説明

可剥離性被膜形成用組成物

【課題】自動車外板の塗膜面やその他塗装された物品の表面を一時的に保護するのに有効な、可剥離性被覆形成用組成物を提供する。
【解決手段】生分解性樹脂(A)を用いたエマルションと再分散性エマルション樹脂(B)とを含有する可剥離性被膜形成組成物。自動車外板の塗膜面やその他塗装された物品に、該可剥離性被膜形成用組成物を塗布し、可剥離性被膜を形成して、自動車外板の塗膜面やその他塗装された物品の表面を一時的に保護する。生分解性樹脂(A)としては、20℃での引っ張り強度が50kg/cm以上であって、重量平均分子量が50,000以上の乳酸系ポリマー(C)が適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車外板の塗膜面やその他塗装された物品などの表面を一時的に保護するのに有用な、可剥離性被膜形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両は、塗装が施され製品としてユーザーの手に渡るまでに、屋外ストックヤードでの保管中や自送、鉄道、トレーラー、船舶などによる輸送中に、石、砂塵、塵埃、鉄粉、塩類、煤煙、鳥虫などの糞、昆虫の体液や死骸、太陽光線、風雨(特に酸性雨)などによる塗膜の損傷、光沢変化や変色などの外観劣化が起こり、その商品価値を低下させる問題があるため、ユーザーの手に渡るまでの間、一時的に塗膜を保護することが行われている。
その方法として、フィルムや乾燥後に剥離が可能な保護剤を用いて自動車外板塗膜の一時保護を行っているが、それらを使用した後保護フィルムや剥離した塗膜は廃棄されていた。
【0003】
保護フィルムとして一般的に使用されているポリオレフィン系フィルムは、柔軟性があり、ある程度複雑な形状の物体であってもその形に追従しやすいという利点がある。しかし、このフィルムは、自動車塗膜の表面に接着剤や粘着剤を用いて貼り付けられており、フィルムの片面に接着剤や粘着剤が、その反対の面に接着剤や粘着剤を他の部分に貼り付かせないようにするために、シリコーン系やその他の剥離剤が塗られているため、使用後にリサイクルができず、自然環境のもとではほとんど分解しないため、土中に埋めた場合、半永久的に土中に残存することになる。また、焼却した場合、焼却自体に多大なエネルギーが必要であり、有毒なガスや二酸化炭素を多量に発生する等の問題があった。
【0004】
一方、水性の一時保護剤として(メタ)アクリロニトリルを含むアクリル樹脂エマルションを用いる方法が知られているが、このものは被膜強度、剥離性には優れているが、(メタ)アクリロニトリルを含む為、剥離被膜の廃棄処理が困難である。自然環境のもとではほとんど分解せず、土中に埋めた場合、水質汚染の可能性があり、また、焼却した場合、有毒ガスが発生する問題があった。
【0005】
このような環境汚染を避けるために、可剥離性被覆組成物として、アクリル系のエマルジョンやポリウレタン組成物の保護剤を用いる方法があり(例えば、特許文献1、2)、スプレー等で簡単に塗装でき、作業性に優れているが、上記可剥離塗膜はいずれも使用後、埋め立てにより廃棄処理された場合に残存したり、投棄された場合には景観を損ねたりすることがあり、また焼却処理された場合には、焼却時の発熱量が高いため、焼却炉を傷める恐れがあるという問題があった。
また、フィルム状の生分解性樹脂を用いた方法が提案されている(例えば特許文献3、4)。上記フィルムそのものは生分解性を有する為、環境上問題はないが、フィルム作成にコストがかかるだけでなく、貼りつけの作業工程は、手作業によらざるを得ない為、作業コストが高くなるという問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開平11−302590号公報
【特許文献2】特開2003−261764号公報
【特許文献3】特開2003−231216号公報
【特許文献4】特開2004−322624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、生分解性を有し、使用後も自然環境に悪影響を及ぼさないものでありながら、容易に剥離が可能であって、自動車、車両等の塗膜表面や、その他塗装された物品などの表面を一時的に保護するのに有用な可剥離性被膜形成用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、生分解性樹脂(A)を用いたエマルションと再分散性エマルション樹脂(B)とを含有することを特徴とする可剥離性被膜形成用組成物、及び該可剥離性被膜形成用組成物を基材面に塗布することを特徴とする一時保護方法、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の可剥