説明

可動ヘッド器具を有する外科用器具

【課題】ヘッド器具およびエフェクタの運動が、ヘッド器具において簡便な構造のトランスミッションを用いる外科用器具を提供する。
【解決手段】ハンドル器具と、ハンドル器具が接続されたシャフト器具2と、シャフト器具2の先端部にヒンジまたはピンを介して旋回しうるように連結されたヘッド器具4であって、内部にヘッド器具4の長軸を軸に回転しうるように支持されたエフェクタ3を有するヘッド器具4と、シャフト器具2内部に配置され、ハンドル器具からの機械的操作シグナルを、旋回および/または回転運動のためにヘッド器具4に伝達する機械的トランスミッションシステムと、を有する。屈曲に対しては柔軟で、かつねじれ剛性を有する中空バネ30がヒンジシャフトまたはピンをバイパスして配置され、中空バネ30を介して回転シグナルが前記エフェクタ3に伝達するように、エフェクタ3と前記機械的トランスミッションシステムとを直接接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科用器具、特に器具またはチューブシャフトに接続された可動の先端ヘッド器具を有し、かつ最小侵襲手術(minimally invasive surgery)のための外科用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、本技術分野の外科用器具が開示されている。この外科用器具は、実質的にチューブまたはシャフト器具からなる。チューブまたはシャフト器具の一方の端部である基端部にはヘッド器具操作用のハンドル器具が設けられ、反対側の端部である先端部にはヘッド器具が設けられている。ハンドル器具はトランスミッションを介して、ヘッド器具を操作する。ヘッド器具は屈曲可能であり、より具体的には、チューブシャフトに対して傾斜可能である。またヘッド器具は内部に回転しうるように支持されたエフェクタとして、鉗子またはトングを保持する。鉗子またはトングの1つのあご部は、旋回しうるようにエフェクタに支持され、ハンドル器具によって操作されうる。
【0003】
より具体的には、特許文献1では、トランスミッションによって、少なくとも操作者の手の回転運動によって生じたハンドル器具の第1の動きが、所定の伝達率で、エフェクタの回転運動に伝達されうる。これにより、人の手の回転運動が比較的制限されている(約300°まで)にもかかわらず、ハンドルを持ち替えることなくエフェクタを回転させ、複雑に動かしうる。さらに、ハンドル器具の第2の動き(例えばチューブシャフトに対する屈曲)は、ヘッド器具の傾きに変換される。
【0004】
ハンドル器具およびチューブシャフの内部に設けられたトランスミッションは、ヘッド器具およびエフェクタの個々の動きを最大限独立して操作しうるように設計されている。しかしながら、このようなトランスミッションは、必然的に極めて複雑であることから、十分な組み立て用のスペース(assembly space)を要する。さらに、完全に独立した各部材の動きは保証されていなかった。
【0005】
特許文献2には、他の外科用器具が開示されている。特許文献2に開示された外科用器具は、ハンドル器具と、先端部およびハンドルが接続された基端部を有するシャフト器具と、旋回しうるようにシャフト器具の先端部に連結されたヘッド器具と、を有する。ヘッド器具は、ヘッド器具の長軸を中心に回転しうるように、ヘッド器具の内部に支持されたエフェクタと、エフェクタに保持された外科用ツールとを有する。機械的トランスミッションシステムの少なくとも一部が、シャフト器具内部に設けられる。機械的トランスミッションシステムは、ハンドルからの機械的操作シグナルを、ヘッド器具の旋回および/または回転運動に伝達および/または変換する。そして、屈曲に対しては柔軟で、ねじれ剛性を有する中空バネが、ヒンジをバイパスすることでトランスミッションシステムと相互に接続している。また中空バネは、エフェクタと機械的トランスミッションシステムとを直接接続し、少なくともハンドルからの回転シグナルをエフェクタに伝達する。ここで、屈曲に対しては柔軟で、ねじれ剛性を有する中空バネとは、回転チューブシャフトに取り付けられたスパイラルスプリングである。回転チューブシャフトは、トランスミッションシステムの一部を構成し、少なくとも回転しうるようにシャフト器具内部に支持される。
【0006】
