説明

可塑剤に対する結合能を有する蛋白質

【課題】可塑剤の測定・定量や濃縮に際し、感度の良い、交叉反応性の少ない、妨害物質の影響を受けにくい、溶媒による影響を受けにくい等の有用な性質を付加した可塑剤に対する結合能を有する蛋白質の提供。
【解決手段】特定のアミノ酸配列、若しくはこれと実質的に同一のアミノ酸配列を有する抗可塑剤抗体、該抗体の遺伝子、該可塑剤に対する結合能を有するタンパク質の製造法、可塑剤の測定又は定量方法、可塑剤のの濃縮法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗可塑剤抗体、該抗体の遺伝子、該可塑剤に対する結合能を有する蛋白質の製造法、可塑剤の測定又は定量方法、可塑剤の濃縮方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境中、例えば河川水又は下水中に存在する可塑剤等の環境汚染物質による環境汚染が問題となっている。可塑剤は、内分泌攪乱作用を有する化学物質(いわゆる環境ホルモン)として、環境調査やその作用の有無について調査・研究が進められている。したがって、環境中に微量に存在する環境汚染物質やその分解物を測定、分析して、その結果を環境保全に役立たせることが必要となる。このような測定、分析法として、免疫学的測定法が注目されており、幾つかの優れた方法が知られている(特許文献1および2を参照)。
【特許文献1】国際公開第99/43799号パンフレット
【特許文献2】特開2001−41958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、可塑剤に対する抗体の遺伝子を取得し、元の抗体が持つ抗原に対する親和性、抗原結合能、交叉反応性、抗原抗体反応妨害物質耐性、酵素発色反応妨害物質耐性、溶媒耐性等の種々の性質を遺伝子操作の改変技術により作出することにより得られた改変蛋白質に、可塑剤の測定・定量や濃縮に際し、感度の良い、交叉反応性の少ない、妨害物質の影響を受けにくい、溶媒による影響を受けにくい等の有用な性質を付加した可塑剤に対する結合能を有する蛋白質を作製し利用しようとするものである。
【0004】
ここに、可塑剤としては、例えば、
式(1):
【0005】
【化1】

【0006】
[式中、Rはo−フェニレン又はテトラメチレン、R及びRは同一又は異なって、各々、H、炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖(含sec−、tert−、iso−)のアルキル、置換されていてもよいベンジル又は置換されていてもよいシクロヘキシルを意味する。]で表される可塑剤(PP)[例、BBP(フタル酸ブチルベンジル)、DBP(フタル酸ジブチル)、DCHP(フタル酸ジシクロヘキシル)、DEP(フタル酸ジエチル)、DEHP(フタル酸ジ(2−エチルヘキシル))、DEHA(アジピン酸ジエチルヘキシル)、DHP(フタル酸ジヘキシル)、DPP(フタル酸ジ−n−ペンチル)、DPrP(フタル酸ジプロピル)、DMP(フタル酸ジメチル)、DnOP(フタル酸ジノルマルオクチル)、DINP(フタル酸ジイソノニル)、DNP(フタル酸ジノニル)、DIDP(フタル酸ジイソデシル)、DOA(アジピン酸ジオクチル)、DINA(アジピン酸ジイソノニル)など]が挙げられる。
【0007】
「炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキル」としては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、2−エチルブチル、ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、イソノニル、デシル、イソデシルなどが挙げられる。上記「炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキル」の「直鎖又は分岐鎖のアルキル」としては、なかでも炭素数1〜12のアルキルが好ましく、炭素数6〜10のアルキルがより好ましい。
【0008】
別の局面では、「炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキル」は、炭素数1〜20の置換されていてもよいアルキルでありうる。上記「炭素数1〜20の置換されていてもよいアルキル」の「アルキル」としては、例えば、上記「炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキル」の「アルキル」と同様のものが挙げられるが、なかでも炭素数1〜12のアルキルが好ましく、炭素数4〜8のアルキルがより好ましい。
【0009】
「炭素数1〜20の置換されていてもよいアルキル」、「置換されていてもよいシクロヘキシル」及び「置換されていてもよいベンジル」の置換基としては、例えば、炭素数1〜8のアルキル(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、2−エチルブチルなど)、炭素数2〜8のアルケニル(例えば、エテニル、1−プロペニル、2−プロペニル、1−メチルエテニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、1−メチル−1−プロペニル、1−メチル−2−プロペニル、2−メチル−1−プロペニルなど)、炭素数2〜8のアルキニル(例えば、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、3−ブチニル、1−メチル−2−プロピニルなど)などが挙げられる。
【0010】
上記「炭素数1〜8のアルキル」としては、なかでも炭素数1〜6のアルキルが好ましく、炭素数1〜4のアルキルがより好ましい。上記「炭素数2〜8のアルケニル」としては、なかでも炭素数2〜6のアルケニルが好ましく、炭素数2〜4のアルケニルがより好ましい。上記「炭素数2〜8のアルキニル」としては、なかでも炭素数2〜6のアルキニルが好ましく、炭素数2〜4のアルキニルがより好ましい。なお、「炭素数1〜20の置換されていてもよいアルキル」、「置換されていてもよいシクロヘキシル」、「置換されていてもよいベンジル」の置換基の数は、特に制限されないが、例えば1〜3個、好ましくは1〜2個、より好ましくは1個でありうる。
【0011】
また、可塑剤の他の例として、DOZ(アゼライン酸ジオクチル)、ESBO(エポキシ化大豆油)、TOTM(トリメット酸トリオクチル)、DBS(セバシン酸ジブチル)、DOS(セバシン酸ジオクチル)、TCP(リン酸トリクレシル)、ATBC(アセチルクエン酸トリブチル)なども挙げることができる。また、可塑剤には、本発明の蛋白質又は複合体が結合する限りにおいて、上記した可塑剤の分解物も含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、親和性を向上させることにより感度良く測定可能等の有用な性質を付加した、抗可塑剤に対する結合能を有する蛋白質の取得につき鋭意検討したところ、その遺伝子若しくは改変遺伝子を含有する形質転換体を作製し、可塑剤に対する結合能を有する蛋白質を効率よく産生させることができることを見出し、さらに研究した結果、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1) 以下(a)又は(b)の蛋白質又はその塩:
(a)配列番号2で表わされるアミノ酸配列、若しくはこれと実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質;
(b)配列番号4で表わされるアミノ酸配列、若しくはこれと実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質、
(2) 以下(a1)〜(a2)、(b1)〜(b2)のいずれかの蛋白質又はその塩:
(a1)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ配列番号4、28又は32で表されるアミノ酸配列と複合体を形成したときに可塑剤に対して結合する蛋白質;
(a2)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ配列番号4、28又は32で表されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する蛋白質と複合体を形成したときに可塑剤に対して結合する蛋白質;
(b1)配列番号4で表されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ配列番号2、26又は30で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質と複合体を形成したときに可塑剤に対して結合する蛋白質;
(b2)配列番号4で表されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ配列番号2、26又は30で表されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する蛋白質と複合体を形成したときに可塑剤に対して結合する蛋白質、
(3) 可塑剤が、式(1):
【0014】
【化2】

【0015】
[式中、R1はo−フェニレン、R2及びR3は同一又は異なって、各々、H、炭素数1〜20の直鎖又は分枝鎖アルキル、置換されていてもよいベンジル又は置換されていてもよいシクロヘキシルを意味する]で表される可塑剤である、前記(2)記載の蛋白質、
(4) 前記(1)〜(3)のいずれか1項記載の蛋白質を遺伝子組換えする方法、
(5) 前記(4)記載の方法により得られた蛋白質又はその塩、
(6) 前記(1)〜(3)及び(5)のいずれか1項記載の蛋白質の部分ペプチド又はその塩、
(7) 前記(1)〜(3)及び(5)のいずれか1項記載の蛋白質又はその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(8) 前記(7)記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター、
(9) 前記(8)記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体、
(10) 前記(1)〜(3)及び(5)のいずれか1項記載の蛋白質又はその部分ペプチド或いはそれらの塩を産生せしめ、これを採取することを特徴とする、前記(1)〜(3)及び(5)のいずれか1項記載の蛋白質又はその部分ペプチド或いはそれらの塩の製造法、
(11) 以下(a)及び(b)が連結してなる複合体:
(a)配列番号2で表わされるアミノ酸配列、若しくはこれと実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質;
(b)配列番号4で表わされるアミノ酸配列、若しくはこれと実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質、
(12) 前記(11)記載の複合体を使用することを特徴とする、該複合体に結合する可塑剤を同定する方法、
(13) 前記(11)記載の複合体を使用することを特徴とする、可塑剤の測定又は定量方法、
(14) 前記(11)記載の複合体を含む、可塑剤の測定又は定量用キット、
(15) 前記(11)記載の複合体を使用することを特徴とする、可塑剤の濃縮方法、
(16) 前記(11)記載の複合体を含む、可塑剤の濃縮用キット、
を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、配列番号2で表わされるアミノ酸配列で表されるアミノ酸配列、配列番号4で表わされるアミノ酸配列若しくはこれらと実質的に同一のアミノ酸配列を有する(又は、からなる)蛋白質を提供する。
【0017】
配列番号2で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質は、上記(a1)及び(a2)の蛋白質、並びに、(a3)配列番号:2で表されるアミノ酸配列のうち、1以上の特定領域に相当するアミノ酸配列が、可塑剤に対する他の抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列(例えば、配列番号26又は30で表されるアミノ酸配列)に含まれる同じ種類の1以上の特定領域に相当するアミノ酸配列と交換されているアミノ酸配列を有する(又は、からなる)蛋白質、或いはこのアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有する(又は、からなる)蛋白質でありうる。(a3)の蛋白質のアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質としては、例えば、(a3)の蛋白質のアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ配列番号4で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質と複合体を形成したときに可塑剤に対して結合する蛋白質が挙げられる。
【0018】
上記(a3)における特定領域としては、相補性決定領域1、相補性決定領域2、相補性決定領域3(以下、必要に応じてCDR1、CDR2、CDR3と省略)、フレームワーク領域1、フレームワーク領域2、フレームワーク領域3、フレームワーク領域4(以下、必要に応じてFR1、FR2、FR3、FR4と省略)が挙げられる。上記(a3)では、交換の対象となるアミノ酸配列は、好ましくは、同じ種類の特定領域のアミノ酸配列である。また、交換される特定領域の数は、1以上であれば特に限定されないが、例えば1〜3個、好ましくは1〜2個、より好ましくは1個である。アミノ酸配列の交換は、自体公知の方法によって行なうことができる。具体的には、各領域のN、C両末端に対応するプライマーに対し交換する領域に対応した部分を繋いだようなプライマーを設計し、このプライマーを用いて断片をPCRにて増幅した後、改めて交換した組合せでPCRを行なえばよい。