離性被膜形成用組成物は、自動車外板の塗膜面やその他塗装された物品などの表面に速やかに塗布することができ、また容易に剥離が可能、及び使用後の剥離塗膜は生分解性を有するので、環境保全の面からも非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において生分解性樹脂(A)を用いたエマルションは、被膜形成成分として配合されるものであり、該生分解性樹脂(A)としては、乳酸系ポリマー、ラクトン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、セルロース系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、アミノ酸系ポリマー、ペプチド系ポリマー、グリコール酸ポリマーなどが挙げられ、特に、比較的ガラス転移温度が低く、剥離性が良好で、生分解性も早い点から乳酸系ポリマー(C)が好適である。該乳酸系ポリマー(C)としては、乳酸を主成分とする生分解樹脂であれば特に制限なく従来公知のものが使用可能であり、例えばポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸とを共重合した脂肪族ポリエステルなどが好適に例示でき、これらは単独で又は併用して用いることができる。
【0011】
上記乳酸と共重合可能な他のヒドロキシカルボン酸としては、例えばグリコール酸;2−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカルボン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルカプロン酸、2−ヒドロキシ−2−エチルカプロン酸、2−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ−2−エチル酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシバレリン酸、5−ヒドロキシバレリン酸、2−ヒドロキシヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−エチルヘプタン酸、2−ヒドロキシオクタン酸、7−ヒドロキシヘプタン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルオクタン酸、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸等が挙げられ、これらは単独又は2種以上併用して用いることができる。これらのうち、特にグリコール酸やヒドロキシカプロン酸誘導体が、形成被膜の仕上がり性や柔軟性の付与の点から好適である。
【0012】
上記乳酸系ポリマー(C)は、その構成成分中に乳酸モノマーとしてL体とD体とが、重量比で75/25〜98/2の範囲内で存在することが、貯蔵安定性や造膜性の点から望ましい。また構成成分中に乳酸モノマーが60質量%以上、好ましくは80質量%以上使用されていることが、形成被膜の強度の点から望ましい。
【0013】
上記乳酸系ポリマー(C)は、引っ張り強度が50kg/cm以上、好ましくは70kg/cm以上であることが剥離時の容易性の点から望ましい。ここで、引っ張り強度は、ポリプロピレン板に乾燥膜厚50μmになるように、乳酸系ポリマー(C)のエマルションをアプリケーターで塗装したものを、気温20℃、相対湿度60%の条件下で7日放置し、得られた塗膜を引っ張り強度の測定装置として、インストロン式引っ張り試験機(島津製作所社製オートグラフAG2000B型)を用いて、該塗膜を幅5mm、長さ20mmに切り、引っ張り速度20mm/min、加重5kg重で測定した値である。
【0014】
上記乳酸系ポリマー(C)は、重量平均分子量が5万以上、好ましくは7万〜30万の範囲であることが、形成被膜の強度及び剥離性の点から望ましい。ここで、重量平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、流量1.0ml/min、測定温度40℃でゲルパーミュレーションクロマトグラフィ(以下GPC)により測定した重量平均分子量をポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算したときの値である。GPC装置には「HLC8120GPC」(東ソー(株)社製、商品名)が使用でき、溶媒のGPCに用いるカラムとしては、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−3000H×L」、「TSKgel G−2500H×L」、「TSKgel G−2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を使用する。