これらの先行技術を参照し、本発明の目的は、ヘッド器具およびエフェクタの運動が、特にヘッド器具において簡便な構造を有するトランスミッションを用いることで達成される外科用器具を提供することである。本発明の他の目的は、トランスミッションの構造を単純化することでヘッド器具において十分なスペースを確保することである。当該スペースは、外科治療に有用な外科用器具に更なる機能を付与するために用いられうる。本発明のさらなる目的は、最小侵襲手術の分野における一般的な用語である単孔式手術に適した外科用器具を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第10036108号明細書
【特許文献2】国際公開第2009/001497(A2)号パンフレット
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、請求項1の特徴を有する外科用器具によって解決される。本発明のさらなる有用な形態は、従属項によって特定される。
【0009】
本発明の基本的概念は、ねじれに対して剛性を有する柔軟なバネを用いることである。このようなバネはトルクを伝達することができる。このようなバネは、機械的シグナルを発生させるシグナル発生器と、ヒンジシャフトおよびピンを有する機械的ヒンジを介してシャフト器具に連結されたヘッド器具と、の間のトランスミッションの一部を構成する。シグナル発生装置は、複数のトリガーやつまみなどを有するハンドル器具やロボティックインターフェース、シリンダ状の駆動モータ、ピエゾ素子、ステッピングモータなどである。さらにバネは、ヒンジをバイパスするように配置され、ヘッド器具内部に支持されたエフェクタと、トランスミッション(特にトランスミッションの他の一部を構成する回転(チューブ)シャフト)とを(直接)接続する。回転チューブシャフトは、シャフト器具内部に支持され、シグナル発生器からの機械的回転シグナルをエフェクタに伝達する。この構造(特にヒンジと柔軟なバネとの組み合わせ)によってシャフト器具に対してヘッド器具が旋回したとき、バネの規定された(制御された)屈曲運動を実現することが可能となり、最大トルクを伝達するようにバネを予め設計することが可能となる。さらに、屈曲運動中におけるバネの軸の長さの変動を、最小化および/または正確に予測することが可能となる。
【0010】
より具体的には、本発明の外科用器具は、好ましくはハンドル器具である機械的シグナル発生器と、先端部およびシグナル発生器が連結された基端部を有するシャフト器具と、旋回しうるようにシャフト器具の先端部にヒンジシャフトまたはピンを介して連結されたヘッド器具と、少なくとも一部がシャフト器具内部に配置され、シグナル発生器からの機械的操作シグナルを、少なくとも旋回および/または回転運動のためにヘッド器具(4)に伝達する機械的トランスミッションシステムとを有する。ヘッド器具は、ヘッド器具の長軸を中心に回転しうるようにヘッド器具内部に支持されたエフェクタおよびエフェクタに保持された外科用ツールを有する。本発明によれば、屈曲に対しては柔軟であり(bending flexible)、ねじれ剛性を有する中空バネが、旋回ヒンジをバイパスすることで、エフェクタと機械的トランスミッションシステム(回転シャフト)とを直接接続し、少なくとも回転シグナルをエフェクタに伝達する。このバネがヒンジとは離間して配置されている(バイパス配置されている)ことによって、固定されたヒンジの軸を中心にヘッド器具が旋回したとき、バネの圧縮または伸張運動と組み合わさったバネの屈曲を形成することができる。
【0011】
本発明の屈曲に対しては柔軟で、ねじれ剛性を有する中空バネはスパイラルスプリングである。スパイラルスプリングは、トランスミッションシステムの一部であり、少なくとも回転しうるように、さらに任意に軸方向にシフト移動しうるようにシャフト器具内部に支持された回転(チューブ)シャフトの一方の端部に取り付けられる。回転(チューブ)シャフトは、内部に軸方向穴を有することが好ましい。回転(チューブ)シャフトの軸方向穴は、中空バネの内部に連結し、閉塞チャネル(closed channel)を形成することが好ましい。また閉塞チャネル内には、後述するプル・プッシュ要素および/または電気配線などの追加的な部材が通されてもよい。バネがスパイラルスプリングである場合、圧縮は軸方向の長さの収縮を誘導する。これにより、外科用ツールの位置に対する屈曲運動の影響が減少する。
【0012】
最後に、本発明では、ヘッド器具を最大限に旋回させるためにスパイラルスプリングが最大限屈曲した場合にのみ、屈曲方向に対して内側のスパイラルスプリング(30)のスプリングコイル同士が接触するか、またはこの場合であってもスプリングコイル同士が離間するようにスプリングコイルの巻ピッチが調整されている。この独創的な構造によって、特定の外径および内径を有するスプリングが、ヘッド器具が最大限旋回した位置において最大トルクを伝達できるというメリットが得られる。これにより、スパイラルスプリングのトルク伝達機能が最大限に利用されうる。
