説明

可動導電性高分子樹脂体およびその製造方法

【課題】吸着性樹脂体の表面粗さを制御することにより、従来の導電性高分子アクチュエータに対して、新たな機能として、通常の雰囲気場で駆動する可動導電性高分子樹脂体その製造方法を得る。
【解決手段】水分の吸収・放出作用により可動する導電性高分子樹脂体の対抗する2つの表面おいて、平均表面粗さが異なる可動導電性高分子樹脂体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着性樹脂体の製造方法、およびそれにより得られる吸着性樹脂体に関する。詳細には、水の吸脱着による膨潤の差で変位する吸着性樹脂体、及びその製造方法に関する。さらに詳細には、例えばモーターや油圧式、空気圧式アクチュエータのように、電気や他の入力エネルギーを機械的エネルギーに変換して駆動することのできる成分を含んだ可動導電性高分子樹脂体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的に用いられている機械式の駆動源として、モーター、油圧・空気圧式アクチュエータなどがあるが、これらは概ね金属からなるものが多く、質量、スペースを大きくとり、また必要な動力源としても多大なエネルギーを必要とするものが多い。
【0003】
従来用いられている金属製のものとは異なり、刺激に応答するピロール系高分子を用いた材料の通電による水の吸脱着による変形を利用したアクチュエータが検討されている(例えば、特許文献1など参照)。
【特許文献1】特開平11−159443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水の吸脱着を基本とした変形であるので、そのままでは大きな変形は期待できなかった。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みて、吸着性樹脂体の表面粗さを制御することにより、従来の導電性高分子アクチュエータに対して、新たな機能として、通常の雰囲気場で駆動する可動導電性高分子樹脂体、及びその製造方法を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水分の吸収・放出作用により可動する導電性高分子樹脂体の対抗する2つの表面おいて、平均表面粗さが異なることを特徴とする可動導電性高分子樹脂体、に関する。
【0007】
また、本発明は、算術平均粗さRaを制御した基材上に、導電性高分子樹脂を流延塗布することを特徴とする可動導電性高分子樹脂体の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、可動導電性高分子樹脂体が、外部刺激としての湿度や揮発性ガスの変化等に対し、任意の形状に変形でき、かつ、変形の程度を改良することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(吸着性樹脂体、及び可動導電性高分子樹脂体について)
本発明の吸着性樹脂体は、高分子樹脂体の短軸方向をx、長軸方向をy、断面に垂直な方向をzとしたときx−y面、x−z面、y−z面の中で、最も面積大なる2面において、2面の表面粗さが異なることを特徴としている。ここで、「吸着」とは気相中の物質が、その相と、それに接する固相との界面付近で、相内部とは異なる濃度を保っている現象をいう。前記吸着性樹脂体とは、例えばフィルム状、板状、繊維状などを指す。なお、本発明におけるメカニズムは明確ではないが、化学結合力による化学的吸着と、ファン・デル・ワールス力などの物理的な力による物理的吸着の両者を含んでいると考える。これにより、吸着性樹脂体が、外部刺激としての湿度や揮発性ガスの変化等に対し、挙動することができる。
【0010】
前記吸着性樹脂体は、導電性高分子樹脂体であることを特徴とする。これにより、吸着性樹脂体が、外部刺激としての湿度や揮発性ガスの変化等に対し、任意の形状、かつ変形を発現することができる。
【0011】
水分の吸収・放出作用により可動する導電性高分子樹脂体において、x−y面、x−z面、y−z面の中で、最も面積大なる2面において、一方の面1の算術平均粗さをRa1、他方の面2の算術平均粗さをRa2としたとき、Ra1とRa2が異なることを特徴とする。吸着性樹脂体の一例として、導電性高分子樹脂体を取り上げて説明するが、特にこれに限定されるものではない。
【0012】
すなわち、本発明の可動導電性高分子樹脂体は、水分の吸収・放出作用により可動性を有する導電性高分子樹脂体の対抗する2つ面の表面おいて、平均表面粗さが異なることを特徴とする。
【0013】
本発明の内容について図に基づき具体的に説明する。
【0014】