【0015】
上記生分解性樹脂(A)には、その貯蔵時等の加水分解を抑制するために、必要に応じて加水分解抑制剤を配合することができる。該加水分解抑制剤としては、例えば、乳酸ポリマーの末端官能基であるカルボン酸や水酸基と反応性を有する化合物等が挙げられ、より具体的には、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン系化合物等が挙げられる。これらのうち、少量の添加で加水分解性を効果的に抑制可能なカルボジイミド化合物が好適に使用できる。
【0016】
上記カルボジイミド化合物は、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する化合物であれば特に制限なく従来公知のものが使用でき、油溶性でも水溶性でもよい。該カルボジイミド化合物としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド等のモノカルボジイミド類が挙げられるほか、分子鎖中に2個以上のカルボジイミド基を持つカルボジイミド化合物としては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート等の有機ジイソシアネート化合物を合成原料としたポリカルボジイミド化合物の重合末端であるイソシアネート基を活性水素化合物で末端封止した変成ポリカルボジイミド化合物等が挙げられる。
【0017】
上記加水分解抑制剤の配合量は、生分解性樹脂(A)の固形分に対して0.1〜3質量%の範囲内であることが、加水分解抑制能やゲル化防止の点から望ましい。
【0018】
上記生分解性樹脂(A)は、従来公知の方法により水分散することができ、通常、生分解性樹脂(A)の有機溶剤溶液を、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子などを分散安定剤として用いて水分散した後、その有機溶剤を除去してエマルションを調整することができる。
【0019】
本発明において再分散性エマルション樹脂(B)は、水に投入することにより、容易に再分散する樹脂を指し、JIS A 6203(セメント混和用ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂)に例示されるアクリル系、酢酸ビニル系、エチレン−酢酸ビニル系、酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル系、アクリル−スチレン系等を主成分とする粉末状の樹脂を使用することができる。これらの樹脂は、1種または2種以上混合して用いることができる。
【0020】
上記再分散性エマルション樹脂(B)は、乾式法(ドライブレンド法、溶融混練法)、湿式法(スプレードライ法、ベルトドライ法、薄膜蒸留法、減圧蒸留法)等、いずれの製造方法で製造されたものでも良く、特に限定されない。
【0021】
上記再分散性エマルション樹脂(B)は、粉末の状態でも、水や溶剤に溶かした状態で配合しても良い。
【0022】
上記再分散性エマルション樹脂(B)の含有量は、前記生分解性樹脂(A)の固形分100質量部に対して0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜8質量部の範囲内であることが剥離性の点から望ましい。
【0023】
本発明組成物は、上記(A)及び(B)成分を必須として含有するものであり、さらに必要に応じて、繊維状物質(D)を含有することができる。
【0024】
上記繊維状物質(D)は、塗膜の乾燥を速め可剥離性被膜の塗膜強度を向上させるために使用され、塗布作業性および剥離性の観点から、繊維経が0.01〜10μmであり、かつ、繊維長が1〜3000μmであるものが好ましい。なお、上記繊維経は上記繊維状物質の断面の直径を表すものである。繊維状物質の素材としては特に限定されず、例えば、木綿、麻、オガクズ、藁等の天然セルロース繊維、ビスコース人絹、キュプラ人絹等の再生セルロース繊維、レーヨン、アセテート等のセルロース系の人造繊維、ポリアミド、ポリエステル、アクリル等の合成繊維、草炭、羊毛、キチン・キトサン、椰子殻繊維等の天然繊維、パルプ等が挙げられる。
中でも、入手のしやすさ、コスト、天然由来の成分で自然に優しいという面から、セルロース繊維であることが好ましい。
【0025】
上記繊維状物質(D)の含有量は、前記全樹脂固形分100質量部に対して、0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜10質量部の範囲内で配合されることが、被膜の強度と伸びの点から好適である。該含有量が10質量部を超えると生分解性が悪くなるので、好ましくない。