【0013】
本発明の一の形態では、外科用ツールは、2つのあご部を有する鉗子または鋏手段である。少なくとも1つのあご部は、旋回しうるようにエフェクタによって支持され、トランスミッションシステム(特に、回転チューブシャフト内部の作動ロッド)にレバー手段(あご部と一体的でありうる)および接続要素(例えばボーデンケーブル)を介して連結されている。そして、シグナル発生器からの各操作シグナルによって生じる作動ロッドの軸方向のシフト移動が、接続要素およびレバー手段を介して直接少なくとも1つのあご部に伝達し、あご部を開閉運動させる。作動ロッドは、シフト移動しうるように回転(チューブ)シャフトの軸方向穴内に支持された追加的な(独立した)ロッドであってもよいし、または回転(チューブ)シャフト自体であってもよい。作動ロッドが回転(チューブ)シャフト自体である場合、シャフトは、エフェクタに回転シグナルを伝達する機能と、作動シグナル(開閉シグナル)を外科用ツールに伝達する機能と、の2つの機能を有する。
【0014】
本発明の他の形態では、チューブまたは外科用器具のシャフト器具は、長軸方向に沿ってC字型に湾曲しているか、または同一または異なる曲率半径を有し、同一の湾曲方向(curving direction)を有する1以上の湾曲単位(single curved portion)を有し、同一平面において(in one plane)C字型に湾曲されている。このようなシャフトの構造は、単孔式手術において複数の(少なくとも2つ)本発明の外科用器具を単一のトロカールに挿入する場合に、外科用器具のシグナル発生器(ハンドル)が互いに干渉しあうことを防止できる。さらに、C字型またはC字様型(C-shape like form)のシャフトによって、外科用器具の先端部を自動的に離間させることができるので、単一のトロカールに複数の外科用器具を挿入する場合であっても、先行技術のように先端部の間に一定の距離を確保するためにシャフト器具を交差させる必要がない。さらに、各外科用器具は、単独でトカロールから出し入れされうる。
【0015】
各シャフト器具の単一湾曲方向(single curve direction)は、ヘッド器具の旋回方向と一致している。換言すると、2つの上述した単一湾曲したシャフト器具を有する外科用器具が、単孔式手術において単一のトロカールに挿入された場合、シグナル発生器(ハンドル)が互いに離間する。そして2つの外科用器具のヘッド器具は旋回することで再び互いに接近することができる。このため、互いに協同しあう2つの外科用器具を用いることで、単孔式手術をより大きな作業域(working space)で実行することができる。
【0016】
本発明の他の形態では、バネ(および任意にシャフト器具)は、最大で5.5mmの外径を有し、最小で0.3mmの内径を有する。本発明者は、1100N/mm2以上の抗張力(Rm)を有するスプリング材料からなり、上記寸法を有するスパイラルスプリングをバネとして用いると、回転(チューブ)シャフトからのトルクをエフェクタに十分に伝達することができると同時に、屈曲に対して十分な柔軟性(弾力性)を確保でき、ヘッド器具が旋回する際に大きな抵抗とはならないことを見出した。さらに、バネが上記内径を有すると、トランスミッション(作動ロッド)からの作動(せん断/引っ張り)力を外科用ツールに伝達する少なくとも1つのケーブルがバネ内部に挿入されうる。また、ケーブルは任意に外科用ツールに電力を供給し、バイポーラ技術によって熱を発生させうる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の好ましい形態の外科用器具の全体図である。
【図2】図2は、ハンドル器具からの作動運動をヘッド器具の旋回および/または回転運動に伝達させるトランスミッションシステムを概略図である。
【図3】図3は、ヘッド器具とシャフト器具との間のヒンジ部の拡大図である(柔軟なバネは不図示)。
【図4】図4は、柔軟なバネとしてのスパイラルスプリングを示す。
【図5】図5は、単孔式手術における2つの外科用器具の配置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態を例に本発明について詳細に説明する。
【0019】
図1には、本発明の好ましい形態の外科用器具の全体図が示される。本発明の外科用器具は、チューブもしくはシャフト器具2の基端部または端部に設けられた多機能ハンドル器具1形式の機械的シグナル発生器と、エフェクタ3として機能するか、またはエフェクタ3を備えたヘッド器具4と、を有する。チューブもしくはシャフト器具2はステンレスからなることが好ましい。ヘッド器具はシャフト器具2の他の端部である先端部に設けられる。
