
【0013】
本発明で使用するのに好ましいモルホリノ化合物は、デルモピノール(CAS No.79874−76−3)として周知の、3−(4−プロピル−ヘプチル)−4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリンである。
【0014】
前記モルホリノ化合物は、遊離塩基の形態で、もしくは薬学的に許容可能な塩として使用され得る。薬学的に許容可能な塩の例としては、酢酸、リン酸、ホウ酸、塩酸、マレイン酸、安息香酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、グルタル酸、ゲンチシン酸、吉草酸、没食子酸、β−レゾルシル酸、アセチルサリチル酸、サリチル酸、過塩素酸、バルビツール酸、スルファニル酸、フィチン酸、P―ニトロ安息香酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸などの各種酸の塩類があげられる。最も好ましい塩類は、塩酸の塩類である。好ましい化合物は、デルモピノール塩酸塩(CAS No.98092−92−3)である。
【0015】
本明細書で使用される「口臭」という用語は、本技術分野における通常のその意味、すなわち「悪臭」を表している。この悪息は、息を吐く人、もしくは他人にとって不愉快、あるいは不快な臭いを有する息として定義される。好ましい実施形態では、該息は、硫化水素、メチルメルカプタンもしくは硫化ジメチル、あるいはプトレッシン、カダベリン、酪酸およびプロピオン酸などの化合物などの、揮発性硫黄化合物(VSC)を含むが、これに限定されない。これらの化合物は、主に口腔内の嫌気性グラム陰性菌による、食物の残骸、唾液、血液および上皮細胞中の各種硫黄含有基質のタンパク分解により生じる。
【0016】
本明細書で使用されている「治療」という用語は、患者における口臭の軽減、すなわち口臭の改善を表している。口臭の変化は、いずれの方法でも検出できる。好ましい方法として、官能検査による検出法、もしくは息がVSCを含む場合は、硫化物モニターを使用する方法があげられる。いずれの方法も、上述のRoldanに開示されているように、本技術分野では周知である。
【0017】
本発明は、ヒトの医薬分野と動物の医薬分野とで等しく適用可能である。すなわち、獣医科学における利用も本発明の範囲に含まれる。獣医学分野における実施形態では、ネコおよびイヌを含むペット類の治療ならびに、ウシおよびブタを含む家畜類の治療は、好ましい実施形態である。
【0018】
化学式(I)で表される化合物は、所望の効果、すなわち、口臭の軽減を実現するのに好適ないずれかの形態または量で、従来の方法により口腔内に接触させ得る。化学式(I)で表される前記化合物は、うがい薬、練り歯磨き、ジェル、歯磨剤、ガムもしくは当業者にとって明らかな、他の類似した調剤の形態であることが好ましい。前記調剤は、少なくとも1種類の、薬学的に許容可能な賦形剤を含んでもよい。前記化合物は、うがい薬液の形態であることがもっとも好ましい。これは、医療関係者の監督を必要とせずに、患者により口腔内に投与されうる。前記うがい薬液は、少なくとも5秒、好ましくは、10秒より長く、たとえば1分以上、口内に保持することが好ましい。
【0019】
好ましい実施形態では、口腔を化学式(I)で表される化合物と接触させると同時に、もしくはその少し後に、好ましくはその直後に、機械的撹拌、好ましくは舌のブラッシングもしくは掻爬を行うことができる。化学式(I)で表される化合物は、歯や舌のブラッシングの前など、なんらかの定期的な(たとえば、日常の)口腔衛生習慣作業の開始時に、うがい薬液として使用することが、もっとも好ましい。
【0020】
化学式(I)で表される前記化合物は、既存の練り歯磨き、ガム、ジェルもしくはうがい薬の剤形に添加することができる。化学式(I)で表される前記化合物は、少なくとも1種類の抗菌剤、好ましくは抗細菌剤と併用して添加してもよい。好適な薬剤には、抗生物質のテトラサイクリン、ドキシサイクリンおよびアンピシリンがあげられる。口腔感染症を治療するための、他の好適な薬剤は、当業者にとって明らかであろう。
【0021】
口臭の治療方法は、口臭の症状を示している患者の口腔と、化学式(I)で表される化合物、好ましくは練り歯磨き、ガム、ジェルもしくはうがい薬などの剤形で化学式(I)で表される化合物を含有する薬剤と、を接触させる工程からなる。前記化学式(I)で表される化合物は、口臭を軽減もしくは除去することができる。
【0022】
口臭は、不快な臭いが生じる前に、化学式(I)で表される化合物、好ましくは練り歯磨き、ガム、ジェルもしくはうがい薬などの剤形で化学式(I)で表される化合物を含有する薬剤と、口腔とを接触させることによって予防され得る。前記化学式(I)で表される化合物は、患者における口臭の発生を予防する。うがい薬においては、患者は、うがい薬で「うがいをする」ことにより、口腔内のあらゆる部位を前記活性化合物と接触させることができる。
【0023】
本発明の範囲には、前記化学式(I)で表される化合物、もしくは前記化学式(I)で表される化合物を含有する薬剤と、前記化合物もしくは薬剤が口臭治療のために使用されるものである旨の説明書とを含むキットもしくはパックが含まれる。前記使用説明書には、前記化合物もしくは薬剤を定期的に、好ましくは少なくとも一日に一回、より好ましくは毎朝晩、日常の口腔衛生習慣の一環として使用するものである旨を記載することが望ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
口臭の予防または治療に用いられる薬剤の製造における、下記化学式(I)で表されるモルホリノ化合物またはその薬学的に許容可能な塩の使用。
【化1】

式中、R1は、モルホリノ環の2位もしくは3位に存在し、8〜16個の炭素原子を含む、直鎖型もしくは分岐鎖型アルキル基であり、R2は、2〜10個の炭素原子を含み、かつα位以外がヒドロキシ基で置換されている、直鎖もしくは分岐鎖アルキル基である。
【請求項2】
前記モルホリノ化合物のR1基およびR2基における炭素原子の総和が、少なくとも10個、好ましくは10〜20個であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記モルホルノ化合物のR2基が前記ヒドロキシ基で終端することを特徴とする、請求項1もしくは2に記載の使用。
【請求項4】
前記モルホリノ化合物が、3−(4−プロピル−ヘプチル)−4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリンであることを特徴とする、先行請求項のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記薬剤に、さらに抗菌剤が含まれていることを特徴とする、先行請求項のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記薬剤に、さらに薬学的に許容可能な賦形剤が含まれていることを特徴とする、先行請求項のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記薬剤が、練り歯磨き、ガムもしくはうがい薬の形態であることを特徴とする、先行請求項のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記薬剤が、口腔から放出される揮発性硫黄化合物の量を減少させることを特徴とする、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物もしくは、先行請求項のいずれか1項に記載の薬剤と、前記化合物もしくは薬剤が口臭治療のために使用されるものである旨の説明書とを含む、口臭を治療するためのキット。

【公表番号】特表2009−522343(P2009−522343A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549058(P2008−549058)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【国際出願番号】PCT/GB2007/000025
【国際公開番号】WO2007/080378
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(508022067)シンクレア ファーマシューティカルズ リミテッド (7)
【Fターム(参考)】