図1はPEDOT/PSS(導電性高分子樹脂体)のRa1とRa2との関係を示す。可動導電性高分子樹脂体1を製造する際に、空気などの雰囲気と接する面の算術平均粗さをRa1、他方、基材3と接するその他の面の算術平均粗さをRa2と称する。ここで、「算術平均粗さ」は、JIS B 0601(1994)に規定されており、具体的には、平均線から絶対値偏差の平均値を計算したものである。この様な方法で得られた可動導電性高分子樹脂体を、細片とする。所定の雰囲気下で、図2に示されるように、可動導電性高分子樹脂体1の細片を設置し、例えば、水蒸気を導入してその雰囲気の湿度を変化させると、該樹脂体1が大きく湾曲して変位するものがある(図3)。ここで、強制的に、該樹脂体の片面にのみに湿度差を与えるのではなく、両面に与える。なお、変位の方向は、説明のために記載したものであり、限定するものではない。
【0015】
この結果をまとめたものが図4で、Ra2と水蒸気吸着量の関係を示している。図4では、Ra1の値はほぼ一定値であることをから、Ra2を横軸とした。図4から、表面粗さRa2の値が小さい場合には吸着量が少なく、その後表面粗さの増加に伴って吸着量も増加するが、Ra2がある表面粗さで最大となり、その後は逆に吸着量は小さくなる。このように、水蒸気吸着量とRa2の関係には最大値があることがわかる。
【0016】
しかしながら、Ra2の大小に基づいて、なぜ吸着量に差異が生じるのかは現時点では必ずしも明らかではないが、概ね次ぎのように考えられる。該PEDOT/PSS樹脂体の表面粗さが小さい場合は、見かけ上該表面は鏡面に近い状態であり、水蒸気の吸着サイトと考えている極性基(スルホン酸基)が表面に露出する確率が小さく、それ故水蒸気を吸着しづらい。一方、表面粗さが大きい場合は、該極性基がランダムな配置となる確率が大きくなるため、この場合にも水蒸気を吸着しづらくすると考えられる。なお、表面粗さが所定の範囲では(最適値、及びその近傍)、該極性基が表面に露出する確率が大きくなり、水蒸気を取り込み易い方向に配向する傾向が強くなるため、吸着量も大きくなると考えられる。
【0017】
次に、横軸を|Ra1−Ra2|とし、縦軸を変位割合(L/L)として図5のグラフを得た。図5において、Ra1とRa2との差が小さいときには変位割合も小さいが、その後、その差が大きくなるに従って変位割合も大きくなり、あるところで変位割合は最大になり、その後、変位割合が小さくなる。この場合にも、最大値を有する。
【0018】
上記の結果から、変位割合は、該樹脂体の両面の水蒸気吸着量の差によることが示唆される。図4も、図5と同様に、横軸を|Ra1−Ra2|とすることができる。
【0019】
変位量または変位割合は、該PEDOT/PSS樹脂体の両面の水蒸気の吸着量の相違によって起こるものであり、該吸着量の相違は、該PEDOT/PSS樹脂体の表面粗さに起因すると考えることができる。したがって、該PEDOT/PSS樹脂体の表面粗さを調節することによって、水蒸気の吸着量を制御できる。
【0020】
可動導電性高分子樹脂体の対向する2面の平均表面粗さが異なることにより、吸着性樹脂体が、外部刺激としての湿度や揮発性ガスの変化等に対し、任意の形状、かつ大きな変形を発現することができる。
【0021】
さらに、本発明者らは、算術平均粗さの差|Ra1−Ra2|を3nm以上とすることにより、変位を制御できることを見出した。|Ra1−Ra2|は3nm以上が好ましく、3nm未満では変位がみられない虞がある。これにより、具体的な表面粗さの差を規定すると共に、積極的に水分や揮発性ガス等のガスを吸収・放出できる。また、|Ra1−Ra2|は15nm以上、25nm以下、かつ、Ra1は1nm以上、50nm以下が好ましい。この範囲内で、表面粗さの差により、変位を制御することができると共に、最適値をとることができる。これにより、具体的な表面粗さの差を規定すると共に、より一層積極的に水分や揮発性ガス等のガスを吸収・放出できる。
【0022】
前記可動導電性高分子樹脂体は、フィルム体とすることが好ましい。これにより、可動導電性高分子樹脂体が、外部刺激の下でより任意に可動できるようになる。
【0023】
前記可動導電性高分子樹脂体は、水を主成分とし、導電性共役系高分子、界面活性剤及び/又はアルコールからなる溶液により形成された可動導電性高分子樹脂体であることが好ましい。これにより、容易に可動導電性高分子樹脂体を作製することができる。
【0024】
(自立型導電性高分子樹脂体)
自立型導電性高分子樹脂体とは、自立した樹脂体(フィルム、バルク、繊維状など)であり、可溶性のある塗布液をスピンコートや、グラビヤ印刷や、キャスティングなどで薄膜を作成して基盤から剥がしたり、金型や木枠に流し込んで成型したりしてもよい。繊維状の樹脂体を製造する場合、溶融樹脂を成形させることが一般的であり、その場合、口金内壁の対向面上の表面粗さを変化させることにより、対向する二面の表面粗さの異なった繊維を作製することができる。なお、断面が真円の繊維状の樹脂体の場合でも、口金内壁の対向面の表面粗さを帰ることにより、表面粗さの異なった繊維を作製することができる。ここで、「自立型」とは、導電性高分子樹脂体が、機能をそのまま発揮できることをいう。