【0020】
図1に示されるように、チューブまたはシャフト器具2は、C字型に湾曲されていてもよい。C字型に湾曲されたシャフト器具2は、一定の曲率半径を有していてもよいし、同一または異なる曲率半径を有し、長軸方向に互いに離間し、かつ同一の湾曲方向を有する複数の湾曲単位を有していてもよい。または、シャフト器具2は、直線形状であってもよいし、単一湾曲構造(single curved design)を形成するために少なくとも一部が直線形状で、少なくとも一部がC字型に湾曲されていてもよい。
【0021】
基本的に、ヘッド器具4は、シャフト器具に対して旋回または屈曲しうるようにシャフト器具の端部に支持される。一方、エフェクタ3は、ハンドル器具1の操作によってヘッド器具4の各屈曲位置においてヘッド器具4の長軸を軸としてターンまたは回転しうるように構成されている。この目的を達成するために、いくつかのマニピュレータまたはオペレーション機構がハンドル器具1に設けられている。マニピュレータまたはオペレーション機構は、ハンドル器具1およびシャフト器具2内部のトランスミッショントレーンを介して、ヘッド器具4およびエフェクタ3にそれぞれ接続されて、ヘッド器具4およびエフェクタ3を操作可能としている。これにより、ヘッド器具4およびエフェクタ3を個別に操作することができる。
【0022】
具体的には、ハンドル器具1は、シャフト器具2に対して回転および傾斜しうるように搭載され、人間工学的に設計された部材5からなる。部材5は、第1マニピュレータ6(好ましくは回転つまみ形状)および第2マニピュレータ7(好ましくはハンドルレバーまたはトリガー形状)を支持する。すなわち、本発明の実施の形態におけるハンドル器具1は、エフェクタ3および/またはヘッド器具4の3つを個別に操作するための操作機構を有する。しかし、ハンドル器具1が有する操作機構の数は3よりも少なくてもよく、例えば、ヘッド器具4を旋回させ、エフェクタ3を回転させるハンドル器具1が有するマニピュレータまたは操作機構の数は1つでもよい。
【0023】
図2および3には、ハンドル器具1の外部構造(特に、ヘッド器具4を旋回/屈曲させるオペレーション機構との関係および屈曲トランスミッショントレーンとの関係)が示されている。
【0024】
図1に概略的に示されたハンドル1は、旋回しうるように連結部8を介してシャフト器具2に接続されている。連結部8は、旋回しうるか、または軸方向にシフト移動しうるように(チューブ)シャフト器具2の内部に支持されたシャフト12に連結されている。このため、連結部8は、シャフト器具2に対するハンドル1の傾斜または旋回運動を、シャフト器具の内部の押出または旋回(チューブ)シャフト12の直線的な往復運動に変換する。さらに、押出チューブシャフト12の内部には、回転チューブシャフト24が押出チューブシャフト12に対して回転しうるように支持されている。回転チューブシャフト24は押出チューブシャフト12に対して軸方向にシフト移動しうるように支持されていてもよい。あるいは回転チューブシャフト24は、回転のみ可能な状態で押出チューブシャフト12内に保持され、そして追加的な作動ロッド25がシフト移動しうるように支持された軸方向穴を有する。
【0025】
つまみ6の回転運動は、連結部8内部のトランスミッション(不図示)によって伝達され、そして押出チューブシャフト12内の回転チューブシャフト24の回転運動に変換される。一方、トリガー7の動きは、連結部8内部の他のトランスミッション(不図示)によって伝達され、回転チューブシャフト24のシフト運動に変換されるか(回転シャフトが回転とシフト移動との2つ機能を有する場合)、または図に示されるように、回転チューブシャフト24内部の作動ロッド25のシフト運動に変換される。このようなトランスミッションおよびハンドルは、例えばUS7,674,255に示されている。US7,674,255の内容は本明細書で参照される。
【0026】
回転チューブシャフト24内部または作動ロッド25の内部には、2つのケーブル33、34が電気的に絶縁された状態で固定されていることが好ましい。ケーブル33、34は、電流を伝達するためのものであり、作動ロッド25(または回転チューブシャフト24)とエフェクタ3(特にエフェクタ3に形成された外科用ツール)とを機械的に接続する。
【0027】