【0019】
配列番号2で表されるアミノ酸配列においてCDR1、CDR2、CDR3、FR1、FR2、FR3、FR4に相当する領域は、具体的には、以下の通りである:
(i)CDR1(配列番号2で表されるアミノ酸配列における31番目から35番目までのアミノ酸残基);
(ii)CDR2(配列番号2で表されるアミノ酸配列における50番目から68番目までのアミノ酸残基);
(iii)CDR3(配列番号2で表されるアミノ酸配列における101番目から111番目までのアミノ酸残基);
(iv)FR1(配列番号2で表されるアミノ酸配列における1番目から30番目までのアミノ酸残基);
(v)FR2(配列番号2で表されるアミノ酸配列における36番目から49番目までのアミノ酸残基);
(vi)FR3(配列番号2で表されるアミノ酸配列における69番目から100番目までのアミノ酸残基);
(vii)FR4(配列番号2で表されるアミノ酸配列における112番目から122番目までのアミノ酸残基)。
【0020】
また、別の実施態様では、上記(a)の蛋白質は、例えば、配列番号2で表されるアミノ酸配列、又は上記(a3)の蛋白質のアミノ酸配列に対して有意な相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ配列番号4で表されるアミノ酸配列に対して有意な相同性を有するアミノ酸配列を有する蛋白質と複合体を形成したときに可塑剤に対して結合する蛋白質でありうる。
【0021】
配列番号4で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質は、上記(b1)及び(b2)の蛋白質、並びに、(b3)配列番号4で表されるアミノ酸配列のうち、1以上の特定領域に相当するアミノ酸配列が、可塑剤に対する他の抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列(例えば、配列番号28又は32で表されるアミノ酸配列)に含まれる同じ種類の1以上の特定領域に相当するアミノ酸配列と交換されているアミノ酸配列を有する(又は、からなる)蛋白質、或いはこのアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有する(又は、からなる)蛋白質でありうる。(b3)の蛋白質のアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質としては、例えば、(b3)の蛋白質のアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質と複合体を形成したときに可塑剤に対して結合する蛋白質が挙げられる。
【0022】
上記(b3)における特定領域としては、CDR1、CDR2、CDR3、FR1、FR2、FR3、FR4が挙げられる。上記(b3)では、交換の対象となるアミノ酸配列は、好ましくは、同じ種類の特定領域のアミノ酸配列である。また、交換される特定領域の数は、1以上であれば特に限定されないが、例えば1〜3個、好ましくは1〜2個、より好ましくは1個である。アミノ酸配列の交換は、自体公知の方法によって行なうことができる。具体的には、各領域のN、C両末端に対応するプライマーに対し交換する領域に対応した部分を繋いだようなプライマーを設計し、このプライマーを用いて断片をPCRにて増幅した後、改めて交換した組合せでPCRを行なえばよい。
【0023】
配列番号4で表されるアミノ酸配列においてCDR1、CDR2、CDR3、FR1、FR2、FR3、FR4に相当する領域は、具体的には、以下の通りである:
(i)CDR1(配列番号4で表されるアミノ酸配列における24番目から34番目までのアミノ酸残基);
(ii)CDR2(配列番号4で表されるアミノ酸配列における50番目から56番目までのアミノ酸残基);
(iii)CDR3(配列番号4で表されるアミノ酸配列における89番目から97番目までのアミノ酸残基);
(iv)FR1(配列番号4で表されるアミノ酸配列における1番目から23番目までのアミノ酸残基);
(v)FR2(配列番号4で表されるアミノ酸配列における35番目から49番目までのアミノ酸残基);
(vi)FR3(配列番号4で表されるアミノ酸配列における57番目から88番目までのアミノ酸残基);
(vii)FR4(配列番号4で表されるアミノ酸配列における98番目から107番目までのアミノ酸残基)。
【0024】
別の実施態様では、上記(b)の蛋白質は、例えば、配列番号4で表されるアミノ酸配列、又は上記(b3)の蛋白質のアミノ酸配列に対して有意な相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して有意な相同性を有するアミノ酸配列を有する蛋白質と複合体を形成したときに可塑剤に対して結合する蛋白質でありうる。
【0025】
本発明において、任意の配列番号Xで表されるアミノ酸配列において欠失、置換若しくは付加されるアミノ酸の数としては、1若しくは2個以上であれば特に限定されないが、例えば1〜80個、好ましくは1〜20個程度、より好ましくは1〜9個程度、さらにより好ましくは1〜5個、最も好ましくは数個(1又は2個)でありうる。
【0026】
本発明において、アミノ酸の置換としては、特定のアミノ酸が他の任意のアミノ酸で置換される限り特に限定されないが、例えば、保存的アミノ酸置換、非保存的アミノ酸置換であってもよい。「保存的アミノ酸置換」とは、特定のアミノ酸を、そのアミノ酸の側鎖と同様の性質の側鎖を有するアミノ酸で置換することをいう。具体的には、保存的アミノ酸置換では、特定のアミノ酸は、そのアミノ酸と同じグループに属する他のアミノ酸により置換される。一方、「非保存的アミノ酸置換」とは、特定のアミノ酸を、そのアミノ酸の側鎖と異なる性質の側鎖を有するアミノ酸で置換することをいう。具体的には、非保存的アミノ酸置換では、特定のアミノ酸は、そのアミノ酸と異なるグループに属する他のアミノ酸により置換される。同様の性質の側鎖を有するアミノ酸のグループは、当該分野で公知である。例えば、このようなアミノ酸のグループとしては、塩基性(即ち、正に荷電している)側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性(即ち、負に荷電している)側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、中性(即ち、荷電していない)側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)が挙げられる。また、中性側鎖を有するアミノ酸は、さらに、極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、及び非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)に分類することもできる。また、他のグループとして、例えば、芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン)、水酸基(アルコール性水酸基、フェノール性水酸基)を含む側鎖を有するアミノ酸(例えば、セリン、トレオニン、チロシン)なども挙げることができる。
【0027】
また、任意の配列番号Xで表されるアミノ酸配列に対して有意な相同性を有するアミノ酸配列としては、任意の配列番号Xで表されるアミノ酸配列に対して、例えば約40%以上、好ましくは約60%以上、より好ましくは約80%以上、さらにより好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列が挙げられる。
【0028】
相同性の程度(%)は、自体公知の方法によって決定することができる。例えば、相同性の程度(%)は、Smith及びWatermanのアルゴリズム(Adv. Appl. Math., 1981, 2, 482-489)を採用しているGapプログラム (Wisconsin Sequence Analysis Package, Version 8 for Unix(登録商標), Genetics Computer Group, University Research Park, Madison WI)を初期設定で使用することによって決定することができる。また、Karlin及びAltschulのアルゴリズム (Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1990, 87:2264-2268, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1993, 90:5873-5877) を採用しているBLASTプログラムを用いてもよい。例えば、蛋白質の相同性を比較する場合、XBLASTプログラムを初期設定で使用することによって、相同性の程度(%)を決定することができる。さらに、Myers及びMiller (CABIOS, 1988, 4:11-17)のアルゴリズムを採用しているALIGNプログラム(version 2.0) (GCG sequence alignment software packageの一部)を用いてもよい。ALIGNプログラムを用いてアミノ酸配列を比較する際の設定としては、例えば、PAM120 weight residue table, gap length penalty = 12, gap penalty = 4 が挙げられる。また、塩基配列の相同性の程度(%)を決定する場合にも同様に、これらのプログラムを用いることができる。
【0029】
「複合体を形成したときに可塑剤に対して結合する」とは、複合体が可塑剤に対して反応性を有することを意味する。可塑剤としては、例えば、上述したものが挙げられる。複合体が可塑剤に対して結合能を有するか否かは、自体公知の方法若しくはそれに準じる方法によって決定することができる。なお、本発明の複合体は、上記可塑剤のいずれかに対する結合能を有すればよい。
【0030】
配列番号2で表されるアミノ酸配列、配列番号4で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質、並びに(a3)、(b3)の蛋白質に1以上のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加を導入することにより、可塑剤に対する結合能や交叉反応性が変化した蛋白質を得ることができる。1以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加される領域は、CDR1、CDR2、CDR3、FR1、FR2、FR3、FR4からなる群より選択される任意の1以上の領域でありうる。
【0031】
本発明の部分ペプチドとしては、上記(a)又は(b)の蛋白質の一部を構成するペプチドであれば特に限定されないが、例えば、上記(a)又は上記(b)の蛋白質のアミノ酸配列において、少なくとも6個以上、好ましくは少なくとも8個以上、より好ましくは少なくとも10個以上、さらにより好ましくは少なくとも12個以上、最も好ましくは少なくとも15個以上の連続するアミノ酸からなるペプチドが用いられる。また、本発明の部分ペプチドとして、上記(a)の蛋白質、又は上記(b)の蛋白質のCDR1、CDR2、CDR3、FR1、FR2、FR3、FR4に相当するアミノ酸配列を有する(又は、からなる)部分ペプチドを用いることもできる。
【0032】
本発明の蛋白質又はその部分ペプチドの塩としては、自体公知の塩、例えば、酸付加塩などを用いることができる。酸付加塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
【0033】
本発明において「複合体」としては、上記(a)の蛋白質と上記(b)の蛋白質とが連結している限り特に限定されないが、例えば、上記(a)の蛋白質と上記(b)の蛋白質とがリンカーを介して又は介さずに共有結合している複合体が挙げられる。また、複合体は、上記蛋白質、部分ペプチドと同様に塩の形態(好ましくは、酸付加塩)で用いることもできる。
【0034】
上記(a)の蛋白質と上記(b)の蛋白質とを融合させるために用いられるリンカーとしては、当該分野で公知のものを用いることができ特に限定されないが、例えば、GGGGS(配列番号5)の繰り返し配列(例えば、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号6))、GSTSGSGKSSEGKG(配列番号7)、GSTSGSGKSSEGSGSTKG(配列番号8)、GSTSGKPSEGKG(配列番号9)、GSTSGSGKPGSGEGSTKG(配列番号10)等のペプチドなどをリンカーとして用いることができる(例えば、Production of single-chain Fv monomers and multimers, D. Filpula, J. McGuire, and M. Whitlow. In "Antibody Engineering" Edited by J. McCafferty, H. R. Hoogenboon, and D. J. Chiswell. p.253-268, IRL PRESS (1996)参照)。上記(a)の蛋白質と上記(b)の蛋白質とがリンカーを介して又は介さずに共有結合している複合体は、例えば、上記(a)の蛋白質と上記(b)の蛋白質を別々に調製した後、これら蛋白質をそれぞれリンカーに共有結合させることにより、又はリンカーを介さずに直接共有結合させることによって得ることができる。しかし、この方法では複合体を得るために、上記(a)の蛋白質及び上記(b)の蛋白質の調製後にさらに両者を連結する工程を必要とするため煩雑である。また、共有結合部位が異なるものが複数得られるおそれがあり、再現性等の観点から好ましい単一な複合体を調製しにくいという問題もある。従って、本発明の複合体としては、例えば、上記(a)の蛋白質及び上記(b)の蛋白質がペプチドリンカーを介してアミド結合することにより又は直接アミド結合することにより融合している単鎖抗体が好ましい。単鎖抗体は、上記(a)の蛋白質をコードする塩基配列と、ペプチドリンカーをコードする塩基配列と(リンカーを介してアミド結合している単鎖抗体を得る場合)、上記(b)の蛋白質をコードする塩基配列とを読み枠を合わせて含む発現ベクターを含有する形質転換体から容易に調製できるため有用である。なお、ペプチドリンカーをコードする塩基配列は、上記(a)及び(b)の蛋白質をコードする塩基配列と読み枠を合わせたときに終止コドンを含まないものであれば特に限定されない。