【0025】
具体的な自立型導電性高分子樹脂体としては、その扱い易さからチオフェン系高分子のポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)にポリ4−スチレンサルフォン酸(PSS)をドープしたPEDOT/PSS、ポリアニリン、ポリピロールなどが挙げられる。その厚さは、10μm以上が強度の面から好ましく、一方その変位量を大きくとることから100μm以下が好ましい。15〜50μmの範囲とすることが、スムーズな挙動という観点から好ましい。
【0026】
自立型導電性高分子樹脂体を用いることにより、可動導電性高分子樹脂体が外部刺激の下で、ある形状で任意に可動できるようになる。
【0027】
(吸着性樹脂体の製造方法)
本発明の可動導電性高分子樹脂体の製造方法は、算術平均粗さRaを制御した基材上に、導電性高分子樹脂を流延塗布することを特徴とする。これにより、容易に表裏で算術平均粗さを制御した、可動導電性高分子樹脂体を安定に得ることができる。
【0028】
一例として、キャスティングフィルムの作製方法を記載するが、特にこれに限定されるものではない。
【0029】
本発明に係る可動導電性高分子樹脂体の製造方法は、次の方法で得られる。たとえば、実験室的な方法では、導電性高分子、界面活性剤および/またはアルコールを含む混合溶液を、テフロン製のシャーレや、ガラス板等にテフロンシートを貼った基材上や、シリコンウエハー上でキャスティングフィルムを作製することにより得られる。このとき用いるテフロンシャーレやテフロンシートは、様々な表面粗さのものを用いることにより、積極的に基材側の算術平均粗さを制御することができる。また、各種エッチング法や、落砂法によっても、積極的に基材の表面粗さを調節することが可能である。用いる混合溶液は、導電性高分子溶液に、添加物として界面活性剤および/またはアルコールを注ぎ入れて添加し、約5〜15分撹拌した溶液を用いる。
【0030】
本発明で用いる導電性高分子、界面活性剤および/またはアルコールを含む混合溶液は、前記溶質を例えば水あるいは有機溶剤などに溶解したものである。
【0031】
この溶液をキャスティングフィルムの作製に用いることにより、フィルム化された導電性高分子樹脂体は3次元的なネットワークを形成し、従来の添加物を用いないフィルムに比較して、非常に良好な導電性を示す可動導電性高分子樹脂体が安定して得られる。また、導電性が向上することにより、アクチュエート性能も合わせて大きく向上する。
【0032】
本発明に用いる混合溶液中の導電性高分子は、導電性を示す高分子であれば特に制限されることはない。例えば、アセチレン系、複素5員環系(モノマーとして、ピロールの他、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−ドデシルピロールなどの3−アルキルピロール;3,4−ジメチルピロール、3−メチル−4−ドデシルピロールなどの3,4−ジアルキルピロール;N−メチルピロール、N−ドデシルピロールなどのN−アルキルピロール;N−メチル−3−メチルピロール、N−エチル−3−ドデシルピロールなどのN−アルキル−3−アルキルピロール;3−カルボキシピロールなどを重合して得られたピロール系高分子、チオフェン系高分子、イソチアナフテン系高分子など)、フェニレン系、アニリン系の各導電性高分子やこれらの共重合体、誘導体から選択された少なくとも1つが挙げられる。
【0033】
なかでも、安定性や信頼性が高く、入手も容易であることから、ピロール系高分子またはチオフェン系高分子が好適に用いられる。
【0034】
さらに、導電性高分子に、ドーパントを加えることによってその導電性に劇的な効果を与える。ここで用いられるドーパントとしては、塩化物イオン、臭化物イオンなどのハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロ硼酸イオン、六フッ化ヒ酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、チオシアン酸イオン、六フッ化ケイ酸イオン、燐酸イオン、フェニル燐酸イオン、六フッ化燐酸イオンなどの燐酸系イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トシレートイオン、エチルベンゼンスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオンなどのアルキルベンゼンスルホン酸イオン、メチルスルホン酸イオン、エチルスルホン酸イオンなどのアルキルスルホン酸イオン、ポリアクリル酸イオン、ポリビニルスルホン酸イオン、ポリスチレンスルホン酸イオン、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)イオンなどの高分子イオンのうち、少なくとも一種のイオンが使用される。なかでも、高い導電性を容易に調整できることから、ポリスチレンスルホン酸イオンが好ましい。
