説明

古紙処理方法および装置

【課題】濃度調整部を少なくし、装置サイズのコンパクト化とコストの低減を実現できる古紙処理装置を提供する。
【解決手段】再生パルプ部51で古紙54もしくは古紙54の裁断紙片からなる再生原料を離解して再生パルプを調製し、脱墨パルプ部52で再生パルプを漂白して脱墨パルプを調製し、抄紙部53で脱墨パルプを抄紙して再生紙55を調製する古紙処理方法において、再生パルプ部51で調製した再生パルプのパルプ濃度を脱墨パルプ部52での脱墨処理および抄紙部53での抄紙処理において許容可能な濃度範囲のパルプ濃度設定値に脱墨前濃度調整部の希釈部60で調整し、このパルプ濃度設定値の濃度範囲にあるパルプ濃度下で脱墨処理および抄紙処理を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、古紙を離解させた再生パルプから紙を製造する技術に関し、古紙の発生場所であるオフィス等に設置して紙を再生することができる小型の古紙処理装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、わが国においては、一度使用した古紙、例えば代表的なものとしては古新聞紙を回収して紙を再生する技術ならびに社会システムが確立している。
一般的な製紙工場で行なっている製紙方法は、パルプ工程、抄紙工程、仕上工程からなり、古紙を原料として使用する場合には古紙パルプ工程が加わる。
【0003】
パルプ工程では、木材から繊維を取り出すパルプ化の一つの方法である化学的方法により、蒸解、洗浄、漂白、精選等の工程を経ることで、木材チップからパルプを生成する。
古紙パルプ工程では、原料である古紙を水に溶解し、機械的な力や薬品を利用して紙繊維以外の異物である金属やフィルム、粘着性樹脂、印刷インク(染料系、顔料系)、コピートナーなどを分離、除去し、漂白処理、脱水、乾燥して古紙パルプを得る。
【0004】
抄紙工程では、抄紙機のワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパート、カレンダーパート、コーターパートを経て製品の紙とする。ワイヤーパートでは調製(再生)されたパルプを抄紙用の網(ワイヤー)に乗せて脱水して紙を抄き、プレスパートではワイヤーパートから出た水分を多く含んだ湿紙の水分を除去する。ドライヤーパートでは蒸気で加熱されたドライヤーに紙を通して乾燥させ、カレンダーパートではロール間に紙を通して表面の凹凸を平滑化し、コーターパートでは原紙に塗料を塗工する。
【0005】
仕上工程では、スーパーカレンダーパートではコーターパートで塗工した紙面のミクロの凹凸を平滑化して光沢を出し、カッターおよびワインダーパートでは所定の製品寸法にカットし、あるいはロールに巻き取る。
【0006】
ところで、従来の大型の製紙機においては、図2に示すように、古紙1を再生パルプ部2に投入するとともに、脱墨剤添加部3から脱墨剤を添加し、パルパー4により離解して再生パルプを調製する。
【0007】
次に、脱墨前濃度調整部の希釈部5において脱墨前の再生パルプの濃度を脱墨部6の適正濃度の1重量%に調整し、濃度調整した再生パルプを脱墨部6で脱墨して脱墨パルプを調製する。その後、脱墨パルプを抄紙前濃度調整部7の脱水部8および希釈部9を経て抄紙部10の適正濃度の2重量%に濃度調整し、濃度調整した脱墨パルプを抄紙部10で抄紙して再生紙11を製造する。この抄紙速度は約1000m/分である。
【0008】
特許文献1には、古紙パルプの製造方法として、古紙原料の離解、除塵、脱墨、漂白及び洗浄の各処理を必須とし、漂白処理ののちに行われる洗浄処理において使用された洗浄水に、少なくとも二種のイオン性が異なる凝集剤を添加し、これら凝集剤を含む洗浄水を脱墨処理ののちに行われる処理で使用される洗浄水及び/又は希釈水に使用するようにした構成が記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、古紙の裁断紙片を離解して再生パルプを調製する再生パルプ部と、再生パルプを漂白して脱墨パルプを調製する脱墨パルプ部と、脱墨パルプを抄紙して再生紙を調製する抄紙部を一体的に備える構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−265775号公報