【0035】
ペプチドリンカーは、当該分野で公知の方法により適宜選択することができる。具体的には、ペプチドリンカーとしては、1個以上のアミノ酸残基からなる任意の長さのペプチドを用いることができるが、例えば10個以上のアミノ酸残基からなるペプチドが用いられる。
【0036】
本発明はまた、本発明の蛋白質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを提供する。本発明のポリヌクレオチドは、前述した本発明の蛋白質をコードする塩基配列を含有するものであれば如何なるものであってもよい。
【0037】
具体的には、本発明のポリヌクレオチドとしては、上記(a)の蛋白質をコードする塩基配列(例えば、配列番号1で表される塩基配列)、上記(b)の蛋白質をコードする塩基配列(例えば、配列番号3で表される塩基配列)、上記単鎖抗体をコードする塩基配列が挙げられる。また、本発明のポリヌクレオチドとして、本発明の蛋白質を遺伝子組換えして得られた蛋白質をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドを挙げることもできる。
【0038】
上述した本発明のポリヌクレオチドは、本明細書の開示に基づき公知の方法を用いて得ることができる。例えば、限定されるわけではないが、本発明のポリヌクレオチドは、抗可塑剤モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマより得ることができる。抗体蛋白のN末端アミノ酸配列を決定し、ついで、このアミノ酸配列より推定した塩基配列を持つプライマーを作成し、抗体産生ハイブリドーマより公知の方法によりmRNAを調製し、それを基に逆転写酵素により一本鎖cDNAを合成後、本明細書に開示された抗可塑剤モノクローナル抗体の重鎖又は軽鎖の可変領域のアミノ酸配列又は塩基配列に基づき、PCR法、ハイブリダイゼーション法等を用いることによって、本発明のポリヌクレオチドを選択的に得ることが可能である。このような方法は周知であり、当業者は本明細書の開示に基づいて、本発明のポリヌクレオチドを容易に単離することが可能である。これらの方法の具体的操作方法としては、例えば、たとえば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning) 3rd edition (J.Sambrook et.al.,Cold Spring Harbor Lab. Press, 2001)に記載の方法などが挙げられる。また、mRNAの抽出はアマシャム社のQuickPrep mRNA 精製キットの操作説明書に記載の方法で、cDNAの合成や5'-RACE法はクロンテック社のSMART RACEキットの操作説明書に記載の方法なども挙げられる。
【0039】
一実施態様では、本発明の複合体は組換え抗体(その断片をも含む)であり得る。組換え抗体(Recombinant Antibodies)の作製方法などについては、RECOMBINANT ANTIBODIES(ed.by F.Breitling, John Wiley & Sons(USA),1999)の第2章に、組換え抗体断片(Recombinant Antibody Fragments)の作製方法、ハイブリドーマ細胞(Hybridoma Cell Line)からの抗体遺伝子のクローニング(Cloning)方法、抗体遺伝子ライブラリー(Antibody Gene Libraries)の作製方法、遺伝子ライブラリーからの組換え抗体の選択(Selection of Recombinant Antibodies From Gene Libraries)方法、抗体の遺伝子操作(Antibody Engineering)方法などが記載されており、これらの方法により組換え抗体の作製が可能である。
【0040】
また、同書第4章には、組換え抗体の製造方法も記載されておりin vitroではウサギReticulocyte lysateでの発現が、原核生物(Prokaryote)では、大腸菌(E.coli)のCytoplasm、periplasmのsoluble fraction、periplasmのinclusion bodyや、Bacillus、Streptomycesでの発現が、真核生物(Eukaryote)では、Pichia、Saccharomyces、Schizosaccharomyces等の酵母、Trichodermaなどのカビ、昆虫細胞ではBaculovirus、myeloma、CHO、COS等の動物細胞、タバコなどのtransgenic植物、transgenic動物などでの発現方法が記載されており、これらにより形質転換体の作製が可能である。
【0041】
さらに、同書第4章には、組換え抗体の精製方法も記載されており、まず、物理的な方法、例えば、組換え生物の遠心分離による集菌、超音波などによる細胞破砕、機械的な磨砕や酵素的な溶菌で目的物を分離する。次にイオン交換クロマトグラフィー、size exclusion chromatography、thiophilic adsorption chromatography、affinity chromatographyなどを組み合わせて精製する。特にaffinity chromartographyは効率的な方法であり、抗原認識特異性を活用したantigen-apecific methodsや、protein Aやprotein GなどのFc部位やFab'部位への結合を利用したantibody-specific methodや、そのような部位を持たないscFvの場合にtagと言われる小さなペプチド断片を持った融合抗体として発現させ、このtagに特異的なaffinityカラムを使用する方法(例His-tag、c-myc tag、Strep tagなど)などにより精製することにより製造することが可能である。
【0042】
まず、抗可塑剤モノクローナル抗体産生細胞のcDNAライブラリーを構築し、保存性の高い免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の定常領域や可変領域のN末端配列等をコードするcDNAをプローブに用いて、当該cDNAライブラリーをスクリーニングして抗可塑剤モノクローナル抗体の軽鎖及び重鎖のcDNAの単離を行うことができる。これらの方法の具体的操作方法としては、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning) 3rd edition (J.Sambrook et.al.,Cold Spring Harbor Lab. Press, 2001)に記載の方法などが挙げられる。
【0043】
本発明のポリヌクレオチドは、また、本明細書の記載の配列に基づき、周知の技術を用いて化学的に合成してもよい。
【0044】
本発明の蛋白質を遺伝子組換えする方法としては、自体公知の方法が挙げられ、例えば、その蛋白質をコードする塩基配列を変換する方法を用いることができる。ポリヌクレオチド(例えば、DNA)の塩基配列の変換は、PCRや公知のキット、例えば、MutanTM-Super Express Km(タカラバイオ)、MutanTM-K(タカラバイオ)等を用いて、ODA-LAPCR法やGapped duplex法やKunkel法等の自体公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って行うことができる。クローン化された抗体蛋白質をコードするDNAは目的によりそのまま、又は所望により制限酵素で消化したり、リンカーを付加したりして使用することができる。該DNAはその5'末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3'末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGA又はTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することもできる。本発明の抗体蛋白質の発現ベクターは、例えば、(イ)本発明の抗体蛋白質をコードするDNAから目的とするDNA断片を切り出し、(ロ)該DNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
【0045】
組換え抗体(Recombinant Antibody)の作製方法
組換え抗体としては、種々の形態のものが作製できるが、Roland KontermannのANTIBODY ENGINEERING HOME PAGE (http://aximt1.imt.uni-marburg.de/~rek/AEP.html、2002年2月25日)に記載のものはその例であり、例えば、Fab' fragments、F(ab') fragments、Fv fragments (Fv)、single-chain Fv fragments (scFv)、bispecific-chimeric scFV (χ-scFv)、tandem scFV (scFv)2、bispecific-(scFv)2、disulfide-linked scFv、disulfide-stabilized Fv fragments(dsFv)、diabody、single-chain diabody (scDb)、bivalent diabody、bispecific diabody、knob-into-hole stabilized diabody、disulfide-stabilized diabody、triabody、tetrabody、trispecific triabody、CL-dimerized scFv、CH1-CL-dimerized scFv、CH3-dimerized scFv、knob-into-hole CH3-dimerized scFv、CH3-dimerized bivalent diabody、Fc-dimerized scFv、Fab-scFv fusions、Ig-scFv fusions、leucine-zipper stabilized scFv dimers、helix-stabilized scFv dimers、4 helix-bunde stabilized scFv tetramers、streptavidin-scFv、intrabodyなどが組換え抗体として作製可能である。
【0046】
また、変異処理を施した抗体遺伝子のシャッフリング(Shuffling)により、目的の有用な性質を有する抗体を選択する方法も本発明の範囲内に入る。
【0047】
組換え抗体の発現系
組換え抗体の発現系としては、効率よく組換え抗体を発現できる系であればどのような発現系でもよいが、Roland KontermannのANTIBODY ENGINEERING HOME PAGE (http://aximt1.imt.uni-marburg.de/~rek/AEP.html、2002年2月25日)に纏められているように、例えば、mammalian cells では、Fv、scFvやscFv derivatives、bivalent及びbispecific scFv、scFv又はFab-fusion proteins、intrabodiesなどの発現が、Insect cellsでは、scFVやFabなどの発現が、Fungal cellsでは、Fv、scFvやFabなどの発現が、Plants cellsでは、scFvの発現が知られており、このように種々の発現系が使用可能である。
【0048】
cDNAライブラリーの作製法
cDNAライブラリーの作製法としては、効率よくcDNAライブラリーを作製できる方法であればどのような方法でも良いが、Roland KontermannのANTIBODY ENGINEERING HOME PAGE (http://aximt1.imt.uni-marburg.de/~rek/AEP.html、2002年2月25日)に述べられているファージディスプレイ法も、その一つである。
【0049】
組換え抗体の選択方法
作製したライブラリーから、目的の組換え抗体を選択する方法としては、Roland KontermannのANTIBODY ENGINEERING HOME PAGE (http://aximt1.imt.uni-marburg.de/~rek/AEP.html、2002年2月25日)に記載のプロトコール、「ファージミドライブラリーからの組換え抗体の単離法」や、「fdファージライブラリーからのペプチドの単離法」などの方法も、選択方法として使用可能である。