【0035】
前記ドーパントの添加量は、導電性に効果を与える量であれば特に制限はされないが、通常、導電性高分子100質量部に対し、3〜50質量部、好ましくは10〜30質量部の範囲である。
【0036】
これらの材料のうち、特に導電性高分子樹脂体として得やすい材料としては、PEDOT/PSS(Bayer社、Baytron P(登録))、ポリ(イソチアナルテンスルホン酸)、ポリ(チオフェンアルカンスルホン酸)、ポリ(ピロールアルカンスルホン酸)、ポリ(アニリンスルホン酸)、ポリ(カルバゾール−N−アルカンスルホン酸)、ポリ(フェニレン−オキシアルカンスルホン酸)などの自己ドープ型導電性高分子樹脂体が挙げられる。
【0037】
自己ドープ型導電性高分子樹脂体を用いることにより、水分吸脱着性に優れた可動導電性高分子樹脂体を作製することができる。
【0038】
前記界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸またはそのエステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸またはそのエステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸またはその塩、アルキルナフタレンスルホン酸またはその塩、アルキルスルホコハク酸またはその塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸またはその塩、ナフタレンスルホン酸またはそのホルマリン縮合物及びこれらの誘導体から選択された少なくとも一つが挙げられる。なかでも、化学的安定性から、アルキルベンゼンスルホン酸が好ましい。
【0039】
本発明で用いる界面活性剤の種類は、特に限定されなく、公知のカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤あるいはこれらの2種以上の混合物から選択された少なくとも1つの界面活性剤を用いることができる。
【0040】
前記カチオン性界面活性剤としては、例えば第4級アルキルアンモニウム塩、ハロゲン化アルキルピリジニウムなどを挙げることができる。
【0041】
前記アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸またはそのエステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸またはその塩、アルキルベンゼンスルホン酸またはその塩、アルキルナフタレンスルホン酸またはその塩、アルキルスルホコハク酸またはその塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸またはその塩、脂肪酸またはその塩、ナフタレンスルホン酸またはそのホルマリン縮合物などを挙げることができる。
【0042】
前記両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン、アミンオキサイド、加水分解コラ−ゲンなどを挙げることができる。
【0043】
前記非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、あるいはこれらの誘導体などを挙げることができる。
【0044】
これらの界面活性剤の中でも、長鎖アルキルベンゼンスルホン酸が、可動導電性高分子樹脂体中の3次元的なネットワーク形成が向上するため特に好ましく使用できる。
【0045】
本発明で用いるアルコールは、特に限定されなく、公知の1価アルコールおよび多価アルコールあるいはこれらの2種以上の混合物から選択された少なくとも1つのアルコールを用いることができる。
【0046】
前記1価アルコールとしては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどの分枝状あるいは直鎖状アルコール、環状アルコール、ポリマー状アルコールあるいはこれらの2種以上の混合物などを挙げることができる。
【0047】
前記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、グリセリン、エリスリトール、キシリトール、ソルビト−ルなどの鎖状多価アルコール、グルコース、スクロールなどの環状多価アルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどのポリマー状多価アルコールあるいはこれらの2種以上の混合物などを挙げることができる。
【0048】
本発明において界面活性剤とアルコールは、単独で使用することができるが、両者を任意の割合で組み合わせて使用することもできる。ここで、両者の比率は、特に限定されない。
【0049】