ヘッド器具4は、ヒンジ機構17によってシャフト器具2に旋回しうるように接続されている。ヒンジ機構17は、シャフト器具2の先端部に形成され、ヘッド器具4の旋回軸を規定する2つの小穴15を有する。さらにヘッド器具4は、2つのピンまたはボルト(不図示)が一体的に形成された円柱状ハウジング16を有する。ピンまたはボルトは、小穴15に取り付けられ、ヒンジ機構17の仮想旋回シャフトを形成しうるように、同軸上に配置される。押出チューブシャフト12は、先端部に接続要素として、レバー19が接続される小穴14を有する。レバー19は、エフェクタ3のハウジング16の接続部18に旋回しうるように接続されている。押出チューブシャフト12がシャフト器具2内部を軸方向にシフト移動した場合、このシフト移動は、中間レバー19を介してエフェクタ3のハウジング16に伝達し、エフェクタ3(つまりヘッド器具4)をヒンジ17の旋回軸を軸として旋回させる。
【0028】
上述したように押出チューブシャフト12の内部には回転チューブシャフト24が支持される。回転チューブシャフト24は、屈曲に対しては柔軟で、かつねじれ剛性を有する中空バネ30が取り付けられている先端部を有する。この図4に示されるバネ30は、好ましくは各コイルの断面が長方形であるスパイラルスプリングからなる。またはスパイラルスプリングのコイルの断面は、台形または三角形であってもよい。スプリングの内径は最小で0.3mmであり、外径は最大で5.5mmである。このため、スプリングの外径をDaとし、内径をDiとしたとき、スプリングは以下の式(1)を満たす。
【0029】
Da/Di ≦ 18.33(Diは0mm超であり、Daは5.5 mm以下) (1)
スプリングは、巻き数が9までで、スプリングの長軸方向の端部に一体化された2つの接続要素31、32を有する単一ブロック(single block)のバネ鋼からなる。バネ鋼は能動的屈曲部(actively bent portion)を有していてもよい。上述したように、スプリング材料の抗張力(Rm)は、1100N/mm2以上であることが好ましい。
【0030】
スパイラルスプリング30の接続要素31は、トルクを伝達しうるように回転チューブシャフト24と接続している。回転チューブシャフト24が2つの機能(エフェクタ3の回転および開閉機能)を有する第1の実施の形態では、接続要素31は、回転チューブシャフト24の長軸方向にシフト可能であることが求められる。独立した(追加的な)作動ロッド25が回転チューブシャフト内部に配置され、回転チューブシャフト24が1つの機能(エフェクタ3の回転)のみを有し、作動ロッド25が他の機能(外科的ツールの開閉)を担う第2の実施の形態では、接続要素31は、柔軟性を有するバネ30(スパイラルスプリング)を回転チューブシャフト24の先端部に固定する固定手段であってもよい。
【0031】
反対側に位置する接続要素32は、上述した両方の形態においてエフェクタ3に接続した状態で固定され、回転チューブシャフト24からの回転運動をエフェクタ3に伝達する。スプリング30の内部には少なくとも1つのケーブル(好ましくは2つのケーブル33、34)が配置されている。スプリング30の内部にケーブルを配置するために樹脂チューブ(不図示)がスプリング30(柔軟性を有するバネ)に挿入されている。樹脂チューブは、ケーブル33、34をボーデンケーブル法(Bowden cable technique)を利用して絶縁状態で誘導する機能を有する。ケーブル33、34は、外科用ツールを作動(開閉)させるために外科用ツールと接続している。ここで、外科用ツールは、2つのあご部を有する鉗子また鋏手段であることが好ましい。外科用ツールが有する2つのあご部のうち少なくとも1つは、旋回しうるようにエフェクタ3(エフェクタ3のハウジング16)に支持され、レバー手段(不図示)を介して作動ロッド25(または回転チューブシャフト24)に連結されている。ケーブル33、34のうち1つは、作動ロッド25(または回転チューブシャフト24)に接続し、ハンドル器具1の操作シグナルによって生じる作動ロッド25(または回転チューブシャフト24)の軸方向のシフト移動をケーブル33、34のうち1つのケーブルおよびレバー手段を介して、少なくとも1つのあご部に伝達され、あご部を旋回させる。
【0032】
より具体的には、ケーブル33、34のうち少なくとも1つまたは両方は、外科用ツールの2つのあご部のうち少なくとも1つまたは両方に電気的および機械的に接続している。あご部は絶縁されている。作動ロッド25(または回転チューブシャフト24)が軸方向にシフトすると、そのシフト運動は、柔軟性を有するバネ30内を通るケーブル33、34を介して、あご部に旋回運動として伝達される。さらに、電流がケーブル33、34を介してあご部に供給され、加熱部を形成するか、またはあご部間を加熱しうる。発生した熱は、例えば内出血を止めるためなど患者の体を手術する際に用いられうる。