【0026】
上記繊維状物質(D)は、そのままでも、水や溶剤に懸濁したものでも良く、前記生分解性樹脂(A)の水分散体への配合方法は特に限定されない。その水性エマルション化には機械的分散、乳化剤による分散などの方法が実施できる。
【0027】
さらに本発明組成物は、被塗面への適度な密着性の付与及び長期使用後でも容易に剥離可能とする点から、剥離助剤(E)を含有することが望ましい。該剥離助剤(E)としては、ワックス系、シリコーン系、フッ素系などから選ばれる少なくとも1種以上の化合物が好適に使用できる。これらは水に溶解、もしくは分散化されたもの、もしくは粉末状のいずれのものであっても使用できる。これらのうちポリエーテル変性シリコーンオイルが好適に使用できる。
【0028】
上記剥離助剤(E)の含有量は、組成物中の全樹脂固形分100質量部に対して、0.01〜10質量部、好ましくは0.01〜5質量部が適当である。
【0029】
本発明組成物は、また、形成被膜の屋外での長期使用時における耐久性向上の点から、紫外線吸収剤及び光安定化剤から選ばれる少なくとも1種の耐候性助剤(F)を含有することが望ましい。
【0030】
紫外線吸収剤としては従来から公知のものが使用できる。このものの具体例としてはフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート、4−tert−ブチルフェニルサリシレートなどのサリチル酸誘導体;2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2´−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノントリヒドレート、2,2´−ジヒドロキシ−4,4´−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシベンゾフェノン、ナトリウム2,2´−ジヒドロキシ−4,4´−ジメトキシ−5−スルホベンゾフェノン、2,2´,4,4´−テトラヒドロキシベンゾフェノン、4−ドデシロキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、5−クロロ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4−ジベンゾイルレゾルシノール、4,6−ジベンゾイルレゾルシノール、ヒドロキシドデシルベンゾフェノン、2,2´−ジヒドロキシ−4(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系;2−(2´−ヒドロキシ−5´−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系及びその他(シュウ酸アニリド、シアノアクリレートなど)の化合物などが挙げられる。
【0031】
光安定剤としては従来から公知のものが使用できる。主としてヒンダードアミン誘導体であるが、具体的にはビス−(2,2´,6,6´−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバテート、4−ベンゾイルオキシ−2,2´,6,6´−テトラメチルピペリジンなどが好適である。
【0032】
上記紫外線吸収剤及び光安定剤は、夫々単独でまたは併用して用いることができる。
【0033】
上記耐候性助剤(F)の配合量は目的に応じて任意に選択できるが、組成物中の樹脂固形分100質量部に対して、紫外線吸収剤が0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部、光安定剤が0.1〜5質量部、好ましくは0.3〜3質量部が適当である。
【0034】
さらに本発明組成物は、顔料(G)を含有することが望ましい。顔料(G)としては、チタン白、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどの着色顔料、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、硫酸バリウム、クレー、マイカなどの体質顔料が挙げられ、これらは単独でまたは2種以上併用して用いることができる。これらのうち特にチタン白が好適である。
【0035】
顔料(G)の配合量は、組成物中の樹脂固形分100質量部に対して3〜50質量部、好ましくは10〜30質量部である。3質量部未満では、紫外線、熱などに対するバリヤー効果が小さく、応力緩和能も極めて小さい。また、50質量部を越えて配合すると、被膜の伸びが低下し、剥離する際にチギレ易くなり、また被膜の吸水性が高まり、雨などにあうと被膜にフクレが発生し易くなるので好ましくない。
【0036】