これらのアルコールの中でも、特に炭素数3以上もしくは、多価アルコールであることが好ましい。その例としては、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコールが好ましく使用できる。なかでも多価アルコールであるエチレングリコールやポリエチレングリコールは次の理由から好適である。エチレングリコールは、低濃度でも、可動導電性高分子樹脂体の3次元的なネットワークを形成させる効果があり、また、揮発性がないため、特に好ましく使用できる。
【0050】
また、ポリエチレングリコールの分子量は、特に限定されないが、分子量400のものより分子量1000のものの方が、添加量が少なくても3次元的なネットワークを形成能が高いので好ましい。
【0051】
なお、これらの添加物は、本製造方法中で樹脂体中に留まることで、導電性能を向上させるものではなく、樹脂体中に残留すると、逆に導電性能の悪化を招く。
【0052】
この意味からも、上記製造方法で得られた樹脂体を脱溶媒液中から引上げ、真空乾燥を行なうことは、これらの添加物を可動導電性高分子樹脂体中から除去するために好ましく、この真空乾燥工程により、導電性能、アクチュエート性能は、より向上する。
【0053】
本発明の可動導電性高分子樹脂体中には、この製造方法で用いる添加物の痕跡を熱重量−質量分析(TG−MS)により、確認することができる。
【0054】
例えば、エチレングリコールを用いた場合には、100〜250℃付近にエチレングリコール(沸点198℃)の蒸発による質量減少が確認される。
【0055】
次に、これらの界面活性剤および/またはアルコールは、上記混合溶液中の組成で、導電性高分子樹脂体に対し質量比で、60:1〜1:60であることが好ましい。混合溶液の組成をこの範囲内とすることで、抵抗を下げることができる。添加物の量がこの範囲より小さくなると、もはや3次元ネットワークを形成するための分子鎖拡張効果は得られない虞がある。また、この範囲より大きくなると、今度は混合溶液のゲル化が起こり始める虞がある。
【0056】
本発明の製造方法により、容易に可動導電性高分子樹脂体を作製することができる。
【0057】
(電圧かけることによる変位のさせかた)
本発明の可動導電性高分子樹脂体は、さらに、可動導電性高分子樹脂体に少なくとも一対の電極を設け、その一対の電極間への電圧のON/OFFにより、水分の放出・吸収を制御することを特徴とする。これにより、通電して発生するジュール熱により強制的に水分や揮発性ガス等のガスを吸収・放出することができ、電源のON/OFFで任意に変形させることができる。
【0058】
本発明では、湿度変化を与えることにより変位させられる。図6に示すように、クリップ5に取り付けられた可動導電性高分子樹脂体1の細片に一対の電極7a、7bを設け、銅線9a,9bを経由して電圧をかけることによっても、前記樹脂体に変位を与えることができる。電圧をかけることにより、ジュール熱が発生し、水分が蒸発することにより変位が得られる。
【0059】
(車両用部材)
本発明の可動導電性高分子樹脂体は、自動車などの車両用部材として用いることが好ましい。これにより、自動車などの内装材に適用可能な導電性高分子アクチュエータや、センサーなど幅広い用途へ適用できる。
【0060】
本発明の可動導電性高分子樹脂体を用いたセンサーやアクチュエータのように、ここで得られた該樹脂体を自動車に用いられる繊維材料と置換することで、自動車から乗員へ信号を伝達する手段や、繊維の動きにより乗り心地を改善する手段に用いるのは好適である。
【0061】
アクチュエート機能を中心に用いることで、シート、ステアリング、シフトノブ、内装壁面などから、運転手や乗員への情報伝達手段として用いることもできる。図7に示すように、自動車のステアリングに巻きつけて用いることができる。
【0062】
また、シートに用いた例では、座面圧測定により、乗員の姿勢や体重などを検知し、アクチュエータとしてフィードバックをかけることで乗り心地を改善したり、エアバックなどの作動位置を設定したりすることに用いることができる。図8に示すように、自動車のシート座面に用いることができる。
【実施例】
【0063】
以下に、本発明で用いた測定方法について説明する。
【0064】
(算術平均粗さの測定)
算術平均粗さは、AFM(原子間力顕微鏡)により測定した。
【0065】
・装置名:Digital Instruments製 NanoscopeIIIa+D3100
・前処理条件:試料を支持台に固定し、測定を行った
・測定領域:2μm×2μm
(変位量の測定方法)
本発明では、次に示す方法で変位量を測定した。任意の厚さのPEDOT/PSS樹脂体を、長さ15mm、幅10mmに切り出し、図2に示すように、該樹脂体1上端5mmを鉄製のクリップ5にチャックし、吊り下げて固定した。この状態で、湿度が5%RH以下のグローブボックス内に1時間静置し、その後グローブボックスから出して任意のその場雰囲気の湿度にさらし、その時の変位の様子をビデオカメラで撮影した。撮影後にその画像を解析し(windows ムービーメーカーを用いて)、変位の経時変化を観察した。変位量は、図3に示すように、水蒸気の吸着前の長さをLとし、水蒸気の吸着後に湾曲したときの長さをL(変位量)として示す。