【0033】
本発明の好ましい実施の形態における上述した外科用器具の機能は以下の通りである。
【0034】
外科用器具を単孔トロカール(single port trocar)を介して患者の体に挿入する単孔式手術方法に用いることが好ましい。外科用器具による悪影響を防ぐため、そしてトロカール内でシャフト器具を交差させずに、器具の先端部同士の適切な距離を実現するために、図1に示されるようにシャフト器具2を実質的に単一C字型またはC字様型に湾曲させることが好ましい。シャフト器具2が湾曲する形態では、1つのトロカールに2以上の外科用器具が挿入されると、シャフト器具の基端部ハンドルまたはロボットインターフェース(不図示)の同士が離間する。
【0035】
ヘッド器具4を旋回させるためにハンドル1またはロボティックインターフェースを操作すると、押出チューブシャフト12がシャフト器具2内を軸方向にシフト移動する。シフト移動はレバー19を介してヘッド器具4に伝達され、ヘッド器具4をヒンジ17を軸として旋回させる。ここでは、少なくとも90°の旋回角度が実現可能である。ヘッド器具4の旋回運動は、ヘッド器具4のハウジング16内部に位置するエフェクタ3と、押出チューブシャフト12の内部に位置する回転チューブシャフト24とを、ヒンジ17をバイパスする(仮想のヒンジシャフトを横切る)ことで接続するスパイラルスプリング30の屈曲運動によっても生じうる。スパイラルスプリング30は、ヘッド器具4が最大限に屈曲したときであってもコイル同士が接触することが無いように(またはヘッド器具4が最大限に旋回したときのみにコイル同士が接触するように)巻ピッチが調整されたコイルを有する。このためスパイラルスプリング30を最小化しつつも、スパイラルスプリング30は、ヘッド器具4が最大限に旋回した位置においても最大トルクを伝達することができる。
【0036】
ヘッド器具4の(ハウジング16の)内部のエフェクタ3を回転させるためにハンドル1を操作すると、回転チューブシャフト24が押出(旋回)チューブシャフト12内で回転する。この回転運動はヘッド器具4の旋回位置(pivoting position)とは独立して、スパイラルスプリング30を介して、エフェクタ3に伝達される。
【0037】
作動ロッド25が設けられる形態では、ケーブル33、34のうち少なくとも1つは、回転チューブシャフト24の回転運動に追従する作動ロッド25内に位置する。回転チューブシャフト24が作動ロッド25の機能を担う他の形態(作動ロッド25が省略された形態)では、ケーブル33、34のうち少なくとも1つは、回転チューブシャフト24およびスパイラルスプリング30の回転運動に正確に追従し、相対位置を保持しうるように、回転チューブシャフト24内に固定されている。
【0038】
エフェクタ3の外科用ツールである鉗子または鋏手段を開閉するためにハンドル1を操作すると、作動ロッド25は、回転チューブシャフト24および押出チューブシャフト12に対して軸方向にシフト移動する。この軸方向のシフト移動は、スパイラルスプリング30には伝達されない。作動ロッド25が省略される他の形態では、回転チューブシャフト24が、押出チューブシャフト12内で、スパイラルスプリング(柔軟性を有するバネ)30を動かすことなく軸方向にシフトする。スパイラルスプリング30の接続要素のひとつである接続要素31は、スパイラルスプリング30にトルクのみを伝達し、せん断力は伝達しないように設計されているからである。例えば、接続要素31は、シフト移動しうるように回転チューブシャフト24内に支持され、回転モーメントを伝達を許容する断面形状を有する。
【0039】
このため、上述した2つの形態における作動ロッド25または回転チューブシャフト24の軸方向のシフト移動は、作動ロッド25または回転チューブシャフト24に固定されたケーブル33、34の少なくとも1つおよびあご部を介して、そしてスパイラルスプリング(または柔軟性を有するバネ)30内をボーデンケーブルの原理に従って誘導され、鉗子または鋏手段(特にこれらのあご部)にのみ伝達される。このため、鉗子または鋏手段は、ヘッド器具4の旋回位置およびヘッド器具4内部のエフェクタ3の回転位置とは独立して、操作(開閉)されうる。
【0040】
そして、あご部を介して組織を加熱するためにハンドル1を操作すると、バイポーラ(HF)技術によってケーブル33、34を介して、あご部に電流が供給される。ここで、あご部は、旋回しうるように、かつ絶縁された状態でエフェクタ3によって保持される。あご部は、例えば、エフェクタケースの樹脂材料を用いるか、またはあご部を(および/またはエフェクタ3)絶縁コーティングで覆うことで絶縁される。