顔料(G)として、特にチタン白を水分散体とした上で本発明の組成物に配合することにより、白色化された被膜が得られ、白色化すると、紫外線、熱などに対するバリヤー効果を高め、経時の剥離性を向上させることができる。また、該チタン白を配合することにより、被膜に発生する収縮応力を緩和でき、このことは、特に冬期、雨や雪により被膜が吸水した状態で低温に晒されると大きな応力が被膜に発生し、塗布された被膜の端面に浮きや剥がれが生じて強風などで自然に被膜が剥離する不具合を防止するので有効である。
【0037】
上記の剥離助剤(E)、耐候性助剤(F)、顔料(G)は、必要に応じて予め水性エマルションとした上で、前記生分解性樹脂(A)を用いたエマルションに配合するのが望ましい。これらの成分の水性エマルション化には、機械的分散、乳化剤による分散などの方法が実施できる。
【0038】
さらに本発明組成物は、可塑剤(H)を含有することが望ましい。本発明において可塑剤(H)は、上記生分解樹脂(A)成分により造膜性を向上させるために配合されるものであり、25℃における粘度が25mPa・s以上、好ましくは27〜1000mPa・sの化合物であり、特に生分解を有する化合物であることが望ましい。該粘度が25mPa・s未満では、可塑化効果が乏しく、造膜性が低下するので、好ましくない。ここで可塑剤(H)の粘度は、brookfield社製B型回転粘度計を用いて、せん断速度(回転数)60rpm、25℃で測定した値である。
【0039】
かかる可塑剤(H)としては、例えばクエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸誘導体;ジエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジプロピオネート等のエーテルエステル誘導体;グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリントリアセテート、グリセリントリプロピオネート、グリセリントリブチレート等のグリセリン誘導体;エチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等のフタル酸誘導体;、アジピン酸と1,4−ブタンジオールとの縮合体等のアジピン酸誘導体;ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン等のポリヒドロキシカルボン酸等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上併用して用いることができる。これらのうち、特にグリセリン誘導体、アジピン酸誘導体が、造膜性向上効果が高い点から好適である。
【0040】
上記可塑剤(H)の含有量は、前記生分解性樹脂(A)の固形分100質量部に対して1〜50質量部、好ましくは5〜45質量部の範囲内である。該含有量が1質量部未満では造膜性が低下し、形成被膜の柔軟性も劣り、一方50質量部を越えると、形成被膜から可塑剤がブリードアウトする恐れがあるので、好ましくない。
【0041】
また上記可塑剤(H)は、その種類によっては、必要に応じて予め水性エマルションとした上で、前記生分解性樹脂(A)の水分散体に配合するのが望ましい。その水性エマルション化には機械的分散、乳化剤による分散などの方法が実施できる。
【0042】
本発明組成物には、さらに必要に応じて、ポリマー粒子、顔料分散剤、界面活性剤、表面調整剤、沈降防止剤、帯電防止剤、軟化剤、抗菌剤、香料、硬化触媒、分散剤、消泡剤、増粘剤、造膜助剤、防腐剤、防カビ剤、凍結防止剤、pH調整剤、調湿剤、層状粘度鉱物、粉状もしくは微粒子状の活性炭、光触媒酸化チタン等を適宜配合することができる。
【0043】
本発明では、基材面に、本発明の可剥離性被膜形成用組成物を塗布、乾燥し、可剥離性被膜を形成することができ、これによって該基材面を一時的に保護することができる。
【0044】
基材面としては、自動車外板;二輪車両、鉄道車両、飛行機、鋼製家具、建材、家電製品、厨房機器などの工業製品の表面;建物外壁、橋脚、トンネル内面、ガードレール、電柱、電話ボックス等の屋外構造物の表面などが挙げられる。
【0045】
塗布方法としては、例えばスプレー、ローラー、刷毛などの従来公知の方法が特に制限なく採用できる。塗布膜の乾燥は、加熱乾燥、強制乾燥、常温乾燥のいずれであってもよい。本件明細書では40℃未満の乾燥条件を常温乾燥とし、40℃以上で且つ80℃未満の乾燥条件を強制乾燥とし、80℃以上の乾燥条件を加熱乾燥とする。通常、約80℃未満の強制乾燥であることが望ましい。
【0046】
可剥離性被膜の膜厚は、乾燥膜厚で20〜200μm、好ましくは50〜100μmであることが、保護性確保及び剥離時の容易性、さらに塗布作業性の点から好適である。