【特許文献2】特開2009−299228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記した従来の構成においては、製紙機が大型である場合には抄紙速度が約1000m/分の高速であるために、単位時間当たりに多量のパルプを供給する必要から抄紙部10の適正濃度が2重量%にしている。しかし、脱墨部ではパルプ濃度が高いと脱墨処理を害する場合があるので、その適正濃度は1重量%である。このため、脱墨部と抄紙部の間に脱水部もしくは希釈部を備えている。
【0012】
しかしながら、小型の古紙処理装置において、脱墨前濃度調整部と抄紙前濃度調整部との複数箇所にタンク式の希釈部を設けることは、装置サイズをコンパクト化するうえで問題であり、コスト高の要因となる。
【0013】
本発明は上記した課題を解決するものであり、濃度調整部を少なくし、装置サイズのコンパクト化とコストの低減を実現できる古紙処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の古紙処理方法は、再生パルプ部で古紙もしくは古紙の裁断紙片からなる再生原料を離解して再生パルプを調製し、脱墨パルプ部で再生パルプを漂白して脱墨パルプを調製し、抄紙部で脱墨パルプを抄紙して再生紙を調製する古紙処理方法において、再生パルプ部で調製した再生パルプのパルプ濃度を脱墨パルプ部での脱墨処理および抄紙部での抄紙処理において許容可能な濃度範囲のパルプ濃度設定値に脱墨前濃度調整部で調整し、このパルプ濃度設定値の濃度範囲にあるパルプ濃度下で脱墨処理および抄紙処理を行なうことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の古紙処理方法において、パルプ濃度設定値は、脱墨パルプ部で脱墨処理した脱墨パルプをパルプ濃度調整することなく抄紙部で抄紙可能なパルプ濃度であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の古紙処理方法において、抄紙部は、脱墨パルプ部で脱墨処理した脱墨パルプをパルプ濃度調整することなく抄紙可能な抄紙速度で抄紙処理することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の古紙処理方法において、パルプ濃度設定値の濃度範囲は、0.1から1重量%であることを特徴とする。
本発明の古紙処理装置は、古紙もしくは古紙の裁断紙片からなる再生原料を離解して再生パルプを調製する再生パルプ部と、再生パルプを漂白して脱墨パルプを調製する脱墨パルプ部と、脱墨パルプを抄紙して再生紙を調製する抄紙部を備える古紙処理装置において、再生パルプ部で調製した再生パルプのパルプ濃度を脱墨パルプ部での脱墨処理および抄紙部での抄紙処理において許容可能な濃度範囲のパルプ濃度設定値に調整する脱墨前濃度調整部を備え、このパルプ濃度設定値の濃度範囲にあるパルプ濃度下で脱墨処理および抄紙処理を行なうことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の古紙処理装置において、脱墨パルプ部と抄紙部の間に合流式の希釈手段を備えることを特徴とする。
また、本発明の古紙処理装置において、脱墨パルプ部と抄紙部を同一筐体内に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上のように本発明によれば、再生パルプ部で調製した再生パルプのパルプ濃度を脱墨パルプ部での脱墨処理および抄紙部での抄紙処理において許容可能な濃度範囲のパルプ濃度設定値に脱墨前濃度調整部で調整し、このパルプ濃度設定値の濃度範囲にあるパルプ濃度下で脱墨処理および抄紙処理を行なうことにより、脱墨パルプ部と抄紙部の間においてパルプ濃度を高める濃度調整部を設ける必要がなくなり、装置サイズのコンパクト化とコストの低減を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態における古紙処理装置を示すブロック図
【図2】従来の古紙処理装置の要部を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1において、古紙処理装置は、再生パルプ部51、脱墨パルプ部52、抄紙部53を備え、古紙54から再生紙55を調製(再生)するものである。