【0041】
上述した本発明の好ましい実施の形態からも読み取れるように、本発明は、請求項に含まれる複数の他の形態を含有しうる。
【0042】
上述した鉗子または鋏手段に代えて把持装置や持針器、メリーランド解剖用器具(Maryland dissector)などを、エフェクタ3に適用される外科用ツールとして用いることができる。また、非機械的に駆動/作動するエフェクタ(外科用ツール)が、器具として用いてもよい。この場合少なくとも1つのケーブルが外科用ツールに電流を供給する機能を担う。
【0043】
好ましい実施の形態では、バイポーラHF技術が用いられたが、そこでは外科用ツールの作動には、1つのケーブルしか用いることができなかった。バイポーラ技術を達成するために、他のケーブルは、例えば、シャフト器具および絶縁コーティングによって被覆されなければならないエフェクタケーシングそのものによって交換されうる。
【0044】
上述した説明では、先端の偏向(tip deflection)すなわちヘッド器具4の旋回は、回転チューブシャフト24および任意に作動ロッド25を内部に支持する押出チューブシャフト12によってもたらされる。しかし、ボーデンケーブルなどの柔軟性を有するケーブルを用いて、せん断力(押出し/引き込み力)をヘッド器具4に伝達し、ヘッド器具4の回転運動を作動させてもよい。
【0045】
シャフト器具内部のチューブシャフトおよびロッドは、C字型のシャフト器具に追従できるよう、シフト移動が可能か、または一定の柔軟性(弾力性)を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好ましくはハンドル器具またはロボットインターフェースである機械的シグナル発生器(1)と、
先端部および前記機械的シグナル発生器(1)が接続された基端部を有するシャフト器具(2)と、
前記シャフト器具(2)の先端部にヒンジ(17)を介して旋回しうるように連結されたヘッド器具(4)であって、内部に前記ヘッド器具(4)の長軸を軸に回転しうるように支持されたエフェクタ(3)および前記エフェクタ(3)に保持された外科用ツールを有するヘッド器具(4)と、
少なくとも一部が前記シャフト器具(2)内部に配置され、前記機械的シグナル発生器(1)からの機械的操作シグナルを、少なくとも旋回および/または回転運動のために前記ヘッド器具(4)に伝達し、および/または前記操作シグナルを変換する機械的トランスミッションシステムと、
前記ヒンジ(17)をバイパスし、屈曲に対しては柔軟で、かつねじれ剛性を有する中空バネ(30)であって、前記中空バネ(30)を介して少なくとも前記機械的シグナル発生器(1)からの回転シグナルが前記エフェクタ(30)に伝達するように、前記エフェクタ(3)と前記機械的トランスミッションシステムとを直接接続する中空バネ(30)と、を有する外科用器具であって、
前記中空バネ(30)はスパイラルスプリングであり、前記スパイラルスプリングの一方の端部が前記シャフト器具(2)内部に少なくとも回転可能に支持され、前記機械的トランスミッションシステムの一部である回転チューブシャフト(24)に取り付けられ、
前記ヘッド器具(4)が最大限に旋回するようにスパイラルスプリング(30)が最大限に屈曲した場合にのみ、屈曲方向に対して内側の前記スパイラルスプリング(30)のスプリングコイルが接触するか、または前記場合であっても前記スプリングコイルが離間するように、前記スパイラルスプリング(30)の巻ピッチが調整されていることを特徴とする、外科用器具。
【請求項2】
シフト移動しうるように前記シャフト器具(2)内部に支持され、かつ前記機械的シグナル発生器(1)からの旋回シグナルを前記ヘッド器具(4)に伝達するために、レバー手段(19)を介して前記ヘッド器具(4)に連結された押出チューブシャフト(12)を有し、
前記回転チューブシャフト(24)は、前記押出チューブシャフト(12)内部に支持されていることを特徴とする、請求項1に記載の外科用器具。
【請求項3】
シフト移動しうるように前記回転チューブシャフト(24)内部に支持され、かつ前記機械的シグナル発生器(1)からの作動シグナルを前記エフェクタ(3)の外科用ツールに伝達する作動ロッド(25)を有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の外科用器具。
【請求項4】
前記外科用ツールは、2つのあご部を有する鉗子または鋏手段であり、