【0066】
この時の変位は、従来技術のように樹脂体の両面に強制的に湿度差を与えて変位させるものではなく、樹脂体の両面の算術平均粗さ差を制御することにより、その場雰囲気で変位させられることを特徴としている。
【0067】
(水蒸気吸着量の測定方法)
変位量の測定方法で用いたサンプルを、クリップから外してグローブボックス内に1時間静置した後、グローブボックスから取り出して該サンプルの質量を測定し、任意のその場雰囲気の湿度にさらし、吸着後の質量を精密天秤で秤量した。そのデータをパソコンに取り込み、吸着量を計算した。
【0068】
以下に、本発明の実施例を示すが、特にこれに限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
導電性高分子樹脂体成分としてPEDOT/PSS(スタルク製Baytron P(登録)、溶質量1.3%質量部)を17g、添加物としてエチレングリコール(関東化学製:製品番号14114−01)1.89gをサンプル瓶に取った。該サンプル瓶をスターラー上で10分間撹拌して混合溶液を得た。混合溶液を直径8cmのテフロンシャーレ(算術平均粗さ:6.7nm)に取り、シャーレの底面に均一に広げ、60℃のオーブンで5時間乾燥した後、160℃の温度で1時間真空乾燥し、キャストフィルムを得た。乾燥後、シャーレの底面に付着したキャストフィルムをピンセットで剥がしとり、直径8cmの自立型の可動導電性高分子樹脂体を得た。
得られた自立型の可動導電性高分子樹脂体の膜厚を膜厚計で測定し、また、その表面の算術平均粗さ(Ra1、Ra2)をAFMで測定した。
得られたフィルムを、前記変位量の測定方法により測定した(その場雰囲気は50%RH、20℃)。次いで、得られたフィルムを前記水分吸収量の測定方法により測定した(その場雰囲気は50%RH)。
測定した結果(Ra1、Ra2、変位量、水分吸収量)を表1に示す。
【0070】
(実施例2)
導電性高分子樹脂体成分としてPEDOT/PSS(スタルク製Baytron P(登録)、溶質量1.3%質量部)を32g、添加物としてエチレングリコール(関東化学製:製品番号14114−01)3.56gをサンプル瓶に取った。該サンプル瓶をスターラー上で10分間撹拌して混合溶液を得た。混合溶液を攪拌しながら80℃で1時間程度加熱して、溶液の粘度をゲルにならない程度に高めた。基材としてシリコンウエハー(算術平均粗さ:1nm)を用いた。その粘度の高い溶液を基材上に移し、テフロンシートで覆ったガラス板を被せて薄くのばした。この時、スペーサーを同時に挟んで厚さを調節し、2時間程度60℃で加熱し、上から被せたガラス板をはずし、次いで60℃で2時間程度風乾することでゲル状のフィルムを得た。更に、160℃で1時間真空乾燥し、基材から剥がすことで、およそ100mm角のキャストフィルムを得た。
得られたフィルムを実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0071】
(実施例3)
基材としてテフロン基板(算術平均粗さ:18nm)を用いた以外は、実施例2と同様の操作を行い、フィルムを得て同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0072】
(実施例4)
基材としてテフロンシート(算術平均粗さ:36nm)を用いた以外は、実施例2と同様の操作を行い、フィルムを得て同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0073】
(実施例5)
テフロンシートで覆ったガラス板を被せる時のスペーサーの厚さを変えた以外は、実施例2と同様の操作を行い、フィルムを得て同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0074】
(実施例6)
変位量と、吸着量を評価するときのその場雰囲気が70%(20℃)であった以外は、実施例2と同様の操作を行い、フィルムを得て同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0075】
(実施例7)
変位量と、吸着量を評価するときのその場雰囲気が20%(20℃)であった以外は、実施例2と同様の操作を行い、フィルムを得て同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0076】
(実施例8)