【0050】
ポリヌクレオチド(例えば、DNA)は、目的によりそのまま、又は、所望により切断、又は他のポリヌクレオチドの付加などして使用することができる。例えば、DNAは、その末端に翻訳開始コドンATGを有していてもよい。このような改変は、自体公知の方法により、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning) 3rd edition (J.Sambrook et. al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 2001)に記載の方法等により行なうことができる。
【0051】
このようにして得られたDNAを、プロモーター、翻訳開始コドン、適当なシグナル配列等を自体公知の方法でベクターに組込むことにより、組換えベクターを製造することができる。該ベクターやプロモーターや宿主菌株としては、たとえば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning) 第3版 (J.Sambrook et.al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 2001)のAppendix3に記載のベクター、プロモーターやエシェリヒア属菌株等が挙げられる。
【0052】
ベクターとしては、上記以外に、大腸菌由来のプラスミド(pET−276,pCANTAB−5E,pUC19,pT7Blue T.)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110、pTP5、pC194)、酵母由来のプラスミド(例、pSH19,pSH15)、λファージ,M13K07などのバクテリオファージ、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルスなどの動物ウイルスなどの他、pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neoなどが用いられる。
【0053】
プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでも良い。例えば、宿主がエシェリヒア属菌である場合は、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーターなどが、宿主がバチルス属菌である場合は、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなど、宿主が酵母である場合は、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。宿主が動物細胞である場合は、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、HSV−TKプロモーターなど、宿主が昆虫細胞である場合は、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
【0054】
発現ベクターには、以上の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、アンピシリン耐性遺伝子(以下AmpRと略称する場合がある)、カナマイシン耐性遺伝子(以下KmRと略称する場合がある)、クロラムフェニコール耐性遺伝子(以下CmRと略称する場合がある)等が挙げられる。
【0055】
また、必要に応じて、宿主に合ったシグナル配列を、本発明の抗体蛋白質のN端末側に付加する。宿主がエシェリヒア属菌である場合は、phoA・シグナル配列、ompA・シグナル配列などが、宿主がバチルス属菌である場合は、α−アミラーゼ・シグナル配列、サブチリシン・シグナル配列などが、宿主が酵母である場合は、MFα・シグナル配列、SUC2・シグナル配列など、宿主が動物細胞である場合には、インシュリン・シグナル配列、α−インターフェロン・シグナル配列、抗体分子・シグナル配列などがそれぞれ利用できる。このようにして構築された本発明の抗体蛋白質をコードするDNAを含有するベクターを用いて、形質転換体を製造することができる。
【0056】
宿主としては、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞などが用いられる。エシェリヒア属菌としては、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12・DH1〔プロシージングズ・オズ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)、60巻、160(1968)〕、JM103〔ヌクレイック・アシッズ・リサーチ、(nucleic Acids Research),9巻,309(1981)〕,JA221〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)〕,120巻,517(1978)),HB101〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー,41巻、459(1969)〕,C600〔ジェネティックス(Genetics),39巻,440(1954)〕,BL21DE3(pLysS),TG−1,JM109などが用いられる。バチルス属菌としては、例えば、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)MI114[ジーン(Gene),24巻,255(1983)],207−21[ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Journal of Biochemistry),95巻,87(1984)]などが用いられる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22,AH22R-,NA87−11A,DKD−5D,20B−12,シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913,NCYC2036、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などが用いられる。昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合は、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)、Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusia niの卵由来のHigh FiveTM細胞、Mamestrabrassicae由来の細胞又はEstigmena acrea由来の細胞などが用いられる。ウイルスがBmNPVの場合は、蚕由来株化細胞(Bombyx mori N;BmN細胞)などが用いられる。該Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞(以上、Vaughn,J.L.ら、イン・ビボ(In Vivo),13,213-217,(1977))などが用いられる。昆虫としては、例えば、カイコの幼虫などが用いられる[前田ら,ネイチャー(Nature),315巻,592(1985)]。動物細胞としては、例えば、サル細胞COS−7,Vero,チャイニーズハムスター細胞CHO,マウスL細胞、マウスAtT−20、マウスミエローマ細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞などが用いられる。
【0057】
エシェリヒア属菌を形質転換するには、例えば、プロシージングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),69巻,2110(1972)やジーン(Gene),17巻,107(1982)などに記載の方法に従って行うことができる。バチルス属菌を形質転換するには、例えば、モレキュラー・アンド・ジェネラル・ジェネティックス(Molecular & General Genetics),168巻、111(1979)などに記載の方法に従って行うことができる。酵母を形質転換するには、例えば、メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology),194巻,182−187(1991)、プロシージングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),75巻,1929(1978)などに記載の方法に従って行うことができる。昆虫細胞又は昆虫を形質転換するには、例えば、バイオ/テクノロジー(Bio/Technology),6巻,47−55(1988)などに記載の方法に従って行うことができる。動物細胞を形質転換するには、例えば、細胞工学別冊8新細胞工学実験プロトコール,263−267(1995)(秀潤社発行)、ヴィロロジー(Virology),52巻,456(1973)に記載の方法に従って行うことができる。このようにして、抗体蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターで形質転換された形質転換体が得られる。
【0058】
さらに、このようにして得られた形質転換体を培養することにより、本発明の蛋白質を生成せしめ、これを採取することにより本発明の蛋白質を製造することができる。
【0059】
培養に用いられる培地としては、宿主がエシェリヒア属菌、バチルス属菌である形質転換体を培養する際、培地に使用される培地としては液体培地が適当であり、その中には該形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物その他が含有せしめられる。炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖など、窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスティープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機又は有機物質、無機物としては、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウムなどが挙げられる。また、酵母、ビタミン類、成長促進因子などを添加してもよい。培地のpHは約5〜8が望ましい。
【0060】
エシェリヒア属菌を培養する際の培地としては、例えば、グルコース、カザミノ酸を含むM9培地[ミラー(Miller),ジャーナル・オブ・エクスペリメンツ・イン・モレキュラー・ジェネティックス(Journal of Experiments in Molecular Genetics),431−433,Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1972)]が好ましい。ここに必要によりプロモーターを効率よく働かせるために、例えば、3β−インドリルアクリル酸やイソプロピルチオガラクトシド(IPTG)のような薬剤を加えることができる。宿主がエシェリヒア属菌の場合、培養は通常約15〜43℃で約3〜24時間行い、必要により、通気や撹拌を加えることもできる。宿主がバチルス属菌の場合、培養は通常約30〜40℃で約6〜24時間行い、必要により通気や撹拌を加えることもできる。宿主が酵母である形質転換体を培養する際、培地としては、例えば、バークホルダー(Burkholder)最小培地[Bostian,K.L.ら、プロシージングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),77巻,4505(1980)]や、0.5%カザミノ酸を含有するSD培地[Bitter,G.A.ら、プロシージングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),81巻,5330(1984)]が挙げられる。培地のpHは約5〜8に調整するのが好ましい。培養は通常約20〜35℃で約24〜72時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
【0061】
宿主が昆虫細胞又は昆虫である形質転換体を培養する際、培地としては、Grace's Insect Medium(Grace,T.C.C.,ネイチャー(Nature),195,788(1962))に非働化した10%ウシ血清等の添加物を適宜加えたものなどが用いられる。培地のpHは約6.2〜6.4に調整するのが好ましい。培養は通常約27℃で約3〜5日間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。宿主が動物細胞である形質転換体を培養する際、培地としては、例えば、約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM培地[サイエンス(Science),122巻、501(1952)],DMEM培地[ヴィロロジー(Virology),8巻、396(1959)],RPMI1640培地[ザ・ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・メディカル・アソシエーション(The Journal of the American Medeical Association),199巻,519(1967)],199培地[プロシージング・オブ・ザ・ソサイエティー・フォー・ザ・バイオロジカル・メディスン(Proceeding of the Society for the Biological Medicine),73巻,1(1950)]などが用いられる。pHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30℃〜40℃で約15〜60時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。以上のようにして、形質転換体の細胞内、細胞膜又は細胞外に本発明の抗体蛋白質を生成せしめることができる。