少なくとも1つの前記あご部は、旋回しうるように前記エフェクタ(3)に支持され、レバー手段および/または少なくとも1つのケーブル(33、34)である柔軟な接続要素を介して前記作動ロッド(25)または前記回転チューブシャフト(24)に連結され、
前記機械的シグナル発生器(1)からの各操作シグナルによって引き起こされる前記作動ロッド(25)または前記回転チューブシャフト(24)の軸方向のシフト移動は、前記レバー手段および/または柔軟な前記接続要素を介して少なくとも1つの前記あご部に伝達され、前記あご部を旋回させることを特徴とする、請求項3に記載の外科用器具。
【請求項5】
好ましくはハンドル器具またはロボットインターフェースである機械的シグナル発生器(1)と、
先端部および前記機械的シグナル発生器(1)が接続された基端部を有するシャフト器具(2)と、
前記シャフト器具(2)の先端部にヒンジ(17)を介して旋回しうるように連結されたヘッド器具(4)であって、内部に前記ヘッド器具(4)の軸を中心に回転しうるように支持されたエフェクタ(3)および前記エフェクタ(3)に保持された外科用ツールを有するヘッド器具(4)と、
少なくとも一部が前記シャフト器具(2)内部に配置され、前記機械的シグナル発生器(1)からの機械的操作シグナルを、少なくとも旋回および/または回転運動のために前記ヘッド器具(4)に伝達し、および/または前記操作シグナルを変換する機械的トランスミッションシステムと、を有する外科用器具であって、
前記シャフト器具(2)は、長軸方向に沿ってC字型に湾曲しているか、または同一または異なる曲率半径を有し、同一の湾曲方向(curving direction)を有する1以上の湾曲単位(single curved portion)を有することを特徴とする、単孔式手術に適した請求項1〜4のいずれか一項に記載の外科用器具。
【請求項6】
前記機械的トランスミッションシステムは、
少なくとも回転しうるように前記シャフト器具(2)内部に支持された回転チューブシャフト(24)を有し、
前記回転チューブシャフト(24)は、前記機械的シグナル発生器(1)からの回転シグナルを前記エフェクタ(3)に伝達するために、屈曲に対しては柔軟で、かつねじれ剛性を有することを特徴とする、請求項5に記載の外科用器具。
【請求項7】
シフト移動しうるように前記回転チューブシャフト(24)内部に支持された作動ロッド(25)を有し、前記作動ロッド(25)は、前記機械的シグナル発生器(1)からの作動シグナルを前記エフェクタ(3)に保持された外科用ツールに伝達することを特徴とする、請求項5に記載の外科用器具。
【請求項8】
前記中空バネ(30)は、最大で5.5mmの外径を有し、最小で0.3mmの内径を有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の外科用器具。
【請求項9】
前記中空バネ(30)の外径をDaとし、内径をDiとしたとき、以下の式を満たすことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の外科用器具。
Da/Di≦18.33(Diは0mm超であり、Daは5.5mm以下)
【請求項10】
前記作動ロッド(25)内部に固定された少なくとも1つ、好ましくは2つの電気配線またはケーブル(33、34)を有し、
前記ケーブル(33、34)は、前記作動ロッド(25)の先端部から突出し、前記中空バネ(30)内にグライドしうるように(in a gliding manner)挿入され、前記エフェクタ(3)(特に前記外科用ツール)に連結し、前記エフェクタ(3)を機械的に作動し、および/または少なくとも局所的に加熱するために電流を供給することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の外科用器具。
【請求項11】
前記中空バネ(30)の内部に挿入された好ましくは樹脂からなるサポートチューブを有し、前記ケーブル(33、34)は、グライドしうるように前記サポートチューブに支持されることを特徴とする、請求項10に記載の外科用器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−224363(P2011−224363A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−85402(P2011−85402)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(500503115)チュービンゲン サイエンティフィック メディカル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【Fターム(参考)】