【0047】
本発明では、基材面に本発明の可剥離性被膜形成用組成物を塗布、乾燥し、可剥離性被膜を形成した後、該膜上になされた煤塵や鳥虫等による汚れを可剥離性被膜と一緒に容易に除去することができる。また本発明では、太陽光線や風雨等から塗膜面を保護することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。尚、「部」及び「%」は、別記しない限り「質量部」及び「質量%」を示す。
【0049】
可剥離性被膜形成用組成物の作製
実施例1〜7及び比較例1〜2
表1に記載の配合に従って混合・攪拌して各可剥離性被膜形成用組成物A〜Iを得た。尚、表1中における(注1)〜(注12)は下記の通りである。
【0050】
【表1】

【0051】
(注1)生分解性樹脂(乳酸系ポリマー)エマルション:ポリ乳酸樹脂(L体/D体=80/20(重量比)、重量平均分子量14万、ガラス転移温度52℃)50部をトルエン200部に溶解した溶液に、「Newcol707SF」(商品名、日本乳化剤社製、ポリオキシエチレン鎖を有するアニオン性乳化剤、有効成分30%)20部を添加し、攪拌・混合した。その後、ホモディスパーによる攪拌下、水55部を徐々に添加して乳化した後、減圧下でトルエンを除去し、引っ張り強度70kg/cm、固形分50%、粒径870nmのポリ乳酸樹脂のエマルションを得た。
ここで、ガラス転移温度の測定はJIS K 7121(プラスチックの転移温度測定方法)に準じて、示差走査熱量測定方法(DSC)により求めた。
【0052】
(注2)「プライマルAC−264」:商品名、ロームアンドハース社製、固形分60.5%のアクリルエマルション、ガラス転移温度18℃
(注3)再分散性エマルション樹脂:商品名「モビリスパウダーDM2072P」、クラリアントポリマー社製(酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル/アクリル酸エステルによる樹脂粉末)
【0053】
(注4)微小繊維スラリー:商品名「セリッシュFD100G」、ダイセル化学工業社製、セルロース繊維含有量10質量%、平均繊維径0.1μm、平均繊維長500μmの微小繊維のスラリー状製品。
【0054】
(注5)「リケマールPL−019」:商品名、理研ビタミン社製、グリセリンジアセトモノラウレート、可塑剤。
【0055】
(注6)剥離助剤:変性シリコーンオイル「TSF4445」(東芝シリコーン社製、ポリエーテル変性シリコーンオイル)30部にポリオキシエチレンソルビタンモノオレート2部、水68部を加えてよく攪拌し、固形分30%のシリコーンオイルの水分散体を得た。
【0056】
(注7)紫外線吸収剤:「チヌビン1130」(チバスペシャルティケミカルズ社製、ベンゾトリアゾール誘導体)30部にポリオキシエチレンソルビタンモノオレート5部、水65部を加えてよく攪拌し、固形分30%の紫外線吸収剤の水分散体を得た。
【0057】
(注8)光安定剤:「サノールLS−292」(三共社製、ヒンダードアミン誘導体)50部にポリオキシエチレンソルビタンモノオレート5部、水45部を加えてよく攪拌し、固形分50%の光安定剤の水分散体を得た。
【0058】
(注9)チタン白ペースト:酸化チタン(商品名「チタンCR−95」、石原産業社製)560部にポリカルボン酸ナトリウム塩の40%水溶液12部、水160部を加えてよく攪拌し、サンドミル分散機で10μm以下の粒度に分散して、チタン白ペーストを得た。
【0059】
(注10)「SNデフォーマー380」:商品名、サンノプコ社製、消泡剤
(注11)「スラオフ72N」:商品名、竹田薬品工業社製、防腐剤
(注12)「アデカノールUH−438」:商品名、旭電化工業社製、増粘剤
【0060】
評価試験
上記可剥離性被膜形成用組成物A〜Iについて、下記基準にて評価した。結果を表2に示す。
【0061】
(*1)塗膜外観:各可剥離性被膜形成用組成物を6ミルドクターブレードを用いて乾燥膜厚が30〜40μmになるようにガラス板に塗装し、気温20℃、相対湿度60%の条件下で乾燥させて各試験塗板を得た。1日後に塗膜外観を目視にて評価した。
◎:良好であり、肉持ち感に優れる
○:良好
△:やや不良
×:ワレやチヂミなどの欠陥がある
【0062】
(*2)剥離性(初期):「パルボンド3050」(商品名、リン酸亜鉛系表面処理剤、日本パーカライジング社製)で表面処理した軟鋼板(厚さ0.7mm)にアミノアルキド樹脂塗料(関西ペイント社製、商品名「アミラック」)を乾燥膜厚で約20μmとなるように140℃、30分間焼付け塗装した塗板上に、各可剥離性被膜形成用組成物を乾燥膜厚が約80μmになるようにスプレー塗装し、70℃で10分間乾燥させ、各試験塗板を得た。その後、気温20℃、相対湿度60%の条件下で1日放置した。得られた被膜を同条件下に、カッターで30mm幅の切り込みを入れ、1m/30秒の速度で被膜を剥離した。