【0022】
再生パルプ部51は、古紙54もしくは古紙54の裁断紙片を上水、白水等の溶媒中において離解して再生パルプを調製(再生)するパルパー511および脱墨剤添加部512を備えている。
【0023】
パルパー511は、古紙54もしくは古紙54の裁断紙片を投入する槽体513と、槽体513の内部で旋回する攪拌翼514と、攪拌翼514を回転駆動するモータ等の駆動手段515を有しており、再生パルプを含む再生パルプ含有液を送るための再生パルプ移送系516を介して脱墨パルプ部52に連通している。脱墨剤添加部512は脱墨剤として界面活性剤を供給する。
【0024】
再生パルプ移送系516の管路の途中には脱墨前濃度調整部として合流式の希釈手段をなす希釈部60の管路が接続しており、脱墨前濃度調整部は、再生パルプ部51で調製した再生パルプのパルプ濃度を脱墨パルプ部52での脱墨処理および抄紙部53での抄紙処理において許容可能な濃度範囲のパルプ濃度設定値に調整するものである。
【0025】
本実施の形態においては、パルプ濃度の高い再生パルプ含有液が所定流量で流れる再生パルプ移送系516の管路中に、希釈部60の管路から希釈水として所定流量の上水、白水等の溶媒を注入することにより、攪拌効果(ミキシング)を実現しており、希釈および攪拌用の槽体を必要とせずに、管路中において希釈および攪拌を行なっている。
【0026】
本実施の形態において、パルプ濃度設定値は0.5から0.6重量%であるが、パルプ濃度設定値の濃度範囲としては、0.1から1重量%が可能である。パルプ濃度設定値の濃度範囲の適正に関しては後述する。
【0027】
脱墨パルプ部52はフローテータと呼ばれるもので、インク、トナー等の異物を繊維から分離するものであり、貯蔵タンク521を有している。貯蔵タンク521は微細気泡の噴出口(図示省略)および攪拌翼(図示省略)が配置してあり、界面活性剤が存在する下で、インク、トナー等の異物の粒子を含む再生パルプ含有液を攪拌翼で攪拌しつつ、再生パルプ含有液中に噴出口から細かい気泡を吹き込み、疎水性の異物の粒子を界面活性剤の気泡表面に付着させて浮上分離して脱墨する。
【0028】
脱墨パルプ部52は脱墨パルプ移送系522を介して抄紙部53に連通している。本実施の形態においては、脱墨パルプ部52が0.5重量%の脱墨パルプ溶液を抄紙部53へ供給し、基本的に脱墨パルプ部52で脱墨処理した脱墨パルプをパルプ濃度調整することなく抄紙部53で抄紙するものであるので、脱墨パルプ移送系522に濃度調整手段を設ける必要はない。
【0029】
しかしながら、脱墨パルプ部52でパルプ濃度がパルプ濃度設定値より濃くなる場合に備えて、脱墨パルプ移送系522の途中には合流式の希釈手段として希釈部61を設けている。すなわち、パルプ濃度の高い脱墨パルプ含有液が所定流量で流れる脱墨パルプ移送系522の管路中に、希釈部61の管路から希釈水として所定流量の上水、白水等の溶媒を注入することにより、攪拌効果(ミキシング)を実現しており、希釈および攪拌用の槽体を必要とせずに、管路中において希釈および攪拌を行なっている。この構成により、脱墨により変化するパルプ濃度を適性な値に微調整することが可能となる。
【0030】
抄紙部53は、脱墨パルプを抄紙して再生紙を調製(再生)するものであり、両側のロールの間に掛け渡して展張したメッシュベルトにヘッドボックスから脱墨パルプ含有液を供給して抄紙する。本実施の形態において抄紙部53はメッシュベルトを1.3m分の速度で運転する抄紙速度を実現する。
【0031】
上記した構成によれば、再生パルプ部51で調製した再生パルプのパルプ濃度を脱墨パルプ部52での脱墨処理および抄紙部53での抄紙処理において許容可能な濃度範囲のパルプ濃度設定値、本実施の形態では0.5から0.6重量%に脱墨前濃度調整部で調整しし、このパルプ濃度設定値の濃度範囲にあるパルプ濃度下で脱墨処理および抄紙処理を行なうことにより、脱墨パルプ部52と抄紙部53の間においてパルプ濃度を高める濃度調整部を設ける必要がなくなり、装置サイズのコンパクト化とコストの低減を実現できる。
【0032】