【0062】
このようにして得られた培養物から、目的とする本発明の抗体蛋白質を分離精製するには、例えば下記の方法により行うことができる。本発明の抗体蛋白質を培養菌体あるいは細胞から抽出するに際しては、培養後公知の方法で菌体あるいは細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチーム及び/又は凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊したのち、遠心分離やろ過により抗体蛋白質の粗抽出液を得る方法などが適宜用いられる。緩衝液の中に尿素や塩酸グアニジンなどの蛋白質変性剤や、トリトンX−100TMなどの界面活性剤が含まれていてもよい。培養液中に抗体蛋白質が分泌される場合には、培養終了後、それ自体公知の方法で菌体あるいは細胞と上清とを分離し、上清を集める。このようにして得られた培養上清、あるいは抽出液中に含まれる抗体蛋白質の精製は、自体公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行うことができる。これら公知の分離・精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、及びSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などを用いて分離精製できる。
【0063】
本発明の複合体、蛋白質、部分ペプチド及び/又はそれらの塩は、自体公知の蛋白質の合成法に従って、あるいは本発明の蛋白質を適当なプロテアーゼで切断することによって製造することができる。蛋白質の合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれによっても良い。即ち、本発明の蛋白質を構成する部分ペプチド若しくはアミノ酸と残余部分とを縮合させ、精製物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的の蛋白質を製造することができる。公知の縮合方法や保護基の脱離としては、例えば、以下に記載された方法が挙げられる。
i)M. Bodanszky及びM.A. Ondetti、ペプチドシンセシス(Peptide Synthesis),Interscience Publishers, New York (1966年)
ii)Schroeder及びLuebke、ザペプチド(The peptide),Academic Press, New York
(1965年)
iii)泉屋信夫他、ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株)(1975年)
iv)矢島治明及び榊原俊平、生化学実験講座1、タンパク質の化学IV、205、(1977年)
v)矢島治明監修、続医薬品の開発第14巻ペプチド合成広川書店
【0064】
また、反応後は通常の精製法、例えば、溶媒抽出・蒸留・カラムクロマトグラフィー・液体クロマトグラフィー・再結晶などを組み合わせて本発明の蛋白質を精製単離することができる。上記方法で得られる蛋白質が遊離体である場合は、公知の方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に塩で得られた場合は、公知の方法によって遊離体に変換することができる。
【0065】
以上のようにして得られた本発明の複合体及び/又は蛋白質は、可塑剤を定量的に測定する際の試薬として使用したり、種々の担体に固定化することにより可塑剤を濃縮するためのアフィニティーカラムの製造などに利用することができる。また、本発明の複合体及び/又は蛋白質に結合(即ち、交叉反応)する可塑剤を同定することにより、本発明の複合体及び/又は蛋白質の適用範囲を拡大することができる。さらに、本発明は、本発明の複合体及び/又は蛋白質を含む、可塑剤の測定又は定量用キット、可塑剤の濃縮用キットを提供する。
【0066】
なお、上記キットでは、1種類の本発明の複合体及び/又は蛋白質のみを含んでいてもよいが、種類の異なる複数の本発明の複合体及び/又は蛋白質を含むことができる。例えば、交叉反応性の異なる複数の複合体を含むキットを使用することによって特定の可塑剤を特異的に測定・定量することができる。
【0067】
本発明の複合体及び/又は蛋白質による可塑剤の測定又は定量方法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Engvall,E.,Methods in Enzymol.,70,419−439(1980))、蛍光抗体法、プラーク法、スポット法、凝集法、オクタロニー(Ouchterlony)等の一般に抗原の検出に使用されている種々の方法(「ハイブリドーマ法とモノクローナル抗体」、株式会社R&Dプラニング発行、第30頁−第53頁、昭和57年3月5日)が挙げられる。感度、簡便性等の観点からELISA法が汎用される。
【0068】
また、本発明の複合体及び/又は蛋白質の固定化用担体としては、例えば、マイクロプレート(例、96ウェルマイクロプレート、24ウェルマイクロプレート、192ウェルマイクロプレート、384ウェルマイクロプレートなど)、試験管(例、ガラス試験管、プラスチック試験管)、ガラス粒子、ポリスチレン粒子、修飾ポリスチレン粒子、ポリビニル粒子、ラテックス(例、ポリスチレン・ラテックス)、ニトロセルロース膜、臭化シアン活性化濾紙、DBM活性化濾紙、粒状固相(例、セファロース、セファデックス、アガロース、セルロース、セファクリルなど)、鉄含有ポリカーボネート膜、マグネット含有ビーズなどが挙げられる。
【0069】
本発明の複合体及び/又は蛋白質を担体に担持させるには、自体公知の方法〔例、上記「エンザイムイムノアッセイ」第268〜296頁、「アフィニティークロマトグラフィーハンドブック」(アマシャム ファルマシア バイオテク株式会社(1998年12月20日発行))〕などで担持できる。
【0070】
また、本発明の可塑剤の濃縮方法においては、大量の検体を、免疫吸着体カラムを通過させたり、免疫吸着体粒子と混合したりすることにより、抗原抗体反応を利用して、目的の可塑剤、特に環境ホルモン、その分解物又はそれらの混合物を、免疫吸着体に捕捉させ、ついで、pHの変更(pH2.5〜3に下げる、pH11.5に上げるなど)、イオン強度の変更(1M NaC1など)、極性の変更(10%ジオキサン、50%エチレングリコール、3Mカオトロピック塩(SCN-、CC13COO-、I-)など)、蛋白変性剤(8M尿素、6M塩酸グアニジンなど)の添加や、電気泳動による解離など公知の方法で溶出させることにより、免疫学的に夾雑物の少ない目的物質を、数千から数万倍もの高倍率に濃縮できる。
【0071】
これにより、環境中に極く微量しか存在しない環境ホルモン、その分解物又はそれらの混合物を、溶媒抽出法や固層抽出法などの従来の濃縮方法と比較して、はるかに高倍率に濃縮することができ、しかも定量を妨害する夾雑物等の含量の少ない濃縮液を得ることができる。
【0072】
また、本発明は、可塑剤に対して結合するモノクローナル抗体及び当該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを提供する。好ましいハイブリドーマ及びモノクローナル抗体としては、mouse/mouse-hybridoma 2F4A4γ(FERM BP−08601)及び2F4A4γ抗体があげられる。ハイブリドーマの作製方法は、自体公知の方法で行うことができ、その詳細は後述の実施例に記載されている。ハイブリドーマによるモノクローナル抗体の産生、精製も自体公知の方法で行うことができる。
【0073】
本明細書及び図面において、塩基やアミノ酸などを略号で表示する場合、IUPAC−IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによる略号あるいは当該分野における慣用略号に基づくものであり、その例を下記する。またアミノ酸に関し光学異性体がありうる場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
DNA :デオキシリボ核酸
cDNA :相補的デオキシリボ核酸
a,A :アデニン
t,T :チミン
g,G :グアニン
c,C :シトシン
i,I :ヒポキサンチン(イノシン)
RNA :リボ核酸
mRNA :メッセンジャーリボ核酸
アミノ酸の略記
3文字 :1文字:日本名
Gly : G :グリシン
Ala : A :アラニン
Val : V :バリン
Leu : L :ロイシン
Ile : I :イソロイシン
Ser : S :セリン
Thr : T :スレオニン
Cys : C :システイン
Met : M :メチオニン
Glu : E :グルタミン酸
Asp : D :アスパラギン酸
Lys : K :リジン
Arg : R :アルギニン
His : H :ヒスチジン
Phe : F :フェニルアラニン
Tyr : Y :チロシン
Trp : W :トリプトファン
Pro : P :プロリン
Asn : N :アスパラギン
Gln : Q :グルタミン
Asx : B :Asn+Asp
Glx : Z :Gln+Glu
【実施例】
【0074】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
[材料]
抗DEHP抗体 (2F4A4γ) 産生ハイブリドーマ
抗DEHP抗体 (2F4A4γ)(アイソタイプγ1,κ) を産生するハイブリドーマ株、2F4A4γは、以下に記載の方法により取得した。
【0076】
[実施例1] DEHP−7ハプテンの合成
ヘキサエチレングリコール28.2gをDMF300mLに溶解し、氷冷下、NaH(鉱油中60%希釈)4.0gを添加し、氷冷下で15分攪拌した。さらにベンジルクロライド15.2gを10℃にて、約5分間で滴下した。室温で1.5時間攪拌した後、反応液をろ過し、ろ液を減圧濃縮した。濃縮液をさらにシリカゲルカラム(シリカ200g、酢酸エチル)で精製し、ヘキサエチレングリコール モノベンジルエーテル20gを無色液体として得た。得られたヘキサエチレングリコール モノベンジルエーテル1.86gとフタル酸無水物0.74gとを混合し、混合物を110℃で17時間攪拌した。精製は行わず、得られた反応物全量に、トルエン30mL、1−ブロモ−2−エチルへキサン0.9mLおよびDBU0.77gを添加した。混合物を110℃で4時間攪拌した後、水30mLを加えた。有機層を分液し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧濃縮した。得られた反応物をヘキサン−酢酸エチル(1:1)に溶解し、シリカゲルカラムで精製し、2.45gの粗精製物1を無色オイルとして得た。
【0077】
2.45gの粗精製物1をTHF40mLに溶解し、触媒として10%Pd/C(50%含水品)0.4gを添加した。H吹き込み(30mL/分、4時間)後、ろ過にて触媒を除去した。反応物に精製水10mLとPdブラック0.1gを添加し、H吹き込み(30mL/分、4時間)した後、TLCによりほとんどの原料が消費されたことを確認した。反応物をろ過し、減圧下でTHFを留去し、酢酸エチルで抽出した。抽出液を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧濃縮して1.8gの粗精製物2を無色オイルとして得た。863.9mgの得られた粗精製物2に無水コハク酸166.6mgを加え、100℃で6時間攪拌した。さらに無水コハク酸109.6mgを加えて、110℃で一晩攪拌した。反応物を酢酸エチル−2-プロパノール(9:1)に溶解し、シリカゲルカラムで精製し、粗精製物0.51gを無色オイルとして得た。同様の精製を繰り返し、粗精製物0.45gを無色オイルとして得た後、ジイソプロピルエーテルに溶解し、水で5回洗浄した。分液が困難なため、途中で飽和食塩水を適宜加えることにより有機層を分取し、無水硫酸ナトリウムで乾燥して、減圧濃縮し、以下の式(IV):
【0078】
【化3】

【0079】
で表されるハプテン(DEHP−7)0.41gを無色オイルとして得た。
【0080】
実施例2
1.抗DEHPモノクローナル抗体の取得
(1)免疫原、アッセイ用抗原、細胞融合用抗原の調製
実施例1で合成したハプテン(DEHP-7)35μmol、水溶性カルボジイミド42μmol、及びN-ヒドロキシコハク酸イミド42μmolをジメチルスルホキシド0.5mL中、室温で一晩反応させて、ハプテンの活性化エステルを作製した。次に、牛血清アルブミン(BSA)、オボアルブミン(OVA)又はストレプトアビジン各5mgを0.13M重炭酸ナトリウム(NaHCO3)水溶液1mLに溶解し、上記活性化エステル120、50又は2μLを添加し、4℃で一晩反応させた。ダルベッコリン酸緩衝液(PBS)に対する透析により未反応の試薬を除去し、ハプテン-BSAは免疫原として、ハプテン-OVAはアッセイ用抗原として、ハプテン-ストレプトアビジンは細胞融合用抗原として凍結保存した。
【0081】
(2)マウス抗血清アッセイ方法