導電性高分子樹脂体成分としてポリアニリン(日東電工製、高導電率タイプ、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)分散タイプ)を20g取り、直径8cmのシャーレ(表面粗さ10nm)の底面に均一に広げた。そのシャーレを60℃のオーブンで10時間乾燥した後、100℃の温度で1時間真空乾燥し、キャストフィルムを得た。乾燥後、シャーレの底面に付着したキャストフィルムをピンセットで剥がしとり、直径8cmの自立型の可動導電性高分子樹脂体を得た。
得られたフィルムは請求項1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0077】
(比較例1)
基材としてテフロンシャーレ(算術平均粗さ:5nm)を用いた以外は、実施例2と同様の操作を行い、フィルムを得て同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0078】
(比較例2)
基材としてテフロンシャーレ(算術平均粗さ:5nm)を用いた以外は、実施例8と同様の操作を行い、フィルムを得て同様の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】Ra1とRa2の関係を示す図面。
【図2】変位量の測定方法(変位前)を現す図面。
【図3】変位量の測定方法(変位後)を現す図面。
【図4】Ra2と水分吸収量の関係の一例を示す図面。
【図5】|Ra1−Ra2|と変位量の関係の一例を示す図面。
【図6】一対の電極を設け、電圧をかけることによる変位のさせ方を説明する図面。
【図7】ステアリングに本発明の可動導電性高分子樹脂体を設置した概略図。
【図8】シートに本発明の可動導電性高分子樹脂体を設置した概略図。
【符号の説明】
【0081】
1 可動導電性高分子樹脂体、
3 基材、
5 クリップ、
7 電極、
9 銅線、
11 ステアリング、
13 シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分の吸収・放出作用により可動する導電性高分子樹脂体の対抗する2つの表面おいて、平均表面粗さが異なることを特徴とする可動導電性高分子樹脂体。
【請求項2】
一方の面1の算術平均粗さをRa1、他方の面2の算術平均粗さをRa2としたとき、両者の差|Ra1−Ra2|が、3nm≦|Ra1−Ra2|であることを特徴とする請求項1に記載の可動導電性高分子樹脂体。
【請求項3】
一方の面1の算術平均粗さをRa1、他方の面2の算術平均粗さをRa2としたとき、両者の差|Ra1−Ra2|が、15nm≦|Ra1−Ra2|≦25nmであり、かつ、1nm≦Ra1≦50nmであることを特徴とする請求項1に記載の可動導電性高分子樹脂体。
【請求項4】
前記導電性高分子樹脂体は、自立型導電性高分子樹脂体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の可動導電性高分子樹脂体。
【請求項5】
前記可動導電性高分子樹脂体は、フィルム体であることを特徴とする請求項4記載の可動導電性高分子樹脂体。
【請求項6】
前記導電性高分子樹脂体は、自己ドープ型導電性高分子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の可動導電性高分子樹脂体。
【請求項7】
前記自己ドープ型導電性高分子は、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルフォン酸(PSS)とからなることを特徴とする請求項6に記載の可動導電性高分子樹脂体。
【請求項8】
前記可動導電性高分子樹脂体は、水を主成分とし、導電性共役系高分子、界面活性剤及び/又はアルコールからなる溶液により形成されてなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の可動導電性高分子樹脂体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の可動導電性高分子樹脂体に、少なくとも一対の電極を設け、該一対の電極間への電圧のON/OFFにより、水分の放出・吸収を制御することを特徴とする可動導電性高分子樹脂体。
【請求項10】
算術平均粗さRaを制御した基材上に、導電性高分子樹脂を流延塗布することを特徴とする可動導電性高分子樹脂体の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の可動導電性高分子樹脂体を用いた車両用部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−11103(P2009−11103A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171219(P2007−171219)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
2.WINDOWS
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】