換言すれば、本発明において、パルプ濃度設定値は、脱墨パルプをパルプ濃度調整することなく抄紙部53で抄紙可能なパルプ濃度であり、脱墨処理、抄紙処理の双方に適するパルプ濃度である。また、抄紙部53において、脱墨パルプ部52で脱墨処理した脱墨パルプのパルプ濃度を調整することなく抄紙可能な抄紙速度で抄紙処理するものである。
【0033】
しかも、パルプ濃度の高い再生パルプ含有液が所定流量で流れる再生パルプ移送系516の管路中に、希釈部60の管路から希釈水として所定流量の上水、白水等の溶媒を注入することにより、攪拌効果(ミキシング)を実現しており、希釈および攪拌用の槽体を必要とせずに、管路中において希釈および攪拌を行なっており、装置サイズのコンパクト化とコストの低減に寄与する構成を実現している。
【0034】
先に述べたように、本実施の形態においては、パルプ濃度設定値は0.5から0.6重量%であるが、パルプ濃度設定値の濃度範囲としては、0.1から1重量%が可能である。これは、パルプ濃度が0.1重量%未満ではその流動性が高いために脱墨パルプ含有溶液が抄紙部53で拡散しすぎるものとなり、安定した抄紙処理を行なえないためであり、パルプ濃度が0.1重量%を超えるとその流動性が低いために脱墨パルプ含有溶液が抄紙部53で拡散不足となり、安定した抄紙処理を行なえないためである。
【符号の説明】
【0035】
51 再生パルプ部
52 脱墨パルプ部
53 抄紙部
54 古紙
55 再生紙
60、61 希釈部
511 パルパー
512 脱墨剤添加部
513 槽体
514 攪拌翼
515 駆動手段
516 再生パルプ移送系
521 貯蔵タンク
522 脱墨パルプ移送系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生パルプ部で古紙もしくは古紙の裁断紙片からなる再生原料を離解して再生パルプを調製し、脱墨パルプ部で再生パルプを漂白して脱墨パルプを調製し、抄紙部で脱墨パルプを抄紙して再生紙を調製する古紙処理方法において、
再生パルプ部で調製した再生パルプのパルプ濃度を脱墨パルプ部での脱墨処理および抄紙部での抄紙処理において許容可能な濃度範囲のパルプ濃度設定値に脱墨前濃度調整部で調整し、このパルプ濃度設定値の濃度範囲にあるパルプ濃度下で脱墨処理および抄紙処理を行なうことを特徴とする古紙処理方法。
【請求項2】
パルプ濃度設定値は、脱墨パルプ部で脱墨処理した脱墨パルプをパルプ濃度調整することなく抄紙部で抄紙可能なパルプ濃度であることを特徴とする請求項1に記載の古紙処理方法。
【請求項3】
抄紙部は、脱墨パルプ部で脱墨処理した脱墨パルプをパルプ濃度調整することなく抄紙可能な抄紙速度で抄紙処理することを特徴とする請求項1に記載の古紙処理方法。
【請求項4】
パルプ濃度設定値の濃度範囲は、0.1から1重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の古紙処理方法。
【請求項5】
古紙もしくは古紙の裁断紙片からなる再生原料を離解して再生パルプを調製する再生パルプ部と、再生パルプを漂白して脱墨パルプを調製する脱墨パルプ部と、脱墨パルプを抄紙して再生紙を調製する抄紙部を備える古紙処理装置において、
再生パルプ部で調製した再生パルプのパルプ濃度を脱墨パルプ部での脱墨処理および抄紙部での抄紙処理において許容可能な濃度範囲のパルプ濃度設定値に調整する脱墨前濃度調整部を備え、このパルプ濃度設定値の濃度範囲にあるパルプ濃度下で脱墨処理および抄紙処理を行なうことを特徴とする古紙処理装置。
【請求項6】
脱墨パルプ部と抄紙部の間に合流式の希釈手段を備えることを特徴とする請求項5に記載の古紙処理装置。
【請求項7】
脱墨パルプ部と抄紙部を同一筐体内に備えることを特徴とする請求項5または6に記載の古紙処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−174203(P2011−174203A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39473(P2010−39473)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(390002129)デュプロ精工株式会社 (351)
【Fターム(参考)】