上記(1)で作製したアッセイ用抗原(ハプテン-OVA)を0.1M NaHCO3水溶液(pH9.8)で10μg/mLに希釈し、96穴プレートに50μL/wellずつまき、4℃で一昼夜静置することにより、抗原をプレートに吸着させた。次に、前記プレートから抗原を回収し、PBSで希釈した1%ゼラチンを350μL/well加え、4℃で一昼夜静置してブロッキングを行った。前記プレートをさらに37℃で2時間静置させた後、PBST(0.05%Tween20 in PBS)で3回洗浄し、一次抗体(PBSTで希釈した血清)を50μL/well加え、37℃で1時間反応させた。続いてPBSTで3回洗浄後、PBSTで10,000倍に希釈した二次抗体[HRP (西洋ワサビペルオキシダーゼ)でコンジュゲート化したヤギ抗マウス IgG (H+L) ]を50μL/well加え、37℃、1時間反応させた。最後に、PBSTで5回洗浄後、発色剤[0.1M クエン酸ナトリウム緩衝液(pH5.2)中、ο-フェニレンジアミン(1mg/ml)及び0.02% H2O2]を100μL/well加えて37℃、10分間発色させ、1M H2SO4を50μL/well加えて反応を停止した。マイクロプレートリーダーを用いて、発色反応をOD490nmにて測定した。
【0082】
(3)免疫
(1)で調製した免疫原(ハプテン-BSA)を500μg/mLとなるようにPBSに溶解して抗原溶液とし、BALB/cマウス(SPF仕様、メス、4週齢)を免疫した。初回免疫においては、マウス一匹あたり、前記抗原溶液100μL を等量のRIBIアジュバント(RIBI MPL+TDM EMULSION)(Corixa社より購入)と混合して200μLとし、2〜3分ボルテックスすることにより水中油型エマルジョンを調製した。これをマウス腹腔内に注射した。追加免疫においては、抗原溶液100μL (300μg/mL)と等量のRIBIアジュバントとを混合し、初回の免疫と同様に水中油型エマルジョンを調製した。また、追加免疫は、すべて2週間の間隔で行った。
【0083】
3回目の免疫の3日後にマウスの眼窩静脈から採血し、血ぺい化した後、10,000rpm(8,200G)で10分間遠心分離して血清を得た。得られた血清の抗体価を上記1−(2)の方法で測定し、抗体価が十分高ければ4回目の免疫を行い、その3日後にマウス脾臓細胞を摘出し、細胞融合に用いた。また、抗体価が十分でなかった場合は追加免疫を再度1ないし2回繰り返し、抗体価の十分な上昇を確認したのち、最後の追加免疫を行い、細胞融合を実施した。
【0084】
(4)電気パルス法(PEF法)による細胞融合
(I)脾細胞−ハプテン−ストレプトアビジン複合体の調製
(3)で得られた抗体価の上昇したマウスから常法に従い脾臓を摘出し、硫酸カナマイシン入りRPMI1640中に脾細胞懸濁液2.5mLを調製した。一方で、(1)で調製したハプテン-ストレプトアビジン(1mg/mL)20μLを硫酸カナマイシン入りRPMI1640 2.5mLに添加し、先に調製した脾細胞懸濁液2.5mLと混合した。4℃で2時間ローテーターにより反応させたのち、遠心分離(800G×5分)し、沈殿を硫酸カナマイシン入りRPMI1640 10mLに懸濁した。再度、同様の遠心操作ののち、沈殿を硫酸カナマイシン入りRPMI1640 5mLに懸濁し、脾細胞−ハプテン−ストレプトアビジン複合体を調製した。
【0085】
(II)ビオチン−ミエローマ細胞複合体の調製
RPMI1640完全培地中(T-150培養フラスコ3本)で培養したミエローマ細胞(PAI)を回収し、40mLのPBSで洗浄して遠心分離した後、5mLのPBSに懸濁した。一方で30μLのN-ヒドロキシサクシンイミドビオチン(1mg/30μL in DMF)を5mLのPBSに溶解し、先に調製したミエローマ細胞懸濁液5mLと混合し、37℃、5%CO2インキュベーター内で30分回転させた。前記細胞を遠心分離し、50mLの硫酸カナマイシン入りRPMI1640で洗浄した後、再度遠心分離し、5mLの硫酸カナマイシン入りRPMI1640に懸濁した。
【0086】
(III)PEFによる細胞融合
(4)−(I)、(II)で調製した各懸濁液を脾細胞−DEHP-7−ストレプトアビジンとビオチン−ミエローマ細胞が1:1となるように混合した。これを200Gで10分遠心分離した後、沈殿を1mLの硫酸カナマイシン入りRPMI1640に懸濁した。さらに、50Gで1-2分遠心分離した後、クリーンベンチ内で30分放置した。その後、さらに30分、5%CO2インキュベーター内でゆっくりと回転させ、200G、10分遠心分離し、2mLの等張ショ糖緩衝液(0.25Mショ糖+2mMリン酸二水素ナトリウム/リン酸水素二ナトリウム(pH7.2)+0.1mM塩化マグネシウム+0.1mM塩化カルシウム)に懸濁した。これをプラチナ製プレパラート型プレート上に0.5〜1.0mLずつ加え、細胞融合装置(electro square porator T820又はECM2001, BTX社製)により2kV/cm(10μsecを4回)と3kV/cm(10μsecを4回)の条件で電気融合(PEF融合)を行った。
PEF融合された細胞を、予め用意しておいた20mLのRPMI1640完全培地に懸濁し、30分静置後、96wellマイクロプレートに0.2mL/wellとなるように分注した。37℃、5%CO2インキュベーター内で培養し、常法によりHAT培地を添加し、培地交換を行った。
【0087】
(5)ハイブリドーマのスクリーニング、クローニング
(I)アッセイプレートの作製
抗マウスIgAGM抗体(マウス免疫グロブリン(IgG, IgA, IgM)に対するヤギ IgG フラクション、 cappel製、品番55461)を5μg/mLとなるように0.1M NaHCO3(pH9.8)で希釈し、96wellマイクロプレート(コースター:2592)に50μL/well添加した。4℃で一昼夜静置後抗体を回収し、PBSで希釈した1%ゼラチンを350μL/well加えて37℃で2時間インキュベートしてブロッキングを行った。
【0088】
(II)抗原酵素複合体(DEHP−7−HRP)の調製
実施例1で作製したハプテン(DEHP-7)20μmol、水溶性カルボジイミド24μmol、N-ヒドロキシコハク酸イミド24μmolをジメチルスルホキシド1mL中、室温で一晩反応させて、活性化エステルを作製した。次に、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)3.3mgを0.13M重炭酸ナトリウム(NaHCO3)溶液1mLに溶解し、活性化エステル21μLを添加後、4℃で一晩反応させた。限外ろ過により未反応の試薬を除去し、DEHP-7-HRPを得た。なお、調製したDEHP-7-HRPは、防腐剤とともにHRP-3.3mg/mLの濃度で冷蔵保存した。
【0089】
(III)アッセイ方法
(5)−(I)で作製したアッセイプレートをPBSTで3回洗浄した後、培養上清を50μL/wellずつ加えて37℃で1時間インキュベートした。別途混合用マイクロプレート(Nunc:167008)中で、20%MeOHに溶解した種々の濃度のDEHP-7とPBSで3,000倍に希釈した抗原酵素複合体(DEHP-7-HRP)とを等量混合し、混合液を調製した。前記アッセイプレートをPBSTで3回洗浄した後、各混合液を50μL/wellずつ加えて37℃で1時間インキュベートした。最後に、PBSTで5回洗浄後、発色剤[0.1M クエン酸ナトリウム緩衝液(pH5.2)中、ο-フェニレンジアミン(1mg/ml)及び0.02% H2O2]を100μL/wellずつ加えて37℃、10分間インキュベートして発色させ、1M H2SO4を50μL/well加えて反応を停止した。マイクロプレートリーダーを用いて、発色反応をOD490nmにて測定し、DEHPによる阻害率を求めた。
【0090】
(IV)ハイブリドーマの選択、クローニング
(5)−(III)のアッセイにおいて、DEHPによる阻害率が高いハイブリドーマを選択し、常法に従いクローニングを行い、抗DEHP抗体産生ハイブリドーマ 2F4A4γを取得した。
【0091】
得られたハイブリドーマ2F4A4γは、ブダペスト条約の下、日本国茨城県つくば市東1−1−1の独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、2004年1月28日に受託番号FERM BP−08601で寄託された。
【0092】
マウスモノクローナル抗体2F4A4γ
ハイブリドーマ株2F4A4γを、前記ハイブリドーマ用培地中、37℃、5%CO雰囲気下で培養し、その培養上清をマウスモノクローナル抗体2F4A4γとした。
【0093】
抗DEHP抗体 (DH-150) 産生ハイブリドーマ
抗DEHP抗体 (DH-150)(アイソタイプ γ2a, κ) を産生するハイブリドーマ株、DH-150は、Goda Y. et al.;「Development of the ELISAs for Detection of Endocrine Disrupters」, Proceedings of the Fifth International Symposium on Environmental Biotechnology ( ISEB 2000 ),774-777 (CD-ROM) (2000) に発表した手順により作製した。本細胞は、10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地 (ハイブリドーマ用培地)(N. Kobayashi et al., J. Steroid Biochem. Mol. Biol., 64, 171-177 (1998) 参照) を用いて継代培養した。
【0094】
抗DEHP抗体 (DF-34) 産生ハイブリドーマ
抗DEHP抗体 (DF-34) を産生するハイブリドーマ株、DF-34 (FERM BP-6635) は、国際公開第99/43799号パンフレットに記載されている。本細胞は、10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地 (ハイブリドーマ用培地) を用いて継代培養した。
【0095】
プライマー
cDNAの合成及びPCRに用いたプライマーは、クラボウ又はエスペックオリゴサービスに化学合成とカートリッジ精製を依頼した。各プライマーの塩基配列を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
[実施例3] 抗DEHP抗体 (2F4A4γ) VH遺伝子のクローニング
ハイブリドーマ株2F4A4γ (1 x 10個) から、RNeasy miniキット (QIAGEN) を用いて全RNAを抽出した。本RNA (4.2μg) に γ1鎖特異的プライマー (G1-CH-1) 又はκ鎖特異的プライマー (K-CH-1) 及び Superscript II reverse transcriptase (Invitrogen)(1 μL) を添加し、添付の緩衝液中 (25 μL)、42℃で50分間インキュベートした。70℃で15分間インキュベートして酵素を失活させた後、粗反応液をGlassMAX spin cartridge (Invitrogen) を用いて精製し、VH又はVL遺伝子を含むfirst strand cDNA (VH-cDNA及びVL-cDNA) をそれぞれ得た。ついでVH-cDNAを鋳型に用いる5'-RACE [5'RACE system for rapid amplification of cDNA ends, version 2.0 (Invitrogen)] によりVHドメインの遺伝子断片を得た。すなわちcDNA溶液 (10 μL) にデオキシシトシン三リン酸 (dCTP)(5 nmol)、terminal deoxynucleotidyltransferase (TdT)(1 μL) を加え、TdT緩衝液 (25 μL) 中、37℃で10分間反応させた。ついで、ポリC配列とγ1鎖定常部に相補的なプライマー (各々AAP、G2b-CH-2) (各20 pmol) 及びEx-Taq DNA polymerase (宝酒造)(1 U) を用いてEx-Taq緩衝液 (40 μL) 中でPCR [95℃、1分間; 64℃、1分間; 72℃、2分間 (35サイクル)、次いで72℃、10分間] を行った。さらに、本PCR反応液の1000倍希釈液 (10 μL) を鋳型として、プライマー AUAP及びG2b-CH-3-XmaI (各50 pmol) とEx-Taq DNA polymerase (2.5 U) を用いるnested PCR (液量100 μL) を同上の反応条件で行った。得られた粗反応液を低融点アガロース (SeaPlaque; BMA) (2%) を用いる電気泳動 (TAE緩衝液; 50 V) に付して、約800 bpのバンドをQIAquick gel extraction kit (Qiagen) を用いて回収し、目的のVH遺伝子を含むDNA断片 (VH-DNA) を得た。
【0098】
[実施例4] 抗DEHP抗体 (2F4A4γ) VL遺伝子のクローニング
上記のVL-cDNA (1000倍希釈液10 μL) を鋳型として、既報のマウスカッパ鎖可変部遺伝子クローニング用のプライマーVL-I/III, -IV/VI, -IIa, -IIb, -Va, -Vb (P. J. Nicholls et al., J. Immunol. Methods, 165, 81-91 (1993) 参照) のいずれかとK-CH-3-XmaI (各50 pmol) を組み合わせるPCRを試みた。本PCR [95℃、1分間; 50℃、1分間; 72℃、3分間 (35サイクル)、次いで72℃、10分間] にはPfu DNA polymerase (Promega) (3 U) を用い、Pfu 緩衝液中 (100 μL) で反応を行った。粗反応液の一部をアガロース電気泳動に付したところ、VL-Vaプライマーを用いる時に予想されるサイズ (約400 bp) のバンドが明瞭に観察された。そこで、残りの反応液を上記の方法で精製し、目的のVL遺伝子を含むDNA断片 (VL-DNA) を得た。