◎:容易に剥離できる
○:抵抗感はあるが、剥離できる
△:剥離できるが、途中で被膜が破れる
×:剥離できない
【0063】
(*3)剥離性(促進耐候性):上記(*2)と同様にして各試験塗板を作製した。次いで得られた試験塗板をJIS K 5600の7−7(塗料一般試験方法−第7部:塗膜の長期耐久性−第7節:促進耐候性(キセノンランプ法))の促進耐候性試験に準じて、150時間照射した後、気温20℃の条件下、(*2)と同様の方法で剥離性を評価した。
◎:容易に剥離できる、
○:抵抗感はあるが、剥離できる
△:剥離できるが、途中で被膜が破れる
×:剥離できない
【0064】
(*4、*5)被膜の強度及び伸び:ポリプロピレン板に乾燥膜厚50μmになるようにアプリケーターで塗装したものを、気温20℃、相対湿度60%の条件下で7日放置した。該塗膜を幅5mm、長さ20mmに切り、引っ張り速度20mm/min、加重5kg重で0℃、20℃の温度で測定した。引っ張り強度の測定装置には、インストロン式引っ張り試験機(島津製作所社製オートグラフAG2000B型)を使用した。
被膜の強度
◎:100kgf/cm以上
○:50〜100kgf/cm
△:30〜50kgf/cm
×:30kgf/cm以下
【0065】
被膜の伸び
◎:100%以上
○:50〜100%
△:30〜50%
×:30%以下
【0066】
(*6)生分解性:可剥離性被膜形成用組成物を、ドクターブレードを用いて、乾燥膜厚が約100μmになるようにポリプロピレン製の板に夫々塗装し、気温20℃、相対湿度60%の雰囲気で7日間放置後、該板から被膜を剥離し、各試験片(被膜)を得た。得られた試験片を2枚のポリプロピレン製の網に挟み、神奈川県平塚市の関西ペイント株式会社内の敷地深さ50cmの土中に埋没し、6ヶ月後に目視で評価を行った。
◎:試験片の80〜100%が消失している
○:試験片の60〜80%が消失している
△:試験片の20〜60%が消失している
×:試験片の0〜20%が消失している
【0067】
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂(A)を用いたエマルションと再分散性エマルション樹脂(B)とを含有することを特徴とする可剥離性被膜形成用組成物。
【請求項2】
生分解性樹脂(A)が、20℃での引っ張り強度が50kg/cm以上であって、重量平均分子量が50,000以上の乳酸系ポリマー(C)である請求項1記載の可剥離性被膜形成用組成物。
【請求項3】
乳酸系ポリマー(C)が、ポリ乳酸である請求項2記載の可剥離性被膜形成用組成物。
【請求項4】
乳酸系ポリマー(C)が、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸とを共重合した脂肪族ポリエステルである請求項2記載の可剥離性被膜形成用組成物。
【請求項5】
再分散性エマルション樹脂(B)の含有量が生分解性樹脂(A)の固形分100質量部に対して0.01〜10質量部である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の可剥離性被膜形成用組成物。
【請求項6】
さらに繊維状物質(D)を、組成物中の全樹脂固形分100質量部に対して、0.1〜10質量部含有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の可剥離性被膜形成用組成物。
【請求項7】
さらに剥離助剤(E)を、組成物中の全樹脂固形分100質量部に対して、0.01〜10質量部含有する請求項1乃至6のいずれか1項に記載の可剥離性被膜形成用組成物。
【請求項8】
さらに紫外線吸収剤及び光安定化剤から選ばれる少なくとも1種の耐候性助剤(F)を含有する請求項1乃至7のいずれか1項に記載の可剥離性被膜形成用組成物。
【請求項9】
さらに顔料(G)を含有する請求項1乃至8のいずれか1項に記載の可剥離性被膜形成用組成物。
【請求項10】
さらに可塑剤(H)を含有する請求項1乃至9のいずれか1項に記載の可剥離性被膜形成用組成物。
【請求項11】
基材面に、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の可剥離性被膜形成用組成物を塗布することを特徴とする一時保護方法。

【公開番号】特開2010−18640(P2010−18640A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315674(P2005−315674)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】