【0099】
[実施例5] 抗DEHP抗体 (2F4A4γ) VH及びVL遺伝子のサブクローニング
上述のVH-DNA及びVL-DNA (各約1.5 μg) にそれぞれXma I (40 U) を加え、37℃で一夜インキュベートした。反応液をフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール (PCI) 抽出したのちエタノール沈殿を行い、得られた沈殿にSal I (40 U) を加えて再び37℃で一夜インキュベートした。反応液をPCI抽出/エタノール沈殿に付したのち、上記のように低融点アガロースを用いる電気泳動に付して目的の遺伝子断片を精製した。これらDNA (0.1 μg) を、同様にXma I/Sal I処理したpBluescript IIベクター (0.25 μg) と混合し、T4 DNAリガーゼ (New England Biolabs)(1600 U) を加えて16℃で一夜インキュベートした。反応液をPCI抽出/エタノール沈殿に付して精製し、得られる組換えプラスミドをXL1-Blue Subcloning-grade competent cells (Stratagene) にheat shock法によりトランスフォーメーションした。トランスフォーメーション液をアンピシリンを含む2xYT-agarプレートに塗布して37℃で一夜インキュベートした。得られた形質転換体クローン (VH-DNA、VL-DNA各々について4クローンずつ) を任意に選択してアンピシリンを含む2xYT培地 (10 mL) 中で培養し、15%グリセロール混合液としたのち-80℃で保存した。
【0100】
[実施例6] 抗DEHP抗体 (2F4A4γ) VH及びVL遺伝子の塩基配列の決定
上記の形質転換クローンをアンピシリン(100μg/mL)を含む2xYT培地 (10 mL) 中で培養し、QIAGEN plasmid mini kit (Qiagen) を用いてプラスミドを抽出した。その一部 (0.5又は1.0 μg) に、シークエンシング用プライマー (KS-back又はKS-for; 各1.8 pmol) を加え、Dual CyDye terminator sequencing kit (Amersham Biosciences) を用いてPCR反応を行った。本PCRでは、95℃、20秒間; 55℃、15秒間; 70℃、60秒間のサイクルを35回繰り返した。反応液をエタノール沈殿に付して増幅したDNAを回収し、本キットに添付された formamide loading dye (4 μL) に溶解し、Long-Read Tower DNAシークエンサー (Amersham Biosciences) を用いて電気泳動 (6% ポリアクリルアミドゲル; TBE緩衝液; 1500 V; 200分間) を行った。得られた塩基配列データから、VH-DNA、VL-DNA各々について4クローン間のコンセンサス配列を得た。このようにして得られた塩基配列並びに推定されるアミノ酸配列を図1、2 (各々VH及びVL) に示す。この結果から、VH及びVLのサブグループは、Kabatの分類 (「Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition」 U.S. Department of Health and Human Service, 1991参照) に基づいて、各々III(B)、VIと決定した。また、Kabat のデータベース (「Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition」 U.S. Department of Health and Human Service, 1991 参照) との比較から、VH及びVLにおける相補性決定領域 (complementarity-determining region; CDR)(抗原と直接相互作用し、親和力や特異性の発現に重要な役割を果たすアミノ酸配列) を特定した (図1、2)。
【0101】
[実施例7] 抗DEHP抗体(2F4A4γ)scFv遺伝子の構築
上記の遺伝子塩基配列の結果に基づいてVH、VL遺伝子それぞれの5'末端、3'末端に特異的なプライマー (2F4A-VH-5、2F4A-VH-3、2F4A-VL-5、2F4A-VL-3)(表1) を設計し、実施例3で得られたfirst strand cDNAを鋳型としてPCRを行った。なお、2F4A-VH-5 プライマーにはNco I認識配列を、2F4A-VL-3プライマーにはSal I認識配列及びFLAG配列を導入した。また、2F4A-VH-3、2F4A-VL-5の両プライマーには、VHとVLを連結するためのリンカー配列 (Gly4Ser)3(配列番号6)をコードする塩基配列を付加した。先のcDNA溶液の1:1000希釈液 (1 μL) に2F4A-VH-5及び2F4A-VH-3プライマー (VHの増幅) 又は、2F4A-VL-5及び2F4A-VL-3プライマー (VLの増幅)(各30 pmol) 並びにEx-Taq DNA polymerase (2.5 U) を添加し、Ex-Taq用緩衝液 (100 μL) 中でPCR [95℃、1分間; 50℃、1分間; 72℃、3分間 (35サイクル)、次いで72℃、10分間] を行った。得られた粗反応液を上記の低融点アガロースを用いる電気泳動に付して、約400 bpのバンドをWizard PCR preps DNA purification system (Promega) を用いて回収し、目的のVH遺伝子及びVL遺伝子断片を得た。引き続き、これら (各々200 ng) を混合してEx-Taq DNA polymerase (0.65 U) を加え、Ex-Taq用緩衝液 (25 μL) 中でoverlap extension PCR [95℃、1分間; 55℃、1分間; 72℃、3分間 (10サイクル)、次いで72℃、10分間] を行い、scFv遺伝子を構築した。さらに本反応液の一部 (5 μL) に2F4A-VH-5、2F4A-VL-3プライマー (各100 pmol)、Ex-Taq DNA polymerase (2.5 U) を添加し、同条件 (ただし反応液100 μL) で25サイクルのPCRを行ってscFv遺伝子を増幅した。得られた粗反応液を低融点アガロースによる電気泳動に付して、約800 bpのバンドを回収し、目的のscFv遺伝子断片を得た。本遺伝子の塩基配列を実施例6に従ってシークエンシングしたところ、目的とする5’-VH-linker-VL-FLAG-3’の配列を有することが確認された。
【0102】
[実施例8] ScFv蛋白質の発現
i) ScFv遺伝子の大腸菌への導入
実施例7で調製したscFv遺伝子 (5μg)、及びscFv発現ベクター(10μg)は、それぞれ反応用緩衝液中(200μL)、Nco I及びSal I(各50 U)とともに37℃、一夜インキュベートした。反応液をPCI抽出、EtOH沈殿に付した後、低融点アガロースゲル(1.5%)を用いる電気泳動を行い、目的の遺伝子をWizard PCR preps DNA purification system (Promega) を用いて回収した。回収した制限酵素処理済みのベクター(500 ng)とscFv-DNA(250ng又は125ng:すなわち重量比1/2又は1/4)とを混合し、45℃、5分間インキュベートした。直ちに氷冷し、各々の混合溶液に10倍濃度のライゲーション用緩衝液(5μL)とT4 DNAリガーゼ(1600 U)を添加し(全量50μL)、16℃で一夜インキュベートした。反応液をPCI抽出、EtOH沈殿[ただし沈殿キャリアーとしてグリコーゲン(40μg)を添加]に付し、得られたDNAを滅菌水(10 μL)に溶解してトランスフォーメーション用試料とした。このものにXLOLRエレクトロコンピテント細胞(100μL)を混合し、全量をキュベット電極へ移して氷上で1時間インキュベートした。これを遺伝子導入装置 (BTX社ECM630型) へ装着し、印加電圧1.8 kV,内部抵抗129 Ωの条件でパルスした後、直ちにSOC培地(900μL)を添加して37℃、1時間振とう培養(約230rpm)した。段階希釈した菌液(100μL)を、2xYT-ATGアガープレート [アンピシリン(100μg/mL),テトラサイクリン(10μg/mL)及びD-グルコース(1%)を含む2xYTアガープレート] 上に塗布し、37℃で一夜培養し、コロニーを形成させた。
【0103】
ii) 可溶型scFv(大腸菌ペリプラズム抽出液)の調製
上記アガープレート上からランダムにコロニーを採取して2xYT培地(5μL)に懸濁させ、その1 μLに2F4A-VH-5、2F4A-VH-3プライマー(各2.5 pmol)、dNTP混合物(各2 mM)及びAmpli Taq DNA polymerase(0.75 U)を添加して、専用緩衝液中(20 μL)にてPCRを行った。増幅条件は、熱変性95℃、1 分間; アニーリング50℃、1 分間; 伸長72℃、3分間としてこれを35サイクルくり返した後、更に72℃で10分間伸長反応を行った。反応終了後、アガロースゲル(1.5%)電気泳動によりVH又はVL遺伝子の在否を調べた。本PCRにより目的scFv遺伝子の導入が確認された大腸菌クローン4種(scFv#4,19,31,32)を2YT-ATG培地(5 mL)に懸濁して37℃で一夜振とう培養した。その培養液(500μL)を同培地(20 mL)に接種して、600 nmにおける吸光度がおよそ0.8に達するまで37℃で振とう培養した後、遠心分離(1800g、20分、室温)した。沈殿をアンピシリン(100 μg/mL)、IPTG(0.1 mM)、スクロース(0.4 M)を含む2xYT培地(20 mL)に懸濁して、25℃で一夜振とう培養(約120rpm)した。これを遠心分離(1800g,20分,室温)し、沈殿をスクロース(20%)とEDTA(1 mM)を含む50 mM Tris-HCl緩衝液に氷冷下で懸濁させた。ときどき転倒混和しながら氷上で1時間インキュベートした後、遠心分離(12000g、30分、4℃)し、上清をペリプラズム抽出液として−20℃で凍結保存した。
【0104】
[実施例9] 間接競合ELISAによるscFv蛋白質のフタル酸エステル結合活性の検討
i) DEHPハプテンの卵白アルブミン (ovalbumin; OVA) 結合体 (DEHP-7-OVA)
DEHP-7-OVAは、特開2001−41958号公報に記載の方法に準じて、調製した。
【0105】
ii) 間接競合ELISA用プレートの作製
リン酸緩衝生理食塩水 (PBS) にて1μg/mlに調製した DEHP-7-OVA溶液をマイクロタイタープレート (Costar #3590) に100μl/wellで添加し、4℃で一晩放置した。PBSにてプレートを洗浄 (300μl/well、3回) 後、ブロックエース (大日本製薬)溶液 (PBSで4倍希釈) を300μl/wellで添加したのち4℃で一晩放置し、ブロッキングを行った。その後、PBS (0.05%Tween20含有)で洗浄 (300μl/well、3回)し、間接競合ELISA用プレートとした。
【0106】
iii) ScFvのアッセイ系
DEHP標準液 (10%MeOH + 3%DMSO溶液) 60μlと抗体 〔実施例8のii〕で得られたscFv溶液(scFv#4,19,31,32)又は対照としてマウスモノクローナル抗体2F4A4γ〕 のPBS希釈液 60μlを混合用マイクロプレートに添加してよく混合し、その100μlを、上記ii)の間接競合ELISA用プレートに添加し、37℃で1時間反応させた。PBS (0.05%Tween20含有)で洗浄 (300μl/well、3回)後、 0.1%ゼラチンを含むPBSにて5000倍に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗マウスIgG抗体 (JacksonImmunoresearch)を添加し (100μl/well)、37℃で1時間反応させた。同様にプレートを洗浄したのち、ο-フェニレンジアミン・2HCl(0.04%)及びH2O2(0.018%)を含む基質緩衝液(100μL/well)を添加し、室温で30分間インキュベートした。1 M H2SO4(100μL)を分注して反応を停止させた後、492 nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーで測定した。結果を図3に示す。
【0107】
図3から明らかなように、本発明にて作製した抗可塑剤単鎖可変領域抗体は、ELISA法での定量に使用することが可能である。また、対照として、ハイブリドーマ由来のモノクローナル抗体で間接競合ELISAを行った実験結果から、抗可塑剤単鎖可変領域抗体は、元のモノクローナル抗体と同等の反応性を有していることが明らかとなった。
【0108】
[参考例1] 抗DEHP抗体 (DH-150) VHおよびVL遺伝子のクローニング、サブクローニングおよび塩基配列の決定
ハイブリドーマ株DH-150 (1 x 107 個) から、RNeasy miniキット (QIAGEN) を用いて全RNAを抽出した。本RNA (4.2μg) にγ2a鎖特異的プライマー (G2a-CH-1) 又は κ鎖特異的プライマー (K-CH-1) 及び Superscript II reverse transcriptase (Invitrogen)(1 μL)を添加し、添付の緩衝液中 (25 μL) 、42℃で50分間インキュベートした。70℃で15 分間インキュベートして酵素を失活させた後、粗反応液をGlassMAX spin cartridge (Invitrogen)を用いて精製し、VH又はVL遺伝子を含むfirst strand cDNA (VH-cDNA及びVL-cDNA) をそれぞれ得た。以下、実施例3の手順に従ってVH-cDNAを鋳型に用いる5'-RACE を行い、目的のVH遺伝子を含むDNA断片(VH-DNA)を得た。その一方で、上記のVL-cDNAを鋳型として、プライマー11種 (MKV1〜11)(S. T. Jones et al., Biotechnology, 9, 88-89 (1991) 参照) のいずれかとK-CH-3-XmaI(各50 pmol)を組み合わせるPCRを試みた。粗反応液の一部をアガロース電気泳動に付したところ、プライマーMKV-9を用いる時に予想されるサイズ (約400 bp)のバンドが明瞭に観察された。そこで、残りの反応液を上記の方法で精製し、目的のVL遺伝子を含むDNA断片(VL-DNA)を得た。
【0109】
これらVH-DNA及びVL-DNA (各1.5 μg) を実施例5に従ってpBluescript IIベクター にサブクローニングし、形質転換クローンを得た。これらのクローンをアンピシリンを含む2xYT培地 (10 mL) 中で培養し、QIAGEN plasmid mini kit (Qiagen) を用いてプラスミドを抽出した。その一部 (0.5又は1.0 μg) を用いて、実施例6に従ってVH-DNA及びVL-DNAの塩基配列(配列番号25、27)を決定し、アミノ酸配列(配列番号26、28)を推定した。その結果を図4及び5 (各々VH及びVL) に示す。この結果から、CDRのアミノ酸配列を決定し、またVH及びVLのサブグループを各々III(D)、Vと決定した。なお、DH-150抗体と2F4A4γ抗体のシークエンスデータを比較したところ、両抗体の相同性は小さいことが判明した。
【0110】
[参考例2] 抗DEHP抗体 (DH-150) scFv遺伝子の構築
上記の遺伝子塩基配列の結果に基づいてVH、VL遺伝子それぞれの5’末端、3’末端に特異的なプライマー (DH-150-VH-5、DH-150-VH-3、DH-150-VL-5、DH-150-VL-3) (表1) を設計し、参考例1で得られたfirst strand cDNAを鋳型として、実施例7に準じてPCRを行った。なお、DH-150-VH-5 プライマーにはNco I認識配列を、DH-150-VL-3プライマーにはSal I認識配列及びFLAG配列を導入した。また、DH-150-VH-3、DH-150-VL-5の両プライマーには、VHとVLを連結するためのリンカー配列 (Gly4Ser)3(配列番号6)をコードする塩基配列を付加した。得られたVHおよびVL遺伝子フラグメント (各々 200 ng) をoverlap extension PCRに付し、粗反応液を低融点アガロースによる電気泳動に付して、約800 bpのバンドを回収し、目的のscFv遺伝子断片を得た。
【0111】
[参考例3] 抗DEHP抗体 (DF-34) VHおよびVL遺伝子のクローニング、サブクローニングおよび塩基配列の決定
ハイブリドーマ株DF-34 (1 x 107 個) から、RNeasy miniキット (QIAGEN) を用いて全RNAを抽出した。本RNA (4μg) にγ1鎖特異的プライマー (G1-CH-1) 又は κ鎖特異的プライマー (K-CH-1) 及び Superscript II reverse transcriptase (Invitrogen)(1μL)を添加し、添付の緩衝液中 (25μL) 、42℃で50分間インキュベートした。70℃で15分間インキュベートして酵素を失活させた後、粗反応液をGlassMAX spin cartridge (Invitrogen)を用いて精製し、VH又はVL遺伝子を含むfirst strand cDNA (VH-cDNA及びVL-cDNA) をそれぞれ得た。以下、実施例3の手順に従ってVH-cDNAを鋳型に用いる5'-RACE を行い、目的のVH遺伝子を含むDNA断片(VH-DNA)を得た。その一方で、上記のVL-cDNAを鋳型として、参考例1に準じてプライマー11種 (MKV1〜11)(S. T. Jones et al., Biotechnology, 9, 88-89 (1991) 参照) のいずれかとK-CH-3-XmaI(各50 pmol)を組み合わせるPCRを試みた。粗反応液の一部をアガロース電気泳動に付したところ、プライマーMKV-5を用いる時に予想されるサイズ (約400 bp)のバンドが明瞭に観察された。そこで、残りの反応液を上記の方法で精製し、目的のVL遺伝子を含むDNA断片(VL-DNA)を得た。
【0112】
これらVH-DNA及びVL-DNA (各1.5μg) を実施例5に従ってpBluescript IIベクター にサブクローニングし、形質転換クローンを得た。これらのクローンをアンピシリンを含む2xYT培地 (10mL) 中で培養し、QIAGEN plasmid mini kit (Qiagen) を用いてプラスミドを抽出した。その一部 (0.5又は1.0 μg) を用いて実施例6に従ってVH-DNA及びVL-DNAの塩基配列(配列番号29、31)を決定し、アミノ酸配列(配列番号30、32)を推定した。その結果を図6及び7 (各々VH及びVL) に示す。この結果から、CDRのアミノ酸配列を決定し、またVH及びVLのサブグループを各々I(A)、IVと同定した。なお、DF-34抗体と2F4A4γ抗体のシークエンスデータを比較したところ、両抗体の相同性は小さいことが判明した。
【0113】
[参考例4] 抗DEHP抗体 (DF-34) scFv遺伝子の構築
上記の遺伝子塩基配列の結果に基づいてVH、VL遺伝子それぞれの5’末端、3’末端に特異的なプライマー (DF-34-VH-5、DF-34-VH-3、DF-34-VL-5、DF-34-VL-3) (表1) を設計し、参考例3で得られたfirst strand cDNAを鋳型として、実施例7に準じてPCRを行った。なお、DF-34-VH-5 プライマーにはNco I認識配列を、DF-34-VL-3プライマーにはSal I認識配列及びFLAG配列を導入した。また、DF-34-VH-3、DF-34-VL-5の両プライマーには、VHとVLを連結するためのリンカー配列 (Gly4Ser)3(配列番号6)をコードする塩基配列を付加した。得られたVHおよびVL遺伝子フラグメント (各々 200 ng) をoverlap extension PCRに付し、粗反応液を低融点アガロースによる電気泳動に付して、約800 bpのバンドを回収し、目的のscFv遺伝子断片を得た。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明により、抗可塑剤抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域をコードする遺伝子のアミノ酸配列及び塩基配列が明らかとなった。本発明によって抗可塑剤抗体由来の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域をコードする遺伝子を遺伝的に改変することが可能となる。例えば、改変遺伝子を宿主細胞内で発現させることにより、可塑剤の測定・定量・濃縮において、より好ましい性質を持った、可塑剤に結合能を有する蛋白質を大量に得ることが可能となった。また、この改変抗体遺伝子を有する組換え微生物等を使用することにより、組換え蛋白質を効率よく生産することも可能となった。さらに、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域をコードする塩基配列にランダムな変異を導入してミュータントscFvのライブラリーを構築し、このライブラリー中から、可塑剤に対する親和性が元の抗体よりも大きい変異体を選択することにより、可塑剤に対する親和性が向上した組換え蛋白質を得ることが可能となった。以上により、性能の優れた酵素免疫測定法キットや抗体アフィニティーカラムをより安価に作製することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】抗可塑剤抗体(2F4A4γ)重鎖の塩基配列及びアミノ酸配列を示す。
【図2】抗可塑剤抗体(2F4A4γ)軽鎖の塩基配列及びアミノ酸配列を示す。
【図3】本発明で作製した4種類の異なる単鎖可変領域抗体を用いて間接競合ELISAにより比較した図である。
【図4】抗可塑剤抗体(DH−150)重鎖の塩基配列及びアミノ酸配列を示す。
【図5】抗可塑剤抗体(DH−150)軽鎖の塩基配列及びアミノ酸配列を示す。
【図6】抗可塑剤抗体(DF−34)重鎖の塩基配列及びアミノ酸配列を示す。
【図7】抗可塑剤抗体(DF−34)軽鎖の塩基配列及びアミノ酸配列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下(a)又は(b)の蛋白質又はその塩:
(a)配列番号2で表わされるアミノ酸配列、若しくはこれと実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質;
(b)配列番号4で表わされるアミノ酸配列、若しくはこれと実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質。
【請求項2】
以下(a1)〜(a2)、(b1)〜(b2)のいずれかの蛋白質又はその塩:
(a1)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ配列番号4、28又は32で表されるアミノ酸配列と複合体を形成したときに可塑剤に対して結合する蛋白質;
(a2)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ配列番号4、28又は32で表されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する蛋白質と複合体を形成したときに可塑剤に対して結合する蛋白質;
(b1)配列番号4で表されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ配列番号2、26又は30で表されるアミノ酸配列を有する蛋白質と複合体を形成したときに可塑剤に対して結合する蛋白質;
(b2)配列番号4で表されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつ配列番号2、26又は30で表されるアミノ酸配列において1若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する蛋白質と複合体を形成したときに可塑剤に対して結合する蛋白質。
【請求項3】
可塑剤が、式(1):
【化1】


[式中、R1はo−フェニレン、R2及びR3は同一又は異なって、各々、H、炭素数1〜20の直鎖又は分枝鎖アルキル、置換されていてもよいベンジル又は置換されていてもよいシクロヘキシルを意味する]で表される可塑剤である、請求項2記載の蛋白質。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の蛋白質を遺伝子組換えする方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法により得られた蛋白質又はその塩。
【請求項6】
請求項1〜3及び5のいずれか1項記載の蛋白質の部分ペプチド又はその塩。
【請求項7】
請求項1〜3及び5のいずれか1項記載の蛋白質又はその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項8】
請求項7記載のポリヌクレオチドを含有する組換えベクター。
【請求項9】
請求項8記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項10】
請求項1〜3及び5のいずれか1項記載の蛋白質又はその部分ペプチド或いはそれらの塩を産生せしめ、これを採取することを特徴とする、請求項1〜3及び5のいずれか1項記載の蛋白質又はその部分ペプチド或いはそれらの塩の製造法。
【請求項11】
以下(a)及び(b)が連結してなる複合体:
(a)配列番号2で表わされるアミノ酸配列、若しくはこれと実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質;
(b)配列番号4で表わされるアミノ酸配列、若しくはこれと実質的に同一のアミノ酸配列を有する蛋白質。
【請求項12】
請求項11記載の複合体を使用することを特徴とする、該複合体に結合する可塑剤を同定する方法。
【請求項13】
請求項11記載の複合体を使用することを特徴とする、可塑剤の測定又は定量方法。
【請求項14】
請求項11記載の複合体を含む、可塑剤の測定又は定量用キット。
【請求項15】
請求項11記載の複合体を使用することを特徴とする、可塑剤の濃縮方法。
【請求項16】
請求項11記載の複合体を含む、可塑剤の濃縮用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−109760(P2006−109760A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300773(P2004−300773)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(503140056)日本エンバイロケミカルズ株式会社 (95)
【Fターム(参考)】